(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記界面活性剤は、いずれも炭素数が8から50のアルキル基を有するアルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩及びポリオキシエチレンアルキルエーテルの1つ以上を含むことを特徴とする請求項1または2記載の消火液剤。
請求項1乃至3のいずれか1項に記載の消火液剤を、50mlから200ml容のプラスチックバックに密封して成る天ぷら油火災用の消火パックであることを特徴とする簡易消火用具。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明者は、消火液剤について多年にわたり研究した結果、塩化アンモニウム(NH
4Cl)、炭酸ナトリウム(Na
2CO
3)または炭酸カリウム(K
2CO
3)、第二リン酸アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)、重炭酸ナトリウム(NaHCO
3)または重炭酸カリウム(KHCO
3)を含む消火薬組成物を見出し、この消火薬組成物を水に溶解した消火薬溶液が優れた消火作用を持つことを見出した。この消火薬溶液を衝撃破損性容器内に充填した手投げ消火液弾を、手につかんで火元に投てきすると、容器が破裂し、拡散した消火薬が燃焼物の熱で化学反応を起こして熱を奪うと同時に、発生したガスが空気を排除し火焔を消失させるものである。
【0017】
この消火液弾は普通火災(A火災)と呼ばれる、紙、木、繊維、樹脂など、主として固形物が燃える一般的な火災に好適に適応できるものであるが、住宅火災および事業所火災の一因である天ぷら油火災には適応しがたいものであった。即ち、従来の消火剤弾を炎上する天ぷら鍋に直接投てきすると、油が飛び散り、火災を大きくしてしまう恐れがあった。
そこで,本発明者は、鋭意検討を重ねた結果、従来の消火薬組成物の水溶液に界面活性剤を加えることにより、普通火災(A火災)ばかりでなく。天ぷら油火災を始めとする油火災(B火災)に適用可能な消火液剤を開発した。
【0018】
従来の消火薬溶液は、火中に投入されると、消火薬が燃焼物の熱で化学反応を起こして、瞬時に炭酸ガス(CO
2)やアンモニアガス(NH
3)等のガスを大量発生させ、発生したガスが空気を可燃物から遠ざけることにより火焔を消失させるものである。しかしながら、発生したガスが空気を遮断するのは一時的なものであり、消火薬水溶液が不足して発生したガス量が空気を完全に排除しなかった場合には、火種が残り、空気が可燃物に再接触して再度燃焼が始まることになる。
一方、消火薬が化学反応を起こしてガスを発生した後の残渣は、皮膜となって消火対象物を覆い、空気と可燃物の接触を遮断する。しかしながら、可燃物が流動性を有している場合には、反応後の消火薬剤残渣の被膜が裂けたり、可燃物中に埋没したりするため、消火対象の可燃物を覆い続けることが困難であった。
【0019】
本発明は従来の消火薬溶液に界面活性剤を加えることにより、上記のような問題点を解決するに至ったものである。即ち、火中に投じられることによって消火液剤の化学反応によって大量に発生する炭酸ガス(CO
2)とアンモニアガス(NH
3)及び燃焼熱で発生する水蒸気を界面活性剤と消火液剤とが形成する泡に閉じ込める。この泡は消火薬の成分のうち反応後に気体となって放散することなく残った塩化物、リン酸塩等とともに消火対象の可燃物を覆い、可燃物と空気との接触を断ち消火を成し遂げる。この泡は、流動性のある可燃物に対しても亀裂を生じたり可燃物に埋没することがなく、また、鎮火した後も可燃物を冷却しつつ覆い続けるため、延焼を防止し、再発火を抑止するものである。
本発明は従来の消火薬組成物の水溶液に界面活性剤成分を追加することにより、泡の発生という新たな消火手段を追加し、普通火災に対する消火能力を高めただけでなく、油火災にも適応を可能にしたものである。
【0020】
本発明の消火液剤を衝撃破損性容器内に充填した手投げ消火液弾を、火元に投てきすると、容器が破裂し、流出した消火液が燃焼物の熱で化学反応を起こして熱と酸素を奪うと同時に、発生したガスを内包する泡が可燃物を覆い、空気を遮断し火焔を消失させる。
【0021】
本発明の消火液剤を衝撃破損性容器内に充填した手投げ消火液弾は、普通火災の他、油火災にも有効なため、一般家庭や事務所等の他、例えば、飲食店、自動車整備工場、塗装工場、紙、木材、油脂等を取り扱う工場等、火災の発生しやすい工場や施設での初期消火に有効である。さらに車火災の初期消火にも有効である。
さらに、本発明の手投げ消火液弾は容器のキャップを外すことができ、消火液剤を火元に直接注ぎ入れることにより、例えば、天ぷら油火災を消火することができる。また、消火液剤を厚手の布や毛布等に掛け、消火液剤を染み込ませることにより簡易の防火布を即座に調達することができる。
【0022】
一方、本発明の消火液剤をプラスチックバックに充填した天ぷら油火災用の消火パックを、菜箸等の棒状のものを使用して炎上中の油鍋に入れると、プラスチックバックの容器が融解により破損し、流出した消火液剤が高熱によって泡を発生させながら炎上中の天ぷら鍋の表面に広がり、油から空気を遮断して火焔を消失させる。本発明の消火液剤は、消火液剤の反応により、燃焼物の熱を奪うとともに、発生した不燃性ガスを内包した泡が天ぷら油の表面を覆うため、再燃の恐れもない。
