(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725437
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】環境試験装置
(51)【国際特許分類】
G01N 17/00 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
G01N17/00
【請求項の数】2
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2010-235051(P2010-235051)
(22)【出願日】2010年10月20日
(65)【公開番号】特開2012-78333(P2012-78333A)
(43)【公開日】2012年4月19日
【審査請求日】2013年5月2日
(31)【優先権主張番号】特願2010-199713(P2010-199713)
(32)【優先日】2010年9月7日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504345953
【氏名又は名称】ペクセル・テクノロジーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100167645
【弁理士】
【氏名又は名称】下田 一弘
(72)【発明者】
【氏名】池上 和志
(72)【発明者】
【氏名】手島 健次郎
(72)【発明者】
【氏名】河野 正教
【審査官】
福田 裕司
(56)【参考文献】
【文献】
特開平08−201269(JP,A)
【文献】
特開平04−083142(JP,A)
【文献】
特開2009−230933(JP,A)
【文献】
特開2004−273870(JP,A)
【文献】
特開昭62−297744(JP,A)
【文献】
特開昭61−073056(JP,A)
【文献】
国際公開第2003/002983(WO,A1)
【文献】
登録実用新案第3098792(JP,U)
【文献】
特開昭58−024840(JP,A)
【文献】
特開2008−032549(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 17/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
被試験物が入れられる試験室と、
前記試験室内の空気を所定の温湿度に調整する空調手段と、
擬似太陽光を前記試験室内に導くために前記試験室外壁の一部に設けられた採光口と、
前記試験室外に設置され、前記採光口を介して、前記試験室内に擬似太陽光を照射する擬似太陽光照射手段と、
を備える環境試験装置であって、
前記試験室と擬似太陽光照射手段とは着脱可能な別体であって、前記試験室は恒温恒湿の環境試験装置として独立に機能し、前記擬似太陽光照射手段は擬似太陽光照射装置として独立に機能し、
かつ前記採光口は、外径100mmの円を内包する方形であって、擬似太陽光照射手段側と試験室側に波長350nmにおける光線透過率が70%以上の透明材料を嵌めた空洞構造からなる結露防止手段を備える、
ことを特徴とする環境試験装置。
【請求項2】
前記擬似太陽光照射装置が、
紫外線を含む光源と、前記光源を第1焦点に配置し、前記光源の放射光を第2焦点に集光する楕円反射鏡からなる光源部と、
前記光源部からの照射光を透過光と反射光に分岐するスプリット面を有するビームスプリッターと、
長軸方向端の一方が入射面で他方が照射面となっており、前記入射面が前記楕円反射鏡の第2焦点に位置するように配置される単一のロッドレンズと、前記ロッドレンズの後方に配置されたコリメーターレンズからなる照射レンズユニットと、
波長選択フィルターと、
をこの順に配置した擬似太陽光照射装置であることを特徴とする請求項1に記載した環境試験装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種材料、電子機器、電子部品の所定温度・湿度下における光耐久性評価、あるいは、太陽電池の所定温度・湿度下での電池特性評価に用いることができる小型化、維持コストを低減した擬似太陽光照射装置付き環境試験装置に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護重視の観点からいわゆるクリーンエネルギーの研究開発が進められている。その中でも太陽電池は、太陽エネルギーを直接電気エネルギーへ変換するものであるため従来の他の発電と比較して無公害であり、その資源である太陽光が事実上無限に利用可能であること等からクリーンエネルギー源のエースとして期待を集めている。
【0003】
