【実施例】
【0060】
まず、本発明に係るグラフェン粉体を製造するための形態を示す実施例を、
図1から
図9を参照して説明する。実施例におけるグラフェン粉体の製造装置としては、5つの構成を
図1、
図3、
図4、
図6及び
図8に例示する。
図1及び
図3に示すグラフェン粉体の製造装置では、噴流として気体を利用する場合を示し、
図4、
図6及び
図8に示すグラフェン粉体の製造装置では、噴流として液体を利用する場合を示す。
【0061】
図1は、実施例におけるグラフェン粉体の製造装置の第1の構成図を示している。
【0062】
図1において、グラフェン粉体の製造装置1は、噴流を出力する噴流出力手段となるコンプレッサー4と、密閉された空間を備えるチャンバーであるプロセスチャンバー5とを少なくとも有し、プロセスチャンバー5は、黒鉛、グラファイトなどを含む原料3とコンプレッサー4により出力された噴流とを入力する入力部10と、プロセスチャンバー5内で黒鉛が噴流により劈開されることで生じる微粒子化されたグラフェン粉体を出力する出力部11とを備える。出力部11は、図面中では模式的に示しているが、プロセスチャンバー5の出力ノズルとその後のパイプとを備えることができる。
【0063】
噴流出力手段となるコンプレッサー4は、気体を圧縮して圧力を高め、連続的に送り出す装置であり、従来からある通常のコンプレッサーを利用することができる。コンプレッサー4は、空気またはガスなどの気体を圧縮して超高速ジェットの気体噴流をパイプ9に出力する。ガスとしては、窒素ガス、炭化水素ガス、水素ガスなどを利用することができる。コンプレッサー4の噴流の吐出圧力としては、約10〜500MPaぐらいに設定され、噴流ノズル径としては、直径0.1〜1mmぐらいに設定される。これにより噴流は、100〜1000m/sの範囲内の速度で出力される。
【0064】
プロセスチャンバー5は、図示しないバルブにより大気を遮断し、プロセスに応じて高真空/内部雰囲気を保持する装置であり、従来からある通常のドラム型のプロセスチャンバーを利用することができる。プロセスチャンバー5は、入力部10から入力された黒鉛を含む原料3とコンプレッサー4により出力された気体噴流とを入力し、内部において、黒鉛を劈開させる処理(以下、「劈開プロセス)という)を行い、劈開プロセスの終了後、劈開され微粒子化されたグラフェン粉体7を出力部11から出力する。プロセスチャンバー5内では、気体噴流9a〜9dを原料3に対して吹き付けて衝突させることで直接劈開させたり、原料3の黒鉛が気体噴流に乗ってプロセスチャンバー5の内壁に衝突することにより劈開されたり、原料3の黒鉛が気体噴流に乗って黒鉛同士が衝突することにより劈開されたりする。
図1に示すプロセスチャンバー5の入力部10は、パイプ9を介して超高速ジェットの気体噴流と、黒鉛を含む原料3とをそれぞれ入力するものであり、気体噴流を入力する第1入力手段10a、第2入力手段10b、第3入力手段10c及び第4入力手段10dと、原料3を入力する第5入力手段10eとを備える。第1入力手段10a〜第5入力手段10eは、ノズルで構成される。本実施例においては、入力部10を5つ備える場合を例にしているが、入力部としては、1つ、または複数備えることができ、6つ以上の入力部を備えてもよい。また、本実施例においては、気体と原料とは異なる入力手段より入力しているが同じ入力手段より入力するようにしてもよい。また、入力部10は、第1入力手段10a〜第5入力手段10eにおけるプロセスチャンバー5内への入力方向をそれぞれ調整する図示しない調整手段を有している。調整手段により、第1入力手段10a〜第4入力手段10dから入力される気体噴流9a〜9dのプロセスチャンバー5内への入力方向と、第5入力手段10eから入力される原料3のプロセスチャンバー5内への入力方向とをそれぞれ調整する。調整手段は、例えば、二つの入力手段の入力方向を互いに対向させるように設定してもよいし、プロセスチャンバー5の壁面の特定位置へ向くように設定できる。なお、調整手段は、必須の構成ではなく、入力部10より固定方向に入力するようにしてもよい。
【0065】
また、グラフェン粉体の製造装置1は、原料3が投入され、投入された原料3を保持する原料タンク2と、プロセスチャンバー5から出力されるグラフェン粉体を分離・捕集する集塵器6aと、グラフェン粉体を保持して出力する出力タンク6bとを備えることができる。
【0066】
使用する原料3としては、黒鉛を含むものであればよく、例えば、天然のグラファイトやグラファイト粉末などを利用できる。原料3は、原料タンク2に投入され、パイプ8を介して、第5入力手段10eからプロセスチャンバー5内へ入力される。
【0067】
集塵器6aは、プロセスチャンバー5から出力されるグラフェン粉体7を分離・捕集する装置である。集塵器6aとしては、粒子の自然沈降を利用する重力式(重力沈降室)、遠心力を利用する遠心式(サイクロン)、各種濾材(ろざい)を利用する濾過式、粒子を障害物表面に衝突・付着させる衝突式、電気式(電気集塵器)、音波式(音波集塵器)などを利用することができる。本実施例においては、気体として空気又はガスを利用するため、乾いた状態で集塵する乾式を利用する。
【0068】
出力タンク6bは、黒鉛が劈開されて微粒子化されたグラフェン粉体7を保持して出力する。また、出力タンク6bから出力されるグラフェン粉体7は、劈開状況によりパイプ19を介して再度原料タンク2に投入され、劈開プロセスが繰り返される。
【0069】
つぎに、本実施例におけるグラフェン粉体の製造方法の一例を、
図1を参照して説明する。まず、プロセスチャンバー5を起動させ、プロセスチャンバー5内部を真空状態にする。真空状態とすることで、プロセスチャンバー5内の不純物を取り除くことができる。つぎに、原料タンク2に、グラファイト粉末の原料3を投入し、パイプ8を介して、第5入力手段10eからプロセスチャンバー5内へ原料3を入力する。また、コンプレッサー4を起動させ、空気またはガスなどの気体を圧縮し、500m/sの速度で超高速ジェットの気体噴流をパイプ9に出力し、プロセスチャンバー5の第1入力手段10a〜第4入力手段10dから気体噴流9a〜9dを入力させる。プロセスチャンバー5では、第1入力手段10a〜第4入力手段10dから入力された気体噴流と、第5入力手段10eから入力された黒鉛を含む原料3とを衝突させ、黒鉛を劈開させる劈開プロセスを行う。プロセスチャンバー5内では、調整手段により第1入力手段10a〜第5入力手段10eにおけるプロセスチャンバー5内への入力方向を調整し、気体噴流を原料3に対して吹き付けて衝突させる。もしくは、原料3の黒鉛を気体噴流に乗ってプロセスチャンバー5の内壁に衝突させるように調整する。プロセスチャンバー5が、球状の場合には、プロセスチャンバー5内の内壁に沿って気体噴流が回転し、気流を起こし、原料3と気体噴流とが衝突しやすくなる。
【0070】
ここで、劈開プロセスについて、
図2(a)及び(b)を参照して説明する。
