【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の第1態様に拠れば、水塊中の位置用の波力ポンプ装置が提供され、当該装置は、前記水塊の底に固定されるように構成されボアを形成している潜水可能シリンダと、当該シリンダに作用し、この潜水可能シリンダを水中において直立状態に付勢するように構成された水中フロートと、波動及び潮汐動に応じて前記水塊中を上下に移動するように水面又はその十分な近傍に配設される表面フロートと、この表面フロートから垂下するとともに、前記潜水可能シリンダのボア内に
挿入され、前記潜水可能シリンダに対して相対移動可能であって前記潜水可能シリンダ内にポンプチャンバを形成する長手部材とを有し、ここで、波動とともにこのポンプチャンバの容積がポンプサイクルで変化して、前記長手部材の上昇ストロークによってこのポンプチャンバ内に流体を取り込み、前記長手部材の下降ストロークによってポンプチャンバ内から流体を吐き出し、水底に対して前記潜水可能シリンダを動かす必要無く、有効ポンプサイクルが潮汐範囲にわたって連続しながら、前記長手部材を前記シリンダに対して伸長又は退避させることによって、ポンプチャンバの長さが変化する潮汐深さに対して適合し、前記長手部材が前記潜水可能シリンダのボア内に退避する程度に、前記長手部材は前記ボアの断面積の大きな部分を占める。
また、前記水中フロートは、前記潜水可能シリンダの上端部に対して作用し、前記ポンピングチャンバが前記水中フロートの下方の高さまで前記シリンダ内を伸長する。
【0012】
本発明は、従来のシステムよりも、より単純で安価でしかも効果的である。コスト節約は、少なくともその一部は、公知のシステムよりも数の少ないパーツを使用することによるものである。例えば、本発明は、別体の高さ調節可能プラットフォームや、それに対応した潮位変化に対応するべくシリンダを上下させる弁を必要としない。その代わりに、本発明では、潮位変化に対応するためにシリンダに対して長手部材を伸長、退避させる。満潮時には長手部材はシリンダから大きく延出するのに対して、干潮時には長手部材はその大部分がシリンダ内に退避する。
【0013】
長手部材は、公知のシステムの対応の長手部材(又は接続ロッド)よりも遥かに大きい。従来のシステムと異なり、本発明の長手部材は大きな径を有し、シリンダ内に退避した時にボアの断面積の大きな部分を占める。
【0014】
この大径の長手部材は、シリンダから延出した時に、水中において受ける強い側方からの力による曲げや座屈に耐えることができる。このように変形に耐えることができる能力によって、この長手部材は、従来技術のシステムと比較してより長い時間、大きな延出状態または露出位置に留まることが可能である。その結果、従来技術のシステムでは、接続ロッドが長時間延出状態となることを防止するために高さ調節可能なシリンダを利用しているのに対して、本発明の装置は、潮位変化に対して伸縮自在に対応することができる。
【0015】
通常、長手部材は、ボアの直径の少なくとも90%の直径を有する。当該ボアの直径は500〜1600mmの範囲とすることができる。好ましくは、ボアは少なくとも550mmの直径を有する。長手部材の直径は500〜1500mmの範囲とすることができる。勿論、この装置を非常に深い水中で使用したり、波又は潮位変化の非常に大きな水中で使用する場合においては、前記装置は遥かに大きなものとなることが理解されるであろう。前記装置は、又、更に大量の流体を揚水/排水するべくスケールアップすることも可能である。その結果、前述した種々の部材の大きさはこれらの範囲を超えることがありうることが理解されるであろう。
【0016】
長手部材は、ほぼ円形の断面を備えたものとしたり、或いは、その長さ方向に沿って実質的に均一な断面積を備えるものとすることができる。長手部材はピストンとして作用する。この長手部材の表面フロートから離間した下端部に、ピストンヘッドを設けることができる。このピストンヘッドは、長手部材に接続される別体のパーツとして構成してもよいし、或いは、長手部材の閉じられた下端部によってそれを形成してもよい。別の実施例では、端部開口長手部材を使用することができる。長手部材の上端部に出口を設けることができる。この出口は長手部材の上方に取り付けられた発電機と連通することができる。
【0017】
