【実施例】
【0028】
実施例1:KODA高生産アオウキクサ株のスクリーニング
様々な場所から採取された62種類のアオウキクサを準備し、1/2倍に稀釈したHutnerの培地中において、24〜25℃の昼光色蛍光ライトからの連続的な光照射の下で継代培養した。1/2倍に稀釈したHutnerの培地は、次の成分:
スクロース 10g/l
K
2HPO
4 200mg/l
NH
4NO
3 100mg/l
EDTA遊離酸 250mg/l
Ca(NO
3)・4H
2O 176mg/l
MgSO
4・7H
2O 250mg/l
FeSO
4・7H
2O 12.4mg/l
MnCl
2・4H
2O 8.92mg/l
ZnSO
4・7H
2O 32.8mg/l
Na
2MoO
4・2H
2O 12.6mg/l
H
3BO
3 7.1mg/l
Co(NO
3)・6H
2O 0.1mg/l
CuSO
4・5H
2O 1.97mg/l
を含み、KOH(50%)を用いてpH6.2〜6.5に調整した。
【0029】
増殖したアオウキクサをろ紙上に広げ、2時間放置した後、水中に1時間浸漬した。その水を高速液体クロマトグラフィー(HPLC;カラム:TYPE UG120 5μm SIZE 4.6mm I.D×250mm;ガードフィルター:INERTSTL 4.6mm×50mm;溶離液:50%アセトニトリル+0.1%トリフルオロ酢酸;条件:吸光度の波長210λ(nm)、流速1.mL/min、カラム温度40℃)を用いてKODAの濃度を分析した。全てのアオウキクサ株のKODA生産量の平均は4.97μMであった。その中で、アオウキクサSH株は60.2μMのKODAを生産しており、全株の平均KODA生産量の約12倍も多く、極めて高い生産量を与えた(
図1)。
【0030】
実施例2:アオウキクサSH株由来リポキシゲナーゼのクローニングとその活性測定
アオウキクサ(SH株)からRNeasy Plant Mini Kit(QIAGEN)を用いて全RNAを抽出後、全RNA1.8μgを鋳型としてLongRange 2Step RT-PCR Kit(QIAGEN)によりcDNAを合成した。
その後、cDNAを鋳型とし、下記縮重プライマー(LpDPf、LpDPr)を用いて縮重PCR(PCR条件:初期変性94℃3分;94℃0.5分、47℃0.5分,72℃1.3分のサイクルを39回)を行い、目的とする9-リポキシゲナーゼの部分配列を得た。
LpDPf: 5'-GCITGGMGIACIGAYGARGARTTY-3' (配列番号5)
LpDPr: 5'-GCRTAIGGRTAYTGICCRAARTT-3' (配列番号6)
ここで、Iはイノシンを表す。
当該部分配列の塩基配列の決定を行い、得られた配列情報を元にBLAST検索を行った結果、得られた配列は複数の既知植物由来のLOXに対して高い相同性を示した(Corylus avellana(セイヨウハシバミ)75%、Actinidia deliciosa(キウイフルーツ)74%、Solanum tuberosum(ジャガイモ)75%、Oryza sativa(イネ)76%、Nicotiana tabacum(タバコ)74%、Cucumis sativus(キュウリ)75%、Arabidopsis thaliana(シロイヌナズナ)73%など)。
【0031】
この配列情報をもとに、以下の3'または5'RACE法(Rapid Amplification of cDNA end)用のプライマーを作成し、3'RACE、5'RACE法により全長配列を決定した(
図2)。
SH-3'-TP: 5'-AGCTCTTCATCTTGGACC-3' (配列番号7)
SH-5'-TP: 5'-TTTCATCCTTCTTGTCGC-3' (配列番号8)
【0032】
得られたSHLpLOSXの配列を、タンパク質発現用ベクター(pET23d, Novagen)に導入し、大腸菌(BL21(DE3),Novagen)に形質転換し、SHLpLOXタンパク質を発現させた。このSHLpLOXタンパク質を用いてKODA製造における活性試験を行った。
【0033】
KODA製造における活性試験は、5mMリノレン酸溶液(0.1%Tween80溶液に溶解;25μl)、0.2Mのリン酸ナトリウム緩衝液(pH7、10μl)、蒸留水(5μl)を加えた水溶液中に、酵素液(10μl)を加え、室温で30分間反応させた。反応終了後に反応液をHPLCに供し、生成するリノレン酸ヒドロペルオキシドの部位特異性および生成量を測定した。HPLC分析は、カラム:カプセルパックC-18 UG120(4.6×250mm、資生堂)、カラム温度40℃、移動相:50%アセトニトリル溶液(0.02%TFA)、流速:1ml/min、検出波長:210nmで行った。この場合において、9位特異的な対照酵素として、イネ胚芽由来の9位特異的なリポキシゲナーゼであるr9-LOX1を用いた。アオウキクサSH株から得られた新規LOXが、既知の9位生成物特異性リポキシゲナーゼの中でも活性が強いとされていたr9-LOX1よりはるかに活性の高い9位生成物特異性リポキシゲナーゼであることが明らかとなった(
図4)。
【0034】
