(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
p−フェニレンスルフィドを主単位とするポリフェニレンスルフィドを主として含む樹脂を成分Aとし、p−フェニレンスルフィド以外に少なくとも1種以上の共重合単位を含有する共重合ポリフェニレンスルフィドを主として含む樹脂を成分Bとし、成分Aおよび成分Bを主としてなる複合繊維であって、成分Bが繊維の表面の少なくとも一部を形成してなることを特徴とするポリフェニレンスルフィド複合繊維。
前記成分Bが、くり返し単位の70〜97モル%がp−フェニレンスルフィドからなり、3〜30モル%がm−フェニレンスルフィドからなる共重合ポリフェニレンスルフィドを含む、請求項1または2記載のポリフェニレンスルフィド複合繊維。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の複合繊維は、成分Aおよび成分Bを主としてなり、そのいずれもがPPSを主として含むことが重要である。そうすることにより、優れた耐熱性、難燃性および耐薬品性を得ることができる。
【0012】
また、本発明のPPS複合繊維は、p−フェニレンスルフィドを主単位とするPPSを主として含む樹脂を成分Aとしたとき、これと複合させる成分Bとして共重合PPSを主として含む樹脂を用い、成分Bが繊維の表面の少なくとも一部を形成してなることが重要である。そうすることによって、成分Bが接着成分として作用し、機械的強度に優れた不織布とすることができる。
【0013】
成分AのPPSにおけるp−フェニレンスルフィド単位の含有量としては、93モル%以上が好ましい。p−フェニレンスルフィド単位を93モル%以上、より好ましくは95モル%以上含有することで、曳糸性や機械的強度に優れた繊維とすることができる。
【0014】
成分AにおけるPPS樹脂の含有量としては、耐熱性、耐薬品性などの点から、85質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0015】
また、成分Aには、本発明の効果を損なわない範囲でPPS樹脂以外の熱可塑性樹脂をブレンドしてもよい。PPS樹脂以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトンなどを挙げることができる。
【0016】
また、成分Aには、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤、艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤または親水剤等を添加してもよい。
【0017】
また、成分Aは、ASTM D1238−70(測定温度315.5℃、測定荷重5kg荷重)に準じて測定するメルトフローレート(以下、MFRと略記することがある。)が100〜300g/10分であることが好ましい。MFRを100g/10分以上、より好ましくは140g/10分以上とすることで、適度な流動性をとり、溶融紡糸において口金の背面圧の上昇を抑え、牽引延伸する際の糸切れも抑えることができる。一方、MFRを300g/10分以下、より好ましくは225g/10分以下とすることで、重合度あるいは分子量を適度に高くとり、実用に供し得る機械的強度や耐熱性を得ることができる。
【0018】
本発明において、成分Bの共重合PPSとは、p−フェニレンスルフィドを主たる繰り返し単位として、当該単位以外に1種以上の共重合単位を共重合して構成されたものをいう。当該共重合PPS樹脂におけるp−フェニレンスルフィド単位の含有量は、全繰り返し単位に対して70〜97モル%であることが好ましい。p−フェニレンスルフィド単位の含有量を70モル%以上、より好ましくは80モル%以上、さらに好ましくは85モル%以上とすることで、耐熱性の低下を抑制することができる。一方、p−フェニレンスルフィド単位の含有量を97モル%以下、より好ましくは96モル%以下、さらに好ましくは95モル%以下とすることで、熱接着性に優れる複合繊維を得ることができる。
【0019】
共重合単位としては、下記の式(1)に示すm−フェニレンスルフィド単位や、その他には式(2)〜(5)に示すもの等を好ましく挙げることができる。
