特許第5726166号(P5726166)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5726166アオウキクサを用いたKODAの製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726166
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】アオウキクサを用いたKODAの製造方法
(51)【国際特許分類】
   C12P 7/42 20060101AFI20150507BHJP
   C12N 15/09 20060101ALN20150507BHJP
   A01H 5/00 20060101ALN20150507BHJP
【FI】
   C12P7/42ZNA
   !C12N15/00 A
   !A01H5/00 A
【請求項の数】4
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-504548(P2012-504548)
(86)(22)【出願日】2011年3月11日
(86)【国際出願番号】JP2011055842
(87)【国際公開番号】WO2011111841
(87)【国際公開日】20110915
【審査請求日】2013年3月7日
(31)【優先権主張番号】特願2010-55166(P2010-55166)
(32)【優先日】2010年3月11日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001959
【氏名又は名称】株式会社 資生堂
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087871
【弁理士】
【氏名又は名称】福本 積
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100117019
【弁理士】
【氏名又は名称】渡辺 陽一
(74)【代理人】
【識別番号】100150810
【弁理士】
【氏名又は名称】武居 良太郎
(74)【代理人】
【識別番号】100166165
【弁理士】
【氏名又は名称】津田 英直
(72)【発明者】
【氏名】横山 峰幸
(72)【発明者】
【氏名】別府 敏夫
【審査官】 一宮 里枝
(56)【参考文献】
【文献】 特開平09−295908(JP,A)
【文献】 特開平10−324602(JP,A)
【文献】 特開平11−029410(JP,A)
【文献】 国際公開第2011/111838(WO,A1)
【文献】 YOKOYAMA M et al.,Plant Cell Physiol.,2000年,vol. 41,p. 110-113
【文献】 TAKAGI K et al.,Plant Cell Physiol.,2010年 3月12日,vol. 51, suppl. (web only),p. 172 (Abstract P1B043(549)),URL,http://www.jspp.org/
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12P 1/00−41/00
C12N 15/00−15/90
A01H 5/00
CAplus/REGISTRY/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/AGRICOLA/SCISEARCH(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
UniProt/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の式:
【化1】
で表される化合物を生産する方法であって、下記(a)〜()からなる群から選ばれるDNAによりコードされるタンパク質及び/又は(i)〜(v)からなる群から選ばれるDNAによりコードされるタンパク質を発現することを特徴とするアオウキクサ株にストレスを加え、当該ストレスを加えたアオウキクサ株から上記化合物を溶媒抽出し、そして精製することを含む、前記方法。
(a) 配列番号1で表される塩基配列からなるDNA;
() 配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質コードするDNA;
(i) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNA;
(ii) 配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと少なくとも90%の同一性を有し、かつアレンオキサイドシンターゼ活性体をコードするDNA;
(iii) 配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質コードするDNA;
(v) 配列番号4で表わされるアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつアレンオキサイドシンターゼ活性を有するタンパク質をコードするDNA。
