(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5725665
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】モータと減速装置の連結構造
(51)【国際特許分類】
F16D 1/09 20060101AFI20150507BHJP
F16H 1/06 20060101ALI20150507BHJP
F16C 35/073 20060101ALI20150507BHJP
H02K 7/116 20060101ALI20150507BHJP
H02K 7/00 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
F16D1/06 J
F16H1/06
F16C35/073
H02K7/116
H02K7/00 A
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2012-97556(P2012-97556)
(22)【出願日】2012年4月23日
(65)【公開番号】特開2013-224710(P2013-224710A)
(43)【公開日】2013年10月31日
【審査請求日】2014年3月14日
(73)【特許権者】
【識別番号】000150800
【氏名又は名称】株式会社ツバキE&M
(74)【代理人】
【識別番号】230101177
【弁護士】
【氏名又は名称】木下 洋平
(74)【代理人】
【識別番号】100180079
【弁理士】
【氏名又は名称】亀卦川 巧
(72)【発明者】
【氏名】中川 寛之
(72)【発明者】
【氏名】宮古 道雄
【審査官】
堀内 亮吾
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭53−138045(JP,U)
【文献】
特開2003−065349(JP,A)
【文献】
特開2001−090741(JP,A)
【文献】
特開平05−026247(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 1/00− 9/08
F16H 1/00− 1/26
F16H 57/00−57/12
H02K 7/00− 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
モータの出力軸からのトルクを伝達する入力ピニオンが減速装置の入力部に挿入される、モータと減速装置の連結構造において、
前記出力軸が挿入される軸挿入部、前記出力軸が挿入される側の端部から軸方向にスリットを有する筒状部材と、
前記筒状部材を貫通する前記出力軸に設けられ又は前記筒状部材に設けられることにより、前記筒状部材の前記端部の反対側の先に位置する入力ピニオンと、
前記軸挿入部の外周側に締め代をもって嵌め込まれることによって、その内輪の内周面全体で前記筒状部材を前記出力軸に締付ける軸受と、
前記減速装置側に設けられる、前記軸受の外輪が嵌め込まれる軸受受入部とを有することを特徴とする、
モータと減速装置の連結構造。
【請求項2】
前記軸挿入部の外周側に前記軸受の位置固定手段を有する、請求項1のモータと減速装置の連結構造。
【請求項3】
前記軸挿入部の外周面に前記出力軸が挿入される側から先細りになるようにテーパ外周面が設けられ、
前記軸受の内輪の内周面に前記テーパ外周面と対応するテーパ内周面が設けられている、請求項2のモータと減速装置の連結構造。
【請求項4】
前記固定手段がすり割を有する環状部材と、前記すり割を径方向に貫通するボルトとを具える、請求項2又は3のモータと減速装置の連結構造。
【請求項5】
前記軸挿入部の外周面にねじが形成され、
前記固定手段が前記ねじにねじ込まれるナットである、請求項2又は3のモータと減速装置の連結構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、モータと減速装置の連結構造(以下、単に「連結構造」ということがある。)に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、モータには小型化が求められてきたが、近年、さらに、高効率化が求められてきており、我が国においても高効率モータの規格制定、法制化の動きがある。モータを高効率化すると、モータの寸法が大きくなるため、減速装置に連結させるモータを高効率のモータに変更しただけでは、単純に、装置全体の寸法の肥大化を招く。そこで、装置全体の寸法をコンパクトにするためには、高効率且つ小型のモータ、小型の減速装置、又はコンパクトな連結構造が求められる。
モータと減速装置の連結構造にも、これまで改良が施されてきており、そのような連結構造の一例として、以下のようなものがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開2008−180319号公報
【特許文献2】特開2004−364364号公報
【0004】
特許文献1には、モータ軸を軸方向にスリットが形成されているクランプスリーブの一端に挿入し、スリットを径方向に貫通するクランプボルトをクランプスリーブにねじ込むことによって、クランプスリープをモータ軸に締付け、さらに、クランプスリーブの他端には入力ピニオンが取付けられ、モータと減速装置が連結されているときに、クランプスリーブと入力ピニオンのそれぞれが軸受で軸支されるという、モータと減速装置の連結構造が開示されている。
