(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を実施するための最良の形態について説明する。なお、本実施形態の説明は例示であり、本発明は以下の説明に限定されない。
【0029】
〈実施形態1〉
本実施形態に係る塗膜診断システムの説明に先立ち、塗膜の診断をする対象である鋼構造物の一例である貯蔵タンクや、貯蔵タンクの塗膜の状態を数値化する調査手段について説明する。
【0030】
図1は、実施形態1に係る鋼構造物の一例である貯蔵タンクを例示する図である。鋼構造物とは、塗膜が塗布される被塗布部が鋼製である構造物のことをいう。また、ここでいう鋼とは、耐候性鋼などの低合金鋼も含むものである。
図1に示すように、貯蔵タンク1は、円柱状に形成され、その外壁面には塗装により塗膜が形成されている。貯蔵タンク1の外壁面には、診断領域が決められている。診断領域とは、貯蔵タンク1の塗膜が設けられた領域を複数に区分したものである。また、各診断領域はこれらを一意に識別する番地が付されている。本実施形態では、貯蔵タンク1には、計9つの診断領域が区分され、1〜9の番地が付されている。例えば、番地が「1」であるならば、図中左上の診断領域を特定することとなる。
【0031】
調査手段は塗膜及び塗膜下素地の状態を数値化するものである。ここで塗膜の状態を数値化するとは、塗膜の各種特性、例えば、剥がれ、ふくれ、錆の程度、塗膜の膜厚、塗膜の組成、付着性など物理的性質や、塗膜の抵抗や容量など電気的性質の測定値を得ることをいい、塗膜下素地の状態を数値化するとは、塗膜と素地界面の分極抵抗あるいは分極容量など電気化学的性質の測定値を得ることをいう。本実施形態では、調査手段として次のものを用いる。
【0032】
(1)目視:塗装業者が、目視により塗膜の錆びた部分、ふくれた部分又は剥がれた部分を調査し、これらの部分の合計面積が診断領域の面積に占める比率を見積もる。この比率を劣化面積率という。
(2)画像処理解析:例えばデジタルカメラなどの撮像手段により貯蔵タンク1を撮像し、これにより得られた貯蔵タンクの画像データを情報処理装置に画像処理解析させて劣化面積率を算出する。
(3)塗膜下腐食測定:腐食診断装置を用いて診断領域の塗膜抵抗、塗膜容量、塗膜下素地の分極抵抗、塗膜下素地の分極容量のデータを取得する。腐食診断装置としては、例えば特許第3051153号でいう塗膜下腐食測定装置を用いる。これらのデータから塗膜の劣化状況及び塗膜下素地の腐食状況が分かる。
(4)塗膜の化学分析:診断領域の塗膜断面の観察を行うことで、塗装履歴を得る。塗装履歴とは、塗膜の種類や回数などである。また、FT−IR(赤外線吸収スペクトル法)により塗膜の樹脂系を特定する。
(5)塗膜の膜厚測定:電磁式膜厚測定器を用いて、塗膜の膜厚を測定する。
(6)塗膜の付着性調査:アドヒージョンテスタ(JIS K 5600-5-7に準じる方法)又はクロスカット試験(JIS K 5600-5-6に準じる方法)により付着性を調査する。
【0033】
(1)〜(6)の調査手段は、診断領域毎に行う。また、これらの調査手段は例示であり、塗膜及び塗膜下素地の状態の程度を数値化することができるものであれば上述のものに限定されない。
【0034】
本実施形態に係る塗膜診断システムは、このような調査手段を実施して得られた調査結果に基づき、塗膜及び塗膜下素地の劣化状態を判断して出力するものである。以下、塗膜診断システムについて詳細に説明する。
【0035】
図2は、実施形態1に係る塗膜診断システムの概略構成図である。図示するように、塗膜診断システムは、CPU、記憶装置(RAM・ハードディスク等)、入力装置(キーボード・マウス等)、出力装置(ディスプレイ等)、通信手段等を備える情報処理装置10と、案件情報登録手段20と、画像処理手段21と、調査結果登録手段22と、判定基準登録手段23と、判定手段24と、レポート出力手段25とを具備している。また、塗膜診断システムは、各種データが記録され、または読み出されるデータベース40も具備している。
【0036】
なお、これらの各手段20〜25は、情報処理装置10で実行されるプログラムとして実装されている。ただし、これらの各手段20〜25は、一つのプログラムとして実行される場合に限定されない。例えば、各手段20〜25は、複数の情報処理装置でそれぞれ実行される個別のプログラムであってもよいし、電子回路等のハードウェアで構成されていてもよい。
【0037】
案件情報登録手段20は、複数の診断領域を一意に識別する番地を含む案件情報をデータベースに登録する。案件情報には、番地を登録する他に、塗膜及び塗膜下素地の診断を行う対象となる構造物に関する情報が含まれていてもよい。このような情報としては、例えば構造物の名称や、診断を依頼した依頼主の情報、依頼日時等である。
【0038】
画像処理手段21は、調査手段の一つとして情報処理装置10に実装された機能である。画像処理手段21は、まず、デジタルカメラなどの撮像手段により撮像された貯蔵タンク1の画像データを取り込む。この画像データは、貯蔵タンク1の診断領域毎に撮像されたものである。そして、画像処理手段21は、診断領域毎に撮像された画像データを、番地に対応付けてデータベース40に登録する。これにより、各画像データが番地で特定されることとなる。その後、画像処理手段21は、各番地の画像データについて、最終的に二値化等の画像処理を行い、所定の閾値を超えた部分を錆、割れ、剥がれと判断し、そのような部分が当該画像データの診断領域に占める比率を算出する。この比率を劣化面積率といい、画像処理解析による劣化面積率は、調査結果の一つとして、後述する調査結果登録手段22を介してデータベース40に登録される。
