特許第5725452号(P5725452)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5725452ポリエステルの処理方法、ならびに、その処理方法で得られたポリエステルを含有するポリエステル組成物および成形体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725452
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】ポリエステルの処理方法、ならびに、その処理方法で得られたポリエステルを含有するポリエステル組成物および成形体
(51)【国際特許分類】
   C08G 63/90 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
   C08G63/90
【請求項の数】3
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2010-151288(P2010-151288)
(22)【出願日】2010年7月1日
(65)【公開番号】特開2012-12523(P2012-12523A)
(43)【公開日】2012年1月19日
【審査請求日】2013年6月27日
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000003160
【氏名又は名称】東洋紡株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100075409
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久一
(74)【代理人】
【識別番号】100129757
【弁理士】
【氏名又は名称】植木 久彦
(74)【代理人】
【識別番号】100115082
【弁理士】
【氏名又は名称】菅河 忠志
(74)【代理人】
【識別番号】100125243
【弁理士】
【氏名又は名称】伊藤 浩彰
(74)【代理人】
【識別番号】100149021
【弁理士】
【氏名又は名称】柴田 有佳理
(72)【発明者】
【氏名】稲垣 潤
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 勝也
(72)【発明者】
【氏名】西 睦夫
(72)【発明者】
【氏名】池畠 良知
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 満
(72)【発明者】
【氏名】後藤 元信
【審査官】 藤井 勲
(56)【参考文献】
【文献】 特開平03−217422(JP,A)
【文献】 特開平05−031000(JP,A)
【文献】 特開2000−309663(JP,A)
【文献】 特開2003−212983(JP,A)
【文献】 特開2005−132958(JP,A)
【文献】 特開2005−023218(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 63/00 − 63/91
JDreamIII
Science Direct
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を用いて得られるポリエステルに亜臨界状態の水を接触させて、下記式:
ポリエステルの重量平均分子量の低下率 = [(処理前のポリエステルの重量平均分子量−処理後のポリエステルの重量平均分子量)/処理前のポリエステルの重量平均分子量]×100
により求めたポリエステルの重量平均分子量の低下率を50%以下に抑えつつ、前記ポリエステル中における環状三量体の含有量を処理前に比べて0.01質量%以上低減することを特徴とするポリエステルの処理方法。
【請求項2】
請求項1に記載の処理方法で得られたポリエステルを含有することを特徴とするポリエステル組成物。
【請求項3】
請求項1に記載の処理方法で得られたポリエステルを含有することを特徴とするポリエステル成形体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、抽出溶媒として水を用いて、ポリエステル中における低分子量物(特に、環状三量体)の含有量を低減するポリエステルの処理方法、ならびに、その処理方法で得られたポリエステルを含有するポリエステル組成物および成形体に関するものである。
【背景技術】
【0002】
ポリエステルは、通常、ジカルボン酸成分とグリコール成分とから重縮合反応により製造されるポリマーである。しかしながら、従来公知のポリエステルには、モノマーやオリゴマー(例えば、環状三量体)などの低分子量物が数質量%程度含まれている。このような低分子量物は、ポリエステルの加熱加工時に外部に析出して金型や工程を汚染する。また、ポリエステルをフィルムなどに加工して用いる場合には、加熱加工により表面に析出した低分子量物が欠陥となり、得られたポリエステルフィルムの品質を低下させる。
【0003】
