(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726151
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】車両用ディスクブレーキ
(51)【国際特許分類】
F16D 65/097 20060101AFI20150507BHJP
【FI】
F16D65/097 E
【請求項の数】5
【全頁数】10
(21)【出願番号】特願2012-246564(P2012-246564)
(22)【出願日】2012年11月8日
(65)【公開番号】特開2014-95414(P2014-95414A)
(43)【公開日】2014年5月22日
【審査請求日】2014年1月23日
(73)【特許権者】
【識別番号】000226677
【氏名又は名称】日信工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086210
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 一彦
(74)【代理人】
【識別番号】100128358
【弁理士】
【氏名又は名称】木戸 良彦
(72)【発明者】
【氏名】朝倉 良磨
【審査官】
城臺 仁美
(56)【参考文献】
【文献】
実開昭56−104637(JP,U)
【文献】
実開昭56−072938(JP,U)
【文献】
実開平05−050175(JP,U)
【文献】
実開平05−096575(JP,U)
【文献】
米国特許第05549181(US,A)
【文献】
実開平06−032770(JP,U)
【文献】
特表2004−501321(JP,A)
【文献】
実開平05−079073(JP,U)
【文献】
特開2012−072830(JP,A)
【文献】
米国特許第4491204(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16D 65/097
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ディスクロータの両側部に配置された一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に、制動解除時に前記一対の摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを懸架した車両用ディスクブレーキにおいて、
前記パッド戻しスプリングは、前記一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側で、前記ディスクロータの外周側に、ディスク軸方向に配設される基部と、
該基部の両端部から互いに離間しながら、前記ディスクロータの外周に沿って延出する一対の第1スプリング部と、該第1スプリング部の先端にそれぞれ設けられ、前記摩擦パッドと係合する係合部とを備え、前記基部は、ディスク軸方向中間部を、前記第1スプリング部の延出方向に窪ませて形成した第2スプリング部を備え、
前記パッド戻しスプリングは、摩擦パッドが新品状態から予め設定された摩耗量に至るまでのエリアでは一対の第1スプリング部の圧縮変形量が大きくなり、摩擦パッドの制動による摩耗に連れて前記係合部間の距離が短くなるに従って徐々に復元力が大きくなり、前記摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えた時には、制動時に前記第1スプリング部の圧縮変形量が前記エリアを超え、さらに、弾性変形して圧縮変形量が大きくなると、前記第2スプリング部が弾性変形し、前記エリアを超える前の復元力より大きくなるように設定されている
ことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項2】
前記第1スプリング部は前記第2スプリング部より長く形成されるとともに、前記第2スプリング部の窪みはく字状に形成され、
前記パッド戻しスプリングは、前記摩擦パッドの非制動位置において、前記摩擦パッドが新品状態から予め設定された摩耗量に至るまでは、前記第1スプリング部が弾性変形し、前記摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えて、前記係合部が所定の距離だけ互いに近付いた状態となった後は、第1スプリング部がさらに弾性変形するとともに、前記第2スプリング部がく字状から直線状態に近付くように弾性変形する
