特許第5726181号(P5726181)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5726181フッ素及びエポキシ基含有共重合体及びその製造方法
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726181
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】フッ素及びエポキシ基含有共重合体及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08G 59/02 20060101AFI20150507BHJP
   C08F 218/12 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
   C08G59/02
   C08F218/12
【請求項の数】14
【全頁数】31
(21)【出願番号】特願2012-517233(P2012-517233)
(86)(22)【出願日】2011年5月19日
(86)【国際出願番号】JP2011061549
(87)【国際公開番号】WO2011148857
(87)【国際公開日】20111201
【審査請求日】2014年4月14日
(31)【優先権主張番号】特願2010-121516(P2010-121516)
(32)【優先日】2010年5月27日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002004
【氏名又は名称】昭和電工株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100077517
【弁理士】
【氏名又は名称】石田 敬
(74)【代理人】
【識別番号】100087413
【弁理士】
【氏名又は名称】古賀 哲次
(74)【代理人】
【識別番号】100128495
【弁理士】
【氏名又は名称】出野 知
(74)【代理人】
【識別番号】100093665
【弁理士】
【氏名又は名称】蛯谷 厚志
(74)【代理人】
【識別番号】100146466
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 正俊
(72)【発明者】
【氏名】内田 博
(72)【発明者】
【氏名】原 真尚
【審査官】 井津 健太郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開平04−202485(JP,A)
【文献】 特開平05−039326(JP,A)
【文献】 特開平05−163457(JP,A)
【文献】 特開平08−073534(JP,A)
【文献】 特開2001−089623(JP,A)
【文献】 特開2001−253928(JP,A)
【文献】 特開2003−155313(JP,A)
【文献】 特開2003−277478(JP,A)
【文献】 特開2003−313328(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 59/00−59/72
C08F 214/18
C08F 218/12
CAPLUS(STN)
REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも以下の一般式(1):
【化1】
{式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、R11は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてR又はRと、R又はRとは、互いに結合して環を形成してもよい。}で表されるモノマー単位と、以下の一般式(2):
【化2】
{式中、R12、及びR13は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、R14は、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、そしてR15は、フッ素原子又は炭素数12以下のパーフルオロアルキル基である。}で表されるモノマー単位とを含むことを特徴とするフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【請求項2】
一般式(1)で表されるモノマー単位が、以下の式:
【化3】
で表される少なくとも1つである、請求項1に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【請求項3】
一般式(1)で表されるモノマー単位が、以下の式:
【化4】
で表され、一般式(2)で表されるモノマー単位において、R12、R13、及びR14が水素原子であり、R15が、パーフルオロヘキシル基又はパーフルオロオクチル基である、請求項2に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【請求項4】
以下の一般式(3):
【化5】
{式中、R16は、炭素数18以下のアルキル基、炭素数3〜20の飽和若しくは不飽和の脂環式基、又は炭素数7〜20のアラルキル基であり、R17は、水素原子又はメチル基である。}で表されるモノマー単位をさらに含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【請求項5】
前記共重合体のエポキシ当量が190g/eq.〜3000g/eq.である、請求項1〜4のいずれか1項に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【請求項6】
前記共重合体の数平均分子量が400〜10000である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【請求項7】
前記共重合体中の各モノマー単位のモル%が以下の比率:
一般式(1)で表されるモノマー単位:20〜95モル%、
一般式(2)で表されるモノマー単位:5〜50モル%、
一般式(3)で表されるモノマー単位:0〜50モル%、
であり、かつ、それらの総和が100モル%以下である、請求項1〜6のいずれか1項に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【請求項8】
以下の一般式(4):
【化6】
{式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、R11は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてR又はRと、R又はRとは、互いに結合して環を形成してもよい。}で表されるエポキシ基含有モノマーと、以下の一般式(5):
【化7】