従来、ポリエステルから低分子量物を抽出する方法として、例えば、特許文献1,2では、各種の有機溶媒を用いて、ポリエステルフィルムから低分子量物を抽出する方法が実施されている。また、特許文献3〜5では、超臨界状態の二酸化炭素を用いて、ポリエステル樹脂または成形体から低分子量物を抽出する方法が実施されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭43−23348号公報
【特許文献2】特公昭44−2120号公報
【特許文献3】特許第2893783号公報
【特許文献4】特許第2921887号公報
【特許文献5】特開2005−53968号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
最近、環境に配慮する意識の向上により、環境負荷の少ないプロセス技術への要望が高まっている。しかし、特許文献1,2の処理方法を工業的規模のポリエステル生産に利用するには、大量の有機溶媒を用いるので、環境問題のみならず、有害物質の取り扱いも困難であり、事実上実施することができない。さらに、特許文献3〜5の処理方法では、低分子量物の抽出に一定の効果は認められるものの、処理により大量の二酸化炭素を排出するので、環境への悪影響がある。また、抽出効率を向上するためにジオキサンなどの有機溶媒を抽出助剤として用いることがあるので、工業的規模のポリエステル生産に利用するにあたっては、環境リスクが非常に高い。
【0006】
上述した状況の下、本発明が解決すべき課題は、環境性能に優れ、工業的規模のポリエステル生産に利用可能なポリエステルの処理方法、ならびに、その処理方法で得られたポリエステルを含有するポリエステル組成物および成形体を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、種々検討の結果、抽出溶媒として超臨界または亜臨界状態の水を用いれば、ポリエステルから低分子量物(特に、環状三量体)を効率的に抽出できることを見出して、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、ポリエステルに超臨界または亜臨界状態の水を接触させて、ポリエステル中における環状三量体の含有量を処理前に比べて0.01質量%以上低減することを特徴とするポリエステルの処理方法を提供する。
【0009】
この処理方法においては、下記式:
ポリエステルの重量平均分子量の低下率 = [(処理前のポリエステルの重量平均分子量−処理後のポリエステルの重量平均分子量)/処理前のポリエステルの重量平均分子量]×100
により求めたポリエステルの重量平均分子量の低下率が好ましくは50%以下である。
【0010】
また、本発明は、上記のようなポリエステルの処理方法で得られたポリエステルを含有することを特徴とするポリエステル組成物および成形体を提供する。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、抽出溶媒として水を用いているので、環境性能に優れ、工業的規模のポリエステル生産に利用可能なポリエステルの処理方法を提供することができる。この処理方法で得られたポリエステルは、低分子量物(特に、環状三量体)の含有量が低減されているので、工業的に好適に利用することができ、例えば、ポリエステル組成物および成形体に用いられる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
≪ポリエステルの処理方法≫
本発明によるポリエステルの処理方法(以下「本発明の処理方法」ということがある)は、ポリエステルに超臨界または亜臨界状態の水を接触させて、ポリエステル中における環状三量体の含有量を処理前に比べて0.01質量%以上低減することを特徴とする。
【0013】
<ポリエステル>
本発明の処理方法において、ポリエステルとは、ジカルボン酸成分とジオール成分との重縮合により得られる主鎖にエステル結合を有する高分子化合物である。代表的なジカルボン酸成分としては、例えば、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、それらの誘導体などが挙げられる。代表的なジオール成分としては、例えば、エチレングリコール、1,3−プロパンジオール、ブチレングリコール、ポリエチレングリコール、ジエチレングリコール、ネオペンチルグリコール、それらの誘導体などが挙げられる。
【0014】
本発明の処理方法に好適なポリエステルは、ジカルボン酸成分として芳香族ジカルボン酸を用いて得られるポリエステルであり、その具体例としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリトリメチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレン−2,6−ナフタレートなどが挙げられる。これらのポリエステルのうち、ポリエチレンテレフタレートが特に好適である。
【0015】