【0023】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO
2単位を示す。)
【0026】
(ここでRはアルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)。
【0027】
また、これらのようなp−フェニレンスルフィド以外の共重合単位が複数種存在していてもよい。なかでも、熱接着性と耐熱性とのバランスのとれた融点が得られやすく、かつ繊維の曳糸性に優れる点からm−フェニレンスルフィドが好ましい。
【0028】
共重合PPSにおける共重合量としては、5〜30モル%が好ましい。5モル%以上、より好ましくは7モル%以上、さらに好ましくは9モル%以上とすることにより、熱接着性に優れた複合繊維を得ることができる。一方、30モル%以下、より好ましくは25モル%以下、さらに好ましくは20モル%以下とすることにより、耐熱性の低下を抑制することができる。
【0029】
一方、例えば下記式に代表される3官能性フェニルスルフィドは、共重合PPSの1モル%以下に抑えることが繊維の曳糸性に優れる点から好ましい
【0031】
また共重合PPSにおける共重合の態様としては、ランダム共重合、ブロック共重合等を挙げることができる。なかでも、熱接着性と耐熱性とのバランスのとれた融点に制御しやすい点からランダム共重合が好ましい。
【0032】
成分Bにおける共重合PPSの含有量としては、耐熱性、耐薬品性などの点から、85質量%以上が好ましく、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上である。
【0033】
また、成分Bには、本発明の効果を損なわない範囲でPPS以外の熱可塑性樹脂をブレンドしてもよい。PPS以外の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエーテルイミド、ポリエーテルスルホン、ポリスルホン、ポリフェニレンエーテル、ポリエステル、ポリアリレート、ポリアミド、ポリアミドイミド、ポリカーボネート、ポリオレフィン、ポリエーテルエーテルケトンなどの各種熱可塑性樹脂を挙げることができる。
【0034】
また、成分Bには、本発明の効果を損なわない範囲で、結晶核剤、艶消し剤、顔料、防カビ剤、抗菌剤、難燃剤または親水剤等を添加してもよい。
【0035】
また、成分Bは、ASTM D1238−70(測定温度315.5℃、測定荷重5kg荷重)に準じて測定するMFRが100〜300g/10分であることが好ましい。MFRを100g/10分以上、より好ましくは120g/10分以上とすることで、溶融紡糸において口金の背面圧の上昇を抑え、牽引延伸する際の糸切れも抑えることができる。一方、MFRを300g/10分以下、より好ましくは225g/10分以下とすることで、適度な流動性をとり、安定的に複合形成することができる。
【0036】
本発明では成分Bを熱接着成分として用いるため、成分Bの融点は、成分Aの融点よりも低いことが好ましい。
【0037】
成分Bの融点としては200〜275℃が好ましい。熱接着成分の融点を200℃以上、より好ましくは230℃以上、さらに好ましくは240℃以上とすることにより、耐熱性の低下を抑制することができる。一方、熱接着成分の融点を275℃以下、より好ましくは270℃以下、さらに好ましくは265℃以下とすることにより、熱接着性に優れる複合繊維を得ることができる。成分Bの融点は、共重合成分のモル比によって適宜調製することができる。
【0038】
また成分Aの融点と成分Bの融点との融点差としては5〜80℃が好ましい。融点差を5℃以上、より好ましくは10℃以上、さらに好ましくは15℃以上とすることにより、熱接着性に優れる複合繊維を得ることができる。一方、融点差を80℃以下、より好ましくは50℃以下、さらに好ましくは40℃以下とすることにより、耐熱性の低下を抑制することができる。
【0039】
本発明のPPS複合繊維における成分Bの占める割合としては、5〜70質量%が好ましい。第2成分の占める割合を5質量%以上、より好ましくは10質量%、さらに好ましくは15質量%以上とすることにより、効率良く強固な熱接着を得ることができる。一方、成分Bの占める割合を70質量%以下、より好ましくは50質量%以下、さらに好ましくは30質量%以下とすることにより、機械的強度の低下を抑制することができる。
