【文献】
New. J. Chem.,1997年,21,pp. 1143-1145
【文献】
Synthetic Communications,2006年,36,pp. 3141-3148
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
上記反応は、(A)少なくとも内面が脱水処理されたガラス製の反応容器内、又は(B)少なくとも内面が炭化水素樹脂である反応容器内で行う請求項1記載の炭酸エステルの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0013】
式(1)中、R
1〜R
4はそれぞれ独立に一価の炭化水素基である。R
1及びR
2は通常同一の基であるが、異なる基でもよい。また、R
3及びR
4は通常同一の基であるが、異なる基でもよい。炭酸エステルを得ることができる限り、上記一価の炭化水素基の構造に限定はない。R
1〜R
4は、鎖状構造でもよく、環状構造でもよい。R
1〜R
4は、直鎖状でもよく、側鎖を有していてもよい。R
1〜R
4は、飽和結合のみで構成されていてもよく、不飽和結合を含んでいてもよい。R
1〜R
4は、構造中に他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、R
1〜R
4は、構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を含む置換基を有していてもよい。R
1〜R
4は、構造中に炭素原子及び水素原子以外の原子を1個又は2個以上含んでいてもよい。上記炭素原子及び水素原子以外の原子としては、例えば、酸素原子及び窒素原子の1種又は2種以上が挙げられる
【0014】
上記一価の炭化水素基として具体的には、例えば、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基が挙げられる。
【0015】
上記アルキル基、アルケニル基、及びアルキニル基の炭素数には特に限定はない。上記アルキル基の炭素数は、通常1〜15、好ましくは1〜10、更に好ましくは1〜8である。また、上記アルケニル基及びアルキニル基の炭素数は、通常2〜15、好ましくは2〜10、更に好ましくは2〜8である。
【0016】
上記アルキル基として具体的には、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、i−プロピル基、n−ブチル基、i−ブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、ヘキシル基、及びヘプチル基が挙げられる。上記シクロアルキル基として具体的には、例えば、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、及びシクロヘプチル基が挙げられる。上記アルケニル基として具体的には、例えば、ビニル基、アリル基、及びイソプロペニル基が挙げられる。上記シクロアルケニル基として具体的には、例えば、シクロヘキセニル基が挙げられる。
【0017】
上記アリール基、アリールアルキル基、アリールアルケニル基、及びアリールアルキニル基(以下、「アリール基等」と総称する。)の炭素数には特に限定はない。この炭素数は通常6〜15、好ましくは6〜12、更に好ましくは6〜10である。
【0018】
上記アリール基等は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アリール基等に含まれる芳香環は、他の置換基を1種又は2種以上有していてもよい。例えば、上記アリール基は、無置換のアリール基だけでなく、置換アリール基でもよい。芳香環に位置する置換基の位置は、o−、m−、及びp−のいずれでもよい。上記置換基として具体的には、例えば、ハロゲン原子(F、Cl、Br及びI等)、アルキル基、及びアルコキシ基の1種又は2種以上が挙げられる。
【0019】