【0039】
調査結果登録手段22は、前述した調査手段を診断領域毎に実施して得られた調査結果を、番地に対応させてデータベース40に登録する。具体的には、調査結果登録手段22は、キーボードやマウスなどの入力装置を介して入力された診断領域の番地と、その番地に対応する調査結果とをデータベース40に登録する。もちろん、調査結果は、キーボード等に限られず、RS232C若しくはUSB等の通信ケーブルを介して調査手段から直接的に入力されてもよいし、不揮発性メモリ・CD−R等の記録媒体を介して入力されるものであってもよい。
【0040】
判定基準登録手段23は、調査結果から塗膜が劣化したか否かを表す劣化状態を決定する判定基準を調査手段毎にデータベースに登録する。劣化状態とは、塗膜が錆や剥がれなどにより補修や再補修が必要となるほどに劣化しているか否かを示す情報であり、判定基準とは、調査結果と、この調査結果に対して予め定められた塗膜の劣化状態との対応関係のことをいう。
【0041】
劣化状態は、例えば、劣化した状態を「1」、劣化していない状態を「0」とする二値であってもよい。他にも劣化の程度をたとえば5段階の数値で表すものであってもよい。また、判定基準としては、例えば、調査結果が或る閾値を超えたか否かにより劣化状態を決めるものが挙げられる。
【0042】
判定手段24は、調査結果登録手段22によりデータベース40に登録された調査結果が判定基準に適合するか否かに基づいて、番地により特定される診断領域の劣化状態を調査手段毎に判定する。調査結果が判定基準に適合するか否かについては、データベース40に登録された調査結果を読み出し、その調査結果の数値に対応する判定基準をデータベース40から抽出して劣化状態を判定することにより行う。例えば、判定基準が「目視による劣化面積率が5%以上の場合は劣化している」とするものである場合、実際の調査結果が10%であるならば、その調査手段を実施した診断領域の塗膜の劣化状態は劣化している、と判定することになる。
【0043】
レポート出力手段25は、調査結果及び診断領域の劣化状態を番地に関連付けて出力する。レポート出力手段25は、調査結果及び診断領域の劣化状態を、情報処理装置10のディスプレイに出力するが、これに限定されず、プリンタ等の印字装置、又はインターネット等の通信手段を介して接続された他の情報処理装置に出力してもよい。また、レポート出力手段25は、調査結果及び診断領域の劣化状態を出力する他に、塗膜の診断を行う対象となる構造物に関する情報を出力してもよい。このような情報としては、例えば構造物の名称や、診断を依頼した依頼主の情報、依頼日時等である。
【0044】
次に、塗膜診断システムで塗膜の診断を行う際の処理手順について説明する。
図3は、実施形態1に係る塗膜診断システムの処理のフローを示す図である。図示するように、情報処理装置10では、6つの処理が実行される。まず、鋼構造物の診断領域等を登録する登録処理(ステップS1)が実行される。そして、次に、調査手段の一つである画像処理解析を実行する画像処理(ステップS2)、その他の調査手段の調査結果を登録する調査結果登録処理(ステップS3)、及び判定基準を登録する判定基準登録処理(ステップS4)が実行される。ステップS2〜S4は、逐次実行されるものではなく、塗膜診断システムの利用者の選択により任意の順序で実行される。そして、これらの登録されたデータに基づき塗膜の劣化状態を判定する判定処理(ステップS5)が実行され、その結果を出力するレポート出力処理(ステップS6)が実行される。以下、各処理について詳細に説明する。
【0045】
[案件情報登録処理]
案件情報登録処理は、案件情報登録手段20により実行されるものであり、例えば、或る鋼構造物の塗膜の状態について診断依頼を受けたときに、その鋼構造物の番地を含む案件情報をデータベース40に登録する処理である。
【0046】
図4は、案件情報登録処理の処理フローである。図示するように、案件情報登録手段20は、鋼構造物の番地や名称、依頼主の情報、依頼日時等からなる案件情報を入力するための入力フォームをディスプレイに表示する(ステップS10)。塗膜診断システムの利用者からキーボード等を介して番地等の案件情報が入力される(ステップS11)。そして、案件情報登録手段20は、入力フォームに入力された案件情報をデータベース40に登録する(ステップS12)。表1に、データベース40に登録された案件情報の一例を示す。
【0048】
表1に示すように、案件番号「1000」という一つの案件情報がデータベース40に登録されている。案件番号は、案件情報を一意に識別する番号である。案件番号「1000」は、鋼構造物名称が「貯蔵タンク1」であり、依頼主が「○○株式会社」であり、依頼日時が「2008年2月8日」であり、番地が1から9まである(貯蔵タンク1の診断領域が合計9つある)ことを示している。
【0049】
[画像処理]
画像処理は、画像処理手段21により実行されるものであり、鋼構造物の各診断領域の画像データを取り込み、その診断領域の劣化面積率を算出し、データベース40に登録する処理である。
【0050】
