(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記複数の溝は、前記圧電振動子の背面の中央部から端部に沿う方向に前記溝のピッチが狭くなるように、前記溝の幅が広くなるように、もしくは、前記溝の深さが深くなるように、または、これらの二以上の組み合わせになるように形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載の超音波プローブ。
前記層は、音響インピーダンスが30[Mrayl]以上、及び/または、ヤング率が50[GPa]以上であることを特徴とする請求項1から請求項6のいずれかに記載の超音波プローブ。
【発明を実施するための形態】
【0010】
次に、実施形態に係る超音波プローブについて、各図を参照して説明する。
【0011】
超音波プローブは、圧電振動子3とそれより大きい音響インピーダンスを有する中間層8を備えることで、圧電振動子3の厚さを超音波の波長λの1/4にした構造とする(以下、λ/4振動構造という)。なお、中間層8はハードバック(HardBack)とも称される。λ/4振動構造にしたことより、中間層8で反射する超音波が圧電振動子3に与える影響を抑えることが可能となる。
【0012】
λ/4振動構造において、より高強度で加工性に優れた中間層8に対して溝加工することで、送受信感度を重み付けする。具体的には以下の構成が考えられる。ここで、中間層8の背面とは、中間層8の圧電振動子3側の面とは反対に位置する面をいう。
【0013】
(1)圧電振動子3側の面から中間層8の厚みの中途までの深さを有する溝9を形成する(
図1参照)。
【0014】
(2)中間層8の背面から圧電振動子3側端面までの深さを有する溝9を形成する(
図4参照)。
【0015】
(3)中間層8の背面から圧電振動子3の厚みの中途までの深さを有する溝9を形成する(
図5参照)。このときの圧電振動子3の溝9の深さは、比較例(
図7参照)の溝9の深さより浅くてよい。
【0016】
以下に各実施形態の構成について説明する。さらに、有限要素解析による音響シミュレーション結果について説明する。
【0017】
[第1の実施形態]
次に、第1の実施形態に係る超音波プローブの構造及び製造方法について
図1、
図2及び
図3を参照して説明する。
【0018】
図1は超音波プローブをレンズ方向から切ったときの断面図、
図2は超音波プローブをアレイ方向に切ったときの断面図である。なお、超音波プローブの代表例として1次元のセクタアレイプローブについて説明する。
【0019】
図1及び
図2に示すように、超音波プローブは、
背面材1、信号引き出し用基板2、圧電振動子3、音響整合層、音響レンズ7、及び中間層8を有している。なお、信号引き出し用基板2をFPC(Flexible Print Circuit)という場合がある。
【0020】
既知の背面材(図示省略)上に複数の圧電振動子3が設けられ、その圧電振動子3上には既知の音響整合層が設けられ、さらに、音響整合層の上にFPC(図示省略)を介して既知の音響レンズ7が設けられている。すなわち、背面材、圧電振動子3、音響整合層、FPC、音響レンズ7の順番で積層されている。圧電振動子3において、音響整合層が設けられている面が超音波の放射面側となり、その面の反対側の面(背面材が設けられている面)が背面側となる。圧電振動子3の放射面側には共通(GND)電極が接続され、背面側には信号電極が接続されている。圧電振動子3の背面側には中間層8が設けられ、その中間層8の下にFPC2が設けられ、さらに、FPC2の下に
背面材1が設けられている。なお、中間層8の詳細については後述する。
【0021】
圧電振動子3としては、圧電セラミック等の音響/電気可逆的変換素子等が使用され得る。例えば、チタン酸ジリコン酸鉛Pb(Zr、Ti)O
3、ニオブ酸リチウム(LiNbO
3)、チタン酸バリウム(BaTiO
3)又はチタン酸鉛(PbTiO
3)などのセラミック材料が好ましく用いられる。
【0022】
音響整合層は、超音波振動子の音響インピーダンスと被検体の音響インピーダンスとの音響整合を良好にするために設けられる。音響整合層は、1層だけであってもよく、2層であってもよく、本実施形態のように、第一音響整合層4、第二音響整合層5、第三音響整合層6の3層以上であってもよい。
【0023】
背面材1は、超音波振動子から後方への超音波の伝播を防止する。また、
背面材1は、圧電波振動子3から発振された超音波振動や受信時の超音波振動のうち、超音波診断装置(図示省略)の画像抽出にとって必要でない超音波振動成分を減衰吸収する。背面材1には、一般的に、合成ゴム、エポキシ樹脂又はウレタンゴムなどにタングステン、フェライト、酸化亜鉛などの無機粒子粉末などを混入した材料が用いられる。