{式中、R12、及びR13は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、R14は、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、そしてR15は、フッ素原子又は炭素数12以下のパーフルオロアルキル基である。}で表されるフッ素原子含有モノマーとをラジカル共重合させる工程を含む、フッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【請求項9】
以下の一般式(6):
【化8】
{式中、R16は、炭素数18以下のアルキル基、炭素数3〜20の飽和若しくは不飽和の脂環式基、又は炭素数7〜20のアラルキル基であり、R17は、水素原子又はメチル基である。}で表されるα−オレフィンモノマーをさらにラジカル共重合させる工程を含む、請求項8に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【請求項10】
一般式(4)で表されるエポキシ基含有モノマーが、以下の式:
【化9】
で表されるエポキシ基とアリル基とを含有するモノマー群から選択される少なくとも1つである、請求項8又は9に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【請求項11】
ラジカル共重合を行なう際の反応温度が100℃〜200℃である、請求項8〜10のいずれか1項に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【請求項12】
ラジカル共重合を、脂肪族、脂環式又は芳香族炭化水素溶媒の存在下で行なう、請求項8〜11のいずれか1項に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【請求項13】
一般式(4)で表されるエポキシ基含有モノマーが3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルエステルであり、かつ、一般式(5)で表されるフッ素原子含有モノマーがパーフルオロヘキシルエチレン及びパーフルオロオクチルエチレンの内の少なくとも1つである、請求項8〜12のいずれか1項に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【請求項14】
ラジカル共重合反応後に薄膜蒸発装置又は分子蒸留装置を用いて未反応モノマーを含む低分子成分を留去する工程をさらに含む、請求項8〜13のいずれか1項に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、フッ素及びエポキシ基含有共重合体及びその製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、良好な撥水性、水蒸気バリア性を有する硬化物を与えることができるとともに、特に、貯蔵安定性に優れ、例えば、塗料、インク、接着剤、電子材料(ソルダーレジスト、層間絶縁膜等)、成形品などに好適なフッ素原子を有するエポキシ基含有共重合体及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来から含フッ素重合体は、電気絶縁性、低誘電率、耐擦傷性、耐酸性、耐候性、光学特性等に優れるため、電気部品、絶縁部品、塗料、インク、成形品など種々の用途に用いられている。一般的な含フッ素重合体としては、テトラフルオロエチレン/エチレン共重合体やテトラフルオロエチレン/ヘキサフルオロプロピレン共重合体などが挙げられるが、これらの重合体の多くは結晶性ポリマーであり、加工の際には重合体を高温、高圧で熱溶融させて成形する必要がある。そのため薄膜被覆を必要とする部材や、発光ダイオード(LED)素子や半導体素子などの微細構造を含む部材への適用は困難であった。
【0003】
そこで、モノマー単位中に反応性官能基を含み、硬化剤の添加により硬化物を与える重合体の開発が精力的に行われている。
例えば、以下の特許文献1には、水酸基を有する含フッ素ポリエーテルとエピクロロヒドリンとを水酸化ナトリウム等の強アルカリ性物質の存在下で反応させることによりポリエーテル末端へエポキシ基を導入する方法が開示されている。
また、以下の特許文献2には、含フッ素オレフィン化合物とエポキシ基含有アリルエーテルとをラジカル共重合して得られる塗料用エポキシ基含有含フッ素共重合体が開示されている。
さらに、以下の特許文献3には、エポキシ基含有重合性不飽和化合物とポリフルオロアルキルオレフィンとを含む共重合体が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開平1−216948号公報
【特許文献2】特開平7−268034号公報
【特許文献3】特開平11−189622号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1に開示されている反応ではエポキシ基の開環と閉環が起こるため、1級及び2級のアルコールが副生成物として残存し、定量的なエポキシ基の導入は難しい。特に分子量の大きい含フッ素ポリエーテルを用いた場合、蒸留による精製が不可能であるため、塩素分の混入が避けられず、電気特性や化学安定性が損なわれてしまう。
【0006】
特許文献2における共重合体は室温で固体であり、硬化物を得るためには溶媒に溶解させる必要があるなど作業性の改善の余地があった。特許文献3では重合性不飽和基としてアクリロイル基やメタクリロイル基、ビニル基等が用いられているが、アクリロイル基の重合で得られる共重合体は分子量が高いため、多くの場合固体となり作業性に問題が生じることがある。またビニル基は共重合に対する反応性が低く、転化率を高めるためには重合開始剤を多量に用いる必要があり硬化物の物性へ悪影響を与えることが懸念される。
【0007】
特許文献1〜3のいずれにも、硬化物が半導体素子や発光素子等の封止材として重要なガス(水蒸気)バリア性に優れる旨の記載や示唆はない。
【0008】
以上に鑑み、本発明が解決しようとする課題は、室温での作業性に優れ、高撥水性、高水蒸気バリア性のフッ素及びエポキシ基含有共重合体及びその効率の良い製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討し、実験を重ねた結果、アリル基と、ハロヒドリン法ではなく過酸化水素酸化や過酢酸酸化によりエポキシ化した脂環式エポキシ基とを併せ持つエステル化合物をベースとして、フッ素原子の導入された炭化水素からなる末端に炭素−炭素二重結合を有するオレフィン化合物(以下、末端オレフィン含フッ素化合物ともいう。)とラジカル共重合を行うことにより、フッ素原子が導入されたエポキシ基含有重合体が得られ、その硬化物が撥水性及び水蒸気バリア性に優れることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0010】
すなわち、本発明は以下の通りのものである。
[1]少なくとも以下の一般式(1):
【化1】
{式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、R11は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてR又はRと、R又はRとは、互いに結合して環を形成してもよい。}で表されるモノマー単位と、以下の一般式(2):