【0040】
本発明のPPS複合繊維における複合形態としては、成分Bが繊維表面の少なくとも一部を形成していることが重要である。係る複合形態としては例えば、繊維断面において円形状の成分Aが中心を同じくするドーナツ形状の成分Bに包まれる芯鞘型、成分Aの中心と成分Bの中心がずれている芯鞘偏心型、成分Aを島成分、成分Bを海成分とする海島型、両成分が並列した並列型、両成分が放射状に交互に配列された放射型、成分Bが成分Aの周囲に数個配置される多葉型等をあげることができる。なかでも、成分Bが繊維表面全体を占めかつ繊維の曳糸性に優れる芯鞘型が好ましい。
【0041】
本発明のPPS複合繊維の平均単繊維繊度としては、0.5〜10dtexが好ましい。平均単繊維繊度を0.5dtex以上、より好ましくは1dtex以上、さらに好ましくは2dtex以上とすることにより、繊維の曳糸性を保ち、紡糸中に糸切れが多発するのを抑えることができる。また、平均単繊維繊度を10dtex以下、より好ましくは5dtex以下、さらに好ましくは4dtex以下とすることで、紡糸口金単孔当たりの溶融樹脂の吐出量を抑え繊維に対して十分な冷却を施すことができ、繊維間の融着による紡糸性の低下を抑えることができる。また、不織布としたときの目付ムラを抑え、表面の品位を優れたものとすることができる。また不織布をフィルター等に適用する場合のダスト捕集性能の観点からも、平均単繊維繊度は10dtex以下が好ましく、より好ましくは5dtex以下、さらに好ましくは4dtex以下である。
【0042】
本発明のPPS複合繊維は、マルチフィラメント、モノフィラメントあるいは短繊維のいずれでも使用することができ、織物や不織布等のあらゆる布帛を構成する繊維として用いることができる。中でも本発明のPPS複合繊維は、不織布の構成繊維として用いることが好ましい。不織布においては、構成繊維同士が熱接着することで不織布の強度に資するからである。
【0043】
不織布としては例えば、ニードルパンチ不織布、湿式不織布、スパンレース不織布、スパンボンド不織布、メルトブロー不織布、レジンボンド不織布、ケミカルボンド不織布、サーマルボンド不織布、トウ開繊式不織布、エアレイド不織布等を挙げることができる。中でも、生産性や機械的強度に優れるスパンボンド不織布が好ましい。
【0044】
また本発明のPPS複合繊維から構成される不織布は、熱接着することで高い機械的強度が得られることから、熱接着により一体化してなることが好ましい。
【0045】
本発明の不織布の目付としては、10〜1000g/m
2が好ましい。目付を10g/m
2以上、より好ましくは100g/m
2以上、さらに好ましくは200g/m
2以上とすることにより、実用に供し得る機械的強度の不織布を得ることができる。一方、目付を1000g/m
2以下、より好ましくは700g/m
2以下、さらに好ましくは500g/m
2以下とすることにより、適度な通気性を有し、フィルター等で使用する場合に高圧損となることを抑制することができる。
【0046】
本発明の熱接着性複合繊維から構成される不織布においては、不織布のたて引張強力、たて引張伸度および目付から、次式にて算出される目付当たりの強伸度積が10以上であることが好ましい。
【0047】
目付当たりの強伸度積=たて引張強力(N/5cm)×たて引張伸度(%)/目付(g/m
2)
【0048】
目付当たりの強伸度積を10以上、より好ましくは13以上、さらに好ましくは15以上とすることにより、過酷な環境下でも使用できる機械的強度を有する不織布となる。また上限は特に定めるものではないが、不織布が硬くなり取り扱い性が悪化するのを防ぐ点から、100以下が好ましい。
【0049】
本発明の熱接着性複合繊維から構成される不織布は、空気中、180℃の温度で1300時間の耐熱暴露試験におけるたて引張強力保持率が80%以上であることが好ましい。たて引張強力保持率が80%以上、より好ましくは85%以上、さらに好ましくは90%以上であれば、高温下で長期間使用される耐熱性フィルター等の使用にも耐えうることができる。たて引張強力保持率の上限値は特に定めるものでは無いが、150%以下であることが好ましい。
【0050】
