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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725394
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】造血幹細胞の培養方法
(51)【国際特許分類】
   C12N 5/0789 20100101AFI20150507BHJP
   C12M 3/00 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   C12N5/00 202Q
   C12M3/00 A
【請求項の数】15
【全頁数】28
(21)【出願番号】特願2009-74133(P2009-74133)
(22)【出願日】2009年3月25日
(65)【公開番号】特開2010-220581(P2010-220581A)
(43)【公開日】2010年10月7日
【審査請求日】2012年3月15日
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 臨床血液第49巻第9号(平成20年9月30日)社団法人日本血液学会東京事務局「臨床血液」編集部発行第311(989)ページに発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成20年10月10日国立京都国際会館において開催された第70回日本血液学会主催「第70回日本血液学会総会」で発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 化学工学会姫路大会講演要旨集(平成20年10月17日)化学工学会関西支部発行第57ページに発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用 平成20年11月18日ホテル日航姫路において開催された化学工学会関西支部主催「化学工学会姫路大会」で発表
(73)【特許権者】
【識別番号】505127721
【氏名又は名称】公立大学法人大阪府立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】899000057
【氏名又は名称】学校法人日本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100065248
【弁理士】
【氏名又は名称】野河 信太郎
(72)【発明者】
【氏名】安田 昌弘
(72)【発明者】
【氏名】相澤 信
(72)【発明者】
【氏名】原田 智紀
【審査官】 小金井 悟
(56)【参考文献】
【文献】 特開2001−321434(JP,A)
【文献】 國枝弘史 外4名,高分子担体を用いた付着性細胞の支持培養,化学工学会第72回年会講演要旨,2007年,I303
【文献】 國枝弘史 外3名,高分子担体を用いた細胞間相互作用の定量的評価,化学工学会第39回秋季大会講演要旨,2007年,P088
【文献】 Biomaterials,2008年11月29日,Vol.30, No.6,p.1071-1079,Epub版
【文献】 Exp. Hematol.,2007年 5月,Vol.35, No.5,p.771-781
【文献】 第11回バイオエンジニアリング講演会講演論文集,1999 Mar 24,p.248-9
【文献】 Cytotherapy,2003年,Vol.5, No.6,p.490-499
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 1/00− 7/08
C12M 1/00− 3/10
CAplus/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
PubMed
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
造血幹細胞又は造血幹細胞を含有する細胞集団と造血支持細胞とを、該造血支持細胞がエポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する基体に付着した状態で共培養することにより、3週間以上にわたって造血幹細胞の自己複製及び血液細胞への分化を同時に誘導させ、該基体が体積平均粒径58〜2,000μmの粒子であり且つ該エポキシ基を0.5×10-3〜2.0×10-3mol/g基体の量で有することを特徴とする、造血幹細胞の培養方法。
【請求項2】
前記粒子が三次元集積体を形成している、請求項に記載の方法。
【請求項3】
前記グラフト鎖が親水性官能基を更に含む、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記グラフト鎖が、前記エポキシ基及び前記親水性官能基を10:1〜1:10の割合で含む請求項に記載の方法。
【請求項5】
前記グラフト鎖が10,000〜100,000の分子量を有する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記グラフト鎖が(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル又は1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルをエポキシ基含有モノマー単位として有する(共)重合体である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記基体が(メタ)アクリル酸系(共)重合体、オレフィン系(共)重合体又はスチレン(共)重合体からなる、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記共培養の前に、前記基体上で前記造血支持細胞を培養する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項9】
前記造血幹細胞又は前記造血幹細胞を含有する細胞集団が骨髄血、臍帯血又は末梢血に由来する、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項10】
前記造血支持細胞が骨髄ストローマ細胞、骨髄線維芽細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞若しくはこれらの前駆細胞又はこれら細胞由来の株化細胞である、請求項1〜のいずれか1項に記載の方法。
【請求項11】
前記造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を回収することを更に含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項12】
前記血液細胞を回収することを更に含む、請求項1〜10のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
造血幹細胞又は造血幹細胞を含有する細胞集団と造血支持細胞とを、該造血支持細胞がエポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する基体に付着した状態で共培養することにより、3週間以上にわたって造血幹細胞の自己複製及び血液細胞への分化を同時に誘導させ、該基体が体積平均粒径58〜2,000μmの粒子であり且つ該エポキシ基を0.5×10-3〜2.0×10-3mol/g基体の量で有することを特徴とする、造血幹細胞の維持又は増幅方法。
【請求項14】
造血幹細胞又は造血幹細胞を含有する細胞集団と、エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する体積平均粒径58〜2,000μmの粒子からなる三次元集積体に付着した造血支持細胞とを含んでなり、該粒子が該エポキシ基を0.5×10-3〜2.0×10-3mol/g基体の量で有し、3週間以上維持されていることを特徴とする、三次元共培養物。
【請求項15】
エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する体積平均粒径58〜2,000μmの粒子の三次元集積体と該三次元集積体に付着した造血支持細胞とを含んでなり、該粒子がエポキシ基を0.5×10-3〜2.0×10-3mol/g基体の量で有することを特徴とする、造血幹細胞の培養キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、造血幹細胞の培養方法に関する。より詳細には、本発明は、造血幹細胞と特定の培養担体に付着した血液支持細胞とを共培養する、造血幹細胞の培養方法に関する。
【背景技術】
【0002】
再生医療は、機能不全に陥った組織や器官を正常に機能するものに代替えしたりすることができ、先天的に欠損したか又は疾患や事故によって後天的に失われた組織や器官を再生できる技術として非常に注目を浴びている。
再生医療には、未分化細胞の調達が一番の重要課題ではあるが、細胞を再生医療に用いるためには、生体外で、組織を構成する種々の細胞を個々増殖させ、異種の細胞塊を互いに接着させ、三次元的に生体内と同様の組織を組み上げる技術の確立が必要となる。
【0003】
しかし、生体内で細胞は三次元的に密接に関わっているにも拘らず、従来の生体外培養法としては、プレートを用いた平面培養法やスピナーを用いた懸濁培養法などが挙げられ、三次元的な細胞の集密培養に関する研究は一部しか行われていない。
また、二種類以上の増殖速度の異なる細胞を従来の方法による同時に培養しても、増殖速度の速い細胞が急速に数を増やし、増殖速度の遅い細胞は淘汰されてしまうため、共培養は困難である。
【0004】