【化2】
{式中、R12、及びR13は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、R14は、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、そしてR15は、フッ素原子又は炭素数12以下のパーフルオロアルキル基である。}で表されるモノマー単位とを含むことを特徴とするフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【0011】
[2]一般式(1)で表されるモノマー単位が、以下の式:
【化3】
で表される少なくとも1つである、前記[1]に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【0012】
[3]一般式(1)で表されるモノマー単位が、以下の式:
【化4】
で表され、一般式(2)で表されるモノマー単位において、R12、R13、及びR14が水素原子であり、R15が、パーフルオロヘキシル基又はパーフルオロオクチル基である、前記[2]に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【0013】
[4]以下の一般式(3):
【化5】
{式中、R16は、炭素数18以下のアルキル基、炭素数3〜20の飽和若しくは不飽和の脂環式基、又は炭素数7〜20のアラルキル基であり、R17は、水素原子又はメチル基である。}で表されるモノマー単位をさらに含む、前記[1]〜[3]のいずれかに記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【0014】
[5]前記共重合体のエポキシ当量が190g/eq.〜3000g/eq.である、前記[1]〜[4]のいずれかに記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【0015】
[6]前記共重合体の数平均分子量が400〜10000である、前記[1]〜[5]のいずれかに記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【0016】
[7]前記共重合体中の各モノマー単位のモル%が以下の比率:
一般式(1)で表されるモノマー単位:20〜95モル%、
一般式(2)で表されるモノマー単位:5〜50モル%、
一般式(3)で表されるモノマー単位:0〜50モル%、
であり、かつ、それらの総和が100モル%である、前記[1]〜[6]のいずれかに記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体。
【0017】
[8]以下の一般式(4):
【化6】
{式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、R11は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてR又はRと、R又はRとは、互いに結合して環を形成してもよい。}で表されるエポキシ基含有モノマーと、以下の一般式(5):
【化7】
{式中、R12、及びR13は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、R14は、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、そしてR15は、フッ素原子又は炭素数12以下のパーフルオロアルキル基である。}で表されるフッ素原子含有モノマーとをラジカル共重合させる工程を含む、フッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【0018】
[9]以下の一般式(6):
【化8】
{式中、R16は、炭素数18以下のアルキル基、炭素数3〜20の飽和若しくは不飽和の脂環式基、又は炭素数7〜20のアラルキル基であり、R17は、水素原子又はメチル基である。}で表されるα−オレフィンモノマーをさらにラジカル共重合させる工程を含む、前記[8]に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【0019】
[10]一般式(4)で表されるエポキシ基含有モノマーが、以下の式:
【化9】
で表されるエポキシ基とアリル基とを含有するモノマー群から選択される少なくとも1つである、前記[8]又は[9]に記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【0020】
[11]ラジカル共重合を行なう際の反応温度が100℃〜200℃である、前記[8]〜[10]のいずれかに記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【0021】
[12]ラジカル共重合を、脂肪族、脂環式又は芳香族炭化水素溶媒の存在下で行なう、前記[8]〜[11]のいずれかに記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【0022】
[13]一般式(4)で表されるエポキシ基含有モノマーが3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルエステルであり、かつ、一般式(5)で表されるフッ素原子含有モノマーがパーフルオロヘキシルエチレン及びパーフルオロオクチルエチレンの内の少なくとも1つである、前記[8]〜[12]のいずれかに記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【0023】
[14]ラジカル共重合反応後に薄膜蒸発装置又は分子蒸留装置を用いて未反応モノマーを含む低分子成分を留去する工程をさらに含む、前記[8]〜[13]のいずれかに記載のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の製造方法。
【発明の効果】
【0024】
本発明のフッ素及びエポキシ基含有共重合体によりフッ素原子とエポキシ基が導入された撥水性と水蒸気バリア性の優れた硬化性樹脂を得ることができる。したがって、本発明のフッ素及びエポキシ基含有共重合体は、表面コーティング剤や半導体素子や発光素子等の封止材などの分野への利用が期待される。
【図面の簡単な説明】
【0025】
図1】実施例1で得られた生成物のH−NMRスペクトルを示す図である。
図2】実施例1で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図3】実施例1で得られた生成物の19F−NMRスペクトルを示す図である。
図4】実施例1で得られた生成物のIRスペクトルを示す図である。
図5】実施例2で得られた生成物のH−NMRスペクトルを示す図である。
図6】実施例2で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図7】実施例2で得られた生成物の19F−NMRスペクトルを示す図である。