上記アリール基として具体的には、例えば、フェニル基、トリル基、エチルフェニル基、キシリル基、クメニル基、メシチル基、ハロゲン化フェニル基(o−、m−、及びp−)、メトキシフェニル基(o−、m−、及びp−)、エトキシフェニル基(o−、m−、及びp−)、1−ナフチル基、2−ナフチル基、並びにビフェニリル基が挙げられる。上記アリールアルキル基として具体的には、ベンジル基、メトキシベンジル基(o−、m−、及びp−)、エトキシベンジル基(o−、m−、及びp−)、並びにフェネチル基が挙げられる。上記アリールアルケニル基として具体的には、例えば、スチリル基及びシンナミル基が挙げられる。
【0020】
R
1及びR
2は通常、メチル基又はエチル基である。R
1及びR
2がメチル基であれば、化合物(1)は、DMFのジアルキルアセタール(以下、「DMF−DAA」という。)である。R
1及びR
2がエチル基であれば、化合物(1)は、N,N−ジエチルホルムアミドのジアルキルアセタールである。通常、化合物(1)はDMF−DAAである。
【0021】
R
3及びR
4は、直接又は他の基を介して互いに結合していてもよい。該他の基としては、例えば、メチレン基が挙げられる。R
3及びR
4が互いに結合した化合物(1)の例を以下に示す。式(1A)中、R
a〜R
dはそれぞれ独立に水素原子又は一価の炭化水素基である。該一価の炭化水素基の内容は、R
3及びR
4の説明が妥当する。R
a〜R
dは全て又は一部が同じ基でもよく、全て異なる基でもよい。R
a〜R
dはいずれも水素原子でもよく、いずれも一価の炭化水素基でもよく、一部が水素原子で残部が一価の炭化水素基でもよい。R
b及びR
cは、直接又は他の基(例えば、メチレン基)を介して互いに結合していてもよい。
【0023】
化合物(1)は、通常、式(1−1)で表される化合物(以下、「化合物(1−1)」という。)とアルコール又はエポキシドとの反応により得ることができる。化合物(1)は、例えば、化合物(1−1)とエポキシドとの反応(下記スキーム参照)により得ることができる。また、化合物(1)は、文献(Tetrahedron 1979,35,1675)に記載の方法により、化合物(1−1)とアルコールとを反応させて得ることができる。これらの方法により、種々の構造の化合物(1)を得ることができる。よって、本方法によれば、種々の構造の炭酸エステルを得ることができる。尚、上記エポキシドは、オキサシクロプロパンを構造式中に持つ限り、その種類及び構造には特に限定はない。化合物(1)は、市販品を利用することができる。
【0025】
上記極性有機溶媒は、双極子モーメントを持つ有機溶媒であり、通常、誘電率が10以上、好ましくは15以上、更に好ましくは20以上である。上記極性有機溶媒
としてはプロトン性極性有機溶媒、
又は非プロトン性極性有機溶媒
が挙げられるが、本発明では、非プロトン性極性有機溶媒が用いられる。上記溶媒は1種の溶媒でもよく、2種以上の混合溶媒でもよい
。上記極性有機溶媒として具体的には、例えば、スルホキシド系溶媒(ジメチルスルホキシド(DMSO)及びジフェニルスルホキシド等)、アミド系溶媒(N,N−ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド(DMA)及びN−メチルピロリドン(NMP)等)、ウレア系溶媒(1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン(DMI)及びN,N’−ジメチルプロピレン尿素(DMPU)等)、及びニトリル系溶媒(アセトニトリル等)が挙げられる。上記極性有機溶媒としてDMSOを用いると、炭酸エステルの収率が向上するので好ましい。
【0026】
本方法において、上記CO
2を反応系に存在させる方法には特に限定はない。上記CO
2は固体状で反応系に添加してもよい。また、本方法では、反応雰囲気をCO
2ガス雰囲気下とすることにより、上記CO
2を反応系に存在させてもよい。本方法では、例えば、反応容器内にCO
2ガスを充填して反応を行うことができる。よって、上記CO
2として、CO
2ガスを用いることができる。
【0027】
本方法では、別途合成した化合物(1)とCO
2とを、上記極性有機溶媒中に含有させて反応を行うことができる。本方法では、上記極性有機溶媒中で化合物(1−1)とエポキシドとのアセタール化反応により化合物(1)を合成するか、又は文献(Tetrahedron 1979,35,1675)に記載の方法により、化合物(1−1)とアルコールとを反応させて化合物(1)を合成し、これを単離することなく、続いて、反応系にCO