前記装置は、好ましくは、長手部材の下降ストロークが主たる(或いは唯一の)作用ストロークであるものとして構成される。長手部材が閉じられた下端部を備える実施例において、シリンダが直立状態にある時、主ポンプチャンバは長手部材の下方に位置する。但し、長手部材が開口した端部を有する場合には、ポンプチャンバは、長手部材内を上方に延出することができる。これらの両方の場合において、シリンダが直立状態にある時、ポンプチャンバの少なくとも大部分が前記シリンダの最上端部の下方にあることが好ましい。又、これら両方の場合において、長手部材はポンプチャンバを占有もしないし、又それを通して延出しない。従って、本発明においては長手部材のサイズを制限する必要が無い。
【0018】
伸縮式潮汐調節を容易にするために、長手部材は従来技術の接続ロッドよりも遥かに長い。同様に、シリンダは、従来技術のシリンダよりも遥かに高い。通常、シリンダと長手部材とは、それぞれ10〜20メートルの長さにされる。但し、特定の水塊に適合するべくそれよりも長いパーツ又は短いパーツを製造することも可能である。好ましくは、潜水可能シリンダと長手部材とは少なくとも10メートルの長さである。前記装置は、潮によって深さの極端な変化が生じる水塊での使用に適している。例えばある種の水塊では12メートルに達する深さの変化が起こる。このような潮汐範囲に対応するために、15メートルのシリンダと15メートルの長手部材とが使用されるかもしれない。これによっても、満潮時において長手部材が更に3メートル波動往復移動することが可能である。勿論、必要な場合、更に大きな波に対応するためにシリンダと長手部材とを更に長くすることも可能であろう。
【0019】
長手部材は、金属又は強化コンクリートから形成することができ。或いは、長手部材はプラスチック材から形成することも可能である。好ましくは、長手部材は、高密度ポリエチレン(HDPE)から形成される。更に、長手部材は複合構造にすることも可能である。特に、長手部材は強化複合材から形成することができる。例えば、長手部材をガラス又はナイロン繊維強化HDPE等の繊維強化プラスチック材から形成することができる。
【0020】
好適には、長手部材は中空構造、若しくは、内部空洞を形成するものとして構成される。例えば長手部材を筒状にして、実質的に円形の断面を有するものとすることができる。そして、その空洞に骨材、水、金属又はその他の高密度材などのバラストを設けることによって水中において長手部材を安定化することができる。前記バラストは、又、長手部材の重量を増大させ、その下降ポンピングストロークを補助する。
【0021】
ボア内においてシリンダと長手部材との間に形成されるクリアランス領域は環状にすることができる。そして、このクリアランス領域の幅を長手部材の直径の5%未満にすることができる。好ましくは、このクリアランス領域の幅は、長手部材の直径の2%未満、より好ましくは1.5%未満である。通常、クリアランス領域の幅は5〜10mmの範囲である。好ましくは、前記クリアランス領域の幅は約7mmである。
【0022】
前記長手部材は、好ましくはボア内にスライド可能に装着される。このスライド自在装着を容易にするために、クリアランス領域内にベアリングを設けてもよい。長手部材の外側表面に第1のベアリングを取り付けることができる。この第1ベアリングは長手部材の下端部に装着することができる。シリンダの内壁に第2ベアリングを装着することができる。この第2ベアリングはシリンダの上端部に配置することができる。このようなベアリング構成は、長手部材をシリンダ内において同心状に維持するのに役立つ。
【0023】
前記装置は、その使用時において、クリアランス領域に、植物や藻が堆積してシリンダ内での長手部材の移動を潤滑するように構成することができる。シリンダ内での長手部材の移動中に、過剰な厚みの植物又は藻を除去するために、クリアランス領域の入口にスクレーパを設けることができる。このスクレーパは、又、シリンダのこの部分に、フジツボや軟体動物が付着することも防止する。前記装置は、その使用時において、クリアランス領域に形成される水膜によってシリンダ内での長手部材の移動が潤滑されるように構成することも可能である。
【0024】
表面フロートは、ブイ部分とバラスト部分とを備えたものとすることができる。そしてそのブイ部分には空気を充填することができる。バラスト部分はタンクを備えたものとすることができ、このタンクには、骨材又は水をバラストとして格納することができる。水を使用する場合、必要な場合、バラストを変化させるべく、タンク内の水の量を動的に制御することができる。例えば、荒れた状態においては、表面フロートを水中に沈めるべくタンクに十分な水が入るようにすることができる。穏やかな状態では、例えば、アキュムレータから、空気をタンクに送り込んで、タンク内の水の一部又は全部を追い出して表面フロートを再び上昇させるように構成することができる。或いは、所望の場合、通常の使用状態において表面フロートが波動に応じて往復移動するために水面に十分に近い状態で、水中に沈められるように構成することも可能である。バラスト部分は、追加的に、又は、代替的に、コンクリート又は鋳鉄等の金属からなるウエイトを備えることができる。
