(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725489
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】医療用組成物および医療用キット
(51)【国際特許分類】
A61L 27/00 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
A61L27/00 Q
【請求項の数】6
【全頁数】30
(21)【出願番号】特願2008-169433(P2008-169433)
(22)【出願日】2008年6月27日
(65)【公開番号】特開2010-5211(P2010-5211A)
(43)【公開日】2010年1月14日
【審査請求日】2010年12月17日
【審判番号】不服2013-10588(P2013-10588/J1)
【審判請求日】2013年6月5日
(73)【特許権者】
【識別番号】506122327
【氏名又は名称】公立大学法人大阪市立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】110000338
【氏名又は名称】特許業務法人HARAKENZO WORLD PATENT & TRADEMARK
(72)【発明者】
【氏名】福本 真也
(72)【発明者】
【氏名】小山 英則
(72)【発明者】
【氏名】西沢 良記
(72)【発明者】
【氏名】古薗 勉
(72)【発明者】
【氏名】岡田 正弘
【合議体】
【審判長】
新居田 知生
【審判官】
冨永 保
【審判官】
小川 慶子
(56)【参考文献】
【文献】
特開2006−130007(JP,A)
【文献】
特開2004−167202(JP,A)
【文献】
特開2003−310256(JP,A)
【文献】
特開2006−6125(JP,A)
【文献】
特開2005−52224(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61L27/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生体吸収性高分子からなる支持体、および前記支持体上に設けられたハイドロキシアパタイトからなる表層を有する担体と、
前記担体の表面に備えられた細胞と、を含み、
前記細胞は、骨髄単核細胞であり、
前記支持体および前記担体の形状は、粒子状であり、
前記担体の粒子径は、10μm〜200μmであり、
前記生体吸収性高分子は、ポリ乳酸、乳酸とカプロラクトンとの共重合体、または、乳酸とグリコール酸との共重合体であることを特徴とする血管新生用の医療用組成物。
【請求項2】
前記担体は、多孔質であることを特徴とする請求項1に記載の血管新生用の医療用組成物。
【請求項3】
前記担体の表面に、血管新生サイトカインが備えられていることを特徴とする請求項1または2に記載の血管新生用の医療用組成物。
【請求項4】
前記血管新生サイトカインは、aFGF、bFGF、VEGF、HGF、PDGF、PIGF、TNF、EGF、angiopoietin、IL、HAPO、Shh、TGF−β、G−CSF、M−CSF、SCF、EPO、TPO、およびFltからなる群より選択される少なくとも1つのサイトカインであることを特徴とする請求項3に記載の血管新生用の医療用組成物。
【請求項5】
請求項1〜4の何れか1項に記載の血管新生用の医療用組成物と、
前記血管新生用の医療用組成物を生体に投与するための注射器と、を備えることを特徴とする医療用キット。
【請求項6】
生体吸収性高分子からなる支持体、および前記支持体上に設けられたハイドロキシアパタイトからなる表層を有する担体と細胞とを混合する工程を含み、
前記細胞は、骨髄単核細胞であり、
前記支持体および前記担体の形状は、粒子状であり、
前記工程では、前記担体1粒子あたり1×1010個以下の前記細胞を混合し、
前記生体吸収性高分子は、ポリ乳酸、乳酸とカプロラクトンとの共重合体、または、乳酸とグリコール酸との共重合体であることを特徴とする血管新生用の医療用組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、血管新生を誘導することができる医療用組成物および医療用キットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、糖尿病患者や慢性腎不全患者の増加に伴い、その合併症である末梢動脈疾患(例えば、閉塞性動脈硬化症など)を煩う患者数も増加している。末梢動脈疾患では、例えば四肢末梢動脈の狭窄や閉塞が起こり、その結果、難治性潰瘍や壊疽が生じる。難治性潰瘍や壊疽が進行した場合、四肢を切断する必要が生じる場合もあり、このような重篤な患者数も近年増加している。
【0003】
1997年に浅原らにより成人ヒト末梢血中から血管内皮前駆細胞が分離同定された(例えば、非特許文献1参照)。その後、骨髄中に存在する多能性幹細胞または血管内皮前駆細胞が、各組織における正常な血管新生および病的な血管新生(血管発生)に関与することが明らかになった(例えば、非特許文献2参照)。
【0004】
当該知見に基づき、骨髄または末梢血より分離した多能性幹細胞などを虚血下肢または虚血心筋に直接移植して血管新生を誘導し、これによって、正常な血流を再生しようとする試みがなされている(細胞移植による血管新生療法)。
【0005】
例えば、ヒトの下肢虚血に対する自家骨髄単核細胞移植は、2000年末から世界に先駆けて我が国で行われており、現在では日本全国の十数箇所の施設において行われている(例えば、非特許文献3参照)。具体的には、大阪市立大学においては2002年から現在に至るまでに慢性重症下肢虚血患者に対して、自家骨髄単核細胞移植を11例(うち、透析患者3例)行うとともに、末梢血単核細胞移植を11例(うち、透析患者2例)行っている。なお、上記自家骨髄単核細胞移植の有効率は、全体では62.5%であり、透析患者では33.3%であった(例えば、非特許文献4参照)。
【0006】
近年では、骨髄細胞の中でも、より幼若なCD34陽性細胞を濃縮して移植する方法(例えば、非特許文献5参照)や、末梢血単核細胞移植時に顆粒球増殖因子(G−CSF)を併用する方法(例えば、非特許文献6参照)なども試みられている。しかしながら、当該方法においては、未だに元の方法の有効性を超えるような結果は得られていない。
【0007】
また、血管増殖性サイトカイン(例えば、bFGFなど)を、潰瘍治療や血管新生療法に用いる試みもなされている。具体的には、血管増殖性サイトカインをゼラチンハイドロゲル(例えば、非特許文献7参照)またはゼラチンマイクロスフェア(例えば、非特許文献8参照)などの担体に担持させて、当該担体を生体に投与している。
【0008】
また、近年においては、人工的な担体に細胞を固定化させて、当該担体を生体内に埋設することによって血管新生を誘導しようとする試みもある(例えば、特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2004−51952(公開日:平成16年2月19日)
【非特許文献1】Science, 275:964-967, 1997
【非特許文献2】Curr. Opin. Mol. Ther., 4:395-402, 2002
【非特許文献3】Lancet, 360:427-435, 2002
【非特許文献4】日本透析医学会雑誌, 37:1493-1501, 2004
【非特許文献5】Hypertension, 46:7-18, 2005
【非特許文献6】J. Cardiovasc Pharmacol Ther., 12:89-97, 2007
【非特許文献7】J. Biomater. Sci., Polym. Eds., 2005, 16, 893-902
【非特許文献8】J. Thorac. Cardiovasc. Surg. 2002, 124:50-56
【非特許文献9】Circulation, 109:1543-1549, 2004
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
しかしながら、上記従来の血管新生療法では、十分に血管を新生させることができないばかりか、患者の体への侵襲性が高いという問題点を有している。
【0010】
近年の細胞移植による血管新生療法では、移植された細胞のうち、新生された血管の構造内に取り込まれるものは10%弱と僅かであることが明らかになっている。そして、その他の大部分の移植細胞が複数のサイトカインを局所的に分泌することこそが、血管新生にとって重要であると考えられるようになっている(例えば、非特許文献9参照)。
【0011】
しかしながら、上記従来の細胞移植による血管新生療法では、移植された細胞のうち70%〜80%が移植後48時間以内に体内を循環し始め、局所に留まる移植細胞が少ないことが知られている。つまり、上記血管新生療法では、効果的に移植細胞を局所に留まらせることができないので、その結果、十分に血管を新生させることができないという問題点を有している。
【0012】
また、上記従来の細胞移植による血管新生療法では、移植する細胞数を増加させれば、ある程度は治療効果を増強することができることが知られている(例えば、非特許文献4参照)。しかしながら、移植細胞は患者自身の体に由来する細胞を用いる必要があるが、末梢動脈疾患などを患っている患者は全身の健康状態が悪化している場合が多い。したがって、患者から大量の細胞を採取しようとすれば、患者の体への負担が大きくなる、換言すれば、患者の体への侵襲性が高くなるという問題点を有している。
【0013】
また、上記従来の血管増殖性サイトカインを用いた血管新生療法では、ゼラチンなどの生物由来材料は優れた生物活性を有するものの、その反面で化学架橋剤の影響、生物由来材料の抗原性、およびウイルスやプリオンの感染などの多くの問題を有している。つまり、当該血管新生療法は、担体を患者の体に移植した後に、患者の体への侵襲性が高いという問題点を有している。