図8】実施例2で得られた生成物のIRスペクトルを示す図である。
図9】実施例3で得られた生成物のH−NMRスペクトルを示す図である。
図10】実施例3で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図11】実施例3で得られた生成物の19F−NMRスペクトルを示す図である。
図12】実施例3で得られた生成物のIRスペクトルを示す図である。
図13】実施例4で得られた生成物のH−NMRスペクトルを示す図である。
図14】実施例4で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図15】実施例4で得られた生成物の19F−NMRスペクトルを示す図である。
図16】実施例4で得られた生成物のIRスペクトルを示す図である。
図17】実施例5で得られた生成物のH−NMRスペクトルを示す図である。
図18】実施例5で得られた生成物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図19】実施例5で得られた生成物の19F−NMRスペクトルを示す図である。
図20】実施例5で得られた生成物のIRスペクトルを示す図である。
図21】実施例6で得られた被蒸留物のH−NMRスペクトルを示す図である。
図22】実施例6で得られた被蒸留物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図23】実施例6で得られた被蒸留物の19F−NMRスペクトルを示す図である。
図24】実施例6で得られた被蒸留物のIRスペクトルを示す図である。
図25】実施例7で得られた被蒸留物のH−NMRスペクトルを示す図である。
図26】実施例7で得られた被蒸留物の13C−NMRスペクトルを示す図である。
図27】実施例7で得られた被蒸留物の19F−NMRスペクトルを示す図である。
図28】実施例7で得られた被蒸留物のIRスペクトルを示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明を詳細に説明する。
本発明のフッ素及びエポキシ基含有共重合体は、少なくとも以下の一般式(1):
【化10】
{式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、R11は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてR又はRと、R又はRとは、互いに結合して環を形成してもよい。}で表されるモノマー単位と、以下の一般式(2):
【化11】
{式中、R12、及びR13は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、R14は、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、そしてR15は、フッ素原子又は炭素数12以下のパーフルオロアルキル基である。}で表されるモノマー単位とを含むことを特徴とする。
一般式(1)で表される好ましいモノマー単位としては、以下の式:
【化12】
で表されるものが挙げられる。
【0027】
本発明のフッ素及びエポキシ基含有共重合体は、以下の一般式(3):
【化13】
{式中、R16は、炭素数18以下のアルキル基、炭素数3〜20の飽和若しくは不飽和の脂環式基、又は炭素数7〜20のアラルキル基であり、R17は、水素原子又はメチル基である。}で表されるモノマー単位を必要に応じてさらに含むことができる。
【0028】
本発明のフッ素及びエポキシ基含有共重合体を製造する方法としては、少なくとも以下の一般式(4):
【化14】
{式中、R〜R10は、それぞれ独立して水素原子又は炭素数1〜3のアルキル基であり、R11は、水素原子、メチル基又はフェニル基であり、そしてR又はRと、R又はRとは、互いに結合して環を形成してもよい。(例えば、R及びRが結合する炭素原子とR及びRが結合する炭素原子との間に水素原子及び/又はメチル基が結合した1つの炭素原子(メチレン基)が介在する場合、ノルボルナン骨格を形成する。)}で表されるエポキシ基含有モノマーと、以下の一般式(5):
【化15】
{式中、R12、及びR13は、それぞれ独立して水素原子又はフッ素原子であり、R14は、水素原子、フッ素原子、メチル基又はトリフルオロメチル基であり、そしてR15は、フッ素原子又は炭素数12以下のパーフルオロアルキル基である。}で表されるフッ素原子含有モノマーとを、ラジカル共重合させる方法を用いることが好ましい。
【0029】
一般式(4)で表される脂環式エポキシ基とアリル基を含む好ましいモノマーとしては、以下の式(7):
【化16】
で表されるモノマーが挙げられる。また、工業的に使用する見地から、ブタジエンと(メタ)アクリル酸の反応物を前駆体として、アリルエステル化後位置選択的なエポキシ化反応を行うことにより得られるモノエポキシ化合物を挙げることができる。このようなものとしては、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸(メタ)アリルエステル、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−メチル−1−カルボン酸(メタ)アリルエステル、3,4−エポキシシクロヘキサン−6−メチル−1−カルボン酸(メタ)アリルエステル等が挙げられる。この中でも特に好ましくは、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルエステル、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−メチル−1−カルボン酸アリルエステルの少なくとも1つである。これらの化合物は脂環式エポキシ基を有しているために、グリシジルタイプのエポキシ化合物に比べて貯蔵安定性が高く、工業的に使用することが容易である。さらに脂環式エポキシ基は、カルボキシル基とのカチオン重合性が通常のグリシジル基より高いことから、より低温・短時間での硬化を要求される分野では、非常に有利な特徴を有する。本明細書において「脂環式エポキシ基」とは、分子内の脂環骨格を形成する隣接する2つの炭素原子が1つの酸素原子と結合してオキシラン環を形成している構造を意味する。
【0030】
一般式(5)で表される好ましい末端オレフィン含フッ素化合物としては、パーフルオロアルキレン、パーフルオロアルキルエチレンが挙げられ、具体的には、テトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレン、パーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレン等が挙げられ、特にパーフルオロヘキシルエチレン、パーフルオロオクチルエチレンが好ましい。
【0031】
前記エポキシ化合物の炭素−炭素二重結合と、フッ素の導入された炭化水素からなる末端オレフィン化合物の炭素−炭素二重結合とのラジカル反応を行い、撥水性に優れたフッ素原子を有するエポキシ基含有共重合体を得ることができる。
