【実施例】
【0034】
つぎに本発明の実施例を説明するが、説明の便宜上、先ず比較例を説明する。比較例は、本発明の開発過程で生じたもので、公知の技術ではない。尚、実施例および比較例ともガスケットは燃料電池用ガスケットである。
【0035】
比較例・・・
図1は、比較例に係るガスケットにその構成部品として用いられるキャリア(補強体)11を単品状態で示しており、このキャリア11は、所定の樹脂材を成形材料として金型(射出成形型など)を用いて平面矩形状に成形され、その平面内に、燃料電池セルにおける反応面を収容することになる厚み方向に貫通する空間部12と、セルを厚み方向に貫通するマニホールド穴を形成することになる複数(図では矩形の四隅それぞれに4箇所)の空間部13とを備えている。
【0036】
また、このキャリア11は、
図1(B)の断面図に示すように、その全面に亙って厚み寸法t
1を一定に成形され(例えば3mm程度)、キャリア11全体として1枚の平板状に成形されている。
【0037】
上記構成のキャリア11に所定のゴム状弾性体よりなるガスケット本体21を組み合わせると、その断面形状は例えば
図2に示すようになり、すなわちガスケット本体21は、キャリア11の端部に被着(接着)された断面コ字形を呈する被着部22と、この被着部22から平面方向に延長成形された延長部(シールリップ台座部)23と、この延長部23の厚み方向両面にそれぞれ設けられた断面山形のシールリップ24とを一体に有し、シールリップ24はキャリア11と平面上重ならない位置に設けられている。
【0038】
また、他の例として、
図3の例では、ガスケット本体21は、キャリア11の端部に被着(接着)された断面コ字形の被着部22と、この被着部22の厚み方向両面にそれぞれ設けられた断面山形のシールリップ24とを一体に有し、シールリップ24はキャリア11と平面上重なる位置に設けられている。
【0039】
また、他の例として、
図4の例では、ガスケット本体21は、キャリア11の端部を非接着で被覆する断面コ字形の被覆部22Aと、この被覆部22Aの厚み方向両面にそれぞれ設けられた断面山形のシールリップ24とを一体に有し、シールリップ24はキャリア11と平面上重なる位置に設けられている。ガスケット本体21およびキャリア11には、両者11,21を互いに抜け止めするための抜け止め構造31が設けられ、この抜け止め構造31は、キャリア11の厚み方向両面にそれぞれ設けられた凸部32よりなる立体形状にガスケット本体21が係合することにより構成されている。
【0040】
尚、上記
図2および
図3の例では、ガスケット本体21は、キャリア11に接着剤を塗布したうえで非接着性ゴムを射出成形することにより、またはキャリア11に接着剤を塗布することなく接着性ゴムを射出成形することにより成形されているが、
図4の例では、ガスケット本体21は、キャリア11に接着剤を塗布することなく非接着性ゴムを射出成形することにより成形され、接着する代わりとして上記抜け止め構造31が設けられている。
【0041】
これら
図2ないし
図4のガスケットでは、上記したようにキャリア11が所定の樹脂材を成形材料として金型を用いて当初から製品形状に成形されるため、上記従来技術のように樹脂フィルムのかなりの面積部分を切除すると云うことがなく、よってこの分、樹脂材料の歩留まりを向上させることが可能とされている。
【0042】
しかしながら、これら比較例に係るガスケットには、なお、以下の点で不都合がある。
【0043】
すなわち、上記したようにキャリア11は、その全面に亙って厚み寸法t
1を一定に成形され、キャリア11全体として1枚の平板状に成形されている。したがって、このキャリア11の厚み寸法t
1が小さいと剛性が低いため、キャリア11によってガスケット全体を十分に保形すると云う取り扱い性の問題を解消することができない。また、これを解消するためキャリア11の厚み寸法t
1を大きく設定すると、その両面にガスケット本体21が被着又は被覆されることからガスケット全体としての厚み寸法も大きく設定され、よって厚み方向省スペース化の要求に応えることができない。
【0044】
そこで、本発明では、キャリア11の断面形状を、以下のように設定することにした。
【0045】
第一実施例・・・
図5は、本発明の第一実施例に係るガスケットにその構成部品として用いられるキャリア(ガスケット補強体、ガスケット保持体)11を単品状態で示しており、このキャリア11は、所定の樹脂材を成形材料として金型(射出成形型など)を用いて平面矩形状に成形され、その平面内に、燃料電池セルにおける反応面を収容することになる厚み方向に貫通する空間部12と、セルを厚み方向に貫通するマニホールド穴を形成することになる複数(図では矩形の四隅それぞれに4箇所)の空間部13とを備えている。
【0046】
また、このキャリア11は、
図5(B)の断面図に示すように、ガスケット本体21(