ことを特徴とする請求項1記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項3】
ディスクロータの両側部に配置された一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に、制動解除時に前記一対の摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを懸架した車両用ディスクブレーキにおいて、
前記パッド戻しスプリングは、前記一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側で、前記ディスクロータの外周側に、ディスク軸方向に配設される基部と、
該基部の両端部から互いに離間しながら、前記ディスクロータの外周に沿って延出する一対の第1スプリング部と、該第1スプリング部の先端にそれぞれ設けられ、前記摩擦パッドと係合する係合部とを備え、前記基部は、ディスク軸方向中間部を、前記第1スプリング部の延出方向に窪ませて形成した第2スプリング部を備え、
前記第1スプリング部は前記第2スプリング部より長く形成されるとともに、前記第2スプリング部の窪みはく字状に形成され、
前記パッド戻しスプリングは、前記摩擦パッドの非制動位置において、前記摩擦パッドが新品状態から予め設定された摩耗量に至るまでは、前記第1スプリング部が弾性変形し、前記摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えて、前記係合部が所定の距離だけ互いに近付いた状態となった後は、第1スプリング部がさらに弾性変形するとともに、前記第2スプリング部がく字状から直線状態に近付くように弾性変形する
ことを特徴とする車両用ディスクブレーキ。
【請求項4】
前記パッド戻しスプリングの前記係合部は、少なくとも前記摩擦パッドの車両前進時におけるディスク回入側に係合することを特徴とする請求項1乃至3のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【請求項5】
前記車両用ディスクブレーキのキャリパボディは、ディスク半径方向外側に開口する天井開口部を有し、前記基部は前記天井開口部に対応する位置に配置されることを特徴とする請求項1乃至4のいずれか1項記載の車両用ディスクブレーキ。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、自動車等の走行車両に搭載される車両用ディスクブレーキに係り、詳しくは、制動解除時に摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを備えた車両用ディスクブレーキに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、車両用ディスクブレーキでは、ディスクロータの両側部に配置された一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に、制動解除時に前記一対の摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを懸架したものがある。パッド戻しスプリングとしては、線ばねを略U字状、若しくは、略V字状に折り返して形成した折返し部と、該折返し部から互いに離間する方向に延出する一対のスプリング部と、該スプリング部の先端から摩擦パッド側に突出する摩擦パッド係合部とを備え、該摩擦パッド係合部を、前記一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に開口する係合穴にそれぞれ装着し、前記折返し部を前記一対の摩擦パッド間のディスクロータ外周側に配置したものがあった(例えば、特許文献1又は2参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】実用新案登録第2552633号公報
【特許文献2】特開2012−72830号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上述の特許文献1及び2に記載されているようなパッド戻しスプリングを用いたパッド戻し機構では、摩擦パッドの新品時からフル摩耗付近(パッド交換時期)に亘って、パッド戻しスプリングの復元力で、制動解除時の摩擦パッドを反ディスクロータ側に付勢して引き戻していた。
【0005】
