特許第5726417号(P5726417)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5726417組み換え抗上皮成長因子受容体抗体組成物
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726417
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】組み換え抗上皮成長因子受容体抗体組成物
(51)【国際特許分類】
   C07K 16/28 20060101AFI20150514BHJP
   C12N 15/09 20060101ALI20150514BHJP
   C07K 19/00 20060101ALI20150514BHJP
   A61K 39/395 20060101ALI20150514BHJP
   A61P 35/00 20060101ALI20150514BHJP
   C12P 21/08 20060101ALN20150514BHJP
【FI】
   C07K16/28
   C12N15/00 AZNA
   C07K19/00
   A61K39/395 N
   A61P35/00
   !C12P21/08
【請求項の数】22
【全頁数】106
(21)【出願番号】特願2009-551102(P2009-551102)
(86)(22)【出願日】2008年2月27日
(65)【公表番号】特表2010-535012(P2010-535012A)
(43)【公表日】2010年11月18日
(86)【国際出願番号】DK2008050047
(87)【国際公開番号】WO2008104183
(87)【国際公開日】20080904
【審査請求日】2011年2月22日
(31)【優先権主張番号】PA200700317
(32)【優先日】2007年3月1日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】60/904,773
(32)【優先日】2007年3月5日
(33)【優先権主張国】US
(31)【優先権主張番号】PA200701016
(32)【優先日】2007年7月10日
(33)【優先権主張国】DK
(31)【優先権主張番号】60/929,727
(32)【優先日】2007年7月11日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】505257682
【氏名又は名称】シムフォゲン・アクティーゼルスカブ
【氏名又は名称原語表記】SYMPHOGEN A/S
(74)【代理人】
【識別番号】100081422
【弁理士】
【氏名又は名称】田中 光雄
(74)【代理人】
【識別番号】100084146
【弁理士】
【氏名又は名称】山崎 宏
(74)【代理人】
【識別番号】100122301
【弁理士】
【氏名又は名称】冨田 憲史
(74)【代理人】
【識別番号】100156100
【弁理士】
【氏名又は名称】西野 満
(74)【代理人】
【識別番号】100157956
【弁理士】
【氏名又は名称】稲井 史生
(72)【発明者】
【氏名】ミッケル・ワンダール・ペダーセン
(72)【発明者】
【氏名】ルシーラ・ステイナー
(72)【発明者】
【氏名】アラン・イェンセン
(72)【発明者】
【氏名】クラウス・ケーフェーズ
(72)【発明者】
【氏名】ペール−ヨハン・メイヤー
(72)【発明者】
【氏名】ロベルト・カールソン
(72)【発明者】
【氏名】チャールズ・パイク
(72)【発明者】
【氏名】ラース・セゴー・ニールセン
【審査官】 松原 寛子
(56)【参考文献】
【文献】 特表2006−505546(JP,A)
【文献】 国際公開第2007/005874(WO,A1)
【文献】 国際公開第2007/009065(WO,A1)
【文献】 BBRC,2006年,Vol.349, p.816-824
【文献】 PNAS,2005年,Vol.102, p.1915-1920
【文献】 Clinical cancer research,2002年,Vol.8, p.1720-1730
【文献】 Clinical cancer research,2005年,Vol.11,p.6390-6399
【文献】 BioTechniques ,2003年,Vol.34 No.5 Page.968-970,972
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 16/28
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の抗−ヒトEGFR抗体分子および第2の別個の抗EGFR抗体分子を含んでなる抗体組成物であって、
a)該第1の抗−EGFR抗体分子が配列番号40における重鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列ならびに配列番号72における軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含み、
b)該第2の抗−EGFR抗体分子が配列番号41における重鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列ならびに配列番号73における軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含む、組成物。
【請求項2】
請求項1記載の組成物であって、
第1の抗EGFR抗体分子が、配列番号40のアミノ酸3〜124を含む重鎖可変ドメイン(VH)および配列番号72のアミノ酸3〜109を含む軽鎖可変ドメイン(VL)を含み、および
第2の抗EGFR抗体分子が、配列番号41のアミノ酸3〜120を含むVHおよび配列番号73のアミノ酸3〜114を含むVLを含む、組成物。
【請求項3】
請求項1記載の組成物であって、
第1の抗EGFR抗体分子が、配列番号40のアミノ酸3〜124を含むVHおよび配列番号91のアミノ酸配列を含む定常領域を有する重鎖を含み、および配列番号72のアミノ酸3〜216を含む軽鎖を有し;および
第2の抗EGFR抗体分子が、配列番号41のアミノ酸3〜120を含むVHおよび配列番号91のアミノ酸配列を含む定常領域を有する重鎖を含み、および配列番号73のアミノ酸3〜221を含む軽鎖を有する、組成物。
【請求項4】
第1および第2の抗−EGFR抗体分子が各々のヒトEGFRへの結合を阻害しない、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項5】
抗体分子の少なくとも1つがヒトEGFRに関する他の抗体分子の最大結合能を増加させることができる、請求項1〜3のいずれか1項記載の組成物。
【請求項6】
組成物中における第2の抗体分子に対する第1の抗体分子の割合が40〜60%ある、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項7】
組成物中における第2の抗体分子に対する第1の抗体分子の割合が1:1である、請求項1〜5のいずれか1項記載の組成物。
【請求項8】
第1および第2の抗体分子がアイソタイプサブタイプIgG1またはIgG2である、請求項1、2および4〜のいずれか1項記載の組成物。
【請求項9】
受容体内在化をもたらすことができる、請求項1〜のいずれか1項記載の組成物。
【請求項10】
イン・ビボでA431NS腫瘍の退行をもたらすことができる、請求項1〜のいずれか1項記載の組成物。
【請求項11】
イン・ビボでA431NS細胞の最終分化を誘導することができる、請求項1〜10のいずれか1項記載の組成物。
【請求項12】
イン・ビボで腫瘍インボルクリン発現を上方調節することができる、請求項1〜11のいずれか1項記載の組成物。
【請求項13】
配列番号40における重鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列ならびに配列番号72における軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列、および配列番号41における重鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列ならびに配列番号73における軽鎖CDR1、CDR2およびCDR3アミノ酸配列を含む、ヒトEGFRの2つの別個のエピトープに結合する二重特異性結合分子。
【請求項14】
二重可変ドメイン抗体、二重特異性Fabフラグメント、または二重特異性scFである、請求項13記載の二重特異性結合分子。
【請求項15】
ヒトにおける癌に関連した1以上の症状の治療、改善または予防のための医薬として使用するための、請求項1〜12のいずれか1項記載の抗体組成物。
【請求項16】
EGFRシグナリングを減少させるための、EGFRを発現する細胞を死滅させるための、EGFRを発現する細胞においてアポトーシスを誘導するための、EGFRを発現する細胞の増殖を阻害するための、イン・ビボで腫瘍細胞の分化を誘導するための、および/またはEGFRの内在化を誘導するための医薬として使用するための、請求項1〜12のいずれか1項記載の抗体組成物。
【請求項17】
ヒトにおける癌に関連した1以上の症状の治療、改善または予防のための医薬として使用するための、請求項13または14記載の二重特異性結合分子。
【請求項18】
EGFRシグナリングを減少させるための、EGFRを発現する細胞を死滅させるための、EGFRを発現する細胞においてアポトーシスを誘導するための、EGFRを発現する細胞の増殖を阻害するための、イン・ビボで腫瘍細胞の分化を誘導するための、および/またはEGFRの内在化を誘導するための医薬として使用するための、請求項13または14記載の二重特異性結合分子。
【請求項19】
請求項1〜12のいずれか1項記載の抗体組成物または請求項13または14記載の二重特異性結合分子、および薬学的に許容可能賦形剤を含む、医薬組成物。
【請求項20】
ヒトにおける癌に関連した1以上の症状の治療、改善または予防のための、請求項1〜12のいずれか1項記載の抗体組成物、または請求項13または14記載の二重特異性結合分子を含む医薬組成物。
【請求項21】
EGFRシグナリングを減少させるための、EGFRを発現する細胞を死滅させるための、EGFRを発現する細胞においてアポトーシスを誘導するための、EGFRを発現する細胞の増殖を阻害するための、イン・ビボで腫瘍細胞の分化を誘導するための、および/またはEGFRの内在化を誘導するための、請求項1〜12のいずれか1項記載の抗体組成物、または請求項13または14記載の二重特異性結合分子を含む医薬組成物。
【請求項22】
請求項1〜12のいずれか1項記載の抗体組成物を含むキットであって、同時、連続的または別々に投与するために、該抗体分子が1つの容器または別々の容器に処方されている、キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ヒト癌療法に使用するための組み換え抗体の分野に関する。
【背景技術】
【0002】
上皮成長因子受容体(EGFR)は、細胞増殖、ならびにアポトーシス、血管新生および転移、腫瘍の進行に極めて重要なプロセスにおいて重要な役割を果たす(非特許文献1〜5)。実際に、研究により、EGFR仲介細胞増殖が、非小細胞肺癌、前立腺癌、乳癌、胃癌、および頭頚部の腫瘍を含む多様な固形腫瘍において増加することが示されている(非特許文献1)。さらに加えて、癌細胞表面におけるEGFRの過度の活性化は、進行疾患、転移性表現型の進展、および癌患者の予後不良に関連することが現在知られている(非特許文献1)。
【0003】
さらに加えて、EGFR発現は、EGFR発現腫瘍細胞によるEGFR−リガンド、TGF−αおよびEGFの産生によって頻回に達成され、これは、自己分泌ループがこれらの細胞の進行に加わることを示唆する(非特許文献6および7)。従って、そのようなEGFRリガンドとEGFRとの間の相互作用を遮断すると、腫瘍の増殖および生存を阻害することができる(非特許文献6)。
【0004】
EGFRは、約170kDaの分子量を伴う膜結合性糖タンパク質である。EGFRは、短い23アミノ酸膜貫通リンカーによって接続されたグリコシル化外部リガンド結合ドメイン(621残基)および細胞質ドメイン(542残基)よりなる。EGFRの細胞外部分は、25個のジスルフィド結合および12個のN−結合型グリコシル化部位を含有し、一般的に、4つのサブドメインよりなると考えられる。EGFRのX線結晶構造により、受容体は、EGFに結合することができない自己阻害型繋留型コンホメーション(非特許文献8)ならびにEGFリガンド結合および受容体二量体形成を仲介する活性なコンホメーション(非特許文献9および10)の両方を採用することが示唆されている。特に、ドメインIおよびドメインIIIは、高いアフィニティーのリガンド結合部位の形成のための付加的な寄与を提供することが示唆されている。ドメインIIおよびIVは、タンパク質フォールディングを安定化し、そして可能なEGFR二量体化形成面を含有するシステインリッチラミニン様領域である。
【0005】
EGFRは、細胞表面の異なる多くのコンホメーションに存在することが公知であり、ここで、繋留またはロックされたコンホメーションが最も頻繁に認められる。繋留型コンホメーションは、二量体形成することができず、従って、不活性である。治療用抗体Erbituxは、ドメインIIIに結合し、そして受容体が非繋留状態に到達することを立体的に妨げることによって、繋留型コンホメーションを安定化することが公知である。しかし、いくつかの受容体はなお、非繋留型コンホメーションを採用し、リガンドに結合し、そして二量体形成することが可能であり得る。モノクローナル抗体(mAb)は、典型的に、コンホメーションのうちの1つに対する結合においてのみ効果的であり、従って、他のコンホメーションを呈する癌細胞または多様なコンホメーションを呈する癌細胞を効果的に標的にすることができない。
【0006】
EGFRのリガンド結合ドメインに対して指向されたモノクローナル抗体(mAb)は、EGFRリガンドとの相互作用、同時に、得られる細胞内シグナル伝達経路を遮断することができる。
【0007】
ErbituxTM(セツキシマブ)は、ヒト(EGFR)の細胞外ドメインに特異的に結合する組み換え、ヒト/マウスキメラモノクローナル抗体である。Erbituxは、ヒトIgG1重鎖およびκ軽鎖定常領域を伴うマウス抗EGFR抗体のFv領域からなり、そして約152kDaの分子量を有する。Erbituxは、哺乳動物細胞培養物(マウス骨髄腫)において産生される。Erbituxは、転移性大腸癌を患い、その腫瘍がEGFRを発現する患者の治療に関して承認されている。加えて、Erbituxは、手術によって取り出すことができない頭頚部の扁平細胞癌を伴う患者を処置するための照射療法との組み合わせで、または標準的な白金に基づく療法が奏効していない頭頚部の扁平細胞癌の第2選択治療として、使用される。
【0008】
VectibixTM(パニツムマブ)は、ヒトEGFRに特異的に結合する組み換えヒトIgG2κモノクローナル抗体である。Vectibixは、約147kDaの分子量を有する。パニツムマブは、遺伝子操作された哺乳動物細胞(チャイニーズハムスター卵巣)において産生される。Vectibixは、フルオロピリミジン含有、オキサリプラチン含有、およびイリノテカン含有化学療法レジメン時または後に疾患の進行を伴う転移性大腸癌を伴う患者(その腫瘍はEGFRを発現する)の治療に関して承認されている。
【0009】
多くの変異EGF受容体が、ヒト腫瘍細胞において同定されている。これらは、受容体活性をリガンド結合から非依存的にし(EGFRvIII)、増強された腫瘍形成能をもたらしうる。変異EGFRに対するモノクローナル抗体を作製してもよいが、そのようなモノクローナル抗体は、非変異型EGFRに対して必ずしも効果的ではない。
【0010】
EGFRに対して指向された化学療法に対する応答に影響するEGFRの変異がヒト癌患者において同定されている。特許文献1(Novartis)は、EGFRオープンリーディングフレームにおける43個の変異ならびに18個のSNPを開示した。いくつかのミスセンス変異が、腫瘍タイプのうち2つもしくはそれ以上のタイプにおいて同定されている。特許文献2(Amgen)は、様々な癌細胞において同定されたさらなる8つの変異を開示した。これらの変異のうち1つもしくはそれ以上は、エピトープに局在し得るか、または現在承認されているモノクローナル抗体のうちの1つに結合するエピトープの構造に影響を及ぼし得る。そのような変異を保有する患者は、モノクローナル抗体で治療することができない。
【0011】
さらに加えて、グリコシル化部位のうち少なくとも1つのグリコシル化における異質性を示す文献の報告がある(非特許文献11および12)。そのような異質性は、腫瘍細胞の間で変動するエピトープの異なる暴露における直接的または間接的結果であり得る。
【0012】
抗体依存性細胞障害(ADCC)は、抗体が腫瘍細胞の死滅を仲介する代替的機構である。ADCCのレベルは、IgGサブタイプ(IgM>IgG1>IgG2)、標的細胞に対する抗体密度、抗体グリコシル化パターン、ならびに標的自体の特性を含むいくらかの因子に依存する。
【0013】
Friedmannら(非特許文献13)は、別々のEGFRエピトープに結合することによってEGFRに結合するEGFを阻害するそれらの能力について選択される2つのマウスモノクローナル抗体が、EGFRを一過的に発現するKB細胞およびCHO細胞において受容体発現を相乗的に下方調節することが可能であることを示している。交差競合的EGF阻害抗体は、何ら相乗効果を示さなかった。
【0014】
Modjtahediら(非特許文献14)は、重複しないエピトープを有するいくつかのラット抗EGFR抗体の組み合わせを試験した。抗体は異なるアイソタイプからなる。すべての場合において、2つの抗体を使用する効果は、類似量の2つのモノクローナル抗体を単独で使用する効果の中間であった。これは、インビボおよびインビトロの両方において確認された。
【0015】
特許文献3(Merck Patent)は、2つのモノクローナル抗体、Mab425およびMab225(セツキシマブ)の併用は、類似量のモノクローナル抗体単独のそれぞれと比較して、EGFR発現癌細胞の表面に結合した抗体の増加量を生じることを開示する。この刊行物はまた、2つのモノクローナル抗体と比較して抗体の組み合わせを用いる場合、EGFRの下方調節の増加を開示する。
【0016】
Pereraら(非特許文献15)は、U87MG.de2−7異種移植片を保有するマウスを、2つのマウスモノクローナル抗体の組み合わせで処置することの相乗効果について開示した。抗体のうちの1つ(mAb528)は、セツキシマブに類似の特異性で、全てのEGFRサブタイプに結合する。もう1つの抗体(mAB806)は、de2−7EGFRにのみ結合する。U87MG.de2−7細胞系統は、de2−7EGFRがトランスフェクトされた細胞系統である。U87MG.DK細胞系統は、de2−7EGFRのキナーゼ不活性変種を発現する。U87MG.DK異種移植片を保有するマウスに対して2つの抗体が用いられた場合、相乗効果は観察されなかった。野生型EGFRを発現するA431細胞系統を有する異種移植モデルでは、著者らは、相乗効果の証拠を提供しなかった。de2−7EGFRは、神経膠腫、ある程度で乳癌および肺癌のごとく限られた数の癌タイプにおいてのみ存在する。
【0017】
これらの研究は、場合により、相乗効果が2つのマウスモノクローナル抗体間に存在し得ることを示した一方、それらはまた、多くの場合、相乗効果が認めらないことを示す。この研究はまた、広範な臨床に関連する癌細胞系統に対して有効な抗EGFR抗体組成物を提供していない。
【0018】
従って、低用量で投与した場合、EGFRの過剰発現に関連する疾患を治療および/または防止するのに有効なEGFRに対する治療用抗体の改善の必要性が存在する。問題の癌細胞によって発現されるEGFRの構造について熟知していなくても使用することができる広範に適用可能な治療用癌−抗体の必要性も存在する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0019】
【特許文献1】WO 2006/110478
【特許文献2】WO 2006/091899
【特許文献3】WO 2004/032960
【非特許文献】
【0020】
【非特許文献1】Salomon DS et al, Critical Reviews in Oncology/Haematology, 19:183-232 (1995)
【非特許文献2】Wu et al, J. Clin. Invest., 95:1897-1905 (1995)
【非特許文献3】Karnes et al, Gastroenterology, 114:930-939 (1998)
【非特許文献4】Woodburn et al, Pharmacol. Therap. 82: 241-250 (1999)
【非特許文献5】Price et al, Eur. J. Cancer, 32A:1977-1982 (1996)
【非特許文献6】Baselga, etal.(1994) Pharmac. Therapeut. 64: 127-154
【非特許文献7】Modjtahedi, et al. (1994) Int. J. Oncology. 4: 277-296