図6または
図7参照)と平面上重ねられる一部の部分を所定の厚み寸法t
1(例えば3mm程度)を備える薄肉部16とするとともに、ガスケット本体21と平面上重ねられない他の部分を薄肉部16よりも大きな厚み寸法t
2(例えば10mm程度)を備える厚肉部17として、平面に対し直交する段差面15を備える段付き形状14に成形されている。ガスケット本体21と平面上重ねられる一部の部分は具体的には、上記燃料電池セルにおける反応面を収容することになる空間部12の周縁部と、上記セルを厚み方向に貫通するマニホールド穴を形成することになる複数の空間部13の周縁部である。ガスケット本体21と平面上重ねられない他の部分は具体的には、上記燃料電池セルにおける反応面を収容することになる空間部12の周縁部以外の部分であって、かつ上記セルを厚み方向に貫通するマニホールド穴を形成することになる複数の空間部13の周縁部以外の部分である。また、厚肉部17に対する薄肉部16の厚み方向位置関係として、薄肉部16は、厚肉部17の厚み方向中央ないし略中央に配置されており、よって段付き形状14はキャリア11の厚み方向両面にそれぞれ形成されている。
【0047】
上記構成のキャリア11に所定のゴム状弾性体よりなるガスケット本体21を組み合わせると、その断面形状は例えば
図6に示すようになり、すなわちガスケット本体21は、キャリア11の端部に被着(接着)された断面コ字形を呈する被着部22と、この被着部22から平面方向に延長成形された延長部(シールリップ台座部)23と、この延長部23の厚み方向両面にそれぞれ設けられた断面山形のシールリップ24とを一体に有し、延長部23およびシールリップ24はキャリア11と平面上重ならない位置に設けられている。また、被着部22に対する延長部23の厚み方向位置関係として、延長部23は、被着部22の厚み方向中央ないし略中央に配置されている。また、被着部22の厚み寸法をt
3、延長部23の厚み寸法をt
4、両面シールリップ24先端間の厚み寸法をt
5として、厚み寸法の大小関係は以下のように設定されている。
【0048】
t
3=t
2(またはt
3≒t
2)
t
3>t
1
t
4<t
3
t
4>t
1
t
5>t
3
【0049】
したがって、平面上互いに隣り合う被着部22およびシールリップ24の間には、ガスケット装着時にシールリップ24が圧縮されたときの逃げ空間となる溝状凹部25が設けられている。
【0050】
第二実施例・・・
また、第二実施例として、
図7の例では、ガスケット本体21は、キャリア11の端部に被着(接着)された断面コ字形の被着部22と、この被着部22の厚み方向両面にそれぞれ設けられた断面山形のシールリップ24とを一体に有し、シールリップ24はキャリア11の薄肉部16と平面上重なる位置に設けられている。また、被着部22の厚み寸法をt
3、両面シールリップ24先端間の厚み寸法をt
5として、厚み寸法の大小関係は以下のように設定されている。
【0051】
t
3=t
2(またはt
3≒t
2)
t
3>t
1
t
5>t
3
【0052】
上記構成を備える各実施例に係るガスケットにおいては、キャリア11が所定の樹脂材を成形材料として金型を用いて平面矩形状に成形されるとともにガスケット本体21と平面上重ねられる一部の部分を薄肉部16とし、ガスケット本体21と平面上重ねられない他の部分を厚肉部17として段付き形状14に成形されているため、このうちの厚肉部17をもって十分な剛性を確保することができ、これによりガスケットの取り扱い性を一層向上させることができる。
【0053】
また、ガスケット本体21をキャリア11における厚肉部17ではなく薄肉部16と平面上重ねる構成としたため、ガスケット全体としての厚みが増大することがなく、よってガスケット厚み方向の省スペース化を確保することができる。
【0054】
また、キャリア11を所定の樹脂材を成形材料として金型を用いて成形する構成としたため、キャリア11は当初から製品形状に成形され、よって樹脂材料の歩留まりを向上させることができる。
【0055】
尚、上記第一実施例(
図6)および第二実施例(
図7)に係るガスケットにおいては、ガスケット本体21が、キャリア11に接着剤を塗布したうえで非接着性ゴムを射出成形することにより成形され、またはキャリア11に接着剤を塗布することなく接着性ゴムを射出成形することにより成形されているが、その製造過程から接着工程を省略してガスケットの製造を容易化することが考えられ、この場合、ガスケット本体21は、キャリア11に接着剤を塗布することなく非接着性ゴムを射出成形することにより成形され、接着する代わりとして、ガスケット本体21およびキャリア11に、両者11,21を互いに抜け止めするための抜け止め構造が設けられる。抜け止め構造は、キャリア11に凸部、凹部または貫通孔などの立体形状よりなる係合部を設け、この係合部に対しガスケット本体21を係合することによって構成される。以下、この非接着タイプの実施例について説明する。
