(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
外周に沿った内側に複数の軸方向筋を配置させたコンクリート製の既存柱の特定の面を補強面とし、この補強面に対して間隔を保って補強鋼板を対向させ、この補強鋼板と上記補強面との空間内に、上記既存柱の軸線に沿った軸方向筋を少なくとも一対配置するとともに、上記空間内にグラウト材を充填して補強部を形成したコンクリート柱の補強構造であって、
上記既存柱には、
上記補強面から、上記既存柱において上記補強面に対向する面である非補強面に沿って設けられた軸方向筋位置を通過する位置に至るまで連続するとともに、上記非補強面側に配置された既存の軸方向筋のうち、既存柱の両外側に最も近い一対の軸方向筋のそれぞれの内側近傍を通過する一対の横方向筋用挿入孔を形成し、
これら横方向筋用挿入孔のそれぞれには、その先端が上記非補強面に沿った既存の軸方向筋位置を通過する位置まで達する横方向筋を挿入し、
上記横方向筋外周と横方向筋用挿入孔との隙間に充填固化材を充填する一方、
上記横方向筋における上記補強部側の端部は、上記補強面から上記補強部内に突出し、この突出部は上記補強部内の軸方向筋とともに補強部のグラウト材中に埋設されることを特徴とするコンクリート柱の補強構造。
上記一対の横方向筋における上記補強部側の一対の突出部が連結手段によって連結され、上記一対の横方向筋が一体化したことを特徴とする請求項1又は2に記載のコンクリート柱の補強構造。
【背景技術】
【0002】
建物の耐震性を向上させるため、例えば、
図6のように、断面が四角形の鉄筋コンクリート製の既存柱1の特定の側面のみを補強するものが知られている。このような鉄筋コンクリート製の既存柱1の従来の補強構造は、既存柱1の前面を補強面1aとし、この補強面1aに補強部Xを結合したものである。
【0003】
上記既存柱1は、柱の外周に沿った内側に複数の軸方向筋2が配置され、これら軸方向筋2を囲む図示しないフープ筋が配置されている。なお、既存柱1内の軸方向筋2のうち、後で説明する非補強面1b側の角に配置された軸方向筋に符号2a,2bを付しているが、以下の説明において、その配置を特に区別する必要がない場合には、いずれの軸方向筋も軸方向筋2とし、「a」、「b」を省略して説明することにする。
上記補強部Xは、補強面1aを所定の間隔を保って一対の鋼板3,4で囲み、鋼板3,4で囲まれた空間内に軸方向筋5a,5bを設け、この軸方向筋5a,5bを設けた上記空間にグラウト材7を充填して形成されている。
【0004】
上記一対の鋼板3,4は、それぞれ断面L字状の鋼板であり、既存柱1の表面に平行に配置される前面部3a,4aと、これらに直交する側面部3b、4bとからなる。各鋼板3,4の軸方向長さは、対向する既存柱1の軸方向長さを複数に分割した長さにしている。
そして、上記一対の鋼板3,4の前面部3a,4aの先端同士を重ね合わせて幅を既存柱1の幅に合わせるとともに、これら前面部3a,4aを、既存柱1の前面から所定の間隔を保って配置する。このようにした鋼板3,4を、既存柱1の軸方向に複数連続的に積層設置して、既存柱1の補強面1aを覆うようにしている。
さらに、上記鋼板3,4の表面には帯状シート6を貼り付けて、隣り合う鋼板3,4同士や、上下に連続する鋼板3,4同士を連結している。
【0005】
また、既存柱1の前面であってグラウト材7の充填空間に対応する面には、既存柱1の幅方向に所定の間隔を保った一対のアンカーボルト8,8をあらかじめ打ち込んでおく。具体的には、既存柱1の前面に打ち込み穴を形成し、その中に注入した接着剤でアンカーボルト8を固定している。上記アンカーボルト8,8は既存柱1の軸方向においても所定の間隔を保って複数打ち込まれている。
これらのアンカーボルト8によって、グラウト材7と既存柱1の前面との密着性を高めることができる。
【0006】