【非特許文献8】Ferguson et al, Mol Cell, 2003, vol 11: 507-517
【非特許文献9】Garret et al, Cell 2002, vol 110:763-773
【非特許文献10】Ogiso et al, Cell, 2002, vol 110:775-787
【非特許文献11】Whitson et al., 2005 Biochemistry 44:14920-31
【非特許文献12】Zhen et al. 2003 Biochemistry 42; 5478-92
【非特許文献13】PNAS 2005, 102:1915-20
【非特許文献14】Cell Biophysics vol 22, 1993, 129-146
【非特許文献15】Clin Cancer Res 2005;11(17):6390-99
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0021】
一態様では、本発明は、抗体がEGFRの別々の第1、第2および第3のエピトープに結合する、少なくとも3つの別々の抗EGFR抗体分子を含んでなる組み換え抗体組成物に関する。
【0022】
さらなる態様では、本発明は、1つの別々の抗EGFR抗体分子が、抗体:992、1024、1030、1042、1208、1229、1254、1257、1260、1261、1277、1284、1308、1320、1344、および1347、またはこれらの抗体のCDRを有する抗体よりなる群から選択される、少なくとも2つの別々のEGFR抗体分子を含んでなる組み換え抗体組成物に関する。
【0023】
好ましくは、少なくとも1つの別々の抗EGFR抗体分子は、抗体992、1030、1024、1347、1277、1254、1320、1260、1261、および1284またはこれらの抗体のCDRを有する抗体よりなる群から選択される。本発明の特定の好適な実施形態では、抗体組成物は、抗体992および1024、またはそれらのCDR3配列、もしくはそれらのVLおよびVH配列に基づく2つの抗体を含んでなるか、あるいは、本質的に同じ結合特異性を伴う2つの抗体を含んでなる。
【0024】
本発明の代表的な抗体組成物は、代表的な癌細胞系統の増殖の阻害において有効であることを証明し、癌の治療においてインビボ使用を示す。これらの結果は、癌細胞が腫瘍を形成するインビボでの状況をさらに表現し得る癌細胞スフェロイドを用いるアッセイにおいて確認された。さらに加えて、本発明の抗体組成物は、癌スフェロイドからの細胞運動性を減少させ、それにより転移する傾向を減少させるようである。異種移植モデルにおけるインビボでの効力もまた、代表的な抗体組成物によって実証した。これらの結果は、抗体992および1024よりなる特に好適な抗体組成物によって確認された。
【0025】
マウスにおけるヒト癌の異種移植モデルでは、本発明の代表的な抗体組成物は、市販のモノクローナル抗体、VectibixおよびErbituxと比較して、腫瘍細胞のより高い程度の最終分化を有意に生じた。本発明の好適な抗体組成物は、本発明の抗体組成物による処置の終結後、腫瘍の再生が観察されなかったので、モノクローナル抗体と比較して、異なる作用機序を介して作用するようである。モノクローナル抗体による処置の終結後、腫瘍の再生が観察される。
【0026】
結合性実験では、本発明者らは、本出願によって提供される抗体のいくつかは、さらなる抗体の結合を容易にし、それによって、受容体に結合する抗体の総量を増加させるようであることを実証した。3つのドメインIII抗体への結合がさらなる抗体の後の結合を容易にすることも実証した。これらの観察は、抗体がEGFRの別々の第1、第2および第3のエピトープに結合する、少なくとも3つの別々の抗EGFR抗体分子を伴う組成物を使用する概念を明確に支持する。この効果はまた、この特定の効果を提供する抗体を選択することによる本発明の2つの抗体の特定の組み合わせを使用することによっても得ることができる。そのような抗体は、他の抗体と混合するための好適な候補である。
【0027】
本発明の組成物は、いくつかのさらなる利点を提供し得る。癌細胞は、多様なEGFRを発現する。コンホメーション、グリコシル化ならびに一次構造(変異およびSNP)の変動が認められる。単一のモノクローナル抗体は、これらのEGFR変動のうちのすべてではないがいくつかを標的とし得る。EGFR変異は、モノクローナル抗体に対するエスケープ変異であってもよい。本発明の2つの抗体または別々のEGFRエピトープに結合する3つもしくはそれ以上の別々の抗体を含んでなる抗体は、変異、SNP、欠失変異およびグリコシル化の変動の影響をそれほど受けない。これは、多様なEGFRコンホメーションおよび変動を表すヒト癌細胞系統のパネルに対する本発明の抗体混合物の広範な効力によって立証される。
【0028】
1つのモノクローナル抗体の投与もまた、EGFRのキナーゼ活性を完全には抑制することができない。シグナリングのより効率的な阻害は、抗体の組み合わせによって達成され得る。
【0029】
従って、抗体混合物において異なるEGFRコンホメーション(例えば、非繋留型コンホメーションおよび受容体二量体)に結合する抗体を含むことは有益であり得る。かかる抗体の混合物は、コンホメーションのうちただ1つにのみ結合するモノクローナル抗体よりEGFR活性を阻害するのにより強力であり得る。
【0030】
さらに、組成物中の3つもしくはそれ以上の抗EGFR抗体によるアプローチを使用することによって、腫瘍細胞表面に対する抗体の密度を上昇させ、それによって、モノクローナル抗体と比較して、ADCCを介する死滅を増加させることが可能であり得る。
【0031】
さらなる態様において、本発明は、以下の工程を含む抗体組成物を製造するための方法に関する:
a)第1の別々のEGFRエピトープに結合することが可能なVおよびV鎖の第1の同族ペアを含んでなる第1の抗体をコードする第1の発現構築物で真核細胞の第1の集団をトランスフェクトすること;
b)第2の別々のEGFRエピトープに結合することが可能なVおよびV鎖の第2の同族ペアを含んでなる第2の抗体をコードする第2の発現構築物で真核細胞の第2の集団をトランスフェクトすること;
c)任意選択的に、第3のまたはさらなる集団、発現構築物、同族ペア、およびEGFRエピトープについて工程b)を反復すること;
d)トランスフェクトされた第1、第2集団および任意選択的にさらなる細胞集団を選択すること;
e)トランスフェクトされた集団を1つのポット中で混合して細胞バンクを得ること;
f)抗体の発現を可能にする条件下で細胞バンク由来の細胞を培養すること;次いで
g)上清から抗体組成物を回収し、精製すること。
【0032】
製造、下流プロセシングおよび特徴付けの容易のために、すべての抗体は、同じ重鎖定常領域を含んでなる。
【0033】
さらなる態様では、本発明は、真核細胞の少なくとも2つのサブ集団を含む細胞バンクに関し、各サブ集団は、別々のEGFRエピトープに結合することが可能なVおよびV鎖の同族ペアを含んでなる抗体をコードする1つの発現構築物でトランスフェクトまたは形質導入される。好ましくは、細胞は、部位特異的組み込みを使用してトランスフェクトされる。
【0034】
さらに加えて、本発明は、EGFRを発現する細胞の組成物に、本発明の抗体組成物を投与し、次いでEGFRシグナリングを減少させることを含んでなる、EGFRシグナリングを減少させる方法に関する。
【0035】
本発明はまた、EGFRを発現する細胞の組成物に、本発明の抗体組成物を投与し、次いでEGFR発現細胞を死滅させることを含んでなる、EGFRを発現する細胞を死滅させる方法に関する。
【0036】
EGFRを発現する細胞の組成物に本発明の抗体組成物を投与し、それによって、アポトーシスを誘導することを含んでなる、EGFRを発現する細胞においてアポトーシスを誘導する方法もまた、提供される。
【0037】
さらなる態様は、EGFRを発現する細胞の組成物に本発明の抗体組成物を投与し、それによって、増殖を阻害することを含んでなる、EGFRを発現する細胞の増殖を阻害する方法に関する。
【0038】
本発明は、癌を患う個体に本発明の抗体組成物を投与し、それによって、腫瘍細胞の分化を誘導することを含んでなる、インビボで腫瘍細胞の分化を誘導する方法に関する。本態様は、本発明の抗体組成物に暴露される場合の癌細胞のインビボでの最終分化に対して観察される効果に基づく。
【0039】
さらなる態様では、本発明は、癌療法における同時、個別または連続投与のための組み合わせとして、本発明の抗体組成物、および癌細胞の分化を誘導することが可能な少なくとも1つの化合物を含んでなる医薬物品に関する。本発明の抗体組成物と、癌細胞の最終分化を誘導することが公知の薬剤とを組み合わせることによって、さらに効果を改善することができる。
【0040】
なおさらなる態様では、本発明は、癌療法における同時、個別または連続投与のための組み合わせとして、本発明の抗体組成物、および少なくとも1つの化学療法化合物または抗悪性腫瘍化合物を含んでなる医薬物品に関する。本発明の抗体組成物は、第2選択治療、即ち、従来の化学療法剤もしくは抗悪性腫瘍剤を使用する治療の後または同時に、あるいは照射療法および/または手術の後または同時に使用することができる可能性がある。
【0041】
別の態様では、図23に示す核酸配列(配列番号100)を有する核酸;図23に示すアミノ酸配列(配列番号101)を有するポリペプチドをコードする核酸;図34Aに示す核酸配列(配列番号102)を有する核酸;および図34Bに示すアミノ酸配列(配列番号103)を有するポリペプチドをコードする核酸よりなる群から選択されるポリヌクレオチドが提供される。さらに加えて、図23に示すアミノ酸配列(配列番号101)を含んでなるポリペプチド、および図34Bに示すアミノ酸配列(配列番号103)を含んでなるポリペプチド、前記核酸の発現を指令することが可能なプロモーター配列に作動可能に連結された上記で規定した前記核酸を含んでなる発現ベクター、ならびに前記発現ベクターでトランスフェクトまたは形質導入された細胞が提供される。
【0042】
これらの配列は、カニクイザルEGFR(即ちカニクイザル(Macaca fascicularis)由来)のポリヌクレオチドおよびポリペプチド配列を構成する。この種のサルは、毒物学研究のために広範に使用されている動物である。ヒト自己抗原に対する抗体に関与する毒物学研究において重要であるべき動物種では、抗体はまた、好ましくは、ほぼ同じアフィニティーを伴ってtox−動物の標的タンパク質に結合することが必須である。カニクイザルEGFRへの結合について抗体を試験することが、本発明者らの寄与によって、今回可能になった。カニクイザルおよびヒトEGFRは、高度に相同なタンパク質であるが、驚くべきことに、ヒトおよびカニクイザルEGFRに対して非常に異なるアフィニティーを有する多くの抗体が見出されている。このことは、本発明者らによって提供されているスクリーニングのための正確なカニクイザルEGFRタンパク質を使用することの重要性を強調している。
【0043】
さらに、以下の工程を含んでなる、カニクイザルEGFRへの結合について抗体をスクリーニングするための方法が提供される。
−少なくとも1つの試験抗体を提供すること;
−カニクイザルEGFRの細胞外ドメイン(図23、配列番号101))もしくは全長カニクイザルEGFR(図34B、配列番号103));またはカニクイザルEGFRの細胞外ドメインを発現するか、もしくは全長カニクイザルEGFRを発現する細胞の表面に結合する抗体を決定するためのアッセイを実施すること;
−次いで、カニクイザルEGFR細胞外ドメインに結合する少なくとも1つの抗体を選択すること。
【0044】
本発明は、ヒトEGFR細胞外ドメインへの結合またはヒトEGFRを発現する細胞への結合についてスクリーニングすることをさらに含んでなり得る。
【0045】
さらなる態様では、本発明は、EGFRに対する別の抗EGFR抗体の同時結合を増強することが可能な抗EGFR抗体を同定するための方法に関し、前記方法は以下を含んでなる。
a.第1のアッセイにおいて、一定量のEGFR抗原に関して第1の抗体の最大結合能を決定すること、
b.第2のアッセイにおいて、一定量のEGFR抗原を第2の抗EGFR抗体で飽和すること、
c.EGFR−抗体複合体と、前記第1の抗体とを接触させ、最大結合能を決定すること、次いで
d.結合能を比較して、工程cの最大結合能が工程aの最大結合能を超えるかどうかを決定すること。
【0046】
このアッセイを使用して、抗体992および1024の特性に類似の特性を有する抗体のさらなる組み合わせを同定してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0047】
図1】脾細胞の選別(詳細については、実施例1を参照のこと)。以下のゲートが作製される(図示されている):・ゲート1:生存細胞(FSC/ヨウ化プロピジウムプロット)。(左下のパネル)・ゲート2:形質細胞は、CD43ポジティブ/CD138ポジティブとしてゲートされる。(右下のパネル)・ゲート3:ダブレット識別(右上のパネル)
図2】マウス−mSymplexTMPCR。単一細胞由来の重鎖および軽鎖抗体遺伝子の増幅ならびに同族連結のための多重重複伸長RT−PCR。詳細については、実施例1を参照のこと。
図3】マウスレパートリークローニング。単一の形質細胞由来のVH/VL遺伝子対をコードするmSymplexTMPCR産物のプールを、重複伸長によるスプライシングによりヒトκ定常軽鎖をコードする遺伝子にスプライシングした。完全なヒト−マウスキメラ抗体をコードする遺伝子のプールを、発現ベクターに挿入し、続いて、両方向性プロモーターカセット(2×CMV)を挿入した。
図4】哺乳動物の全長抗体発現ベクター00−VP−002の模式図。AmpおよびAmp pro、アンピシリン耐性遺伝子およびそのプロモーター;pUC起点、pUCの複製開始点;CMV、軽鎖および重鎖の発現を誘導する哺乳動物プロモーター;IGHVリーダー、ゲノムヒト重鎖リーダー、Hスタッファー、重鎖可変領域をコードする配列のために交換される挿入物;IGHG1、ゲノム免疫グロブリンアイソタイプG1重鎖定常領域(配列を付録2に示す)をコードする配列;ウサギβ−グロビンA、ウサギβ−グロビンポリA配列;IGKVリーダー、マウスκリーダー;Lスタッファー、軽鎖をコードする配列のために交換される挿入物;SV40term、シミアンウイルス40ターミネーター配列;FRT、Flp認識標的部位;Neo、ネオマイシン耐性遺伝子;SV40ポリA、シミアンウイルス40ポリAシグナル配列。
図5】450〜620nmにおける吸光度差のクラスター分析。クローン番号の後の数字(1〜4)によって示される反応性によって、上清をクラスター化する。暗灰色は、代謝活性細胞の数の減少を示すが、一方、明灰色は、代謝活性細胞の数の増加を示す。黒色は、代謝活性細胞の数に影響を及ぼさない上清を示す。
図6】競合ELISAにおいて決定される特異的EGFRドメインに対して指向される掲載された対照抗体による抗EGFR抗体の阻害の程度。A)阻害の計算。B)阻害の評価は次のとおりである:25〜49%:中程度の競合(+);50〜74%:強い競合(++);75〜100%:極めて強い競合(+++)。有意な阻害(50〜100%)を示すボックスに灰色の影を付す。ErbituxおよびVectibixを繰り返し測定(4回の独立した実験)で示してアッセイの再現性を例示する。Ab2(225)は、Erbituxをもたらすマウス前駆体である。
図7】Biacore 3000 SPR機器において実施される1回のエピトープマッピングサイクルの例示であって、ここで、サンプルmAbは、EGFRの細胞外ドメインへの結合について、異なる4つの対照抗体と競合する。
図8】SPR技術による競合分析によって決定される特異的EGFRドメインに対して指向される掲載された対照抗体による抗EGFR抗体の阻害の程度。A)阻害の計算。B)阻害の評価は次のとおりである:25〜49%:中程度の競合(+);50〜74%:強い競合(++);75〜100%:極めて強い競合(+++)。有意な阻害(50〜100%)を示す細胞に灰色の影を付す。で印を付したクローン1229は、Biacoreアッセイにおいて結合しなかった。
図9】抗EGFR抗体ペアのSPR競合分析による抗EGFR抗体レパートリー内のエピトープクラスターの決定。抗体を、推定されるEGFRドメイン認識に従ってグループに分類する。抗体の組み合わせが重複するエピトープに結合し、50%を超える阻害を生じた細胞に、灰色の影を付す。決定が行われなかった細胞を黒色で着色する。A)阻害の計算。B)阻害の評価は次のとおりである:25〜49%:中程度の競合(+);50〜74%:強い競合(++);75〜100%:極めて強い競合(+++)。
図10】Biacore分析によって決定される対照抗体およびEGFRの細胞外ドメインに対して指向された抗EGFR抗体のエピトープマップ。A)EGFR細胞外ドメイン(ECD)のドメインIまたはドメインI/IIに対して指向された抗体のエピトープマップ。B)EGFR ECDのドメインIIIに対して指向された抗体のエピトープマップ。
図11】EGFR上の非重複エピトープに対して指向された抗体のオリゴクローナル混合物の同時結合の調査。A)ドメインIII、ドメインIまたは未知の特異性に対する抗体の逐次付加。異なるmAb混合物または単一のmAbに対して試験した単一サンプルのmAbの阻害値を、影を付したボックス内に示す。阻害を計算するために使用したRu最大値も示す。B)EGFR上の非重複エピトープに対して指向された6つの別々のサンプルmAbおよび6つの試験した抗体を含有する抗体混合物の競合分析。試験したサンプル抗体が含まれない抗体混合物は、ポジティブコントロールとしての役割を果たした。異なるmAb混合物に対して試験した単一サンプルmAbの阻害値を、影を付したボックス内に示す。阻害を計算するために使用したRu最大値も示す。C)結合の抗体遮断および場合によって抗体増強を示すBにおける分析からの対応するセンサーグラム。D)ドメインI、I/IIおよび6個のmAb抗体混合物に対する未知の特異性に対して指向されたさらなる抗体の試験。
図12】全長EGFRにおける抗体力価による抗体により介在されるEGFリガンド遮断の決定、およびストレプトアビジンHRP試薬と結合するビオチン化EGFリガンドの検出。Erbitux、VectibixおよびSynagis IgG(パリビズマブ)を、それぞれポジティブおよびネガティブコントロールとして使用した。試験した抗体による認識された抗体エピトープの遮断後、0.1μg/mlビオチン化EGFリガンド、および検出のための第2のストレプトアビジン−HRP抱合の添加によって、EGFリガンド競合の程度を可視化した。
図13】EGF(50ng/ml)における示された抗体による前処置の効果は、HN5細胞におけるEGFRリン酸化を誘導した。グラフ中において命名された抗体(10μg/ml)を、7.5分間のEGFの添加の前に、30分間細胞と共にインキュベートした。で印を付したデータのセットは、コントロール((−)ctrl)データのセットとは有意に異なった(p<0.05)。A.1208はEGFRリン酸化において有意な保護効果を有した。B.1277および1320は、EGF誘導性リン酸化に対して有意に保護する。エラーバーは、3回の独立した実験の標準偏差を表す。
図14】HN5細胞におけるリン酸化EGFR(pEGFR)およびEGFRのin cell western分析。混合物は、10μg/mlの最終濃度の992、1030および1042抗体の等モル混合物であり、その他の抗体を、それぞれ10μg/mlの濃度で使用した。50μg/mlのEGFを、固定化前に7.5分間添加してEGFRのリン酸化を刺激した。エラーバーは、6つの別々の(ctlr−)、または3つの別々のデータポイント(992、1030、1042、混合物もしくはerbitux)の標準偏差を表す。992、1030、混合物およびerbituxは、リン酸化における有意な(=p<0.05)保護効果を有した。
図15】EGFRの内在化における抗体のインキュベーションの影響。データを、細胞表面から取り出された受容体の初期染色に対するパーセントとして表す。エラーバーはSEMに対応する。
図16】非処置コントロールと比較した、代謝活性細胞パーセントによって測定される様々な濃度の抗体992、1030および1042ならびにそれらの混合物の存在下におけるA431−NS細胞の増殖曲線。1001は、ネガティブコントロールとして使用した類似のアイソタイプを有する非機能的抗体である。
図17】450nmでの吸光度によって測定される10μg/mlの抗体992、1030および1042ならびにそれらの混合物、ならびに様々な濃度のEGFRリガンドEGFの存在下におけるA431−NS細胞の増殖曲線。1001は、ネガティブコントロールとして使用した類似のアイソタイプを有する非機能的抗体である。
図18】様々な濃度の抗体992、および992とドメインI、IIまたはIIIに存在する非重複エピトープを伴う抗体との混合物の存在下におけるA431−NS細胞の増殖曲線。1001は、ネガティブコントロールとして使用した類似のアイソタイプを有する非機能的抗体である。
図19】A431NS細胞におけるアポトーシス。EGFR−混合物、個々のモノクローナル抗体、ErbituxおよびVectibixを10倍希釈で試験した。アポトーシス細胞由来のヒストン−DNA複合体を、Roche製ELISAキットを使用して測定した。