ポリエチレンテレフタレート(以下「PET」ということがある)を製造する方法としては、例えば、テレフタル酸とエチレングリコールとを直接エステル化させる方法(必要に応じて、他のジカルボン酸成分、他のジオール成分を併用してもよい);テレフタル酸ジメチルエステルとエチレングリコールとをエステル交換させる方法(必要に応じて、他のジカルボン酸メチルエステル、他のジオール成分を併用してもよい);などが挙げられるが、特に限定されるものではなく、任意の製造方法を用いることができる。
【0016】
ポリエステルを製造する際には、従来公知の触媒、例えば、マグネシウム化合物、カルシウム化合物、チタン化合物、マンガン化合物、コバルト化合物、アルミニウム化合物、ゲルマニウム化合物、リン化合物、アンチモン化合物などを用いることができ、特に限定されるものではない。
【0017】
本発明の処理方法において、処理されるポリエステルは、粗製または精製状態の樹脂、組成物、成形体、再生品(リサイクル品)など、いかなる形態であってもよい。また、処理されるポリエステルは、例えば、安定剤、顔料、染料、核剤、充填剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤などの添加剤を含有していてもよい。
【0018】
<ポリエステルの処理>
本発明の処理方法において、抽出溶媒としては、超臨界または亜臨界状態の水が用いられる。この処理方法に用いられる水は、特に限定されるものではなく、例えば、蒸留水、脱イオン水などを用いることができる。
【0019】
通常、水は、温度および圧力に応じて、固体−液体−気体の3つの状態をとる。水は、1気圧(約0.1MPa)の大気圧下では、約100℃で気体(水蒸気)になるが、約22MPaの圧力をかけると、約374℃まで液体状態を保持する。本発明では、温度が100℃以上、374℃以下、圧力が0.1MPa以上、22MPa以下の領域であり、かつ、物質状態図における気液平衡の共存線以上の領域にある液体状態の水を亜臨界状態の水と定義する。この領域では、水分子の凝集力と拡散力とが拮抗状態にある。そして、水分子の凝集力と拡散力とがほぼ等しくなる点(温度が約374℃、圧力が約22MPa)を臨界点という。本発明では、臨界点以上の温度および圧力の領域にある水を超臨界状態の水と定義する。この領域では、水は気体でも液体でもない特殊な性質を発現する。
【0020】
ポリエステルに含まれる低分子量物のうちオリゴマーは、通常状態の水に難溶である。ところが、超臨界または亜臨界状態の水は、オリゴマー(特に、環状三量体)を効率よく溶解する。この作用機構については、よく分からないが、超臨界または亜臨界状態では、水の極性が変化しているのではないかと推察している。
【0021】
本発明の処理方法は、ポリエステルに超臨界または亜臨界状態の水を接触させることにより、ポリエステルに含まれる低分子量物(特に、環状三量体)を効率よく除去することができる。この処理方法では、水が超臨界または亜臨界状態であることが重要であり、そのような状態の水を調製する方法は、特に限定されるものではない。以下、本発明の処理方法における具体的な処理条件について説明する。
【0022】
本発明の処理方法において、水の温度は、好ましくは100℃以上、より好ましくは125℃以上、さらに好ましくは150℃以上である。また、水の圧力は、飽和水蒸気圧以上であれば、特に限定されるものではないが、好ましくは0.1MPa以上、より好ましくは1MPa以上、さらに好ましくは3MPa以上である。このような高圧高温の水を用いることにより、ポリエステルから低分子量物(特に、環状三量体)を効率よく抽出して除去することができる。
【0023】
本発明の処理方法では、抽出溶媒として水を用いているので、ポリエステルが加水分解を起こして、その分子量が低下することがある。そのため、水の温度は、好ましくは400℃以下、より好ましくは350℃以下、さらに好ましくは300℃以下である。また、水の圧力は、好ましくは30MPa以下、より好ましくは25MPa以下、さらに好ましくは20MPa以下である。ポリエステルの分子量低下を抑制し、かつ、低分子量物(特に、環状三量体)を効率よく抽出して除去するという、相反する2つの機能を併せ持つという点では、臨界点近傍の亜臨界状態の水を用いることが好ましい。
【0024】
本発明の処理方法における処理時間としては、特に限定されるものではないが、好ましくは3分間以上、より好ましくは5分間以上である。また、処理時間が長くなると、ポリエステルの加水分解が進行しやすくなるので、処理時間は、好ましくは300分間以下、より好ましくは200分間以下、さらに好ましくは100分間以下である。
【0025】
ポリエステルに超臨界または亜臨界状態の水を接触させることにより、ポリエステルに含まれる低分子量物(特に、環状三量体)を効率よく抽出して除去することができる。そのため、ポリエステル中における環状三量体の含有量を処理前に比べて0.01質量%以上、より好ましくは0.02質量%以上、さらに好ましくは0.04質量%以上低減することができる。このような環状三量体の低減量は、上記のような処理条件により達成することができる。
【0026】