【0014】
また、上述した特許文献1に記載の方法では、生体内に埋設された後の担体が、生体内にて分解されないので、当該担体によって副作用が生じるという問題点を有している。
【0015】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであって、その目的は、血管新生の効果が高いとともに、患者の体への侵襲性が低く、更に生体への投与が容易な医療用組成物および医療用キットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意検討した結果、ハイドロキシアパタイトによってコーティングされた担体上に細胞を接着させることによって、患者の体内の局所に細胞を長時間生きたままで保持することが可能となり、その結果、少ない移植細胞数でも効果的に血管新生を誘導することが可能であることを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0017】
すなわち、本発明の医療用組成物は、上記課題を解決するために、生体吸収性高分子からなる支持体、および前記支持体上に設けられたハイドロキシアパタイトからなる表層を有する粒子状の担体と、前記担体の表面に備えられた細胞と、を含むことを特徴としている。
【0018】
本発明の医療用組成物では、前記担体の粒子径は、10μm〜200μmであることが好ましい。
【0019】
本発明の医療用組成物では、前記担体は、多孔質であることが好ましい。
【0020】
本発明の医療用組成物では、前記生体吸収性高分子は、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリヒドロキシブチレート、ポリカーボネート、ポリアミド、セルロース、キチン、キトサン、デンプン、ポリグルタミン酸、ポリジオキサノン、シアノアクリレート重合体、ポリカプロラクトン、合成ポリペプチド、ヒアルロン酸、ポリリンゴ酸、ポリコハク酸ブチレン、およびこれらの組み合わせからなる共重合体からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。なお、生体吸収性高分子として合成高分子を用いることも可能である。
【0021】
本発明の医療用組成物では、前記細胞は、骨髄単核細胞、末梢血単核細胞、多能幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞、iPS細胞、ES細胞、血小板、および間葉系幹細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞であることが好ましい。
【0022】
本発明の医療用組成物では、前記担体の表面に、血管新生サイトカインが備えられていることが好ましい。
【0023】
本発明の医療用組成物では、前記血管新生サイトカインは、aFGF、bFGF、VEGF、HGF、PDGF、PIGF、TNF、EGF、angiopoietin、IL、HAPO、Shh、TGF−β、G−CSF、M−CSF、SCF、EPO、TPO、およびFltからなる群より選択される少なくとも1つのサイトカインであることが好ましい。
【0024】
本発明の医療用キットは、上記課題を解決するために、前記医療用組成物と、前記医療用組成物を生体に投与するための注射器と、を備えることを特徴としている。
【0025】
本発明の医療用組成物の製造方法は、上記課題を解決するために、生体吸収性高分子からなる支持体、および前記支持体上に設けられたハイドロキシアパタイトからなる表層を有する粒子状の担体と細胞とを混合する工程を含むことを特徴としている。
【0026】
本発明の医療用組成物の製造方法では、前記工程では、前記担体1粒子あたり1×10
10個以下の前記細胞を混合することが好ましい。
【発明の効果】
【0027】
本発明の医療用組成物は、上述したように、生体吸収性高分子からなる支持体、および前記支持体上に設けられたハイドロキシアパタイトからなる表層を有する粒子状の担体と、前記担体の表面に備えられた細胞と、を含むものである。また、本発明の医療用組成物は、必要に応じてサイトカインを含むことも可能である。
【0028】
また、本発明の医療用キットは、上述したように、前記医療用組成物と、前記医療用組成物を生体に投与するための注射器と、を備えるものである。
【0029】
また、本発明の医療用組成物は、上述したように、生体吸収性高分子からなる支持体、および前記支持体上に設けられたハイドロキシアパタイトからなる表層を有する粒子状の担体と細胞とを混合する工程を含む方法である。
【0030】
本発明では、医療用組成物が生体内の局所に留まることができるので、目的の箇所に効果的に血管を新生することができる。
【0031】
また、本発明では、担体の表面に細胞が備えられているので、少ない数の細胞にて効果的に血管を新生することができるとういう効果を奏する。
【0032】
また、本発明では、担体が主として生体吸収性高分子およびハイドロキシアパタイトによって形成されているので、血管新生を誘導した後の医療用組成物を、分解・吸収することができる。つまり、血管新生を誘導した後の医療用組成物を自動的に除去することによって、生体への負担を軽減することができるという効果を奏する。更に、支持体の組成や形態を変えることによって、医療用組成物の分解・吸収速度を調節することができるという効果を奏する。
【0033】
また、本発明の医療用組成物の構成成分は生体に対して毒性が低いので、生体に投与したときに副作用(例えば、炎症など)が発生することを防止することができるという効果を奏する。
【0034】
また、本発明では、コラーゲンやゼラチンなどの動物由来タンパク質を用いないので、高い生物学的安全性を確保することができるという効果を奏する。
【0035】
また、本発明では、粒子状の担体を用いるので、注射器によって生体内に投与することができる。その結果、患者の体に対して負担が少ない方法にて医療用組成物を投与することができるとともに、当該医療用組成物を容易に局所に投与することができるという効果を奏する。
【0036】
また、本発明では、患者自身によって容易に医療用組成物を投与することができるので、社会の高齢化が進行しても、例えば床擦れ等に悩まされる患者を容易に救済することができるという効果を奏する。また、これによって、患者のQOL(Quality Of Life)の低下を防ぐことができるとともに、医療費を低減させることができるという効果を奏する。
【発明を実施するための最良の形態】
【0037】
本発明の実施の形態について説明すれば、以下のとおりである。なお、本発明は、これに限定されるものではない。
【0038】
〔1.医療用組成物〕
本実施の形態の医療用組成物は、支持体および当該支持体上に設けられた表層を有する担体と、上記担体の表面に備えられた細胞とを含むものである。以下に、各構成について詳細に説明する。なお、本実施の形態の医療用組成物は、特に、血管新生用組成物として用いることが可能である。
【0039】
〔1−1.支持体〕
上記支持体は、生体吸収性高分子によって形成されている。
【0040】
生体吸収性高分子は、生体内において毒性が低いとともに、生体内において徐々に分解・吸収さる。したがって、生体吸収性高分子によって支持体を形成すれば、十分に血管新生を誘導するまで本実施の形態の医療用組成物を体内の所望の位置に維持することができるとともに、十分に血管新生を誘導した後には、本実施の形態の医療生用組成物を速やかに分解・吸収させることが可能になる。また、上記構成であれば、生体に対する毒性が低いので、炎症などの副作用の発生を抑制することができる。
【0041】
上記支持体を構成する生体吸収性高分子としては特に限定されないが、ポリ乳酸、ポリグリコール酸、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ポリヒドロキシブチレート、ポリカーボネート、ポリアミド、セルロース、キチン、キトサン、デンプン、ポリグルタミン酸、ポリジオキサノン、シアノアクリレート重合体、ポリカプロラクトン、合成ポリペプチド、ヒアルロン酸、ポリリンゴ酸、ポリコハク酸ブチレン、およびこれらの組み合わせからなる共重合体からなる群より選択される少なくとも1つであることが好ましい。これらの中では、ポリ乳酸を用いることが好ましい。また、ポリ乳酸とその他の生体吸収性高分子とを併用して、支持体を形成することが、更に好ましい。つまり、上記支持体は、ポリ乳酸のみによって形成されることが好ましく、ポリ乳酸とその他の生体吸収性高分子との混合物によって形成されることが更に好ましい。
【0042】
ポリ乳酸と併用する生体吸収性高分子としては特に限定されないが、例えば、上述したポリ乳酸以外の生体吸収性高分子を1つ併用してもよいし、複数併用してもよい。ポリ乳酸以外の生体吸収性高分子をポリ乳酸と併用すれば、生分解性に優れた支持体を形成することができるとともに、ポリ乳酸の分解速度をも調節することができる。
【0043】
ポリ乳酸と併用する生体吸収性高分子としては、例えば、ポリグリコール酸、ポリカプロラクトンまたはポリエチレングリコール、およびこれらの組み合わせからなる共重合体が最も好ましい。上記構成であれば、本実施の形態の医療用組成物の分解・吸収速度を高めることができる。そして、その結果、医療用組成物の安全性を高めることが可能になる。
【0044】
上記支持体を構成する原料中におけるポリ乳酸以外の物質の含有率は特に限定されないが、例えば、ポリグリコール酸の場合には、上記原料における0重量%〜100重量%であることが好ましく、20重量%〜80重量%であることが更に好ましい。また、ポリエチレングリコールの場合にも、上記原料における0重量%〜100重量%であることが好ましく、20重量%〜80重量%であることが更に好ましい。上記構成であれば、本実施の形態の医療用組成物の体内での存続時間を、所望の時間に調節することができる。
