特許第5726105号(P5726105)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5726105マルチセル無線ネットワークにおける協調的MIMO
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726105
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】マルチセル無線ネットワークにおける協調的MIMO
(51)【国際特許分類】
   H04W 16/28 20090101AFI20150507BHJP
   H04J 99/00 20090101ALI20150507BHJP
   H04J 11/00 20060101ALI20150507BHJP
   H04J 1/00 20060101ALI20150507BHJP
   H04B 7/04 20060101ALI20150507BHJP
   H04B 7/02 20060101ALI20150507BHJP
   H04B 7/10 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   H04W16/28
   H04J15/00
   H04J11/00 Z
   H04J1/00
   H04B7/04
   H04B7/02 Z
   H04B7/10 A
【請求項の数】47
【全頁数】21
(21)【出願番号】特願2012-37197(P2012-37197)
(22)【出願日】2012年2月23日
(62)【分割の表示】特願2007-544635(P2007-544635)の分割
【原出願日】2005年12月7日
(65)【公開番号】特開2012-147447(P2012-147447A)
(43)【公開日】2012年8月2日
【審査請求日】2012年3月14日
(31)【優先権主張番号】11/007,570
(32)【優先日】2004年12月7日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】504374746
【氏名又は名称】アダプティックス インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】100107308
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 修一郎
(72)【発明者】
【氏名】シェン,マニュアン
(72)【発明者】
【氏名】ズァイイング,グワンビン
(72)【発明者】
【氏名】リウ,フイ
【審査官】 佐藤 敬介
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許出願公開第2006/0182063(US,A1)
【文献】 国際公開第2006/016485(WO,A1)
【文献】 米国特許出願公開第2002/0102950(US,A1)
【文献】 国際公開第02/099995(WO,A2)
【文献】 特開2000−324559(JP,A)
【文献】 特開2004−064108(JP,A)
【文献】 国際公開第2004/077734(WO,A2)
【文献】 特開2004−194262(JP,A)
【文献】 特開2000−082987(JP,A)
【文献】 特表2000−516313(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H04W 4/00−99/00
H04B 7/02−7/12
H04J 1/00
H04J 11/00
H04J 99/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の基地局のアンテナ素子を利用して、無線ネットワークにおける協調的複数入出力(MIMO)伝送をサポートするステップと、
第1の設備に配置されたマスタ・エンコーダによりアンテナ駆動信号を生成するステップと、
前記アンテナ駆動信号の各部分を前記複数の基地局のそれぞれに送信するステップと、
前記複数の基地局のそれぞれにおいて選択されたアンテナ素子を駆動することにより、前記アンテナ駆動信号の各部分が前記複数の基地局に送信されるようになる、協調的MIMO伝送を実施するステップと、
を含む方法。
【請求項2】
前記協調的MIMO伝送は、直交周波数分割多元接続(OFDMA)MIMO伝送を含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
時空符号化を使用して前記協調的MIMO伝送を符号化するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項4】
前記時空符号化は、時空トレリス符号化を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記時空符号化は、時空ブロック符号化を含む、請求項3に記載の方法。
【請求項6】
前記時空符号化は遅延ダイバシティを有する請求項3に記載の方法。
【請求項7】
空間周波数符号化を使用して前記協調的MIMO伝送を符号化するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項8】
時空周波数符号化を使用して前記協調的MIMO伝送を符号化するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項9】
前記協調的MIMO伝送に対して空間多重化を実施するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項10】
前記協調的MIMO伝送は、前記複数の基地局から端末へのダウンリンク伝送と、前記端末から前記複数の基地局へのアップリンク伝送とを含む、請求項1に記載の方法。
【請求項11】
選択された協調的MIMO伝送に関する空間ビーム形成を実施するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項12】
前記選択された協調的MIMO伝送の空間ビーム形成を、時空符号化、空間周波数符号化、および時空周波数符号化のうちの1つと組み合わせて実施するステップをさらに含む請求項11に記載の方法。
【請求項13】
協調的MIMO伝送を同時に少なくとも2つの端末に送信するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項14】
前記協調的MIMO伝送が宛先ユーザに誘導される一方で、非宛先ユーザに対しては空間ヌル化が有効になるような前記協調的MIMO伝送の空間ビーム形成を実施するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項15】
複数の端末から受信されたアップリンク協調的MIMO伝送を連結的に復号化するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項16】
複数の端末において受信されたダウンリンク協調的MIMO伝送を連結的に復号化するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項17】
複数の端末から受信されたアップリンク協調的MIMO伝送を個別的に復号化するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項18】
複数の端末に送信されるダウンリンク協調的MIMO伝送を連結的に符号化するステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項19】
連結的に符号化された前記ダウンリンク協調的MIMO伝送を端末側で復号化するステップと、
