(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
従来から、蒸気タービンの一種として、ケーシングと、ケーシングの内部に回転自在に設けられた軸体(ロータ)と、ケーシングの内周部に固定配置された静翼と、この静翼の下流側において軸体に放射状に設けられた動翼とを複数段備えたものが知られている。この蒸気タービンは、作動方式の違いによって、衝動タービンと反動タービンとに大別される。
【0003】
衝動タービンとは、蒸気から受ける衝撃力だけによって動翼が回転するものである。衝動タービンとは、静翼がノズル形状を有し、この静翼を通過した蒸気が動翼に噴射され、蒸気から受ける衝撃力だけによって動翼が回転するものである。
一方、反動タービンは、静翼の形状は動翼と同様であって、この静翼を通過した蒸気から受ける衝撃力と、動翼を通過する際に生じる蒸気の膨張に対する反動力とによって動翼が回転するものである。
【0004】
ところで、このような蒸気タービンでは、動翼の先端部とケーシングとの間に、径方向に所定幅の隙間が形成されており、また静翼の先端部と軸体との間にも、径方向に所定幅の隙間が形成されている。そして、軸体の軸線方向に流れる蒸気の一部が、これら動翼や静翼の先端部の隙間を通って下流側へリークする。
【0005】
ここで、動翼とケーシングとの間の隙間から下流側へリークする蒸気は、動翼に対して衝撃力も反動力も付与しないので、衝動タービンか反動タービンかによらず、動翼を回転させる駆動力としてほとんど寄与しない。また、静翼と軸体との間の隙間から下流側へリークする蒸気も、静翼を越えてもその速度が変化せずまた膨張も生じないため、衝動タービンか反動タービンかによらず、下流側の動翼を回転させるための駆動力としてほとんど寄与しない。従って、蒸気タービンの性能向上のためには、動翼や静翼の先端部の隙間における蒸気のリーク量を低減させることが重要となる。
このため、動翼や静翼の先端部の隙間から蒸気がリークすることを防止する手段として、シールフィンが従来用いられている。以下、例えば動翼の先端部にシールフィンを用いる場合について詳述する。
【0006】
図14は、従来の蒸気タービンの要部拡大図である。
同図に示すように、蒸気タービン800のケーシング801には、動翼802の先端部であるシュラウドカバー803に向かって微小隙間H100を形成するようにシールフィン804が設けられている。このように構成することにより、動翼とケーシングとの間の隙間を最小限に抑え、蒸気のリークを抑えようとしている。
【0007】
また、例えばシュラウドカバー803の上流側に、円周上に沿って三角形に切り落としたような凹凸部を形成する突起部805を設ける技術が開示されている。突起部805は隣りの動翼(不図示)との間に複数個設けられており、シュラウドカバー803に衝突する蒸気S100の渦損を発生させるようになっている。これにより、シールフィン804の先端に形成される微小隙間H100に流入する蒸気Sを押し戻す作用を生じさせ、蒸気漏洩を低減しようとしている(例えば、特許文献1参照)。
【発明を実施するための形態】
【0025】
(第1実施形態)
(蒸気タービン)
次に、この発明の第1実施形態を
図1〜
図5に基づいて説明する。
図1は、本発明の第1実施形態に係る蒸気タービンを示す概略構成図である。
蒸気タービン1は、ケーシング10と、ケーシング10に流入する蒸気Sの量と圧力を調整する調整弁20と、ケーシング10の内方に回転自在に設けられ、動力を図示しない発電機等の機械に伝達する軸体30と、ケーシング10に保持された静翼40と、軸体30に設けられた動翼50と、軸体30を軸回りに回転可能に支持する軸受部60とを主たる構成としている。
軸受部60は、ジャーナル軸受装置61およびスラスト軸受装置62を備えており、軸体30を回転可能に支持している。
【0026】
ケーシング10は、内部空間が気密に封止されているとともに、蒸気Sの流路とされている。このケーシング10の内壁面には、軸体30が挿通されたリング状の仕切板外輪11が強固に固定されている。
【0027】