次に、本発明のPPS複合繊維および不織布を製造する方法について、好ましい態様を説明する。
【0051】
本発明に用いる共重合PPSの重合方法としては、種々の方法があるが、硫化アルカリとp−ジハロルベンゼン(主成分モノマ)および副成分モノマを前述のような共重合率に対応したモル比率で配合し、極性溶媒中、重合助剤の存在化下、高温、高圧で重合する方法が、得られるポリマの重合度を上昇させやすく好ましい。特に、硫化アルカリとして硫化ナトリウム、主成分モノマとしてp−ジクロベンゼン、溶媒としてN−メチルピロリドンを用いるのが好ましい。
【0052】
副成分モノマとしては、前述の式(1)のm−フェニレンスルフィド単位を導入するには次式に示すモノマを用いることができる。
【0054】
また前述の式(2)の共重合単位を導入するには次式に示すモノマを用いることができる。
【0056】
また前述の式(3)の共重合単位を導入するには次式に示すモノマを用いることができる。
【0058】
(ここでXは、アルキレン、CO、SO
2単位を示す。)
【0059】
また前述の式(4)の共重合単位を導入するには次式に示すモノマを用いることができる。
【0061】
また前述の式(5)の共重合単位を導入するには次式に示すモノマを用いることができる。
【0063】
(ここでRは、アルキル、ニトロ、フェニレン、アルコキシ基を示す。)
【0064】
が挙げられ、これらの複数の副成分モノマが存在してもかまわない。
【0065】
一方、本発明に用いるPPSについては、共重合PPSと同様な方法で重合することができるが、副成分モノマを配合しないかまたはその配合を減ずるものである。
【0066】
本発明のPPS複合繊維を製造する方法には、公知の溶融紡糸方法を採用することができる。例えば芯鞘型複合繊維の場合、芯成分用のPPS樹脂と鞘成分用の共重合PPS樹脂をそれぞれ別の押出機で溶融、計量し、芯鞘型複合口金へ供給、溶融紡糸し、糸条を従来公知の横吹き付けや環状吹き付け等の冷却装置を用いて冷却した後、油剤を付与し、引き取りローラを介して未延伸糸として巻取機に巻取る。繊維の形態として短繊維を得たい場合は、巻取った未延伸糸を、公知の延伸機にて周速の異なるローラ群間で延伸し、押し込み型の捲縮機などで捲縮を付与した後に、ECカッターなどのカッターで所望の長さに切断すればよい。繊維の形態として長繊維を得たい場合は、延伸機にて延伸後、巻取り、必要に応じて、撚糸加工、仮撚糸加工等の加工を行うとよい。
【0067】
次に、本発明の不織布の好ましい態様としてスパンボンド法による複合繊維不織布を製造する方法を、以下に説明する。
【0068】
スパンボンド法は、樹脂を溶融し、紡糸口金から紡糸した後、冷却固化した糸条に対し、エジェクターで牽引、延伸し、移動するネット上に捕集して不織ウェブ化した後、熱接着する工程を要する製造方法である。
【0069】
紡糸口金やエジェクターの形状としては、丸形や矩形等種々のものを採用することができる。なかでも、圧縮エアの使用量が比較的少なく、糸条同士の融着や擦過が起こりにくい点から矩形口金と矩形エジェクターの組み合わせが好ましい。
【0070】
溶融し紡糸する際の紡糸温度は、290〜380℃が好ましく、より好ましくは295〜360℃、さらに好ましくは300〜340℃である。紡糸温度を上記範囲内とすることで、安定した溶融状態とし、優れた紡糸安定性を得ることができる。
【0071】
成分Aおよび成分Bをそれぞれ別の押出機にて、溶融、計量し、複合紡糸口金へと供給し、複合繊維として紡出する。
【0072】
紡出された複合繊維の糸条を冷却する方法としては例えば、冷風を強制的に糸条に吹き付ける方法、糸条周りの雰囲気温度にて自然冷却する方法、紡糸口金とエジェクター間の距離を調整する方法、またはこれらの組み合わせを採用することができる。また、冷却条件は、紡糸口金の単孔あたりの吐出量、紡糸する温度、雰囲気温度等を考慮し適宜調整し採用することができる。
【0073】
次に、冷却固化した糸条は、エジェクターから噴射する圧縮エアにて牽引、延伸される。エジェクターでの牽引、延伸の方法や条件は特に限定されるものでは無いが、エジェクターから噴射する圧縮エアを少なくとも100℃以上に加熱し、この加熱した圧縮エアによって紡糸速度3,000m/分以上で牽引、延伸する方法、または紡糸口金下面からエジェクターの圧縮エア噴出口までの距離を450〜650mmとなるように配設し、エジェクターの圧縮エア(常温)にて、5,000m/分以上、6,000m/分未満の紡糸速度で牽引、延伸する方法がPPS繊維の結晶化を効率的に促進できる点で好ましい。