連結的に符号化された前記ダウンリンク協調的MIMO伝送を介して送信された前記端末宛てのデータ部分については保持し、前記端末宛てではない他のデータ部分については破棄するステップとをさらに含む請求項18に記載の方法。
【請求項20】
連結的に符号化された前記ダウンリンク協調的MIMO伝送を前記複数の各端末側で個別的に復号化するステップをさらに含む請求項18に記載の方法。
【請求項21】
前記第1の設備は、前記複数の基地局のうちの1つと同じ場所に配置される、請求項1に記載の方法。
【請求項22】
前記複数の基地局に送信される前記アンテナ駆動信号の各部分の伝送を同期させるステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項23】
前記協調的MIMO伝送を実施して無線ネットワークのセルまたはセクター間の端末ハンドオフを円滑にするステップをさらに含む請求項1に記載の方法。
【請求項24】
複数の基地局のアンテナ素子を利用して、無線ネットワークにおける協調的複数入出力(MIMO)伝送をサポートするステップと、
対応する協調的MIMOチャネルを介して伝送されるデータ・ストリームのMIMO符号化を実施して、前記複数の基地局の各基地局で実施されるアンテナ信号処理の対象となる各符号化データ・シーケンス・セットを生成するステップと、
前記符号化データ・シーケンス・セットのそれぞれを対応する基地局に送信するステップと、
前記複数の基地局のそれぞれにおいて、当該複数の基地局のそれぞれによって受信された前記符号化データ・シーケンス・セットのそれぞれを考慮に入れたアンテナ信号処理操作を実施して、アンテナ信号を生成するステップと、
前記データ・ストリームが前記協調的MIMOチャネルを介して伝送されるように、前記アンテナ信号を前記複数の基地局のそれぞれの前記アンテナ素子を介して伝送するステップと、
を含む方法。
【請求項25】
記アンテナ信号が前記複数の基地局の様々な基地局において選択された前記アンテナ素子を介して同期的に伝送されるように、前記複数の基地局における前記アンテナ信号処理操作の実施を同期させるステップをさらに含む請求項24に記載の方法。
【請求項26】
マルチセル無線ネットワークであって、
それぞれが、それぞれセルと関連付けられ、少なくとも1つのアンテナ素子を含む各アンテナ・アレイを有する複数の基地局と、
前記複数の基地局の選択されたアンテナ素子を利用して、前記マルチセル無線ネットワークを介した協調的MIMO伝送をサポートするのに使用される拡張型アンテナ・アレイを形成するように構成された協調的複数入出力(MIMO)伝送機構と、
アンテナ駆動信号を生成し、前記アンテナ駆動信号の各部分を前記複数の基地局のそれぞれに送信する、ように構成された協調的MIMOマスタ・エンコーダと、
を備え、
前記複数の基地局のそれぞれにおいて選択された前記アンテナ素子を駆動することにより、前記アンテナ駆動信号の各部分が前記複数の基地局のそれぞれに送信されるようになる、前記協調的MIMO伝送が実施される、
マルチセル無線ネットワーク。
【請求項27】
前記協調的MIMO伝送は、直交周波数分割多元接続(OFDMA)MIMO伝送を含む、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項28】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、時空符号化を使用して前記協調的MIMO伝送を符号化する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項29】
前記時空符号化は、時空トレリス符号化を含む、請求項28に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項30】
前記時空符号化は、時空ブロック符号化を含む、請求項28に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項31】
前記時空符号化は、遅延ダイバシティを有する請求項28に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項32】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、空間周波数符号化を使用して前記協調的MIMO伝送を符号化する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項33】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、時空周波数符号化を使用して前記協調的MIMO伝送を符号化する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項34】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、前記協調的MIMO伝送に対して空間多重化を実施する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項35】
前記協調的MIMO伝送は、前記複数の基地局から端末へのダウンリンク伝送と、前記端末から前記複数の基地局へのアップリンク伝送とを含む、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項36】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、選択された協調的MIMO伝送に関する空間ビーム形成を実施する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項37】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、前記選択された協調的MIMO伝送の空間ビーム形成を、時空符号化、空間周波数符号化、および時空周波数符号化のうちの1つと組み合わせて実施する、請求項36に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項38】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、協調的MIMO伝送を同時に少なくとも2つの端末に送信する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項39】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、前記協調的MIMO伝送が宛先ユーザに誘導される一方で、非宛先ユーザに対しては空間ヌル化が有効になるような前記協調的MIMO伝送の空間ビーム形成をさらに実施する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項40】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、複数の端末から受信されたアップリンクMIMO伝送の連結的復号化をさらに実施する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項41】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、複数の端末から受信されたアップリンクMIMO伝送の個別的復号化をさらに実施する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項42】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、複数の端末に送信されるダウンリンクMIMO伝送の連結的符号化をさらに実施する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項43】