調整弁20は、ケーシング10の内部に複数個取り付けられており、それぞれ図示しないボイラから蒸気Sが流入する調整弁室21と、弁体22と、弁座23とを備えており、弁体22が弁座23から離れると蒸気流路が開いて、蒸気室24を介して蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入するようになっている。
【0028】
軸体30は、軸本体31と、この軸本体31の外周から回転軸径方向(以下、単に径方向という)に延出した複数のディスク32とを備えている。この軸体30は、不図示の発電機等の機械に回転エネルギーを伝達するようになっている。
【0029】
静翼40は、軸体30を囲繞するように放射状に多数配置されて環状静翼群を構成しており、それぞれ仕切板外輪11に保持されている。これら静翼40の径方向内側は、軸体30が挿通されたリング状のハブシュラウド41で連結され、その先端部が軸体30に対して径方向の隙間をあけて配設されている。
これら複数の静翼40からなる環状静翼群は、回転軸方向(以下、単に軸方向という)に間隔をあけて6つ形成されており、蒸気Sの圧力エネルギーを速度エネルギーに変換して、下流側に隣接する動翼50側に案内するようになっている。
【0030】
動翼50は、軸体30が有するディスク32の外周部に強固に取り付けられている。この動翼50は、各環状静翼群の下流側において、放射状に多数配置されて環状動翼群を構成している。
【0031】
これら環状静翼群と環状動翼群とは、一組一段とされている。すなわち、蒸気タービン1は、6段に構成されている。これら動翼50の先端部は、周方向に延びたチップシュラウド51とされている。
ここで、本実施形態では、軸体30、および仕切板外輪11が本発明における「構造体」となっている。また、静翼40、ハブシュラウド41、チップシュラウド51、および動翼50が本発明における「ブレード」となっている。そして、静翼40およびハブシュラウド41を「ブレード」とした場合は軸体30を「構造体」とし、一方、動翼50およびチップシュラウド51を「ブレード」とした場合は仕切板外輪11を「構造体」とする。なお、以下の説明においては、仕切板外輪11を「構造体」とし、動翼50を「ブレード」として説明する。
【0032】
図2は、
図1における要部Iを示す拡大断面図、
図3は、
図2のA矢視図である。
図2、
図3に示すように、動翼50の先端部となるチップシュラウド51は、ケーシング10の径方向において仕切板外輪11と隙間Kを介して対向して配置されている。チップシュラウド51は、段差面53(53A〜53C)を有して仕切板外輪11側に突出する、ステップ部52(52A〜52C)を形成したものである。
【0033】
本実施形態では、チップシュラウド51は、3つのステップ部52(52A〜52C)を形成している。これら3つのステップ部52A〜52Cは、これらの上面152(152A〜152C)の動翼50からの突出高さが、軸体30の軸方向上流側(
図2における左側)から下流側(
図2における右側)に向かうに従って、漸次高くなるように配設されている。すなわち、ステップ部52A〜52Cは、段差を形成する段差面53(53A〜53C)が、軸方向上流側を向いた前向きに形成されている。
【0034】
ここで、各段差面53(53A〜53C)のうち、最上流側に位置する段差面53Aには、周方向に沿って複数の溝71が並列配置されている。各溝71は、軸方向平面視で径方向に沿うようにスリット状に形成されている。また、各溝71は、軸方向断面略三角形状に形成されており、溝深さD1が径方向外側に向かうに従って、漸次浅くなるように設定されている。そして、各溝71は、この溝深さD1が1段目のステップ部52Aの上面152A近傍でゼロになるように設定されている。
【0035】
一方、仕切板外輪11には、チップシュラウド51に対応する部位に環状溝111が形成されている。そして、この環状溝の底面111aには、3つのシールフィン12(12A〜12C)が、各ステップ部52(52A〜52C)に1:1で対応するように径方向に突設されている。
各シールフィン12(12A〜12C)は、それぞれ対応するステップ部52(52A〜52C)との間に、微小隙間H(H1〜H3)を径方向に形成するように、下流側に向かうに従ってその長さが短くなるように形成されている。