【0074】
続いて、延伸により得られたPPS複合繊維を移動するネット上に捕集して不織ウェブ化し、得られた不織ウェブを熱接着により一体化することにより不織布を得ることができる。
【0075】
熱接着の方法としては例えば、上下一対のロール表面にそれぞれ彫刻が施された熱エンボスロール、片方のロール表面がフラット(平滑)なロールと他方のロール表面に彫刻が施されたロールとの組み合わせからなる熱エンボスロール、上下一対のフラット(平滑)ロールの組み合わせからなる熱カレンダーロールなど各種ロールによる熱圧着や、不織ウェブの厚み方向に熱風を通過させるエアスルー方式を適用することが出来る。中でも、機械的強度を向上させながら適度な通気性も保持できる熱エンボスロールを用いた熱接着を好ましく採用することができる。
【0076】
熱エンボスロールに施される彫刻の形状としては、円形、楕円形、正方形、長方形、平行四辺形、ひし形、正六角形および正八角形などを用いることができる。
【0077】
熱エンボスロールの表面温度としては、低融点である成分Bの融点に対し−30〜−5℃の範囲であることが好ましい。熱エンボスロールの表面温度を成分Bの融点に対し−30℃以上、より好ましくは−25℃以上、さらに好ましくは−20℃以上とすることで、十分に熱接着させ不織布の剥離や毛羽の発生を抑えることができる。また、−5℃以下とすることにより、繊維の融解により圧着部に穴あきが発生するのを防ぐことができる。
【0078】
熱接着時の熱エンボスロールの線圧としては200〜1500N/cmが好ましい。ロールの線圧を200N/cm以上、より好ましくは300N/cm以上とすることで、十分に熱接着させシートの剥離や毛羽の発生を抑えることができる。一方、ロールの線圧を1500N/cm以下、より好ましくは1000N/cm以下とすることで、彫刻の凸部が不織布にくい込んでロールから不織布が剥離しにくくなったり不織布が破断するのを防ぐことができる。
【0079】
熱エンボスロールによる接着面積としては8〜40%が好ましい。接着面積を8%以上、より好ましくは10%以上、さらに好ましくは12%以上とすることで、不織布として実用に供しうる強度を得ることができる。一方、接着面積を40%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは20%以下とすることで、フィルムライクとなり通気性などの不織布としての特長が得られ難くなるのを防ぐことができる。ここでいう接着面積とは、一対の凹凸を有するロールにより熱接着する場合は、上側ロールの凸部と下側ロールの凸部とが重なって不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことを言う。また、凹凸を有するロールとフラットロールにより熱接着する場合は、凹凸を有するロールの凸部が不織ウェブに当接する部分の不織布全体に占める割合のことを言う。
【0080】
また熱接着前の不織ウェブに対し、搬送性向上や不織布の厚みコントロールを目的とし、温度70〜120℃、線圧50〜700N/cmでカレンダーロールによる仮接着を行う工程を施すこともできる。カレンダーロールとしては、上下金属ロールの組み合わせや金属ロールと樹脂あるいはペーパーロールとの組み合わせのものを用いることができる。
【0081】
さらに熱接着前の不織ウェブに対し、熱に対する安定性向上を目的とし、ピンテンターやクリップテンター等を使用した緊張下での熱処理や熱風乾燥機等を使用した無緊張(フリー)での熱処理を実施することもできる。熱処理の温度としては、不織ウェブの結晶化温度以上、鞘成分の融点以下であることが好ましい。
【実施例】
【0082】
次に、実施例に基づき本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらの実施例のみに限定されるものではない。
【0083】
[測定方法]
(1)メルトフローレート(MFR)(g/10分)