図2(a)及び(b)は、実施例におけるグラフェン粉体の劈開を説明するための説明図を示している。第5入力手段10eから入力された黒鉛を含む原料3は、第1入力手段10a〜第4入力手段10dから入力された気体噴流9a〜9dに衝突することで、黒鉛の層間に気体噴流9a〜9dが侵入し、黒鉛を劈開させることできる。また、原料3の黒鉛が気体噴流に乗って黒鉛同士が衝突することにより黒鉛の層間に他の黒鉛の層が侵入することで、劈開させることができる。さらに、原料3の黒鉛が気体噴流に乗ってプロセスチャンバー5の内壁に衝突することにより劈開させることができる。また、プロセスチャンバー5内で気体噴流が気流を起こし、原料3と気体噴流とが何度も衝突することができる。グラフェンは、劈開しやすい性質を有していることから、正
六面体の面に対して平行に簡単に割れるが、気体噴流9a〜9dの速度は、100〜1000m/sの範囲内とすることが望ましい。この速度範囲は、本願の発明者が、実験を重ねて見出したものであり、噴流の速度を、100〜1000m/sの範囲内にある速度とすることで、黒鉛の劈開が生じることが見出された。100m/s未満であると、噴流の勢いが足りず劈開しにくく、また、1000m/sより速い速度であると、最適なサイズの微粒子に制御しにくくなり、またグラフェンの結晶に孔が生じてしまい、グラフェンの品質を高品質に保つことが難しくなる。100〜1000m/sのいずれかの速度で噴流を黒鉛と共にプロセスチャンバー5に投入することで、劈開プロセスを生じさせることができ、黒鉛を劈開させ微粒子化されたグラフェン粉体を得ることができる。
【0071】
このような劈開プロセスを所定時間行い、所定時間経過後劈開プロセスを終了し、
図1に示す集塵器6aを起動させて、劈開され微粒子化されたグラフェン粉体7を出力部11から出力させ、集塵器6aにてグラフェン粉体7を分離・捕集する。集塵器6aでは、所定の粒子サイズの薄片化されたグラフェン粉体7より大きい粒子サイズのものを取り除くようにしてもよい。製造されたグラフェン粉体7は、出力タンク6bにて保持され、必要なときに出力される。また、出力タンク6bから出力されるグラフェン粉体7を、劈開状況によりパイプ19を介して再度原料タンク2に投入し、プロセスチャンバー5内へグラフェン粉体7を入力することで劈開プロセスを繰り返してもよい。このように、パイプ19を介して原料タンク2にループさせることで、グラフェン粉体7の劈開プロセスを複数回施すことができる。このような処理によりグラフェン粉体7の製造が完了する。また、集塵器6aにおいて、所定の粒子サイズより大きい粒子サイズのものを取り除いた場合には、この大きい粒子サイズのものだけ再度劈開プロセスを経るようにループさせてもよい。
【0072】
以上説明したような工程の製造方法により、黒鉛が劈開し、劈開され微粒子化されたグラフェン粉体7を製造することができる。グラフェン粉体の製造装置1では、原料3と、気体噴流とを異なる入力手段より入力しているが、原料3をコンプレッサー4に入力し、空気またはガスと原料3とを混合し、原料3が混合された気体噴流を、1または複数の入力手段より入力するようにしてもよい。
【0073】
つぎに、噴流として気体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置の他の例を、
図3を参照して説明する。
図3に、実施例におけるグラフェン粉体の製造装置の第2の構成図を示している。
図3においては、
図1に示すグラフェン粉体の製造装置1の構成に加えて、劈開後の後処理を追加したグラフェン粉体の製造装置20を示している。グラフェン粉体の製造装置20では、後処理として、大気プラズマにより、グラフェンの品質を改質する場合を示している。
図3において、
図1に示す符号と同じ符号は、同じ構成を示している。同じ構成については、上述したとおりである。ここでは、追加した後処理について説明する。
【0074】
図3において、グラフェン粉体の製造装置20は、上記グラフェン粉体の製造装置1の構成に加えて、プラズマ処理部15と、高圧電源16と、ガスボンベ13とを有する。高圧電源16で高電圧を加えることで、プラズマ処理部15にてプラズマを発生させることができる。プラズマ処理部15では、大気圧プラズマを発生させるようにしてもよいし、真空プラズマを発生させるようにしてもよい。ガスボンベ13は、Ar、N
2、H
2、NH
3、O
2などの雰囲気ガスを出力する。
【0075】
プラズマ処理部15では、プロセスチャンバー5の出力部11から出力されたグラフェン粉体7に対してプラズマを照射し、グラフェンを活性化させる。それとともに、ガスボンベ13から出力されるガスを吹き付け、プラズマ処理部15でプラズマ化させ、グラフェンの端面に官能基を付着させることにより、官能基が付着したグラフェン粉体21を得る。 これにより、改質処理が施され、分散性、導電性、伝導性、絶縁性、放熱性などを付与することができ、グラフェン粉体の品質を向上させることができる。プラズマ処理部15で後処理された官能基が付着したグラフェン粉体21は、パイプ18を通して、集塵器6aにて分離・捕集され、出力タンク6bにて保持され、必要なときに出力される。
【0076】
このように、プラズマ処理を施すことで、官能基を付着させることができる。この場合、雰囲気ガスとしては、Ar、N
2、NH
3、O
2等を用い、グラフェン粉体7に対してプラズマを照射することで、官能基が付着されたグラフェン粉体21となる。
【0077】
図3に示すグラフェン粉体の製造装置20によれば、プラズマ処理部15にて、劈開後のグラフェン粉体7に対して後処理を行うことで、官能基が付着したグラフェン粉体21を製造することができ、グラフェンの品質をさらに向上させることができる。すなわち、分散性、導電性、伝導性、絶縁性、放熱性などの品質を向上させることができる。
【0078】
後処理としては、プラズマ処理の代わりに、紫外線オゾン処理などによる他の改質処理を行うようにしてもよい。
【0079】
つぎに、噴流として液体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置を、
図4を参照して説明する。
【0080】
図4は、実施例におけるグラフェン粉体の製造装置の第3の構成図を示している。
【0081】
図4において、グラフェン粉体の製造装置30は、噴流出力手段となる超高圧ポンプ34と、密閉された空間を備えるチャンバーであるプロセスチャンバー49とを少なくとも有し、プロセスチャンバー49は、超高圧ポンプ34により出力された黒鉛、グラファイトなどと液体とを含む原料33の液体噴流とを入力する入力部39と、プロセスチャンバー49内で黒鉛が液体噴流により劈開されることで生じる微粒子化されたグラフェン粉体を出力する出力部41とを備える。また、グラフェン粉体の製造装置30は、黒鉛、グラファイトなどと液体とが投入され、これらを保持する原料タンク32と、図示しない出力タンクとを備えることができる。