【0045】
支持体を形成する生体吸収性高分子の形状、換言すれば、支持体中の生体吸収性高分子の形状は特に限定されず、適宜所望の形状をとることが可能である。例えば、上記生体吸収性高分子の形状としては、粒子状、繊維状、膜状、または不織布であることが好ましい。なお、本明細書中において「不織布」とは、織る工程を経ずに形成された布状の繊維を意図する。これらの形状の中では、不織布であることが最も好ましい。上記構成によれば、支持体の表面積を増加させることができるので、支持体上に多くの細胞を接着させることができる。そして、その結果、より効果的に血管新生を誘導することができる。また、上記構成によれば、本実施の形態の医療用組成物を体内に投与した場合に、支持体と生体(例えば、体液中の各種酵素)との接触面積を増加させることができるので、血管新生作用を発揮した後の医療用組成物を、速やかに分解・吸収することができる。
【0046】
上記支持体の形状も特に限定されず、適宜所望の形状をとることが可能である。上記支持体の形状としては、例えば、球状、膜状、または偏平状であることが好ましく、球状であることが最も好ましい。
【0047】
また、上記支持体は、非多孔質のものを用いることも可能であるが、多孔質(スポンジ状)であることが好ましい。なお、支持体を多孔質に形成すれば、後述する担体をも多孔質に形成することができる。そして、担体を多孔質に形成すれば、担体の表面積を増加させることができるので、担体上に多くの細胞を接着させることができる。そして、その結果、より効果的に血管新生を誘導することができる。また、本実施の形態の医療用組成物を体内に投与した場合に、担体と生体(例えば、体液中の各種酵素)との接触面積を増加させることができるので、血管新生作用を発揮した後の医療用組成物を、速やかに分解・吸収することができる。
【0048】
上記支持体の大きさ(断面の直径)は特に限定されないが、後述する表層を形成して担体を形成した場合に、当該担体の粒子径が、好ましくは0.01μm〜5cm、より好ましくは1μm〜1mm、最も好ましくは10μm〜200μmとなるように形成すればよい。つまり、支持体の大きさは、後述する表層の厚さとの関係において決定されることになる。なお、上記粒子径が1mm以下であれば容易に注射器にて生体に投与することができる。また上記粒子径が1mmよりも大きい物に関しては、切開移植によって生体に投与することも可能である。
【0049】
〔1−2.表層〕
本実施の形態の医療用組成物では、上述した支持体上に、ハイドロキシアパタイト(Ca
10(PO
4)
6(OH)
2)からなる表層が設けられている。そして、主として当該表層と上記支持体とによって、後述する細胞を備えさせる対象である担体が形成されている。
【0050】
上記支持体上の上記表層が設けられる箇所は特に限定されず、支持体表面の一部を覆うように設けられていてもよく、支持体表面の全体を覆うように設けられていてもよい。
【0051】
また、上記表層の厚さとしても特に限定されない。先に説明したように、担体の粒子径が、好ましくは0.01μm〜5cm、より好ましくは1μm〜1mm、最も好ましくは10μm〜200μmとなるように、表層の厚さを調節すればよい。つまり、表層の厚さは、先に説明した支持体の大きさとの関係において決定されることになる。
【0052】
上記表層を形成する方法としては特に限定しないが、例えば、まず、ナノサイズのハイドロキシアパタイト粒子、換言すれば、ハイドロキシアパタイトナノ結晶、を形成した後、当該ハイドロキシアパタイトナノ粒子によって、上記支持体をコーティングすることが好ましい。当該結晶(粒子)は、未焼成体(アモルファス)であっても、焼成体であってもよい。
【0053】
上記支持体をコーティングするハイドロキシアパタイト粒子のサイズとしては特に限定されないが、例えば、10nm〜700nm、より好ましくは20nm〜600nm、最も好ましくは25nm〜500nmの範囲内の粒子径を有するハイドロキシアパタイト粒子を用いることが好ましい。
【0054】
以下に、上記ハイドロキシアパタイト粒子、表層(換言すれば、担体)の形成方法の一例について、更に具体的に説明する。
【0055】
上記表層の形成方法としては特に限定されないが、少なくとも「一次粒子生成工程」、「焼結工程」、「表層形成工程」を含んでいることが好ましい。また、上記工程以外に、「除去工程」、「混合工程」」を含んでいてもよい。なお、以下の説明においては、表層の形成方法の一例として、上記5つの工程を全て含んだ製造方法について説明するが、これに限定されない。
【0056】
上記5つの工程は、「1.一次粒子生成工程」→「2.混合工程」→「3.焼結工程」→「4.除去工程」→「5.表層形成工程」の順で行われる。なお、「1.一次粒子生成工程」〜「4.除去工程」までは、表層の原料となるハイドロキシアパタイト粒子を作製する工程であって、表層形成工程は、当該ハイドロキシアパタイト粒子を用いて支持体上に表層を形成し、支持体と表層とからなる担体を形成する工程である。以下に、各工程について説明する。
【0057】
<1.一次粒子生成工程>
ここで「一次粒子」とは、焼結工程の前に、ハイドロキシアパタイト(HAp)によって形成された粒子のことを意味する。すなわち、ハイドロキシアパタイト粒子の製造工程において、初めて形成された粒子のことを意味する。また狭義には単結晶粒子のことを意味する。なお本明細書において「一次粒子」とは、非晶質(アモルファス)の状態のもの、及びその後に焼結を行なった焼結体の状態のものをも含む。
【0058】
これに対して「二次粒子」とは、複数の「一次粒子」同士が、物理的結合(例えば、融着など)または化学的結合(例えば、イオン結合または共有結合など)によって結合した状態の粒子を意味する。このとき、結合し合う一次粒子の個数、結合後の形状などは特に限定されない。
【0059】
また特に「単結晶一次粒子」とは、ハイドロキシアパタイトの単結晶からなる一次粒子、または、当該単結晶からなる一次粒子がイオン的相互作用によって集合化した粒子塊のことを意味する。なお前記「イオン的相互作用にて集合化した粒子塊」とは、水もしくは有機溶媒を含む媒体にて分散させた場合にイオン的相互作用で自己集合する粒子塊であって、焼結によって粒子間が溶融して多結晶化した二次粒子を含まない。
【0060】
一次粒子生成工程は、上記一次粒子を生成することができる工程であればよく、特に限定されない。例えば、pHをアルカリ性(例えば、pH12.0)に調製したCa(NO
3)
2水溶液に対して、pHをアルカリ性(例えば、12.0)に調製した(NH
4)
2HPO
4水溶液を、高温(例えば、80℃)にて徐々に添加すればよい。
【0061】
一次粒子生成工程によって生成された一次粒子の状態(例えば、粒子径、粒度分布)が、ハイドロキシアパタイト粒子の状態(粒子径、粒度分布)にそのまま反映される。したがって、粒子径が微細(ナノサイズ)でかつ粒子径が均一な(粒度分布が狭い)ハイドロキシアパタイト粒子を製造しようとすれば、当該一次粒子生成工程において粒子径が微細(ナノサイズ)でかつ粒子径が均一な(粒度分布が狭い)一次粒子を生成しておくことが好ましい。
【0062】
一次粒子の粒子径としては特に限定されないが、10nm〜500nmが好ましく、20nm〜450nmがさらに好ましく、25nm〜400nmが最も好ましい。また一次粒子からなる一次粒子群の粒子径の変動係数は、20%以下であることが好ましく、18%以下であることがさらに好ましく、15%以下であることが最も好ましい。なお一次粒子の粒子径および変動係数は、動的光散乱法または電子顕微鏡を用いて、少なくとも100個以上の一次粒子について粒子径を測定し、当該測定結果に基づいて計算すればよい。上記のような一次粒子群を生成しておくことによって、後述する細胞の接着効率のよい表層を形成することができる。なお「変動係数」は、標準偏差÷平均粒子径×100(%)で計算することができる粒子間の粒子径のバラツキを示す値である。
【0063】
上記のような微細(ナノサイズ)でかつ粒子径が均一な(粒度分布が狭い)一次粒子を生成する方法については、特に限定されるものではないが、例えば、特開2002−137910号公報に記載された方法を利用することができる。つまり、界面活性剤/水/オイル系エマルジョン相にカルシウム溶液およびリン酸溶液を可溶化して混合させ、界面活性剤の曇点以上で反応させることによって、一次粒子を合成することができる。また、このとき上記界面活性剤の官能基および親水性/疎水性比の割合を変えることによって、一次粒子の大きさを制御することができる。
【0064】
上記一次粒子を製造する原理を簡単に説明すれば、以下の通りである。界面活性剤/水/オイル系エマルジョン相にカルシウム溶液およびリン酸溶液を混合し、反応させてハイドロキシアパタイ卜微粒子を合成する方法においては、界面活性剤のミセルの中でハイドロキシアパタイトの核が成長し、結晶成長する。このとき反応温度を界面活性剤の曇点以上に設定することにより、ミセルの熱力学的安定性を制御することができる。すなわち界面活性剤の曇点以上に反応温度を上げることによって、界面活性剤のミセルを形成する能力を下げることができる。その結果、ミセルという枠の中で制限を受けていたハイドロキシアパタイトの結晶成長の駆動力が、ミセルの枠を維持しようとする駆動力よりも大きくなる。そして、そのメカニズムを利用して結晶の形態(例えば、形や大きさなど)を制御することができる。
【0065】
界面活性剤によってミセルを作る場合には、界面活性剤の官能基(親水性部位)および当該界面活性剤の親水性/疎水性比が重要であり、これらが異なれば、ミセルの安定性、および曇点も異なる。また界面活性剤の曇点は、界面活性剤の種類によって異なる。したがって、界面活性剤の種類を適宜変更することにより、ミセルの安定性および雲点を変更することが可能となり、これによって、ハイドロキシアパタイト微粒子の大きさを制御することができる。
