特許第5726178号(P5726178)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許57261781,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサン及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726178
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサン及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07C 43/162 20060101AFI20150507BHJP
   C07C 41/08 20060101ALI20150507BHJP
   C07B 61/00 20060101ALN20150507BHJP
【FI】
   C07C43/162CSP
   C07C41/08
   !C07B61/00 300
【請求項の数】4
【全頁数】9
(21)【出願番号】特願2012-512916(P2012-512916)
(86)(22)【出願日】2011年4月28日
(86)【国際出願番号】JP2011060433
(87)【国際公開番号】WO2011136355
(87)【国際公開日】20111103
【審査請求日】2014年3月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-103711(P2010-103711)
(32)【優先日】2010年4月28日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000004592
【氏名又は名称】日本カーバイド工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100102990
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 良博
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(72)【発明者】
【氏名】柿沼 眞一
(72)【発明者】
【氏名】室谷 昌宏
(72)【発明者】
【氏名】仲森 成人
【審査官】 江間 正起
(56)【参考文献】
【文献】 特表2009−525382(JP,A)
【文献】 特開2003−327686(JP,A)
【文献】 特開2001−278829(JP,A)
【文献】 米国特許第6306923(US,B1)
【文献】 特表2002−544306(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07C 43/162
C07C 41/08
C07B 61/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I):
【化1】
で表される1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサン。
【請求項2】
式(II):
【化2】
で表される1,1−シクロヘキサンジメタノールとアセチレンとを非プロトン性極性溶媒中で反応させることによって式(I):
【化3】
で表される1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンを製造する方法。
【請求項3】
前記非プロトン性極性溶媒がジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、N,N’−ジエチルエチレン尿素、N,N’−ジイソプロピルエチレン尿素、N,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルから選ばれる請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記反応を、温度80℃〜180℃で、アセチレン圧(ゲージ圧)0.01MPa以上で実施する請求項2又は3に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規なビニルエーテルである1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサン及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
本発明に係る1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサン(別名:1,1−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル)は、従来報告例がなく、新規な化合物であると考えられる。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
本発明の目的は、低臭気、低揮発性であって、低皮膚刺激性で且つ毒性が低く、また、硬化性、密着性、紫外光領域での透明性などに優れ重合組成物原料として有用な1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサン及びその製造方法を提供することにある。本発明の1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンは、硬化性、密着性、紫外光領域での透明性、剛直性に優れるため、重合組成物原料、架橋剤、及び種々の合成試薬として有用である。従って、本発明の1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンは、インク、塗料、レジスト、カラ−フィルタ、接着剤、製版材、封止剤、画像形成剤等の用途に利用することが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0004】
本発明に従えば、式(I):
【0005】
【化1】
【0006】