さらに、上記一対の鋼板3,4の対向する側面部3b,4bの対向間には外周にねじ溝を形成したタイバー9をわたし、その両端を上記側面部3b,4bから外部へ突出させている。そして、この突出部にナット10をねじ止めして上記対向する側面部3b,4bの間隔を保持するようにしている。
なお、上記のように配置された上記鋼板3,4を図示しない型枠や支持部材によって、押さえた状態で、グラウト材7を充填し、上記型枠などは、グラウト材7が硬化したら取り除くようにしている。なお、
図6中、符号11は壁である。
【0007】
このように既存柱1の特定の側面のみを補強する構造は、柱の全周を補強することが困難な場合に用いることができる。例えば、既存柱1の特定の面が外部に露出していれば、その外側の面のみを上記鋼板3,4で囲って補強部Xを形成できるため、室内空間を狭くすることなく、既存柱1を補強できるというメリットがある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上記した従来の補強構造において、例えば、補強面1aに沿った方向の曲げ力F1が既存柱1に作用すると、補強面1aに直交する両側面に沿った既存柱1内の複数の軸方向筋2からなる軸方向筋群2A、2Bと補強部X内の補強筋5a,5bとが曲げ耐力を発揮する。具体的には、一方の側面に沿った軸方向筋群2Aと補強部X内の一方の軸方向筋5aとが連係し、他方の側面に沿った軸方向筋群2Bと補強部X内の他方の軸方向筋5bとが連係して上記曲げ力F1に対する曲げ耐力を発揮することが期待されている。
【0010】
しかし、従来の補強構造では、補強部Xを既存柱1の補強面1a側だけに設けているので、既存柱1において上記補強面1aと対向する側面である非補強面1b側と補強部Xとの連係は、現実にはそれほど強くない。特に、上記既存柱1の一方の側面側において、非補強面1b側に位置する軸方向筋2aと補強部Xの軸方向筋5a、他方の側面側において非補強面1b側に位置する軸方向筋2bと補強部のXの軸方向筋5bとは連係が弱いため、これら既存の軸方向筋2a,2bと補強部X内の軸方向筋5a,5bとが個別に曲げ耐力を発揮することになる。
【0011】
このように、既存柱1内の非補強面1b側の軸方向筋2と補強部X内の軸方向筋5とが連係せずに個別に曲げ耐力を発揮してしまうのでは、補強面1aに補強部Xを形成しても、その耐力が、既存柱1に補強部Xを結合させた補強柱の全体の耐力向上に有効に寄与していないことになる。
特に、大きな外力が作用した場合には、既存柱1と補強部Xとが分断され、既存柱1が壊れてしまうこともあった。
【0012】
つまり、上記従来の補強構造では、補強部Xによって補強柱の強度を十分に上げることができなかった。
この発明の目的は、既存柱の特定の面に補強部を設ける補強構造において、上記補強部の耐力が、補強柱全体の耐力の向上に有効に寄与し、十分な補強効果を得ることができる、コンクリート柱の補強構造を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0013】
この発明は、外周に沿った内側に複数の軸方向筋を配置させたコンクリート製の既存柱の特定の面を補強面とし、この補強面に対して間隔を保って補強鋼板を対向させ、この補強鋼板と上記補強面との空間内に、上記既存柱の軸線に沿った軸方向筋を少なくとも一対配置するとともに、上記空間内にグラウト材を充填して補強部を形成したコンクリート柱の補強構造を前提とする。
第1の発明は、上記補強構造を前提とし、上記既存柱には、上記補強面から、上記既存柱において上記補強面に対向する面である非補強面に沿って設けられた軸方向筋位置を通過する位置に至るまで連続するとともに、上記非補強面側に配置された既存の軸方向筋のうち、既存柱の両外側に最も近い一対の軸方向筋のそれぞれの内側近傍を通過する一対の横方向筋用挿入孔を形成し、これら横方向筋用挿入孔のそれぞれには、その先端が上記非補強面に沿った既存の軸方向筋位置を通過する位置まで達する横方向筋を挿入し、上記横方向筋外周と横方向筋用挿入孔との隙間に充填固化材を充填する一方、上記横方向筋における上記補強部側の端部は、上記補強面から上記補強部内に突出し、この突出部は上記補強部内の軸方向筋とともに補強部のグラウト材中に埋設されることを特徴とする。
