(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725507
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】永久磁石形同期電動機の制御装置
(51)【国際特許分類】
H02P 21/00 20060101AFI20150507BHJP
H02P 27/04 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
H02P5/408 C
【請求項の数】1
【全頁数】5
(21)【出願番号】特願2011-220577(P2011-220577)
(22)【出願日】2011年10月5日
(65)【公開番号】特開2013-81319(P2013-81319A)
(43)【公開日】2013年5月2日
【審査請求日】2014年5月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000003115
【氏名又は名称】東洋電機製造株式会社
(72)【発明者】
【氏名】大森 洋一
(72)【発明者】
【氏名】石内 宏樹
【審査官】
マキロイ 寛済
(56)【参考文献】
【文献】
特開平8−223958(JP,A)
【文献】
特開2010−246318(JP,A)
【文献】
特開平10−243699(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 21/00
H02P 27/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
永久磁石形同期電動機の一次巻線に流れる電流を該一次巻線に鎖交する磁束ベクトルである一次鎖交磁束ベクトルと平行な軸のM軸成分と直交する軸のT軸成分に分けて制御する永久磁石形同期電動機の制御装置において、
前記M軸成分電流の指令値を前記永久磁石同期電動機のトルク指令の2乗に比例させることを特徴とする永久磁石形同期電動機の制御装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、永久磁石形同期電動機の制御装置に関するもので、永久磁石形同期電動機の電流を一次鎖交磁束ベクトル軸基準のMT座標で制御する際に、高効率運転ができるようなM軸電流指令を簡単に得るものである。
【背景技術】
【0002】
図2に一例として従来の永久磁石形同期電動機の制御装置のブロック図を示し、以下にこの図に基づいて従来の技術を説明する。
dq軸電流指令生成器4は、トルク指令Trefを入力し、永久磁石形同期電動機2の出力トルクがトルク指令Tref通りとなるような電流指令のd軸成分idrefとq軸成分iqrefを出力する。ここで、d軸は永久磁石形同期電動機2の回転子の永久磁石の向きに平行な軸であり、q軸はそれと直交した軸である。一般に、iqrefとidrefは、
【0003】
(数1)
iqref=Tref/(φ+(Ld−Lq)・idref) …式(1)
idref=A−SQRT(A・A+iqref・iqref) …式(2)
A=φ/2/(Lq−Ld) …式(3)
【0004】
で求められる。式(1)は、所望のトルク得るためのものであり、式(2)は永久磁石形同期電動機2が最大効率で運転できるためのものである。ここで、Ld、Lqはそれぞれ永久磁石形同期電動機2のd軸とq軸のインダクタンスであり、φは永久磁石磁束であり、Aは式(3)で表される。またSQRT()は平方根の演算子である。
【0005】
電流指令成分変換器5は、dq軸の電流指令をMT軸の電流指令に座標変換したiMrefとiTrefを出力する。ここでM軸は永久磁石形同期電動機2の一次鎖交磁束ベクトルと平行な軸であり、T軸はそれと直交する軸である。電流成分変換器6は、電流検出器3で検出した永久磁石形同期電動機2の一次巻線電流をMT軸の各成分に座標変換したiMとiTを出力する。電流制御部7は、入力した電流指令に電流が追従するような各軸電圧指令であるvMrefとvTrefを出力する。この際にM軸とT軸の両方の電流制御が困難となった場合はT軸の電流制御を優先した電圧指令を出力する。電圧指令成分変換器8は、MT軸の電圧指令を静止座標であるab軸の成分であるvarefとvbrefに座標変換して出力する。電力変換器1は、入力した静止座標軸の電圧指令varefとvbref通りの電圧を永久磁石形同期電動機2へ出力する。その際に、出力できる電圧には上限があるため、出力電圧の大きさはその上限に制限されたものとなる。
【0006】
前述したように、電力変換器1が出力できる電圧の大きさは有限なので、M軸とT軸の両方の電流制御が困難となる。そこで