で表される1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンが提供される。
【0007】
本発明に従えば、式(II):
【化2】
で表される1,1−シクロヘキサンジメタノールとアセチレンとを非プロトン性極性溶媒中で反応させることによって式(I):
【化3】
で表される1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンを製造する方法が提供される。
【発明の効果】
【0008】
本発明に係る化合物1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンは、低臭気、低揮発性且つ低皮膚刺激性であって、毒性が低く、また、硬化性、密着性、紫外光領域での透明性に優れる重合組成物原料として、有用な特性を有することが期待でき、更に単独で、あるいは他の化合物との間で特殊な、反応性を有するビニルエーテル基を特異な位置に2つ持つという特徴がある。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】実施例1で製造した1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンの1H-NMRチャートである。
図2】実施例1で製造した1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンの13C-NMRチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について更に詳しく説明する。
本発明に係るビニルエーテル(I)は次のような反応式に従って製造することができる。
【0011】
【化4】
【0012】
本発明化合物の具体的な合成法としては、例えば次のような方法を挙げることができる。
【0013】
SUS(ステンレス鋼)製の耐圧反応容器などの反応容器中に、溶媒として、非プロトン性極性溶媒、例えばジメチルスルホキシド、N−メチルピロリドン、N,N’−ジメチルエチレン尿素、N,N’−ジメチルプロピレン尿素、N,N’−ジエチルエチレン尿素、N,N’−ジイソプロピルエチレン尿素、N,N,N’,N’,N’’,N’’−ヘキサメチルリン酸トリアミド、1,3,4−トリメチル−2−イミダゾリジノン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、トリエチレングリコールジメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、ポリエチレングリコールジメチルエーテルから選択される1種以上を入れ、次に原料化合物である1,1−シクロヘキサンジメタノールを供給し、反応触媒として、例えば水酸化カリウム、水酸化ナトリウム等のアルカリ金属水酸化物などのアルカリ性化合物を添加する。この際、非プロトン性極性溶媒の使用量には特に制限はないが、非プロトン性極性溶媒の使用量は、1,1−シクロヘキサンジメタノール100重量部に対して、好ましくは100〜1,000重量部、更に好ましくは200〜700重量部である。非プロトン性極性溶媒の使用量が、1,1−シクロヘキサンジメタノール100重量部に対して、100重量部未満の場合、反応の選択性が低下することがあり好ましくない。一方、非プロトン性極性溶媒の使用量が、1,1−シクロヘキサンジメタノール100重量部に対して1000重量部を超えた場合、反応終了後の溶媒除去が煩雑になることがあり好ましくない。また、反応触媒であるアルカリ性化合物の使用量にも、特に制限はないが、アルカリ性化合物の使用量は、1,1−シクロヘキサンジメタノール100重量部に対して、好ましくは少なくとも2重量部であり、更に好ましくは4〜50重量部である。
【0014】
本発明によれば、次に、窒素ガスなどの不活性ガスにより反応容器内を置換した後、反応容器を密封して、アセチレンを圧入しながら、昇温して反応させることにより、本発明に係る化合物である1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンを生成させることができる。反応容器内の雰囲気はアセチレン単独とすることができるが、アセチレンに、窒素、ヘリウム、アルゴンなどの不活性ガスを併用してもよい。
【0015】
本発明に係る1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンを製造する際の反応条件としては、例えばアセチレンの圧力がゲージ圧で0.01MPa以上であるのが好ましく、生産性、副反応抑制、安全性の観点から、更に好ましくは、アセチレン圧はゲージ圧で0.15MPa以上、1.0MPa以下である。一方、反応温度は80〜140℃が好ましく、反応速度の観点からは100℃以上であるのが好ましく、経済性、副反応抑制の観点からは130℃以下であるのが好ましい。
【0016】
なお、本発明化合物の原料である1,1−シクロヘキサンジメタノール(II)は、従来公知の方法で製造することができる。例えばWO 2005/005456に記載された方法によることができる。
【実施例】
【0017】
製造例1