上記「一対の軸方向筋のそれぞれの内側近傍を通過する一対の横方向筋用挿入孔」の「近傍」とは、上記軸方向筋に発生した応力が、上記横方向筋用挿入孔に挿入した横方向筋に伝達される程度に近い範囲のことである。
【0014】
第2の発明は、上記横方向筋における上記補強部側の突出部が、当該横方向筋の軸に交差する方向の定着部を備えたことを特徴とする。
【0015】
第3の発明は、上記一対の横方向筋における上記補強部側の一対の突出部が連結手段によって連結され、上記一対の横方向筋が一体化したことを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
第1の発明によれば、横方向筋を介して、既存柱内の軸方向筋と補強部内の軸方向筋とが連係し、これらが協働して曲げ耐力を発揮することができる。つまり、補強部と既存柱との一体化がより確実になり、補強部の耐力が既存柱と補強部とからなる補強柱の耐力向上に有効に機能することになる。
また、横方向筋は、既存柱及び補強部においてせん断補強筋としても機能するので、曲げ耐力だけでなく、せん断耐力など、補強柱の総合的な耐力を向上させることができる。
さらに、横方向筋の挿入方向先端付近では、既存柱のコンクリートが充填固化材を介して横方向筋で保持され、横方向筋は補強部のグラウト材で保持されているので、既存柱の非補強面側のコンクリートを横方向筋によって補強部側へ引っ張って保持することができる。そのため、非補強面側のコンクリートが崩壊しにくくなり、既存柱の崩壊を防止できる。
また、横方向筋において補強部内に突出した突出部は、補強部のグラウト材と結合し、補強部と補強面との結合力を高め、既存柱と補強部とが一体となって補強柱の耐力を向上させることができる。
【0017】
第2の発明によれば、横方向筋の突出部に備えた定着部が、補強部に対する横方向筋の定着力を上げることができる。 そのため、補強部が既存柱との一体性が向上する。
第3の発明によれば、一対の横方向筋が連結され、補強柱の耐ねじれ性を向上させる。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1に示す第1実施形態は、既存柱1の一側面である補強面1aに結合した補強部Xを形成した補強構造である。特定の補強面1aに補強部Xを結合した点は、
図6の従来の補強構造と同じである。そして、上記従来例と同様の構成要素には
図6と同じ符号を用いている。
上記既存柱1は、上記
図6に示す従来技術で説明した通りであるが、既存柱1内に配置されている軸方向筋2が、この発明の既存の軸方向筋である。
【0020】
この第1実施形態では、補強部Xを構成する鋼板として、上記従来の断面L状の鋼板3,4に替えて、断面コ字状の補強鋼板12を用いている。この補強鋼板12は、補強面1aに正対させる前面部12aと一対の側面部12b,12cとからなり、上記側面部12b,12cの対向間隔を既存柱1の幅に合わせている。
また、補強鋼板12の軸方向長さを、既存柱1の軸方向長さを複数に分割した長さにして、複数の補強鋼板12を既存柱1の軸方向に積層することによって、既存柱1の補強面1aを覆うようにしている。
【0021】
そして、
図1では省略しているが、上記補強鋼板12の表面には
図6に示す帯状シート6と同様の帯状シートを接着している。この帯状シートを、上下に連続する補強鋼板12の境目をまたいで接着することによって上下の補強鋼板12同士を連結することができる。なお、この帯状シートを接着しなくても、上下の補強鋼板12同士は、補強部X内のグラウト材によって連結可能であるし、溶接などの他の連結手段を用いて連結することも可能である。