本発明の消火液剤をプラスチックバックに充填した天ぷら油火災用の消火パックは、天ぷら油火災のみならず、ガソリン、灯油、重油、オイル、グリースによる火災にも有効であることが、実施例で証明されている。
【0023】
消火液剤の各成分の特性と作用は以下の通りである。
(1)塩化アンモニウムはパンの膨張剤などの食品添加物として認められているほか、調味料として無制限に使用が認められている化学物質である。
炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムは、かん水として中華麺の製造にも使用される食品添加物である。
塩化アンモニウムと炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムとは常温でもわずかながら次のように反応し、弱いアンモニア臭を発する。炭酸カリウムを例としてその反応式を示すと以下のとおりである。
【化1】
温度の上昇とともに反応は急速に進行するから、消火薬剤を火中に投じた場合、激しく反応し、アンモニアガス(NH
3)と炭酸ガス(CO
2)を大気中に放出する。水も火災の熱によって水蒸気となる。従来の技術では、これらの炭酸ガス、アンモニア、水蒸気が、空気(酸素)を急速に排除し燃焼を抑止する。本発明ではこれらの発生したガスを界面活性剤と水とが形成する泡の中に保留し、その泡が消火対象の可燃物を覆い、可燃物と酸素との接触を断って消火する。
【0024】
(2)第二リン酸アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)は醸造用薬品としても使用される化合物で、加熱によってアンモニア(NH
3)を放出して、第一リン酸アンモニウム((NH
4)H
2PO
4)になる。第一リン酸アンモニウムは、以前より消火剤として消火器に使用されている物質であるが、塩化アンモニウム及び炭酸カリウムとの相乗作用により、一層強力に消火作用に寄与する。第一リン酸アンモニウム((NH
4)H
2PO
4)は加熱によりアンモニアと水を放ってメタリン酸アンモニウム((NH
4PO
3)
n)になり、不燃の膜を形成する。この被膜が可燃物と空気(酸素)の接触を防止することにより、燃焼を抑止する。
【化2】
本発明では、第二リン酸アンモニウム((NH
4)
2HPO
4)及び第一リン酸アンモニウム((NH
4)H
2PO
4)から発生したアンモニアガス(NH
3)を界面活性剤と消火液剤とが形成する泡の中に内包する。
【0025】
(3)重炭酸ナトリウム及び重炭酸カリウムはパンのふくらし粉(ベーキングパウダ−)として知られる食品添加物である。重炭酸ナトリウム及び重炭酸カリウムは、常温で塩化アンモニウムと炭酸カリウムの反応(〔化1〕式参照)を抑制し、本発明の消火液剤の長期安定化に寄与している。重炭酸ナトリウム及び重炭酸カリウムは高温で分解して炭酸ガス(CO
2)を発生し消火作用の一翼を担うのものである。
【0026】
(4)界面活性剤の多くは、洗剤の主成分として知られ、家庭でも、台所用洗剤や洗濯用洗剤としてなじみが深い。界面活性剤の主要な働きは、表面張力を弱める作用であり、界面活性剤の水溶液に気体を吹き込むと界面活性剤の作用により泡が発生する。本発明の消火液剤を火中に投入すると、上記のように、塩化アンモニウムと炭酸カリウムからアンモニアガス(NH
3)と炭酸ガス(CO
2)、第二リン酸アンモニウムからはアンモニアガス(NH3)重炭酸ナトリウムからは炭酸ガス(CO
2)が発生し、これらの不燃性ガスによって膨らんだ泡が火元である可燃物を覆う。この泡は、消火した後も可燃物を冷却しつつ覆い続けるため、延焼を防止、再発火を抑止する作用がある。
【0027】
(5)水は、消火薬を溶解する溶媒であり、消火薬を均一に混合して反応を促進させ、また、消火薬成分が反応を開始するための熱媒体でもある。一方、水は界面活性剤を溶解することにより表面張力が低下し、消火の際、消火薬から発生するガスを捕捉して発生する泡の主成分である。この泡が可燃物を覆い、可燃物と空気との接触を断ち消火を成し遂げる。
水自体の多大な蒸発熱(吸熱)及び発生する水蒸気による空気の排除に基づく消火作用については言うまでもない。
【0028】
本発明の消火液剤に使用する塩化アンモニウムに特に制限はなく、食品添加物グレードから工業用グレードまで幅広く利用できる。
本発明の消火液剤の塩化アンモニウム濃度は、消火液剤に対し、7重量%から13重量%が好ましく、8重量%から12重量%がより好ましく、9重量%から11重量%がさらに好ましい。
塩化アンモニウム濃度が7重量%未満では、薬剤が不足し、十分な消火機能を発揮できない恐れがある。また、塩化アンモニウム濃度が13重量%以上になると、他の薬剤とのバランスが崩れ、十分な消火機能を発揮できない恐れがある。
【0029】
本発明の消火液剤に使用する炭酸ナトリウムまたは炭酸カリウムに特に制限はなく、食品添加物グレードから工業用グレードまで幅広く利用できる。
本発明では、界面活性剤と水以外の成分は、塩化アンモニウムに対しての重量割合で配合される。