【0066】
なお上記方法において用いる界面活性剤の種類は特に限定されず、例えば、特開平5−17111号公報に開示された公知の陰イオン性界面活性剤、陽イオン性界面活性剤、両性イオン性界面活性剤、または非イオン性界面活性剤を用いることができる。より具体的には、非イオン性界面活性剤としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル、ポリオキシエチレンアリルエーテル、ポリオキシエチレンアルキルアリルエーテル、ポリオキシエチレン誘導体、オキシエチレン・オキシプロピレンブロックコポリマー、ソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビタン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンソルビトール脂肪酸エステル、グリセリン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル、ポリオキシエチレンアルキルアミンなどを用いることが好ましい。また、陽イオン界面活性剤としては、ステアリルアミン塩酸塩、ラリウルトリメチルアンモニウムクロライド、アルキルベンゼンジメチルアンモニウムクロライドなどの第4級アンモニウム塩などを用いることが好ましい。また、陰イオン界面活性剤としては、ラリウルアルコール硫酸エステルナトリウム、オレイルアルコール硫酸エステルナトリウムなどの高級アルコール硫酸エステル塩類、ラリウル硫酸ナトリウム、ラリウル硫酸アンモニウムなどのアルキル硫酸塩類、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、ドデシルナフタレンスルホン酸ナトリウムなどのアルキルアリールスルホン酸塩類などを用いることが好ましい。また、両性界面活性剤としては、アルキルベタイン型、アルキルアミドベタイン型、アミンオキサイド型の両性界面活性剤を用いることが好ましい。上記界面活性剤は、1種類、または2種類以上の組み合わせにて使用することが可能である。このなかで、曇点および溶解性の点から、ペンタエチレングリコールドデシルエーテルを使用することが最も好ましい。
【0067】
また上記方法において利用可能なオイル相としては、例えば、トルエン、キシレン、ヘキサン、ドデカン、シクロヘキサンなどの炭化水素類、クロロベンゼン、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテルなどのエーテル類、ブタノールなどのアルコール類、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノンなどのケトン類などを挙げることができる。
【0068】
これらのオイル相は、使用する界面活性剤に応じて、水の溶解度を小さくするとともに、上記界面活性剤のいずれかを溶解するように、1種もしくは2種を選択すればよい。水の溶解度および界面活性剤の溶解性の点から、上記オイル相としては、ドデカンを使用することが最も好ましい。この他反応温度、反応時間、原料の添加量等は、一次粒子の組成に応じて適宜最適な条件を選択の上、採用すればよい。ただし反応温度の上限は、水溶液の反応であるから溶液が沸騰しない温度であれることが好ましく、具体的には90℃以下が好ましい。
【0069】
また、本工程には生成した一次粒子を水等で洗浄する工程、遠心分離、ろ過等で一次粒子を回収する工程が含まれていてもよい。
【0070】
<2.混合工程>
混合工程は、一次粒子と融着防止剤とを混合する工程である。つまり、上記一次粒子生成工程によって得られた一次粒子群の粒子間に、あらかじめ融着防止剤を介在させておくことによって、その後の焼結工程における一次粒子同士の融着を防止するための工程である。なお本当該混合工程によって得られた一次粒子と融着防止剤との混合物を「混合粒子」と呼ぶこととする。
【0071】
上記融着防止剤としては、一次粒子間の融着を防止できるものであれば特に限定されるものではないが、後段の焼結工程の焼結温度においても、揮発しないものであることが好ましい。焼結温度条件下で不揮発性であれば、焼結工程中に一次粒子間から消失することが無く、一次粒子同士の融着を確実に防止することができる。ただし焼結温度において100%の不揮発性を有する必要は無く、焼結工程終了後に一次粒子間に10%以上残存する程度の不揮発性を有するものであればよい。
【0072】
また、上記融着防止剤は、焼結工程終了後に、熱によって化学的に分解するものであってもよい。すなわち、焼結工程終了後に残存するものであればよく、焼結工程の開始前後で、同一の物質(化合物)である必要は無い。
【0073】
また融着防止剤が、溶媒、特に水系溶媒に溶解する物質であることが好ましい。溶媒に溶解する融着防止剤を用いれば、融着防止剤が混在する混合粒子を純水等の水系溶媒に懸濁するだけで、融着防止剤(例えば、炭酸カルシウムなど)を除去することができる。特に水系溶媒に溶解する融着防止剤であれば、融着防止剤を除去する際に有機溶媒を用いる必要が無いため、除去工程に有機溶媒の使用に対応する設備、有機溶媒廃液処理が不要となる。それゆえ、より簡便に混合粒子から融着防止剤を除去することができる。なお、上記溶媒としては、特に限定されるものではないが、例えば、水系溶媒としては、水、エタノール、メタノール等が挙げられ、有機溶媒としては、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0074】
また、上記水系溶媒は、融着防止剤の水への溶解性を上げるために、シュウ酸塩、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸塩などのキレート化合物を含んでいることが好ましい。さらに、上記水系溶媒は、融着防止剤の水への溶解性を上げるために、塩化ナトリウム、硝酸アンモニウム、炭酸カリウムなどの電解質イオンを含んでいることが好ましい。
【0075】
ここで、融着防止剤の溶媒に対する溶解度は、高ければ高いほど除去効率が高くなるために好ましいといえる。溶媒100gに対する溶質の量(g)を溶解度とすると、上記融着防止剤の溶解度は、0.01g以上であることが好ましく、1g以上であることがさらに好ましく、10g以上であることが最も好ましい。
【0076】
上記融着防止剤の具体例としては特に限定されないが、例えば、塩化カルシウム、酸化カルシウム、硫酸カルシウム、硝酸カルシウム、炭酸カルシウム、水酸化カルシウム、酢酸カルシウム、クエン酸カルシウムなどのカルシウム塩(または錯体)、ポリアクリル酸カルシウム、塩化カリウム、酸化カリウム、硫酸カリウム、硝酸カリウム、炭酸カリウム、水酸化カリウム、リン酸カリウムなどのカリウム塩、塩化ナトリウム、酸化ナトリウム、硫酸ナトリウム、硝酸ナトリウム、炭酸ナトリウム、水酸化ナトリウム、リン酸ナトリウムなどのナトリウム塩などを用いることが好ましい。
【0077】
なお、当該混合工程において一次粒子と融着防止剤とを混合させる方法は特に限定されず、例えば、固体状のハイドロキシアパタイト一次粒子に固体状の融着防止剤を混合後、ブレンダーを用いて混合する方法であってもよいし、融着防止剤の溶液中に一次粒子を分散させる方法であってもよい。ただし、固体と固体とを均一に混合することは困難であるため、一次粒子間に均一かつ確実に融着防止剤を介在させるためには、後者の方が好ましい方法であるといえる。後者の方法を採用した場合には、ハイドロキシアパタイト一次粒子を分散させた後の融着防止剤溶液を乾燥させることが好ましい。これによれば、ハイドロキシアパタイト一次粒子と融着防止剤とが均一に混合された状態を、長期にわたって維持することができる。
【0078】
<3.焼結工程>
焼結工程は、上記混合工程によって得られた混合粒子を焼結温度に曝して、当該混合粒子に含まれる混合粒子をセラミック粒子(焼結体粒子)にする工程である。このとき、混合粒子の粒子間には融着防止剤が介在しているので、焼結工程における高温条件に曝されても、ハイドロキシアパタイト一次粒子同士の融着を防止することができる。
【0079】
上記焼結工程における焼結温度は、セラミック粒子の硬度が所望の硬度となるように適宜設定すればよく特に限定されない。例えば、焼結温度は、100℃〜1800℃であることが好ましく、150℃〜1500℃であることがさらに好ましく、200℃〜1200℃であることが最も好ましい。なお焼結時間については所望するセラミック粒子の硬度等を基準に適宜設定すればよい。
【0080】
なお、当該焼結工程に用いる装置等は特に限定されるものではなく、適宜、市販の焼成炉を用いることができる。
【0081】
<4.除去工程>
除去工程は、焼結工程によって得られた焼結体粒子の粒子間に混在する融着防止剤を取り除く工程である。
【0082】
具体的な除去の手段・手法については、上記混合工程において採用した融着防止剤に応じて適宜採用すればよく、特に限定されない。例えば、溶媒への溶解性を有する融着防止剤を用いる場合には、ハイドロキシアパタイト粒子を溶解しない溶媒(非溶解性)であって、かつ融着防止剤を溶解する(溶解性)溶媒を用いることによって、融着防止剤のみを溶解して除去することができる。
【0083】
用いる溶媒としては、上記要件を満たす溶媒であれば特に限定されるものではなく、水系溶媒であっても、有機溶媒であってもよい。当該除去工程においては、有機溶媒の使用時に必要な設備が不要となること、有機溶媒の廃液の処理に必要な設備が不要となること、製造作業の安全性が高いこと、環境に対するリスクが低いこと等の理由から、使用する溶媒としては、水系溶媒が好ましい。
【0084】
例えば、水系溶媒としては、水、エタノール、またはメタノールなどを用いることが好ましい。また、有機溶媒としては、アセトン、またはトルエンなどを用いることが好ましい。
【0085】