【0024】
〔中間層〕
次に、中間層8について
図1及び
図2を参照して説明する。
【0025】
図1及び
図2に示すように、圧電振動子3の背面とFPC2との間には中間層8が配置されている。
【0026】
中間層8は、音響インピーダンスが圧電振動子3(約30Mrayl)よりも大きく、ヤング率が圧電振動子3(約50GPa)よりも大きい、すなわちより固い材料が使用される。
【0027】
中間層8に用いられる材料の一例としては、金、鉛、タングステン、サファイヤ、超硬合金などが用いられる。これらの材料により中間層8を形成することで、中間層8に溝9を形成することが容易となる。
【0028】
中間層8には導電性を有する部材が設けられている。導電性を有する部材の一例としては、金、鉛、タングステン、超硬合金などが用いられる。導電性を有する部材により、中間層8を介して圧電振動子3の下面電極とFPC2とを接続することが可能となる。
【0029】
(溝)
中間層8には、重み付けのための複数の溝9が設けられている。複数の溝9は、圧電振動子3の背面にその溝口を向けるように配置されている。複数の溝9は、複数の溝9は、溝9の容積が中間層8の体積に対して占める割合を圧電振動子3の背面の中央部から端部に沿う方向(レンズ方向、スライス方向)に増加させるように形成される。
【0030】
ここで、圧電振動子3の背面の中央部及び端部に対応する中間層8の位置をA及びDとする。また、位置Aから位置Dまでの位置において、位置Aから任意の距離L及びその半分の距離L/2の位置をC及びBとする。さらに、A−B間の中間層8の体積、及びB−C間の中間層8の体積をV1及びV2とする。このとき、複数の溝9は、B−C間の溝98の容積V2がA−B間の溝9の容積V1以上になるように形成されている(V1<=V2)。なお、V2=V1となるのは、A−B間及びB−C間に溝9が形成されていないときである。
【0031】
複数の溝9は、次の具体例のいずれかに基づき形成される。ここでは、中間層8は一定の厚さを有するものとする。
【0032】
(例1)
複数の溝9は、隣接する溝9間の距離であるピッチがレンズ方向に狭く(粗から密に)なるように形成されている。すなわち、A−B間のピッチP1よりB−C間のピッチP2が狭い(P2<=P1)。
【0033】
(例2)
また、複数の溝9は、その幅が広くなるように形成されている。すなわち、A−B間の溝9の幅W1よりB−C間の溝9の幅W2が広い(W1<=W2)。ここで、幅とはレンズ方向の長さをいう。
【0034】
(例3)
また、複数の溝9は、その深さが深くなるように形成されている。すなわち、A−B間の溝9の深さD1よりB−C間の溝9の深さD2が深い(D1<=D2)。ここで、深さとはレンズ方向及びアレイ方向にそれぞれ直交する方向(超音波の送受信方向)の長さをいう。
【0035】
(例4)
また、複数の溝9は、例1〜3のいずれか二以上の組み合わせにより形成されている。
【0036】
〔超音波プローブの製造方法〕
中間層8に貫通しない溝9を加工形成する。中間層8の溝9を形成した面と圧電振動子3の背面とを積層する。さらに、中間層8の背面にFPC2及び背面材1を接合する。接合の一般例としてはエポキシ系接着剤などを用いた接着接合である。この結果、中間層8の溝9間にはエポキシ樹脂が充填される。単独で溝加工した中間層8をその後FPC2と接合するので、加工し易い。また、溝9にエポキシ系樹脂剤を充填したので、溝9でのアンカー効果により中間層8の接着強度が向上する。
【0037】
その後、圧電振動子3の音響放射面側に音響整合層(第一音響整合層4、第二音響整合層5、第三音響整合層6)を積層する。この積層構造について音響整合層側からダイシングにて素子アレイ化した後、音響レンズ7を接合することにより超音波プローブとして完成する。
【0038】
〔音響シミュレーションの結果〕
次に、第1の実施形態に係る超音波プローブの音響シミュレーションの結果について
図3を参照して説明する。
図3は、超音波プローブの音響シミュレーションの結果(送信音圧最大値)を示す図である。
【0039】
圧電振動子3をインパルス波形にて振動させ、媒体を水としたときの第三整合層表面における送信音圧の最大値をプロットしたものである。圧電振動子3の厚み
を“1”としたとき、1未満の深さを有する溝9による影響を確認した。溝9は、例1に示すように形成されている。
【0040】