図5は、画像処理の処理フローである。図示するように、画像処理手段21は、貯蔵タンク1の番地と、その番地により特定される貯蔵タンク1の各診断領域の画像データとを入力するための入力フォームをディスプレイに表示する(ステップS20)。次に、画像処理手段21は、デジタルカメラにより撮像された各診断領域の画像データを取り込み(ステップS21)、一方、当該画像データの診断領域に対応する番地がキーボードを介して入力される(ステップS22)。ステップS21、S22で入力された診断領域の画像データと番地とを対応付けし(ステップS23)、番地毎に劣化面積率を算出する(ステップS24)。劣化面積率の算出は、前述したように、各番地の画像データについて、二値化等の画像処理を行い、所定の閾値を超えた部分を錆、割れ、剥がれと判断し、そのような部分が当該画像データの診断領域に占める比率(劣化面積率)を算出することにより行う。このようにして算出した劣化面積率を番地毎にデータベースに登録する(ステップS25)。表2に、データベース40に登録された劣化面積率の一例を示す。
【0052】
表2に示すように、案件番号「1000」の貯蔵タンク1について、番地「1」に対応する診断領域は画像処理による劣化面積率が「15%」であることが示されている。同様に、番地「2」は劣化面積率が「7%」であり、番地「4」は劣化面積率が「3%」であり、その他の番地は劣化面積率が「0%」であることが示されている。
【0053】
[調査結果登録処理]
調査結果登録処理は、調査結果登録手段22により実行されるものであり、各種調査手段による調査結果を番地に対応付けてデータベース40に登録する処理である。
【0054】
図6は、調査結果登録処理の処理フローである。図示するように、調査結果登録手段22は、各種調査手段が調査した診断領域の番地と、その調査結果とを入力するための入力フォームをディスプレイに表示する(ステップS30)。次に、調査結果登録手段22は、キーボードを介して、各種調査手段が調査した診断領域の番地と、その調査結果とが入力される(ステップS31)。そして、調査結果登録手段22は、番地に対応させて各調査結果をデータベース40に登録する(ステップS32)。表3に、データベース40に登録された各種調査結果の一例を示す(画像処理による劣化面積率も含む。)。なお、表2と異なり、表示スペースの都合上、「鋼構造物名称」の列は表示を省略した。
【0056】
表3に示すように、案件番号「1000」の貯蔵タンク1について、番地「1、5、9」につき、各種調査手段、「目視による劣化面積率」、「分極抵抗」(前記調査手段(3)の塗膜下腐食測定により得られたもの)、「付着性」(前記調査手段(6)の塗膜の付着性調査により得られたもの)、「膜厚」(前記調査手段(5)の塗膜の膜厚測定により得られたもの)、及び「塗膜種類」(前記調査手段(4)の塗膜の化学分析により得られたもの)の調査結果が示されている。
【0057】
なお、表3の空欄が示すように、必ずしも全ての番地で全ての調査手段による調査結果が登録される必要はない。この場合は、調査結果が登録された番地・調査手段について、塗膜の劣化状態が判定される。
【0058】
[判定基準登録処理]
判定基準登録処理は、判定基準登録手段23により実行されるものであり、判定基準をデータベース40に登録する処理である。
【0059】
図7は、判定基準登録処理の処理フローである。図示するように、判定基準登録手段23は、調査手段毎に、判定基準を入力するための入力フォームをディスプレイに表示する(ステップS40)。次に、判定基準登録手段23は、キーボードを介して、判定基準が入力される(ステップS41)。そして、判定基準登録手段23は、判定基準をデータベース40に登録する(ステップS42)。
【0060】
本実施形態では、判断基準は、調査結果が、調査手段毎に定めた閾値以上又は以下である場合に塗膜は劣化しているとするものである。表4に、判定基準の一例を示す。
【0062】
表4に示すように、調査手段毎に、判定基準が設定されている。例えば「目視による劣化面積率」の場合、その調査結果が「15%以上」であるならば、その調査手段の対象の診断領域の塗膜は「劣化している」と判定されることになる。
【0063】
[判定処理]
判定処理は、判定手段24により実行されるものであり、データベース40に登録された調査結果が判定基準に適合するか否かに基づいて、その調査結果の調査対象である診断領域の劣化状態を判定し、データベース40に登録する処理である。
【0064】
図8は、判定処理の処理フローである。図示するように、判定手段24は、各番地について調査手段毎に調査結果をデータベース40から読み込み(ステップS50)、次いで、判定基準をデータベース40から読み込む(ステップS51)。次に、各調査結果が判定基準に適合するか否か計算をする(ステップS52)。そして、この計算結果に基づいて各番地について調査手段毎に塗膜の劣化状態を判定し(ステップS53)、データベース40に登録する(ステップS54)。
【0065】
例えば、表3に示した番地「1」についての調査結果の場合、「画像処理による劣化面積率」が「15%」である(ステップS50)。一方、判断基準は、表4の「画像処理による劣化面積率が15%以上」である(ステップS51)。この調査結果である「15%」が、判断基準「画像処理による劣化面積率が15%以上」に適合するか計算する(ステップS52)。この場合は、調査結果「15%」と閾値「15%」との差を計算し、差が正ならば、判断基準に適合することとなる。劣化状態を「1」(劣化している)、「0」(劣化していない)の二値で表すとすると、調査手段「画像処理による劣化面積率」によれば、番地「1」の塗膜の劣化状態は「1」、すなわち劣化していると判断される(ステップS53)。