【0022】
また、この第1実施形態では、既存柱1の補強面1aに、非補強面1bに向かう一対の横方向筋用挿入孔13,14を形成している。これら一対の横方向筋用挿入孔13,14は、その軸方向位置、すなわち高さ位置をほぼ等しくし、その先端が、補強面1aから非補強面1b側の軸方向筋2a,2bを通過する位置に達するようにしている。また、上記一対の横方向筋用挿入孔13,14は、非補強面1b側に配置された軸方向筋2のうち既存柱1の両外側に最も近い一対の軸方向筋2a,2bの内側近傍を通過する位置に形成されている。
【0023】
上記横方向筋用挿入孔13,14のそれぞれには、充填固化材である接着剤を注入するとともに、上記横方向筋用挿入孔13,14の長さよりも長い、横方向筋15、16を挿入する。このとき、上記横方向筋15,16の先端が、非補強面1b側に配置された軸方向筋2a,2bを通過する位置に達するまで、横方向筋15,16を挿入する。
そのため、上記横方向筋15,16も、既存柱1の軸方向筋2a,2bの内側近傍を通り、上記軸方向筋2a,2bを通過する位置まで達することになる。
なお、上記充填固化材としては、流動状効果性樹脂や、無機モルタルなど、コンクリートと一体化する様々な材料を用いることができる。
さらに、横方向筋15,16は、横方向筋用挿入孔13,14に打ち込んだとき、その先端が拡開して上記横方向筋用挿入孔13,14内に固定されるものを用いれば横方向筋15,16の固定がより強固になる。
【0024】
一方、横方向筋15,16の後端側は、補強面1aより既存柱1の外方へ突出し、突出部15a,16aが構成されるようにしている。
なお、上記一対の横方向筋15,16は、既存柱1の軸方向に沿って、所定の間隔で複数組配置するようにしている。
上記突出部15a,16aのそれぞれの端部には、プレートナット17を取り付けている。プレートナット17の頭部は、各横方向筋15,16の軸に交差する方向のこの発明の定着部を構成する。
【0025】
また、上記補強面1aの前方であって、上記補強鋼板12で囲まれる位置には一対の軸方向筋5a,5bを配置し、上記補強鋼板12と補強面1aとの空間内にグラウト材7を充填する。
上記グラウト材7を充填し固化させる間は、従来と同様に補強鋼板12を図示しない型枠や支持装置によって固定している。
グラウト材7が固化し、上記横方向筋15,16の突出部15a,16aが、上記軸方向筋5a,5bとともにグラウト材7に埋設された補強部Xが形成される。
【0026】
この補強部Xが既存柱1に結合した補強柱においては、上記一対の横方向筋15,16が、既存柱1内で非補強面1b側の軸方向筋2a、2bの内側近傍を通過し、横方向筋用挿入孔13,14に充填した接着剤と孔周囲のコンクリートを介して既存の軸方向筋2aや2bと連係している。なお、上記近傍とは、上記軸方向筋2a,2bに発生した応力が、上記横方向筋15,16に伝達される程度に近い範囲のことである。
また、このように応力が互いに伝達される状態を連係ということにする。
一方、補強部Xでは新たなグラウト材7を介して、軸方向筋5aと横方向筋15が連係し、軸方向筋5bと横方向筋16とが連係している。
したがって、横方向筋15によって非補強面1b側の軸方向筋2aと補強部X内の軸方向筋5aとが連係し、横方向筋16によって非補強面1b側の軸方向筋2bと補強部X内の軸方向筋5bとが連係することになる。
【0027】
このように、補強部X内の軸方向筋5a,5bと既存柱1内の軸方向筋2a,2bとが連係すると、例えば矢印F1方向の曲げ力に対し、補強部X内の軸方向筋5a,5bと既存柱1内の軸方向筋2a,2bとが協働して曲げ耐力を発揮し、補強柱全体の耐力が上がることになる。
