(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726352
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年5月27日
(54)【発明の名称】大型ターボ過給式低速2ストロークディーゼルエンジンおよび大型2ストロークディーゼルエンジンに設けられたバタフライ弁の特性を得る方法
(51)【国際特許分類】
F02D 45/00 20060101AFI20150507BHJP
F02B 37/02 20060101ALI20150507BHJP
【FI】
F02D45/00 301E
F02B37/02 D
F02B37/02 E
F02D45/00 301B
F02D45/00 301C
F02D45/00 305A
F02D45/00 305E
F02D45/00 301F
【請求項の数】14
【外国語出願】
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2014-95667(P2014-95667)
(22)【出願日】2014年5月7日
(65)【公開番号】特開2014-228000(P2014-228000A)
(43)【公開日】2014年12月8日
【審査請求日】2014年9月30日
(31)【優先権主張番号】PA 2013 00304
(32)【優先日】2013年5月21日
(33)【優先権主張国】DK
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】597061332
【氏名又は名称】エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・フィリアル・アフ・エムエーエヌ・ディーゼル・アンド・ターボ・エスイー・ティスクランド
(74)【代理人】
【識別番号】100127188
【弁理士】
【氏名又は名称】川守田 光紀
(72)【発明者】
【氏名】ヴァイルゴー−ラウアスン モーデン
【審査官】
竹下 和志
(56)【参考文献】
【文献】
特開2012−159079(JP,A)
【文献】
特開2009−008072(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F02D 13/00 − 28/00
F02D 41/00 − 41/40
F02D 43/00 − 45/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大型ターボ過給式低速2ストロークディーゼルエンジン(1)の排気迂回路に設けられた、前記排気迂回路内の流量を調節するために用いられる非線形弁(34、44)の特性を得る方法であって、前記排気迂回路は排気ガスにターボ過給機(16)のタービン(17)を制御可能な形態で迂回させることを可能にする、前記方法において、
前記エンジン(1)を作動させることと、
前記エンジンを作動させている間に、
前記非線形弁(34、44)を全閉位置から全開位置まで少しずつ開き、前記非線形弁(34、44)の各位置においてエンジン動作パラメータを測定すること、および/または、前記非線形弁(34、44)を全開位置から全閉位置まで少しずつ閉じ、前記非線形弁(34、44)の各位置において前記エンジン動作パラメータを測定することと、
前記非線形弁の前記位置と対応する前記エンジン動作パラメータ値とを測定している間、前記エンジン(1)を一定の負荷に維持することと、
前記各弁位置と対応する前記測定されたエンジン動作パラメータ値とを記録することと;
を含む、方法。
【請求項2】
前記記録された各位置と、対応する測定されたエンジンパラメータ値とはマップまたはルックアップテーブルに格納される、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記測定はセッション中に行われ、前記非線形弁(34、44)は第1のセッションでは閉位置から開位置に動かされ、第2のセッションでは前記開位置から前記閉位置に動かされ、前記測定は複数の所定位置で行われ、前記複数の所定位置は前記第1のセッションと第2のセッションとで全く同じである、請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