前記協調的MIMOマスタ・エンコーダは、前記複数の基地局のうちの1つと同じ場所に配置される、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項44】
前記複数の基地局に送信される前記アンテナ駆動信号の各部分の伝送を同期させる同期機構をさらに備える請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項45】
マルチセル無線ネットワークであって、
それぞれが、それぞれセルと関連付けられ、少なくとも1つのアンテナ素子を含む各アンテナ・アレイを有する複数の基地局と、
前記複数の基地局の選択されたアンテナ素子を利用して、前記マルチセル無線ネットワークを介した協調的MIMO伝送をサポートするのに使用される拡張型アンテナ・アレイを形成するように構成された協調的複数入出力(MIMO)伝送機構と、
対応する協調的MIMOチャネルを介して伝送されるデータ・ストリームのMIMO符号化を実施して、前記複数の基地局の各基地局で実施されるアンテナ信号処理の対象となる各符号化データ・シーケンス・セットを生成し、
前記符号化データ・シーケンス・セットそれぞれ対応する基地局に送信する
ように構成されたマスタ・エンコーダと、
前記複数の基地局のそれぞれにおいて受信された前記符号化データ・シーケンス・セットのそれぞれに対するアンテナ信号処理操作を実施してアンテナ信号を生成するように構成された1組のアンテナ信号処理コンポーネント

をさらに備え、
前記アンテナ信号は、対応する前記協調的MIMOチャネルを介した協調的MIMO伝送が形成されるように前記複数の基地局のそれぞれにおいて選択された前記アンテナ素子を介して伝送される、
マルチセル無線ネットワーク。
【請求項46】
記アンテナ信号が前記複数の基地局の様々な基地局において選択された前記アンテナ素子を介して同期的に伝送されるように、前記前記複数の基地局における前記アンテナ信号処理操作を同期させるように構成された同期機構をさらに備える請求項45に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【請求項47】
前記協調的複数入出力(MIMO伝送機構は、無線ネットワークのセルまたはセクター間の端末ハンドオフを円滑する前記協調的MIMO伝送を実施する、請求項26に記載のマルチセル無線ネットワーク。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、通信システムの分野に関し、より詳細には、マルチセル無線ネットワークにおけるMIMO処理を実施する技法に関する。
【背景技術】
【0002】
高速無線サービスの需要が益々高まるに従って、より多くの加入者に対応するために、サービス品質(QoS)の保証を維持しながらデータ転送速度を高め、帯域幅毎のスループットを高めることが必要とされている。2地点間通信では、送信機と受信機の間で達成可能なデータ転送速度は、使用可能な帯域幅、伝播チャネルの状態、ならびに受信機の雑音干渉レベルによって制限される。基地局が複数の加入者と通信する無線ネットワークでは、ネットワーク容量もまた、スペクトル資源の分割手法と、すべての加入者のチャネル状態および雑音干渉レベルとに依存する。現況技術では、例えば時分割多元接続(TDMA)、周波数分割多元接続(FDMA)、符号分割多元接続(CDMA)などの多元接続プロトコルは、加入者のデータ転送速度要件に従って使用可能なスペクトルを加入者間で分配するのに使用される。一般に、チャネルのフェーディング状態、干渉レベル、QoS要件など他の重大な制限要因は無視される。
【0003】
信頼性のある無線伝送の実現を困難にする基本的な現象は、経時変化するマルチパス・フェーディングである。マルチパス・フェーディング・チャネルでは、その品質を高めまたは有効誤り率を低減することが極めて困難である可能性がある。例えば、以下の非マルチパス環境の典型的な雑音源とマルチパス・フェーディングとの比較を考える。付加白色ガウス雑音(AWGN)を有する環境では、典型的な変調および符号化スキームを使用して有効ビット誤り率(BER)を10−2から10−3に低減する上で、1dbまたは2dbだけ高い信号対雑音比(SNR)しか必要とされないこともある。しかしながら、これと同じ低減率をマルチパス・フェーディング環境で実現する場合には、最大10dbものSNRの改善が必要とされることもある。単により高い送信電力または追加的な帯域幅を提供するだけでは、次世代ブロードバンド無線システムの要件に反する故に、必要なSRNの改善を実現することができない。
【0004】
マルチパス・フェーディングの影響を低減する1組の技法は、独立した個々のフェーディング・チャネルを介した複合信号が受信される信号ダイバシティ・スキームを採用するものである。空間ダイバシティ・スキームでは、複数のアンテナを使用して信号が受信および/または送信される。アンテナ間隔は、各アンテナのフェーディングが独立するような間隔(コヒーレンス距離)にしなければならない。周波数ダイバシティ・スキームでは、信号は、複数の周波数帯(コヒーレンスBW)で伝送される。時間ダイバシティ・スキームでは、信号は、異なる時間スロット(コヒーレンス時間)で伝送される。時間ダイバシティを提供するために、チャネル符号化およびインターリービングが使用される。偏波ダイバシティ・スキームでは、受信および/または分割用の偏波性が異なる2つのアンテナが利用される。
【0005】
現在の無線通信システムでは一般に、空間ダイバシティが利用されている。空間ダイバシティを実現するために、受信機側および/または送信機側のアンテナ・アレイを用いた空間処理が実施される。これまでに開発された多くのスキームのうちでもとりわけ、複数入出力(MIMO)およびビーム形成は、最も研究の盛んな2つのスキームであり、無線ネットワークの容量および性能を高めるのに有効であることが証明されている(例えば、Ayman F. Naguib、Vahid Tarokh、Nambirajan Seshadri、A. Robert Calderbankの「A Space−Time Coding Modem for High−Data−Rate Wireless Communications」、IEEE Journal on Selected Areas in Communications、vol.16、no.8(1998年10月)、1459〜1478頁を参照)。ブロック時間が不変の環境において、Nt個の送信アンテナとNr個の受信アンテナとを備えるシステムでは、適切な形で設計された時空符号化(STC)システムが最大のダイバシティを実現し得ることが分かるであろう。STCの典型例としては、時空トレリス符号(space−time trellis code:STTC)(例えば、V. Tarokh、N. Seshadri、およびA. R. Calderbankの「Space−time codes for high data rate wireless communication: performance criterion and code construction」、IEEE Trans. Inform. Theory(1998年3月)、44:744〜765頁を参照)と、直交計画による時空ブロック符号(space−time block codes from orthogonal design:STBC−OD)(例えば、V. Tarokh、H. Jafarkhani、およびA. R. Calderbankの「Space−time block codes from orthogonal designs」、IEEE Trans. Inform. Theory(1999年7月)、45:1456〜1467頁を参照)とが挙げられる。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】「A Space−Time Coding Modem for High−Data−Rate Wireless Communications」Ayman F. Naguib、Vahid Tarokh、Nambirajan Seshadri,A. Robert Calderbank、IEEE Journal on Selected Areas in Communications、vol.16、no.8、1998年10月、1459〜1478頁