本発明の消火液剤の炭酸ナトリウム、炭酸カリウムから選ばれる炭酸塩の相対濃度は塩化アンモニウムニウム100重量部に対し35部から75部であり、41部から74部であることがより好ましく、49部から65部であることが更に好ましい。
炭酸ナトリウム及び炭酸カリウムは、両剤を混合して炭酸塩として使用できる。
炭酸ナトリウム及び/または炭酸カリウムの相対濃度が、塩化アンモニウム100重量部に対し35部未満では、塩化アンモニウムとの反応に炭酸塩が不足し、十分な消火機能を発揮できない恐れがある。また、炭酸ナトリウム及び/または炭酸カリウムの相対濃度が75部以上になると、他の薬剤とのバランスが崩れ、十分な消火機能を発揮できない恐れがある。
例えば、本発明の消火液剤中の炭酸カリウム濃度は、消火液剤に対し、5重量%から8重量%程度である。
【0030】
本発明の消火液剤に使用する第二リン酸アンモニウムに特に制限はなく、食品添加物グレードから工業用グレード、肥料用グレードまで幅広く利用できる。
本発明の消火液剤の第二リン酸アンモニウムの相対濃度は、塩化アンモニウム100重量部に対し13部から30部であり、16部から25部がより好ましく、19部から22部がさらに好ましい、
第二リン酸アンモニウムの相対濃度が塩化アンモニウム100重量部に対し13部未満では、リン酸塩が不足し、十分な消火機能を発揮できない恐れがある。また、第二リン酸アンモニウムの相対濃度が30部以上になると、他の薬剤とのバランスが崩れ、十分な消火機能を発揮できない恐れがある。
例えば、消火液剤中の第二リン酸アンモニウムの濃度は消火液剤に対し、1重量%から3重量%程度である。
【0031】
本発明の消火液剤に使用する重炭酸ナトリウムまたは重炭酸カリウムに特に制限はなく、食品添加物グレードから工業用グレードまで幅広く利用できる。
本発明の消火液剤の重炭酸ナトリウム、重炭酸カリウムから選ばれる重炭酸塩のの相対濃度は、塩化アンモニウム100重量部に対し8部から50部であり、9部から20部がより好ましく、10部から15部がさらに好ましい、
重炭酸ナトリウム及び重炭酸カリウムは、両剤を混合して重炭酸塩として使用できる。
重炭酸ナトリウム及び/または重炭酸カリウムの相対濃度が塩化アンモニウム100重量部に対し8部未満では、重炭酸塩が不足し、十分な消火機能及び消火液剤の安定化機能を発揮できない恐れがある。また、重炭酸ナトリウム及び/または重炭酸カリウムの相対濃度が50部以上になると、他の薬剤とのバランスが崩れ、十分な消火機能と消火液剤の安定化機能を発揮できない恐れがある。
例えば、重炭酸ナトリウムの濃度は、消火液剤に対し、0.5重量%から5重量%である。
【0032】
本発明の消火液剤に使用する界面活性剤に特に制限はなく、一般に普及している界面活性剤を広く利用できる。
本発明の消火液剤に使用できる界面活性剤として、例えば、水中で解離したとき陰イオンとなる陰イオン系界面活性剤(アニオン性界面活性剤)、水中で解離したとき陽イオンとなる陽イオン系界面活性剤(カチオン性界面活性剤)、分子内にアニオン性部位とカチオン性部位の両方をもち、溶液のpHに応じて陽・両性・陰イオンとなる両性界面活性剤(双性界面活性剤)及びイオン化する親水性部分を持たない非イオン系界面活性剤(非イオン性界面活性剤)のいずれも好ましく利用できる。これらの界面活性剤は1種または2種以上を組合せて使用することができる。
【0033】
陰イオン系界面活性剤(アニオン性界面活性剤)としては、脂肪酸ナトリウム(石鹸:RCOO
−Na
+)、アルファスルホ脂肪酸エステル塩(RCH(SO
3−M
+)COOR’)、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸塩(RC
6H
4SO
3−M
+)、アルキル硫酸エステル塩(ROSO
3−M
+)、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩(RO(CH
2CH
2O)
mSO
3−M
+)、モノアルキルリン酸エステル塩(ROPO(OH)O
−M
+)、アルファオレフィンスルホン酸塩(RCH=CH(CH
2)
nSO
3−M
+)、アルカンスルホン酸塩(RSO
3−M
+)を例示することができる。中でも、アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩をより好ましく利用することができる。
【0034】
陽イオン系界面活性剤(カチオン性界面活性剤)としては、アルキルトリメチルアンモニウム塩(RN
+(CH
3)
3X
−)、ジアルキルジメチルアンモニウム塩(RR’N
+(CH
3)
2X
−)、アルキルベンジルジメチルアンモニウム塩(RN
+(CH2Ph)(CH
3)
2X
−)を例示することができる。
【0035】
両性界面活性剤(双性界面活性剤)としては、アルキルジメチルアミンオキシド(RN
+(CH
3)
2O
−)、アルキルカルボキシベタイン(RN
+(CH
3)
2CH
2COO
−)、アルキルアミノ脂肪酸塩(RNHCH
2CH
2COO
−M
+)等を例示することができる。
非イオン系界面活性剤(非イオン性界面活性剤)としては、ポリオキシエチレンアルキルエーテル(RO(CH
2CH
2O)
mH)、ポリオキシエチレン脂肪酸エステル(RCO
2(CH
2CH