前記第1および第2のセッション中に測定された前記エンジン動作パラメータの平均が前記マップまたはルックアップテーブルに格納される、請求項3に記載の方法。
【請求項5】
前記測定は一定間隔の前記弁位置毎に行われる、請求項1乃至4の何れか1項に記載の方法。
【請求項6】
前記弁角度と前記排気ガス迂回路を通って流れる前記排気ガスに対する実際の流量制限との間の関係を求めるために、前記測定されたエンジン動作パラメータ値を用いることを更に含む、請求項1乃至5の何れか1項に記載の方法。
【請求項7】
前記非線形弁(34、44)のオープンループ制御のために、前記非線形弁について前記得られた特性を用いる、請求項1乃至6の何れか1項に記載の方法。
【請求項8】
前記エンジン動作パラメータは、掃気圧、または前記ターボ過給機の速度、または燃焼圧、または前記エンジンを通る空気流量、または燃焼室内の温度、または排気ガス溜め内の温度、または前記ターボ過給機の前記タービンの下流の排気ガスの温度、または、前記エンジンが排気ガス再循環システムを有する場合は、排気ガス再循環圧、である、請求項1乃至7の何れか1項に記載の方法。
【請求項9】
クロスヘッドを有する大型低速2ストロークディーゼルエンジン(1)であって、
一列に配置される複数のシリンダ(2)と、
コンプレッサ(18)を駆動するタービン(17)を有するターボ過給機(16)と、
前記複数のシリンダ(2)に隣接し、該複数のシリンダ(2)に沿って延在する掃気溜め(20)であって、前記複数のシリンダ(2)の各々の掃気ポート(26)に接続される掃気溜め(20)と、
前記コンプレッサ(18)から前記掃気溜め(20)に至る掃気流路と、
前記複数のシリンダ(2)に隣接し、該複数のシリンダ(2)に沿って延在する排気ガス溜め(12)であって、前記複数のシリンダ(2)の各々の排気弁に接続される排気ガス溜め(12)と、
前記排気ガス溜め(12)から前記タービン(17)に至る排気ガス流路と、
排気ガスが前記タービン(17)を迂回できるようにする排気ガス迂回路と、
前記排気ガス迂回路を通る流量を調節するために前記排気ガス迂回路に設けられる非線形流量調節弁(34、44)と、
前記非線形流量調節弁の位置を調節するために、該非線形流量調節弁に作用しうるように接続されるアクチュエータと、
を備えるエンジン(1)において、
前記エンジン(1)は、マップまたはルックアップテーブルにアクセス可能な電子制御ユニットを備え、ここで前記マップまたはルックアップテーブルには、前記エンジンについて測定されたエンジン動作パラメータ値が、前記非線形流量調節弁(34、44)の動作域をカバーする複数の漸増位置のいずれかにマッピングされており、
前記電子制御ユニットは、前記非線形流量調節弁(34、44)のオープンループ制御用に構成され、
前記電子制御ユニットは、前記マップまたはルックアップテーブルに格納されたデータを用いて前記非線形流量調節弁(34、44)の位置を制御するために、前記アクチュエータに接続される、
ことを特徴とするエンジン(1)。
【請求項10】
前記エンジン動作パラメータは、掃気圧、または前記ターボ過給機の速度、または燃焼圧、または前記エンジンを通る空気流量、または燃焼室内の温度、または前記排気ガス溜め内の温度、または前記ターボ過給機の前記タービンの下流の排気ガスの温度、または、前記エンジンが排気ガス再循環システムを有する場合は、排気ガス再循環圧、である、請求項9に記載のエンジン。
【請求項11】
大型ターボ過給式低速2ストロークディーゼルエンジン(1)の第1の排気ガス迂回路内の流量を調節するために、前記第1の排気ガス迂回路に設けられた非線形流量調節弁の特性を得る方法であって、前記エンジンは前記第1の排気ガス迂回路に平行に配置される第2の排気ガス迂回路を備え、前記第2の排気ガス迂回路は流量調節弁(34、44)を備え、前記流量調節弁(34、44)の位置と前記流量調節弁(34、44)によってもたらされる流量制限との間の関係が既知である方法において、前記方法は、
a)エンジン動作パラメータを測定し、前記測定されたエンジン動作パラメータを前記エンジン動作パラメータの初期値として記録するステップと、
b)エンジン負荷を変えずに前記エンジンを作動させている状態で前記非線形流量調節弁(34、44)の位置を変化させるステップと、