図20】10匹のヌードBalb/C Nu/Nuマウスの4つのグループに、1×10個のA431NS細胞を播種した。腫瘍が約100mmとなった場合に、処置を開始した。矢印で示すように、実験中、グループに1mg/mlの抗体を5回注入した。腫瘍の直径を、デジタルカリパスで測定した。結果を、平均腫瘍容積(+/−SEM)として示す。
図21図20に示す実験において個々のマウスを屠殺した場合、腫瘍を摘出し、そして秤量した。平均値+/−SEMを示す。星印は、P<0.05における有意性を示す。
図22】10μg/mlの抗体1001、Erbitux、Vectibixおよび非重複エピトープ992+1030+1042を伴う3つの抗体の混合物の存在下におけるA431−NSスフェロイドの増殖。1001は、ネガティブコントロールとして使用した類似のアイソタイプを有する非機能的抗体である。
図23】カニクイザルの皮膚上皮に由来するcDNAからクローニングしたカニクイザルEGFRの細胞外ドメインのDNA(配列番号100)およびタンパク質配列(配列番号101)。
図24】カニクイザルEGFR ECD(配列番号101)の得られたタンパク質配列と、GENBANK受託番号X00588から得られたヒトEGFR ECD(配列番号108)とのアラインメント。また、コンセンサス配列(配列番号109)も示す。
図25】ヒトもしくはカニクイザルEGFR ECDのいずれか一方または両方に結合する交差反応性および種特異的抗体間のELISAアッセイ識別の例。
図26】異種移植されたマウスの4つの実験グループのそれぞれに由来する代表的な腫瘍切片の顕微鏡写真。200×の倍率において、矢印はインビボにおけるA431細胞の最終分化の病巣を指す。3つの抗EGFRクローン(992+1030+1042)の混合物で処置した腫瘍における最終分化の顕著により大きくかつより多数の病巣に留意すること(上の2つのパネル)。
図27】A)10μg/mlのコントロール抗体の添加24時間後のHN5スフェロイドの40×倍率で撮影した画像。(リツキシマブ、抗CD−20)または992および1024の抗EGFR抗体混合物。B)ソフトウェアImage Jを用いた細胞に覆われた面積の定量(p<0.01)。
図28】非処置コントロールグループのパーセントとして4つの処置グループにおけるインボルクリンレベルを示す線図(それぞれErbitux、Vectibixおよびネガティブコントロールグループと比較した# p<0.005)。
図29】A)10μg/mlのAlexa−488標識Erbituxまたは992+1024と共に2時間インキュベートしたHN5およびA431NS細胞の60×倍率で撮影した画像。B)10μg/mlのAlexa−488標識Erbituxまたは992+1024と共に2時間インキュベートしたA431NS細胞の小ピンホールにより60×倍率で撮影した画像。
図30】A)10μg/mlのAlexa−488標識Erbituxまたは992+1024と共に示した期間インキュベートしたHN5細胞の60×倍率で撮影した画像。
図31】ELISAにおけるA431−NS細胞および精製された全長EGFRに対する逐次的な抗体力価によるFab992、1024および1030の抗原提示特異性の決定。結合したFab抗体を、二次ヤギ抗ヒトFab特異的HRP抱合によって可視化した。A)Fab抗体をA431細胞から精製された全長EGFRに対して試験した。B)Fab抗体をA431−NS細胞の表面上に発現されたEGFRに対して試験した。
図32】ELISAにおけるパラホルムアルデヒドで固定したA431−NS細胞に対する系列滴定による抗体992、1024、1030、ErbituxならびにVectibixのIgGおよびFabフラグメントの機能的アフィニティーの決定。結合したFabおよびIgG抗体を、二次ヤギ抗ヒトFab特異的HRP抱合によって可視化した。抗RSVタンパク質F抗体Synagisをネガティブコントロール抗体として用い、そして用いたELISAアッセイでは、何ら結合を示さなかった。A)A431−NS細胞へのIgG抗体の機能的結合。B)A431−NS細胞へのFab抗体の機能的結合。
図33】非重複エピトープに結合するFabフラグメントによる受容体飽和前のA431−NS細胞上のEGFRに結合するIgGの増強の決定。示したFabフラグメントで、A431−NS細胞上の認識されたEGFRエピトープを30分間飽和させ、その後、特定されたIgG抗体を系列滴定し、次いでFab添加を伴うまたは伴わない結合したIgGを、二次マウス抗ヒトFc HRP抱合によって可視化した。A)示したFabフラグメントによる先の受容体飽和を伴うまたは伴わないIgG992のA431−NS細胞への結合特徴。B)示したFabフラグメントによる先の受容体飽和を伴うまたは伴わないIgG1024のA431−NS細胞への結合特徴。C)示したFabフラグメントによる先の受容体飽和を伴うまたは伴わないIgG1030のA431−NS細胞への結合特徴。
図34】カニクイザル全長EGFR cDNA(図34A;配列番号102)およびコードされたタンパク質(図34B;配列番号103)。
図35】1μg/mlの示された抗体/組み合わせによってA431NSで生じたアポトーシス。ヒストン−DNA複合体を、Roche製ELISAキットで検出した。アポトーシスのレベルを、ポジティブコントロール(最大アポトーシス)と比較した。
図36】Balb/C nu/nuマウスに1×10個のA431NS細胞を注入した。腫瘍が平均で約100mmである場合、処置を開始した。マウスに、抗体を17回注入した。8日目に最初の処置を開始し、34日目に最後の処置を行った。抗体/組成物を、0.5mg/用量または0.17mg/用量で注入した。腫瘍容積の平均値+/−SEMを示す。
図37】A431NSの増殖の阻害。X軸は、本発明の3つの抗体の異なる代表的な組み合わせを示す。Y軸は、代謝活性を非処置コントロール(コントロール)に対する割合として示す。エラーバーは+/−SEMを表す。さらなる詳細については、実施例6を参照のこと。
図38】A431NSヒト腫瘍異種移植片におけるErbituxと比較した2つの異なる用量の992+1024混合物の増殖阻害効果。BALB/c nu/nuマウスに10個のA431NS細胞を播種した。腫瘍が100mmの平均サイズ(8日目)に到達した時に、マウスを無作為に9匹からなるグループに分け、処置を開始した。示された抗体を、0.5mg/用量または1mg/用量で1週間に2回、合計9回の注入で注入した。グラフ上の明灰色領域は、処置期間を示す。点線の開始部は、過度の腫瘍サイズのために一定のグループにおいて最初にマウスを安楽死させた時点を示す。2mg/週992+1024対2mg/週Erbituxおよび1mg/週992+1024対2mg/週Erbituxとの間の統計的な有意差を60日目に計算し、ここで、992+1024の2mg/週グループ以外のすべてを終結させた。それ故、60日目より以前に排除した動物の腫瘍サイズも存続させた;グラフは、一定のグループにおけるすべてのマウスの蓄積した腫瘍容積を示す。平均値+/−SEMを示す。
図39】992+1024抗体混合物、Erbituxまたはコントロール抗体で処置したマウスの生存率のKaplan−Meyerプロット(図38に示すものと同じ実験)。結果を処置したマウスの生存パーセントとして示す。992+1024とErbituxとを比較した場合の高用量(2mg/週、P=0.0008))および低用量(1mg/週、P=0.0004)グループにおけるマウスの生存パーセントの間の有意差を観察した。また、高用量のErbituxと比較した場合、低用量の992+1024は有意に良好であった(P=0.0087)。統計的差異をログランク(Mantel−Cox)検定を用いて算出した。
図40】FACS分析による全長ヒトおよびカニクイザルEGFRでトランスフェクトしたCHO細胞に対するIgG992、1024および1320の交差反応性分析。結合した抗体をPEで標識したヤギF(ab’)抗ヒトIgG FCで検出した。EGFRを発現する均質な細胞(SCC/FCS特性)においてゲーティングを実施した。結合を、1nM濃度で結合する最大抗体%として表す。
図41】992(A)ならびに1024(B)の重鎖および軽鎖の両方のマウス(chi)およびヒト化(hu)候補可変領域の可変領域のアミノ酸配列のClustalw2アラインメント。IMGTによって定義されるCDR領域に下線を付す;ギャップを(−)、同一アミノ酸を()、保存的変異を(:)、半保存的変異を(.)で示す。太字のアミノ酸は、全ヒトフレームワーク変種が結合アフィニティーの減少を示す場合、本来の同定されたマウス残基への復帰変異が行われるアミノ酸位置を示す。配列番号は次のとおりである:ヒト化992VH(配列番号104)。ヒト化992VL(配列番号105)。ヒト化1024VH(配列番号106)。ヒト化1024VL(配列番号107)。キメラ992VH(配列番号40のaa3〜124)。キメラ992VL(配列番号72のaa3〜109)。キメラ1024VH(配列番号41のaa3〜120)。キメラ1024VL(配列番号73のaa3〜114)。
図42A】992L1024に関する二重可変ドメインをコードする遺伝子の略図;992L1024IGHV(751bp)は、5’AscI制限部位から表示され、992IGHV、ASTKGPリンカー、1024IGHVと続き、3’XhoI制限部位で終了し、992L1024IGKV(1071bp)は、5’NheI制限部位から表示され、992IGKV、TVAAPリンカー、1024IGKV、IGKCと続き、3’NotI制限部位で終了する。
図42B】1024L992について二重可変ドメインをコードする遺伝子の略図;1024L992IGHV(751bp)は、5’AscI制限部位から表示され、1024IGHV、ASTKGPリンカー、992IGHVと続き、そして3’XhoI制限部位で終了し、1024L992IGKV(1071bp)は、5’NheI制限部位から表示され、1024IGKV、TVAAPリンカー、992IGKV、IGKCと続き、そして3’NotI制限部位で終了する。
【発明を実施するための形態】
【0048】
定義
用語「抗体」は、血清の機能的成分を説明し、そしてしばしば、分子のコレクション(抗体もしくは免疫グロブリン)または1つの分子(抗体分子もしくは免疫グロブリン分子)のいずれかをいう。抗体分子は、特異的抗原決定基(抗原もしくは抗原エピトープ)に結合するか、または反応することが可能であり、次いで、免疫学的エフェクター機構の誘導をもたらし得る。個々の抗体分子は、通常、単一特異性として認識され、そして抗体分子の組成物は、モノクローナル(即ち、同一の抗体分子よりなる)であってもよく、あるいはポリクローナル(即ち、同じ抗原またはなお別々の異なる抗原上の同じもしくは異なるエピトープと反応する2つもしくはそれ以上の異なる抗体分子よりなる)であってもよい。各抗体分子は、それが、その対応する抗原に特異的に結合することを可能にする独特な構造を有し、そしてすべての天然の抗体分子は、2つの同一な軽鎖および2つの同一な重鎖の全体的に同じ基本構造を有する。抗体はまた、集合的に免疫グロブリンとしても公知である。本明細書において使用する際、用語、抗体または抗体はまた、キメラおよび一本鎖抗体、ならびにFab、FvフラグメントまたはscFvフラグメントのような抗体の結合性フラグメント、ならびに二量体IgA分子または五価IgMのような多量体形態を含むことが意図される。抗体は、ヒト、マウス、キメラ、ヒト化、または再構成であってもよい。
【0049】
用語「同族VおよびVをコードするペア」は、同じ抗体を産生する細胞内に含有されるかまたはそれらに由来するVおよびVをコードする配列の元々のペアを説明する。それゆえ、同族VおよびVペアは、そのような細胞が由来するドナーに元々存在するVおよびVペア形成を表す。用語「VおよびVをコードするペアから発現される抗体」は、抗体または抗体フラグメントが、ベクター、プラスミド、もしくはVおよびVをコードする配列を含有する類似物から産生されることを示す。同族VおよびVをコードするペアが完全抗体またはその安定なフラグメントのいずれかとして発現される場合、それらは、それらが由来する細胞から元々発現される抗体の結合アフィニティーおよび特異性を保持する。同族ペアのライブラリーはまた、同族ペアのレパートリーまたはコレクションとも呼ばれ、そして個々に維持されてもよく、またはプールされてもよい。
【0050】
用語「CDR」−相補性決定領域は、Lefranc et al (2003) IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains. Dev. Comp Immunol 27, 55-77において定義されるとおりである。
【0051】
用語「組み換えポリクローナルタンパク質の別々のメンバー」は、異なるが相同なタンパク質分子を含んでなるタンパク質組成物の1つのタンパク質分子をいい、ここで、各タンパク質分子は、組成物の他の分子に相同であるが、しかしまた、可変ポリペプチド配列の1つもしくはそれ以上のストレッチを含有し、前記ストレッチはポリクローナルタンパク質の個々のメンバー間のアミノ酸配列の差異によって特徴付けられる。
【0052】
用語「head−to−headプロモーター」は、プロモーターによって誘導される2つの遺伝子フラグメントの転写が対向する方向で生じるように近接に配置されているプロモーターペアをいう。head−to−headプロモーターはまた、2つのプロモーター間の関連しない核酸からなるスタッファーで構築することもできる。そのようなスタッファーフラグメントは、500を超えるヌクレオチドを容易に含有することができる。head−to−headプロモーターはまた、両方向性プロモーターと呼ぶこともできる。
【0053】
用語「免疫グロブリン」は、一般に、血液または血清において見出される抗体の混合物の総称として使用されるが、他の供給源に由来する抗体の混合物を示すために使用されてもよい。
【0054】
用語「免疫グロブリン分子」は、例えば、免疫グロブリンの一部、または任意のポリクローナルもしくはモノクローナル抗体組成物の部分である個々の抗体分子を示す。
【0055】
用語「目的の変種核酸分子のライブラリー」は、「目的の組み換えポリクローナルタンパク質」を集合的にコードする核酸分子のコレクションを説明するために使用される。トランスフェクションについて使用する場合、目的の変種核酸分子のライブラリーは、発現ベクターのライブラリーに含有される。そのようなライブラリーは、典型的に、少なくとも2、3、5、10、20、50、1000、10、10もしくは10の個の個々のメンバーを有する。
【0056】
用語「物質移動」は、ベクターの1つの集団からベクターの別の集団への目的の核酸配列の移動、および各DNAについてそれを行うことであって、同時に、目的の個々のDNAの単離を用いないことを説明するために使用される。ベクターのそのような集団は、例えば、可変領域、プロモーター、リーダーを含有するか、または目的のエレメントを増強するライブラリーであり得る。次いで、これらの配列は、例えば、ファージベクターからの事前の単離を伴わずに、哺乳動物発現ベクターに移動させることができる。特に、抗体配列では、この技術は、例えば、選択ベクター(例えば、ファージディスプレイベクター)から哺乳動物発現ベクターへライブラリーを移動させる間、VおよびV多様性の間の連結が失われないことを確実にする。それによって、VおよびVの本来のペア形成が保持される。
【0057】
本明細書において使用する際、用語「作動可能に連結する」は、他のセグメントと機能的関係に配置される場合、別のセグメントに連結されるセグメントをいう。例えば、シグナル配列をコードするDNAは、それが、ポリペプチドの小胞体への移動に関与するリーダーとして発現される場合、ポリペプチドをコードするDNAに作動可能に連結される。また、プロモーターまたはエンハンサーは、それが配列の転写を刺激する場合、コーディング配列に作動可能に連結される。
【0058】
用語「ポリクローナル抗体」は、同じもしくは異なる抗原上のいくつかの異なる特異的抗原決定基に結合または反応することが可能な異なる抗体分子の組成物を説明する。通常、ポリクローナル抗体の可変性は、ポリクローナル抗体のいわゆる可変領域に局在すると考えられる。しかし、本発明に関して、ポリクローン性はまた、例えば、ヒトアイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、およびIgA2、またはマウスアイソタイプIgG1、IgG2a、IgG2b、IgG3、およびIgAのような2つもしくはそれ以上の抗体アイソタイプを含有する抗体の混合物の場合におけるようないわゆる定常領域に存在する個々の抗体分子間の差異を説明するものと理解することができる。本発明の目的のために、そのようなポリクローナル抗体はまた、「抗体組成物」とも呼ばれ得る。
【0059】
用語「エピトープ」は、一般に、動物、好ましくは、哺乳動物、および最も好ましくは、ヒトにおいて抗原もしくは免疫原活性を有するより大きな分子またはより大きな分子の一部(例えば、抗原もしくは抗原部位)の部分を説明するために使用される。免疫原活性を有するエピトープは、動物において抗体応答を誘発するより大きな分子の一部である。抗原活性を有するエピトープは、抗体が免疫特異的に結合するより大きな分子の一部であって、当該分野において周知の任意の方法、例えば、本明細書に記載のイムノアッセイによって決定される。抗原エピトープは、必ずしも免疫原性である必要はない。抗原は、抗体または抗体フラグメントが免疫特異的に結合する物質、例えば、毒素、ウイルス、細菌、タンパク質もしくはDNAである。抗原または抗原部位は、それらが極めて小さく、そしてしばしば、免疫応答を刺激することが可能でない場合に限り、しばしば、1を超えるエピトープを有する。エピトープは、線状であってもよく、または高次構造(conformational)であってもよい。線状エピトープは、抗体によって認識されるタンパク質分子における約6〜10個の隣接アミノ酸よりなる。対照的に、高次構造エピトープは、連続的に配置されていないアミノ酸よりなる。ここで、抗体は3次元構造のみを認識する。タンパク質分子が3次元構造にフォールディングされる場合、エピトープを形成するアミノ酸が並列され、抗体が配列を認識することを可能にする。変性されたタンパク質では、線状エピトープのみが認識され得る。高次構造エピトープは、定義上、フォールディングされたタンパク質の外側に存在しなければならない。高次構造エピトープを認識する抗体は、軽度の変性しない手順においてのみ結合し得る。同じ抗原上の異なるエピトープに結合する抗体は、エピトープの局在に依存して結合する抗原の活性に様々な影響を及ぼすことができる。抗原の活性部位のエピトープに結合する抗体は、抗原の機能を完全に遮断し得るが、一方、異なるエピトープに結合する別の抗体は、抗原単独の活性に全くもしくはほとんど影響を及ぼし得ない。しかし、そのような抗体は、相補体をなお活性化し、それによって抗原の排除を生じ得、そして同じ抗原上の異なるエピトープに結合する1つもしくはそれ以上の抗体と組み合わせた場合、相乗効果を生じ得る。本発明では、エピトープは、好ましくは、EGFRの細胞外ドメインの部分である。本発明の抗原は、好ましくは、抗体または抗体フラグメントが免疫特異的に結合する細胞外ドメインEGFRタンパク質、それらのポリペプチドまたはフラグメントである。EGFR関連抗原はまた、抗体または抗体フラグメントが免疫特異的に結合するEGFRポリペプチドまたはそのフラグメントの細胞外ドメインのアナログもしくは誘導体であってもよい。
【0060】
同じ抗原への結合について相互に競合することが可能な抗体は、同じもしくは重複エピトープに結合するか、または相互の極めて近くに結合部位を有し、結果として主に立体障害によって競合が生じうる。抗体の間の競合を決定するための方法については、実施例において説明する。
【0061】
本明細書において使用する際、用語「ポリクローナルタンパク質」または「多クローン性」は、異なるが相同なタンパク質分子を含んでなるタンパク質組成物を指し、好ましくは、免疫グロブリンスーパーファミリーから選択される。それ故、それぞれのタンパク質分子は、組成物の他の分子に相同であるが、しかしまた、可変ポリペプチド配列の1つもしくはそれ以上のストレッチを含有し、前記ストレッチは、ポリクローナルタンパク質の個々のメンバー間のアミノ酸配列の差異によって特徴付けられる。そのようなポリクローナルタンパク質の既知の例として、抗体または免疫グロブリン分子、T細胞受容体およびB細胞受容体が挙げられる。ポリクローナルタンパク質は、タンパク質分子の定義されたサブセットよりなっていてもよく、それらは、例えば、所望される標的抗原に対するポリクローナル抗体の場合、所望される標的に対する共有された結合活性のような共通の特徴によって定義されている。
【0062】
「タンパク質」または「ポリペプチド」とは、長さまたは翻訳後修飾に係らず、アミノ酸の任意の鎖を意味する。タンパク質は、タンパク質、ポリペプチド、オリゴペプチド、もしくはペプチドの2つもしくはそれ以上の集成されたポリペプチド鎖、フラグメントを含んでなる単量体または多量体として存在することができる。
【0063】
用語「RFLP」は、「制限酵素断片長多型」を指し、制限酵素による切断後、核酸分子フラグメントの泳動ゲルパターンが分析される方法である。
【0064】