また、上記水系溶媒は、融着防止剤の溶解性を上げるために、シュウ酸塩、エチレンジアミン、ビピリジン、エチレンジアミン四酢酸塩などのキレート化合物を含んでいることが好ましい。さらに、上記水系溶媒は、融着防止剤の溶解性を上げるために、塩化ナトリウム、硝酸アンモニウム、炭酸カリウムなどの電解質イオンを含んでいることが好ましい。
【0086】
なお、ハイドロキシアパタイト(HAp)の焼結体粒子は、pH4.0以下の条件において溶解するので、pH4.0〜pH12.0の条件下で除去工程を行うことが好ましい。
【0087】
溶媒を用いて融着防止剤を除去する場合には、焼結工程によって得られた融着防止剤を含む焼結体粒子群を溶媒に懸濁させた後、ろ過または遠心分離によってハイドロキシアパタイト粒子のみを回収すればよい。上記ハイドロキシアパタイト粒子の製造方法においては、上記除去工程は、1回に限られるものではなく2回以上行ってもよい。上記除去工程を複数回行うことによって、ハイドロキシアパタイト粒子間の融着防止剤の除去率がさらに向上する。
【0088】
上記溶媒を用いて融着防止剤を除去する方法の他、融着防止剤として磁性体を用いることによって、マグネットを用いて融着防止剤を除去することができる。より具体的には、焼結工程によって得られた融着防止剤を含む焼結体粒子群を適当な溶媒(水等)に懸濁して分散させた後、当該懸濁液に磁力をかけ、融着防止剤のみをマグネットに吸着させ、吸着しなかったハイドロキシアパタイト粒子のみを回収すればよい。また溶媒に懸濁することなく、焼結体粒子をすりつぶして粉体にした後、マグネットによって融着防止剤を分離することも可能である。
【0089】
除去工程には、さらにハイドロキシアパタイト粒子の粒子径を均一にするための分級工程が含まれていることが好ましい。上記分級工程はハイドロキシアパタイト粒子の粒子径を均一にし得る工程であればよく、特に限定されない。例えば、フィルター濾過、遠心分離などによって分級を行うことが可能であるが、これらの方法に限定されない。
【0090】
以上のようにして、支持体表面をコーティングするためのハイドロキシアパタイト粒子を作製することができる。
【0091】
<5.表層形成工程>
表層形成工程は、上述した一連の工程によって得られたハイドロキシアパタイト粒子によって支持体をコーティングし、これによって、支持体上に表層を形成する工程である。換言すれば、表層形成工程は、支持体と表層とを有する担体を形成する工程である。
【0092】
表層形成工程は支持体上に表層を形成して、支持体と表層とからなる担体を形成することができる工程であればよく、その具体的な構成は特に限定されない。例えば、上記ハイドロキシアパタイト粒子を適当な溶媒に溶解させた後、当該溶液に支持体を分散させればよい。
【0093】
上記溶媒としては特に限定されず、例えば、水系溶媒または有機溶媒を用いることが可能である。更に具体的に、水系溶媒としては、水、エタノール、またはメタノールなどを用いることが好ましく、有機溶媒としては、アセトン、またはトルエンなどを用いることが好ましい。
【0094】
ハイドロキシアパタイト粒子および支持体を含む溶媒は、超音波処理にかけられることが好ましい。超音波処理を行うことによって、上記支持体の表面全体にわたって、より厚さが均一な表層を形成することが可能となる。なお、上記超音波処理の具体的な条件は特に限定されない。また、超音波をかける装置も、適宜市販の装置を用いることが可能である。
【0095】
表層形成工程では、上記超音波処理のあと、ハイドロキシアパタイト粒子によってコーティングされた支持体(担体)を分離・洗浄した後、当該担体を乾燥させる工程を含むことが好ましい。
【0096】
上記担体を分離する工程は特に限定されないが、例えば、遠心分離、またはフィルター濾過によって上記担体を分離することが好ましい。また、上記担体は、溶媒を用いて洗浄することができる。上記溶媒としては特に限定されないが、例えば、水系溶媒または有機溶媒を用いることが好ましい。更に具体的には、水系溶媒としては、水、エタノール、またはメタノールなどを用いることが好ましく、有機溶媒としては、アセトン、またはトルエンなどを用いることが好ましい。
【0097】
洗浄された後の担体は、乾燥させることが好ましい。乾燥方法としては特に限定されず、例えば、室温にて乾燥させることも可能であり、所望の温度をかけることによって乾燥させることも可能である。
【0098】
以上のようにして、後述する細胞を備える対象である担体を作製することができる。
【0099】
なお、以上のようにして形成された担体は粒子状に形成されている。なお、本明細書において「粒子状」とは、注射器によって投与することが可能な程度の大きさおよび形状を有する微細な粒子が意図される。当該粒子の形状は特に限定しないが、球状、ロッド状、針状、鱗片状、布状、シート状、または、それら形状の組み合わせであることが好ましい。
【0100】
具体的には、上記担体の粒子径、好ましくは0.01μm〜5cmであり、より好ましくは1μm〜1mmである。担体の大きさが10μmよりも小さくなれば、本実施の形態の医療用組成物が毛細血管中に入り込み易くなる傾向を示し、担体の大きさが200μmよりも大きくなれば、医療用組成物が凝集し易くなる、換言すれば、注射器によって生体に投与する場合に注射針に目詰まりを生じる傾向を示す。したがって、上記担体の粒子径は、10μm〜200μmであることが最も好ましい。なお、上記粒子径が1mm以下であれば容易に注射器にて生体に投与することができる。また上記粒子径が1mmよりも大きい物に関しては、切開移植によって生体に投与することも可能である。
【0101】
なお、上記担体の粒子径は、公知の方法によって測定することができる。例えば、動的光散乱法または電子顕微鏡を用いて、上述した一次粒子の場合と同様に測定することができる。
【0102】
〔1−3.細胞〕
本実施の形態の医療用組成物では、上述したようにして形成された担体上に、細胞が備えられている。
【0103】
上記細胞は血管新生を誘導させ得る細胞であればよく、特に限定されない。例えば、上記細胞としては、骨髄単核細胞、末梢血単核細胞、多能幹細胞、造血幹細胞、血管内皮前駆細胞、iPS細胞、ES細胞、血小板、および間葉系幹細胞からなる群より選択される少なくとも1つの細胞を用いることが好ましい。特に、骨髄単核細胞、末梢血単核細胞、多能幹細胞、造血幹細胞、および血管内皮前駆細胞は、既に血管新生療法での有効性がヒトあるいは動物で示されている細胞であるため、より好ましい。また、iPS細胞およびES細胞は、細胞の供給源の観点から患者に負担をかけないので、より好ましい。
【0104】
上記細胞を担体表面に設ける方法としては特に限定されないが、例えば、上記細胞と上記表層との間の相互作用を介して設けることが好ましい。上記相互作用としては特に限定しないが、例えば、架橋剤によって細胞を担体上に固定化してもよいし、細胞の接着能によって細胞を担体上に接着させてもよいし、ハイドロキシアパタイトの吸着能によって細胞を担体上に吸着させてもよい。また、上記相互作用の複数によって、細胞を担体上に固定化してもよい。なお、上記架橋剤としては特に限定されず、適宜公知の架橋剤を用いることが可能である。また、担体の表面に設けられる細胞は、直接担体表面上に備えられていてもよく、別の細胞を介して間接的に担体表面上に設けられてもよい。つまり、複数の細胞からなる細胞塊中の一部の細胞を担体上に固定化することによって、当該細胞塊全体を担体表面に設けることも可能である。また、多孔質の担体を用いる場合には、孔内にも細胞を設けることが可能である。
【0105】
上記細胞を担体上に固定化する具体的な方法としては特に限定されないが、例えば、上記担体と細胞とを混合することが好ましく、上記担体上で細胞を所定の時間培養することが更に好ましい。培養を行う場合の培養時間としては特に限定されないが、例えば0.1時間〜24時間培養することが好ましい。当該培養時間であれば、担体上に更に強固に細胞を接着させることができる。また、当該培養時間であれば、接着させた細胞を増殖させることによって、本実施の形態の医療用組成物の血管新生作用を増強させることができる。
【0106】
担体と当該担体上に備えられた細胞との比率は特に限定されないが、例えば、担体と細胞との重量比は、1/10〜10/1であることが好ましい。当該重量比が1/10以上であれば、十分な量の細胞が担体上に備えられているので、効果的に血管を新生させることができる。また、当該重量比が10/1以下であれば、効果的に血管を新生させることができるのみならず、ハイドロキシアパタイトなどによって生体に引き起こされ得る副作用(例えば、炎症など)を確実に防止することができる。
【0107】
なお、本実施の形態の医療用組成物では、上記細胞以外に、上記担体の表面に各種生理活性物質が備えられていることが好ましい。
【0108】
上記生理活性物質としては特に限定されないが、例えば、抗炎症剤、血管新生サイトカイン、抗生物質および細胞増殖因子からなる群より選択される少なくとも1種類の生理活性物質であることが好ましい。例えば、血管新生サイトカインを担体上に備えさせれば、より効果的に血管新生を誘導することができる。また、抗炎症剤を担体上に備えさせれば、多量の医療用組成物を生体内に投与したとしても、炎症が発生することを防止することができる。また、抗生物質を担体上に備えさせれば、各種2次感染などを防止することができる。また、細胞増殖因子を担体上に備えさせれば、血管新生のみならず、必要に応じて各種細胞(各種組織)をも再生させることができる。
【0109】