その後、
c)前記エンジン動作パラメータを測定し、前記測定された掃気圧が前記エンジン動作パラメータの前記初期値に一致するまで、前記流量調節弁(34、44)の位置を変化させるステップと、
d)前記非線形流量調節弁(34、44)の特性を求めるために、前記エンジン動作パラメータ値に一致する位置における前記流量調節弁の位置変化と前記非線形流量調節弁の位置変化とを用いるステップと、
を含むことを特徴とする方法。
【請求項12】
前記流量調節弁(34、44)の前記位置変化によって引き起こされる前記流通面積の変化は前記非線形流量調節弁(34、44)の前記位置変化によって引き起こされる前記流通面積の変化に等しく、これにより、前記非線形流量調節弁の前記位置変化に対応する前記流通面積の変化を求める、請求項11に記載の方法。
【請求項13】
前記非線形流量調節弁(34、44)の全開位置と全閉位置との間に分布する複数の弁位置を含む範囲に亘ってステップa)からd)を繰り返すことと、前記測定された特性を記録することと、前記非線形流量調節弁(34、44)の弁角度と前記第1の排気ガス迂回路を通って流れる前記排気ガスに対する実際の流量制限との間の関係が格納されるマップまたはルックアップテーブルを作成することとを更に含む、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
前記エンジン動作パラメータは、掃気圧、またはターボ過給機の速度、または燃焼圧、または前記エンジンを通る空気流量、または燃焼室内の温度、または排気ガス溜め内の温度、または前記ターボ過給機のタービンの下流の排気ガスの温度、または、前記エンジンが排気ガス再循環システムを有する場合は、排気ガス再循環圧、である、請求項11乃至13の何れか1項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、大型低速2ストロークディーゼルエンジンのガス交換システムに用いられるバタフライ弁の制御に関する。本発明は、特に、大型低速2ストロークディーゼルエンジンのガス交換システムに用いられるバタフライ弁のオープンループ制御に関する。
【背景技術】
【0002】
クロスヘッドを有する大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンは、巨大で極めて効率的な動力産出機械である。これらエンジンのうち最大のものは、94rpmで約120,000kWを産出し、全長が36メートル、重量が最大4000トンに達する。クロスヘッドを有するこれらの大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンにおいては、ガス交換システム内の排気ガス流量を調節するためにバタフライ弁または他の非線形弁を使用できる。例えば、排気ガスにターボ過給機のタービンを迂回させるために、排気ガスを流すことができる排気ガス迂回路にバタフライ弁を使用できる。特許文献1(デンマーク国特許第177388(B1)号)は、
シリンダ迂回路の中に、オン/オフ弁又は比例弁(線形弁)を備える大型2ストロークディーゼルエンジンを開示している。
【0003】
バタフライ弁の閉鎖機構は、円板の形態を取り、この円板の平面にある軸線を中心に管状パイプ区間内で回転可能である。バタフライ弁が一般に好まれるが、その理由は、他の弁デザインに比べ低価格であること、ならび軽量であること、つまりより少ない支持で済むことによる。円板はパイプの中心に位置付けられ、弁の外側でアクチュエータに接続されたロッドがこの円板を貫通している。アクチュエータを回転させると、円板は流れに平行に、または垂直に、回転する。円板は常に流れの中にある。したがって、弁位置に関係なく、流れには常に圧力降下が引き起こされる。バタフライ弁は、四半回転弁ファミリーの弁である。「バタフライ」は、ロッドに取り付けられた金属製円板である。弁が閉じられと、通路を完全に塞ぐように円板が回転される。弁を全開にすると、流体が殆ど制限されずに通過できるように、円板が四半回転される。流量を調節するために、弁は少しずつ開かれる。
【0004】