三次元的な細胞培養法に関して、安田らは、高分子微粒子を細胞の支持担体として用いる付着性細胞の新規三次元培養法を開発している。この培養法では、重合反応性開始剤である2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]を用いて懸濁共重合により合成した高分子微粒子に、該微粒子中のアゾ基を開始剤としてエポキシ基及びカルボキシル基を含むグラフト鎖をグラフト重合したものを支持担体として使用して、付着性細胞の固定化と、担体上での細胞増殖が確認されている(例えば、非特許文献1、非特許文献2を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2008−61569号公報
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】國枝弘史、川又崇弘、安田昌弘、相澤 信、関 実、「高分子担体を用いた付着性細胞の支持培養」化学工学会第72回年会講演要旨I303(2007)
【非特許文献2】國枝弘史、安田昌弘、関 実、相澤 信、「高分子担体を用いた細胞間相互作用の定量的評価」化学工学会第39回秋季大会講演要旨P088(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、上記文献に記載の技術は成熟(分化)細胞の単培養に関するものであり、幹細胞のような未分化細胞についての検討はなされていない。
自己再生能(自己複製能)及び多分化能を有する幹細胞(例えば、造血幹細胞)は、培養により自己再生能及び多分化能を消失してしまい、両能力を維持したままで培養することは、通常困難である。
【0008】
幹細胞を未分化状態で自己再生させる培養技術は知られているが、この技術によれば、幹細胞の成熟細胞への分化に際しては分化誘導培地で培養するなどの分化誘導技術を別途に適用する必要があった(例えば、特許文献1)。
本発明は、造血幹細胞について、自己複製を繰り返しつつ、血液細胞への分化を継続的に維持させることを目的とした。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者らは、鋭意検討の結果、エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する基体に固定化した造血支持細胞の存在下で造血幹細胞を培養することによって、造血幹細胞の自己再生能及び分化能が同時に維持されることを見い出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は、造血幹細胞又は造血幹細胞を含有する細胞集団と造血支持細胞とを、該造血支持細胞がエポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する基体に付着した状態で共培養することにより、造血幹細胞の自己複製及び血液細胞への分化を同時に誘導させることを特徴とする、造血幹細胞の培養方法を提供する。
【0011】
本発明はまた、造血幹細胞又は造血幹細胞を含有する細胞集団と造血支持細胞とを、該造血支持細胞がエポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する基体に付着した状態で共培養することにより、造血幹細胞の自己複製及び血液細胞への分化を同時に誘導させることを特徴とする、造血幹細胞の維持又は増幅方法を提供する。
本発明はまた、造血幹細胞又は造血幹細胞を含有する細胞集団と、エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する粒子からなる三次元集積体に付着した造血支持細胞とを含んでなることを特徴とする、三次元共培養物を提供する。
【0012】
本発明はまた、エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する体積平均粒径50〜2,000μmの粒子の三次元集積体と該三次元集積体に付着した造血支持細胞とを含んでなり、該粒子がエポキシ基を0.5×10-3〜2.0×10-3mol/g基体の量で有することを特徴とする、造血幹細胞の培養キットを提供する。
本発明はまた、エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する体積平均粒径50〜2,000μmの複数の粒子からなり、該粒子がエポキシ基を0.5×10-3〜2.0×10-3mol/g基体の量で有する、造血幹細胞と造血支持細胞との共培養用の培養担体を提供する。
【発明の効果】
【0013】
本発明の培養方法によれば、生体外で、造血幹細胞の自己複製(自己再生)及び血液細胞への分化を誘導することが可能となる。
また、本発明の共培養物によれば、造血幹細胞の維持システム及び/又は血液細胞の提供システムが可能となる。
また、本発明の培養キット及び培養担体によれば、体外での造血幹細胞の維持・分化誘導が容易に可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】造血支持細胞が本発明に係る培養担体の一形態に付着(固定化)することを示す写真である。
図2】造血支持細胞がグラフト鎖を有さない培養担体へは付着(固定化)しないことを示す写真である。
図3】グラフト鎖中のエポキシ基量が培養担体への造血支持細胞の付着速度に及ぼす影響を示すグラフである。
図4】グラフト鎖の数及び密度が培養担体への造血支持細胞の付着に及ぼす影響を示すグラフである。
図5】グラフト鎖の鎖長が培養担体への造血支持細胞の付着に及ぼす影響を示すグラフである。
図6】造血支持細胞の付着に対するグラフト鎖の親水性官能基の影響を示すグラフである。
図7】基体の粒径が培養担体への造血支持細胞の付着に及ぼす影響を示すグラフである。
図8】造血支持細胞が本発明に係る培養担体の別の形態(基体としてPP板;左)に付着(固定化)するが、未処理PP板(右)には付着(固定化)しないことを示す写真である。
図9】造血支持細胞が本発明に係る培養担体の更に別の形態(左)に付着(固定化)するが、グラフト鎖を有さない培養担体(右)には付着(固定化)しないことを示す写真である。
図10】本発明に係る培養担体に付着した造血支持細胞(MS-5)との共培養による造血幹細胞の増殖及び分化並びに造血巣の形成を示す写真である。
図11】造血巣(造血幹細胞と本発明に係る培養担体に付着した造血支持細胞との共培養物)から遊離する血球細胞の数を示すグラフである。
図12】回収した培養培地中に存在するCFU-Mix、BFU-E及びCFU-GMにより形成されたコロニーの比率を示すグラフである。
図13】造血巣から遊離された細胞のメイ・グリュンワルド・ギムザ染色写真である。
図14】本発明に係る培養担体上で造血支持細胞(MS-5)と共培養されている造血幹細胞のヘマトキシリン・エオシン染色(H-E染色)写真(左)及びアルシアン・ブルー染色写真(右)である。
図15】本発明に係る培養担体上で造血支持細胞(MS-5)と共培養されている造血幹細胞の走査型電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を詳細に説明する。
(基体)
本発明において使用し得る基体(固体状支持体)は、その外表面に後述するグラフト鎖を有することができるものであれば、材質について何ら限定されず、無機材料からなるものであっても、有機材料からなるものであってもよい。ここで、「外表面」とは、外部からのアクセス(接近)が容易な外周面をいい、例えば多孔質体における孔のような内部空間を形成している表面を含まない。
【0016】
無機材料からなる基体としては、例えば、シリカ(代表的にはガラス)、シリコン、炭酸カルシウム、リン酸カルシウムやヒドロキシアパタイトなどが挙げられる。
有機材料からなる基体としては、例えば、(メタ)アクリル酸系(共)重合体、オレフィン系(共)重合体(例えば、エチレン又はプロピレン(共)重合体)、スチレン(共)重合体、ウレタン(共)重合体のような樹脂からなるものや、乳酸(共)重合体、グリコール酸(共)重合体、εカプロラクトン(共)重合体のような生分解性樹脂からなるものなどが挙げられる。
好ましくは、基体は、(メタ)アクリル酸系(共)重合体、オレフィン系(共)重合体又はスチレン(共)重合体からなる。
【0017】
共重合体中のコモノマー単位としては、特に制限はないが、例えば、ジビニルベンゼン、トリメリット酸トリアリル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)及び4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)、ビニルピロリドンに由来するコモノマー単位が挙げられる。コモノマー単位は1種であってもよいし、2種以上であってもよい。
【0018】
(メタ)アクリル酸系(共)重合体としては、例えば、ポリ(メタ)アクリル酸、ポリ(メタ)アクリル酸エステル(例えば、(C1〜C4)アルキルアルコールや(C2〜C4)アルキレンジオールとのエステル)、(メタ)アクリル酸又は(メタ)アクリル酸エステルと他のコモノマーとの共重合体が挙げられる。
【0019】
