特許第5725167号(P5725167)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725167
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】含フッ素エラストマーの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08F 214/18 20060101AFI20150507BHJP
   C08F 2/26 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   C08F214/18
   C08F2/26 B
【請求項の数】5
【全頁数】11
(21)【出願番号】特願2013-509898(P2013-509898)
(86)(22)【出願日】2012年4月9日
(86)【国際出願番号】JP2012059661
(87)【国際公開番号】WO2012141129
(87)【国際公開日】20121018
【審査請求日】2013年10月9日
(31)【優先権主張番号】特願2011-86917(P2011-86917)
(32)【優先日】2011年4月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】502145313
【氏名又は名称】ユニマテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100066005
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 俊夫
(74)【代理人】
【識別番号】100114351
【弁理士】
【氏名又は名称】吉田 和子
(72)【発明者】
【氏名】村井 大介
(72)【発明者】
【氏名】前田 満
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 国際公開第2009/151109(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 6/00−246/00
C08F 301/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
含フッ素オレフィンおよび一般式
CF2=CF〔OCF2CF(CF3)〕aO(CF2)bO〔CF(CF3)CF2O〕CCF=CF2
(a+cは0〜4の整数であり、bは2以上の整数である)で表わされるパーフルオロジビニルエーテルモノマーを乳化重合法を用いて共重合反応させるに際し、乳化剤としてCF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4を用い、該パーフルオロジビニルエーテルモノマーを、共重合反応開始前および共重合反応開始後に分けて、あるいはその全添加量を共重合反応開始後に添加して共重合させることを特徴とする含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項2】
パーフルオロジビニルエーテルモノマーが1,1,2,2-テトラフルオロ-1,2-ビス〔(トリフルオロビニル)オキシ〕エタンである請求項1記載の含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項3】
共重合反応開始前に、パーフルオロジビニルエーテルモノマー全添加量の30〜0重量%が反応系に添加される請求項1記載の含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項4】
共重合反応開始後に、パーフルオロジビニルエーテルモノマー全添加量の70〜100重量%が反応系に添加される請求項1記載の含フッ素エラストマーの製造方法。
【請求項5】
パーフルオロジビニルエーテルモノマーが共重合反応開始後に複数回に分けて反応系に分添される請求項3または4記載の含フッ素エラストマーの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、含フッ素エラストマーの製造方法に関する。さらに詳しくは、耐圧縮永久歪特性にすぐれた含フッ素エラストマーの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
含フッ素エラストマーは、汎用エラストマーと比較して、高機能ではあるが高価格であるため、従来その適用分野は限られていたが、昨今、特に自動車産業においては、環境的側面から燃料封止性、耐熱性、化学的安定性など、各種部品に対する性能要求が高まっており、含フッ素エラストマー製品の適用が増加している。
【0003】
