(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725341
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】電子機器
(51)【国際特許分類】
H05F 3/04 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
H05F3/04 A
【請求項の数】3
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2011-95139(P2011-95139)
(22)【出願日】2011年4月21日
(65)【公開番号】特開2012-227056(P2012-227056A)
(43)【公開日】2012年11月15日
【審査請求日】2014年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000000011
【氏名又は名称】アイシン精機株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100114959
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 徹也
(72)【発明者】
【氏名】出合 淳志
(72)【発明者】
【氏名】山本 克彦
(72)【発明者】
【氏名】殿田 志朗
【審査官】
関 信之
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭60−113915(JP,U)
【文献】
特開2007−328922(JP,A)
【文献】
特開平10−032098(JP,A)
【文献】
実開平02−022600(JP,U)
【文献】
特開2011−071050(JP,A)
【文献】
特開2007−329003(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H05F 3/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ケーシングと、当該ケーシングに取付けられる基板と、前記基板に対して絶縁された状態で前記基板を内包する導電性外装体とを備え、
前記基板を前記ケーシングに取付けるネジの頭部を当該基板の表面から前記導電性外装体に指向する指向部として配設すると共に、前記導電性外装体における前記指向部との対向面から突出して前記指向部との距離を近づける近接部を形成することにより、前記基板に帯電した静電気が前記導電性外装体を介してアースに放電する放電ギャップが前記指向部と前記近接部との間に形成される電子機器。
【請求項2】
前記導電性外装体が金属製である請求項1に記載の電子機器
【請求項3】
前記近接部が前記指向部の先端部を挿入可能な円筒状に形成されている請求項1または2記載の電子機器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、基板に設けられた電子回路や電子部品を静電気等の高電圧から保護する電子機器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器は、通常電子回路や電子部品を有する基板が筐体内に収納されている。基板に設けられた電子回路、電子部品は、静電気や過電圧の影響を受けやすく、場合によっては機能が破壊されるおそれがある。このため、電子機器は、静電気や過電圧から保護するために、例えば基板側及び筐体側の一方をアース(接地)して、筐体に発生した静電気等を基板側のアースに逃したり、基板に発生した静電気等を筐体側のアースに逃したりするように構成されている。
【0003】
ここで、静電気や過電圧を筐体側又は基板側のアースに逃すためには、筐体と基板とが接する状態が望ましい。しかし、筐体と基板とが接した状態にすると、基板及び筐体の一方から他方にノイズが入り易くなり、電子機器自体の動作や電子機器の周辺機器の動作に不具合が起こる可能性がある。このため、耐ノイズ性能を向上させるため、基板と筐体との間に放電ギャップを形成している。
【0004】
特許文献1の車載用電子装置では、
図6に示すように、基板Aに対して導電板Cを延設し、導電板Cに静電気を逃すための突起Dを形成し、筐体Bと突起Dとの間に放電ギャップGを形成し、基板A側に発生した静電気を筐体B側のアースに逃している。
また、特許文献2の電子機器では、筐体に外装部品を取付けるための取付片と機器内部に取り付けられたシャーシとの間に放電ギャップを形成し、外装部品に発生した静電気をシャーシ側のアースに逃している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−329003号公報
【特許文献2】特開2005−85687号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献1の車載用電子装置では、
図6に示すように、基板Aに対して導電板Cを延設する構成であるため、導電板Cの大きさに応じて筐体Bと導電板との間に形成される放電ギャップGの位置が限定される。したがって、静電気を逃がす上で最適な位置に放電ギャップGが形成できない場合が存在する。このため、放電ギャップGを形成できる領域を広げようとすると、導電板Cをより延長等して大きくする必要がある。しかしながら、導電板Cを延長すると、車載用電子装置では、振動を受けて導電板Cが折れたり曲がったりするおそれがある。また、特許文献2の電子機器においても、外装部品に対して取付片を配設する構成であるため、特許文献1の車載用電子装置と同様の課題を有する。
【0007】