シリコン系太陽電池セルの基本となる材料は、半導体やガラスといった無機材料である。また、一般家庭の屋根に設置され実用される太陽電池モジュールは、太陽電池セルとバックシート、接着剤、配線材料その他の有機高分子材料との組み合わせにより構成されている。太陽電池モジュールは、実用性を担保するため、環境試験と耐久性試験を課されている。結晶系太陽電池モジュールについては、JIS C 8917、アモルファス太陽電池モジュールについては、JIS C 8938にそれぞれ規定されている。
【0004】
一方、シリコン系太陽電池の他に、太陽電池セルの基本となる材料として、有機材料を用いた色素増感型太陽電池や有機薄膜太陽電池が注目されている。これら有機材料系太陽電池セルは、プラスチック基板上に塗布方式または印刷方式により製造される。このため、有機材料の構成比率は、無機系太陽電池セルに比べて増加する。
【0005】
一般に、有機材料は太陽光の紫外領域における耐久性が低く、温度・湿度の影響を受けやすい。このため、太陽電池セル及び太陽電池モジュールの信頼性を担保するため、その研究開発における耐熱・耐湿環境試験及び光耐久性試験は重要性が高い。また研究開発速度を上げる上でも、耐熱・耐湿環境試験及び光耐久性試験の効率化が求められている。
【0006】
太陽電池セル及び太陽電池モジュールの電池特性(出力特性)評価には、そのスペクトル分布が太陽光スペクトル分布に近似した擬似太陽光光源を用いる必要がある。また、適切な評価を行うためには、光源光量の照射面に対する面均一性も重要であり、この用途に特別に設計された擬似太陽光照射装置を用いる。
【0007】
擬似太陽光照射装置は、特許文献1の代表図、非特許文献1記載の光源光学構造図に記載されたものが知られている。その基本的構成を
図2に示す。
図2において、光源ランプ21から放射される光を楕円集光ミラー22より集光し、第1平面反射ミラー23により水平方向に照射方向を変え、波長選択フィルタ(エアマスフィルタ)24により、自然太陽光に近似したスペクトル分布とされた後、インテグレーターレンズ(積分光学系)25により照度分布が均一化され、再び、第2平面反射ミラー26により垂直方向に照射方向を変えて、コリメーターレンズ27により平行化されて、疑似太陽光を照射面28に照射するものである。
【0008】
このように、擬似太陽光照射装置は、コリメータレンズを採用しているため、市販されているシリコン太陽電池(規格サイズ:125mm角または155mm角)の電池特性を測定するためには、検査対象面積を超えるレンズを備えた光学系(180mm角以上のコリメーターレンズ)が必要である。このような擬似太陽光照射装置は、自重が30kg以上と大型となる。このため、恒温恒湿環境試験装置内において、擬似太陽光を均一に照射するためには、装置内寸法が1m角を超える装置の内部天井部分の全面にキセノンランプまたはメタルハライドランプを設置する構造がほとんどである(特許文献2、非特許文献2)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開平9−306201
【特許文献2】特開平1−248037
【非特許文献】
【0010】
【非特許文献1】インターネット<URL:http://www.san-eielectric.co.jp/sangyo5.htm>
【非特許文献2】インターネット<URL:http://www.eko.co.jp/eko/a/a01-pv/a0109-ECL350/a0109_ECL350.html>
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、各種材料、電子機器、電子部品の所定温度・湿度下における光耐久評価、あるいは、太陽電池の所定温度・湿度下での電池特性評価に用いることができる小型化、維持コストを低減した環境試験装置を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決することを目的としてなされた本願発明の擬似太陽光照射装置付き環境試験装置は、下記(1)乃至(6)の態様で実施できる。
【0013】
(態様1) 被試験物が入れられる試験室と、前記試験室内の空気を所定の温湿度に調整する空調手段と、擬似太陽光を前記試験室内に導くために前記試験室外壁の一部に設けられた採光口と、前記試験室外に設置され、前記採光口を介して、前記試験室内に擬似太陽光を照射する擬似太陽光照射手段と、を備える環境試験装置であって、前記試験室と擬似太陽光照射手段とは着脱可能な別体であって、
