【実施例】
【0017】
図1は、本発明のコンクリート構造物切断装置の一実施例の主要構成を示した概略平面図である。同図は、コンクリート構造物切断装置10(以下、切断装置10と記す。)によって、鉄筋コンクリート柱を水平切断する状態を例に、平面視した切断装置10の概略構成を示している。同図に示したように、切断装置10は、ベースマシン2(
図3参照)のアーム3先端にアタッチメント4を介して支持され、ベースマシン2のアーム3の操作によって切断対象物(本実施例では鉄筋コンクリート柱1)の所定位置に、容易にワイヤソー(詳細は後述する。)を位置決めすることができる。
図2は、切断装置10の外周に設けられたカバー11の一部を取り除いて切断装置10の配置を示した側面図である。
【0018】
以下、切断装置10の構成部材について、
図1,
図2を参照して説明する。切断装置10全体は、ベースマシン2のアーム3の先端に支持されるベースプレートと、ベースプレート12上に配置されたワイヤーソーユニット20と、ワイヤーソーユニット20のうちの推進プーリ(後述する。)を所定方向に移動可能なプーリ駆動手段30とを主要構成とし、駆動手段制御部40、冷却水供給手段41、冷却水回収手段(図示せず)が合わせて装備されている。
【0019】
ベースプレート12は、
図1に示したように、ベースマシン2のアーム3の先端に支持された平面視して略台形の根元部12aと、根元部12aと一体的にプレートを構成する略四角形状のプーリ配置部12bとからなる。根元部12a上面には、駆動プーリ21が配置され、この駆動プーリ21により付与される回転力により、駆動プーリ21に掛け渡され、所定の無端状ループを構成するダイヤモンドワイヤーソーWが他の複数のプーリ(後述する。)にガイドされて回転することができる。駆動プーリ21の回転軸には根元部の下面側に据え付けられたギヤボックス(図示せず)を介して駆動モータMから所定トルクの回転力が付与されるようになっている。
【0020】
本切断装置10に組み込まれたダイヤモンドワイヤーソーW(以下、ワイヤーソーW)は、ワイヤと、ダイヤモンドがビーズ状に配置された切削部とからなる公知構成のワイヤ状切削部材である。そしてこのワイヤーソーWは、
図1に示したように、駆動プーリ21から複数の方向変換プーリ22、テンション調整プーリ23に掛け渡され、対向位置にある推進プーリ25で折り返され、推進プーリ25間に位置するコンクリート柱1のベースプレート12側の面1aに切断開始部が位置するようにワイヤリングされる。各種プーリのうち、方向変換プーリ22は、ワイヤ走行方向の向きを変える役割を果たすため、所定の固定回転軸に軸支されている。これに対してテンション調整プーリ23は、図示しないスプリングによってワイヤーソーWに所定の張力(テンション)を付与する方向に付勢されている。なお、テンション調整プーリ23によってワイヤーソーWの走行方向の向きを変更するようにしてもよい。
【0021】
推進プーリ25は、
図1,
図2に示したように、ベースプレート12上に、プーリ駆動手段30としてのネジ駆動モータ31が装備された送りネジ32のスライドナット33上に取り付けられた部材である。スライドナット33は
図2に示したように、ガイドロッド34によって回転抑止されているため、スライドナット33上に設けられている推進プーリ25は、スライドナット33と同じく送りネジ32の軸線方向に沿って直動する。
図1に示した切断装置10では、コンクリート柱1を挟んで平行な2本の送りネジ32が配置されて、それぞれの送りネジ32のスライドナット33に推進プーリ25が設けられている。両者の直動速度は制御部40において、駆動プーリ21の回転力とともにその進行速度が制御され、切断対象物がワイヤーソーWによって確実に切断される。
【0022】
切断対象位置には冷却水供給手段41の先端部として冷却水噴射ノズル42が位置している。この冷却水噴射ノズル42から噴射された冷却水は、ワイヤーソーWがコンクリートを切断する際に発生する熱の冷却、磨砕粉を除去する役割を果たす。このとき切断装置10の外形はカバー11で覆われている。このカバー11は、冷却水がコンクリート柱1に噴射された際に周囲に冷却水が飛散しないためと、切断時のワイヤーソーWの運転音の軽減の役割を果たす。冷却水は、カバー11の下部に配置された排水パン(図示せず)を介して回収水経路を経て、図示しない排水処理設備に送水される。
【0023】
図4は、