【0025】
前記シリンダは、ロープ、鎖、ケーブル等の繋ぎ具によって水底に固定することができる。繋ぎ具を使用することは、リジッドな連結構造と比較して、簡便かつ安価である。但し、本発明にはシリンダを直立位置回りで回動可能にするボールジョイントなどのリジッドな連結も含まれる。繋ぎ具は、必要とあれば、水中におけるシリンダの高さを容易に決定および/又は調節することを可能にする。シリンダは、繋ぎ具を取り付けることが可能なフランジを備えることができる。シリンダには、単数又は複数の繋ぎ具をそれに取り付けることが可能な単一の繋ぎポイントを備えさせることができる。好ましくは、単一の繋ぎ具が水底に対してシリンダを連結するのに使用される。単一の繋ぎ具によって、一般的な潮流に対して調節するべく装置を固定ポイント回りで自由に移動させることが可能となる。単一の繋ぎ具によって、複数の繋ぎシステムの場合に問題となりうる、「引っ掛け(snatching)」が防止される。
【0026】
水中フロートは、下降ポンプストローク中において前記長手部材と表面フロートの下方の力に耐えるために十分な浮力を持ったものとされる。繋留システムにおいて、水中フロートは、繋ぎ具が下降ポンプストローク中においてピンと張った状態を維持するのに十分な浮力を有する。この構成は、下降ストロークを作用ストロークとして利用する場合、水底にリジッドに接続される必要のある、又は、固定されたプラットフォームにリジッドに連結される必要のある大半の従来システムと対照的である。その結果、本発明のポンプ装置は、自立、独立式である。多くの従来技術システムと対照的に、ポンプ装置は、それ自身を水中で直立に支持するための追加の安定化手段を必要としない。
【0027】
水中フロートは、好適にはシリンダの上端部に対し作用する。本発明の好適実施例において水中フロートは、シリンダの上端部回りに固定されたジャケットの形状である。このジャケットには空気を充填することができる。この構成において、長手部材が閉鎖端部構造である場合、ポンプチャンバを形成する前記ボアの一部は、水中フロートの下方のレベルまでシリンダ内を
伸長する。同様に、長手部材が開口端部構造である場合も、ポンプチャンバの大部分はそれでも水中フロートの下方に位置することになる。これは、同等のボアとポンプチャンバが水中フロートの上方に位置する従来技術システムと対照的である。本発明は、重心の位置が低く、従って、自立型の従来技術装置よりも安定性が高いという利点を提供する。
【0028】
ポンプ装置は、ポンプチャンバと連通する出口を有する。送り出される流体を遠隔地に導くために当該出口にパイプ又はホースを接続することができる。好適には、前記出口は、シリンダの下端部領域に設けることができる。この出口を低いレベルに設けることによって、パイプ又はホースがシリンダを水中においてその直立位置から引っ張ることのないようにすることができる。更に、出口を低いレベルに設けることは、装置が自動フラッシュ式であるということを意味し、シリンダの底部に沈んだ沈泥やその他のデブリをこの出口を通して下降ポンプストローク時に流し出すことができる。
【0029】
ポンプ装置は、更に、ポンプチャンバと連通する入口を備えることができる。同様に、この入口はシリンダの下端部領域に設けることができる。この位置において、周囲の水はその深さにより比較的高い圧力を受ける。従って、この入口からポンプチャンバに入る流体によって、上昇ストロークにおける長手部材の上方移動が補助され加速される。前記入口を十分に低いレベルに設けることによって、この作用が、長手部材がシリンダ内において最大限まで退避する干潮時を含むあらゆる潮汐状態で実現される。入口を低いレベルに設けることのもう一つの利点は、これによって、直射日光に対する入口の露出が最小限になって、それによって、この入口上又はその周りでの、藻の成長、植物、藻、軟体動物やフジツボの堆積が最小化されることである。
【0030】
ポンプ装置は、好ましくは周囲の水塊から揚水するように構成される。この場合、前記入口を周囲の水と連通するように構成することができる。汲み上げられた水は、水力電気の発電又は淡水化に利用することができる。或いは、ポンプ装置は、前記入口を適当な流体リザーバに接続することによって、オイル又はガスなどのその他のタイプの流体をポンピングするように構成することができる。
【0031】
好ましくは、前記装置は単動式である。但し、複動式の装置も本発明の範囲に含まれる。
【0032】