使用した樹脂のMFRは、ASTM D1238−70に準じて測定温度315.5℃で、測定荷重5kgの条件で測定した。
【0084】
(2)融点(℃)
示差走査熱量計(TA Instruments社製Q100)を用いて、次の条件で測定し、吸熱ピーク頂点温度の平均値を算出して、測定対象の融点とした。なお、繊維形成前の樹脂において吸熱ピークが複数存在する場合は、最も高温側のピーク頂点温度とする。また、繊維を測定対象とする場合には、同様に測定し、複数の吸熱ピークから各成分の融点を推定することができる。
【0085】
・測定雰囲気:窒素流(150ml/分)
・温度範囲 :30〜350℃
・昇温速度 :20℃/分
・試料量 :5mg
【0086】
(3)平均単繊維繊度(dtex)
ネット上に捕集した不織ウェブからランダムに小片サンプル10個を採取し、マイクロスコープで500〜1000倍の表面写真を撮影し、各サンプルから10本ずつ、計100本の繊維の幅を測定し平均値を算出した。単繊維の幅平均値を、丸形断面形状を有する繊維の平均直径とみなし、使用する樹脂の固形密度から長さ10,000m当たりの重量を平均単繊維繊度として、小数点以下第二位を四捨五入して算出した。
【0087】
(4)紡糸速度(m/分)
繊維の平均単繊維繊度F(dtex)と各条件で設定した紡糸口金単孔から吐出される樹脂の吐出量D(以下、単孔吐出量と略記する。)(g/分)から、次の式に基づき、紡糸速度V(m/分)を算出した。
V=(10000×D)/F
【0088】
(5)不織布の目付(g/m
2)
JIS L1913(2010年)6.2「単位面積当たりの質量」に基づき、20cm×25cmの試験片を、試料の幅1m当たり3枚採取し、標準状態におけるそれぞれの質量(g)を量り、その平均値を1m
2当たりの質量(g/m
2)で表した。
【0089】
(6)不織布の目付当たりの強伸度積
JIS L1913(2010年)の6.3.1に準じ、サンプルサイズ5cm×30cm、つかみ間隔20cm、引張速度10cm/minの条件でたて方向3点の引張試験を行い、サンプルが破断した時の強力をたて引張強力(N/5cm)、また最大荷重時のサンプルの伸びを1mm単位まで測定し、この伸び率(元の長さに対する伸びた長さ)をたて引張伸度(%)とし、たて引張強力(N/5cm)とたて引張伸度(%)のそれぞれの平均値について小数点以下第一位を四捨五入して算出した。続いて、算出したたて引張強力(N/5cm)とたて引張伸度(%)、また(5)で求めた目付(g/m
2)から、以下の式より小数点以下第一位を四捨五入して目付当たりの強伸度積を算出した。
目付当たりの強伸度積=たて引張強力(N/5cm)×たて引張伸度(%)/目付(g/m
2)。
【0090】
(7)不織布の熱収縮率(%)
JIS L1906(2000年)5.9「熱収縮率」に準じて測定した。恒温乾燥機内の温度を200℃とし、10分間熱処理した。
【0091】
(8)耐熱暴露試験とたて引張強力保持率
熱風オーブン(エスペック製、TABAI SAFETY OVEN SHPS−222)を用い、長さ30cm、幅5cmのたて方向のサンプルを必要数投入し、熱風空気雰囲気下、180℃×1300時間、空気循環量300L/minで曝露させた。耐熱暴露試験前後のサンプルについて、上記(6)に記載の方法で引張強力を測定し、下記式を用いてたて引張強力保持率を算出した。
【0092】
たて引張強力保持率(%)=耐熱暴露試験後たて引張強力(N/5cm)/耐熱暴露試験前たて引張強力(N/5cm)×100
【0093】
[実施例1]
(成分B)
オートクレ−ブに100モルの硫化ナトリウム9水塩、45モルの酢酸ナトリウムおよび25リットルのN−メチルピロリドン(NMP)を仕込み、撹拌しながら徐々に220℃の温度まで昇温して、含有されている水分を蒸留により除去した。脱水の終了した系内に、主成分モノマとして91モル(89.8モル%)のp−ジクロベンゼン、副成分モノマとして10モル(10モル%)のm−ジクロロベンゼン、および0.2モル(0.2モル%)の1,2,4−トリクロルベンゼンを5リットルのNMPとともに添加し、170℃の温度で窒素を3kg/cm