より具体的には、ポリ(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸メチルと2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]との共重合体、(メタ)アクリル酸メチルと2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]と他のコモノマー(例えば、ジビニルベンゼン、トリメリット酸トリアリル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコール、ビニルピロリドンのうちの1種又は2種以上)の共重合体、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコールと2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]との共重合体、ジ(メタ)アクリル酸エチレングリコールと2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]と他のコモノマー(例えば、ジビニルベンゼン、トリメリット酸トリアリル、トリ(メタ)アクリル酸ペンタエリスリトール、ビニルピロリドンのうちの1種又は2種以上)との共重合体が挙げられる。
【0020】
スチレン(共)重合体としては、例えば、ポリスチレン、スチレンと2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]との共重合体又はスチレンと2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]と他のコモノマー(例えば、ジビニルベンゼン、トリメリット酸トリアリル、トリアクリル酸ペンタエリスリトール、ジメタクリル酸エチレングリコール、ビニルピロリドンのうちの1種又は2種以上)との共重合体が挙げられる。
【0021】
機械的安定性、タンパク質の非特異的付着及び生体毒性の観点から、メタクリル酸メチルと他のコモノマーとの共重合体、及びメタクリル酸メチルと2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]と他のコモノマーとの共重合体からなる基体が好ましい。
【0022】
基体はまた、その外表面にグラフト鎖を有することができるものであれば、形状についても何ら限定されず、粒子状、繊維状、シート状、メッシュ状など任意の形状をとり得るが、好ましくは粒子状(特に好ましくは、球状又は略球状)である。
粒子状の基体は、好ましくは50〜2,000μm、より好ましくは100〜2,000μm、より好ましくは200〜2,000μm、より好ましくは300〜2,000μm、より好ましくは500〜2,000μmの体積平均粒径を有する。
【0023】
基体が粒子状である場合には、複数の基体が三次元集積体を形成していることが好ましい。
基体は多孔質であってもよいが、多孔質でないほうが好ましい。
【0024】
基体の作製法
重合体からなる基体は、(コ)モノマー(例えば、前述のもの)を公知の方法で重合反応させることにより作製することができる。なかでも、モノマー(必要に応じて、高分子性分散安定剤)を溶媒中に分散させて重合固化させる懸濁重合法は、一段階で基体を作製でき、また後述する重合開始基を容易に導入できる点で、好ましい。
基体を作製するための重合反応に使用する重合開始剤は、任意の公知の重合開始剤(例えば、アゾビスイソブチロニトリル、2,2'-アゾビス(2,4-ジメチルバレロニトリル)、過酸化ベンゾイル)を使用することができる。
【0025】
後工程で、下記で説明する「表面グラフト重合法」によりグラフト鎖を基体に付与する場合には、表面グラフト重合法で重合開始剤として機能し得る基(重合開始基)を基体に内在させる。
【0026】
重合開始基を提供し得る化合物としては、例えば、ラジカル発生性アゾ化合物が挙げられる。
ラジカル発生性アゾ化合物を使用する場合、重合反応性であれば、基体を作製するための重合反応において、該化合物をコモノマーの1つとしてそのまま用いることができる。このような重合反応性のラジカル発生性アゾ化合物の具体例には、例えば、2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]が挙げられる。
【0027】
ラジカル発生性アゾ化合物が非重合反応性であれば、他の重合反応性モノマーと予め縮合させて重合反応に用いる。このような非重合反応性のラジカル発生性アゾ化合物の具体例には、例えば、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)、4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)が挙げられる。
【0028】
例えば、2,2'-アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)は、その二塩酸塩を(メタ)アクリル酸クロリドと縮合させ、2,2'-アゾビス(N-(メタ)アクリロイルアミジノプロパン)とする。4,4'-アゾビス(4-シアノペンタン酸)は、カルボジイミド存在下で(メタ)アクリル酸と縮合させて、(メタ)アクリル酸4,4'-アゾビス(4-シアノペンタノエート)とする。
導入効率の観点から、2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド]のような重合反応性のラジカル発生性アゾ化合物をそのままモノマーの1つとして用いることが好ましい。
【0029】
後工程で、下記で説明する「化学結合法」によりグラフト鎖を基体に付与する場合には、コモノマーとして熱開裂性又は光開裂性の反応性官能基を含有するモノマーを使用することが好ましい。熱開裂性又は光開裂性反応性官能基としては、例えば、エポキシ基が挙げられる。
エポキシ基含有モノマーは、エポキシ基を含む重合反応性モノマーであれば限定されないが、例えば、不飽和グリシジルエステル及び不飽和グリシジルエーテルであり得る。
【0030】
不飽和グリシジルエステルとしては、例えば、置換又は未置換のエチレン系(特にC2〜C4)不飽和炭化水素のグリシジルエステルであり、具体例には、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸のモノ及びジグリシジルエステル、アリルグリシジルエステルが挙げられる。
【0031】
不飽和グリシジルエーテルとしては、例えば、置換又は未置換のエチレン系(特にC2〜C4)不飽和炭化水素のグリシジルエーテルであり、具体例には、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテルが挙げられる。
【0032】
エポキシ基を有する基体は、例えば、水中に、高分子性分散安定剤、エポキシ基含有モノマー(例えば、メタクリル酸グリシジル)及び任意に他のコモノマーを分散させ、乳化重合、懸濁重合などの公知の方法により重合固化させて作製する。細胞の付着(固定化)に効果的な粒径サイズの粒子が得られる点や他の方法に比べ多量の反応性官能基を基体に導入できる点で、懸濁重合法が好ましい。
【0033】
懸濁重合法による場合、例えば、反応液総量に対して1質量%〜5質量%のメタクリル酸グリシジル、3質量%〜10質量%のトリアクリル酸ペンタエリスリトール及び0質量%〜15質量%のシクロヘキサノールを含む溶液を水に分散させ、300rpmで攪拌させながら70℃にて3時間、次いで80℃にて2時間反応させ、その液の温度を室温まで降下させ、蒸留水とメタノールで粒子を軽く洗浄することによって、エポキシ基を有する基体が得られる。
【0034】
(グラフト鎖)
グラフト鎖は、エポキシ基を含む限り特定の形態に限定されない。エポキシ基は、グラフト鎖の主鎖(側鎖の有無は問わず)に存在してもよいし、側鎖に存在していてもよい。
グラフト鎖は、好ましくは、少なくともエポキシ基含有モノマー由来のモノマー単位を含む(共)重合体である。例えば、グラフト鎖は、エポキシ基含有モノマー(任意に、他のコモノマーと)の(共)重合体であり得る。グラフト鎖はまた、エポキシ基含有モノマーを含まない主鎖の重合体に、側鎖としてエポキシ基含有モノマーを重合(又は付加)させたものであり得る。
【0035】
グラフト鎖は、好ましくは親水性官能基を更に含む。よって、グラフト鎖が(共)重合体である場合には、該(共)重合体は、好ましくは、親水性官能基含有モノマー由来のモノマー単位を含む。
グラフト鎖中のエポキシ基と親水性官能基との割合(エポキシ基:親水性官能基)は、好ましくは10:1〜1:10の範囲である。親水性官能基は、例えば、ヒドロキシ基、カルボキシル基、アミノ基及び2-オキソピロリジニルからなる群より選択される。親水性官能基は、グラフト鎖の主鎖に存在してもよいし、側鎖に存在してもよい。
【0036】
エポキシ基含有モノマーは、エポキシ基を含むモノマーであれば限定されないが、例えば、不飽和グリシジルエステル、不飽和グリシジルエーテル及び脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルであり得る。
不飽和グリシジルエステルとしては、例えば、置換又は未置換のエチレン系(特にC2〜C4)不飽和炭化水素のグリシジルエステルであり、具体例には、(メタ)アクリル酸グリシジル、イタコン酸のモノ及びジグリシジルエステル、アリルグリシジルエステルが挙げられる。
【0037】
不飽和グリシジルエーテルとしては、例えば、置換又は未置換のエチレン系(特にC2〜C4)不飽和炭化水素のグリシジルエーテルであり、具体例には、アリルグリシジルエーテル、ビニルグリシジルエーテルが挙げられる。
脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルとしては、例えば、置換又は未置換の(C1〜C4)アルキレンジオールグリシジルエーテルであり、具体例には1,4-エタンジオールジグリシジルエーテル(エチレングリコールジグリシジルエーテル)、1,3-プロパンジオールジグリシジルエーテル、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルが挙げられる。
【0038】
なかでも、(メタ)アクリル酸グリシジル、アリルグリシジルエーテル及び1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルが好ましい。