しかし、摩擦パッドが予め設定された摩耗量、例えば、フル摩耗付近(パッド交換時期)の手前を超えた際には、制動解除時に、より確実に摩擦パッドを反ディスクロータ側に付勢し、ライニングの引き摺りによる摩耗を抑制することが望まれていた。
【0006】
そこで本発明は、制動解除時に、予め設定された摩耗量を超えた摩擦パッドを、より強い力で反ディスクロータ側に付勢することができる車両用ディスクブレーキを提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するため、本発明の車両用ディスクブレーキ
の第1の発明は、ディスクロータの両側部に配置された一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側に、制動解除時に前記一対の摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリングを懸架した車両用ディスクブレーキにおいて、前記パッド戻しスプリングは、前記一対の摩擦パッドのディスク半径方向外側で、前記ディスクロータの外周側に、ディスク軸方向に配設される基部と、該基部の両端部から互いに離間しながら、前記ディスクロータの外周に沿って延出する一対の第1スプリング部と、該第1スプリング部の先端にそれぞれ設けられ、前記摩擦パッドと係合する係合部とを備え、前記基部は、ディスク軸方向中間部を、前記第1スプリング部の延出方向に窪ませて形成した第2スプリング部を備え
、前記パッド戻しスプリングは、摩擦パッドが新品状態から予め設定された摩耗量に至るまでのエリアでは一対の第1スプリング部の圧縮変形量が大きくなり、摩擦パッドの制動による摩耗に連れて前記係合部間の距離が短くなるに従って徐々に復元力が大きくなり、前記摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えた時には、制動時に前記第1スプリング部の圧縮変形量が前記エリアを超え、さらに、弾性変形して圧縮変形量が大きくなると、前記第2スプリング部が弾性変形し、前記エリアを超える前の復元力より大きくなるように設定されていることを特徴としている。
さらに、第1の発明において、前記第1スプリング部は前記第2スプリング部より長く形成されるとともに、前記第2スプリング部の窪みはく字状に形成され、前記パッド戻しスプリングは、前記摩擦パッドの非制動位置において、前記摩擦パッドが新品状態から予め設定された摩耗量に至るまでは、前記第1スプリング部が弾性変形し、前記摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えて、前記係合部が所定の距離だけ互いに近付いた状態となった後は、第1スプリング部がさらに弾性変形するとともに、前記第2スプリング部がく字状から直線状態に近付くように弾性変形することが好ましい。
【0008】
また、第2の発明は、
前記第1スプリング部は前記第2スプリング部より長く形成されるとともに、前記第2スプリング部の窪みはく字状に形成され、前記パッド戻しスプリングは、前記摩擦パッドの非制動位置において、前記摩擦パッドが新品状態から予め設定された摩耗量に至るまでは、前記第1スプリング部が弾性変形し、前記摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えて、前記係合部が所定の距離だけ互いに近付いた状態となった後は、第1スプリング部がさらに弾性変形するとともに、前記第2スプリング部がく字状から直線状態に近付くように弾性変形することを特徴としている。
【0009】
また、前記パッド戻しスプリングの前記係合部は、少なくとも前記摩擦パッドの車両前進時におけるディスク回入側に係合すると良い。さらに、前記車両用ディスクブレーキのキャリパボディは、ディスク半径方向外側に開口する天井開口部を有し、前記基部は前記天井開口部に対応する位置に配置されると好ましい。
【発明の効果】
【0010】
本発明の車両用ディスクブレーキによれば、パッド戻しスプリングは、ディスク軸方向に配設される基部と、該基部の両端部から互いに離間し、ディスクロータの外周に沿って延出する一対の第1スプリング部と、該第1スプリング部の先端にそれぞれ設けられ、摩擦パッドと係合する係合部とを備え、基部は、ディスク軸方向中間部を、第1スプリング部の延出方向に窪ませて形成した第2スプリング部を備えていることから、制動解除時に、第1スプリング部と第2スプリング部の復元力により摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すことができる。
【0011】