本発明の処理方法では、温度条件などを制御することにより、ポリエステルの加水分解を制御することが好ましい。具体的には、下記式:
ポリエステルの重量平均分子量の低下率 = [(処理前のポリエステルの重量平均分子量−処理後のポリエステルの重量平均分子量)/処理前のポリエステルの重量平均分子量]×100
により求めたポリエステルの重量平均分子量の低下率が好ましくは50%以下、より好ましくは30%以下、さらに好ましくは10%以下となるように、ポリエステルの加水分解を制御する。
【0027】
ポリエステルと水との接触方法としては、環状三量体の含有量を低減できる限り、特に限定されるものではないが、例えば、ポリエステルと超臨界または亜臨界状態の水とを密閉した容器内で攪拌または振動するか、あるいは、ポリエステルに超臨界または亜臨界状態の水を流通させることなどが可能である。
【0028】
≪ポリエステル組成物および成形体≫
本発明の処理方法で得られたポリエステルは、例えば、ポリエステル組成物および成形体に用いられる。本発明のポリエステル組成物および成形体は、本発明の処理方法で得られたポリエステルを含有すること以外は、従来公知のポリエステル組成物および成形体と同様である。それゆえ、ポリエステル以外の成分などは、従来公知のポリエステル組成物および成形体と同様に構成すればよい。すなわち、本発明のポリエステル組成物および成形体は、従来公知のポリエステル組成物および成形体のポリエステルを本発明の処理方法で得られたポリエステルで構成することにより得られる。
【0029】
例えば、本発明のポリエステル組成物または成形体には、本発明の処理方法で得られたポリエステルを単独で用いても2種以上を併用してもよい。また、本発明のポリエステル組成物または成形体には、本発明の処理方法で得られたポリエステルと、本発明の処理方法で得られたポリエステル以外のポリエステルとを併用してもよい。さらに、本発明のポリエステル組成物または成形体には、その最終用途に応じて、例えば、安定剤、顔料、染料、核剤、充填剤、紫外線吸収剤、酸化防止剤、抗菌剤、帯電防止剤、滑剤、離型剤などの添加剤を配合していてもよい。
【0030】
なお、ポリエステル成形体とは、ポリエステルまたはその組成物を様々な方法で成形したものであり、例えば、ポリエステルペレット、ストランド状のポリエステル、ポリエステル繊維(例えば、ステープルやフィラメント)、ポリエステルフィルム、ポリエステルシート、ポリエステルの中空成形体(例えば、ボトル)などが挙げられる。具体例としては、例えば、衣料用繊維;カーテン、カーペット、布団綿などに代表されるインテリア・寝装用繊維;タイヤコード、ロープなどに代表される産業資材用繊維;織物、編物、短繊維不織布、長繊維不織布などの各種布用繊維;包装用フィルム、工業用フィルム、光学用フィルム、磁気テープ用フィルム、写真用フィルム、缶ラミネート用フィルム、コンテンサ用フィルム、熱収縮フィルム、ガスバリアフィルム、白色フィルム、易カットフィルムなどの各種フィルム;A−PET、C−PETなどの各種シート;非耐熱延伸ボトル、耐熱延伸ボトル、ダイレクトブローボトル、ガスバリアボトル、耐圧ボトル、耐熱圧ボトルなどの中空成形体;ガラス繊維強化ポリエステル、ポリエステルエラストマーなどに代表されるエンジニアリングプラスチックの各種成形体;などが挙げられる。また、ポリエステル成形体は、ポリエステルと他の素材とを複合または結合させたものであってもよい。
【実施例】
【0031】
以下、実施例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明はもとより下記の実施例により制限を受けるものではなく、前・後記の趣旨に適合し得る範囲で適当に変更を加えて実施することも可能であり、それらはいずれも本発明の技術的範囲に包含される。
【0032】
≪ポリエステルの評価方法≫
下記の方法により、ポリエステルの重量平均分子量およびその低下率、固有粘度、ポリエステル中における環状三量体の低減量を評価した。
【0033】
<重量平均分子量およびその低下率>
処理前後の細かく粉砕したポリエステル4mgをヘキサフルオロイソプロパノール(HFIP)/クロロホルム(容量比2/3)の混合溶媒0.4mLに溶解させた後、クロロホルム7.6mLで希釈して、試料溶液とした。高速GPC装置(東ソー株式会社製、HLC−8320GPC)を用いて、温度40℃、検出器:UV254nmの条件下で、スチレンを基準物質として、GPC測定を行って、重量平均分子量を求めた。
【0034】
なお、重量平均分子量の低下率は、下記式:
ポリエステルの重量平均分子量の低下率 = [(処理前のポリエステルの重量平均分子量−処理後のポリエステルの重量平均分子量)/処理前のポリエステルの重量平均分子量]×100
により求めた。
【0035】
<固有粘度>
固有粘度は、JIS K 7367−5に準拠し、溶媒としてフェノール(60質量%)と1,1,2,2−テトラクロロエタン(40質量%)との混合溶媒を用いて、30℃で測定した。単位はdL/gである。
【0036】
<環状三量体の低減量>