攪拌器及び温度計を備えた容量2000mlの四ツ口フラスコに、テトラヒドロフラン200ml及びリチウムジイソプロピルアミド溶液1300ml(約2.0mol/l、約2.6mol)を仕込み、アルゴン雰囲気下−70℃に冷却した。攪拌下、シクロヘキサンカルボン酸メチル(100.3g、0.691mol)とテトラヒドロフラン100mlの混合液を、反応混合物の温度を−70℃以下に保ちながら、1時間30分にわたり滴下し、−70℃以下の温度で約2時間30分攪拌した。引き続いて、得られた反応液にクロル炭酸メチル(100.0g、1.04mol)とテトラヒドロフラン250mlの混合液を同じ温度で3時間にわたり滴下し、−78℃〜室温にて終夜反応させた。その後、減圧下に反応容器中の溶媒を留去し、残渣を飽和塩化アンモニウム水溶液1000ml中に投入し、酢酸エチルにて抽出し、有機層を水洗した後、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、溶媒を減圧下に留去し、反応混合物215.4gを得た。続いて、別の3000mlの4ツ口フラスコに、テトラヒドロフラン900mlと水素化リチウムアルミニウム溶液600ml(約2.0mol/l、約1.2mol)を仕込み、アルゴン雰囲気下、0℃に冷却し、攪拌下に、得られた反応混合物160.2gとテトラヒドロフラン400mlの混合液を、0℃以下に保ちながら、約2時間にわたって滴下し、0℃以下で撹拌しながら終夜放置した。その後、この反応液中に水を滴下、約6Nの塩酸で中和し、反応液から不溶塩を濾別後、減圧下に濃縮した。続いて残渣を水1000ml中に投入し、酢酸エチルで抽出し、無水硫酸マグネシウムで乾燥させた。乾燥剤を濾別後、減圧下に溶媒を留去し、残渣をn−ヘキサン中に投入した。析出した結晶をn−ヘキサンによるデカンテーションを繰返して洗浄後、減圧下に乾燥させ20.8gの結晶性粉末を得た。この結晶性粉末は、NMRによる分析の結果、1,1−シクロヘキサンジメタノールであった(ガスグロマトグラフィーによる純度99.1%)。
【0018】
【化5】
【0019】
得られた1,1−シクロヘキサンジメタノールのNMR測定結果は以下の通りであった。
1H-NMR(CDCl3、TMS、400MHz):δppm 1.34−1.36(m,4H),1.43−1.47(m,6H),2.54(s,2H),3.62(s,4H)
13C-NMR(CDCl3、100MHz):δppm 21.4,26.5,29.6,38.3,70.4
【0020】
実施例1
攪拌器、圧力ゲージ、温度計、ガス導入管及びガスパージラインを備えた容量300mlのSUS製耐圧反応容器に、ジメチルスルホキシド102.2g、製造例1で得た純度99.1%の1,1−シクロヘキサンジメタノール15.2g(0.10mol)及び純度95.0%の水酸化カリウム2.14g(0.036mol)を仕込み、攪拌下に約60分間窒素ガスを流し、容器内を窒素にて置換した。次いで、反応容器を密封し、容器内にアセチレンガスを1.8kg/cm2の圧力で圧入した。次いで、ゲージ圧力を1.8kg/cm2に保ちながら徐々に昇温し、反応容器内温が100℃を越えないように制御し、約2時間30分反応させた。この間、逐次アセチレンガスを補充して反応容器内の圧力は常に1.8kg/cm2に保った。反応終了後、残留するアセチレンガスをパージして、反応液118.8gを得た。この反応液のガスクロ分析の結果、1,1−シクロヘキサンジメタノールの転化は定量的に進行し、所望の1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンの選択率は98.2%であった。
【0021】
次いで、上記反応液から反応溶媒を除き、減圧下(0.2kPa)に蒸留し、75℃〜76℃で留出した留分16.9gを集めた。この得られた留分は、NMRによる分析の結果、下記式で示される1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンであった(ガスグロマトグラフィーによる純度98.9%、収率81.5%)。
【0022】
【化6】
【0023】
得られた1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンのNMR測定結果を以下に示す。
1H-NMR(CDCl3、TMS、400MHz):δppm 1.45(s,10H;e,f,g),3.57(s,4H;c),3.94(dd,2H,J=6.8,1.9Hz;Ha1),4.17(dd,2H,J=14.3,1.9Hz;Ha2),6.46(dd,2H,J=14.3,6.8Hz;Hb)
13C-NMR(CDCl3、100MHz):δppm 21.4(e or f),26.2(g),29.8(e又はf),37.6(d),70.9(c),85.9(a),152.4(b)
【0024】
使用例1
実施例1で得た1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンを用いて以下の通り重合させた。
重合開始剤およびルイス酸として、HCl/ZnCl2を用い、シュレンク管に1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサン溶液4.0mL、0.18%HCl溶液0.5mL、ZnCl2溶液0.5mLをこの順に注射器で注入し重合を開始した。塩化メチレン中,−30℃、モノマー濃度0.15mol/L、HCl濃度5.0mmol/L、ZnCl2濃度2.0mmol/Lで行った。重合は、20分で重合率100%に達し、重合系にアンモニア水を少量加えたメタノールを加えて停止した。
【0025】
重合を停止した溶液を分液ロートに移し、塩化メチレンで希釈し、塩化ナトリウム飽和水溶液で3回洗浄した。次いで有機層からエバポレーターにより溶媒を除去し、減圧乾燥して生成ポリマーを得た。
【0026】
このポリマーは、メタノールによりデカンテーションして更に精製した。得られたポリマーの数平均分子量:Mnは3800で、分子量分布:Mw/Mnは1.65であった。
【0027】
使用例1で得たジビニルエーテルホモポリマーをインク用原料に用いたところ、低臭気、低揮発性、低皮膚刺激性、および低毒性であり、さらにガラス転移温度が高いため、優れた性能を示した。
【0028】
使用例1で得たジビニルエーテルホモポリマーを電子材料用原料に用いたところ、低臭気、低揮発性、低皮膚刺激性、および低毒性であり、さらにガラス転移温度が高いため、優れた性能を示した。
【産業上の利用可能性】
【0029】
本発明の1,1−ビス[(エテニロキシ)メチル]シクロヘキサンは重合してジビニルエーテルホモポリマーとすることにより、ガラス転移温度が高いという優れた性能を示し、また、硬化性、基材密着性、透明性に優れることに加え耐熱性に優れるため、インク、および塗料に代表されるインク用原料、ならびにレジスト、カラーフィルター、接着剤、製版材、封止剤、および画像形成用に代表される電子材料用原料などに有用である。
図1
図2