(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
溶融成膜時の該樹脂組成物の温度が、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であり、かつ、
溶融成膜された該樹脂組成物が、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃の間の温度における結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする、請求項7記載のフィルム又はシートの製造方法。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明のフィルム又はシートは、ポリ乳酸(A)、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)及び芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)を含有する樹脂組成物からなる。本発明のフィルム又はシートは、透明、半透明及び不透明のものを含む。
本発明のフィルム又はシートの厚さは特に制限されないが、通常、10〜500μm、好ましくは、20〜400μm、より好ましくは、30〜300μmである。
【0017】
[ポリ乳酸(A)]
ポリ乳酸の原料モノマーである乳酸は、不斉炭素原子を有するため、光学異性体のL体とD体とが存在する。本発明で使用するポリ乳酸(A)は、L体の乳酸を主成分とした重合物である。製造時に不純物として混入するD体の乳酸の含有量が少ないものほど、高結晶性で高融点の重合物となるため、できるだけL体純度の高いものを用いるのが好ましく、L体純度が95%以上のものを用いるのがより好ましい。また、本発明で使用するポリ乳酸(A)は、乳酸以外の他の共重合成分を含んでいてもよい。他のモノマー単位としては、エチレングリコール、プロピレングリコール、ブタンジオール、ヘプタンジオール、ヘキサンジオール、オクタンジオール、ノナンジオ−ル、デカンジオール、1,4−シクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール、グリセリン、ペンタエリスリトール、ビスフェノールA、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール、ポリテトラメチレングリコールなどのグリコール化合物;シュウ酸、アジピン酸、セバシン酸、アゼライン酸、ドデカンジオン酸、マロン酸、グルタル酸、シクロヘキサンジカルボン酸、テレフタル酸、イソフタル酸、フタル酸、ナフタレンジカルボン酸、ビス(p−カルボキシフェニル)メタン、アントラセンジカルボン酸、4,4’−ジフェニルエーテルジカルボン酸、5−ナトリウムスルホイソフタル酸、5−テトラブチルホスホニウムイソフタル酸などのジカルボン酸;グリコール酸、ヒドロキシプロピオン酸、ヒドロキシ酪酸、ヒドロキシ吉草酸、ヒドロキシカプロン酸、ヒドロキシ安息香酸などのヒドロキシカルボン酸;カプロラクトン、バレロラクトン、プロピオラクトン、ウンデカラクトン、1,5−オキセパン−2−オンなどのラクトン類を挙げることができる。このような他の共重合成分は、全モノマー成分に対し、0〜30モル%であることが好ましく、0〜10モル%であることが好ましい。
【0018】
ポリ乳酸(A)の重量平均分子量は、例えば、1万〜40万、好ましくは5万〜30万、さらに好ましくは8万〜15万である。また、ポリ乳酸(A)の190℃、荷重21.2Nにおけるメルトフローレート[JIS K−7210(試験条件4)]は、例えば、0.1〜50g/10分、好ましくは0.2〜20g/10分、さらに好ましくは0.5〜10g/10分、特に好ましくは1〜7g/10分である。前記メルトフローレートの値が高すぎると、成膜して得られるフィルム又はシートの機械的特性や耐熱性が劣る場合がある。また、前記メルトフローレートの値が低すぎると、成膜時の負荷が高くなりすぎる場合がある。
【0019】
なお、本発明において、「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるもの(ポリスチレン換算)をいう。GPCの測定条件は下記の通りである。
カラム:TSKgel SuperHZM−H/HZ2000/HZ1000
カラムサイズ:4.6mmI.D.×150mm
溶離液:クロロホルム
流量:0.3ml/min
検出器:RI
カラム温度:40℃
注入量:10μl
【0020】
ポリ乳酸の製造方法としては特に制限はないが、代表的な製造方法として、ラクチド法、直接重合法などが挙げられる。ラクチド法は、乳酸を加熱脱水縮合して低分子量のポリ乳酸とし、これを減圧下加熱分解することにより乳酸の環状二量体であるラクチドを得、このラクチドをオクタン酸スズ(II)等の金属塩触媒存在下で開環重合することにより、高分子量のポリ乳酸を得る方法である。また、直接重合法は、乳酸をジフェニルエーテル等の溶媒中で減圧下に加熱し、加水分解を抑制するため水分を除去しながら重合させることにより直接的にポリ乳酸を得る方法である。
【0021】
ポリ乳酸(A)としては、市販品を使用できる。市販品として、例えば、商品名「レイシアH−400」、「レイシアH−100」(以上、三井化学社製)、商品名「テラマックTP−4000」、「テラマックTE−4000」(以上、ユニチカ社製)等が挙げられる。もちろん、ポリ乳酸(A)としては、公知乃至慣用の重合方法(例えば、乳化重合法、溶液重合法等)により製造したものを用いてもよい。
【0022】
[酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)]
本発明のフィルム又はシートの製造には、例えば、カレンダー成膜機等により、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を溶融状態にし、金属ロール間の空隙を通過させて成膜することが必要であるため、かかる樹脂組成物は、金属ロール表面から容易に剥離できなくてはならない。本発明のフィルム又はシートに含有される酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)は、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物に所望のロール滑性(すなわち、ロールからの剥離性)を付与する滑剤としての効果を有する。
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)の酸性官能基としては、例えば、カルボキシル基又はその誘導体基等が挙げられる。カルボキシル基の誘導体基とは、カルボキシル基から化学的に誘導されるものであって、例えば、カルボン酸の酸無水物基、エステル基、アミド基、イミド基、シアノ基等が挙げられる。好ましくは、カルボン酸無水物基である。
