【文献】
Agricultural and Biological Chemistry,1963年,Vol.27, No.10,p.700-705
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【背景技術】
【0002】
熱、毒素、放射線、感染、炎症および酸化体を含む細胞ストレスに応答して、すべての細胞は共通の一連の熱ショックタンパク質(Hsp)を産生する(マカリオ(Macario)およびデマカリオ(de Macario)2000年)。大部分の熱ショックタンパク質は分子シャペロンとして作用する。シャペロンは、折りたたみの中間段階でタンパク質と結合し安定させ、タンパク質がその機能的状態に折りたたまれることを可能にする。Hsp90は正常条件下で最も豊富にあるサイトゾルHspである。Hsp90の2つのヒトアイソフォーム(メジャーな誘導される型のHsp90αおよびマイナーな構成的に発現される型のHsp90β)、および細胞内局在が限定される2つの他の非常によく関連したシャペロン(小胞体のGP96/GRP94;ミトコンドリアのTRAP1)がある。明示されないならば、本明細書で使用されるHSP90なる語はこれらのアナログをすべて包含する。Hsp90は折りたたみの後期段階でタンパク質を結合し、大部分のそのタンパク質基質がシグナル伝達に関与するという点で他のHspとは区別される。Hsp90は、細菌性ジャイレース、トポイソメラーゼおよびヒスチジンキナーゼのベルジュラ(Bergerat)折りたたみの特徴を含む、固有のATP結合部位を有する。Hsp90のN末端ポケットで結合したATPは加水分解されていることが示されている。このATPアーゼ活性は、クライアントタンパク質におけるコンフォメーション変化を可能にするために必要とされるHsp90におけるコンフォメーション変化をもたらす。
【0003】
二量体化ドメインおよび第2のATP結合部位(それはATPアーゼ活性を調節できる)は、Hsp90のC末端の近くで見出される。Hsp90の二量体化はATP加水分解のために重要な意味を持つと思われる。Hsp90の活性化は様々な他のシャペロンタンパク質との相互作用を介してさらに調節され、Hsp70、Hip、Hop、p23およびp50cdc37を含む他のシャペロンとの複合体中に単離することができる。他の多くのコシャペロンタンパク質もまたHsp90を結合することが実証されている。アミノ末端ポケットへのATPの結合が、マルチシャペロン複合体との会合を可能にするようにHsp90コンフォメーションを変更するという、単純化されたモデルが提出された。第一に、クライアントタンパク質はHsp70/Hsp40複合体へ結合される。次にこの複合体はHopを介してHsp90と会合する。ADPがATPにより置換される場合、Hsp90のコンフォメーションが変化し、HopおよびHsp70が遊離され、p50cdc37およびp23を含むコシャペロンの異なるセットが動員される。ATP加水分解は、成熟複合体からのこれらのコシャペロンおよびクライアントタンパク質の遊離を結果的にもたらす。アンサマイシン抗生物質のハービマイシン、ゲルダナマイシン(GA)および17−アリルアミノ−17−デスメトキシゲルダナマイシン(17−AAG)は、ATPの結合をブロックし、成熟複合体への変換を妨害する、ATP結合部位阻害剤である。(グレナート(Grenert)ら、1997年、ジャーナル・オブ・バイオロジカルケミストリー(J. Biol. Chem.)、272:23834−23850)。
【0004】
Hsp90が普遍的に発現されているにもかかわらず、GAは、正常細胞株に比べて腫瘍細胞株に由来するHsp90に対してより高い結合親和性を有する(カマル(Kamal)ら、ネイチャー(Nature)、2003年;425:407−410)。GAは、腫瘍細胞においてより強力な細胞毒性活性もまた示し、異種移植片マウスモデルにおける腫瘍の内部でより高い濃度で隔離される(ブラジデック(Brazidec)、ジャーナル・オブ・メディシナル・ケミストリー(J. Med. Chem.)2004年、47、3865−3873)。さらに、Hsp90のATPアーゼ活性は癌細胞において上昇し、これらの細胞におけるストレスレベルの増加の指標である。Hsp90の遺伝子増幅が癌の後期段階において生じることもまた報告されている(ジョリー(Jolly)およびモリモト(Morimoto)、ジャーナル・オブ・ザ・ナショナル・キャンサー・インスティテュート(JNCI)第92巻、19、1564−1572、2000年)。
【0005】
癌表現型に関連する遺伝的不安定性の増加は、変性タンパク質または変異タンパク質の産生の増加をもたらす。ユビキチン経路はまた、プロテアソームによる分解のために変性タンパク質または誤って折りたたまれたタンパク質を標的とすることにより、これらのタンパク質から細胞を防御する働きをする。変異タンパク質はそれらの天然にはない性質のため、したがって構造不安定性を示す可能性があり、シャペロンシステムに対する必要性が増加する(ジャンニーニ(Giannini)ら、モレキュラー・セル・バイオロジー(Mol.Cell Biol.)2004年;24(13):5667−76)。
【0006】
Hsp90は、正常細胞中の「潜在的」複合体とは異なって、主として腫瘍細胞中の「活性化」マルチシャペロン複合体内で見出されるといういくつかの証拠がある。マルチシャペロン複合体のうちの1つの成分は、cdc37コシャペロンである。cdc37はATP結合部位の基部でHsp90を結合し、「活性化」状態のHsp90へ結合した阻害剤の解離速度に影響し得る(ロー(Roe)ら、セル(Cell)116、(2004年)、pp.87−98)。シャペロン複合体のHsp90−Hsp70型へ結合したクライアントタンパク質は、ユビキチン化に対してより感受性があり、分解のためにプロテアソームへ標的化されると考えられる。E3ユビキチンリガーゼはシャペロン相互作用モチーフを有すると同定され、これらのうちの1つ(CHIP)はHsp90クライアントタンパク質のユビキチン化および分解を促進することが示された(コネル(Connell)ら、2001年。シュー(Xu)ら、2002年)。
【0007】
Hsp90クライアントタンパク質
報告されているHsp90クライアントタンパク質の数は現在100を越える。そのクライアントタンパク質の多くが細胞のシグナリング、増殖および生存に関与するので、Hsp90は腫瘍学の標的として大きな関心を得ている。特に2つのグループのクライアントタンパク質(細胞シグナリングプロテインキナーゼおよび転写因子)は、Hsp90の調節が抗癌療法として利点がある可能性があることを示唆している。
【0008】
細胞増殖および生存に関係するHsp90プロテインキナーゼクライアントタンパク質は、下記を含む。
【0009】
c−Src
細胞Src(c−Src)は、表皮増殖因子受容体(EGFR)、血小板由来増殖因子受容体(PDGFR)、コロニー刺激因子−1(CSF−1R)および塩基性線維芽細胞増殖因子(bFGFR)についての受容体を含む複数の増殖因子受容体によって開始される有糸分裂誘発のために必要とされる受容体チロシンキナーゼである。c−Srcもまた、EGFRおよびErbB2を過剰発現する同じヒト癌の多くにおいて、過剰発現および活性化される。Srcは、破骨細胞機能のその調節を介して通常の骨ホメオスタシスの維持のためにもまた必要とされる。
【0010】
p185erbB2
ErbB2(Her2/neu)は、乳癌、卵巣癌、前立腺癌および胃癌を含む様々な悪性腫瘍において過剰発現される受容体チロシンキナーゼである。ErbB2は、もとは癌遺伝子として同定され、Hsp90の阻害はerbB2のポリユビキチン化および分解をもたらす。
【0011】
ポロ有糸分裂キナーゼ
ポロ様キナーゼ(Plk)はM期の間の細胞周期進行に重要なレギュレーターである。Plkは、紡錘体装置の集合およびCDK/サイクリン複合体の活性化に関与する。Plk1は、Cdc25Cのリン酸化および活性化を介してCDKのチロシン脱リン酸化を調節する。CDK1活性化は、次に紡錘体形成およびM期への侵入を導く。
【0012】
Akt(PKB)
Aktは、細胞増殖の刺激およびアポトーシスの抑制によって細胞増殖を調節する経路に関与する。アンサマイシンによるHsp90阻害は、ユビキチン化およびプロテアソームによる分解を介してAkt半減期の減少をもたらす。Hsp90に対してcdc37を結合することもまたAktのダウンレギュレーションのために必要とされる。アンサマイシン処理に続いて、癌細胞は処理の24時間後に細胞周期のG2/M期において停止し、24〜48時間後にアポトーシスへと進行する。正常細胞もまたアンサマイシン処理の24時間後に停止するが、アポトーシスへは進行しない。
【0013】
c−Raf、B−RAF、Mek
RAS−RAF−MEK−ERK−MAPキナーゼ経路は、増殖シグナルに対する細胞応答を仲介する。RASはヒト癌のおよそ15%において腫瘍形成性型へ変異している。3つのRAF遺伝子は、RASの結合によって調節されるセリン/スレオニンキナーゼである。
【0014】
EGFR
表皮増殖因子受容体(EGFR)は、細胞の成長、分化、増殖、生存、アポトーシスおよび移動に関係する。EGFRの過剰発現は様々な癌において見出され、EGFRのキナーゼドメインの活性化変異は肺の腺癌のサブセットにおいて病因性であると思われる。
【0015】
Flt3
FMS様チロシンキナーゼ3(FLT3)は、細胞の増殖、分化およびアポトーシスに関与する受容体チロシンキナーゼである。Flt3活性化もまた、ホスファチジルイノシトール3−キナーゼ(PI3K)およびRASシグナル伝達カスケードの活性化を導く。
【0016】
c−Met
c−metは、肝細胞増殖因子(HGF)を結合し、細胞運動性および細胞増殖の両方を調節する受容体チロシンキナーゼである。c−metは、甲状腺癌、胃癌、膵臓癌および結腸癌を含む腫瘍において過剰発現される。HGFもまた肝転移を含む腫瘍の周囲で検出される。このことは、c−metおよびHGFが浸潤および転移に重要な役割を果たすことを示唆する。
【0017】
Cdk1、Cdk2、Cdk4、Cdk6
Cdk1、Cdk2、Cdk4およびCdk6は、細胞周期を駆動する。CDKの活性は、サイクリン、阻害性因子および集合因子などの特異的なサブユニットへそれらが結合することによって調節される。CDK活性の基質特異性およびタイミングは、特異的なサイクリンとのそれらの相互作用によって規定される。Cdk4/サイクリンDおよびCdk6/サイクリンDはG1期において、Cdk2/サイクリンEおよびCdk2/サイクリンAはS期において、ならびにCdc2/サイクリンAおよびCdc2/サイクリンBはG2/M期において活性がある。
【0018】
サイクリン依存性キナーゼタイプ4(CDK4)は、細胞周期のG1期からS期移行を細胞が通過できるようにすることにおいて重要な役割を果たし、多くのヒト癌において構成的に活性化される。様々なヒト腫瘍において、CDK4活性化因子(サイクリンD1)は過剰発現され、CDK4阻害剤(p16)は欠損する。
【0019】
G1/S期において、またはG2/M境界でのいずれかで、正常細胞を可逆的にブロックするCdk1/Cdk2阻害剤が開発されている。一般にG2/M停止は、細胞の耐容性はそれほど良好ではなく、それゆえ細胞はアポトーシス性細胞死を起こす。Hsp90もまた細胞生存経路に影響することが公知であるので、この効果はさらにHsp90阻害剤により増幅されうる。
【0020】
Wee−1
Wee−1プロテインキナーゼは、チロシン15(Tyr15)でCDC2の阻害性リン酸化を行なう。これはDNA損傷に応答してG2期チェックポイントの活性化のために必要とされる。細胞の増殖および生存に関係するHsp90転写因子は下記を含む。
【0021】
変異p53
P53は、細胞周期停止を引き起こし、アポトーシスを誘導する腫瘍サプレッサータンパク質である。P53はすべての癌のおよそ半分で変異している。変異p53はHsp90と会合し、Hsp90阻害剤により処理された癌株においてダウンレギュレートされるが、野生型p53レベルは影響されなかった。
【0022】
プロゲステロン受容体/エストロゲン受容体/アンドロゲン受容体
乳癌を発症する閉経後の女性のおよそ70%は、エストロゲン受容体を発現する腫瘍を有している。これらの患者の第一選択治療は、この経路を介してシグナリングを妨害し、したがって腫瘍増殖を阻害することに向けられる。これは卵巣除去、性腺刺激ホルモン放出ホルモンアゴニストによる治療、アロマターゼ阻害、またはエストロゲン受容体へ結合するがさらなるシグナリングを妨害する特異的アゴニストによる治療によって行うことができる。最終的には、細胞膜上に位置するエストロゲン受容体と増殖因子受容体との間のクロストークの結果として、患者は多くの場合、これらの介入に対する耐性を発達させる。リガンドが結合されていない状態において、エストロゲン受容体は、ホルモン結合を促進するHsp90と共に複合体を形成する。成熟受容体Hsp90複合体への結合に続いて、リガンドが結合した受容体は、細胞増殖の維持に関与する標的遺伝子の制御領域内のホルモン応答エレメント(HRE)に対して結合できる。Hsp90の阻害は、エストロゲン受容体のプロテオソームによる(proteosomal)分解を開始させ、したがってこの経路を介するさらなる増殖シグナリングを妨害する。前立腺癌は、テストステロンの血中循環レベルを減少させるか、またはアンドロゲン受容体へのテストステロン結合を妨害する治療的介入に対して応答する、ホルモン依存性の悪性腫瘍である。患者は最初のうちは応答するが、続いて大部分はこれらの治療に対して、アンドロゲン受容体を介するシグナリングの回復によって耐性を発達させる。リガンド結合の前に、アンドロゲン受容体は、Hsp90、ならびにp23およびイムノフィリンを含む他のコシャペロンと共に複合体中に存在する。この相互作用は、高親和性のリガンド結合コンフォメーションでアンドロゲン受容体を維持する。Hsp90の阻害は、さらなるホルモン療法への腫瘍の感受性を高めることができるアンドロゲン受容体および他のコシャペロンのプロテオソームによる(proteosomal)分解を導く。
【0023】
例えば抗ホルモン療法の間に生じる変異したステロイドホルモン受容体(およびそれはそのような療法に対して耐性を持ちうる)は、それらの安定性およびホルモン結合機能についてHSP90に対してより高い依存性を有するであろう。
【0024】
Hif−1a
低酸素誘導因子−1a(HIF−1a)は、血管形成において役割を果たす遺伝子の発現を制御する転写因子である。HIF−1aは大多数の転移において発現され、Hsp90と会合することが公知である。腎癌細胞株のアンサマイシン処理は、HIF−1aのユビキチン化およびプロテアソームによる分解を導く。
【0025】
Hsp90阻害剤は、腫瘍細胞増殖におけるシグナル伝達に対する多数の標的に有意に影響することができる。単一標的の活性を調節するシグナル伝達阻害剤は、シグナリング経路の冗長性および耐性の急速な発達のために、同程度には効果的ではないかもしれない。
【0026】
細胞シグナリングおよび細胞増殖に関与する複数の標的の調節によって、HSP90阻害剤は、広い範囲の増殖障害の治療において有用であることが証明される。
【0027】
ZAP70
ZAP−70(Syk−ZAP−70タンパク質チロシンキナーゼファミリーの一員)は、通常はT細胞およびナチュラルキラー細胞において発現され、T細胞シグナリングの開始において重大な役割を有する。しかしながら、ZAP−70はCLLの症例のおよそ50%においてもまた異常に発現され、通常はそれらの場合には変異していないB細胞受容体遺伝子を持っている。慢性リンパ球性白血病(CLL)の白血病細胞における免疫グロブリン重鎖可変領域(IgV
H)遺伝子の変異状態は、重要な予後因子である。CLL細胞のZAP−70の発現は、IgV
Hの変異状態、疾患進行および生存と相関する。ZAP−70陽性CLLはZAP−70陰性CLLよりも侵攻性であり、ZAP−70がこの疾患における悪性度の重要な原動力かもしれないことを示す。ZAP−70は、B−CLLリンパ芽球においてHSP90と物理的に会合し、したがってHsp90の阻害により既存の化学療法またはモノクローナル抗体療法に対するこれらの細胞の感受性を高めることができる。
【0028】
熱ショックタンパク質および抗腫瘍薬耐性
任意の与えられたポリペプチドの天然の三次コンフォメーションは、その一次(アミノ酸)配列によって決定されることが長い間認識されている。しかしながら上で説明されるように、インビボの多くのタンパク質の適切な折りたたみが、分子シャペロンとして作用する熱ショックタンパク質(Hsp)の支援を必要とすることは現在明らかである。このシャペロン機能はすべての条件下で通常の細胞機能にとって重要であるが、それはストレスを受けた(例えば熱、低酸素またはアシドーシスによって)細胞において決定的なものになる。
【0029】
そのような条件は、不利な宿主環境中に存在する腫瘍細胞において典型的には優勢である。したがって、そのような細胞においてしばしば見られるHspのアップレギュレーションは、タンパク質の折りたたみを損なう条件下で、悪性細胞がプロテオームの全体性を維持するメカニズムを表わすだろう。したがって、一般にストレスタンパク質(および特にHsp90)のモジュレーターまたは阻害剤は、複数の異常なシグナリング経路を同時に阻害するユニークな能力の化学療法薬の類を表わす。したがってそれらは、他の治療パラダイムと比較して、耐性を消失させる(または耐性の発生率を減少させる)が、抗腫瘍の効果を発揮することができる。
【0030】
さらに、すべてのタイプの治療的抗癌性介入は、標的腫瘍細胞に課されたストレスを必然的に増加させる。そのようなストレスの有害作用を緩和する際に、Hspは制癌剤および治療投与計画の効果への耐性に直接関係する。したがって、一般にストレスタンパク質機能(および特にHsp90)のモジュレーターまたは阻害剤は、以下の能力を有する化学療法薬の類を表わす。(i)抗癌薬剤および/または治療に対して悪性細胞を感作させること;(ii)抗癌薬剤および/または治療に対する耐性の発生率を緩和または低減させること;(iii)抗癌薬剤および/または治療に対する耐性を後退させること;(iv)抗癌薬剤および/または治療の活性を増強させること;(v)抗癌薬剤および/または治療に対する耐性の発現を遅延または防止させること。
【0031】
抗真菌剤、抗原生動物剤および抗寄生虫剤としてのHSP90阻害剤
真菌感染は、利用可能な抗真菌剤の数が限定的であるため、およびアゾールなどの承認された抗真菌剤に対する耐性を持つ種の発生率が増加しているため、近年大きな懸念材料となっている。さらに、免疫障害を持つ患者(例えば臓器移植患者、化学療法を受ける癌患者、熱傷患者、AIDS患者、または糖尿病性ケトアシドーシスに罹患する患者などの患者)の集団の増加は、カンジダ属(Candida)、クリプトコッカス属(Cryptoccocus)およびアスペルギルス属(Aspergillus)の種ならびに場合によってはフザリウム属(Fusarium)、トリコスポロン属(Trichosporon)およびドレシュレラ属(Dreschlera)の種などの、真菌剤による日和見真菌症の発生率の増加を引き起こした。
【0032】
それゆえ、真菌感染、および特に既存の抗真菌薬に対する耐性を持つようになった真菌に起因する感染に罹患する患者が増加してきたが、これらを治療するために使用できる、新しい抗真菌剤に対する必要性がある。
【0033】
HSP90は進化を通じて保存され、細菌(例えば大腸菌(E. coli)におけるHTPG)および酵母(例えばHSC82およびHSP82)において見出される。クライアントは大腸菌型については正式に同定されていないが、酵母およびすべての高等生物において、HSP90ファミリーは、上述されるような多くの必須タンパク質に対するシャペロンとして機能することが示された。
【0034】
広範囲にわたる病原体による感染は、HSP90に対する抗体応答と関連している。例えば、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)感染患者において、HSP90の47kDaのC末端フラグメントは免疫優勢エピトープである。更にこの抗体応答は予後良好と関連しており、感染に対する防護効果を示唆している。このポリペプチド中のエピトープに対する組換え抗体もまた、侵襲性カンジダ症のマウスモデルにおいて感染に対して防御する(マシュース(Mathews)ら、抗生物質および化学療法(Antimicrobial Agents and Chemotherapy)2003年、47巻、2208−2216、およびその中の参照文献を参照)。同様に表面に発現するHSP90は、シャーガス病、回虫症、リーシュマニア症、トキソプラモシス(toxoplamosis)、およびマンソン住血吸虫に起因する感染における抗原としての機能を果たし、HSP90に対する抗体はプラモディウム(plamodium)感染およびマラリアに対する防御を伝えることが提唱されている。
【0035】
マイコグラブ(Mycograb)(ニューテック・ファーマ/ノバルティス(NeuTec Pharma/Novartis)社)は、カンジダ属に対する治療として開発されている熱ショックタンパク質90に対するヒト組換えモノクローナル抗体であり、初期の治験において有意な応答を示した。更に、天然産物のHSP90阻害剤のゲルダナマイシン、ハービマイシンおよびラディシコールは、もとはそれらの抗真菌活性によって同定された。重要な必須タンパク質は、いくつかのヒト病原体においてHSP90クライアントとして同定された(カウエン(Cowen)およびリンドキスト(Lindquist)、サイエンス(Science)、2005年9月30日;309(5744):2175−6参照)。したがってHSP90はカンジダ属の種などの病原体の増殖に重要役割を果たすことができ、HSP90阻害剤はカンジダ症を含む広範囲にわたる感染症に対する治療として有用になりえる。
【0036】
Hsp90が、抗真菌薬耐性を発達させる真菌の能力を増加させることもまた見出されている(カウエン(Cowen)LE、リンドキスト(Lindquist)S「Hsp90は、新しい形質の急速な進化を促進する:多様な真菌における薬剤耐性(Hsp90 potentiates the rapid evolution of new traits: drug resistance in diverse fungi)。」サイエンス(Science)、2005年9月30日;309(5744):2185−9参照)。したがって、抗真菌薬とHsp90阻害剤の共投与は、抗真菌薬の効能を促進し、耐性表現型の出現を予防することによって耐性を減少できる。
【0037】
疼痛、ニューロパシー症状および卒中の治療におけるHSP90阻害剤
Cdk5は、セリン/スレオニンキナーゼのCdkファミリーの一員であり、それらの大部分は細胞周期の重要なレギュレーターである。Cdk5活性は、そのニューロン特異的な活性化因子(p35およびp39)との会合を介して調節される。最近の証拠は、CDK5が、タウタンパク質、ならびにNUDE−1、シナプシン1、DARPP32およびMunc18/シンタキシン1A複合体などの多数の他の神経タンパク質をリン酸化できることを示唆する。この証拠は、アルツハイマー病(AD)、筋萎縮性側索硬化症(ALS)およびニーマン・ピック病タイプC(NPD)などの神経変性疾患の病因において、p35がp25へ変換されることによって誘導される異常なCdk5活性が役割を果たすこともまた示唆する。Aβ1−42処理の後のタウの異常な過剰リン酸化は微小管を不安定にし、神経突起の変性、および神経原線維濃縮体(NFT)を含む対らせんフィラメント(PHF)の形成(ADの主要な病変のうちの1つ)に寄与する。cdk5が適切な神経発生のために必要であることがさらに見出されている。
【0038】
CDK5活性のレギュレーターとして作用するp35タンパク質は、HSP90に対するクライアントタンパク質として最近同定され、したがってCDK5の活性は、HSP90のレベルおよび活性の変化によって調節することができる。したがってHSP90の阻害は、p35の減少、CDK5の阻害、感受性のある個体におけるリン酸化されたタウタンパク質の減少を導くことができ、アルツハイマー病の罹患者に対して利益をもたらすことになる。
【0039】
加えて、公知の薬剤を使用するHSP90の阻害は、細胞システムにおけるタウタンパク質凝集体の蓄積をインビトロで減少させることが示されている(ディッキー(Dickey)ら、カレント・アルツハイマー・リサーチ(Curr Alzheimer Res)、2005年、4月;2(2):231−8)。
【0040】
Cdk5は、疼痛シグナリングの仲介においてもまた役割を有することが示されている。Cdk5およびp35の両方は、侵害受容ニューロンにおいて発現されることが示された。p35ノックアウトマウス(それらは実質的に減少したCdk5活性を示す)では、疼痛熱刺激に対する応答は遅れる(パリーク(Pareek, T.K.)ら、米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)、103:791−796(2006))。加えて、サイクリン依存性キナーゼ5(Cdk5)阻害剤のロスコビチンの投与は、ラットにおけるホルマリン誘導性の侵害刺激反応を弱化することが示されている(ワング(Wang)、チェン−ハン(Cheng-haung)ら、アクタ・ファルマコロジカ・シニカ(Acta Pharmacologica Sinica)、26:46−50(2005))。カルパインの活性化はカルシウム依存性であり、NMDA受容体カルシウムチャンネルの活性化によって影響されることが公知である(アマドロ(Amadoro, G.);米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America)、103、2892−2897(2006))。NMDA受容体アンタゴニストは、神経障害性疼痛症状に対して臨床的に効果的であることが公知である(クリストフ(Christoph, T.)ら、ニューロファルマコロジー(Neuropharmacology)、51、12−17(2006))。この効能は、カルパイン活性についてのNMDA受容体関連性カルシウム流入の効果およびCdk5の活性についてのその後続効果に結び付けてられ得る。Cdk5活性を修飾する化合物は、疼痛の治療または予防のために有用となることが期待され、したがってHSP90の阻害によるCDK5レギュレーターp35の修飾はCDK5の阻害を導き得る。
【0041】
疼痛の待期的療法(すなわち疼痛の原因である基礎疾患または病状の改良の結果の疼痛の軽減に加えて、疼痛の直接的な軽減)のための薬剤を有することが望ましい。
【0042】
様々なCdk(特にCdk4、Cdk5およびCdk6)は、低酸素性傷害または虚血性傷害に後続する神経死と関連するか、またはそれらを仲介することが示された(ラシダン(Rashidan, J.)ら;米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)、102:14080−14085(2005)。更にCdk阻害剤のフラボピリドールは、局所性脳虚血のラットモデルにおける神経死を有意に減少させることが示された(オオスガ(Osuga, H.);米国科学アカデミー紀要(Proceedings of the National Academy of Sciences)、97:10254−10259(2000))。Cdk5阻害剤は、神経細胞死の壊死性例およびアポトーシス性例において防護効果を有することが示されている(ワイスハウプト(Weishaupt, J.)ら;モレキュラー・アンド・セルラー・ニューロサイエンス(Molecular and Cellular Neuroscience)、24:489−502(2003))。
【0043】
卒中は、脳への通常の血流が破壊される場合に生じる脳血管性の事象であり、多すぎる血液または少なすぎる血液が脳へ流れる。卒中は世界中で代表的な死因のうちの1つであり、神経系障害の最も一般的な原因のうちの1つでもある。
【0044】
最も一般的なタイプの卒中である虚血性脳卒中は、動脈血の流入の閉塞によって引き起こされる不十分な血液の脳循環に起因する。通常は、適切な大脳血液の供給は、脳内の動脈のシステムによって保証される。しかしながら、炎症およびアテローム性動脈硬化症を含む様々な障害は、血栓(すなわち血管中に生ずる血餅)を引き起こす場合がある。血栓は動脈血流を妨げて、脳虚血および結果として生ずる神経学的症状を引き起こし得る。虚血性脳卒中は頭蓋内血管中の心臓からの塞栓(気泡)が留まることによってもまた引き起こされ、不適正な脳血流により潅流圧の低下または血液粘性の増加が引き起こされる。塞栓は心房細動およびアテローム性動脈硬化症を含む様々な障害によって引き起こされ得る。
【0045】
第2のタイプの卒中(出血性卒中)は、脳に達する動脈の出血または破壊を含んでいる。出血性卒中は、脳の硬膜上腔、硬膜下腔またはクモ膜下腔を含む脳組織の中への出血をもたらす。出血性卒中は、典型的には動脈性高血圧症または血栓症にさらされた動脈硬化性血管の破壊に起因する。
【0046】
卒中における介入の1つの機会は、卒中のリスクがある患者における卒中のリスクの予防または低減である。血管炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈性高血圧症、糖尿病、高脂血症および心房細動を含む、卒中についての多くの公知のリスクファクターがある。リスクのある患者は血圧を制御または血中脂質レベルを管理するために薬剤により治療され、抗血小板剤(クロピドロゲル(clopidrogel)などの)および抗凝血剤により治療されている。第2の機会は急性卒中の治療である。しかしながら、急性卒中の治療ための現在の薬理療法は、卒中後の3時間以下の狭い治療時間ウィンドウ内での血流の回復に限定されている。より長い治療時間ウィンドウ内で効果的な薬剤の必要性がある。別の機会は、急性卒中期間後の回復または修復(すなわち周辺部における二次的な細胞損傷の減少または予防)である。卒中後の二次的な細胞損傷の減少または予防に効果的な薬剤の必要性がある。
【0047】
卒中を治療する上述の機会のうちの1つ以上において使用することができる単一の医薬用薬剤を得ることが望ましいだろう。そのような薬剤は、卒中のリスクがある患者に投与でき、急性卒中に罹患する患者、または急性卒中期間後の回復または修復のための治療を受ける患者に投与できる。そのような薬剤はまた、卒中の生化学的なカスケードにおける1つ以上の別のメカニズムも標的にできる。
【0048】
HSP90阻害剤、ならびにC型肝炎および他のウイルス病の治療
ウイルスRNA/DNAによる宿主細胞の感染により、細胞タンパク質の合成は、ウイルス性核酸によってコードされる鍵となるウイルスタンパク質に向けて実質的に再び方向付けられる。タンパク質合成負荷の増加は、エネルギーおよび合成の前駆体の需要増加の結果として細胞にストレスを与える。熱ショックタンパク質のアップレギュレーションは、しばしば、少なくとも部分的にはこのストレスに起因するウイルス感染の帰結である。HSP誘導の1つの機能は、ウイルス複製に備えて産生される高レベルの「外来」タンパク質の安定化および折りたたみを支援することでありえる。特に、最近の研究ではC型肝炎(HCV)レプリコン感染細胞における機能的なNS2/3プロテアーゼの安定した産生のために、HSP90が必要とされることを示唆されている。HSP90阻害剤は、インビトロのシステムにおけるウイルス複製をブロックすることもまた実証されている(ナカガワ(Nagkagawa, S.)、ウメハラ(Umehara, T. )、マツダ(Matsuda, C.)ら、バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem. Biophys. Res Commun.)353(2007年)882−888;ワックスマン(Waxman, L.)、ウイットニー(Witney, M.)ら、米国科学アカデミー紀要(PNAS)98(2001年)13931−13935)。
【0049】
我々の以前の出願PCT/GB2006/001382(この文献の内容は全て参照により本書に援用される)は、Hsp90阻害剤として2,4−ジヒドロキシ安息香酸のイソインドリンアミドを開示している。PCT/GB2006/001382において具体的に開示および例示された化合物の1つは、以下に示された構造を有する化合物(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンである。この化合物は、本出願において便宜上化合物1または式(1)の化合物と呼ばれる可能性がある。
【化1】
【発明の概要】
【0050】
本発明は、Hsp90阻害活性または修飾活性を有し、Hsp90に仲介される病態もしくは症状の予防または治療において有用である式(1)の化合物の酸性塩(特にL−乳酸塩)、結晶形態および新規なアナログを提供する。その発明はまた、式(1)の化合物およびその酸付加塩(特にL−乳酸塩)およびそのアナログ、ならびに新規な化学中間体の製造方法を提供する。また、発明の範囲には前記化合物の治療上の使用が含まれる。
【0051】
本明細書において、「本発明の化合物(compounds)」または「本発明の化合物(compound)」なる語は、文脈上他の意味に解す場合を除き、(a)新規な式(10)の化合物およびその塩、溶媒和物、N−オキシドおよび互変異性体、(b)化合物(1)の酸付加塩(特にL−乳酸塩塩)、ならびに(c)式(1)の化合物の結晶形態およびその酸付加塩(特にL−乳酸塩)の全てを意味する。
【0052】
本明細書では、「治療」なる語ならびに関連する語である「治療する」および「治療すること」は、痛みの予防的または防止的治療の両方、そして治癒的または緩和的治療を意味する。したがって前記用語は、被験者または患者が既に痛みを感じている状況、ならびに現時点では痛みを感じていないが、痛みが出現すると予想される状況を含む。「治療」、「治療する」、「治療すること」および関連する語は、完全および部分的の両方で痛みを軽減または予防させることを包含する。したがって、例えば、本発明の化合物は、既存の痛みが悪化することを防ぐ可能性があるか、あるいは痛みを軽減またはさらには除去する可能性がある。予防的な意味で使われた場合、前記化合物はいかなる痛みが生じることも防ぐ可能性があるか、あるいは生じ得る痛みの程度を低減させる可能性がある。
【0053】
本明細書では、「修飾」なる語は、熱ショックタンパク質Hsp90の活性に対して適用されるとき、熱ショックタンパク質の生物学的活性のレベルの変化を明確にすることを意図している。したがって、修飾は、関連する熱ショックタンパク質活性の増加または減少をもたらす生理学的変化を包含する。後者の場合では、修飾は「阻害」として記載されてもよい。修飾は、直接的または間接的に生じてもよく、任意のメカニズムにより、ならびに例えば遺伝子発現のレベル(例えば、転写、翻訳および/または翻訳後修飾を含む)、熱ショックタンパク質活性のレベルに直接的または間接的に作用する修飾エレメントをコードする遺伝子発現のレベルを含む、任意の生理的なレベルで仲介されてもよい。したがって、修飾は、遺伝子増幅(すなわち複数の遺伝子コピー)を含む熱ショックタンパク質の増加した発現/抑制された発現または過剰発現もしくは低発現および/または転写効果による増加した発現または減少した発現に加えて、変異による((脱)活性化を含む)熱ショックタンパク質の過剰活性(または低活性)および(脱)活性化を意味してもよい。「修飾された」、「修飾している」および「修飾する」なる語は適宜解釈されるべきである。
【0054】
本明細書では、例えば、本明細書において記載される(および例えば、様々な生理的な過程、疾病、状態、症状、処置、治療あるいは介入に対して適用される)ような、熱ショックタンパク質と共に使用される、「仲介される」なる語は、この用語が適用される様々な過程、疾病、状態、症状、治療および介入は熱ショックタンパク質Hsp90が生物学的役割を果たすものであるように、制限的に働くことを意図するものである。この用語が、疾病、状態または症状に対して適用される場合において、熱ショックタンパク質Hsp90により果たされる生物学的役割は、直接的または間接的であってもよく、疾患、状態または症状の病徴の発現(またはその病因または進行)のために、必要および/または十分であってもよい。したがって、熱ショックタンパク質Hsp90活性(特に異常なレベルの熱ショックタンパク質Hsp90活性(例えば、Hsp90過剰発現))は、必ずしも疾患、状態または症状の近因である必要がなく、むしろ熱ショックタンパク質Hsp90に仲介される疾病、状態または症状は、Hsp90が部分的にのみ関わる、多元的な病因および複雑な進行を有するものを含んでいると理解される。この用語が、治療、予防または介入に対して適用される場合において(例えば、本発明の「Hsp90に仲介される治療」および「Hsp90に仲介される予防」において)、Hsp90により果たされる役割は直接的または間接的であってもよく、または、治療、予防または介入の転帰の操作のために必要および/または十分であってもよい。したがって、Hsp90により仲介される病態もしくは症状は、ある特定の抗癌薬剤あるいは治療に対する耐性(特に本明細書に記載される1種以上のシグナル伝達阻害剤に対する耐性を含む)の発達を含む。
【0055】
本明細書では、「修飾」なる語は、サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)の活性に対して適用されるとき、キナーゼの生物学的活性のレベルの変化を明確にすることを意図している。したがって、修飾は、関連するキナーゼ活性の増加または減少をもたらす生理学的変化を包含する。後者の場合では、修飾は「阻害」として記載されてもよい。修飾は、直接的または間接的に生じてもよく、任意のメカニズムにより、ならびに例えば遺伝子発現のレベル(例えば、転写、翻訳および/または翻訳後修飾を含む)、サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)のレベルに直接的または間接的に作用する修飾エレメントをコードする遺伝子発現のレベル、または酵素(例えば、サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)活性のレベル(例えば、アロステリック機構、拮抗的阻害、活性部位不活性化、フィードバックの抑制性経路の摂動などにより)を含む、任意の生理的なレベルで仲介されてもよい。したがって、修飾は、遺伝子増幅(すなわち複数の遺伝子コピー)を含むサイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)の増加した発現/抑制された発現または過剰発現もしくは低発現および/または転写効果による増加した発現または減少した発現に加えて、変異による((脱)活性化を含む)サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)の過剰活性(または低活性)および(脱)活性化を意味してもよい。「修飾された」、「修飾している」および「修飾する」なる語は適宜解釈されるべきである。
【0056】
本明細書では、例えば、本明細書において記載される(および例えば、様々な生理的な過程、疾病、状態、症状、処置、治療あるいは介入に対して適用される)ような、サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)と共に使用される、「仲介される」なる語は、この用語が適用される様々な過程、疾病、状態、症状、治療および介入はサイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)が生物学的役割を果たすものであるように、制限的に働くことを意図するものである。この用語が、疾病、状態または症状に対して適用される場合において、サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)により果たされる生物学的役割は、直接的または間接的であってもよく、疾病、病状または症状の病徴の発現(またはその病因または進行)のために、必要および/または十分であってもよい。したがって、サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)の活性(特に異常なレベルのサイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)の活性(例えば、サイクリン依存性キナーゼ5(CDK5)過剰発現))は、必ずしも疾患、状態または症状の近因である必要がなく、むしろCDK5に仲介される疾病、状態または症状は、CDK5における、多元的な病因および複雑な進行を有するものを含んでいると理解される。この用語が、治療、予防または介入に対して適用される場合において(例えば、本発明の「CDK5に仲介される治療」において)、CDK5により果たされる役割は直接的または間接的であってもよく、または、治療、予防または介入の転帰の操作のために必要および/または十分であってもよい。