2で加圧封入後、昇温し、260℃の温度にて4時間重合した。重合終了後冷却し、蒸留水中にポリマを沈殿させ、150メッシュ目開きを有する金網によって、小塊状ポリマを採取した。このようにして得られた小塊状ポリマを90℃の蒸留水により5回洗浄した後、減圧下120℃の温度にて乾燥して、MFRが152g/10分、融点が257℃の共重合PPS樹脂を得た。この共重合PPS樹脂を窒素雰囲気中で160℃の温度で10時間乾燥して、成分Bとして用いた。
【0094】
(成分A)
主成分モノマとして101モルのp−ジクロベンゼンを用い、副成分モノマおよび1,2,4トリクロルベンゼンを用いないこと以外は全て上記共重合PPS樹脂の製造と同様にしてPPS樹脂を製造した。製造したPPS樹脂のMFRは160g/10分、融点は281℃であった。このPPS樹脂を窒素雰囲気中で160℃の温度で10時間乾燥して、成分Aとして用いた。
【0095】
(紡糸・不織ウェブ化)
上記成分B(共重合PPS樹脂)を鞘成分用の押出機で、上記成分A(PPS樹脂)を芯成分用の押出機でそれぞれ溶融し、成分Aと成分Bとの質量比が80:20となるように計量し、紡糸温度325℃で、孔径φ0.30mmの矩形芯鞘型紡糸口金から単孔吐出量1.2g/分で芯鞘型複合繊維を紡出した。紡出した繊維を室温20℃の雰囲気下で冷却固化し、前記口金からの距離550mmの位置に設置した矩形エジェクターに通し、空気加熱器で200℃の温度に加熱した空気をエジェクター圧力0.17MPaでエジェクターから噴射させ、糸条を牽引、延伸し、移動するネット上に捕集して不織ウェブ化した。得られた芯鞘型複合長繊維の平均単繊維繊度は2.4dtex、紡糸速度は5,012m/分であり、紡糸性は1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。
【0096】
(仮接着・熱接着)
引き続き、インライン上に設置された金属製の上下一対のカレンダーロールを用い線圧200N/cmおよび仮接着温度90℃で上記不織ウェブを仮接着した。次いで、金属製で水玉柄の彫刻がなされた上ロールおよび金属製でフラットな下ロールから構成される上下一対の接着面積12%のエンボスロールで、線圧1000N/cm、熱接着温度250℃で熱接着し、芯鞘型複合長繊維不織布を得た。得られた芯鞘型複合長繊維不織布の目付は256g/m
2、目付当たりの強伸度積は20、熱収縮率はたて方向で0.1%、よこ方向で0.1%、たて引張強力保持率は99%であった。
【0097】
[実施例2]
(成分B)
実施例1で用いたものと同様の共重合PPS樹脂を成分Bとして用いた。
【0098】
(成分A)
実施例1で用いたものと同様のPPS樹脂を成分Aとして用いた。
【0099】
(紡糸・不織ウェブ化)
圧縮エアの温度を常温(20℃)、エジェクター圧力を0.25MPaとしたこと以外は実施例1と同様にして、芯鞘型複合紡糸、不織ウェブ化を行った。得られた芯鞘型複合長繊維の平均単繊維繊度は2.3dtex、紡糸速度は5,250m/分であり、紡糸性は1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。
【0100】
(仮接着・熱接着)
引き続き、実施例1と同様にして上記不織ウェブに仮接着および熱接着を施して芯鞘型複合長繊維不織布を得た。得られた芯鞘型複合長繊維不織布の目付は263g/m
2、目付当たりの強伸度積は15、熱収縮率はたて方向で0.1%、よこ方向で0.0%、たて引張強力保持率は98%であった。
【0101】
[実施例3]
(成分B)
モノマの添加量としてp−ジクロベンゼンを94.8モル(94.8モル%)、m−ジクロロベンゼンを5モル(5モル%)、1,2,4−トリクロルベンゼンを0.2モル(0.2モル%)とした他は実施例1の条件で重合し、共重合PPS樹脂を製造し、MFRが142g/10分、融点263℃の共重合PPS樹脂を得た。この共重合PPS樹脂を実施例1と同様に乾燥し、成分Bとして用いた。
【0102】
(成分A)
実施例1で用いたものと同様のPPS樹脂を成分Aとして用いた。
(紡糸・不織ウェブ化)
上記成分A,Bを用い、実施例1と同様の条件で、芯鞘型複合紡糸、不織ウェブ化を行った。得られた芯鞘型複合長繊維の平均単繊維繊度は2.5dtex、紡糸速度は4,856m/分であり、紡糸性は1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。