【0082】
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30においては、原料33は、天然のグラファイトやグラファイト粉末と、水または有機溶媒などの液体とが混合されたものを利用する。天然のグラファイトやグラファイト粉末と、水または有機溶媒などの液体とが、ともに原料タンク32に投入されると、スラリー状の原料33となる。すなわち、原料の黒鉛が液体の中に懸濁し、流動体の状態の原料となる。スラリー状の原料33は、原料タンク32からパイプ38を介して超高圧ポンプ34へ入力される。液体としては、水、有機溶媒など、例えば、アルコール系溶媒(エタノール、イソプロパノール、イソブタノール等)または、ケトン系溶媒(メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、ジエチルケトン等)または、エーテル系溶媒(ジブチルエーテル、ジオキサン、ジメチルスルホキシド等)を利用することができる。水を使用すると、修飾されない純粋なグラフェン粉体を製造することができ、有機溶媒を使用すると、官能基が付与され、機能化されたグラフェン粉体を製造することができる。
【0083】
噴流出力手段となる超高圧ポンプ34は、液体の圧力を高め、加圧することで連続的に送り出す装置であり、従来からある通常の超高圧ポンプを利用することができる。超高圧ポンプ34は、スラリー状の原料33に含まれる液体に圧力をかけることで超高速ジェットの液体噴流をパイプ36及び37の2方向に出力する。超高圧ポンプ34の噴流の吐出圧力としては、約10〜500MPaぐらいに設定され、噴流ノズル径としては、直径0.1〜1mmぐらいに設定される。これにより液体噴流は、100〜1000m/sの範囲内の速度で出力される。
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30においては、黒鉛、グラファイトなどと液体とを含むスラリー状の原料33が超高圧ポンプ34に入力され、スラリー状の原料33が液体噴流として超高圧ポンプ34から出力される。
【0084】
プロセスチャンバー49は、図示しないバルブにより大気を遮断し、プロセスに応じて高真空/内部雰囲気を保持する装置であり、従来からある通常の方形のプロセスチャンバーを利用することができる。プロセスチャンバー49は、この例においては、液体で充填されている。プロセスチャンバー49の入力部39は、パイプ36、37を介して超高速ジェットのスラリー状の原料33の液体噴流42、43を2方向からそれぞれ入力するものであり、第1入力手段39a及び第2入力手段39bを備える。第1入力手段39a及び第2入力手段39bは、ノズルで構成される。本実施例においては、入力部39を2つ備える場合を例にし、第1入力手段39aと、第2入力手段39bとの入力方向を互いに対向させるように設定している。この場合、直方体のプロセスチャンバー49の対向する面に、第1入力手段39aと第2入力手段39bとをそれぞれ設けている。また、1組の第1入力手段39a及び第2入力手段39bを、複数組設けるようにしてもよい。また、入力部39は、第1入力手段39a及び第2入力手段39bにおけるプロセスチャンバー49内への入力方向をそれぞれ調整する図示しない調整手段を有するようにしてもよい。調整手段により、第1入力手段39a及び第2入力手段39bから入力される液体噴流体42、43のプロセスチャンバー49内への入力方向をそれぞれ調整することができる。調整手段は、例えば、二つの入力手段の入力方向を互いに対向させるように設定してもよいし、プロセスチャンバー49の壁面の特定位置へ向くように設定できる。プロセスチャンバー49内では、原料33の液体噴流42、43を互いに衝突させることで直接黒鉛を劈開させている。もしくは、原料33を含む液体噴流をプロセスチャンバー49の内壁に衝突させることにより黒鉛を劈開させるようにしてもよい。プロセスチャンバー49は、黒鉛が劈開されて微粒子化されたグラフェン粉体40と液体とを出力部41より出力する。また、出力部41から出力されるグラフェン粉体40は、劈開状況によりパイプ44を介して再度原料タンク32に投入され、劈開プロセスが繰り返されるようにできる。
【0085】
図示しない出力タンクを備える場合、プロセスチャンバー49の出力部41から出力されるグラフェン粉体40と液体とを保持して出力する。また、劈開後、出力部41から出力されるグラフェン粉体40及び液体に乾燥工程を施すことで、液体を取り除き、グラフェン粉体40のみを取り出すようにしてもよい。また、液体が目的の有機溶媒の場合は、乾燥工程を施すことなく、有機溶媒に含まれるグラフェン粉体40をそのまま使用することができる。なお、原料タンク32に混合される液体と、プロセスチャンバー49に充填される液体とは、同一の液体を利用してもよいし、異なる液体としてもよい。
【0086】
つぎに、本実施例におけるグラフェン粉体の製造方法の一例を、
図4を参照して説明する。まず、プロセスチャンバー49内部に液体として例えば水を充填し、プロセスチャンバー49を起動させる。また、超高圧ポンプ34を起動させる。つぎに、原料タンク32に、グラファイト粉末の原料33と水を投入し、パイプ38を介して、超高圧ポンプ34内へスラリー状の原料33を入力する。超高圧ポンプ34では、スラリー状の原料33に加圧し、300m/sの速度で超高速ジェットの液体噴流をパイプ36,37に出力し、プロセスチャンバー49の第1入力手段39a及び第2入力手段39bから液体噴流42、43を入力させる。プロセスチャンバー49では、第1入力手段39aと第2入力手段39bとが互いに対向する位置に配置されており、スラリー状の原料33は、液体噴流42、43として互いに衝突することで、黒鉛を劈開させる劈開プロセスが行われる。プロセスチャンバー49内では、調整手段により第1入力手段39aと第2入力手段39bにおけるプロセスチャンバー49内への入力方向を調整し、液体噴流42と、液体噴流43とを衝突させる。もしくは、液体噴流42と、液体噴流43とをそれぞれプロセスチャンバー49の内壁にそれぞれ衝突させるように調整してもよい。
【0087】
ここで、劈開プロセスについて、
図5(a)及び(b)を参照して説明する。
図5(a)及び(b)は、