【0066】
同様に各番地「1、5、9」の調査結果が調査手段の判断基準に適合するかを計算し、塗膜及び塗膜下素地の劣化状態を判定し、データベース40に登録する(ステップS54)。この結果、表5〜表7に示すように、調査結果が入力された番地・調査手段について劣化状態が判定される。表5は案件番号「1000」の番地「1」について、表6は案件番号「1000」の番地「5」について、表7は案件番号「1000」の番地「9」に関する。
【0070】
[レポート出力処理]
レポート出力処理は、レポート出力手段25により実行されるものであり、塗膜及び塗膜下素地の調査結果及び劣化状態を出力する処理である。
【0071】
図9は、レポート出力処理の処理フローである。図示するように、レポート出力手段25は、キーボードを介して、出力すべき案件番号が入力され(ステップS60)、当該案件番号に該当する案件情報を取得する(ステップS61)。また、当該案件番号に該当する調査結果、塗膜及び塗膜下素地の劣化情報を取得する(ステップS62)。そして、これらの案件情報、塗膜及び塗膜下素地の調査結果、塗膜及び塗膜下素地の劣化情報を所定の書式に整形してディスプレイに表示する(ステップS63)。例えば、案件番号として「1000」が入力された場合、表1に示した案件番号「1000」の案件情報と、表5〜表7に示した番地毎の調査結果と塗膜の劣化状態がディスプレイに表示される。もちろん、劣化状態は「1」「0」と表示するのではなく、「劣化している」「劣化していない」というような文言を表示してもよい。
【0072】
上記に説明した塗膜診断システムでは、診断対象の貯蔵タンク1の外壁面を診断領域に区分し、診断領域毎に調査手段を実施して調査結果を取得し、この調査結果が判定基準に適合するか否かにより、当該診断領域の塗膜の劣化状態を判定する。
【0073】
一方、構造物は、部分毎に環境的な条件が異なることから、全体的には良好な塗膜であっても、部分的には劣化しているということがあり得る。このような場合でも、構造物の外壁面を区分した診断領域の塗膜及び塗膜下素地の劣化状態を判定するので、部分的には錆や剥がれ等が生じた塗膜を見逃すことなく劣化状態を判定することができる。ちなみに、例えばデジタルカメラで貯蔵タンク1の外壁面全体を撮像した画像データを画像処理して劣化面積率を得る場合、劣化した部分が存在しても、外壁面の全体が良好であると判断してしまうが、本発明の塗膜診断システムではこのようなことはない。
【0074】
また、各診断領域に複数の調査手段を実施して得られた調査結果から各診断領域の劣化状態を判定した。これにより、例えば、構造物の設置場所や他の構造物との位置関係、構造物の形状により、或る調査手段は実施し難い診断領域であったとしても、他の調査手段を実施することで当該診断領域の調査結果を取得し、劣化状態を判定することができる。例えば、貯蔵タンク1の番地「4」「7」の前に遮蔽物があるため、番地「4」「7」の診断領域は、デジタルカメラでは調査し難くても、塗膜下腐食測定のように電気化学的な測定手段塗膜診断ならば容易に調査できる場合等である。要するに、本実施形態に係る塗膜診断システムは、複数の診断領域に区分したことで、各診断領域に適した調査手段を実施することができるので、構造物の設置場所や他の構造物との位置関係等の要因に左右されずに塗膜の劣化状態を判定できるという柔軟性を有している。
【0075】
〈実施形態2〉
実施形態1に係る塗膜診断システムでは、最終的に診断対象の鋼構造物の塗膜及び塗膜下素地の劣化状態を調査手段毎に判定したが、実施形態2に係る塗膜診断システムでは、更に、この調査手段毎の劣化状態から、番地で特定される診断領域が劣化しているか否かを表す総合判定を算出し、この総合判定に基づいて鋼構造物を補修塗装するのに適した推奨塗装仕様を出力する。
【0076】
図10は、実施形態2に係る塗膜診断システムの概略構成図である。なお、実施形態1と同一のものには同一の符号を付し重複する説明を省略する。図示するように、実施形態2に係る塗膜診断システムは、総合判定手段26と、素地調整方法登録手段27と、塗装仕様登録手段28と、希望塗装情報取得手段29と、推奨塗装仕様抽出手段30とを更に具備することが実施形態1と異なっている。
【0077】
総合判定手段26は、判定手段24で判定された劣化状態から総合判定を算出する。劣化状態は、調査手段毎について、塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度を表すものであったが、総合判定は、各番地で特定される診断領域の塗膜の劣化の程度を表すものである。すなわち、総合判定によれば、診断領域の総合的な塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度が得られることとなる。
【0078】
総合判定は、具体的には次のように算出される。まず、調査手段毎の塗膜及び塗膜下素地の劣化状態に、所定の重み付け係数をそれぞれ乗じ、加算したものである総合点を算出する。そして、その総合点が所定の閾値を超えている場合に、当該番地で特定される診断領域が劣化しているとされ、閾値を超えていないならば当該診断領域は劣化していないとする。