【0023】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)は、例えば、未変性ポリオレフィン系重合体に、上記の「酸性官能基」を含有する不飽和化合物(以下、酸性官能基含有不飽和化合物と略記する場合がある)をグラフト重合して得られる。
未変性ポリオレフィン系重合体としては、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ−4−メチルペンテン−1、エチレンとα−オレフィンの共重合体、プロピレンとα−オレフィンの共重合体等のポリオレフィン類のポリマー又はそれらのオリゴマー類;エチレン−プロピレンゴム、エチレン−プロピレン−ジエン共重合体ゴム、ブチルゴム、ブタジエンゴム、低結晶性エチレン−プロピレン共重合体、プロピレン−ブテン共重合体、エチレン−ビニルエステル共重合体、エチレン−メチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−エチル(メタ)アクリレート共重合体、エチレン−無水マレイン酸共重合体、ポリプロピレンとエチレン−プロピレンゴムのブレンド等のポリオレフィン系エラストマー類及びこれらの2種以上の混和物等が挙げられる。好ましくは、ポリプロピレン、プロピレンとα−オレフィンの共重合体、低密度ポリエチレン及びそれらのオリゴマー類であり、特に好ましくは、ポリプロピレン、プロピレンとα−オレフィンの共重合体及びそれらのオリゴマー類である。上記「オリゴマー類」としては、対応するポリマーから、熱分解による分子量減成法によって得られるもの等が挙げられる。かかるオリゴマー類は、重合法によっても得ることができる。
【0024】
酸性官能基含有不飽和化合物としては、例えば、カルボキシル基含有不飽和化合物、カルボキシル基の誘導体基含有不飽和化合物等が挙げられる。カルボキシル基含有不飽和化合物としては、例えば、マレイン酸、イタコン酸、クロロイタコン酸、クロロマレイン酸、シトラコン酸、(メタ)アクリル酸等が挙げられる。また、カルボキシル基の誘導体基含有不飽和化合物としては、例えば、無水マレイン酸、無水イタコン酸、クロロ無水イタコン酸、クロロ無水マレイン酸、無水シトラコン酸等のカルボン酸無水物基含有不飽和化合物;メチル(メタ)アクリレート、グリシジル(メタ)アクリレート、2−ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル酸エステル;(メタ)アクリルアミド、マレイミド、(メタ)アクリロニトリル等が挙げられる。好ましくは、カルボキシル基含有不飽和化合物、カルボン酸無水物基含有不飽和化合物であり、より好ましくは、カルボン酸無水物基含有不飽和化合物であり、さらに好ましくは、無水マレイン酸である。
【0025】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)は、重量平均分子量が、10,000〜80,000であることが重要であり、好ましくは、15,000〜70,000、より好ましくは、20,000〜60,000である。かかる重量平均分子量が、10,000未満ではフィルム又はシート成形後のブリードアウトの原因となり、80,000を超えるとロール混練中にポリ乳酸と分離するようになる。ここでブリードアウトとは、フィルム又はシート成形後に、時間経過により低分子量成分がフィルム又はシート表面に出てくる現象をいう。本発明において「重量平均分子量」とは、ゲルパーミエーションクロマトグラフィー(GPC)で測定されるものをいう。
【0026】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)中の酸性官能基は、オレフィン系ポリマーのどの位置に結合していてもよく、その変性割合は特に制限されないが、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)の酸価は通常10〜70mgKOH/gであり、好ましくは20〜60mgKOH/gである。かかる酸価が10mgKOH/g未満では、ロール滑性の向上効果が得られず、70mgKOH/gを超えると、ロールへのプレートアウトを引き起こす。ここでロールへのプレートアウトとは、金属ロールを用いて樹脂組成物を溶融成膜する際に、樹脂組成物に配合される成分又はその酸化、分解、化合もしくは劣化した生成物等が金属ロールの表面に付着又は堆積することをいう。なお、本発明において、「酸価」とは、JISK0070−1992の中和滴定法に準拠して測定されるものをいう。
【0027】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)は、酸性官能基含有不飽和化合物と未変性ポリオレフィン系重合体とを有機過酸化物の存在下で反応させることによって得られる。有機過酸化物としては、一般にラジカル重合において開始剤として用いられているものが使用できる。かかる反応は、溶液法、溶融法のいずれの方法によっても行うことができる。
溶液法では、未変性ポリオレフィン系重合体及び酸性官能基含有不飽和化合物の混合物を有機過酸化物とともに有機溶媒に溶解し、加熱することにより、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)を得ることができる。反応温度は、好ましくは、110〜170℃程度である。
溶融法では、未変性ポリオレフィン系重合体及び酸性官能基含有不飽和化合物の混合物を有機過酸化物と混合し、溶融混合して反応させることによって、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)を得ることができる。溶融混合は、押し出し機、プラベンダー、ニーダー、バンバリミキサー等の各種混合機で行うことができ、混練温度は通常、未変性ポリオレフィン系重合体の融点〜300℃の温度範囲である。
【0028】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)は、好ましくは無水マレイン酸基変性ポリプロピレンである。かかる酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)としては、市販品を用いることもでき、例えば、三洋化成工業株式会社製の「ユーメックス(登録商標)1010」(無水マレイン酸基変性ポリプロピレン、酸価:52mgKOH/g、重量平均分子量:32,000、変性割合:10重量%)、「ユーメックス(登録商標)1001」(無水マレイン酸基変性ポリプロピレン、酸価:26mgKOH/g、重量平均分子量:49,000、変性割合:5重量%)、「ユーメックス(登録商標)2000」(無水マレイン酸基変性ポリエチレン、酸価:30mgKOH/g、重量平均分子量:20,000、変性割合:5重量%)等が挙げられる。
【0029】
酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)の含有量は特に制限されず、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、通常、0.1〜10.0重量部、ロールへのプレートアウトがないロール滑性効果の持続性とバイオマス度維持の観点から、好ましくは、0.1〜5.0重量部、特に好ましくは、0.3〜3.0重量部である。かかる含有量が、0.1重量部未満では、ロール滑性向上効果が得がたく、10.0重量部を超えると、添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。ここでバイオマス度とは、フィルム又はシートの乾燥重量に対する使用したバイオマスの乾燥重量の割合のことである。また、バイオマスとは再生可能な、生物由来の有機性資源で化石資源を除いたものである。
【0030】
[テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)]
本発明のフィルム又はシートに含有されるテトラフルオロエチレン系ポリマー(C)は、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物の溶融張力を向上させ、溶融成膜過程の流動場での配向結晶化を可能にすることで、ポリ乳酸(A)の結晶化を促進することができる。また、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)はポリ乳酸(A)の結晶核剤としての効果を持ち合わせることから、成膜直後の樹脂組成物の温度を結晶化温度付近に設定することで、ポリ乳酸(A)の結晶化をさらに促進することができる。よって、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)は、ポリ乳酸(A)の結晶化を促進することにより、本発明のフィルム又はシートに耐熱性を付与することが可能である。さらに、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)は、後述の本発明のフィルム又はシートの難燃性評価時のドリップ防止にも有効である。
【0031】
本発明で使用するテトラフルオロエチレン系ポリマー(C)は、テトラフルオロエチレンの単独重合体又はテトラフルオロエチレンと他の単量体との共重合体であり、例えば、ポリテトラフルオロエチレン、パーフルオロアルコキシアルカン(テトラフルオロエチレンとパーフルオロアルキルビニルエーテルとの共重合体)、パーフルオロエチレンプロペンコポリマー(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンとの共重合体)、エチレン−テトラフルオロエチレンコポリマー(テトラフルオロエチレンとエチレンとの共重合体)、及びテトラフルオロエチレンとパーフルオロジオキソールとの共重合体等が挙げられる。好ましくは、ポリテトラフルオロエチレンである。
【0032】
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)のポリ乳酸(A)に対する結晶核剤としての効果は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)の結晶構造に依存していると考えられる。広角X線回折を行ったところ、ポリ乳酸(A)の結晶格子の面間隔が4.8オングストロームであるのに対して、テトラフルオロエチレン系ポリマーの面間隔は4.9オングストロームであった。このことより、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)は、エピタキシー的作用を有することにより、ポリ乳酸(A)の結晶核剤として働き得るものと考えられる。ここで、エピタキシー的作用とは、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)の表面でポリ乳酸(A)が結晶成長し、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)の結晶表面の結晶面にそろえてポリ乳酸(A)が配列する成長の様式をいう。
【0033】
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)の面間隔は、テトラフルオロエチレンと他の単量体との共重合体であっても、テトラフルオロエチレン部の結晶形態に支配されるため、面間隔はいずれも同じである。従って、ポリテトラフルオロエチレンの結晶形態が維持でき、物性が大きく変わらない程度であれば、共重合体中の他の単量体成分の量は特に限定されないが、通常、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)中の他の単量体成分の割合が5重量%以下であることが望ましい。
【0034】
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)の重合方法は特に限定されないが、乳化重合が特に好ましい。乳化重合で得られたテトラフルオロエチレン系ポリマー(C)は、繊維化しやすいためポリ乳酸(A)中でネットワーク構造を取りやすくなり、ポリ乳酸(A)を含有する樹脂組成物の溶融張力を向上させ、溶融成膜過程の流動場でのポリ乳酸(A)の結晶化促進に効果的であると考えられる。
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)の重量平均分子量は特に制限されず、通常100万〜1000万、好ましくは200万〜800万である。
【0035】
また、ポリ乳酸(A)中に均一に分散させるために、上記「テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)」の粒子を、例えば(メタ)アクリル酸エステル系重合体のような、ポリ乳酸(A)との親和性が良好なポリマーで変性したものを用いてもよい。このようなテトラフルオロエチレン系ポリマー(C)としては、アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンが挙げられる。
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)は、市販品を用いてもよく、例えば、ポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、旭硝子株式会社製の「フルオン(登録商標)CD−014」、「フルオン(登録商標)CD−1」、「フルオン(登録商標)CD−145」等が挙げられる。アクリル変性ポリテトラフルオロエチレンの市販品としては、例えば、三菱レイヨン株式会社製の、メタブレン(登録商標)Aシリーズ(A−3000、A−3800等)が挙げられる。
【0036】
テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)の含有量は、ポリ乳酸(A)100重量部に対して通常0.5〜15.0重量部、溶融張力向上効果とバイオマス度維持、及び良好な面状態を得るという観点から、好ましくは、0.7〜10.0重量部、特に好ましくは、1.0〜5.0重量部である。かかる含有量が、0.5重量部未満では、溶融張力向上の効果が得がたく、15.0重量部を超えると、添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。
【0037】
[芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)]
本発明のフィルム又はシートに含有される芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)は、ポリ乳酸(A)を含有する樹脂組成物に所望の難燃性を付与する難燃剤としての効果を有する。芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)は、下記一般式(I)で表される化合物を含む。
【0039】
(式中のn
1個のX
1、n
2個のX
2及びn
3個のX
3はそれぞれ独立して炭素数1〜14のアルキル基、炭素数6〜18のアリール基、炭素数1〜8のアルコキシ基または炭素数6〜18のアリールオキシ基を示し、n
1、n
2又はn
3は、それぞれ独立して0〜4の整数である。)
【0040】
X
1、X
2又はX
3で示される「炭素数1〜14のアルキル基」とは、炭素数1〜14の直鎖または分枝鎖状の飽和炭化水素基を意味し、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、イソプロピル基、ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基、ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、1,2−ジメチルプロピル基、1−エチルプロピル基、ヘキシル基、イソヘキシル基、1,2,2−トリメチルプロピル基、1,1−ジメチルブチル基、2,2−ジメチルブチル基、3,3−ジメチルブチル基、2−エチルブチル基、ヘプチル基、イソヘプチル基、オクチル基、イソオクチル基、ノニル基、イソノニル基、デシル基、イソデシル基、ウンデシル基、イソウンデシル基、ドデシル基、イソドデシル基、トリデシル基、イソトリデシル基、テトラデシル基、イソテトラデシル基等が挙げられ、好ましくは、炭素数1〜4のアルキル基であり、より好ましくはメチル基である。
【0041】
X
1、X
2又はX
3で示される「炭素数6〜18のアリール基」とは、炭素数6〜18の芳香族炭化水素基を意味し、例えば、フェニル基、ナフチル基(例、1−ナフチル基、2−ナフチル基)等が挙げられる。
【0042】
X
1、X
2又はX
3で示される「炭素数1〜8のアルコキシ基」とは、上記「炭素数1〜14のアルキル基」のうち炭素数が1〜8のアルキル基で置換された水酸基を意味し、例えば、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、イソプロポキシ基、ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、ペンチルオキシ基、イソペンチルオキシ基、ネオペンチルオキシ基、1,2−ジメチルプロポキシ基、1−エチルプロポキシ基、ヘキシルオキシ基、イソヘキシルオキシ基、1,2,2−トリメチルプロポキシ基、1,1−ジメチルブトキシ基、2,2−ジメチルブトキシ基、3,3−ジメチルブトキシ基、2−エチルブトキシ基、ヘプチルオキシ基、イソヘプチルオキシ基、オクチルオキシ基、イソオクチルオキシ基等が挙げられる。
【0043】
X
1、X
2又はX
3で示される「炭素数6〜18のアリールオキシ基」とは、上記「炭素数6〜18のアリール基」で置換された水酸基を意味し、例えば、フェノキシ基、ナフチルオキシ基(例、1−ナフチルオキシ基、2−ナフチルオキシ基)等が挙げられる。
【0044】
X
1、X
2又はX
3としては、好ましくは炭素数1〜14のアルキル基であり、より好ましくは炭素数1〜4のアルキル基であり、さらに好ましくはメチル基である。
X
1、X
2及びX
3が2つ以上存在する場合、各々のX
1、X
2又はX
3は同一でも異なっていてもよく、同一であることが好ましい。
また、X
1、X
2及びX
3は、各々同一でも異なっていてもよく、全て同一であることが好ましい。
【0045】
一般式(I)で表される化合物としては、例えば、トリフェニルホスフェート(TPP)、トリクレジルホスフェート(TCP)、トリキシレニルホスフェート(TXP)、クレジルジフェニルホスフェート、キシレニルジフェニルホスフェート、ジクレジルフェニルホスフェート、ビス-(t-ブチルフェニル)フェニルホスフェート、トリス-(t-ブチルフェニル)ホスフェート、イソプロピルフェニルジフェニルホスフェート、トリス-(イソプロピルフェニル)ホスフェート、クレジル2,6−キシレニルホスフェート、t−ブチルフェニルジフェニルホスフェート、などが挙げられる。中でもポリ乳酸との相溶性、難燃性および柔軟性付与効果の観点から、トリフェニルホスフェート、トリクレジルホスフェート、トリキシレニルホスフェートが好ましい。これらの化合物は、公知の方法によって製造するか、市販品を使用することができる。市販品としては、例えば、大八化学工業株式会社製の「TPP」、「TCP」、「TXP」等が挙げられる。
【0046】
芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)の含有量は、一般式(I)で表される化合物の少なくとも1種を、ポリ乳酸(A)100重量部に対し、15〜55重量部含むことが好ましい。より好ましくは、20重量部〜50重量部であり、さらに好ましくは25〜45重量部含むことが好ましい。かかる含有量が、15重量部未満では、難燃化効果が不十分であり、また柔軟性付与効果がほとんど得られない。難燃性や柔軟性は芳香族モノ燐酸エステル系難燃剤を多く添加するほど効果が高くなるが、55重量部を超えると、成膜時のブリードアウトの発生や、剥離性の低下につながり、また、機械的物性(破断強度、引裂強度等)の低下の原因ともなる。
【0047】
一般に、ポリ乳酸との相溶性の観点からすると、可塑化効果の高いリン酸エステル系難燃剤が好ましい。しかしながら低分子量の脂肪族リン酸エステル系難燃剤は可塑化効果が高いものの、分解温度が低く、150℃〜180℃で行われるポリ乳酸組成物の加工中に揮発しやすいという欠点を有する。一方、縮合系のリン酸エステルには、揮発などの問題は殆ど無いが、分子量が大きく、バルキーな構造のため可塑化効果が得られにくい。これに対し、リン酸エステル系難燃剤の中でも、本発明で用いる一般式(I)で表される芳香族リン酸エステルは、低分子量でありながら、分解温度が高く、揮発性も低い。しかもリン酸エステルを芳香族環で覆っているため水分の影響を受けにくく、耐加水分解性も良好である。また、縮合系と比べると燐含有量が高いため、より少量添加で高い難燃効果が得られるという優れた特徴を有する。
