【実施例】
【0042】
図1を参照して、本発明の固相接合ウエハの支持基板の剥離方法を用いた半導体装置の製造方法の実施例1について詳細に説明する。
図1はすべてウエハの断面図である。8インチ径で厚さ400μm未満のFZ−n型Siウエハ1aに対し、同径の厚さ300μmのCZ−p型Si支持ウエハ2aを支持基板として用意する(
図1(a))。ここで、
図4(a)に示すように、Siウエハ1bを厚さ100μm、支持ウエハ2bを厚さ700μmとしてもよい。
図4ではSiウエハ1bとして、ほぼ仕上げウエハの厚さである100μmの厚さとし、700μmの厚い支持ウエハ2bを固相接合により接合したSi固相接合ウエハ3bを用いるので、
図1の方法と異なり、
図1(e)の裏面研削工程が不要となるが、その他の工程は同様である。
【0043】
図1の説明に戻り、両Siウエハ1aとSi支持ウエハ2aを、有機系接着剤を用いることなく、直接に周知の水素結合法などにより貼り付ける。具体的には、Siウエハ1a、Si支持ウエハ2aの貼着面となる両主面に鏡面仕上げを施す。清浄な水蒸気雰囲気中で2枚のSiウエハ1aとSi支持ウエハ2aの鏡面を対向させて貼り合せて熱処理(300〜700℃)を施すと、Siウエハ1aとSi支持ウエハ2a表面では、H
2O分子を介して水素結合反応が生じる。この貼り合わされたSiウエハ1aとSi支持ウエハ2aに対して、結晶塑性温度を超える800〜1000℃に加熱すると、2枚のSiウエハ1aとSi支持ウエハ2a間の原子が相互に移動して強固に貼り合されたSi固相接合ウエハ3aとなる(
図1(b))。このSi固相接合ウエハ3aについて、Siウエハ1a側をおもて面、Si支持ウエハ2a側を裏面とする。
【0044】
材料の異なるウエハ間の貼り合せの場合でも、周知の水素結合反応等を利用し、2枚のウエハを相互に密着させた状態で結晶塑性温度以上に加熱し、その後にこれらを冷却することで固相接合ウエハとすることはできるが、固相接合されたウエハには元のウエハの膨張係数差に起因する歪み、反り等が発生し易い。すなわち、Si(シリコン)との熱膨張係数差が大きく異なる半導体ウエハ同士または
金属基板を貼り合せる場合には、ウエハ接合の時、特にウエハの冷却工程の時に熱膨張係数差に起因する歪みや反りが発生し、貼り合わせウエハに反りやダメージが生じやすい。従って、できるだけ、Siとの熱膨張係数の差が
小さい基板同士を貼り合わせることが好ましい。
【0045】
Si固相接合ウエハ3aのおもて面側に、例えばIGBTデバイスの製造が目的ならば、IGBTのMOSゲート構造(選択的に形成したp型のベース領域、当該ベース領域内に選択的に形成したn型のエミッタ領域、エミッタ領域とSiウエハ1a表面との間のベース領域上に設けたゲート絶縁膜とゲート電極)、エミッタ電極等の表面側に必要とされる機能構造を形成する。このMOSゲート構造などの表面側機能構造の形成にはウエハの高い平坦度を要するホトリソグラフィ工程や1000℃以上の高温処理を必要とする不純物熱拡散工程が含まれる。Si固相接合ウエハ3aの平坦度が高ければ、問題なく表面側のMOSゲート構造を形成することができる(
図1(c))。支持基板としてSi支持ウエハを用いれは、Si固相接合ウエハ3aの耐熱温度もSi半導体基板と変わらない。
図1(c)の符号4は、前述のIGBTのMOSゲート構造、エミッタ電極等のおもて面側機能構造の断面を示す。
【0046】
表面側機能構造が形成されたSi固相接合ウエハ3aの側面の外方からレーザー光5をウエハ面に平行にSi固相接合ウエハ3aの外周部内部の固相接合界面に焦点を結ぶように照射して破断層を形成する(
図1(d))。このレーザー光5の照射はSi固相接合ウエハ3aからSi支持ウエハを剥離するための準備工程である。この準備工程を含めた剥離工程について
図5を参照してさらに説明する。