また、自動車部品用途のほか、一般産業機械用途、半導体用途、あるいは化学プラント向けのOリングあるいはオイルシール、パッキン、ガスケットなどでは、弾性、耐熱化学安定性、耐薬品性および耐燃料油性などを兼備することが求められるため、様々なタイプの含フッ素エラストマーが用いられている。
【0004】
しかるに昨今、既存の含フッ素エラストマーよりも高機能な含フッ素エラストマーへの市場要求が高まってきているのが実情である。
【0005】
含フッ素エラストマー製品、特にシール用途で重要とされる特性の一つとして、耐圧縮永久歪特性が挙げられる。耐圧縮永久歪特性は、そのシール性能のほかにも、製品寿命などにも大きく影響する物性である。
【0006】
また、含フッ素エラストマーは、その共重合組成によって様々な異なる性能を示す。含フッ素エラストマーを加硫成形して得られる成形品は、含フッ素エラストマーに配合される種々の配合物、例えばカーボンブラックなどの充填剤や架橋剤などを工夫して製品性能のバランスをとることができるが、根本的な含フッ素エラストマー自身の性能改善は難しいのが実情である。
【0007】
さらに、北米では、環境的側面から自動車用製品には低い燃料透過性が具体的な数値目標とともに求められているが、従来から用いられているフッ素含有量を増やすなどといった手法によって上記数値目標を達成せしめんとした場合には、耐圧縮永久歪特性のみならず、ゴム弾性の低下にも悪影響を与えるといった問題が生じることとなる。
【0008】
ここで、フッ素含量を変化させることなく、かつゴム弾性を悪化させずに圧縮永久歪特性を向上させる方法として、本出願人は先に、特許文献1〜3において含フッ素ジビニルエーテル化合物モノマーを含フッ素エラストマーの共重合成分とすることを提案している。これらの発明では、含フッ素ジビニルエーテル化合物モノマーを最初に重合反応系に全量添加して共重合反応させており、この場合には含フッ素エラストマー成形品の耐圧縮永久歪特性を向上させることを可能としているものの、一方で破断伸びの低下あるいは硬度の上昇など、製品特性に好ましくない影響を及ぼしてしまう。
【0009】
また、特許文献4〜5では、ジオレフィン化合物モノマーを含フッ素エラストマーの共重合成分とすることが提案されている。これらの特許文献によれば、耐圧縮永久歪特性を向上させるとともに、さらに機械的強度を高め得るとされているが、耐圧縮永久歪特性の向上に伴って、硬度の上昇など製品特性に好ましくない変化も生じており、またジオレフィン化合物モノマーは、二重結合を有する部分がハイドロカーボンであるため、共重合反応速度が遅く、また共重合率も高くないため、経済的な観点から不利であるといえる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2004−346087号公報
【特許文献2】特開2007−092076号公報
【特許文献3】特開2008−303321号公報
【特許文献4】特許第3,574,198号公報
【特許文献5】特許第4,219,492号公報
【特許文献6】特公昭58−4728号公報
【特許文献7】特公昭54−1585号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、ジビニルエーテル化合物モノマーを共重合せしめた含フッ素エラストマーであって、その成形品が破断強さの低下、破断時伸びの低下あるいは硬度の上昇を低減させつつ、高い圧縮永久歪特性を発現させることを可能とする含フッ素エラストマーの製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
かかる本発明の目的は、含フッ素オレフィンおよび一般式
CF2=CF-〔OCF2CF(CF3)〕aO(CF2)bO〔CF(CF3)CF2O〕C-CF=CF2
(a+cは0〜4の整数であり、bは2以上の整数である)で表わされるパーフルオロアルキルジビニルエーテルモノマーを共重合反応させるに際し、該パーフルオロアルキルジビニルエーテルモノマーを、共重合反応開始前および共重合反応開始後に分けて、あるいはその全添加量を共重合反応開始後に添加して共重合させ、パーオキサイド架橋可能な含フッ素エラストマーを製造する方法によって達成される。
【発明の効果】
【0013】
本発明方法によって得られる含フッ素エラストマーは、そのパーオキサイド架橋成形品が破断強さの低下、破断時伸びの低下あるいは硬度の上昇を低減させつつ、例えばOリング形状での200℃、22時間後における圧縮永久歪が15%以下、同形状での200℃、70時間後における圧縮永久歪が20%以下といった高い耐圧縮永久歪特性を示すといったすぐれた効果を奏する。
【発明を実施するための形態】
【0014】