2O)
mH)、ポリオキシエチレン脂肪酸ソルビタンエステル、アルキルポリグルコシド、ショ糖脂肪酸エステル、脂肪酸ジエタノールアミド(RCON(CH
2CH
2OH)
2)、アルキルモノグリセリルエーテル(ROCH
2CH(OH)CH
2OH)等を例示することができる。中でも、ポリオキシエチレンアルキルエーテルをより好ましく利用することができる。
【0036】
上記した界面活性剤の他にフッ素系界面活性剤と呼ばれる界面活性剤がある。フッ素系界面活性剤は、上に例示した多くの界面活性剤が有するアルキル基の複数の水素原子を複数のフッ素原子で置換したものであり、フッ素を含有していない界面活性剤よりも表面張力を低下させる能力が高い。これらのフッ素系界面活性剤も本発明の消火液剤の界面活性剤として使用することができる。
しかしながら、これらのフッ素系界面活性剤は生体濃縮性の問題があり、使用が制限されているものがある。
【0037】
本発明に使用する界面活性剤として、アルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩、アルキルスルホン酸塩及びポリオキシエチレンアルキルエーテルをより好ましく利用することができる。共に家庭用洗剤として使用の実績がある。ここでいずれのアルキル基の炭素数は8〜50が好ましく、8〜20がより好ましい。通常アルキル基の炭素数は10〜18程度である。アルキルポリオキシエチレン硫酸塩及びポリオキシエチレンアルキルエーテルのオキシエチレン基の繰り返し単位は2〜20であり、通常、3〜10である。
【0038】
これらの界面活性剤は1種または2種以上を組合せて使用することができる。界面活性剤を混合して使用する場合の、組合せ及び混合割合に特に制限はない。ただし、アニオン性界面活性剤とカチオン性界面活性剤の組合せには注意を要する。
本発明の消火液剤は、上記の界面活性剤を0.1重量%から10重量%となるように消火薬水溶液に混合したものであることがよい。界面活性剤がアルファスルホ脂肪酸エステル塩、アルキルポリオキシエチレン硫酸塩及びアルキルスルホン酸塩から選ばれる1種以上の陰イオン界面活性剤とポリオキシエチレンアルキルエーテルを成分とする組成の場合、界面活性剤濃度は消火液剤の2重量%から8重量%であることが好ましく、4重量%から6重量%であることが更に好ましい。
界面活性剤の濃度が0.1重量%以下であると消火の際、発生した泡の消火対象物を包み込む力が劣り、炎が高く上がり、十分な消火ができなくなる恐れがある。一方、界面活性剤の濃度が10重量%以上になると、他の成分とのバランスが崩れ、十分に消火効果を発揮できない恐れがある。
【0039】
上記の消火液剤を充填してなる手投げ消火液弾の樹脂容器は、例えば
図1に示すようなペットボトル様の筒状容器で、内容量が500mlから1200mlであることがよく、600mlから1000mlであることがより好ましい。
消火液弾の内容量が500ml以下では、1回の投てきで燃焼中消火対象物にかかる薬液が少なすぎて消火が不十分になる恐れがある。一方、内容量が1200ml以上になると重すぎて投てきでは狙った火元に届かない恐れがある。
【0040】
手投げ消火液弾の容器は長期間の保存が可能で、投てきによって破壊する容器であれば特に制限はないが、通常は合成樹脂の容器が利用される。合成樹脂の容器の材質としては、例えば塩化ビニル、低圧ポリエチレン、高圧ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリエチレンテレフタレート等が好ましく利用できる。
本発明の手投げ消火液弾は投てきの衝撃によりその容器が物理的に壊れ、充填されている消火薬液が燃焼中の可燃物にかかる必要がある。従って、容器は衝撃により破裂する強度を持つものであり、その一方で長期保存に耐えるものであることが要求される。
【0041】
一方、本発明の消火液剤を充填した天ぷら油火災用の簡易消火用具は、天ぷら油火災時に炎の上に位置した時、炎の熱により容器が破損し、充填された消火液剤が炎上中の油に注入される。あるいは、炎上中の油鍋の中に、天ぷら油火災用の消火パックを投入または挿入すると、融解によってプラスチックの容器が破損し、充填した消火液剤が油に中に流出するものである。燃焼中の油の中に入った消火液剤は高熱によって泡を発生させながら、炎上中の天ぷら鍋の表面に広がり消火するものである。
【0042】
通常1個の天ぷら鍋火を消すために必要な消火液剤の量は、天ぷら油の量によるが、一般家庭で一回に使用する天ぷら油200〜600mlに対しては、消火液剤の50mlから200mlが良く、80mlから120mlがより好ましい。50ml以下では、消火液剤が不足して十分な消火ができない恐れがある。一方、200ml以上では、消火の後も消火液剤が残り、無駄であり、場合によっては、消火液剤が天ぷら鍋から溢れてしまう恐れがある。天ぷら油を一回に大量に使用する事業所等では、使用する天ぷら油の量に応じた数の天ぷら油火災用の消火パックを準備しておくとよい。
【0043】
消火液剤を充填した天ぷら油火災用の簡易消火用具は、50mlから200mlの消火液剤を密封して保管できるものであれば、特に、制限はないが、天ぷら油火災の際に炎にかざした時、直ちに炎の熱で容器が燃焼または融解して破損し、内容物の消火液剤が炎上中の油に注がれるか、あるいは、炎上中の油鍋に投入した時、高熱により融解し、内容物が油の中に流出しなければならない。