2を存在させて反応を行ってもよい。よって、本方法には、極性有機溶媒中で化合物(1−1)とアルコール又はエポキシドとの反応により化合物(1)を得る第1工程と、次いで、第1工程の反応系にCO
2を加え、化合物(1)とCO
2とを反応させる第2工程を有する方法が含まれる。この方法では、必ずしも第1工程の終了後に第2工程を行う必要はない。例えば、この方法では、第1工程の途中で反応系にCO
2を加えてもよい。この方法では、化合物(1)の生成及び化合物(1)とCO
2との反応を並行して進行させることができる。
【0028】
本方法は、脱水処理されたガラス、炭化水素樹脂及び
固形状のハロゲン含有樹脂の1種又は2種以上の存在下で行うことができる。従来の方法では、高温・高圧の反応条件が必要であるのに対し、この方法によれば、穏和な条件(低温・低圧条件)でも更に収率よく炭酸エステルを得ることができるので好ましい。詳細は不明であるが、一般に反応容器の内面には、物理吸着水及び化学吸着水等の水分が存在し、これが炭酸エステルの収率を低下させる一因であると考えられる。上記水分は単なる加熱乾燥では取り除くことが困難である。一方、上記方法によれば、反応系中の上記水分が少ないことから、これにより、炭酸エステルの収率が向上すると考えられる
。
【0029】
上記ガラスの脱水処理の内容には特に限定はない。上記脱水処理は通常、予めガラス(例えば、ガラス製の反応容器)を減圧下で加熱処理する方法、より具体的には、例えば、減圧下で150〜300℃で加熱処理する方法が挙げられる。処理時間には特に限定はない。処理時間は通常5〜10時間程度である。
【0030】
上記炭化水素樹脂は、炭化水素単量体由来の単位で構成されている限り、その種類及び構造には特に限定はない。上記炭化水素樹脂は、単一の単量体単位で構成されている単独重合体でもよく、2種以上の単量体単位で構成されている共重合体でもよい。上記炭化水素樹脂として例えば、ポリオレフィン樹脂が挙げられる。該ポリオレフィン樹脂の種類及び構造には特に限定はない。該ポリオレフィン樹脂は鎖状オレフィン樹脂及び環状オレフィン樹脂のいずれでもよい。上記炭化水素樹脂として好ましくはポリオレフィン樹脂、更に好ましくは鎖状オレフィン樹脂である。上記鎖状オレフィン樹脂は、その構造中に分枝を有していてもよい。
【0031】
上記鎖状オレフィン樹脂として具体的には、例えば、α−オレフィン及び芳香族オレフィンの1種又は2種以上の重合体が挙げられる。上記鎖状オレフィン樹脂はα−オレフィンの1種又は2種以上の重合体でもよく、芳香族オレフィンの1種又は2種以上の重合体でもよく、α−オレフィンの1種又は2種以上と芳香族オレフィンの1種又は2種以上との重合体でもよい。上記α−オレフィンは通常、炭素数2〜10、好ましくは2〜8のα−オレフィンが挙げられる。上記α−オレフィンとして具体的には、例えば、エチレン、プロピレン、ブテン、及びメチルペンテンが挙げられる。上記芳香族オレフィンとして具体的には、例えば、スチレン及びその誘導体(α−メチルスチレン等)が挙げられる。上記炭化水素樹脂として好ましくは、ポリメチルペンテン(PMP)が挙げられる。
【0032】
上記ハロゲン含有樹脂は、ハロゲン含有単量体由来の単位を含む限り、その種類及び構造には特に限定はない。上記ハロゲンはフッ素でもよく、塩素でもよい。上記ハロゲン含有樹脂に含まれるハロゲン原子は、1種でもよく、2種以上でもよい。また、上記ハロゲン含有樹脂は、単一の単量体単位で構成されている単独重合体でもよく、2種以上の単量体単位で構成されている共重合体でもよい。上記ハロゲン含有樹脂は、ハロゲン含有単量体由来の1種又は2種以上の重合体でもよく、ハロゲン含有単量体由来の1種又は2種以上と、これと重合し得る他の単量体の1種又は2種以上の重合体でもよい。よって、上記ハロゲン含有樹脂は、ハロゲン含有単量体由来の単位で構成されていてもよく、ハロゲン含有単量体由来の単位と他の単量体単位の1種又は2種以上で構成されていてもよい。
【0033】