【0036】
ここで、微小隙間H(H1〜H3)の各寸法は、ケーシング10や動翼50の熱伸び量、動翼50の遠心伸び量等を考慮した上で、両者が接触することがない安全な範囲内で、最小のものに設定されている。なお、本実施形態では、H1〜H3は全て同じ寸法となっている。ただし、必要に応じて、これらを適宜変更することが可能であることはいうまでもない。
【0037】
さらに、各シールフィン12(12A〜12C)は、それぞれ対応するステップ部52(52A〜52C)の段差面53(53A〜53C)よりも若干下流側に設けられている。すなわち、各段差面53(53A〜53C)の端縁部55(55A〜55C)と、対応するシールフィン12(12A〜12C)との間に、それぞれスペースSP(SP1〜SP3)が形成される。
【0038】
ここで、最上流側に位置する段差面53Aに形成されている各溝71は、この溝深さD1が1段目のステップ部52Aの上面152A近傍でゼロになるように設定されているので、段差面53Aの端縁部55Aとシールフィン12Aとの間の距離Lは、チップシュラウド51の全周で同一となる。すなわち、段差面53Aとシールフィン12Aとの間に形成されるスペースSP1は、周方向全体に亘って一様に形成される。
【0039】
このような構成のもと、仕切板外輪11と、シールフィン12(12A〜12C)と、チップシュラウド51とによって、3つのキャビティC(C1〜C3)が形成される。
すなわち、3つのキャビティC(C1〜C3)のうち、最上流側に位置する第1のキャビティC1は、環状溝111の底面111aと、上流側の内側面111bと、第1のシールフィン12Aと、チップシュラウド51の1段目のステップ部52Aとにより囲まれて形成される。
【0040】
また、第1のキャビティC1よりも後流側の第2のキャビティC2は、環状溝111の底面111aと、第1のシールフィン12A、および第2のシールフィン12Bと、チップシュラウド51の1段目のステップ部52A、および2段目のステップ部52Bとにより囲まれて形成される。
さらに、第2のキャビティC2よりも後流側の第3のキャビティC3は、環状溝111の底面111aと、第2のシールフィン12B、および第3のシールフィン12Cと、チップシュラウド51の2段目のステップ部52B、および3段目のステップ部52Cとにより囲まれて形成される。
【0041】
(蒸気タービンの動作)
次に、
図1、
図2、
図4、
図5に基づいて、蒸気タービン1の動作について説明する。
図4は、静翼と動翼との間の蒸気の挙動説明図である。
図1、
図2、
図4に示すように、調整弁20(
図1参照)を開状態とすると、不図示のボイラから蒸気Sがケーシング10の内部空間に流入する。ケーシング10の内部空間に流入した蒸気Sは、各段における環状静翼群と環状動翼群とを順次通過する。この際には、圧力エネルギーが静翼40によって速度エネルギーに変換され、静翼40を経た蒸気Sのうちの大部分が同一の段を構成する動翼50間に流入し、動翼50により蒸気Sの速度・圧力エネルギーが回転エネルギーに変換されて、軸体30に回転が付与される。
【0042】
すなわち、
図4に詳示するように、静翼40から流出した蒸気Sの絶対流速Czは、強い周方向成分を含んでいる。つまり、動翼50の回転速度をVとし、動翼50からみた蒸気Sの相対流速をWとし、この相対流速Wの周方向に対する傾きをφとしたとき、この傾きφは、一般に
φ<90°
となる。このため、相対流速Wも周方向成分を含んでいる。
【0043】
このような流れをもつ蒸気Sのうちの一部(例えば、数%)は、静翼40から流出した後、環状溝111内に流入する、所謂漏洩蒸気となる。環状溝111内に流入した蒸気Sは、まず、第1のキャビティC1に流入し、1段目のステップ部52Aの段差面53Aに衝突し、上流側に戻るようにして例えば
図2の紙面上にて反時計回りに回る主渦Y1を生じる。
このとき、段差面53Aには、複数の溝71が軸方向平面視で径方向に沿うように形成されているので、段差面53Aに衝突して形成される主渦Y1の流れ方向は、蒸気Sの相対流速Wよりも軸方向側に案内される。この結果、蒸気Sの相対流速W’が相対流速Wよりも軸方向に傾く(
図4における破線参照)。