【0044】
炎の熱で融解して破損する容器としては、例えば、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリエチレンテレフタレート、アクリル樹脂、ポリビニルアルコール、ポリアミド、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート等の耐熱温度が比較的低い熱可塑性樹脂で成形した容器またはフィルムで製造した袋を例示できる。
これらの樹脂で造られたプラスチックバックはいずれも本発明の消火液剤の容器として好ましく使用できる。中でもポリエチレン、ポリプロピレン及びポリアミドのバックは強度、耐久性に優れ、市販されるバックの種類の豊富さから好ましく利用できる。
【0045】
本発明で使用可能なポリエチレンとしては、耐熱温度が100℃未満の低密度ポリエチレン(低圧ポリエチレン)、耐熱温度が128℃程度の高密度ポリエチレン(高圧ポリエチレン)、物性が低密度エチレンと高密度エチレンの中間にある線状低密度エチレン及び架橋ポリエチレン等があるが、これらのいずれで製造したプラスチックバックも好ましく使用できる。
また、ポリプロピレンで製造したプラスチックバックも好ましく使用できる。
本発明で使用可能なポリアミドとしてはポリアミド6、ポリアミド66、ポリアミド12及びアモルファスポリアミドがある。これらのいずれのポリアミドで製造したプラスチックバックも好ましく使用できる。
この他、ポリアミド樹脂にはポリアミド46や芳香族基を有するポリアミドが知られているが、耐熱温度が高いため、本発明の消火パックの容器としては適当ではない。
【0046】
消火の際、プラスチックバックが融解する必要があることを考慮すると、プラスチックバックに使用する樹脂フィルムは薄手のものが好ましく、フィルムの厚さとして0.01〜0.5mmであることが好ましい。0.01mm以下では、プラスチックバックの強度が弱くなり、取り扱い難かったり破損する恐れがある。一方、フィルムの厚さが0.5mmを超過すると天ぷら油火災の熱でプラスチックバックが融解するのに時間がかかり、投入者が炎の熱気に耐えられず、消火液剤を適切な位置に注入できない恐れがある。
【0047】
天ぷら油火災の炎が類焼して破損する容器としては、アルミパウチの容器が、消火液剤の投入の速さから好ましく利用できる。即ち、炎の上部に容器をかざすと、瞬時にアルミパウチに類焼して内容物の消火液剤が炎上中の油に注がれ、直ちに消火をすることができる。
本発明で使用可能なアルミパウチは、アルミラミネートシート、または、アルミ蒸着フィルムを容器に加工したもののいずれも好ましく使用できる。
アルミラミネートシートはポリエチレンテレフタレート、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルムにアルミ箔を張り合わせラミネート加工したシートである。アルミ蒸着フィルムはポリエチレンテレフタレート、ポリエチレン、ポリプロピレン等のフィルムにアルミニウムを蒸着加工したものを貼り合わせたものである。
【0048】
消火の際、アルミパウチに類焼して消火をすることを考慮すると、アルミパウチは薄手のものが好ましく、シール部の厚さとして0.01〜0.5mmであることが好ましい。シール部の厚さが0.01mm以下では、アルミパウチの強度が弱くなり、取り扱い難かったり破損のする恐れがある。一方、シール部の厚さが0.5mmを超過すると天ぷら油火災の炎がアルミパウチに類焼するのに時間がかかり、投入者が炎の熱気に耐えられず、消火液剤を適切な位置に注入できない恐れがある。
【0049】
本発明の消火液剤を充填してなる天ぷら油火災用の消火パックには様々な形状が可能である。
本発明の消火液剤を充填したプラスチックバックの形状に特に制限はないが、加工のし易さから、通常、上面図形が三角形または四角形の形状である。2枚の合成樹脂フィルムやアルミラミネートシートまたはアルミ蒸着シートを重ね合わせ、熱圧着等の手段により所定形状の容器を形成し、これに所定量の消火液剤を注入した後、注入口を熱圧着等の手段により密封すればよい。
例えば、所定容量のプラスチックバックに製品名、成分名、使用方法,注意事項等を印刷し、消火液剤の所定量を充填した後、バックの開放口を密封すればよい。
【0050】
また、市販のプラスチックバックを利用することもできる、例えば、市販のポリエチレン三方袋、ポリプロピレン三方袋、ナイロン三方袋或いはアルミラミネート三方袋またはアルミ蒸着三方袋に本発明の界面活性剤入りの消火液剤を充填した後、袋の中の空気を抜いて開放口を熱圧着等の密閉手段により密閉してもよい。この場合商品名や使用方法等の情報を記載したシートを別途準備し、プラスチックバックに貼り付ける、または巻きつける等の添付手段で表示することができる。
【0051】
本発明の消火液剤を充填した消火パックには、その効能と使用方法について説明する表示があることが好ましい。特に、使用方法については、一目で分かるイラストで表現されることが好ましい。
一つの表示方法としては、消火液剤を充填したアルミパウチの表面に商品名、成分組成、効能及び使用方法等を印刷する方法である。