【0032】
また、共重合体(樹脂)自体の物性に悪影響を与えない範囲で、他の共重合可能なモノマーを使用することもできる。このような共重合可能なモノマーとしては、以下の一般式(6):
【化17】
{式中、R16は、炭素数18以下のアルキル基、炭素数3〜20の飽和若しくは不飽和の脂環式基、又は炭素数7〜20のアラルキル基であり、R17は、水素原子又はメチル基である。}で表されるα−オレフィンモノマーが撥水性、可撓性を損なうことがないため、より好ましい。
【0033】
このようなα−オレフィンモノマーの具体例としては、エチレン、プロピレン、イソブテン、1−ブテン、3−メチルブテン−1、1−ペンテン、4−メチルペンテン−1、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、4−ビニルシクロヘキセン、5−ビニルノルボルネン、リモネン、アリルベンゼンなどが挙げられる。より好ましくは、エチレン、1−オクテン、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセン、4−ビニルシクロヘキセン、リモネンの少なくとも1つであり、さらに好ましくは、1−デセン、1−ドデセン、1−テトラデセン、1−ヘキサデセン、1−オクタデセンの少なくとも1つである。炭素鎖が長すぎる場合、共重合体を硬化物とした際に十分な機械強度をもたせることが困難となる場合が多い。
【0034】
さらに、他の共重合可能な炭素−炭素二重結合を持つ化合物として、n−ヘキサン酸アリル、シクロヘキサン酸アリル、シクロヘキシルプロピオン酸アリル、安息香酸アリル、フェニル酢酸アリル、フェノキシ酢酸アリル、トリフルオロ酢酸アリル、メチル炭酸アリル、エチル炭酸アリル、アリルメチルエーテル、アリルグリシジルエーテル、アリルベンジルエーテル、アリルオキシトリメチルシラン、アジピン酸ジアリル、マレイン酸ジアリル、マロン酸ジアリル、イタコン酸ジアリル、1,2−ジアリロキシエタン、フタル酸ジアリル、などのアリル基含有化合物、酢酸ビニル、n−ヘキサン酸ビニル、シクロヘキサン酸ビニル、ピバリン酸ビニル、n−ドデカン酸ビニル、安息香酸ビニル、4−t−ブチル安息香酸ビニル、フェニル酢酸ビニル、N−ビニルフタルイミド、ビニルシクロヘキシルエーテル、トリフルオロ酢酸ビニル、ビニルトリメチルシラン、ビニルトリフェノキシシラン、ジビニルジメチルシラン、ジビニロキシエタン、ジビニルジエチレングリコールジエーテル、1,4−ジビニロキシブタン、などのビニル基含有化合物、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸イソプロピル、アクリル酸n−ブチル、アクリル酸2−エチルヘキシル、アクリル酸シクロヘキシル、アクリル酸ラウリル、アクリル酸ベンジル、アクリル酸フェノキシエチル、アクリル酸グリシジル、アクリル酸N−メチルアミノメチル、アクリル酸N,N−ジメチルアミノエチル等のアクリル酸エステル、メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸イソプロピル、メタクリル酸n−ブチル、メタクリル酸イソブチル、メタクリル酸n−ヘキシル、メタクリル酸シクロヘキシル、メタクリル酸2−エチルヘキシル、メタクリル酸ラウリル、メタクリル酸ベンジル、メタクリル酸フェノキシエチル、メタクリル酸グリシジル、メタクリル酸アミノメチル、メタクリル酸N−メチルアミノメチル、メタクリル酸N,N−ジメチルアミノメチル、メタクリル酸3,4−エポキシシクロへキシルメチル等のメタクリル酸エステル、アクリロニトリル、メタクリロニトリル、アクリルアミド、メタクリルアミド、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン、ジビニルベンゼン、4−ビニルビフェニル等のスチレン系化合物、N−シクロヘキシルマレイミド、N−フェニルマレイミド等のN−置換マレイミド化合物等が挙げられる。これらの化合物は任意に選択することができるため、これらを成分とする樹脂に様々な性能を付与させることができる。
【0035】
これらのモノマーのラジカル共重合における配合比は、最終的に得られるエポキシ樹脂組成物に付与したい疎水性基や、芳香環、官能基などによって自由に決められ、また、エポキシ化合物の使用量は、目的とするエポキシ樹脂に付与したいエポキシ基含有量をどの程度にするかによって自由に決めることができるが、共重合体中における、前記一般式(1)で表されるモノマー単位の総和が20〜95モル%、前記一般式(2)で表されるモノマー単位が5〜50モル%、前記一般式(3)で表されるモノマー単位が0〜50モル%であり、かつ、これらのモノマー単位の総和が100モル%以下となるような配合比とすることが好ましい。前記一般式(1)で表されるモノマー単位の総和が少なすぎる場合、良好な機械強度をもつ硬化物を得ることが困難であり、また前記一般式(2)で表されるモノマー単位が多すぎる場合、樹脂組成物中の他の成分との相溶性が低下するため、高い透明性を有する硬化物が得られないことがある。前記総和が100モル%未満の場合、不足分は必要に応じて併用された他の共重合可能なモノマーや、前記一般式(1)で表されるモノマー単位を構成するエポキシ基含有モノマーのエポキシ基開環物等のモノマーの変性物に由来する。
【0036】
本発明のフッ素及びエポキシ基含有共重合体の好ましいエポキシ当量は、190g/eq.〜3000g/eq.であり、より好ましくは、250g/eq.〜1000g/eq.である。エポキシ当量とは、エポキシ基1個当りの共重合体の分子量、すなわち、(共重合体の分子量/エポキシ基数)で定義される。エポキシ当量が190g/eq.よりも低いと、硬化物のガラス転移温度、すなわち、耐熱性は高くなるものの、柔軟性が損なわれてしまう。一方、3000g/eq.よりも高くなると架橋密度が低下し耐熱性が低くなり、結果としてフッ素原子の含有量が増えるために他の化合物との相溶性が低下するため、好ましくない。
【0037】
ラジカル共重合は、重合温度でモノマーが液状の場合には無溶媒で行うことができる。溶媒を使用する場合は、モノマー及びポリマーを溶解するものであれば特に制限はないが、エポキシ基に対して不活性であることが望ましい。