バタフライ弁がオープンループで制御されるシステムにおいては、(精密に制御可能な)弁角度と実際の流通面積との間の厳密な関係を知っておくことが重要である。実際の流通面積とは、配管と、弁と、他のガス流量制限物体とが組み合わされた流通面積を意味する。オープンループとは、流量に対する弁の作用を求めることができる工程内測定がないことを意味する。
【0005】
ただし、大型2ストロークディーゼルエンジンのガス交換システムにおける多くの用途では、弁の位置の作用を精密に制御することが必須である。したがって、バタフライ弁の(精密に分かる)位置とガス流量に対する作用との間の厳密な関係を知ることは大きな利点であろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】デンマーク国特許第177388(B1)号
【発明の開示】
【0007】
上記を鑑みて、本発明の一目的は、排気迂回路に設けられた非線形弁のオープンループ制御のために、この非線形弁の特性を求めることができる方法を提供することである。
【0008】
上記目的は、大型ターボ過給式低速2ストロークディーゼルエンジンの排気迂回路内の流量を調節するために、前記排気迂回路に設けられた非線形弁の特性を得る方法を提供することによって達成される。前記排気迂回路は、排気ガスにターボ過給機のタービンを制御可能に迂回させる。本方法は、エンジンを作動させることと、エンジンを作動させている間に、非線形弁を全閉位置から全開位置まで少しずつ開き、非線形弁の各位置においてエンジン動作パラメータを測定することと、および/または非線形弁を全開位置から全閉位置まで少しずつ閉じ、非線形弁の各位置においてエンジン動作パラメータを測定することと、各弁位置とこれに対応するエンジン動作パラメータ測定値とを記録することと、記録された各位置と対応するエンジン動作パラメータ値とを格納することと、を含む。
【0009】
非線形弁のさまざまな位置においてエンジン動作パラメータを測定することによって、排気ガス迂回路に用いられた非線形弁の特性、すなわち、前記迂回路を通るガス流量に対する作用、を比較的精密に求めることができ、こうして得られた特性を非線形弁のオープンループ制御に用いることができる。
【0010】
一実施形態において、記録された各位置と対応するエンジン動作パラメータ値とはマップまたはルックアップテーブルに格納される。
【0011】
別の実施形態において、各弁位置とこれに対応するエンジン動作パラメータ値とを測定している間、エンジンは一定の負荷に維持される。
【0012】
別の実施形態において、測定はセッションで行われる。弁は第1のセッションでは閉位置から開位置まで動かされ、第2のセッションでは開位置から閉位置まで動かされる。測定は複数の所定位置で行われる。この複数の所定位置は、第1のセッションと第2のセッションで全く同じである。
【0013】
一実施形態においては、第1および第2のセッション中に測定されたエンジン動作パラメータ値の平均がマップまたはルックアップテーブルに格納される。
【0014】
別の実施形態において、測定は一定間隔の弁位置毎に行われる。
【0015】
一実施形態において、本方法は、弁角度と迂回路を流れる排気ガスに対する実際の流量制限との間の関係を求めるために、測定されたエンジン動作パラメータ値を用いることを更に含む。
【0016】
動作パラメータとして、掃気圧、またはターボ過給機の速度、または燃焼圧、またはエンジンを通る空気流量、または燃焼室内の温度、または排気ガス溜め内の温度、またはターボ過給機のタービンの下流の排気ガスの温度、または、エンジンが排気ガス再循環システムを有する場合は、排気ガス再循環圧、を使用できる。
【0017】
上記目的は、クロスヘッドを有する大型低速2ストロークディーゼルエンジンを提供することによっても達成される。このエンジンは、一列に配置される複数のシリンダと、コンプレッサを駆動するタービンを有するターボ過給機と、前記複数のシリンダに沿ってこれらシリンダの近くに延在して各シリンダの掃気ポートに接続される掃気溜めと、コンプレッサから掃気溜めに至る掃気流路と、前記複数のシリンダに沿ってこれらシリンダの近くに延在して各シリンダの排気弁に接続される排気ガス溜めと、排気ガス溜めからタービンに至る排気ガス流路と、排気ガスがタービンを迂回できるようにする排気ガス迂回路と、排気ガス迂回路を通る流量を調節するために排気ガス迂回路に配置される非線形弁と、前記非線形弁の位置を調節するために前記非線形弁に作用しうるように接続されるアクチュエータと、マップまたはルックアップテーブルにアクセスできる電子制御ユニットとを備える。