グラフト鎖中のエポキシ基含有モノマーは、1種であっても、2種以上であってもよい。
【0039】
ヒドロキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸ヒドロキシ(C1〜C4)アルキルエステル、ビニルアルコール、(C2〜C4)アルキレングリコールであり、具体例には、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸3-ヒドロキシプロピルが挙げられる。
カルボキシ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸、イタコン酸及びマレイン酸が挙げられる。
【0040】
アミノ基含有モノマーとしては、例えば、(メタ)アクリルアミド又は(メタ)アクリル酸モノ又はジ(C1〜C4)アルキルアミノ(C1〜C4)アルキルであり、具体例には、(メタ)アクリル酸2-ジエチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸メチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸t-ブチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル、(メタ)アクリル酸ジエチルアミノエチルが挙げられる。
2-オキソピロリジニル基含有モノマーとしては、N-ビニルピロリドンである。
【0041】
細胞の付着速度の観点からは、親水性官能基としては、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリル酸2-ヒドロキシエチルが好ましい。
【0042】
その他のコモノマーとしては、例えば、(メタ)アクリル酸(C1〜C4)アルキルエステル、酢酸ビニル、ビニル(C1〜C4)アルキルエーテル、(メタ)アクリル酸アリルなどであり、具体例には、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルが挙げられる。
【0043】
グラフト鎖は、例えば10,000〜100,000の分子量を有する。
グラフト鎖は、エポキシ基を、例えば0.3×10-3〜6.0×10-3mol/g基体、好ましくは0.5×10-3〜6.0×10-3mol/g基体、より好ましくは0.5×10-3〜2.0×10-3mol/g基体の量で基体の外表面に付与される。
【0044】
(基体の外表面へのグラフト鎖の付与方法)
基体へのエポキシ基を有するグラフト鎖の付与方法には、グラフト重合によって基体の外表面上に直接、エポキシ基を有するグラフト鎖を形成する方法(本明細書中、「表面グラフト重合法」と呼ぶ)と、予め作製したグラフト鎖を基体の外表面に化学結合によりグラフトする方法(本明細書中、便宜上、「化学結合法」と呼ぶ)がある。後者の方法には、グラフト鎖がエポキシ基を有して予め作製される方法と、グラフト鎖がエポキシ基自体は有さずエポキシ基含有化合物と反応し得る官能基を有して予め作製され、基体の外表面へのグラフト後に該官能基にエポキシ基含有化合物を反応させる方法がある。
【0045】
(表面グラフト重合法)
表面グラフト重合法においては、簡潔には、先ず基体の外表面に活性種(ラジカル)を発生させ、次いで該活性種を起点としてエポキシ基含有モノマー(必要に応じて、親水性官能基含有モノマー及び/又はその他のコモノマーと)を重合反応させることによって、基体の外表面にエポキシ基を含むグラフト鎖を形成する。
【0046】
表面グラフト重合法は、公知の方法で行うことができる。
例えば、活性種(ラジカル)を発生させるためには、基体の外表面に電子線、放射線、プラズマなどを照射することができる。この方法は、材質に関して、無機材料又は有機材料からなる基体のいずれにも適用可能であり、形状に関しても、粒子状、板状又は発泡多孔質状のいずれにも適用可能である。
【0047】
電子線又は放射線(例えばγ線)は、例えば、不活性ガス(例えば、窒素)雰囲気下で総線量が20〜300kGyになるように2〜5時間にわたって照射し得る。
プラズマは、例えば、酸素又は窒素雰囲気下にて1.25×1023〜1.87×1024eV/kg基体のエネルギーで5〜15分間にわたって照射し得る。
【0048】
活性種はまた、基体を、予め、熱開裂性又は光開裂性の重合反応開始剤が内在するように作製しておき(上記「基体の作製」の項を参照)、該開始剤を熱又は光開裂させて生じさせることもできる。
【0049】
表面グラフト重合は、有機溶剤中にエポキシ基含有モノマー(所望により、親水性官能基及び/又はその他のコモノマー)(いずれも重合禁止剤を除去済みのもの)を希釈したモノマー溶液を、室温又は加熱下に、外表面に活性種を生じさせた基体と接触させることによって行うことができる。
エポキシ基含有モノマー、親水性官能基含有コモノマー及びその他のコモノマーには、グラフト鎖について前述したものを使用できる。親水性官能基含有コモノマー及びその他のコモノマーは、選択したエポキシ基含有モノマーと同様の条件で重合反応し得るものであれば、特に限定されず、所望により適切なものを選択すればよい。
【0050】
(コ)モノマーを希釈する有機溶媒としては、使用する(コ)モノマーを溶解し得るものであれば特に限定されない。基体が粒子状である場合、該粒子を良好に分散し得るものを適宜選択することが望ましい。(コ)モノマーの溶解性、基体の分散性及び重合反応温度の観点から、トルエン、キシレン、ジメチルスルホキシド、ジメチルホルムアミドなどが好ましい。
【0051】
具体的には、表面グラフト重合は、例えば、トルエン中にメタクリル酸グリシジル(及びメタクリル酸又はメタクリル酸2-ヒドロキシメチル)を含むモノマー溶液を、予め窒素ガスでバブリングすることにより酸素を追い出した後に、放射線照射などにより表面にラジカルを発生させた基体と60℃にて8時間反応させて行うことができる。
反応終了後、室温まで放冷し、トルエン、メタノール及び蒸留水で洗浄して、エポキシ基(及び親水性官能基)を含むグラフト鎖を外表面に有する基体が得られる。
【0052】
表面グラフト重合はまた、例えば熱開裂性開始基を内在させた基体1〜10質量%、好ましくは2重量%〜4重量%を、10重量%のメタクリル酸グリシジル(及びメタクリル酸又はメタクリル酸2-ヒドロキシメチル)のモノマーを希釈したトルエンなどの有機溶媒中に添加し、90℃〜110℃にて2〜12時間、好ましくは4〜8時間反応をさせて行うことができる。反応後、メタノール及び蒸留水で洗浄して、エポキシ基(及び親水性官能基)を含むグラフト鎖を外表面に有する基体が得られる。
【0053】
(化学反応法)
化学反応法においては、簡潔には、基体に内在する熱開裂性又は光開裂性の反応性官能基(上記「基体の作製」の項を参照)を熱又は光開裂させた後、エポキシ基を含むか又は含まないグラフト鎖を反応させて、基体の外表面にグラフト鎖をグラフトする。エポキシ基を含まないグラフト鎖を用いた場合には、その後グラフト鎖にエポキシ基を付加する。
【0054】
エポキシ基を含むグラフト鎖を使用する場合、グラフト鎖は、例えば、エポキシ基含有モノマー(必要に応じて、親水性官能基含有モノマー及び/又はその他のモノマーと)を重合反応させて作製する。
エポキシ基含有モノマー、親水性官能基含有コモノマー及びその他のコモノマーには、グラフト鎖に関して前述したものを使用できる。親水性官能基含有コモノマー及びその他のコモノマーは、選択したエポキシ基含有モノマーと同様の条件で重合反応し得るものであれば、特に限定されず、所望により適切なものを選択すればよい。
【0055】
エポキシ基を含まないグラフト鎖を使用する場合、グラフト鎖は、エポキシ基含有化合物の付加に使用できる基(例えば、エポキシ基含有化合物と所定の条件下で反応性を有する基)を内在するように作製する。
エポキシ基含有化合物の付加に使用できる基は、例えば、カルボキシル基、イソシアナト基、アミノ基、ヒドロキシ基、チオール基である。
【0056】
アミノ基を内在するグラフト鎖としては、例えば、ポリアリルアミン、ポリビニルアミン、ポリエチレンイミン及びこれらの塩(例えば、酢酸塩)が挙げられる。
ヒドロキシ基を内在するグラフト鎖としては、例えば、ポリビニルアルコール、エチレンビニルアルコールが挙げられる。
チオール基を内在するグラフト鎖としては、例えば、チオール含有ポリビニルアルコールが挙げられる。
【0057】
一方、エポキシ基含有化合物は、例えば、グラフト鎖について前述した脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテル、エピハロヒドリンである。
脂肪族ポリオールポリグリシジルエーテルの好ましい例には、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルが挙げられる。
エピハロヒドリンには、エピクロロヒドリンが挙げられる。
【0058】
上記のようなエポキシ基含有化合物は、水若しくは極性溶媒(例えば、ジオキサン、テトラヒドロフラン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシドなど)又はこれらの混合溶媒中、例えばアルカリ条件下で、グラフト鎖のアミノ基やヒドロキシ基と反応して容易にグラフト鎖に導入される。
【0059】
なお、グラフト鎖は、末端又は側鎖に、熱又は光開裂させた反応性官能基と反応し得る基を有する。このような基には、エポキシ基、アミド基、アミノ基、カルボキシ基、イソシアナト基、チオール基が挙げられる。
【0060】
具体的方法としては、例えば、1,4-ジオキサンと水の等重量混合液中に、反応性官能基としてエポキシ基を内在させた基体1〜5質量%とポリアリルアミン鎖(又はポリアリルアミン塩鎖(例えば酢酸塩))(例えば、分子量15,000) 0.1〜0.3質量%とを分散させ、200rpmで攪拌しながら20℃にて24時間反応させる。基体のエポキシ基にポリアリルアミン鎖が求核的に反応して、基体の外表面にポリアリルアミン鎖がグラフトされる。