用語「スクランブル」は、例えば、免疫グロブリンスーパーファミリー由来の異なる2つのポリペプチド鎖からなるポリクローナルタンパク質の2つもしくはそれ以上の別々のメンバーが個々の細胞から発現される状況を説明している。この状況は、個々の細胞が、ゲノム、1ペアを超える遺伝子セグメントに組み込まれる場合に生じ得、ここで、遺伝子セグメントの各ペアは、ポリクローナルタンパク質の別々のメンバーをコードする。そのような状況では、遺伝子セグメントから発現されるポリペプチド鎖の意図されない組み合わせが作製され得る。これらの意図されない組み合わせのポリペプチド鎖は、何ら治療効果を有し得ない。
【0065】
用語「V−V鎖スクランブル」は、上記で定義したスクランブルの例である。この例では、VおよびVをコードする遺伝子セグメントは、1対の遺伝子セグメントを構成する。スクランブルは、VおよびVポリペプチドの意図されない組み合わせが細胞から産生される場合に生じ、ここで、異なる2つのVおよびVをコードする遺伝子セグメントペアが同じ細胞に組み込まれる。そのようなスクランブル化された抗体分子は、本来の特異性を保持しない可能性があり、それゆえ何ら治療効果を有し得ない。
【0066】
用語「トランスフェクション」は、外来DNAを細胞に導入するための広範な用語として、本明細書において使用する。この用語はまた、例えば、形質転換、感染、形質導入またはドナー細胞とアクセプター細胞との融合のような外来DNAを細胞に導入するための他の機能的に同等な方法を含むことを意味する。
【0067】
用語「可変ポリペプチド配列」および「可変領域」は同じ意味で用いられる。。
【0068】
用語「別々のエピトープ」は、異なる2つの抗体が別々のエピトープに結合する場合、抗原結合に対し100%未満の競合が存在し、好ましくは、抗原結合に対し50%未満の競合が存在し、より好ましくは、抗原結合に対し本質的に競合が認められないことを意味する。抗体ペアの「別々のエピトープ」に関する解析は、典型的に、実施例に記載されるごとく、EGFRを発現する細胞および個々の蛍光標識抗体に対するFACS分析、またはフローセル表面に捕捉もしくは抱合されたEGFR抗原を使用する表面プラズモン共鳴のいずれかを用いる飽和抗体条件下の結合実験により調べられる。
【0069】
「EGF結合を阻害する」ことができる用語は、1つの抗体分子に適用される場合、抗体分子が、10nM未満、好ましくは、8nM未満、より好ましくは、7nM未満、より好ましくは、5nM未満、より好ましくは、4nM未満、より好ましくは、3nM未満、より好ましくは、2nM未満、より好ましくは、2nM未満、より好ましくは、1nM未満のEGFRに結合するEGFに関するIC50値を示すことを意味する。
【0070】
用語「上皮成長因子受容体」、「EGFR」、および「EGFR抗原」は、本明細書において同じ意味として使用され、そしてヒトEGFRの変異種、アイソフォームおよび種ホモログを含む。好適な実施形態では、本発明の抗体のEGFR−抗原への結合は、EGFRリガンドのEGFRへの結合を阻害または遮断することによって、EGFRを発現する細胞(例えば、腫瘍細胞)の増殖を阻害する。用語「EGFRリガンド」は、EGFRに対するすべての(例えば、生理学的)リガンドを包含し、EGF、TGF−α、ヘパリン結合性EGF(HB−EGF)、アンフィレグリン(AR)、ヘレグリン、β−セルリン、およびエピレグリン(EPI)を含むが、これらに限定されない。別の好適な実施形態では、本発明の抗体のEGFR−抗原への結合は、エフェクター細胞の食作用および/またはEGFRを発現する細胞の死滅を仲介する。
【0071】
EGFRドメイン構造:成熟EGFRの細胞外部分(SwissProt acc.#P00533)は、621個のアミノ酸からなり、4つの受容体ドメイン:ドメインIは残基1〜165を、ドメインIIは残基166〜312を、ドメインIIIは残基313〜481を、そしてドメインIVは482〜621を包含する(Cochran et al. 2004 J immunol. Methods 287, 147-158)。ドメインIおよびIIIは、リガンドに対する高アフィニティー結合部位の形成に寄与することが示唆されている。ドメインIIおよびIVは、タンパク質フォールディングを安定化し、そして可能なEGFR二量体化形成面を含有するシステインリッチのラミニン様領域である。
【0072】
本明細書において使用する際、用語「増殖を阻害する」(例えば、細胞を指す)は、抗EGFR抗体と接触していない同じ細胞の増殖と比較して、抗EGFR抗体と接触した場合の細胞の増殖(細胞数の増加)または代謝における任意の測定可能な減少、例えば、細胞培養の増殖の少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、99%、もしくは100%の阻害を含むことが意図される。
【0073】
本明細書において使用する際、用語「結合を阻害する」および「結合を遮断する」(例えば、EGFRリガンドのEGFRへの結合の阻害/遮断を指す)は、同じ意味として使用され、そして部分的および完全な阻害/遮断の両方を包含する。EGFRに対するEGFRリガンドの阻害/遮断は、好ましくは、阻害もしくは遮断を伴わずにEGFRリガンドがEGFRに結合する場合に生じる細胞シグナリングの正常なレベルまたはタイプを減少させるか、または変更する。阻害および遮断はまた、抗EGFR抗体と接触していないリガンドと比較して、抗EGFR抗体と接触した場合のEGFRに対するEGFRリガンドの結合アフィニティーにおける任意の測定可能な減少、例えば、EGFRに対するEGFRリガンドの少なくとも約10%、20%、30%、40%、50%、60%、70%、80%、90%、99%、もしくは100%の遮断を含むことが意図される。
【0074】
用語「組み換え抗体」は、細胞を自然に会合する抗体のコーディング配列を含んでなる発現ベクターでトランスフェクトされた細胞または細胞系統から発現される抗体分子またはいくらかの分子を説明するために使用される。
【0075】
(発明の詳細な説明)
抗体混合物
一実施形態では、本発明は、少なくとも3つの別々のEGFRエピトープ、好ましくは、3つの非重複EGFRエピトープに結合することが可能な抗体分子を含んでなる抗体組成物に関する。抗体の非重複性は、好ましくは、EGFR発現細胞を用いるFACS分析において様々に標識された抗体を使用して、またはフローセル表面に捕捉もしくは抱合されたEGFR抗原を使用する表面プラズモン共鳴を使用することによって、決定される。実施例に記載されるELISAに基づく方法が用いられてもよい。3つの非重複EGFRエピトープに結合する組成物は、1つもしくは2つのエピトープを標的にするモノクローナル抗体の組成物と比較して、EGFRコンホメーションにおける差異に対してそれほど過敏ではあり得ず、そして変異に対してそれほど過敏ではあり得ないため、それは、広範なEGFR依存的癌タイプに対して使用することができる。さらに加えて、3つの非重複EGFRエピトープに結合する抗体組成物は、より少ないエピトープを標的にする組成物と比較してより優れた効力を提供し得る。特に、抗体組成物は、癌細胞の最終分化に関して、インビボでより優れた効力を提供し得る。図37はその考察の一般的な適用を例示する3つの別々のhEGFRエピトープに結合する強力な抗体組成物の多数の例を示す。
【0076】
モノクローナル抗EGFR抗体療法では、一定の割合の患者は、抗体処置に対して有効に応答しない。いずれかの患者においては、これは抗体の迅速な浄化によるものであり得、あるいは、抗体が抗体に対する患者の免疫応答を生じるためである。ある患者においては、応答の欠如は、それらの特定のEGFR依存性癌が、モノクローナル抗体がそのエピトープに結合することができないコンホメーションでEGFRを発現するためであり得る。これは、グリコシル化の差異のためか、ドメイン欠失のためか、あるいは変異および/またはSNPのためであり得る。
【0077】
また、いずれかの癌では、リガンドの癌細胞の産生によって生じる自己分泌EGFR−刺激が重要である一方、他の場合では、癌細胞によって発現されるEGFRがリガンド刺激を必要としない。後者の癌タイプでは、リガンド結合を阻害することが可能な抗体は有効ではないかもしれない。
【0078】
抗体がEGFR上の少なくとも3つの別々のエピトープに結合することが可能である抗体組成物は、複数の抗体によって認識されるエピトープと比較して3つのすべてのエピトープが変化する可能性が低いため、より広範に適用可能である。さらに加えて、すべての抗体がいずれも患者によって浄化される可能性は極めて低い。最終的に、実施例は、機能アッセイにおいて、別々のエピトープに結合する3つの抗体を含んでなる混合物が、モノクローナル抗体および2つの抗体を含んでなる混合物より優れていることを示す。非重複エピトープを有する3つのドメインIII抗体を使用して、癌細胞の最終分化の誘導に関する優位性が明確に示された。癌細胞のそのような効率的な抗体誘導性最終分化は、これまで報告されておらず、そして効率的な抗体に基づく癌療法の設計における著しい前進を表す。後者の結果は、2つの抗体の特定の組み合わせで類似またはなおより優れた結果を得ることができることを示している。
【0079】
より広範なEGFR依存性癌タイプに対する改善された臨床効力およびより広範な有用性のために、組成物における抗体の数を増加させることができる。それ故、組成物は、4つの非重複エピトープに結合することが可能な抗体を含んでなり得る。組成物は、5つの非重複エピトープに結合することが可能な抗体を含んでなり得る。組成物は、6つの非重複エピトープに結合することが可能な抗体を含んでなり得る。本出願の実施例は、少なくとも6つの別々の抗体が、1回でEGFRに結合することができることを示す(実施例3)。このことは、抗体を注意深く選択することによって、6を超える、例えば、7もしくは8つの非重複エピトープに結合することが可能な抗体を含んでなる組成物を設計することが可能であるか、またはなお有利であることを排除しない。
【0080】
別の実施形態では、組成物は、異なるが重複するエピトープに結合する2つの抗体のごとく、1つのエピトープに結合する1つより多い抗体分子を含んでなる。これは、エピトープが結合する可能性を大きくするため、重複するエピトープを伴う抗体を含む利点が存在し得る。これに対する1つの理論的根拠は、コンホメーション変化または変異もしくはSNPにより、いずれかの患者および/またはいずれかの癌細胞におけるエピトープが変化し得ることである。このことは1つの抗体の結合に影響を及ぼし得る一方、それは、重複するエピトープに結合する別の抗体の結合に影響を及ぼし得ない。さらに加えて、その抗体の1つは、抗原とみなされるため、患者によって浄化される危険性が存在する。異なるが重複するエピトープに結合する2つの抗体を含むことにより、2つの抗体のうちの1つのクリアランスの結果およびエピトープにおける変異の結果が低減される。
【0081】
それ故、一実施形態では、組成物は、異なるが重複するエピトープに結合する2つの抗体を含んでなる。別の実施形態では、組成物は、同じエピトープに結合する2つの別々の抗体分子を含んでなる。同じまたは重複するエピトープに結合する抗体は、同じまたは異なるアイソタイプであり得る。
【0082】
それ故、3つの非重複エピトープに対して指向された抗体を含んでなる抗体組成物は、2つの抗体が2つの重複エピトープまたは同じ第1のエピトープに結合し、他の2つの抗体が他の2つの重複エピトープまたは同じ第2のエピトープに結合し、そして2つの抗体がさらなる他の2つの重複エピトープまたは同じ第3のエピトープに結合するように、4、5もしくは6つの別々の抗体分子を含んでなり得る。当然、組成物は、重複エピトープに結合することが可能であるか、または同じエピトープに結合することが可能である2を超える、例えば、3または4つの抗体分子を含んでなり得る。それ故、組成物に含まれる抗体の総数は、各エピトープについて1を超える抗体を有することによるか、または重複エピトープを有するいくつかの抗体を有することにより6を超え得る。組成物に含まれるさらなる各抗体について、抗体定常部(antibody constant)の総用量を保持すると、各抗体の濃度が減少する。従って、許容可能な効力を維持する一方、組成物に含まれ得る抗体の数が制限されることが期待される。表面プラズモン共鳴結合実験および増殖アッセイからの観察に基づき、そして製造の課題を正当に考慮すると、抗体の数を6から7、8、9、10個もしくはそれ以上に増加することにより、限定された(存在するならば)さらなる利点が入手可能であることが期待される。当然、これは、組成物が、10を超える抗体、例えば、11、12、13、14、15、16、17、18、19、または20個の抗体もしくはそれ以上、例えば、25個の抗体もしくはそれ以上、例えば、30個の抗体もしくはそれ以上、例えば、40個の抗体もしくはそれ以上、例えば、50個の抗体もしくはそれ以上を含んでなることを排除しない。
【0083】
本発明の抗体組成物に、少なくとも3つの非重複EGFRエピトープに結合することが可能な抗体が含まれることが好適である一方、2つの非重複EGFRエピトープに結合することが可能な抗体の特定の組み合わせによってもまた、より優れた結果が得られている。これらの好適な「2抗体」組成物については、本発明の抗体組成物の設計の仕方に関する指針と共に、以下により詳細に説明する。わずか2つの抗体:992および1024を伴う組成物を使用する場合、抗体992、1030、および1042を含んでなる3抗体組成物と比較して、同様またはより改善された効力が入手され得ることがわかっている。抗体1024および1042は、同じクラスターに属し、それゆえ同じ結合特異性を有するため、実際には、最終分化における効果を含む3抗体組成物について観察される結果は、組成物における2つのみの結合特異性(992および1024/1042)に帰することができる。
【0084】
一実施形態では、組成物中の少なくとも1つの抗体は、ドメインIIIエピトープに結合し、より好ましくは、組成物は、ドメインIIIエピトープに結合する少なくとも2つの抗体を含んでなり、そして組成物はまた、ドメインIIIエピトープに結合する3つの抗体を含んでなり得る。
【0085】
好ましくは、組成物は、ドメインIエピトープに結合する少なくとも1つの抗体を含んでなり、そしてそれは、ドメインIエピトープに結合する少なくとも2つの抗体結合を含んでなり得る。
【0086】
好ましくは、組成物は、ドメインIIエピトープに結合する少なくとも1つの抗体を含んでなり、そして2つのドメインIIエピトープに結合する抗体を含んでなり得る。
【0087】
組成物はまた、本明細書において定義されるように、ドメインI/IIエピトープに結合する抗体を含んでなり得る。
【0088】
組成物は、ドメインIVエピトープに結合することが可能な抗体を含んでなり得る。
【0089】
好ましくは、組成物は、EGF結合を阻害することが可能な少なくとも1つの抗体分子を含んでなり得る。
【0090】
別の好適な実施形態では、組成物は、EGFRのリン酸化を防止することが可能な抗体を含んでなり得る。
【0091】
さらに加えて、組成物は、EGFRの内在化/分解を増強することが可能な抗体を含んでなり得る。
【0092】
好適な実施形態では、組成物は、少なくとも1つのドメインIII抗体および少なくとも1つのドメインI/II抗体を含んでなる。別の好適な実施形態では、組成物は、少なくとも2つのドメインIII抗体および1つのドメインI抗体を含んでなる。
【0093】
さらに好適な実施形態では、組成物は、少なくとも2つのドメインIII抗体、例えば、少なくとも3つのドメインIII抗体を含んでなる。
【0094】
組成物の抗体は、非ヒト可変鎖およびヒト定常鎖を伴うキメラ抗体であってもよい。非ヒト可変鎖は、マウス、ラット、ヒツジ、ブタ、ニワトリ、非ヒト霊長類または他の適切な動物由来であってもよい。完全なヒト抗体を得るために、抗体は、ヒト抗体遺伝子を有するトランスジェニック動物において作製することができる。抗体はまた、いわゆるヒト化抗体であってもよく、非ヒトCDR配列は、ヒトフレームワーク配列にグラフト化されている。
【0095】
好ましくは、ヒト定常鎖はIgG1またはIgG2アイソタイプである。より好ましくは、組成物中のすべての抗体は、製造が容易であるため同じアイソタイプを有する。しかし、組成物中に異なるアイソタイプの抗体を含むことが有利であり得る。
【0096】
好ましくは、本発明の抗体組成物は、ヒトEGFR、変異型ヒトEGFR、およびヒトEGFRの欠失変種よりなる群から選択されるEGFRに結合することが可能な抗体を含んでなる。好ましくは、抗体は、それらが臨床実験前の関連毒物学実験において試験されうるように、ヒトおよび非ヒト霊長類EGFRの両方に結合することが可能である。好ましくは、非ヒト霊長類はカニクイザル(Macaca fascicularis)である。
【0097】
より別々のエピトープのうち3つに結合する抗体を使用して、EGFR依存的癌を治療する上記で同定された概念を支持するために、本発明者らは、EGFRに対して指向された一連のキメラマウス/ヒト抗体を同定、製造、および特徴付けた。これらのキメラ抗体を、個々におよび混合物中において、ErbituxTMおよびVectibixTMによって例示される最新技術のモノクローナル抗体と比較した。
【0098】
表1は、個々のキメラ抗体およびこれらに関連する特徴の概要を示す。抗体番号は、本出願全体をとおして使用される参照番号である。特異性は、実施例3において立証されるように、抗体が結合するEGFRドメインである。ΔEGFRは、実施例1に記載のような、EGFR変異体(EGFRvIII)に結合する抗体の能力である。カニクイザルEGFRは、カニクイザルEGFRに結合する抗体の能力である(実施例10)。EGF inhibは、EGF結合を阻害する抗体の能力である(実施例4)。増殖は、癌細胞系統、A431およびHN−5の増殖を阻害する抗体の能力である(実施例6)。
【0099】
表1.本発明の抗体
【表1】
【0100】
試験したキメラ抗体単独で、ならびに増殖、結合、受容体分解/不活化、および運動アッセイ、および動物モデルでの組み合わせにおいて作製されたデータから、多くの結論を導き出すことができる。
【0101】
2つの癌細胞系統、HN−5およびA431により得られた結果(実施例6)は、異なる癌細胞系統(MDA−MB−468、乳癌細胞系統;DU145−前立腺癌細胞系統)でも反復されている。これらの実験から明らかなことは、本発明者らによって提供される抗体の組み合わせが、極めて広範な癌細胞系統に対して効力を示し、ある範囲のEGFRコンホメーションに対する抗体組成物の効力を支持する。
【0102】
また、生理学的濃度のリガンド(EGF)が増殖培地に添加される増殖アッセイでは、EGFが添加されない場合より抗体混合物の優位性が高いことも示されている(図17)。文献(Hayashi and Sakamoto 1998 J Pharmacobiodyn 11;146-51)に従えば、血清は、約1〜1.8ng/mlまたは0.2〜0.3nMのEGFを含有する一方、胃液(gastic juice)は、0.3ng/ml(約0.05nM)を含有することが報告されている(Pessonen et al. 1987 Life Sci. 40; 2489-94)。インビボ状況では、EGFおよび他のEGFRリガンドも存在する可能性があり、従って、EGFRリガンドの存在下で有効であるべき抗体混合物の能力は、本発明の抗体混合物の重要な特徴である。
【0103】
本発明のキメラマウス/ヒト抗体は、組み合わせて使用する場合、単独で使用する場合より良好な結果を提供する。これは、いくつかの実験(例えば、実施例6を参照のこと))で例示されており、ここで、単独で使用した場合、抗体は、癌細胞系統(A431−NS)において中程度の抗増殖効果しか示さないが、いずれかの組み合わせで使用する場合、顕著により優れた結果を示す。これらの結果は、本発明のキメラ抗体の多くの組み合わせで確認された。特に優れた結果は、抗体992および1024を含んでなる組成物によって得られた。
【0104】
例えば、いくつかの抗体は、抗体992、1208、1254、および1277のいずれかと一緒にA431−NSおよびHN−5による抗増殖アッセイにおいて試験されている。
【0105】
受容体結合実験は、いずれかの抗体が実際にさらなる抗体の結合を刺激し、その結果、特定の抗体が1つもしくはいくつかの抗体による受容体飽和後により多くの量で受容体に結合しうることを示した。ドメインIIIに対して指向された抗体992の結合は、非重複エピトープに結合する1つもしくはそれ以上の抗体による事前の受容体飽和によって得られるこの相乗効果から明らかに利益を得る。この協同効果の別の例は、未知のエピトープに対して指向された抗体1396が非重複エピトープに結合する抗体で飽和されたEGFRに対して試験される場合に認められる。
【0106】
受容体結合実験はまた、少なくとも6つの抗体がEGFRの細胞外ドメインに同時に結合することができることを示した。これらの6つの抗体は、3つのドメインIII抗体、1つのドメインI抗体、1つのドメインI/II抗体、および未知のエピトープに結合する1つの抗体を表す。興味深いことに、3つのドメインIII抗体の結合は、さらなる抗体の以後の結合を容易にすると思われる。このことは、別々のエピトープに結合するいくつかの抗体を有する抗体組成物を提供するという概念を明確に支持する。
【0107】
EGFRに対する抗体組成物の組成物を設計する場合、非重複エピトープを有する抗体はより高い相乗効果を提供するものとして好適に使用される。
【0108】