図5に示すように、表面側処理を終えたSi固相接合ウエハ3bにレーザー光5の焦点をSi固相接合ウエハ3bの外周端から3mm程度内側
の領域にかけて
照射することにより、固相接合界面に合わせて破断層6を設ける。破断層6の円周方向の長さは全周(
図5(c))でもよいし、全周の全てに必ずしも破断層6を設けなくてもよいが、半円周程度の長さに形成することが好ましい。破断層6を全周に形成するには
図5(c)に示すようにレーザー照射をする際にウエハを矢印のように回転させることが好ましい。また、必ずしも、円周方向でなくとも、Si固相接合ウエハ3bの外周端の一部に外周端から中心方向に、例えば10mm程度の内側まで、焦点位置を深くするように走査し照射して破断層6を形成するならば、円周方向の破断層6の長さを20mm程度に短くすることもできる(
図5(d))。また、Si固相接合ウエハ3aの外周部の固相接合界面にレーザー光を照射する際に、前述の説明では、ウエハ面に平行にウエハ側方から照射したが、ウエハ面に垂直な方向からの照射により、固相接合界面の外周部に焦点を当てるようにしてもよい。
【0047】
以下に、レーザー照射方法について説明する。光子のエネルギーhvが材料の吸収のバンドギャップE
Gよりも小さいと、
材料が光学的に透明となる。よって、材料に吸収が生じる条件は、hv>E
Gである。しかし、光学的に透明でも、レーザー光の強度を非常に大きくすると、nhv>E
Gの条件(n=2、3、4・・・)で材料に吸収が生じる。この現象を多光子吸収という。パルス波の場合、レーザー光の強度はレーザー光の集光点のピークパワー密度(W/cm
2)で決まり、例えばピークパワー密度が1×10
8(W/cm
2)以上の条件で多光子吸収が生じる。ピークパワー密度は、(集光点におけるレーザー光の1パルス当たりのエネルギー)÷(レーザー光のビームスポット断面積×パルス幅)により求められる。また、連続波の場合、レーザー光の強度はレーザー光の集光点の電界強度(W/cm
2)で決まる。
【0048】
本発明の破断層形成工程では、多光子吸収が生じる条件で固相接合界面に集光点を合わせてレーザー光を照射して破断層を形成する。本発明では、Siウエハがレーザー光を吸収することによりSiウエハが発熱して破断層が形成されるのではなく、レーザー光はSiウエハを透過して固相接合界面に多光子吸収を発生させて破断層を形成する。レーザー光はSiウエハに吸収されないので、Siウエハの表面が溶融することはない。
【0049】
本発明の破断層形成工程において、レーザー光およびレーザー光の照射条件は、次のとおりとすることができる。
(A)レーザー光
光源:半導体レーザー励起Nd:YAGレーザー
波長:1064nm
レーザー光スポット断面積:3.14×10
−8cm
2
発振形態:Qスイッチパルス
繰り返し周波数:100kHz
パルス幅:30ns
出力:出力<1mJ/パルス
レーザー光品質:TEM
00
偏光特性:直線偏光
(B)集光用レンズ
レーザー光波長に対する透過率:60%
(C)Si固相接合ウエハを載置する載置台の移動速度:100mm/秒
【0050】
なお、レーザー光品質がTEM
00とは、集光性が高くレーザー光の波長程度
のスポット径まで集光可能を意味する。
【0051】
支持基板であるSi支持ウエハ2aをSiウエハ1aから剥離する際は、
図1(d)に示すように、Si支持ウエハ2
a外周の一部を持ち上げ、まず、ウエハ外周部に設けられている破断層6を剥離させて剥離のきっかけを作り、次にウエハ全体を持ち上げるまで徐々に順に引き上げて全体を剥離する方法とする。また、その
ウエハの持ちあげを数段に分けてもよい。持ち上げる角度を制限すれば、持ち上げられるSiウエハ1aが薄くなっていても、割れない程度に反り上がる結果、貼り合せたSi固相接合ウエハ3aから支持基板であるSi支持ウエハ2aを剥離することができる。
【0052】