【0057】
「介入」なる語は、任意のレベルで生理学的変化をもたらす任意の作用を定義するために本明細書において使用される技術用語である。したがって介入は、任意の生理的なプロセス、事象、生化学的経路または細胞の事象/生化学的事象の誘導または抑制を含んでもよい。本発明の介入は、典型的には、疾病もしくは症状の療法、治療または予防を行う(またはそれらに寄与する)。
【0058】
本明細書では、「組合せ」なる語は、2種以上の化合物および/または薬剤(本明細書において成分とも呼ばれる)に対して使用されたとき、物質の中で前記2種以上の化合物/薬剤が結合していることを意味することを意図している。この文脈における「組合せた」および「組合せる」なる語は適宜解釈されるべきである。
【0059】
組合せ中の2種以上の化合物/薬剤の結合は物理的または非物理的であってもよい。物理的に結合された組合せ化合物/薬剤の例としては以下のものが挙げられる。
【0060】
混合剤(例えば、同一の単位用量内に)中に2種以上の化合物/薬剤を含む組成物(例えば、一体型の製剤)、
2種以上の化合物/薬剤が化学的に/物理化学的に結合している(例えば、架橋、分子的な凝集または共通の賦形剤部分への結合により)物質を含む組成物、
2種以上の化合物/薬剤が化学的に/物理化学的に共にパックされている(例えば、脂質小胞、粒子(例えば、ミクロ粒子またはナノ粒子)またはエマルジョン滴上に、またはそれらの内部に配置された)物質を含む組成物、
2種以上の化合物/薬剤が共にパックされているか、または共に提供されている(例えば、一連の単位用量の一部として)、薬学的キット、薬学的パックまたは患者パック。
【0061】
非物理的に結合された組合せ化合物/薬剤の例としては以下のものが挙げられる。
【0062】
2種以上の化合物/薬剤のうちの少なくとも一方と、前記2種以上の化合物/薬剤の物理的結合を形成するための、前記少なくとも一方の化合物の即時結合のための説明書とを含む物質(例えば、非一体型の製剤)、
2種以上の化合物/薬剤のうちの少なくとも一方と、前記2種以上の化合物/薬剤による併用療法のための説明書とを含む物質(例えば、非一体型の製剤)、
2種以上の化合物/薬剤のうちの少なくとも一方と、前記2種以上の化合物/薬剤の他方が投与された(または投与されている)患者集団への投与のための説明書とを含む物質、
2種以上の化合物/薬剤のうちの少なくとも一方を、前記2種以上の化合物/薬剤の他方と組合せて使用するために特に適した量または形態で含む物質。
【0063】
「組合せ」なる語は、全体として同一の治療計画の一部として投与される化合物/薬剤を指してもよい。それゆえ、2種以上の化合物/薬剤の各々の薬量は異なってもよく、各々は同時にまたは異なる時間で投与されてもよい。したがって、組合せの化合物/薬剤は順次に(例えば、前後して)または同時に投与されてもよい(同一の医薬製剤(すなわち一緒に)、または異なる医薬製剤(すなわち個別に)のどちらかにおいて)。同一の製剤での同時投与は一体型の製剤であるが、異なる医薬製剤での同時投与は非一体型である。併用療法の2種以上の化合物/薬剤の各々の薬量はまた投与経路に関連して異なってよい。
【0064】
本明細書では「薬学的キット」なる語は、任意にすべて共通の外装内に含まれる、投薬手段(例えば、計測装置)および/または送達手段(例えば、吸入器またはシリンジ)と共にある、医薬組成物の1種以上の単位用量の一群を意味する。2種以上の化合物/薬剤の組合せを含む薬学的キットにおいて、個々の化合物/薬剤は一体型の製剤または非一体型の製剤のいずれであってもよい。単位用量はブリスターパック内に含まれていてもよい。薬学的キットは任意に使用説明書をさらに含んでもよい。
【0065】
本明細書では「薬学的パック」なる語は、任意に共通の外装内に含まれる、医薬組成物の1種以上の単位用量の一群を意味する。2種以上の化合物/薬剤の組合せを含む薬学的パックにおいて、個々の化合物/薬剤は、一体型の製剤または非一体型の製剤であってもよい。単位用量はブリスターパック内に含まれていてもよい。薬学的パックは任意に使用説明書をさらに含んでもよい。
【0066】
本明細書では、「患者パック」なる語は、治療コース全体に対する医薬組成物を含む、患者に対して処方されたパッケージを定義する。患者パックは、通常1種以上のブリスターパックを含んでいる。患者パックは、調剤師がバルク供給から患者分の医薬を分配する従来の処方箋調剤に優る利点があり、患者は患者パックに入っている、患者の処方箋調剤では見ることができない添付文書をいつでも見ることができる。添付文書を包含しておけば、患者が医師の指示をよりよく遵守することが示されている。
【0067】
酸付加塩
第1の態様では、本発明は式(1)の化合物の酸付加塩を提供する。
【化2】
これは(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンという化学名を有する。
【0068】
「塩(salt)」および「酸付加塩(acid addition salt)」なる語は本願において区別なく使用されてもよく、「塩(salts)」および「酸付加塩(acid addition salts)」なる語も同様である。文脈より他の意味に解す場合を除き、「塩(salt)」および「塩(salts)」なる語は本明細書では酸付加塩を意味する。
【0069】
化合物(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンおよびその酸付加塩に対する言及はこれらの範囲内にすべての溶媒和物、互変異性体および同位体ならびに、文脈が許す場合はN−オキシドおよび他のイオン形を含む。
【0070】
酸付加塩は、無機および有機双方の多様な酸で形成できる。酸付加塩の例としては、酢酸、2,2−ジクロロ酢酸、アジピン酸、アルギン酸、アスコルビン酸(例えば、L−アスコルビン酸)、アスパラギン酸(例えば、L−アスパラギン酸)、ベンゼンスルホン酸、安息香酸、4−アセトアミド安息香酸、ブタン酸、ショウノウ酸(例えば、(+)ショウノウ酸)、ショウノウ−スルホン酸、(+)−(1S)−ショウノウ−10−スルホン酸、カプリン酸、カプロン酸、カプリル酸、炭酸、ケイ皮酸、クエン酸、シクラミン酸、ドデカン酸、ドデシル硫酸、エタン−1,2−ジスルホン酸、エタンスルホン酸、2−ヒドロキシエタンスルホン酸、ギ酸、フマル酸、ガラクタル酸、ゲンチジン酸、グルコヘプトン酸、D−グルコン酸、グルクロン酸(例えば、D−グルクロン酸)、グルタミン酸(例えば、L−グルタミン酸)、α−オキソグルタル酸、グリコール酸、馬尿酸、臭化水素酸、塩酸、ヨウ化水素酸、イセチオン酸、イソ酪酸、乳酸(例えば、(+)−L−乳酸(本明細書において他の箇所では単にL−乳酸として言及される可能性がある)および(±)−DL−乳酸)、ラウリルスルホン酸、ラクトビオン酸、マレイン酸、リンゴ酸、(−)−L−リンゴ酸、マロン酸、(±)−DL−マンデル酸、メタンスルホン酸、ムチン酸、ナフタレンスルホン酸(例えば、ナフタレン−2−スルホン酸、およびナフタレン−1,5−ジスルホン酸)、1−ヒドロキシ−2−ナフトエ酸、ニコチン酸、硝酸、オレイン酸、オロチン酸、シュウ酸、パルミチン酸、パモ酸、リン酸、プロピオン酸、L−ピログルタミン酸、サリチル酸、4−アミノ−サリチル酸、セバシン酸、ステアリン酸、コハク酸、硫黄、タンニン酸、酒石酸(例えば、(+)−L−酒石酸)、チオシアン酸、トルエンスルホン酸(例えば、p−トルエンスルホン酸)、ウンデシレン酸、吉草酸およびキシナホ酸からなる群から選ばれる酸により形成された塩が挙げられる。
【0071】
具体的な酸付加塩としては、塩酸、乳酸(例えば、L−乳酸)または硫酸により形成された塩がある。
【0072】
好ましい塩は、乳酸(すなわち、乳酸塩、特にL−乳酸塩)から形成された塩である。
【0073】
酸付加塩は、典型的には薬学上許容される塩であり、薬学上許容される塩の例は、ベルジュ(Berge)ら、1977年、「薬学的許容塩(Pharmaceutically Acceptable Salts)」、ジャーナル・オブ・ファーマシューティカルサイエンス(J. Pharm. Sci.)、第66巻、1〜19ページで検討されている。しかしながら、医薬上許容されない塩も中間体として製造してもよく、これをその後薬学上許容される塩に変換してもよい。このような薬学上許容されない塩の形態も、例えば、本発明の化合物の精製または分離に際して有用なことがあり、本発明の一部分を形成する。
【0074】
固体の状態では、本発明の塩は、結晶性またはアモルファスまたはその混合物であってもよい。
【0075】
一実施形態では、塩はアモルファスである。
【0076】
アモルファス固体では、結晶形態で通常存在する3次元構造は存在せず、アモルファス形態での分子のお互いに対する位置は実質的にランダムである。例えば、ハンコック(Hancock)ら、ジャーナル・オブ・ファーマシューティカルサイエンス(J. Pharm. Sci.)、1997年、86、1参照。
【0077】
別の実施形態では、塩は実質的に結晶性である。
【0078】
本発明の塩は、「医薬用塩:特性、選択および使用(Pharmaceutical Salts: Properties,Selection,and Use)」、ハインリヒスタール(P.Heinrich Stahl)(編者)、カミールワーマス(Camille G.Wermuth)(編者)、ISBN:3−90639−026−8、ハードカバー、388ページ、2002年8月に記載されている方法のような従来の化学的方法により親化合物から合成することができる。そのような塩は一般的に、水、有機溶媒、またはそれら2つの混合物中で適切な酸と式(1)の化合物の遊離塩基形態を反応させることにより調製することができる。
【0079】
別の態様では、本発明は、(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの酸付加塩を調製する方法を提供し、前記方法は溶媒(典型的には有機溶媒)または混合溶媒中で(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基の溶液を形成する工程および酸で前記溶液を処理して付加塩の沈澱物を形成する工程を含む。
【0080】
酸は、遊離塩基が溶解している溶媒と混和性がある溶媒に溶液として加えられてもよい。遊離塩基がまず溶解される溶媒は、付加塩が不溶性のものであってもよい。あるいは、遊離塩基がまず溶解される溶液は、付加塩が少なくとも部分的に溶解するものであってもよく、塩が溶液から析出するように、付加塩がそれほど可溶でない別の溶媒が続いて加えられる。
【0081】
酸付加塩を形成する別の方法では、(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンは揮発性酸および場合により共溶媒を含む溶媒に溶解し、これにより揮発性酸との酸付加塩の溶液を形成し、得られた溶液をその後に濃縮または蒸発させて塩を単離する。このように調製することができる酸付加塩の一例は酢酸塩である。
【0082】
塩は、典型的には有機溶媒から形成されると共に析出し、したがって溶液から固体の分離(例えば、濾過)により単離することができる。
【0083】
本発明のある塩形態は、当業者に公知の方法により遊離塩基および場合により他の塩形態に変換することができる。例えば、遊離塩基はアミン固定相(例えば、ストラタ(Strata)−NH2カラム)を有するカラムに塩溶液を通すことにより形成することができる。あるいは、塩の水溶液を重炭酸ナトリウムで処理し、塩を分解し遊離塩基を沈殿させることができる。その後、遊離塩基は上述または本明細書の他の箇所に記載された方法の1つにより酸と組み合わされてもよい。
【0084】
このような酸付加塩は、対応する遊離塩基と比較して多くの長所を有する。例えば、塩は遊離塩基と比較して下記の1つまたはそれ以上の利点がある:
より溶解度が大きく、したがって静脈内投与(例えば、点滴によって)により適している、
より安定性が高い(例えば、より長い保存期間)、
より高い熱安定性を有する、
さほど塩基性ではなく、したがって静脈内投与により適している、
生産に関して利点を有する、
水溶液に対してより高い溶解度を有する、
より好ましい物理化学的性質を有する、
向上した抗癌活性を有し得る、かつ
向上した治療指数を有し得る。
【0085】
式(1)の化合物のL−乳酸塩の具体的な利点としては次のものが挙げられる:
水和されないので、処方がより容易である、
試験された遊離塩基や他の塩形態(すなわち、塩酸および硫酸により形成された塩)よりも多型が少ない、
吸湿性ではない、かつ
試験された遊離塩基や他の塩よりもよりよい溶解性の度合いを有する。
【0086】
本明細書で用いる「安定」または「安定性」なる語は、化学的安定性と固体状態(物理的)安定性を含む。「化学的安定性」なる語は、化合物が単離された形態で保存できることを意味するか、または化合物が、例えば、本明細書に記載される薬学的に許容される担体、希釈剤またはアジュバントとともに混合物として提供される製剤の形態で、例えば、6か月またはそれ以上の期間、より通常には12か月またはそれ以上、例えば、18か月またはそれ以上の期間、通常の貯蔵条件下でほとんどもしくは全く化学的に劣化または分解しないことを意味する。「固体状態安定性」は、化合物が単離された形態で保存できることを意味するか、または化合物が、例えば、本明細書に記載される薬学的に許容される担体、希釈剤またはアジュバントとともに混合物として提供される固体製剤の形態で、通常の貯蔵条件下で、ほとんどもしくは全く固体変換(例えば、水和、失水、溶媒和物化、脱溶媒和物化、結晶化、再結晶化または固体相転移)しないことを意味する。
【0087】
本明細書で使用される「吸湿性ではない」および「非吸湿性」なる語ならびに関連する語は、物質が高い相対湿度(例えば90%相対湿度)条件にさらされた場合に、水を5重量%(物質自体の重量に対して)以上吸収しない、かつ/または高湿度条件で結晶形態に変化をきたさない、かつ/または高相対湿度条件で結晶体内に水を吸収(内水)しないことを意味する。
【0088】
結晶形態
別の態様では、本発明は実質的に結晶形態の式(1)の化合物:
【化3】
またはその酸付加塩を提供する。
【0089】
「実質的に結晶性」により、式(1)の化合物またはその酸付加塩は、50%〜100%結晶性であることが意味され、より具体的には、式(1)の化合物またはその塩は少なくとも50%結晶性、または少なくとも60%結晶性、または少なくとも70%結晶性、または少なくとも80%結晶性、または少なくとも90%結晶性、または少なくとも95%結晶性、または少なくとも98%結晶性、または少なくとも99%結晶性、または少なくとも99.5%結晶性、または少なくとも99.9%結晶性、例えば100%結晶性であってもよい。
【0090】
より好ましくは、式(1)の化合物またはその塩は、95%〜100%結晶性のものであってもよい(または95%〜100%結晶性のものから成る群から選ばれてもよい)、例えば、少なくとも98%結晶性、または少なくとも99%結晶性、または少なくとも99.5%結晶性、または少なくとも99.6%結晶性、または少なくとも99.7%結晶性、または少なくとも99.8%結晶性、または少なくとも99.9%結晶性、例えば100%結晶性である。
【0091】
本発明の結晶形態は、固体の状態で、溶媒和されていても(例えば、水和)溶媒和されていなくてもよい(例えば、無水)。
【0092】
一実施形態では、結晶形態は溶媒和されていない(例えば、無水)。
【0093】
本明細書で用いる「無水」なる語は、塩(例えば、塩の結晶)のまわり、またはその中にいくらかの水分が存在する可能性を排除しない。例えば、塩(例えば、塩結晶)の表面に存在するいくらかの水分、あるいは塩(例えば、結晶)の塊の中に少量の水分が存在してもよい。典型的には、無水形態は、化合物の分子1個当たり水分子を0.4個未満の含んでおり、より好ましくは化合物の分子1個当たり水分子を0.1個未満、例えば、水の分子を0個含んでいる。
【0094】
別の実施形態では、結晶形態は溶媒和されている。結晶形態が水和されている場合、塩は例えば結晶水の分子を最大3個まで、より通常は水の分子を最大2個まで、例えば水の分子1個または水の分子2個を含み得る。存在する水の分子の数が1個未満すなわち非整数である非化学量論的水和物が形成される可能性がある。例えば1個未満の水の分子が存在する場合、例えば、0.4、0.5、0.6、0.7、0.8または0.9個の水の分子が化合物の分子1個当たりに存在する可能性がある。
【0095】
他の溶媒和物としては、エタノラートやイソプロパノラートのようなアルコラートが挙げられる。
【0096】
本明細書に記載される結晶形態、その個々の結晶およびそれらの結晶構造は、本発明のさらなる態様である。
【0097】
結晶形態およびその結晶構造は、単結晶X線結晶学、粉末X線回折(XRPD)、示差走査熱量測定法(DSC)および赤外線分光法、例えば、フーリエ変換赤外線分光法(FTIR)を含む多くの手法を使い特性決定できる。様々な湿度条件下での結晶の性質は重量蒸気収着法によって、またXRPDによって分析することができる。
【0098】
化合物の結晶構造の測定は、X線結晶学的方法により行なうことができ、本明細書や「結晶学の基礎(Fundamentals of Crystallography)」、ジャコバッツォ(C. Giacovazzo)、モナコ(H. L. Monaco)、ビテルボ(D. Viterbo)、スコルダリ(F. Scordari)、ジリ(G. Gilli)、ザノッティ(G. Zanotti)およびキャッティ(M. Catti)、(国際結晶学連合(International Union of Crystallography)/オックスフォード大学出版(Oxford University Press)、1992年、ISBN:0−19−855578−4(p/b)、0−19−85579−2(h/b))に記載されたような従来の方法によって行なうことができる。この手法は、単結晶のX線回折の分析および解釈を伴う。
【0099】
あるいは、化合物の結晶構造は粉末X線回折(XRPD)固体法により分析することができる。XRPDは、本明細書および粉末X線回折入門(Introduction to X-ray Powder Diffraction)、(ロンジェンキンス(Ron Jenkins)およびロバートスナイダー(Robert L. Snyder)(ジョンワイリー&サンズ、ニューヨーク、1996年)に記載のような従来の方法にしたがって行なうことができる。XRPD回折図中で明確なピーク(ランダムなバックグラウンドノイズとは対照的に)の存在は、化合物が結晶化度を有していることを示す。
【0100】
化合物の粉末X線図形は、X線回折スペクトルの回折角(2θ)パラメーターおよび面間隔(d)パラメーターで特徴付けられる。これらは、ブラッグの式、nλ=2dSinθ(ここでn=l、λ=使用されるカソードの波長、d=面間隔、およびθ=回折角)により関連づけられる。本明細書では、面間隔、回折角および全体的な図形は、データの特徴により、粉末X線回折における結晶の識別のために重要である。結晶成長の方向、粒径および測定条件によって相対強度は変わりうるので、相対強度は厳密に解釈されるべきでない。さらに、回折角は通常2θ±0.2°の範囲内で一致する角度を意味する。ピークは主要ピークを意味し、上述した以外の回折角で半分までの大きさのピークを含む。
【0101】
式(1)の化合物およびその酸付加塩の化合物は多くの異なった結晶形態で存在し、これらは下記により詳細に記載され、実施例において特性決定される。
【0102】
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基の結晶形態
式(1)の化合物の遊離塩基は、少なくとも6つの異なる結晶形態で存在することが分かっており、そのうちの3つ(本明細書においてFB1、FB2およびFB5と表される)は空気中で不安定であり、そのうちの3つ(本明細書においてFB3、FB4およびFB6と表される)は空気中で安定である。遊離塩基の結晶形態の特性は、下記実施例6Aに記載されている。
【0103】
形態FB1
一実施形態では本発明は、XRPDパターンが5.52に回折角ピーク(2θ/°)を有することに特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンを提供する。
【0104】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、15.21、16.11、16.72、18.21および20.29の回折角(2θ/°)にピークを示す。
【0105】
より好ましくは、このXRPDパターンはまた、9.44、11.05、11.99、17.09、19.23、19.73、21.09および26.72の回折角(2θ/°)にピークを示す。
【0106】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図1に示されたとおりである。
【0107】
別の態様では、本発明は結晶形態FB1の調製方法を提供し、この方法は(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンをn−ブタノールに溶解し飽和溶液を形成させ、その後ジ(イソプロピル)エーテルを加え結晶形態FB1を析出させることを含む。
【0108】
結晶形態FB1は空気中で不安定であり、放置された場合には変化してFB3を形成する(下記参照)。
【0109】
したがって、本発明はまた、本明細書に定義される結晶形態FB3の調製方法を提供し、この方法はFB3への変換が起こるのに十分な期間形態FB1を空気に暴露することを含む。
【0110】
形態FB2
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが5.35に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンを提供する。
【0111】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、14.68、17.00、18.61、19.86および20.15に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0112】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、6.73、10.40、10.67、18.26、18.87、19.24、21.13、21.44および26.86に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0113】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図2に示されたとおりである。
【0114】
別の態様では、本発明は結晶形態FB2の調製方法を提供し、この方法は(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンをTHFに溶解し飽和溶液を形成させ、その後酢酸イソプロピルを加え結晶形態FB2を析出させることを含む。
【0115】
結晶形態FB2も空気中で不安定であり、放置された場合には変化してFB3を形成する(下記参照)。
【0116】
したがって、本発明はまた、本明細書に定義される結晶形態FB3の調製方法を提供し、この方法はFB3への変換が起こるのに十分な期間形態FB2を空気に暴露することを含む。
【0117】
形態FB3
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが6.05に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンを提供する。
【0118】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、12.15、13.60、15.77、17.82、18.89、19.64、20.20および20.93に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0119】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、7.87、9.15、10.22、16.62、17.16、22.19、23.33および24.53に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0120】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図3に示されたとおりである。
【0121】
形態FB3は、少なくとも1か月間40℃および相対湿度75%の空気中で安定であり、したがって固形医薬組成物における使用に適している。したがって、別の態様では本発明は、本明細書に定義される結晶形態FB3の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基を含む固形医薬組成物を提供する。
【0122】
形態FB4
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが6.29に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンを提供する。
【0123】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、8.91、9.96、14.11、16.11、17.11、18.48、19.91、21.57、22.46、23.59および24.88に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0124】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、12.62、17.40、17.88、19.33、20.35および27.25に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0125】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図4に示されたとおりである。
【0126】
X線結晶学的研究から、形態FB4は、正方晶系空間群P4
2/nに属し293Kでa=b=28.2、c=6.0Å、α=β=γ=90°の結晶格子パラメーターを有する結晶構造を有することが分かっている。結晶のパッキング図を
図5に示す。
【0127】
したがって別の実施形態では本発明は、結晶性であり以下の特性を有する(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基を提供する:
(a)
図5に示される結晶構造を有する、かつ/または
(b)本明細書の表5の座標により定義される結晶構造を有する、かつ/または
(c)293Kでa=b=28.2、c=6.0Å、α=β=γ=90°の結晶格子パラメーターを有する、かつ/または
(d)P4
2/nなどの正方晶系空間群に属する結晶構造を有する。
【0128】
結晶形態FB4は安定した二水和物であり、固形医薬組成物の調製に使用してもよい。したがって、別の態様では本発明は、本明細書に定義される結晶形態FB4の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基を含む固形医薬組成物を提供する。
【0129】
別の態様では、本発明は結晶形態FB4の調製方法を提供し、この方法は(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンをエタノールに溶解し飽和溶液を形成させ、その後ジ(イソプロピル)エーテルを加え結晶形態FB4を析出させることを含む。
【0130】
形態FB5
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが7.12に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンを提供する。
【0131】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、9.71、10.14、13.73、16.58、18.71、19.46、20.15および22.35に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0132】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、11.50、14.60、15.34、16.94、21.97、23.43および26.36に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0133】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図6に示されたとおりである。
【0134】
別の態様では、本発明は結晶形態FB5の調製方法を提供し、この方法は(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンをイソプロパノールに溶解し飽和溶液を形成させ、その後酢酸イソプロピルを加え結晶形態FB5を析出させることを含む。
【0135】
形態FB6
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが18.66に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンを提供する。
【0136】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、9.09、9.68、16.08、16.46、16.94、18.13、20.05および22.48に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0137】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、4.60および26.53に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0138】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図7に示されたとおりである。
【0139】
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンと塩酸とで形成された塩の結晶形態
式(1)の化合物の塩酸塩は、少なくとも5つの異なる結晶形態で存在することが分かっており、そのうちの1つ(本明細書においてFH3と表される)は空気中で安定しており、そのうちの4つ(本明細書においてFH1、FH2、FH4およびFH5と表される)は空気中で不安定である。
【0140】
形態FH1
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが7.34に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの塩酸塩を提供する。
【0141】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、5.59、7.99、10.33、14.32、15.29、18.59および25.32に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0142】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、11.70、13.95、14.72、16.37、16.82、19.99、20.40、20.82、21.26、22.57、23.01、24.60、25.82、27.10、28.27および28.78に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0143】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図8に示されたとおりである。
【0144】
別の態様では、本発明は結晶形態FH1の調製方法を提供し、この方法は(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基に酢酸エチル/HClおよびメタノールを加えて溶液にし、その後溶媒を除去して二塩酸塩を残すことを含む。
【0145】
形態FH2
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが3.40に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの塩酸塩を提供する。
【0146】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、6.81、9.03、11.84、15.70、16.10、18.13、20.84、23.19、23.94、24.78および25.65に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0147】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、6.04、13.01、13.69、16.59、17.17、21.39、21.87、24.78、25.97、26.94、27.59、28.06および29.53に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0148】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図9に示されたとおりである。
【0149】
形態FH2は、貧溶媒としてアセトンを使用して、形態FH1の飽和DMF溶液からの析出により調製することができる。したがって、別の態様では本発明は、結晶形態FH2の調製方法を提供し、この方法は、DMF中の形態FH1の飽和溶液を形成し、その後アセトンを加えて形態FH2を析出させることを含む。
【0150】
形態FH3
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが9.35に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの塩酸塩を提供する。
【0151】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、10.40、10.78、12.51、14.78、18.74、19.09、21.68、22.32、23.07、24.86、25.14および29.02に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0152】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、5.83、10.78、11.35、11.71、13.35、13.81、14.10、17.18、17.65、19.46、20.11、21.18、23.71、26.49、27.03、28.09、28.70および29.52に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0153】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図10に示されたとおりである。
【0154】
形態FH3は、(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基のエタノール溶液にジオキサン中のHClを加えることにより調製することができる。したがって別の態様では本発明は、形態FH3の塩酸塩の調製方法を提供し、この方法は(i)(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基をエタノールに溶解すること、(ii)これに塩化水素のジオキサン溶液を加えること、(iii)得られる混合物を蒸発乾固させること、(iv)温エタノール:水(9:1、5ml)中に残基を溶解させること、(v)この溶液をシーディングし、少なくとも2時間(例えば、少なくとも4または6または8または10または12または14時間)溶液を撹拌し、沈殿した形態FH3を取り出すことを含む。
【0155】
形態FH4
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが11.62に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの塩酸塩を提供する。
【0156】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、7.04、11.62、15.54、16.68、18.54、20.73、22.26、22.94、23.77および25.07に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0157】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、9.89、12.30、13.27、14.14、16.06、17.99、19.24、23.36、24.63、25.72、26.91および27.63に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0158】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図11に示されたとおりである。
【0159】
形態FH4は、貧溶媒として1,4−ジオキサンを使用して、DMF溶液からの析出により調製することができる。したがって、別の態様では本発明は、結晶形態FH4の調製方法を提供し、この方法は、形態FH1の飽和DMF溶液を形成し、その後1,4−ジオキサンを加えて形態FH4を析出させることを含む。
【0160】
形態FH5
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが2.32に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの塩酸塩を提供する。
【0161】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、6.15、11.79、15.79、20.81、22.76および23.76に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0162】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図12に示されたとおりである。
【0163】
形態FH5は、貧溶媒としてアセトンを使用して、飽和メタノール溶液からの析出により調製することができる。
【0164】
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンとL−乳酸とで形成された塩の結晶形態
式(1)の化合物の乳酸塩は、1つの不安定な形態(FL3)および2つの安定した形態(FL1とFL2)で存在する。
【0165】
形態FL1
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが16.81に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンのL−乳酸塩を提供する。
【0166】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、6.53、13.10、14.13、14.40、17.22、18.65、19.52、19.82、22.33、22.84および23.09に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0167】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、6.18,8.39,11.08、15.21、16.21、20.49、20.76、21.13、22.02、23.94、25.19、26.41、26.95および27.81に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0168】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図13に示されたとおりである。
