特許第5725562号(P5725562)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725562
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】電気刺激装置
(51)【国際特許分類】
   A61N 1/36 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
   A61N1/36
【請求項の数】7
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2011-539277(P2011-539277)
(86)(22)【出願日】2010年10月29日
(86)【国際出願番号】JP2010006408
(87)【国際公開番号】WO2011055518
(87)【国際公開日】20110512
【審査請求日】2013年10月11日
(31)【優先権主張番号】特願2009-254973(P2009-254973)
(32)【優先日】2009年11月6日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】803000056
【氏名又は名称】公益財団法人ヒューマンサイエンス振興財団
(74)【代理人】
【識別番号】100091340
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 敬四郎
(74)【代理人】
【識別番号】100141302
【弁理士】
【氏名又は名称】鵜飼 伸一
(74)【代理人】
【識別番号】100168561
【弁理士】
【氏名又は名称】足立 能啓
(72)【発明者】
【氏名】村岡 慶裕
【審査官】 毛利 大輔
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−255104(JP,A)
【文献】 特許第3496044(JP,B2)
【文献】 特開2003−241868(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61N 1/36
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電池から電源供給を受けて、刺激信号を供給するためのトランスレスの昇圧回路と、
筋活動を取得すべき筋肉の筋腹の皮膚表面に配置され、随意筋電信号を検出するとともに、前記昇圧回路から供給される刺激信号を与える第1電極及び第2電極と、
前記検出した随意筋電信号を増幅する増幅回路と、
前記第1電極及び第2電極が検出する随意筋電信号に基づいて、前記刺激信号を制御する制御手段と、
直列に接続され共通接続端子が第2電極に接続される第1スイッチ及び第3スイッチと、直列に接続され共通接続端子が第1電極に接続される第2スイッチ及び第4スイッチとを有し、第1スイッチ及び第2スイッチと第3スイッチ及び第4スイッチが並列に接続され前記制御手段により制御されるHブリッジ回路と、
電池から電源供給を受けて、前記制御手段及び前記増幅回路に電源供給を行う絶縁型のDC−DCコンバータと、
前記DC−DCコンバータの出力する電源電圧の中点電圧を出力するレギュレータと、
前記レギュレータと前記増幅器のリファレンス端子とに接続され、皮膚表面の任意の場所に配置され、グランド電極として機能する第3電極と
を有する電気刺激装置。
【請求項2】
電池から電源供給を受けて、刺激信号を供給するためのトランスレスの昇圧回路と、
筋活動を取得すべき筋肉の筋腹の皮膚表面に配置され、随意筋電信号を検出する第1電極及び第2電極と、
前記検出した随意筋電信号を増幅する増幅回路と、
電気刺激を与える皮膚表面に配置され、前記昇圧回路から供給される刺激信号を与える第4電極及び第5電極と、
前記第1電極及び第2電極が検出する随意筋電信号に基づいて、前記刺激信号を制御する制御手段と、
直列に接続され共通接続端子が第4電極に接続される第1スイッチ及び第3スイッチと、直列に接続され共通接続端子が第5電極に接続される第2スイッチ及び第4スイッチとを有し、第1スイッチ及び第2スイッチと第3スイッチ及び第4スイッチが並列に接続され前記制御手段により制御されるHブリッジ回路と、
電池から電源供給を受けて、前記制御手段及び前記増幅回路に電源供給を行う絶縁型のDC−DCコンバータと、
前記DC−DCコンバータの出力する電源電圧の中点電圧を出力するレギュレータと、