図4に示す実施例におけるグラフェン粉体の劈開を説明するための説明図を示している。水が充填されているプロセスチャンバー49内に、スラリー状の原料33は、第1入力手段39aと第2入力手段39bとの2方向から入力され、液体噴流42、43として互いに衝突することで、黒鉛の層間にスラリー状の原料33を含む液体噴流42、43が侵入し、黒鉛を劈開させることできる。また、スラリー状の原料33の黒鉛が液体噴流に乗って黒鉛同士が衝突することにより黒鉛の層間に他の黒鉛の層が侵入することで、劈開させることができる。さらに、スラリー状の原料33の黒鉛が液体噴流に乗ってプロセスチャンバー49の内壁に衝突することにより劈開させることができる。グラフェンの場合、劈開しやすい性質を有していることから、面に対して平行に簡単に割れるが、液体噴流42、43の速度は、上述した気体の場合と同様に、100〜1000m/sの範囲内とすることが望ましい。100m/s未満であると、噴流の勢いが足りず劈開しにくく、また、1000m/sより速い速度であると、最適なサイズの微粒子に制御しにくくなり、またグラフェンの結晶に孔が生じてしまい、グラフェンの品質を高品質に保つことが難しくなる。100〜1000m/sのいずれかの速度で噴流を黒鉛と共にプロセスチャンバー49に投入することで、劈開プロセスを生じさせることができ、黒鉛を劈開させ微粒子化されたグラフェン粉体を得ることができる。
【0088】
このような劈開プロセスを所定時間行い、所定時間経過後劈開プロセスを終了し、製造されたグラフェン粉体40が水と共に、出力部41より出力される。また、出力されるグラフェン粉体40と水とを、劈開状況によりパイプ44を介して再度原料タンク32に投入し、プロセスチャンバー49内へグラフェン粉体40と水を入力することで劈開プロセスを繰り返してもよい。このように、パイプ44を介して原料タンク32にループさせることで、グラフェン粉体40の劈開プロセスを複数回施すことができる。このような処理によりグラフェン粉体40の製造が完了する。この場合、出力部41よりグラフェン粉体40と水とが出力されるため、さらに、乾燥工程を施すことができる。乾燥工程において水を蒸発させることで、水を取り除き、グラフェン粉体40のみを取り出すことができる。
【0089】
以上説明したような工程の製造方法により、黒鉛が劈開し、劈開され微粒子化されたグラフェン粉体40を製造することができる。
【0090】
つぎに、噴流として液体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置の他の構成を、
図6を参照して説明する。
【0091】
図6は、実施例におけるグラフェン粉体の製造装置の第4の構成図を示している。
図6においては、
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30と同様に、液体を用いる場合を示し、
図4に示す符号と同じ符号は、同じ構成を示している。同じ構成については、上述したとおりである。
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30では、2方向から同じスラリー状の原料33をプロセスチャンバー49に入力していたのに対し、
図6に示すグラフェン粉体の製造装置50では、スラリー状の原料33と、液体のみの液体噴流とを2方向からプロセスチャンバー49に入力する場合を例にしている。ここでは、
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30と異なる部分について説明する。
【0092】
図6に示すグラフェン粉体の製造装置50では、原料タンク32のスラリー状の原料33は、超高圧ポンプ34へ入力されず、また、超高圧ポンプ34では、液体のみを加圧することで液体噴流をパイプ55及び56の2方向に出力する。超高圧ポンプ34からの出力される液体のみの液体噴流は、パイプ55を介してプロセスチャンバー49の第1入力手段39aより入力される。また、原料タンク32のスラリー状の原料33は、パイプ38における合流地点51にて、超高圧ポンプ34からの液体噴流と混合され、プロセスチャンバー49の第2入力手段39bより入力される。プロセスチャンバー49では、スラリー状の原料33を含む液体噴流52と、液体のみの液体噴流53とが互いに衝突することで、黒鉛を劈開させる劈開プロセスが行われる。
【0093】
ここで、劈開プロセスについて、
図7(a)及び(b)を参照して説明する。
図7(a)及び(b)は、
図6に示す実施例におけるグラフェン粉体の劈開を説明するための説明図を示している。液体が充填されているプロセスチャンバー49内に、スラリー状の原料33が第2入力手段39bから入力され、液体のみの液体噴流が第1入力手段39aから入力され、スラリー状の原料33と、液体噴流53とが互いに衝突することで、黒鉛の層間に液体噴流53が侵入し、黒鉛を劈開させることできる。液体噴流52、53の速度は、上述した例と同様にできる。このように処理した場合にも劈開プロセスを生じさせることができ、黒鉛を劈開させ微粒子化されたグラフェン粉体54を得ることができる。この場合にも、劈開後は、上述した
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30における処理と同様に、乾燥工程や原料タンク32にループさせる工程を施すことができる。
【0094】
以上説明したような工程の製造方法により、黒鉛が劈開し、劈開され微粒子化されたグラフェン粉体54を製造することができる。また、
図6に示すグラフェン粉体の製造装置50では、プロセスチャンバー49の第2入力手段39bより入力されるスラリー状の原料33は、超高圧ポンプ34からの液体噴流と混合されるように構成しているが、液体噴流と混合せずに、スラリー状の原料33のみを第2入力手段39bより入力するようにしてもよい。この場合にも、第2入力手段39bより入力されたスラリー状の原料33の黒鉛が、他の入力手段である第1入力手段39aより入力される液体噴流により劈開され、微粒子化されたグラフェン粉体54を製造することができる。
【0095】
つぎに、噴流として液体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置の他の構成を、
図8を参照して説明する。
【0096】
図8は、実施例におけるグラフェン粉体の製造装置の第5の構成図を示している。
図8においては、
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30と同様に、液体を用いる場合を示し、
図4に示す符号と同じ符号は、同じ構成を示している。同じ構成については、上述したとおりである。
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30では、2方向から同じスラリー状の原料33をプロセスチャンバー49に入力していたのに対し、
図6に示すグラフェン粉体の製造装置50では、スラリー状の原料33の液体噴流を1方向からプロセスチャンバー66に入力する場合を例にしている。ここでは、
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30と異なる部分について説明する。
【0097】