他の表示方法の例としては、本発明の天ぷら油火災用の消火パックの効能及び使用方法を記載した紙面情報を消火液剤を充填したプラスチックバックの外面に貼り付ける方法である。更に、紙面情報をプラスチックバックの外周に巻き付け、これを透明なプラスチックケースに収納して、外部から、効果と使用方法が確認できるようにしてもよい。
これらの方法を併用することにより、長期保存中に印刷が消たり、汚れで読めなくなったり、或いは、紙面情報を紛失したりすることによる危惧を減ずることができる。
【0052】
本発明の天ぷら油火災用の消火パックには、その周囲に消火パックを炎上する炎の上に吊り下げるための吊り下げ手段を設置することが好ましい。吊り下げ手段がプラスチックバックの周囲の一部に設けられた貫通孔であっても良い。この貫通孔は天ぷら油火災の際に、菜箸のような棒状のものをこの孔に差込み、炎の上にかざす、あるいは、消火パックを炎上中の油鍋に投入または挿入するためのものである。孔の大きさは直径2〜8mmであることが好ましい。
【0053】
また、他の吊り下げ手段としては、消火パックの周囲の一部に設けた紐状のリングを設けてもよい。このリングは、消火パックを炎にかざす時、台所周辺で箸より太い棒状のもの、例えば、玉じゃくしの柄、フォーク、スプーン等の棒状のものを通すことができる。リングの大きさは、10mm〜50mm程度である。
もちろん、貫通孔に紐を通してリングを形成することも可能である。
さらに、その他の吊り下げ手段としては、消火パックにこれを炎にかざすための棒状のものを予め備えてもよい。
また、消火パック自身の形状を縦横比が4:1〜10:1の上面図形が長方形の形状とし、消火パックを二つ折りにすることで吊り下げ手段とすることも可能である。
【実施例】
【0054】
(1)実施例1〜5、比較例1、2:
a.消火液剤の調製
(イ)材料
塩化アンモニウム(NH
4Cl、工業用SH−P36W:長井製作所製)
炭酸カリウム(K
2CO
3、一般工業用:AGC旭硝子株式会社製)
第二リン酸アンモニウム((NH
4)
2HPO
4、工業用:米山化学工業株式会社製)
重炭酸ナトリウム(NaHCO
3、一般工業用:AGC旭硝子株式会社製)
2−スルホヘキサデカン酸−1−メチルエステルナトリウム(ライオン株式会社製)
アルキルポリオキシエチレン硫酸ナトリウム(ラテルムE−1:花王ケミカル株式会社製)、
ラウリル硫酸ナトリウム(エマール10G:花王ケミカル株式会社製)
ポリオキシエチレンラウリルエーテル(エマルゲン105:花王ケミカル株式会社製)
【0055】
(ロ)消火液剤原液調製
ステンレス製で2リットル容の攪拌機付きの溶解容器に1000mlの水を入れ、30℃〜40℃に加温し、この温度を維持しつつ攪拌しながら、(1)NH
4Cl 336.0g、(2)K
2CO
3 217.0g、(3)(NH
4)
2HPO
4 69.0g、(4)NaHCO
3 40.0gを(1)〜(4)の順に暫時投入して溶解した。60分攪拌を続け、内容物を完全に溶解して消火液剤原液とした。
【0056】
(ハ)界面活性剤原液調製
50〜60℃の温水500mlを入れたステンレス製で1リットル容の攪拌機付きの溶解容器に、2−スルホヘキサデカン酸−1−メチルエステルナトリウム10.0g及びアルキルポリオキシエチレン硫酸ナトリウム 25.0g、ラウリル硫酸ナトリウム 40.0g、ポリオキシエチレンラウリルエーテル 50.0gを順次投入した後、30分間穏やかに攪拌し、内容物を溶解して界面活性剤原液とした。
【0057】
(ニ)界面活性剤混合量検討のための消火液剤組成物の調製
消火液剤原液50mlを分注した180ml容ガラス容器に、界面活性剤原液の0.1ml、0.5ml、1.0ml、5.0ml、10.0ml及び50.0mlをそれぞれ加え、水を加えて最終液量を100.0mlとしたものをそれぞれ順に組成物I〜VIとした。
界面活性剤原液を加えず消火液剤原液50.0mlに水50.0mlを加えたものをブランクとした。
【0058】
(ホ)界面活性剤混合量検討のための消火試験方法
上部直径30cmの天ぷら鍋に200mlの天ぷら油(大豆油:日清オイリオグループ株式会社製)を入れ、ガスコンロ上で加熱した。油温が350℃を超え発生した煙にガスライターで着火した。着火から5秒後に組成物I〜VIまたはブランクの溶液の20.0mlをコマゴメピペットで計り取り、炎上中の油面に滴下した。
コンロの火は付けたままの状態で、滴下後の炎の状態、油面における泡の広がり等を観察した。滴下後、30秒以内に天ぷら鍋中の炎がなくなった場合を「消火」、なくならなかった場合を「消火せず」と判定した。この判定基準は、実施例6以降の実施例でも採用した。
【0059】
(ヘ)界面活性剤混合量検討のための消火試験結果
界面活性剤混合量検討のための消火試験の結果を表1に示した。
【表1】
組成物II〜VIは滴下後2秒以内に「消火」したが、ブランクと組成物Iでは30秒後も火は消えず「消火せず」の判定になった。
ブランクでは滴下直後、油が激しく飛び散り、炎が一層激しくなった。
組成物Iでは炎が一端大きくなった後、泡が油面の大部分を覆い、炎は小さくなったが、完全消火には至らなかった。
組成物II、IIIでは、一度炎が大きくなった後、泡が油面を覆い2秒以内に消火した。