【0061】
次いで、1,4-ジオキサン中に、ポリアリルアミン鎖がグラフトされた基体1〜10質量%と、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテル 0.2〜1質量%と、水酸化ナトリウム水溶液2質量%とを入れ、200rpmで撹拌しながら20℃にて24時間、次いで70℃にて3時間反応させることにより、ポリアリルアミン鎖にアミノ基を介してエポキシ基(を含む基)を付加する。付加後、水及び1,4-ジオキサンで洗浄して、エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する基体が得られる。
【0062】
(造血支持細胞)
エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する基体(以下、「本発明に係る培養担体」とも呼び、文脈から明らかな場合には単に「培養担体」とも呼ぶ)に付着させる造血支持細胞は、骨髄、脂肪組織、血管、臍帯のような組織に含まれる細胞のうち付着性を有する細胞(間葉系付着性細胞)及びその株化細胞である。造血支持細胞は、例えば、骨髄ストローマ細胞、骨髄線維芽細胞、血管内皮細胞、脂肪細胞、軟骨細胞、骨芽細胞及びこれらの前駆細胞並びにこれら細胞由来の株化細胞から選択できる。
【0063】
造血支持細胞は、好ましくは哺乳動物(ヒト、サル、ヒヒ、ブタ、ウシ、ヒツジ、ウサギ、ラット、マウスなど。特に、ヒト)由来の細胞であり得、より好ましくは共培養する造血幹細胞が由来する種と同種の動物由来の細胞であり、より好ましくは共培養する造血幹細胞が由来する個体由来の細胞である。
造血支持細胞は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0064】
造血支持細胞は、動物(特にヒト)又はその組織から公知の方法によって得ることができる。例えば、骨髄ストローマ細胞は、骨髄穿刺などにより骨髄から採取した細胞群を適切な培養培地中で培養し、非付着性細胞を除去することによって得ることができる。
株化細胞としては、ヒト子宮頸部由来上皮細胞株Hela、ヒト由来軟骨細胞株Ch-8、マウス頭蓋骨由来骨芽細胞株MC 3T3-E1、マウス骨髄ストローマ細胞株MS-5、ST2、HESS-5、M2-10B4などが挙げられる。
【0065】
(培養担体への造血支持細胞の付着)
造血支持細胞を本発明に係る培養担体に付着させる方法は、特に限定されないが、例えば以下の方法により行うことができる。培養担体を含む生理学的溶液と、生理学的溶液中に造血支持細胞を懸濁させた細胞懸濁液とを細胞接着性の低い容器(例えば、疎水性外表面を有する組織培養ディッシュ)に入れて静置する。
生理学的溶液としては、生理食塩水、ハンクス平衡塩溶液、ダルベッコリン酸緩衝生理食塩水、下記「造血幹細胞と造血支持細胞との共培養」の項で説明するような液体培養培地などが挙げられる。
【0066】
付着の際の温度は、細胞に負担のない温度であれば特に限定されないが、例えば40℃以下であり、好ましくは34〜37℃である。造血支持細胞が培養担体に付着して固定化されるに要する時間は、細胞にもよるが概して0.5〜10時間ほどであり、通常は1〜3時間ほどである。
【0067】
培養担体への造血支持細胞の付着に際して、細胞濃度は特に限定されない。付着しなかった細胞は、遠心分離又はピペッティングなどにより除去しても差し支えない。造血支持細胞と培養担体との混合割合は、付着(固定)効率の観点から、例えば培養担体0.2〜10gに対して2×104〜8×106個/mlの細胞懸濁液10ml、好ましくは培養担体1〜3gに対して5×105〜2×106個/mlの細胞懸濁液5mlである。
【0068】
造血幹細胞との共培養の前に、造血支持細胞が付着した培養担体を細胞培養培地に懸濁させて、培養担体上で造血支持細胞を培養してもよい。
培養培地及びその添加剤には、下記「造血幹細胞と造血支持細胞との共培養」の項で説明するような培地と同様な液体培養培地を使用できる。
【0069】
培養は、上記のような細胞接着性の低い容器中で行う。培養温度は、20℃〜40℃、好ましくは25℃〜40℃、より好ましくは30℃〜40℃、より好ましくは35℃〜40℃より好ましくは35℃〜38℃である。細胞培養培地のpH値は、一般に7〜9、好ましくは7.5〜8.5である。一般には、培養は、例えば炭酸ガス培養器内で、例えば約3%〜10%のCO2雰囲気下で行なう。
【0070】
培養期間は、特に限定されないが、例えば造血細胞が培養担体の略全面を覆うまでであり、例えば120時間であり得る。
具体例としては、5%の炭酸ガス雰囲気下で、10%のウシ胎仔血清を含むD-MEM中で37℃にて培養を行う。
【0071】
(造血幹細胞)
「造血幹細胞」とは、自己再生能及び全ての系統の血液細胞への分化能(全能性)を有する細胞(未分化細胞)をいう。造血幹細胞は、特徴的には、CD34陽性の非付着性細胞である。本発明において使用し得る造血幹細胞は、由来する組織について限定されないが、例えば骨髄血、臍帯血又は末梢血に由来し得る。
「造血幹細胞を含有する細胞集団」は、少なくとも造血幹細胞を含む限り、他の細胞を含んでいてもよいが、好ましくは造血幹細胞と造血前駆細胞や(成熟)血液細胞などの非付着性細胞とからなり、より好ましくは造血幹細胞及び造血前駆細胞からなる細胞集団である。
【0072】
「造血前駆細胞」とは、1つ又は限定された複数(2〜3)の系統の血液細胞への分化能を有する(単能性又は寡能性(非全能性))細胞をいい、赤血球系へ方向付けられた赤芽球バースト形成細胞(BFC-E又はBFU-E)及び赤芽球コロニー形成細胞(CFC-E又はCFU-E)、白血球系へ方向付けられた顆粒球マクロファージコロニー形成細胞(CFC-GM又はCFU-GM)、好酸球コロニー形成細胞(CFC-E0又はCFU-E0)及び好塩基球コロニー形成細胞(CFC-Baso又はCFU-Baso)、血小板系へ方向付けられた巨核球コロニー形成細胞(CFC-Meg又はCFU-Meg)、限定された複数系統の血液細胞に分化し得る混合コロニー形成細胞(CFC-Mix又はCFU-Mix)などが含まれる。
【0073】
造血幹細胞を含有する細胞集団は、例えば、造血幹細胞を含有することが知られている組織(例えば、骨髄血、臍帯血又は末梢血)からCD34陽性細胞集団として単離し得る。CD34陽性細胞集団は、公知の方法、例えば抗CD34抗体を用いるアフィニティーカラムによる精製、フローサイトメーター(例えば、FACS)による分取や磁気(例えば磁性ビーズ)を利用する分離などによって容易に得ることができる。
【0074】
造血幹細胞又は造血幹細胞を含有する細胞集団は、由来する動物について限定されないが、好ましくは哺乳動物(ヒト、ネコ、イヌなど。特に、ヒト)由来の細胞又は細胞集団であり、より好ましくは共培養する造血支持細胞が由来する種と同種の動物由来の細胞又は細胞集団であり、より好ましくは共培養する造血支持細胞が由来する個体由来の細胞又は細胞集団である。
【0075】
(造血幹細胞と造血支持細胞との共培養)
培養培地には、任意の液体培養培地、好ましくは哺乳動物細胞用培地を使用できる。細胞培養培地としては、例えば、イーグル培地のような最小必須培地(MEM)、ダルベッコ改変イーグル培地(D-MEM)、α-MEM、ハムF-12及びF-10培地、D-MEM/F-12培地、ウィリアムE培地、RPMI培地(例えばRPMI-1640)、MCDB培地、199培地、199/F-12培地、フィッシャー培地、イスコフ改変ダルベッコ培地(I-MDM)、マッコイ5A及び7A培地、Methocult培地(メチルセルロース培地)が挙げられる。
【0076】
これらの培地は必要に応じて適切に改変してもよい。例えば、ビタミン(例えば、アスコルビン酸、トコフェロール)、アミノ酸(例えば、グルタミン、アルギニン)、血清、抗生物質又は抗真菌剤(例えば、ペニシリン、ストレプトマイシン、アンホテリシン、ゲンタマイシン)、種々の成長因子/増殖因子(例えば、インスリン)、グルコース、トランスフェリン、セレン酸(例えば亜セレン酸ナトリウム)などの添加剤を培地に添加することができる。
生物由来の添加剤(例えば、血清)は、造血幹細胞及び/又は造血支持細胞と同種又は同一個体に由来する血清であることが好ましいが、他の種の動物由来(例えば、ウシ胎仔血清、ウシ血清、ウマ血清)であってもよい。
【0077】
共培養は、付着性/非付着性を問わず、任意の培養容器(例えば、ディッシュ、ウェル、シャーレ、ボトル、フラスコなど)中で行う。
培養担体が粒子である場合、該粒子は培養容器中で三次元集積体を形成していることが好ましい。ここで、「三次元集積体」とは、形状を問わず、複数の粒子が三次元的に集積して構成される構造体をいう。
【0078】
培養温度は、20℃〜40℃、好ましくは25℃〜40℃、より好ましくは30℃〜40℃、より好ましくは35℃〜40℃、より好ましくは35℃〜38℃である。細胞培養培地のpH値は、一般に7〜9、好ましくは7.5〜8.5である。一般には、培養は、例えば炭酸ガス培養器内で、例えば約3%〜10%のCO2雰囲気下で行なう。
【0079】
共培養の期間は、特に限定されないが、例えば1週間以上、2週間以上、3週間以上、4週間以上、5週間以上、6週間以上、7週間以上、8週間以上であり、具体的には、例えば、1週間〜12週間、1週間〜10週間、1週間〜8週間、1週間〜7週間、1週間〜6週間、1週間〜5週間、1週間〜4週間、1週間〜3週間、1週間〜2週間、2週間〜12週間、2週間〜10週間、2週間〜8週間、2週間〜7週間、2週間〜6週間、2週間〜5週間、2週間〜4週間、2週間〜3週間、3週間〜12週間、3週間〜10週間、3週間〜8週間、3週間〜7週間、3週間〜6週間、3週間〜5週間、3週間〜4週間、4週間〜12週間、4週間〜10週間、4週間〜8週間、4週間〜7週間、4週間〜6週間、4週間〜5週間であり得る。培養期間中、培養培地は、定期的に(例えば、1週間ごとに)交換することが好ましい。