ただし、前記マップまたはルックアップテーブルには、前記エンジンについて測定される複数のエンジン動作パラメータ値が、前記非線形弁の動作域をカバーする複数の漸増位置のいずれかにマッピングされている。この電子制御ユニットは前記非線形弁のオープンループ制御用に構成され、マップまたはルックアップテーブルに格納されるデータを用いて前記非線形弁の位置を制御するためにロータリアクチュエータに接続される。
【0018】
上記目的は、大型ターボ過給式低速2ストロークディーゼルエンジンの第1の排気ガス迂回路内の流量を調節するために前記第1の排気ガス迂回路に設けられた非線形流量調節弁の特性を得る方法を提供することによっても達成される。前記エンジンは第1の排気ガス迂回路に平行に配置される第2の排気ガス迂回路を備える。第2の排気ガス迂回路は流量調節弁を備え、この流量調節弁の位置とこの流量調節弁によってもたらされる流量制限との間の関係は既知である。本方法は、a)エンジン動作パラメータ値を測定し、測定されるエンジン動作パラメータ値を初期エンジン動作パラメータ値として記録するステップと、b)エンジン負荷を変えずにエンジンを作動させている状態で非線形流量調節弁の位置を変化させるステップと、その後、c)エンジン動作パラメータ値を測定し、測定されるエンジン動作パラメータ値が初期エンジン動作パラメータ値に一致するまで流量調節弁の位置を変化させるステップと、d)非線形流量調節弁の特性を求めるために、エンジン動作パラメータ値が一致した位置における流量調節弁の位置変化と非線形流量調節弁の位置変化とを用いるステップと、を含む。
【0019】
もう一方の弁の位置を変化させて掃気圧を再均衡させることによって、排気ガス迂回路に用いられた非線形弁の特性、すなわち、前記迂回路を通るガス流量に対するその作用、を比較的精密に求めることができるので、こうして得られた特性を非線形弁のオープンループ制御に使用できる。
【0020】
本方法の一実施形態において、流量制御弁の位置変化によって引き起こされる流通面積の変化は、非線形流量調節弁の位置変化によって引き起こされる流通面積の変化に等しい。したがって、非線形流量調節弁の位置変化に対応する流通面積の変化が求められる。
【0021】
別の実施形態において、本方法は、非線形流量調節弁の全開および全閉位置の間に分布する複数の弁位置を含む範囲にわたってステップa)からd)を繰り返すことと、測定された特性を記録することと、非線形流量調節弁の弁角度と第1の排気ガス迂回路を通って流れる排気ガスに対する実際の流量制限との間の関係が格納されるマップまたはルックアップテーブルを作成することを含む。
【0022】
動作パラメータとして、掃気圧、またはターボ過給機の速度、または燃焼圧、またはエンジンを通る空気流量、または燃焼室内の温度、または排気ガス溜め内の温度、またはターボ過給機のタービンの下流の排気ガスの温度、または、エンジンが排気ガス再循環システムを有する場合は、排気ガス再循環圧、を使用できる。
【0023】
本発明による方法およびエンジンの更なる目的、特徴、利点、および特性は、詳細な説明から明らかになるであろう。
【0024】
本説明の以下の詳細部分においては、図面に示される例示的実施形態を参照して本発明をより詳細に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図2】
図1のエンジンの廃熱回収システムの線図である。
【
図3】
図1のエンジンに設けられたバタフライ弁の特性を得る方法を示すグラフである。
【
図4】非線形弁の特性を得るための一方法の一例示的実施形態を示すフローチャートである。
【
図5】非線形弁の特性を得るための別の方法の別の例示的実施形態を示すフローチャートである。
【0026】
以下の詳細な説明においては、本発明によるクロスヘッドを有する大型低速ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンとこのクロスヘッド型大型ターボ過給式2ストロークディーゼルエンジンに用いられる非線形弁の弁特性を得る方法とを複数の例示的実施形態によって説明する。