図3では、縦軸にデシベル[dB]を示し、横軸に中央部からレンズ方向の端部にかけての位置[mm]を示す。たとえば、中央部の位置を0[mm]、端部の位置を6[mm]、−6[mm]で表す。また、圧電振動子3の厚みに対する溝9の深さの値を、”0”、”1/7”、”1/2”、”9/10”で示す。
【0041】
図3に示すように、溝9が加工されない場合、すなわち、圧電振動子3の厚みに対する溝9の深さを0としたときと比較して、”1/7”から”9/10”のように溝9が深くなるにつれて、中央部(0[mm])に対してレンズ方向の端部(5[mm]、−5[mm])での感度が低下し、送信感度の重み付けの効果が上がっていることがわかる。
【0042】
[第2の実施形態]
次に、第2の実施形態に係る超音波プローブの構造及び製造方法について
図3及び
図4を参照して説明する。
図4は第2の実施形態に係る超音波プローブをレンズ方向に切ったときの断面図である。
【0043】
超音波プローブの基本的な構成は実施例1と同様である。第1の実施形態では中間層8の溝9は圧電振動子3側から中間層8厚みに対して貫通しないように形成されたが、ここでは貫通するケースについて説明する。この場合、圧電振動子3と中間層8を先に接合した後に中間層8側から所定の溝9を形成する、あるいはFPC2と中間層8を先に接合した後に中間層8側から所定の溝9を形成する。その後の製法は第1の実施形態例と同じである。
【0044】
〔音響シミュレーションの結果〕
次に、第2の実施形態に係る超音波プローブの音響シミュレーションの結果について
図3を参照して説明する。
【0045】
図3では、圧電振動子3の厚みに対する溝9の深さの値を”1/1”として示す。圧電振動子3の厚みに対して貫通するように加工される溝9による影響を確認した。
図3に示すように、中央部(0[mm])に対してレンズ方向の端部(5[mm]、−5[mm])での感度が低下し、送信感度の重み付けの効果が上がっていることがわかる。
【0046】
[第3の実施形態]
次に、第3の実施形態に係る超音波プローブの構造及び製造方法について
図5及び
図6を参照して説明する。
図5は超音波プローブをレンズ方向に切ったときの断面図である。
【0047】
第3の実施形態に係る超音波プローブの基本的な構成は第1の実施形態と同様である。第1、2の実施形態では中間層8のみに溝9形成したが、ここでは圧電振動子3も含めて溝9を形成する。この場合、圧電振動子3と中間層8を先に接合した後に中間層8から所定の溝9を形成する。その後の製法は第1の実施形態と同じである。
【0048】
〔音響シミュレーションの結果〕
次に、第3の実施形態に係る超音波プローブの音響シミュレーションの結果について
図6を参照して説明する。
図6は超音波プローブの音響シミュレーションの結果(送信音圧最大値)を示す図である。
【0049】
図6では、縦軸にデシベル[dB]を示し、横軸に中央部からレンズ方向の端部までの位置を示す。たとえば、中央部の位置を0、端部の位置を6、−6で表す。また、圧電振動子3の厚みに対する圧電振動子3の溝9の深さの値を、”1/20”、”1/4”、”1/2”、”1/1”で示す。
【0050】
図6に示すように、中間層8のみでなく、圧電振動子3にも溝9を加工した場合、中央部(0[mm])に対してレンズ方向の端部(5[mm]、−5[mm])での感度が低下し、送信感度の重み付けの効果が上がっていることが分かる。
【0051】
[比較例]
次に、比較例に係る超音波プローブの構成について
図7を参照して簡単に説明する。
図7は、比較例としての超音波プローブをレンズ方向に切ったときの断面図である。
【0052】
図7に示すように、比較例の構成が上記実施形態と異なるのは、中間層8を有しない点、及び圧電振動子3にのみ溝9が加工されている点である。
【0053】
実施形態に係る溝9と同様に、圧電振動子3に加工される溝9は、溝9の幅、深さ、ピッチを変化させることにより、圧電振動子3の中央部からレンズ方向での端部にかけて、溝9の容積が圧電振動子3の体積に対し占める割合を増加させていくように形成されている。それにより、圧電振動子3に対し、スライス方向(レンズ方向)の重み付けをすることが可能となる。
【0054】
なお、脆性を有する圧電振動子3に溝加工をすると、溝加工に制限等の問題があることについては前述したが、ここでは、比較例に係る圧電振動子3において、溝加工の制限等がなく、十分な重み付けがされているものとする。
【0055】
〔比較例に係る音響シミュレーションの結果〕
図8は、比較例に係る超音波プローブの音響シミュレーション結果を示す図である。圧電振動子3をインパルス波形に駆動させ、媒体を水としたときの第三音響整合層6の表面における送信音圧の最大値をプロットしたものである。音響シミュレーション結果により、溝9の深さによる影響を確認した。