前記レギュレータと前記増幅器のリファレンス端子とに接続され、皮膚表面の任意の場所に配置され、グランド電極として機能する第3電極と
を有する電気刺激装置。
【請求項3】
電池から電源供給を受けて、刺激信号を供給するためのトランスレスの昇圧回路と、
筋活動を取得すべき筋肉の筋腹の皮膚表面に配置され、随意筋電信号を検出するとともに、前記昇圧回路から供給される刺激信号を与える第1電極及び第2電極と、
前記検出した随意筋電信号を増幅する増幅回路と、
前記第1電極及び第2電極が検出する随意筋電信号に基づいて、前記刺激信号を制御する制御手段と、
直列に接続され共通接続端子が第2電極に接続される第1スイッチ及び第3スイッチと、直列に接続され共通接続端子が第1電極に接続される第2スイッチ及び第4スイッチとを有し、第1スイッチ及び第2スイッチと第3スイッチ及び第4スイッチが並列に接続され前記制御手段により制御されるHブリッジ回路と、、
前記第2スイッチと前記第4スイッチとの共通接続端子と前記第1電極及び前記第2電極との間にそれぞれ接続される第5スイッチ及び第6スイッチと、
電池から電源供給を受けて、前記制御手段及び前記増幅回路に電源供給を行う絶縁型のDC−DCコンバータと、
前記DC−DCコンバータの出力する電源電圧の中点電圧を出力するレギュレータと、
前記第1スイッチと前記第3スイッチとの共通接続端子と前記レギュレータと前記増幅器のリファレンス端子とに接続され、皮膚表面の任意の場所に配置され、グランド電極として機能する第3電極と
を有する電気刺激装置。
【請求項4】
前記第5スイッチ及び前記第6スイッチが、ダイアックである請求項3記載の電気刺激装置。
【請求項5】
さらに、前記第1電極及び第2電極からなる電極対と前記増幅回路とを含む筋電検出部と、前記Hブリッジ回路とを複数有し、
前記制御手段が、複数チャンネルの前記電極対に対し、オンにするスイッチを適宜選択することにより、任意のチャンネルに、任意の方向で電流を流すことができる請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
【請求項6】
前記制御手段は、刺激信号出力後、前記第3スイッチと前記第4スイッチ、または、前記第1スイッチと前記第2スイッチとを所定時間オンにする請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
【請求項7】
前記制御手段は、前記刺激信号のオンタイミングとオン時間とを制御する請求項1〜4のいずれか1項に記載の電気刺激装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気刺激装置に関し、より詳しくは、脳卒中患者などの運動機能補助、運動機能回復又は筋力増強などに好適な電気刺激装置に関する。
【背景技術】
【0002】
脳血管障害による片麻痺の後遺症のひとつに、下垂足と呼ばれるものがある。下垂足患者においては、足関節の背屈筋群の弛緩、底屈筋群の亢進により、足関節の背屈が困難になっている。そのため歩行遊脚時に、健常者では背屈筋群の収縮により足関節が背屈しスムーズに脚が振り出されているのに対し、下垂足患者では、足関節が背屈せず爪先が接地してしまう。この「引きずり歩行」のために患者の歩行は困難なものになっている。
【0003】
図8は、第1従来技術である電気刺激装置の構成を示す図である。この構成は、特許文献1で示されているが、それより以前に、本発明者が、非特許文献1において公表している。
【0004】
電極E11、E12は筋活動を拾いたい筋肉の筋腹に、電極E13は、任意の位置に配置される。患者でも筋肉を動かそうとすると微小な随意筋電が出るので、電極E11、E12はその随意筋電を検出するためのものである。
【0005】
電極E13をグランド電極として、電極E11、E12で検出された目的となる筋肉の随意筋電信号は、保護抵抗R11、R12を介して計測増幅器11に入力される。
【0006】
計測増幅器11が飽和しないようにダイオードD11、D12により計測増幅器11の入力は約±0.5Vにリミットされる。その後、帯域300−450Hzを有する数段の多段増幅器12によりマイコン73により認識できる程度の大きさまで増幅され、マイコン73のA/D変換入力PINから、サンプリング周波数1kHzにより取り込まれる。
【0007】