【0027】
図1および
図2は、大型2ストロークディーゼルエンジン1の第1の例示的実施形態を示す。エンジン1は、例えば外航船の主エンジンとして、または発電所において発電機を作動させるための定置エンジンとして、用いられ得る。本エンジンの総出力は、例えば、2,000kWから130,000kWの範囲にわたり得る。
【0028】
エンジン1は、互いに横並びに一列に配置される、複数のシリンダ2を備える。シリンダの数は一般的には5本から14本である。各シリンダ2は、往復ピストン3を備える。各ピストン3は、ピストンロッド5と、クロスヘッド6と、コネクティングロッド7とを介して、クランク軸4に接続される。各クロスヘッド6は、ガイド面間で誘導されるクロスヘッド軸受を含む。
【0029】
各シリンダ2には、シリンダカバーに配される排気弁10が設けられる。排気弁10によって排気経路を開閉できる。各排気経路は、排気ガス溜め12に接続される排気屈曲部11に至る。排気ガス溜め12は大型の細長い円筒形容器であり、一列に並んだ複数のシリンダ2の上端の極めて近くにこのシリンダ列に沿って配設される。排気ガス溜め12の容量は大きいので、各排気弁10の開放時に個々のシリンダ2からの排気ガスの周期的流入によって引き起こされる複数の圧力パルスを均等化できる。排気ガス溜め12の均等化作用は、排気ガス溜め12の出口にほぼ一定の圧力をもたらす。排気ガス溜め12の出口には一定の圧力が必要とされるが、その理由は、大型2ストロークディーゼルエンジンに用いられる1つ以上の排気ガス駆動式ターボ過給機16が一定のフィード圧の恩恵を受けるからである。
【0030】
排気ガス溜め12からの排気ガスは、排気導管14によってターボ過給機16のタービン17に向けて誘導される(複数のターボ過給機16が存在可能)。これら排気ガスは、タービン17の下流の雰囲気に送られる。ターボ過給機16は定圧ターボ過給機である。すなわち、ターボ過給機16は、排気ガス内の圧力パルスによって動作するように構成されていない。ターボ過給機16は、軸流または放射流タービンを有し、最大約500乃至550°Cの排気ガス温度用に構成される。
【0031】
本エンジンは、廃熱回収ユニット30を更に含む。排気ガス溜め12からの排気ガスを制御された量だけ廃熱回収ユニット30に送ることができる。廃熱回収ユニット30については、
図2を参照して以下により詳細に説明する。
【0032】
ターボ過給機16は、タービン17によって駆動されるコンプレッサ18を更に含む。コンプレッサ18は空気取入れ口に接続される。コンプレッサ18は、高圧掃気を掃気路21経由で掃気溜め20に供給する。掃気路21は、掃気冷却装置22と補助送風装置23とを含み、補助送風装置23には逆止弁24が対応付けられている。コンプレッサ18を支援して十分な掃気を維持するために、補助送風装置23は一般には電気モータによって駆動され(油圧モータによっても駆動可能)、低負荷状態(一般にはエンジンの最大連続定格の40%未満)で始動する。補助送風装置23が用いられない場合は(一般にはエンジンの最大連続定格の40%を超えている場合は)、逆止弁24を介して迂回される。
【0033】
掃気溜め20は大型の細長い円筒形容器であり、一列に並んだ複数のシリンダ2の底部に沿ってこのシリンダ列の極めて近くに延在する。掃気溜め20は、各シリンダの掃気ポート26を介して、各シリンダに接続される。掃気溜め20は容量が大きいので、各掃気ポート26の開放時に個々のシリンダ2への掃気の周期的流出によって引き起こされる圧力降下を打ち消すことができる。掃気溜め20による打消し効果は、ほぼ一定の圧力を掃気溜めにもたらすので、各シリンダ2に対してほぼ同じ掃気圧を利用できる。掃気溜め20には一定の圧力が必要とされるが、その理由は、大型2ストロークディーゼルエンジンに用いられる1つ以上のターボ過給機16は一定のフィード圧で作動されて一定のフィード圧を送り出すからである。すなわち、個々のシリンダ2の掃気に利用できる圧力パルスがない。掃気は掃気溜め20から個々のシリンダ2の掃気ポート26に送られる。
【0034】
図2は、廃熱回収ユニット30に関連するエンジンの諸局面を示す。廃熱回収ユニット30は、