【請求項2】
前記アオウキクサ株が、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAによりコードされるリポキシゲナーゼ及び配列番号2で表される塩基配列からなるDNAによりコードされるアレンオキサイドシンターゼを発現することを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ストレスが、乾燥ストレス、熱ストレス、及び浸透圧ストレスからなる群から選ばれる、請求項1又は2に記載の方法。
【請求項4】
前記溶媒が、クロロホルム、酢酸エチル、エーテル、及びブタノールからなる群から選ばれる、請求項1〜3のいずれか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、以下の式(I):
【化1】
で表される構造を有する植物ホルモン(一般名:9-ヒドロキシ-10-オキソ-cis-12(Z),15(Z)-オクタデカジエン酸、以下KODAと呼ぶ)の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
KODAは、植物花芽形成促進作用、植物賦活作用、及びそれらを包含する植物成長調整作用を有する植物ホルモンとして知られている(特開平9-295908号公報、特開平11-29410号公報、特開2001-131006号公報、特開2009-17829号公報)。KODAはさまざまな植物種において存在することが知られているが、ストレスを受けたアオウキクサ(Lemna paucicostata)が他の植物より極めて高いレベル(数百倍)のKODAを放出することが知られている。この性質を利用してKODAは、ウキクサ科植物の一種であるアオウキクサから抽出して得る抽出法を用いて製造することができる。他の製造方法として、不飽和脂肪酸であるα-リノレン酸(一般名:cis-9,12,15-オクタデカトリエン酸)に9位生成物特異性リポキシゲナーゼ(LOX)、アレンオキサイドシンターゼ(AOS)といった酵素を、植物体内における脂肪酸代謝経路に準じて作用させることにより得る酵素法、及び通常公知の化学合成法を駆使することにより得る化学合成法を用いてKODAを製造することもできる。これらの製造方法は特開平11-29410号公報に開示されている。
【0003】
KODAは植物成長調整作用を有する植物ホルモンであることから、農業分野における使用が期待されている。農業分野で使用する場合、医薬品などの分野とは異なり、低コストで大量に生産することができなければ、実用に耐えることができない。
【0004】
α-リノレン酸を開始物質として使用する酵素法においては、以下に記載されるようにα-リノレン酸を基質として、9位生成物特異性リポキシゲナーゼ(LOX)を作用させて、9位にヒドロペルオキシ基(-OOH)を導入し、次にアレンオキサイドシンターゼ(AOS)を作用させることによりKODAを製造することができる。
【化2】
しかしながら、9位生成物特異性リポキシゲナーゼは商業的に入手できず、植物から抽出するにも材料の入手や処理に大変手間がかかり、またこれまでに知られている9位生成物特異性リポキシゲナーゼでは活性が低かった。さらに、現在までに得られている9位生成物特異性リポキシゲナーゼのcDNAを大腸菌で発現すると、多くが不溶性となり、活性を示すタンパク質を多量に得ることが困難であった。
【0005】
アレンオキサイドシンターゼは、ヒドロペルオキシ化した脂肪酸をアレンオキサイドに変換する活性を有する酵素であり、アレンオキサイドは不安定なため非酵素的にケトール体に変換される。AOSは、植物、動物及び酵母において存在し、植物であれば被子植物全般において存在している酵素である。しかしながら、アレンオキサイドシンターゼは、一般に自殺基質的な性質を有し、基質の濃度を上げた場合に、却って生成量の減少をもたらすことになる。これらのリポキシゲナーゼ、アレンオキサイドシンターゼの欠点のため、酵素法は大量生産には不向きなものであった。一方、化学合成法では、農業分野において望まれる低コストを実現することが困難であった。
【0006】
一方、従来の抽出法においては、高効率で花芽誘導物質を生産することが知られているアオウキクサ441株を培養して抽出法が行われていたが、かかる株を使用した場合であっても、生産されるKODAの量は十分とは言えなかった。そこで、低コストかつ大量にKODAを製造する方法を提供することが望まれていた。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、収量の点で改良されたKODAの製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らが、上記課題を解決するために鋭意研究を行い、様々なアオウキクサ株をスクリーニングした結果、他のアオウキクサ株に比べて、アオウキクサSH株が極めて高いレベルのKODAを生産することを発見した。
【発明の効果】
【0009】