例えば、上記血管新生サイトカインとしては特に限定されないが、例えば、aFGF(acidic fibroblast growth factor)、bFGF(basic fibroblast growth factor)、VEGF(vascular endothelial growth factor)、HGF(hepatocyte growth factor)、PDGF(platelet-derived growth factor)、PIGF(platelet-induced growth factor)、TNF(tumor necrosis factor)、EGF(epidermal growth factor)、angiopoietin、IL(interleukin)、HAPO(hemangiopoietin)、Shh(sonic hedgehog)、TGF−β(transforming growth factor-beta)、G−CSF(granulocyte-colony stimulating factor)、M−CSF(macrophage-colony stimulating factor)、SCF(stem cell factor)、EPO(erythropoietin)、TPO(thrombopoietin)、およびFlt(FMS-like tyrosine kinase ligand)からなる群より選択される少なくとも1つのサイトカインであることが好ましい。上記構成によれば、担体上に細胞のみを備えさせた場合と比較して、より効果的に血管新生を誘導することが可能になる。
【0110】
なお、上記生理活性物質を担体表面に設ける方法としては特に限定されないが、例えば、上記細胞と上記表層との間の相互作用を介して設けることが好ましい。上記相互作用としては特に限定しないが、例えば、架橋剤によって生理活性物質を担体上に固定化してもよいし、ハイドロキシアパタイトの吸着能によって上記生理活性物質を担体上に吸着させてもよい。また、上記相互作用の複数によって、生理活性物質を担体上に固定化してもよい。なお、上記架橋剤としては特に限定されず、適宜公知の架橋剤を用いることが可能である。
【0111】
〔2.医療用キット〕
本実施の形態の医療用キットは、上述した本発明の医療用組成物と、当該医療用組成物を生体(例えば、患者)に投与するための注射器とを備えるものである。なお、本実施の形態の医療用キットは、特に、血管新生用キットとして用いることが可能である。
【0112】
医療用組成物に関しては、既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0113】
上記注射器としては特に限定されず、針を介して上記医療用組成物を生体内に投与できるものであればよい。例えば、上記注射器には、一般的な注射器のみならず、カテーテル、および点滴などが含まれる。
【0114】
また、本実施の形態の医療用キットには、必要に応じて、注射器以外に様々な構成を追加することが可能である。当該構成としては特に限定されないが、例えば、注射針、消毒薬、オイフおよびメスからなる群より選択される少なくとも1つの構成であることが好ましい。これらの構成をも含む医療用キットであれば、より簡便かつ安全に本発明の医療用組成物を生体に投与することができる。
【0115】
本実施の形態の医療用キットであれば、注射器にて医療用組成物を体内に投与することができる。つまり、患者自身によって容易に医療用組成物を局所に投与することができる。
【0116】
また、本実施の形態の医療用キットは、注射液として用いることが可能な、各種液体を備えていることが好ましい。上記液体は、本願発明の医療用組成物を溶解することが可能であるとともに、生体に対して毒性が低いものであればよい。例えば。上記液体としては、生理食塩水などを挙げることができるが、これに限定されない。
【0117】
〔3.医療用組成物の製造方法〕
本実施の形態の医療用組成物の製造方法は、生体吸収性高分子からなる支持体、および当該支持体上に設けられたハイドロキシアパタイトからなる表層を有する粒子状の担体と細胞とを混合する工程を含む方法である。
【0118】
上記生体吸収性高分子、支持体、表層、担体および細胞の具体的な構成については、既に説明したので、ここではその説明を省略する。
【0119】
上記工程では担体と細胞とが混合され、これによって、担体の表面に細胞が備えられる。なお、担体の表面に備えられる細胞は、直接担体表面上に備えられていてもよく、別の細胞を介して間接的に担体表面上に備えられていてもよい。
【0120】
上記工程を行う具体的な方法は特に限定されない。例えば、液体(例えば、液体培地、生理食塩水、リン酸バッファーなどのバッファー)中にて、上記担体と上記細胞とを混合すればよい。
【0121】
上記工程では、担体1粒子あたり、好ましくは1×10
10個以下の細胞、更に好ましくは1×10
8個以下の細胞、更に好ましくは1×10
6個以下の細胞、最も好ましくは1×10
4個以下の細胞を混合する。上記構成によれば、好適に血管新生を誘導することができるとともに、炎症などの副作用を抑えることができる。
【0122】
なお、本実施の形態の製造方法によって製造される医療用組成物、換言すれば本願発明の医療用組成物は、上記工程において担体と細胞とを混合した状態の液体をも包含する。つまり、本願発明の医療用組成物中には、担体に対して直接接着していない細胞が含まれ得る。
【実施例】
【0123】
以下の実施例では、本願発明の医療用組成物の血管新生効果を簡便に検討するために、ポリ乳酸膜を用いた構成と、ポリ乳酸粒子を用いた構成との両方について検討した。ポリ乳酸膜を用いた構成とポリ乳酸粒子を用いた構成とは、血管新生に関しては同等の効果を示したが、投与の容易性、投与時にできる傷跡の有無、当該傷跡の治療の必要性などの観点からは、ポリ乳酸粒子を用いた構成の方が優れているといえる。この点については、以下の具体的な記載から容易に理解できるであろう。
【0124】
〔1.ハイドロキシアパタイト粒子の作製〕
アンモニア水にてpHを12.0に調製したCa(NO
3)
2水溶液(42mN、800mL)を、コンデンサーおよび半月状攪拌翼が設置された1Lフラスコに注ぎ込み、80℃に保持した。
【0125】
アンモニア水にてpHを12.0に調製した(NH
4)
2HPO
4水溶液(100mN、200mL)を、上記フラスコに80℃、10mL/hの速度にて添加し、24時間反応させた。これによって、ハイドロキシアパタイトの一次粒子を作製した。
【0126】
1.0gのポリアクリル酸(ALDRICH社製、重量平均分子量15,000g/mol)を含むpH12.0の水溶液100mLに、1.0gのハイドロキシアパタイトの一次粒子を分散させることによって、当該一次粒子の表面にポリアクリル酸を吸着させた。なお、当該工程について、以下に更に詳細に説明する。
【0127】
まず、1.0gのポリアクリル酸(ALDRICH社製、重量平均分子量15,000g/mol)を純水100mLに溶解させた。次いで、アンモニア水溶液(25%水溶液)を室温にて攪拌しながら添加することによって、ポリアクリル酸水溶液のpHを12.0に調整した。なお、当該水溶液のpHは、株式会社 堀場製作所製のpHメータ D−24SEを用いて測定した。次いで、当該水溶液100mLに、1.0gのハイドロキシアパタイトの一次粒子を分散させた後、当該分散液に、0.12mol/Lの硝酸カルシウム(Ca(NO
3)
2)水溶液100mLを添加することによって、一次粒子の表面上にポリアクリル酸カルシウムを析出させた。なお、当該ポリアクリル酸カルシウムは、融着防止剤として機能する。
【0128】
生じた沈殿物を回収し、減圧下(約0.1Pa)80℃にて乾燥させることによって、混合粒子を取得した。
【0129】
当該混合粒子をルツボに入れ、800℃の焼結温度にて1時間の焼成を行った。この時、ポリアクリル酸カルシウムは熱分解し、酸化カルシウム(CaO)となる。
【0130】
なお、焼結工程終了後の酸化カルシウム(CaO)の残存率は、25%以上であった。
【0131】
次いで、50mmol/L硝酸アンモニウム(NH
4NO
3)水溶液500mLに、上記焼結工程にて得られた焼結体粒子を懸濁し、その後、遠心分離によって当該焼結体粒子を分離・洗浄した。更に、上記焼結体粒子を蒸留水に懸濁した後、同様に分離・洗浄を行うことによって、融着防止剤および硝酸アンモニウムを除去し、ハイドロキシアパタイト粒子(ハイドロキシアパタイトナノ結晶)を回収した。
【0132】
上記ハイドロキシアパタイト粒子の粒子径を、動的光散乱法によって測定した。なお、動的光散乱の測定には、大塚電子株式会社製のダイナミック光散乱光度計DLS−6000を用い、室温、10ppmの粒子濃度、散乱角90°の条件下にて測定を行った。その結果、上記ハイドロキシアパタイト粒子の粒子径は、60nm〜100nmの間に分布し、さらにこのときの粒子径の変動係数は11%と狭かった。このことは、上記ナノ結晶が、均一な粒子径を有する(粒子径分布が狭い)粒子群であることを示している。
【0133】
〔2.ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の作製〕
ポリ乳酸不織布膜(厚さ140μm、目付20g/m
2、引裂強力3N)をアンモニア水溶液(pH12.0)に30分間浸漬することによって、ポリ乳酸不織布の膜表面にカルボキシル基を導入した。上記処理後のポリ乳酸粒子を、水およびエタノールにて洗浄した。
【0134】
実施例1において作製したハイドロキシアパタイト粒子を、2重量%の濃度にてエタノール中に分散させた。
【0135】
洗浄したポリ乳酸不織布膜を上記ハイドロキシアパタイト粒子を分散させたエタノール中に浸漬し、室温にて5分間の超音波照射(超音波照射器:株式会社エヌエヌディ製のUS−2、出力:120W、周波数:38kHz)を行った。室温にて30分間放置した後、ポリ乳酸不織布膜をエタノールにて洗浄し、室温にて乾燥させた。
【0136】
作製したハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体を走査型電子顕微鏡にて観察した結果、ポリ乳酸膜の表面が、ハイドロキシアパタイト粒子にて均一にコーティングされていることが確認された。また、ハイドロキシアパタイト粒子によるポリ乳酸膜表面の被覆率は、約40%であった。なお、走査型電子顕微鏡としては日本電子株式会社製のJSM−6301Fを用い、9万倍の倍率にて、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体を観察した。