含フッ素オレフィンとしては、フッ化ビニリデン〔VdF〕、ヘキサフルオロプロペン〔HFP〕、テトラフルオロエチレン〔TFE〕、パーフルオロアルキルビニルエーテル、パーフルオロアルコキシアルキルビニルエーテル、クロロトリフルオロエチレン、ジフルオロブロモエチレン等が挙げられ、これらを主構成単位とする共重合体としては、例えばフッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロペン-テトラフルオロエチレン3元共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル3元共重合体、フッ化ビニリデン-テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル-パーフルオロアルコキシアルキルビニルエーテル4元共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルコキシアルキルビニルエーテル共重合体などが挙げられる。
【0015】
含フッ素エラストマー中には、共重合体中約0.05〜2モル%、好ましくは約0.1〜1モル%のパーフルオロジビニルエーテルモノマーが共重合される。共重合割合がこれよりも少ないと、耐圧縮永久歪特性の改善効果がみられなくなり、一方共重合割合がこれよりも多いと、破断時伸びの低下や好ましくない硬度の上昇がみられるようになる。
【0016】
パーフルオロジビニルエーテルモノマーとしては、一般式
CF2=CF〔OCF2CF(CF3)〕aO(CF2)bO〔CF(CF3)CF2O〕CCF=CF2
(a+cは0〜4の整数であり、bは2以上の整数であり、好ましくはa+cは0〜2の整数であり、bは2である)で表わされるものが用いられ、これらは共重合反応開始前に全量が投入されるのではなく、一般には共重合反応開始前および共重合反応開始後に分けて添加される。共重合反応開始前に添加されるパーフルオロジビニルエーテルモノマー量は、該モノマー全添加量の30重量%以下とされる。あるいは、その全添加量が共重合反応開始後に添加されてもよい。
【0017】
ジビニルエーテルモノマーの添加は、共重合反応開始前および共重合反応開始後に分けて、あるいはその全添加量が共重合反応開始後に行われ、好ましくは共重合反応開始前に加えて共重合反応開始後に複数回に分けて、あるいは重合反応の進行を確認しながら、パーフルオロジビニルエーテルモノマーの全添加量を複数回に分けて少量ずつ均一に分散するように導入される。具体的には、(a)分添している主モノマーの量に応じて、パーフルオロジビニルエーテルモノマーが均一に分散するように添加していく方法、あるいは(b)生成ポリマー量に応じて、パーフルオロアルキルジビニルエーテルモノマーが均一に分散するように添加していく方法などが挙げられる。ここで、共重合反応開始前とは重合開始剤の添加前を示し、共重合反応開始後とは重合開始剤の添加後を示している。
【0018】
前者(a)の方法としては、例えば共重合反応開始後に、分添した主モノマーの量と反応したパーフルオロジビニルエーテルモノマーの量とが目標とした共重合組成に近付いた各時点で、各々等量のパーフルオロジビニルエーテルモノマーを分添していく方法などが挙げられ、後者(b)の方法としては、例えば共重合反応開始後に、生成ポリマー組成が目標とする共重合組成になった各時点で、各々等量のパーフルオロアルキルジビニルエーテルモノマーを分添していく方法などが挙げられる。
【0019】
前者(a)の方法は、主モノマーを均一組成で導入することで反応圧力を一定にしながら共重合反応を行う場合に適しており、後者(b)の方法は、主モノマーを一括して反応器に導入後分添を行わない場合や、分添で規定量のモノマーを導入した後に、エージングを行って残存モノマーを効率よく消費していく重合方法の場合に適している。エージングは、生産性の観点からいえば有用であるといえるが、重合組成の均一性や物性への悪影響がみられる場合もある。しかるに、エージング中にパーフルオロジビニルエーテルモノマーを導入することにより、またはエージング中にも十分な量のパーフルオロジビニルエーテルモノマーが反応系に存在することにより、不均一性や物性悪化などの好ましくない特性を抑制することができる。したがって、後記実施例に示されるように、より均一に分散するようにパーフルオロジビニルエーテルモノマーを導入した含フッ素エラストマーは、重合反応前に全添加量を一括してパーフルオロジビニルエーテルモノマーを反応器に導入することにより得られた含フッ素エラストマーと比較して、高い耐圧縮永久歪特性をはじめとしたすぐれた常態物性を示している。
【0020】
前記特許文献3には、ジビニルエーテルモノマー(a=0、b=2、c=1)を用いた共重合方法が記載されているが、この場合には少量用いられるジビニルエーテルモノマーの全添加量が、共重合反応開始前に一度に反応系に添加されている。