特許文献2には、モータ軸を軸方向にスリットが形成されているクランプスリーブの一端に挿入し、スリットを径方向に貫通するクランプボルトをクランプスリーブにねじ込むことによって、クランプスリープをモータ軸に締付け、さらに、クランプスリーブの他端には入力ピニオンが設けられ、モータと減速装置が連結されているときに、クランプスリーブが軸受で軸支されるという、モータと減速装置の連結構造が開示されている。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1のような連結構造の場合、クランプスリーブと入力ピニオンのそれぞれが軸受で軸支されるという構成であるため、部品点数が多く、また、軸受を2つ要するため、その分寸法が大きくなってしまうという問題がある。
また、特許文献2のような連結構造の場合、特許文献1のような連結構造に比べて、軸受が一つになった分、寸法のコンパクト化を図ることができるが、組立てる際に、クランプボルトをクランプスリーブに締付けなければならず、組立工数が掛かるという問題がある。
また、特許文献1及び2の連結構造の場合、1本のクランプボルトをクランプスリーブにねじ込み、クランプスリーブをモータ軸に締付けるという構成であるため、クランプスリーブに掛かる締付け力が均一にならない。従って、クランプスリーブがモータ軸に均一に密着せず、モータ軸の軸心のぶれが生じ得る。このモータ軸の軸心のぶれは、入力ピニオンの軸心のぶれを引き起こすため問題となる。この点、特許文献1の連結構造の場合、モータ軸、及び入力ピニオンをそれぞれ軸支する軸受によって軸心のぶれを抑制することができるが、特許文献2の連結構造の場合、入力ピニオンを軸支する軸受がなく、軸心のぶれを抑制し難いため、減速機構のギアの反力の影響を受けやすく、軸受の破損や入力ピニオン、又はモータ軸の折損というような問題が生じ得る。
【0006】
そこで、本発明は、前述した従来技術の問題点に鑑み、コンパクトで、組立て易く、軸心のぶれを抑制できるモータと減速装置の連結構造を提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、モータの出力軸からのトルクを伝達する入力ピニオンが減速装置の入力部に挿入される、モータと減速装置の連結構造において、
前記出力軸が挿入される軸挿入部、
前記出力軸が挿入される側の端部から軸方向にスリットを有する筒状部材と、
前記筒状部材を貫通する前記出力軸に設けられ又は前記筒状部材に設けられることにより、前記筒状部材の前記端部の反対側の先に位置する入力ピニオンと、
前記軸挿入部の外周側に締め代をもって嵌め込まれることによって、
その内輪の内周面全体で前記筒状部材を前記出力軸に締付ける軸受と、
前記減速装置側に設けられる、前記軸受の外輪が嵌め込まれる軸受受入部とを有することを特徴とするモータと減速装置の連結構造によって前記課題を解決した。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、軸受を軸挿入部の外周側に締め代をもって嵌め込むことによって、筒状部材を出力軸に締付けるという構成であるため、クランプスリーブに対するクランプボルトによる締付けに比べて、前記筒状部材を軸受の内輪の内周面全体で出力軸に均一に締付けることができるから、軸挿入部が出力軸に均一に密着し、出力軸の軸心のぶれを抑制することができる。また、この構成によれば、従来のような、クランプスリーブにクランプボルトをねじ込むという作業は不要であるため、簡便に組立てることができる。また、軸受は1個で足りるため、連結構造のコンパクト化に資することができる。
【0009】
また、軸挿入部の外周側に、軸受の位置固定手段を有する構成とすれば、軸受が軸挿入部の外周側に締め代をもって嵌め込まれている状態を確実に維持することができる。加えて、軸挿入部の外周面に出力軸が挿入される側から先細りになるようにテーパ外周面が設けられ、軸受の内輪の内周面にテーパ外周面と対応するテーパ内周面が設けられている構成とすれば、軸挿入部の出力軸に対する締付け力を増大させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】本発明の第1実施形態の連結構造を示す縦断面図。
【
図3】本発明の第2実施形態の連結構造を示す縦断面図。
【
図4】本発明の第3実施形態の連結構造の要部を示す図。
【
図5】本発明の第4実施形態の連結構造の要部を示す図。
【
図7】本発明の筒状部材のスリットのバリエーションを示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態を
図1〜7を参照して説明する。但し、本発明はこの実施形態に限定されるものではない。
【0012】
図1は、本発明の第1実施形態の連結構造10を示す縦断面図である。
図1に示すように、モータ20と減速装置30は連結されている状態である。モータ20は出力軸22を有し、減速装置30は、ケース32内部に、減速機構31、シール部材34、入力部36、及び軸受受入部38を有している。筒状部材50は、軸挿入部52を有し、出力軸22が挿入される側の端部から軸方向にスリット56が形成され、また、他方の端部には入力ピニオン54が一体形成されている。モータ20の出力軸22が、軸挿入部52に挿入されている状態で、軸受60が軸挿入部52の外周側に締め代をもって嵌め込まれているため、スリット56が縮小変形し、筒状部材50が出力軸22に締付けられている。このとき、軸受60の内輪の内周面全体で筒状部材50を締付けているから、軸挿入部52が出力軸22に対して均一に密着し、出力軸22の軸心のぶれ、ひいては入力ピニオン54の軸心のぶれを抑制することができる。このように、軸受60が筒状部材50を出力軸22に締付けることができる軸受60の嵌め込み方法としては、圧入法と焼きばめ法とがある。入力ピニオン54は、減速装置30の入力部36に挿入されており、この状態で軸受60は、軸受受入部38に嵌り、筒状部材50を回転可能に軸支することになる。減速装置30内部には、図示しない潤滑油が注入されるが、入力ピニオン54が入力部36に挿入されているときであっても、シール部材34によって密閉性が確保される。
