特許第5726103号(P5726103)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726103
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】アーク炉の溶解状態判定装置
(51)【国際特許分類】
   F27B 3/28 20060101AFI20150507BHJP
   H05B 7/148 20060101ALI20150507BHJP
   F27D 21/04 20060101ALI20150507BHJP
   F27B 3/08 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   F27B3/28
   H05B7/148 A
   F27D21/04
   F27B3/08
【請求項の数】4
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2012-34810(P2012-34810)
(22)【出願日】2012年2月21日
(65)【公開番号】特開2012-207904(P2012-207904A)
(43)【公開日】2012年10月25日
【審査請求日】2014年3月18日
(31)【優先権主張番号】特願2011-58632(P2011-58632)
(32)【優先日】2011年3月17日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003713
【氏名又は名称】大同特殊鋼株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000170484
【氏名又は名称】合同製鐵株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107700
【弁理士】
【氏名又は名称】守田 賢一
(72)【発明者】
【氏名】大橋 隆宏
(72)【発明者】
【氏名】水谷 航太
(72)【発明者】
【氏名】佐藤 光彦
(72)【発明者】
【氏名】北林 庄治
(72)【発明者】
【氏名】亀島 隆俊
(72)【発明者】
【氏名】高宮 仁成
(72)【発明者】
【氏名】佐々木 省治
【審査官】 田中 永一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2011−069606(JP,A)
【文献】 特開昭59−205189(JP,A)
【文献】 特表2009−503419(JP,A)
【文献】 特開平11−083330(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F27B 3/00 − 3/28
F27D 11/08
F27D 21/00 − 21/04
H05B 7/148
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アーク炉の炉用変圧器の一次側電圧を検出して基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電圧成分を得る電圧検出手段と、上記高調波電圧成分の電圧値が所定値よりも一定時間以上低下したことでスクラップの溶解完了を判定する判定手段と、を備えるアーク炉の溶解状態判定装置。
【請求項2】
上記高調波電圧成分は基本周波数の2倍のものである請求項1に記載のアーク炉の溶解状態判定装置。
【請求項3】
アーク炉の炉用変圧器の一次側電流を検出して基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電流成分を得る電流検出手段と、上記高調波電流成分の電流値が所定値よりも一定時間以上低下したことでスクラップの溶解完了を判定する判定手段と、を備えるアーク炉の溶解状態判定装置。
【請求項4】
上記高調波電流成分は基本周波数の2倍のものである請求項3に記載のアーク炉の溶解状態判定装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はアーク炉の溶解状態判定装置に関し、特に、スクラップの溶解完了の判定を確実に行うことができる溶解状態判定装置に関する。
【背景技術】
【0002】
アーク炉においてはスクラップの初装溶解から、さらにスクラップを追装して溶解する追装溶解を経て、溶落後の酸化精錬へと複数のステップを経て1チャージの操業を行う。この場合、前ステップから次ステップへの移行はスクラップの追装可ないし溶落等の溶解完了を確認して行うが、密閉式のアーク炉では操業中の炉内を観察することが困難なため、従来は投入電力量のパターンを予めプログラム的に定めている。しかし、スクラップの形状や材質等のバラツキが大きいため、プログラム的な制御では実際のスクラップ溶解状態とのずれが大きくなり、安全率をみて充分なマージンを確保すると無駄な電力消費や熱損失、ホットスポットの発生等を招くという問題がある。
【0003】
そこで、例えば特許文献1では、アーク炉の炉壁に接してマイクロホンを設けて炉内放電音を電流波形として可視化し、電流波形が振幅の小さい安定した状態になったことで溶落を判定するアーク炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特公昭55−17314