図1に示した切断装置10による切断対象(鉄筋コンクリート柱1)の切断状況を示した説明図である。
図4(a)に示した切断開始時からネジ駆動モータ31の回転により、2本の対向位置に配置された送りネジ32に螺合されているスライドナット33上の推進プーリ25を所定速度で矢印A方向に直動させる。このとき推進プーリ25間に掛け渡されたワイヤーソーWは、コンクリート柱1に食い込みながら、駆動モータの回転力により所定のプーリによって方向変換された回転経路に沿って回転する。このときワイヤーソーWには、ワイヤーソーWが当接した箇所のコンクリートを切断するだけの切削力が付与される。
図4(b)は、切断対象のコンクリート柱1をほぼ切断した状態を示した状態図である。同図に示したように、推進プーリ25は送りネジ32のほぼ先端まで進行し、その間に掛け渡されたワイヤーソーWによりコンクリート柱1は切断されている。なお、この送りネジ32にはボールネジを用いることが好ましい。
【0024】
図5(a)は、
図4(a)に示した装置のうち、送りネジ32を1本のみを備えた切断装置10を示している。したがって推進プーリ25として機能するのは1個のプーリのみである。他端のプーリは方向変換プーリ27として所定のベース材26上に備えることが好ましい。ベース材26上の方向変換プーリ27は切断対象によって設置位置を適宜設定する。それにより、
図5(b)に示したように、推進プーリ25がもっとも前進した状態で切断対象物の押し切り動作が完了するので、推進プーリ25がもっとも進んだ状態と、ベース材26上の方向変換プーリ27の位置関係を適宜設定することが好ましい。
【0025】
次に、推進プーリ25の推進機構の変形例について、
図6各図、
図7各図を参照して説明する。
図6(a)は
図4(a)に、
図7(a)は
図5(a)に対応した平面図である。
図6(a)、
図7(a)に示した切断装置10では推進プーリ25の直動動作のために、ラックピニオン機構35を用いている。長手方向に延在するラック36と噛合するピニオン(図示せず)を収容するボックス37上に推進プーリ25を設けている。なお、ラック36を横向きに配置して、ラック36に噛合するピニオンの回転軸と推進プーリ25の回転軸を同軸構造とすることもできる。切断動作の進行状態は
図6(b),
図7(b)に示したように、送りネジ32を用いた場合と同様になる。(
図4参照)この変形例の場合には、ピニオン側に駆動モータを内蔵するため、
図4に示したタイプに比べ、シンプルな構造とすることができる。
【0026】
次に、推進プーリ25の推進機構の他の変形例について、
図8各図、
図9各図を参照して説明する。
図8(a)は
図4(a)に、
図9(a)は
図5(a)に対応した平面図である。
図8(a)、
図9(a)に示した切断装置10では推進プーリ25の直動動作のために、シリンダジャッキ38を用いている。シリンダ39先端に推進プーリ25を取り付け、シリンダ39の伸長状態を制御することにより、推進プーリ25の直動動作を実現することができる。このシリンダジャッキ38によれば、送りネジ32あるいはラック36のような長尺な部材や、それらを安定保持する補強部材等が不要となるため、装置はさらにシンプルにすることができる。
【0027】
以上に例示した各推進機構による推進プーリ25の直動動作による切断対象であるコンクリート柱1のワイヤーソーによる切断を、より効率よく、かつ安定して行うために反力受け装置をベースプレートに併設することが好ましい。以下、反力受け装置の構成について、
図10、
図11を参照して説明する。
図10(a)は、
図1に示した切断装置10に、反力受け装置40を付加した構成を示した概略平面図である。
図11は
図10(a)に示した反力受け装置40の高さ方向の取り付け位置が分かるように示した側面図である。
【0028】
反力受け装置40は、
図10(a)に示したように、ベースプレート12のプーリ配置部12bに根元部が支持された台座プレート41上に据え付けられたモータ42と、モータ42の制御運転により、送りネジ43a部が形成された部位を有するロッド43を所定量だけ軸線方向に繰り出し、引き込み回転制御可能なネジジャッキ機構44とから構成されている。ロッド43の先端側(切削対象側)は、コンクリート柱1に当接する部分であるため、ネジ切りされていない。
【0029】
反力受け装置40の操作について、
図4(a),
図10(a)を参照して説明する。まずロッド43が引き込み状態にある反力受け装置40を搭載した切断装置10を、ベースマシン(図示せず)のアーム3の操作で
