【実施例】
【0058】
以下、実施例を挙げて本発明をより詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0059】
<実施例1>
以下のようにして、cBN焼結体工具を作製した。まず、平均粒子径1.3μmのWC粉末と平均粒子径1.1μmのCo粉末と平均粒子径4μmのAl粉末とを質量比で、WC:Co:Al=25:68:7となるように混合し、真空中で1000℃、30分間熱処理した化合物を、φ4mmの超硬合金製ボールを用いて粉砕し結合相を構成する原料粉末を得た。
【0060】
次に、断熱相を形成する第1化合物の成分として、平均粒子径0.85μmのAl粉末と平均粒子径0.7μmのZr粉末とを混ぜ合わせたものを窒素雰囲気中で1000℃、30分の間熱処理することにより化合物を作製した。その後、同化合物を粗粉砕した後に、φ0.6mmのジルコニア製メディアを用いて、流速0.2L/minのエタノールの溶媒中で、メディアと化合物とを微粉砕し、粉砕に用いたメディアを取り除くことにより、断熱相を構成する第1化合物の原料粉末を準備した。
【0061】
そして、上記で得られた結合相を構成する原料粉末と断熱相を構成する第1化合物の原料粉末と平均粒子径0.9μmのcBN粉末とを焼結後のcBN含有率が60体積%になるように配合し、混合し乾燥させた。さらに、これらの粉末を超硬合金製支持板に積層してMo製カプセルに充填後、超高圧装置によって、圧力7GPa、温度1750℃で30分間焼結し、以下の表1に記した組成および熱伝導率を有するcBN焼結体を得た。また、X線回析を用いて結合相を構成する化合物の組成を求め、表1の「結合相」の欄中に示した。
【0062】
上記で得られたcBN焼結体を所定の形状に切断し、防振耐熱板を介して工具シャンク部に固定することにより、cBN焼結体工具を作製した。このようにして作製されたcBN焼結体工具に対し、所定の工具形状に研削加工を施した。ここで、工具シャンク部としては超鋼合金製のものを用い、防振耐熱板としてはZrの酸化物からなり、その厚みが1mm以上であり、その熱伝導率は3W/m・Kであるものを用いた。
【0063】
このようにして作製したcBN焼結体工具の工具作用点の表面粗さRzを表面粗さ測定機(SURFCOM 2800E(株式会社東京精密製))により測定したところ、cBN焼結体工具の工具作用点のRzは2.3μmであった。
【0064】
<実施例2〜3>
実施例1のcBN焼結体工具に対し、cBN含有率が表1のように異なる他は実施例1と同様の方法により実施例2〜3のcBN焼結体工具を作製した。
【0065】
<実施例4〜6>
実施例1のcBN焼結体工具に対し、cBN含有率および断熱相の組成が表1のように異なる他は実施例1と同様の方法により実施例4〜6のcBN焼結体工具を作製した。
【0066】
たとえば、実施例4では、断熱相を形成する第1化合物の成分として、平均粒子径0.9μmのTi粉末と平均粒子径0.7μmのZr粉末とを混ぜ合わせたものを用いた。同様に、実施例5では、平均粒子径0.9μmのTi粉末と平均粒子径0.8μmのSi粉末とを混ぜ合わせたものを、断熱相の第1化合物の成分として用い、実施例6では、断熱相を形成する成分に、平均粒子径0.85μmのAl粉末と平均粒子径0.7μmのZr粉末とを第1化合物の成分として用い、平均粒子径0.6μmのパラタングステン酸アンモニウム(5(NH
4)
2O・12WO
3・5H
2O)粉末と平均粒子径0.8μmの過レニウム酸アンモニウム(NH
4ReO
4)粉末とを、第2化合物の原料粉末として用いた。
【0067】
<実施例7〜8>
実施例1のcBN焼結体工具に対し、断熱相を構成する第1化合物の平均粒子径が表1のように異なる他は実施例1と同様の方法により実施例7〜8のcBN焼結体工具を作製した。
【0068】
たとえば、実施例7では、φ0.3mmの径のジルコニア製メディアを使用して第1化合物の原料粉末を作製し、それを用いて30nmの平均粒子径の第1化合物を含むcBN焼結体工具を作製した。ここで、第1化合物の平均粒子径は、cBN焼結体を鏡面ラップし、それを電子顕微鏡で50000倍に拡大して断熱相の第1化合物の粒子径を10点測定した平均値を算出することにより得た。
【0069】
また、実施例8では、φ1.0mmの径のジルコニア製メディアを使用して、第1化合物の原料粉末を作製し、それを用いて95nmの平均粒子径の第1化合物を含むcBN焼結体工具を作製した。
【0070】
<実施例9>