処理前後の細かく粉砕したポリエステル0.1gをヘキサフルオロイソプロパノールール(HFIP)/クロロホルム(容量比2/3)の混合溶媒3mLに溶解させた。得られた溶液にクロロホルム20mLを加えて、均一に混合した。得られた混合液にメタノール10mLを加えて、ポリエステルを再沈殿させた。次いで、この混合液を濾過して、沈殿物を採取した。得られた沈殿物をクロロホルム/メタノール(容量比2/1)の混合溶媒30mLで洗浄し、さらに濾過した。得られた濾液をロータリーエバポレーターで濃縮乾固した。濃縮乾固物にジメチルホルムアミド10mLを加えて、測定溶液とした。この測定溶液に含まれる環状三量体を、高速液体クロマトグラフィー(横河電気株式会社製、LC100型)を用いて定量した。
【0037】
処理前のポリエステル中における環状三量体の含有量(単位は質量%)から処理後のポリエステル中における環状三量体の含有量(単位は質量%)を減算して、環状三量体の低減量(単位は質量%)を求めた。
【0038】
≪ポリエステルの調製≫
ジメチルテレフタレート1,000質量部、エチレングリコール700質量部、酢酸亜鉛・2水和物0.3質量部をエステル交換反応缶に仕込み、温度120〜210℃でエステル交換を行い、生成するメタノールを留去した。エステル交換が終了した時点で、リン酸0.13質量部および三酸化アンチモン0.3質量部を加え、系内を徐々に減圧にし、75分間で1mmHg以下とした。同時に、徐々に昇温して、温度280℃とした。同条件で70分間重縮合反応を行い、溶融ポリマーを吐出ノズルより水中に押し出し、カッターにより切断して、直径約3mm、長さ約5mmの円柱チップ状の粗製ポリエステルを得た。得られた粗製ポリエステルの固有粘度は0.61dL/g、重量平均分子量は48,000、環状三量体の含有量は1.05質量%であった。
【0039】
次いで、固相重合を行った。得られたポリエステルの固有粘度は1.02dL/g、重量平均分子量は100,000、環状三量体の含有量は0.33質量%であった。得られたポリエステルの評価結果を、比較例1として、表1に示す。
【0040】
≪ポリエステルの処理≫
<実施例1>
反応セルにポリエステルを入れ、ポンプから抽出溶媒である蒸留水を供給し、セル内とステンレスチューブ内とを抽出溶媒で充填した。セル内部の圧力が5MPaになるように排圧弁を調整し、抽出溶媒を4mL/minの流量で流し続けた。その後、反応セル内部の温度を190℃まで上昇させ、10分間処理を行った。処理終了後、抽出溶媒の供給を停止させ、降温し、排圧弁を開いて圧力を大気圧に戻し、ポリエステルを取り出した。得られたポリエステルの評価結果を表1に示す。
【0041】
<実施例2>
処理圧力を15MPa、抽出溶媒の流量を2mL/min、処理時間を20分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルを処理した。得られたポリエステルの評価結果を表1に示す。
【0042】
<実施例3>
抽出溶媒の流量を2mL/min、処理時間を20分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルを処理した。得られたポリエステルの評価結果を表1に示す。
【0043】
<実施例4>
抽出溶媒の流量を2mL/min、処理時間を40分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルを処理した。得られたポリエステルの評価結果を表1に示す。
【0044】
<実施例5>
処理温度を175℃、抽出溶媒の流量を2mL/min、処理時間を70分間に変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルを処理した。得られたポリエステルの評価結果を表1に示す。
【0045】
<実施例6>
処理温度を150℃、抽出溶媒の流量を2mL/minに変更したこと以外は、実施例1と同様にして、ポリエステルを処理した。得られたポリエステルの評価結果を表1に示す。
【0046】
【表1】
【0047】
表1から明らかなように、いずれの実施例においても、ポリエステルに所定の温度および圧力の水を接触させることにより、環状三量体の低減量が0.01質量%以上となる、すなわちポリエステル中における環状三量体の含有量が処理前に比べて0.01質量%以上低減する。また、この処理によるポリエステルの重量平均分子量の低下率は、50%以下である。かくして、本発明の処理方法は、ポリエステルの分子量低下を抑制し、かつ、低分子量物(特に、環状三量体)を効率よく抽出して除去するという、相反する2つの機能を併せ持つことがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0048】
本発明は、抽出溶媒として水を用いているので、環境性能に優れた従来にないクリーンなポリエステルの処理技術として、また、工業的規模のポリエステル生産に利用可能な低コストのポリエステルの処理技術として、ポリエステルに関連する産業分野で多大の貢献をなすものである。