マイコン73は、随意筋電の振幅に比例した幅のパルスを出力して刺激手段(刺激出力トランス)74を制御する。刺激パルスは、双極性パルスで、陽極パルスと陰極パルスは、パルス幅、振幅は同一である。刺激パルス振幅は約100Vであり、パルス幅は50μs−1msの間で調整され、その幅が大きくなるほど、強い刺激となる。刺激パルス周期は50msであり、パルスが印加されるタイミングでフォトモスリレーSW11、SW12はオンとなり、刺激パルスを電極E11、E12に導通する。刺激パルスが印加されていない時はフォトモスリレーSW11、SW12はオフとなり、刺激手段(刺激出力トランス)74側からのノイズの混入を防ぐと同時に、電極E11、E12の電極間のトランス出力を介した短絡を防ぐ役目を果たしている。
【0008】
また、フォトモスリレーSW11、SW12はマイコン73によりオン・オフのタイミングを制御される。この従来技術は、振幅100Vと、アイソレーションを同時に実現する手段である刺激手段(刺激出力トランス)74としてトランスを使用するものである。
【0009】
図9は、第2従来技術である電気刺激装置の構成を示す図である。この構成も本発明者が特許文献2で提案しているものであり、第1従来技術と異なる点は、フォトモスリレーSW11、SW12を用いる代わりに、それぞれダイアックD13、D14を介して電極E14、E15を共通に刺激手段(刺激出力トランス)74の一方端子に接続し、刺激手段(刺激出力トランス)74の他方端子をアース、すなわち、電極E16に接続する構成とした点である。
【0010】
これにより、刺激は電極E14、E15と電極E16の2チャンネルで、筋電測定は電極E14、E15の1チャンネルで行うものである。この従来技術も刺激手段(刺激出力トランス)74としてはトランスを使用するものである。
【0011】
図10は、第3従来技術である電気刺激装置の構成を示す図である。この構成も本発明者が特許文献3で提案しているものであり、第1、2従来技術と異なる点は、小型軽量化のために、第1従来技術の刺激手段(刺激出力トランス)74及びフォトモスリレーSW11、SW12を用いる代わりに、トランスレスの昇圧回路及びHブリッジ回路を用いて、さらに、昇圧回路と筋電測定系とで電源を兼用するために、コンデンサCとフォトモスリレーSW5、SW6を付加した点である。
【0012】
動作は、刺激を加えない期間にフォトモスリレーSW5、SW6をオンにしてコンデンサCに100Vを充電しておき、刺激を加える期間は、電極E3に刺激が印加されないように、フォトモスリレーSW5、SW6をオフにして、まずフォトモスリレーSW2、SW3をオフのまま、フォトモスリレーSW1、SW4をオンにして電極E2から電極E1に電流を流し、負極性である電極E1を興奮させ、次にフォトモスリレーSW1、SW4をオフにしてから、フォトモスリレーSW2、SW3をオンにして電極E1から電極E2に電流を流して、負極性である電極E2を興奮させる。
【0013】
図11は、第1参考技術である電気刺激装置の構成を示す図である。第3従来技術と異なる点は、電極E1、E2を記録電極のみとして機能し、刺激電極として、電極E4、E5を付加している点にある。本構成においても、刺激印加中に、フォトモスリレーSW5、SW6をオフにしない場合、電極E3に刺激が印加されてしまうので、前記の技術が有効に機能する。
【0014】
図12は、刺激アーチファクトと誘発筋電を除去し、随意筋電のみを検出するためのマイコンの信号処理を説明する波形図である。初段が刺激パルス信号であり、60ms毎に印加される刺激パルス波形2つをもって1組とし、2つの刺激波形は、同一である。したがって、刺激波形は120ms毎に更新される。
【0015】
マイコン13の入力ではA/D変換入力PINから随意筋電が取り込まれサンプリング周期1msでサンプリングされてデジタル変換される。その波形は、2段目に示すように、刺激信号及びアーチファクトにM波を含む筋電が重畳した信号となっている。
【0016】
刺激信号は60ms周期の初めに入力され、その振幅は随意筋電と比べて極めて大きく、かつ、その後の信号処理には必要ない信号であるのでるので、振幅が所定値以上に大きくならないように2つのダイアックによりリミットされる。
【0017】
60ms毎の2つの刺激波形が同一であるので、対応する60ms毎の2つのアーチファクト及びM波も同一になり、それらの差分をとることでアーチファクト及びM波を相殺して随意筋電による成分だけを抽出することができる。ただし、60ms周期の初めからしばらく(およそ20ms)は不安定であるので、周期の終わり近く(下記例では15msとしたが、より広くすることもできる)を選択して差分をとることで安定的に随意筋電による成分を抽出することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0018】