【0169】
形態FL1は、(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基をエタノールとEtOAcとの混合物(例えば、体積比3:5で)に懸濁すること;前記混合物にL−乳酸を加えること(例えば、L−乳酸はエタノール溶液の形態である);前記混合物を清澄化すること(例えば、透明になるまで加熱することによりおよび/または残留する固体をすべてろ過することにより);シーディングしながら清澄化した混合物を撹拌し結晶化した形態FL1を、例えば、ろ過により取り出すことにより調製できる。
【0170】
形態FL2
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが22.34に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンのL−乳酸塩を提供する。
【0171】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、8.03、10.71、11.98、13.13、15.39、16.09、16.61、17.26、18.17、18.82、20.40、21.01、21.53、22.34、22.56、23.71および27.70に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0172】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、24.30、24.65、26.56および28.29に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0173】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図14に示されたとおりである。
【0174】
X線結晶学的研究から、形態FL2は、単斜晶系空間群P2
1に属し293Kでa=5.8、b=16.6、c=14.9Å、β=98、α=γ=90°の結晶格子パラメーターを有する結晶構造を有することが分かっている。FL2の結晶のパッキング図を本明細書の
図15に示す。
【0175】
したがって別の実施形態では本発明は、結晶性であり以下の特性を有する(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンのL−乳酸塩を提供する:
(a)
図15に示される結晶構造を有する、かつ/または
(b)本明細書の表16の座標により定義される結晶構造を有する、かつ/または
(c)293Kでa=5.8、b=16.6、c=14.9Å、β=98、α=γ=90°の結晶格子パラメーターを有する、かつ/または
(d)P2
1などの単斜晶系空間群に属する結晶構造を有する。
【0176】
結晶形態FL2は、3つの結晶が存在することから名目上は三水和物である安定した水和物であるが、非対称ユニットにおける水の位置は、室内の温度および湿度では完全に(100%)占有されていない。形態FL2は固体の医薬組成物の調製に使用されてもよい。したがって、別の態様では本発明は、本明細書に定義される結晶形態FL2の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンのL−乳酸塩を含む固形医薬組成物を提供する。
【0177】
形態FL2は、貧溶媒としてアセトンを使用して、飽和メタノール水溶液からの析出により調製することができる。したがって、別の態様では本発明は、結晶形態FL2の調製方法を提供し、この方法は、メタノール:水(好ましくは9:1の比率で)形態FL1の飽和溶液を形成すること、その後アセトンを加えて形態FL2を析出させることを含む。
【0178】
形態FL3
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが5.53に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特性付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンのL−乳酸塩を提供する。
【0179】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、11.07、13.16、16.69、17.17、18.00、18.49、19.28、21.05、22.47および22.84に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0180】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、8.36、13.85、19.79、20.34、21.47、21.93、24.56、26.28、27.06、27.47および29.11に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0181】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図16に示されたとおりである。
【0182】
形態FL3は、貧溶媒としてヘプタンを使用して、飽和THF溶液からの析出により調製することができる不安定な形態である。したがって、別の態様では本発明は、結晶形態FL3の調製方法を提供し、この方法は、形態FL1の飽和THF溶液を形成し、その後ヘプタンを加えて形態FL3を析出させることを含む。
【0183】
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンと硫酸とで形成された塩の結晶形態
硫酸塩は、2つの不安定な形態(FS1およびFS2)および4つの安定な形態(FS3、FS4、FS5およびFS6)で存在する。
【0184】
1:1の塩は(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの遊離塩基を硫酸に溶解し、そして次に蒸発乾固させることにより調製することができる。
【0185】
形態FS1
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが4.79に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの硫酸塩を提供する。
【0186】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、10.02、11.28、14.38、15.27、16.91、18.29、20.12、21.76および22.32に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0187】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、10.68、12.89、17.64、18.86、19.28、20.82、21.21、22.89、23.83、24.22、24.42、25.13および29.04に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0188】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図17に示されたとおりである。
【0189】
形態FS1は、室温にて1:1の塩(上記参照)の飽和水溶液を調製し、その後ゆっくりとアセトニトリルを加え形態FS1を析出させることにより調製することができる。
【0190】
したがって、別の態様では本発明は、結晶形態FS1の調製方法を提供し、この方法は、水中で1:1の塩の形態の飽和溶液を形成し、その後アセトニトリルを加えて形態FS1を析出させることを含む。
【0191】
形態FS2
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが7.43に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの硫酸塩を提供する。
【0192】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、7.03、8.67、11.76、13.84、17.50および23.20に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0193】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、4.17、8.09、9.27、9.65、10.41、10.98、12.53、14.55、15.39、16.24、16.89、18.05、18.93、19.47、24.21、25.21、25.75、26.62および27.67に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0194】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図18に示されたとおりである。
【0195】
別の態様では本発明は、形態FS2の製造方法を提供し、この方法は、濃縮H
2SO
4に化合物(1)を溶解し、アセトニトリル(例えば、H
2SO
4に対して4容量)を添加して形態FS2を析出させることを含む。
【0196】
形態FS3
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが5.43に回折角ピーク(2θ/°)有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの硫酸塩を提供する。
【0197】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、10.30、11.24、14.26、14.91、16.41、17.53、18.38、18.61、19.01、19.92、21.77、22.67、24.23および25.36に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0198】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、4.81、12.94、13.98、15.62、19.38、20.27、20.71、21.19、23.79、27.38および28.82に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0199】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図19に示されたとおりである。
【0200】
形態FS3は、形態FS1を空気中で2日間乾燥させることにより調製することができる。
【0201】
形態FS4
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが7.48に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの硫酸塩を提供する。
【0202】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、7.16、7.97、8.82、9.09、9.37、10.45、11.77、14.36、16.21、16.99、17.28、17.59、18.90、23.13、23.68および23.96に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0203】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、4.64、8.42、13.25、13.54、15.03、17.96、19.43、19.83、21.36、24.77、25.64、26.19、26.73、27.20、27.76および28.64に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0204】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図20に示されたとおりである。
【0205】
形態FS4は、形態FS2を数週間40℃および75%RHで培養することにより調製することができる。
【0206】
形態FS5
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが7.99に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの硫酸塩を提供する。
【0207】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、7.11、9.33、9.57、10.45、11.64、13.27、14.28、15.60、16.98、17.65、18.01、18.80、23.21、23.51、23.92、25.06および26.24に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0208】
より好ましくは、XRPDパターンはさらに、4.70、14.65、15.12、19.32、この19.83、21.08、24.30、27.28および28.67に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0209】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図21に示されたとおりである。
【0210】
形態FS5は、形態FS2を空気中で乾燥させることにより調製することができる。
【0211】
形態FS6
別の実施形態では本発明は、XRPDパターンが4.82に回折角ピーク(2θ/°)を有することにより特徴付けられる結晶形態の(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの硫酸塩を提供する。
【0212】
好ましくは、このXRPDパターンはまた、9.98、14.45、15.38、16.97、18.18、20.23、20.93および22.29に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0213】
より好ましくは、このXRPDパターンはさらに、11.35、12.92、17.52、19.42、21.31、21.66、21.89、22.84、23.04、23.94、24.51、25.26および29.18に回折角(2θ/°)ピークを示す。
【0214】
最も好ましくは、このXRPDパターンは実質的に本明細書の
図22に示されたとおりである。
【0215】
形態FS6は、1:1の塩(上記参照)の飽和DMF溶液を調製し、その後トルエンを加え形態FS6を析出させることにより調製することができる。
【0216】
化合物(1)の酸付加塩および結晶形態の製薬学的用途
他の態様では、本発明は以下のものを提供する:
Hsp90が仲介する病態もしくは症状の予防または治療における使用のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0217】
Hsp90が仲介する病態もしくは症状の予防または治療用薬剤の製造のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態の使用。
【0218】
Hsp90が仲介する病態もしくは症状の予防または治療方法であって、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
【0219】
Hsp90が仲介する病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減に用いる、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0220】
Hsp90が仲介する病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減用薬剤の製造のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態の使用。
【0221】
Hsp90が仲介する病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減方法であって、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
【0222】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療に用いる、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0223】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療用薬剤の製造のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態の使用。
【0224】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療方法であって、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態を異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
【0225】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減に用いる、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0226】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減用薬剤の製造のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態の使用。
【0227】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減方法であって、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態を異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
【0228】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療方法であって、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態をHsp90の活性を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
【0229】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減方法であって、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態をHsp90の活性を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
【0230】
Hsp90の阻害剤としての使用のための本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0231】
Hsp90の阻害方法であって、Hsp90と本明細書に定義される式(1)の化合物のHsp90阻害性酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態とを接触させることを含む方法。
【0232】
Hsp90の活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾に用いる、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0233】
本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態を使用する、Hsp90の活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
【0234】
本明細書に記載される病態の予防または治療における使用のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0235】
本明細書に定義される1種以上の用途のため薬剤の製造のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態の使用。
【0236】
本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
【0237】
本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態と薬学的に許容される担体とを含む、経口投与に適した形態の医薬組成物。
【0238】
本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態と薬学的に許容される担体とを含む、非経口投与(例えば、静脈内投与(i.v.)による)に適した形態の医薬組成物。
【0239】
本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態と薬学的に許容される担体とを含む、注射または点滴による静脈内投与(i.v.)に適した形態の医薬組成物。
【0240】
薬剤に使用するための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0241】
上記および本明細書の他の箇所に記載のいずれかの使用および方法のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0242】
スクリーニングされ、Hsp90に対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防における使用のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態。
【0243】
スクリーニングされ、Hsp90に対して活性を有する化合物による治療に感受性のある疾病もしくは症状に罹患している、または罹患する危険性があると判定された患者における病態または症状の治療あるいは予防用薬剤の製造のための、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態の使用。
【0244】
Hsp90により仲介される病態もしくは症状の診断および治療方法であって、(i)患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状が、Hsp90に対する活性を有する化合物による治療に感受性があるものかどうかを判定すべく患者をスクリーニングすること、ならびに(ii)患者の疾病または症状が感受性があることが示された場合、その後、本明細書に定義される式(1)の化合物の酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)あるいは本明細書に定義される式(1)の化合物またはその酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の結晶形態を患者に投与することを含む方法。
【0245】
新規な方法
また、本発明は、式(1)の化合物、そのアナログ、およびそれらの酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)の新規な調製方法、ならびに式(1)の化合物の合成において重要な中間体の新規な調製方法を提供する。
【0246】
したがって、他の態様において、本発明は、式(2)の化合物の調製方法であって、
【化4】
(式中、R
1はC
1−4アルキルである)
式(3)の化合物を接触水素化に供すること、
【化5】
(式中、PGは水素化条件下で除去可能な保護基であり、A−BはCH−CH
3またはC=CH
2である)および
その後、上記方法の生成物が遊離塩基である場合、場合により式(2)の化合物を酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)に変換することを含む方法を提供する。
【0247】
保護基PGは、好ましくはベンジル基である。
【0248】
部分A−Bは、CH−CH
3またはC=CH
2であり得る。
【0249】
一実施形態において、部分A−Bは、C=CH
2である。
【0250】
他の実施形態において、部分A−Bは、CH−CH
3である。
【0251】
接触水素化は、典型的には、パラジウム触媒、例えばパラジウム炭素(palladium on carbon(palladium on charcoal))を用いて行われる。
【0252】
上記の方法は、式(1)の化合物、またはそのエチル、プロピルおよびブチルホモログの調製に用いてもよい。好ましくは、上記の方法は、R
1がメチルまたはエチルである化合物の調製に用いられる。
【0253】
一実施形態において、R
1はメチルである。すなわち、上記の方法は、式(1)の化合物の調製に用いられる。
【0254】
他の実施形態において、R
1はエチルである。
【0255】
式(3)の化合物は、式(3a)の化合物
【化6】
と、基−C(=O)−CH
3を基C(=CH
2)−CH
3に変換するのに適したウィッティヒ試薬または他の試薬とを反応させることにより調製可能である。例えば、アセトフェノン化合物(3a)とウィッティヒ試薬MePPh
3Brとを、THF中でブチルリチウムまたはカリウムtert−ブトキシドなどの塩基の存在下で反応させて、式(3)の化合物(式中、A−BはC=CH
2である)を得ることが可能である。
【0256】
よって、他の態様において、本発明は、本明細書で定義される式(3)の化合物の調製方法であって、上記で定義された式(3a)の化合物と、基−C(=O)−CH
3を基C(=CH
2)−CH
3基に変換するのに適したウィッティヒ試薬または他の試薬とを反応させることを含む方法を提供する。
【0257】
あるいは、より好ましくは、式(3)の化合物は、下記式(4)の置換安息香酸またはその活性型もしくは誘導体と、下記式(5)のイソインドリンとを反応させることにより調製可能である。
【0258】
したがって、さらなる態様において、本発明は、本明細書で定義される式(3)の化合物の調製方法であって、
(a−i)式(4)の化合物またはその活性型もしくは誘導体と、式(5)の化合物とをアミド形成条件下で反応させることを含む方法を提供する。
【化7】
【0259】
また、本発明は、本明細書で定義される式(2)の化合物の調製方法であって、
(a−i)本明細書で定義される式(4)の化合物またはその活性型もしくは誘導体と、本明細書で定義される式(5)の化合物とをアミド形成条件下で反応させて、式(3)の化合物を得ること、ならびに
(b)保護基PGを除去するため、および、A−BがC=CH
2の場合、A−B基をイソプロピル基に還元するために、式(3)の化合物を接触水素化に供し、前記方法の生成物が遊離塩基である場合、場合により式(2)の化合物を酸付加塩(例えば、L−乳酸塩)に変換することを含む方法を提供する。
【0260】
安息香酸(4)とイソインドリン(5)とを反応させる前に、塩化チオニルでの処理、触媒量のジメチルホルムアミドの存在下での塩化オキサリルとの反応、または、前記酸のカリウム塩と塩化オキサリルとの反応により、安息香酸をまず酸塩化物に変換してもよい。次いで、酸塩化物とイソインドリン(5)とをトリエチルアミンなどの非干渉性塩基の存在下で反応させ得る。反応は、室温程度の温度でジオキサンなどの極性溶媒中で行ってもよい。
【0261】
上記の酸塩化物による方法を用いる代わりに、安息香酸(4)とイソインドリン(5)とをアミドまたはペプチド結合の形成に一般的に用いられる種類のアミドカップリング試薬の存在下で反応させ得る。このような試薬の例としては1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)、1,3−ジシクロヘキシルカルボジイミド(DCC)(シーハン(Sheehan)ら、ジャーナル・オブ・アメリカン・ケミカル・ソサエティー(J. Am. Chem. Soc.)、1955年、77,1067)、1−エチル−3−(3’−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド(ここではEDCまたはEDACと呼ばれるが、当該分野ではEDCIおよびWSCDIとしても知られる)(シーハン(Sheehan)ら、ジャーナル・オブ・オーガニックケミストリー(J. Org. Chem.)、1961年、26,2525)、O−(7−アザベンゾトリアゾール−1−イル)−N,N,N’,N’−テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスフェート(HATU)などのウロニウム系カップリング剤、および1−ベンゾ−トリアゾリルオキシトリス−(ピロリジノ)ホスホニウムヘキサフルオロホスフェート(PyBOP)(カストロ(Castro)ら、テトラへドロンレターズ(Tetrahedron Letters)、1990、31、205)などのホスホニウム系カップリング剤が挙げられる。カルボジイミド系カップリング剤は、1−ヒドロキシ−7−アザベンゾトリアゾール(HOAt)(カルピノ(L. A. Carpino)、米国化学会誌(J. Amer. Chem. Soc.)、1993、115、4397)または1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(HOBt)(ケーニッヒ(Konig)ら、ケミシェベリヒテ(Chem. Ber.)、103、708、2024〜2034)と組み合わせて使用するのが有利である。好ましいカップリング試薬としては、EDC(EDAC)およびDCCとHOAtまたはHOBtとの組合せが挙げられる。
【0262】
1つの特定のカップリング試薬は、EDCとHOBtとの組み合わせを含む。
【0263】
好ましいカップリング剤は、1,1’−カルボニルジイミダゾール(CDI)である。
【0264】
カップリング反応は、典型的にはアセトニトリル、ジオキサン、ジメチルスルホキシド、ジクロロメタン、ジメチルホルムアミドまたはN−メチルピロリジンなどの非水性非プロトン性溶媒中、または1以上の混和性補助溶媒を伴ってもよい水性溶媒中で行なわれる。反応は室温で行なってもよい。反応は、非干渉性塩基、例えば、トリエチルアミンまたはN,N−ジイソプロピルエチルアミンなどの三級アミンの存在下で行ってもよい。
【0265】
式(4)の化合物(式中、A−BはC=CH
2)は、スキーム1に示す一連の反応により調製可能である。
【化8】
【0266】
スキーム1の原料としては2,4−ジヒドロキシ安息香酸メチルエステル(11)が用いられ、これを、N,N−ジメチル−4−アミノピリジンの存在下で無水酢酸と反応させることによりモノアセチル化して、ジエステル(12)を得る。化合物(12)とトリフルオロメタンスルホン酸および場合により塩化アセチルとを反応させてアセトフェノン(13)を得ることにより、ジエステル(12)を置換アセトフェノン(13)に変換する。アセトフェノン(13)を、炭酸カリウムなどの塩基の存在下で臭化ベンジルで処理してジベンジル化合物(14)を得、これとウィッティヒ試薬MePPh
3BrとをTHF中でブチルリチウムまたはカリウムtert−ブトキシドなどの塩基の存在下で反応させて、イソプロペニル化合物(15)を得る。カルボン酸(16)へのエステル加水分解は、典型的には、水酸化カリウム/ナトリウムなどのアルカリ金属水酸化物水溶液で処理することにより行われる。加水分解反応は、アルコール(例えば、メタノール)などの有機補助溶媒を用いて行ってもよく、反応混合物は、典型的には最大約50〜90℃の非極限温度まで加熱される。
【0267】
式(4)の化合物(式中、A−BはCH−CH
3)は、イソプロペニル化合物(15)を、接触水素化により対応するイソプロピル化合物に還元すること、および、生じたジヒドロキシ化合物を、上記のように塩基の存在下で臭化ベンジルと反応させて再ベンジル化すること以外は、スキーム1と同様に調製可能である。
【0268】
上記スキーム1に示す反応シーケンスは、PCT/GB2006/001382のスキーム4における対応する工程での収率よりも有意によい収率を示し、製造規模での合成により適切な試薬および条件の利用を可能とする。また、大規模の合成の見地から最も重要なことに、スキーム1に示す反応シーケンスは、クロマトグラフィー精製の必要がない。
【0269】
したがって、本発明は、式(13)の化合物の調製方法(「中間方法A」)であって、
【化9】
(i)式(11)の化合物
【化10】
と、(a)無水酢酸とを4−ジメチルアミノピリジンの存在下で(典型的には、最大約60℃の温度まで加熱しながら)反応させ、次いで、(b)トリフルオロメタンスルホン酸および場合により塩化アセチルとを(典型的には、室温で)反応させること、または
(ii)式(11)の化合物と塩化アセチルとをアンバーリスト15(Amberlyst15、商標)樹脂などのカチオン性イオン交換樹脂の存在下で反応させることを含む方法を提供する。
【0270】
中間方法Aは、PCT/GB2006/001382における対応する方法で開示される収率よりもよい化合物(13)の収率を示す。
【0271】
また、本発明は、式(15)の化合物の調製方法(「中間方法B」)であって、式(14)の化合物とウィッティヒ試薬MePPh
3BrとをTHF中でカリウムtert−ブトキシドの存在下で反応させることを含む方法を提供する。
【化11】
【0272】
中間方法Bは、ウィッティヒ反応においてn−ブチルリチウムが塩基として用いられるPCT/GB2006/001382における対応する方法工程で開示される収率よりも有意によい製品収率を示す。さらに、カリウムtert−ブトキシド塩基は、n−ブチルリチウムよりも製造規模での方法により適する。また、n−ブチルリチウムを使用した場合、典型的には反応混合物を0℃以下に冷却する必要があるのに対して、本方法では、室温でまたは穏やかな冷却を伴って反応を行うことができる。クロマトグラフィー精製は不要である。
【0273】
他の態様において、本発明は、本明細書で定義される式(16)の化合物の調製方法であって、中間方法Bを行うこと、次いで、化合物(15)中のメチルエステル基を水酸化カリウムなどのアルカリ金属水酸化物を用いて加水分解して式(16)の化合物を得ることを含む方法を提供する。
【0274】
イソインドリン化合物(5)は、スキーム2に示す合成経路により調製可能である。
【化12】
【0275】
スキーム2において、ジプロパギルアミン(17)とN−(ベンジルオキシカルボニルオキシ)コハク酸イミド(17a)とを酢酸エチル中で炭酸カリウムの存在下で反応させて、Z−保護ジプロパギルアミン(18)(「Z」という語は、ベンジルオキシカルボニル基を指す)を得る。N−(ベンジルオキシカルボニルオキシ)コハク酸イミドの代わりに、クロロギ酸ベンジルを用いてベンジルオキシカルボニル保護基を導入してもよい。次いで、化合物(18)とプロパルギルアルコール(19)とをウィルキンソン触媒の存在下で2+2+2付加環化反応中に反応させて、Z−保護イソインドリン(20)を得る。次いで、THFなどの極性溶媒中でトリエチルアミンなどの非干渉性塩基の存在下でメタンスルホニルクロリドと反応させることにより、イソインドリン(20)上のヒドロキシメチル基をメシルオキシ基に変換して、メシル化合物(21)を得る。メシル化合物(21)とアルキルピペラジン(22)とをアセトン溶液中で反応させて、Z−保護イソインドリン(23)を得る。パラジウム炭素触媒上で水素化を行うことによりベンジルオキシカルボニル基を除去して、非保護イソインドリン化合物(5)を得る。
【0276】
スキーム2の反応シーケンスの変更例をスキーム2aに示す。
【化13】
【0277】
スキーム2aにおいて、メシラート(21)に変換する代わりに、ジクロロメタン中で二酸化マンガンを用いてヒドロキシメチルインドリン(20)を対応するアルデヒド(21a)に酸化させ、次いで、式(22)の化合物と還元アミノ化条件下で、例えば、トリアセトキシボロヒドリドナトリウムの存在下で反応させることにより、アルデヒドを式(23)の化合物に変換する。次いで、上記スキーム2のように水素化によりZ−基を除去し、中間体(5)を得る。
【0278】
したがって、別の態様において、本発明は、本明細書で定義される式(5)の化合物の調製方法であって、
(i)式(24)の化合物
【化14】
(式中、PGは保護基(例えば、ベンジルオキシカルボニル)であり、LG
1は離脱基(例えば、メシルオキシ)である)と、本明細書で定義される式(22)の化合物とを反応させること、または
(ii)式(25)の化合物
【化15】
(式中、PGは保護基(例えば、ベンジルオキシカルボニル)である)と、本明細書で定義される式(22)の化合物とを還元アミノ化条件下で(例えば、トリアセトキシボロヒドリドナトリウムの存在下で)反応させること、および
次いで、例えばPGがベンジルオキシカルボニル基である場合、水素化などにより保護基PGを除去することを含む方法を提供する。
【0279】
スキーム2および2aにおいて、中間体(20)は、遷移金属触媒の存在下で2+2+2付加環化反応により調製される。2+2+2付加環化反応の代わりに、中間体(20)は、スキーム3に示す一連の反応により調製可能である。
【化16】
【0280】
スキーム3において、ビス−ブロモ安息香酸メチルエステル(26)とベンジルアミンとをテトラヒドロフラン(THF)などの極性非プロトン性溶媒中でトリエチルアミンなどの非干渉性塩基の存在下で反応させて、N−ベンジルジヒドロイソインドール中間体(27)を得る。次いで、水素化アルミニウムリチウムを用いてTHF中で中間体(27)中のエステル基を対応するアルコールに還元して、ヒドロキシメチルジヒドロイソインドール中間体(28)を得る。次いで、アルコール(例えば、エタノール)溶媒中で少し上昇させた温度(例えば、約50℃まで)でパラジウム炭素触媒上で水素化を行うことにより、ヒドロキシメチルジヒドロイソインドール中間体(28)を脱ベンジル化して、中間体(29)を得る。次いで、ベンジルオキシカルボニル(「Z」)基をジヒドロイソインドール環の窒素原子上に導入するのに適した試薬と反応させることにより、中間体(29)を中間体(20)に変換する。例えば、中間体(29)とクロロギ酸ベンジルとをTHFなどの極性非プロトン性溶媒中でトリエチルアミンなどの非干渉性塩基の存在下で反応させて、中間体(20)を得ることができる。
【0281】
スキーム2、2a、および3に示す合成経路の実質的な利点は、当該経路により形成される種々の中間体が、大規模の合成において非常に有用な優れた物理化学的特性を有する点にある。よって、スキーム1の一連の工程と組み合わせた場合、本発明者らの先の出願PCT/GB2006/001382における対応する合成経路よりも有意な利点を有する合成経路が得られる。特に、主たる利点には次のものがある:
より高い収率、
より容易な精製(クロマトグラフィー精製が不要)、
中間体の物理化学的特性が向上することによる、より容易な操作性、
製造方法へのより容易な規模拡大。
【0282】
別の態様において、本発明は、式(6)の化合物の調製方法であって、
【化17】
(式中、R
2およびR
3は同一または異なって、それぞれC
1−4アルキルである、またはNR
2R
3は、O、N、およびSから選ばれるさらなるヘテロ原子を場合により含み、1個または2個のC
1−4アルキル基により場合により置換されている4〜7員の飽和複素環を形成する;R
4は水素、ハロゲン、C
1−5アルキル、およびC
3−4シクロアルキル基から選ばれる)
(a−ii)式(7)の化合物
【化18】
(式中、PGは水素化条件下で除去可能な保護基であり、R
4’は、水素、ハロゲン、C
1−5アルキル、C
2−5アルケニル、およびC
3−4シクロアルキル基から選ばれる)と
式(8)の化合物
【化19】
とを遷移金属触媒の存在下で反応させて式(9)の化合物を得ること、
【化20】
および(b)式(9)の化合物を接触水素化に供して、保護基PGを除去し、R
4’がC
2−5アルケニルの場合、R
4’基をC
2−5アルキルに還元し、その後、式(6)の化合物が遊離塩基の形態で調製された場合、場合により遊離塩基を酸付加塩に変換することを含む方法を提供する。
【0283】
また、本発明は、本明細書で定義される式(9)の化合物の調製方法であって、
(a−ii)本明細書で定義される式(7)の化合物と本明細書で定義される式(8)の化合物とを遷移金属触媒の存在下で反応させることを含む方法を提供する。