Si支持ウエハ2aを剥離した後、Siウエハの剥離面の破壊層等を除去したり、Siウエハ1aを更に薄くする必要のある場合は、従来のプロセスと同様に剥離面を研削やCMP(Chemical Mechanical Pollishing :化学機械研磨)
、または、薬品によるエッチング処理をしてウエハ厚を100μmとする(
図1(e))。研磨したウエハ面(裏面)に所要の裏面処理を加える。裏面処理としては、n
+バッファ層(図示せず)、p
+コレクタ層7、コレクタ電極8などの形成がある(
図1(f))。ダイシング工程((
図1(g))を経てIGBTチップ9が製造される。
【0053】
図6は、Siウエハと支持基板との固相接合界面にボイドが存在する固相接合ウエハの断面図および超音波影像写真である。8インチ径で厚さ400μm未満のFZ−n型Siウエハ1cに対し、同径の厚さ300μmのCZ−p型Si支持ウエハ2cを支持基板として用意する(
図6(a))。ここで、Si支持ウエハ2cは、Siウエハ1cとの貼り合わせ面に部分的にボイド10を有する。ボイド10は、支持ウエハ2cをSiウエハと接合する前に、支持ウエハ2cの表面にプラズマを全面的または、部分的に照射することにより、形成することができる。Siウエハ1cとSi支持ウエハ2cを貼り合わせてSi固相接合ウエハ3cとした場合に、固相接合界面にボイドが存在する(
図6(b))。固相接合界面に未接合部分としてボイドのような隙間があることにより、接合界面剥離工程において固相接合界面の剥離が容易となる。
図6(c)は、Si固相接合ウエハの超音波影像写真である。Si固相接合ウエハのSiウエハの表面方向から撮った写真であり、接合界面で白い斑点状に分布しているボイドが確認される。
【0054】
図7は、Siウエハと支持基板との固相接合界面に酸化膜が存在する固相接合ウエハの断面図である。8インチ径で厚さ400μm未満のFZ−n型Siウエハ1dに対し、同径の厚さ300μmのCZ−p型Si支持ウエハ2dを支持基板として用意する(
図7(a))。ここで、Si支持ウエハ2dは、Siウエハ1dとの貼り合わせ面に部分的に酸化膜11を有する。酸化膜を部分的に有するSi支持ウエハ2dは、表面全体に酸化膜を有する支持ウエハを、Siウエハと接合する前に、支持ウエハの表面にプラズマを部分的に照射して酸化膜を部分的に除去することにより、形成することができる。Siウエハ1dとSi支持ウエハ2dを貼り合わせてSi固相接合ウエハ3dとした場合に、固相接合界面に酸化膜が存在する(
図7(b))。固相接合界面に未接合部分として酸化膜があることにより、接合界面剥離工程において固相接合界面の剥離が容易となる。
【0055】
図8は、本発明にかかる破断層剥離工程と接合界面剥離工程の一実施形態を示す断面図である。Siウエハ1cとボイド10を有するSi支持ウエハ2cを貼り合わせ、更におもて面側機能構造4を形成したSi固相接合ウエハ3cを例とする(
図8(a))。このSi固相接合ウエハ3cの側面から固相接合界面へレーザー光5を照射し、固相接合界面の全周の全てに破断層6を形成する(
図8(a))。次に、おもて面側機能構造4を形成したSiウエハ1cのおもて面を吸着装置12、および吸着装置13で固定する。Si支持ウエハ2cの裏面はウエハ固定ステージ14でバキュームチャックまたは静電チャックすることにより、固定する(
図8(b))。
吸着装置12は、吸着装置12の吸着面と吸着装置13の吸着面を面一の状態で同時に可動し、さらに、吸着装置13とは独立して吸着装置12のみでも可動できるように構成されている。
そして、吸着装置13は静止した状態で吸着装置12をSiウエハ1cの端部を持ち上げる方向(
図8(c)の矢印の方向)へ持ち上げる。そして、Siウエハ1cとSi支持ウエハ2cの固相接合界面端部(各ウエハの外周端部)の破断層6を剥離し、固相接合界面全体を剥離するきっかけ(剥離部)を作る(
図8(c))。