上記の発見に基づき、本発明者らは、抽出法に基づくKODAの製造方法においてアオウキクサSH株を出発物質として用いることにより、高い収量でKODAを製造する方法を提供する。
【0010】
さらに本発明者らは、KODA高生産株であるアオウキクサSH株の代謝経路に着目し、アオウキクサにおいて9位生成物特異性リポキシゲナーゼの遺伝子配列(配列番号1)、並びにアレンオキサイドシンターゼの遺伝子配列(配列番号2)を初めて同定した。当該配列番号1及び配列番号2の塩基配列は共にアオウキクサSH株由来の配列である。
【0011】
したがって本発明者らは、抽出法に基づくKODAの製造方法において、配列番号1及び/又は配列番号2で表される配列からなるDNA、又は当該DNAと実質的に同一なDNAからなる遺伝子を含むアオウキクサ株を用いることにより、高い収量でKODAを製造する方法を提供する。
【0012】
本発明は、さらに上に記載されたKODA高生産アオウキクサ株を用いた製造方法より生産されたKODAも提供する。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1図1は、62種のアオウキクサ株におけるKODA生産量を示す図である。
図2A図2Aは、アオウキクサSH株のLOX遺伝子の遺伝子配列を示す図である。
図2B図2Bは、図2Aの遺伝子配列の続きを示す図である。
図2C図2Cは、図2Bの遺伝子配列の続きを示す図である。
図3A図3Aは、アオウキクサSH株のAOS遺伝子の遺伝子配列を示す図である。
図3B図3Bは、図3Aの遺伝子配列の続きを示す図である。
図3C図3Cは、図3Bの遺伝子配列の続きを示す図である。
図4図4は、大腸菌において発現されたイネLOX(r9-LOX)とアオウキクサSH株のLOXの活性を比較して示す図である。
図5図5は、大腸菌において発現されたシロイヌナズナAOSとアオウキクサSH株のAOSの活性を比較して示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
本発明のKODAを生産する方法は、KODA高生産性の特定のアオウキクサ株にストレスを加え、当該ストレスを受けたアオウキクサ株からKODAを溶媒抽出し、そして精製することを含んでなる。
【0015】
本発明のある態様では、本発明において使用されるKODA高生産性の特定のアオウキクサ株は、配列番号1で表される塩基配列からなるDNAと同一又は実質的に同一なDNA及び/又は配列番号2で表される塩基配列からなるDNAと同一又は実質的に同一なDNAによりコードされるタンパク質を発現する株である。さらには、本発明において使用されるKODA高生産性の特定のアオウキクサ株は、配列番号3で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同一又は実質的に同一なタンパク質、及び/又は配列番号4で表されるアミノ酸配列からなるタンパク質と同一又は実質的に同一なタンパク質を発現する株である。配列番号3は、アオウキクサSH株由来の9位生成物特異性リポキシゲナーゼのアミノ酸配列であり、配列番号4は、アオウキクサSH株由来のアレンオキサイドシンターゼのアミノ酸配列である。
【0016】
KODAは、植物中でリノレン酸からLOX及びAOSの作用を受けて生成されるので、KODA高生産性のアオウキクサSH株が有するLOX及び/又はAOSと同一又は実質的に同一なLOX及び/又はAOSを発現する株は、アオウキクサSH株と同様にKODAの生産性が高いと考えられる。ここで、「実質的に同一なDNA」とは、参照元のDNAに対して、少なくとも70%の同一性を有し、かつ転写・翻訳された場合に、参照元のDNAが転写・翻訳されて生成するタンパク質の酵素活性(配列番号1の塩基配列からなるDNAの場合LOX活性、配列番号2の塩基配列からなるDNAの場合AOS活性)と同一の酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを指す。同一性は、好ましくは、少なくとも80%、少なくとも90%、少なくとも95%、少なくとも97%、少なくとも98%、少なくとも99%、少なくとも99.5%、又は少なくとも99.9%である。
【0017】
また、「実質的に同一なDNA」は、高ストリンジェント条件下で参照元のDNAと相補的な塩基配列からなるDNAにハイブリダイゼーションすることができ、参照元のDNAがコードするタンパク質の酵素活性(配列番号1の塩基配列からなるDNAの場合LOX活性、配列番号2の塩基配列からなるDNAの場合AOS活性)と同一の酵素活性を有するタンパク質をコードするDNAを指す。ハイブリダイゼーションは周知の方法又はそれに準じる方法、例えばJ.Sambrookら、Molecular Cloning 2nd, Cold Spring Harbor Lab. Press, 1989に記載の方法に従って行うことができ、そして高ストリンジェントなハイブリダイゼーション条件とは、例えばNaCl濃度が約10〜40mM、好ましくは約20mM、温度が約50〜70℃、好ましくは約60〜65℃であることを含む条件をいう。更に、本発明は上記DNA配列の断片であって、元のDNAがコードするタンパク質の酵素活性を有するタンパク質をコードするDNA断片にも関する。