【0056】
第三実施例・・・
図8は、本発明の第三実施例に係るガスケットの全体平面を示しており、このガスケットにおいて、キャリア11は、所定の樹脂材を成形材料として金型(射出成形型など)を用いて平面矩形状に成形され、その平面内に、燃料電池セルにおける反応面を収容することになる厚み方向に貫通する空間部12と、セルを厚み方向に貫通するマニホールド穴を形成することになる複数(図では矩形の長手方向両端に3箇所ずつ)の空間部13とを備えている。
【0057】
また、このキャリア11は、
図9の断面図に示すように、ガスケット本体21と平面上重ねられる一部の部分を所定の厚み寸法t
1(例えば3mm程度)を備える薄肉部16とするとともに、ガスケット本体21と平面上重ねられない他の部分を薄肉部16より大きな厚み寸法t
2(例えば10mm程度)を備える厚肉部17として、平面に対し直交する段差面15を備える段付き形状14に成形されている。ガスケット本体21と平面上重ねられる一部の部分は具体的には、上記燃料電池セルにおける反応面を収容することになる空間部12の周縁部と、上記セルを厚み方向に貫通するマニホールド穴を形成することになる複数の空間部13の周縁部である。ガスケット本体21と平面上重ねられない他の部分は具体的には、上記燃料電池セルにおける反応面を収容することになる空間部12の周縁部以外の部分であって、かつ上記セルを厚み方向に貫通するマニホールド穴を形成することになる複数の空間部13の周縁部以外の部分である。また、厚肉部17に対する薄肉部16の厚み方向位置関係として、薄肉部16は、厚肉部17の厚み方向中央ないし略中央に配置されており、よって段付き形状14はキャリア11の厚み方向両面にそれぞれ形成されている。
【0058】
上記構成のキャリア11に所定のゴム状弾性体よりなるガスケット本体21を組み合わせると、その断面形状は例えば
図9に示したようになり、すなわちガスケット本体21は、キャリア11の端部に非接着で被覆された断面コ字形を呈する被覆部22Aと、この被覆部22Aの厚み方向両面にそれぞれ設けられた断面山形のシールリップ24とを一体に有し、シールリップ24はキャリア11の薄肉部16と平面上重なる位置に設けられている。また、被覆部22Aの厚み寸法をt
3、両面シールリップ24先端間の厚み寸法をt
5として、厚み寸法の大小関係は以下のように設定されている。
【0059】
t
3=t
2(またはt
3≒t
2)
t
3>t
1
t
5>t
3
【0060】
また、キャリア11に対しガスケット本体21を非接着で組み付けると、キャリア11からガスケット本体21が容易に抜けてしまうことが懸念されるため、ガスケット本体21およびキャリア11に、両者11,21を互いに抜け止めするための抜け止め構造31が設けられ、この抜け止め構造31が具体的には、以下のように構成されている。
【0061】
すなわち、当該第三実施例(
図9)では、キャリア11における薄肉部16の厚み方向両面にそれぞれ凸部32よりなる立体形状が設けられ、この凸部32はガスケット本体21の射出成形によりガスケット本体21の被覆部22A内に埋設されたものであって、この凸部32に対しガスケット本体21がその抜け方向(図では右方向)に係合することにより抜け止め構造31とされている。
【0062】
抜け止め構造31としては、両者11,21を互いに抜け止めできるものであればその形状や構成は特に限定されないが、例えばほかに以下のようなものであっても良い。
【0063】
第四実施例・・・
図10に示す第四実施例では、キャリア11における薄肉部16の厚み方向両面にそれぞれ凹部33よりなる立体形状が設けられ、この凹部33はガスケット本体21の射出成形によりガスケット本体21の一部ゴム材料が充填されたものであって、この凹部33に対しガスケット本体21がその抜け方向(図では右方向)に係合することにより抜け止め構造31とされている。
【0064】
第五実施例・・・
上記第三実施例(
図9)および第四実施例(
図10)では、凸部32や凹部33の断面形状は四角形とされているが、これに限らず、半円形や三角形などであっても良い。
図11に示す第五実施例では、凸部32の断面形状が半円形とされている。
【0065】
第六実施例・・・
上記第三実施例(
図9)および第四実施例(
図10)において、凸部32や凹部33は、ガスケット本体21におけるシールリップ24と平面上重なる位置に設けられているが、これに限らず、シールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の先端寄りの部位に設けられても良い。
図12に示す第六実施例では、凸部32がシールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の先端寄りの部位(最先端部位)に設けられている。