【0044】
このように、強い軸方向成分を含む主渦Y1は、段差面53Aの端縁部55Aにおいて、主渦Y1から一部の流れが剥離されることにより、この主渦Y1と反対方向、本例では
図2の紙面上にて時計回りに回るように、剥離渦Y2が生じる。この剥離渦Y2は、第1のシールフィン12Aとチップシュラウド51との間の微小隙間H1における蒸気Sの漏れ流れを低減する、いわゆる縮流効果を発揮する。
【0045】
より詳しく、
図5に基づいて剥離渦Y2による縮流効果について説明する。
図5は、剥離渦の縮流効果について説明する図であって、
図2における第1のシールフィンの先端部周辺を拡大した部分拡大断面図である。
同図に示すように、剥離渦Y2は、第1のシールフィン12Aとチップシュラウド51との間の微小隙間H1の直前位置で、径方向内向きの慣性力を有している。したがって、微小隙間H1を通って下流側へ漏れる蒸気Sは、剥離渦Y2の慣性力で押さえ込まれることにより、
図5に1点鎖線で示すように径方向への幅が縮められる。このように、剥離渦Y2は、蒸気Sを径方向内向きに押し縮めることでその漏れ流れを低減させる効果、すなわち縮流効果を有している。
【0046】
また、この縮流効果は、剥離渦Y2の慣性力が大きいほど、すなわち、剥離渦Y2の軸方向成分の流れが大きいほど、効果が大きくなる。ここで、剥離渦Y2を発生させる主渦Y1は、この流れ方向が段差面53Aに形成されている複数の溝71によって蒸気Sの相対流速Wよりも軸方向側に傾いている。この結果、剥離渦Y2の流れ方向も軸方向成分が強くなる。このため、剥離渦Y2による縮流効果は、段差面53Aに複数の溝71が形成されていない場合と比較して大きくなる。
【0047】
さらに、各溝71は軸方向断面略三角形状に形成されており、その溝深さD1が1段目のステップ部52Aの上面152A近傍でゼロになるように設定されているので、段差面53Aとシールフィン12Aとの間に形成されるスペースSP1は、周方向全体に亘って一様に形成されている。このため、剥離渦Y2の形状を周方向全体に渡って一様に、かつ安定して形成することができる。
【0048】
ここで、段差面53Aの端縁部55Aとシールフィン12Aとの間の距離Lは、
L/H1≒2・・・(1)
を満たすように設定されていることが望ましい。このように設定することで、剥離渦Y2のダウンフローにおける径方向内側に向く速度成分の最大位置が、シールフィン12Aの先端(内端縁)に一致しやすくなる。このような場合、ダウンフローが微小隙間H1の直前をより良好に通過するため、漏れ流れに対する縮流効果が最大になると考えられる。
【0049】
続いて、微小隙間H1を通過して蒸気Sは、第2のキャビティC2に流入し、2段目のステップ部52Bの段差面53Bに衝突し、上流側に戻るようにして例えば
図2の紙面上にて反時計回りに回る主渦Y1を生じる。そして、二段目のステップ部52Bの端縁部55Bにおいて、主渦Y1から一部の流れが剥離されることにより、この主渦Y1と反対方向、本例では
図3の紙面上にて時計回りに回るように、剥離渦Y2が生じる。この剥離渦Y2も、1段目のステップ部52Aに形成される剥離渦Y2と同様に、第2のシールフィン12Bとチップシュラウド51との間の微小隙間H2における蒸気Sの漏れ流れを低減させる、縮流効果を発揮する。
【0050】
さらに、微小隙間H2を通過して蒸気Sは、第3のキャビティC3に流入し、3段目のステップ部52Cの段差面53Cに衝突し、上流側に戻るようにして例えば
図3の紙面上にて反時計回りに回る主渦Y1を生じる。そして、3段目のステップ部52Cの端縁部55Cにおいて、主渦Y1から一部の流れが剥離されることにより、この主渦Y1と反対方向、本例では
図3の紙面上にて時計回りに回るように、剥離渦Y2が生じる。この剥離渦Y2も、1段目のステップ部52Aに形成される剥離渦Y2と同様に、第3のシールフィン12Cとチップシュラウド51との間の微小隙間H3における蒸気Sの漏れ流れを低減させる、縮流効果を発揮する。
【0051】
(効果)