【0080】
共培養開始時の造血幹細胞と造血支持細胞の割合は、特に限定されないが、例えば10:1〜1:10であり、好ましくは2:1〜1:10であり、より好ましくは2:1〜1:2である。
【0081】
(造血幹細胞、造血前駆細胞、血液細胞の回収)
共培養物から、公知の方法を用いて、造血幹細胞及び/又は造血前駆細胞を回収することができる。回収法には、密度勾配遠心法(例えば、フィコール法)、血液凝集法、パンニング法、(例えば、アフィニティーカラムやFACSのようなセルソーティングにおいて)適切な表面マーカー(例えば、CD34、lin)又はその組合せについてポジティブ及び/又はネガティブ選択を行う方法などが挙げられる。
【実施例】
【0082】
以下に、実施例等を用いて本発明を具体的に説明するが、下記の実施例等は本発明のより詳細な理解に資するために提供されるのであって、本発明の範囲を限定することを意図して提供されるものではない。
【0083】
1.培養担体の製造
培養担体の製造には、1000ml容のガラス製セパラブルフラスコに三口セパラブルフラスコカバーを取り付けたものを反応容器として使用した。反応液の撹拌は、テフロン(登録商標)製攪拌翼が先端に取り付けられた攪拌棒を攪拌モーター(スリーワンモーター、新東科学製)により回転させて行った。反応容器は、温度コントローラー(NTT-1000、東京理化)により温度制御された恒温水槽内に設置した。反応の間のモノマーや溶媒の蒸発を防ぐために、長さ30cmのジムロート式又はアリン式冷却管をフラスコに取り付け、16℃の冷却水を流した。
【0084】
1.1.培養担体1〜15の製造
(基体の製造)
反応液が入っていない上記三口フラスコを恒温水槽に設置し、予め攪拌翼を300rpmで回転させた。
反応容器に、メタクリル酸メチル(MMA;和光純薬工業)を38g、トリアクリル酸ペンタエリスリトール(PETA;Sigma Aldrich、米国)を38g、2,2'-アゾビス[N-(2-プロペニル)-2-メチルプロピオンアミド](APMPA;和光純薬工業)を0.75〜11.4g(下記表1を参照)、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN;和光純薬工業)を2g、ポリビニルピロリドン(PVP;K-90、ナカライテスク)を5.64g、蒸留水を590g入れ、70℃にて2時間、次いで80℃にて2時間反応させた。反応液が室温になるまで放置して、アゾ基を含む粒子状の基体(樹脂粒子)を70g得た。
【0085】
(表面グラフト重合)
反応液が入っていない上記三口フラスコを恒温水槽に設置し、予め攪拌翼を150rpmで回転させた。
反応容器に、樹脂粒子を10g、メタクリル酸グリシジル(GMA;和光純薬工業)を0〜25g(表1を参照)、コモノマーを0〜25g(表1を参照)、トルエン(ナカライテスク)を250g入れ、100℃にて8時間反応させた。ただし、培養担体11及び12の製造時には、反応時間をそれぞれ4時間及び2時間とした。
【0086】
コモノマーとして、培養担体1〜12を製造する際にはメタクリル酸2-ヒドロキシエチル(HMA)を用い、培養担体13〜15を製造する際にはメタクリル酸(MA)を用いた。
反応終了後、反応液が室温になるまで放置した後、メタノールと蒸留水及び生理食塩水にて洗浄して、グラフト鎖を外表面に有する樹脂粒子(培養担体1〜15)を20〜100gを得た(表1)。
【0087】
なお、得られた培養担体1は、グラフト鎖にエポキシ基を含むが親水性官能基は含まない。
また、得られた培養担体2〜6、8〜12は、グラフト鎖にエポキシ基及びヒドロキシ基を含む。
また、培養担体13〜15は、グラフト鎖にエポキシ基及びカルボキシル基を含む。
また、得られた培養担体7は、グラフト鎖にエポキシ基を含まない。
【0088】
更に、培養担体9、10、14、15については、樹脂粒子中に含まれるアゾ基の量が異なるため、外表面に有するグラフト鎖の本数が他の培養担体とは異なる。
また、培養担体11及び12については、表面グラフト重合の反応時間が短いため、グラフト鎖の鎖長が他の培養担体と比べて短い。
【0089】
1.2.培養担体16の製造
上記1000ml容三口フラスコに、GMAを38g、PETAを38g、AIBNを2g、PVPを5.64g、水を590g入れ、300rpmで攪拌させながら70℃にて3時間、次いで80℃にて2時間反応させた。反応液を室温まで降温させ、蒸留水とメタノールで軽く洗浄して、エポキシ基を有する基体(樹脂粒子)を得た。
この樹脂粒子をこのまま(グラフト鎖を付与せずに)培養担体16とした。
【0090】
1.3.培養担体17の製造
窒素雰囲気下で、ポリスチレン製ディシュに入れたポリプロピレン(PP)板(1cm×5cm)にガンマ線を150kGy(25kGy/h×6hr)照射してPP外表面にラジカルを発生させた。次に、上記三口フラスコに、PP板(0.4g)、GMAを20g、MAを5g、ドデシル硫酸ナトリウム(和光純薬工業)を8g、蒸留水を400g入れ、窒素ガスを用いてバブリングしながら60℃にて8時間反応させた。反応後、反応液が室温になるまで放置した後、メタノールと蒸留水及び生理食塩水にて洗浄して、エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有するPP板(培養担体17)を得た。
【0091】
1.4.培養担体18及び19の製造
(基体の製造)
上記1000ml容三口フラスコに、GMAを20g、PETAを50g、PVPを5g、水を500g入れ、300rpmで攪拌させながら70℃にて3時間、次いで80℃にて2時間反応させた。反応液を室温にまで降温させ、蒸留水とメタノールで軽く洗浄して、エポキシ基が内在する基体(樹脂粒子)を得た。
なお、得られた樹脂粒子をこのままで培養担体18とした。
【0092】
次いで、15gの上記樹脂粒子及び1gのポリアリルアミン(PAA)酢酸塩(分子量15,000)を、1,4-ジオキサンと水の等重量混合液に分散させ、200rpmで攪拌させながら20℃にて24時間反応させた。蒸留水と1,4-ジオキサンで軽く洗浄して、PAAがグラフトされた樹脂粒子を得た。
【0093】
PAAがグラフトされた樹脂粒子を6g、1,4-ブタンジオールジグリシジルエーテルを0.84g、0.5Nの水酸化ナトリウム水溶液を2g、100gの1,4-ジオキサン中に入れ、200rpmで撹拌しながら20℃にて24時間、次いで70℃にて3時間反応させた。粒子を水及び1,4-ジオキサンで洗浄することにより、エポキシ基を含むグラフト鎖を外表面に有する樹脂粒子(培養担体19)を得た。
【0094】
製造した培養担体を表1にまとめる。
【表1】
【0095】
培養担体1〜7は、密度が約1.19×103kg・m-3で、粒径分布があり、おおよそ200〜400μmの粒径を有していた。また、粒径及びその分布はレーザー回折散乱法にて測定した。
測定データを表2に示す。
【表2】
【0096】
また、培養担体1〜7について、グラフト鎖中のエポキシ基量を塩酸ジオキサン法により定量した。
簡潔には、共栓付き100ml容三角フラスコに、乾燥重量で0.4mgの培養担体と25mlの塩酸-ジオキサン溶液(濃塩酸1.6mlに対して1,4-ジオキサン100ml)を入れ、恒温振盪水槽を用いて振幅2cm、125回/分の速さで振盪させながら、60℃にて1時間反応させた。反応後、反応液を室温まで降温させ、25ml中性エタノール溶液(エタノール100ml中クレゾールレッド指示薬1ml)を加えた。0.05Nメタノール性水酸化ナトリウム溶液により残存する塩酸の定量を行った。ブランク実験を行い、補正した塩酸消費量から培養担体のグラフト鎖中のエポキシ基量を算出した。
【0097】
結果を表3に示す。
【表3】
表より、表面グラフト重合時のモノマー組成に応じて培養担体のグラフト鎖中のエポキシ基量が変化していることが解る。
【0098】
2.培養担体への造血支持細胞の付着に対するエポキシ基を含むグラフト鎖の効果(1)
2.1.
培養担体3[p(MMA-AP3)-g-p(HMA/GMA)3]2.0gを含む生理食塩水5mlと、生理食塩水中に造血支持細胞としてヒト上皮細胞由来細胞株(Hela細胞)、マウス骨髄由来線維芽細胞株(MS-5細胞)、マウス頭蓋骨由来骨芽細胞株(MC 3T3-E1細胞)又はヒト由来軟骨細胞(Ch-8細胞)2.0×104個を懸濁させた細胞懸濁液を組織培養ディッシュに入れて37℃にて120時間静置して、培養担体3に各造血支持細胞を付着させた。
【0099】
次いで、各造血支持細胞が付着した培養担体を、10%のウシ胎仔血清を含むD-MEM中、5%の炭酸ガス雰囲気下で37℃にて培養した。
5日間の培養後の培養担体と造血支持細胞の様子を図1に示す。
図より、培養担体3(本発明に係る培養担体)には、用いた何れの造血支持細胞も良好に付着(固定化)し、担体間隙に細胞からなるバイオフィルムが形成されることが明らかとなった。細胞数が添加量から増加しており、本発明に係る培養担体上で造血支持細胞が増殖すると理解できた。
【0100】
Ch-8細胞(軟骨細胞)については、培養14日目のサンプルを採取し、ヘマトキシリン-エオシン(H-E)染色を行った。担体間の空隙にエオシン染色された細胞質とヘマトキシリン染色された核が均等に分布していることから、粒子間隙にバイオフィルムが形成されていることが明らかとなった。このことから、軟骨細胞が培養担体上に三次元的に付着し、増殖していると理解された。
【0101】
2.2.