【0018】
「実質的に同一なタンパク質」とは、参照元のタンパク質のアミノ酸配列において1若しくは数個のアミノ酸が欠失、置換若しくは付加されたアミノ酸配列からなり、かつ参照元のタンパク質の活性を有するタンパク質をいう。さらに、「実質的に同一なタンパク質とは、参照元のアミノ酸配列と少なくとも98%の同一性を有する配列からなり、かつ参照元のタンパク質の活性を有するタンパク質をいう。同一性は、好ましくは、少なくとも99%、少なくとも99.5%、又は少なくとも99.9%である。
【0019】
本発明のKODAの製造方法は、抽出法を利用する。具体的には、アオウキクサの破砕物を遠心分離(8000×g、10分間程度)にかけ、得られた上清と沈澱物のうち、上清を除いたものがKODAを含む画分として次の工程に用いられる。かかる画分を出発物としてKODAを単離・精製することが可能である。アオウキクサによるKODAの生産を促進するため、遠心分離にかける前にアオウキクサに以下に説明する特定のストレスを与えることが好ましい。
【0020】
そして、さらに調製効率の上で好ましい出発物として、アオウキクサを浮かばせた又は浸漬した後の水溶液を挙げることができる。この水溶液は、アオウキクサが生育可能なものである限りにおいて特に限定されない。この水溶液の具体例は、後述する実施例において記載する。
【0021】
浸漬時間は、室温で2〜3時間程度でも可能であるが、特に限定されるべきものではない。また、この方法でKODAを調製する場合にも、あらかじめアオウキクサにKODAを誘導することができる特定のストレスを与えることが製造効率上好ましい。
【0022】
具体的には、特定のストレスとして乾燥ストレス、熱ストレス、浸透圧ストレス等を挙げることができる。乾燥ストレスは、例えば低湿度(好ましくは相対湿度で50%以下)で室温下、好ましくは24〜25℃程度で、アオウキクサを乾燥したフィルター紙上に広げた状態で放置することによって与えることができる。この場合の乾燥時間は、概ね20秒以上、好ましくは5分以上、より好ましくは15分以上である。
【0023】
熱ストレスは、例えば温水中にアオウキクサを浸漬することによって与えることができる。この場合の温水の温度は、40℃〜65℃であり、好ましくは45℃〜60℃、より好ましくは50℃〜55℃である。また、温水に処理する時間は、概ね5分程度で足るが、比較的低温の場合、例えば40℃程度の温水中でアオウキクサを処理する場合は、2時間以上処理することが好ましい。また、上記熱ストレス処理後は、速やかにアオウキクサを冷水中に戻すことが好ましい。
【0024】
浸透圧ストレスは、例えば高濃度の糖溶液等の高浸透圧溶液にアオウキクサを接触させることにより与えることができる。この場合の糖濃度は、例えばマンニトール溶液であれば0.3M以上、好ましくは0.5M以上であることが好ましい。処理時間は、例えば0.5Mマンニトール溶液を用いる場合は1分以上、好ましくは3分以上である。このようにして、所望する本発明のKODAを含む出発物を調製することができる。
【0025】
次に、上記のように調製した出発物に以下のような分離・精製手段を施して、所望するKODAを製造することができる。なお、ここに示す分離手段は例示であり、これらの分離手段に上記出発物からKODAを製造するための分離手段が限定されるものではない。
【0026】
まず、上記出発物に対して溶媒抽出を行い、本発明KODAを含有する成分を抽出することが好ましい。かかる溶媒抽出に用いる溶媒は特に限定されるものではなく、例えばクロロホルム、酢酸エチル、エーテル、ブタノール等を用いることができる。これらの溶媒の中でもクロロホルムは、比較的容易に不純物を除去することが可能であるという点において好ましい。
【0027】
この溶媒抽出で得られた油相画分を、通常公知の方法を用いて洗浄・濃縮し、ODS(オクタデシルシラン)カラム等の逆相分配カラムクロマトグラフィー用カラムを用いた高速液体クロマトグラフィー(HPLC)にかけて、花芽誘導活性画分を同定・単離することにより本発明KODAを単離することができる。なお、出発物の性質等に応じて通常公知の他の分離手段、例えば限外濾過、ゲル濾過クロマトグラフィー等を組み合わせて用いることも可能である。
【実施例】
【0028】
実施例1:KODA高生産アオウキクサ株のスクリーニング
様々な場所から採取された62種類のアオウキクサを準備し、1/2倍に稀釈したHutnerの培地中において、24〜25℃の昼光色蛍光ライトからの連続的な光照射の下で継代培養した。1/2倍に稀釈したHutnerの培地は、次の成分:
スクロース 10g/l
2HPO4 200mg/l
NH4NO3 100mg/l
EDTA遊離酸 250mg/l
Ca(NO3)・4H2O 176mg/l
MgSO4・7H2O 250mg/l
FeSO4・7H2O 12.4mg/l
MnCl2・4H2O 8.92mg/l