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、上記従来の、炉内放電音を電流波形として可視化して電流波形の変化によって溶落を判定するものでは未だ確実な判定ができないという問題があった。
【0006】
そこで、本発明はこのような課題を解決するもので、スクラップの溶解完了を確実に判定して無駄な電力消費等を生じることなく次ステップへの工程移行を行うことができるアーク炉の溶解状態判定装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために、本第1発明では、アーク炉の炉用変圧器(2)の一次側電圧を検出して基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電圧成分を得る電圧検出手段(7)と、上記高調波電圧成分の電圧値が所定値よりも一定時間以上低下したことでスクラップの溶解完了を判定する判定手段(4)と、を備えている。なお、ここで「溶解完了」には、スクラップの追装を可能にする「追装可」と、酸化精錬等へ移行する「溶落」が含まれる。すなわち、上記「一定時間」を相対的に短く設定すれば「追装可」が判定でき、「一定時間」を相対的に長く設定すれば「溶落」が判定できる。
【0008】
発明者の実験によると、スクラップの溶解完了の際には、炉用変圧器の一次側電圧の電圧成分のうち、基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電圧成分の電圧値が大きく低下する。そこで、上記基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電圧成分の電圧値が所定値を一定時間以上下回ったことによってスクラップの溶解完了と判定すれば、炉内でのスクラップの溶解完了を確実に判定することができ、それ以後の無駄な電力消費等を回避することができる。
【0009】
本第2発明では、アーク炉の炉用変圧器の一次側電流を検出して基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電流成分を得る電流検出手段と、上記高調波電流成分の電流値が所定値よりも一定時間以上低下したことでスクラップの溶解完了を判定する判定手段と、を備えている。なお、ここで「溶解完了」には、スクラップの追装を可能にする「追装可」と、酸化精錬等へ移行する「溶落」が含まれる。すなわち、上記「一定時間」を相対的に短く設定すれば「追装可」が判定でき、「一定時間」を相対的に長く設定すれば「溶落」が判定できる。
【0010】
発明者の実験によると、スクラップの溶解完了の際には、炉用変圧器の一次側電流の電流成分のうち、基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電流成分の電流値が大きく低下する。そこで、上記基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電流成分の電流値が所定値を一定時間以上下回ったことによってスクラップの溶解完了と判定すれば、炉内でのスクラップの溶解完了を確実に判定することができ、それ以後の無駄な電力消費等を回避することができる
【0011】
本発明は方法としても実現でき、この場合、アーク炉の溶解状態判定方法は、アーク炉の炉用変圧器の一次側電圧を検出して基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電圧成分を得、上記高調波電圧成分の電圧値が所定値よりも一定時間以上低下したことでスクラップの溶解完了と判定する。
【0012】
また、アーク炉の溶解状態判定方法は、アーク炉の炉用変圧器の一次側電流を検出して基本周波数の偶数倍の周波数の高調波電流成分を得、上記高調波電流成分の電流値が所定値よりも一定時間以上低下したことでスクラップの溶解完了と判定する。
【0013】
なお、上記偶数倍の周波数は2倍とするのが好ましく、これによれば、スクラップの溶解完了時の高調波電圧成分の電圧値低下を確実に検出することができる。
【0014】
上記カッコ内の符号は、後述する実施形態に記載の具体的手段との対応関係を示すものである。
【発明の効果】
【0015】
以上のように、本発明のアーク炉の溶解状態判定装置によれば、スクラップの溶解完了を確実に判定して無駄な電力消費等を生じることなく次ステップへの工程移行を行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
図1】溶解状態判定装置を備えたアーク炉の電気系統図である。
図2】第1実施形態における炉用変圧器の一次側電圧の周波数成分の時間変化を示す図である。
図3】炉用変圧器の一次側電圧の周波数成分の時間変化を示す図である。
図4】炉用変圧器の一次側電圧と一次側電流の周波数成分の時間変化を示す図である。
図5】第2実施形態における炉用変圧器の一次側の2次高調波電流の時間変化を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(第1実施形態)