【非特許文献2】「Space−time codes for high data rate wireless communication: performance criterion and code construction」V. Tarokh、N. Seshadri,A. R. Calderbankの、IEEE Trans. Inform. Theory、1998年3月、44:744〜765頁
【非特許文献3】「Space−time block codes from orthogonal designs」V. Tarokh、H. Jafarkhani,A. R. Calderbank、IEEE Trans. Inform. Theory、1999年7月、45:1456〜1467頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
MIMOシステムの容量および性能は、それ自体の次元(すなわち、NtおよびNr)およびアンテナ素子間の相関関係に依存することから、よりサイズが大きく分散性の高いアンテナ・アレイが望ましい。一方、コストおよび物理的な制約がある故に、実際にはあまり多くのアンテナ・アレイを使用することはできない。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本明細書では、マルチセル無線ネットワークにおける協調的(cooperative)複数入出力(MIMO)伝送処理のための方法およびシステムが開示される。一実施形態では、2つ以上の基地局のアンテナ素子を使用して、1つまたは複数の端末との間でMIMO伝送を送受信するのに使用される拡張型(augmented)MIMOアンテナ・アレイが形成される。
【0009】
以下の詳細な説明と、本発明の様々な実施形態に関する添付の図面を読めば、本発明のより十分な理解が得られるが、これらの説明および図面は読者の理解のための説明に過ぎず、本発明を特定の実施形態に限定するものと解釈されるべきではない。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】複数の基地局のアンテナ素子がより高次元のMIMO送信機アレイを形成するように拡張されるマルチセルのシナリオを示す図である。
図2】MIMOシステムの容量をモデル化するのに使用される一般的なチャネル行列Hを示す図である。
図3】送信アンテナの数に対するMIMOシステムの容量の増加を示す図である。
図4a】2つの基地局のアンテナ・アレイが、1つの端末にダウンリンク信号を送信する協調的MIMO伝送スキームで利用される協調的MIMOアーキテクチャを示す図である。
図4b】拡張型アンテナ・アレイによって受信されたアップリンク信号を送信し処理するのに利用される図4aの協調的MIMOアーキテクチャの諸態様を示す図である。
図5】ビーム形成を使用してMIMO伝送をある端末に誘導する一方で、別の端末に対する空間ヌル化も実施する、図4aの協調的MIMOアーキテクチャの拡張形態を示す図である。
図6】2つの基地局がマルチ・ユーザ型MIMOを実施し、それと同時に2つの端末が連結的符号化および連結的復号化(joint encoding and decoding)を使用する協調的MIMOアーキテクチャを示す図である。
図7a】MIMO OFDMエンコーダ/送信機のブロック図である。
図7b】ビーム形成を有するMIMO OFDMエンコーダ/送信機のブロック図である。
図8】MIMO OFDM受信機/デコーダのブロック図である。
図9】時空符号化による伝送スキームをモデル化するのに使用されるブロック図である。
図10】例示的なPSKベースの時空トレリス符号(STTC)エンコーダを示す図である。
図11】例示的なQAMベースのSTTCエンコーダを示す図である。
図12】時空ブロック符号化(STBC)による伝送スキームをモデル化するのに使用されるブロック図である。
図13a】STTC遅延ダイバシティ・スキームをモデル化したブロック図である。
図13b】STBC遅延ダイバシティ・スキームをモデル化したブロック図である。
図14】例示的なPSKベースのSTTC遅延ダイバシティ・エンコーダのブロック図である。
図15】STC符号化処理がマスタ・エンコーダにおいて実施される協調的MIMOアーキテクチャを示す概略図である。
図16】複数の基地局で複製されたデータ・ストリームの各インスタンスに対してSTC符号化処理が実施される協調的MIMOアーキテクチャを示す概略図である。
【発明を実施するための形態】
【0011】
本発明の諸態様によれば、2つ以上の基地局/端末のアンテナ素子を拡張(augment)して、より高次元のMIMO処理を実施する方法および装置が開示される。一実装形態では、セルラー環境の複数の基地局間でMIMO/連結的時空符号化(MIMO/joint space−time coding)が利用され、変調および符号化レベルの協調的な信号伝送が実施される。この新規な解決策は、追加コストを最小限に抑えながら、既存のネットワーク・コンポーネントに追加的なダイバシティおよび容量を提供する。送信アンテナの数が増加する故に同時ユーザの数が増加し、その結果、スペクトル効率が高められることになる。
【0012】
以下の記載では、本発明のより完全な説明を行うために様々な詳細について説明する。しかしながら、本発明は、これらの特定の詳細がない場合にも実施され得ることが当業者には明らかとなるであろう。その他の場合にも、本発明を不明瞭にしないために、よく知られた構造およびデバイスは、詳細には示さずブロック図の形で示してある。
【0013】
以下の詳細な説明の一部は、コンピュータ・メモリ内のデータ・ビットに対する操作に関するアルゴリズムおよび記号表現によって提示される。これらのアルゴリズムを用いた説明および表現は、データ処理の技術分野の当業者が各々の成果物の本質を最も効果的な形で他の当業者に伝えるために使用される手段である。ここでのアルゴリズムは一般に、所望の結果を生む自己矛盾のない一続きのステップと見なされる。各ステップでは、物理量の物理的な操作が必要とされる。これらの量は通常、必ずしもそうではないが、記憶、転送、組合せ、比較、およびその他の操作が可能な電気または磁気信号の形をとる。これらの信号はその時々に、主に一般的な慣行上の理由から、ビット、値、要素、記号、文字、項、数字などと呼ぶことが便利であることが分かっている。
【0014】
しかしながら、これらおよび同様の用語はすべて、該当する物理量に関連するものであり、また、それらの量に適用される便宜的な標識に過ぎないことに留意されたい。以下の論述から明らかとなるように、別段の記述が特にない限り、「処理」または「演算」または「計算」または「判定」または「表示」などの用語を利用した論述は、本明細書の全体を通して、コンピュータ・システムのレジスタおよびメモリ内の物理(電子)量として表されるデータを操作し、コンピュータ・システムのメモリまたはレジスタ内、あるいは他のそのような情報記憶デバイス、伝送デバイス、または表示デバイス内の物理量として同様に表される他のデータに変換する、コンピュータ・システムまたは同様の電子コンピューティング・デバイスの動作および処理について言及するものと理解されたい。