【特許文献1】特開2002―331007号公報
【特許文献2】特開2003−310768号公報
【特許文献3】特開2004−255104号公報
【特許文献4】特許3496044号公報
【非特許文献】
【0019】
【非特許文献1】Muraoka, Y., et.al., EMG-controlled hand opening system for hemiplegia. Proc. 6th ViennaInternational Workshop on Functional Electrostimulation Basics TechnologyApplication: pp.255-258, 1998.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0020】
上述の従来技術では、コンデンサCは、最大定格電圧が100V以上で、小型化のために、なるべくサイズの小さいものが望ましいが、その条件では、数μF程度の容量のものしか存在しない。したがって、電荷を充分に蓄積できず、上述の技術の場合、刺激中は充電を中断するため、刺激が連続して出力される条件下では、充電が間に合わなくなり、出力電圧が低下し、刺激が不安定になってしまう。
【0021】
また、回路は小型化されてきたにもかかわらず、増幅器用に+電源と−電源を必要とし、+電源は、昇圧回路の電源として兼ねるとしても、電池が2つ以上必要になってしまう。
【0022】
さらに、上述の信号処理で、随意筋電の抽出は可能であるが、刺激波形は120ms毎に更新されるため、筋収縮の発生から、刺激波形が更新されるまで、最大で120msの遅れが生じて、速い歩行においては、歩行運動に刺激が追随しない周期もありうる。
【0023】
本発明の目的は、安定した電気刺激を出力するとともに安定した随意筋電位を検出できる電気刺激装置を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0024】
本発明の一観点によれば、電気刺激装置は、電池から電源供給を受けて、刺激信号を供給するためのトランスレスの昇圧回路と、筋活動を取得すべき筋肉の筋腹の皮膚表面に配置され、随意筋電信号を検出するとともに、前記昇圧回路から供給される刺激信号を与える第1電極及び第2電極と、前記検出した随意筋電信号を増幅する増幅回路と、前記第1電極及び第2電極が検出する随意筋電信号に基づいて、前記刺激信号を制御する制御手段と、直列に接続され共通接続端子が第2電極に接続される第1スイッチ及び第3スイッチと、直列に接続され共通接続端子が第1電極に接続される第2スイッチ及び第4スイッチとを有し、第1スイッチ及び第2スイッチと第3スイッチ及び第4スイッチが並列に接続され前記制御手段により制御されるHブリッジ回路と、電池から電源供給を受けて、前記制御手段及び前記増幅回路に電源供給を行う絶縁型のDC−DCコンバータと、前記DC−DCコンバータの出力する電源電圧の中点電圧を出力するレギュレータと、前記レギュレータと前記増幅器のリファレンス端子とに接続され、皮膚表面の任意の場所に配置され、グランド電極として機能する第3電極とを有する。
【0025】
また、本発明の他の観点によれば、電気刺激装置は、電池から電源供給を受けて、刺激信号を供給するためのトランスレスの昇圧回路と、筋活動を取得すべき筋肉の筋腹の皮膚表面に配置され、随意筋電信号を検出する第1電極及び第2電極と、前記検出した随意筋電信号を増幅する増幅回路と、電気刺激を与える皮膚表面に配置され、前記昇圧回路から供給される刺激信号を与える第4電極及び第5電極と、前記第1電極及び第2電極が検出する随意筋電信号に基づいて、前記刺激信号を制御する制御手段と、直列に接続され共通接続端子が第4電極に接続される第1スイッチ及び第3スイッチと、直列に接続され共通接続端子が第5電極に接続される第2スイッチ及び第4スイッチとを有し、第1スイッチ及び第2スイッチと第3スイッチ及び第4スイッチが並列に接続され前記制御手段により制御されるHブリッジ回路と、電池から電源供給を受けて、前記制御手段及び前記増幅回路に電源供給を行う絶縁型のDC−DCコンバータと、前記DC−DCコンバータの出力する電源電圧の中点電圧を出力するレギュレータと、前記レギュレータと前記増幅器のリファレンス端子とに接続され、皮膚表面の任意の場所に配置され、グランド電極として機能する第3電極とを有する。
【0026】