このときの端部を持ち上げる方向は、吸着装置12,13の吸着面に垂直の方向よりややSiウエハの内側に傾斜した方向である。内側への傾斜が大きいと、固相接合界面の端部の剥離のきっかけを作りやすいが、吸着装置12と吸着装置13との境界付近に大きな応力がかかってしまう。したがって、Siウエハ1cが割れない程度(たとえば5°程度)に、傾けてSiウエハ1cの外周を持ち上げるとよい。
その後、吸着装置12の吸着面を吸着装置13の吸着面と面一の状態に戻し、続いて、吸着装置12,13の吸着面を面一に保ったまま、先に吸着装置12によって形成された剥離部から連続して剥離する方向(
図8(d)の矢印の方向)に持ち上げる。吸着装置12,13の吸着面を徐々に傾けていき、固相接合界面全体を剥離する(
図8(d))。吸着装置12と吸着装置13を段階的に引っ張ることにより、破断層6の剥離を起点にして固相接合界面に沿って亀裂が生じることで、固相接合界面にて剥離することができる。この例では、固相接合界面にはボイド10があり、ボイド10の部分では固相接合がされていないため、剥離が容易である。
ここで、吸着装置12によって吸着するのは、
図5(d)のように、ウエハの一部にのみレーザーを照射した場合は、そのレーザーを照射した箇所とするのがよい。
図8に示したように、吸着装置12,13を備えた剥離装置は、固相接合界面にはボイド10のある場合に限らず用いることができる。たとえば、ボイド10を設けずに固相接合し、
図5(c)(d)のようにレーザーを照射した半導体基板に対しても適用できる。
【0056】
図9は、
図8とは異なる本発明にかかる破断層剥離工程と接合界面剥離工程の一実施形態を示す断面図である。Siウエハ1cとボイド10を有するSi支持ウエハ2cを貼り合わせ、更におもて面側機能構造4を処理したSi固相接合ウエハ3cを例とする(
図9(a))。おもて面側機能構造4を処理したSiウエハ1cの表面に、接着剤15でサポート材16を貼り付ける(
図9(a))。サポート材16は、Si、SiCおよびガラス等を素材とする。このSi固相接合ウエハ3cの側面または裏面からSi固相接合ウエハ3cへレーザー光5を照射し、固相接合界面の全周の全てに破断層6を形成する(
図9(b))。次に、サポート材16の裏面およびSi支持ウエハ2cの裏面を、それぞれウエハ固定ステージ17、14でバキュームチャックまたは静電チャックすることにより、固定する(
図9(c))。そして、ウエハ固定ステージ17を吸着面に垂直の方向よりややSiウエハの内側に傾斜した方向(
図9(d)の矢印の方向)へ引っ張ることにより端部から持ち上げ、固相接合界面端部と当該端部の破断層6を剥離し、固相接合界面全体を剥離するきっかけを作る(
図9(d))。その後、ウエハ固定ステージ17をさらに矢印の方向へ引っ張ることにより持ち上げ、固相接合界面全体を剥離する(
図9(d))。ウエハ固定ステージ17を外し、サポート材16は固定した状態で(
図9(e))、剥離面は、必要に応じてCMP研磨して表面を平滑化した後、n
+バッファ層、p
+コレクタ層、コレクタ電極などを形成する裏面処理を加える。そして、サポート材16を外し、ダイシング工程を経てチップ化される。
図9に示した構成は、固相接合界面にはボイド10のある場合に限らず用いることができる。たとえば、ボイド10を設けずに固相接合し、
図5(c)(d)のようにレーザーを照射した半導体基板に対しても適用できる。
【0057】
以上説明した実施例では、支持基板として、Si半導体基板を用いたが、異なる支持基板として、例えば、表面にSiO層を有するSi半導体基板、SiC半導体基板から選ばれるいずれかの基板とすることもできる。
【0058】
以上説明した実施例によれば、ウエハプロセス投入時よりSiウエハを実質的にウエハ割れなく使うことができ、ウエハと支持基板との剥離が容易で、ウエハコストを低減することができる固相接合ウエハの支持基板の剥離方法および半導体装置の製造方法を提供することができる。