図2に示されているように、排気ガスを排気ガス溜め12から直接、または排気ガス溜め12からターボ過給機16のタービン17に至る排気ガス導管14からの分岐として、受け取る。排気ガス導管14によってターボ過給機のタービン17に送られる排気ガスの圧力を圧力センサ37が測定する。掃気溜め20内の掃気圧を圧力センサ38が測定する。両圧力センサは、測定された圧力を受け取るエンジン電子制御ユニット(図示せず)に接続される。
【0035】
廃熱回収ユニット30は、排気ガスがターボ過給機16のタービン17を迂回できるようにする2つの平行する排気ガス迂回路を含む。第1の排気ガス迂回路は、オンオフ弁41と電子制御式の非線形流量調節弁44、好ましくはバタフライ弁、とを含む導管42を含む。非線形流量調節弁44の位置は、廃熱回収電子制御ユニットによって制御されるアクチュエータによって決められる。導管42は排気ガスを動力タービン48に送る。排気ガスは動力タービン48から、エンジン1の排気ガス内の廃熱で加熱されるボイラー50の上流に位置する導管49によって、スタックに移送される。動力タービン48の出力軸は蒸気タービン56に作動的に接続され、動力タービン48の出力と蒸気タービン56の出力との組み合わせが発電機60の駆動に用いられる。蒸気タービン56用の蒸気を発生させるために、ターボ過給機16からの排気ガス流と各排気ガス迂回路からの排気ガス流との合計がボイラー50に供給される。蒸気タービン56は、ボイラー50から導管52経由で蒸気を受け取り、導管54経由で蒸気をボイラー50に戻す。
【0036】
第2の迂回路は、導管32と電子制御式の非線形流量調節弁34、好ましくはバタフライ弁、とを含む。非線形流量調節弁34の位置は、電子制御ユニットによって制御されるアクチュエータによって制御される。第1の排気ガス迂回路の流量特性と同じ、または同様の、流量特性を第2の排気ガス迂回路にもたらすために、第2の排気ガス迂回路は流量制限子36を更に含む。第2の排気ガス迂回路は、ボイラー50の上流位置において、ターボ過給機16のタービン17からの主排気ガス流に排気ガスを送り出す。
【0037】
非線形弁34の位置は、エンジン電子制御ユニットによってオープンループで制御される。非線形弁44の位置は、破線47で示されているように、廃熱回収電子制御ユニットによって、実際には動力タービン制御ユニットによって、オープンループで制御される。
【0038】
非線形弁34、44がオープンループで制御されるエンジン1の場合は、(精密に制御可能な)弁角度と実際の流通面積との間の厳密な関係を知ることが重要である。実際の流通面積とは、配管と、弁と、他のガス流量制限物体とが組み合わされた流通面積を意味する。オープンループとは、弁位置の作用が正確かどうかを判定できる工程内測定がないことを意味する。エンジンを保護しながら最大廃熱回収出力をもたらすために、この2つの排気ガス迂回路の実際の流通面積の合計は指定限度内に維持されるべきである。実際の流通面積を知るには、弁角度と実際の流通面積との間の関係を明確にする必要がある。
【0039】
図4は、第1の排気ガス迂回路または第2の排気迂回路に設けられた非線形弁34、44のうちの一方の弁の特性を得る方法の一例示的実施形態のフローチャートを示す。本方法は、エンジン1を作動させることと、エンジン1を作動させている間に、非線形弁34、44を全閉位置から全開位置まで少しずつ開き、非線形弁34、44の各位置において掃気圧などのエンジンパラメータをセンサ38で測定することと、その後に非線形弁を全開位置から全閉位置まで少しずつ閉じることと、を含む。
【0040】
非線形弁34、44の各位置において、掃気圧(または他の適したエンジン動作パラメータ)がセンサ38によって測定される。各弁位置と、これに対応して測定された掃気圧とが記録され、マップまたはルックアップテーブルに格納される。このマップまたはルックアップテーブルに対して、当該非線形弁34、44を制御する電子制御ユニットからのアクセスが許容される。
【0041】
各弁位置とこれに対応する掃気圧との測定中、エンジン1は一定負荷に維持されることが好ましい。測定はセッション中に行われる。弁は第1のセッションでは閉位置から開位置まで動かされ、第2のセッションでは開位置から閉位置まで動かされる。測定は複数の所定位置で行われる。この複数の所定位置は、第1のセッションと第2のセッションで全く同じである。