また、混合物の抗体の少なくとも1つ(単独で試験する場合)は、EGFRへのリガンド結合を阻害することが可能であり、例えば、EGF結合を阻害することが可能であり、および/またはTGFα結合を阻害することが可能であり、および/またはアンフィレグリン結合を阻害することが可能であることが好ましい。好ましくは、EGF結合を阻害することが可能な抗体は、抗体992、1030、1024、1042、1208、1254、1277、1284、1320、および1428よりなる群から、より好ましくは、抗体1208、1260、1277、および1320よりなる群から選択される。
【0109】
抗体混合物における少なくとも1つの抗体メンバーは、EGFRリン酸化を減少させることが可能であることも同様に好ましい。この特性を伴う本発明の抗体の例として:992、1030、1042、1208、1277、および1320が挙げられる。
【0110】
EGFRのドメインIIIは、受容体に結合するリガンドに重要である。さらに加えて、ドメインIIIに結合する抗体は、EGFRを、受容体シグナリングを誘導しない繋留型単量体コンホメーションで安定化し得る。これらの理由のため、抗体組成物は、ドメインIIIに対する特異性を伴う少なくとも1つの抗体を含有することが好ましい。好適なドメインIII抗体として、抗体992、1024、1030、1208、1254、1277、および1320が挙げられる。より好ましくは、少なくともドメインIII抗体は、抗体992、1254、1277、1208、および1320よりなる群から選択される。抗体組成物は、好ましくは、1を超えるドメインIII抗体、例えば、少なくとも3つのドメインIII抗体、例えば、少なくとも4つのドメインIII抗体、例えば、少なくとも5つのドメインIII抗体、例えば、少なくとも6つのドメインIII抗体を含んでなり得る。
【0111】
別の好適な実施形態では、抗体組成物は、少なくとも1つのドメインI抗体を含んでなる。好ましくは、少なくとも1つのドメインI抗体は、抗体1284、1308、1344、および1347よりなる群から選択される。より好ましくは、少なくとも1つのドメインI抗体は、抗体1284、および1347よりなる群から選択される。
【0112】
別の好適な実施形態では、抗体組成物は、少なくとも1つのドメインI/II抗体を含んでなる。好ましくは、少なくとも1つのドメインI/II抗体は、抗体1257、1260、1261、1428、および1434よりなる群から選択される。より好ましくは、少なくとも1つのドメインI/II抗体は、抗体1261および1260よりなる群から選択される。
【0113】
本発明に由来する2つの抗体の効率的な特定の組み合わせとして、以下のものが挙げられる:
1024、1320、1308、1284、1260、または1030、好ましくは、1320、または1284を伴う抗体1280。
1024、1030、1260、1284、1308、または1320、好ましくは、1320、1284、または1260を伴う抗体1254。
1024、1030、1260、1284、1308、または1320、好ましくは、1320、1284、または1260を伴う抗体1277。
1030、1260、1284、1308、1320、または1024、好ましくは、1320、1024、または1284を伴う抗体992。
【0114】
2つの抗体のより優れたおよび好適な混合物の例として、992+1024;992+1320;992+1042;1277+1320;1208+1320が挙げられる。992+1024が特に好適である。
【0115】
3つの抗体を伴う好適な混合物として、次のものが挙げられる:抗体992+1030+1042;992+1320+1024;992+1024+1030;1320+1284+1261;1320+1214+1320;992+1284+1320;992+1255+1024;992+1030+1320;992+1024+1214;992+1261+1320;992+1024+1284;992+1024+1211;992+1024+1030;1260+1214+1254;992+1255+1320;992+1211+1320;992+1030+1261;992+1260+1030;992+1260+1320;992+1030+1214。
【0116】
4つの抗体を伴う好適な混合物として、次のものが挙げられる:抗体992+1320+1024+1030;992+1024+1030+1284;1277+1320+1260+1347;1277+1320+1261+1347;1277+1320+1261+1284;1254+1320+1260+1347;1254+1320+1261+1347;1254+1320+1261+1284;1254+1024+1260+1347;1254+1024+1261+1347;1254+1024+1261+1284;1277+1024+1260+1347;1277+1024+1261+1347;1277+1024+1261+1284。
【0117】
5つの抗体を伴う好適な混合物として、次のものが挙げられる:992+1030+1024+1260+1347;992+1030+1024+1261+1347;992+1030+1024+1261+1284;992+1030+1320+1260+1347;992+1030+1320+1261+1347;992+1030+1320+1261+1284;
【0118】
8つの抗体を伴う1つの好適な混合物として、次のものが挙げられる:992+1030+1024+1277+1254+1320+1260+1261+1284+1347;
【0119】
さらに加えて、非ヒト霊長類における毒物学研究を実施することを可能にするために、組成物中のすべての抗体が、ヒトならびに少なくとも1つのさらなる霊長類EGFR、例えば、チンパンジー、マカカ・ムラタ(Macaca mulatta)、アカゲザルおよび他のサル、またはカニクイザルサル由来のEGFRに結合することが好適である。カニクイザルは、比較的小さな動物であり、そして毒物学研究について極めて適当である。従って、さらなる霊長類EGFRは、好ましくは、カニクイザルEGFRである。好ましくは、抗体は、ほぼ同じアフィニティーでヒトおよび非ヒト霊長類EGFRに結合する。
【0120】
本発明は、1つの組成物において2、3、4、5、6、7、および8つの抗体を組み合わせる場合、1つもしくはそれ以上の機能アッセイにおいてより優れた結果を示した。これらのデータが組成物における抗体の数の選択に対する指針を提供する一方、それらは決して限定的に解釈されるべきではない。実験データが6つの抗体の同時結合のみを示しても、組成物は8を超える抗体を含んでなり得る。例えば、抗体メンバーの浄化速度の差異のような組成物において6を超える抗体を含むための他の理由が存在し得る。
【0121】
組成物の抗体のさらなる好適な特徴は、抗体を容易に精製することができるようなタンパク質均質性である。個々の抗体メンバーについて、1つの別々のピークを伴うイオン交換クロマトグラフィープロファイルが特徴付けを容易にするために好適である。明確なイオン交換クロマトグラフィープロファイルもまた、最終的な抗体組成物の特徴付けを容易にするために好適である。イオン交換クロマトグラフィーを用いて区別することができる抗体を組み合わせる場合も、1回の実行ですべての抗体を伴う組成物を特徴付けすることができるので好適である。
【0122】
抗体は、ヒト、マウス、ウサギ、ニワトリ、ブタ、ラマ、ヒツジのようないずれの起源由来であってもよい。抗体はまた、実施例に記載のようなキメラであってもよく、あるいは当該分野で記載される周知の方法を用いるヒト化、超ヒト化(superhumanised)またはそれらの再構成バージョンであってもよい。
【0123】
好適な抗体組成物
添付の実施例に示されるように、抗体992および1024に基づく抗EGFR組成物は、独特で別々の特性を有する。抗体992の結合は、1024を含む他の抗体の結合によって増強される。市販の抗体とは対照的に、992および1024の両方は、好ましくは、細胞上に提示された高次構造エピトープに結合する(実施例14および15)。992および1024のエピトープは、両方ともErbituxおよびVectibixエピトープと重複するが、それらとは異なる。個々の抗体が非重複エピトープに結合する他の多くの2抗体組成物とは対照的に、抗体992および1024の結合特異性に基づく組成物は、迅速かつ効果的に受容体内在化を誘発する。インボルクリン発現の増加および癌真珠の出現によって達成される最終分化に関与する新規の作用機序が、抗体992および1024に基づく抗体組成物による処置後の動物モデルにおいて観察される。この独特な作用機序は、インビトロおよびインビボでより効果的で継続的な増殖阻害を導く。これは、処置の終了後、腫瘍が継続して低減するインビボでの実施例で最も明確に認められる。Erbituxを受けたコントロールグループでは、腫瘍は、処置の終結後直ぐに増殖し始める。このことは明確に異なる作用機序を示す。
【0124】
新規の作用機序は、1つの抗体組成物における抗体992および1024によって示される2つの結合特異性の組み合わせを用いることにより行われると考えられる。この作用機序は、例えば、抗体992、1024、および1030の三重の組み合わせにおいて抗体992および1024と競合しない第3の抗体を使用する場合にも認められる。
【0125】
これらの観察は、少なくとも2つの別々の抗ヒトEGFR抗体分子を含んでなる抗体組成物の設計をもたらし、ここで、第1の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体992、抗体992のVL(配列番号72のアミノ酸3〜109)およびVH(配列番号40のアミノ酸3〜124)配列を含んでなる抗体、抗体992のCDR3(配列番号116および111)を有する抗体、抗体992と同じエピトープに結合する抗体、ならびに抗体992のヒトEGFRへの結合を阻害することが可能な抗体よりなる群から選択され;ここで、第2の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体1024、抗体1024のVL(配列番号73のアミノ酸3〜114)およびVH(配列番号41のアミノ酸3〜120)配列を含んでなる抗体、抗体1024のCDR3(配列番号120および114)を有する抗体、抗体1024と同じエピトープに結合する抗体、ならびに抗体1024のヒトEGFRへの結合を阻害することが可能な抗体よりなる群から選択される。
【0126】
好ましくは、前記第1の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体992、抗体992のVLおよびVH配列を含んでなる抗体、抗体992のCDR3を有する抗体、および抗体992と同じエピトープに結合する抗体よりなる群から選択され;そして前記第2の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体1024、抗体1024のVLおよびVH配列を含んでなる抗体、抗体1024のCDR3を有する抗体、および抗体1024と同じエピトープに結合する抗体よりなる群から選択される。
【0127】
本発明は、抗体に同じ結合特異性を提供するための抗体992および1024のCDR3配列における変異を考慮する。従って、一実施形態では、抗体992と同じ結合特異性を有する抗体は、次式:CTX101112131415W(ここで、X〜X15は、以下に列挙するアミノ酸の群から個々に選択される
=RまたはK;
=N、D、EまたはQ;
=G、A、V、またはS;
=D、E、NまたはQ;
=Y、F、WまたはH;
=Y、F、WまたはH;
=V、I、LまたはA;
=S、T、GまたはA;
=S、T、GまたはA;
10=G、A、V、またはS;
11=D、E、NまたはQ;
12=A、G、V、またはS;
13=M、L、IまたはV
14=DまたはE;および
15=Y、またはF)
を有するCDRH3、ならびに次式:CXPPTF(ここで、X〜Xは、以下に列挙するアミノ酸の群から個々に選択される
=QまたはH;
=H、EまたはQ;
=Y、F、WまたはH;
=N、QまたはH;
=T、S、GまたはA;および
=V、I、LまたはA)
によって記載されるCDRL3を含んでなる。
【0128】
一実施形態では、抗体1024と同じ結合特異性を有する抗体は、次式:CVX1011W(ここで、X〜X11は、以下に列挙するアミノ酸の群から個々に選択される
=RまたはK;
=Y、F、WまたはH;
=Y、F、WまたはH;
=G、A、V,またはS;
=Y、F、WまたはH;
=D、E、NまたはQ;
=EまたはD;
=A、G、V、またはS;
=M、L、IまたはV;
10=D、E、NまたはQ;および
11=Y、またはF)
を有するCDRH3、ならびに次式:CXPXTF(ここで、X〜Xは、以下に列挙するアミノ酸の群から個々に選択される
=A、G,またはV;
=QまたはH;
=N、QまたはH;
=L、I、MまたはV;
=E、D、NまたはQ;
=L、I、MまたはV;および
=Y、F、WまたはH)
によって記載されるCDRL3を含んでなる。
【0129】
変異型CDR3を伴う抗体は、一般的な技術を用いて作製され、本明細書に記載の方法を使用して発現され、結合について試験することができる。
【0130】
本発明のこの態様による抗体は、キメラ、ヒト、ヒト化、再構成または超ヒト化であってもよい。これは、当該技術分野において公知の方法を用いることにより行うことができる。例えば、抗体992および1024は、実施例18に記載の方法を用いてヒト化されてもよい。「超ヒト化」の方法は、US 6,881,557に記載される。
【0131】
より好ましくは、前記第1の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体992、抗体992のVLおよびVH配列を含んでなる抗体、ならびに抗体992のCDR3を有する抗体よりなる群から選択され;前記第2の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体1024、抗体1024のVLおよびVH配列を含んでなる抗体、ならびに抗体1024のCDR3を有する抗体よりなる群から選択される。
【0132】
より好ましくは、前記第1の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体992、ならびに抗体992のVLおよびVH配列を含んでなる抗体よりなる群から選択され;前記第2の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体1024、ならびに抗体1024のVLおよびVH配列を含んでなる抗体よりなる群から選択される。
【0133】
最も好ましくは、組成物は、抗体992および1024を含んでなる。
【0134】
記載されるように、第1および第2の抗EGFR抗体は、好ましくは、ヒトEGFRへの結合を相互に阻害しない。さらにより好ましくは、抗体の少なくとも1つは、ヒトEGFRに関する他の抗体の最大結合能を増加させることが可能である。この効果は、抗体992および1024について観察される(実施例16)。
【0135】
2つの抗体の間の比は、正確に1:1の割合である必要はない。結果的に、組成物における第2の抗体に対する第1の抗体の割合は、5〜95%の間、例えば、10〜90%の間、好ましくは、20〜80%の間、より好ましくは、30〜70の間、より好ましくは、40〜60の間、例えば、45〜55の間、例えば、約50%であり得る。
【0136】
好ましくは、第1および第2の抗体は、アイソタイプIgG1またはIgG2である。
【0137】
本発明者らによって同定された抗体992と同じエピトープに結合する抗体の例は、クローン1209、1204、992、996、1033、および1220を含んでなる抗体クラスター由来の抗体である。
【0138】
本発明者らによって同定された抗体1024と同じエピトープに結合する抗体の例は、クローン1031、1036、1042、984、1024、1210、1217、1221、および1218を含んでなる抗体クラスター由来の抗体である。
【0139】
CDR3は、抗体の結合特異性を決定する。好適な実施形態では、抗体992のCDR3を含んでなる抗体は、抗体992のVHおよびVLのCDR1およびCDR2をさらに含んでなる。同様に、抗体1024のCDR3を含んでなる抗体は、好ましくは、抗体1024のVHおよびVLのCDR1およびCDR2をさらに含んでなる。抗体のCDR配列は、実施例17の表12に見出すことができる。
【0140】
他の実施形態では、抗体992と競合する抗体は、抗体1208、1254、および1277よりなる群から選択される。同様に、抗体1024と競合する抗体は、抗体1042および1320よりなる群から選択され得る。
【0141】
一実施形態では、組成物は、前記第1および第2の抗体の他にさらなる抗体を含有せず、より好ましくは、さらなる抗EGFR抗体を含有しない。
【0142】
他の実施形態では、組成物は、第3の別々の抗EGFR抗体を含んでなり、ここで、前記第3の別々の抗EGFR抗体分子は、抗体1030、抗体1030のVL(配列番号74のアミノ酸3〜113)およびVH(配列番号42のアミノ酸3〜120)配列を含んでなる抗体、抗体1030のCDR3(配列番号112および119)を有する抗体、抗体1030と同じエピトープに結合する抗体、ならびに抗体1030のヒトEGFRへの結合を阻害することが可能な抗体よりなる群から選択される。前記第3の抗体は、好ましくは、前記第1および/または第2の抗体のヒトEGFRへの増強された結合を生じる。一実施形態では、組成物は、前記第1、第2および第3の抗体の他にさらなる抗体を含有せず、より好ましくは、さらなる抗EGFR抗体を含有しない。
【0143】
抗体1030と同じエピトープに結合する抗体は、クローン1195、1030、1034、1194、980、981、1246、および1223からなる抗体クラスターから選択され得る。
【0144】
抗体1030のCDR3を含んでなる抗体は、抗体1030のVHおよびVLのCDR1およびCDR2をさらに含んでなり得る。
【0145】
抗体は、投与のために1つの容器に処方されてもよい。しかし、それらは、個々に製造、精製および特徴付けされ得、そして各容器中の1つの抗体と共に、1つのキットの部品として、2つもしくは3つの別々の容器で提供され得る。このように、それらは、同時、連続的または別々に投与され得る。
【0146】
さらなる態様では、抗体992および1024の2つの結合特異性は、1つの二重特異性結合分子に組み合わせられる。好ましくは、二重特異性結合分子は、抗体992および1024のCDR、より好ましくは、抗体992および1024のVHおよびVL配列を含んでなる。二重特異性結合分子は、実施例19に記載のように、二重可変ドメイン抗体であってもよい。二重特異性結合分子はまた、文献に記載のような二重特異性Fabフラグメント、二重特異性scFV、またはダイアボディ(diabody)の形態で設計されてもよい。
【0147】
結合特異性pf抗体992および1024に基づく抗体組成物は、好ましくは、1回もしくはそれ以上の受容体内在化、インビボでのA431NS腫瘍の退行、インビボでのA431NS細胞の最終分化の誘導、およびインビボでの腫瘍インボルクリン発現の上方調節を誘導する。
【0148】
本出願は、抗体992および1024の組み合わせと同一または類似の効果を及ぼす抗体のいくつかの例を提供する。これらの例として、同じ免疫化から入手され、そして同じクラスターに属する抗体、および2つの抗体のうちの1つと個々に競合する抗体が挙げられる。同一または類似の効果を伴う抗体組成物は、抗体992および1024のVLおよびVH配列に基づいて、ならびにまたこれらの抗体のCDR、特に、2つの抗体のCDR3に基づいて設計され得る。
【0149】
同一または類似の効果を伴うさらなる抗体組成物は、実施例に記載のように、基本的に、免疫化およびスクリーニングを行うことにより作製し得る。抗体992および1024と同じ結合特異性を伴う抗体は、本明細書に記載される2つの別々の競合アッセイにおいて同定され得る。最終的に、1つの抗体が他の抗体の結合を増強する抗体組成物は、実施例16に記載のように、基本的に、結合実験を行うことによって同定され得る。抗体組成物は、受容体内在化、インビトロおよびインビボでの効力、結合アフィニティーなどにおける効果に関して、実施例において記載のようにさらにスクリーニングされ得る。
【0150】
本発明の抗体組成物の使用
EGFR発現に関連する疾患(例えば、過剰発現)のインビボでの治療および防止に使用するために、本発明の抗体は、抗体に基づく臨床的製品に関する分野で公知の注入および他の投与経路のごとく、いずれかの適切な投与経路を用いて、治療上有効な量(例えば、増殖阻害、食作用、運動性の減少、最終分化、および/またはEGFRを発現する腫瘍細胞の死滅を生じる用量)で患者(例えば、ヒト被験体)に投与される。
【0151】
本発明の抗体を用いて治療、改善および/または防止することができる典型的なEGFR関連疾患として、自己免疫疾患および癌が挙げられるが、これらに限定されない。例えば、処置、改善、および/または防止することができる癌として、膀胱、胸部、子宮/頚部、結腸、腎臓、卵巣、前立腺、腎細胞、膵臓、結腸、直腸、胃、扁平細胞、肺(非小細胞)、食道、頭頚部、皮膚の癌が挙げられる。処置し得る自己免疫疾患として、例えば、乾癬が挙げられる。
【0152】