図8に示すグラフェン粉体の製造装置60では、原料タンク32のスラリー状の原料33は、超高圧ポンプ34へ入力され、超高圧ポンプ34で加圧され、液体噴流としてパイプ36を介して、プロセスチャンバー66の第1入力手段67aより入力される。プロセスチャンバー66では、スラリー状の原料33を含む液体噴流61が第1入力手段67aより入力されると、キャビテーション効果が生じ、これにより黒鉛を劈開させる劈開プロセスが行われる。液体中に液体噴流61を流入させることで、圧力差が生じ、キャビテーション効果により発生した泡65が黒鉛の劈開面に侵入することで黒鉛を劈開させたり、また、その泡65の消滅により黒鉛を劈開させたりできる。
【0098】
ここで、劈開プロセスについて、
図9(a)及び(b)を参照して説明する。
図9(a)及び(b)は、
図8に示す実施例におけるグラフェン粉体の劈開を説明するための説明図を示している。液体が充填されているプロセスチャンバー66内に、スラリー状の原料33が第1入力手段67aから入力されると、プロセスチャンバー66内の液体の流れ62の中で圧力差によりキャビテーション効果が生じ、短時間に泡65の発生と消滅が起きる。発生した泡65が黒鉛の劈開面に侵入することで黒鉛を劈開させたり、また、その泡65の消滅により黒鉛を劈開させたりできる。液体噴流61の速度は、上述した例と同様にできる。このように処理した場合にも劈開プロセスを生じさせることができ、黒鉛を劈開させ微粒子化されたグラフェン粉体64を得ることができる。この場合にも、劈開後は、上述した
図4に示すグラフェン粉体の製造装置30における処理と同様に、乾燥工程や原料タンク32にループさせる工程を施すことができる。
【0099】
以上説明したような工程の製造方法により、黒鉛が劈開し、劈開され微粒子化されたグラフェン粉体64を製造することができる。また、
図8に示すグラフェン粉体の製造装置60において、プロセスチャンバー66内に液体を充填せずに、プロセスチャンバー66内に気体を充填しておくかまたは真空状態としておき、スラリー状の原料33を第1入力手段67aから入力し、プロセスチャンバー66内の壁面にスラリー状の原料33を直接衝突させるようにして黒鉛を劈開させてもよい。このような構成によっても、劈開され微粒子化されたグラフェン粉体を製造することができる。
【0100】
上述した5つのグラフェン粉体の製造装置により、本発明におけるグラフェン粉体を製造することができる。また、上述した5つの構成のうち複数を組み合わせて2段階の劈開プロセスまたはそれ以上の劈開プロセスを施すようにしてもよい。例えば、グラフェン粉体の製造装置30の劈開プロセスを経た後に製造されたグラフェン粉体40を、グラフェン粉体の製造装置50の原料タンク32に投入し、グラフェン粉体の製造装置50の劈開プロセスを施すことで、2段階の劈開プロセスを施すことができる。この場合、原料タンクにループさせて同一のグラフェン粉体の製造装置により複数回の劈開プロセスを経る工程を設ける代わりに、他のグラフェン粉体の製造装置へ移行していくようにもよいし、原料タンクにループさせて複数回の劈開プロセスを経る工程に加えて、他のグラフェン粉体の製造装置による劈開プロセスを加えてもよい。
【0101】
また、上記実施例において、各グラフェン粉体の製造装置に原料を投入する前に、グラフェンの結合力を弱める前処理を施すようにしてもよい。前処理としては、例えば、黒鉛を含む原料を投入した真空炉にて減圧させることで雰囲気中の圧力を低減させる減圧処理を施したり、また黒鉛を含む原料を投入した真空炉にて加熱する加熱処理を施したり、低濃度の酸性またはアルカリ性溶媒に浸漬させる溶媒浸漬処理を施したり、超音波による振動を与える振動処理を施したりできる。これらの前処理は、複数適宜組み合わせてもよい。黒鉛を含む原料に対して、グラフェンの結合力を弱める前処理を施すことで、より黒鉛を劈開させやすくすることができる。また、液体と原料とを混合させてスラリー状にする場合には、グラファイトを粉砕させたグラファイトの粉体を超音波等で振動を与えて分散させることで、液体に溶かし込むようにしてもよい。これにより、液体中に一様にグラファイトの粉体を分散させることができる。超音波等で振動を与える振動処理を施すことで、キャビテーション効果が生じ、原料待機中に大まかな劈開を行うことが可能になり、噴流された際により劈開しやすくなる。また、この前処理は、各グラフェン粉体の製造装置にて行うようにしてもよいし、各グラフェン粉体の製造装置で行わずに、他の装置において行ってもよい。この前処理を、各グラフェン粉体の製造装置にて行う場合には、原料待機中に前処理を施すことにより効率的にグラフェンを製造することができる。
【0102】
前処理として、超音波等で振動を与える振動処理を施す場合には、
図4に示すように、原料タンク32の内部または外部に超音波振動子45を追加することで対応できる。この場合、原料タンク32に、液体とグラファイト粉末とが混合された原料33を投入し、超音波振動子45により超音波で振動させる。これにより、液体と原料33とが混合されるとともに、原料33の黒鉛に対してキャビテーション効果が生じ、黒鉛が劈開される。音波振動子45による超音波の振動処理を、原料投入時だけでなく、原料33がパイプ38を介してプロセスチャンバー49へ出力されているときにも施すことで、出力待機中に大まかに劈開を行うことができる。これにより、噴流された際により黒鉛がより劈開しやすくなる。他のグラフェン粉体の製造装置50、60においても、同様に、原料タンク32の内部または外部に超音波振動子45を追加することで、超音波振動子45による超音波の振動処理を施すことができる。また、グラフェン粉体の製造装置1、20の場合には、先に、液体中に黒鉛を混合させておき、超音波振動子45による超音波の振動処理を施した後に、液体を乾燥させる乾燥工程を経て、乾燥されたグラフェン粉体を利用することで、大まかに黒鉛を劈開させておくことができる。このように前処理を施すことで、噴流された際により黒鉛がより劈開しやすくなる。
【0103】
また、上記各グラフェン粉体の製造装置において、上述した劈開後の後処理として、大気圧プラズマ処理、紫外線オゾン処理、真空プラズマ処理のいずれかの処理を施すようにしてもよい。また、劈開後の後処理として、グラフェン粉体を、水、溶媒、樹脂またはイオン液体のいずれかに混合させてもよい。
【0104】
また、上述したように形成されたグラフェン粉体7、21または乾燥されたグラフェン粉体40、54、64を出荷する際には、真空状態、または窒素やアルゴンなどの不活性ガスを充填しておくことで、グラフェンの酸化を防止することができる。グラフェン粉体を梱包する梱包袋としては、ガスバリア性(水分、酸素等を遮断する機能)、遮光性(可視光線、紫外線等を遮断する機能)等を備えることが望ましい。また、グラフェン粉体と、溶媒等の液体とが混合されている場合には、グラフェン粉体が含まれる液体をそのままにして出荷してもよい。さらに、グラフェン粉体を樹脂、ゴム等に混合させてペレット化し、マスターバッチにして出荷してもよい。
【0105】
以下、このペレット化してマスターバッチにする場合の製造方法及び製造装置、それにより得られる製品について説明する。まず、グラフェン粉体を樹脂、ゴム等に混合させてペレット化してマスターバッチにする場合の製造方法及び製造装置について