【0284】
式(7)の化合物と式(8)の化合物との反応は、2+2+2付加環化(デル(C. P. DELL)によるレビュー(ジャーナル・オブ・ケミカル・ソサイエティ(J. Chem. Soc.)、パーキン・トランザクションズ(Perkin Trans.)1、1998年、3873〜3905頁)および同レビューにおける言及を参照)の一例である。反応は、典型的には、トルエンなどの不活性溶媒中で(例えば、室温〜100℃の範囲の温度まで)加熱しながら遷移金属触媒の存在下で行う。好ましい触媒は、ウィルキンソン触媒−クロロトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(RhCl(PPh
3)
3)である。
【0285】
特定の一実施形態において、式(8)の化合物は式(8a)の化合物である。
【化21】
(式中、R
1は本明細書で定義される通りであり、好ましくはメチルまたはエチルである)
式(8a)の化合物は、臭化プロパルギルと式(22)の化合物(スキーム2を参照)とをアセトンなどの極性溶媒中で炭酸カリウムなどの塩基の存在下で反応させることにより調製可能である。
【0286】
一実施形態において、R
1はメチルである。すなわち、上記の方法は、式(1)の化合物の調製に用いられる。
【0287】
別の実施形態において、R
1はエチルである。
【0288】
式(7)および(9)において、R
4’は、水素、ハロゲン、C
1−5アルキル、C
2−5アルケニル、およびC
3−4シクロアルキル基から選ばれる。好ましい一実施形態において、R
4’は、イソプロピルまたはイソプロペニルであり、より具体的にはイソプロペニルである。
【0289】
新規な化学中間体
上記式(3)、(3a)、(5)、(7)、(9)、(14)、(15)、(16)、(20)、(20a)、(21)、および(23)の化学中間体は新規であると考えられ、各々が本発明のさらなる態様を形成する。
【0290】
新規なHsp90阻害剤化合物
別の態様において、本発明は、本明細書で定義されるR
1がエチルである式(2)の新規化合物を提供する。新規化合物は式(10)で表すことが可能である。
【化22】
【0291】
式(10)は、そのいかなる塩、溶媒和物、結晶形態、互変異性体、N−オキシド、および同位体も含む。
【0292】
また、本発明は、とりわけ以下を提供する。
【0293】
Hsp90により仲介される病態もしくは症状の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0294】
Hsp90により仲介される病態もしくは症状の予防または治療用薬剤を製造するための、本明細書で定義される式(10)の化合物の使用。
【0295】
その必要のある被験体に本明細書で定義される式(10)の化合物を投与することを含む、Hsp90により仲介される病態もしくは症状の予防または治療方法。
【0296】
Hsp90により仲介される病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減に用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0297】
Hsp90により仲介される病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減用薬剤を製造するための、本明細書で定義される式(10)の化合物の使用。
【0298】
その必要のある被験体に本明細書で定義される式(10)の化合物を投与することを含む、Hsp90により仲介される病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減方法。
【0299】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療に用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0300】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される式(10)の化合物の使用。
【0301】
哺乳類に、本明細書で定義される式(10)の化合物を異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で投与することを含む、哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療方法。
【0302】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和または低減に用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0303】
哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される式(10)の化合物の使用。
【0304】
哺乳類に、本明細書で定義される式(10)の化合物を異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で投与することを含む、哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減方法。
【0305】
哺乳類に、本明細書で定義される式(10)の化合物をHsp90活性を阻害するのに有効な量で投与することを含む、哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療方法。
【0306】
哺乳類に、本明細書で定義される式(10)の化合物をHsp90活性を阻害するのに有効な量で投与することを含む、哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減方法。
【0307】
Hsp90の阻害剤として用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0308】
Hsp90を本明細書で定義される式(10)のHsp90阻害化合物に接触させることを含む、Hsp90の阻害方法。
【0309】
Hsp90の活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾に用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0310】
本明細書で定義される式(10)の化合物を用いた、Hsp90の活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
【0311】
本明細書に記載される病態の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0312】
本明細書に記載される1以上の使用のための薬剤を製造するための、本明細書で定義される式(10)の化合物の使用。
【0313】
本明細書で定義される式(10)の化合物および薬学的に許容される担体を含む医薬組成物。
【0314】
本明細書で定義される式(10)の化合物および薬学的に許容される担体を経口投与に適切な形態で含む医薬組成物。
【0315】
本明細書で定義される式(10)の化合物および薬学的に許容される担体を静脈内(i.v.)投与などの非経口投与に適切な形態で含む医薬組成物。
【0316】
本明細書で定義される式(10)の化合物および薬学的に許容される担体を注射または注入による静脈内(i.v.)投与に適切な形態で含む医薬組成物。
【0317】
医療に用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0318】
上記で示した、また、本明細書の他所に記載されるいずれかの使用および方法のための、本明細書において記載される化合物。
【0319】
スクリーニングを受けた患者であって、Hsp90に対して活性を有する化合物を用いた治療への感受性を有し得る疾病もしくは症状に罹患している、または罹患するリスクがあると判定された患者の病態または症状の治療あるいは予防に用いるための、本明細書で定義される式(10)の化合物。
【0320】
スクリーニングを受けた患者であって、Hsp90に対して活性を有する化合物を用いた治療への感受性を有し得る疾病もしくは症状に罹患している、または罹患するリスクがあると判定された患者の病態または症状の治療あるいは予防用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される式(10)の化合物の使用。
【0321】
(i)患者をスクリーニングして、患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状が、Hsp90に対して活性を有する化合物を用いた治療への感受性を有し得るものか否かを判定すること、ならびに(ii)患者の疾病または症状がそのような感受性を有することが示された場合、患者に、本明細書で定義される式(10)の化合物を投与することを含む、Hsp90により仲介される病態または症状の診断ならびに治療方法。
【0322】
式(10)の化合物への言及は、例えば、以下に記載するように、そのイオン形態、塩、溶媒和物、互変異性体、同位元素、および保護形態をも含む。
【0323】
式(10)には1個以上の同位元素置換を有する化合物を含み、具体的な元素への言及はその範囲内に上記元素の全同位体を含む。例えば、水素への言及はその範囲内に
1H、
2H(D)および
3H(T)を含む。同様に、炭素と酸素への言及はそれらの範囲内にそれぞれ
12C、
13Cおよび
14Cならびに
16Oおよび
18Oを含む。
【0324】
同位体は放射性であってもよいし非放射性であってもよい。本発明の一実施形態において、化合物は放射性同位元素を含有していない。そのような化合物は治療上の使用に好ましい。しかしながら、他の実施形態では、化合物が1種以上の放射性同位元素を含有してもよい。そのような放射性同位体を含んでいる化合物は診断の場合に役立つ。
【0325】
式(10)には、化合物の多形体、溶媒和物(例えば、水和物)、および化合物の錯体(例えば、シクロデキストリンなどの化合物との包接複合体または包接化合物、または金属との錯体)も含まれる。
【0326】
生物学的活性および治療上の使用
式(10)および(1)の化合物、ならびにその塩(特に、L−乳酸塩)および結晶形態はHsp90の阻害剤であることから、広範な増殖性疾患の治療に有用となる。このような増殖性疾患の例としては、限定されるものではないが、癌腫、例えば、膀胱癌、乳癌、結腸癌(例えば、直腸腺癌および直腸腺腫などの結腸直腸癌)、腎臓癌、表皮癌、肝臓癌、肺癌(例えば、腺癌、小細胞肺癌および非小細胞肺癌)、食道癌、胆嚢癌、卵巣癌、膵臓癌(例えば、外分泌膵臓癌)、胃癌、子宮頚癌、甲状腺癌、前立腺癌、消化管系の癌(例えば、消化管間質性腫瘍)、または皮膚癌(例えば、扁平上皮癌);リンパ球系列の造血系腫瘍(例えば、白血病、急性リンパ性白血病、慢性リンパ性白血病、B細胞リンパ腫(びまん性大B細胞リンパ腫など)、T細胞リンパ腫、ホジキンリンパ腫、非ホジキンリンパ腫、ヘアリーセルリンパ腫またはバーケットリンパ腫);骨髄細胞系列の造血系腫瘍(例えば、急性および慢性骨髄性白血病、イマチニブ感受性および抵抗性の慢性骨髄性白血病、骨髄異形成症候群、ボルテゾミブ感受性および抵抗性の多発性骨髄腫、骨髄増殖性疾患または前骨髄球性白血病);甲状腺瀘胞癌;間葉由来の腫瘍(例えば、線維肉腫または横紋筋肉種);中枢または末梢神経系の腫瘍(例えば、星状細胞腫、神経芽細胞腫、神経膠腫または神経鞘腫);黒色腫;精上皮腫;奇形腫;骨肉腫;色素性乾皮症;角化棘細胞腫;甲状腺濾胞癌;またはカポジ肉腫が挙げられる。間葉由来の腫瘍としては、さらにユーイング肉腫が挙げられる。
【0327】
これらの癌はHsp90阻害に感受性のある癌であり得、このような癌は「診断方法」と題された節に示される方法により判定することができる。
【0328】
癌の1つの群として、ヒト乳癌(例えば、原発性乳癌、リンパ節転移陰性乳癌、浸潤性乳管癌、非類内膜乳癌);およびマントル細胞リンパ腫が挙げられる。さらに、他の癌として、結腸直腸癌および子宮内膜癌がある。
【0329】
癌の別のサブセットとしては、リンパ球系列の造血系腫瘍、例えば、白血病、慢性リンパ性白血病、マントル細胞リンパ腫およびB細胞リンパ腫(びまん性大B細胞リンパ腫など)が挙げられ、さらに、場合によっては慢性骨髄性白血病および多発性骨髄腫が挙げられる。
【0330】
癌の好ましいサブセットは、ErbB2陽性の乳癌、前立腺癌、肺癌、および胃癌;慢性骨髄性白血病;アンドロゲン受容体依存性前立腺癌;Flt3依存性急性骨髄性白血病;Braf変異関連黒色腫;多発性骨髄腫;ベルケイド抵抗性の多発性骨髄腫;および消化管間質性腫瘍(GIST)からなる。
【0331】
これらのうち特定の好ましい癌は、本明細書で定義される多発性骨髄腫およびベルケイド抵抗性の腫瘍タイプである。
【0332】
他の癌の好ましいサブセットは、ホルモン抵抗性の前立腺癌、転移性黒色腫、HER2陽性乳癌、変異EGFR陽性非小細胞肺癌、およびグリベック抵抗性の消化管間質性腫瘍からなる。
【0333】
式(10)および(1)のHsp90阻害剤化合物、ならびにその塩(特に、L−乳酸塩)および結晶形態は、ウイルス感染、寄生虫性疾患、自己免疫疾患(例えば、多発性硬化症および紅斑性狼瘡)、神経変性疾患(例えば、アルツハイマー病)、炎症、I型およびII型糖尿病、アテローム性動脈硬化症、ならびに心疾患などの他の症状の治療にも使用することができる。
【0334】
また、式(10)および(1)のHsp90阻害剤化合物、ならびにその塩(特に、L−乳酸塩)および結晶形態は、移植および免疫抑制にも臨床上の利益を示し得る。
【0335】
また、式(10)および(1)のHsp90阻害剤化合物、ならびにその塩(特に、L−乳酸塩)および結晶形態は、既存治療薬または新規治療薬と併用した場合に上記の疾病に臨床上の利益を示し得る。
【0336】
Hsp90クライアントタンパク質の活性と実験的証拠に基づけば、以下の疾患が、式(10)および(1)のHsp90阻害剤化合物、ならびにその塩(特に、L−乳酸塩)および結晶形態による治療に特に感受性を持つと考えられる。
【0337】
ErbB2陽性の乳癌、前立腺癌、肺癌、および胃癌
ErbB2(HER−2)の過剰発現は乳癌の約30%に見られ、ハーセプチンによるErbB2受容体のダウンレギュレーションにより、細胞がタキソールに対して感受性を持つようになる。ErbB2の過剰発現は予後の悪さと薬剤耐性に関連している(ツガワ(Tsugawa)ら)1993年、『オンコロジー(Oncology)』、1993年;50:418)。
【0338】
肺癌における変異EGFR
L858Rおよびエクソン19の欠失を含む、上皮細胞増殖因子受容体(EGFR)のキナーゼドメインの体細胞変異は、非小細胞肺癌(NSCLC)におけるゲフィチニブおよびエルロチニブ応答性の基礎にある。これらのチロシンキナーゼ阻害剤に対する獲得耐性には、いくつかの場合、第2の変異T790Mにより仲介される。ゲルダナマイシンなどのアンサマイシン系抗生物質は熱ショックタンパク質90(Hsp90)を強力に阻害し、適切なコンフォメーションへの折りたたみにシャペロンを必要とする発癌性キナーゼのユビキチン仲介性の分解を促進する。EGFR変異の細胞株をゲルダナマイシンに曝露すると、リン酸化AktおよびサイクリンD1の著しい枯渇ならびにアポトーシスが誘導された。これらのデータは、EGFRの変異による活性化は、安定性についてHsp90依存性に関連し、Hsp90の阻害がEGFR変異のNSCLC治療のための新たな戦略となり得ることを示唆する。
【0339】
慢性骨髄性白血病
異常なBCR−Ablタンパク質は染色体の転座により作り出され、構成的に活性のあるAblキナーゼドメインが生じる。この転座はCMLの原因であることが示されている。P210BcrAblはHsp90の既知のクライアントタンパク質である。BCR−Abl細胞株K562をHsp90阻害剤で処理するとアポトーシスが誘導された。Bcr−Abl阻害剤グリベック(Gleevec、登録商標)もまたK562細胞においてアポトーシスを誘導するが、グリベック(登録商標)耐性K562細胞はHsp90阻害剤に対する感受性を維持する(ゴレ(Gorre)ら、2002年、『ブラッド(Blood)』100:3041〜3044頁)。
【0340】
アンドロゲン受容体依存性前立腺癌
アンドロゲン受容体キナーゼはHsp90クライアントタンパク質である。通常、外科手術で癌を治癒できない場合にホルモン補充療法が採用される。受容体の変異により癌はこのホルモン操作への抵抗性を有するようになる。受容体のHsp90調節は変異後であってもやはり有効である。
【0341】
同じことがエストロゲン依存性乳癌についても言える。
【0342】
Flt3依存性急性骨髄性白血病
チロシンキナーゼ受容体Flt3の内部重複により、その構成的活性化および発癌性がもたらされる。これらの内部重複は報告されている全AML癌の20%で見られ、予後の悪さの指標となる。CMLにおけるのABLキナーゼの活性化とほぼ同様に、これは悪性腫瘍を生じる単一の遺伝子障害のもう1つの例に当たる。Flt3はHsp90クライアントタンパク質であることから、Hsp90阻害剤はこれらの患者に臨床上有益であるものと推測される(バリ(Bali)ら、2004年、『キャンサー・リサーチ(Cancer Res.)』64(10):3645〜52頁)。
【0343】
Braf変異関連黒色腫
Brafはセリン/スレオニンキナーゼをコードし、全ての黒色腫の70%で変異している。これらの80%は、BRAFに増加したキナーゼ活性を与える単一のV599E点変異を示す。この変異はNIH3T3細胞においてもまた変化する(ビグネル(Bignell)ら、2002年、『ネイチャー(Nature)』417(6892):949〜54頁)。
【0344】
多発性骨髄腫
Hsp90阻害剤17−AAGは、ボルテゾミブ抵抗性の多発性骨髄腫細胞株の増殖を強力に阻害する。IGF−1RおよびIL−6Rの細胞表面レベルは、17−aagで処理されたMM−1細胞でも減少する(ミチエーズ(Mitsiades)ら、『ブラッド(Blood)』、107:1092〜1100頁、2006年)。また、IL−6による多発性骨髄腫細胞のオートクライン刺激ならびに骨髄間質細胞のパラクライン刺激もHsp90クライアントIKKのダウンレギュレーションを介して減少する。
【0345】
ベルケイド抵抗性の多発性骨髄腫
式(10)および(1)のHsp90阻害剤化合物、ならびにその塩(特に、L−乳酸塩)および結晶形態は、セカンドライン治療中のマントル細胞リンパ腫、緩徐進行性非ホジキンリンパ腫、第IIIB期およびIV期細気管支肺胞上皮癌、進行性非小細胞肺癌、乳癌、前立腺癌および卵巣癌ならびに非ホジキンリンパ腫患者の治療を含む、ベルケイド抵抗性の腫瘍タイプの治療に使用することができる。
【0346】
消化管間質性腫瘍(GIST)
GIST疾患は、特に、増殖因子(例えば、c−kit)の活性化または過剰発現に依存する疾患である。
【0347】
Hsp90阻害剤が臨床上有益であり得る他の症状または疾患としては、限定されるものではないが、次のものがある。
【0348】
神経変性疾患
ハンチントン病(HD)は、有効な治療の無い進行性の神経変性疾患である。Hsp90のGA阻害およびその結果としてのHspのアップレギュレーションは、神経細胞におけるハンチントンタンパク質の凝集の阻害に有効である(シトラー(Sittler)ら、2001年、『ヒューマン・モレキュラー・ジェネティックス(Human Molecular Genetics)』、10巻、12号、1307〜1315頁)。Hspのアップレギュレーションはまた、他のタンパク質の異常な折りたたみに起因する疾患、例えば、CJDおよびアルツハイマー病にも臨床上有益である可能性がある。
【0349】
関節リウマチ、喘息、慢性閉塞性肺疾患、および炎症性腸疾患を含む炎症性疾患
GAはHsp90からHSF−1を解離してHSF−1の活性化と核移行をもたらすことが示されている。HSF−1は次に転写因子として働き、Hsp90およびHsp70を誘導する。浮腫誘導マウスモデルにおいて、Hsp70の誘導は炎症の緩和に関連づけられている(イアナロ(Ianaro)ら、2004年、『ヒューマン・モレキュラー・ジェネティックス(Human Molecular Genetics)』、2001年、10巻、12号、1307〜1315頁)。さらに、GA処理は、TNF−αまたはPMAによるIκBキナーゼ(IKK)の活性化を阻害した。IκBaはNf−κBおよびAp−1のレギュレーターである(ボロエマー(Broemer)ら、2004年)。Ap−1およびNf−κBは炎症誘発性サイトカインの産生をもたらす主要な転写因子である(エオ(Yeo)ら、2004年、『バイオケミカル・アンド・バイオフィジカル・リサーチ・コミュニケーションズ(Biochem Biophys Res Commun.)』30;320(3):816〜24頁)。炎症誘発性サイトカイン転写産物の安定性もまたp38MapKの阻害を介して調節される(ワックス(Wax)ら、2003年、『リューマチズム(Rheumatism)』、48巻、2号、541〜550頁)。
【0350】
アテローム性動脈硬化症
ヒトアテローム性動脈硬化症の発症および進行において、炎症性細胞および免疫細胞が中心的役割を担うことが知られており(リガノ(Rigano)ら、『ニューヨークアカデミー・オブ・サイエンス年報(Ann. N. Y. Acad. Sci.)』、2007年、1107:1〜10頁)、Hsp90が頚動脈アテローム性動脈硬化症における自己抗原として作用することが提案されている。リガノらは、頚動脈アテローム硬化性プラークに罹患している60%の被験者の血清中に、Hsp90に特異的な抗体および細胞が存在するが、健康な被験者の血清中にはHsp90に特異的な抗体およびT細胞は存在しないことを見出した。したがって、式(10)および(1)のHsp90阻害剤化合物、ならびにその塩(特に、L−乳酸塩)および結晶形態は、アテローム性動脈硬化症の治療または予防に有用である。
【0351】
腫瘍血管形成、乾癬、関節リウマチ、および糖尿病性網膜症を含むが、これらに限定されない血管形成関連疾患
内皮細胞にける、血管形成の誘導は、Hsp90クライアントタンパク質であるeNOSおよびAktにより調節される(サン(Sun)およびリャオ(Liao)、2004年、『アーティリオスクローシス・スランボーシス・アンド・ヴァスキュラー・バイオロジー(Arterioscler Thromb Vasc Biol.)』24(12):2238〜44頁)。また、マウスモデルでは、低酸素誘導性因子(HIF)−1αの抑制は、胃腫瘍の増殖、血管形成および血管成熟を損ない得る(ストールツィング(Stoeltzing)ら、2004年、『ジャーナル・オブ・ナショナル・キャンサー・インスティテュート(J Natl Cancer Inst)』;96:946〜956頁)。
【0352】
I型およびII型糖尿病
Hsp90の阻害は、Aktシグナル伝達ならびにe−nosに著しい作用を示す。これらは、I型糖尿病の高グルコースにより誘導される内皮細胞アポトーシス(リン(Lin)ら、2005年、『ジャーナル・オブ・セルラー・バイオケミストリー(J Cell Biochem.)』1;94(1):194〜201頁)およびII型糖尿病の高血圧症の発症(コバヤシ(Kobayashi)ら、2004年、『ハイパーテンション(Hypertension)』44(6):956〜62頁)における2つの重要なレギュレーターである。
【0353】
免疫抑制および移植
Hsp90阻害は、T細胞の活性化に必要なT細胞特異的チロシンキナーゼであるLckをダウンレギュレーションすることが示されている(ヨルギン(Yorgin)ら、2000年、『ジャーナル・オブ・イムノロジー(J Immunol.)』15;164(6):2915〜23頁)。
【0354】
心疾患
心虚血は、西洋諸国において最も多い死因である。Hsp、特に、Hsp70(ラディシコール処理により誘導)はラット心筋細胞において心臓保護活性を示す(グリフィン(Griffin)ら、2004年)。Hsp90が阻害されると、シャペロン複合体からHSF−1が遊離し、次に、Hsp遺伝子の活性化が起こる。Hsp90の阻害はまた、HIF−1のダウンレギュレーションをもたらし、これが虚血性心疾患および卒中の病因と関連づけられている。
【0355】
感染症
C型肝炎ウイルスNS2/3プロテアーゼはHsp90クライアントタンパク質であり、Hsp90活性はウイルスのプロセシングおよび複製に必要である(ウィトニー(Whitney)ら、2001年、『米国科学アカデミー紀要(Proc Natl Acad Sci USA)』、20;98(24):13931〜5頁)。
【0356】
寄生虫性疾患
GAに関しては、熱帯熱マラリア原虫(Plasmodium falciparum)のHsp90オーソログに対する抗マラリア活性が報告されている。マラリア原虫の増殖は、クロロキンにより見られるものと同じようなIC
50でGAにより阻害された。GAはまた、熱帯熱マラリア原虫のクロロキン耐性株に対しても有効である(カマール(Kamar)ら、2003年、『マラリア・ジャーナル(Malar J.)』15;2(1):30)。
【0357】
薬剤耐性発達への阻害、防止または後退
上記のように、一般的なストレスタンパク質機能(特に、Hsp90)の修飾剤または阻害剤は、以下の能力を有する化学療法剤のクラスを表す。(i)抗癌剤および/または治療に対して悪性細胞を感作させる、(ii)抗癌剤および/または治療に対する耐性の発生率を緩和または低減する、(iii)抗癌剤および/または治療に対する耐性を後退させる、(iv)抗癌剤および/または治療の活性を増強させる、ならびに(v)抗癌剤および/または治療に対する耐性の発現を遅延または防止する。
【0359】
Hsp90により仲介される病態または症状の予防または治療(あるいはその罹患率の緩和または低減)方法であって、その必要のある被験体に本発明の化合物を投与することを含み、上記Hsp90により仲介される病態または症状が抗癌薬剤に対する耐性の発達である方法。
【0360】
(i)抗癌剤に対して悪性細胞を感作させ、(ii)抗癌剤に対する耐性の発生率を緩和または低減し、(iii)抗癌剤に対する耐性を後退させ、(iv)抗癌剤の活性を増強させ、(v)抗癌剤に対する耐性の発現を遅延または防止する方法であって、その必要のある被験体に本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0361】
癌の治療方法であって、その必要のある被験体に本発明の化合物を投与することを含み、薬剤耐性が現れないことを特徴とする方法。
【0362】
治療薬(例えば、抗癌剤)を用いた治療を受けている被験体におけるHsp90により仲介される病態または症状の予防または治療(あるいはその罹患率の緩和または低減)方法であって、被験体に本発明の化合物を投与することを含み、上記Hsp90により仲介される病態または症状が当該治療薬に対する耐性の発達である方法。
【0363】
(i)抗癌剤に対して悪性細胞を感作させ、(ii)抗癌剤に対する耐性の発生率を緩和または低減し、(iii)抗癌剤に対する耐性を後退させ、(iv)抗癌剤の活性を増強させ、(v)抗癌剤に対する耐性の発現を遅延または防止する方法であって、当該抗癌剤を用いた治療を受けている被験体に本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0364】
抗癌剤を用いた治療を受けている被験体における癌の治療方法であって、その必要のある被験体に本発明の化合物を投与することを含み、薬剤耐性が現れないことを特徴とする方法。
【0365】
生物学的活性
式(10)および(1)の化合物、ならびにその塩(特に、L−乳酸塩)および結晶形態、例えばHsp90の阻害剤、の生物学的活性は、以下の実施例で示されるアッセイ、例えば、実施例6に記載される等温滴定熱量測定法(ITC)および実施例7に記載される抗増殖活性アッセイを用いて測定することができる。ITCアッセイにおいて、ある化合物が示す活性レベルはK
d値として定義することができ、本発明の化合物は、1マイクロモル未満のK
d値を有する。抗増殖活性アッセイでは、アッセイにおいて、ある化合物が示す活性レベルはIC
50値として定義することができ、本発明の化合物は0.1マイクロモル未満のIC
50値を有する。
【0366】
hERG
1990年代末頃、米国FDAによって認可された多くの医薬品が、心機能不全による死亡に関係していることが見出されたため、米国市場からの撤退を余儀なくされた。後に、これらの医薬品の副作用は、心臓細胞におけるhERGチャネルのブロッキングによる不整脈の発生であることが分かった。hERGチャネルは、カリウムイオンチャネルファミリーの1つであり、その最初のメンバーは、1980年代末頃に、ショウジョウバエの一種であるキイロショウジョウバエ(Drosophila melanogaster)の変異体で見出された(ジャン(Jan,L.Y.)およびジャン(Jan,Y.N.)(1990年)「イオンチャネルのスーパーファミリー(A Superfamily of Ion Channels)」、『ネイチャー(Nature)』、345(6277):672を参照)。hERGカリウムイオンチャネルの生物物理特性は、サンギネッチ(Sanguinetti,M.C.)、ジアング(Jiang、C.)、クラン(Curran,M.E.)、およびキーティング(Keating,M.T.)(1995年)「遺伝性心不整脈と後天性心不整脈との機構的関連:HERGはIkrカリウムチャネルをコードする(A Mechanistic Link Between an Inherited and an Acquired Cardiac Arrhythmia:HERG encodes the Ikr potassium channel)」、『セル(Cell)』、81:299〜307頁、ならびにトルード(Trudeau,M.C.)、ウォームク(Warmke,J.W.)、ゲネツキー(Ganetzky,B.)、およびロバートソン(Robertson,G.A.)(1995年)「HERG、電位依存性カリウムチャネルファミリーにおけるヒトの内向き整流(HERG,a Human Inward Rectifier in the Voltage-Gated Potassium Channel Family)」、『サイエンス(Science)』、269:92〜95頁に記載されている。
【0367】
hERGをブロックする活性の除去は、依然としてあらゆる新規な医薬品の開発における重要な懸案事項である。
【0368】
式(1)の化合物は、hERG活性が低く、Hsp90阻害活性とhERG活性とを確実に分離する。特に、式(1)の化合物は、細胞増殖アッセイにおけるこの化合物のIC
50値の30倍よりも大きい、hERGに対する平均IC
50値を有する。式(1)の化合物は、15μMよりも大きい、hERGに対する平均IC
50値を有する。
【0369】
本発明の化合物は有利なADME特性を有し、特に、腫瘍分布が良好である。
【0370】
疼痛、神経障害、卒中、および関連する症状の治療
本発明の化合物はHsp90を阻害または修飾する活性を有するため、cdk5により仲介される特定の疾病および症状を治療、緩和、または防止するのに有用に用いられる。
【0371】
したがって、第1の態様において、本発明は、疼痛の治療用薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用を提供する。
【0372】
別の態様において、本発明は、卒中の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用を提供する。
【0373】
別の態様において、本発明は、神経保護剤として用いる薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用を提供する。
【0374】
さらなる態様では、本発明は以下のものを提供する。
【0375】
疼痛の治療に用いる、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0376】
疼痛を患う患者(例えば、ヒトなどの哺乳類)の疼痛の低減または除去に用いる、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0377】
疼痛を患う患者(例えば、ヒトなどの哺乳類)の疼痛の低減または除去に用いる薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0378】
痛覚、体性痛、内臓痛、急性疼痛、慢性疼痛、痛覚過敏、異痛、術後疼痛、知覚過敏による疼痛、頭痛、炎症性疼痛(リューマチ痛、歯痛、月経痛、および感染痛)、神経学的疼痛、筋骨格系疼痛、癌性疼痛、および血管痛のうちのいずれか1つ以上の治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0379】
痛覚、体性痛、内臓痛、急性疼痛、慢性疼痛、痛覚過敏、異痛、術後疼痛、知覚過敏による疼痛、頭痛、炎症性疼痛(リューマチ痛、歯痛、月経痛、および感染痛)、神経学的疼痛、筋骨格系疼痛、癌性疼痛、および血管痛のうちのいずれか1つ以上の治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0380】
哺乳類(例えば、ヒト)などの患者の疼痛の治療方法であって、本明細書で定義される本発明の化合物を治療上有効な量で患者に投与することを含む方法。
【0381】
疼痛を患う患者(例えば、ヒトなどの哺乳類)の疼痛の低減または除去方法であって、本明細書で定義される本発明の化合物を疼痛を低減または除去するのに有効な量で患者に投与することを含む方法。
【0382】
痛覚、体性痛、内臓痛、急性疼痛、慢性疼痛、痛覚過敏、異痛、術後疼痛、知覚過敏による疼痛、頭痛、炎症性疼痛(リューマチ痛、歯痛、月経痛、および感染痛)、神経学的疼痛、筋骨格系疼痛、癌性疼痛、および血管痛のうちのいずれか1つ以上の治療方法であって、本明細書で定義される本発明の化合物を治療上有効な量で患者に投与することを含む方法。
【0383】
卒中の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0384】
哺乳類(例えば、ヒト)などの患者における卒中の予防または治療方法であって、本明細書で定義される本発明の化合物を治療上有効な量で患者に投与することを含む方法。
【0385】
神経保護剤として用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0386】
卒中を患う患者における神経損傷の防止または低減方法であって、本明細書で定義される本発明の化合物を神経保護に有効な量で患者に投与することを含む方法。
【0387】
卒中の危険性がある患者、例えば、血管炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈高血圧、糖尿病、高脂血症、および心房細動から選ばれる1つ以上の危険因子を有する患者における卒中の危険性の防止または低減用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0388】
卒中の危険性がある患者、例えば、血管炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈高血圧、糖尿病、高脂血症、および心房細動から選ばれる1つ以上の危険因子を有する患者における卒中の危険性を防止または低減するための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0389】
卒中の危険性がある患者、例えば、血管炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈高血圧、糖尿病、高脂血症、および心房細動から選ばれる1つ以上の危険因子を有する患者における卒中の危険性を防止または低減するための方法であって、本明細書で定義される本発明の化合物を治療上有効な量で患者に投与することを含む方法。
【0390】
サイクリン依存性キナーゼ5により仲介される病態または症状の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0391】
サイクリン依存性キナーゼ5により仲介される病態または症状の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0392】
サイクリン依存性キナーゼ5により仲介される病態または症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0393】
サイクリン依存性キナーゼ5により仲介される病態または症状の罹患率の緩和または低減方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0394】
cdk5またはp35により仲介される病態または症状の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0395】
cdk5またはp35により仲介される病態または症状の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用であって、当該病態または症状がアルツハイマー病、ハンチントン病、またはクロイツフェルト−ヤコブ病以外である使用。
【0396】
cdk5またはp35により仲介される病態または症状の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用であって、当該病態または症状が神経変性疾患以外である使用。
【0397】
上昇したレベルのcdk5またはp35を特徴とする病態または症状の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0398】
cdk5またはp35により仲介される病態または症状の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物であって、当該病態または症状がアルツハイマー病、ハンチントン病、またはクロイツフェルト−ヤコブ病以外である化合物。
【0399】
cdk5またはp35により仲介される病態または症状の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物であって、当該病態または症状が神経変性疾患以外である化合物。
【0400】
cdk5またはp35のレベルの上昇を特徴とする病態または症状の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0401】
cdk5またはp35により仲介される病態または症状の予防または治療方法であって、当該病態または症状がアルツハイマー病、ハンチントン病、またはクロイツフェルト−ヤコブ病以外であり、その必要のある患者に本明細書で定義される本発明の化合物を治療上有効な量で投与することを含む方法。
【0402】
cdk5またはp35により仲介される病態または症状の予防または治療方法であって、当該病態または症状が神経変性疾患以外であり、その必要のある患者に本明細書で定義される本発明の化合物を治療上有効な量で投与することを含む方法。
【0403】
cdk5またはp35のレベルの上昇を特徴とする病態または症状の予防または治療方法であって、その必要のある患者に本明細書で定義される本発明の化合物を治療上有効な量で投与することを含む方法。
【0404】
神経障害、例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病、またはクロイツフェルト−ヤコブ病以外の末梢神経障害の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0405】
神経障害、例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病、またはクロイツフェルト−ヤコブ病以外の末梢神経障害の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0406】
神経障害、例えば、アルツハイマー病、ハンチントン病、またはクロイツフェルト−ヤコブ病以外の末梢神経障害の予防または治療方法であって、その必要のある患者に本明細書で定義される本発明の化合物を治療上有効な量で投与することを含む方法。
【0407】
抗真菌活性、抗原虫活性、抗ウイルス活性、および抗寄生虫活性
本発明の化合物、ならびにそれらの酸付加塩および結晶形態は、抗真菌活性、抗原虫活性、および抗寄生虫活性を有する。
【0408】