組成物IV〜VIでは、点火後、瞬時(1秒以内)に泡が油面を覆い消火した。
上記の結果から、200mlの天ぷら油の油火災に対して、消火液剤原液を50部に、界面活性剤原液の0.5部〜50部を加え、水を加えて100部とした消火液剤の20mlを炎上する油面に滴下することにより消火できることが実証された。消火液剤中の界面活性剤を濃度換算すると、0.1〜10重量%に相当する。
【0060】
(2)実施例6、比較例3:
b.消火液弾
(イ)消火液弾の容器
図1は本願実施例に係る手投げ消火液弾の容器の一例である。容器本体1は
図1に示すとおり、0.8mm〜1.0mm厚の透明塩化ビニルから成り、底面4は、80mm×80mmの角の丸い正方形で、高さ157mmの角筒に、頂部注入口3と連続するL形湾曲部2を表面接続してなる角ビン状であって、角筒の対向する2側面に、周囲面より約3mm凹んだ長方形状の凹面部a、b、c、dをブロック状に設け、容器内側部にそれらに対応する容器内側部に凹面を形成した。凹面部の水平方向の長さは容器の幅一杯の74mmとし、垂直方向の幅を28.5mmの等間隔とした。凹面部と凹面部の間には幅8〜10mmの凸部e、f、gが水平に設けられた。これらの凸凹部は、角筒の角に施した丸みと相まって手触り感を良くし、投てきの際の滑りを防止した。
【0061】
一方、凸凹部が施された側面に隣接し、対向する2面は角の丸みを除くと平面であり、ここに商品名、使用方法、注意事項等の商品情報が印刷された。
頂部注入口3には、蓋としてポリエチレン製の嵌め込み式の内キャップ5が固く勘合された。
【0062】
(ロ)消火液弾の製造
実施例6:実施例4に使用した組成物Vを上記の
図1に示した手投げ消火液弾の容器に、800ml充填し試験用の消火液弾とした。
組成物Vの外観は白色不透明で比重1.12、pH8.54であった。
比較例3:特許文献2に示した手投げ消火液弾の容器に、上記の比較例1で使用したブランク液剤を800ml充填し、比較のための消火液弾とした。
【0063】
(ハ)消火液弾の消火試験
上記のとおり準備した実施例6及び比較例3の消火液弾について、消火器の技術上の規格を定める省令(昭和39年自治省令第27号第3条第2項)の試験方法に準じて試験を行なった。
即ち、火災模型の種類は木材を井桁型に積み上げ、下に置いた燃焼鍋に1500mlのガソリンを入れて点火するA−1模型(第2模型)で、模型に用いる木材の水分含有率は15.0%であった。着火してから3分間予燃焼させた後、燃焼物から1m以上の距離をおいて火元に投てきした。投てきは炎が目視できなくなるまで、繰り返し行ない、投てきした消火液弾の数及び消火開始から消火するまでの時間を(消火に)要した時間として記録した。
【0064】
試験結果:消火試験の結果を表2に示した。
【表2】
実施例6と比較例3を比べると、ほぼ同年代の男女が実施した試験にもかかわらず、実施例6の方が明らかに投てきした消火液弾の数が少なく、消火に要した時間も短かった。この結果は、普通火災において、界面活性剤を含む消火液剤が従来の界面活性剤を含まない消火液剤に比べ、消火能力を増大させたことを示している。また、界面活性剤を含む消火液剤を充填した手投げ消火液弾の有効性を実証したものである。
【0065】
(3)実施例7〜10:
c.天ぷら油火災用の消火パック(ポリエチレンパック)
(イ)天ぷら油火災用の消火パック(ポリエチレンパック)の製造
ポリエチレン三方袋(厚さ0.04mm×横幅85mm×縦150mm:(株)ソフトサービス製)に、実施例4に使用した組成物Vを60mlまたは100mlずつ充填し、開封部を熱圧着して密封した。熱圧着によりポリエチレン三方袋上部に残った余部を熱圧着部から30mmの位置で切断し、帯状端部を形成した。その帯状端部の上下左右の中央に直径6mmの貫通孔を設けた。この貫通孔は、消火試験の際に、菜箸を通し消火パックを炎にかざすために用いられた。
60mlの消火液剤を充填した消火パック6はおよそ縦80mm、横80mm、中央部平均厚さ12mmの上面図形正方形で中央部に厚みを持つ座布団形状であった。100mlの消火液剤を充填した消火パック6はおよそ縦135mm、横80mm、中央部平均厚さ12mmの上面図形長方形で中央部に厚みを持つレトルトパウチに似た形状であった。
【0066】
(ロ)天ぷら油火災用の消火パック(ポリエチレンパック)の液量の検討
上部直径30cmの天ぷら鍋に天ぷら油の300ml、600mlまたは1000mlを入れガスコンロ上で加熱した。油温が350℃を超えて発生した煙にガスライターで着火した。着火5秒後に、上記で準備した消火液剤の60mlまたは100mlを充填した消火パック1個を炎にかざすようにして投入した。投入後、消火に要した秒数を計測した。
【0067】
(ハ)天ぷら油火災用の消火パック(ポリエチレンパック)の液量の検討結果
天ぷら油火災用の消火パック(ポリエチレンパック)の液量の検討結果を表3に示した。
【表3】
300mlの天ぷら油の油火災に対し、60mlの消火液剤は瞬時に消火を完遂したが、600mlの天ぷら油の火災に対して、60mlの消火液剤では消火までに約2秒を要した。600mlの天ぷら油の油火災に対し、100mlの消火液剤及び1000mlの天ぷら油の油火災に対し、100mlの消火液剤では瞬時に消火を完了した。