例えば、ヘキサン、ヘプタン、オクタンなどの脂肪族炭化水素類、シクロペンタン、シクロヘキサン、シクロヘプタンなどの脂環式炭化水素類、ベンゼン、トルエン、キシレンなどの芳香族炭化水素類、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトンなどのケトン類、ジエチルエーテル、ジブチルエーテル、t−ブチルメチルエーテル、ジオキサンなどのエーテル類、酢酸エチル、酢酸イソブチル、エチレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノアセテートなどのエステル類、γ−ブチロラクトン、δ−バレロラクトン、ε−カプロラクトン等のラクトン類、エチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜4)エーテル類、ジエチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜4)エーテル類、エチレングリコールジアルキル(炭素数1〜4)エーテル類、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテルなどのジエチレングリコールジアルキル(炭素数1〜4)エーテル類、エチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜4)エーテルアセテート類、ジエチレングリコールモノアルキル(炭素数1〜4)エーテルアセテート類、四塩化炭素、クロロホルムなどのハロゲン化炭化水素、メタノール、エタノール、2−プロパノール、シクロヘキサノールなどのアルコール類等を使用することができる。また条件によっては、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミドなどのアミド類等を使用してもよい。これらの溶媒は単独で又は混合して使用してもよい。溶媒を使用する場合、脂肪族、脂環式又は芳香族炭化水素溶媒の存在下でラジカル共重合を行うことが好ましい。
【0038】
ラジカル共重合時、重合開始剤として通常のラジカル重合開始剤を用いることができる。例えば、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス−(2,4−ジメチルバレロニトリル)などのアゾ系、ラウロイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシ(2−エチルヘキサノエート)、t−ブチルパーオキシイソプロピルモノカーボネート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ビス(4−t−ブチルシクロヘキシル)パーオキシジカーボネートなどのジアルキルパーオキシジカーボネート、1,1−ジ(t−ヘキシルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、1,1−ジ(t−ブチルパーオキシ)シクロヘキサン、ジ−t−ブチルパーオキサイド、ジ−t−へキシルパーオキサイドなどのジアルキルパーオキサイド、ジクミルパーオキサイド、メチルエチルケトンパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド、t−ブチルパーオキシベンゾエート、クメンヒドロパーオキサイド等の過酸化物系を単独で又は混合して使用する。これらの中でも開始剤効率が高く開始剤残基がエポキシ基の加水分解や酸分解を促進しにくいという点で、ジアルキルパーオキサイド、ジアルキルパーオキシジカーボネートが重合開始剤として好ましい。重合開始剤は、モノマーの総モル数に対して0.1モル%〜30モル%の範囲で配合させることが望ましい。
【0039】
反応温度は、重合開始剤の種類によるが、−10〜220℃の間で適宜選択することができ、エポキシ基の安定性及び取り扱いのし易さから、100〜200℃であることが望ましい。
【0040】
反応圧力については、特にテトラフルオロエチレン、ヘキサフルオロプロピレンのような常温でガス状の化合物を反応させる場合には加圧する必要があるが、常温で液状であるオレフィンを用いる場合には常圧でも反応を行うことができる。
【0041】
生成する共重合体の分子量は、反応温度、モノマーや重合開始剤の供給方法、モノマー濃度、モノマーの種類などによって決まる。これらの分子量は、ラジカル重合させた後のエポキシ樹脂組成物が、数平均分子量で400〜10,000になるようにすることが好ましい。分子量が高すぎると作業性が低下し、分子量が低すぎると、硬化後の樹脂に充分な機械的強度が得られない。
【0042】
重合条件によっては、エポキシ基が加水分解されたジオール誘導体や、特にパーエステルを用いた場合に開始剤由来の有機酸とエポキシ基が反応したグリコールモノエステル誘導体が少量副生することがあるが、これらの混入は耐熱性を下げるものの機械強度は向上することもあり、トータルとしての物性が良ければ問題はない。
【0043】
以上のようにして得られたエポキシ基含有共重合体は、分子量の制御や導入するモノマーの種類を変えることにより塗料、インク、接着剤、電子材料(ソルダーレジスト、層間絶縁膜等)、成形品等に必要な様々な物性を持たせることができる。
【0044】
上記エポキシ基含有共重合体は、単独で硬化剤と混合し硬化物を作製するのみでなく、他の樹脂組成物中に混ぜて使用することもできる。その際、エポキシ当量が250g/eq.〜1000g/eq.、分子量が500〜5000であるエポキシ基含有共重合体を用いると他成分との相溶性の点で特に好ましい。
【0045】
ラジカル共重合後の反応液は、用途によってはそのまま使用することも可能である。例えば、スクリーン印刷に使用する場合には、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテートやγ−ブチロラクトンのような高沸点溶媒中で重合を行い、そのままシリカやタルク、顔料、消泡剤、レベリング剤のような必要な添加剤を加え、3本ロールのような分散機で混練後、使用することができる。
【0046】
また、無溶媒で用いる場合には、オレフィン系の残存モノマーはその後のエポキシ基の硬化反応には関与しないために、必要に応じて留去した後に、重合液に直接エポキシ基の硬化開始剤を添加し、更に必要な添加剤を加えた後に、注型重合等により成型することもできる。また、重合後にエポキシ系のモノマーも残存しているので、特に収縮率や機械特性を向上させる場合には、薄膜蒸発装置や分子蒸留装置を用いて、残存モノマーや低分子量オリゴマーを留出させることは非常に有効な手法である。
【0047】
ここで、薄膜蒸発装置とは処理液を薄膜状にして、真空下でより低い温度で熱影響を及ぼさずに蒸発させる装置のことで、流下膜式薄膜蒸発装置、攪拌式薄膜蒸発装置、遠心薄膜蒸発装置等が知られている。一般には圧力は、0.01kPa〜10kPaで、温度については50℃〜250℃で操作される。
【0048】
分子蒸発装置とは、極めて高真空に維持され蒸発面から極めて静かな蒸発が起こるように蒸発面での液膜はできる限り薄く、蒸発面と凝縮面の距離が分子の平均自由行程以下とし、蒸発面と凝縮面との温度差を十分保つことによって、分子が凝縮面に戻ることを極力抑制するようにした装置であり、ポット分子蒸留装置、流下膜式分子蒸留装置、遠心式分子蒸留装置、実験遠心式分子蒸留装置等が知られている。圧力は、0.01kPa以下、通常は0.1〜1kPa、温度については50℃〜250℃で操作され、分子量が1000近くのものでも蒸発させることが可能である。
【0049】
本明細書を通して、エポキシ基含有共重合体のエポキシ当量は以下の方法により測定したものである。