なお別の実施形態では、本発明は、多型性神経膠芽腫を含む神経膠芽腫;小児期星細胞腫を含む星細胞腫;神経膠腫;神経芽腫;消化管の神経内分泌腫瘍;気管支肺胞癌;濾胞樹状細胞肉腫;唾液腺癌;エナメル上皮腫;悪性の末梢神経シート状腫瘍;膵内分泌腫瘍;または精上皮腫、胚性癌腫、卵黄嚢腫瘍、奇形腫および絨毛癌を含む精巣胚細胞腫瘍の治療、改善、および/または防止のための方法に関する。
【0153】
可変重鎖および可変軽鎖をコードするペアの単離および選択
抗EGFR組み換え抗体組成物を作製するプロセスは、適切な供給源に由来する可変重鎖(V)および可変軽鎖(V)をコードする配列の単離に関し、それによりVおよびVをコードするペアのレパートリーが作製される。一般的に、VおよびVをコードする配列を入手するのに適切な供給源は、ヒトEGFRポリペプチドもしくはペプチド、またはヒトEGFRを発現する細胞に由来するEGFRタンパク質、またはヒトEGFRを発現する細胞もしくはそのような細胞の画分を用いて免疫/ワクチン接種した非ヒト動物由来の血液、脾臓あるいは骨髄サンプルのような細胞画分を含有するリンパ球である。好ましくは、リンパ球を含有する画分は、ヒト免疫グロブリン遺伝子を伴う非ヒト哺乳動物またはトランスジェニック動物から回収される。回収したリンパ球含有細胞画分は、さらに富化されて、一定のリンパ球集団、例えば、Bリンパ球系統由来の細胞が入手されてもよい。好ましくは、富化は、磁気ビーズ細胞選別(MACS)および/または蛍光活性化細胞選別(FACS)を用いて実施され、それらは、例えば、B細胞、血漿芽細胞および/または形質細胞などの系統特異的細胞表面マーカータンパク質を利用して行われる。好ましくは、リンパ球含有細胞画分は、B細胞、血漿芽細胞および/または形質細胞に関して富化または選別される。さらにより好ましくは、CD43およびCD138の高度の発現を伴う細胞は、脾臓または血液から単離される。これらの細胞は、時々、循環形質細胞、前駆形質細胞または血漿芽細胞と呼ばれる。便宜上、本発明において、単に形質細胞と呼ぶが、他の用語も同じ意味として使用され得る。
【0154】
およびVをコードする配列の単離は、いずれも、VおよびVをコードする配列がベクターにおいて無作為に組み合わされることにより、VおよびVをコードする配列ペアのコンビナトリアルライブラリーが作製される古典的方法で実施することができる。しかし、本発明では、EGFR免疫化時の液体性免疫応答で産生される抗体の多様性、アフィニティーおよび特異性を反映することが好ましい。これは、ドナーに元々存在するVおよびVペア形成の保持に関与し、それにより配列ペアのレパートリーを作製し、ここで、各ペアは、配列が単離されるドナーにより産生される抗体に元々存在するVおよびVペアに対応する可変重鎖(V)および可変軽鎖(V)をコードするものである。これはまた、VおよびVをコードする配列の同族ペアとも呼ばれ、そして抗体は同族抗体と呼ばれる。好ましくは、本発明のVおよびVをコードするペア(コンビナトリアルまたは同族)は、マウスドナーから得られ、それゆえ配列はマウス由来である。
【0155】
およびVの同族ペアをコードする配列の作製のための異なるいくらかのアプローチが存在し、1つのアプローチは、リンパ球含有細胞画分から選別された単一の細胞由来のVおよびVをコードする配列の増幅および単離に関与する。ドナーにおけるVおよびV配列ペアの多様性を模倣するVおよびVをコードする配列ペアのレパートリーを入手するために、できる限り少ないVおよびVペアのスクランブル(無作為な組み合わせ)を伴うハイスループット方法は、例えば、本明細書に出典明示により援用されるWO 2005/042774に記載されるものが好ましい。
【0156】
およびVをコードする配列は別々に増幅され、第2の工程でペア形成されてもよく、あるいは増幅中にペア形成されてもよい(Coronella et al. 2000. Nucleic Acids Res. 28: E85;Babcook et al 1996. PNAS 93: 7843-7848およびWO 2005/042774)。第2のアプローチは、細胞内増幅、ならびにVおよびVをコードする配列のペア形成に関与する(Embleton et al. 1992. Nucleic Acids Res. 20: 3831-3837;Chapal et al. 1997. BioTechniques 23: 518-524)。第3のアプローチは、溶血プラークアッセイと、VおよびVcDNAのクローニングとを組み合わせる選択リンパ球抗体法(SLAM)(Babcook et al. 1996. PNAS 93:7843-7848)である。マウスと一緒に用いることができる別の方法は、標準的なハイブリドーマ技術、続いてリード候補のスクリーニングおよび選択、次いでコードされた抗体のクローニングである。
【0157】
本発明の好適な実施形態では、VおよびVをコードするペアのレパートリーは、メンバーのペアがEGFR免疫化から生じる体液性免疫応答を担う遺伝子ペアを反映し、次の工程を含んでなる方法に従って作製される:i)ヒトEGFRで免疫した動物ドナー由来のリンパ球含有細胞画分を提供すること;ii)任意選択的に、前記細胞画分由来のB細胞または形質細胞を富化すること;iii)前記細胞画分由来の細胞を個々に複数の容器に分配することを含んでなる、単離された単一の細胞の集団を入手すること;iv)前記単離された単一の細胞に由来するテンプレートを用いる多重重複伸長RT−PCR法において、VおよびVをコードするペアを増幅し、それらの連結を行うこと、次いでv)任意選択的に、連結されたVおよびVをコードするペアのネステッドPCRを実施すること。好ましくは、単離された同族VおよびVをコードするペアは、以下に記載のごとくスクリーニング手順に供される。
【0158】
およびV配列ペアが作製されると、EGFR関連抗原に対する結合反応性を伴うVおよびVペアをコードする配列を同定するためのスクリーニング手順が行われる。好ましくは、EGFR関連抗原は、ドメインIII、II、I、および/またはIV、ドメインのフラグメントあるいは完全な細胞外ドメインのごときEGFRの細胞外部分を含んでなる。その他の抗原として、EGFRの欠失変異もしくはSNP、またはそれらのフラグメントのような変異体が挙げられる。VおよびV配列ペアがコンビナトリアルである場合、ファージディスプレイ手順は、スクリーニング前にEGFRに結合する抗体フラグメントをコードするVおよびVペアを富化するのに適用することができる。
【0159】
EGFRによる免疫化時に体液性免疫応答において産生される抗体の多様性、アフィニティーおよび特異性を反映させるために、本発明は、最も可能で広範な多様性を得るために、同族ペアのスクリーニング手順を開発した。スクリーニングのために、同族VおよびVをコードするペアのレパートリーは、適切な宿主細胞にトランスフェクトされた細菌または哺乳動物スクリーニングベクターのいずれかを使用して、抗体フラグメント(例えば、scFvもしくはFab)または全長抗体としてのいずれかで個々に発現される。Fab/抗体のレパートリーは、EGFRに対する反応性、EGFRを発現する癌細胞系統に対する抗増殖活性、およびEGFRに結合するリガンド(例えば、EGF)を阻害する能力、リン酸化、アポトーシス誘導、EGFR内在化の阻害(これらに限定されるものではない)についてスクリーニングされてもよい。
【0160】
同時に、Fab/抗体のレパートリーは、ヒト、場合によりカニクイザルまたはチンパンジーまたはアカゲザルのEGFRペプチドのような選択された抗原に対してスクリーニングされる。抗原性ペプチドは、例えば、ヒトEGFR細胞外ドメイン、ヒト変異EGFR細胞外ドメイン、およびカニクイザルEGFR細胞外ドメインまたはそれらのフラグメントから選択することができる。ペプチドはビオチン化されることにより、スクリーニング時のビーズまたはプレート上への固定化が容易にされてもよい。代替的な固定化の手法がもちいられてもよい。抗原は、EGFR生物学の知見、ならびにこれらの抗原に結合することが可能な抗体が潜在的に提供できる予想される中和および/または保護効果に基づいて選択される。このスクリーニング手順は、同様にコンビナトリアルファージディスプレイライブラリーに適用することができる。
【0161】
スクリーニングに用いられる組み換えEGFRタンパク質は、細菌、昆虫細胞、哺乳動物細胞または別の適切な発現系で発現されてもよい。正確なプロセシング(グリコシル化を含む)のために、タンパク質は哺乳動物細胞で発現される。EGFR−ECDタンパク質は、(膜貫通および細胞内領域を含まない)可溶性タンパク質として発現されてもよく、あるいは第3のタンパク質に融合されて安定性が増加されてもよい。EGFRタンパク質が融合タグを用いて発現される場合、融合パートナーはスクリーニング前に切り離されてもよい。上記の一次スクリーニングに加えて、選択された配列のいずれもが偽陽性をコードしないことを確実にするために、二次スクリーニングが実施されてもよい。
【0162】
一般的に、免疫学的アッセイは、本発明で実施されるスクリーニングに適切である。そのようなアッセイは当該分野において周知であり、例えば、ELISPOT、ELISA、FLISA、膜アッセイ(例えば、ウエスタンブロット)、フィルターにおけるアッセイ、およびFACSを構成する。アッセイは、いずれも事前の富化工程をなんら伴わずに、VおよびVペアをコードする配列から産生されるポリペプチドを利用して実施することができる。VおよびVをコードするペアのレパートリーが同族ペアである場合、例えば、ファージディスプレイによる富化はスクリーニング前に必要ではない。しかし、コンビナトリアルライブラリーのスクリーニングでは、イムノアッセイは、好ましくは、ファージディスプレイ、リボソームディスプレイ、細菌表面ディスプレイ、酵母ディスプレイ、真核生物ウイルスディスプレイ、RNAディスプレイもしくは共有結合ディスプレイのような富化方法と組み合わせて、またはそれらの後に実施される(FitzGerald, K., 2000. Drug Discov. Today 5, 253-258にて総説された)。
【0163】
スクリーニングで選択されたVおよびVペアをコードする配列は、一般的に、配列決定に供され、そして可変領域の多様性について分析される。特に、CDR領域の多様性は興味深いが、VおよびVファミリーの提示もまた興味深い。これらの分析に基づいて、1つもしくはそれ以上の動物ドナーから単離されたEGFR結合抗体の全ての多様性を示すVおよびVペアをコードする配列が選択される。好ましくは、すべてのCDR領域(CDRH1、CDRH2、CDRH3ならびにCDRL1、CDRL2およびCDRL3)における差異を有する配列が選択される。異なるVまたはVファミリーに属する1つもしくはそれ以上の同一または極めて類似のCDR領域を有する配列が存在する場合、これらもまた選択される。好ましくは、少なくとも可変重鎖(CDRH3)のCDR3領域は、選択される配列ペア間で異なる。潜在的に、VおよびV配列ペアの選択は、厳密に、CDRH3領域の可変性に基づき得る。配列のプライミングおよび増幅中、可変領域のフレームワーク領域、特に、第1のフレームワーク領域において、変異が生じてもよい。好ましくは、第1のフレームワーク領域で生じるエラーは、配列は、生殖系列由来のものに完全または少なくとも98%相同であることを確実にするために補正され、例えば、VおよびV配列は完全にマウスとする。
【0164】
およびVペアをコードする選択された配列のコレクションの全多様性が、EGFR免疫化に対する体液性応答における遺伝子レベルで認められる多様性の高度な提示であることが確実とされる場合、選択されたVおよびVをコードするペアのコレクションから発現される抗体の全体の特異性もまた、EGFR免疫化動物で産生される抗体の特異性に関する提示であることが予想される。選択されたVおよびVをコードするペアのコレクションから発現される抗体の特異性が、ドナーによって惹起される抗体の特異性の提示であるかどうかの指標は、ドナー血液の選択された抗原に対する抗体力価と、選択されたVおよびVをコードするペアのコレクションから発現される抗体の特異性とを比較することにより得ることができる。さらに、選択されたVおよびVをコードするペアのコレクションから発現される抗体の特異性はさらに分析されうる。特異性の程度は、結合反応性が検出され得る異なる抗原の数に相関する。本発明のさらなる実施形態では、選択されたVおよびVをコードするペアのコレクションから発現される個々の抗体の特異性は、エピトープマッピングによって分析される。
【0165】
エピトープマッピングは、必ずしも相互に排他的でない多くの方法論によって実施され得る。抗体分子のエピトープ−特異性をマッピングするための1つの方法は、標的抗原の一次構造に由来する様々な長さのペプチドへの結合を測定することである。そのようなペプチドは、線状および高次構造の両方であってもよく、ELISA、FLISAおよび表面プラズモン共鳴(SPR、Biacore、FACS)を含む多くのアッセイ形式で用いられてもよい。さらに加えて、ペプチドは、利用可能な配列と構造データを用いて合理的に選択されて、例えば、標的抗原の細胞外領域もしくは保存領域が表されてもよく、あるいは抗原の選択された部分もしくはすべてを表す重複ペプチドのパネルとして設計されてもよい(Meloen RH, Puijk WC, Schaaper WMM. Epitope mapping by PEPSCAN. In: Immunology Methods Manual. Ed Iwan Lefkovits 1997, Academic Press, pp 982-988)。抗体クローンと、1つもしくはそれ以上のそのようなペプチドとの特異的反応性は、一般的にエピトープ特異性の指標となる。しかし、ペプチドは、多くの場合、天然または特異的コンホメーションの欠落および抗体とペプチドで比較されるごとき抗体とタンパク質抗原との間の相互作用の一般的により大きく埋もれた表面領域の双方のため、タンパク質性抗原に対して惹起された抗体によって認識されるエピトープの質の悪い模倣品となる。エピトープマッピングのための第2の方法は、タンパク質抗原における直接的に特異性を定義することを可能にし、現存のよく定義された抗体を用いて遮蔽する選択性エピトープによるものである。遮断後の抗原に対する抗体をプローブする第2の結合の減少は、一般的に、エピトープの共有または重複を示す。選択的遮蔽によるエピトープマッピングは、当該技術分野において周知であるELISAおよびBiacoreを含むが、これらに限定されない多くのイムノアッセイにより実施されてもよい(例えば、Ditzel et al. 1997. J. Mol. Biol. 267:684-695; Aldaz-Carroll et al. 2005. J. Virol. 79: 6260-6271)。抗EGFR抗体のエピトープ特異性の決定のためのなお別の潜在的方法は、抗体の存在下におけるエスケープ変異の選択である。これは、例えば、アラニン−スキャンを用いて行うことができる。そのようなエスケープ変異由来の目的の遺伝子の配列決定は、一般的に、抗原中のどのアミノ酸が抗体による認識に重要であり、それ故、エピトープ(の部分)を構成するのかを示す。
【0166】
選択されたVおよびVをコードするペアに由来する抗EGFR抗体組成物の産生
本発明の抗体組成物は、1つまたは数個のバイオリアクターまたはそれらの同等物中のポリクローナル発現細胞系統から産生されてもよい。このアプローチ後、抗EGFR抗体は、プロセス中に抗EGFR抗体組成物を構成する個々のメンバーを分離する必要なく、単一調製物としてリアクターから精製することができる。抗体組成物が1を超えるバイオリアクターで産生される場合、精製された抗EGFR抗体組成物は、各バイオリアクター由来の個々に精製された上清から得られた抗体をプールすることにより得ることができる。
【0167】
組み換え抗体組成物を産生させる1つの方法は、WO 2004/061104およびWO 2006/007850(これらの参考文献は本明細書にて出典明示により援用される)に記載される。本明細書に記載される方法は、個々の宿主細胞のゲノムへの抗体をコードする配列の部位特異的組み込みに基づくものであって、VおよびVタンパク質鎖が産生中の元々のペア形成で保持されることを確実にする。さらに加えて、部位特異的組み込みは位置効果を最小限にし、それゆえポリクローナル細胞系統における個々の細胞の増殖および発現特性が極めて類似することが期待される。一般的に、方法は以下を含む:i)1つもしくはそれ以上のリコンビナーゼ認識部位を伴う宿主細胞;ii)宿主細胞に適合する少なくとも1つのリコンビナーゼ認識部位を伴う発現ベクター;iii)全長抗体または抗体フラグメントがベクターから発現され得るように、選択されたVおよびVをコードするペアをスクリーニングベクターから発現ベクターへ移すことによる発現ベクターのコレクションの作製(スクリーニングベクターが発現ベクターと同一である場合、かかる移行は必要でなくてもよい);iv)宿主細胞のゲノムにおけるリコンビナーゼ認識部位と、ベクターおけるそれとを組み合わせることが可能なリコンビナーゼをコードする発現ベクターとベクターのコレクションを用いる宿主細胞のトランスフェクション;v)トランスフェクトされた宿主細胞からポリクローナル細胞系統を入手/作製すること、次いでvi)ポリクローナル細胞系統から抗体組成物を発現させ、回収すること。
【0168】
少数(2〜3もしくはそれ以上)の抗体が1つの組成物に使用される場合、これらは、例えば、WO 2004/085474に記載のモノクローナル抗体の製造と類似する方法で、個々的に発現され、精製されてもよい。精製された抗体は、精製後に混合することができるか、あるいは投与前に混合するもしくは個別に投与するために別々のバイアルに包装することができる。
【0169】
好ましくは、CHO細胞のような哺乳動物細胞、COS細胞、BHK細胞、骨髄腫細胞(例えば、Sp2/0もしくはNS0細胞)、NIH3T3のような繊維芽細胞、およびHeLa細胞、HEK293細胞、またはPER.C6のような不死化ヒト細胞が使用される。しかしまた、植物細胞、昆虫細胞、酵母細胞、真菌、大腸菌(E.coli)などのような非哺乳動物真核細胞または原核細胞を用いることもできる。適切な宿主細胞は、そのゲノムにおいて1つもしくはそれ以上の適切なリコンビナーゼ認識部位を含んでなる。宿主細胞はまた、組込み体(即ち、組み込み部位において抗EGFR Ab発現ベクターまたは発現ベクターフラグメントの組み込まれたコピーを有する細胞)について選択できるために、組み込み部位に作動可能に連結される選択の様式を含有すべきである。ゲノムの予定された位置にFRT部位を有する細胞の調製は、例えば、US 5,677,177に記載された。好ましくは、宿主細胞は、唯一、組込み体の高い発現を可能にする部位(いわゆるホットスポット)に局在する単一の組み込み部位を有する。
【0170】
適切な発現ベクターは、宿主細胞のリコンビナーゼ認識部位に合致する組み換え認識部位を含んでなる。好ましくは、リコンビナーゼ認識部位は、宿主細胞の構築のために使用される選択遺伝子とは異なる適切な選択遺伝子に連結される。選択遺伝子は、当該技術分野において周知であり、グルタミンシンテターゼ遺伝子(GS)、ジヒドロ葉酸レダクターゼ遺伝子(DHFR)、およびネオマイシンを含み、ここで、GSまたはDHFRは、挿入されたVおよびV配列の遺伝子増幅に使用されてもよい。ベクターはまた、ベクターの完全組み込みの代わりに、挿入された抗体をコードする配列のリコンビナーゼ仲介カセット交換(RMCE)を可能にする2つの異なるリコンビナーゼ認識部位を含有してもよい。RMCEについては、(Langer et al 2002; Schlake and Bode 1994)に記載される。適切なリコンビナーゼ認識部位は当該技術分野において周知であり、FRT、loxおよびattP/attB部位を含む。好ましくは、組み込みベクターは、アイソタイプをコードするベクターであり、ここで、定常領域(好ましくは、イントロンを含む)は、VおよびVをコードするペアのスクリーニングベクターからの移行前にベクターに存在する(あるいは定常領域は、スクリーニングが全長抗体において実施される場合にスクリーニングベクターにすでに存在する)。ベクターに存在する定常領域は、重鎖定常領域全体(CH〜CHもしくは〜CH)または抗体のFc部分をコードする定常領域(CH〜CHもしくは〜CH)のいずれかであり得る。軽鎖κまたはλ定常領域はまた、移行前に存在してもよい。定常領域の数の選択は、いずれにしても、使用するスクリーニングおよび移行システムに依存する。重鎖定常領域は、アイソタイプIgG1、IgG2、IgG3、IgG4、IgA1、IgA2、IgM、IgDおよびIgEから選択することができる。好適なアイソタイプは、IgG1、IgG2、および/またはIgG3である。さらに、抗EGFR抗体をコードする核酸の部位特異的組み込みのための発現ベクターは、VおよびV鎖のそれぞれの高レベルの発現を指令する適切なプロモーターまたは同等な配列を含有する。図4は、発現ベクターを設計する1つの可能な方法を例示するが、他に多数の設計が可能である。
【0171】