【0079】
なお、閾値を複数設定して劣化の程度を複数段階設定してもよい。例えば「総合点が2を超えたら劣化度大」、「総合点が1を超え2以下ならば劣化度中」、「総合点が1以下ならば劣化していない」としてもよい。
【0080】
素地調整方法登録手段27は、診断領域の塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度毎に定義される素地調整方法をデータベース40に登録する。ここで素地調整方法とは、貯蔵タンク1の診断領域を補修塗装するのに先立って、診断領域に対して行なわれる作業内容のことをいう。素地調整方法が、塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度毎に定義されるとは、塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度が決まれば、適用する素地調整方法が決まるということである。
【0081】
塗装仕様登録手段28は、塗料の名称及び塗装方法からなる塗装仕様を、素地調整方法及び塗装情報の組合せに関連付けてデータベース40に登録する。塗装情報とは、予め定められ、診断領域を補修塗装する際に用いられる塗装の性質に関する情報である。塗装情報は、詳細は後述するが、貯蔵タンク1の塗装を依頼する者が、貯蔵タンク1に用いる塗装としてどのような性質のものを用いるかについての希望を反映させるため用いられる。
【0082】
例えば、塗装情報は、「過去に既に塗装された旧塗膜の種類」、「旧塗膜と同じものが補修塗装されるか否か」、「環境対応の塗装であるか否か」、「省工程の塗装工法であるか否か」及び「高耐久の塗装であるか否か」などの各項目について、それぞれ取り得る値の集合からなる。表8に塗装情報の一例を示す。
【0084】
表8に示すように、旧塗膜は、例えば、「フタル酸系」、「塩化ゴム系」という値を取り得る。同様に、「旧塗膜と同じものが補修塗装されるか否か」、「環境対応の塗装であるか否か」、「省工程の塗装工法であるか否か」及び「高耐久の塗装であるか否か」については、「○」「×」の二値のうち何れかの値を取り得る。
【0085】
そして、このような塗装情報が取り得る値と、各素地調整方法との組合せを作成し、各組合せを塗装仕様に関連付ける。表9に、塗装仕様を素地調整方法及び塗装情報の組合せに関連付けた一例を素地調整方法の種別が「1種」及び「2種」の場合について示す。
【0087】
表9に示すように、例えば、素地調整方法の「種別」が「1種」であり、塗装情報の「旧塗膜」が「フタル酸系」であり、「旧塗膜と同じものが補修塗装されるか」が「×(同じものが補修塗装されない)」、「環境対応」が「○」、「省工程」が「○」、「高耐久」が「○」であるならば、そのときに用いる塗装仕様のコードが「1−1−7」であることを示している。すなわち、素地調整方法と塗装情報とが特定されれば、1つの塗装仕様が決定されることとなる。このように、塗装仕様登録手段28により、素地調整方法や塗装情報の取り得る値の全ての組合せについて、一つの塗装仕様がデータベース40に登録される。なお表9に示した例では、塗装仕様はコードが示されているのみであるが、各コードにつき、具体的な塗料の名称や塗装方法がデータベース40に登録されているとする。
【0088】
希望塗装情報取得手段29は、具体的には、貯蔵タンク1の塗装を依頼する者から、貯蔵タンク1に用いる塗装としてどのような性質のものを用いるかについての希望をインタビューし、その結果をキーボード等の入力手段を介して取得する。
【0089】
推奨塗装仕様抽出手段30は、総合判定手段26により判定された診断領域の塗膜の劣化の程度に対応する素地調整方法と、データベース40に登録された塗装情報のうち前記希望塗装情報に一致する塗装情報との組合せに対応するものを推奨塗装仕様としてデータベース40から抽出する。すなわち、診断領域の塗膜の劣化の程度によって、診断領域に実施すべき素地調整方法が選択され、また、塗装を依頼する者が希望した塗装情報に適合した塗装仕様が選択されることとなる。
【0090】
次に、実施形態2に係る塗膜診断システムで塗膜の診断を行う際の処理手順について説明する。
図11は、実施形態2に係る塗膜診断システムの処理のフローを示す図である。なお、実施形態1と同じ処理には同じ符号を付し、重複する説明は省略する。図示するように、情報処理装置10では、実施形態1から新たに6つの処理が追加されている。まず、実施形態1と同様に、鋼構造物の診断領域等を登録する登録処理(ステップS1)が実行される。そして、次に、調査手段の一つである画像処理解析を実行する画像処理(ステップS2)、その他の調査手段の調査結果を登録する調査結果登録処理(ステップS3)、及び判定基準を登録する判定基準登録処理(ステップS4)が実行される。更に、実施形態2では、素地調整方法登録処理(ステップS4−2)、塗装仕様登録処理(ステップS4−3)及び希望塗装情報取得処理(ステップS4−4)が実行される。ステップS2〜S4、S4−2〜S4−4は、逐次実行されるものではなく、塗膜診断システムの利用者の選択により任意の順序で実行される。そして、これらの登録されたデータに基づき塗膜の劣化状態を判定する判定処理(ステップS5)が実行されたのち、総合判定処理(ステップS5−2)、推奨塗装仕様抽出処理(ステップS5−3)が実行され、その結果を出力するレポート出力処理(ステップS6)が実行される。以下、各処理について詳細に説明する。