また、既存柱1において上記非補強面1b側の軸方向筋2a,2bだけでなく、他の軸方向筋2も、各横方向筋15,16の近傍に位置していれば、上記と同様に、既存柱1内の軸方向筋群2Aと補強部X内の軸方向筋5a、既存柱1内の軸方向筋群2Bと補強部X内の軸方向筋5bとが協働してさらに曲げ耐力を向上させることができる。そして、横方向筋15、16に沿って配置された複数の軸方向筋2が連係し、上記軸方向筋群2Aと軸方向筋5aとが協働し、軸方向筋群2Bと軸方向筋5bとが協働すれば、補強柱は、図示の矢印F2のようなねじれに対しても大きな耐力を発揮できる。
しかも、上記横方向筋5a,5bは、せん断補強筋としても機能するため、既存柱1に補強部Xを結合した補強柱はせん断耐力も向上し、この第1実施形態の補強構造によれば、補強柱全体の総合的な耐力向上が実現する。
【0028】
さらに、上記プレートナット17の頭部で定着部を構成し、補強鋼板12と補強面1aとの空間内に充填するグラウト材7に対する横方向筋15,16の定着力を高め、両者の結合を強力にしている。このように、各横方向筋15,16と補強部Xとの結合が強力になれば、それだけ補強部Xと既存柱1とがより強く一体化して、補強部Xが補強柱の耐力向上に効率的に寄与することになる。
さらにまた、横方向筋15,16の先端付近では、周囲のコンクリートが接着剤を介して横方向筋15,16で保持される。そして、横方向筋15,16は補強部Xのグラウト材で保持されているので、既存柱1の非補強面1b側のコンクリートを横方向筋15,16によって補強部X側へ引っ張って保持することができる。そのため、本来なら、崩れやすい非補強面1b側のコンクリートが崩壊しにくくなり、結果として既存柱1の崩壊を防止できる。
【0029】
図2に示す第2実施形態の補強構造は、一対の横方向筋15,16の突出部15a,16aが連結部18によって連結され、横方向筋15,16が一体化しているものである。その他の構成は上記第1実施形態と同じである。そして、第1実施形態と同じ構成要素には、
図1と同じ符号を用い、第1実施形態と同じ構成についての説明は省略する。
なお、
図2では省略しているが、この第2実施形態においても補強鋼板12の表面には帯状シートを接着している。
第2実施形態では、1本の棒部材を曲げ加工して、連結部18を介して上記横方向筋15,16を連結した部材を、一対の横方向筋15,16として用いている。そして、既存柱1には、上記横方向筋15,16の間隔に合わせて横方向筋用挿入孔13,14を形成し、この横方向筋用挿入孔13,14に一対の横方向筋15,16を同時に挿入するようにする。
【0030】
ただし、既存柱1に形成した横方向筋用挿入孔13,14に、別部材の横方向筋15,16を挿入してから、突出部15a,16aの端部に別の棒部材を溶接などで結合して連結部18を構成してもよい。このように連結部18を別部材にすれば、上記横方向筋用挿入孔13,14を形成する位置の精度を多少ラフにできる。
一方、一対の横方向筋15,16をあらかじめ一体化した部材を用いるようにすれば、現場での連結作業が省略できるとともに、溶接ができない現場にも対応できる。
【0031】
この第2実施形態においても、上記非補強面1b側の軸方向筋2a,2bを通過する位置まで達する上記軸方向筋15,16が、非補強面1b側の軸方向筋2a、2bと補強部X内の軸方向筋5a,5bとを協働させ、曲げ耐力を上げるとともに、補強柱の総合的な耐力を向上させることができる。
また、軸方向筋15,16の先端側のコンクリートが崩壊しにくくなり、既存柱1の崩壊を防止できることも上記第1実施形態と同じである。
さらに、上記連結部18が補強部X内のグラウト材7に密着して定着する定着部となるため、補強部Xと既存柱1との一体化がより一層確実なものとなって、補強部Xが補強柱の耐力向上に効率的に寄与する。
さらにまた、一対の横方向筋15,16が連結部18を介して一体化することによって、矢印F2のようなねじれに対する耐ねじれ性もより向上する。
【0032】
図3に示す第3実施形態の補強構造は、横方向筋15,16の形状が、