ZnSO4・7H2O 32.8mg/l
Na2MoO4・2H2O 12.6mg/l
3BO3 7.1mg/l
Co(NO3)・6H2O 0.1mg/l
CuSO4・5H2O 1.97mg/l
を含み、KOH(50%)を用いてpH6.2〜6.5に調整した。
【0029】
増殖したアオウキクサをろ紙上に広げ、2時間放置した後、水中に1時間浸漬した。その水を高速液体クロマトグラフィー(HPLC;カラム:TYPE UG120 5μm SIZE 4.6mm I.D×250mm;ガードフィルター:INERTSTL 4.6mm×50mm;溶離液:50%アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸;条件:吸光度の波長210λ(nm)、流速1.mL/min、カラム温度40℃)を用いてKODAの濃度を分析した。全てのアオウキクサ株のKODA生産量の平均は4.97μMであった。その中で、アオウキクサSH株は60.2μMのKODAを生産しており、全株の平均KODA生産量の約12倍も多く、極めて高い生産量を与えた(図1)。
【0030】
実施例2:アオウキクサSH株由来リポキシゲナーゼのクローニングとその活性測定
アオウキクサ(SH株)からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて全RNAを抽出後、全RNA1.8μgを鋳型としてLongRange 2Step RT-PCR Kit(QIAGEN)によりcDNAを合成した。
その後、cDNAを鋳型とし、下記縮重プライマー(LpDPf、LpDPr)を用いて縮重PCR(PCR条件:初期変性94℃3分;94℃0.5分、47℃0.5分,72℃1.3分のサイクルを39回)を行い、目的とする9-リポキシゲナーゼの部分配列を得た。
LpDPf: 5'-GCITGGMGIACIGAYGARGARTTY-3' (配列番号5)
LpDPr: 5'-GCRTAIGGRTAYTGICCRAARTT-3' (配列番号6)
ここで、Iはイノシンを表す。
当該部分配列の塩基配列の決定を行い、得られた配列情報を元にBLAST検索を行った結果、得られた配列は複数の既知植物由来のLOXに対して高い相同性を示した(Corylus avellana(セイヨウハシバミ)75%、Actinidia deliciosa(キウイフルーツ)74%、Solanum tuberosum(ジャガイモ)75%、Oryza sativa(イネ)76%、Nicotiana tabacum(タバコ)74%、Cucumis sativus(キュウリ)75%、Arabidopsis thaliana(シロイヌナズナ)73%など)。
【0031】
この配列情報をもとに、以下の3'または5'RACE法(Rapid Amplification of cDNA end)用のプライマーを作成し、3'RACE、5'RACE法により全長配列を決定した(図2)。
SH-3'-TP: 5'-AGCTCTTCATCTTGGACC-3' (配列番号7)
SH-5'-TP: 5'-TTTCATCCTTCTTGTCGC-3' (配列番号8)
【0032】
得られたSHLpLOSXの配列を、タンパク質発現用ベクター(pET23d, Novagen)に導入し、大腸菌(BL21(DE3),Novagen)に形質転換し、SHLpLOXタンパク質を発現させた。このSHLpLOXタンパク質を用いてKODA製造における活性試験を行った。
【0033】
KODA製造における活性試験は、5mMリノレン酸溶液(0.1%Tween80溶液に溶解;25μl)、0.2Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7、10μl)、蒸留水(5μl)を加えた水溶液中に、酵素液(10μl)を加え、室温で30分間反応させた。反応終了後に反応液をHPLCに供し、生成するリノレン酸ヒドロペルオキシドの部位特異性および生成量を測定した。HPLC分析は、カラム:カプセルパックC-18 UG120(4.6×250mm、資生堂)、カラム温度40℃、移動相:50%アセトニトリル溶液(0.02%TFA)、流速:1ml/min、検出波長:210nmで行った。この場合において、9位特異的な対照酵素として、イネ胚芽由来の9位特異的なリポキシゲナーゼであるr9-LOX1を用いた。アオウキクサSH株から得られた新規LOXが、既知の9位生成物特異性リポキシゲナーゼの中でも活性が強いとされていたr9-LOX1よりはるかに活性の高い9位生成物特異性リポキシゲナーゼであることが明らかとなった(図4)。
【0034】