図10を参照して説明する。ここで、マスターバッチとは、染料や顔料、機能材料を高濃度化させて、樹脂ベースに添加した、ペレット状の物をいう。ペレット状にすることで、原料に均一に混ぜやすいほか、設備が汚れない、舞い上がらない、保管しやすい、軽量しやすくなど、グラフェン粉体が扱いやすくなる。
【0106】
図10に、実施例におけるグラフェン粉体を樹脂、ゴム等に混合させてペレット化してマスターバッチにする製造装置と、そのマスターバッチを用いて樹脂製品を製造する製造装置の第1の構成図を示している。
図10の上段側は、グラフェン粉体を樹脂、ゴム等に混合させてペレット化してマスターバッチにするペレット製造装置70を示し、
図10の下段側はそのマスターバッチを用いて樹脂・ゴム製品を製造する製品製造装置88を示している。
図10の上段側においては、上述した噴流として気体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置1、20により製造されたグラフェン粉体7、21と、噴流として液体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置30、50、60により製造されたグラフェン粉体40、54、64とのうちのいずれかを用いて、樹脂、ゴム等に混合させてペレット化してマスターバッチにする場合を示している。なお、
図10においては説明のために、上述した噴流として気体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置1、20により製造されたグラフェン粉体7、21と、噴流として液体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置30、50、60により製造されたグラフェン粉体40、54、64とについて、全て図示しているが、少なくとも一つのグラフェン粉体の製造装置とそれにより製造されたグラフェン粉体を用いて樹脂、ゴム等に混合させてペレット化してマスターバッチにすることができる。樹脂・ゴムとしては、熱可塑性樹脂、熱/UV硬化性樹脂、天然/合成ゴムなどを利用することができる。例えば、熱可塑性樹脂としては、ABS、PC(ポリカーボネイト)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテフタレート)、PS(ポリスチレン)、PA(ナイロン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリ塩化ビニリデン、PMMA(アクリル)、PTFE(テフロン(登録商標))、ポリアセタール、フッ素樹脂などがある。また、熱/UV硬化性樹脂としては、EP(エポキシ)、MF(メラミン)、PUR(ポリウレタン)、PI(ポリイミド)等がある。また、天然/合成ゴムとしては、NBR(ニトリルゴム)、ACM(アクリルゴム)、U(ウレタンゴム)、Q(シリコーンゴム)がある。
【0107】
図10の上段側のペレット製造装置70は、樹脂やゴム等に、添加物を添加して射出成形によりペレット化してマスターバッチにする従来からある射出成形機を利用できる。ペレット製造装置70は、原料の樹脂またはゴムを投入する原料ホッパー74と、原料とグラフェン粉体とを投入して混合する混合ホッパー75と、混合された原料とグラフェン粉体とをペレット状に射出成形する射出成形部87と、成形されたペレットを保持する保持部84とを備える。原料ホッパー74には、樹脂またはゴムなどの原料が投入される。混合ホッパー75には、噴流として気体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置1または20により製造されたグラフェン粉体7または21と、原料ホッパー74の原料とが投入され、これらを混合してグラフェン粉体が添加された材料とする。射出成形部87では、グラフェン粉体が添加された材料を加熱溶融させ、図示しないスクリューによりペレットの金型内へ射出し、成形し、保持部84に出力する。保持部84には、グラフェン粉体が添加された樹脂から製造されたマスターバッチ85が保持される。
【0108】
このように、本実施例におけるグラフェン粉体を利用してマスターバッチ85を製造することで、グラフェンを樹脂・ゴム中に分散させやすくなり、また、樹脂・ゴム等の原料に対してグラフェン粉体の重量による混合比率も50%以上にすることができる。
【0109】
また、噴流として液体を利用する場合のグラフェン粉体の製造装置30、50、60により製造されたグラフェン粉体40、54、64を利用する場合には、乾燥部72において、液体に含まれるグラフェン粉体40、54、64を乾燥させ、液体を取り除き、液体を含まないグラフェン粉体とした後に、ペレット製造装置70の混合ホッパー75に投入させれば、その後は、上述した射出成形方法によりグラフェン粉体が添加されたペレットを製造することができる。
【0110】
さらに、この製造されたマスターバッチ85を利用することで、様々な樹脂製品またはゴム製品を製造することができる。
図13に、実施例におけるグラフェン粉体が添加されたマスターバッチにより製品を製造する工程を示す説明図を示す。上述したように、ペレット製造装置70にて本実施例におけるグラフェン粉体を利用してマスターバッチ85を製造し、さらに、樹脂またはゴムなどの各種製品の原料86と、マスターバッチ85とを混合して成形する(成形工程90)ことで、色つきの成形品92を製造することができる。
【0111】
この成形工程90における製品製造装置を、
図10の下段側に示している。
図10の下段側には、各種製品の原料86と、マスターバッチ85とを混合して、樹脂製品またはゴム製品を製造する製品製造装置88を示している。製品製造装置88は、樹脂やゴム等から射出成形により製品を成形する従来からある射出成形機を利用できる。製品製造装置88は、原料86の樹脂またはゴムを投入する原料ホッパー79と、原料86とマスターバッチ85とを投入して混合する混合ホッパー80と、混合された原料とマスターバッチ85と溶融して射出する射出成形部81と、各種製品の金型82とを備える。原料ホッパー79には、樹脂またはゴムなどの各種製品の原料86が投入される。混合ホッパー80には、原料86と、マスターバッチ85とが投入されて混合され、グラフェン粉体が添加された材料となる。射出成形部81では、グラフェン粉体が添加された材料を加熱溶融させ、図示しないスクリューにより製品の金型内へ射出し、成形する。成形後、取り出すことで製品83ができあがる。各種製品の原料となる樹脂・ゴムとしては、熱可塑性樹脂、熱/UV硬化性樹脂、天然/合成ゴムなどを利用することができる。例えば、熱可塑性樹脂としては、ABS、PC(ポリカーボネイト)、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PET(ポリエチレンテフタレート)、PS(ポリスチレン)、PA(ナイロン)、PVC(ポリ塩化ビニル)、ポリ塩化ビニリデン、PMMA(アクリル)、PTFE(テフロン(登録商標))、ポリアセタール、フッ素樹脂などがある。また、熱/UV硬化性樹脂としては、EP(エポキシ)、MF(メラミン)、PUR(ポリウレタン)、PI(ポリイミド)等がある。また、天然/合成ゴムとしては、NBR(ニトリルゴム)、ACM(アクリルゴム)、U(ウレタンゴム)、Q(シリコーンゴム)がある。また、各種製品としては、プラスチック製品、ゴム製品など、様々な製品に適用でき、各種製品にグラフェン粉体を添加させることができる。