特に、本発明の化合物は、病原菌、原虫、および寄生虫による感染の治療に有用である。通常、病原体による感染はHsp90に対する抗体反応を伴う。
【0409】
一実施形態において、本発明は、抗真菌剤として用いるための、本明細書で定義される式(I)の化合物およびそのサブグループを提供する。
【0410】
真菌としては、例えば、以下のようなヒトおよび他の動物において病因となる真菌が挙げられる:
カンジダ(Candida)属の種、例えばカンジダ・アルビカンス(Candida albicans)およびカンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis);
クリプトコッカス(Cryptococcus)属の種、例えばクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)およびクリプトコッカス・メナンジャイタス(Cryptococcal meningitis);
アスペルギルス(Aspergillus)属の種、例えばアスペルギルス・フミガタス(Aspergillus fumigatus)、アスペルギルス・フラーブス(Aspergillus flavus)およびアスペルギルス・ニガー(Aspergillus niger);
ミクロスポルム(Microsporum)属の種、例えばミクロスポルム・カニス(Microsporum canis)およびミクロスポルム・ジプセウム(Microsporum gypseum);
エピデルモフィトン(Epidermophyton)属の種;
トリコフィトン(Trichophyton)属の種、例えばトリコフィトン・エクイヌム(Trichophyton equinum)、トリコフィトン・メンタグロフィテス(Trichophyton mentagrophytes)およびトリコフィトン・ルブルム(Trichophyton rubrum);
エピデルモフィトン・フロッコースム(Epidermophyton floccosum);
エキソフィアラ・ベルネッキ(Exophiala werneckii);
フザリウム(Fusarium)属の種、例えばフザリウム・ソラニ(Fusarium solani);
スポロトリクス・シェンキィ(Sporothrix schenckii);
ペニシリウム(Penicillium)属の種、例えばペニシリウム・ルブルム(Penicillium rubrum);
アルテルナリア(Alternaria)属の種;
セラトシィスティス・ピリフェラ(Ceratocystis pilifera);
クリソスポリウム・プルイノスム(Chrysosporium pruinosum);
ヘルミンソスポリアム(Helminthosporium)属の種;
ペシロミセス・バリオッティ(Paecilomyces variotii);
酵母、例えばサッカロミセス・セレビシエ(Saccharomyces cerevisiae)、およびピチロスポルム(Pityrosporum)属の種、例えばピチロスポルム・オルビクラーレ(Pityrosporum orbiculare)およびピチロスポルム・オバーレ(Pityrosporum ovale);
ヒストプラズマ(Histoplasma)属の種、例えばヒストプラズマ・カプスラツム(Histoplasma capsulatum);
コクシジオイデス(Coccidioides)属の種;
パラコクシジオイデス(Paracoccidioides)属の種;ならびに
ブラストミセス(Blastomyces)属の種。
【0411】
他の実施形態において、本発明は、抗原虫剤として用いるための、本明細書で定義される式(I)の化合物およびそのサブグループを提供する。
【0412】
原虫としては、例えば、以下が挙げられる:
トリパノソーマ・クルージ(Trypanosoma cruzi);
リーシュマニア(Leishmania)属の種;例えば、ドノバンリーシュマニア(L.donovani)コンプレックス(ドノバンリーシュマニア、幼児リーシュマニア(L.infantum)およびシャガシリーシュマニア(L.chagasi));メキシコリーシュマニア(L.mexicana)コンプレックス(3大種−メキシコリーシュマニア、アマゾンリーシュマニア(L.amazonensis)およびベネズエラリーシュマニア(L.venezuelensis));熱帯リーシュマニア(L.tropica);大形リーシュマニア(L.major);エチオピアリーシュマニア(L.aethiopica);およびビアーニア(Viannia)亜属−4大種(ブラジルリーシュマニア(L.(V.)braziliensis)、ギアナリーシュマニア(L.(V.)guyanensis)、パナマリーシュマニア(L.(V.)panamensis)およびペルーリーシュマニア(L.(V.)peruviana));
トキソプラズマ・ゴンヂ(Toxoplasma gondii);ならびに
膣トリコモナス(Trichomonas vaginalis)。
【0413】
さらなる実施形態において、本発明は、抗寄生虫剤として用いるための、本明細書で定義される式(I)の化合物およびそのサブグループを提供する。
【0414】
寄生虫としては、例えば、以下の寄生虫が挙げられる:
寄生回虫、例えば、アスカリス・ルンブリコイデス(Ascaris lumbricoides);および
寄生扁形虫、例えば、マンソン住血吸虫(Schistosoma mansoni)などの寄生吸虫。
【0415】
また、本発明は、とりわけ以下を提供する。
【0416】
(熱帯熱マラリア原虫による病態または症状以外の)真菌性、原虫性、または寄生虫性の病態または症状、例えば、Hsp90に対する抗体反応を特徴とする病態または症状の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0417】
(熱帯熱マラリア原虫による病態または症状以外の)真菌性、原虫性、または寄生虫性の病態または症状、例えば、Hsp90に対する抗体反応を特徴とする病態または症状の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0418】
(熱帯熱マラリア原虫による病態または症状以外の)真菌性、原虫性、または寄生虫性の病態または症状、例えば、Hsp90に対する抗体反応を特徴とする病態または症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0419】
真菌性の病態または症状、例えば、Hsp90に対する抗体反応を特徴とする病態または症状の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0420】
真菌性の病態または症状、例えば、Hsp90に対する抗体反応を特徴とする病態または症状の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0421】
真菌性の病態または症状、例えば、Hsp90に対する抗体反応を特徴とする病態または症状の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0422】
動物(例えば、ヒトなどの哺乳類)の病原菌による感染の防止、阻止、または後退に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0423】
動物(例えば、ヒトなどの哺乳類)の病原菌による感染の防止、阻止、または後退のための薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0424】
動物(例えば、ヒトなどの哺乳類)の病原菌による感染の防止、阻止、または後退方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0425】
上記で示した、また、本明細書の他所に記載されるいずれかの使用および方法のための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0426】
本明細書で定義される病態または症状のいずれかの予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0427】
本明細書で定義される本発明の化合物と抗真菌剤(例えば、アゾール抗真菌剤)である補助化合物との組合せ。
【0428】
本明細書で定義される本発明の化合物と抗真菌剤(例えば、アゾール抗真菌剤)である補助化合物とを含む医薬組成物。
【0429】
併用投与する抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤(好ましくは抗真菌剤)に対する耐性の発達の防止、低減、または後退に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0430】
抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性の発達を防止、低減、または後退させるために、抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤(好ましくは抗真菌剤)との併用投与用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0431】
患者(例えば、ヒト患者)における抗真菌剤に対する耐性の発達の防止または低減方法であって、抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤(好ましくは抗真菌剤)と、本明細書で定義される本発明の化合物との組合せを患者に投与することを含む方法。
【0432】
Hsp90により仲介される病態または症状の予防または治療(あるいはその罹患率の緩和または低減)方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物と、抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤との組合せを投与することを含み、上記Hsp90により仲介される病態または症状が抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性の発達である方法。
【0433】
(i)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対して真菌性、原虫性、または寄生虫性の細胞を感作させ、(ii)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性の発生率を緩和または低減し、(iii)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性を後退させ、(iv)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤の活性を増強させ、(v)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性の発現を遅延または防止する方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物と、上記抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤との組合せを投与することを含む方法。
【0434】
真菌性、原虫性、または寄生虫性の疾病または症状の治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物と、抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤との組合せを投与することを含み、薬剤耐性が現れないことを特徴とする方法。
【0435】
抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤を用いた治療を受けている被験体における、Hsp90により仲介される病態または症状の予防または治療(あるいはその罹患率の緩和または低減)方法であって、上記被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含み、上記Hsp90により仲介される病態または症状が上記抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性の発達である方法。
【0436】
(i)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対して真菌性、原虫性、または寄生虫性の細胞を感作させ、(ii)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性の発生率を緩和または低減し、(iii)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性を後退させ、(iv)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤の活性を増強させ、(v)抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤に対する耐性の発現を遅延または防止する方法であって、上記補助化合物を用いた治療を受けている被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0437】
抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤を用いた治療を受けている被験体における、真菌性、原虫性、または寄生虫性の疾病の治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含み、(例えば、上記抗真菌剤、抗原虫剤、または抗寄生虫剤への)薬剤耐性が現れないことを特徴とする方法。
【0438】
本出願の導入部に記載したように、Hsp90阻害活性を有する化合物は、強力な抗真菌活性を示し、抗真菌性物質に対する耐性、特に抗真菌性物質に対するHsp90依存性耐性の発達を防止することが分かっている。さらに、Hsp90活性の阻害により、一般的な抗真菌剤、例えば、アゾールに対する耐性の発達が低減可能となることが分かっている。したがって、本発明の化合物は、真菌性の疾病および症状の範囲の予防または治療に有用であり、アゾールなどの他の抗真菌剤と併用投与した場合に、抗真菌剤の活性を増強させるのに有用であり得る。
【0439】
本発明の化合物の抗真菌活性は、最小真菌発育(阻止)濃度(m.i.c.)を求めることにより評価され得る。通常、試験は、適切な栄養培地および各々異なる濃度の試験化合物を含む一連のプレートまたはチューブを調製し、培地に真菌種を接種することにより行われる。インキュベーション期間後、プレートを目視して、真菌増殖の有無を確認する。m.i.c.とは、真菌増殖を防止するために必要な最小濃度を意味する。
【0440】
化合物は、動物医療(例えば、ヒトなどの哺乳類の治療)において用いてもよい。
【0441】
本明細書で定義される本発明の化合物が用いられ得る、動物における真菌感染は、以下を含む:
表在性真菌症−すなわち、皮膚および毛髪の最外層に限定される真菌感染;
皮膚真菌症−すなわち、表皮のより深い箇所ではあるが、典型的には皮膚、毛髪、および爪のケラチン化層に限定される真菌感染;
皮下真菌症−すなわち、真皮、皮下組織、筋肉、および筋膜を含む真菌感染;
一次病原体による全身性真菌症−(典型的には、肺において最初に発生し、他の器官系に広まる);および
日和見病原体による全身性真菌症−(通常なら感染しない、免疫不全患者の感染)。
【0442】
本明細書で定義される本発明の化合物が用いられ得る、真菌性の病態の具体例は、以下を含む。
皮膚糸状菌感染、例えば、癜風(皮膚の表在性真菌感染)、足部白癬(水虫)、頭部白癬(頭部の表在性真菌感染)、白癬性毛瘡(髭部位の真菌感染)、体部白癬(滑らかな皮膚部位の真菌感染)
粘膜カンジダ症、例えば口腔カンジダ症、食道炎、および膣カンジダ症
侵襲性または深部器官のカンジダ症(例えば、真菌血症、心内膜炎、および眼内炎)
クリプトコッカス感染、例えばクリプトコッカス・メナンジャイタス感染
ヒストプラズマ症
ブラストミセス症、肺および場合により皮膚の真菌感染
免疫系が弱まっている、あるいは抗癌剤または抗AID剤を用いた治療を受けている患者における侵襲性真菌感染、例えば侵襲性カンジダ症および侵襲性アスペルギルス症
アスペルギルス症、例えばアレルギー性気管支肺アスペルギルス症
アスペルギローマ
間擦疹感染(皮膚と皮膚の間、例えば、足趾または手指の間、腋下部位、あるいは鼠蹊部位に生じる真菌感染)
マズラ菌症(マズラ足としても知られる、足組織の真菌の侵襲)
コクシジオイデス症
ムーコル症
ブラストミセス症
ゲオトリクム症
クロモブラストミコーシス
コニジオスポローシス
ヒストプラズマ症
リノスポリジウム症
ノカルジア症
パラアクチノミセス症
ペニシリウム症
モノリアシス
スポロトリクム症
特に注目されている真菌感染は、カンジダ症およびアスペルギルス症である。
【0443】
また、本発明の化合物は、抗原虫活性および抗寄生虫活性を有する。本発明の化合物の抗原虫活性は、例えば最小発育阻止濃度(m.i.c.)または50%阻害濃度(IC
50)などを求めるという従来方法により評価し得る。
【0444】
本発明の化合物が有用であると証明し得る原虫性および寄生虫性の疾病または症状は、例えば、以下を含む。
シャーガス病((トリパノソーマ症)−寄生虫トリパノソーマ・クルージにより引き起こされる感染
回虫症−寄生回虫アスカリス・ルンブリコイデスにより引き起こされるヒトの疾病
リーシュマニア症−リーシュマニア属の寄生虫により引き起こされる疾病
トキソプラズマ症−原虫トキソプラズマ・ゴンヂにより引き起こされる寄生虫性の疾病
住血吸虫症(ビルハルツ住血吸虫症)−寄生虫マンソン住血吸虫により引き起こされる疾病
トリコモナス症−寄生原虫膣トリコモナスにより引き起こされる性感染疾病
【0445】
抗ウイルス活性
本出願の導入部に記載したように、ウイルスRNA/DNAを有する宿主細胞の感染により、細胞タンパク質合成を、ウイルス核酸によりコードされる重要なウイルスタンパク質へと実質的に向けなおし、これにより、熱ショックタンパク質のアップレギュレーションがしばしば起こる。Hsp誘導の機能の1つは、ウイルス複製のための準備において生成される高レベルの「外来」タンパク質の安定化および折りたたみを補助することであり得ると考えられており、Hsp90阻害剤がウイルス複製を遮断可能であることが示されている(ナカガワ(Nagkagawa)ら)。したがって、本発明の化合物は、例えば、ウイルス複製の遮断または阻害によってウイルス感染に対して対抗するのに有用である。
【0446】
したがって、別の態様において、本発明は、ウイルス感染(またはウイルス疾患)の予防または治療に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物を提供する。
【0447】
さらなる態様では、本発明は以下を提供する。
【0448】
ウイルス感染(またはウイルス疾患)の予防または治療用の薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0449】
ウイルス感染(またはウイルス疾患)の予防または治療方法であって、その必要のある被験体に本明細書で定義される本発明の化合物を投与することを含む方法。
【0450】
宿主生物(例えば、哺乳類などの動物(例えば、ヒト))におけるウイルス複製の遮断または阻害に用いるための、本明細書で定義される本発明の化合物。
【0451】
宿主生物(例えば、哺乳類などの動物(例えば、ヒト))におけるウイルス複製の遮断または阻害に用いる薬剤を製造するための、本明細書で定義される本発明の化合物の使用。
【0452】
宿主生物(例えば、哺乳類などの動物(例えば、ヒト))におけるウイルス複製の遮断または阻害方法であって、本明細書で定義される本発明の化合物を宿主生物に投与することを含む方法。
【0453】
本発明の化合物を用いて治療し得るウイルス感染は、例えば、以下のウイルスのうちいずれか1つ以上による感染が挙げられる:
ピコルナウイルス、例えば、ライノウイルス(一般的な風邪ウイルス)、コクサッキーウイルス(例えば、コクサッキーBウイルス);および口蹄疫ウイルス;
肝炎ウイルス、例えば、A型肝炎ウイルス(HAV)、B型肝炎(HBV)、C型肝炎ウイルス(HCV)、D型肝炎ウイルス(HDV)、およびE型肝炎ウイルス(HEV);
コロナウイルス(例えば、一般的な風邪ウイルスおよび重症急性呼吸器症候群(SARS)ウイルス);
アデノウイルス、例えば、ヒトアデノウイルス(呼吸器および結膜感染の原因);
アストロウイルス(インフルエンザ様症状の原因);
フラビウイルス、例えば、黄熱病ウイルス;
オルソミクソウイルス、例えば、インフルエンザウイルス(例えば、インフルエンザA型、B型、およびC型ウイルス);
パラインフルエンザウイルス;
呼吸器多核体ウイルス;
エンテロウイルス、例えば、ポリオウイルス(灰白脊髄炎ウイルス);
パラミクソウイルス、例えば、麻疹(はしか)ウイルス、流行性耳下腺炎ウイルス、呼吸器多核体ウイルス(RSV)、およびイヌジステンパーウイルス(CDV);
トガウイルス、例えば、風疹(ドイツ麻疹)ウイルスおよびシンドビスウイルス;
以下のようなヘルペスウイルス:
単純ヘルペスウイルス(HSV)、例えば、熱性疱疹(口唇疱疹)、歯肉口内炎、疱疹性角膜炎、疱疹性湿疹;およびHSV脳炎を引き起こすHSV−1、ならびに生殖器病変、新生児感染、HSV髄膜炎、およびHSV直腸炎を引き起こすHSV−2;
水痘、先天性水痘症候群、および帯状疱疹を引き起こす水痘帯状疱疹ウイルス(VZV);
伝染性単核細胞増加症、バーキットリンパ腫、および鼻咽頭癌を引き起こすエプスタイン−バーウイルス(EBV);
サイトメガロウイルス(CMV)、例えば、ヒトサイトメガロウイルス(HCMV);
突発性発疹または小児薔薇疹を引き起こすヒトヘルペスウイルス6(HHV−6);
多くのAIDS患者の唾液中に見られ、カポジ肉腫関連ヒトヘルペスウイルス8(HHV−8)またはカポジ肉腫関連ヘルペスウイルス(KSHV);
パポバウイルス、例えば、ポリオーマウイルスおよびヒトパピローマウイルス(HPV);
パルボウイルス;
ポックスウイルス、例えば、痘瘡ウイルス(ヒト天然痘ウイルス);
ラブドウイルス、例えば、狂犬病ウイルスおよび水疱性口内炎ウイルス(VSV);ならびに
レトロウイルス、例えば、後天性免疫不全症候群(AIDS)の原因となるヒト免疫不全ウイルス(HIV);およびヒトTリンパ球向性ウイルス(HTLV)。
【0454】
本発明の化合物が用いられ得る特定のウイルス感染は、ヘルペスウイルス、ポックスウイルス、エプスタイン−バーウイルス、シンドビスウイルス、アデノウイルス、HIV(HIVに感染した個体のAIDS発症の防止)、HPV、HCV、およびHCMVウイルスを含む。
【0455】
ウイルス感染は、C型肝炎ウイルス(HCV)感染以外であってもよい。
【0456】
宿主生物または宿主細胞におけるウイルス複製を遮断または防止する薬剤としての本発明の化合物の活性は、当業者に公知の標準的な手法に従って求めることが可能である。
【0457】
本発明の化合物は、単独の抗ウイルス剤として用いてもよく、アクシロビル、ガンシクロビル、オセルタミビル(タミフル(登録商標))、およびザナミビル(リレンザ(登録商標))、アマンチジン、リマンタジン、アデホビルジピボキシル、インターフェロン(例えば、インターフェロンアルファ−2bおよびペグインターフェロンアルファ−2a)、ラミブジン、エンテカビル、リバビリン、ファムシクロビル、バルシシロビル(valcicylovir)、バラシクロビル、アジドチミジン(AZT−レトロビル(登録商標))、アタザナビル、ホスアンプレナビル、ラミブジン、ラミブジン+アバカビル、フマル酸テノホビルジソプロキシル、フマル酸テノホビルジソプロキシル+エムトリシタビン、チプラナビル、ネルフィナビル、インジナビル、ラルテグラビル、リトナビル、ロピナビル+リトナビル、ダルナビル、アンプレナビル、エンフビルチド、サキナビル、ヒドロキシ尿素、VGV−1および抗ウイルス性ワクチンなどの抗ウイルス剤と併用してもよい。
【0459】
本明細書で定義される本発明の化合物と抗ウイルス剤である補助化合物との組合せ。
【0460】
本明細書で定義される本発明の化合物と抗ウイルス剤である補助化合物とを含む医薬組成物。
【0461】
医薬製剤
前記有効化合物を単体で投与することも可能であるが、1つまたはそれ以上の薬学的に許容される担体、アジュバント、賦形剤、希釈剤、フィラー、緩衝剤、安定剤、保存剤、滑沢剤、または当業者に周知の他の物質と、任意で他の治療または予防剤(例えば、化学療法に伴う副作用のいくつかを減少させるまたは緩和する薬剤)と一緒に、少なくとも1種の本発明の有効化合物を含有する医薬組成物(例えば、製剤)として提供することが好ましい。このような薬剤の具体例としては、制吐剤、および化学療法に伴う好中球減少の持続性を防止または減少させる薬剤、および赤血球レベルまたは白血球レベルの減少から生じる合併症を予防する薬剤、例えば、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)、および顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)が挙げられる。
【0462】
したがって、本発明はさらに、上記に定義される医薬組成物ならびに、本明細書に記載される1種以上の薬学的に許容される担体、賦形剤、緩衝剤、アジュバント、安定剤、または他の物質と一緒に、上記に定義される少なくとも1つの有効化合物を混合することからなる、医薬組成物の製造方法を提供する。
【0463】
本明細書において「薬学上許容される」なる語は、適切な医学的判断の範囲内で、過度の毒性、刺激、アレルギー反応、または他の問題もしくは合併症なく、被験体(例えば、ヒト)の組織との接触に用いるのに適しており、妥当な利益/リスク比で釣り合いがとれた化合物、物質、組成物および/または投与形態を意味する。担体、賦形剤などの各々はまた、その製剤の他の成分と適合するという点で「許容される」ものでなければならない。
【0464】
したがって、さらなる態様において本発明は本明細書で定義される本発明の化合物、特に式(10)および(1)の化合物ならびにその結晶および塩形態を医薬組成物の形態で提供する。
【0465】
前記医薬組成物は、経口投与、非経口投与、局所投与、鼻腔内投与、点眼投与、点耳投与、直腸投与、膣内投与または経皮投与に適したいずれの形態であってもよい。前記組成物が非経口投与を意図したものである場合、静脈内投与、筋肉内投与、腹腔内投与、皮下投与用に処方することもでき、あるいは注射、点滴または他の送達手段により標的臓器または組織に直接送達するために処方することもできる。送達はボーラス注射、短時間点滴または長時間点滴によるものとすることもでき、また、受動的送達であっても、または適切な点滴ポンプの利用を介したものでもよい。
【0466】
非経口投与に適した医薬製剤としては、酸化防止剤、緩衝液、静菌剤、共溶媒、有機溶媒混合物、シクロデキストリン複合体形成剤、乳化剤(エマルジョン製剤を形成および安定化するため)、リポソーム形成のためのリポソーム成分、高分子ゲルを形成するためのゲル化可能なポリマー、凍結乾燥保護剤、ならびにとりわけ有効成分を可溶形態で安定化させるための薬剤、および製剤を意図するレシピエントの血液と等張にする薬剤の組合せを含んでもよい水性および非水性の無菌注射液が挙げられる。非経口投与用医薬製剤はまた、懸濁化剤および増粘剤を含み得る水性および非水性懸濁液の形態をとってもよい(ストライクリー(R.G. Strickly)、経口および注射製剤における賦形剤の溶解(Solubilizing Excipients in oral and injectable formulations)、ファーマシューティカルリサーチ(Pharmaceutical Research)、第21巻2号、2004年、201−230ページ。
【0467】
イオン化可能な薬剤分子は、その薬剤のpK
aが製剤のpH値と十分に離れている場合には、pH調整により所望の濃度まで可溶化させることができる。許容される範囲は、静脈内投与および筋肉内投与ではpH2〜12であるが、皮下ではpH2.7〜9.0である。溶液のpHは塩形態の薬剤、塩酸もしくは水酸化ナトリウムなどの強酸/強塩基、緩衝剤溶液(限定されるものではないが、グリシン、クエン酸塩、酢酸塩、マレイン酸塩、コハク酸塩、ヒスチジン、リン酸塩、トリス(ヒドロキシメチル)−アミノメタン(TRIS)、または炭酸塩が挙げられる)のいずれかにより制御される。
【0468】
注射製剤では多くの場合、水溶液と水溶性有機溶媒/界面活性剤(すなわち、共溶媒)との組合せが用いられる。注射製剤に用いられる水溶性有機溶媒および界面活性剤としては、限定されるものではないが、プロピレングリコール、エタノール、ポリエチレングリコール300、ポリエチレングリコール400、グリセリン、ジメチルアセトアミド(DMA)、N−メチル−2−ピロリドン(NMP;ファーマソルブ(Pharmasolve))、ジメチルスルホキシド(DMSO)、ソルトール(Solutol)HS15、クレモホールEL、クレモホールRH60およびポリソルベート80が挙げられる。このような製剤は、必ずというわけではないが、通常、注射前に希釈される。
【0469】
プロピレングリコール、PEG300、エタノール、クレモホールEL、クレモホールRH60およびポリソルベート80は市販の注射製剤に用いられている、完全に水混和性の有機溶媒および界面活性剤であり、互いに併用が可能である。得られる有機注射製剤は通常、静脈内ボーラスまたは静注前に少なくとも2倍希釈される。
【0470】
あるいは、水に対する溶解度の上昇はシクロデキストリンとの分子複合体形成によっても達成することができる。
【0471】
リポソームは外側の脂質二重膜および内側の水性核からなる、閉じられた球状小胞であり、全体の直径が100μm未満である。疎水性の程度によって、中程度の疎水性薬剤であれば、薬剤をリポソーム内に封入またはインターカレーションした場合に、リポソームにより可溶化させることができる。疎水性薬剤はまた、薬剤分子を脂質二重膜の一体部分とした場合にも、リポソームにより可溶化させることができ、この場合、この疎水性薬剤は脂質二重膜の脂質部分に溶解される。典型的なリポソーム製剤はリン脂質を5〜20mg/mlで含む水、等張剤、pH5〜8の緩衝液、および必要に応じてコレステロールを含む。
【0472】
前記製剤は単回用量容器または複数用量容器、例えば、密閉アンプルおよびバイアルで提供することもできるし、使用直前に無菌液体担体、例えば、注射水を加えるだけのフリーズドライ(凍結乾燥)状態で保存することもできる。
【0473】
前記医薬製剤は、本発明の化合物またはその酸付加塩を凍結乾燥させることによる調製することができる。凍結乾燥とは、組成物をフリーズドライする手順をさす。よって、本明細書においてフリーズドライと凍結乾燥は同義語として用いられる。典型的な方法としては、化合物を可溶化させ、得られた製剤を明澄化し、濾過除菌し、凍結乾燥に適当な容器(例えば、バイアル)に無菌的に移すことである。バイアルの場合には、リオストッパー(lyo-stopper)で軽く栓をする。製剤は標準条件下で凍結するまで冷却し、凍結乾燥を行った後に密閉キャップをし、安定な凍結乾燥製剤を形成させることができる。この組成物は典型的には残留水分含量が低く、例えば、凍結乾燥物の重量の5重量%未満、例えば1重量%未満である。
【0474】
前記凍結乾燥製剤は、他の賦形剤、例えば、増粘剤、分散剤、緩衝剤、酸化防止剤、保存剤および張力調整剤を含み得る。典型的な緩衝剤としては、リン酸塩、酢酸塩、クエン酸塩およびグリシンが挙げられる。酸化防止剤の例としては、アスコルビン酸、重亜硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、モノチオグリセロール、チオ尿素、ブチル化ヒドロキシトルエン、ブチル化ヒドロキシルアニソールおよびエチレンジアミン四酢酸塩が挙げられる。保存剤としては、安息香酸およびその塩、ソルビン酸およびその塩、パラ−ヒドロキシ安息香酸のアルキルエステル、フェノール、クロロブタノール、ベンジルアルコール、チメロサール、塩化ベンザルコニウムおよび塩化セチルピリジニウムが挙げられる。必要に応じて張力調整のために、上述の緩衝剤ならびにデキストロースおよび塩化ナトリウムを使用することができる。
【0475】
凍結乾燥技術では一般に、プロセスを容易にするため、かつ/または凍結乾燥塊に嵩および/または機械的強度をもたせるために増量剤を用いる。増量剤は、前記化合物またはその塩とともに凍結乾燥した際に物理的に安定な凍結乾燥塊を生じ、より適切な凍結乾燥プロセスとし、さらに、迅速かつ完全な再構成をもたらす、水溶性の高い固体粒子希釈剤を意味する。増量剤はまた溶液を等張とするためにも利用することができる。
【0476】
水溶性増量剤は、凍結乾燥に典型的に用いられる薬学上許容される不活性の固体材料のいずれのものであってもよい。このような増量剤としては、例えば、グルコース、マルトース、スクロースおよびラクトースなどの糖類、ソルビトールまたはマンニトールなどのポリアルコール、グリシンなどのアミノ酸、ポリビニルピロリジンなどのポリマー、ならびにデキストランなどの多糖類が挙げられる。
【0477】
有効化合物の重量に対する増量剤の重量比は典型的には、約1〜約5の範囲、例えば、約1〜約3、例えば、約1〜2の範囲である。
【0478】
あるいは、医薬製剤は、濃縮および適当なバイアルへの密封が可能な溶液の形態で提供することもできる。投与形態の滅菌は、製剤過程の適当な段階で、濾過によるか、またはバイアルとその内容物とをオートクレーブ処理することにより行うことができる。供給された製剤は、例えば、適切な無菌注入パック中に希釈するなど、送達前にさらなる希釈または調製が必要な場合がある。
【0479】
即時調合注射溶液および懸濁液は無菌粉末、顆粒および錠剤から調製することができる。
【0480】
本発明の好ましい一実施形態では、前記医薬組成物は、例えば注射または点滴による静注投与に適切な形態である。
【0481】
別の好ましい実施形態では、前記医薬組成物は皮下(s.c.)投与に適した形態である。
【0482】
経口投与に適した医薬投与形としては、錠剤、カプセル剤、カプレット剤、丸剤、トローチ剤、シロップ剤、液剤、散剤、顆粒剤、エリキシル剤および懸濁剤、舌下錠、ウエハー剤またはパッチ剤ならびにバッカルパッチ剤が挙げられる。
【0483】
式(I)の化合物を含有する医薬組成物は、公知の技術にしたがって処方することができる。例えば、レミントンの薬学(Remington’s Pharmaceutical Sciences)、マック(Mack)出版社、イーストン、ペンシルベニア州、米国、参照。
【0484】
したがって、錠剤組成物は、単位用量の有効化合物を、不活性希釈剤または担体、例えば、糖または糖アルコール(例えば、ラクトース、スクロース、ソルビトールまたはマンニトール);および/または非糖由来希釈剤(炭酸ナトリウム、リン酸カルシウム、炭酸カルシウムまたはセルロースもしくはその誘導体、例えば、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、およびデンプン(コーンスターチなど)など)とともに含有することができる。錠剤はまた、標準的な成分、例えば、結合剤および造粒剤、例えば、ポリビニルピロリドン、崩壊剤(例えば、架橋カルボキシメチルセルロースなどの膨潤性架橋ポリマー)、滑沢剤(例えば、ステアリン酸塩)、保存剤(例えば、パラベン)、酸化防止剤(例えば、BHT)、緩衝剤(例えば、リン酸緩衝液またはクエン酸緩衝液)、および発泡剤(例えば、クエン酸塩/重炭酸塩混合物)を含有してもよい。このような賦形剤は公知であり、ここでは詳細に記載する必要はない。
【0485】
カプセル製剤は、硬質ゼラチン種であっても軟質ゼラチン種であってもよく、固体、半固体または液体状の有効成分を含有することができる。ゼラチンカプセルは、動物ゼラチンまたはその合成もしくは植物由来の均等物から形成することができる。
【0486】
固形投与形態(例えば、錠剤、カプセル剤など)はコーティングを施しても施さなくともよいが、典型的には例えば、保護フィルムコーティング(例えば、ワックスまたはワニス)または放出制御コーティングを有する。前記コーティング(例えば、オイドラギット(Eudragit)(商標)型ポリマー)は、胃腸管内の所望の位置で有効成分が放出されるように設計することができる。したがって、コーティングは胃腸管内の特定のpH条件下で分解するように選択することができ、これにより選択的に胃または回腸もしくは十二指腸で化合物を放出する。あるいはまたはさらに、コーティングは、苦味のある薬剤など不快な味を消すために矯味剤として使用することができる。コーティングは、不快な味を消す手助けをする糖分または他の物質を含んでもよい。
【0487】
コーティングの代わりにまたはコーティングに加えて、放出制御剤、例えば、胃腸管において酸性度またはアルカリ性度が変化する条件下で化合物を選択的に放出するようにすることができる放出遅延剤を含んでなる固体マトリックス中に薬剤を提供してもよい。あるいは、マトリックス材料または放出遅延コーティングは、投与形態が胃腸管を通過するにつれて実質的に連続的に崩壊する崩壊性ポリマー(例えば、無水マレイン酸ポリマー)の形態をとることができる。さらなる別法としては、有効化合物を、化合物の放出の浸透圧制御をもたらす送達系に処方することもできる。浸透圧放出性および他の遅延放出性または徐放性製剤は当業者に周知の方法にしたがって製造することができる。
【0488】
前記医薬製剤は単一のパッケージ、通常はブリスターパック中に全コースの治療薬を含んだ「患者パック」として患者に提供することができる。患者パックは、調剤師がバルク供給から患者分の医薬を分配する従来の処方箋調剤に優る利点があり、患者は患者パックに入っている、患者の処方箋調剤では見ることができない添付文書をいつでも見ることができる。添付文書を包含しておけば、患者が医師の指示をよりよく遵守することが示されている。
【0489】
局所使用のための組成物としては、軟膏、クリーム、スプレー、パッチ、ゲル、液滴および挿入物(例えば、眼内挿入物)が挙げられる。このような組成物は、公知の方法にしたがって処方することができる。非経口投与用の組成物は典型的には無菌水性もしくは油性溶液または微細懸濁液として提供されるか、あるいは注射用無菌水で即時構成できる微細無菌粉末の形態で提供されてもよい。
【0490】
直腸投与または膣内投与用の製剤の例としては、ペッサリーおよび坐剤が挙げられ、これらは、例えば、有効化合物を含有する付形成形材またはワックス材から形成することができる。したがって、単位用量の坐剤またはペッサリーは、1種以上の従来の固形担体(例えば、コカバター)と前記有効成分とを混合し、得られる混合物を成形することにより調製することができる。成形ワックス剤のさらなる例としては、高分子量ポリアルキルエングリコール(例えば、高分子量ポリエチレングリコール)などのポリマーが挙げられる。
【0491】
あるいは、膣内投与の場合、前記製剤は、有効成分と場合により1種以上の賦形剤または希釈剤とを含浸させたタンポンとして提供されてもよい。直腸および膣内投与に適した他の製剤としては、クリーム、ゲル、発泡体、ペーストおよびスプレーが挙げられる。
【0492】
局所組成物のさらなる例としては、有効成分と場合により1種以上の賦形剤または希釈剤とを含浸させた包帯および絆創膏などの包帯材を含んでいる。使用され得る担体としては、例えば、ポリエチレングリコール、プロピレングリコールまたはグリセロールなどの多価アルコールが挙げられる。適切な賦形剤は、当該技術分野において適切であると知られているものである。
【0493】
吸入投与用組成物は、吸入可能な粉末組成物または液状もしくは粉末スプレーの形態をとってもよく、粉末吸入装置またはエアゾールディスペンシング装置を用いた標準的な形態で投与することができる。このような装置は周知である。吸入投与用の粉末製剤は、典型的には有効化合物をラクトースなどの不活性固体粉末希釈剤とともに含む。
【0494】
本発明の化合物は、一般的には単位投与形態で提供され、それ自体、所望の生物活性レベルを与えるのに十分な化合物を典型的に含んでいる。例えば、製剤は1ナノグラム〜2グラムの有効成分、例えば1ナノグラム〜2ミリグラムの有効成分を含んでいてもよい。この範囲内での化合物の具体的な部分範囲としては、0.1ミリグラム〜2グラムの有効成分(より通常は、10ミリグラム〜1グラム、例えば、50ミリグラム〜500ミリグラム)、または1マイクログラム〜20ミリグラム(例えば、1マイクログラム〜10ミリグラム、例えば、0.1ミリグラム〜2ミリグラムの有効成分)である。