なお、本発明で用いる芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)はポリ乳酸と相溶性が良い。そのため、ポリ乳酸の結晶形成を阻害する可能性もあるが、難燃性付与に必要な本発明の範囲に含まれる添加量範囲では、殆ど結晶形成への影響はなく、耐熱性を維持することが可能である。
【0048】
[結晶化促進剤(E)]
本発明の樹脂組成物は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)以外に、他の結晶化促進剤(E)を含んでもよい。結晶化促進剤(E)は、結晶化促進の効果が認められるものであれば、特に限定されないが、ポリ乳酸(A)の結晶格子の面間隔に近い面間隔を持つ結晶構造を有する物質を選択することが望ましい。結晶格子の面間隔がポリ乳酸(A)の結晶格子の面間隔に近い物質ほど、ポリ乳酸(A)の結晶核剤としての効果が高いからである。そのような結晶化促進剤(E)としては、例えば、有機系物質であるポリリン酸メラミン、メラミンシアヌレート、フェニルホスホン酸亜鉛、フェニルホスホン酸カルシウム、フェニルホスホン酸マグネシウム、無機系物質のタルク、クレー等が挙げられる。中でも、最も面間隔がポリ乳酸(A)の面間隔に類似し、良好な結晶化促進効果が得られるフェニルホスホン酸亜鉛が好ましい。
結晶化促進剤(E)は、市販品を用いることができる。例えば、フェニルホスホン酸亜鉛の市販品としては、日産化学工業株式会社製の「エコプロモート」等が挙げられる。
【0049】
結晶化促進剤(E)の含有量は、ポリ乳酸(A)100重量部に対して、通常、0.1〜5重量部、より良好な結晶化促進効果とバイオマス度維持の観点から、好ましくは、0.3〜3重量部である。かかる含有量が、0.1重量部未満では、結晶化促進の効果が得がたく、5重量部を超えると、添加量に応じた効果が得られず、またバイオマス度の低下が問題となる。
【0050】
ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物は、本発明の目的を損なわない範囲で、必要に応じて各種の添加剤を含有してもよい。このような添加剤としては、公知の酸化防止剤、紫外線吸収剤、可塑剤、安定剤、離型剤、帯電防止剤、着色剤、ドリップ防止剤等が挙げられる。
【0051】
[難燃性]
本発明のフィルム又はシートの難燃性の評価は、UL94のVTM試験(薄手材料垂直燃焼性試験)方法に準拠して燃焼性試験を行い、VTM−0、VTM−1、VTM−2、NOTVTMの類別に分類することにより行う。類別に分類する基準は、「安全規格UL94 機器の部品用プラスチック材料の燃焼性試験 第5版」(Underwriters Laboratories Inc.)を参照する。
本発明のフィルム又はシートは、上記試験においてVTM−0に分類される、すなわち、UL94VTM−0規格を満たすことが好ましい。
【0052】
[機械特性]
本発明のフィルム又はシートの柔軟性の指標として、引張破断伸び及び応力残存率を測定した。
本発明のフィルム又はシートにおいて、JISK7161に記載の「プラスチック−引張特性」の試験方法に準じて測定した引張破断伸びは、100%以上であることが好ましい。また、上記試験方法に準じて測定された10%変位時の応力残存率は40%以下であることが好ましい。引張破断伸び及び応力残存率が上記範囲であれば、柔軟で、かつ、延伸時に応力緩和されるフィルム又はシートを得ることができる。
難燃性がUL94VTM−0規格を満足し、かつ、柔軟性および応力残存率が上記範囲内である本発明のフィルム又はシートは、ポリ乳酸(A)、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)及び芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)の含有量をそれぞれ本発明で規定する範囲内にすることで実現できる。特に、芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)の含有量を本発明で規定する範囲内とすることが重要である。
【0053】
本発明のフィルム又はシートの加熱変形率は、JISC3005に記載の加熱変形試験方法に準じて測定する。
本発明のフィルム又はシートは、120℃の温度雰囲気下で30分間、10Nの荷重を加えたときの変形率が40%以下であることが好ましい。
【0054】
本発明のフィルム又はシートの相対結晶化率は、DSCにて測定した、成膜後のフィルム又はシートのサンプルの昇温過程での結晶化に伴う発熱ピークの熱量ΔHcと、その後の融解に伴う熱量ΔHmから、以下の式(1)を用いて算出する。
相対結晶化率(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm×100 (1)
【0055】
本発明のフィルム又はシートは、相対結晶化率が50%以上であることが好ましい。
より好ましくは、本発明のフィルム又はシートは、JISC3005の加熱試験方法に準じて、120℃の温度雰囲気下で、30分間、10Nの荷重を加えたときの変形率が40%以下であり、上記式(1)で求められる相対結晶化率が50%以上である。
【0056】
かかる変形率が40%以下であり、かつ、相対結晶化率が50%以上である本発明のフィルム又はシートを得るには、ポリ乳酸(A)、酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)及び芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)の含有量をそれぞれ本発明で規定する範囲内にすること、中でも、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)の含有量および芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)の含有量を本発明で規定する範囲内にすることが重要である。また、本発明のフィルム又はシートの製造方法として、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を溶融成膜法により成膜することを含む方法であって、溶融成膜時の該樹脂組成物の温度が、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度である、及び/又は、溶融成膜された該樹脂組成物が、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃の間の温度[好ましくは、結晶化温度(Tc)±10℃]における結晶化促進工程を経てから冷却固化される、ことを特徴とする製造方法(後述)を用いることも、変形率が40%以下であり、かつ、相対結晶化率が50%以上である本発明のフィルム又はシートの実現に重要である。