【0015】
本発明は、本明細書に記載の処理を実施する装置にも関連する。この装置は、必要に応じて特別な形で構築されてもよく、コンピュータ内に記憶されたコンピュータ・プログラムによって選択的にアクティブ化されまたは再構成される汎用コンピュータを備えてもよい。かかるコンピュータ・プログラムは、それだけに限らないが、フロッピー・ディスク、光ディスク、CD−ROM、光磁気ディスクを含めた任意のタイプのディスク、読取り専用メモリ(ROM)、ランダム・アクセス・メモリ(RAM)、EPROM、EEPROM、磁気または光カード、電子的命令を記憶するのに適した任意のタイプの媒体など、それぞれコンピュータ・システムのバスに結合されるコンピュータ読取り可能な記憶媒体に記憶することができる。
【0016】
本明細書に提示されるアルゴリズムおよび表示は、何らかの特定のコンピュータまたは他の装置と固有に関係付けられるものではない。本明細書の教示によるプログラムと共に様々な汎用システムが使用される可能性があり、また、必要とされる各方法ステップを実施するために、より専門性の高い装置を構築することが便利であるとされる可能性もある。これらの様々なシステムに必要とされる構造は、以下の記載から明らかとなるであろう。さらに、本発明は、いずれかの特定のプログラム言語を参照して説明されるわけではない。本明細書に記載される本発明の教示は、様々なプログラム言語を使用して実施できることが理解されるであろう。
【0017】
機械読取り可読な媒体は、機械(例えばコンピュータ)が読取り可能な形で情報を記憶または伝送する任意の機構を含む。機械読取り可読な媒体としては、例えば読取り専用メモリ(「ROM」)、ランダム・アクセス・メモリ(「RAM」)、磁気ディスク記憶媒体、光記憶媒体、フラッシュ・メモリ・デバイス、電気的、光学的、音響的、または他の形態の伝搬信号(例えば搬送波、赤外線信号、デジタル信号等)等が挙げられる。
【0018】
(概要)
図1は、複数の基地局BS1、BS2、およびBS3と、端末A、B、およびCとを有する典型的な無線ネットワークに関する3つのセル100、102、および104を示している。基地局BS1およびBS2は、4素子円形アンテナ・アレイを含み、端末Aは、2つのアンテナ1および2を有する。
【0019】
理論的観点から言えば、MIMO伝送スキーム用の送信機と受信機の間の容量は、チャネル行列とも呼ばれるベクトル・チャネルHによって決定される。図2に示されるように、チャネル行列Hは、M行N列を含み、この場合、Mは受信アンテナ(Rx)の数であり、Nは送信アンテナ(Tx)の数である。図示のチャネル行列Hでは、各エントリaijは、i番目の送信機アンテナからj番目の受信アンテナまでの複合チャネル利得(complex channel gain)である。
【0020】
単一入出力(SISO)チャネルのチャネル容量は、
C=log(1+p)bits/sec/use (1)
であり、
上式で、pは信号対雑音比である。MIMOチャネルのチャネル容量は、
【0021】
【数1】

である。上記から、停止容量(outage capacity)を次のように示すことができる。
【0022】
【数2】
【0023】
方程式3に基づいて、Mが大きいときの容量は、受信アンテナの数と共に線形的に増加することが認められる。チャネル容量の限界は、受信機側(単一入力複数出力:SIMO)にアンテナ・アレイが追加されたときに対数的に増加する。一方、MIMOシステムの場合では、チャネル容量の限界は、空間固有モードの最大数であるmin(M,N)と共に可能な限り線形的に増加する。図3には、例示的なMIMOシステムがチャネル行列の次元関数として示されている。
【0024】
システム容量は次元(アンテナの数)およびチャネル状態(アンテナ素子間の相関関係)で表されるので、分散性の高い素子を有するより大きいサイズのアンテナ・アレイを有することが望ましい。しかしながら、アンテナ素子の追加コストと、対応する所与の基地局が行う処理の複雑性とがシステム容量の増分増加の利点を上回る収穫逓減点(point of diminishing return)が存在する。さらに、付加的な容量が追加される利点を得るために、所与の無線ネットワーク内の多くのまたはすべての基地局に追加的なアンテナ素子を追加する必要が生じることもある。
【0025】
本発明の諸実施形態は、基地局に追加的なアンテナ素子を追加する必要がない、分散性の高い素子を有するより大きいサイズのアンテナ・アレイを有する利点を利用する。このことは、2つ以上の基地局のアンテナ素子の動作を拡張して、より大きいサイズのアンテナ・アレイを形成することによって達成される。拡張型アレイは、1つまたは複数の端末に関する「協調的MIMO」伝送処理を実施する。例えば、図1は、基地局BS1およびBS2のアンテナ素子が端末Aの受信アンテナ1および2を介して協調的に通信するように拡張される、協調的MIMO伝送スキームの例示的な一使用形態を示している。
【0026】
図4aは、(基地局から端末への)ダウンリンクの協調的MIMOアーキテクチャ400の一実施形態を示すブロック図である。説明のために、図4aに示されるアーキテクチャは、2つの基地局402および404と、単一の端末406とを含んでいる。MIMOアーキテクチャ400の実際の一実装形態は、1つまたは複数の端末によって受信される信号を送信する2つ以上の基地局を含むこともできることが理解されるであろう。
【0027】
図4aに示される実施形態では、基地局402は、Nt個の送信アンテナを含むアンテナ・アレイを有し、基地局404は、Nt個のアンテナを含むアンテナ・アレイを有し、端末406は、Nr個のアンテナを含む。上記のMIMOの定義に鑑みて、基地局の各アンテナを協調的に使用することにより、MIMOの次元は(Nt+Nt)*Nrに増加する。このような次元の増加は、基地局の追加的なアンテナ素子ならびにそれらのアンテナを駆動するのに使用されるどのようなコンポーネントも必要とすることなく達成される。
【0028】
本明細書に記載される本発明の様々な実施形態の諸態様によれば、加入者(例えば端末406)に送信されるデータに対応する情報ビット・シーケンスは、時空符号化、空間周波数符号化、あるいは図4aのブロック408で示されるように時空周波数符号化することができる。いくつかの実施形態では、時空符号、空間周波数符号、または時空周波数符号は、以下で説明するように、遅延ダイバシティをサポートするように拡張することができる。ブロック408で適切な符号化が実施された後、符号化データが基地局に渡されると、当該符号化データは、各基地局の該当するアンテナ素子を介して送信される。次いで、2つ以上の基地局が、該当するMIMOチャネルの構成パラメータを考慮に入れて、加入者(例えばユーザによって操作される端末406)に対する連結的MIMO送信(joint MIMO transmission)(信号410および412として示される)を実施する。例えば、基地局402および404から送信された信号410および412は、特定の加入者向けに採用される現行の符号化スキームおよび/またはMIMOスキームに基づいて、各基地局毎に選択されたアンテナ素子を利用することができる。一般に、協調的MIMO伝送は、通常の通信が行われている間に実施することも、加入者がセル間の境界をまたいで移動した場合に行われるハンドオフの間に実施することもできる。
【0029】
一実施形態では、時空符号化が利用される。例えば、ブロック408で、(例えば時空ブロック符号またはトレリス符号を使用して)入力情報ビットが時空符号化され、当該符号化データが各基地局402および404に転送される。以下では、時空ブロック符号化および時空トレリス符号の使用に関してさらに詳細に論じる。