【0056】
図8では、縦軸にデシベル[dB]を示し、横軸に中央部からレンズ方向の端部にかけての位置[mm]を示す。たとえば、中央部の位置を0[mm]、端部を6[mm]−6[mm]で表す。また、圧電振動子3の厚み対する溝9の深さの値を”1/20”、”1/4”、”1/2”、”1/1”で示す。
【0057】
図8に”1/20”から”1/1”に示すように、溝9が深くなるにつれて中央部に対し端部での感度が低下し、送信感度の重み付けがされていることが分かる。
【0058】
[音響シミュレーションの結果比較]
次に、第1、2の実施形態に係る音響シミュレーションの結果と、比較例に係る音響シミュレーション結果との比較について、
図3及び
図8を参照して説明する。
【0059】
図3に示すように、実施形態により圧電振動子3に形成される溝9の深さが例えば、”9/10”(第1の実施形態)、”1/1”(第2の実施形態)であるとき、端部(5[mm]、−5[mm])での送信感度はそれぞれ約−4.5[dB]である。一方、
図8に示すように、比較例の圧電振動子3に形成される溝9の深さが例えば”1/1”であるとき、端部(5[mm]、−5[mm])での送信感度は約−5.5[dB]である。
【0060】
この結果により、第1、2の実施形態においては、中間層8に溝9を形成することで、比較例と同等の送信感度の重み付けの効果を得ることができる。圧電振動子3に溝9を形成する必要がないため、圧電振動子3が破損するといったことがなく、圧電振動子3に対する信頼性を上げることが能となる。また、圧電振動子3に対する加工性の制約が緩和されるため、コストを低減することが可能となる。
【0061】
次に、第3の実施形態に係る音響シミュレーションの結果と、比較例に係る音響シミュレーション結果との比較について、
図6及び
図8を参照して説明する。
【0062】
図6に示すように、第3の実施形態により圧電振動子3に形成される溝9の深さが例えば、”1/20”、”1/4”であるとき、端部(5[mm]、−5[mm])での送信感度はそれぞれ約−4[dB]、約−5[dB]である。一方、
図8に示すように、比較例の圧電振動子3に形成される溝9の深さが例えば”1/1”であるとき、端部(5[mm]、−5[mm])での送信感度は約−5.5[dB]である。
【0063】
この結果により、比較例と同等の送信感度の重み付けの効果を得るときに、圧電振動子3に形成される溝9の深さが浅くてもよいため、圧電振動子3が破損するといったことがなく、圧電振動子3に対する信頼性を上げることが能となる。また、圧電振動子3に対する加工性の制約が緩和されるため、コストを低減することが可能となる。
【0064】
以上説明したように、実施形態の構成によれば、超音波プローブに対し、安価でかつ高い信頼性で重み付けをすることが可能となる。
【0065】
さらに、第1、第2の実施形態の構成によれば、圧電振動子3に溝加工せず、溝加工による圧電振動子3の破損がないため、圧電振動子3に対する信頼性を上げることが可能となる。また、溝加工の制限が緩和されるため、比較例の溝加工よりも狭いピッチにて中間層8に溝加工をすることができることから、十分な重み付けが可能となる。
【0066】
さらに、第3の実施形態の構成では圧電振動子3に形成される溝9の深さが、比較例の圧電振動子3に形成される溝9の深さより浅くても、比較例と同等の重み付けの効果が得られるとともに、溝9が浅くて済むため、溝加工するときに圧電振動子3が破損するといったことが防止され、圧電振動子3に対する信頼性を上げることが可能となる。
【0067】
なお、前記実施形態では、形成する溝9の深さはそれぞれ一定としたが、必ずしもその限りではなく、たとえば中間層8中央部と端部とで形成される溝9の深さが異なっていてもよい。
【0068】
また、実施形態では、音響シミュレーション結果として送信強度に関して記載したが、被検体内で反射した超音波を本実施形態による超音波プローブにて受信する際にも、送信感度と同様に受信感度の重み付けがされると考えられる。
【0069】
本発明のいくつかの実施形態を説明したが、これら実施形態は、例として提示したものであり、発明の範囲を限定することは意図していない。これら新規な実施形態は、その他の様々な形態で実施されることが可能であり、発明の要旨を逸脱しない範囲で、種々の省略、書き換え、変更を行うことができる。これら実施形態やその変形は、発明の範囲や要旨に含まれるととともに、特許請求の範囲に記載された発明とその均等の範囲に含まれる。