したがって、上述の第1実施形態によれば、チップシュラウド51のステップ部52に形成されている段差面53(53A〜53C)のうち、最上流側に位置する段差面53Aに複数の溝71を形成し、これら溝71によって周方向成分を含む方向に向かって流れる主渦Y1を軸方向に向かって案内することができ、主渦Y1の流れ方向における軸方向成分を大きく設定することができる。このため、剥離渦Y2の流れ方向における軸方向成分も大きく設定することができ、剥離渦Y2によるダウンフローを効率よく発生させることが可能になる。よって、簡素な構造で微小隙間H1を通る蒸気Sの漏れ流れを効率よく低減することができ、高性能な蒸気タービン1を提供することができる。
【0052】
また、各溝71は、軸方向断面略三角形状に形成されており、その溝深さD1が1段目のステップ部52Aの上面152A近傍でゼロになるように設定されている。このため、剥離渦Y2の形状を周方向全体に渡って一様に、かつ安定して形成することができ、剥離渦Y2による蒸気Sの縮流効果をさらに大きくすることができる。
さらに、蒸気Sの周方向成分が、複数の溝71に衝突することによって回転力に変換され、軸体30をさらに効率よく回転させることが可能になる。
【0053】
(第2実施形態)
次に、この発明の第2実施形態を、
図1、
図4、
図5を援用し、
図6に基づいて説明する。なお、第1実施形態と同一態様には、同一符号を付して説明する(以下の実施形態についても同様)。
図6は、第2実施形態を説明するための説明図であって、
図3(
図2のA矢視図)に対応している。
【0054】
この第2実施形態において、蒸気タービン1は、ケーシング10と、ケーシング10に流入する蒸気Sの量と圧力を調整する調整弁20と、ケーシング10の内方に回転自在に設けられ、動力を不図示の発電機等の機械に伝達する軸体(ロータ)30と、ケーシング10に保持された静翼40と、軸体30に設けられた動翼50と、軸体30を軸回りに回転可能に支持する軸受部60と、を主たる構成としている点、静翼40は、軸体30を囲繞するように放射状に多数配置されて環状静翼群を構成しており、それぞれ仕切板外輪11に保持されている点、これら静翼40の径方向内側は、軸体30が挿通されたリング状のハブシュラウド41で連結されている点、動翼50は、各環状静翼群の下流側において、放射状に多数配置されて環状動翼群を構成しており、その先端部は、周方向に延びたチップシュラウド51とされている点、環状静翼群と環状動翼群とは、一組一段とされている点、チップシュラウド51は、段差面53(53A〜53C)を有して仕切板外輪11側に突出する、ステップ部52(52A〜52C)を形成したものである点、仕切板外輪11には、チップシュラウド51に対応する部位に環状溝111が形成されており、この環状溝の底面111aに、3つのシールフィン12(12A〜12C)が、各ステップ部52(52A〜52C)に1:1で対応するように径方向に突設されている点等の基本的構成は、前述した第1実施形態と同様である(以下の実施形態についても同様)。
【0055】
ここで、第2実施形態と第1実施形態との相違点は、第2実施形態の1段目のステップ部52の段差面53Aに形成された複数の溝171の形状が第1実施形態の段差面53Aに形成されている溝71と異なる点にある。
より詳しくは、各溝171は、軸方向断面略三角形状に形成されており、溝深さが径方向外側に向かうに従って、漸次浅くなるように設定されている点では、前述の第1実施形態の溝71と同様であるが、各溝171が軸方向平面視で径方向に対して交差するように形成されている点が前述の第1実施形態の溝71と異なる。すなわち、各溝171は、径方向外側に向かうに従って、静翼40から流出した蒸気Sの周方向成分の方向とは反対側に向かって傾斜している。
【0056】
各溝171の径方向に対する傾斜角度は、以下のように求める。
すなわち、静翼40から流出した蒸気Sの絶対流速Cz(
図4参照)のうち、周方向成分をC
θとし、チップシュラウド51の段差面53Aに衝突して主渦Y1を形成する蒸気S’の流速W
L(
図5参照)において、流れ方向の周方向成分をW
Lθとし、動翼50の回転速度をV(
図4参照)としたとき、各溝171の傾斜角度は、
C
θ=V+W
Lθ=0・・・(2)
を満たすように設定される。
【0057】