【0495】
経口投与用の組成物に関しては、単位投与形態は1ミリグラム〜2グラム、より典型的には、10ミリグラム〜1グラム、例えば、50ミリグラム〜1グラム、例えば、100ミリグラム〜1グラムの有効化合物を含んでいてもよい。
【0496】
有効化合物は、投与を必要とする患者(例えば、ヒトまたは動物患者)に、所望の治療効果を達成するのに十分な量で投与する。
【0497】
治療方法
本発明の化合物は、Hsp90クライアントタンパク質により仲介される様々な病態もしくは症状の予防または治療において有用である。このような病態および症状の例は上述されている。
【0498】
上記化合物は、一般的にこのような投与を必要とする被験体(例えば、ヒトまたは動物の患者、好ましくはヒト)に対して投与される。
【0499】
上記化合物は、治療上または予防上有用であり一般的に毒性のない量で典型的に投与されることになる。しかしながら、特定の状況において(例えば、生命を脅かす疾病の場合には)、式(I)の化合物を投与する利点は、いかなる毒性効果または副作用の短所に勝ることがあり、この場合には化合物を毒性を伴う量で投与することが望ましいと考えられる可能性がある。
【0500】
前記化合物は、有用な治療上の効果を維持するために長期間にわたって投与されてもよいし、または短期間のみ投与されてもよい。あるいは、該化合物はパルス的投与または継続的投与されてもよい。
【0501】
本発明の化合物の典型的な1日量は、体重1キログラムあたり100ピコグラム〜100ミリグラム、より典型的には体重1キログラムあたり5ナノグラム〜25ミリグラム、およびより通常には体重1キログラムあたり10ナノグラム〜15ミリグラム(例えば、10ナノグラム〜10ミリグラム、およびより典型的には1キログラムあたり1マイクログラム〜1キログラムあたり20ミリグラム、例えば、1キログラムあたり1マイクログラム〜10ミリグラム)の範囲でありえるが、必要な場合はより高用量またはより低用量で投与されてもよい。前記化合物は、例えば、毎日、または2もしくは3もしくは4もしくは5もしくは6もしくは7もしくは10もしくは14もしくは21もしくは28日ごとに繰り返し投与することができる。
【0502】
一具体的服薬スケジュールでは、患者に1日に1時間、最大10日間、特に1週間に最大5日間点滴を施し、この処置は所望の間隔(例えば、2〜4週間、特に3週間毎)で繰り返される。
【0503】
より詳しくは、患者に1日に1時間、5日間の期間点滴を施し、この処置を3週間毎に繰り返す。
【0504】
別の具体的服薬スケジュールでは、患者に、30分〜1時間にわたり点滴を施し、続いて様々な継続時間(例えば、1〜5時間、例えば、3時間)の維持点滴を施す。
【0505】
さらなる具体的服薬スケジュールでは、患者に12時間〜5日間の持続点滴、特に24時間から72時間の持続点滴を施す。
【0506】
しかしながら、最終的には投与量および使用する組成物の種類は、治療する疾病または生理状態の性質と見合うものとなり、医師の裁量によることになる。
【0507】
本明細書で定義される化合物は、単独の薬剤として投与することもでき、前記化合物は特定の病態(例えば、上記で定義される癌などの新生物疾患)の治療用の1種以上の別の化合物との併用療法において投与することもできる。
【0508】
本発明の化合物とともに投与されてもよい(同時にまたは異なる時間間隔であるかどうかにかかわらず)、他の治療用薬剤または治療の例としては、限定されるものではないが、以下のものが挙げられる。
トポイソメラーゼI阻害剤
代謝拮抗剤
チューブリン標的化薬剤
DNA結合剤およびトポイソメラーゼII阻害剤
アルキル化剤
モノクローナル抗体
抗ホルモン
シグナル伝達阻害剤
プロテアソーム阻害剤
DNAメチルトランスフェラーゼ
サイトカインおよびレチノイド
クロマチン標的化療法剤、例えば、HDACまたはHATモジュレーター、
放射線療法、および、
他の治療剤または予防薬;例えば、化学療法に伴う副作用のいくつかを減少または緩和する薬剤。そのような薬剤の具体的な例としては、制吐剤、および化学療法に伴う好中球減少の持続性を防止または減少させる薬剤、および赤血球レベルまたは白血球レベルの減少から生じる合併症を予防する薬剤、例えば、エリスロポエチン(EPO)、顆粒球マクロファージコロニー刺激因子(GM−CSF)および顆粒球コロニー刺激因子(G−CSF)が挙げられる。また、ビスフォスフォネート剤(例えば、ゾレドネート、パミドロネートおよびイバンドロネート)などの骨吸収を阻害する薬剤、炎症反応を抑制する薬剤(デキサメタゾン、プレドニゾンおよびプレドニゾロンなど)、および天然ホルモンのソマトスタチンの薬理学的特性を模倣する薬理学的特性を備えた長時間作用性のオクタペプチドである酢酸オクトレオチドを含む、脳ホルモンソマトスタチンの合成型のような、先端肥大症患者において成長ホルモンおよびIGF−Iの血中濃度を減少させるために使用される薬剤が挙げられる。さらには、ロイコボリン(葉酸レベルを減少させる薬剤に対する解毒剤として使用される)またはフォリン酸それ自体などの薬剤、および浮腫および血栓塞栓症発作を含む副作用の治療のために使用することができる酢酸メゲストロールのような薬剤が挙げられる。
【0509】
他の療法剤と組合せたHsp90阻害剤の場合、前記2種以上の治療剤は、個別に違う用量スケジュールで、および異なる経路を通じて投与されてもよい。
【0510】
前記化合物は、1、2、3、4種またはそれ以上の他の治療薬(好ましくは1または2種、より好ましくは1種)との併用療法で投与される場合は、前記化合物は同時にまたは順次に投与できる。順次に投与される場合、それらは短い間隔で(例えば、5〜10分の期間にわたって)、またはより長い間隔(例えば、1、2、3、4時間またはそれ以上離れて、または必要とされる場合には、さらにより長い期間離れて)で投与することができるが、正確な投与レジメンは治療用薬剤の特性に対応する。
【0511】
本発明の化合物はまた、放射線療法、光力学療法、遺伝子療法などの非化学療法的治療;手術および栄養制限食と併用して投与されてもよい。
【0512】
別の化学療法剤との併用療法における使用に関して、前記化合物および1、2、3、4種またはそれ以上の他の治療剤は、例えば、2、3、4種またはそれ以上の治療剤を含む投薬形態で、ともに製剤化することができる。あるいは、個々の治療剤は個別に製剤化され、キットの形態で一緒に提供されてもよく、任意でそれらの使用説明書が添付される。
【0513】
当業者は、通常の知識により、用いる投与レジメンおよび組合せ療法が分かるであろう。
【0514】
診断方法
化合物の投与前に、患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある疾病または症状が、Hsp90に対する活性を有する化合物による治療に対して感受性のある疾病または症状であるかどうかを決定するために患者をスクリーニングしてもよい。
【0515】
例えば、患者から採取した生体サンプルを分析し、その患者が罹患している、もしくは罹患している可能性のある癌などの症状または疾病がHsp90クライアントタンパク質の変異または過剰な活性化をもたらす遺伝的異常または異常なタンパク質発現を特徴とするものかどうかを判定することができる。Hsp90クライアントタンパク質の活性化をもたらすそのような異常の例としては、Bcr−ABL転座、Flt−3内部重複、およびBrafの変異、またはErbB2の過剰発現が挙げられる。
【0516】
よって、患者をアップレギュレーションに特徴的なマーカーを検出するための診断試験に供してもよい。診断なる語はスクリーニングも含む。本発明者らはマーカーなる語に、例えば、Braf、BCR−ablおよびFlt3またはの突然変異または影響を受けた他のクライアントタンパク質の変異を同定するためのDNA組成の指標をはじめとする遺伝マーカーも含む。マーカーなる語はまた、ErbB2などのタンパク質を含み、前記タンパク質またはいくらかのフラグメントまたは分解産物のレベルまたは濃度を含み、酵素に関しては酵素活性を含む。前記タンパク質のタンパク質(例えば、リン酸化されていても、されていなくても)レベルおよびmRNAレベルもまた活性の変化を特徴づけるために評価され得る。例えば、リン酸化AKTレベルはHSP90阻害剤に対する感受性の指標となり得る。
【0517】
診断試験は典型的には、例えば、腫瘍生検サンプル、血液サンプル(脱落した腫瘍細胞の単離および濃縮)、糞便生検、痰、染色体分析、胸膜液、腹水、頬内からの塗抹標本、生検または尿から選ばれる生体サンプルに対して行なわれる。
【0518】
このスクリーニング方法は典型的には、直接配列決定、オリゴヌクレオチドまたはタンパク質マイクロアレイ分析、質量分析によるプロテオーム解析、免疫組織化学法、または特異抗体を用いた検出を含む。
【0519】
タンパク質の変異およびアップレギュレーションの同定および分析方法は、は当業者に周知である。スクリーニング方法としては、限定されるものではないが、逆転写酵素ポリメラーゼ連鎖反応(RT−PCR)またはin situハイブリダイゼーションハイブリダイゼーション、または免疫ブロット法などの標準的な方法が挙げられる。
【0520】
RT−PCRによるスクリーニングでは、腫瘍におけるmRNAのレベルは、該mRNAのcDNAコピーを作成した後、該cDNAをPCRにより増幅することにより評価する。PCR増幅の方法、プライマーの選択、および増幅条件は当業者に公知である。核酸の操作およびPCRは、例えば、オースベル(Ausubel, F. M.)ら(編者)、分子生物学における現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、2004年、ジョンワイリー&サンズ、またはイニス(Innis, M. A.)ら(編者)、PCRプロトコル:方法および応用の手引き(PCR Protocols:a guide to methods and applications)、1990年、アカデミックプレス(Academic Press)、サンディエゴ、に記載のような標準的な方法により行う。核酸技術に関する反応および操作はまた、サムブルック(Sambrook)ら、2001年、第3版、モレキュラークローニング:レボラトリーマニュアル(Molecular Cloning: A Laboratory Manual)、コールドスプリングハーバーラボラトリー出版(Cold Spring Harbor Laboratory Press)に記載されている。あるいは、RT−PCR用の市販キット(例えば、ロシュモレキュラーバイオケミカルズ(Roche Molecular Biochemicals)社)、または米国特許第4,666,828号;第4,683,202号;第4,801,531号;第5,192,659号;第5,272,057号;第5,882,864号および第6,218,529号に開示の方法が使用でき、これらは参照により本書に援用される。
【0521】
mRNAの発現を評価するためのin situハイブリダイゼーション技術の例として、蛍光in situハイブリダイゼーション(FISH)がある(アンゲラー(Angerer)、1987年、メソッズ・イン・エンザイモロジー(Meth. Enzymol)、152:649参照)。
【0522】
一般に、in situハイブリダイゼーションは以下の主要な工程を含む:(1)分析する組織の固定;(2)標的核酸の接近性を高めるためそして非特異的結合を軽減するためのサンプルのプレハイブリダイゼーション処理;(3)核酸混合物と生物学的構造または組織中の核酸とのハイブリダイゼーション;(4)ハイブリダイゼーションにおいて結合しなかった核酸断片を除去するためのハイブリダイゼーション後の洗浄;および(5)ハイブリダイズした核酸断片の検出。このような用途に用いるプローブは典型的には、例えば、放射性同位元素または蛍光リポーターで標識される。好ましいプローブは、ストリンジェント条件下で標的核酸との特異的ハイブリダイゼーションを可能とするに十分な長さ、例えば、約50、100、または200ヌクレオチド〜約1000以上のヌクレオチドである。また、白血病細胞集団でFlt3およびBcr−Abl転座を検出するために使用できる染色体再配列の細胞遺伝学的検出用の市販のFISHプローブも存在する。FISHを行うための標準的な方法は、オースベル(Ausubel, F. M.)ら(編者)、分子生物学における現在のプロトコル(Current Protocols in Molecular Biology)、2004年、ジョンワイリー&サンズ、およびバートレット(John M. S. Bartlett)による、in situハイブリダイゼーションにおける蛍光:癌の分子診断、方法およびプロトコルにおける技術的概観(Fluorescence In Situ Hybridization: Technical Overview in Molecular Diagnosis of Cancer,Methods and Protocols、第2版;ISBN:1−59259−760−2;2004年3月、077−088ページ;シリーズ:分子医学における方法(Series: Methods in Molecular Medicine)に記載されている。
【0523】
遺伝子発現プロファイリング法は、デプリモ(DePrimo)ら、BMCキャンサー、2003年、3:3に記載されている。要するに、このプロトコルは次の通りである:第一鎖cDNA合成を誘導するための(dT)24オリゴマーを用い、全RNAから二本鎖cDNAを合成した後、ランダムヘキサマープライマーを用い、第二鎖cDNAを合成する。この二本鎖cDNAを、ビオチン化リボヌクレオチドを用いるcRNAのin vitro転写の鋳型として用いる。アフィメトリクス(Affymetrix)(サンタクララ、カリフォルニア州、米国)が記載しているプロトコルに従い、cRNAを化学的にフラグメント化した後、ヒトゲノムアレイ上で一晩ハイブリダイズさせる。
【0524】
あるいは、mRNAから発現されたタンパク質産物を、腫瘍サンプルの免疫組織化学、マイクロタイタープレートを用いる固相イムノアッセイ、ウエスタンブロット、二次元SDS−ポリアクリルアミドゲル電気泳動、ELISA、フローサイトメトリーおよび特定のタンパク質を検出するための当技術分野で公知の他の方法により評価することができる。検出方法には、部位特異的抗体の使用が含まれる。当業者であれば、BCR−ABL転座の指標となる「フィラデルフィア染色体」を検出するためのこのような周知の技術を認識しているであろう。
【0525】
したがって、これらの技術はいずれも、本発明の化合物による治療に特に適した腫瘍を同定するために使用することができる。
【実施例】
【0526】
以下の実施例に記載される具体的実施形態を参照して本発明を説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0527】
実施例において、次の略語を用いる場合がある。
【0528】
AcOH 酢酸
BOC tert−ブチルオキシカルボニル
Bn ベンジル
CDI 1,1−カルボニルジイミダゾール
DMAW90 溶媒混合物:DCM:MeOH、AcOH、H
2O(90:18:3:2)
DMAW120 溶媒混合物:DCM:MeOH、AcOH、H
2O(120:18:3:2)
DMAW240 溶媒混合物:DCM:MeOH、AcOH、H
2O(240:20:3:2)
DCM ジクロロメタン
DMF ジメチルホルムアミド
DMSO ジメチルスルホキシド
EDC 1−エチル−3−(3’−ジメチルアミノプロピル)−カルボジイミド
Et
3N トリエチルアミン
EtOAc 酢酸エチル
Et
2O ジエチルエーテル
h 時間
HOAt 1−ヒドロキシアザベンゾトリアゾール
HOBt 1−ヒドロキシベンゾトリアゾール
MeCN アセトニトリル
MeOH メタノール
min. 分
Ms メシル
MsO メチレート
P.E. 石油エーテル
PG 保護基
r.t. 室温
SiO
2 シリカ
TBTU N,N,N’,N’−テトラメチル−O−(ベンゾトリアゾール−1−イル)ウロニウムテトラフルオロボレート
THF テトラヒドロフラン
【0529】
プロトン磁気共鳴(
1H NMR)スペクトルは特に断らない限り、400.13MHzで、DMSO−d
6またはMeOH−d
4(示されている通り)中、27℃で作動するBruker AV400機器に記録され、次のように報告される:化学シフトδ/ppm(陽子数、多重度:s=シングレット、d=ダブレット、t=トリプレット、q=カルテット、m=マルチプレット、br=ブロード)。残存するプロトン性溶媒を内部標準として使用した。
【0530】
実施例では、調製した化合物を、以下に示すシステムおよび操作条件を用いて液体クロマトグラフィーおよび質量分析により特性決定した。種々の同位体を有する原子が存在し単一の質量で示される場合には、その化合物に関して表示されている質量はモノアイソトピック質量である(すなわち、
35Cl;
79Brなど)。以下に記載するように種々のシステムを用い、これらシステムは極めて類似した操作条件を備え、極めて類似した操作条件下で実施されるように設定を行った。使用した操作条件は以下にも記載する。
【0531】
システムの説明:
システム1(分析システム):
HPLCシステム:Waters 2795
質量検出器:Micromass Platform LC
PDA検出器: Waters 2996 PDA
【0532】
システム2(分取および分析システム):
HPLCシステム:Waters Fractionlynxシステム
質量検出器:Waters ZQ
PDA検出器:Waters 2996 PDA
【0533】
システム3(分取および分析システム):
HPLCシステム:Agilent 1100システム
質量検出器:LC/MSD
UV検出器:Agilent MWD
【0534】
操作条件:
酸性分析条件:
溶出剤A:H
2O(0.1%ギ酸)
溶出剤B:CH
3CN(0.1%ギ酸)
勾配:3.5分間で5〜95%溶出剤B(15分w/カラム2)
流速:0.8ml/分
カラム1:Phenomenex Synergi 4μ MAX−RP 80A、2.0×50mm
カラム2:Phenomenex Synergi 4μ MAX−RP 80A、2.0×150mm
【0535】
塩基性分析条件:
溶出剤A:H
2O(10mM NH
4HCO
3バッファー、NH
4OHでpH=9.2に調整)
溶出剤B:CH
3CN
勾配:3.5分間で5〜95%溶出剤B
流速:0.8ml/分
カラム:Phenomenex Gemini 5μ 2.0×50mm
【0536】
MS条件(Watersシステム):
キャピラリー電圧:3.6kV(ESネガティブでは3.40kV)
コーン電圧:25V
ソース温度:120℃
走査範囲:125〜800amu
イオン化モード:エレクトロスプレーポジティブ、ネガティブまたはポジティブ・ネガティブ
【0537】
MS条件(Agilentシステム):
キャピラリー電圧:4000V(ESネガティブでは3500V)
フラグメンター/ゲイン:150/1
乾燥ガス温度/流速:350℃/13.0L/分
−1
噴霧圧:50psig
走査範囲:125〜800amu
イオン化モード:エレクトロスプレーポジティブまたはネガティブ
【0538】
各実施例の出発材料は特に断りのない限り市販されている。
【0539】
(実施例1)
工程1
4−アセトキシ−2−ヒドロキシ−安息香酸メチルエステル
【化23】
トルエン0.2Lに、レゾルシノールメチルエステル(50g、0.298mol)およびN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(0.27g、0.0022mol、0.74mol%)を加え、次いで無水酢酸(30ml、0.318mol)を加えた。この溶液を50℃まで2時間加熱した。溶媒を50℃で小容量になるまで蒸発させて除去し、残渣をトルエンと1回共沸させた。まだ温かいうちに残油に直ちにトルエン(100ml)を加え、溶液をさらなる精製を行わずに工程2に用いた。
【0540】
工程2
5−アセチル−2,4−ジヒドロキシ−安息香酸メチルエステル
【化24】
N
2下、工程1からのトルエン溶液を氷浴にて冷却し、トリフルオロメタンスルホン酸(26ml)を30分間かけてゆっくりと加えた。撹拌したしたところ、白色の微細固体が形成され、これを撹拌しながら室温で16時間溶解させて、黄色溶液を得た。この溶液に塩化アセチル(2ml)を加え、溶液を室温でさらに1時間撹拌した。この溶液を、EtOAc(600ml)と水(400ml)に溶解したNaOAc.3H
2O(40g)との撹拌冷却(0
oC)溶液にカニューレを用いて導入した。有機相を水(2回、200ml)および飽和塩水で洗浄し、乾燥させずに小容量になるまで蒸発させた。残渣をヘプタンと共沸させ(2回、100ml)、ヘプタン(100ml)を加え、結晶性固体を濾去し、焼結体上でヘプタンでよく洗浄し、乾燥させて49.5g(79%)を得た。
【0541】
合わせたバッチの最終精製
合わせた固形物のバッチ(96.3g)を10%IPA/ヘプタン(250ml)で沸騰するまで加熱した後、室温そして最終的には0
oCまで冷却し、濾過し、残渣を72時間乾燥させて(油ポンプ)、高速液体クロマトグラフィー、薄層クロマトグラフィーおよびNMRによれば純粋なものを得た(88.04g、91.5%)。
1H NMR(DMSO−d
6)12.58(1H,s),11.22(1H,s),8.33(1H,s),6.45(1H,s),3.90(3H,s),2.62(3H,s).
【0542】
工程3
5−アセチル−2,4−ジヒドロキシ−安息香酸メチルエステル(別の手順)
【化25】
レゾルシノールメチルエステル(50g、0.298mol)およびアンバーリスト(Amberlyst)15樹脂(40g)をトルエン150ml中に(窒素雰囲気下で)懸濁させ、溶液を油浴にて70
oC(内部温度56
oC)で加熱した。塩化アセチル(22ml、308mmol)を5mlずつ30分間かけて加え、気体HClを発生させた(これをNaOH水溶液に窒素気流を通過させることで除去した)。この溶液を70
oCで4.5時間撹拌した後、油浴温度(内部温度96
oC)で3.5時間加熱した。溶液を50
oCまで冷却し、EtOAc(100ml)を加え、この溶液をこの温度で濾過した。残留樹脂をEtOAc(50ml)で洗浄し、合わせた濾液を結晶性固体(固体と溶媒との総重量128g)のスラリーなるまで濃縮した。このスラリーにヘプタン(100ml)を加え、室温で10分経過後、固体を濾去した。残渣をヘプタン:トルエン(2:1、60ml)、次いでbp40〜60
oCの石油エーテルで洗浄し、真空乾燥させ、収穫物1 29g(46.4%)を得た(NMRは、メチルエステルの鹸化から得られた物質(3%)を示した)。
【0543】
濾液を小容量まで蒸発させ、ヘプタン(100ml)中の20%EtOAcを加えた。室温で16時間放置した後、4.75g(7.6%)の第2の収穫物を得た(収穫物1と同一のNMR)。
【0544】
工程4
5−アセチル−2,4−ビス−ベンジルオキシ−安息香酸メチルエステル
【化26】
アセトニトリル(800ml)中の5−アセチル−2,4−ジヒドロキシ安息香酸メチル(60.7g、0.29mol)および無水炭酸カリウム(87.8g、0.64mol)の撹拌混合物に臭化ベンジル(70ml、0.59mol)を加え、この混合物を撹拌し、還流下で16時間保持した。室温まで冷却したところでこの混合物を水(3L)に注ぎ、2時間激しく撹拌した。固体を濾取し、水(2L)ですすぎ、減圧下で吸引乾燥させ、真空炉にて一晩60℃で一定質量になるまで乾燥させて、5−アセチル−2,4−ビス−ベンジルオキシ安息香酸メチル(112.1g、99%)をクリーム色の固体として得た。
1H NMR(DMSO−d
6)8.21(1H,s),7.55(4H,m),7.43(4H,m),7.37(2H,m),7.04(1H,s),5.38(4H,s),3.79(3H,s),2.48(3H,s).MS:[M+H]
+391.
【0545】
工程5
2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸メチルエステル
【化27】
無水テトラヒドロフラン(1L)中の臭化メチルトリフェニルホスホニウム(92.8g、0.26mol)の撹拌懸濁液にカリウムtert−ブトキシド(29.1g、0.26mol)を加え、この混合物を室温で10分間撹拌し、5−アセチル−2,4−ビス−ベンジルオキシ安息香酸メチル(78.0g、0.2mol)を加え、この混合物を室温でさらに30分間撹拌した。メタノール(100ml)を加えて過剰のリンイリドをクエンチさせ、溶媒を真空下で除去して橙色油状物を得、これを放置すると結晶化した。残渣をメタノール(330ml)から再結晶化させた。固体を吸引濾過により採取し,メタノール(50ml)で洗浄し、減圧下で吸引乾燥させて2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸メチルを淡黄色の針状物として得た。一晩放置したところ母液から物質の第2の収穫物(合わせた収率:56.55g、73%)が析出した。
1H NMR(DMSO−d
6)7.59(1H,s),7.52(2H,d),7.64−7.32(8H,m),6.97(1H,s),5.28(2H,s),5.22(2H,s),5.09(1H,s),5.04(1H,s),3.76(3H,s),2.02(3H,s).MS:[M+H]
+389.
エステルのさらなる収穫物は以下のようにして得られた。結晶化残渣を真空下で蒸発乾固し、油状固体をヘプタン(250ml)中の5%酢酸エチルで処理した。激しく撹拌した混合物に、残渣から大量の固体のトリフェニルホスフィンオキシドが析出するまで酢酸エチルを少量ずつ加えた。固体を濾去し、濾液を真空下で蒸発乾固して橙色油状物を得た。メタノールからの再結晶化(上述のとおり)により、さらなる2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸メチルを淡黄色の結晶性固体として得た(全収率85〜90%)。
【0546】
工程6
2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸
【化28】
メタノール(750ml)および水(250ml)中の2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸メチル(61.0g、0.16mol)の撹拌懸濁液に水酸化カリウム(10.96g、0.19mmol)を加え、この混合物を撹拌し、還流下で16時間保持した。冷却したところで有機溶媒を真空下で除去し、2M塩酸(200ml)を加えることで混合物をpH2以下に酸性化した。この混合物を水(2L)で希釈し、酢酸エチル(2L)で抽出し,有機層を分離し、溶媒を真空下で除去して2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸(58.8g、100%)を無色の固体として得た。
1H NMR(DMSO−d
6)7.52(2H,d),7.47−7.29(9H,m),6.82(1H,s),5.20(2H,s),5.17(2H,s),5.06(1H,s),5.04(1H,s),2.03(3H,s).MS:[M+H]
+375.
【0547】
工程7
ジ−プロプ−2−イニル−カルバミン酸ベンジルエステル
【化29】
EtOAc(200ml)および10%K
2CO
3水溶液(700ml、507mmol)中のジプロパルギルアミン(46.7g、502mmol)の冷却(0
oC)溶液に、EtOAc(500ml)中のN−(ベンジルオキシカルボニルオキシ)スクシンイミド(125g、502mmol)の溶液を20分間かけてゆっくりと加えた。この溶液を0℃で2時間、次いで室温で16時間撹拌した。相を分離し、有機相を10%K
2CO
3水溶液(700ml、507mmol)、次いで飽和塩水(500ml)で洗浄し、EtOAcで1000mlに希釈して0.5M溶液を得た。
【0548】
工程8
5−ヒドロキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル
【化30】
トルエン(120ml)中のプロパルギルアルコール(26.4ml、424mmol)溶液を脱気した。上記0.5Mジイン(diyne)溶液(440ml、220mmol)を蒸発させ、残渣をトルエン(80ml)に溶解させた。この保護ジイン溶液およびウィルキンソン触媒(2.26g、2.44mmol、1.11%)を、温度が50〜100
oCに保たれるように内部温度をモニタリングしながら14等分に分けて2時間かけて加えた。この溶液を30分間かけて50℃まで冷却し、溶液を蒸発させた(過剰のプロパルギルアルコールを除去した)。残渣をトルエン(500ml)および木炭(Darco4〜12メッシュ、20g)を用いて100℃で30分間加熱した後、セライトベッドで高温濾過し、褐色溶液を蒸発させた。残渣を80℃のEtOAc(400ml)に溶解させ、シリカゲル(クロマトグラフィーグレード、65g)を加え、加熱を20分間続けた。この溶液を熱いうちに濾過した後、蒸発させ(シード添加しながら)、淡褐色の固体を得た。10%EtOAc/ヘプタン(v/v、100ml)を加え、固体を濾去した。固体を焼結体上でヘプタン(100ml)で洗浄し、乾燥させ(50℃、油ポンプ、16時間)、59.0g(95%)の標題化合物を得た。1H NMR(400MHz,Me−d3−OD):7.51−7.16(m,8H),5.21(s,2H),4.74(s,2H),4.70(s,2H),4.61(s,2H).
【0549】
工程9
5−メタンスルフォニルオキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル
【化31】
THF(470ml)およびEtOAc(770ml)中の5−ヒドロキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル(65.75g、0.232mol)の溶液にEt
3N(39ml、0.28mol)を加えた。この溶液を氷浴にて冷却し、EtOAc(50ml)に溶解した塩化メタンスルホニル(19ml、0.245mol)の溶液を加えた(内部温度<12℃となるようにした)。氷浴にて2時間撹拌した後、塩化メタンスルホニル(1.9ml、0.95ml)およびEt
3N(3.9ml)をさらに加えた(1時間のさらなる撹拌後に出発物質が残存しない(薄層クロマトグラフィーにより)ようにした)。NaHCO
3(550ml)を加え、溶液を20分間撹拌した後、飽和塩水(200ml)を加え、相を分離した。有機相を乾燥させ(MgSO
4)、シード添加しながら蒸発させて湿った固体を得、これを完全乾燥させずに次の工程で用いた。
【0550】
工程10
5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル二塩酸塩
【化32】
工程9からの固体(0.232molとして)をアセトン(700ml)に溶解させ、この溶液をアセトン(330ml)中のK
2CO
3(48g)およびN−メチルピペラジン(50ml、0.45mol)の冷却(内部温度15〜17℃)懸濁液に45分間かけて加えた。この懸濁液を15℃で3時間撹拌し(薄層クロマトグラフィーによる出発物質の完全除去)、溶液を小容量まで蒸発させ、残渣をEtOAc(1000ml)および水(500ml)と飽和塩水(50ml)との混合物で分液した。有機相を水(500ml)と飽和塩水(150ml)との混合物で洗浄し、最後に飽和塩水(300ml)で洗浄した。この溶液を乾燥させ(MgSO
4)、濾過し、この溶液にMeOH(430ml、0.43mol)中の1MのHClを加えた。懸濁液を冷却し(0
oCで30分間)、固体を濾去し、これを焼結体上でEtOAc次いでヘプタンで洗浄した後、固体を乾燥させ(油ポンプ、室温72時間)、66.34g(65%)の標題化合物の収穫物1を無色の固体として得た。1H NMR(400MHz,Me−d3−OD):7.64−7.51(m,2H),7.51−7.29(m,6H),5.23(s,2H),4.79(dd,J=16.2,6.1Hz,4H),4.49(s,2H),3.66(s,8H),3.03(s,3H).
【0551】
別の工程10A
5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル二塩酸塩
【化33】
工程10Aを別の経路として用いて上記工程9および10に代えることができる。
【0552】
DCM(100ml)中の二酸化マンガン(15.5g、178mmol)懸濁液に5−ヒドロキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル(3.35g、11.8mmol)を加え、室温で6時間撹拌した後、二酸化マンガン(5g、57mmol)をさらに加えた。さらに室温で1時間撹拌した後、セライト(7g)を加え、溶液をセライト(商標)ベッドで濾過し、澄んだ淡黄色溶液を得た。セライト(登録商標)をDCMで洗浄し、合わせた有機溶液の容量を蒸発により100mlに調整した。N−メチルピペラジン(1.31ml、11.8mmol)および酢酸(0.68ml)、次いでトリアセトキシ水素化ホウ素ナトリウム(4.98g、23.5mmol)を加えた。黄色溶液を16時間撹拌し、無色の溶液を得た。この溶液に2MのHCl(10ml、20mmol)を加えると沸騰した。30分後、水(10ml)およびK
2CO
3(5.5g、39.8mmol)を加え、有機相を乾燥させた(Na
2SO
4)。濾過後、ジオキサン(6ml)中の4MのHClを撹拌しながら加え、懸濁液を蒸発乾固した。残渣を温めながらMeOHに溶解させ、蒸発後、固体を焼結体上でEtOAc次いで石油(bp40〜60
oC)で洗浄した後、50
oCで真空乾燥させて3.61g(70%)の標題化合物を得た。1H NMR(400MHz,Me−d3−OD):7.65−7.51(2H,m),7.51−7.27(6H,m),5.23(2H,s),4.83−4.69(4H,m),4.49(2H,s),3.66(8H,d),3.03(3H,s)
【0553】
工程11
5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール
【化34】
5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル二塩酸塩(工程10、59.8g、136.7mmol)にEtOAc(400ml)および10%K
2CO
3水溶液(400ml)を加えた。有機相を飽和塩水(200ml)で洗浄した後、乾燥させた(MgSO
4)。この溶液を濾過し、蒸発させて油状物とした(これを石油エーテル(bp40〜60
oC)とともに放置すると結晶化した)。この固体を真空乾燥させて無色の固体を得た。48.8g(133.5mmol)。
【0554】
この固体の一部(24.4g、66.8mmol)をMeOH(170ml)に溶解させ、溶液を窒素で脱気およびパージした後、10%Pd/C(1.22g)を加え、この混合物を1気圧で2.5時間水素化した。溶液を濾過し、蒸発させ、残渣をトルエンと30〜40
oCで2回共沸させた。残渣をDMF(92ml)に溶解させ、溶液を直ちにN
2で脱気およびパージした。
(注:この段階での生成物は、空気の影響を受けやすく、酸素と接触すると暗く変色する。DMF溶液を直ちに用いたが、N
2雰囲気下で脱気およびパージすることにより保存することができる)
【0555】
工程12
(2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノン
【化35】
レゾルシン酸(工程6、23.7g、63.4mmol)および1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(10.21g、66.7mmol)の溶液をDMF(92ml)に溶解させ、この溶液にN−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(12.8g、66.8mmol)を加えた。溶液を室温で40分間撹拌し、この溶液を工程11からのアミンの溶液(66.8mmol)にDMF(5ml)洗液とともに加えた。この溶液を脱気し、室温で16時間撹拌した。この溶液に10%K
2CO
3(500ml)およびEtOAc(500ml)を加え、有機相を10%K
2CO
3(500ml)、水(4×100ml)および飽和塩水(200ml)で順次洗浄した。この溶液を小容量になるまで蒸発させ、ヘプタン(250ml)中の20%EtOAcを加え、0
oCで保存した。生じた固体を濾去し、ヘプタンで2回洗浄し、真空乾燥させて35.05g(94.4%)の標題化合物を得た。1H NMR(400MHz,Me−d3−OD):7.49−7.10(m,14H),6.86(d,J=2.5Hz,1H),5.17(d,J=2.5Hz,4H),5.09(d,J=11.3Hz,2H),4.88(s,2H),4.63(s,2H),3.54(d,J=16.0Hz,2H),2.50(s,7H),2.28(d,J=7.6Hz,3H),2.11(s,3H).
【0556】
工程13
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノン
【化36】
工程12からの生成物(4.7g)を1:1のMeOH/水(98ml)に溶解させ、N
2でパージした後、10%Pd/CおよびK
2CO
3(2.38g、17.2mmol)を加え、懸濁液をH
2雰囲気下で16時間水素化した。この溶液を濾過し、溶媒を蒸発させた。残渣に2MのHCl水溶液(40ml)を加え、溶液を1:1のEtOAc/石油(40ml×2)で洗浄した後、NaOHを加えることでpHをpH8.5に調整し、EtOAc(50ml)を加えた。この溶液を60℃まで加熱し、水相を除去した。高温の有機相を水(30ml)で洗浄した後、小容量(約5ml)になるまで蒸発させ、シード添加しながら室温で16時間放置した。この結晶性物質に、1:1のEtOAc/石油(10ml)を加え、この混合物を濾過し、乾燥させて標題化合物を遊離塩基1.76gとして得た。1H NMR(400MHz,Me−d3−OD):7.29(s,3H),7.19(s,1H),6.39(s,1H),4.91(s,4H),3.56(s,2H),3.28−3.15(m,1H),2.53(s,8H),2.31(s,3H),1.23(d,J=6.9Hz,7H).
【0557】
任意の工程14
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの精製
いくつかの生成物のバッチにおいて、標題化合物(式中、X=H)は、少量の不純物2,4−ジヒドロキシ−5−(2−ヒドロキシプロプ−2−イル)−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノン(式中、X=OH)を含み得る。不純物は以下の方法によって除去することができる。
【化37】
トルエン(20ml)中の不純物2−(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピルベンゾイル)−5−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロイソインドール(2.05g、5.0mmol)の撹拌懸濁液に無水酢酸(1.04ml、11.0mmol)を加え、得られた混合物を撹拌し、100℃で16時間保持した。室温まで冷却したところで溶媒を真空下で除去して褐色油状物を得、これをメタノール(20ml)に溶解させた。濃塩酸(1ml)を加え、この混合物を撹拌し、還流下で5時間保持した。室温まで冷却したところで、有機溶媒および揮発性物質を真空下で除去し、残渣水溶液を水(25ml)で希釈し、激しく撹拌しながら10%炭酸カリウム水溶液を注意深く加えることでpH8に塩基性化した。ヘプタン(50ml)中の50%酢酸エチルを加え、この混合物を室温で16時間激しく撹拌した。固体物質を吸引濾過により採取し、ヘプタン(50ml)中の50%酢酸エチルですすぎ、減圧下で吸引乾燥し、真空炉にて50℃で一晩乾燥させて2−(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピルベンゾイル)−5−(4−メチルピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロイソインドール(1.85g、90%)を灰白色固体として得た。
1H NMR(DMSO−d
6)10.07(1H,br s),9.60(1H,br s),7.24(3H,m),7.06(1H,s),6.40(1H,s),4.76(4H,br s),3.44(2H,s),3.10(1H,m),2.32(8H,m),2.14(3H,s),1.15(6H,d).MS:[M+H]
+410.