【0021】
また、含フッ素エラストマー中には、好ましくは架橋サイト導入のため、また含フッ素エラストマー共重合体の分子量の調節を目的として、飽和または不飽和の含臭素および/またはヨウ素化合物が用いられる。このような含臭素および/またはヨウ素化合物としては、一般式 XRfX(XはIまたはBrであり、Rfは炭素数2〜8のパーフルオロアルキレン基)で表わされる化合物、例えばICF2CF2CF2CF2I、ICF2CF2CF2CF2Br、ICF2CF2Br等の特許文献6等に記載されているものが挙げられ、また一般式 RfX(Rfは炭素数2〜8の不飽和フルオロ炭化水素基であり、基中に1個以上のエーテル結合を有していてもよく、Xは臭素またはヨウ素である)で表わされる化合物、例えばCF2=CFOCF2CF2Br、CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2Br、CF2=CFBr、CF2=CHBr、CF2=CFI、CF2=CHI等の特許文献7等に記載されているものが挙げられる。このうち、好ましくはICF2CF2CF2CF2I、CF2=CFOCF2CF2Br、CF2=CFI、CF2=CHIが用いられる。
【0022】
これらの含ヨウ素および/または臭素化合物は、重合反応の際有機過酸化物ラジカル発生源の作用により、容易にヨウ素および/または臭素をラジカル開裂させ、そこに生じたラジカルの反応性が高いためモノマーが付加成長反応し、しかる後に含ヨウ素および/または臭素化合物からヨウ素および/または臭素を引き抜くことによって反応を停止させ、飽和の含ヨウ素および/または臭素化合物を用いた場合には、分子末端にヨウ素および/または臭素が結合した含フッ素エラストマーを与える。
【0023】
これらの含臭素および/またはヨウ素架橋点形成化合物存在下での含フッ素モノオレフィンおよび含フッ素ジエン化合物の共重合反応は、一般的に行われている重合開始剤存在下でのランダム共重合反応によって行われる。
【0024】
含フッ素エラストマーは、乳化重合、懸濁重合、溶液重合のいずれの方法でも製造できるが、高分子量の共重合体を得ることおよび経済性の観点から好ましくは乳化重合法が用いられる。
【0025】
乳化重合は、遊離基発生剤として過硫酸アンモニウム、過硫酸カリウム、過硫酸ナトリウムのような水溶性過酸化物を用いて行われる。また、これらの水溶性過酸化物は、亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウムのような還元剤と併用したレドックス系としても用いることもできる。乳化剤としては、一般式 Rf-COOH(Rfは、炭素数4〜10のフルオロ炭化水素基または炭素数3〜12の基中に1個以上のエーテル結合を有するフルオロアルコキシアルキル基である)で表わされる化合物、例えばパーフルオロオクタン酸アンモニウム、パーフルオロノナン酸アンモニウム、パーフルオロヘプタン酸アンモニウム、その他含フッ素化合物のアンモニウム塩やナトリウム塩などが用いられる。また、重合系内のpHを調整するために、リン酸水素ナトリウム、リン酸二水素カリウムなどのリン酸塩、ホウ酸塩など緩衝能を有する電解質を共存させることもできる。また、重合反応は、温度0〜100℃、圧力10MPa以下の条件下で行われる。
【0026】
以上の反応により得られた含フッ素エラストマーは、パーオキサイド架橋法によって硬化される。パーオキサイド架橋法に用いられる有機過酸化物としては、例えば2,5-ジメチル-2,5-ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキサン、2,5-ジメチル-2,5-ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキシン-3、ベンゾイルパーオキサイド、ビス(2,4-ジクロロベンゾイル)パーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、ジ第3ブチルパーオキサイド、第3ブチルクミルパーオキサイド、第3ブチルパーオキシベンゼン、1,1-ビス(第3ブチルパーオキシ)-3,5,5-トリメチルシクロヘキサン、2,5-ジメチルヘキサン-2,5-ジヒドロキシパーオキサイド、α,α′-ビス(第3ブチルパーオキシ)-p-ジイソプロピルベンゼン、2,5-ジメチル-2,5-ジ(ベンゾイルパーオキシ)ヘキサン、第3ブチルパーオキシイソプロピルカーボネート等、好ましくは2,5-ジメチル-2,5-ビス(第3ブチルパーオキシ)ヘキサンが、含フッ素エラストマー100重量部当り約0.1〜10重量部、好ましくは約0.5〜5重量部の割合で用いられる。
【0027】