前記試験室は恒温恒湿の環境試験装置として独立に機能し、前記擬似太陽光照射手段は擬似太陽光照射装置として独立に機能し、かつ前記採光口は、外径100mmの円を内包する方形であって、擬似太陽光照射手段側と試験室側に波長350nmにおける光線透過率が70%以上の透明材料を嵌めた空洞構造からなる結露防止手段を備える、ことを特徴とする環境試験装置である。試験室と擬似太陽光光源とを採光手段を介して分離することにより、試験室内の温湿度制御が容易となり、環境試験精度が向上するからである。採光口に波長350nmにおける光線透過率が70%以上の透明材料を用いたのは、擬似太陽光は紫外線を含むため、採光口を介して試験室内に擬似太陽光を照射する本発明の環境試験装置では、紫外領域でも高い光線透過率が必要だからである。また、円筒構造からなる結露防止手段は、結露による照射光量の低下を防ぐために必要があるからである。なお、環境試験装置に設ける採光口は可能な限り小面積であることが望ましい。環境試験室は試験室内の温湿度を一定に保つためにその外周を断熱材で覆っており、採光口を大きくすることは断熱保温効果を低下させるからである。
【0014】
(態様2) 前記擬似太陽光照射装置が、紫外線を含む光源と、前記光源を第1焦点に配置し、前記光源の放射光を第2焦点に集光する楕円反射鏡からなる光源部と、前記光源部からの照射光を透過光と反射光に分岐するスプリット面を有するビームスプリッターと、長軸方向端の一方が入射面で他方が照射面となっており、前記入射面が前記楕円反射鏡の第2焦点に位置するように配置される単一のロッドレンズと、前記ロッドレンズの後方に配置されたコリメーターレンズからなる照射レンズユニットと、波長選択フィルターと、をこの順に配置した擬似太陽光照射装置であることを特徴とする態様1に記載した環境試験装置である。単一のロッドレンズを採用することで、レンズ内部で光混成が行われるため、照度分布が均一化されるからである。この点が、光混成が出口のみで行われるインテグレーターレンズ(積分光学系)を採用する擬似太陽光照射装置と比べた利点である。
【発明の効果】
【0019】
上記手段により、各種材料、電子機器、電子部品の所定温度・湿度下における光耐久評価、あるいは、太陽電池の所定温度・湿度下での電池特性評価に用いることができる小型化、維持コストを低減した擬似太陽光照射装置付き環境試験装置を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】本発明の環境試験装置に設置する擬似太陽光照射装置の光学系の全体構成の一実施態様を示す側断面図
【
図2】従来の擬似太陽光照射装置の全体構成を示す側断面図
【
図3】本発明の擬似太陽光照射装置付き環境試験装置の全体構成(擬似太陽光照射装置を縦置き)にした実施形態を示す側断面図
【
図4】本発明の擬似太陽光照射装置付き環境試験装置の全体構成(擬似太陽光照射装置を横置き)にした実施形態を示す側断面図
【
図5】本発明の環境試験装置の上面に設置された採光口の説明図
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下に、本発明の擬似太陽光照射装置の実施の形態を
図1及び
図3から
図5により説明する。
【0022】
図1は、本発明の環境試験装置に設置する擬似太陽光照射装置における光学系の全体構成の一実施形態(横置き)を示す側断面図である。同図において、光源ランプ2、該光源ランプ2からの光束を照射面に導く楕円反射鏡3、該楕円反射鏡3からの光束を透過光束と反射光束に分岐するビームスプリッター5がそれぞれ水平に筐体1内に収容されて光源部を構成している。
【0023】
筐体1には、光源ランプ2を空冷するためのファン(図示せず)と光源ランプ1の交換等の保守点検のために扉(図示せず)が設けられている。
【0024】
光源ランプ2は、横置きに配置され、支持棒により固定されている(図示せず)。該支持棒は筐体により固定された光軸調整ユニット13を介して筐体に支持される。光源ランプ2はXYZモーター付光軸調整ユニット19により上下左右に位置を調整できる。
紫外線を含む光源としては、ハロゲンランプ、キセノンランプを用いることができ、疑似太陽光の照射に際しては、一定照度に連続点灯させて照射する方式、または、パルス状に発光させて照射する方式のいずれかの方法が用いられる。また、点灯用の専用電源装置も組み合わせて用いられる。
【0025】
楕円反射鏡3は、光源ランプから放射される光を集光させるものであり、光源ランプを第1焦点に配置することで、光源ランプからの放射光を第2焦点に集光させことができる。
【0026】
集光位置調整手段は、本発明が光源ランプを水平に配置するために必要な構成要素であり、光源ランプのアークに対する地磁場の影響を相殺する手段である。
図1においては磁性体4を用いている。
【0027】
照射レンズユニット6は、単一ロッドレンズ7と小口径コリメーターレンズ群8で構成されている。
ロッドレンズ7は、角柱形状のレンズであり、長軸方向の一方が入射面で他方が照射面となる。光源ランプ2から不定な角度で入射した光束14がロッドレンズ内で全反射を繰り返しながら長軸方向に進み、他端面に到達すると均一な光束となる。入射面での乱反射の発生を抑制し、照射領域の外郭を明瞭にするために、ロッドレンズの長軸方向端のエッジは角張っていることが好ましい。従来技術において採用されていたインテグレーターレンズでは、レンズ他端面から照射された集光点が複数あるため、焦点範囲が広く単位面積当たりの光量が少なくなるが、本発明で採用したロッドレンズではレンズ他端面から照射された集光点は単一で、焦点範囲も狭く単位面積当たりの光量が多くなるという特徴がある。