【0068】
(4)実施例11、12:
d.天ぷら油火災用の消火パック(アルミパウチ)
(イ)天ぷら油火災用の消火パック(アルミパウチ)の製造
図2に本発明の実施の形態である消火液剤100mlをアルミパウチに充填した天ぷら油火災用の消火パックの正面図(a)とその断面図(b)を示した。
ポリエチレン(PE)、アルミニウム及びポリエチレンテレフタレート(PET)の三層からなるアルミ蒸着三方袋(厚さ0.02×横幅110mm×縦180mm、グレード名:アルミ蒸着平袋無地AC−1、(株)かわた製)に、実施例4に使用した組成物Vを100ml充填し、袋内部に空気が残らぬようにして、アルミ蒸着三方袋の開放部端を熱圧着して密封した。その結果、アルミパウチ6の上下両端と一側面中央の長手方向にそれぞれ幅10mmの熱蒸着部11が形成された消火パック6が得られた。
【0069】
横幅100mm×長さ360mmの細長い紙の片面に商品名、有効成分名、使用方法、注意事項、有効期限等を印刷した紙製の情報シート(説明書)7を、印刷面が外側となるように対向する短い辺を重ねて二つ折りし、その折り目の内側が消火パック6の上部(熱圧着部11)に接し、情報シート7の印刷面が消火パックの両面の外側にくるように配した。その情報シート7に挟まれた消火パック6を縦185mm、横100mmの収納部を持つ透明なポリプロピレンケース(ポリプロピレン三方袋、グレード名:クリスタルパックH12−20、(株)カワタ製)8に収納した。
ポリプロピレンケース8の長手方向の一方(上部)には、幅30mmの帯状端部13が付属しており、この帯状端部の上下左右の中央に直径6mmの貫通孔10を形成した。
ポリプロピレンケース8の開放口は帯状端部と対向するケースの下端部にあり、情報シートと消火パックを収納後、ポリプロピレンケース8の一面(表面)から延長して形成された幅40mmの縁部12を裏面方向に折り返し、縁部の端部近傍に予め塗布された接着剤を利用して、プロピレンケースの縁部が形成されていない面(裏面)に接着した。
【0070】
(ロ)天ぷら油火災用の消火パック(アルミパウチ)の消火試験
上面直径が45cmの中華鍋に天ぷら油を350ml投入し、ガスコンロ上で強火で加熱した。油の温度が350℃を超えて、天ぷら油から立ち上がる煙に着火した。発火から5秒経過したところで消火を開始した。消火方法は、上記で準備した消火パック(アルミパウチ)6を収納したポリプロピレンケース8の貫通孔10に長さ30cmの菜箸を通して、炎の上で炎の先端とポリプロピレンケースの下端が触れるようにかざす方法(実施例11)と、消火パック6を収納したポリプロピレンケース8の中心を長さ30cmの菜箸で挟んで炎上中の油の中に押し入れる方法(実施例12)との2つの消火方法を比較した。
【0071】
(ハ)天ぷら油火災用の消火パック(アルミパウチ)の消火試験結果
アルミパウチの消火パック6を収納したポリプロピレンケース8の貫通孔10に菜箸を通して、炎の上にかざす方法(実施例11)も、消火パック6を収納したポリプロピレンケース8の中心を菜箸で挟んで炎上中の油に押し入れる方法(実施例12)ともに瞬時(1秒以内)に白煙と共に消火液剤の泡が油面を覆い消火を完了した。実施例11、12の2つの方法に優劣はなかった。
アルミパウチの消火パックは、天ぷら油火災の際に炎にかざした時、直ちに炎の熱で容器が燃焼または融解して破損するばかりではなく、消火液パックを炎上中の油の中に挿入しても、高熱により融解し、内容物が油の中に流出することが確認された。
【0072】
(5)実施例13〜15:
(ニ)種々の油火災に対する消火パック(アルミパウチ)の効果確認
実施例11、12に使用した消火液剤を100ml充填した天ぷら油火災用の消火パック6(ポリエチレンケース入り)を用い、
実施例13:ガソリン(レギュラーガソリン)、
実施例14:灯油(1号灯油)、
実施例15:重油(A重油)、
実施例16:エンジンオイル(パラフィンベースオイル)、
実施例17:グリース(カップグリース)
による代表的な油火災対する消火効果について検討した。
角形オイルパン(30cm×30cm×8cm:ブリキ製)または上部直径30cmの丸形フライパン(鉄製)に上記可燃性油の各150mlを入れ、ガスコンロ上で加熱した。加熱しながらガスライターで可燃性油から蒸発するガスに着火した。着火後一定時間経過後に炎上中の可燃性油に上記のポリエチレンケース8に収納した消火パック8を実施例11と同様の方法で投入した。
【0073】
(ニ)種々の油火災に対する消火パック(アルミパウチ)の試験結果
種々の可燃性油の火災に対する天ぷら油火災用の消火パック(アルミパウチ8)の消火試験結果を表4に示した。表中、着火後時間は、着火後消火開始までの予燃焼時間を示した。
【表4】
ガソリン、灯油、重油、エンジンオイル、グリースのいずれにおいても、消火液剤100mlを充填した天ぷら油火災用の消火パックの1個の投入によって消火することができた。実施例13のガソリンへの投入では、オイルパンに消火液剤の泡が一面に広がり瞬時に消火が完了した。実施例14〜17の油火災においても消火液剤の泡が油面全体を覆い瞬時に消火が完了した。
以上の結果は、本発明の消火液剤及びこれを充填した消火パックが天ぷら油火災のみならす広く油火災の初期消火に有効であることを示している。