【0030】
一実施形態では、時空(または空間周波数または時空周波数)符号化は、マスタ・エンコーダにおいて実施される。別の実施形態では、時空(または空間周波数または時空周波数)は、別々の位置でそれぞれ受信された共通の(複製された)情報ビット・シーケンスに基づいて、別々の位置(例えば各基地局内)で実施される。
【0031】
図4bは、協調的MIMOアーキテクチャ400におけるアップリンクの信号処理の諸態様を示している。この例では、送信アンテナ1〜Ntのうちから選択されたアンテナを介して、端末406からアップリンク信号414が送信される。アップリンク信号414は、それぞれ基地局402および404の受信アンテナ・アレイ(1〜Nr、1〜Nr)によって受信される(いくつかの実施形態では、送信処理と受信処理の両方に同じアンテナを使用することができ、他の実施形態では、別々の送信アンテナ・セットと受信アンテナ・セットとを利用することができることに留意されたい)。アップリンク信号が基地局において受信されると、当該アップリンク信号に対する初期の信号処理が実施され、そのように処理された信号が、連結的MIMO復号化および復調(joint MIMO decoding and demodulation)を実施するブロック416に転送され、したがって、端末406から送信されたデータに対応する情報ビットが抽出される。一般に、ブロック416の処理を実施するコンポーネントは、複数の基地局(例えば基地局402および404)の中央に配置され、あるいは複数の基地局のうちの1つに配置されることもある、マスタ・デコーダにおいて実施することができる。
【0032】
図5は、マルチ・ユーザ型の協調的MIMOアーキテクチャ500を示している。本実施形態では、拡張型アンテナ・アレイ(基地局502および504について選択された送信アンテナ素子を備える)を使用して1人または複数の宛先加入者に対するMIMO処理が実施され、一方、非宛先加入者の位置/方向の無線信号は、ビーム形成およびヌル化(nulling)スキームを使用して制限される。例えば、送信信号が選択された位置に向かうように操作する一方、他の方向に送出された送信信号については、信号取消効果および/またはフェーディング効果によってヌル化する技法が知られている。これらの選択的な伝送技法は、ビーム形成と総称され、適切なアンテナ素子(本明細書の諸実施形態では、2つ以上の基地局によってホストされる拡張アンテナ・アレイ)と、それらのアンテナ素子からの送信信号に関する該当する制御(例えばターゲット端末から返却されたフィードバックから導出される重み付け入力を用いる)とを使用することによって達成される。本発明のビーム形成の実施形態によれば、単一の基地局に配置されたアンテナ・アレイに採用される現行技術(例えばD. J. Love、R. W. Heath Jr.、およびT. Strobmerの「Grassmannian Beamforming for Multiple−Input Multiple−Output Wireless Systems」IEEE Transactions on Information Theory、vol.49(2003年10月)、2735〜2747頁を参照)は、複数の基地局によってホストされる選択されたアンテナ素子を用いたビーム形成処理をサポートするように拡張される。以下で説明するように、所望のビーム形成結果を得るために、複数の基地局間の信号同期を利用する必要が生じることもある。
【0033】
図5の実施形態では、ブロック514で、時空符号化、空間周波数符号、または時空周波数符号スキームのうちの1つを使用して、情報ビットが符号化される。ブロック514は、図7bを参照しながら以下でさらに詳細に説明されるビーム形成処理を実施するのにも利用される。次いで、ブロック514で符号化された出力が、各基地局502および504に供給され、これらの各基地局はそれぞれ、信号516および518の送信を行う。ローブ520、522、および524で示されるように、複合信号516および518のチャネル特性により、ある方向においてより高い利得が得られる領域が生み出される。同時に、ヌル方向526で示される方向など、他の方向における複合信号516および518の利得は、空間ヌル化(spatial nulling)の故に大幅に(例えば信号が復号化できなくなる点まで)減少する可能性がある。一実施形態では、空間ヌル化は、非宛先加入者の方向で実施される。
【0034】
例えば、図5に示したシナリオでは、複合信号516および518は、ローブ522内で高い利得を生み出すように制御される。したがって、端末506は、それ自体のアンテナ・アレイで良好な信号を受信し、無線通信システムの技術分野の当業者によく知られた適切なMIMO復号化技法を使用して、複合MIMO信号を復号化することができる。一方、端末528において受信される複合信号の強度は、空間ヌル化を使用してヌル化される。したがって、ブロック514において受信された情報ビットに対応するデータは、端末506だけに送信され、端末528では受信されない。
【0035】
図6は、別のマルチ・ユーザ型の協調的MIMOアーキテクチャ600を示している。非宛先端末に対するヌルを形成する代わりに、複数のユーザからの情報が連結的に符号化され、複数の基地局から拡張型MIMOアンテナ・アレイを経由して受信側端末へと送信された後、当該受信側端末で復号化される。本発明の一実施形態では、情報がユーザ側で個別的に復号化される。他のユーザ宛ての信号は、干渉として扱われる。別の実施形態では、すべてのユーザからの情報が連結的に復号化される。他の実施形態では、様々なユーザ位置において受信された情報が、連結的復号化(joint decoding)のために統合される。
【0036】
図6の実施形態は、連結的復号化の一例を示している。この例では、ブロック630で、時空符号化、空間周波数符号化、または時空周波数符号化のうちの1つを使用して、端末1(606)および端末2(628)に送信される情報が連結的に符号化される。図面を見やすくするために、端末1および端末2に送信される情報は、それぞれデータAおよびデータBとして示してある。ブロック630で連結的に符号化された出力は、各基地局602および604に入力として供給される。次いで、各基地局は、(端末1および端末2に割り当てられたMIMOチャネルに対応する)選択されたアンテナを介して、連結的に符号化されたデータを端末606および628に送信する。連結的に符号化されたデータが受信されると、ブロック632で、当該データは、各端末606および628毎に実施される処理を介して復号化される。データの復号化が行われると、受信者となる各端末宛ての情報は保持されるが、他の情報は破棄される。したがって、端末606は、データAを保持しデータBを破棄する一方、端末628は、データBを保持しデータAを破棄する。一実施形態では、保持すべき情報と破棄すべき情報とは、所与の端末において受信される復号化データから抽出されたパケットに対応するパケット・ヘッダーによって識別される。
【0037】
図7aには、N個の送信アンテナを有する基地局に関するOFDMA(直交周波数分割多元接続)符号化/送信機モジュール700Aの一実施形態に対応するブロック図が示されている。1〜Nの各加入者に関する情報ビットは、それぞれ時空符号化(STC)ブロック7041〜Nにおいて受信される。STCのサイズは、送信アンテナNの数の関数である。時空符号としては一般に、時空トレリス符号(STTC)、時空ブロック符号(STBC)、ならびに遅延ダイバシティを有するSTTCまたはSTBCを挙げることができ、以下ではこれらについて詳細に説明する。該当するSTCに基づいて、各ブロック7041〜Pは、c[j,k]〜cNt[j,k]の1組のコード・ワードを出力し、この場合、jはサブ・チャネル・インデックスを表し、kは時間インデックスを表す。次いで、各コード・ワードが、適切な高速フーリエ変換(FFT)ブロック7061〜Ntに転送される。次いで、FFTブロック7061〜Ntの出力が、パラレル−シリアル(P/S)変換ブロック7081〜Ntにフィードされ、サイクリック・プレフィックス(CP)追加ブロック(add cyclic prefix(CP) block)7101〜Ntを介してサイクリック・プレフィックスが追加される。次いで、CP追加ブロック7101〜Ntの出力が、送信アンテナ1〜Ntに供給され、基地局のカバレージ・エリア内の様々な端末に対するダウンリンク信号として送信される。