各溝171の傾斜角度を式(2)を満たすように設定することにより、前述の第1実施形態と同様の効果に加え、主渦Y1の流れ方向における軸方向成分をさらに確実に大きく設定することができる。このため、剥離渦Y2によるダウンフローをさらに効率よく発生させることが可能になり、さらに高性能な蒸気タービン1を提供することができる。
【0058】
なお、上述の第1実施形態では、チップシュラウド51の3つのステップ部52(52A〜52C)に形成されている段差面53(53A〜53C)のうち、最上流側に位置する段差面53Aに複数の溝71を形成した場合について説明した。さらに、第2実施形態では、段差面53Aに複数の溝171を形成した場合について説明した。
しかしながら、これに限られるものではなく、2段目のステップ部52Bの段差面53Bや3段目のステップ部52Cの段差面53Cにも複数の溝71,171を形成してもよい。
【0059】
(第3実施形態)
次に、この発明の第3実施形態を、
図7、
図8に基づいて説明する。
図7は、第3実施形態におけるチップシュラウドの上流側の概略構成図、
図8は、
図7のB矢視図である。
図7、
図8に示すように、この第3実施形態と第1実施形態との相違点は、第1実施形態では1段目のステップ部52Aの段差面53Aに複数の溝71が形成されているのに対し、第3実施形態では1段目のステップ部52Aの段差面253Aに複数の羽根271が周方向に沿って並列配置されている点にある。
【0060】
羽根271は、軸方向平面視で径方向に沿うように、かつ軸方向上流側に向かって突出するように設けられている。また、羽根271は、この周方向断面の形状が径方向内側から径方向外側に向かうにしたがって漸次薄肉となるように形成され、かつ静翼40から流出した蒸気Sの周方向成分の方向とは反対側に向かって徐々に傾斜するように形成されている。羽根271の径方向内側端には、弧状面271aが形成されており、ここを通過する蒸気Sにかかる静圧が低くなるようになっている。
【0061】
さらに、羽根271は、軸方向断面略三角形状に形成されており、羽根高さT1が径方向外側に向かうに従って、漸次低くなるように設定されている。そして、羽根271は、この羽根高さT1が1段目のステップ部52Aの上面152A近傍でゼロになるように設定されている。すなわち、1段目のステップ部52Aの段差面253Aは、径方向外側に向かうに従って、徐々に軸方向上流側に向かうように傾斜している。
【0062】
したがって、上述の第3実施形態によれば、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。また、蒸気タービン1の仕様に応じて段差面53Aに溝71を形成するか、段差面253Aに羽根271を設けるか選択することが可能になり、チップシュラウド51のバリエーションを拡げることができる。
【0063】
なお、上述の第3実施形態では、チップシュラウド51の3つのステップ部52(52A〜52C)に形成されている段差面53(53A〜53C)のうち、最上流側に位置する段差面53Aに、複数の羽根271が周方向に沿って並列配置されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、2段目のステップ部52Bの段差面53Bや3段目のステップ部52Cの段差面53Cにも複数の羽根271を形成してもよい。
【0064】
(第4実施形態)
次に、この発明の第4実施形態を、
図9に基づいて説明する。
図9は、第4実施形態におけるチップシュラウド周縁を示す概略構成図である。
図9に示すように、この第4実施形態と第1実施形態との相違点は、1段目のステップ部52の段差面53Aに形成された複数の溝371の形状にある。
【0065】
より詳しくは、各溝371の溝深さD2は、径方向外側に向かうに従って漸次浅くなるように設定され、この溝深さD2が1段目のステップ部52Aの上面152A近傍でゼロになるように設定されている点は、前述の第1実施形態の溝71と同様であるが、各溝371は軸方向断面が略三角形状になっていない。
すなわち、各溝371には、径方向外側に向かうに従って溝深さD2が浅くなるように第1弧状部371aが形成されている。さらに、各溝371の第1弧状部371aの先端には、上流側に向かって膨出するように第2弧状部371bが形成されている。