また、パッド戻しスプリングは、制動時に第1スプリング部が弾性変形した後に、第2スプリング部が弾性変形し始めることにより、制動時に第1スプリング部の圧縮変形量が大きくなった場合には、第1スプリング部と第2スプリング部の双方の復元力で摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すことができる。
【0012】
さらに、摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えると、摩擦パッドの非制動位置において、パッド戻しスプリングは、第1スプリング部と第2スプリング部が弾性変形した状態となり、制動初期の段階から、第1スプリング部と第2スプリング部の復元力が作用し、摩擦パッドを確実に反ディスクロータ側に引き戻すことができる。
【0013】
また、パッド戻しスプリングの係合部は、少なくとも摩擦パッドの車両前進時におけるディスク回入側に係合することにより、制動解除時に摩擦パッドを効率よくディスクロータから離間させることができる。さらに、キャリパボディに形成した天井開口部に対応する位置に、基部が配置されることにより、基部を天井開口部から視認することができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一形態例を示す車両用ディスクブレーキの一部断面平面図である。
【
図2】同じく車両用ディスクブレーキの一部断面背面図である。
【
図3】同じく車両用ディスクブレーキの要部拡大断面図である。
【
図5】同じく車両用ディスクブレーキの正面図である。
【
図6】摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えた状態であるときの車両用ディスクブレーキの説明図である。
【
図7】同じくパッド戻しスプリングの圧縮変形量と復元力との関係を示すグラフである。
【
図8】従来のパッド戻しスプリングの圧縮変形量と復元力との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
図1乃至
図6は、本発明の車両用ディスクブレーキの一形態例を示す図で、矢印Aは車両前進時に車輪と一体に回転するディスクロータの回転方向であり、以下で述べるディスク回出側及びディスク回入側とは車両前進時におけるものとする。
【0016】
この車両用ディスクブレーキ1は、車輪と一体に回転するディスクロータ2と、該ディスクロータ2の一側部で車体に固設されるキャリパブラケット3と、該キャリパブラケット3のキャリパ支持腕3a,3aに、一対のスライドピン4,4を介してディスク軸方向へ移動可能に支持されるキャリパボディ5と、該キャリパボディ5の作用部5aと反作用部5bとの内側で、ディスクロータ2を挟んで対向配置される一対の摩擦パッド6,6とを備え、摩擦パッド6,6には、制動解除時に摩擦パッド6,6を反ディスクロータ側に引き戻すパッド戻しスプリング7が懸架されている。
【0017】
キャリパボディ5は、ディスクロータ2の両側に配設される上記作用部5a及び反作用部5bと、これらをディスクロータ2の外縁を跨いで連結するブリッジ部5cとを備え、作用部5aには、ディスクロータ2側を開口したシリンダ孔5dが設けられている。シリンダ孔5dには、有底円筒状のピストン8が収容され、ピストン8は、シリンダ孔底部の液圧室9に供給される液圧によって、シリンダ孔5dをディスクロータ方向へ移動するようになっている。また、作用部5aの側部には、スライドピン取付腕5e,5eが突設されており、各スライドピン取付腕5eの先端には、それぞれ上述のスライドピン4が、取付ボルト10にて突設されている。さらに、ブリッジ部5cの略中央部には、ディスク半径方向外側に開口する矩形の天井開口部5fが形成されている。
【0018】
シリンダ孔5dの内周面には、軸方向中間部にピストンシール装着溝5gが、シリンダ孔開口側にダストシール装着溝5hがそれぞれ周設され、ピストンシール装着溝5gには、ピストン8をロールバックさせるピストンシール11が、ダストシール装着溝5hには、シリンダ孔内への塵埃の侵入を防止するダストシール12がそれぞれ嵌着されている。
【0019】
キャリパ支持腕3a,3aは、キャリパブラケット3の両側部から、ブリッジ部5cの両側を挟みながらディスクロータ2の外縁をディスク軸方向に跨ぎ、さらにディスクロータ2の他側部で、反作用部5bの側壁に沿ってディスク中心方向へ延びる形状となっている。キャリパ支持腕3a,3aの先端部は、タイロッド3bにて連結されていて、制動トルクの掛かる両支持腕3a,3aの剛性力を高めている。