原理としては塩酸とエポキシ基を反応させて、残存した塩酸量をアルカリにより滴定することにより定量し、反応した塩酸量を求め、樹脂中に存在するエポキシ基の量を計算する。そのために使用する塩酸量よりもエポキシ基の量が少ない2〜4ミリモル当量になるくらいの試料を、精密に秤採り、200mlの共栓三角フラスコに入れ、この容器に0.2M塩酸−ジオキサン溶液25mLを、ホールピペットを用いて添加して溶解し、室温で30分間放置する。次に、10mlのメチルセロソルブで三角フラスコの栓及び内壁を洗いながら添加し、指示薬として0.1%クレゾールレッド−エタノール溶液を4〜6滴添加し、試料が均一になるまで十分に攪拌する。これを、0.1M水酸化カリウム−エタノール溶液で滴定し、指示薬の青紫色が30秒間続いたときを、中和の終点とする。その結果を下記の計算式を用いて得た値を、樹脂のエポキシ当量とする。
エポキシ当量(g/eq.)=(10000×S)/〔(B−A)×f〕
S:試料の採取量(g)
A:0.1M水酸化カリウム−エタノール溶液使用量(ml)
B:空試験での0.1M水酸化カリウム−エタノール溶液使用量(ml)
f:0.1M水酸化カリウム−エタノール溶液のファクター
【0050】
また、数平均分子量Mnの測定にはゲルパーミエーションクロマトグラフィー(以下、GPCと省略する。)を用い、ポリスチレン(標準試料 昭和電工(株)製STANDARD SM−105使用)に換算した値で求めた。
なお、GPCの測定条件は以下のとおりであった。
装置名:日本分光(株)製HPLCユニット HSS−2000
カラム:ShodexカラムLF−804
移動相:テトラヒドロフラン
流速:1.0mL/min
検出器:日本分光(株)製 RI−2031Plus
温度:40.0℃
試料量:サンプルループ 100μリットル
試料濃度:0.1質量%前後にテトラヒドロフランにて調製
【実施例】
【0051】
以下、実施例により本発明を更に具体的に説明するが、本発明は以下の実施例により制限されるものではない。
[実施例1]
東京理化機械(株)製のパーソナル有機合成装置PPV−4060(簡易オートクレーブ)に、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルエステル(以下、CEAと略する、昭和電工(株)製)15.0g(82.3mmol)、パーフルオロヘキシルエチレン(以下、PFHEと略する、ユニマテック(株)製CHEMINOX PFHE)7.12g(20.6mmol)、ジ−t−ブチルパーオキサイド0.768g(日本油脂(株)製パーブチル−D 純度98% 5.14mmol)、及びシクロヘキサン11.1gを仕込み、窒素置換後反応容器を密閉し、160℃で4時間反応させた。原料の転化率から共重合体中に含まれる各構成成分の存在比を算出したところ、CEAに基づく繰り返し単位が78モル%、PFHEに基づく繰り返し単位が22モル%であった。反応終了後、エバポレーターにより反応液中の未反応のパーフルオロヘキシルエチレンとシクロヘキサンを留去した。得られた生成物のエポキシ当量は328g/eq.で、GPCの分析で、数平均分子量731、重量平均分子量2020であった。得られた生成物のH−NMR、13C−NMR、19F−NMR、IRスペクトルを、それぞれ、図1〜4に示す。
【0052】
[実施例2]
東京理化機械(株)製のパーソナル有機合成装置PPV−4060(簡易オートクレーブ)に、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルエステル(昭和電工(株)製)10.0g(54.9mmol)、パーフルオロヘキシルエチレン(ユニマテック(株)製CHEMINOX PFHE)9.50g(27.4mmol)、ジ−t−ブチルパーオキサイド0.614g(日本油脂(株)製パーブチル−D 純度98% 4.12mmol)、及びシクロヘキサン9.75gを仕込み、窒素置換後反応容器を密閉し、160℃で4時間反応させた。原料の転化率から共重合体中に含まれる各構成成分の存在比を算出したところ、CEAに基づく繰り返し単位が63モル%、PFHEに基づく繰り返し単位が37モル%であった。反応終了後、エバポレーターにより未反応のパーフルオロヘキシルエチレンとシクロヘキサンを留去した。得られた生成物のエポキシ当量は472g/eq.で、GPCの分析で、数平均分子量840、重量平均分子量2110であった。得られた生成物のH−NMR、13C−NMR、19F−NMR、IRスペクトルを、それぞれ、図5〜8に示す。
【0053】
[実施例3]
東京理化機械(株)製のパーソナル有機合成装置PPV−4060(簡易オートクレーブ)に、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルエステル(昭和電工(株)製)20.0g(110mmol)、パーフルオロヘキシルエチレン(ユニマテック(株)製CHEMINOX PFHE)3.80g(11.0mmol)、ジ−t−ブチルパーオキサイド0.901g(日本油脂(株)製パーブチル−D 純度98% 6.04mmol)、及びシクロヘキサン11.9gを仕込み、窒素置換後反応容器を密閉し、160℃で4時間反応させた。原料の転化率から共重合体中に含まれる各構成成分の存在比を算出したところ、CEAに基づく繰り返し単位が90モル%、PFHEに基づく繰り返し単位が10モル%であった。反応終了後、エバポレーターにより未反応のパーフルオロヘキシルエチレンとシクロヘキサンを留去した。得られた生成物のエポキシ当量は266g/eq.で、GPCの分析で、数平均分子量955、重量平均分子量2830であった。得られた生成物のH−NMR、13C−NMR、19F−NMR、IRスペクトルを、それぞれ、図9〜12に示す。
【0054】
[実施例4]
東京理化機械(株)製のパーソナル有機合成装置PPV−4060(簡易オートクレーブ)に、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルエステル(昭和電工(株)製)14.0g(76.8mmol)、パーフルオロヘキシルエチレン(ユニマテック(株)製CHEMINOX PFHE)2.66g(7.68mmol)、1−ドデセン5.42g(出光興産(株)製リニアレン−12 30.7mmol)、及びジ−t−ブチルパーオキサイド0.843g(日本油脂(株)製パーブチル−D 純度98% 5.76mmol)を仕込み、窒素置換後反応容器を密閉し、160℃で4時間反応させた。原料の転化率から共重合体中に含まれる各構成成分の存在比を算出したところ、CEAに基づく繰り返し単位が68モル%、PFHEに基づく繰り返し単位が7モル%、1−ドデセンに基づく繰り返し単位が25モル%であった。反応終了後、エバポレーターにより未反応のパーフルオロヘキシルエチレンとシクロヘキサンを留去した。得られた生成物のエポキシ当量は311g/eq.で、GPCの分析で、数平均分子量883、重量平均分子量2520であった。得られた生成物のH−NMR、13C−NMR、19F−NMR、IRスペクトルを、それぞれ、図13〜16に示す。
【0055】
[実施例5]