【0137】
〔3.ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体の作製〕
ポリ乳酸粒子(粒子径100μm)を室温にてエタノールで洗浄した。次いで、実施例1において作製したハイドロキシアパタイト粒子を、2重量%の濃度にてエタノール中に分散させた。
【0138】
洗浄したポリ乳酸粒子を上記ハイドロキシアパタイト粒子を分散させたエタノール中に浸漬し、室温にて5分間の超音波照射(超音波照射器:株式会社エヌエヌディ製のUS−2、出力:120W、周波数:38kHz)を行った。室温にて30分間放置した後、ポリ乳酸粒子をエタノールにて洗浄し、室温にて乾燥させた。
【0139】
作製したハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体を走査型電子顕微鏡にて観察した結果、ポリ乳酸粒子の表面が、ハイドロキシアパタイトナノ結晶にて均一にコーティングされていることが確認された。また、ハイドロキシアパタイト粒子によるポリ乳酸粒子表面の被覆率は、ほぼ100%であった。なお、走査型電子顕微鏡としては日本電子株式会社製のJSM−6301Fを用い、9万倍の倍率にて、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体を観察した。
【0140】
〔4.ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体への骨髄細胞の接着性〕
実施例2および3において作製したハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体上およびハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体上にて、骨髄細胞を2.5時間培養した。なお、コントロールとしては、ハイドロキシアパタイト粒子を備えないポリ乳酸膜またはポリ乳酸粒子を用いた。
【0141】
培養後、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体上およびハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体上に接着した骨髄細胞を、リン酸緩衝液/グルタールアルデヒドにて固定し、その後、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体を50%エタノール水溶液から100%エタノール水溶液に順次浸漬して脱水処理を行った。
【0142】
次いで、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体およびハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体をブタノール処理および凍結乾燥した後、走査型電子顕微鏡によって観察した。
図1(a)は、ポリ乳酸粒子の結果を示し、
図1(b)は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子の結果を示している。一方、
図1(c)は、ポリ乳酸膜の結果を示し、
図1(d)は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜の結果を示している。
【0143】
図1(a)および
図1(c)に示すように、ハイドロキシアパタイト粒子を備えていないポリ乳酸粒子およびポリ乳酸膜上には骨髄細胞が認められないのに対し、
図1(b)および
図1(d)に示すように、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体上およびハイドロキシアパタイトポリ乳酸膜上には、粒状の骨髄細胞が多数観察された。なお、走査型電子顕微鏡としては日本電子株式会社製のJSM−6301Fを用い、300倍の倍率にて、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体を観察した。
【0144】
また、実施例2において作製したハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体上にて、L929細胞を6日間培養した。なお、ネガティブコントロールとしては、ハイドロキシアパタイト粒子にて被覆されていないポリ乳酸膜を用いた。
【0145】
6日間の培養後、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/L929細胞複合体、および、ポリ乳酸膜/L929細胞複合体のそれぞれをトリプシンにて処理し、その後、L929細胞の接着状態を光学顕微鏡によって観察した。
【0146】
図2(a)は、トリプシン処理を行う前のポリ乳酸膜/L929細胞複合体を示し、
図2(b)は、トリプシン処理を行った後のポリ乳酸膜/L929細胞複合体を示している。また、
図2(c)は、トリプシン処理を行う前のハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/L929細胞複合体を示し、
図2(d)は、トリプシン処理後のハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/L929細胞複合体を示している。
【0147】
図2(a)〜
図2(d)に示すように、ハイドロキシアパタイト粒子にて被覆されていないポリ乳酸膜からはL929細胞が容易に剥離するが、ハイドロキシアパタイト粒子にて被覆されているポリ乳酸膜からはL929細胞は容易に剥離しないことが明らかになった。つまり、ハイドロキシアパタイト粒子にて被覆されたナノスキャホールド上の細胞は、トリプシン処理をしても容易に剥離しないような、強固な接着性を示すことが明らかになった。
【0148】
〔5.ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体への骨髄細胞の接着性〕
実施例3において作製したハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体上にて、骨髄細胞を2.5時間培養した。
【0149】
培養後、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体上に接着した骨髄細胞を、リン酸緩衝液/グルタールアルデヒドにて固定し、その後、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体を50%エタノール水溶液から100%エタノール水溶液に順次浸漬して脱水処理を行った。
【0150】
次いで、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体をブタノール処理および凍結乾燥した後、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体を、走査型電子顕微鏡によって観察した。その結果、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の場合と同様に、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体上にも、粒状の骨髄細胞が多数観察された。なお、走査型電子顕微鏡としては日本電子株式会社製のJSM−6301Fを用い、300倍の倍率にて、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体を観察した。
【0151】
〔6.ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体の血管新生増強作用〕
下肢虚血モデルマウスを公知の大腿動脈切除法によって作製し、膜状のハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体、および、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の各々を大腿動脈を切除した下肢の筋肉表面に付着させた後に、皮膚を縫合した(
図3(a)参照)。また、粒子状のハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体、および、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体の各々を、注射器を用いて筋肉内に投与した(
図3(b)参照)。投与の2週間後に、走査型顕微鏡にて血管新生の有無を確認した。
【0152】
投与2週間後に投与箇所を開いて観察することによって、組織下に、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体、および、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の各々が投与されていることが確認できた。
【0153】
次いで、血管新生の有無を確認したところ、
図4(a)〜
図4(c)に示すように、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体またはハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体を投与した場合には、当該複合体の表面近傍に多数の血管新生が認められた。具体的には、
図4(a)および
図4(b)の点線にて囲まれた領域は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体またはハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体が投与された箇所を示し、当該箇所には多数の血管新生が認められた。なお、