【0091】
[素地調整方法登録処理]
素地調整方法登録処理は、素地調整方法登録手段27により実行されるものであり、素地調整方法をデータベース40に登録する処理である。
【0092】
図12は、素地調整方法登録処理の処理フローである。図示するように、素地調整方法登録手段27は、素地調整方法を塗膜の劣化の程度毎に入力するための入力フォームをディスプレイに表示する(ステップS70)。次に、素地調整方法登録手段27は、キーボードを介して、素地調整方法が入力される(ステップS71)。そして、素地調整方法登録手段27は、塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度に関連付けて、素地調整方法をデータベース40に登録する(ステップS72)。表10に、塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度毎に定義された素地調整方法の一例を示す。
【0094】
表10には、例えば、塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度が「劣化度大」であるならば、素地調整方法としては「1種」の「さび、塗膜を除去し、清浄な鋼材面とする。」という方法が関連付けられていることが示されている。
【0095】
[塗装仕様登録処理]
塗装仕様登録処理は、塗装仕様登録手段28により実行されるものであり、塗料の名称及び塗装方法からなる塗装仕様を、塗装情報及び素地調整方法の組合せに関連付けてデータベース40に登録する。
【0096】
図13は、塗装仕様登録処理の処理フローである。図示するように、塗装仕様登録手段28は、塗装仕様を入力するための入力フォームをディスプレイに表示する(ステップS80)。次に、塗装仕様登録手段28は、キーボードを介して、塗装仕様が入力される(ステップS81)。そして、塗装仕様登録手段28は、予め定められた塗装情報及び素地調整方法登録処理で登録した素地調整方法の組合せに、ステップS81で入力された塗装仕様を関連付けてデータベース40に登録する(ステップS82)。これにより、表9に示したように、塗装仕様が塗装情報及び素地調整方法に関連付けられてデータベース40登録される。
【0097】
[希望塗装情報取得処理]
希望塗装情報取得処理は、希望塗装情報取得手段29により実行されるものであり、診断領域を補修塗装する際に使用したい塗装の性質に関する希望塗装情報を取得する処理である。
【0098】
図14は、希望塗装情報取得処理の処理フローである。図示するように、希望塗装情報取得手段29は、案件番号と希望塗装情報とを入力するための入力フォームをディスプレイに表示する(ステップS90)。次に、希望塗装情報取得手段29は、キーボードを介して、案件番号と希望塗装情報が入力される(ステップS91)。そして、希望塗装情報取得手段29は、希望塗装情報を案件番号に関連付けてデータベース40に登録する(ステップS92)。これにより、或る案件番号に関して、補修塗装を要する診断領域に用いる塗装に関する依頼主の要望がデータベース40に登録されたことになる。
【0099】
例えば、希望塗装情報として、「旧塗膜は塩化ゴム系である」、「旧塗膜と同じものは使用しない」、「環境対応のものを使用する」、「省工程は必要ない」、「高耐久のものを使用する」が入力されたとする。
【0100】
次に、ステップS5の判定処理が行われるが、処理内容は実施形態1と同様であるので説明を省略し、表5〜表7のような各番地についての塗膜及び塗膜下素地の劣化状態が得られているとする。
【0101】
[総合判定処理]
総合判定処理は、総合判定手段26により実行されるものであり、データベース40に登録された各番地の調査手段毎の塗膜及び塗膜下素地の劣化状態から総合判定を算出する処理である。
【0102】
図15は、総合判定処理の処理フローである。図示するように、総合判定手段26は、各番地について、調査手段毎の塗膜及び塗膜下素地の劣化状態をデータベース40から取得する(ステップS100)。例えば、表5に示した塗膜及び塗膜下素地の劣化状態を取得したとする。
【0103】
次に、これらの塗膜及び塗膜下素地の劣化状態に所定の重み付け係数をそれぞれ乗じ、加算することで総合点を算出する(ステップS101)。すなわち、「目視による劣化面積率から得られた劣化状態」をX
1、「画像処理による劣化面積率から得られた劣化状態」をX
2、「分極抵抗から得られた劣化状態」をX
3、「付着性から得られた劣化状態」をX
4、「膜厚から得られた劣化状態」をX
5とすると、総合点Yは次の式で求まる。なお下記式中a〜eは所定の重み係数である。
【0105】
次に、総合点Yの値により、診断領域の塗膜及び塗膜下素地の劣化の程度(総合判定)を算出する(ステップS102)。具体的には、閾値を設けて、総合点Yがその閾値を越えたか否かにより劣化の程度を算出する。例えば、複数の閾値t
0〜t
2を用いて、総合点Yが0以上t
0未満であるならば総合判定は「健全」、t
0以上t
1未満であるならば総合判定は「劣化度小」、t
1以上t
2未満であるならば総合判定は「劣化度中」、t
2以上であるならば総合判定は「劣化度大」とすることができる。
【0106】