実施例4のcBN焼結体工具に対し、焼結温度を異ならしめることにより、未焼結の領域の体積%が表1のように異なる他は実施例4と同様の方法により作製した。すなわち、焼結温度を1500℃に設定してcBN粉末と断熱相を構成する第1化合物の原料粉末と結合相を構成する原料粉末とを焼結することにより、
熱伝導率が60W/m・KのcBN焼結体を含むcBN焼結体工具を得た。
【0071】
<実施例10〜11>
実施例4のcBN焼結体工具に対し、焼結時の圧力を異ならしめることにより、未焼結の領域の体積%が表1のように異なる他は実施例4と同様の方法により作製した。たとえば、実施例10では、焼結時の圧力を5.5GPaにした上で、cBN粉末と断熱相を構成する第1化合物の原料粉末と結合相を構成する原料粉末とを焼結することにより、cBN焼結体に対し0.01%の未焼結の領域を含むcBN焼結体工具を得た。
【0072】
<実施例12>
実施例4のcBN焼結体工具に対し、超高圧焼結装置を用いる代わりに、放電プラズマ焼結(SPS:Spark Plasma Sintering)装置を用いることにより、cBN焼結体工具を作製した。具体的には、SPS装置内の温度を1500℃とし、焼結時の圧力を0.05GPaに調整した上で、cBN粉末と結合相を構成する原料粉末と断熱相を構成する第1化合物の原料粉末とを焼結することによりcBN焼結体を得た。なお、SPS装置を用いたcBN焼結体の作製方法を具体的に説明すると、cBN粉末と結合相を構成する原料粉末と断熱相を構成する第1化合物の原料粉末とを混合したものをグラファイト製焼結型に充填した上で、0.05GPaに加圧し、真空加熱条件で装置内の温度を1500℃として、30分以下の間、放電プラズマ焼結を行なうことにより行なった(たとえば特開2008−121046号公報の段落[0014]参照)。
【0073】
このようにして得られたcBN焼結体を一の面で切断し、その断面に対しTEMを用いて10000倍で観察および分析をした。その結果、その断面の断面積の1.5%が未焼結であることを確認した。このことから、cBN焼結体中に1.5体積%の未焼結の領域を含むことが明らかとなった。
【0074】
また、本実施例で得られたcBN焼結体をX線回析すると、一部の領域で六方晶となっていることが確認された。このことから、実施例12の立方晶窒化硼素焼結体は、六方晶窒化硼素(hBN:Hexagonal Boron Nitride)を一部含むことが明らかとなった。この
ようにhBNが生じた理由は、おそらく焼結時の焼結圧力が低いことにより、cBNからhBNに逆変換したことによるものと推定される。
【0075】
<実施例13>
実施例4のcBN焼結体工具に対し、超高圧焼結装置を用いる代わりに、ホットプレス装置を用いることにより、cBN焼結体工具を作製した。具体的には、ホットプレス装置内の温度を1500℃とし、焼結時の圧力を0.03GPaに調整した上で、cBN粉末と結合相を構成する原料粉末と断熱相を構成する第1化合物の原料粉末とを焼結することによりcBN焼結体を得た。
【0076】
このようにして得られたcBN焼結体を一の面で切断し、その断面に対しTEMを用いて10000倍で観察・分析したところ、その断面の断面積の3%が未焼結であることを確認した。このことから、cBN焼結体中に3体積%の未焼結の領域を含むことが明らかとなった。
【0077】
また、本実施例で得られたcBN焼結体をX線回析すると、実施例12と同様に六方晶窒化ホウ素(hBN:Hexagonal Boron Nitride)を一部含むことが確認された。
【0078】
このようにして作製された各実施例のcBN焼結体工具は、少なくとも工具作用点に立方晶窒化硼素焼結体を用いた立方晶窒化硼素焼結体工具であって、立方晶窒化硼素焼結体は、立方晶窒化硼素と断熱相と結合相とを含有し、立方晶窒化硼素は、立方晶窒化硼素焼結体中に60体積%以上99体積%未満含まれ、断熱相は、Al、Si、Ti、およびZrからなる群より選択される1種以上の元素と、N、C、O、およびBからなる群より選択される1種以上の元素とからなる第1化合物を1種以上を1質量%以上20質量%以下含み、立方晶窒化硼素焼結体は、70W/m・K以下の熱伝導率のものである。
【0079】
<比較例1〜2>
比較例1〜2の立方晶窒化硼素焼結体工具は、実施例1の立方晶窒化硼素焼結体工具に対して、cBN含有率、および結合相の組成が表1のように異なり、かつ断熱相を含まないことを除いては実施例1と同様の方法により作製した。なお、このようにして作製された立方晶窒化硼素焼結体に対し、結合相を構成する成分の平均粒子径を測定したところ、いずれも100nm以上であった。
【0080】
<比較例3>