上記ハロゲン含有樹脂として好ましくはフッ素樹脂である。本方法において、上記ハロゲン含有樹脂としてフッ素樹脂を用いると、穏和な条件(低温・低圧条件)でも更に収率よく炭酸エステルを得ることができるので好ましい。特に、脱水処理されたガラス及び炭化水素樹脂の存在下で反応を行う場合と比べて、更に収率よく炭酸エステルを得ることができるので好ましい。
【0034】
上記フッ素樹脂の種類及び構造には特に限定はない。上記フッ素樹脂は、フッ素含有単量体由来の1種又は2種以上の重合体でもよく、フッ素含有単量体由来の1種又は2種以上と、これと重合し得る他の単量体の1種又は2種以上の重合体でもよい。よって、上記フッ素樹脂は、フッ素含有単量体由来の単位で構成されていてもよく、フッ素含有単量体由来の単位と他の単量体単位の1種又は2種以上で構成されていてもよい。上記フッ素樹脂は、ハロゲン原子としてフッ素のみを有していてもよく、他のハロゲン原子(例えば、Cl)を有していてもよい。
【0035】
上記フッ素樹脂として具体的には、例えば、下記式(2)で表される単量体単位からなるフッ素樹脂又はこの単量体単位を含むフッ素樹脂が挙げられる。式(2)中、R
5〜R
8は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子(例えば、F又はCl)、パーフルオロアルキル基(例えば、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、具体的には、例えばトリフルオロメチル基)、又はパーフルオロアルコキシ基(例えば、炭素数1〜3のパーフルオロアルコキシ基、具体的には、例えばトリフルオロメトキシ基)である。但し、R
5〜R
8のうちの少なくとも1つはフッ素原子である。R
5〜R
8は全て同じ基又は原子でもよく、全て異なる基又は原子でもよく、一部が同じ基又は原子で、他は異なる基又は原子でもよい。式(2)中、nは整数である。
【0037】
上記フッ素樹脂として更に具体的には、例えば、下記式(2A)又は(2B)で表されるフッ素樹脂が挙げられる。式(2)中、R
5〜R
14は、それぞれ独立に水素原子、ハロゲン原子(例えば、F又はCl)、パーフルオロアルキル基(例えば、炭素数1〜3のパーフルオロアルキル基、具体的には、例えばトリフルオロメチル基)、又はパーフルオロアルコキシ基(例えば、炭素数1〜3のパーフルオロアルコキシ基、具体的には、例えばトリフルオロメトキシ基)である。但し、R
5〜R
14のうちの少なくとも1つはフッ素原子である。R
5〜R
14は全て同じ基又は原子でもよく、全て異なる基又は原子でもよく、一部が同じ基又は原子で、他は異なる基又は原子でもよい。式(2A)及び(2B)中、m及びnは整数である。
【0039】
式(2)、式(2A)及び(2B)中、水素原子の数として好ましくは2以下、更に好ましくは1以下、より好ましくは0である。水素原子の数が上記範囲であると、炭酸エステルの収率が向上するので好ましい。
【0040】
上記フッ素樹脂として更に具体的には、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体(PFA)、テトラフルオロエチレン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体(FEP)、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、ポリクロロトリフルオロエチレン(PCTFE)、及びクロロトリフルオロエチレン・エチレン共重合体(ECTFE)が挙げられる。上記フッ素樹脂として好ましくは、PTFE又はPFAである。
【0041】
上記方法において、脱水処理されたガラス、炭化水素樹脂及び
固形状のハロゲン含有樹脂の存在状態には特に限定はない。上記方法として具体的には、例えば、(A)少なくとも内面が脱水処理されたガラス製の反応容器内、
又は(B)少なくとも内面が炭化水素樹脂である反応容器
内で反応を行う方法(以下、「方法I」という。)が挙げられる。また、上記方法として、脱水処理されたガラス、固形状の炭化水素樹脂及び固形状のハロゲン含有樹脂の1種又は2種以上、好ましくは固形状のハロゲン含有樹脂を上記極性有機溶媒中に含有させて反応を行う方法(以下、「方法II」という。)が挙げられる。
【0042】
方法Iにおいて、上記(B