また、本発明のさらに他の観点によれば、電気刺激装置は、電池から電源供給を受けて、刺激信号を供給するためのトランスレスの昇圧回路と、筋活動を取得すべき筋肉の筋腹の皮膚表面に配置され、随意筋電信号を検出するとともに、前記昇圧回路から供給される刺激信号を与える第1電極及び第2電極と、前記検出した随意筋電信号を増幅する増幅回路と、前記第1電極及び第2電極が検出する随意筋電信号に基づいて、前記刺激信号を制御する制御手段と、直列に接続され共通接続端子が第2電極に接続される第1スイッチ及び第3スイッチと、直列に接続され共通接続端子が第1電極に接続される第2スイッチ及び第4スイッチとを有し、第1スイッチ及び第2スイッチと第3スイッチ及び第4スイッチが並列に接続され前記制御手段により制御されるHブリッジ回路と、前記第2スイッチと前記第4スイッチとの共通接続端子と前記第1電極及び前記第2電極との間にそれぞれ接続される第5スイッチ及び第6スイッチと、電池から電源供給を受けて、前記制御手段及び前記増幅回路に電源供給を行う絶縁型のDC−DCコンバータと、前記DC−DCコンバータの出力する電源電圧の中点電圧を出力するレギュレータと、前記第1スイッチと前記第3スイッチとの共通接続端子と前記レギュレータと前記増幅器のリファレンス端子とに接続され、皮膚表面の任意の場所に配置され、グランド電極として機能する第3電極とを有する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、安定した電気刺激を出力するとともに安定した随意筋電位を検出できる電気刺激装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
図1】本発明の第1の実施例による電気刺激装置1の構成を示す回路図である。
図2】刺激兼記録電極の配置を表す模式図である。
図3】本発明の第1の実施例による電気刺激装置1の動作を説明する波形図である。
図4】本発明の実施例による昇圧回路14の構成の例を示す図である。
図5】本発明の第2の実施例による電気刺激装置2の構成を示す回路図である。
図6】本発明の第3の実施例による電気刺激装置3の構成を示す回路図である。
図7】本発明の第4の実施例による電気刺激装置4の構成を示す回路図である。
図8】第1従来技術である電気刺激装置の構成を示す図である。
図9】第2従来技術である電気刺激装置の構成を示す図である。
図10】第3従来技術である電気刺激装置の構成を示す図である。
図11】第1参考技術である電気刺激装置の構成を示す図である。
図12】刺激アーチファクトと誘発筋電を除去し、随意筋電のみを検出するためのマイコンの信号処理を説明する波形図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
図1は、本発明の第1の実施例による電気刺激装置1の構成を示す回路図である。
【0030】
電気刺激装置1は、主に絶縁型DC−DCコンバータ15、電極E1、E2、E3、保護抵抗R1、R2、ダイオードD1、D2、計測増幅器11、多段増幅器12、マイコン13、昇圧回路14、Hブリッジ回路10、レギュレータ16から成る。
【0031】
1つの電池(5V)17から昇圧回路14で昇圧して、刺激用の高電圧(100V)を得るのと同時に、絶縁型DC−DCコンバータ15を介して、増幅器11、12ならびに、マイコン13に電源供給し、さらに、リファレンス電圧をレギュレータ16で構成している。
【0032】
本実施例では、電池17として、JTT社のMy Battery Liteを使用した。電池17は、これに限らず携帯電話などの外付けバッテリーなど種々のものが使用可能である。電気刺激装置1は、入手の容易な、携帯電話などの外付けバッテリー1つで駆動することが可能である。なお、本実施例では、5Vの電池を使用したがこれに限るものではない。
【0033】
昇圧回路14に電源供給する電池17が、絶縁型のDC−DCコンバータ15にも並列に接続され、該絶縁型DC−DCコンバータ15の出力が、約±2.5Vの電源を構成し、増幅器11、12やマイコン13に対し電源供給している。
【0034】
なお、数Vの絶縁型DC−DCコンバータ15は薄くて小型であり、入手が容易である。本実施例では、DC−DCコンバータ15としては、cosel社製SUS1R50505を使用した。その他には、NMA0505D(C&D
Technolkogies社製)や、NKE0505SC(murata power solutions社製)なども使用できる。
【0035】
また、このように、絶縁型DC−DCコンバータ15を介して増幅器11、12ならびにマイコン13に電源供給することで、昇圧回路系と筋電測定系が絶縁される。
【0036】