【0112】
また、
図11に示すように、実施例におけるグラフェン粉体7、21、40、54、64を、各種製品の原料86と直接混合して、各種製品を製造するようにしてもよい。
図11において、
図10に示す符号と同じ符号は、同じ構成を示し、
図10と同様に射出成形を行い、製品を製造している工程を示している。
【0113】
以上、説明したように、樹脂やゴム製品を製造する際に、本実施例におけるグラフェン粉体を樹脂やゴムに添加させることで、製品の引張強度が向上し、導電性を付与することができ、熱伝導性を付与することができ、ガスが通りにくくなるため、素体よりもガスバリア性を高くすることができる。本実施例におけるグラフェン粉体を利用することで、引張強度が向上するのは、複数の薄片状のグラフェン粉体が重なり合うことで、表面にしわができ、このしわと樹脂とが結合性を高め、複合界面の滑りを阻止し、密度を上昇させることによる。また、多くの樹脂は絶縁であるが、本実施例におけるグラフェン粉体を添加すると、そのグラフェン粉体が有する導電性により、樹脂に導電性を付与し、樹脂を導電化することができる。また、導電性が付与されることで、帯電防止や電磁シールド等の効果も生じる。熱伝導性化についても、導電化と同じく、本実施例におけるグラフェン粉体を添加すると熱伝導性を付与できる。このため、放熱の機能を付与することができるので、例えば、情報処理装置などの筐体他あらゆるところの製品に利用することができる。また、本実施例によるグラフェン粉体が樹脂中に分散されるため、ガスが通りにくくなるため、素体よりもガスバリア性が高くなる。このため、食品や医薬品等の袋は現在多重構造になっており複雑だが、本実施例におけるグラフェン粉体を利用する場合は樹脂内に混入するだけでよいため、製造プロセスの単純化が図れる。また、本実施例におけるグラフェン粉体によれば、高分散量を実現できるので、本実施例におけるグラフェン粉体を利用することで、グラフェンを樹脂・ゴム中に分散させやすくなり、また、樹脂・ゴム等の原料に対してグラフェン粉体の重量による混合比率も10%以下でも効果を得ることができる。本実施例によるグラフェン粉体を添加した樹脂を利用することで、導電性、伝熱性、透明性、耐食性、ガスバリア性に優れた樹脂製品とすることができる。
【0114】
また、製品の成形方法としては、上述した射出成形以外の製造方法であってもよい。例えば、ブロー成形、真空成形、発砲成形、重合成形(加熱、UV(紫外線)、EB(電子線)等)等により製造してもよい。これらの成形方法で成形する際に、グラフェン粉体を原料に混入して添加して成形すれば、グラフェン粉体を適用した製品を成形することができる。また、樹脂やゴムを原料とするものだけでなく、例えば、焼結前のセラミックス素材(グリーンシート等)、鉄系(フェライト等)、カーボン系、セラミックス系、その他様々な粉体系による成形物、低融点ガラス等を利用できる。
【0115】
また、本実施例におけるグラフェン粉体は、樹脂やゴム製品に限らず、他の様々な製品を製造する際に混合して添加したり、製造後の製品に添加したりできる。本実施例におけるグラフェン粉体を利用することで、高純度で品質の良い微粒子化された高分散量を実現できるグラフェンを各種工業製品や電子機器等の製品及び部品に利用することができる。このグラフェン粉体は、導電性、伝熱性、透明性、電極防食性に優れ、フレキシブルであるため、どのような製品にも混入させることができ、また、分散しやすいため、一様にグラフェン粉体を分散させることができる。例えば、
図16及び
図17に示すような製品へ利用することができる。
【0116】
図16及び
図17には、実施例におけるグラフェン粉体を適用した各種製品とその効能を示している。
図16及び
図17に示すように、電子部品・デバイス・電子回路、電子機械器具、家庭用電気部品、自動車部品、機械部品、電気部品、窯業・土石製品、パルプ・紙・紙加工品・木材、化学工業製品、石油製品・石炭製品、プラスチック製品、ゴム製品等のあらゆる製品に適用することができる。
【0117】
電子部品・デバイス・電子回路、電子機械器具としては、例えば、グラフェン粉体を溶媒に分散させることで、液晶パネル・フラットパネル、透明電極/非透明電極、タッチパネル、抵抗器・コンデンサ・変成器・複合部品、電気二重層コンデンサの電極材料、蓄電池、一次/二次電池の電極材、リチウムイオン電池の電極材、発電機・電動機・回転電気機械、燃料電池の触媒の基板、電気機械器具、色素増感太陽電池、フレキシブル基板、電子タグ、センサー及びセンサーユニットなどに利用できる。このグラフェン粉体を利用することで、導電性、伝熱性、透明性、電極防食性等に優れた製品とすることができる。また、導電性のあるグラフェン粉体を一様に分散させることができるため、これらの製品の表面積を小さくすることが可能となり、また、柔軟性があるため、フレキシブルな製品にも添加することができる。
【0118】
また、本実施例におけるグラフェン粉体を各製品の原料に添加することで、窯業・土石製品、パルプ・紙・紙加工品・木材、化学工業製品、石油製品・石炭製品、プラスチック製品、ゴム製品等としては、例えば、セメント、生コンクリート、コンクリート製品、電気用陶磁器、理化学用・工業用陶磁器、炭素質電極、炭素・黒鉛製品、人工骨、石膏製品、石膏ボード、プラスチック、合成ゴム、塗料、印刷インキ、プリンテッドエレクトロニクス、ゼラチン・接着剤、油、潤滑油・グリース、パイプ、建材、食品用ラップ、医療用ラップ、台所用品、玩具、情報処理装置の筐体、家電製品、飲料ペットボトル、機械部品、工業用接着剤、放熱グリス、包材、エンジニアプラスチック、家具、タイヤ、医療用ゴム、耐熱ガスケット、防振ゴム、ゴム製品のいずれかの製品に用いることができる。このグラフェン粉体を利用することで、導電性、伝熱性、透明性、耐食性、ガスバリア性に優れた製品とすることができる。
【0119】
また、本実施例におけるグラフェン粉体をPZC(Point of zero charge)により、液中に分散させることができる。例えば、PZCによりインクにグラフェン粉体を分散させることでグラフェン粉体が含まれるインク(グラフェンインク)とすることができる。また、他の溶液中や、樹脂分散体にPZCによりグラフェン粉体を分散させることでグラフェン粉体が含まれる溶液(グラフェン溶液)や、グラフェン粉体が含まれる樹脂分散体(グラフェン樹脂分散体)を、グラフェン粉体を用いた製品として製造することができる。