)の反応容器は、少なくとも内面、即ち、上記極性有機溶媒と接する部分が炭化水素樹脂及びハロゲン含有樹脂であればよい。よって、上記(B
)の反応容器として、炭化水素樹脂
製の容器を用いることができる。また、上記(B
)の反応容器として、少なくとも内面の全部又は一部が炭化水素樹
脂でコーティングされている容器を用いることができる。
【0043】
方法IIでは、反応容器の種類には特に限定はない。例えば、方法IIは、通常のガラス製の反応容器内に固形状のハロゲン含有樹脂等を上記極性有機溶媒中に含有させて反応を行うことができる。上記固形状の炭化水素樹脂及び上記固形状のハロゲン含有樹脂の形状は、固形状である限り特に限定はない。通常は粉末状である。上記固形状の炭化水素樹脂及び上記固形状のハロゲン含有樹脂の量は、炭酸エステルを得ることができる限り特に限定はない。通常、上記固形状の炭化水素樹脂及び上記固形状のハロゲン含有樹脂の量は、基質である化合物(1)1molに対して0.1〜5mol、好ましくは0.5〜3mol、更に好ましくは0.5〜2molである。
【0044】
本方法の反応条件には特に限定はない。本方法は、従来の方法と比べて穏和な条件で反応を進めることができる。例えば、本方法では、温度を20〜150℃、好ましくは40〜120℃とすることができる。また、本方法では、圧力を0.05〜3MPa、好ましくは0.1〜2MPa、更に好ましくは0.1〜1MPaとすることができる。反応雰囲気にも特に限定はない。本方法は、例えば、CO
2ガス雰囲気下で行うことができる。本方法の実施態様の例として、CO
2ガス雰囲気下、0.05〜3MPa(好ましくは0.1〜2MPa、更に好ましくは0.1〜1MPa)の圧力で反応を行う方法が挙げられる。本方法の実施態様の別の例として、CO
2ガス雰囲気下、0.05〜3MPa(好ましくは0.1〜2MPa、更に好ましくは0.1〜1MPa)の圧力、20〜150℃(好ましくは40〜120℃)の温度で反応を行う方法が挙げられる。
【0045】
本方法では、反応系中の水分量が少ないと、炭酸エステルの収率が向上するので好ましい。具体的には、反応系中の水分量は、化合物(1)に対して30mol%以下、好ましくは20mol%以下、更に好ましくは10mol%以下、より好ましくは5mol%以下、特に好ましくは1mol%以下とすることができる。反応系中の水分量の下限値には特に限定はない。該下限値として例えば、化合物(1)に対して0.5mol%、好ましくは0.1mol%、更に好ましくは0.05mol%、より好ましくは0.01mol%とすることができる。
【0046】
本方法により得られる炭酸エステルの構造は以下の通りである。式(3)中、R
3及びR
4の内容は、上記の説明が妥当する。
【0048】
本方法では、従来の方法で用いられていた各種遷移金属触媒、有機スズ触媒、及び脱水剤を必ずしも用いる必要がない。従って、本方法は、各種遷移金属触媒、有機スズ触媒、及び脱水剤を用いずに行うことができる。これにより、従来の方法と比べてより効率的に炭酸エステルを得ることができる。
【0049】
本方法では、反応により化合物(1−1)が副生する。しかし、本方法では、従来の方法のようなアルカリ金属塩の副生を抑制することができる。よって、本方法は、従来の方法と比べて、環境への負荷も低い。副生する化合物(1−1)(通常はDMF)は、減圧蒸留等により容易に除去することができる。よって、本方法は、従来の方法と比べて、炭酸エステルを容易に分離精製することができる。また、除去された化合物(1−1)は、回収後、本方法に再利用することができる。
【実施例】
【0050】
以下、実施例により本発明を具体的に説明する。尚、本発明は、実施例に示す形態に限られない。本発明の実施形態は、目的及び用途等に応じて、本発明の範囲内で種々変更することができる。
【0051】
(1)実験例1
恒温乾燥機で乾燥したPTFE製反応容器にDMSO(0.3ml)を加えた。次いで、反応容器にDMFのジベンジルアセタール(260μl、1mmol)を加えた。反応容器をオートクレーブに入れ、1MPaのCO
2ガスで3回CO
2置換をした。続いて、オートクレーブに0.1MPaのCO
2ガスを加えて、100℃で12時間攪拌した。
【0052】
その後、この溶液にNaHCO