図2に示す第2実施形態と異なるが、その他の構成は上記第2実施形態と同じである。第2実施形態と同じ構成要素には
図2と同じ符号を用い、第2実施形態と同じ構成についての説明は省略する。
この第3実施形態の横方向筋15,16は、それぞれL字状の棒部材で、突出部15a,16aに直交する直交部15b,16bを備えている。
各横方向筋15,16を、既存柱1に形成した横方向筋用挿入孔13,14に挿入して固定する際に、上記直交部15bと16bの先端側を重ね合わせ、この重ね合わせ部分を、ワイヤー19で縛って連結する。このようにして、一対の横方向筋15,16が一体化すれば、補強柱の耐ねじれ性がより向上する。
なお、上記直交部15b、16bは溶接や接着剤によって連結することもできる。
【0033】
この第3の実施形態においても、上記非補強面1b側の軸方向筋2a,2bを通過する位置まで達する上記軸方向筋15,16が、非補強面1b側の軸方向筋2a、2bと補強部X内の軸方向筋5a,5bとを協働させ、曲げ耐力を上げるとともに、補強柱の総合的な耐力を向上させることができる。
また、軸方向筋15,16の先端側のコンクリートが崩壊しにくくなり、既存柱1の崩壊を防止できることも上記他の実施形態と同じである。
さらに、上記直交部15b,15bが補強部X内のグラウト材7に密着して定着する定着部となるため、補強部Xと既存柱1との一体化がより一層確実なものとなる。
【0034】
なお、上記第1〜3実施形態では、コ字状の補強鋼板12で補強部Xを構成しているが、補強部Xを構成する鋼板の形状や構成は、これに限らない。例えば、
図6に示すように一対の鋼板3,4によって補強鋼板を構成することもできる。
また、上記一対の鋼板3,4の先端を重ね合わせずに突合せて補強鋼板を構成してもよい。
【0035】
図4に示す第4実施形態の補強構造は、補強部Xを構成する補強鋼板を一対の分割鋼板20,21で構成している点が、
図2に示す第2実施形態と異なるが、その他の構成は上記第2実施形態と同じである。第2実施形態と同じ構成要素には
図2と同じ符号を用い、第2実施形態と同じ構成についての説明は省略する。
この第4実施形態の分割鋼板20、21は、それぞれ補強面1aと対向する前面部20a,21aと、この前面部20a,21aに直交する側面部20b,21bとを備えるとともに、上記前面部20a,21aの先端には補強面側に向かって突出するリブ20c,21cを備えている。このリブ20c,21cは各分割鋼板20,21の前面部20a,21a端部を折り曲げて形成してもよいし、別部材を取り付けて形成してもよい。
【0036】
各分割鋼板20,21は、その軸方向長さを、既存柱1の軸方向長さを複数に分割した長さにしているが、上記リブ20c,21cは、前面部20a,21aの端部において、各分割鋼板20,21の軸方向全長にわたって形成されている。
このような複数の分割鋼板20,21を既存柱1の軸方向に積層することによって、既存柱1の補強面1aを覆う。その際、上記リブ20cと21cとを接触させて、両分割鋼板20,21の位置決め作業を容易にできる。
また、上記接触するリブ20cと21c同士をスポット溶接、接着、ビス止めなどの結合手段によって結合し、補強鋼板として一体化してもよい。
そして、その外周には図示しない帯状シートを接着する。
【0037】
この第4実施形態においても、上記非補強面1b側の軸方向筋2a,2bを通過する位置まで達する上記軸方向筋15,16が、非補強面1b側の軸方向筋2a、2bと補強部X内の軸方向筋5a,5bとを協働させ、曲げ耐力を上げるとともに、補強柱の総合的な耐力を向上させることができる。
また、非補強面1b側である軸方向筋15,16の先端側のコンクリートが崩壊しにくくなり、既存柱1の崩壊を防止できることも上記他の実施形態と同じである。
さらに、上記連結部18が補強部X内のグラウト材7に密着して定着する定着部となるため、補強部Xと既存柱1との一体化がより一層確実なものとなる。