【0020】
各キャリパ支持腕3aには、上述のスライドピン4を収容するガイド孔3cが穿設され、また、双方のキャリパ支持腕3aには、パッドガイド部3dがそれぞれ設けられ、ディスクロータ2の側面で互いに向き合う一対のパッドガイド部3dには、互いに対向するトルク受け面3eを備えている。さらに、パッドガイド部3dのディスク半径方向外側には、パッドリテーナ13を取り付けるパッドリテーナ取付部3fが設けられている。
【0021】
各摩擦パッド6は、裏板9aの両側部に耳片6b,6bが突設され、また、裏板9aの一側面にはライニング6cが貼着され、耳片6b,6bがディスク回入側と回出側のパッドガイド部3d,3dに、それぞれパッドリテーナ13を介して支承される。裏板9aのディスク回入側のディスク半径方向外側には、ディスク半径方向外側に開口するパッド戻しスプリング7の係合穴6dが形成されている。
【0022】
パッド戻しスプリング7は、ばね用の線材を折曲して形成され、ディスク軸方向に配設される基部7aと、該基部7aの両端部から互いに離間しながら、ディスクロータ2の外周に沿って延出する一対の第1スプリング部7b,7bと、該第1スプリング部7b,7bの先端から、ディスクロータ2の中心側に突出する係合部7c,7cとを備えている。基部7aは、ディスク軸方向中間部を、第1スプリング部7bの延出方向にく字状に窪ませて形成した第2スプリング部7dを備えていて、全体が略M字状に形成されている。係合部7cは、第1スプリング部7bに対して略直角に折曲され、係合穴6dの開口側から底部側まで延びている。パッド戻しスプリング7は、係合部7c,7cが、摩擦パッド6,6の係合穴6d,6dに挿入され、基部7aが、摩擦パッド6,6間の天井開口部5fに対応する位置に配置される。
【0023】
上述のように形成された車両用ディスクブレーキ1は、運転者の制動操作によって、昇圧した作動液が液圧室9に供給されると、ピストン8がシリンダ孔5dを前進して、作用部5a側の摩擦パッド6をディスクロータ2側に押圧する。作用部側の摩擦パッド6は、各耳片6b,6bがパッドリテーナ13,13を介して、パッドガイド部3d,3dをディスクロータ2側に移動し、ライニング6cをディスクロータ2の一側面に摺接させる。次に、この反力によって、キャリパボディ5がスライドピン4,4を介して、作用部5a方向へ移動し、反作用部5b側に設けられた反力爪5iが反作用部5b側の摩擦パッド6をディスクロータ2の他側面側に押圧する。反作用部側の摩擦パッド6は、各耳片6b,6bがパッドリテーナ13,13を介して、パッドガイド部3d,3dをディスクロータ2側に移動し、ライニング6cをディスクロータ2の他側面に摺接させる。
【0024】
パッド戻しスプリング7は、摩擦パッド6,6のディスクロータ2側への移動に伴って、第1スプリング部7b,7bが弾性変形し、第1スプリング部7b,7bの係合部7c,7cが互いに近付いた状態となった後、第2スプリング部7dがく字状から、直線状態に近付くように弾性変形する。
【0025】
上述の制動操作を解除して、ピストン8がピストンシール11の復元力でロールバックし、ピストン8と反力爪5iとが制動開始前の位置へ後退すると、パッド戻しスプリング7の第1スプリング部7b,7b及び第2スプリング部7dの復元力により、第1スプリング部7b,7bが基部7aを中心に互いに離間した初期状態に復帰し、これに伴って、係合部7c,7cが係合穴6d,6dを介して、双方の摩擦パッド6,6を反ディスクロータ2側へ押動する。摩擦パッド6,6は、各耳片6b,6bがパッドリテーナ13,13に案内されながら、パッドガイド部3d,3dを反ディスクロータ2側に移動して引き戻され、ライニング6c,6cがディスクロータ2の側面から離間する。
【0026】
また、パッド戻しスプリング7は、摩擦パッド6が新品状態から予め設定された所定の摩耗量、例えば、フル摩耗付近(パッド交換時期)の手前に至るまでは、制動初期の状態(非制動位置)において、第1スプリング部7b,7bが弾性変形した状態となっている。
【0027】
一方、摩擦パッド6が前記予め設定された所定の摩耗量を超えると、第1スプリング部7b,7bが弾性変形し、係合部7c,7cが所定の距離だけ互いに近付いた状態となった後、さらに、第1スプリング部7b,7bが弾性変形して、係合部7c,7cが互いに近付き、第2スプリング部7dがく字状から、直線状態に近付くように弾性変形し、制動初期の状態から、第1スプリング部7b,7b及び第2スプリング部7dが弾性変形した状態となっている(