3(10ml)を加え、この水溶液を酢酸エチルで3回(10ml×3)抽出した。全ての抽出液を集め、有機層をNa
2SO
4で乾燥させた。この固体と液体の混合物をろ過し、得られたろ液を減圧留去して濃縮し、粗生成物を得た。これをシリカゲルカラムクロマトグラフィー (展開溶媒:酢酸エチル/n−ヘキサン=4/1)により精製し、目的生成物であるジベンジルカーボネートを得た(240mg)。単離重量を電子天秤で測定し、単離収率を求めた(99%;エントリー1)。
【0053】
DMF−DAAの種類及びDMSOの量を、表1に記載の内容に変更し、反応時間を24時間とする他は、エントリー1と同様の方法により、各種炭酸エステルを得た(エントリー2〜8)。その単離収率を以下の表1に示す。表1中、「NMR yield」とは、生成物を単離後、生成物に0.1mmolの1,1,2,2−テトラクロロエタン(標準物質)を加え、CDCl
3にこれらを溶解させ、
1H−NMRを測定し、そのスペクトルの積分値から換算して求めた単離収率である(以下の実験例の「yield」及び「単離収率」も同じ方法で求めた結果である。)。
【0054】
【表1】
【0055】
表1より、エントリー1〜8はいずれも、従来の方法よりも低圧(101kPa)及び低温(100℃)の反応条件で、高収率で炭酸エステルを得ることができた。
【0056】
(2)実験例2
反応容器として、表2記載の反応容器を用い、DMSOの量を1mlとする他は、実験例1(エントリー1)と同じ手順で、炭酸エステルを合成した。反応スキーム及び結果(炭酸エステルの単離収率)を表2に示す。尚、エントリー2は、反応容器として、予め240℃で7時間減圧処理したガラス製反応容器を用いた結果である。
【0057】
【表2】
【0058】
表2より、エントリー1〜5のいずれも、従来の方法よりも低圧(101kPa)及び低温(100℃)の反応条件で炭酸エステルを得ることができた。また、エントリー1(ガラス製反応容器を用いた実験例)と比べて、エントリー2(脱水処理済みのガラス製反応容器を用いた実験例)、エントリー3(炭化水素樹脂製の反応容器を用いた実験例)、並びにエントリー4及び5(ハロゲン含有樹脂製の反応容器を用いた実験例)は、いずれも炭酸エステルの収率が高かった。また、表2より、エントリー2及び3と比べて、エントリー4及び5は更に収率が高かった。この結果より、ハロゲン含有樹脂製の反応容器を用いると、更に高収率で炭酸エステルを得ることができることが分かる。
【0059】
(3)実験例3
反応系に表3記載のフッ素樹脂(粉末状)を加える他は、実験例1(エントリー1)と同じ手順で、炭酸エステルを合成した。反応スキーム及び結果(炭酸エステルの単離収率)を表3に示す。
【0060】
【表3】
【0061】
エントリー1〜4は、いずれもガラス製の反応容器を用いている。しかし、表3より、エントリー2〜4は、エントリー1と比べて、炭酸エステルの収率が著しく向上している。また、エントリー5及び6は、いずれも炭化水素樹脂製の反応容器を用いている。しかし、表3より、エントリー6は、エントリー5と比べて、炭酸エステルの収率が高い。これらの結果から、反応系に固形状のフッ素樹脂を加えることにより、更に炭酸エステルの収率が高まることが分かる。
【0062】
(4)実験例4
溶媒及び反応容器として、表4記載の溶媒及び反応容器を用い、反応溶媒の量を1mlとする他は、実験例1(エントリー1)と同じ手順で、炭酸エステルを合成した。反応スキーム及び結果(炭酸エステルの単離収率)を表4に示す。
【0063】
【表4】
【0064】
無溶媒又は無極性有機溶媒(酢酸エチル及びトルエン)を用いた場合、100℃、101kPaの条件では炭酸エステルの収率は極めて低かった(エントリー1〜3)。また、アルコール(BnOH)を用いた場合も炭酸エステルの収率は極めて低かった(エントリー4)。一方、極性有機溶媒を用いた場合、エントリー1〜3よりも炭酸エステルの収率は高かった(エントリー4〜10)。通常のガラス製容器で極性有機溶媒を用いた場合でも、100℃、101kPaの条件で炭酸エステルを得ることができた(表4左欄)。一方、炭化水素樹脂(PMP)製及びフッ素樹脂(PTFE)製の反応容器で極性有機溶媒を用いた場合、更に収率が向上した(表4中央欄及び右欄)。