比較例3の立方晶窒化硼素焼結体工具は、実施例1の立方晶窒化硼素焼結体工具に対して、焼結後のcBN含有率を80体積%としたこと、およびφ3.5mmの径の超硬合金製メディアを使用することにより、200nmの平均粒子径の第1化合物の原料粉末を作製し、これを含むようにしたことを除いては、実施例1と同様の方法により作製した。
【0081】
【表1】
【0082】
ここで、表1の「cBN含有率」は、以下のようにして算出した。まず、各実施例および各比較例で作製されたcBN焼結体を鏡面研磨し(ただし研磨する厚みは50μm未満にとどめた)、任意の領域のcBN焼結体組織を電子顕微鏡にて10000倍で写真撮影したところ、黒色領域と灰色領域と白色領域が観察された。付属のEDXにより、黒色領域はcBN粒子、灰色領域と白色領域は結合相であることが確認された。さらに、灰色領域はCo化合物、Ti化合物、およびAl化合物であり、白色領域はW化合物であることも確認された。
【0083】
次に、上記で撮影された10000倍の写真に対し画像処理ソフトを用いて2値化処理を施し、同写真のcBN粒子が占める領域(黒色領域)の合計面積を算出し、その写真中のcBN焼結体に占める黒色領域の割合の百分率を、体積%として表1の「cBN含有率」とした。
【0084】
また、表1中の「熱伝導率」は、レーザーフラッシュ法により測定して得られたcBN焼結体の熱拡散率と、別の方法で算出されたcBN焼結体の比熱および密度とに基づいて算出した。
【0085】
このようにして得られた各実施例および各比較例の立方晶窒化硼素焼結体を用いて、以下の工具形状を有するcBN焼結体工具を作製し、切削試験1、2および塑性試験1、2を実施した。その結果を表2〜5に示す。
【0086】
<切削試験1>
実施例1〜6、および比較例1〜3について、工具型番がSNMA120430のcBN焼結体工具を作製し、以下の条件で切削試験を行なった。
被削材 :Ni基超耐熱合金インコネル718の外径加工
被削材硬度:Hv430
切削条件:切削速度 V=200m/min.
送り量 f=0.15mm/rev.
切り込み量 d=0.15mm
クーラント エマルジョン20倍希釈
【0087】
【表2】
【0088】
表2の「工具寿命に到達するまでの切削距離」には、摩耗幅が0.3mmを超えるまでに欠損が生じなかった場合にはcBN焼結体の摩耗幅が0.3mmを超えた時点の切削距離(km)を示し、摩耗幅が0.3mmを超えるまでに欠損が生じた場合には、その時点で切削試験を中断し、その時点までの切削距離(km)を示した。なお、切削距離の長さが長いものほど、工具寿命が長いことを示している。
【0089】
また、表2中の「損傷形態」においては、切削試験後のcBN焼結体の摩耗幅が0.3mmを超えた場合に「正常摩耗」と記し、それまでに欠損が生じた場合に「境界欠損」と記した。
【0090】
表2から明らかなように、実施例1〜6の本発明に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、比較例1〜3の立方晶窒化硼素焼結体工具に比し、工具寿命を長寿命化したものであることが明らかである。
【0091】
実施例1〜6の中でも実施例3の立方晶窒化硼素焼結体工具は、cBN焼結体の熱伝導率が60W/m・K以下であり、かつcBN含有率が80体積%であるため、その立方晶窒化硼素焼結体工具の寿命が最も長くなっていると考えられる。これに対し、比較例1の立方晶窒化硼素焼結体工具は、cBN焼結体の熱伝導率が60W/m・K以下であり、熱伝導率は比較的低いが、cBN含有率が60体積%でありその体積%が低いため、その強度が低下することとなり、工具寿命が短くなったものと考えられる。
【0092】
また、比較例2の立方晶窒化硼素焼結体工具は、cBN含有率が85体積%であるが、断熱相を含まないことによりcBN焼結体の熱伝導率が90W/m・Kと比較的高くなっている。このため切削加工時に生じる発熱が被削材に伝導しにくく、被削材を十分に軟化することができなかったために、境界欠損が早期に生じたものと推定される。また、比較例3の立方晶窒化硼素焼結体工具は、第1化合物の平均粒子径が100μm以上であったために、断熱相の効果を得ることができず、cBN焼結体の熱伝導率が比較的高く80W/m・K程度となっている。このため切削加工時に生じる発熱が被削材に伝導しにくく、被削材を十分に軟化することができずに、早期に境界欠損が生じたものと推定される。
【0093】
<切削試験2>
実施例9〜13および比較例2において、工具型番がCNGA120408のcBN焼結体工具を作製し、以下の条件で切削試験を行なった。
被削材 :0.8C−2.0Cu−残Fe(JPMA記号:SMF4040)
被削材硬度:78HRB
切削条件:切削速度 V=200m/min.