【0120】
PZCとは、Z(ゼータ)電位、等電点と呼ばれている現象をいい、液中に分散した物質の電位の均衡をとるようにすることで、分散させることをいう。例えば、液中のペーハー(ph)を調整することにより、この電位の均衡をとり、グラフェン粉体を液中に分散させることができる。このように製造されたグラフェンインク、グラフェン溶液、グラフェン樹脂分散体は、通常のインク、溶液、樹脂分散体と同様に扱うことができ、これらを用いて各製品をさらに製造することができる。このように製造されたグラフェンインク、グラフェン溶液、グラフェン樹脂分散体は、グラフェンが添加されていることで、導電性を備えるインク、溶液、樹脂分散体とすることができる。
【0121】
上述した実施例によれば、品質がよく、大量生産することが可能なグラフェン粉体、グラフェン粉体の製造装置、グラフェン粉体の製造方法及びそのグラフェン粉体を用いた製品を実現できる。上述した製造装置により製造されたグラフェン粉体は、黒鉛を含む原料を噴流により劈開させているだけであるので、他の物質に汚染されることがないためコンタミが無く、高純度で品質の良い微粒子化されたグラフェンとなる。二次元的に劈開するため葉っぱのような劈開面を備える薄片状となり、微粒子化することで、黒鉛を最適な粒子サイズとした薄片化されたグラフェン粉体が構成され、薄片化することで、表面積が大きくなることから他との接触面積が大きくなり、伝導性が高くなり、分散性も良好になる。特に、グラフェン粉体が薄片化されていることで、分散性をより高めることができ、高分散量を実現できる。
【0122】
つぎに、上述した
図4に示す本実施例におけるラフェン粉体の製造方法及び製造装置により製造されたグラフェン粉体40を、
図12を参照して説明する。
図12に、
図4に示す本実施例による製造装置により製造されたグラフェン粉体40を、走査型電子顕微鏡(Scanning Electron Microscope:SEM)により観察した画像図を示している。
図12に示すように、グラフェン粉体40は、上面に劈開面が形成され、この例においては、劈開面の長辺方向の長さ(幅)は、約990nmであった。ここで、劈開面の長辺方向の長さとは、劈開面を上方から観測したときの最長部分の幅の大きさをいう。また、このグラフェン粉体40の厚み(劈開面に対して垂直方向)の長さは、一番小さい(薄い)部分で約19.5nmであった。また、一番大きい(厚い)部分で約200nmであった。他のグラフェン粉体40においても、観測したところ、グラフェン粉体40の一番薄い厚みの長さに対して劈開面の長辺の長さが約50倍〜3000倍の範囲で、グラフェン粉体が70%以上を占めて構成されていた。また、グラフェンの層としては、単層〜300層ぐらいが観測された。本実施例による他の製造装置により製造されたグラフェン粉体の一番薄い厚みの長さに対して劈開面の長辺の長さは、30〜10000倍で、グラフェン粉体が70%以上を占めて構成されていることが観測された。また、グラフェンの層としては、単層〜300層ぐらいが観測された。
【0123】
つぎに、上述した本実施例におけるラフェン粉体の製造方法及び製造装置における効果を説明するために、本願における黒鉛の劈開が、粉砕により黒鉛が微粒子化されたものとは異なることを
図14及び
図15を参照して説明する。
図14に、粉砕による微粒子の模式図(a)と、実施例におけるグラフェン粉体の模式図(b)を示し、
図15に、粉砕による微粒子の模式図及び粉砕の様子を示す説明図(a)と、実施例におけるグラフェン粉体の模式図及び劈開の様子を示す説明図(b)を示している。
【0124】
粉砕により微粒子化されたグラフェン100は、
図15(a)に示すように、黒鉛に対して3次元的に破壊されるため、砂のように均等に微粒子化するが、厚み大きくなってしまう。このため、粉砕により微粒子化されたグラフェン100を任意の基材等に添付すると、
図14(a)に示すように、他との接触面積が小さく、また、伝導性も低く、分散しにくく、表面積も小さくなってしまう。これに対して、本実施例によるグラフェン粉体7は、
図15(b)に示すように、劈開プロセスを経ることで、グラファイトの結晶が
六面体の各平面に平行に割れて、劈開されるため、二次元的に劈開し、葉っぱのような劈開面を備える薄片状のグラフェン粉体7になる。このため、
図14(b)に示すように、劈開されたグラフェン粉体7を任意の基材等に添付すると、上述の粉砕されたものと比べて、他との接触面積が大きくなり、また、伝導性も高くなり、分散性が良好となり、表面積も大きくなる。
【0125】
また、従来のグラフェンの製造方法と、本実施例による製造方法との違いを説明する。上記背景技術において述べたように、グラフェンの製造方法としては、超臨界法、超音波剥離法、酸化還元法、プラズマ剥離法、ACCVD(alcohol catalytic chemical vapor deposition)法、熱CVD(chemical vapor deposition)法、プラズマCVD法、エピタキシャル法などが知られている。これらの製造方法では、いずれも原料を大量に高速に処理できないことから、グラフェンを大量生産することが難しく、また、品質についても、結晶性の高い品質のよいものは、価格も高額になる傾向がある。
【0126】
これに対して、本実施例による製造方法及び製造装置によれば、噴流を利用することで黒鉛を劈開させているだけなので、従来の製造方法に比べて、結晶性が高く品質がよく、高速に大量生産することが可能となった。本願発明者が実験を重ねたところ、上述した製造方法によれば、原料を少なくとも1kg/h〜10000kg/hの速度で処理することが可能となった。また、本実施例による製造方法では、原料としては天然黒鉛を利用でき、チャンバーの雰囲気も常温で常圧にすることができ、タイプもウエット・ドライとどちらでも対応でき、結晶性も高く、コンタミがなく、量産性に優れている。
【0127】
以上、本発明の実施例を図面により説明してきたが、具体的な構成はこれら実施例に限られるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲における変更や追加があっても本発明に含まれる。
【0128】
上記
図4に示す本実施例におけるラフェン粉体の製造方法及び製造装置においては、直方体のプロセスチャンバー49の対向する面に、第1入力手段39aと第2入力手段39bとをそれぞれ設ける場合を示したが、例えば、直方体のプロセスチャンバー49の同一面上に第1入力手段39aと第2入力手段39bを設け、プロセスチャンバー49内への入力方向をプロセスチャンバー49内の特定位置へ向くようにしてもよい。例えば、第1入力手段39aの入力方向を斜め下方向に向け、第2入力手段39bの入力方向を斜め上方向に向け、プロセスチャンバー49内の中央部分で液体噴流42、43が衝突するように配置してもよい。