【0066】
このように、各溝371を形成することにより、各溝371の径方向外側における接線方向は、ほぼ段差面53Aの面方向と一致する。このため、チップシュラウド51の段差面53Aに衝突して主渦Y1を形成する蒸気S’は、端縁部55Aでの速度ベクトルがほぼ径方向に向き、剥離渦Y2の慣性力が大きくなる。
したがって、上述の第4実施形態によれば、前述の第1実施形態と同様の効果に加え、剥離渦Y2によるダウンフローを大きくすることができる。このため、微小隙間H1を通る蒸気Sの漏れ流れをさらに効率よく低減することができ、さらに高性能な蒸気タービン1を提供することができる。
【0067】
なお、上述の第4実施形態では、チップシュラウド51の3つのステップ部52(52A〜52C)に形成されている段差面53(53A〜53C)のうち、最上流側に位置する段差面53Aに複数の溝371を形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、2段目のステップ部52Bの段差面53Bや3段目のステップ部52Cの段差面53Cにも複数の溝371を形成してもよい。
【0068】
(第5実施形態)
次に、この発明の第5実施形態を、
図10、
図11に基づいて説明する。
図10は、第5実施形態におけるチップシュラウドの上流側の概略構成図、
図11は、
図10のC矢視図である。
図10、
図11に示すように、この第5実施形態と第1実施形態との相違点は、第1実施形態のチップシュラウド51には、段差面53Aに複数の溝71が形成されているのに対し、第5実施形態では、チップシュラウド51に溝71が形成されておらず、3つのキャビティC(C1〜C3)のうち、最上流側に位置する第1のキャビティC1に、ターニングベーン471が設けられている点にある。
【0069】
ターニングベーン471は、複数の案内板472が周方向に沿って並列配置されたものである。各案内板472は、第1のキャビティC1の底面111a側に軸方向に長く形成されている。より具体的には、第1のシールフィン12Aから主渦Y1の流れ方向における周方向成分の方向とは反対側に向かって斜めに上流側に向かって延出するように形成されている(
図11参照)。そして、各案内板472は、環状溝111の上流側の内側面111bまで延出しており、この内側面111bと、環状溝111の底面111aと、第1のシールフィン12Aとに接合されている。
【0070】
このような構成のもと、周方向に隣接する各案内板472間が、主渦Y1が流通する流路473に設定される。流路473は、主渦Y1をこの周方向成分を相殺するように案内することになる。このため、ターニングベーン471を設けない場合と比較して主渦Y1の軸方向成分が大きくなり、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することが可能になる。
【0071】
なお、上述の第5実施形態では、ターニングベーン471を構成する複数の案内板472が第1のキャビティC1の底面111a側に軸方向に長く形成されている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、各案内板472における環状溝111の上流側の内側面111b側に、径方向内側に向かって舌片部474を延出形成し(
図10における2点鎖線参照)、各案内板472を周方向平面視で略L字状に形成してもよい。
この場合、ターニングベーン471やチップシュラウド51等の熱伸び等を考慮し、舌片部474と動翼50とが接触しないように舌片部474を形成する。
【0072】
また、上述の第5実施形態では、3つのキャビティC(C1〜C3)のうち、最上流側に位置する第1のキャビティC1に、ターニングベーン471を設けた場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、第2のキャビティC2や第3のキャビティC3にもターニングベーン471を設けてもよい。
【0073】
(第6実施形態)
次に、この発明の第6実施形態を、
図12、
図13に基づいて説明する。
図12は、第6実施形態におけるチップシュラウドの上流側の概略構成図、