本発明は、既存の部材を利用しつつ所望の位置に放電ギャップの形成が可能な電子機器を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の電子機器の第1特徴構成は、
ケーシングと、当該ケーシングに取付けられる基板と、前記基板に対して絶縁された状態で前記基板を内包する導電性外装体とを備え、
前記基板
を前記ケーシングに取付けるネジの頭部を当該基板の表面から前記導電性外装体に指向する指向部
として配設すると共に、前記導電性外装体における前記指向部との対向面
から突出して前記指向部との距離を近づける近接部を形成することにより、前記基板
に帯電した静電気
が前記導電性外装体を介してアースに放電する放電ギャップが前記指向部と前記近接部との間に形成される点にある。
【0009】
この構成により、基板に配設された指向部と導電性外装体における基板の指向部との対向面に形成された近接部との間に、放電ギャップが形成される。したがって、
導電性外装体の側にアースを施してある場合
に、基板側で発生した静電気はこの放電ギャップによって導電性外装体の側に逃すことができる。このように、放電ギャップは基板側の指向部と導電性外装体側の近接部によって形成されているので、基板や導電性外装体に対して別部材を延設する必要がなく、基板及び導電性外装体の静電気保護構造を簡易に構成できる。
【0010】
また、電子機器が振動を受ける場合であっても、基板に配設された指向部や導電性外装体に形成される近接部であれば、基板や導電性外装体に対して延設される部材に比べて折れ曲がったり破損したりする不具合が起き難い。さらに、基板と導電性外装体とは絶縁された状態であり、かつ、基板と導電性外装体との間に放電ギャップが形成されているので、導電性外装体側及び基板側の一方から他方に入るノイズを抑制することもできる。
また、本構成の如く、指向部が基板に取付けられたネジの頭部であると、指向部を簡易に構成できる。基板に取り付けられるネジは、基板を固定するために通常用いられるものであるので、基板に特別な指向部を配設する必要がない。また、指向部として用いられるネジは、基板を接地させる部材として利用することもできる。
【0011】
本発明の電子機器の第2特徴構成は、前記導電性外装体が金属製である点にある。
【0012】
本構成の如く、導電性外装体が金属製であると、導電性外装体の導通性が良好となるので、基板側又は導電性外装体に発生した静電気を逃し易くなる。また、導電性外装体が金属製であると、基板から熱が発生した場合にも、その熱を導電性外装体から外部へ効率よく放熱することができる。
【0013】
本発明の電子機器の第3特徴構成は、
前記近接部が前記指向部の先端部を挿入可能な円筒状に形成されている点にある。
【0014】
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図2】放電ギャップによる高電圧の流れを示す簡略図であって、(a)は基板側に静電気が発生した場合を示し、(b)は外装体側に静電気が発生した場合を示す。
【
図3】別実施形態の放電ギャップ付近の構造を示す縦断面図
【
図4】別実施形態の放電ギャップ付近の構造を示す縦断面図
【
図5】別実施形態の放電ギャップ付近の構造を示す縦断面図
【
図6】従来の電子装置において形成される放電ギャップを示す図
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明に係る電子機器を車両の電動流体ポンプに適用した例を図面に基づいて説明する。
【0017】
[実施形態1]
電動流体ポンプ1は、例えば、冷却水(流体)を、車両のエンジン及びラジエータ等を有する図示しない冷却回路に循環させる。冷却水は、エンジンで発熱した熱量を吸収し温められ、ラジエータで熱量を放出し冷却されてエンジンを冷却する。
【0018】
(電動流体ポンプの全体構成)
電動流体ポンプとしての電動ウォーターポンプ1は、
図1に示す如く、樹脂製のケーシング2と、ケーシング2に一方側の端部12が固定された軸部材11と、軸部材11の他方側の端部13を枢支しつつケーシング2を密閉するハウジング3とを備える。軸部材11にはロータ14が軸支され、ロータ14にはインペラ15が取り付けられている。
【0019】
ケーシング2の内部には軸部材11の軸芯L回りに沿ってコイル21が配置され、ロータ14の内部には同様に永久磁石16が配置されている。コイル21に電流が流されることで生成される磁界によってロータ14が回転駆動され、ロータ14と一体のインペラ15が水室6内で回転することで冷却水を図示しない冷却回路内に循環させる。
【0020】
ハウジング3には、軸部材11の軸芯Lの方向から電動ウォーターポンプ1の内部へ冷却水を引き込む吸入口4と、冷却水を電動ウォーターポンプ1の外部へ吐き出す吐出口5とが設けてある。
【0021】
ケーシング2は、アルミニウム等の導電性の金属で形成された外装体7によって覆われており、ケーシング2と外装体7との間には、電動ウォーターポンプ1の駆動を制御する制御回路を備えた基板30が配置されている。基板30には、コンデンサ,コンパレータ,スイッチング素子等が取り付けられている。
【0022】
基板30は、ケーシング2に一体成形された複数の取付け部にネジ31で固定される。ネジ31の頭部32は基板30の表面から突出している。本実施形態では、ネジ31の頭部32が基板30に配設され外装体7に指向する指向部である。外装体7の内面には、基板30上のネジ31の頭部32との対向面に対向面よりもネジ31の頭部(指向部)32との距離を近づける近接部8が形成されており、ネジ31の頭部32と近接部8との間に放電ギャップGが形成される。近接部8は例えば円錐状や角錐状であって、基板30上のネジ31の頭部32に頂部が対向する。なお、近接部8の頂部の形状は、必ずしも尖った形状である必要はなく、多少丸みを帯びた形状であってもよい。