【0038】
図8には、N個の受信アンテナを有する端末に関するOFDMA受信機/デコーダ・モジュール800の一実施形態に対応するブロック図が示されている。ダウンリンク信号の受信側での信号処理は、信号の符号化および送信準備を行うのに使用されるプロセスのほぼ逆である。まず、各受信アンテナ1〜Nrにおいて受信された各信号のサイクリック・プレフィックスが、CP除去ブロック・ブロック(remove CP block)8101〜Nrによって除去される。次いで、各信号が、それぞれパラレル・データ・セットを生成するシリアル−パラレル(S/P)変換ブロック8081〜Ntにフィードされ、次いで、FFTブロック8061〜Nrに対する入力としてパラレル・データ・セットが供給される。次いで、FFTブロック8061〜Nrの出力が、復号化のために適切なSTC復号化ブロック8041〜Nに転送される。次いで、復号化されたデータが、サブキャリア1〜Nの情報ビットに出力される。
【0039】
図7bには、ビーム形成を実施するOFDMA符号化/ビーム形成/送信機モジュール700Bの一実施形態に対応するブロック図が示されている。同様の参照番号が付されたブロックから分かるように、図7aおよび7bの各実施形態で実施される信号処理の大部分は類似している。OFDMA符号化/ビーム形成/送信機モジュール700Bは、これらの処理動作に加えて、ビーム形成ブロック7051〜Nも含んでいる。これらの各ビーム形成ブロックは、ビーム形成フィードバック・データ714に応答して生成される、ビーム形成制御ブロック712から提供された制御情報を考慮に入れて、それ自体の各入力に重み付けされた値W1〜Nを加える。図7aと7bの各実施形態に関する他の異なる点としては、図7bではサイズLのSTCを利用するSTCブロック704A1〜Nが挙げられる。当該サイズは、ビーム形成チャネルの数を表す。
【0040】
(時空符号化)
時空符号(STC)は、1998年にAT&T研究所のTarokhらによって、マルチアンテナ・フェーディング・チャネルの伝送ダイバシティを提供する新規な手段として初めて紹介されたものである(V. Tarokh、N. Seshadri、およびA. R. Calderbankの「Space−time codes for high data rates wireless communications:Performance criterion and code construction」IEEE Trans. Inform. Theory、vol. 44(1998年)、744〜765頁)。2つの主なタイプのSTCは、時空ブロック符号(STBC)と、時空トレリス符号(STTC)である。時空ブロック符号は、入力シンボル・ブロックに作用するものであり、列が時間を表し行がアンテナを表す行列出力を生成する。時空ブロック符号は一般に、外部コードと連結されない限り符号化利得をもたらさない。時空ブロック符号の主な特徴は、非常に単純な復号化スキームを用いてフル・ダイバシティが提供されることである。一方、時空トレリス符号は、一時に1つの入力シンボルに作用するものであり、それ自体の長さがアンテナを表す一続きのベクトル記号を生成する。時空トレリス符号は、単一アンテナ・チャネル向けの従来のTCM(トレリス符号化変調)と同様の符号化利得をもたらす。それらがフル・ダイバシティ利得をもたらすことから、時空ブロック符号よりも優れた時空トレリス符号の利点は、符号化利得が提供されることである。時空トレリス符号の欠点は、それらの設計が困難であり、一般に複雑性の高いエンコーダおよびデコーダが必要となることである。
【0041】
図9は、STC MIMO伝送モデルのブロック図を示している。このモデルでは、時空エンコーダ902が、STBCまたはSTTCを使用して情報源900からのデータを符号化する。次いで、符号化されたデータが、MIMOリンク904を介して受信機906に送信される。次いで、受信機において元のデータを抽出するために、受信された信号の復号化が行われる。
【0042】
図10には、2つのアンテナに関する例示的な8PSK 8状態時空トレリス符号が示されており、図11には、2つのアンテナに関する例示的な16QAM 16状態STTCが示されている。STTCに関する符号化は、各フレームの開始と終了においてエンコーダをゼロ状態にする必要があることを除けば、TCMと同様である。時間t毎に、エンコーダの状態および入力ビットに応じて、遷移ブランチが選択される。遷移ブランチのラベルが、
【0043】
【数3】

である場合は、送信アンテナiを使用してコンステレーション・シンボル
【0044】
【数4】

が送信され、これらの伝送はすべて並列的に行われる。一般に、STTCエンコーダは、実装されるトレリス符号に対応する状態を有するようにプログラムされた状態機械を用いて実装することができる。
【0045】
図12は、2つのアンテナを利用するSTBCモデルに対応するブロック図を示している。先述したように、データは、情報源1200から受信される。次いで、STBC 1202ならびにコンステレーション・マップ1204Aおよび1204Bを操作することにより、時空ブロック符号化が実施される。
【0046】
より詳細には、STBCは、それ自体のエントリがx;:::;xの線形結合となり、それ自体の共役
【0047】
【数5】

と、それ自体の列とが相互に直交する、p×nの伝送行列Gによって定義される。p=nであり、{x}が実数である場合、Gは、GG=Dの条件を満足する線形処理直交計画となり、この場合、Dは、係数を
【0048】
【数6】

とする形式
【0049】
【数7】

における(i;i)番目の対角要素を有する対角行列である。図12には、2×2のSTBC符号の一例が示されている。
【0050】
別の信号ダイバシティ・スキームは、STCと遅延の組合せを利用するものである。例えば、図13aおよび図13bはそれぞれ、遅延伝送スキームを有するSTTCに対応するモデルと、遅延伝送スキームを有するSTBCを示している。図13aでは、情報源1300からのデータが符号繰返しブロック(code repetition block)1302によって受信され、符号繰返しブロック1302は、当該データを考慮に入れて生成される1対の複製シンボル・シーケンスを作成する。第1のシンボル・シーケンスが符号化のためにSTTCエンコーダ1304Aに転送される。一方、複製シンボル・シーケンスは、遅延ブロック1306にフィードされ、遅延ブロック1306は、1シンボル分の遅延を発生させる。次いで、遅延ブロック1306の遅延シンボル・シーケンス出力が、符号化のためにSTTCエンコーダ1304Bに転送される。図14には、2つのアンテナに関する例示的な8PSK 8状態遅延ダイバシティ符号が示されている。図示のとおり、送信アンテナTx2に関するシンボル・シーケンスは、入力シーケンスとの同期がとられ、一方、送信アンテナTx1に関するシンボル・シーケンスは、1シンボル分だけ遅延される。
【0051】