例えば、目視・画像処理による劣化面積率及び分極抵抗について比重を大きくすべく、所定の重み係数は「a、b及びcについては2」、「d及びeについては1」とする。また、総合判定についての閾値を、例えば、総合点Yが0以上1.5未満であるならば「健全」、1.5以上3未満であるならば「劣化度小」、3以上4.5未満であるならば「劣化度中」、4.5以上であるならば「劣化度大」とする。表5〜表7の番地「1、5、9」の劣化状態と上記所定の重み係数とから、次式に示すように番地「1」についての総合点Y1、番地「5」についての総合点Y5、番地「9」についての総合点Y9を算出できる。
【0108】
これらの総合点Y1、Y5、Y9と閾値とから算出した総合判定を表11に示す。
【0110】
このようにして、各番地について総合判定が算出され、これらの総合判定をデータベース40に登録する(ステップS103)。
【0111】
なお、所定の重み係数は、前記診断領域に塗布された塗膜の種類に応じて決定してもよい。例えば、アルキド系のような弱い塗膜では、表面に錆などの劣化が出易いため、劣化面積率に係る係数を大きく設定する。一方、エポキシ系のような強い塗膜や厚膜の塗装形では表面に劣化が表れず、塗膜下で剥離が進行することがあるので、分極抵抗に係る係数を大きく設定する。これにより、塗膜に合わせて適切な総合判定をすることができる。
【0112】
[推奨塗装仕様抽出処理]
推奨塗装仕様抽出処理は、推奨塗装仕様抽出手段30により実行されるものであり、素地調整方法、及びデータベース40に登録された塗装情報のうち前記希望塗装情報に一致する塗装情報の組合せに対応するものを推奨塗装仕様としてデータベース40から抽出する。
【0113】
図16は、推奨塗装仕様抽出処理の処理フローである。図示するように、推奨塗装仕様抽出手段30は、データベース40に登録された素地調整方法(表10参照)のうち、各番地の総合判定に適した素地調整方法を抽出する(ステップS110)。例えば表11の番地「1」については、総合判定が「劣化度大」であるので、表10のうち、素地調整方法は種別が「1種」である素地調整方法が抽出される。また、表11の番地「9」については、総合判定が「劣化度中」であるので、表10のうち、素地調整方法は種別が「2種」である素地調整方法が抽出される。なお、番地「5」については、総合判定が「健全」であるので、特に素地調整方法は抽出されない。
【0114】
次に、表9に示した素地調整方法と塗装情報との組合せのうち、ステップS110で抽出した素地調整方法に該当し、且つ、希望塗装情報取得処理で取得した希望塗装情報に一致する塗装情報を検索する(ステップS111)。
【0115】
希望塗装情報としては、「旧塗膜は塩化ゴム系である」、「旧塗膜と同じものは使用しない」、「環境対応のものを使用する」、「省工程は必要ない」、「高耐久のものを使用する」が入力されたので、番地「1」及び番地「9」につき、表9に示した組合せのうち表12に示したものが検索される。
【0117】
次に、検索された素地調整方法及び塗装情報の組合せに対応する塗装仕様を推奨塗装仕様とする(ステップS112)。表12の例ならば、塗装仕様としてはコードが「1−2−6」で特定される塗料と塗装方法が推奨塗装仕様となる。このように、希望塗装情報に一致する塗装情報が検索され、推奨塗装仕様となるため、貯蔵タンク1の塗装の診断を依頼した者の希望を反映することができる。
【0118】
そして、レポート出力処理では、表13に示すように、この推奨塗装仕様を含め、総合判定、案件情報、調査結果等をディスプレイに所定の書式に整形して出力する。
【0120】
上記に説明した塗膜診断システムでは、診断対象の貯蔵タンク1の外壁面を診断領域に区分し、診断領域毎に調査手段を実施して調査結果を取得し、この調査結果が判定基準に適合するか否かにより当該診断領域の塗膜の劣化状態を判定し、劣化状態から診断領域毎に総合判定を算出し、この総合判定により推奨塗装仕様が出力される。
【0121】
このように、貯蔵タンク1の外壁面を複数の診断領域に区分した上で、診断領域毎に推奨塗装仕様を算出したので、推奨塗装仕様に従って診断領域毎に適切な塗装を施して貯蔵タンク1等の鋼構造物の外壁を良好に保つことができる。特に、外壁面全体の塗膜は良好であるが、或る診断領域は劣化しているような場合でも、その診断領域に適した推奨塗装仕様を得ることができる。
【0122】
また、実施形態1でも述べたように、本実施形態に係る塗膜診断システムは、複数の診断領域に区分したことで、各診断領域に適した調査手段を実施することができるので、構造物の設置場所や他の構造物との位置関係等の要因に左右されずに塗膜及び塗膜下素地の劣化状態を判定し、この劣化状態に基づいて総合判定して推奨塗装仕様を得ることができるという柔軟性を有している。
【0123】
更に、情報処理装置10が主体となって、総合判定が算出されるので、塗装業者の恣意によらない客観的な判定が迅速に行えるようになり、更に、総合判定に基づいて推奨塗装仕様が出力されるので、経験の少ない塗装業者であっても一定の品質を維持した塗装作業が可能となる。
【0124】
〈実施形態3〉
実施形態1、実施形態2に係る塗膜診断システムでは、9個の診断領域が予め設定され、その数、大きさ、位置、形状は固定的であったが、これに限定されず、劣化状態に応じて設定され、又は補正されてもよい。
【0125】
図17は、実施形態3に係る塗膜診断システムの概略構成図である。なお、実施形態1、実施形態2と同一のものには同一の符号を付し重複する説明を省略する。図示するように、実施形態3に係る塗膜診断システムは、診断領域設定手段31と、診断領域再設定手段32とを更に具備することが実施形態2と異なっている。