パーオキサイド架橋に際しては、好ましくは多官能性不飽和化合物共架橋剤であるトリ(メタ)アリルイソシアヌレート、トリ(メタ)アリルシアヌレート、トリアリルトリメリテート、N,N’-m-フェニレンビスマレイミド、ジアリルフタレート等が、含フッ素エラストマー100重量部当り約0.1〜10重量部、好ましくは約0.5〜5重量部の割合で用いられる。共架橋剤を併用することにより、すぐれた加硫特性、機械的強度、耐圧縮永久歪特性などを有する加硫物を得ることができる。共架橋剤がこれより少ない割合で用いられると、架橋密度が低く、圧縮永久歪特性が低下するようになり、一方これより多い割合で用いられると、伸びが低下するようになる。ここで、トリ(メタ)アリル基はトリアリル基またはトリメタアリル基を指している。
【0028】
また、受酸剤としてハイドロタルサイト化合物、2価金属の酸化物または水酸化物、例えばカルシウム、マグネシウム、鉛、亜鉛などの酸化物または水酸化物が、含フッ素エラストマー100重量部当り約2重量部以上、好ましくは3〜20重量部の割合で用いられる。受酸剤がこれより少ない割合で用いられると、金属に対する耐腐食性が損なわれるようになる。
【0029】
以上の架橋系各成分は、そのまま含フッ素エラストマーに配合するか、カーボンブラック、シリカ、クレー、タルク、けいそう土、硫酸バリウムなどで希釈するなどしても用いられる。
【0030】
以上の各成分よりなる組成物中には、さらに必要に応じて他の配合剤、例えば補強剤、充填剤、加工助剤、老化防止剤、滑剤、可塑剤、顔料等が添加される。ここで、充填剤または補強剤としてカーボンブラックが用いられる場合には、一般には含フッ素エラストマー100重量部当り、約10〜50重量部程度の割合で用いられる。さらに、瀝青質微粉末の添加は、耐圧縮永久歪特性を向上させ、耐熱性の向上によるシール材等の長寿命化を図ることができ、また偏平状充填剤の添加は、燃料油遮断性を改善させ、シール対象とされる自動車燃料等の蒸散をさらに抑制することを可能とするといった効果を奏する。
【0031】
以上の各成分は、ロール混合、ニーダ混合、バンバリー混合、溶液混合など一般に用いられている混合法を用いて混練した後加硫成形が行われ、その後一般に用いられている架橋条件に従って、通常約100〜250℃で約1〜60分間程度のプレス加硫および約150〜300℃で約0〜30時間程度のオーブン加硫(二次加硫)によって加硫が行われる。なお、一次加硫は、加圧水蒸気によっても行うことが可能である。
【実施例】
【0032】
次に、実施例について本発明を説明する。
【0033】
実施例1
攪拌羽根を有する、内容積10Lのステンレス鋼製オートクレーブ中に、
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 〔乳化剤〕 34g
Na2HPO4・12水和物 〔緩衝剤〕 17g
I(CF2)4I 〔連鎖移動剤〕 27g
イオン交換水 5600ml
を仕込んだ後窒素置換を行い、反応器内の酸素の除去を行った。
【0034】
次いで
1,1,2,2-テトラフルオロ-1,2-ビス〔(トリフルオロビニル) 3g
オキシ〕エタン CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2
パーフルオロメチルビニルエーテル CF2=CFOCF3〔PMVE〕 790g
VdF/TFE=87.5/12.5モル%混合ガス 670g
を導入し、反応器内の温度を50℃に上昇させた。50℃到達時の反応器内圧力は、3.14 MPa・Gであった。温度が安定したことを確認した後、レドックス系を形成する過硫酸アンモニウム1.0gおよび亜硫酸水素ナトリウム0.1gを反応器内に導入し、重合反応を開始させた。反応器内の圧力が3.00 MPa・Gとなった時点で、VdF/TFE/PMVE=79.6/11.4/9.0モル%の混合比のモノマー混合物を導入し、3.10MPa・Gまで昇圧させた。重合反応中は、上記組成のモノマー混合物を導入することで、反応圧力を3.00〜3.10 MPa・Gに保った。
【0035】
導入したモノマー混合物の添加量がそれぞれ225g、680g、1175gとなった各時点で、CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2を7gずつ反応器内に3回導入した。導入したモノマー混合物の合計量が1410gとなったところで導入を止め、圧力が0.20 MPa・Gとなった時点で反応器を冷却して、重合反応を停止した。重合開始剤投入から重合停止までは、392分を要した。反応混合物として、8560gの含フッ素エラストマーラテックスが得られた。
【0036】