東京理化機械(株)製のパーソナル有機合成装置PPV−4060(簡易オートクレーブ)に、3,4−エポキシシクロヘキサン−1−カルボン酸アリルエステル(昭和電工(株)製)20.0g(110mmol)、パーフルオロオクチルエチレン(ユニマテック(株)製CHEMINOX PFOE)12.2g(27mmol)、ジ−t−ブチルパーオキサイド1.01g(日本油脂(株)製パーブチル−D 純度98% 6.9mmol)、及びシクロヘキサン 50gを仕込み、窒素置換後反応容器を密閉し、160℃で4時間反応させた。原料の転化率から得られた共重合体中に含まれる各構成成分の存在比を算出したところ、CEAに基づく繰り返し単位が75モル%、PFHEに基づく繰り返し単位が25モル%であった。反応終了後、エバポレーターにより未反応のパーフルオロオクチルエチレンとシクロヘキサンを留去した。得られた生成物のエポキシ当量は327g/eq.で、GPCの分析で、数平均分子量1270、重量平均分子量2009であった。得られた生成物のH−NMR、13C−NMR、19F−NMR、IRスペクトルを、それぞれ、図17〜20に示す。
【0056】
[実施例6]
実施例1で得られた生成物を、大科工業(株)製の分子蒸留装置MS−FL特型を用いて、真空度0.3Pa、カラム温度70℃で、モノマーと少量の低分子量オリゴマーを留去した。この被蒸留物のエポキシ当量は355g/eq.で、GPCの分析で、数平均分子量1352、重量平均分子量2398であった。得られた被蒸留物のH−NMR、13C−NMR、19F−NMR、IRスペクトルを、それぞれ、図21〜24に示す。
【0057】
[実施例7]
実施例5で得られた生成物を、大科工業(株)製の分子蒸留装置MS−FL特型を用いて、真空度0.3Pa、カラム温度70℃で、モノマーと少量の低分子量オリゴマーを留去した。この被蒸留物のエポキシ当量は368g/eq.で、GPCの分析で、数平均分子量1486、重量平均分子量1989であった。得られた被蒸留物のH−NMR、13C−NMR、19F−NMR、IRスペクトルを、それぞれ、図25〜28に示す。
【0058】
[比較例1]
東京理化機械(株)製のパーソナル有機合成装置PPV−4060(簡易オートクレーブ)に、4−ビニルシクロヘキセンオキシド(以下、VCOと略する、ダイセル化学工業(株)製セロキサイド2000)30.0g(0.24mmol)、パーフルオロヘキシルエチレン(ユニマテック(株)製CHEMINOX PFHE)21.1g(61.0mmol)、ジ−t−ブチルパーオキサイド2.25g(日本油脂(株)製パーブチル−D 純度98% 15.1mmol)、及びシクロヘキサン30.0gを仕込み、窒素置換後反応容器を密閉し、160℃で4時間反応させた。原料の転化率から共重合体中に含まれる各構成成分の存在比を算出したところ、4−ビニルシクロヘキセンオキシドが重合した単位が52モル%、PFHEが重合した単位が48モル%であった。反応終了後、エバポレーターにより未反応のパーフルオロヘキシルエチレンとシクロヘキサンを留去した。この留去液のエポキシ当量は938g/eq.で、GPCの分析で、数平均分子量1237、重量平均分子量1403であった。
【0059】
実施例1、実施例5、及び比較例1の反応成績及び得られた反応混合物の物性値を以下の表1にまとめて示す。
【0060】
【表1】
【0061】
実施例1、5において、原料1の転化率は、比較例1に比較して著しく高く、またエポキシ当量が十分小さいため、エポキシ環の開環などの副反応が進行せず、目的とする共重合反応が効率的に進行していることが分かる。また数平均分子量が高くなり過ぎないため、作業性に優れている。
【0062】
[硬化物の作製]
[実施例8:CEA−PFHE樹脂の作製]
実施例6で得られた被蒸留物69質量部と、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業(株)製 HN−5500E)30質量部、及び硬化促進剤としてテトラ置換ホスホニウムブロマイド(サンアプロ(株)製 U−CAT5003)1質量部を均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−2時間、100℃−2時間、150℃−2時間の温度プロファイルで加熱することにより、薄黄色透明の硬化板を得た。
【0063】
[実施例9:CEA−PFOE樹脂の作製]
実施例7で得られた被蒸留物70質量部と、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業(株)製 HN−5500E)29質量部、及び硬化促進剤としてテトラ置換ホスホニウムブロマイド(サンアプロ(株)製 U−CAT5003)1質量部を均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物をTPX(メチルペンテン(三井化学(株)製))樹脂製シャーレ上に厚さ1mmとなるように流し込み、60℃−2時間、100℃−2時間、150℃−2時間の温度プロファイルで加熱することにより、薄黄色透明の硬化板を得た。
【0064】
[比較例2:脂環式エポキシ樹脂の作製]
3,4−エポキシシクロヘキセニルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキセンカルボキシレート(ダイセル化学(株)製 セロキサイド2021P)46質量部、硬化剤としてメチルヘキサヒドロ無水フタル酸(日立化成工業(株)製 HN−5500E)53質量部、及び硬化促進剤としてテトラ置換ホスホニウムブロマイド(サンアプロ(株)製 U−CAT5003)1質量部を均一になるように混合し、硬化性組成物を調製した。この硬化性組成物を1mm厚のシリコーンゴム紐を挟み込んだアルミ板に流し込み、60℃−2時間、100℃−2時間、150℃−2時間の温度プロファイルで加熱することにより、無色透明の硬化板を得た。
【0065】
[透湿度の測定]
実施例8、9、及び比較例2で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々ガス透過率測定装置(GTRテック(株)製、GTR−30XASD)により、40℃、1気圧での透湿度[g/m・24hr]を求めた。
【0066】
[接触角の測定]
実施例8、9、及び比較例2で得られた厚さ1mmの硬化板を用い、各々接触角計(協和界面科学(株)製、DM−500)により、水の接触角を求めた。
【0067】
実施例8、9、及び比較例2で得られた硬化板を用いて測定した上記特性値を以下の表2にまとめて示す。
【0068】
【表2】
【0069】
実施例8、9の硬化板の透湿度は、比較例2に比較して低く、また接触角は著しく大きな値を示しているため、該硬化板は撥水性が高く、水蒸気バリア性に優れたものであることが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0070】
本発明のフッ素及びエポキシ基含有共重合体により、フッ素原子とエポキシ基が導入された撥水性と水蒸気バリア性の優れた硬化性樹脂を得ることができるため、本発明のフッ素及びエポキシ基含有共重合体は、表面コーティング剤や半導体素子や発光素子等の封止材などの分野に好適に利用可能である。
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