図2に示される従来技術では、電流制御部7により、T軸の電流制御を優先的に制御するようになっている。つまり、電力変換器1の出力電圧が上限に制限されている状態では、T軸電流はその指令iTrefに一致させることができるが、M軸電流はその指令iMrefと一致しなくなる。
【0007】
これら電流指令は、dq軸電流指令生成器4と電流指令成分変換器5を介してトルク指令Trefより生成されたものなので、M軸電流が指令に追従しないことで、永久磁石形同期電動機2の出力トルクがトルク指令Trefに追従しなくなってしまう。
この問題点を解決する手段が特許文献3に示されており、
図3はそれを表したブロック図である。
図3において、T軸電流指令生成器9によってトルク指令Trefから直接T軸電流指令iTrefを得ている。その計算式は、
【0008】
(数2)
iTref=Tref/φ1 …式(4)
φ1=SQRT(φd・φd+φq・φq) …式(5)
φd=Ld・id+φ …式(6)
φq=Lq・iq …式(7)
【0009】
である。これによってM軸電流制御ができなくなっても永久磁石形同期電動機2の出力トルクをトルク指令に追従させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】特開2003−209997号公報
【特許文献2】特開2008−067453号公報
【特許文献3】特開2008−104264号公報
【特許文献4】特開2008−131766号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
図3に示した従来技術では、dq軸電流指令生成器4と電流指令生成器5によりM軸電流指令を求め、T軸電流指令生成器9によりT軸電流指令を求めており、電流指令生成のための演算が複雑である。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明は、上記問題点を解決するために成されたものであり、永久磁石形同期電動機の一次巻線に流れる電流を該一次巻線に鎖交する磁束ベクトルである一次鎖交磁束ベクトルと平行な軸のM軸成分と直交する軸のT軸成分に分けて制御する永久磁石形同期電動機の制御装置において、前記M軸成分電流の指令値を前記永久磁石同期電動機のトルク指令の2乗に比例させることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
図4は、出力トルクに対しての最大効率状態でのM軸電流を表したものである。同時に出力トルクの2乗曲線も示しており、両者は非常に一致していることが分かる。従って、M軸電流指令をトルク指令の2乗に比例させることで最大効率状態に近い状態で運転できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の永久磁石同期電動機の制御ブロック図である。(実施例1)
【
図2】従来例1の永久磁石同期電動機の制御ブロック図である。
【
図3】従来例2の永久磁石同期電動機の制御ブロック図である。
【
図4】最大効率状態のM軸電流特性とトルク指令の2乗特性とを示したグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1は、本発明の1実施例を表した永久磁石同期電動機の制御ブロック図であり、ここではM軸電流指令生成器10についてのみ説明する。
M軸電流指令生成器10は、トルク指令Trefを入力して、
【0016】
(数3)
iMref=B・Tref・Tref …式(8)
【0017】
でM軸電流指令iMrefを求めて出力する。ここでBは、最大効率状態のM軸電流を近似するための比例ゲインであり、所定出力トルクポイントで近似曲線と最大効率状態のM軸電流とが一致するように永久磁石形同期電動機2の電気的定数を用いて運転前に求めることができる。例えば永久磁石形同期電動機2の定格トルクTrを
図2のTrefとした場合のiMrefをiMrとすると、iMrが定格トルク出力ポイントでの最大効率状態のM軸電流となる。従ってB=iMr/(Tr・Tr)となる。
本発明は、永久磁石形同期発電機の制御装置にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0018】
簡単な演算で、最大効率に近い状態とすることができるM軸電流指令を得ることができることにより、安価なCPUで実現が可能となり、装置のコスト低下にもつながる。
【符号の説明】
【0019】
1 電力変換器
2 永久磁石形同期電動機
3 電流検出器
4 dq軸電流指令生成器
5 電流指令成分変換器
6 電流成分変換器
7 電流制御部
8 電圧指令成分変換器
9 T軸電流指令生成器
10 M軸電流指令生成器