【0558】
(実施例2)
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンL−乳酸塩(形態FL1)
実施例1の生成物(1.24g、3.303mmol)をエタノール(3ml)およびEtOAc(5ml)に懸濁させ、エタノール(3ml)に溶解したL−乳酸(0.285g、3.13mmol)の溶液を添加した。溶液を透明になるまで加熱し、濾過した。EtOAc(5ml)を用いて洗浄し、濾過し、合わせた濾液を室温で2時間シード添加しながら撹拌した。形成された結晶性の塊を濾過により除去し、EtOAcで洗浄し、50℃で真空乾燥させ、標題化合物1.29gを得た。
1H NMR(400MHz、Me−d3−OD):7.30(s、3H)、7.18(s、1H)、6.39(s、1H)、4.91(s、4H)、4.08(q、J=6.8Hz、1H)、3.70−3.63(m、2H)、3.28−3.15(m、1H)、3.01(s、4H)、2.68(m、7H)、1.36(d、J=6.8Hz、3H)、1.23(d、J=6.9Hz、6H)。
【0559】
実施例2A
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンL−乳酸塩
実施例2Aでは、実施例1および2で説明した経路と本質的に同一の処理工程を含むが、より大きい規模の反応により適した処理条件を有する合成経路を説明する。
【0560】
工程1
4−アセトキシ−2−ヒドロキシ−安息香酸メチルエステル
トルエン(66L)中のレゾルシノールメチルエステル(16.5Kg、98.1mol)およびN,N−ジメチル−4−アミノピリジン(89.1g、0.73mol、7.4mol%)の加熱溶液(50
oC)に無水酢酸(9.9L、104.9mol)をゆっくりと(2時間かけて)加えた。この溶液をさらに1.5時間50℃まで加熱し、その後、溶媒を50℃で小容量になるまで蒸発させて除去し、残渣をトルエンと1回共沸させた。温かいうちに残油に直ちにトルエン(33L)を加え、この溶液をさらなる精製をせずに工程2で用いた。
【0561】
工程2
5−アセチル−2,4−ジヒドロキシ−安息香酸メチルエステル
N
2下、工程1からのトルエン溶液を氷浴にて冷却し、トリフルオロメタンスルホン酸(9.44L)を3時間かけてゆっくりと加えた。撹拌したところで微細な白色固体が形成され、これを室温まで温めながら20時間かけて溶解させた後、室温で37時間撹拌して黄色溶液を得た。この溶液に塩化アセチル(726ml)を加え、溶液を室温でさらに1時間撹拌した。この溶液をEtOAc(217.8L)と水(145L)に溶解したNaOAc.3H
2O(14.52Kg)との撹拌冷却(0
oC)溶液にカニューレを用いて導入した。有機相を飽和塩水で洗浄し(2回、72.6L)、5.5Kgまで蒸発させた。トルエン:イソプロパノール(2:3)を加え、結晶性固体を濾去し、乾燥させて融点124〜126℃の12.6Kg(二段階で61%)を得た。
【0562】
工程3
5−アセチル−2,4−ビス−ベンジルオキシ−安息香酸メチルエステル
アセトニトリル(184.5L)中の臭化ベンジル(16.14L、136mol)および無水炭酸カリウム(20.25Kg、147.6mol)の撹拌溶液に5−アセチル−2,4−ジヒドロキシ安息香酸メチル(14Kg、66.6mol、工程2)を6つに分けて5時間かけて加えた。この混合物を撹拌し、還流下で20時間保持し、室温まで冷却し、混合物を水(682L)の上に注ぎ、2時間激しく撹拌した。固体を遠心分離により採取し、減圧下で一晩真空炉にて60℃で一定質量まで乾燥させ、5−アセチル−2,4−ビス−ベンジルオキシ安息香酸メチル(23.5Kg、97.3%)を融点114〜115℃のクリーム色の固体として得た。
【0563】
工程4
2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸メチルエステル
無水THF(60L)中のカリウムtert−ブトキシド溶液(6.72Kg、60.1mol)を、15℃の無水テトラヒドロフラン(213L)中の臭化メチルトリフェニルホスホニウム(21.43Kg、60.1mol)および5−アセチル−2,4−ビス−ベンジルオキシ安息香酸メチル(21.3Kg、54.6mol、工程3)の撹拌懸濁液に3時間かけて加えた。この混合物を15℃で70分間撹拌し、60分間かけて20℃まで温めた。メタノール(27.3L)を加えて過剰のリンイリドをクエンチさせ、溶媒を真空濃縮した後、EtOAcおよび水を加えた。有機相を活性炭で処理し、濾過し、小容量になるまで蒸発させた。残渣を沸騰MeOHから結晶化させ、固体を吸引濾過により採取し、メタノールで洗浄し、減圧下で乾燥させて、18.1Kg(85%)の2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸メチルを融点92〜94℃の淡黄色針状物として得た(高速液体クロマトグラフィーによる純度99.6%)。
【0564】
工程5
2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸
メタノール(18.6L)および水(12.4L)中の2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸メチル(3.1Kg、8mol、工程4)の撹拌懸濁液に水酸化カリウム(0.527Kg、9.4mol)を加え、この混合物を撹拌し、還流下で3時間保持した。メタノールを部分真空下で容器から除去し、残りの溶液にトルエン(62L)を加えた。この溶液を40℃まで加熱し、この混合物に濃縮HCl(1.36L)を加えた。この二相混合物を50℃まで加熱し、相を分離する。有機相を50℃の水(31L)で洗浄し、有機相を減圧下で蒸発させて、2.851Kg(95%収率)の2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸を無色の固体として得た。
【0565】
工程6
ジ−プロプ−2−イニル−カルバミン酸ベンジルエステル
水(17.5L)およびトルエン(12.5L)中のK
2CO
3(4Kg、29.0mol)の冷却(5℃)溶液にジプロパルギルアミン(2.50Kg、26.88mol)を加えた。クロロギ酸ベンジルオキシ(4.8Kg、28.14mol)をT<10℃となるような速度で加えた。この溶液を5℃で10分間撹拌した後、室温まで温めた。水相を分離し、有機相を0.2MのHCl(12.5L)、飽和NaHCO
3(13.5L)および塩水(17L)で洗浄し、得られた溶液を工程7で用いた(6.23Kgの含有量を示した、蒸発部分に基づいて102%)。
【0566】
工程7
5−ヒドロキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル
トルエン(32.48L)中のプロパルギルアルコール溶液(2.11Kg、37.7mol)を脱気し、55℃まで加熱した。トルエン中のジ−プロプ−2−イニル−カルバミン酸ベンジルエステル(4.06Kg、17.86mol、工程6)の溶液およびウィルキンソン触媒(0.162Kg)を、温度<65℃となるように10等分に分けて加えた(発熱は、次の添加が行われるまでに緩和させた)。次いで、この溶液を55℃で1時間撹拌した後、20℃まで冷却した。DCM(8.12L)を加え、混合物を小容量になるまで濃縮した。トルエン(8L)を加え、溶液を一定重量になるまで蒸発させて5.72Kg(113%)の標題化合物を得た。
【0567】
工程8
5−メタンスルフォニルオキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル
DCM(55L)中の5−ヒドロキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル(11Kg、38.8mol、工程7)とEt
3N(7.04L、50.6mol)との冷却溶液(5℃)に、内部温度<10℃となるように塩化メタンスルホニル(2.97L、38.4mol)を加えた。5℃で0.5時間撹拌した後、この溶液を以下の工程9で用いた。
【0568】
工程9
5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル二塩酸塩
【化38】
工程8からの固体(0.232molとする)をアセトン(700ml)に溶解させ、この溶液をアセトン(330ml)中のK
2CO
3(48g)とN−メチルピペラジン(50ml、0.45mol)との冷却(内部温度15〜17℃)懸濁液に45分間かけて加えた。この懸濁液を15℃で3時間撹拌し(薄層クロマトグラフィーによる出発物質の完全除去)、溶液を小容量になるまで蒸発させ、残渣をEtOAc(1000ml)および水(500ml)と飽和塩水(50ml)との混合物で分液した。有機相を水(500ml)と飽和塩水(150ml)との混合物で洗浄し、最後に飽和塩水(300ml)で洗浄した。この溶液を乾燥させ(MgSO
4)、濾過し、この溶液にMeOH(430ml、0.43mol)中の1MのHClを加えた。この懸濁液を冷却し(0℃で30分間)、固体を濾去し、これを焼結体上でEtOAc次いでヘプタンで洗浄し、固体を乾燥させ(油ポンプ、室温72時間)、66.34g(65%)の標題化合物の収穫物1を無色の固体として得た。1H NMR(400MHz,Me−d3−OD):7.64−7.51(m,2H),7.51−7.29(m,6H),5.23(s,2H),4.79(dd,J=16.2,6.1Hz,4H),4.49(s,2H),3.66(s,8H),3.03(s,3H).
【0569】
工程9
5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル
DCM(33L)およびN−メチルピペラジン(21.45L、193.4mol)を25℃で撹拌し、工程8からの溶液を温度が20〜30℃となるように最低30分間かけて加えた。この溶液をさらに30分間撹拌した後、水(55L)を加え、有機相を水で洗浄した(2×55L)。生成物を0.8MのHCl(66L)中に抽出し、層を分離した。水相をDCM(55L)で洗浄した後、2MのNaOHでpH10〜11に塩基性化し、生成物をEtOAc中に抽出した(2×55L)。合わせた有機相を濾過して固体を除去し、蒸発させた後、トルエンと共沸させ、一定重量になるまで乾燥させて6.63kg(47%収率、高速液体クロマトグラフィーによる純度98%)の標題化合物を得た。
【0570】
工程10
5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール
EtOH(13L)に溶解した5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル(工程9、1.3Kg、3.55mol)の脱気溶液に10%Pd/C(0.065Kg)を加えた。この混合物に30℃で4時間またはNMRによる反応終了まで水素を通過させた。次いで、この溶液をN
2雰囲気下で1時間撹拌した後、GF/Fフィルタに通して触媒を濾去し、次いで、キュノ(Cuno)フィルタを通して濾過した。濾液を小容量になるまで蒸発させ、トルエン(3.9L)と共沸させ、一定重量になるまで乾燥させて標題化合物を赤色/黒色の油状固体(0.78Kg)として得、これを必要となるまで窒素下で保存した。
【0571】
工程11
(2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノン
25℃のDMF(21.2L)中の2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸(10.58Kg、28.3mol、工程5)の溶液に1,1’−カルボニルジイミダゾール(4.82Kg、29.8mol)を加えた。25℃で20分後、DMF(7.2L)中の5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール(7.2Kg、31.1mol、工程10)の溶液を35℃未満の温度に維持し、この溶液を25℃で最低12時間撹拌した。生じた固体を濾去し、酢酸イソプロピルで洗浄し(2×21.6L)、35℃で一定重量になるまで乾燥させて、8.7Kg(77%収率、高速液体クロマトグラフィーによる純度97.5%)の標題化合物を得た。
【0572】
工程12
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノン
工程11からの生成物(0.9Kg、1.53mol)をイソプロパノール(6.8L)および水(1.04L)に溶解させ、N
2でパージした後、10%Pd/C(90g)およびK
2CO
3(0.212Kg、1.53mol)を加え、懸濁液を圧力3バールのH
2下で60〜70分間水素化した。この溶液を水(0.5L)で洗浄し、濾過した。濾液にHCl水溶液(30%塩酸、0.85Kg(水5.42Kgで希釈))を加え、溶液を60℃で真空濃縮した(10Lのイソプロパノールを除去)。この溶液に水(0.45L)を加え、濃縮を継続した(さらに10Lのイソプロパノールが除去されるまで)。水相をEtOAc(4.61L)で洗浄し、アセトニトリル(4.06L)で希釈し、濃縮アンモニア溶液(0.35Kg)を加えpH7.5〜8.5に中和した。懸濁液を2.5時間撹拌した後、固体を濾去した。残渣をアセトニトリルで洗浄し(2×0.8L)、40℃で一定重量に乾燥させて588g(94%収率)の標題化合物を得た。
【0573】
工程13
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンL−乳酸塩(形態FL1)
工程12の生成物(646g、1.58mol)をエタノール(5.17L)に溶解し、溶液を濾過した。エタノール(2.59L)に溶解したL−乳酸(142g、1.58mol)の溶液を濾過し、濾過後の溶液(上記)に添加し、混合物をEtOAc(7.75L)に添加した。懸濁液を室温で12時間撹拌し、さらに2時間5℃まで冷却した。形成された固形物を濾過により除去し、EtOAc(2×2.58L)およびヘプタン(2×1.94L)で洗浄し、一定の重量になるまで35℃で乾燥させ、標題化合物(581g、収率74%)を得た。
【0574】
(実施例3)
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンジヒドロクロリド塩(形態FH3)
実施例1の生成物(0.49g、1mmol)をエタノール(10ml)に溶解し、ジオキサン(0.5ml、2mmol)中の4M HClを暖めながら溶解し、溶液を蒸発乾固させた。残渣を暖めながらエタノール:水(9:1;5ml)に溶解した。溶液をシード添加しながら16時間撹拌し、形成された固形物を濾過により除去し、真空乾燥させ、標題化合物を得た。
1H NMR(400MHz、Me−d3−OD):7.63−7.52(m、2H)、7.47(s、1H)、7.17(s、1H)、6.40(s、1H)、4.96(d、J=7.0Hz、4H)、4.47(s、2H)、3.87−3.40(m、8H)、3.30−3.16(m、1H)、3.02(s、3H)、1.23(d、J=6.9Hz、6H)。
【0575】
(実施例4)
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−エチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの合成
4A.2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−N,N−ジ−プロプ−2−イニル−ベンズアミドの合成
【化39】
ジクロロメタン(10ml)中の2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−安息香酸(実施例1工程6)(1当量)の撹拌した溶液を、N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(1.2当量)、1−ヒドロキシベンゾトリアゾール(1.2当量)、およびジプロパギルアミン(1.5当量)で順に処理し、混合物を室温で一晩撹拌した。混合物を2M塩酸および2M水酸化ナトリウムで順に洗浄し、有機相を分離し、溶媒を真空除去し、純粋な形態で得られる、あるいはシリカカラムクロマトグラフィー(石油エーテル中の酢酸エチルまたは酢酸エチル中のメタノールの混合物で適宜溶出させる)で精製される生成物を得た。MS:[M+H]
+450
【0576】
4B.1−エチル−4−プロプ−2−イニル−ピペラジンの合成
【化40】
アセトン(27ml)中の1−エチルピペラジン(2.33g、20.2mmol)およびK
2CO
3(2.79g、20.2mmol)に、臭化プロパルギル(2.00g、13.5mmol)を0℃でN
2下で滴下した。反応物を室温で一晩撹拌した。反応物を濾過し、塩を少量のアセトンで洗浄した。濾液を合わせ、蒸発させることにより緩やかに濃縮した。残渣をEtOAcに取り、水で洗浄した。水相をEtOAcで再抽出し、合わせた有機層を塩水で洗浄し、MgSO
4で乾燥させた。生成物を濾過し、蒸発乾固させ、残存する淡オレンジ色の油を得た。
【0577】
4C.(2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−フェニル)−[5−(4−エチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの合成
【化41】
標題化合物を、塩生成の代わりにカラムクロマトグラフィーを用いて精製を行ったこと以外は、実施例5Bの方法を用いて調製した。MS:[M+H]
+602。
【0578】
4D.(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−エチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの合成
【化42】
(2,4−ビス−ベンジルオキシ−5−イソプロペニル−フェニル)−[5−(4−エチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンの水素添加を、後処理および精製手順を変更したこと以外は、実施例1の工程13に記載の方法を用いて行った。すなわち、水素添加に続いて、触媒を濾過し、濾液を蒸発させた。水およびEtOAcを生成物に添加し、水相を中和した。生成物をEtOAc(×3)で抽出した。合わせた有機層を塩水で洗浄し、MgSO
4で乾燥させた。生じた溶液を濾過し、蒸発乾固させ、残存する淡黄色の油分/固形物を得た。生成物をカラムクロマトグラフィー(勾配溶出:100%DCM〜DCM中10%MeOH)を用いて精製し、生成物を淡黄色の固形物として得た。MS:[M+H]
+424。
【0579】
(実施例5)
5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドールの別の合成
5A.1−メチル−4−プロプ−2−イニル−ピペラジンの合成
【化43】
アセトン(380ml)中の1−メチルピペラジン(37.7ml、337mmol)およびK
2CO
3(46.6g、337mmol)にアセトン(70ml)中の臭化プロパルギル(25ml、225mmol、トルエン中80%)を、N
2下、0°Cで滴下した。反応物の内部温度を<10°Cに維持した。反応物を室温で3時間撹拌した。反応物を濾過し、その塩を少量のアセトンで洗浄した(2回)。濾液を合わせ、蒸発させて濃縮した(静かに)。残渣に水を加え、生成物をDCMで抽出した(3回)。合わせた有機層をブラインで洗浄し、MgSO
4で乾燥させた。生成物を濾過し、蒸発乾固して1−メチル−4−プロプ−2−イニル−ピペラジンを黄色油状物として得た。
【0580】
5B.5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸tert−ブチルエステルの合成
【化44】
EtOAc(30ml)中のN−boc−ジプロパルギルアミン溶液(36.3ml、226mmol、純度86%)を調製し、分液漏斗にてN
2を通気させることにより脱気した。別の分液漏斗にて予め脱気したEtOAc(15ml)にトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド(1.39g、1.50mmol、1mol%)を加えた。(注:CpRu(COD)Cl)を別の触媒として用いてもよい)。
【0581】
メインの反応フラスコにて、1−プロパルギル−4−メチルピペラジン(32.3ml、150mmol、純度90%)をEtOAc(75ml)で希釈し、混合物にN
2を通気することによって脱気した。この混合物を氷−水浴にて冷却した後、EtOAc中のトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド(1.39g、1mol%)を加えた。N−boc−ジプロパルギルアミン/EtOAcをゆっくりと加え、穏やかな発熱を生じさせた。内部温度は25°Cまで上昇し、この温度を維持した。添加が約3分の1(約45分)終了した後、発熱は次第に弱まった(N−boc−ジプロパルギルアミン/EtOAcをゆっくりと加え続けたにもかかわらず)。EtOAc(15ml、予め脱気)中のトリス(トリフェニルホスフィン)ロジウム(I)クロリド触媒(1.39g、1mol%)の別の分量を調製し、反応物に極めてゆっくりと加えた。数分の後、新たな発熱が開始し、30℃まで進んだ。水浴に少量の氷をくわえることで反応物の温度をゆるやかに冷却した。一旦発熱が収まると、N−boc−ジプロパルギルアミン/EtOAcのゆっくりとした添加を続けた。添加は全体で2時間かけて行われた。その後、反応混合物を室温で一晩放置した後、EtOAcで希釈し、NH
4Clで洗浄し(2回)(水溶液、飽和)、過剰の1−プロパルギル−4−メチルピペラジンを除去した。混合物を少量の水で希釈してその塩を溶解させた。有機層を水およびブラインで洗浄し、MgSO
4で乾燥させた。生成物を濾過し、蒸発乾固すると褐色油状物が残った。
【0582】
得られた残油にn−ヘプタンを加えた。油/ヘプタンを赤色析出物が形成されるまで(約10分間)放置した。この析出物を濾過し、新らたなn−ヘプタンで洗浄した(2回)。濾液を乾燥させ、生成物を赤色油状物として得た。
【0583】
この所望の生成物をトルエンスルホン酸(TsOH)塩を形成することによりさらに精製した。したがって、粗生成物をMeOH(20ml)に取り、TsOH.H
2O(NMRによる予測純度に対して1当量)を加えた。この溶液を蒸発乾固した後、トルエンに溶解させ(1回)、再蒸発させた。得られた生成物をエーテルに取った。数分後、析出物および溶液が生じた。析出物を濾過し、濾液が無色になるまでさらなるエーテルで洗浄した(2回)。黄色固体を乾燥させ、生成物をTsOH塩として得た。MS:[M+H]
+332。
【0584】
5C.5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドールの合成
【化45】
トシル酸イソインドリンをDCM(0.3M)に取り、TFA(12当量)を0℃でゆっくりと加えた。反応物を室温で一晩撹拌した。反応物を蒸発乾固した後、トルエン/MeOHとともに蒸発させ(3回)、生成物を酸付加塩の混合物として得た。MS:[M+H]
+232。
【0585】
実施例5Cの化合物は、実施例80の方法の工程12に用いることができる。
【0586】
(実施例6)
5−ヒドロキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステルの別の合成
6A.2−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−カルボン酸メチル
【化46】
無水テトラヒドロフラン(25ml)中のベンジルアミン(3.21g、30.0mmol)を無水テトラヒドロフラン(50ml)中の3,4−ビス−(ブロモメチル)安息香酸メチル(9.66g、30.0mmol)(フルオロケム(Fluorochem)から入手)とトリエチルアミン(9ml、64.7mmol)との撹拌混合物に加え、得られた混合物を室温で3時間撹拌した。溶媒を真空下40℃で除去し、残渣を酢酸エチル(100ml)と水(100ml)とで分液した。有機層をさらなる分量の水(100ml)で洗浄し、分離し、溶媒を真空下40℃で除去して、2−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−カルボン酸メチルを淡橙色固体として得、これを以下に示すようにさらなる精製をせずに直ちに用いた。
1H NMR(DMSO−d
6)7.82(2H,m),7.40−7.25(6H,m),3.90(3H,s),3.88(2H,s),3.84(4H,s)。MS:[M+H]
+268。
【0587】
6B.(2−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−イル)−メタノール
【化47】
2−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−カルボン酸メチル(上記からの)を無水テトラヒドロフラン(75ml)に溶解させ、無水テトラヒドロフラン(75ml)中の水素化アルミニウムリチウム(1.71g、45.0mmol)の急速に撹拌した懸濁液に15分間かけて滴下した。この混合物を室温で2時間撹拌し、1M硫酸ナトリウム溶液(12ml)をゆっくりと滴下することで過剰の水素化アルミニウムリチウムを無効化した。固体を濾去し、酢酸エチルですすぎ(2×50ml)、吸引乾燥させた。溶媒を真空下で除去し、(2−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−イル)−メタノール(7.15g、99%)を黄褐色固体として得た。
1H NMR(DMSO−d
6)7.40−7.30(4H,m),7.28(1H,m),7.17−7.10(3H,m),5.10(1H,t),4.47(2H,d),3.85(2H,s),3.82(2H,s),3.80(2H,s).MS:[M+H]
+240.
【0588】
6C.(2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−イル)−メタノール
【化48】
エタノール(60ml)中の(2−ベンジル−2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−イル)−メタノール溶液(2.39g、10.0mmol)に10%パラジウム活性炭素(200mg)を加え、得られた混合物をパー(Parr)装置に入れ、50℃まで加熱し、水素雰囲気下60psiで30時間振盪した。室温まで冷却したところで混合物を重力下で濾過し,固体をエタノールですすぎ(2×10ml)、溶媒を真空下で除去し、(2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−イル)−メタノール(1.49g、100%)を灰白色固体として得た。
1H NMR(DMSO−d
6)7.20(1H,s),7.18(1H,d),7.12(1H,d),5.10(1H,br s),4.46(2H,s),4.05(4H,s).MS:[M+H]
+150.
【0589】
6D.5−ヒドロキシメチル−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−カルボン酸ベンジルエステル
【化49】
無水テトラヒドロフラン(50ml)中の(2,3−ジヒドロ−1H−イソインドール−5−イル)−メタノール(1.34g、9.0mmol)の混合物を静かに温めて溶解を促進し、室温まで冷却した。トリエチルアミン(1.5ml、10.8mmol)を加え、撹拌混合物をクロロギ酸ベンジル(1.35ml、9.5mmol)を滴下して処理し、室温で3時間撹拌した。溶媒を真空下で除去し、残渣を酢酸エチル(30ml)と2M塩酸(30ml)とで分液した。有機層を水(30ml)で洗浄し、分離し、溶媒を真空下で除去して桃色油状物を得、これを放置したところ固化した。固体をヘキサン(10ml)中10%酢酸エチルで析出させ、濾過し、ヘプタン(10ml)ですすぎ、吸引乾燥させて標題化合物(2.5g、98%)を淡桃色固体として得た。
1H NMR(DMSO−d
6)7.45−7.21(8H,m),5.20(1H,t),5.17(2H,s),4.71(2H,br s),4.64(2H,br s),4.50(2H,d).MS:[M+H]
+284.
標題化合物は、実施例1の工程9において用いることができる。
【0590】
生物学的活性
(実施例7)
等温滴定熱量測定
本発明の化合物の、ヒトHsp90タンパク質と結合する能力は、等温滴定熱量測定法を用いて測定した。
【0591】
等温滴定熱量測定(ITC)実験は、VP−ITC滴定熱量計(マイクロカル社(Microcal Inc.)、ノーザンプトン、マサチューセッツ州、米国)を用いて行った。ヒトHsp90αN末端ドメインのクローニング、発現および精製は、出版済みの方法(ジェズ(Jez, J.M.)ら、ケミストリーアンドバイオロジー(Chem Biol.)、2003年、4月;10(4):361−8)に従って行った。ヒトHsp90αN末端ドメインと化合物との溶液は、25mM Tris、100mM NaCl、1mM MgCl
2、1mM TCEP、5%DMSO、pH7.4を含む緩衝液中で調製した。溶液は全て滴定を行う前に濾過し脱気した。リガンドの注入毎に生じるエンタルピーの変化は、熱量シグナルの積分によって得た。データはOrigin7.0(マイクロカルソフトウェア社(Microcal Software Inc.)、ノーザンプトン、マサチューセッツ州)を用いて解析した。希釈液の熱を個々の各滴定の最終の注入を用いて予測し、データフィッティングの前に差し引いた。広範な親和性にわたって化合物解離定数(Kd)を得るために、種々のITC試験形式を用いた。結合の弱い化合物には、低c値ITC法を用いた(ターンブル(Turnbull W.B.)およびダラナス(Daranas A.H.)、ジャーナル・オブ・アメリカンケミカルソサエティー(J. Am. Chem. Soc.)、2003年12月3日;125(48):14859−66)、この場合、タンパク質は熱量測定セル中に10〜20μMで存在し、化合物濃度は注入シリンジ中で1〜20mMであった。この種の試験では、化学量論パラメーター(N)はデータフィッティングのため1で固定した。20〜0.004μM範囲におけるKdについて、結合部位濃度をKd(c値)で割ったものが5〜1000の間となるように試験を構成した。これらの試験の大部分では、熱量測定セル中のタンパク質濃度は4〜100μMの範囲であり、注入シリンジ中のリガンド濃度は50〜1500μMの範囲であった。まれではあるが化合物の溶解度が限定的である場合には、化合物溶液を熱量測定セルに入れ、c値を5〜1000の間に維持しつつ、注射シリンジからのタンパク質で滴定した。競合的ITC試験を用い、シグルスキヨルド(Sigurskjold, B.W.)、アナリティカルバイオケミストリー(Anal Biochem.)、2000年1月15日;277(2):260−6に記載の方法により、より弱い結合競合物の存在下で滴定を行うことにより、Kd<4nMにアクセスした。
【0592】
化合物(1)は、0.1マイクロモル未満のK
d値を有する。
【0593】
(実施例8)
抗増殖活性
ヒト結腸癌細胞株HCT116などの多くの細胞株における細胞増殖を阻害する化合物の能力を測定することにより、本発明の化合物の抗増殖活性を測定することができる。細胞増殖の阻害はアラマーブルー(Alamar Blue)アッセイ(ノシアリ(Nociari, M.M)、シャレフ(Shalev, A.)、ベナイアス(Benias, P.)、ルッソ(Russo, C.)、ジャーナル・オブ・イミュノロジカルメソッズ(Journal of Immunological Methods)1998年、213、157〜167)を用いて測定される。前記方法はレザズリンをその蛍光産物レゾルフィンへ還元する生細胞の能力に基づいている。各増殖アッセイにおいては、細胞を96ウェルプレートに入れ、16時間培養してから、さらに72時間阻害剤化合物を加える。インキュベーションの終了時に10%(v/v)アラマーブルー(Alamar Blue)を加え、さらに6時間インキュベートしてから、535nM ex/590nM emにより蛍光産物を調べる。非増殖細胞アッセイの場合には、細胞を96時間集密状態で維持してから、さらに72時間阻害剤化合物を加える。生細胞の数を前記のようにアラマーブルーアッセイで調べる。細胞株はECACC(ヨーロピアンコレクションオブセルカルチャー(European Collection of cell Cultures))から入手できる。
【0594】
化合物(1)は、HCT116細胞株に対して0.1マイクロモル未満のIC
50値を有する。
【0595】
(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンL−乳酸塩の抗増殖活性は、オンコデザイン(Oncodesign)(ディジョン、フランス)により100個の細胞株に対するアッセイ中で試験された。各細胞株に対するIC
50値は、下記表に記載され、表中の数字はナノモル濃度を表す。化合物は最大10000ナノモルの濃度まで試験された。
【表1】
【0596】
結果は(2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンL−乳酸塩が広範囲の異種細胞株に対して強力な抗増殖活性を有していることを実証する。
【0597】
医薬製剤
(実施例9)
(i)錠剤製剤
式(1)または式(2)の化合物を含有する錠剤組成物は、化合物50mgと、希釈剤としてのラクトース(BP)197mgと、滑沢剤としてのステアリン酸マグネシウム3mgとを混合し、公知の方法で打錠することにより調製される。
【0598】
(ii)カプセル製剤
カプセル製剤は、式(1)または式(2)の化合物100mgとラクトース100mgとを混合し、得られた混合物を標準的な不透明硬ゼラチンカプセルに充填することにより調製される。
【0599】
(iii)注射用製剤I
注射投与用の非経口組成物は式(1)または式(2)の化合物(例えば、塩形態で)を、10%プロピレングリコールを含有する水に溶解し、有効化合物濃度1.5重量%とすることにより調製することができる。この溶液は次に濾過除菌され、アンプルに充填および密閉される。
【0600】
(iv)注射用製剤II
注射用の非経口組成物は、式(1)(例えば、塩形態で)または式(2)の化合物(2mg/ml)およびマンニトール(50mg/ml)を水に溶解し、溶液を濾過滅菌し、密封可能な1mlバイアルまたはアンプルに充填することにより調製される。
【0601】
(v)注射用製剤III
注射または点滴による静脈内送達用の製剤は、水に式(1)(例えば、塩形態で)または式(2)の化合物を20mg/mlで溶解することにより調製できる。次いで、バイアルは密封され、オートクレーブ処理により滅菌される。
【0602】
(vi)注射用製剤IV
注射または点滴による静脈内送達用の製剤は、緩衝剤(例えば、0.2M酢酸、pH4.6)を含有した水に式(1)(例えば、塩形態で)または式(2)の化合物を20mg/mlで溶解することにより調製できる。次いで、バイアルは密封され、オートクレーブ処理により滅菌される。
【0603】
(vii)皮下注射製剤
皮下投与用組成物は、式(1)または(2)の化合物を医薬級のコーン油と混合して濃度5mg/mlとすることにより調製される。この組成物を滅菌し、適切な容器に充填する。
【0604】
(viii)凍結乾燥製剤
式(1)または式(2)の処方化合物のアリコートを50mlバイアルへ入れ凍結乾燥する。凍結乾燥の間、−45℃でワンステップ凍結プロトコルを用いて組成物を凍結する。温度をアニーリングのために−10℃に上げ、次いで低下させて−45℃で凍結し、次いでほぼ3400分かけて+25℃で一次乾燥させ、徐々に50℃まで昇温して二次乾燥を行う。一次乾燥および二次乾燥中の圧力は80ミリトルに設定する。
【0605】
(ix)2%局所用ゲル製剤
%w/w
化合物 2.00
ヒドロキシプロピルメチルセルロース(Methocel F4M)
2.50
ポリエチレンオキシド(Polyox WSR−205) 0.25
プロピレングリコール 10.00
メチルパラベン 0.15
プロピルパラベン 0.05
精製水 100.00まで
【0606】
(実施例10)
結晶構造研究
式(1)の化合物およびその塩は数多くの異なる結晶形態で存在する。これらは、以下に記載の方法を用いて同定され、特性決定される。
【0607】
一般的方法
単結晶回折方法論
φゴニオメーターを装着したESRF ID23.1ビームラインからのシンクロトロン照射(λ=0.775Å)およびADSCクアンタム(Quantum)315CCD検出器を用いて、結晶学的データを室温(20℃)で収集した。一方は高放射線量であり他方は低放射線量である2つのφ走査(φ=0〜180°およびΔφ=1°)で画像を収集した。検出器と結晶との間の距離は110mmであった。データ収集は、ProDCソフトウェアで制御し、画像の処理や目盛付けはDtrekで行った。
【0608】
結晶構造は、SHELXS−97で実行される直接法を用いて解析され、SHELXL−97で精緻化された。水素原子は幾何学的見地で捉え、一方で、へテロ原子に結合した水素原子の位置はFo−Fc差マップの調査により確認した。水素原子の位置パラメータおよび熱パラメータは対応する非水素原子上にあるものとした。非水素原子の熱運動は異方性温度要因によりモデル化した。
【0609】
粉体回折方法論
X線粉末回折(XRPD)データ収集用の試料を大理石乳鉢で静かに粉砕し、結晶解析用キャピラリー(ハンプトンリサーチ(Hampton Research)、石英またはガラスタイプ10、0.4または0.7mm径)中へ投入した。回折パターンは、リガク(Rigaku)回転陽極RU3HRからのCuKα線(λ=1.5418Å)、オスミックブルー(Osmic blue)共焦点光学機器、1/4cゴニオメーターおよびリガクHTCイメージプレート検出器を使用して、室温で収集した。250mmの検出器対結晶距離でφ軸を回転させながら、2D画像を収集した。データ収集はクリスタルクリア(CrystalClear)ソフトウェアにより制御し、2D画像はデータスクイーズ(Datasqueeze)により1Dプロット(2θ対強度)に変換した(0.02°工程で2θ範囲3〜30°にわたり方位角0<χ<360°で平均した強度)。自社のプログラムAstex XRPDを1D XRPDパターンの操作および視覚化に用いた。
【0610】
滴定実験による塩化学量の測定
塩に関係し、塩の化学量が与えられる以下の実施例において、化学量は以下の滴定方法を用いて求めた。
【0611】
150mMのKClと20mMのHClとの溶液(KCl/HCl溶液)を、滴定実験のバッチ毎に新しく調製した。一定分量1mlの溶液を滴定し、このように作成された電位差滴定曲線を対照曲線として用いた。全ての滴定は、メトラートレド(Mettler Toledo)MP220pH計測器を用いて、25℃で2μl工程で300mMのKOHを用いて行った。電極電位読取り値は、毎日のバッチ計測の前後に4つの標準緩衝剤で記録した。化合物(1)塩の試料(1〜3mg)を1mlのKCl/HCl溶液に溶解し、小型のマグネットスターラーを用いて激しく撹拌しながら滴定した。記録された電極電位を、4つの標準緩衝剤からの検量線を用いてpH値へと変換した。試料および対照滴定データを処理して、pH範囲2〜12のビヨラム(Bjerrum)プロットを作成した。ビヨラムプロットの計算および分析方法は、レビュー「物理化学的プロファイリング(溶解度、透磁率、帯電状態)(Physicochemical Profiling(Solubility, Permeability and Charge State))」、アブディーフ(A. Avdeef)、カレントトピックス・イン・メディカルケミストリー(Current Topics in Medicinal Chemistry)、2001年、277〜351頁)に記載されている。