得られた含フッ素エラストマーラテックスを同量の1重量%CaCl2水溶液に投入してラテックスを凝集させ、凝集物をろ過および5倍量のイオン交換水で5回洗浄した後真空乾燥を行い、2500gのVdF/TFE/PMVE共重合体を得た。得られた共重合体の共重合組成は、VdF/TFE/PMVE/CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2=73.5/9.6/16.7/0.2モル%(19F-NMR法による)であった。
【0037】
比較例1
実施例1において、重合開始剤投入前におけるCF2=CFOCF2CF2OCF=CF2仕込量3gを24gに変更し、重合開始剤投入後におけるCF2=CFOCF2CF2OCF=CF2の導入が行われなかった。得られた共重合体の共重合組成は、VdF/TFE/PMVE/CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2=73.4/9.6/19.8/0.2モル%であった。
【0038】
比較例2
実施例1において、CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2が全く用いられなかった。得られた共重合体の共重合組成は、VdF/TFE/PMVE=73.6/9.7/16.7モル%であった。
【0039】
実施例2
攪拌羽根を有するステンレス鋼製で内容積10Lのオートクレーブ中に、
CF3CF2CF2OCF(CF3)CF2OCF(CF3)COONH4 〔乳化剤〕 20g
Na2HPO4・12水和物 〔緩衝剤〕 5g
I(CF2)4I 〔連鎖移動剤〕 5g
イオン交換水 5000ml
を仕込んだ後、窒素置換を行い、反応器内の酸素の除去を行った。
【0040】
次いで、
1,1,2,2-テトラフルオロ-1,2-ビス〔(トリフルオロビニル) 5g
オキシ〕エタン CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2
ヘキサフルオロプロピレン CF2=CFCF3〔HFP〕 750g
VdF/TFE=71/29モル%の混合ガス 270g
を導入し、反応器内温を70℃に上昇させた。70℃到達時の反応器内圧力は、2.65 MPa・Gであった。温度が安定したことを確認した後、レドックス系を形成する過硫酸アンモニウム0.5gおよび亜硫酸水素ナトリウム0.05gを反応器内に導入し、重合反応を開始させた。重合開始剤投入後、VdF/TFE/HFP=53.0/21.7/25.3モル%の混合比のモノマー混合物を導入し、反応器内圧力を3.00 MPa・Gまで昇圧させ、重合反応中は、上記組成(VdF/TFE/HFP=53.0/21.7/25.3モル%)のモノマー混合物を導入することで、反応圧力を2.90〜3.00 MPa・Gに保った。
【0041】
導入したモノマー混合物の添加量がそれぞれ500g、880g、1260g、1640gとなった各時点で、CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2を4g、I(CF2)4Iを4g、過硫酸アンモニウムを0.125g、亜硫酸水素ナトリウム0.012gおよびイオン交換水50gを反応器内に4回導入した。導入したモノマー混合物の合計量が1850gとなったところで導入をやめ、圧力が1.80 MPa・Gとなった時点で反応器を冷却し、重合反応を停止した。重合開始剤投入から重合停止までは、353分を要した。反応混合物として、7750gの含フッ素エラストマーラテックスが得られた。
【0042】
得られた含フッ素エラストマーラテックスを実施例1と同様に凝集、ろ過および洗浄および乾燥を行い、2210gのVdF/TFE/HFP共重合体を得た。得られた共重合体の共重合組成は、VdF/TFE/HFP/CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2=57.6/19.3/22.9/0.2モル%であった。
【0043】
比較例3
実施例2において、重合開始剤投入前におけるCF2=CFOCF2CF2OCF=CF2およびI(CF2)4I連鎖移動剤の各仕込量5gをそれぞれ21gに変更し、反応開始時に導入されるレドックス系各成分である過硫酸アンモニウム量を1gに、亜硫酸水素ナトリウム量を0.1gにそれぞれ変更し、反応中でのCF2=CFOCF2CF2OCF=CF2、I(CF2)4Iおよびレドックス系各成分の導入が行われなかった。得られた共重合体の共重合組成は、VdF/TFE/HFP/CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2=57.7/19.4/22.8/0.1モル%であった。
【0044】
比較例4
比較例3において、CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2が全く用いられなかった。得られた共重合体の組成は、VdF/TFE/HFP=57.6/19.4/23.0モル%であった。