【0042】
第1および第2のセッション中に測定された掃気圧の平均がマップまたはルックアップテーブルに格納される。測定は、一定の間隔を空けて、複数の弁位置において行われる。測定された掃気圧は、弁角度と当該排気ガス迂回路を通って流れる排気ガスに対する実際の流量制限との間の関係とを求めるために用いられる。
【0043】
この結果は
図3のグラフに見られる。実線は本方法の適用結果を示し、破線は実際の掃気圧を示す。
【0044】
非線形弁34、44について得られた弁特性は、非線形弁34、44のオープンループ制御のために、当該非線形弁を制御する電子制御ユニットによって用いられる。
【0045】
本方法は、例えば排気ガス迂回路の摩耗および/または詰まりによって、継時変化する状態に各弁の弁特性を適応させるための自動調整にも使用可能である。
【0046】
弁34、44のうち一方の特性が既知である場合は、もう一方の非線形弁34、44の特性を別の方法で求めることができる。この別の方法の一例示的実施形態が
図5のフローチャートに示されている。この方法は、
a)掃気圧を測定し、この測定された掃気圧を初期掃気圧として記録するステップと、
b)エンジンを作動させている状態で、エンジン負荷を変化させずに、特性が未知の非線形流量調節弁44の位置を変化させるステップと、
その後、
c)掃気圧を測定し、測定される掃気圧が初期掃気圧に一致するまで、特性が既知の流量調節弁34の位置を変化させるステップと、
d)非線形流量調節弁44の特性を求めるために、掃気圧が一致した位置における流量調節弁34の位置変化と非線形流量調節弁44の位置変化とを用いるステップと、
を含む。
【0047】
流量制御弁34の位置変化によって引き起こされる流通面積の変化は、非線形流量調節弁44の位置変化によって引き起こされる流通面積の変化に等しい。したがって、非線形流量調節弁44の位置変化に対応する流通面積の変化が求められる。
【0048】
非線形流量調節弁44の全開位置と全閉位置との間に分布している、非線形流量調節弁44の複数の位置を含む範囲にわたって、ステップa)からd)が繰り返される。測定された特性は記録され、マップまたはルックアップテーブルが作成される。このマップまたはルックアップテーブルには、非線形流量調節弁44の弁角度と、第1の排気ガス迂回路を通って流れる排気ガスに対する実際の流量制限との間の関係が格納される。
【0049】
一実施形態において、非線形弁34、44の位置と実際の流量制限との間の関係を含むマップは、エンジン1の動作範囲に含まれる複数のエンジン負荷をカバーする。これによって三次元マップが形成される。
【0050】
一実施形態において(図示せず)、エンジンは排気ガス再循環システムを備える。排気ガス再循環システムは、排気ガス流の一部を、例えば、再循環された排気ガスを掃気流に供給することによって、シリンダに供給する(すなわち再循環させる)。
【0051】
上記の各実施形態は掃気圧をエンジン動作パラメータとして用いているが、非線形弁の位置変化によって影響される他のエンジンパラメータの何れかを代わりに使用することも可能であることは明らかである。他のエンジンパラメータとして、例えばターボ過給機の速度、または燃焼圧、またはエンジンを通る空気流、または燃焼室内の温度、または排気ガス溜め内の温度、またはターボ過給機のタービンの下流の排気ガスの温度、または、エンジンが排気ガス再循環システムを有する場合は、排気ガス再循環圧、が挙げられる。使用されるエンジンパラメータの値を求めるために、対応するセンサがエンジンに設けられることになる。
【0052】
本出願の教示は例示を目的として詳細に説明されているが、このような詳細は例示のためだけであり、当業者は本出願の教示の範囲を逸脱することなく複数の変形を行えることを理解されたい。
【0053】
用語「備える/含む("comprising")」は、請求項で用いられた場合、他の要素またはステップを排除しないものとする。単語の単数形(すなわち、不定冠詞「"a"」または「"an"」が付いた単語)は、請求項で用いられた場合、複数を排除しないものとする。単一のプロセッサまたは他のユニットは、特許請求の範囲に列挙されているいくつかの手段の機能を果たし得るものとする。