【0057】
本発明のフィルム又はシートは一般に用いられるフィルム又はシートと同様の用途に使用できるが、特に粘着フィルム又はシートの基材として好適に使用できる。
【0058】
本発明のフィルム又はシートの製造方法は、特に制限されるものでなく、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を溶融成膜法により成膜する方法が好ましい。例えば、本発明のフィルム又はシートは、二軸押出機などによる連続溶融混練機、又は加圧ニーダー、バンバリミキサー、ロール混練機などのバッチ式溶融混練機により、各成分を均一分散させたポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を作成し、これをTダイ法、インフレーション法などの押出法又はカレンダー法、ポリッシング法などにより成膜、冷却固化することにより製造することができる。かかる溶融成膜法としては、好ましくは、溶融状態の樹脂組成物が2本の金属ロール間の空隙を通過することで所望の厚さに成膜される手法であり、特に好ましくは、カレンダー法、ポリッシング法である。
本発明のフィルム又はシートの厚さはその用途に応じ、適宜調整されるが、通常10〜500μm、好ましくは20〜400μm、特に好ましくは30〜300μmである。
【0059】
ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を溶融成膜法により成膜する場合、溶融成膜時の該樹脂組成物の温度(以下、溶融成膜時の樹脂温度という)は特に制限されないが、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度であることが好ましい。かかる温度に設定することにより、ポリ乳酸(A)の結晶化を促進し、本発明のフィルム又はシートが耐熱性を獲得しやすくなる。
例えば、該樹脂組成物をカレンダー法により溶融成膜する場合は、カレンダーロール圧延時の該樹脂組成物の温度(溶融成膜時の樹脂温度に相当する)を、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度に設定する。このように融点以下の温度で圧延することにより、配向結晶化が促進される。この配向結晶化促進効果は、該樹脂組成物がテトラフルオロエチレン系ポリマー(C)を含有することにより格段に向上する。テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)は、該樹脂組成物中でフィブリル化し、ネットワーク化すること、及びその結晶核剤としての効果の相乗効果により、配向結晶化を促進すると考えられる。従って、上記温度範囲で圧延することにより、本発明のフィルム又はシートは、平滑な表面状態とともに、配向結晶化促進効果により、良好な耐熱性(すなわち、相対結晶化率の低下抑制及び加熱変形率の上昇抑制)を実現することができる。
【0060】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの製造方法は、テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)による結晶化促進効果をより有効にするために、さらに、溶融成膜後の温度条件を制御する工程を備えていてもよい。具体的には、溶融成膜された該樹脂組成物を、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃の間の温度[好ましくは、結晶化温度(Tc)±10℃]に一旦保持することで結晶化を促進させる工程(以下、単に「結晶化促進工程」と略する場合がある)を経てから冷却固化させてもよい。すなわち、結晶化促進工程とは、溶融成膜された該樹脂組成物を、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃の間の温度[好ましくは、結晶化温度(Tc)±10℃]に温度制御された状態に晒す工程であり、溶融成膜後の平滑な表面状態を保持したままで、該樹脂組成物の結晶化を促進し得る工程である。このような温度制御の方法は特に限定されないが、例えば、所定の温度に加熱可能なロールやベルト等に、溶融成膜した該樹脂組成物を直接接触させる方法が挙げられる。
特に、所定の温度に常に制御する観点から、溶融成膜された該樹脂組成物を、所定の表面温度の金属ロールと接触させることが望ましい。従って、当該工程においても、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を金属ロールから簡単に剥離できる組成にすることが望ましく、この観点からも上述の酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)の添加が必要となる。
【0061】
なお、結晶化促進工程の時間は、できるだけ長いほうが好ましく、最終的に該樹脂組成物の結晶化の度合いに依存するので、一概には指定できないが、通常2〜10秒、好ましくは3〜8秒である。
【0062】
上記結晶化促進工程においては、他の結晶核剤の添加等で樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)が変化しても、予め、示差走査熱分析装置(DSC)で測定を行い、降温過程での結晶化に伴う発熱ピークの最高点温度を把握しておくことにより、常に最適な結晶化促進工程の温度条件を得ることができる。その際、該温度での加熱により得られるフィルム又はシートの形状変化は、ほとんど考慮する必要はないが、得られるフィルム又はシートの加熱変形率が40%以下となるような温度であることが好ましい。
【0063】
本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの製造方法としては、好ましくは、ポリ乳酸(A)含有樹脂組成物を溶融成膜法により成膜することを含む方法であって、溶融成膜時の該樹脂組成物の温度(溶融成膜時の樹脂温度)が、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)+15℃の温度から、昇温過程での融解温度(Tm)−5℃の間の温度である、及び/又は、溶融成膜された該樹脂組成物が、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃の間の温度[好ましくは、結晶化温度(Tc)±10℃]における結晶化促進工程を経てから冷却固化されることを特徴とする方法である。
【0064】