図6参照)。
【0028】
上述の制動操作を解除して、ピストン8がピストンシール11の復元力でロールバックし、ピストン8と反力爪5iとが制動開始前の位置へ後退すると、パッド戻しスプリング7の第1スプリング部7b,7bの復元力と、第2スプリング部7dの復元力により、第1スプリング部7b,7bが、基部7aを中心に互いに離間した初期状態に復帰し、これに伴って、係合部7c,7cが係合穴6d,6dを介して、双方の摩擦パッド6,6を、強い力で反ディスクロータ2側へ押動する。摩擦パッド6,6は、各耳片6b,6bがパッドリテーナ13,13に案内されながら、パッドガイド部3d,3dを反ディスクロータ2側に移動して引き戻され、ライニング6c,6cをディスクロータ2の側面から確実に離間させる。
【0029】
本形態例のパッド戻しスプリング7によれば、摩擦パッド6が、特に、予め設定された所定の摩耗量を超えると、制動解除時に、第1スプリング部7b,7bと第2スプリング部7dの復元力により摩擦パッド6,6を反ディスクロータ側に確実に引き戻すことができる。
【0030】
また、パッド戻しスプリング7の係合部7c,7cは、摩擦パッド6,6の車両前進時におけるディスク回入側に係合することにより、制動解除時に摩擦パッド6,6を効率よくディスクロータ2から離間させることができる。さらに、キャリパボディ5に形成した天井開口部5fに対応する位置に、パッド戻しスプリング7の基部7aが配置されることにより、基部7aを天井開口部5fから視認することができる。
【0031】
図7及び
図8は、それぞれ、パッド戻しスプリングの圧縮変形量を横軸に、パッド戻しスプリングの復元力を縦軸に取ったグラフで、
図7は、本形態例のパッドスプリングを用いたグラフを示し、
図8は、第2スプリング部を備えていない、基部7aが直線状に形成された従来のパッド戻しスプリングを用いたグラフを示す。
【0032】
図7で用いられた本形態例のパッド戻しスプリングでは、制動初期の状態において、摩擦パッドが新品状態から予め設定された摩耗量に至るまでのE1のエリアでは、一対の第1スプリング部の圧縮変形量が大きくなり、係合部間の距離が短くなるのに連れて、一定の割合で徐々に復元力が大きくなる。また、摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えた時には、制動時に第1スプリング部の圧縮変形量がE1のエリアを超え、さらに、弾性変形して圧縮変形量が大きくなると、第2スプリング部が弾性変形し始め、E2のエリアに示されるように、復元力が急速に大きくなる。
【0033】
図8で用いられた従来のパッド戻しスプリングでは、摩擦パッドが新品状態からフル摩耗するまで、第1スプリング部の圧縮変形量が大きくなり、係合部間の距離が短くなるのに連れて、一定の割合で徐々に復元力が大きくなっている。このため、従来のパッド戻しスプリングでは、摩擦パッドが予め設定された摩耗量を超えても、それまでよりも大きな復元力で摩擦パッドを反ディスクロータ側に引き戻すことはできない。
【0034】
尚、本発明の車両用ディスクブレーキは、上述の形態例に限るものではなく、摩擦パッドのディスク回出側にも係合穴を形成し、ディスクブレーキ回出側にもパッド戻しスプリングを配置するようにしても良く、さらには、ディスク回出側にのみパッド戻しスプリングを設けるようにしても良い。さらに、ピストンは複数あっても良く、ピストン対向型のディスクブレーキにも適用でき、さらに、摩擦パッドをハンガーピンで吊り下げるタイプのディスクブレーキにも適用することができる。さらに、本発明の予め設定された所定の摩耗量は、フル摩耗付近の手前に限らず任意である。
【符号の説明】
【0035】
1…車両用ディスクブレーキ、2…ディスクロータ、3…キャリパブラケット、3a…キャリパ支持腕、3b…タイロッド、3c…ガイド孔、3d…パッドガイド部、3e…トルク受け面、3f…パッドリテーナ取付部、4…スライドピン、5…キャリパボディ、5a…作用部、5b…反作用部、5c…ブリッジ部、5d…シリンダ孔、5e…スライドピン取付腕、5f…天井開口部、5g…ピストンシール装着溝、5h…ダストシール装着溝、5i…反力爪、6…摩擦パッド、6a…裏板、6b…耳片、6c…ライニング、6d…係合穴、7…パッド戻しスプリング、7a…基部、7b…第1スプリング部、7c…係合部、7d…第2スプリング部、8…ピストン、9…液圧室、10…取付ボルト、11…ピストンシール、12…ダストシール、13…パッドリテーナ