レギュレータ16により、絶縁型のDC−DCコンバータ15の出力(約±2.5Vの)の中点電圧(0V)を発生し、電極E3及び増幅器11のレファレンス端子に接続している。このような構成をとることで、電極E3は昇圧回路14等からなる昇圧回路系から電気的な影響を受けない。よって、電極E1−E3及びE2−E3間での刺激の発生を防止することができる。
【0037】
レギュレータ16は、例えば、2つの抵抗を直列に接続して形成され、V(2.5V)とV(−2.5V)の中点電圧(0V)を出力する電圧分割回路と(V−V)/2を出力するレギュレータ等で構成される。また、例えば、増幅器電源電圧の半分の電圧を、レギュレータや、ツェナーダイオード、あるいは、抵抗分圧とバッファ増幅器から生成するようにしてもよい。
【0038】
図2は、刺激兼記録電極の配置を表す模式図である。神経筋接合部MP上に一方の電極E2、近位側に数cm離してもう一方の電極E1を配置する。すなわち、電極E1、E2は、筋活動を取得すべき筋肉43の筋腹の皮膚表面41に配置され、患者が筋肉43を動かそうとした時に発生する微弱な随意筋電信号を検出すると共に、刺激信号を皮膚41から筋肉43に与えるための電極として機能する。なお、電極E3は、皮膚表面41の任意の場所に配置され、グランド電極として機能する。下垂足などに対して、効率的に足関節背屈を促すには、例外的に、腓骨神経にも刺激を加えることが望ましい。
【0039】
具体的には、つま先を持ちあげる筋肉である前脛骨筋と、腓骨神経上に電極E1とE2を貼付して、足の振り出しに合わせて、効率的な足関節の背屈を行わせる。また、手指の伸展の補助に使用する例もあり、前腕の指伸筋上に電極E1及びE2を配置して、患者の意思に合わせて、手を開く動作を促す。
【0040】
図1に戻り、保護抵抗R1、R2は、それぞれ電極E1、E2と計測増幅器11との間に接続され、刺激信号を電極E1、E2に印加する際に計測増幅器11を保護する。
【0041】
ダイオードD1、D2は、計測増幅器11の入力端子間に逆極性に接続され、計測増幅器11が飽和しないように入力を約±0.5Vでリミットする。
【0042】
計測増幅器11は、電極E1、E2が取得した随意筋電を保護抵抗R1、R2を介して受けてその微弱な随意筋電を増幅する。
【0043】
多段増幅器12は、計測増幅器11が増幅した随意筋電を受けてマイコン13が認識できる程度まで増幅する。
【0044】
マイコン13は、多段増幅器12で増幅された随意筋電を受けて、アナログ電圧をデジタル信号に変換後、随意筋電量を算出し、Hブリッジ回路10(フォトモスリレーSW1〜SW4のオン/オフ)を制御する。Hブリッジ回路10を制御することにより、刺激パルスのタイミング調整を行う。例えば、刺激パルスのONタイミング、ON時間(パルス幅)及び周期を制御する。
【0045】
昇圧回路14は、非絶縁型のトランスレスの昇圧回路であって、電池17から昇圧して、約+100Vの直流電圧を常時供給する。したがって、刺激が連続して出力されても、電位が落ちることなく、安定した刺激出力を得ることができる。
【0046】
Hブリッジ回路10は、フォトモスリレーSW1、SW2、SW3、SW4から成り、フォトモスリレーSW1、SW3及びフォトモスリレーSW2、SW4をそれぞれ直列に接続して、フォトモスリレーSW1、SW2の共通接続端子を昇圧回路14の+100V端子に接続し、フォトモスリレーSW3、SW4の共通接続端子を昇圧回路14のグランド端子に接続し、フォトモスリレーSW1、SW3の共通接続端子を電極E2に接続し、フォトモスリレーSW2、SW4の共通接続端子を電極E1に接続するものである。
【0047】
フォトモスリレーSW1〜SW4は光によって制御されるものであるのでマイコン13とは電気的に絶縁されている。
【0048】
図3は、本発明の第1の実施例による電気刺激装置1の動作を説明する波形図である。
【0049】
刺激パルス信号(図1のa点における電圧)は、50ms毎に印加される。刺激パルスの波形はマイコン13によって制御されるフォトモスリレーSW1〜SW4によって実現される。
【0050】
すなわち、フォトモスリレーSW2、SW3をオフのまま、フォトモスリレーSW1、SW4をオンにして電極E2から電極E1に電流を流し、負極性である電極E1を興奮させ、次にフォトモスリレーSW1、SW4をオフにしてから、フォトモスリレーSW2、SW3をオンにして電極E1から電極E2に電流を流して、負極性である電極E2を興奮させる。この間、電極E3は刺激に関与しない。
【0051】