【0103】
(仮接着・熱接着)
引き続き、エンボスロールの熱接着温度を255℃としたこと以外は実施例1と同様にして上記不織ウェブに仮接着および熱接着を施して、芯鞘型複合長繊維不織布を得た。得られた芯鞘型複合長繊維不織布の目付は258g/m
2、目付当たりの強伸度積は11、熱収縮率はたて方向で0.1%、よこ方向で0.0%、たて引張強力保持率は99%であった。
【0104】
[実施例4]
(成分B)
モノマの添加量としてp−ジクロベンゼンを84.8モル(84.8モル%)、m−ジクロロベンゼンを15モル(15モル%)、1,2,4−トリクロルベンゼンを0.2モル(0.2モル%)とした他は実施例1の条件で重合し、共重合PPS樹脂を製造し、MFRが165g/10分、融点239℃の共重合PPS樹脂を得た。この共重合PPS樹脂を実施例1と同様に乾燥し、成分Bとして用いた。
【0105】
(成分A)
実施例1で用いたものと同様のPPS樹脂を成分Aとして用いた。
(紡糸・不織ウェブ化)
上記成分A,Bを用い、実施例1と同様の条件で、芯鞘型複合紡糸、不織ウェブ化を行った。得られた芯鞘型複合長繊維の平均単繊維繊度は2.4dtex、紡糸速度は5,062m/分であり、紡糸性は1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。
【0106】
(仮接着・熱接着)
引き続き、エンボスロールの熱接着温度を230℃としたこと以外は実施例1と同様にして上記不織ウェブに仮接着および熱接着を施して、芯鞘型複合長繊維不織布を得た。得られた芯鞘型複合長繊維不織布の目付は255g/m
2、目付当たりの強伸度積は19、熱収縮率はたて方向で0.2%、よこ方向で0.1%、たて引張強力保持率は98%であった。
【0107】
[比較例1]
(成分B)
成分Bは用いなかった。
【0108】
(成分A)
実施例1で用いたものと同様のPPS樹脂を成分Aとして用いた。
【0109】
(紡糸・不織ウェブ化)
上記成分Aを押出機で溶融、計量し、紡糸温度325℃で、孔径φ0.30mmの矩形単一成分紡糸口金から単孔吐出量1.2g/分で紡出した。以降は実施例1と同様にして、紡糸、不織ウェブ化を行った。得られた単一成分型長繊維の平均単繊維繊度は2.4dtex、紡糸速度は4,920m/分であり、紡糸性は1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。
【0110】
(仮接着・熱接着)
引き続き、エンボスロールの熱接着温度を260℃としたこと以外は実施例1と同様にして上記不織ウェブに仮接着および熱接着を施して、単一成分型長繊維不織布を得た。得られた単一成分型長繊維不織布の目付は263g/m
2、目付当たりの強伸度積は4、熱収縮率はたて方向で0.0%、よこ方向で0.1%、たて引張強力保持率は99%であった。
【0111】
[比較例2]
(成分B)
成分Bは用いなかった。
【0112】
(成分A)
実施例1で用いたものと同様のPPS樹脂を成分Aとして用いた。
【0113】
(紡糸・不織ウェブ化)
上記成分Aを押出機で溶融、計量し、紡糸温度325℃で、孔径φ0.30mmの矩形単一成分紡糸口金から単孔吐出量1.2g/分で紡出した。以降は圧縮エアの温度を常温(20℃)、エジェクター圧力を0.25MPaとしたこと以外は実施例1と同様にして、紡糸、不織ウェブ化を行った。得られた単一成分型長繊維の平均単繊維繊度は2.0dtex、紡糸速度は5,935m/分であり、紡糸性は1時間の紡糸において糸切れ0回と良好であった。
【0114】
(仮接着・熱接着)
引き続き、エンボスロールの熱接着温度を260℃としたこと以外は実施例1と同様にして上記不織ウェブに仮接着および熱接着を施して、単一成分型長繊維不織布を得た。得られた単一成分型長繊維不織布の目付は266g/m
2、目付当たりの強伸度積は3、熱収縮率はたて方向で0.1%、よこ方向で0.1%、たて引張強力保持率は99%であった。
【0115】
【表1】
【0116】
p−フェニレンスルフィドを主単位とするPPS樹脂を芯成分、共重合PPS樹脂を鞘成分とした実施例1〜4の芯鞘型複合長繊維不織布は、比較例1,2の単一成分型長繊維不織布と比較し、目付当たりの強伸度積が大幅に向上し、機械的強度に優れるものであった。