図4(c)は、血管新生が生じている箇所の拡大写真である。
【0154】
一方、
図5は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体またはハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の投与箇所の顕微鏡写真であって、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の投与箇所には血管新生が認められなかった。
【0155】
実体顕微鏡を用いた観察においても、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体またはハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体を投与した場合には、当該複合体の内外に多数の血管新生が認められた。例えば、
図6(c)は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体の投与箇所の顕微鏡写真であって、当該投与箇所には血管新生が確認された。また、
図6(d)は、投与されたハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体に焦点を合わせた顕微鏡写真であって、白色矢印は骨髄細胞を示している。つまり、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体を投与した場合には、移植後2週間経過した後にも、複合体に接着している骨髄細胞がハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の表面に留まっていることが確認できた。
【0156】
一方、
図6(a)に示すように、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体を投与した場合には、当該複合体の近傍には血管新生は認められなかった。また、
図6(b)に示すように、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体を投与した場合には、当該複合体の近傍には骨髄細胞は確認できなかった。
【0157】
以上のことから、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体およびハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体は、高い血管新生作用を示すとともに、長期にわたって、接着している細胞(例えば、骨髄細胞)を生きたままで保持することが可能であることが明らかになった。
【0158】
また、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体、および、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の投与箇所に観察される血管の長さの合計を、顕微鏡観察下にて測定した。
図7に示すように、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体の投与箇所に存在する血管の長さの合計は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の投与箇所に存在する血管の長さの合計の、約3倍であることが明らかになった。このことからも、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体が、血管新生を誘導していることが明らかになった。
【0159】
ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体およびハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体は、血管新生効果に関してはほぼ同じ効果を示したが、投与の容易性、投与時にできる傷跡の有無、当該傷跡の治療の必要性などの観点からは、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体の方が優れていた。そこで、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体の効果について、更に詳細に検討することにした。
【0160】
〔7.ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体の血管新生増強作用〕
BALB/Cマウスを用いて公知の方法によって虚血肢を作製し、大腿動脈を切除した下肢の筋肉中に、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体、骨髄細胞のみ、の各々を注射器にて筋肉内に投与した。その後、虚血下肢の予後を観察した。なお、骨髄細胞は、移植するマウスとは別のBALB/Cマウスから採取した。
【0161】
図8(a)に示すように、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子複合体、または、骨髄細胞のみを投与したマウスでは、下肢が脱落・壊死するマウスが観察された。一方、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体を投与したマウスでは、下肢の回復が観察された。なお、カプランマイヤー法に従ってマウスの生存率を詳細に解析した結果を、
図8(b)に示す。
図8(b)からも、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体を投与したマウスでは、下肢が回復することが明らかになった。
【0162】
なお本発明は、以上説示した各構成に限定されるものではなく、特許請求の範囲に示した範囲で種々の変更が可能であり、異なる実施形態や実施例にそれぞれ開示された技術的手段を適宜組み合わせて得られる実施形態や実施例についても本発明の技術的範囲に含まれる。
【産業上の利用可能性】
【0163】
本発明の医療用組成物は、血管が破壊された組織内に血管を再生させることができるのみならず、所望の組織内に血管を新生させることが可能となる。それ故、本発明の医療用組成物は、末梢動脈疾患(例えば、閉塞性動脈硬化症、バージャー病(ビュルガー病)、膠原病およびレイノー病など)、または難治性潰瘍(例えば、床擦れ、Diabetic foot、膠原病および虚血性潰瘍など)の治療に用いることができる(例えば、
図9参照)。また、本発明によれば、特に、注射器にて投与することを意図した医療用組成物を提供することができる。また、本発明の医療用組成物および医療用キットは、特に、血管新生用組成物(血管再生用組成物)および血管新生用キット(血管再生用キット)として利用することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0164】
【
図1】(a)は、ポリ乳酸粒子上に備えられた骨髄細胞の顕微鏡写真であり、(b)は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子上に備えられた骨髄細胞の顕微鏡写真であり、(c)は、ポリ乳酸膜上に備えられた骨髄細胞の顕微鏡写真であり、(d)は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜上に備えられた骨髄細胞の顕微鏡写真である。
【
図2】(a)は、トリプシン処理を行う前のポリ乳酸膜/L929細胞複合体の顕微鏡写真であり、(b)は、トリプシン処理を行った後のポリ乳酸膜/L929細胞複合体の顕微鏡写真であり、(c)は、トリプシン処理を行う前のハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/L929細胞複合体の顕微鏡写真であり、(d)は、トリプシン処理後のハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/L929細胞複合体の顕微鏡写真である。
【
図3】(a)は、膜状のハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体を移植する様子を示す模式図であり、(b)は、粒子状のハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸粒子/骨髄細胞複合体を筋肉注射する様子を示す模式図である。
【
図4】(a)〜(c)は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体の投与箇所の顕微鏡写真である。
【
図5】ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の投与箇所の顕微鏡写真である。
【
図6】(c)および(d)は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体の投与箇所の顕微鏡写真であり、(a)および(b)は、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の投与箇所の顕微鏡写真である。
【
図7】ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜/骨髄細胞複合体、および、ハイドロキシアパタイト/ポリ乳酸膜複合体の投与箇所に観察される血管の長さの合計を示すグラフである。
【
図8】(a)は、粒子状スキャホールドに基づく各種複合体を投与した後のマウスの下肢の様子を示す写真であり、(b)は、カプランマイヤー法に従ってマウスの生存率を解析したグラフである。
【
図9】本発明の医療用組成物を用いた末梢動脈疾患治療の一例を示す模式図である。