【0612】
化合物(1)塩の化学量は、開始nH(pH=2でのプロトン数)より推論される(すなわち、遊離塩基は−2のプロトンで開始し、単塩は−1のプロトンで開始し(化合物(1)
+酸
−)、一方、複塩はnH=0で開始する(化合物(1)
2+酸
2−または化合物(1)
2+2
*酸
−))。
【0613】
10A.遊離塩基塩形態
(A−i)遊離塩基結晶形態FB1
化合物(1)の飽和1−ブタノール溶液を室温で調製した。約4倍の体積のジ(イソプロピル)エーテルでゆっくりと沈殿させることにより、結晶形態FB1を得た。形成直後の試料をXRPD分析することにより、
図1に示すパターンおよび表1に挙げる主たるピークを得た。空気中で3日間乾燥後、結晶形態FB1が完全に結晶形態FB3に変換されたことを示す新規なXRPDパターンを得た。
【0614】
表1.化合物(1)の形態FB1の主たるXRPDピーク
【表2】
【0615】
(A−ii)遊離塩基結晶形態FB2
化合物(1)の飽和THF溶液を室温で調製した。約4倍の体積の酢酸イソプロピルでゆっくりと沈殿させることにより、結晶形態FB2を得た。形態FB2の形成直後の試料のXRPDパターンを
図2に示す。XRPDパターンにおける主たるピークを表2に挙げる。試料を空気中で3日間乾燥させ、結晶形態FB2が結晶形態FB3に変化したことを示す新規なXRPDパターンを得た。
【0616】
表2.化合物(1)結晶形態FB2の主たるXRPDピーク
【表3】
【0617】
(A−iii)遊離塩基結晶形態FB3
上記のように形態FB1およびFB2から、または遊離塩基の溶液を蒸発させることにより結晶形態FB3を得た。結晶形態FB3のXRPDパターンを
図3に示す。主たるピークを表3に挙げる。結晶形態FB3は、空気中40℃かつ75%RHで少なくとも1カ月間安定していたことが分かった。
【0618】
表3.化合物(1)結晶形態FB3の主たるXRPDピーク
【表4】
【0619】
(A−iv)遊離塩基結晶形態FB4
結晶形態FB4は化合物(1)のエタノール溶液の析出実験において観察された。単結晶X線分析により、結晶形態が二水和物であることが分かった。化合物(1)の飽和エタノール溶液を室温で調製した。約4倍の体積のイソプロピルエーテルでゆっくりと沈殿させることにより、結晶形態FB4を得た。結晶形態FB4は、空気中で安定していることが分かった。形態FB4のXRPDパターンを
図4に示す。主たるピークを表4に挙げる。結晶のパッキング図および原子座標を
図5および表5に示す。
【0620】
表4.化合物(1)結晶形態FB4の主たるXRPDピーク
【表5】
【0621】
表5.化合物(1)結晶形態FB4の結晶構造の単位胞パラメータおよびcif形式での座標
【表6】
【0622】
(A−v)遊離塩基結晶形態FB5
形態FB5は、化合物(1)のイソプロパノール溶液を用いた結晶化実験でのみ観察された不安定な形態である。形態FB5は空気中でFB6に形質転換する。いずれの理論によっても拘束されることを望まないが、FB5はイソプロパノール溶媒和物であると考えられる。
【0623】
形態FB5は、化合物(1)の飽和イソプロパノール溶液を室温で調製し、次いで、約4倍の体積の酢酸イソプロピルでゆっくりと析出させることにより形成された。形成直後の試料のXRPDパターンを
図6に示す。主たるピークを表6に挙げる。FB5の試料を空気中で2日間乾燥させた。その後に行われたXRPD分析により、形態FB6に変換されていることが分かった。
【0624】
表6.化合物(1)のFB5の主たるXRPDピーク
【表7】
【0625】
(A−vi)遊離塩基結晶形態FB6
形態FB6は、形態FB5の経時変化により生成される生成物としてのみ観察された。形態FB6は空気中で安定している。形態FB5を2日間空気中で乾燥させて調製した形態FB6の試料のXRPDパターンを
図7に示す。主たるピークのリストを表7に挙げる。
【0626】
表7.化合物(1)の形態FB6の主たるXRPDピーク
【表8】
【0627】
10B.化合物(1)の塩酸塩の1:2塩結晶形態
(B−i)化合物(1)の塩酸塩(形態FH1)
EtOAc/HCl次いでMeOHを、溶液が形成されるまで、2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンに添加した。溶媒を蒸発させ、トルエン次いでMeOHで再蒸発させることにより乾燥させ、2,4−ジヒドロキシ−5−イソプロピル−フェニル)−[5−(4−メチル−ピペラジン−1−イルメチル)−1,3−ジヒドロ−イソインドール−2−イル]−メタノンをジ−HCl塩として得た。当該形態は吸湿性が高く、空気中の水分に溶解する。XRPDパターンを
図8に示す。主たるピークを表8に挙げる。
【0628】
表8.化合物(1)の塩酸塩形態(FH1)の主たるXRPDピーク
【表9】
【0629】
(B−ii)化合物(1)の塩酸塩(形態FH2)
形態FH2は、形態FH1のDMSOまたはDMF溶液を用いた析出実験において観察された。当該形態は、空気中で形態FH3に形質転換する。形態FH1(B−i)の飽和DMF溶液を室温で調製した。約4倍の体積のアセトンでゆっくりと析出させることにより、形態FH2を得た。形態FH2の形成直後の試料のXRPDパターンを
図9に示す。主たるピークを表9に挙げる。形態FH2の試料を空気中で2日間乾燥させた。その後に行われたXRPD分析により、形態FH3に変換されていることが分かった。
【0630】
表9.化合物(1)の塩酸塩(形態FH2)の主たるXRPDピーク
【表10】
【0631】
(B−iii)化合物(1)の塩酸塩(形態FH3)
形態FH3は、形態FH2の経時変化だけではなく、形態FH1のエタノールまたはイソプロパノール溶液を用いた析出実験においても観察された。形態FH3は、空気中40℃かつ75%RHで少なくとも1カ月間安定している。形態FH3の調製は上記実施例3に記載されている。形態FH3のXRPDパターンを
図10に示す。主たるピークを表10に挙げる。
【0632】
表10.化合物(1)の塩酸塩(形態FH3)の主たるXRPDピーク
【表11】
【0633】
(B−iv)化合物(1)の塩酸塩(形態FH4)
形態FH4は1つの析出実験(DMF/ジオキサン)においてのみ観察された。当該形態は不安定であり、空気中で崩壊する。DMF中の形態FH1の飽和溶液を室温で調製した。約4倍の体積の1,4−ジオキサンでゆっくりと析出させることにより、形態FH4を得た。FH4の形成直後の試料のXRPDパターンを
図11に示す。主たるピークを表11に挙げる。試料は空気中で崩壊した。
【0634】
表11.化合物(1)の塩酸塩(形態FH4)の主たるXRPDピーク
【表12】
【0635】
(B−v)化合物(1)の塩酸塩(形態FH5)
形態FH5は、1つの析出実験(メタノール/アセトン)においてのみ観察された。当該形態は不安定であり、湿気を帯びた空気に溶解する。形態FH1の飽和メタノール溶液を室温で調製した。約4倍の体積のアセトンでゆっくりと析出させることにより、形態FH5を得た。FH5の形成直後の試料のXRPDパターンを
図12に示す。主たるピークを表12に挙げる。試料は空気中で崩壊する。
【0636】
表12.化合物(1)塩酸塩(形態FH5)の主たるXRPDピーク
【表13】
【0637】
10C.化合物(1)のL−乳酸塩の1:1塩結晶形態
(C−i)化合物(1)のL−乳酸塩(形態FL1)
L−乳酸塩形態FL1を上記実施例2に記載の通りに調製した。
【0638】
形態FL1は、空気中40℃かつ75%RHで少なくとも1カ月間安定している。形態FL1のXRPDパターンを
図13に示す。主たるピークを表13に挙げる。
【0639】
表13.化合物(1)の乳酸塩(形態FL1)の主たるXRPDピーク
【表14】
【0640】
(C−ii)化合物(1)のL−乳酸塩(形態FL2)
形態FL2は、形態FL1のメタノール溶液の析出実験において観察された。単結晶X線分析により、形態FL2が水和されていることが分かった。3つの結晶水位置が非対称ユニットに存在するために見かけ上は三水和物であるが、室温かつ実験室湿度で完全に(100%)占有されていない。メタノール:水9:1中の形態FL1の飽和溶液を室温で調製した。約4倍の体積のアセトンでゆっくりと沈殿させることにより、空気中で安定した形態FL2を得た。形態FL2のXRPDパターンを
図14に示す。主たるピークを表14に挙げる。結晶のパッキング図を
図15に示し、原子座標を表15に挙げる。
【0641】
表14.化合物(1)の乳酸塩(形態FL2)の主たるXRPDピーク
【表15】
【0642】
表15.化合物(1)の乳酸塩(形態FL2)の結晶構造の単位胞パラメータおよびcif形式での座標
【表16】
【0643】
(C−iii)化合物(1)のL−乳酸塩(形態FL3)
形態FL3は、形態FL1のTHF溶液の析出実験において観察された。形態FL3は、空気中で形態FL1に形質転換する。形態FL1の飽和THF溶液を室温で調製した。約4倍の体積のヘプタンでゆっくりと析出させることにより、形態FL3を得た。形態FL3の形成直後の試料のXRPDパターンを
図16に示す。主たるピークを表16に挙げる。FL3の試料を空気中で2日間乾燥させた。その後に行われたXRPD分析により、形態FL1に変換されていることが分かった。
【0644】
表16.化合物(1)の乳酸塩(形態FL3)の主たるXRPDピーク
【表17】
【0645】
10D.化合物(1)の硫酸塩の1:1塩結晶形態
(D−i)化合物(1)の硫酸塩(形態FS1)
形態FS1は、アセトニトリルを析出剤として用いた結晶化実験において観察された。形態FS1は空気中で不安定であり、形態FS3に形質転換する。水中の化合物(1)の1:1塩の飽和溶液(化合物(1)をH
2SO
4に溶解させ、蒸発乾固させることによって調製)を室温で調製した。約4倍の体積のアセトニトリルでゆっくりと析出させることにより、形態FS1を得た。FS1のXRPDパターンを
図17に示す。主たるピークを表17に挙げる。
【0646】
表17.化合物(1)の硫酸塩(形態FS1)の主たるXRPDピーク
【表18】
【0647】
化合物(1)の硫酸塩(形態FS2)
形態FS2は空気中で不安定であり、形態FS5に形質転換する。40℃かつ75%RHで保持された場合、形態FS2は形態FS4に形質転換する。化合物(1)を1mol当量の濃H
2SO
4に溶解し、約4倍の体積のアセトニトリルで析出させ、形成された結晶性の塊を濾過した。FS2のXRPDパターンを
図18に示す。主たるピークを表18に挙げる。
【0648】
表18.化合物(1)の硫酸塩(形態FS2)の主たるXRPDピーク
【表19】
【0649】
化合物(1)の硫酸塩(形態FS3)
形態FS3は、空気中で経時変化後の形態FS1から得られる生成物、および暖かく湿気のある環境(40℃、75%RH)で形態FS6が形質転換することにより得られる生成物として観察された安定した形態である。形態FS1を2日間空気中で乾燥させて調製した形態FS3の試料のXRPDパターンを
図19に示す。主たるピークを表19に挙げる。
【0650】
表19.化合物(1)の硫酸塩(形態FS3)の主たるXRPDピーク
【表20】
【0651】
化合物(1)の硫酸塩(形態FS4)
形態FS4は、暖かく湿気のある環境(40℃、75%RH)で形態FS2が形質転換することにより得られる生成物としてのみ観察された安定した形態である。形態FS2を数週間40℃かつ75%RHでインキュベートして調製した形態FS4の試料のXRPDパターンを
図20に示す。主たるピークを表20に挙げる。
【0652】
表20.化合物(1)の硫酸塩(形態FS4)の主たるXRPDピーク
【表21】
【0653】
化合物(1)の硫酸塩(形態FS5)
形態FS53は、形態FS2の空気中での経時変化により生成される生成物、および乾燥した環境(20℃、11%RH)で形態FS4が形質転換することにより得られる生成物として観察された安定した形態である。形態FS2を2日間空気中で乾燥させて調製した形態FS5の試料のXRPDパターンを
図21に示す。主たるピークを表21に挙げる。
【0654】
表21.化合物(1)の硫酸塩(形態FS5)の主たるXRPDピーク
【表22】
【0655】
化合物(1)の硫酸塩(形態FS6)
形態FS6は、形態スクリーニング中に数多くの異なる結晶化実験において同定された。形態FS6は空気中で安定しているが、暖かく湿気のある環境(40℃、75%RH)で形態FS3に形質転換する。
【0656】
化合物(1)の1:1硫酸塩の飽和DMF溶液(化合物(1)をH
2SO
4に溶解させ、蒸発乾固させることによって調製)を室温で調製した。約4倍の体積のトルエンでゆっくりと析出させることにより、形態FS6を得た。FS6のXRPDパターンを
図22に示す。主たるピークを表22に挙げる。
【0657】
表22.化合物(1)の硫酸塩(形態FS6)の主たるXRPDピーク
【表23】
【0658】
(実施例11)
抗真菌活性の測定
式(I)の化合物の抗真菌活性を、以下のプロトコルを用いて測定する。
【0659】
化合物を、カンジダ・パラプシロシス(Candida parapsilosis)、カンジダ・トロピカリス(Candida tropicalis)、カンジダ・アルビカンス(Candida albicans)−ATCC36082、およクリプトコッカス・ネオフォルマンス(Cryptococcus neoformans)を含む真菌のパネルに対して試験する。試験生物を、サブローデキストロース寒天斜面培地の斜面で4℃で保持する。0.05モルホリンプロパンスルホン酸(MOPS)を含むアミノ酸含有酵母窒素基礎培地(YNB)(ディフコ社(Difco)、ミシガン州デトロイト)(pH7.0)中で、回転ドラム上で27℃で一晩酵母を増殖させることにより、各生物の単一体懸濁液を調製する。次に、この懸濁液を遠心分離し、0.85%NaClで2回洗浄した後、洗浄した細胞懸濁液を4秒間超音波処理する(ブランソン社(Branson)製ソニファイアー(Sonifier)、350型、コネチカット州ダンバリー)。単一体出芽胞子を血球計算盤でカウントし、0.85%NaClで所望の濃度に調節する。
【0660】
試験化合物の活性を、微量液体希釈法の改良法を用いて測定する。試験化合物を、DMSO中に希釈して1.0mg/mlの比率とした後、MOPSを含むYNB培地(pH7.0)で64μg/mlに希釈し(対照としてフルコナゾールを使用)、各化合物の使用液を調製する。96ウェルプレートを用い、ウェル1およびウェル3〜12を、YNB培地を用いて調製し、化合物溶液の10倍希釈液を、ウェル2〜11(濃度範囲は64〜0.125μg/ml)中に調製する。ウェル1は、無菌対照および分光光度アッセイのブランクとして用いる。ウェル12は増殖対照として用いる。このマイクロタイタープレートのウェル2〜11に各々10μlを接種する(最終接種量は、10
4生体/mlである)。接種したプレートを、35℃で48時間インキュベートする。MIC値は、ボルテックスミキサー(ボルテックス・ジェニー(Vortex-Genie)ミキサー、サイエンティフィック・インダストリーズ社(Scientific Industries, Inc.)、ニューヨーク州ボヘミア)で2分間プレートを撹拌した後、420nmで吸光度を測定することにより(自動マイクロプレートリーダー(Automatic Microplate Reader)、デュポン・インストルメンツ社(DuPont Instruments)、デラウエア州ウィルミントン)、分光光度法で測定する。MIC終点は、対照ウェルと比較して増殖の約50%(またはそれ以上)の減少を示す最低薬剤濃度として定義される。濁度アッセイによれば、これは、ウェルにおける濁度が対照の50%未満である最低薬剤濃度(IC50)として定義される。96ウェルプレートの全てのウェルをサブローデキストロース寒天(SDA)プレートで継代培養し、35℃で1〜2日間インキュベートした後、生存率を確認することにより、最小細胞溶解濃度(MCC)を測定する。
【0661】
(実施例12)
疼痛低減または疼痛防止活性の試験方法
(i)炎症性痛覚過敏試験
機械的痛覚過敏は、炎症性疼痛のラットモデルで検査可能である。増加する圧迫刺激に対する足底逃避閾値は、左後足底へのフロイント完全アジュバント(FCA)の足底内注射前の未処理の動物において、鎮痛効果測定装置(ウゴバジレ社(Ugo Basile)、ミラノ)を用いたランダルセリット(Randal-Sellito)法により測定される。24時間後、足底逃避閾値を、薬剤または賦形剤投与に先立って(投与前)再び測定し、投与後10分間〜6時間にも測定する。同側足底における痛覚過敏の後退は、以下の式にしたがって計算する。
【数1】
【0662】
(ii)神経障害性痛覚過敏試験
機械的痛覚過敏は、左座骨神経の部分的結紮により引き起こされる神経障害性疼痛のラットモデルにおいて検査可能である。外科手術の約14日間後、結紮を行った足底(同側)および結紮を行わない足底(対側)の両方の機械的逃避閾値を、薬剤または賦形剤投与に先立って(投与前)測定し、投与後10分間〜6時間にも測定する。各時点における痛覚過敏の後退は、以下の式にしたがって計算する。
【数2】
【0663】
全ての実験は、6体の動物群を用いて行なう。薬剤の固形濃縮物を蒸留水中に溶解し、体積4ml/kgで皮下投与するために0.9%食塩水中に希釈した。全ての薬剤をプラスチックのバイアル中に調製し、暗所に保存する。
【0664】
測定を繰り返し行いANOVA次いで、テューキーHSD検定を用いて、逃避閾値読取り値(g)の統計分析を行う。有効性とは、採用された投与量で観察される最大の痛覚過敏の後退を意味する。
【0665】
(iii)骨癌疼痛のラットモデルにおける式(0)の化合物効果の試験
成体雌ラットに、MRMZ−1ラット乳腺癌腫細胞(3μl、10
7細胞/ml)を脛骨内注射する。典型的には、細胞注射後12〜14日目から、機械的痛覚過敏、機械的異痛(非侵害刺激に対する皮膚過敏)、および後肢の擁護動作(hind limb sparing)が徐々に動物に現れる。式(0)の化合物(例えば、投与量10および30μg/Kg皮下)を細胞注射の日から週3回投与し、後肢保護および機械的異痛の阻害の程度を、賦形剤を用いて治療した対照と比較して測定する。
【0666】
均等
上記の実施例は、本発明を説明する目的で記載したものであり、本発明の範囲を何ら限定するものではない。上記に記載し、また、実施例で示す本発明の特定の実施形態に対して、本発明の原理から逸脱することなく、多くの改変および変更をなし得ることは容易に明らかである。このような改変および変更は総て本願に含まれるものとする。
また、本発明によれば以下の発明が提供される。
(1)式(1)の化合物の酸付加塩。
【化50】
(2)薬学的に許容される(1)に記載の酸付加塩。
(3)塩酸、乳酸または硫酸で形成された塩である、(1)または(2)に記載の酸付加塩。
(4)L−乳酸で形成された塩である、(3)に記載の酸付加塩。
(5)実質的に結晶形態である式(1)の化合物、
【化51】
またはその酸付加塩。
(6)結晶形態が本明細書に定義される形態FB3、FB4、FB6、FH3、FL1、FL2、FS3、FS4およびFS7から選ばれる、(5)に記載の実質的に結晶形態である化合物またはその酸付加塩。
(7)結晶形態が本明細書に定義される形態FL1およびFL2から選ばれる、(6)に記載の酸付加塩。
(8)式(2)の化合物の調製方法であって、
【化52】
(式中、R1はC1−4アルキルである)
式(3)の化合物を接触水素化に供すること、
【化53】
(式中、PGは水素化条件下で除去可能な保護基であり、A−BはCH−CH3またはC=CH2である)およびその後、式(2)の化合物が遊離塩基の形態で調製された場合、任意に前記遊離塩基を酸付加塩に変換することを含む方法。
(9)PGがベンジル基である、(8)に記載の方法。
(10)A−BがC=CH2である、(8)または(9)に記載の方法。
(11)A−BがCH−CH3である、(8)または(9)に記載の方法。
(12)接触水素化がパラジウム触媒を用いて行なわれる、(8)〜(11)のいずれかに記載の方法。
(13)パラジウム触媒がパラジウム炭素である、(12)に記載の方法。
(14)R1がメチルまたはエチルである、(8)〜(13)のいずれかに記載の方法。
(15)R1がメチルである、(14)に記載の方法。
(16)R1がエチルである、(14)に記載の方法。
(17)(8)で定義される式(2)の化合物の調製方法であって、
(a−i)アミド形成条件下で式(4)の化合物またはその活性型もしくは誘導体と式(5)の化合物とを反応させて、
【化54】
(式中、R1、PG、AおよびBは、(8)〜(11)および(14)〜(16)のうちのいずれかと同義である)式(3)の化合物
【化55】
を得ること、および
(b)保護基PGを除去するため、およびA−BがC=CH2である場合、基A−Bをイソプロピル基に還元するために、式(3)の化合物を接触水素化に供すること、およびその後式(2)の化合物が遊離塩基の形態で調製された場合、任意に遊離塩基を酸付加塩に変換することを含む方法。
(18)式(3)の化合物の調製方法であって、
【化56】
(式中、R1、PG、AおよびBは、(8)〜(11)および(14)〜(16)のうちのいずれかと同義である)
(a−i)アミド形成条件下で式(4)の化合物またはその活性型もしくは誘導体と式(5)の化合物とを反応させることを含む方法。
【化57】
(19)N−エチル−N’−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミドなどのカルボジイミド誘導体であるカルボン酸活性化剤の存在下で式(4)の化合物と式(5)の化合物とを反応させる、(17)または(18)に記載の方法。
(20)反応が、HOAtまたはHOBtなど触媒性補助求核試薬の存在下で行なわれる、(19)に記載の方法。
(21)式(6)の化合物の調製方法であって、
【化58】
(式中、R2およびR3は同一または異なって、それぞれC1−4アルキルであるか、NR2R3は、O、NおよびSから選ばれるさらなるヘテロ原子を場合により含み1個または2個のC1−4アルキル基により場合により置換されている4〜7員の飽和複素環を形成し;R4は水素、ハロゲン、C1−5アルキルおよびC3−4シクロアルキル基から選ばれる)
(a−ii)式(7)の化合物
【化59】
(式中、PGは水素化条件下で除去可能な保護基であり、R4’は水素、ハロゲン、C1−5アルキル、C2−5アルケニルおよびC3−4シクロアルキル基から選ばれる)と
式(8)の化合物
【化60】
とを遷移金属触媒の存在下で反応させて、式(9)の化合物を得ること
【化61】
および
(b)保護基PGを除去するため、およびR4’がC2−5アルケニルである場合は基R4’をC2−5アルキルに還元させるために、式(9)の化合物を接触水素化に供すること;およびその後、式(6)の化合物が遊離塩基の形態で調製された場合、任意に遊離塩基を酸付加塩に変換することを含む方法。
(22)式(9)の化合物の調製方法であって、
【化62】
(式中、R2、R3、R4’およびPGは、(21)と同義である)
(a−ii)式(7)の化合物
【化63】
(式中、PGは水素化条件下で除去可能な保護基であり、R4’は水素、ハロゲン、C1−5アルキル、C2−5アルケニルおよびC3−4シクロアルキル基から選ばれる)と
式(8)の化合物
【化64】
とを遷移金属触媒存在下で反応させることを含む方法。
(23)遷移金属触媒がウィルキンソン触媒である、(21)または(22)に記載の方法。
(24)式(8)の化合物が式(8a)の化合物
【化65】
(式中、R1は、(8)、(15)または(16)のいずれかと同義である)
である、(21)〜(23)のいずれかに記載の方法。
(25)R4’がイソプロピルまたはイソプロペニルである、(21)〜(24)のいずれかに記載の方法。
(26)R4’がイソプロペニルである、(24)に記載の方法。
(27)本明細書に定義される式(3)、(5)、(7)、(9)、(14)、(15)、(16)、(20)、(20a)、(21)または(23)の化学中間体。
(28)R1がエチルである、(8)で定義される式(2)の化合物またはその塩、溶媒和物もしくはN−オキシド。
(29)薬剤で用いるための(例えば、Hsp90の阻害剤として用いるための)(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(30)Hsp90により仲介される病態もしくは症状の予防または治療に用いる(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(31)Hsp90により仲介される病態もしくは症状の予防または治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
(32)Hsp90により仲介される病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減に用いる(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(33)Hsp90により仲介される病態もしくは症状の罹患率の緩和または低減方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
(34)哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療に用いる(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(35)哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
(36)哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減に用いる(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(37)哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を異常な細胞増殖を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
(38)哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をHsp90の活性を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
(39)哺乳類における異常な細胞増殖からなる、もしくはそれから生じる疾病または症状の罹患率の緩和あるいは低減方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をHsp90の活性を阻害するのに有効な量で前記哺乳類に投与することを含む方法。
(40)Hsp90の阻害方法であって、Hsp90と(28)に記載のHsp90阻害性化合物または(1)〜(7)のいずれかで定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を接触させることを含む方法。
(41)(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を使用する、Hsp90の活性を阻害することによる細胞過程(例えば、細胞分裂)の修飾方法。
(42)本明細書に記載される病態の予防または治療に用いる(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(43)本明細書に定義される1つまたは複数の用途のための薬剤の製造のための、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(44)(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩と薬学的に許容される担体とを含む医薬組成物。
(45)(8)〜(11)のいずれかで定義される式(3)の化合物の調製方法であって、
式(3a)の化合物
【化66】
と、基−C(=O)−CH3を基−C(=CH2)−CH3に変換するのに適したウィッティヒ試薬または他の試薬とを反応させることを含む方法。
(46)式(13)の化合物の調製方法であって、
【化67】
(i)式(11)の化合物
【化68】
と、(a)無水酢酸とを4−ジメチルアミノピリジンの存在下で(典型的には加熱しながら(例えば、最大約60°の温度まで))反応させ、(b)次にトリフルオロメタンスルホン酸および場合により塩化アセチルとを反応させること(典型的には室温で)、または
(ii)式(11)の化合物と塩化アセチルとをアンバーリスト15(Amberlyst15、商標)樹脂などのカチオン性イオン交換樹脂の存在下で反応させることを含む方法。
(47)式(14)の化合物とウィッティヒ試薬MePPh3BrとをTHF中でカリウムt−ブトキシドの存在下で反応させることによる、式(15)の化合物の調製方法。
【化69】
(48)(18)で定義される式(5)の化合物の調製方法であって、
(i)式(24)の化合物
【化70】
(式中、PGは保護基(例えば、ベンジルオキシカルボニル)であり、LG1は脱離基(例えば、メシルオキシ)である)と、本明細書で定義される式(22)の化合物とを反応させること、または
(ii)式(25)の化合物
【化71】
(式中、PGは保護基(例えば、ベンジルオキシカルボニル)と、本明細書で定義される式(22)の化合物とを還元的アミノ化条件下(例えば、トリアセトキシボロヒドリドナトリウムの存在下)で反応させること;および
その後、保護基PGを除去(例えば、PGがベンジルオキシカルボニルである場合は水素化により)することを含む方法。
(49)真菌性、原虫性もしくは寄生虫性の病態または症状(熱帯熱マラリア原虫による病態または症状以外)、例えば、Hsp90に対する抗体反応により特徴づけられる病態もしくは症状の予防または治療用薬剤の製造のための、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(50)真菌性、原虫性もしくは寄生虫性の病態または症状(熱帯熱マラリア原虫による病態または症状以外)、例えば、Hsp90に対する抗体反応により特徴づけられる病態もしくは症状の予防または治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
(51)抗真菌剤、抗原虫剤もしくは抗寄生虫剤(好ましくは抗真菌剤)に対する耐性の発達を防止、低減または後退させるために、前記抗真菌剤、抗原虫剤または抗寄生虫剤と併用投与するための薬剤の製造のための、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(52)患者(例えば、ヒト患者)における抗真菌剤に対する耐性の発達の防止または低減方法であって、抗真菌剤、抗原虫剤または抗寄生虫剤(好ましくは抗真菌剤)と(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩との組合せを前記患者に投与することを含む方法。
(53)疼痛を患う患者(例えば、ヒトなどの哺乳類)における疼痛の低減または除去に用いる薬剤の製造のための、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(54)痛覚、体性痛、内臓痛、急性疼痛、慢性疼痛、痛覚過敏、異痛症、術後疼痛、知覚過敏による疼痛、頭痛、炎症性疼痛(リューマチ痛、歯痛、月経痛または感染痛)、神経学的疼痛、筋骨格系疼痛、癌性疼痛または血管痛のいずれか1種以上の治療用薬剤の製造のための、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(55)痛覚、体性痛、内臓痛、急性疼痛、慢性疼痛、痛覚過敏、異痛症、術後疼痛、知覚過敏による疼痛、頭痛、炎症性疼痛(リューマチ痛、歯痛、月経痛または感染痛)、神経学的疼痛、筋骨格系疼痛、癌性疼痛または血管痛のいずれか1種以上の治療に用いる、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(56)哺乳類(例えば、ヒト)などの患者における疼痛の治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を治療上有効な量で前記患者に投与することを含む方法。
(57)疼痛を患う患者(例えば、ヒトなどの哺乳類)における疼痛の低減または除去方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を疼痛を低減するまたは除去するのに有効な量で前記患者に投与することを含む方法。
(58)痛覚、体性痛、内臓痛、急性疼痛、慢性疼痛、痛覚過敏、異痛症、術後疼痛、知覚過敏による疼痛、頭痛、炎症性疼痛(リューマチ痛、歯痛、月経痛または感染痛)、神経学的疼痛、筋骨格系疼痛、癌性疼痛または血管痛のいずれか1種以上の治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を治療上有効な量で患者に投与することを含む方法。
(59)卒中を患う患者における神経損傷の防止または低減方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を神経保護に有効な量で前記患者に投与することを含む方法。
(60)卒中の危険性がある患者、例えば、血管炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈高血圧、糖尿病、高脂血症および心房細動から選ばれる1種以上の危険因子を有する患者における卒中の危険性の防止または低減用薬剤の製造のための、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(61)卒中の危険性がある患者、例えば、血管炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈高血圧、糖尿病、高脂血症および心房細動から選ばれる1種以上の危険因子を有する患者における卒中の危険性の防止または低減に用いる(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(62)卒中の危険性がある患者、例えば、血管炎症、アテローム性動脈硬化症、動脈高血圧、糖尿病、高脂血症および心房細動から選ばれる1種以上の危険因子を有する患者における卒中の危険性の防止または低減方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を治療上有効な量で前記患者に投与することを含む方法。
(63)ウイルス感染(またはウイルス性疾患)の予防または治療に用いる(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(64)ウイルス感染(またはウイルス性疾患)の予防または治療用薬剤の製造のための(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(65)ウイルス感染(またはウイルス性疾患)の予防または治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
(66)宿主生物(例えば、哺乳類(例えば、ヒト)などの動物)におけるウイルス複製の遮断または阻害に用いる(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(67)宿主生物(例えば、哺乳類(例えば、ヒト)などの動物)におけるウイルス複製の遮断または阻害用薬剤の製造のための(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(68)宿主生物(例えば、哺乳類(例えば、ヒト)などの動物)におけるウイルス複製の遮断または阻害方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を前記宿主生物に投与することを含む方法。
(69)アテローム性動脈硬化症の予防または治療のための(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(70)アテローム性動脈硬化症の予防または治療用薬剤の製造のための(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(71)アテローム性動脈硬化症の予防または治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
(72)ユーイング肉腫の予防または治療のための(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(73)ユーイング肉腫の予防または治療用薬剤の製造のための(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(74)ユーイング肉腫の予防または治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
(75)紅斑性狼瘡の予防または治療のための(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩。
(76)紅斑性狼瘡の予防または治療用薬剤の製造のための(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩の使用。
(77)紅斑性狼瘡の予防または治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
(78)Hsp90により仲介される病態もしくは症状の予防または治療(またはその罹患率の緩和または低減)方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含み、前記Hsp90により仲介される病態もしくは症状が抗癌薬剤に対する耐性の発達である方法。
(79)(i)抗癌薬剤に対して悪性細胞を感作させる、(ii)抗癌薬剤に対する耐性の発生率を緩和または低減させる、(iii)抗癌薬剤に対する耐性を後退させる、(iv)抗癌薬剤の活性を増強させる、(v)抗癌薬剤に対する耐性の発現を遅延または防止させる方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含む方法。
(80)癌の治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含み、薬剤耐性が現れないことを特徴とする方法。
(81)治療薬(例えば、抗癌剤)で治療を受けている被験体におけるHsp90により仲介される病態もしくは症状の予防または治療(またはその罹患率の緩和または低減)方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を前記被験体に投与することを含み、前記Hsp90により仲介される病態もしくは症状が該治療薬に対する耐性の発達である方法。
(82)(i)抗癌剤に対して悪性細胞を感作させる、(ii)抗癌剤に対する耐性の発生率を緩和または低減させる、(iii)抗癌剤に対する耐性を後退させる、(iv)抗癌剤の活性を増強させる、(v)抗癌剤に対する耐性の発現を遅延または防止させる方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩を該抗癌剤で治療を受けている被験体に投与することを含む方法。
(83)抗癌剤で治療を受けている被験体における癌の治療方法であって、(28)に記載の化合物または(1)〜(7)のいずれかに定義される化合物、結晶形態もしくは酸付加塩をその必要のある被験体に投与することを含み、前記抗癌剤に対する薬剤耐性が現れないことを特徴とする方法。