本発明の第2の態様に拠れば、波動ポンプ装置を使用して流体をポンピングする方法が提供され、前記ポンプ装置が、浮力によって直立位置に対して付勢される潜水可能シリンダと、当該シリンダに対して往復移動するように構成された長手部材と、前記シリンダの上方に配設され、かつ、前記長手部材に接続されたフロートとを備え、前記フロートと前記長手部材とが水塊の波動及び潮力に応じて前記潜水可能シリンダに対して往復移動するように構成されたものにおいて、前記方法は、波動ポンプサイクル中に流体をポンピングし、それによって前記水塊の波動によって前記フロートと長手部材とがある周波数で、かつ前記水塊の波の周波数と振幅とによって駆動される程度に前記潜水可能シリンダに対して往復移動される工程と、そして、潮汐周期中に前記長手部材を前記潜水可能シリンダに対して伸縮移動させることによって、この潮汐周期中全体を通じて流体をポンピングする波動ポンプサイクルを維持しながら前記水塊の潮汐変動に対して調節する工程と、を有する。
【0033】
海洋における連続する波のピーク間の時間は、7〜12秒間の範囲で変動する可能性があり、より一般的にはそれは8〜9秒間であり、それは、典型的には約8.5秒間である。波動ポンプ周期は、これらの連続する波のピーク間の時間間隔にほぼ等しい時間を有する。
【0034】
ここで、連続する満潮間の時間として定義される潮汐周期は水塊に依存するが、通常は、約2.5時間である。この潮汐周期を有する水塊中に載置された場合、長手部材のシリンダからの平均延出は、満潮時において最大約2.5時間毎になる。
【0035】
前記方法は、最大で12メートルの潮汐範囲を有する水塊中で前記装置を作動させることを含むことができる。潮汐範囲とは、干潮と満潮との間での水の平均深さの変化を意味する。尚、水塊の潮汐範囲は太陰周期によって変化し、最大の潮汐範囲は大潮間に生じ、最小の潮汐範囲は小潮潮流間で生じることが理解されるであろう。シリンダと長手部材とは、好ましくは波動往復移動が満潮時においても継続されることを許容しながら、大潮を含む、完全潮汐範囲を許容するのに十分な長さを有する。その結果、前記方法は、満潮に対して適合するべく、長手部材を前記シリンダから最大で12メートル(そして大潮時には更にそれ以上)延出させ、満潮時には波動往復動を許容するべく長手部材が前記シリンダから更にそれ以上延出することを許容する工程を含むことができる。風力6の状態、即ち雄風の状態において、海における波の山から谷の高さは典型的には3〜4メートルである。風力9の状態、即ち大強風の状態において、波の高さは7〜10メートルにも達し、風力11あるいは12の風、即ち大嵐やハリケーンにおいて、波の高さは16メートルにも達する可能性がある。従って、前記方法は、このような大きさの波を有する水塊中においてポンプ装置を作動させることを含みうる。
【0036】
前記方法は、潮汐期間中において水塊中で前記シリンダの高さを実質的に維持する工程を含むことができる。シリンダの高さを維持することは、水底と前記シリンダの底部との間に実質的に一定の分離を維持することを含みうる。
【0037】
本発明の概念は、以下を有する単動式波動ポンプ装置を含む。即ち、水底に繋ぎ止められるとともに、水中フロートによって水中で直立状態に支持される潜水可能シリンダ、このシリンダはその内部において長手ピストン部材が伸縮自在に受け入れられるボアを形成している。ピストン部材は、その上端部において、ボア内において当該ピストン部材を駆動するべく、波動に対応して水中で往復移動するようにシリンダの上方に配設された表面フロートに接続されている。ピストン部材は、少なくとも使用時において前記ボア内に受け入れられるその長さ部分に渡って実質的に均一な断面を有し、前記断面は前記ボアの断面の大きな部分を占める。
【0038】
本発明の概念は、更に、波動ポンプ装置を使用して流体をポンピングする方法も含み、この方法は以下の工程を有する。水塊にシリンダを浸水させる。このシリンダはボアを形成している。水底にシリンダーを連結する。浸水フロートを使用して前記シリンダを実質的に直立姿勢に維持する。表面フロートを、波動及び潮動に応じて水塊中を上下に移動するように水塊の表面又はこの表面の十分近傍に配設する。シリンダ内にポンプチャンバを形成するべくシリンダのボア内に長手部材を伸縮自在に延出させる。長手部材は表面フロートの上端部に接続されている。長手部材の上昇ストロークを利用して波高の増加に伴ってポンプチャンバ内に流体を引き入れる。長手部材の下降ストロークを利用して波高の減少に伴って前記ポンプチャンバから流体を排出する。有効なポンプサイクルを潮汐範囲にわたって連続させながら、前記装置を変化する潮の深さに適合させるためにポンプチャンバの長さを変化させるべく潮汐移動に応じてシリンダに対して長手部材を延出又は退避させる。