【0045】
実施例3
実施例1において、CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2の仕込み方法を、初期なし、分添時に8gずつ3回に変更した。重合開始剤投入から重合停止までは、388分を要した。反応混合物として、8571gの含フッ素エラストマーラテックスが得られた。
【0046】
この含フッ素エラストマーラテックスを凝集して得られた含フッ素エラストマーは2510gであり、その共重合組成はVdF/TFE/PMVE/CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2=73.4/9.5/16.0/0.2モル%であった。
【0047】
実施例4
実施例1において、CF2=CFOCF2CF2OCF=CF2の代わりにCF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2OCF=CF2 (a+c=1)を用い、該ジビニルエーテルモノマーを初期仕込み量4.7g、分添時仕込み量11gずつ3回に変更した。重合開始剤投入から重合停止までは、411分を要した。反応混合物として、8566gの含フッ素エラストマーラテックスが得られた。
【0048】
この含フッ素エラストマーラテックスを凝集して得られた含フッ素エラストマーは2495gであり、その共重合組成はVdF/TFE/PMVE/CF2=CFOCF2CF(CF3)OCF2CF2OCF=CF2=73.6/9.6/16.6/0.2モル%であった。
【0049】
実施例5
実施例1で得られた含フッ素エラストマー 100重量部
MTカーボンブラック(Cancarb社製品N990) 37 〃
トリアリルイソシアヌレート(日本化成製品TAIC M60) 4 〃
有機過酸化物(日本油脂製品パーヘキサ25B-40) 1.5 〃
以上の各成分を、オープンロールで混和し、得られた硬化性組成物を180℃で6分間プレス加硫して厚さ2mmのシート状物および3.5mm径のOリングを得、これらについてさらに230℃で22時間の二次加硫(オーブン加硫)を行った。
【0050】
比較例5
実施例5において、実施例1で得られた含フッ素エラストマーの代わりに、比較例1で得られた含フッ素エラストマーが同量用いられた。
【0051】
比較例6
実施例5において、実施例1で得られた含フッ素エラストマーの代わりに、比較例2で得られた含フッ素エラストマーが同量用いられた。
【0052】
実施例6
実施例5において、実施例1で得られた含フッ素エラストマーの代わりに、実施例3で得られた含フッ素エラストマーが同量用いられた。
【0053】
実施例7
実施例5において、実施例1で得られた含フッ素エラストマーの代わりに、実施例4で得られた含フッ素エラストマーが同量用いられた。
【0054】
以上の実施例5〜7および比較例5〜6で得られた加硫物について、次の各項目の測定を行った。得られた結果は、表1に示される。
常態物性:ISO 37, 7619に対応するJIS K6251,6253に準拠
圧縮永久歪:ISO 815に対応するJIS K6262に準拠して、3.5mm径のOリン
グについて200℃、22時間および70時間の値を測定
【0055】
実施例8
実施例2で得られたエラストマー 100重量部
MTカーボンブラック(Cancarb社製品N990) 30 〃
酸化亜鉛 5 〃
トリアリルイソシアヌレート(TAIC M60) 4 〃
有機過酸化物(パーヘキサ25B-40) 1 〃
以上の各成分を、オープンロールで混和し、得られた硬化性組成物を180℃で10分間プレス加硫して厚さ2mmのシート状物および3.5mm径のOリングを得、さらに200℃で22時間の二次加硫(オーブン加硫)を行った。
【0056】
比較例7
実施例8において、実施例2で得られた含フッ素エラストマーの代わりに、比較例3で得られた含フッ素エラストマーが同量用いられた。
【0057】
比較例8
実施例8において、実施例2で得られた含フッ素エラストマーの代わりに、比較例4で得られた含フッ素エラストマーが同量用いられた。
【0058】
以上の実施例8および比較例7〜8で得られた加硫物について、実施例5と同様に常態物性および圧縮永久歪の測定が行われた。
表2
測 定 項 目 実施例8 比較例7 比較例8
〔常態物性〕
硬度 (Duro A) 70 70 69
100%モジュラス(MPa) 5.7 6.1 4.0
破断強さ (MPa) 25.1 21.7 21.0
破断時伸び (%) 280 250 270
〔圧縮永久歪〕
200℃、22時間 (%) 15 20 23
200℃、70時間 (%) 20 24 28