【0013】
次に、
図2は、本発明の連結構造10の組立方法を示している。まず、
図2(a)に示すように、モータの出力軸22を筒状部材50の軸挿入部52に挿入する。次に、
図2(b)に示すように、軸受60を軸挿入部52の外周側に締め代をもって嵌め込む。このとき、筒状部材50のスリット56(
図1参照。)が縮小変形し、筒状部材50が出力軸22に締付けられることになる。そして、
図2(c)に示すように、入力ピニオン54を減速装置の入力部36(
図1参照。)に挿入する。最後に、
図2(d)の状態で、図示しないボルト等によって、モータと減速装置との連結状態を固定する。上記のような方法で、モータと減速装置を簡便に連結させることができるため、作業効率を向上させることができる。
【0014】
次に、
図3は、本発明の第2実施形態の連結構造10aを示す縦断面図である。なお、
図3において、モータの図示は省略している。
図3に示すように、減速装置30には、アダプターブラケット40が図示しないボルトで取付けられている。アダプターブラケット40はシール部材44、及び軸受受入部48を有している。このように、連結装置側に設けられる軸受受入部は、連結構造10のように減速装置30自体に設けられているものに限らず(
図1参照。)、アダプターブラケット40のような、モータと減速装置との連結を仲介する部材に設けられている構成としてもよい。すなわち、本発明において、「減速装置側」とは、減速装置、及び仲介部材を含む。連結構造10aでは、出力軸22が、軸挿入部52に挿入されている状態で、軸受60が軸挿入部52の外周側に締め代をもって嵌め込まれ、さらに、位置固定手段であるカラー62が、軸受60に隣接するように、軸挿入部52の外周側に具えられている。このため、軸受60の位置を確実に固定することができ、また、カラー62自体も筒状部材50を出力軸22に締付けるため、出力軸22に対する締付け力を増大させることができる。なお、位置固定手段としては、軸受の位置を固定できるものであればよく、また、場合によっては、軸受60の両側に設けてもよい。
【0015】
次に、
図4は、本発明の連結構造10aとは別の位置固定手段を具える連結構造10bを表している。
図4(b)に示すように、位置固定手段であるクランプカラー(環状部材)62aが、軸受60に隣接するように、軸挿入部52の外周側に具えられている。クランプカラー62は、すり割62a1を有する環状部材であって、
図4(a)に示す、すり割62a1を径方向に貫通するクランプボルトVがねじ込まれることによって、その内径を縮小させることができるものであり、位置固定手段としてクランプカラー62を具えれば軸受60の位置を確実に固定できるだけでなく、出力軸22に対する締付け力をさらに増大させることができる。
【0016】
図5は、本発明の第4実施形態の連結構造10cの要部を示す図である。
図5に示すように、筒状部材50aの軸挿入部52の外周面には、出力軸22が挿入される側から先細りになるようにテーパ外周面52aが設けられており、また、軸受60aの内輪の内周面には、テーパ外周面52aと対応するテーパ内周面60a1が設けられている。このため、軸受60aを軸挿入部52の外周側に深く嵌め込むほど、出力軸22に対する締付け力が強くなる。なお、軸挿入部52の外周面には、ねじ部52bが設けられ、位置固定手段であるナット62bが軸受60aに隣接するように設けられているため、軸受60aの嵌め込み具合が緩むことはない。また、ナット62bをねじ込むことによって、軸受60aの嵌め込み具合を調整することもできる。
【0017】
図6は、本発明の筒状部材の実施形態を示す図である。
図6(a)に示す、筒状部材50bは、入力ピニオンが軸挿入部52に挿入されるモータの出力軸に直接設けられている場合のものであり、筒状部材50b自体は、入力ピニオンを有していない。また、筒状部材50(
図1参照。)のように、入力ピニオンが一体形成されているものに限らず、
図6(b)に示す筒状部材50cのように、入力ピニオン54aが筒状部材50cに差込まれることによって一体化するようなものであってもよい。
【0018】
最後に、
図7は、本発明の筒状部材に出力軸が挿入される側の端部から軸方向に設けられるスリットのバリエーションを示す図である。
図7(a)に示すような、スリット56を一箇所に有する構成の他、
図7(b)に示すようにスリット56を二箇所有するもの、
図7(c)に示すようにスリット56を三箇所有するものというように、軸受を嵌め込んだ際に、軸挿入部52に挿入される出力軸を締付けることができれば、どのようなスリットでもよい。また、
図7(b)のように、軸挿入部52にキー部52aを設ける構成としてもよい。
【0019】
以上説明したように、本発明の連結構造によれば、軸受を軸挿入部の外周側に締め代をもって嵌め込むことで、筒状部材を出力軸に締付けているため、筒状部材を出力軸に均一に締付けることができ、軸挿入部を出力軸に均一に密着させることができるから、出力軸の軸心のぶれ、ひいては入力ピニオンの軸心のぶれを抑制することができる。また、組立てが簡便で、さらに、軸受が一つで足りるため、コンパクト化にも資することができる。
【符号の説明】
【0020】
10、10a、10b 連結構造
20 モータ
22 出力軸
30 減速装置
36 入力部
38、48 軸受受入部
50 筒状部材
52 軸挿入部
52a テーパ外周面
54 入力ピニオン
56 スリット
60、60a 軸受
60a1 テーパ内周面
62、62a、62b 位置固定手段