図4(a)に示したコンクリート柱1の切断開始位置に位置決めする。その後、ネジジャッキ機構44の操作により、ロッド先端43bがコンクリート柱1と重なる位置までロッド43を送り出して伸長する。その状態で、アーム3先端をわずかに前進操作して、ネジジャッキ機構44で支持されたロッド43の先端43bをコンクリート柱1の側面1bに接触させる。この状態を保持して、推進プーリ25の前進、ワイヤーソーWの回転を行う。このとき、反力受け装置40のロッド43が推進プーリ25の前進動作、ワイヤーソーWによるコンクリート柱1を押圧する力の反力受け部材として機能する。そのため、推進プーリ25の前進、ワイヤーソーWによるコンクリート柱1の切断を効率よく行うことができる。同図(b)は、ネジジャッキ機構44に代えてシリンダジャッキ45による反力受け装置40を構成した例を示している。シリンダ46の先端の反力受け部47はシリンダ46に回動可能に取り付けておき、反力受け装置40をセットする段階では、コンクリート柱1と反力受け部47とが干渉しない向きにしておき、所定位置に切断装置10がセットされた状態で、反力受け部47をコンクリート柱1側に回転させて、シリンダ46を縮退させてコンクリート柱1と反力受け部47とを係止させる。これにより、同図(a)と同様に、コンクリート柱切断時において、推進プーリ25の前進動作およびワイヤーソーWによるコンクリート柱1への押圧力の反力受け部材として機能することができる。
【0030】
上述した反力受け装置40によってコンクリート柱1の切断時に、推進プーリ25の前進動作によるワイヤーソーWによるコンクリート柱1への押圧力の反力を負担することにより、切断の効率と安定性が増す。しかし、切断装置10全体が取り付けられているベースマシン2(
図3(a))のアーム3が安定した状態にないと、その効果は減少してしまう。そこで、
図3(b)に示したように、ベースマシン2のアーム3にアーム固定支持脚50(以下、単に固定支持脚と記す。)を装備することも好ましい。この固定支持脚50は、上端がアーム3の下面に回動支持軸51を介して取り付けられ、脚先端にはワイヤ53の一端が連結されている。このワイヤ53はアーム3側に巻取装置(図示せず)が装備されている。よって、固定支持脚50は、ワイヤ53の巻き取り、巻き解き動作により、回動支持軸51回りに回動できる。固定支持脚50は、ベースマシン2のアーム操作時は、ワイヤ53の巻き取りにより仮想線で示したように、アーム3下部に畳み込まれた状態にある。ベースマシン2のアーム操作により、切断装置10を切断対象位置に位置決めした後、ワイヤ53を巻き解き、固定支持脚50を支持軸51回りに回動させてほぼ鉛直な吊り下げ状態とし、さらに固定支持脚50内に内蔵された延長脚54を伸長させて延長脚下端54aを接地させる。これにより、アーム3の動きが拘束され、コンクリート柱1の押し切り時においてベースマシン2のアーム3によって切断装置10のベースプレートの保持を補助することができる。
【0031】
以上の説明では、反力受け装置40による切断時の反力負担、固定支持脚50を利用したベースマシン2のアーム3の固定について説明したが、ワイヤーソーWによる押し切り時に、切断装置10全体を支持するアーム3をわずかに前進させるようにベースマシン2を操作することもできる。これによっても、ワイヤーソーWと切断対象との接触圧が高められ、ワイヤーソーWの回転時における切削能力が向上し、コンクリートの切断効率が増す。
【0032】
ワイヤーソーWの切削能力は、切断対象がコンクリート、鉄筋、鉄骨等、その強度に応じてダイヤモンドワイヤーソーとしての仕様を適宜決定することが好ましい。
【0033】
このベースマシン2としては、切断対象物の切断時の反力支持体として、自重が大きく、かつ切断対象物の所定位置にワイヤーソーWを位置決めできる自走式の建設機械(いわゆる重機)が好適である。たとえば、アーム3が自在に操作可能で、そのアーム3の先端アタッチメント4に切断装置10を装着できる、クローラ走行する油圧ショベル他、上述の条件を満たす建設機械であれば、各種タイプのものが使用可能である。
【0034】
なお、本発明は上述した実施例に限定されるものではなく、各請求項に示した範囲内での種々の変更が可能である。すなわち、請求項に示した範囲内で適宜変更した技術的手段を組み合わせて得られる実施形態も、本発明の技術的範囲に含まれる。