また、一対の横方向筋15,16が連結することによって耐ねじれ性も向上する。
【0038】
図5に示す第5実施形態は、直交する壁11,11が連続する、四角柱の既存柱1に対する補強構造である。
第5実施形態においても、上記第2実施形態と同様の構成要素には、
図2と同じ符号を用い、第2実施形態と同様の構成についての説明は省略する。
この第5実施形態は、既存柱1の一つの角を挟んだ2つの側面を補強面1a,1cとし、これら2つの補強面1a,1cを、補強鋼板22で囲んで補強部X’を形成している。そして、上記既存柱1において補強面1aに対向する側面1bと、補強面1cに対向する側面1dがそれぞれ非補強面1b,1dである。
【0039】
上記補強部X’は次のように形成される。
補強面1aには、この補強面1aに対向する非補強面1bへ向かい、非補強面1b側に配置された軸方向筋2a、2bを通過する位置まで連続する一対の横方向筋用挿入孔13,14を既存柱1の軸方向に沿って複数組形成する。そして、この横方向筋用挿入孔13,14に接着剤を注入してから、連結部18で一体化された横方向筋15,16をそれぞれ横方向筋用挿入孔13,14に挿入し固定する。
さらに、上記補強面1aの前方に一対の軸方向筋5a,5bを配置する。
【0040】
もう一方の補強面1cにも、上記補強面1aと同様に、横方向筋用挿入孔13’,14’を形成する。この横方向筋用挿入孔13’,14’は、上記横方向筋用挿入孔13,14と同様に、補強面1cに対向する非補強面1dへ向かい、非補強面1d側に配置された軸方向筋2c,2aを通過する位置まで連続する孔である。
これら軸方向筋用挿入孔13’,14’も既存柱1の軸方向に沿って複数組形成する。
ただし、軸方向筋用挿入孔13’,14’は、その軸方向位置、すなわち高さ位置を、上記補強面1aから形成された上記軸方向筋用挿入孔13,14と干渉しない位置に設定している。
【0041】
そして、上記軸方向筋用挿入孔13’,14’には、突出部15a’,16a’を連結部18’で結合して一体化された一対の軸方向筋15’,16’をそれぞれ挿入し、これら横方向筋15’,16’を接着剤で横方向筋用挿入孔13’,14’に固定する。このとき、各軸方向筋15’,16’の先端は、非補強面1d側の軸方向筋2c,2aを通過する位置まで達するようにしている。
さらに、上記補強面1cの前方にも一対の軸方向筋5c,5dを配置する。
【0042】
上記のように、横方向筋15,16、15’,16’及び軸方向筋5a,5b,5c,5dを配置したら、これらを囲む補強鋼板22を設置する。
この補強鋼板22は、上記補強面1aと対向する前面部22aと、この前面部22aに連続して補強面1cと対向する前面部22bを備えるとともに、これら前面部22a,22bと補強面1a,1cとの間隔を保持する側面部22c,22dを備えた鋼板部材である。
また、この補強鋼板22の軸方向長さを、既存柱1の軸方向長さを複数に分割した長さにして、複数の補強鋼板22を既存柱1の軸方向に積層することによって、既存柱1の補強面1aを覆うようにしている。そして、積層した補強鋼板22の外周面には図示していない帯状シートを接着して、積層した補強鋼板22同士を連結するようにしている。
【0043】
上記補強鋼板22を、補強面1a,1cに対向させて配置したら、型枠や支持部材で補強鋼板22の位置を保ち、上記補強鋼板22と補強面1a,1cとの空間内にグラウト材7を充填する。上記グラウト材7が硬化したら補強部X’が完成する。
この第5実施形態では、上記補強面1a側における補強部X’内の軸方向筋5a,5bが非補強面1b側の軸方向筋2a,2bと協働するとともに、補強部1c側における補強部X’の軸方向筋5c,5dが非補強面1d側の軸方向筋2c,2aと協働して曲げ耐力を発揮する。