図13bの信号ダイバシティ・スキームでは、情報源1300からのデータは、複製ブロック符号を出力して2つのブロック符号シーケンスを作成する最良ブロック符号選択ロジック(best block code selection logic)1308において受信される。第1のブロック符号シーケンスは、符号化のためにコンステレーション・マッパー1310Aに転送され、一方、第2のブロック符号シーケンスは、遅延ブロック1312を介して1シンボル分だけ遅延された後に、符号化のためにコンステレーション・マッパー1310Bに転送される。次いで、符号化された信号が、第1および第2の送信アンテナを介して送信される。
【0052】
上記のSTTCおよびSTBCスキームは、本明細書では説明を分かりやすくするために、従来の使用形態に従って図示されている。かかる使用形態では、同じ基地局の複数のアンテナを使用して様々な符号化信号が伝送される。これとは対照的に、本発明の諸実施形態では、複数の基地局のアンテナ・アレイの選択的なアンテナ素子を利用して、拡張型MIMOアンテナ・アレイを形成する。
【0053】
複数の基地局を使用するSTC伝送スキームを実装するには、追加的な制御要素が必要になることもある。例えば、基地局がマスタ・エンコーダのファシリティから様々な距離に配置されている場合は、適切なMIMO伝送信号を得るために、アンテナ出力を同期させる何らかの措置が必要となることもある。同様に、様々な位置に所在する基地局のアンテナ・アレイを使用して遅延ダイバシティ・スキームを実装するときは、適切なタイミングが維持されなければならない。
【0054】
図15は、マスタ・エンコーダ1502を利用する協調的MIMOアーキテクチャ1500を示している。一般に、マスタ・エンコーダ1502は、基地局402および404とは別のファシリティに配置されても、それらの基地局の一方と同じ場所に配置(colocate)されてもよい。各実施形態では、マスタ・エンコーダ1502は、(図15に示されるように)STC符号化と、図7aのOFDMA符号化/送信機モジュール700A、または図7bのOFDMA符号化/ビーム形成/送信機モジュール700Bによって実施される操作と同様の信号処理操作とを実施する。しかしながら、少なくとも1つの基地局の送信アンテナが別のファシリティに配置されることになるので、送信出力は、送信アンテナに直接フィードされるわけではない。そうではなく、マスタ・エンコーダ1502は、それぞれ基地局402および404に関する1組のアンテナ駆動信号1504および1506を生成する。アンテナ駆動信号が受信されたときは、システムのサポートする様々なMIMOチャネルに基づいて、基地局402および404によってホストされる選択されたアンテナから、対応するダウンリンク信号が送信される。各MIMOチャネルに対応するマスタ・エンコーダ1502に対する制御入力は、加入者MIMOチャネル割当てレジスタ(subscriber MIMO channel assignment register)1508から供給される。
【0055】
信号同期は、必要に応じて1つまたは複数の同期/遅延ブロック1510によって実施される。例えば、図15の実施形態では、各基地局でそれぞれ利用される2つの同期/遅延ブロック1510Aおよび1510Bが示されている。他の実施形態では、特に同じ場所に配置されたマスタ・エンコーダが利用される場合では、いくつかの基地局が遅延ブロックを必要としないこともある。一般に、システムの同期/遅延ブロックは、アンテナ信号を同期させるのに利用され、または(遅延ダイバシティが利用される場合は)アンテナ信号の遅延を同期させるのに利用される。
【0056】
信号同期は、通信の技術分野で知られている諸原理を使用するいくつかの手法で実施することができる。例えば、一実施形態では、別々のタイミング信号またはシーケンスが、協調的MIMOシステム内の各基地局に供給される。これらのタイミング信号またはシーケンスは、それに基づいて対応するアンテナ駆動信号を同期させることが可能となる情報を含んでいる。かかる同期を実施するために、各同期/遅延ブロックは、それ自体のアンテナ信号に適切な遅延を追加する。よく知られている各種技法を使用して、同期フィードバック情報を利用することもできる。
【0057】
アーキテクチャ1500のバリエーションに関する一実施形態では、FFT、P/S、およびCP追加ブロックに対応するアンテナ信号処理操作が、各基地局において実施される。この例では、STC符号シーケンスが各基地局に供給され、各基地局においてさらなるアンテナ信号処理が実施される。このアプローチでは、符号シーケンスを含むデータ・ストリームに、タイミング信号または同様の信号を埋め込むことができる。
【0058】
図16には、協調的MIMOアーキテクチャ1600を使用して協調的MIMOシステムを実装する別のアプローチが示されている。このアーキテクチャでは、ブロック1602で、複数のチャネル加入者に関する入力情報ストリームの複製インスタンスが生成され、拡張型MIMOアンテナ・アレイを形成するのに使用される各基地局に供給される。この場合では、STC符号化および信号処理操作は、各基地局において、(図16に示されるように)図7aのOFDMA符号化/送信機モジュール700A、または図7bのOFDMA符号化/ビーム形成/送信機モジュール700Bに関して説明したのと同様の様式で実施される。
【0059】
一実施形態では、各基地局において受信された入力データ・ストリームに加入者MIMOチャネル情報が埋め込まれる。したがって、どのアンテナ素子を使用して各MIMOチャネルをサポートすべきか判定する必要がある。この情報は、加入者MIMOチャネルレジスタ1604に記憶され、各基地局の信号処理を協調的に制御するのに使用される。
【0060】
先述したように、アンテナ信号を同期させる必要が生じることもある。例えば、ブロック1602の処理を実施するのに使用されるコンポーネントが基地局から様々な距離に配置されている場合は、入力ストリームが様々な時間に受信されることになる。それに応答して、対応するアンテナ信号も様々な時間に生成されることになる。この状況に対処するために、(例えば、図16Bの同期/遅延ブロック1606Aおよび1606Bで示されるような1つまたは複数の同期/遅延ブロック1606を利用することができる。一実施形態では、タイミング信号は、よく知られている多くのスキームの1つを使用して入力データ・ストリームの形で符号化される。タイミング信号は、典型的にはタイミング・フレーム、タイミング・ビット、および/またはタイミング・シーケンスを含むことができ、1606Aおよび1606Bによって抽出される。同期/遅延ブロックは、タイミング情報を考慮に入れて先に受信されたデータ・ストリームに様々な遅延を加え、その結果、データ・ストリームは、STCブロックにおいて受信された時点では、再び同期がとられていることになる。
【0061】
一般に、本明細書に示されるプロセス・ブロックの実施する処理操作は、既知のハードウェアおよび/またはソフトウェア技法を使用して実施することができる。例えば、所与のブロックに関する処理は、ハードウェア(回路、専用ロジックなど)、ソフトウェア(汎用コンピュータ・システムまたは専用マシン上で実行されるソフトウェアなど)、またはそれらの組合せを含むことができる処理ロジックによって実施することができる。
【0062】
言うまでもなく、上記の説明を読めば本発明の様々な代替形態および修正形態が当業者には明らかとなるはずであるが、例示として図示し本明細書に記載したどの特定の実施形態も限定的なものと解釈されるべきでは決してないことを理解されたい。したがって、様々な実施形態の詳細についての言及は、本発明に不可欠なものと見なされる特徴だけが記載された添付の特許請求の範囲を限定するものではない。
図1
図2
図3
図4a
図4b
図5
図6
図7a
図7b
図8
図9
図10
図11
図12
図13a
図13b
図14
図15
図16