その後、SW3、SW4(または、SW1、SW2)を数ms(1〜1.5ms)オンすることで、電極E1、E2上に溜まった電荷を放電して、同電位にして、刺激によるアーチファクトを除去して、基線を即座に平担かつ安定化させる。
【0052】
次に、50ms周期の最後の10msの随意筋電位を検出し、検出した随意筋電位の振幅に基づき、次の50ms周期で与える刺激パルスのパルス幅を決定する。以上の動作を50msごとに繰り返す。
【0053】
このように、SW3及びSW4を同時にオンすることにより、刺激によるアーチファクトを除去して、基線を即座に平担かつ安定化させるので、特許文献3(特許3496044号公報)で提案されているマイコンによる信号処理を行わなくても、安定して検出することができる。
【0054】
したがって、筋電位の発生から、電気刺激までの最大の遅れが、従来の120msから、その半分以下の50ms程度に短縮され、早い歩行運動に対しても、運動に追随して、電気刺激が発生できる。
【0055】
なお、刺激波形は、+−を1パルスずつだけでなく、+−+−などと連続させたりするなど、任意の波形を生成してもよい。
【0056】
なお、電極E1及びE2を興奮させるのに、それぞれ1〜1.5ms、SW3及びSW4を同時にオンするのに1〜1.5ms、及び随意筋電位を検出するのに10ms程度の時間が必要なことから、刺激直後の不応期や随意筋活動の抑制など生体反応への配慮が必要なものの、最短で約15ms周期で電気刺激の発生を行うことができる。
【0057】
図4は、本発明の実施例による昇圧回路14の構成の例を示す図である。
【0058】
上述したように、この昇圧回路14はトランスレスのDC−DCコンバータであり、より具体的には、出力電圧をIC30でモニタして所定電圧以下の場合にスイッチングによって電荷を蓄積していって高圧(+100V)を得るものである。
【0059】
まず、IC30から説明する。端子5の電圧と基準電圧発生器31からの基準電圧とを電圧比較器32が比較して、端子5の電圧が基準電圧よりも低い場合に高電位をアンド回路33の1端子に出力する。
【0060】
他方、発振器35の出力は、アンド回路33の他端子に供給されると共に反転されてFF(セットリセットフリップフロップ)34のR端子に入力される、アンド回路33の出力はFF34のS端子に入力される。
【0061】
FF34の出力QはトランジスタTR31のベースに入力され、トランジスタTR31のエミッタは抵抗R31を介して端子2に接続されると共にトランジスタTR32のベースに入力され、トランジスタTR32のエミッタは端子2に接続される。
【0062】
これにより、端子5の電圧が基準電圧よりも低い場合にFF34の出力Qは発振器35の発振周波数で反転を繰り返し、端子1と端子2を周期的に短絡する。端子5の電圧が基準電圧よりも高い場合にはアンド回路33の出力が低電位のままなので、Qは低電位のままであり端子1と端子2との間は開放されたままとなる。
【0063】
端子1と端子2とが短絡されると抵抗R32に電源電位(+5V)が印加され、トランジスタTR33のベースに入力されトランジスタTR33をオンにする。このため、電源(+5V)からコイルL31を介してアース端子4に電流が流れる。
【0064】
次に、端子1と端子2とが開放されるとトランジスタTR33がオフになり、コイルL31は電流をダイオードD32を介してコンデンサC33に流してコンデンサC33に電荷を蓄積する。これを繰り返すことによってコンデンサC33には高圧(+100V)が得られる。その高圧は抵抗R34及び抵抗R35によって分圧されて端子5でIC30によってモニタされる。なお、コンデンサC34は電源電位(+5V)を保持する。
【0065】
図5は、本発明の第2の実施例による電気刺激装置2の構成を示す図である。
【0066】
第1の実施例と異なる点は、電極E1、E2を記録電極のみとして機能させ、刺激電極として、電極E5、E6を付加している点にある。その他の構成は、第1の実施例と同様であるので、説明を省略する。
【0067】
本構成においても、電極E3に刺激が印加されることなく、持続的に高電圧を供給して、安定した刺激出力を得ることができる。
【0068】
第2の実施例では、随意筋電位の検出と電気刺激を別の場所(他人を含む別の筋肉)に対して行うことができる。例えば、顔面神経麻痺の患者に対して本実施例の電気刺激装置2を用いる場合は、正常側に電極E1及びE2を配置して随意筋電位を検出し、麻痺側に電極E4及びE5を配置して電気刺激を与えるということが可能となる。
【0069】