選択されたVおよびVをコードするペアのスクリーニングベクターからの移行は、各発現ベクター分子が1つのVおよびVをコードするペアを含有するように、コンビナトリアル制限酵素切断およびライゲーションによって実施することができる。好ましくは、VおよびVをコードするペアは個々に移行されるが、しかし、所望であれば、それらはまた、一括しておこうされてもよい。全ての選択されたVおよびVをコードするペアが発現ベクターに移行されると、発現ベクターのコレクションまたはライブラリーが得られる。また、所望であれば、移行の代替的方法が使用されてもよい。スクリーニングベクターが発現ベクターと同一である場合、発現ベクターのライブラリーは、スクリーニングの際に選択されるVおよびV配列ペアから構成され、スクリーニング/発現ベクター中にあることになる。
【0172】
核酸配列を宿主細胞にトランスフェクトする方法は、当該技術分野において公知である。部位特異的組み込みを確実にするために、適切なリコンビナーゼも宿主細胞に提供されなければならない。これは、好ましくは、リコンビナーゼをコードするプラスミドの共トランスフェクションによって達成される。適切なリコンビナーゼは、例えば、Flp、CreまたはファージΦC31インテグラーゼであり、対応するリコンビナーゼ認識部位を伴う宿主細胞/ベクター系と一緒に使用される。宿主細胞は、いずれも大量にトランスフェクトすることができ、発現ベクターのライブラリーが1回の単一反応で細胞系統にトランスフェクトされ、それによってポリクローナル細胞系統が得られることを意味する。あるいは、発現ベクターのコレクションは個々に宿主細胞にトランスフェクトすることができ、それによって個々の細胞系統のコレクションが作製される(各細胞系統は、特定の特異性を伴う抗体を産生する)。次いで、トランスフェクション(個々のまたはポリクローナル)により作製された細胞系統は、トランスフェクション前に未だこれらの特性を有していなかった場合、部位特異的組み込み体について選択され、懸濁および無血清培地で増殖するように適応される。トランスフェクションが個々に実施された場合、個々の細胞系統は、それらの増殖特性および抗体産生についてさらに分析される。好ましくは、同様の増殖速度および抗体発現レベルを伴う細胞系統は、ポリクローナル細胞系統の作製について選択される。次いで、ポリクローナル細胞系統は、所定の割合で個々の細胞系統を混合することにより作製される。一般的に、ポリクローナルマスター細胞バンク(pMCB)、ポリクローナルリサーチ細胞バンク(pRCB)および/またはポリクローナルワーキング細胞バンク(pWCB)がポリクローナル細胞系統から樹立される。ポリクローナル細胞系統は、所定の割合で個々の細胞系統を混合することにより作製される。ポリクローナル細胞系統はアンプルに分配され、それによりポリクローナルリサーチ細胞バンク(pRCB)またはマスター細胞バンク(pMCB)が作製され、リサーチまたはマスター細胞バンクから細胞を拡大培養することによりポリクローナルワーキング細胞バンク(pWCB)を作製することができる。リサーチ細胞バンクは、主として、概念実証研究のためのものであり、そのなかでは、ポリクローナル細胞系統はマスター細胞バンクにおけるポリクローナル細胞系統と同じ数の個々の抗体を含まなくてもよい。通常、pMCBはさらに拡大培養されて産生のためにpWCBが樹立される。pWCBが使い果たされると、pMCB由来の新しいアンプルが拡大培養されて新たなpWCBが樹立され得る。
【0173】
本発明の一実施形態は、本発明の組み換え抗EGFR抗体組成物を発現することが可能なポリクローナル細胞系統である。
【0174】
本発明のさらなる実施形態はポリクローナル細胞系統であって、ここで、各個々の細胞は、単一のVおよびVをコードするペアを発現することが可能であり、全体としてポリクローナル細胞系統は、VおよびVをコードするペアのコレクションを発現することが可能であり、ここで、各VおよびVペアは抗EGFR抗体を発現する。好ましくは、VおよびVをコードするペアのコレクションは、本発明の方法により作製される同族ペアである。
【0175】
本発明の組み換え抗体組成物は、pWCB由来の1つのアンプルを、適切な培地において、抗体の十分な発現を可能にする期間培養することにより製造することができ、ここで、ポリクローナル細胞系統は安定に保持する(期間は約15日間〜50日間の間である)。流加培養または還流のような培養方法が用いられてもよい。組み換え抗体組成物は、従来の精製技術により培養培地から入手され、精製される。イオン交換クロマトグラフィー、疎水性相互作用およびゲルろ過のような後の精製工程と組み合わせたアフィニティークロマトグラフィーがIgGの精製のために頻繁に使用されている。精製後、ポリクローナル抗体組成物におけるすべての個々のメンバーの存在は、例えば、イオン交換クロマトグラフィーによって評価される。そのような抗体組成物の特徴付けは、(本明細書において出典明示により援用される)WO 2006/007853に詳細に記載される。
【0176】
組み換え宿主において抗体の混合物を発現させる代替的方法は、WO 2004/009618に記載される。この方法は、単一の細胞系統由来の同じ軽鎖に結合する異なる重鎖を伴う抗体を産生する。このアプローチは、抗EGFR抗体組成物がコンビナトリアルライブラリーから産生される場合に適用可能であり得る。
【0177】
治療用組成物
本発明の別の態様は、有効成分として、抗EGFR抗体組成物または抗EGFR組み換えFabもしくは別の抗EGFR組み換え抗体フラグメント組成物、あるいは本発明の二重特異性結合分子を含んでなる医薬組成物である。好ましくは、そのような組成物の有効成分は、本発明に記載のような抗EGFR組み換え抗体組成物である。そのような組成物は、癌の改善および/または防止および/または処置が意図される。好ましくは、医薬組成物は、ヒト、家畜、またはペットに投与される。
【0178】
医薬組成物は、薬学的に許容可能な賦形剤をさらに含んでなる。
【0179】
抗EGFR抗体組成物またはその抗体のフラグメントは、単位剤形において、薬学的に許容可能な希釈剤、キャリア、または賦形剤内に投与されてもよい。従来の薬学的業務が用いられて癌を伴う患者に投与するための適切な処方物または組成物が提供されてもよい。好適な実施形態では、投与は治療的であり、治療的とは、癌病態が診断された後、それが投与されることを意味する。いずれの適切な投与経路が用いられてもよく、例えば、投与は、非経口、静脈内、動脈内、皮下、筋肉内、腹腔内、鼻腔内、エアゾル、坐剤、または経口投与であってもよい。例えば、医薬処方物は、液体の溶液または懸濁液の形であってもよい。経口投与のためには、胃における分解に対して保護する必要がある。鼻腔内処方のために、抗体は、散剤、点鼻剤、またはエアゾルの形で投与されてもよい。
【0180】
本発明の医薬組成物は、例えば、従来の溶解、凍結乾燥、混合、造粒または調合プロセスによるそれ自体公知の様式で調製される。医薬組成物は、従来の薬学的業務に従って処方されてもよい(例えば、Remington: The Science and Practice of Pharmacy (20th ed.), ed. A.R. Gennaro, 2000, Lippincott Williams & Wilkins, Philadelphia, PA and Encyclopedia of Pharmaceutical Technology, eds. J. Swarbrick and J. C. Boylan, 1988-1999, Marcel Dekker, New York, NYを参照のこと)。
【0181】
好ましくは、有効成分の溶液または懸濁液、特に等張水溶液または懸濁液が本発明の医薬組成物を調製するのに用いられる。有効成分を単独で、またはキャリア、例えば、マンニトールを伴って含んでなる凍結乾燥された組成物の場合、そのような溶液または懸濁液は、できる限り使用前に産生されてもよい。医薬組成物は、滅菌されてもよく、および/または、賦形剤、例えば、保存剤、安定剤、湿潤剤および/または乳化剤、溶解剤、浸透圧を調節するための塩および/または緩衝液を含んでいてもよく、それ自体公知の様式、例えば、従来の溶解もしくは凍結乾燥プロセスで調製される。前記溶液または懸濁液は、カルボキシメチルセルロースナトリウム、カルボキシメチルセルロース、デキストラン、ポリビニルピロリドンまたはゼラチンのような増粘物質を含んでもよい。
【0182】
注入組成物は、滅菌条件下、慣用の様式で調製され;同様のことが、組成物のアンプルまたはバイアルへの導入および容器の密封にも適用される。
【0183】
医薬組成物は、約1%〜約95%、好ましくは、約20%〜約90%の有効成分を含んでなる。本発明による医薬組成物は、例えば、アンプル、バイアル、坐剤、錠剤、丸剤、またはカプセルの形態のごとく単位剤形であってもよい。処方物は、治療上または予防上有効な量(例えば、病理学的病態を防止、排除、もしくは減少させる量)でヒト個体に投与されて疾患もしくは病態の治療を提供することができる。投与されるべき治療用薬剤の好適な用量は、癌の重症度、特定の患者の総合的健康状態、化合物賦形剤の処方、およびその投与経路のような変化に依存する可能性がある。
【0184】
本発明による組成物の治療用途
本発明による医薬組成物は、哺乳動物における疾患の治療または改善に使用されてもよい。本医薬組成物によって治療または防止することができる状態は、患者の癌の予防、および処置を含み、好ましくは、本発明による医薬組成物を用いる治療処置に供され得る。
【0185】
本発明の一実施形態は、本発明の抗EGFR組み換え抗体組成物の有効量を前記哺乳動物に投与することを含んでなる、哺乳動物における癌に関連する1つもしくはそれ以上の症状を防止、治療または改善する方法である。
【0186】
本発明のさらなる実施形態は、哺乳動物における癌に関連する1つもしくはそれ以上の症状の治療、改善または防止のための組成物の調製のための本発明の抗EGFR組み換え抗体組成物の使用である。
【0187】
好ましくは、上記の実施形態における哺乳動物は、ヒト、家畜またはペットである。
【0188】
本発明に従う抗体は、一定の固形腫瘍の治療において適応される。EGFR発現レベルを含む多くの因子に基づいて、特に、次の腫瘍タイプが、好適な適応症として認められるようである:胸部、卵巣、結腸、直腸、前立腺、膀胱、膵臓、頭頚部、および非小細胞肺癌。これらの適応症に関連して、3つの臨床経路は、臨床的成功のための別々の可能性を付与するようである:
【0189】
補助療法:補助療法では、患者は、化学療法剤もしくは抗悪性腫瘍剤および/または放射線治療との組み合わせで本発明に従う抗体で処置される。上記で列挙した主な標的は、本発明の抗体の標準的な第1および第2選択療法への追加によるプロトコル下で処置される。プロトコルの設計は、腫瘍量の減少によって評価される有効性ならびに一般的な化学療法の通常用量を減少させるための能力に取り組む。これらの用量の減少は、化学療法剤の用量に付随する毒性を減少させることにより、治療の追加および/または延長を可能にする。先行技術の抗EGFR抗体は、化学療法剤または抗悪性腫瘍剤、アドリアマイシン(Erbitux:進行前立腺癌腫)、シスプラチン(Exbitux:進行頭頚部および肺癌腫)、タキソール(Erbitux:乳癌)、およびドキソルビシン(Erbitux)と組み合わせたいくつかの補助的臨床治験において利用されてきたか、または現在も利用されている。
【0190】
本発明は、癌療法における同時、個別または連続投与のための組み合わせとして、本発明の抗体組成物、および癌細胞の分化を誘導することが可能な少なくとも1つの化合物を含んでなる医薬物品を提供する。本発明の抗体組成物と、癌細胞の最終分化を誘導することが公知の薬剤とを組み合わせることによって、さらに効果を改善することができる。
【0191】
少なくとも1つの化合物は、レチノイン酸、trans−レチノイン酸、cis−レチノイン酸、フェニル酪酸、神経成長因子、ジメチルスルホキシド、活性型ビタミンD(3)、ペルオキシソーム増殖因子−活性化受容体γ、12−O−テトラデカノイルホルボール−13−アセテート、ヘキサメチレン−ビス−アセトアミド、形質転換増殖因子−β、酪酸、サイクリックAMP、およびベスナリノンよりなる群から選択され得る。好ましくは、化合物は、レチノイン酸、フェニル酪酸、all−trans−レチノイン酸、活性型ビタミンDよりなる群から選択される。
【0192】
本発明の抗体組成物および少なくとも1つの化学療法または抗悪性腫瘍化合物を含んでなる医薬物品は、癌療法における同時、個別または連続投与のための組み合わせとして使用されてもよい。化学療法化合物は、アドリアマイシン、シスプラチン、タキソール、ドキソルビシン、トポテカン、フルオロピリミジン、オキサリプラチン、およびイリノテカンよりなる群から選択され得る。
【0193】
単剤療法:腫瘍の単剤療法における本発明に従う抗体の使用に関連して、抗体は、化学療法または抗悪性腫瘍剤を伴わずに患者に投与されてもよい。本発明による抗体の使用を通して作製され、本明細書において考察される前臨床結果は、独立型療法としてポジティブな結果を示した。
【0194】
造影剤:放射性核種(例えば、イットリウム(90Y))を本発明に従う抗体に結合させることにより、本発明に従う放射性標識抗体は、診断用造影剤として利用することができることが予想される。そのような役割において、本発明の抗体は、固形腫瘍、ならびにEGFRを発現する細胞の転移性病巣の両方に局在する。造影剤としての本発明の抗体の使用に関連して、固形腫瘍の外科的処置を保持する際に、術前のスクリーニング、ならびにどの腫瘍が残留し、および/または回帰するかを決定するための術後追跡の両方として、抗体を使用することができる。(111In)−Erbitux抗体は、切除不能な扁平細胞肺癌腫を有する患者の第I相のヒト臨床治験における造影剤として使用されている。(Divgi et al. J. Natl. Cancer Inst. 83:97-104 (1991)。患者は一般的な前後(anterior and posterior)ガンマカメラで追跡された。予備データは、すべての原発性病巣および大きな転移性病巣が同定された一方、小さな転移性病巣(1cm未満)のわずか2分の1しか検出されなかったことを示した。
【0195】
チロシンキナーゼインヒビター(TKI)は、合成の、主にキナゾリン誘導性の低分子量分子であり、受容体の細胞内チロシンキナーゼドメインと相互作用し、細胞内Mg−ATP結合部位について競合することによりリガンド誘導性受容体リン酸化を阻害する。Gefitinib(Iressa、ZD1839)、Erlobtinib(Tarceva、OSI-774)、Lapatinib、(Tykerb、GW572016)、Canertinib(CI-1033)、EKB-569およびPKI-166を含む臨床開発におけるいくつかのTKIは、EGFRを標的としている。TKIおよび抗EGFRの組み合わせ処置は、EGFR依存性癌細胞に対するインビボおよびインビトロの両方で有益であることを示した。本発明の抗体組成物、およびEGFRを標的とする少なくとも1つのTKIを含んでなる医薬物品は、癌療法における同時、個別または連続投与のための組み合わせとして使用されてもよい。さらなる小分子インヒビターとして:Sorafinib(rafおよび複数のRTK)、Sunitinib(複数のRTK)、Temsirolimus(mTOR)、RAD001(mTOR)、ならびにAZD217(VEGFR2)が挙げられる。
【0196】
他の実施形態では、本発明の抗体組成物は、他の抗体療法と組み合わせて使用される。これらの例として、例えば、HER2(Herceptin)およびVEGF(avastin)に対する抗体が挙げられる。なお別の実施形態では、本発明の抗体組成物は、免疫系の細胞を刺激することが公知の薬剤と組み合わせて使用され、そのような組み合わせ処置は、本発明の抗体組成物の効力の免疫仲介増強の上昇を導く。そのような免疫刺激剤の例として、組み換えインターロイキン(例えば、IL−21およびIL−2)が挙げられるが、これらに限定されない。
【0197】
用量および投与経路
本発明に従う抗体の特定の用量が未だ決定されていない一方、一定用量の判断は、承認されている類似の製品(ImClone C225(Erbitux))との比較により決定することができる。C225抗体は、典型的に、5〜400mg/mの範囲の用量、安全性研究に関してのみ使用されたより低い用量で投与されている。従って、本発明者らは、本発明に従う抗体による患者における用量は、この範囲内またはそれより低い、おそらく、50〜300mg/mの範囲でなお効力が残存すると予想している。mg/mでの用量は、mg/kgでの従来の用量測定と反対であり、表面積に基づく測定であり、そして小児から成人までのすべてのサイズの患者を含むように設計される利便的な用量測定である。
【0198】
Erbitux(セツキシマブ)に関する利用可能な処方情報は、400mg/mの初期の120分間のIV輸注、それに続く、250mg/mの毎週60分間の輸注を含む。これらの用量は、標準的な単独処置ならびに放射線治療との組み合わせにおいて推奨される。Vectibix(パニツムマブ)では、推奨用量は、連日14日間、60分間をかけて6mg/kgが投与されることである。
【0199】
Genmab製HuMaxEGFr抗体(ズムツムマブ(zumutumumab))の予想される臨床用量は、8mg/kgのHuMax-EGFrの初期用量、それに続く、疾患進行までの維持用量の毎週の注入である。維持用量は、患者が用量を制限する発疹を発症するまで必要に応じて、HuMax-EGFrの16mg/kgの維持用量(Genmab製製品説明から入手可能なピボタル第III相研究の用量)まで調整される。
【0200】
本発明の抗体組成物の臨床用量は、現在診療所で使用されているモノクローナル抗EGFR抗体(ErbituxおよびVectibix)で観察された発疹の程度によって制限される可能性がある。カニクイザルにおける6週間の毒物学研究からのデータは、本発明の抗体組成物が診療所で使用されるモノクローナル抗体の1つによる処置に使用されるものと同等な用量で投与された場合、発疹の症状を示さなかった(実施例20)。それ故、本発明の抗体組成物は、静脈内に、1週間で250mg/mの用量(1.8mの体表面で60kgの体重のヒトでは7.5mg/kgに変換される用量)で投与することができる。さらに加えて、400mg/mの初回負荷量(1.8mの体表面および60kgの体重のヒトでは12mg/kgに変換される量)は、その後の毎週の投薬前に付与されてもよい。
【0201】
3つの別々の送達アプローチは、本発明に従う抗体の送達に有用であることが予想される。従来の静脈内送達は、推定上、大部分の腫瘍に対する一般的な送達技術である。しかし、卵巣、胆管、その他の管などの腫瘍のごとき腹腔内の腫瘍に関連して、腹腔内投与は、腫瘍における高用量の抗体を獲得し、そして抗体クリアランスを最小限にするのに好都合であることが判明し得る。類似の様式において、一定の固形腫瘍は、局部還流に適する血管を有する。局所還流は、腫瘍部位における高用量の抗体の獲得を可能にし、抗体の短期間のクリアランスを最小限にする。
【0202】
任意のタンパク質または抗体輸注に基づく治療に関して、安全への懸念は、主に、(i)サイトカイン放出症候群、即ち、低血圧、発熱、震え、悪寒、(ii)物質に対する免疫反応の発生(即ち、抗体治療に対する患者によるヒト抗体の発生、またはHAHAもしくはHACA応答)、および(iii)EGF受容体を発現する正常細胞、例えば、EGFRを発現する肝細胞に対する毒性に関連する。一般的な試験および追跡は、これらの安全性への関心のそれぞれをモニターするために利用される。特に、存在するならば、肝臓への損傷を評価するために、肝機能は、臨床治験の間、頻繁にモニターされる。
【0203】
診断用途
本発明の別の実施形態は、診断キットに対するものである。本発明によるキットは、本発明に従って調製される抗EGFR抗体組成物を含んでなり、タンパク質は、検出可能な標識で標識されてもよく、または非標識検出のために標識されなくてもよい。キットは、EGFRの過剰発現に関連する癌を患う個体を同定するのに用いられてもよい。
【実施例1】
【0204】
実施例1 抗EGFR抗体のクローニング
免疫化
雌のBALB/c、株A、またはC57B16マウス(8〜10週齢)を、EGFR過剰発現細胞を加えた異なる精製タンパク質の注入による免疫化に使用した。
【0205】
市販のEGFRタンパク質(R&D systemsカタログ番号1095−ERまたはSigma番号E3641)を、いくつかの免疫化に使用した。他の免疫化では、EGFRのECDまたはEGFRvIIIおよびヒト成長ホルモン(hGH)よりなり、また、実施例10bに記載のHis−タグに加えてタバコEtchウイルス(TEV)−切断部位を含む融合タンパク質として産生される組み換えヒトEGFRおよびEGFRvIIIを使用した。いくつかの場合、EGFRのECDを、TEV−プロテアーゼ切断および後のニッケルカラムによる精製によって単離した。
【0206】
約10の受容体/細胞を発現するヒト頭頚部癌細胞系統、HN5(Easty DM, Easty GC, Carter RL, Monaghan P, Butler LJ. Br J Cancer. 1981 Jun;43(6):772-85. Ten human carcinoma cell lines derived from squamous carcinomas of the head and neck.)を、細胞に基づく免疫化に使用した。細胞を、10%FBS(ウシ胎児血清)、3mMグリセロール、5mMピルビン酸ナトリウムおよび1%ペニシリン−ストレプトマイシンを補充したDMEM培地において培養した。各免疫化の前に、細胞を、PBS中で洗浄し、TrypLEでトリプシン処理し、次いで増殖培地に再懸濁した。その後、細胞懸濁液を、250×g、5分間の遠心分離、取り出し、そして15mlの滅菌PBS中の再懸濁により、PBS中で2回洗浄した。