上記結晶化促進工程を含む本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの製造方法においては、結晶化促進工程で該樹脂組成物の結晶化を進めた後に冷却固化するため、内部応力が残存しにくく、得られたフィルム又はシートの使用時に極端な熱収縮を引き起こすことは無い。そのため、上記製造方法で成膜された本発明の高結晶化フィルムまたはシートは、ポリ乳酸の融点付近まで形状保持が可能であり、これまで使用できなかった耐熱性が必要な用途でも十分に使用可能となる。さらに、一度冷却固化した後に再度加熱するといった非効率な工程が不要になるため、上記製造方法は、経済性、生産性の面でも非常に有用な手法といえる。
【0065】
上記結晶化促進工程を含む本発明のポリ乳酸系フィルム又はシートの製造方法としては、溶融成膜工程から結晶化促進工程、冷却固化工程までを連続で行う方式が、処理時間の短縮となるため、生産性の点で望ましい。このような方法としては、カレンダー成膜機、ポリッシング成膜機等を用いる方法が挙げられる。
図1に、かかる製造方法に用いられる一実施形態のカレンダー成膜機の模式図を示す。
以下に、
図1を詳細に説明する。
第1ロール(1)、第2ロール(2)、第3ロール(3)、第4ロール(4)という、4本のカレンダーロール間で溶融状態の樹脂組成物を圧延して徐々に薄くしていき、最終的に第3ロール(3)と第4ロール(4)の間を通過した時に所望の厚さになるよう調製される。カレンダー成膜の場合、第1〜第4ロール(1)〜(4)における樹脂組成物の成膜が「溶融成膜工程」に相当する。また、該樹脂組成物の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃の間の温度[好ましくは、結晶化温度(Tc)±10℃]に設定したテイクオフロール(5)は、溶融成膜された該樹脂組成物(8)が最初に接触するロール群を示し、1つまたは2つ以上(
図1では3本)のロール群で構成され、第4ロール(4)から溶融状態の該樹脂組成物(8)を剥離する役割を果たす。このように、テイクオフロール(5)が複数のロールから構成され、各々のロールの温度調節が可能である場合、各々のロールの温度は同じであることが好ましいが、所望の温度範囲内であれば、異なっていても良い。テイクオフロール(5)の本数は多いほうが、等温結晶化時間が長くなり、結晶化を促進するのに有利である。カレンダー成膜の場合、テイクオフロール(5)において、溶融成膜された該樹脂組成物(8)の結晶化が促進されるので、該樹脂組成物(8)がテイクオフロール(5)を通過する工程が「結晶化促進工程」に相当する。
二本の冷却ロール(6)および(7)は、それらの間に該樹脂組成物(8)を通過させることにより該樹脂組成物(8)を冷却し、固化させるとともにその表面を所望の形状に成形する役割を果たす。そのため、通常は一方のロール(例えば、冷却ロール(6))が金属ロールで、該樹脂組成物(8)の表面形状を出すためにロール表面がデザインされたものであり、他方のロール(例えば、冷却ロール(7))としてゴムロールが使用される。なお、図中の矢印はロールの回転方向を示す。
【0066】
図2に、かかる製造方法に用いられる一実施形態のポリッシング成膜機の模式図を示す。以下に、
図2を詳細に説明する。
押出機(図示せず。)の押出機先端部(10)を、加熱した第2ロール(2)および第3ロール(3)の間に配置し、予め設定された押出し速度で、第2ロール(2)および第3ロール(3)の間に溶融状態の樹脂組成物(8)を連続的に押し出す。押し出された樹脂組成物(8)は、第2ロール(2)および第3ロール(3)の間で圧延されて薄くなり、最終的に第3ロール(3)と第4ロール(4)の間を通過した時に所望の厚さになるよう調製される。ポリッシング成膜の場合、第2〜第4ロール(2)〜(4)における樹脂組成物(8)の成膜が「溶融成膜工程」に相当する。その後、該樹脂組成物(8)の降温過程での結晶化温度(Tc)−25℃の温度から結晶化温度(Tc)+10℃の間の温度[好ましくは、結晶化温度(Tc)±10℃]に設定された3本のテイクオフロール(5)を通過し、最後に冷却ロール(6)および(7)を通過することで、固化したフィルム又はシートが作製される。ポリッシング成膜の場合、テイクオフロール(5)を通過する工程が「結晶化促進工程」に相当する。
【実施例】
【0067】
以下、本発明について実施例及び比較例を挙げてさらに具体的に説明する。本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0068】
後述する表1に用いる材料名の略号を下記に示す。
【0069】
[ポリ乳酸(A)]
A1:レイシア(登録商標)H−400(三井化学株式会社製)
【0070】
[酸性官能基変性オレフィン系ポリマー(B)]
B1:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(重量平均分子量=49,000、酸価=26mgKOH/g):ユーメックス(登録商標)1001(三洋化成工業株式会社製)
B2:無水マレイン酸変性ポリプロピレン(重量平均分子量=32,000、酸価=52mgKOH/g):ユーメックス(登録商標)1010(三洋化成工業株式会社製)
(B1)成分及び(B2)成分との比較のため、以下の(B’)成分を検討した。
B’:未変性の低分子量ポリプロピレン(重量平均分子量=23,000、酸価=0mgKOH/g):ビスコール(登録商標)440P(三洋化成工業株式会社製)
【0071】
[テトラフルオロエチレン系ポリマー(C)]
C1:ポリテトラフルオロエチレン:フルオン(登録商標)CD−014(旭硝子株式会社製)
C2:アクリル変性ポリテトラフルオロエチレン:メタブレン(登録商標)A−3000(三菱レイヨン株式会社製)
【0072】
[芳香族リン酸エステル系難燃剤(D)]
D1:トリフェニルホスフェート(TPP、大八化学工業株式会社製)分子量326
D2:トリクレジルホスフェート(TCP、大八化学工業株式会社製)分子量368
D3:トリキシレニルホスフェート(TXP、大八化学工業株式会社製)分子量410
(D1)、(D2)および(D3)成分との比較のため、以下の脂肪族リン酸エステル系難燃剤(D’)を対比検討に用いた。
D’:トリス(2−エチルヘキシル)ホスフェート(TOP、大八化学工業株式会社製)分子量435
【0073】
[結晶化促進剤(E)]
E1:フェニルホスホン酸亜鉛:エコプロモート(日産化学工業株式会社製)
【0074】
実施例1
上記の原材料が表1に示す配合割合で配合された樹脂組成物を調製し、バンバリミキサーにて溶融混練を行った後、逆L型4本カレンダーにて厚さ100μmになるようにカレンダー成膜を行った。次に、
図1のように溶融成膜工程の直後に、任意の温度に加熱可能なロール(テイクオフロール)を3本配し、溶融成膜された樹脂組成物が上下交互に通過できるようにすることで結晶化促進工程とした。その後に冷却ロールを通過することで樹脂組成物を固化し、フィルムを作成した。溶融成膜時の樹脂組成物の温度(溶融成膜時の樹脂温度)は、