図6は、本発明の第3の実施例による電気刺激装置3の構成を示す図である。第3の実施例による電気刺激装置3は、マイコン13と増幅器11、12に電池17から絶縁型DC−DCコンバータ15を介して電力が供給されている点で第1の実施例と同じであるが、第3の実施例では、電極E4、E5と、電極E6の間で電流が流れる。
【0070】
第3の実施例による電気刺激装置3では、フォトモスリレーSW2とSW4との共通接続端子と電極E4及び電極E5との間に、それぞれダイアックD3(第5スイッチ)及びダイアックD4(第6スイッチ)が接続されている。また、皮膚表面に配置される電極E6は、フォトモスリレーSW1とSW3との共通接続端子、増幅器11のレファレンス端子及びレギュレータ16の出力端子と接続されている。第5スイッチ及び第6スイッチがダイアックであることで、更に小型軽量化される。
【0071】
図7は、本発明の第4の実施例による電気刺激装置4の構成を示す図である。本実施の形態の電気刺激装置4は、Hブリッジ回路10と筋電検出部(電極E1、E2、保護抵抗R1、R2、ダイオードD1、D2、計測増幅器11、多段増幅器12)を増設して、複数の筋肉に電気刺激を行うことができる。また、オンにするSWを適宜選択することにより、任意のチャンネルに、任意の方向で電流を流すことができる。
【0072】
以上、本発明の実施例によれば、トランスレス出力型筋電制御電気刺激装置において、1つの電池で駆動して、安定した電気刺激を出力し、刺激によるアーチファクトを早く収束させて安定した随意筋電位を検出できる。
【0073】
本発明の実施例によれば、携帯電話用の1つの5V外付電池などから、刺激用に非絶縁型のトランスレス昇圧回路14で約100Vの電圧を生成する。同時に、絶縁型DC−DCコンバータ15にてマイコン13および増幅器11、12の電源(約5V)を生成し、増幅器11、12のレファレンス用に増幅器電源の中点電圧をレギュレータ16で生成する。フォトモスリレーSW2、SW3をオフのまま、フォトモスリレーSW1,SW4をオンにして電極E2から電極E1に電流を流し、負極性である電極E1を興奮させ、次にフォトモスリレーSW1,SW4をオフにしてから、フォトモスリレーSW2,SW3をオンにして電極E1から電極E2に電流を流して、負極性である電極E2を興奮させた後に、SW3、SW4を数msの間オンにして、その後に続く随意筋電位を安定して検出する。
【0074】
刺激パルス出力後、SW3、SW4を数msの間オンにすることで、電極E1、E2上に溜まった電荷を放電して、同電位にすることで、その後に続く随意筋電位をマイコンによる信号処理を行わなくても、安定して検出することができる。したがって、筋電位の発生から、電気刺激までの最大の遅れが短縮され、早い歩行運動に対しても、運動に追随して、電気刺激が発生できる。
【0075】
本発明の各実施例による電気刺激装置によれば、例えば脳卒中の患者の意思で、健全時に比べて僅かにしか筋収縮しない部位の微弱な筋電信号を検出し、筋電信号を増幅させた電気刺激信号を、その部位に印加することにより、筋肉を刺激することができる。
【0076】
また、この筋肉の刺激により、脳卒中の患者の意思で、動かそうとした体の部位(例えば手足や指など)の弱い運動を、アシストすることができる。このように、電気刺激によるリハビリは、脳卒中患者のうち、わずかな自己動作ができる段階の患者であれば8〜9割の患者に適用ができる。
【0077】
さらに、本発明の各実施例による電気刺激装置は、顔面神経麻痺の患者や嚥下障害のある患者に対しても使用することができる。顔面神経麻痺の場合は、健常側の筋電信号にしたがって、麻痺側の同名筋に電気刺激を加え、左右対称な表情を再建する。嚥下補助の場合は、嚥下機能(喉頭挙上)の不十分なものに対して、舌骨上筋群に対して、電気刺激を与え、十分な喉頭挙上を促す。
【0078】
以上実施例に沿って本発明を説明したが、本発明はこれらに制限されるものではない。例えば、種々の変更、改良、組み合わせ等が可能なことは当業者に自明であろう。
【符号の説明】
【0079】
1、2、3、4…電気刺激装置、10…Hブリッジ回路、11…計測増幅器、12…多段増幅器、13…マイコン、14…昇圧回路、15…絶縁型DC−DCコンバータ、16…レギュレータ、17…電池、30…IC、31…基準電圧発生器、32…電圧比較器、33…アンド回路、34…セットリセットフリップフロップ、35…発振器、73…マイコン、74…刺激出力トランス
図1
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