図13は、
図12のD矢視図である。
図12、
図13に示すように、この第6実施形態と第1実施形態との相違点は、第1実施形態のチップシュラウド51には、段差面53Aに複数の溝71が形成されているのに対し、第6実施形態では、チップシュラウド51に代わって環状溝111の上流側の内側面111bに複数の羽根571が設けられている点にある。
【0074】
羽根571は、軸方向平面視で径方向に沿うように、かつ軸方向下流側に向かって突出するように設けられている。また、羽根571は、径方向外側に向かうにしたがって段差面53Aに衝突して上流側に戻る主渦Y1の周方向成分の方向とは反対側に向かって徐々に傾斜するように形成されている。
さらに、羽根571は、軸方向断面略三角形状に形成されており、羽根高さT2が径方向外側に向かうに従って漸次低くなるように設定されており、最外側で羽根高さT2がゼロになるように形成されている。すなわち、環状溝111の上流側の内側面111bは、羽根571に対応する部位が径方向外側に向かうに従って徐々に下流側に向かうように形成している。
【0075】
このように形成した場合であっても、羽根571によって、周方向成分を含む方向に向かって流れる主渦Y1を軸方向に向かって案内することができるので、前述の第1実施形態と同様の効果を奏することができる。
なお、上述の第6実施形態では、環状溝111の上流側の内側面111bに複数の羽根571が設けられている場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、羽根571に代わって複数の溝を形成してもよい。この場合、複数の溝を、軸方向断面略三角形状となるように形成することが望ましい。
【0076】
また、本発明は上述の実施形態に限られるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において、上述の実施形態に種々の変更を加えたものを含む。
例えば、上述の実施形態では、ケーシング10に設けられた仕切板外輪11を構造体とした。しかしながら、これに限られるものではなく、仕切板外輪11を設けずに、ケーシング10自体を直接本発明の構造体として、構成してもよい。すなわち、この構造体は、動翼50を囲繞するとともに、流体が動翼間を通過するように流路を規定するものであれば、どのような部材であってもよい。
【0077】
さらに、上述の実施形態では、チップシュラウド51にステップ部52を複数設け、これによってキャビティCも複数形成した場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、ステップ部52やこれに対応するキャビティCの数については任意であり、一つであっても、三つ、あるいは四つ以上であってもよい。
そして、シールフィン12とステップ部52とは必ずしも1:1で対応させる必要はなく、これらの数については任意に設計することができる。
また、上述の実施形態では、最終段の動翼50や静翼40に本発明を適用したが、他の段の動翼50や静翼40に本発明を適用してもよい。
【0078】
さらに、上述の実施形態や変形例では、本発明に係る「ブレード」を動翼50とし、その先端部となるチップシュラウド51にステップ部52(52A〜52C)を形成するとともに、本発明に係る「構造体」を仕切板外輪11とし、ここにシールフィン12(12A〜12C)を設けた場合について説明した。しかしながら、これに限られるものではなく、本発明に係る「ブレード」を静翼40とし、その先端部にステップ部52を形成するとともに、本発明に係る「構造体」を軸体(ロータ)30として、ここにシールフィン12を設ける構成としてもよい。この場合もステップ部52に、上述の実施形態を採用することができる。
【0079】
また、上述の実施形態では、本発明を復水式の蒸気タービンに適用したが、他の型式の蒸気タービン、例えば、二段抽気タービン、抽気タービン、混気タービン等のタービン型式に本発明を適用することもできる。
さらに、上述の実施形態では、本発明を蒸気タービン1に適用したが、ガスタービンにも本発明を適用することができ、さらには、回転翼のある全てのものに本発明を適用することができる。