【0066】
第七実施例・・・
上記第三実施例(
図9)および第四実施例(
図10)において、凸部32や凹部33は、ガスケット本体21におけるシールリップ24と平面上重なる位置に設けられているが、これに限らず、シールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の基端寄りの部位(シールリップ24と厚肉部17の間の部位)に設けられても良い。
図13に示す第七実施例では、凸部32がシールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の基端寄りの部位に設けられている。
【0067】
第八実施例・・・
上記第三実施例(
図9)および第四実施例(
図10)において、凸部32や凹部33は、キャリア11における薄肉部16の厚み方向両面にそれぞれ1つ(1箇所)ずつ設けられているが、これに限らず、複数設けられても良い。
図14に示す第八実施例では、凸部32が複数(図ではそれぞれ5つ(5箇所)ずつ)、シールリップ24と平面上重なる位置、シールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の先端寄りの部位およびシールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の基端寄りの部位に亙って設けられている。
【0068】
第九実施例・・・
図15に示す第九実施例では、キャリア11における薄肉部16に、その厚み方向に貫通する貫通孔34よりなる立体形状が設けられ、この貫通孔34はガスケット本体21の射出成形によりガスケット本体21の一部ゴム材料が充填されたものであって、この貫通孔34に対しガスケット本体21がその抜け方向(図では右方向)に係合することにより抜け止め構造31とされている。貫通孔34はガスケット長手方向(図では紙面直交方向)に沿って多数が所定の間隔をもって設けられている。
【0069】
第十実施例・・・
上記第九実施例(
図15)において、貫通孔34は、ガスケット本体21におけるシールリップ24と平面上重なる位置に設けられているが、これに限らず、シールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の先端寄りの部位に設けられても良い。
図16に示す第十実施例では、貫通孔34がシールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の先端寄りの部位に設けられている。
【0070】
第十一実施例・・・
上記第九実施例(
図15)において、貫通孔34は、ガスケット本体21におけるシールリップ24と平面上重なる位置に設けられているが、これに限らず、シールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の基端寄りの部位(シールリップ24と厚肉部17の間の部位)に設けられても良い。
図17に示す第十一実施例では、貫通孔34がシールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の基端寄りの部位に設けられている。
【0071】
第十二実施例・・・
上記第九実施例(
図15)において、貫通孔34は、ガスケット長手方向と直交する一断面において1つ(1箇所)ずつ設けられているが、これに限らず、複数設けられても良い。
図18に示す第十二実施例では、貫通孔34が複数(図では5つ(5箇所))、シールリップ24と平面上重なる位置、シールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の先端寄りの部位およびシールリップ24と平面上重ならずかつ薄肉部16の基端寄りの部位に亙って設けられている。
【0072】
尚、上記の各実施例において、凸部32および凹部33は、ガスケット長手方向に沿って延びる連続線状に設けられているが、貫通孔34のようにガスケット長手方向に沿って多数が所定の間隔をもって設けられるものであっても良い。
【0073】
また、上記各実施例において、凸部32および凹部33は、キャリア11における薄肉部16の厚み方向両面にそれぞれ設けられているが、片面のみに設けられるものであっても良い。
【0074】
更にまた、上記各実施例において、ガスケットの全体構成は、
図7のタイプ(ガスケット本体21が被着部22(被覆部22A)およびシールリップ24を有し、シールリップ24がキャリア11の薄肉部16と平面上重なる位置に設けられているタイプ)とされているが、
図6のタイプ(ガスケット本体21が被着部22(被覆部22A)、延長部23およびシールリップ24を有し、シールリップ24がキャリア11の薄肉部16と平面上重ならない位置に設けられているタイプ)であっても良く、この
図6のタイプのガスケットを上記各実施例で説明したように非接着構造としても良い。