これらアオウキクサ由来の新規LOXの中で、リノレン酸−9−ヒドロペルオキシド体の生成量が最も高かったSHLpLOXのカイネティクス解析を行った。40mMリン酸バッファー(pH6.0)、0.1%Tween80の反応液を用い、反応温度は25℃で行った。基質であるα−リノレン酸は、10〜100μMの基質濃度で試験した。反応液100μLをキュベットに加え、SmartSpec Plusスペクトロフォトメーター(Bio−Rad)を用い、234nmの吸光度を、15秒のインターバルで経時的に10分間スキャニングした。測定したA234から反応産物の量を算出した(e=25,000)。カイネティックパラメーターはHanes−Woolfプロット([S]/v versus[S]プロット)を用いて決定した。この結果、表1に示すように、SHLpLOXでは、基質との親和性パラメーターであるKm値がr9−LOX1より低く、SHLpLOXが基質であるα−リノレン酸との親和性が高いことを示している。また、最大反応速度Vmaxはr9−LOX1とSHLpLOXは、ほぼ同程度ではあるが、単位時間当たりの反応回数であるkcat値はSHLpLOXのほうがr9−LOX1と比較して高かった。酵素活性の指標となるkcat/Km値は、SHLpLOXがr9−LOX1の約1.6倍となった。このことから、アオウキクサSH株由来の新規9−LOXが非常に高活性の9−LOXであることが明らかとなった。
【表1】
【0035】
実施例3:アオウキクサSH株からAOS遺伝子のクローニングと活性測定
アオウキクサSH株(Lemna paucicostata, SH)からRNAを抽出し、RT-PCR法によりcDNAを合成した。合成したcDNAを、以下に示すシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来プライマーを使用し、PCRのアニーリング温度を45℃と低めに設定し、SH株由来アレンオキサイドシンターゼ(SHLpAOS)の一部配列情報を得た。
AOS-Forward 5'-GGAACTAACCGGAGGCTACCG-3' (配列番号9)
AOS-Reverse 5'-CCGTCTCCGGTCCATTCGACCACAA-3' (配列番号10)
【0036】
この配列情報をもとに、3'または5'RACE法(Rapid Amplification of cDNA end)により全長配列を決定した。この結果、SH株より1配列の新規AOSホモログ(核酸配列1443bp、アミノ酸配列480aa、推定分子量53.3KDa)が得られた(図3)。
【0037】
得られたSHLpAOSの配列を、タンパク質発現用ベクター(pET41a, Novagen)に導入し、大腸菌(BL21(DE3),Novagen)に形質転換し、SHLpAOSタンパク質を発現させた。このSHLpAOSタンパク質を用いてKODA製造における活性試験を行った。
【0038】
KODA製造における活性試験は、5mMリノレン酸溶液(0.1%Tween80溶液に溶解)を作成し、pH7の条件下で、イネの胚芽より抽出したリポキシゲナーゼと室温で10分間反応させ、9-ヒドロペルオキシリノレン酸(9-HPOT)反応溶液を合成した。この9-HPOT反応溶液20μlに対し、SHLpAOSタンパク質またはシロイヌナズナ(A. thaliana)由来AOS(AtAOS)タンパク質0.32ngを加え、室温で10分間反応させた。反応後、50度で3分間の加熱処理により反応を終了させた。この溶液10μlをHPLCで分析した。HPLC分析は、カラム:カプセルパックC-18 UG120(4.6×250mm)、移動相:50%アセトニトリル溶液(0.02%TFA)、流速:1ml/min、検出波長:210nmで行った。
その結果、SHLpAOSタンパク質はAtAOSタンパク質より7倍近く活性が強かった(図5)。
【0039】
アオウキクサSH株より得られたSHLpAOSのカイネティクス解析を行った。40mMMリン酸バッファー(pH7.5)、1%EtOHの反応液を用い、反応温度は25℃で行った。基質である9−HPOTは5−53μMの基質濃度で試験した。nあお、基質となる9−HOPTはEtOH溶液として添加し、EtOH終濃度が1%となるように調製した。反応液100μLをキュベットに加えSmartSpec Plus スペクトロフォトメーター(Bio−Rad)を用い、234nmの吸光度の減少を、2秒のインターバルで経時的に1分間スキャニングした。測定したA234から反応産物の量を算出した(e=25,000)。カイネティックパラメーターは、Hanes−Woolfプロット([S]/v versus [S]プロット)を用いて決定した。この結果、表2に示すようにSHLpAOSでは、Km値がAtAOSより大幅に低く、9−HPOTとの親和性は約5倍高かった。また、VmaxはAtAOSの約2.8倍と非常に高かった。kcat値もSHLpAOSのほうがAtAOSの約2.8倍と高いものであり、反応回転が非常に効率的に起こっている。kcat/Km値は、SHLpAOSがAtAOSの約14倍となった。SHLpAOSがAtAOSと比較して、実用的なKODA製造において非常に有用なAOSであると考えられる。以上のことから、アオウキクサSH株からクローニングしたSHLpAOSは、これまでに報告のない、非常に高い活性を有するAOSであることが明らかとなった。
【表2】
図1
図2A
図2B
図2C
図3A
図3B
図3C
図4
図5
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]