【0023】
図2は、放電ギャップGの作用を説明するための図である。
図2(a)では、外装体7がアースGNDに接続されている。この接続は、例えばアルミニウム製の外装体7を車体フレームに導電性部材を用いて固定することによって実現される。
図2(a)の基板30及び外装体7において、例えば車両の組立時等に、基板30に対して静電耐圧よりも高い電圧が印加された場合に、放電ギャップGにより、この高電圧は速やかに外装体7からアースGNDに逃がされる。これにより、基板30が保護される。
【0024】
図2(b)では、基板30がアースGNDに接続されている。
図2(b)の基板30及び外装体7において、外装体7に対して静電耐圧よりも高い電圧が印加された場合には、放電ギャップGにより、この高電圧は速やかに基板30からアースGNDに逃がされる。これにより、基板30が保護される。
【0025】
放電ギャップGは、基板30に配設されるネジ31の頭部(指向部)32と、外装体7の近接部8とによって形成されるので、基板30及び外装体7の静電気保護構造を簡易に構成できる。基板30に取り付けられるネジ31は、基板30をケーシング2に固定するために通常用いられるものであるので、指向部として基板30に不要な部材を配設する必要がない。また、指向部として用いられるネジ31は、基板30を接地させる部材として利用することもできる。
【0026】
また、基板30と外装体7とは絶縁された状態であって、基板30と外装体7との間に放電ギャップGが形成されているので、外装体7から基板30の側にノイズが入ることを抑制することもできる。
【0027】
外装体7に内側に形成された接触部9と基板30との間に弾性体等で構成された放熱体35が配置されている。外装体7に設けられた接触部9は、基板30の収容空間に突出した部分である。外装体7がボルト等で固定されることで、基板30と外装体7の間には一定の間隙が形成される。基板30に配置された電子部品の熱は、放熱体35を介して外装体7の接触部9に伝導され、外装体7に複数設けられた棒状の放熱フィン7Aから空気中に放熱される。
【0028】
電動ウォーターポンプ1は、基板30で発生する熱を積極的に外装体7に伝熱し、外装体7の放熱フィン7Aから空中に放熱する。放熱体35は、さらに振動を減衰させる粘弾性を備えており、外装体7やケーシング2から基板30に伝わる振動を防止する。
【0029】
なお、放電ギャップGの距離は短いほど静電気からの保護の面では好ましいが、部品の製造寸法の公差や取り付け時の寸法誤差を考慮すると共に、基板30自体の静電耐圧を考慮してその静電耐圧を超える位の高電圧が印加された場合に放電が発生するように距離を決めるとよい。
【0030】
[実施形態2]
実施形態1では、外装体7の内面の、基板30に配設される指向部(ネジ31の頭部)32との対向面に円錐状の近接部8を形成したが、近接部8の形状はこれに限定されるものではない。本実施形態では、
図3に示すように、近接部8の形状を円柱状にした例を示す。その他、近接部8の形状は角柱状であってもよい。
【0031】
[実施形態3]
外装体7の内面に形成される近接部8は、
図4に示すように円筒状であってもよい。近接部8が円筒状であると、近接部8の円筒部分に指向部(ネジ31の頭部)32の先端部を挿入することができ、指向部32と近接部8とをより近接させることができる。つまり、
図1及び
図3のように近接部8と指向部32とを上下方向に対向させる場合に比べて、近接部8と指向部32とが占有する上下領域を小さくでき、その結果、電子機器全体の厚みを薄くすることができる。
また、近接部8を円筒状にせずに、
図1及び
図3に示す近接部8の突出方向と指向部32の突出方向とを互い違いにして上下方向において重なり合うように構成してもよい。
【0032】
[実施形態4]
上記の実施形態では、基板30に配設される指向部をネジ31の頭部32で構成した例を示したが、
図5に示すように、基板30に配設される指向部は電子部品33であってもよい。
図5では、電子部品33の角部に外装体7の近接部8の突出部分を対向させて放電ギャップGを形成する例を示す。このように、電子部品の角部に近接部8の突出部分を対向させると、電子部品33に対する静電気の影響を抑制することができる。電子部品33が耐静電気性を十分有するのであれば、電子部品33の角部以外の部分に近接部8の突出部分を対向させてもよい。
【0033】
[他の実施形態]
(1)上記の実施形態では、外装体7が金属製である例を示したが、導電性を有する外装体であれば金属製以外であってもよい。
【0034】
(2)上記の実施形態では、外装体7に形成される近接部8が基板30の指向部32に対して突出する凸状にした例を示したが、近接部8と指向部9との間に放電ギャップGが形成されるのであれば、近接部8は指向部32に対して凹状に形成されていてもよい。
【0035】
(3)上記の実施形態では、電子機器が車載用の電動流体ポンプである例について説明したが、本発明は車載用の電子機器に広く適用することが可能である。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明に係る電子機器は、静電気等の高電圧から基板を保護すべき各種の電子機器に広く適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 電動流体ポンプ
2 ケーシング
3 ハウジング
7 外装体
8 近接部
30 基板
31 ネジ
32 頭部(指向部)
33 電子部品(指向部)
G 放電ギャップ