送り量 f=0.1mm/rev.
切り込み量 ap=0.2mm
切削液あり
【0094】
【表3】
【0095】
また、表3中の「損傷形態」において、切削試験後のcBN焼結体の表面に目視で確認できる程度のチッピングが発生している場合に「微小チッピング」と記した。なお、その他の損傷形態は、切削試験1と同様の基準で判断した。
【0096】
表3から明らかなように、実施例9〜13の本発明に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、比較例2の立方晶窒化硼素焼結体工具に比し、工具寿命を長寿命化したものであることが明らかである。
【0097】
比較例2の立方晶窒化硼素焼結体工具の工具寿命が短くなった理由はおそらく、立方晶窒化硼素焼結体の熱伝導率が70W/m・Kよりも高いことにより、加工熱が工具側に相対的に多く流入することとなり、その結果、被削材の軟化を十分に促進することができずに、工具作用点における被削材のせん断がスムーズに進行しなくなり、加工初期から加工面にむしれが発生し、加工面の面粗度が悪化したことによるものと推察される。
【0098】
<塑性試験1:パンチプレス>
実施例1、7、8、および比較例1〜3において、工具形状がφ10の円筒形状のcBN焼結体工具を作製し、以下の条件で塑性試験を行なった。
加工物 :SUS304
加工物の硬度:Hv180
加工物の厚み:2mm
塑性条件:押しぬき荷重2.5GPa
【0099】
【表4】
【0100】
表4の「パンチ回数」には、パンチ穴にバリが発生した時点までに加工物をパンチした回数を示した。なお、パンチ回数が多いほど、立方晶窒化硼素焼結体工具の硬度が向上しており、工具寿命が長くなっていることを示している。
【0101】
表4から明らかなように、実施例1、7、および8の本発明に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、比較例1〜3の立方晶窒化硼素焼結体工具に比し、工具寿命を長寿命化したものであることが明らかである。このことから、立方晶窒化硼素焼結体工具の寿命が向上していることを確認した。
【0102】
<塑性試験2:摩擦圧縮接合>
実施例1、7、8、および比較例1〜3において、直径12.7mmの円柱の中央部に、ネジ高さが3mmのM4の左ネジ形状の突起物を形成したcBN焼結体工具の底面に対し、厚み2mmのジルコニア製の防振耐熱板をロウ付けした特殊工具を作製し、以下の条件で塑性試験を行なった。
被接合材:高張力鋼を2枚重ねしたもの
被接合材の引張強度:590MPa
被接合物の厚み:1mm
接合条件:回転数 2500rpm
加圧力 10000N
【0103】
【表5】
【0104】
表5の「接合回数」には、cBN焼結体工具のネジ部が欠損するまでに、被接合材を接合した回数を示した。なお、接合回数が多いほど、工具寿命が長いことを示している。
【0105】
表5から明らかなように、実施例1、7、および8の本発明に係る立方晶窒化硼素焼結体工具は、比較例1〜3の立方晶窒化硼素焼結体工具に比し、工具寿命を長寿命化したものであることが明らかである。
【0106】
以上のように本発明の実施の形態および実施例について説明を行なったが、上述の実施の形態および実施例の構成を適宜組み合わせることも当初から予定している。
【0107】
今回開示された実施の形態および実施例は、すべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。本発明の範囲は上記した説明ではなくて特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。