また、この第5実施形態においても、上記他の実施形態と同様に、各横方向筋15,16,15’,16’の先端近傍に位置するコンクリートを保持できる。そのため、補強部X’が結合されていない2つの非補強面1b,1dにおいてコンクリートが崩壊することを防止でき、結果として既存柱1の崩壊を防止できることになる。
【0044】
さらに、補強部X’と既存柱1との結合力が強く、両者が一体化しているため、補強部X’の耐力が補強柱の耐力向上に有効に寄与する効果は、他の実施形態と同様である。
なお、上記連結部18及び連結部18’が、それぞれこの発明の定着部を構成している。この連結部18,18’がグラウト7に密着して、横方向筋15,16、15’,16’のグラウト材7への定着力を高めている。これにより、補強部X’と既存柱1との一体化がより一層確実なものとなる。
さらに、連結部18によって一対の横方向筋15,16が連結され、連結部18’によって一対の横方向筋15’,16’が連結されることによって、全方向のねじれに対する耐ねじれ性も向上する。
また、この第5実施形態の補強鋼板22を、補強面1a,1cに沿って分割した複数の分割鋼板で構成してもよい。
【0045】
上記第1〜5実施形態では、補強鋼板の側面部を既存柱1の幅に合わせて設置し、その位置を型枠あるいは支持部材で保持するようにしているが、補強鋼板の保持には他の手段を用いてもよい。例えば、補強鋼板の両脇に取り付け片を設けて、この取り付け片を壁11に固定するようにしてもよい。このような保持手段を、型枠などと併用することで、グラウト材の充填時や養生時における補強鋼板の変形や移動を抑制することができる。
【0046】
また、上記実施形態1〜5は、補強鋼板の軸方向長さを既存柱1の軸方向長さを分割した長さにして積層し、積層された補強鋼板同士を帯状シートで連結するようにしているが、この帯状シートは必須ではない。
積層した補強鋼板や、分割鋼板は充填したグラウト材や他の連結手段によっても連結することは可能である。例えば、各補強鋼板の軸方向端部に、既存柱1に向かって突出する横リブを形成して、これら横リブ同士を溶接やビスなどで連結して補強鋼板を一体化することもできる。
このような横リブは、上記した第1〜5実施形態のいずれにも適用可能であり、上下の横リブを重ね合わせることにより、補強鋼板の積層作業の作業性を向上させることもできる。
【0047】
なお、積層した補強鋼板を、帯状シートの接着以外の連結手段によって連結できたとしても、さらに帯状シートを接着することによって補強鋼板の一体性がより高まれば、補強部X、X’の強度をより高く保つことができる。
また、上記帯状シートは、補強鋼板同士を連結する機能だけなく、それを補強鋼板の外周面に接着することによって、上記補強鋼板に靱性を付加して補強鋼板の強度を上げる機能も発揮する。
【0048】
さらに、上記
図1〜5では、既存柱1の補強面1a,1cと、壁11の表面とが面一になっている例を示しているが、壁11の位置はこの発明の補強構造には関係ない。この発明の補強構造は、壁11の位置にかかわりなく、既存柱1の特定の面を補強するものである。
また、例えば、補強面1aが、壁11より補強部X側に突出している場合には、既存柱1の側面において壁11より突出している部分まで、補強鋼板の側面部を伸ばして、そこを既存柱1に止めボルトなどで固定してもよい。
【解決手段】 既存柱1の補強面1aを補強鋼板12で囲み、補強鋼板12と補強面との空間内にグラウト材7を充填して補強部Xを形成した補強構造を前提とし、既存柱1には、補強面1aから、非補強面1bに沿って設けられた軸方向筋位置を通過する位置に至るまで連続し、非補強面1b側に配置された既存の軸方向筋2のうち、両外側に最も近い一対の軸方向筋2a,2bの内側近傍を通過する一対の横方向筋用挿入孔13,14を形成し、横方向筋用挿入孔13,14に挿入し、接着剤で固定した横方向筋15,16の突出部15a,16aが、補強部X内軸方向筋5a,5bとともに補強部のグラウト材中に埋設される構成にした。