図1における第4ロール(4)に相当するロールの表面温度とみなし、結晶化促進工程における樹脂組成物の温度は、
図1の3本のテイクオフロール(5)の表面温度を略同一とし、その温度を結晶化促進温度とした。成膜速度は5m/minとし、実質的な結晶化促進工程の時間(テイクオフロール通過時間)は約5秒間であった。
【0075】
実施例2〜4
下記表1に示す配合割合で樹脂組成物を調製し、実施例1と同様の操作により実施例2〜4のフィルムをそれぞれ作成した。
【0076】
比較例1〜5
下記表1に示す配合割合で樹脂組成物を調製し、実施例1と同様の操作により比較例1〜5のフィルムをそれぞれ作成した。
実施例および比較例で作製した試料の評価は下記のようにして行った。
【0077】
<融解温度>
DSCにて測定した、成膜後の樹脂組成物の再昇温過程での融解に伴う吸熱ピークのトップ時の温度を融解温度(Tm;結晶融解ピーク温度ともいう)とした。
【0078】
<結晶化温度>
DSCにて測定した、成膜後の樹脂組成物の200℃からの降温過程での結晶化に伴う発熱ピークのピークトップ時の温度を結晶化温度(Tc;結晶化ピーク温度ともいう)とした。
【0079】
<成膜性評価>
(1)剥離性:
図1の第4ロール(4)からの溶融成膜された樹脂組成物の剥離性により評価し、テイクオフロール(5)で引き取り可能である状態を「○」、テイクオフロール(5)で引き取り不可である状態を「×」と、判定した。
(2)耐揮発性: 成膜時の樹脂組成物を目視で観察し、揮発(白煙)が確認されない状態を「○」(なし)、揮発が確認される状態を「×」(あり)と、判定した。
(3)ロールへのプレートアウト: ロール表面の汚れを目視により評価し、ロール表面の汚れがない状態を「○」、ロール表面の汚れがある状態を「×」と判定した。
なお、比較例3については、剥離しなかったため、ロールへのプレートアウトの評価を行わなかった。
【0080】
<相対結晶化率>
DSC(示差走査熱分析装置)にて測定した、成膜後のフィルムサンプルの昇温過程での結晶化に伴う発熱ピークの熱量ΔHcと、その後の融解に伴う熱量ΔHmから、以下の式(1)を用い算出した。なお、比較例3については、剥離しなかったため、測定をしていない。
相対結晶化率(%)=(ΔHm−ΔHc)/ΔHm×100 (1)
合否判定:相対結晶化率50%以上を合格とする。
【0081】
融解温度(Tm)、結晶化温度(Tc)及び相対結晶化率の測定で使用したDSC及び測定条件は、以下の通りである。
装置:エスアイアイ・ナノテクノロジー株式会社製 DSC6220
条件:測定温度域 20℃→200℃→0℃→200℃
(すなわち、まず20℃から200℃への昇温過程での測定に続けて
、200℃から0℃への降温過程での測定を行い、最後に0℃から
200℃への再昇温過程での測定を行った。)
昇温/降温速度:2℃/min
測定雰囲気:窒素雰囲気下(200ml/min)
なお、再昇温過程で、結晶化に伴う発熱ピークが無かったことから、2℃/minの降温速度で結晶化可能領域が100%結晶化するものと判断し、相対結晶化率の算出式の妥当性を確認した。
【0082】
<加熱変形率>
JISC3005の加熱変形試験方法に準じ測定した。使用した測定装置及び測定条件は、以下の通りである。
装置:テスター産業株式会社製 加熱変形試験機
条件:試料サイズ:厚さ1mm×幅25mm×長さ40mm
(フィルムを総厚1mmになるように重ねた。)
測定温度:120℃
荷重:10N
測定時間:30分(再結晶化を考慮し、エージングなしで試験開始)
加熱変形率算出方法:試験前の厚みT1と試験後の厚みT2を測定し、以下の式(2)を用い算出した。なお、比較例3については、剥離しなかったため、測定をしていない。
加熱変形率(%)=(T1−T2)/T1×100 (2)
合否判定:40%以下を合格とする。
【0083】
<引張破断伸び>
JISK7161のプラスチック−引張特性の試験方法に準じて測定した。
使用した測定装置および測定条件は、以下の通りである。
装置:引張試験機(オートグラフAG−20kNG、(株)島津製作所製)
試料サイズ:厚さ0.1mm×幅10mm×長さ100mm
なお、長さ方向に平行な方向がフィルム成膜時の流れ方向(MD)
となるように切り出した。
測定条件:チャック間距離 50mm
引張速度 300mm/min
合否判定:上記の条件で各試料について測定し、フィルム破断時の伸び値を測定して引張破断伸びを得た。引張破断伸びが100%以上のものを合格と判定した。
【0084】
<応力残存率>
応力緩和性の指標となる応力残存率については、JISK7161のプラスチック−引張特性の試験方法に準じて測定した。
使用した測定装置および測定条件は、以下の通りである。
装置:引張試験機(オートグラフAG−20kNG、(株)島津製作所製)
条件:試料サイズ:厚さ0.1mm×幅10mm×長さ100mm
なお、長さ方向に平行な方向がフィルム成膜時の流れ方向(MD)
となるように切り出した。
チャック間距離 50mm
引張速度 300mm/min
測定:変位が10%となったところで変位を止め、その位置で保持する。
そのときの応力を100%とし、60秒後の応力値の残存量を読み
取り、「応力残存率」を求めた。
合否判定:応力残存率が40%以下のものを合格と判定した。
【0085】
<難燃性試験(UL−94VTM)>
UL94のVTM試験方法(薄肉材料の垂直燃焼試験)に準じて測定した。評価に用いたフィルム試験片は100μmとした。なお、比較例3については、剥離しなかったため、測定をしていない。
合否判定:VTM−0規格を満足するものを合格と判定した。
【0086】
表1の組成表に基づいて作製した実施例1〜4及び比較例1〜5の各試験片についての評価結果を表2に示す。
【0087】
表2に示す評価結果から、本発明に係る実施例1〜4のフィルムはいずれも難燃性に優れ、また、引張破断伸びが100%以上であって、応力残存率が40%以下であることから柔軟性が確保されていた。さらに、相対結晶化率が高く、加熱変形率が抑制されていることにより耐熱性が維持されていることも確認された。加えて、剥離性及び耐揮発性のいずれもが良好で、ロールへのプレートアウトも発生していなかった。
一方、芳香族リン酸エステル系難燃剤に代えて、脂肪族リン酸エステル系難燃剤を用いた比較例1のフィルムは、成膜時の樹脂組成物から、難燃剤成分などの揮発(白煙)が確認された。また、酸性官能基変性オレフィン系ポリマーを含まない比較例3のフィルムは、ロールから剥離しないという問題が生じた。芳香族リン酸エステル系難燃剤を過剰に含む比較例2は、加熱変形率が大きく耐熱性が不十分であった。芳香族リン酸エステル系難燃剤の含有量が不足した比較例4及び5は、いずれも難燃性と柔軟性が不十分であった。すなわち、本発明に係る成分を含まないか、又は本発明の配合割合でない比較例1〜5では、所望の難燃性、柔軟性、耐熱性を全て満足するフィルムが得られなかった。
【0088】
【表1】
【0089】
【表2】