培養担体16[p(PETA-GMA1)]を含む生理食塩水2.0gを含む生理食塩水5mlと、生理食塩水中にMS-5細胞を懸濁させた細胞懸濁液組織培養ディッシュに入れて37℃にて120時間静置して、培養担体16に造血支持細胞を付着させた。
次いで、造血支持細胞が付着した培養担体を、10%のウシ胎仔血清を含むD-MEM中、5%の炭酸ガス雰囲気下で37℃にて培養した。
【0102】
5日間の培養後の培養担体とMS-5細胞の様子を図2に示す。
図より、樹脂粒子自体にエポキシ基を含むがエポキシ基を含むグラフト鎖を有さない培養担体16には、MS-5細胞の付着(固定化)・増殖が全く見られなかった。
【0103】
2.3.
細胞を含む培地懸濁液と培養担体とを接触後、その時間を0分としてからの培地中の細胞数をビルゲルチュルク式血球計算盤により測定することにより、培養担体1〜7[p(MMA-AP3)-g-p(HMA/GMA)1〜7]へのMS-5細胞の付着(固定化)速度を測定した。
結果を図3に示す。
【0104】
図より、培養担体1〜4には細胞が速やかに付着することから、培養担体に導入したグラフト鎖に含まれるエポキシ基及びヒドロキシ基が細胞の付着に有効であるのではないかと考えられるが、グラフト鎖にヒドロキシ基を含みエポキシ基を含まない培養担体7へは細胞付着が全く確認できなかった一方で、グラフト鎖にエポキシ基を含みヒドロキシ基を含まない培養担体1へは細胞付着が確認できたことから、グラフト鎖に存在するエポキシ基が造血支持細胞の付着に有効であるとことが理解できる。
【0105】
ただし、培養担体5及び6についての結果より、グラフト鎖がエポキシ基を含んでいても0.5×10-3mol/g-基体以上でないと、測定時間内(90分以内)に細胞が付着しないことも明らかとなった。
また、培養担体1〜4についての結果より、グラフト鎖がエポキシ基に加えてヒドロキシ基を含むことにより、造血支持細胞の付着性(付着速度)が更に向上することも理解できる。
【0106】
3.造血支持細胞の付着に対するグラフト鎖の数及び密度の影響
培養担体8〜10[p(MMA-AP1〜3)-g-p(HMA/GMA)3]に存在するグラフト鎖の本数は、APMPAの添加量と開始剤効率からそれぞれ2.14×1018、4.03×1018、8.07×1018本/g-基体であると推定された。
また、グラフト鎖中のエポキシ基量を塩酸ジオキサン法により定量したところ、それぞれ0.343、0.524及び1.63×10-3mol/g-基体となった。
【0107】
これら培養担体へのMS-5細胞の付着速度を上記と同様にして測定した。結果を図4に示す。
図より、グラフト鎖の本数よりもむしろ絶対的なエポキシ基量が細胞の付着に影響を及ぼしていることが解る。
【0108】
4.造血支持細胞の付着に対するグラフト鎖の鎖長の影響
培養担体3と培養担体11及び12[p(MMA-AP3)-g-p(HMA/GMA)3/4及びp(MMA-AP3)-g-p(HMA/GMA)3/2]のエポキシ基量を塩酸ジオキサン法により定量することによって、グラフト鎖の平均重合度はそれぞれ411、202、100となった。
これら培養担体へのMS-5細胞の付着速度を上記と同様にして測定した。結果を図5に示す。
【0109】
図より、培養担体3への付着速度が最も速く、培養担体12には細胞付着は測定時間内に観察できなかった。培養担体3への付着速度は、培養担体11への付着速度より速い。これらの結果は、グラフト鎖が長いと細胞が付着可能な部位が多くなることを反映していると考えられる。
【0110】
5.造血支持細胞の付着に対するグラフト鎖の親水性官能基の影響
培養担体3及び培養担体13[p(MMA-AP3)-g-p(MA/GMA)3]のエポキシ基量を塩酸ジオキサン法により定量したところ1.03及び2.04×10-3mol/gとなった。
培養担体3と培養担体13へのMS-5細胞の付着速度を上記と同様にして測定した。結果を図6に示す。
【0111】
図より、培養担体3への付着速度と培養担体13への付着速度は大きく変化しなかった。これらの結果は、グラフト鎖中の親水性官能基が細胞の付着速度に大きく影響しないと考えられる。
【0112】
6.造血支持細胞の付着に対する粒径の影響
培養担体3を篩にかけ、粒径に従って、5−58μm画分、58−108μm画分、108−190μm画分、210−420μm画分、及び590−840μm画分に分けた。
次に、各画分についてMS-5細胞の付着速度を上記と同様にして測定した。結果を図7に示す。
【0113】
図より、粒径5〜58μmの画分では測定時間内に細胞付着は始まらず、粒径58〜108μmの画分及び粒径108〜190μmの画分の細胞付着速度は、篩い分けをしていない培養担体3に比べて遅かった。しかしながら、粒径590〜840μmの画分の細胞付着速度は、培養担体3に比べて速くなった。
【0114】
粒径が細胞の付着に影響する要因として、粒子が持つ曲率が考えられる。細胞は担体外表面に沿って付着するため、曲率が大きくなると(すなわち粒径が小さくなると)、平面の培養担体に付着する場合と比べて、細胞が担体に付着するのに時間がかかり、ある曲率以上の粒子には細胞は付着できないのではないかと推測される。
また、粒子は球形であり、比重も1.19×103kg・m-3と培地の密度と大きく変わらず、僅かな衝撃でも培地中で移動してしまう。そのため、粒子の移動が細胞に応力を与え、細胞にストレスがかかると推測される。
以上の結果から考えて、粒子径は細胞の付着に影響を与えることが推定される。
【0115】
7.培養担体に付着した細胞の増殖に対するグラフト鎖の密度の影響
表4に示す培養担体にMS-5を付着(固定化)させ、10%のウシ胎仔血清を含むD-MEM中、5%の炭酸ガス雰囲気下で37℃にて培養した。5日間の培養後、培養担体の単位表面積当たりに付着(固定化)している細胞数を培養担体から剥離した細胞をビルゲルチュルク式血球計算盤を用いて計数した。結果を表4に示す。
【表4】
【0116】
表より、グラフト鎖の密度が低い(すなわちエポキシ基の導入量が少ない)と付着(固定化)速度が遅くなり、培養担体上での細胞増殖が制限されることが解る。
培養担体上での細胞の増殖に限って言えば、担体の粒径が大きな影響を及ぼしていることが解る。
【0117】
8.グラフト鎖に含まれるヒドロキシ基のカルボキシル基での置換の影響
培養担体13〜15[p(MMA-AP3〜5)-g-p(MA/GMA)3]へのMS-5細胞の付着速度を上記と同様にして測定した。また、これら培養担体について、グラフト鎖中のエポキシ基量を塩酸ジオキサン法により定量した。結果を表5に示す。
【表5】
【0118】
表より、コモノマーをHMAに代えてMAを用いることにより、グラフト鎖に含まれるヒドロキシ基をカルボキシル基に置換しても、造血支持細胞の付着に関して略同等の効果が得られることが明らかとなった。
また、APMPAをHMAの場合よりも多く用いてアゾ基を含む樹脂粒子を作製すると、HMAの場合よりも多くのエポキシ基を含むグラフト鎖を作製することができたものの、培養5日目の細胞数はほとんど変わらなかった。
【0119】
9.培養担体への造血支持細胞の付着に対するエポキシ基を含むグラフト鎖の効果(2)
培養担体17[PP-g-p(MA/GMA)]又は未処理PP板と、生理食塩水中にHela細胞を懸濁させた細胞懸濁液(1〜10×104個)を疎水性外表面を有する組織培養ディッシュに入れて37℃にて120時間静置して、培養担体又は未処理PP板に造血支持細胞を付着させた。
次いで、造血支持細胞が付着した培養担体又は未処理PP板を、10%のウシ胎仔血清を含むD-MEM中、5%の炭酸ガス雰囲気下で37℃にて培養した。
【0120】
3日間の培養後の培養担体とHela細胞の様子を図8に示す。
図より、未処理PP板では、Hela細胞が付着(固定化)して伸長している様子は見えないのに対して、培養担体17(本発明に係る培養担体)にはHela細胞が付着(固定化)し伸長していることが明らかとなった。
【0121】