これらアオウキクサ由来の新規LOXの中で、リノレン酸−9−ヒドロペルオキシド体の生成量が最も高かったSHLpLOXのカイネティクス解析を行った。40mMリン酸バッファー(pH6.0)、0.1%Tween80の反応液を用い、反応温度は25℃で行った。基質であるα−リノレン酸は、10〜100μMの基質濃度で試験した。反応液100μLをキュベットに加え、SmartSpec Plusスペクトロフォトメーター(Bio−Rad)を用い、234nmの吸光度を、15秒のインターバルで経時的に10分間スキャニングした。測定したA
234から反応産物の量を算出した(e=25,000)。カイネティックパラメーターはHanes−Woolfプロット([S]/v versus[S]プロット)を用いて決定した。この結果、表1に示すように、SHLpLOXでは、基質との親和性パラメーターであるK
m値がr9−LOX1より低く、SHLpLOXが基質であるα−リノレン酸との親和性が高いことを示している。また、最大反応速度V
maxはr9−LOX1とSHLpLOXは、ほぼ同程度ではあるが、単位時間当たりの反応回数であるk
cat値はSHLpLOXのほうがr9−LOX1と比較して高かった。酵素活性の指標となるk
cat/K
m値は、SHLpLOXがr9−LOX1の約1.6倍となった。このことから、アオウキクサSH株由来の新規9−LOXが非常に高活性の9−LOXであることが明らかとなった。
【表1】
【0035】
実施例3:アオウキクサSH株からAOS遺伝子のクローニングと活性測定
アオウキクサSH株(Lemna paucicostata, SH)からRNAを抽出し、RT-PCR法によりcDNAを合成した。合成したcDNAを、以下に示すシロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来プライマーを使用し、PCRのアニーリング温度を45℃と低めに設定し、SH株由来アレンオキサイドシンターゼ(SHLpAOS)の一部配列情報を得た。
AOS-Forward 5'-GGAACTAACCGGAGGCTACCG-3' (配列番号9)
AOS-Reverse 5'-CCGTCTCCGGTCCATTCGACCACAA-3' (配列番号10)
【0036】
この配列情報をもとに、3'または5'RACE法(Rapid Amplification of cDNA end)により全長配列を決定した。この結果、SH株より1配列の新規AOSホモログ(核酸配列1443bp、アミノ酸配列480aa、推定分子量53.3KDa)が得られた(
図3)。
【0037】
得られたSHLpAOSの配列を、タンパク質発現用ベクター(pET41a, Novagen)に導入し、大腸菌(BL21(DE3),Novagen)に形質転換し、SHLpAOSタンパク質を発現させた。このSHLpAOSタンパク質を用いてKODA製造における活性試験を行った。
【0038】
KODA製造における活性試験は、5mMリノレン酸溶液(0.1%Tween80溶液に溶解)を作成し、pH7の条件下で、イネの胚芽より抽出したリポキシゲナーゼと室温で10分間反応させ、9-ヒドロペルオキシリノレン酸(9-HPOT)反応溶液を合成した。この9-HPOT反応溶液20μlに対し、SHLpAOSタンパク質またはシロイヌナズナ(A. thaliana)由来AOS(AtAOS)タンパク質0.32ngを加え、室温で10分間反応させた。反応後、50度で3分間の加熱処理により反応を終了させた。この溶液10μlをHPLCで分析した。HPLC分析は、カラム:カプセルパックC-18 UG120(4.6×250mm)、移動相:50%アセトニトリル溶液(0.02%TFA)、流速:1ml/min、検出波長:210nmで行った。
その結果、SHLpAOSタンパク質はAtAOSタンパク質より7倍近く活性が強かった(
図5)。
【0039】
アオウキクサSH株より得られたSHLpAOSのカイネティクス解析を行った。40mMMリン酸バッファー(pH7.5)、1%EtOHの反応液を用い、反応温度は25℃で行った。基質である9−HPOTは5−53μMの基質濃度で試験した。nあお、基質となる9−HOPTはEtOH溶液として添加し、EtOH終濃度が1%となるように調製した。反応液100μLをキュベットに加えSmartSpec Plus スペクトロフォトメーター(Bio−Rad)を用い、234nmの吸光度の減少を、2秒のインターバルで経時的に1分間スキャニングした。測定したA
234から反応産物の量を算出した(e=25,000)。カイネティックパラメーターは、Hanes−Woolfプロット([S]/v versus [S]プロット)を用いて決定した。この結果、表2に示すようにSHLpAOSでは、K
m値がAtAOSより大幅に低く、9−HPOTとの親和性は約5倍高かった。また、V
maxはAtAOSの約2.8倍と非常に高かった。k
cat値もSHLpAOSのほうがAtAOSの約2.8倍と高いものであり、反応回転が非常に効率的に起こっている。k
cat/K
m値は、SHLpAOSがAtAOSの約14倍となった。SHLpAOSがAtAOSと比較して、実用的なKODA製造において非常に有用なAOSであると考えられる。以上のことから、アオウキクサSH株からクローニングしたSHLpAOSは、これまでに報告のない、非常に高い活性を有するAOSであることが明らかとなった。
【表2】