【0126】
診断領域設定手段31は、鋼構造物の塗膜が設けられた仮診断領域について、まず劣化面積率を取得し、その劣化面積率が所定値以上である仮診断領域を再区分して診断領域とする。再区分に際しては、鋼構造物を撮像したものである画像データに診断領域を区分する境界線を付加して出力装置に出力する。これにより、調査を実施する者に、新たに調査を実施すべき診断領域が提示される。また、診断領域を番地で一意に識別するように案件情報(表1参照)をデータベース40に登録する。
【0127】
これにより、診断領域の初期設定に際し、現状の鋼構造物の塗膜の劣化面積率が考慮された上で診断領域が自動的に設定される。なお、この劣化面積率は、実施形態1、2に説明したように、調査結果登録手段22により取得するか、画像処理手段21により取得する。
【0128】
再区分の仕方は、数、位置、大きさ、形状について適宜設定すればよいが、特に、劣化面積率が所定値以上である仮診断領域を相対的に細かく区分し、その他の仮診断領域を相対的に大きく区分することが好ましい。これにより、劣化の程度が大きい箇所は、細かい診断領域が設定され、劣化の程度が小さい箇所は、大きな診断領域が設定される。このため、劣化の程度が大きい箇所は、各調査手段により重点的に調査され、劣化の程度が小さい箇所は簡略的に調査できる。このように後の調査手段による調査を合理化できる。
【0129】
診断領域再設定手段32は、総合判定手段26により算出された総合判定に基づき所定の基準よりも劣化している診断領域を、新たな複数の診断領域に再区分し、これらを番地で一意に識別するようにデータベース40の案件情報を補正する。診断領域を再区分するという点では診断領域設定手段31と同様であるが、診断領域再設定手段32では、総合判定に基づいて、適宜診断領域を再区分することに特徴を有している。
【0130】
具体的には、まず、総合判定に基づいて劣化の程度が所定の基準以上であるである診断領域を特定する。例えば、所定の基準を「劣化度大」とすると、表11のうち、番地「1」の診断領域が特定される。この診断領域を例えば、3等分して案件情報を更新する。表14に更新した案件情報を示す。
【0132】
番地「1」により特定される診断領域を三分割し、各診断領域を特定する番地「1a」、「1b」、「1c」を登録する。以降、表15に示すように、分割された診断領域も含めて各調査手段を実施する。その後、実施形態1、2と同様に、新たに再区分された診断領域について各処理が行われ、劣化状態、総合判定、推奨塗装仕様等が算出され、出力される。
【0134】
なお、再区分した診断領域は、鋼構造物を撮像したものである画像データに新たな診断領域を区分する境界線を付加して出力装置に出力する。これにより、調査を実施する者に、新たに調査を実施すべき診断領域が提示される。
【0135】
再区分の仕方は、数、位置、大きさ、形状について適宜設定すればよいが、特に、総合判定が所定値以上である診断領域を相対的に細かく区分し、その他の診断領域を相対的に大きく区分することが好ましい。これにより、経年変化などの要因により劣化し易い診断領域が生じた場合、当該診断領域は細かく再区分され、後の調査を密に行うことができ、より精度の高い塗膜及び塗膜下素地の診断を行うことができる。このように、調査が実施されて総合判定が算出されるたびに、劣化の程度に応じて診断領域の数、位置、大きさ、範囲を変えて再区分される。すなわち経年変化に応じて診断領域を追随させることができる。
【0136】
このように診断領域が動的に変更されるため、劣化し易い診断領域は、密に調査を行い、劣化し難い診断領域は粗に調査を行えるという効率的な調査を実施できる。また、劣化し易い領域は密に調査されるので、より正確な塗膜及び塗膜下素地の状態を診断できる。
【0137】
〈他の実施形態〉
なお、上述した実施形態1、2、3では、鋼構造物の診断領域は、番地で特定されていたがこれに限定されず、番地を階層的に構成してもよい。例えば、複数の鋼構造物を一意に識別する「案件番号」、一つの鋼構造物のうち複数の部位、例えば上面、側面、背面などを一意に識別する「部位」、一つの部位のうち複数の診断領域を一意に識別する「番地」としてもよい。表14に階層的な番地を例示する。
【0139】
このような場合でも、各案件番号、各部位、各番地により特定される診断領域毎に調査手段を実施して、劣化状態・総合判定・推奨塗装仕様を算出すればよい。
【0140】
また、上述した実施形態1・実施形態2では、各診断領域に調査手段を1回実施して得られた1つの調査結果について、劣化状態等を判定していたが、各診断領域に調査手段を複数回実施して得られた複数の調査結果に基づいて、劣化状態等を判定してもよい。表17に、番地「1」により特定される診断領域ついて調査手段を2回実施して得られた調査結果を例示する。
【0142】
このような場合は、調査結果毎に劣化状態を算出し、調査結果毎に劣化状態から総合点([総合判定処理]参照)を算出する。その後、例えば、調査結果毎の総合点の平均を取る。そして、この平均が所定の閾値を超えるか否かに基づいて総合判定を算出することができる。
【0143】
また、鋼構造物として円柱状の貯蔵タンク1を例に説明したが、もちろん貯蔵タンクに限定されるものではなく、本発明に係る塗膜診断システムは、種々の構造物に広く適用し得るものである。