図1において、商用電源に至る主回路1にはタップチェンジャを備えた炉用変圧器2が設けられ、その二次側回路11はアーク炉3の電極31に至っている。炉用変圧器2からは現在選択されているタップ位置の信号2aが制御装置4へ出力され、一方、制御装置4からは炉用変圧器2に対して所要のタップ位置を選択するためのタップ選択指令信号4aが出力されている。二次側回路11には計器用変流器51と計器用変圧器52が設けられて、制御装置4へそれぞれ二次側回路11の電流(アーク電流)Iと電圧(アーク電圧)Vがフィードバックされている。なお、主回路1から電極31の間は実際には三相交流であることが多いが、炉用変圧器2の直後に整流装置が挿入される直流アーク炉に対しても本発明は適用可能である。電極31は図略の電極昇降機構に保持されて昇降可能となっていおり、制御装置4からの電流指令信号4bを受けた電極昇降装置6によって炉内のスクラップ32に対して適宜上昇ないし下降させられる。
【0018】
炉用変圧器2の一次側である主回路1には電圧検出手段としての高調波計7が接続してあり、一次側電圧の高調波成分信号が制御装置4へ出力されている。制御装置4では高調波成分信号の挙動より後述の手順によってアーク炉3のスクラップの追装可や溶落を把握して、次ステップのスクラップ追装や酸化精錬への移行の可否が判定される。
【0019】
ここで、図2には商用電源の基本周波数が50Hz、炉用変圧器2の容量が75MVA、炉容量が100tであった場合の、基本周波数に対し2倍、4倍、6倍、8倍の周波数を有する2次、4次、6次、8次の各電圧高調波成分の時間変化を示す。図2に示すように、初装溶解においてその終期にスクラップの溶解が進行して追装可になると、各高調波の電圧値は大きく低下する。閾値電圧を例えば、2次高調波電圧として0.15kVに設定しておくと、溶解初期に閾値電圧を上回っていた2次高調波はスクラップの溶解が進行する溶解終期には閾値電圧を下回るようになる。そこで、2次高調波電圧が閾値電圧を一定時間(例えば10秒)以上下回った時にスクラップの追装可と判定してこれを報知する。これにより、スクラップの追装が行われて、次ステップの追装1溶解が開始される。
【0020】
なお、本実施形態では操業上の理由で、追装1溶解においては2次高調波が閾値電圧より下回らないうちに、スクラップの追装がなされて次ステップの追装2溶解が開始される。追装2溶解においても初装溶解時と同様に、溶解初期に閾値電圧を上回っていた2次高調波の電圧値は、スクラップの溶解が進行する溶解終期には閾値電圧を下回るようになる。そこで、2次高調波の電圧値が閾値電圧を一定時間(例えば30秒)以上下回った時に溶落と判定し、この場合は、制御装置4からのタップ選択指令信号4aによって炉用変圧器2のタップ位置が適宜変更されて次ステップの酸化精錬工程へ移行する。このようにして、スクラップの追装可ないし溶落が確実に判定されるから、これ以後の無駄な電力投入を回避しつつ次ステップへの工程移行を行うことができる。
【0021】
なお、上記実施形態においては追装可と溶落の判定を、2次高調波の電圧値が同じ閾値電圧を下回る時間的長さで判定しているが、これに代えて、追装可と溶落の判定を異なる閾値電圧で行うようにしても良い。また、上記実施形態に示すように追装可ないし溶落の判定には2次電圧高調波を使用するのが好ましいが、閾値電圧をより低い値に変更すれば、4次、6次、8次の電圧高調波の電圧値によっても溶解完了ないし溶落を判定することができる。いずれにしても偶数次の電圧高調波を使用する必要がある。すなわち、図3に1次、3次、5次、7次について例示するように、奇数次の電圧高調波では、スクラップの溶解が進行してもその電圧値が大きく低下することはないからである。
【0022】
また、図4から明らかなように、スクラップ溶解工程における炉用変圧器一次側の2次高調波電流(図中線Y)は、上記実施形態で説明した2次高調波電圧(図中線X)と同様の挙動、すなわちスクラップの溶解が進行するにつれてその値が大きく低下するから、高調波電圧に代えて上記と同様の方法で高調波電流を使用してアーク炉の溶解状態を判定することもできる。
【0023】
(第2実施形態)
高調波電流を使用したアーク炉の溶解状態判定の一例を図5に示す。図5は炉用変圧器2の一次側の、2次高調波電流の時間変化を示すもので、初装溶解においてその終期にスクラップの溶解が進行して追装可になると、高調波電流値は大きく低下する。適当な閾値電流Aを設定しておくと、溶解初期に閾値電流Aを上回っていた2次高調波電流はスクラップの溶解が進行する溶解終期には閾値電流Aを下回るようになる。そこで、2次高調波電流が閾値電流Aを一定時間(例えば10秒)以上下回った時にスクラップの追装可と判定してこれを報知する。これにより、スクラップの追装が行われて、次ステップの追装1溶解が開始される。
【0024】
追装1溶解においても適当な閾値電流Bを設定することにより、2次高調波電流が閾値電流Bを一定時間(例えば7秒)下回るとスクラップの追装可と判定してこれを報知する。これにより、スクラップの追装が行われて、次ステップの追装2溶解が開始される。追装2溶解においても初装溶解時と同様に、溶解初期に閾値電流Cを上回っていた2次高調波電流は、スクラップの溶解が進行する溶解終期には閾値電流Cを下回るようになる。そこで、2次高調波電流が閾値電流Cを一定時間(例えば5秒)以上下回った時に溶落と判定し、この場合は、制御装置4からのタップ選択指令信号4aによって炉用変圧器2のタップ位置が適宜変更されて次ステップの酸化精錬工程へ移行する。このようにして、スクラップの追装可ないし溶落が確実に判定されるため、これ以後の無駄な電力投入を回避しつつ次ステップへの工程移行を行うことができる。
【符号の説明】
【0025】
2…炉用変圧器、3…アーク炉、4…制御装置(判定手段)、7…高調波計(電圧検出手段)。
図1
図2
図3
図4
図5