【0028】
コリメータ−レンズ群8は複数のレンズから構成されており、ロッドレンズ7との間隙幅を変化させることにより、どのような大きさのエリアに対してもピントを合わせることができる。これにより、正確に照射範囲を決定することができる。
【0029】
平面反射鏡10及び波長選択フィルター11は、照射ヘッド9に収納されている。本発明では、疑似太陽光を照射領域12へ照射するため、光軸を横方向から縦方向にする目的で平面反射鏡を1枚のみ使用する。波長選択フィルター11は、光源ランプ波長分布を太陽光波長分布に近似させるために用いる波長スペクトル調整フィルターである。
なお、擬似太陽光照射装置を縦置きする場合は、光軸変更が不要なので平面反射鏡は設けない。
【0030】
楕円反射鏡3から放射光束13は、ビームスプリッター5により、透過光束14と反射光束15に分岐される。反射光束15は拡散板16及び光量減衰フィルター17を介して光電変換素子18で受光される。反射光束15は光電変換に必要なごく僅かな光量でよい。拡散板16及び光量減衰フィルター17を介することにより、光電変換素子18に対する熱的な影響を回避できる。
【0031】
本発明では、ビームスプリッター5を光源ランプ2及び楕円反射鏡3とロッドレンズ7との間に配置することにより、制御可能な安定した光量制御回路(拡散板16、光量減衰フィルター17、光電変換素子より構成される。)に分光することができる。
また、ビームスプリッター5は、低反射率の反射層からなるため、透過光束14の減衰は抑えられる。
【0032】
図3は、擬似太陽光照射装置を横置きにした場合、
図4は擬似太陽光照射装置を横置きにした場合、の本発明の環境試験装置を模式的に示したものである。擬似太陽光照射装置が小型であるため、本発明の環境試験装置は実験台(一般的な奥行きが75cm)に設置することができる。照射ヘッド33、43から照射された擬似太陽光は、採光口34、44を通して、試験室に照射35、45され、被試験対象物36、46に照射される。
【0033】
図5は、本発明の環境試験装置の採光口の一実施態様を模式的に示したものである。従来の屋内太陽電池耐久性試験装置は、光源(ハロゲン、メタルハライド)が試験室内の天井部に設置されているため、採光口は不要であった。本発明では、光源(擬似太陽光照射装置)を試験室外に設置するため、採光口が必要である。
【0034】
採光口は、天面(外界側)と底面(試験室側)に透明材料(例、石英ガラス)からなる板を嵌め、天面と底面の間に底面温度が試験室の露点温度より高くなるように加熱した乾燥気体(例、窒素)を導入し(図示せず)、結露の発生を防止している。
透明材料としては、紫外線透過率の観点から石英ガラスが好ましく、耐放射線性の観点から光学用合成石英ガラスがより好ましい。
【0035】
採光口は被試験試料への照射面積を考慮した上で、可能な限り小面積であることが望ましい。環境試験室は試験室内の温湿度を一定に保つためにその外周を断熱材で覆っており、採光口を大きくすることは断熱保温効果を低下させるからである。
本発明の採光口では、試験室内径250mm×300mmに対して、外径100mmの円を内包できる方形を採用している。ただし、本発明はこれに限定されるものではない。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明の活用例として、アモルファス太陽電池等の太陽電池セルにより構成される太陽電池セル・モジュールのJIS法に基づく環境試験、耐久性試験への適用が挙げられる。
【符号の説明】
【0037】
1…光源部筐体、2…光源ランプ、3…楕円集光鏡、4…磁性体、5…ビームスプリッター、6…照射レンズユニット、7…ロッドレンズ、8…小口径コリメーターレンズ群、9…照射ヘッド、10…平面ミラー、11…波長選択フィルター、12…照射領域、13…放射光束、14…透過光束、15…反射光束、16…拡散板、17…光量減衰フィルター、18…光電変換素子、19…XYZモーター付光軸調整ユニット。
21…光源ランプ、22…楕円集光鏡、23…第1平面反射鏡、24…波長選択フィルター、25…インテグレーターレンズ、26…第2平面反射鏡、27…コリメータ−レンズ、28…照射面。
31,41…擬似太陽光照射装置本体、32,42遮光板…照射レンズユニット部、33,43…照射ヘッド部、34,44…採光口、35,45…照射光、36,46…被試験対象物、37,47…断熱壁、38,48…温湿度コントロールユニット、39…架台。
51…断熱壁、52…石英ガラス板。