10.培養担体への造血支持細胞の付着に対するエポキシ基を含むグラフト鎖の効果(3)
培養担体18[p(PETA-GMA0)]又は培養担体19[p(PETA-GMA0)-g-p(PAA-epoxy)]0.24gを含む生理食塩水5mlと、生理食塩水中にMS-5細胞を懸濁させた細胞懸濁液(1〜10×104個)を疎水性外表面を有する組織培養ディッシュに入れて37℃にて120時間静置して、上記両培養担体に造血支持細胞を付着させた。
次いで、造血支持細胞が付着した両培養担体を、10%のウシ胎仔血清を含むD-MEM中、5%の炭酸ガス雰囲気下で37℃にて培養した。
【0122】
5日間の培養後の培養担体とMS-5細胞の様子を図9に示す。
図より、培養担体18には、MS-5細胞の付着(固定化)・増殖が全く見られないのに対して、本発明に係る培養担体10にはそれを取り囲むようにMS-5細胞が付着(固定化)・増殖し、培養担体間隙にもバイオフィルムが形成されていることが解る。
【0123】
11.培養担体に付着させた造血支持細胞と造血幹細胞との共培養(実施例)
培養担体3[p(MMA-AP3)-g-p(HMA/GMA)3]及び培養担体19[p(PETA-GMA0)-g-p(PAA-epoxy)]にMS-5細胞を付着(固定化)させた。
先ず、50ml容のポリプロピレンチューブ内で、500mgの培養担体3又は19を5mlのD-MEM中に懸濁させた。
【0124】
100mmの組織培養用ディッシュにおいて付着培養したMS-5細胞を、トリプシン-EDTA(0.5wt%トリプシン、5.3mM EDTA・4Na)(×10)(インビトロジェン、米国)を用いてディッシュから剥離させ、生理食塩水で洗浄後、D-MEM中に細胞数5×105個/mlの濃度になるように懸濁させた。
この細胞懸濁液5mlを、予め培養担体を懸濁しておいた50ml容のポリプロピレンチューブに添加した。そのまま、37℃にて24時間放置した後、培養担体と細胞の混合懸濁液を60mmの組織培養用ディシュに移して、更に培養を5日間続けた。
【0125】
抗CD34抗体が結合したフェライト粒子からなるイムノビーズ(DYNAL CD34 Progenitor Cell Selection System、DYNAL BIOTECH、ノルウェー)を用いて、ヒト正常人由来の臍帯血を処理し、CD34陽性の造血幹細胞を得た。採取後、10%ウシ胎仔血清を含むD-MEM中で細胞数5×103個/mlの細胞懸濁液4mlを、培養担体に付着したMS-5細胞を含む上記ディシュに添加した。7日ごとに培地交換を繰り返しながら、CO2インキュベータ内で37℃にて、造血幹細胞を培養担体に付着したMS-5細胞との三次元共培養に付した。
【0126】
培地を交換する際に、細胞の生死をトリパンブルー溶液により確認し、遊離した細胞は、血球計算板を用いて細胞濃度を調べるとともに、サイトスピン標本を作製し、メイ・グリュンワルド・ギムザ染色後に光学顕微鏡で観察し、血球の種類を同定した。
【0127】
(CFU-Mix、BFU-E、CFU-GMの同定方法)
培地交換時に培養用ディッシュより回収した細胞は、造血幹細胞コロニーアッセイ用メディウム(MethoCult H4034、Stemcell Technologies Inc.、カナダ)と共に30mm培養用ディッシュに播き、37℃インキュベーター内で14日間培養後、形成されたコロニーを倒立顕微鏡下に観察して、未熟造血細胞としてCFU-Mix、BFU-E、CFU-GMの同定を行った。
【0128】
(共培養コロニーから遊離する血球)
造血幹細胞は、培養開始後数日で培養担体に付着したMS-5細胞層に潜り込むようにしながら増殖及び分化し、造血巣を形成した(図10左)。H-E染色より、培養担体の周りに付着・増殖した約10〜20μmの比較的大きなMS-5細胞に、5〜10μmの小さな血球細胞が潜り込むようにしながら増殖及び分化している様子が解る(図10右)。
【0129】
次に、培地交換の際に造血巣から遊離してくる血球の数を経時的に調べた。結果を図11に示す。図中、「G-02beads」は培養担体3を示し、「M-02beads」は培養担体19を示す(図12、13及び15中も同様)。
図より、造血幹細胞を単独又は培養担体のみとの共存下で培養した場合(図中、「CD34 alone」及び「M-02beads+CD34」)、4〜6週間で造血巣から遊離してくる血球が観察されなくなった。これは、造血幹細胞が成熟血球に分化してしまい、全て死滅してしまった結果と考えられた。
【0130】
また、造血幹細胞を組織培養ディッシュに直接付着させたMS−5細胞との共存下で培養した場合、成熟血球の産生は約8週間で見られなくなった。これは、やはり造血幹細胞が成熟血球まで分化してしまい、8週後までには全て死滅してしまった結果と考えられた。
【0131】
一方、本発明に係る培養担体に付着させたMS-5細胞との共存下で造血幹細胞を培養した場合(図中、「M-02beads+MS-5+CD34」及び「G-02beads+MS-5+CD34」)、成熟血球の産生は、8週間以上維持されることが明らかになった。成熟血球の産生は、8週間の培養時点でさえ当初の7〜8割のレベルに維持された。播種した造血幹細胞が成熟血球に分化するだけでは、絶対的な細胞数の物質収支を説明できない。すなわち、造血幹細胞は、本発明に係る培養担体に付着させたMS-5細胞との共培養物中で、成熟血球の産生と併せて自己再生(自己増殖)を繰り返しているものと考えられる。
【0132】
本発明に係る培養担体(培養担体3に付着させたMS-5細胞との共存下で造血幹細胞を培養した場合(図中、「G-02beads+MS-5+CD34」)、培地交換時に回収された細胞中に存在する造血前駆細胞CFU-Mix、BFU-E及びCFU-GMコロニーの形成細胞数の変動を図12に示す。本発明に係る培養担体に付着させたMS-5細胞と共培養することにより、造血前駆細胞が長期間(12週間以上)維持されていることが確認できる。
【0133】
(培養液中の細胞染色)
次に、培地交換時に、培養液中に造血巣から遊離して回収された細胞をメイ・グリュンワルド・ギムザ染色し、その形態を観察した。染色写真を図13に示す。
図より、造血幹細胞が単独で培養された場合(図中、「CD34 alone」)、4週目に残存する細胞のほとんどが分化したマクロファージであったのに対し、造血幹細胞が本発明に係る培養担体に付着した骨髄ストローマ細胞と三次元共培養される場合(図中、「M-02beads」及び「G-02beads」)には、7週目でも培養物中に未分化細胞から分化細胞(成熟血液細胞)まで観察できた。すなわち、造血幹細胞の自己再生(自己増殖)及び血液細胞への分化が、骨髄と同様に、体外で人工的に再現された。
【0134】
(細胞染色)
培養中のMS-5細胞及び造血幹細胞の発育の様子を示す。
図14に、培養担体に付着し、増殖して三次元的に発育しているMS-5細胞のH-E染色写真、アルシアン・ブルー染色写真を示す。MS-5細胞は、培養担体間にネット状構造物を形成しながら発育している。
図15に、走査型電子顕微鏡による観察写真を示す。培養担体に付着して三次元的構造を形成しながら発育するMS-5細胞と、隙間に潜り込むようにしながら増殖している造血細胞が観察できる。
【0135】
上記の具体的な培養担体の製造例及び実施例は、本発明の理解を容易にするために例示として記載されたものであって、本発明は本明細書又は添付図面に記載された具体的な構成のみに限定されるものではない。本明細書に記載した具体的構成、手段、方法及び装置は、本発明の精神及び範囲を逸脱することなく、当該分野において公知の他の多くのものと置換可能である。
【産業上の利用可能性】
【0136】
本発明に係る培養担体に付着(固定化)した造血支持細胞と造血幹細胞との三次元的な共培養系は、骨髄移植に有用な造血幹細胞の増殖・分化のシステムや成分輸血等に有用な血球提供システム等を提供することができ、再生医療や創薬などの産業上の幅広い分野への利用が可能である。
図3
図4
図5
図6
図7
図11
図12
図1
図2
図8
図9
図10
図13
図14
図15