【0207】
細胞または抗原を、PBS中に希釈し、次いで、フロイントのアジュバントと1:1で混合した。アジュバントを使用して、免疫応答を増強および調節した。一次免疫化のために、完全フロイントアジュバント(CFA)を使用する一方で、不完全フロイントアジュバント(IFA)を以後の免疫化に使用した。IFAは、鉱油からなる水中油型エマルジョンであり、CFAは、熱処理で死滅させ、乾燥したマイコバクテリウム(Mycobacterium)種が添加されるIFAである。両方のアジュバントともデポー効果を有する。CFAは、免疫応答の長期間の持続を生じ、そして免疫応答を高めるための一次免疫化に使用され、そしてIFAは、以後の免疫化に使用される。水の入ったガラスの表面上に滴下することによりエマルジョンを試験した。水滴が1滴として保持される場合、エマルジョンは安定であり、注入を実施することができる。安定なエマルジョンのみをマウスに投与した。
【0208】
スケジュール(表2を参照のこと)に従って、25〜100μgの抗原または10個の細胞を、各注入に使用した。合計で、マウスに4回の注入を行った。すべてのマウスに、300μlまたは200μlのいずれかのエマルジョンを注入した。スケジュールに従って、皮下(s.c.)、腹腔内(i.p.)または静脈内(i.v.)に注入を実施した。
【0209】
終了時、頚椎脱臼によりマウスを屠殺し、脾臓を取り出し、次いで74μmのセルストレーナー(Corning番号136350−3479)に移した。細胞を、フィルターを介して液体に浸し、10%FBSを伴う冷RPMI 1640に再懸濁し、そして300×gで5分間、遠心分離した。細胞ペレットを、1%FBSを含有するRPMI 1640に再懸濁し、50μmシリンジフィルター(BD番号340603)を介してろ過し、遠心分離により回収した。細胞ペレットを、10%DMSOを伴うFCSへの再懸濁後、冷凍保存し、そして凍結した細胞を、FACS選別まで−80℃で保存した。
【0210】
マウス形質細胞のFACS選別
凍結した脾細胞をバイアルを37℃で融解し、なお存在する氷と共に15mlチューブに移した。10mlの氷冷RPMI、10%FBS(ウシ胎児血清)を、旋回させながらチューブに滴下した。10mlのFACS PBSにおいて1回洗浄後、50μmのFilconを介して細胞をろ過する前に、5mlのFCS PBSを添加する。次いで、細胞をペレット化し、そして2%FBSを含有する1mlのPBS(最終容積)に再懸濁し、次いで約5μg/mlの最終濃度までの特定の希釈に従って、抗−CD43−FITCおよび抗−CD138−PEで染色した。細胞を、4℃で、20分間、暗所でインキュベートした。続いて、細胞を、2mlのFACS緩衝液で2回洗浄した。15mlまでFACS PBSを添加した。ヨウ化プロピジウム(PI)を、1:100(1部のPI対100部のFACS PBS緩衝液)で添加し、続いて、細胞を、PCR反応緩衝液を含有する96ウェルのPCR−プレートで選別し(下記を参照のこと)、次いでプレートを−80℃で凍結する前に、2分間、400×gでスピンした。図1に示すように、形質細胞をCD43−ポジティブ/CD−138ポジティブとしてゲートした。
【0211】
同族VおよびVペアの連結
およびVコーディング配列の連結を、形質細胞としてゲートした単一細胞に対して実施し、VおよびVコーディング配列の同族ペア形成を容易にした。手順は、1工程の多重重複−伸長RT−PCR、続いて、ネステッドPCRに基づく2工程PCR手順を利用した。本実施例で使用したプライマー混合物のみが、κ軽鎖を増幅した。しかし、λ軽鎖を増幅することが可能なプライマーは、所望であれば、多重プライマー混合物およびネステッドPCRプライマーに添加し得る。λプライマーを添加する場合、選別手順は、λポジティブ細胞が排除されないように適応されるべきである。同族VおよびV配列の連結の原理を図2に示す。
【0212】
生成された96ウェルPCRプレートを融解し、選別した細胞は、多重重複−伸長RT−PCRのテンプレートとしての役割を果たした。単一細胞選別前に各ウェルに添加した選別用緩衝液は、反応緩衝液(OneStep RT-PCR Buffer;Qiagen)、RT−PCRのためのプライマー(表3を参照のこと)およびRNaseインヒビター(RNasin、Promega)を含有した。これに、OneStep RT-PCR Enzyme Mix(25×希釈;Qiagen)およびdNTP混合物(各200μM)を補充して、20μl反応容積において所定の最終濃度を得た。プレートを、30分間、55℃でインキュベートして、各細胞由来のRNAの逆転写を可能にした。RT後、プレートを、次のPCRサイクルに供した:94℃で10分間、35×(94℃で40秒間、60℃で40秒間、72℃で5分間)、72℃で10分間。
【0213】
PCR反応を、24枚の96−ウェルプレート(ABgene)についてPeel Seal Basket搭載のH20BIT Thermal cyclerにおいて実施してハイ−スループットを容易にした。サイクリング後、PCRプレートを−20℃で保存した。
【0214】
ネステッドPCR工程では、96−ウェルPCRプレートを、各ウェルの次の混合物(20μl反応液)で調製して、所定の最終濃度を得た:1×FastStart buffer(Roche)、dNTP混合物(各200μM)、ネステッドプライマー混合物(表4を参照のこと)、Phusion DNA Polymerase(0.08U;Finnzymes)およびFastStart High Fidelity Enzyme Blend(0.8U;Roche)。ネステッドPCRのテンプレートとして、1μlを、多重重複−伸長PCR反応から移した。ネステッドPCRプレートを、次のサーモサイクリング(thermocyling)に供した:35×(95℃で30秒間、60℃で30秒間、72℃で90秒間)、72℃で10分間。
【0215】
無作為に選択された反応物を、1%アガロースゲル上で分析して、約890塩基対(bp)の重複−伸長フラグメントの存在について確かめた。
【0216】
PCRフラグメントのさらなるプロセシングまで、プレートを−20℃で保存した。
【0217】
ネステッドPCRからの連結されたVおよびVをコードするペアのレパートリーを、異なるドナー由来のペアを混合せずにプールし、調製用1%アガロースゲル電気泳動によって精製した。ヒトκ定常軽鎖をコードする配列を、連結されたVおよびVをコードするペアのプールされたPCR産物のVコーディング領域に対する重複伸長によってスプライスした(図3)。ヒトκ定常軽鎖をコードする配列を、κ軽鎖を伴うヒト抗体のコーディング配列を含有するプラスミドから、次のものを含有する反応物において、増幅させた:50μlの全容積中Phusion Enzyme(2U;Finnzymes)、1×Phusion buffer、dNTP混合物(各200μM)、hKCforw−v2プライマーおよびκ3’プライマー(表5)、ならびにプラスミドテンプレートpLL138(10ng/μl)。反応物を、次のサーモサイクリングに供した:25×(95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で45秒間)、72℃で10分間。得られたPCRフラグメントを、調製用1%アガロースゲル電気泳動によって精製した。
【0218】
各レパートリーのプールした精製PCRフラグメントを、以下のものを含有する重複伸長PCR(50μlの全容積)による後のスプライシングによってスプライスして、ヒトκ定常部をコードする領域の増幅および精製されたPCRフラグメント(付録2)とした:ヒトκ定常部をコードする領域フラグメント(1.4ng/μl)、プールした精製PCRフラグメント(1.4ng/μl)、Phusion DNA Polymerase(0.5U;Finnzymes)およびFastStart High Fidelity Enzyme Blend(0.2U;Roche)、1×FastStart buffer(Roche)、dNTP混合物(各200μM)、mhKCrevプライマーおよびmJHセットプライマー(表5を参照のこと)。反応物を、次のサーモサイクリングに供した:95℃で2分間、25×(95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分間)、72℃で10分間。得られたPCRフラグメント(約1070bp)を、調製用1%アガロースゲル電気泳動によって精製した。
【0219】
同族VおよびVをコードするペアのスクリーニングベクターへの挿入
EGFRに対する結合特異性を伴う抗体を同定するために、得られたVおよびVコーディング配列を、全長抗体として発現させた。これは、VおよびVをコードするペアのレパートリーの発現ベクターへの挿入および宿主細胞へのトランスフェクションに関与した。
【0220】
2段階のクローニング手順を、連結されたVおよびVをコードするペアを含有する発現ベクターのレパートリーの作製に用いた。統計学的に、発現ベクターのレパートリーが、スクリーニングレパートリーの作製に使用された同族のペア形成したVおよびVPCR産物の数の10倍の数の組み換えプラスミドを含有する場合、すべての独特な遺伝子ペアが示される可能性は99%である。それ故、400個の重複−伸長V−遺伝子フラグメントを得た場合、少なくとも4000個のクローンのレパートリーをスクリーニングのために作製した。
【0221】
簡単に説明すると、連結VおよびVをコードするペアのレパートリーの精製PCR産物を、ヒトκ定常コーディング領域にスプライスし、PCR産物の末端に導入された認識部位において、XhoIおよびNotI DNAエンドヌクレアーゼによって切断した。切断および精製されたフラグメントを、標準的な連結手順によって、XhoI/NotIで消化した哺乳動物IgG発現ベクター、OO−VP−002に連結した(図4)。連結混合物を、大腸菌(E.coli)にエレクトロポレートし、次いで適切な抗生物質を含有する2×YTプレートに添加し、次いで37℃で1晩、インキュベートした。ベクターの増幅されたレパートリーを、標準的なDNA精製方法(Qiagen)を使用して、プレートから回収した細胞から精製した。プラスミドを、AscIおよびNheIエンドヌクレアーゼによる切断によって、プロモーター−リーダーフラグメントのために調製した。これらの酵素のための制限部位は、VおよびVコーディング遺伝子ペア間に局在した。ベクターの精製後、AscI−NheIで消化した両方向性哺乳動物プロモーター−リーダーフラグメントを、標準的な連結手順によって、AscIおよびNheI制限部位に挿入した。連結されたベクターを、大腸菌(E.coli)において増幅させ、次いで標準的な方法を使用して、プラスミドを精製した。スクリーニングベクターの作製されたレパートリーを、従来の手順によって大腸菌(E.coli)に形質転換した。得られたコロニーを384−ウェルマスタープレートに集約し、貯蔵した。整列されたコロニーの数は、インプットPCR(input PCR)産物の数の少なくとも3倍を超え、それ故、得られたすべての独特なV−遺伝子ペアの存在に対して95%パーセントの可能性を示した。
【0222】
EGFR細胞外ドメインへの結合のためのスクリーニング
一般に、スクリーニングを2段階の手順として作製した。抗体−ライブラリーを、ELISAにおける組み換えEGFRタンパク質に対する反応性についてスクリーニングし、その後、FMAT(FLISA)を、細胞表面に発現されたEGFRに結合するEGFR−抗体の検出のために、NR6wtEGFR細胞系統による細胞に基づくアプローチとして使用した。101および108/109ライブラリー(表2)について、EGFRの細胞外ドメインを示す組み換えEGFRを用いてELISAを実施した。
【0223】
簡単に説明すると、ELISAでは、Nunc maxisorb plate(カタログ番号464718)を、1μg/mlタンパク質(施設内で生成した)で被覆し、PBSで4℃で1晩希釈した。50μlの2%−ミルク−PBS−Tにおけるブロッキング前に、プレートを、PBS+0.05%Tween 20(PBS−T)で1回洗浄した。プレートを、PBS−T、20μlの2%−ミルク−PBS−Tで1回洗浄し、次いでFreeStyle CHO-Sトランスフェクタント由来の5μl上清(下記を参照のこと)を添加し、続いてR.Tで1時間半インキュベートし、その後、プレートをPBS−T(1ウェルあたり20μl)で1回洗浄した。2%ミルク−PBS−Tにおいて1:10000で希釈した第2の抗体(HRP−ヤギ−抗ヒトIgG、Jackson、カタログ番号109−035−097)を添加して、ウェルに結合した抗体を検出し、次いで、室温で1時間インキュベートした。5分間インキュベートした25μl基質(Kem-en-tec Diagnostics、カタログ番号4390)の添加前に、PBS−Tにおいて、プレートを1回洗浄した。インキュベーション後、25μlの1M硫酸を添加して反応を停止させた。450nmにおけるELISAリーダーで特定のシグナルを検出した。
【0224】
抗EGFR抗体の細胞に基づくFMAT検出では、上記のように、SKBR-3(ATCC番号HTB−30)またはNR6wtEGFR(Welsh et al, 1991, J Cell Biol, 114, 3, 533-543)細胞を増殖培地で維持した。細胞を計数し、次いで1:40,000に希釈したAlexa-647抱合ヤギ−抗ヒトIgG(H−L)抗体(Molecular probes No. A21445、ロット番号34686A)で125,000個の細胞/mlに希釈した。合計で20μlの上清を、384ウェルの透明底Nuncプレートに移した。続いて、10μlトランスフェクション上清を細胞に添加した。反応物由来のFMATシグナルを6〜10時間のインキュベーション後に測定した。
【0225】
スクリーニングからのデータは、全クローンのうち221個(4.8%)がELISAにおいてポジティブであったことを示す。また、それらのクローンのうち93個(2.0%)がFMATにおいてポジティブであった。全体で、クローンのうち220個(4.8%)がFMATでポジティブであり、そしてそれらのうち127個(220−93)が、細胞表面抗原についてのみポジティブであった。111のライブラリーを類似の様式でスクリーニングしたが、免疫化手順を行って、欠失変異EGFR受容体EGFRvIIIに特異的な抗体を作製したため、ELISAスクリーニングに、野生型EGFRおよびEGFRvIIIの両方を検出するためのアッセイを含めた。ELISAでは、7個のクローンがEGFRvIIIに特異的であると同定され、興味深いことに、それらのクローンは、FMATにおいてwtEGFRを発現する細胞の染色についてネガティブであった。13個のコロニーが、FMATおよびELISAにおいてwtEGFRについてポジティブであると同定されたが、EGFRvIIIについてはポジティブでなく、これは、101および108/109のライブラリーと比較して、このライブラリーに独特であった。すべてのELISAポジティブクローンをさらなる分析のために選択した。
【0226】
配列分析およびクローン選択
ELISAにおいてEGFR特異的として同定されたクローンを、本来のマスタープレート(384ウェル形式)から回収し、次いで新たなプレートに固化した。DNAをクローンから単離し、次いでV−遺伝子のDNA配列決定のために提出した。配列を整列し、すべての独特なクローンを選択した。得られた配列の複数のアラインメントは、各特定のクローンの独自性を表し、続いて独特の抗体の同定を可能にした。220個のクローンの配列分析後、70個の一般的に別々の抗体配列クラスターを同定した。関連する配列の各クラスターは、おそらく、共通の前駆体クローンの体細胞超変異を介して誘導された。全体的に、配列および特異性の検証のために、各クラスターから1〜2個のクローンを選択した。選択された抗体可変配列の配列を、付録1に示す。ヌクレオチド配列は、両方の末端に制限部位を含む。結果的に、対応する翻訳されたアミノ酸配列(DNA配列の第3のリーディングフレームを使用する)は、N末端において、IMGT定義に従ってVHおよびVL配列の部分を形成しない2つのアミノ酸を含む(Lefranc et al (2003) IMGT unique numbering for immunoglobulin and T cell receptor variable domains and Ig superfamily V-like domains. Dev. Comp Immunol 27, 55-77)。示されたVL配列は、すべて、アミノ酸−TVAAP−で開始し、次いでC末端−NRGECで終了する同じヒトκ定常領域を含む。本発明の目的のために、VL配列という用語は、特定の抗体をいう場合、κ定常領域および2つのN−末端アミノ酸(LA−)を含まない。VH配列という用語は、特定の抗体を指す場合、2つのN−末端アミノ酸(RA−)を含まない。
【0227】
配列および特異性の検証
抗体をコードするクローンを検証するために、DNAプラスミドを調製し、次いで2mlスケールのFreeStyle CHO-S細胞(Invitrogen)のトランスフェクションを、発現のために実施した。上清を、トランスフェクションの96時間後に回収した。発現レベルを、標準的な抗IgG ELISAで評価し、特異性を、EGFR−およびEGFRvIII−特異的ELISAによって決定した。クローンの85%が正確な特異性および配列を有することが示された。
【0228】
抗増殖効果のスクリーニング
細胞損傷は、必然的に、代謝細胞機能および増殖のためのエネルギーを維持および提供する細胞の能力の喪失を生じる。代謝活動アッセイは、この前提に基づく。通常、それらは、ミトコンドリア活性を測定する。Cell Proliferation Reagent WST-1(Rocheカタログ番号11644807001)は、生細胞の代謝活動を測定する即使用可能な(ready−to−use)基質である。次いで、代謝活動は、生細胞の数に相関すると想定される。本実施例では、WST-1アッセイを使用して、異なる抗EGFR抗体を含有する細胞培養上清による処置後の代謝活性細胞の数を測定した。
【0229】
WST-1アッセイを実施する前に、異なる容積の2ml上清(0、10、25、50および150μl)を96ウェルプレートの適切なウェルに移した。
【0230】
次いで、HN5細胞を、1×PBSで洗浄し、次いで3mlトリプシン溶液によるトリプシン処理により剥離した。次いで、17mlの完全培地を添加し、細胞を、300×g(1200rcf)で5分間、スピンした。上清を取り出し、細胞を、DMEM+0.5%FBSに再懸濁した。細胞を計数し、次いでそれらの濃度を調整し、各ウェルが合計で200μlの培地を含有するように、1500個の細胞を添加した。プレートを、4日間、加湿インキュベーターにおいて37℃でインキュベートした。次いで、20μlのWST−1試薬を、1ウェルあたり(pr. well)に添加し、そしてプレートを37℃で1時間インキュベートした。次いで、プレートを、オービタルプレートシェーカーに移し、さらに1時間放置した。吸光度を、450および620nm(対照波長)において、ELISAリーダー上で測定した。代謝活性細胞(MAC)のレベルの差異を、以下のようにコントロール上清のパーセントとして計算した:
【表2】

次いで、これらの値を、フリーソフトウェアClusterおよびTreeViewを使用して実施される管理下の(ELISAにおける反応性に基づいてクラスター化される)階層的クラスター分析の基礎として使用した。
【0231】
抗体選択プロセスの初期の段階において機能的抗体についてスクリーニングすることが可能であることが好適である。83個の2mlトランスフェクションからの培養上清を、0.5%FBS中のHN5細胞を用いて行った増殖アッセイにおける増殖阻害機能についてスクリーニングするのに用いた。結果を、簡単な階層的クラスター分析によって可視化した。クラスター分析(図5)において認められ得るように、多くの上清では、濃度依存的様式で代謝活性HN5細胞(暗灰色)の数が減少することが見出された(クラスター2)。同様に、いくつかの上清では、濃度依存的様式で代謝活性細胞HN5細胞(明灰色)の数が増加した(クラスター1、3および4)。代謝活性HN5細胞の数が減少した上清は反応性2(黒色矢印)を示したが、一方、代謝活性HN5細胞の数が増加した上清が反応性1(灰色矢印)を示したことは、興味深い観察である。反応性2を示す上清は、wtEGFRおよびEGFRvIIIの両方のELISAにおいてポジティブであった一方、反応性1を示す上清は、wtEGFRに対する反応性のみを示した。それ故、そのようなアッセイは、ELISAにおける抗体反応性と細胞アッセイにおける機能性間の関連性を提供し得る。
【0232】
クローン修復
多重PCRアプローチを使用する場合、プライマー縮重および高程度の相同性のため、一定程度のV−遺伝子ファミリー内およびV−遺伝子ファミリー間のクロスプライミングが予想される。クロスプライミングは、いくつかの潜在的結果、例えば、構造変化および免疫原性の増加を伴う、免疫グロブリンフレームワークに自然に存在しないアミノ酸を導入し、そのすべてが治療活性の減少を生じる。
【0233】
これらの欠点を排除し、選択されたクローンが自然の体液性免疫応答を反映することを確実にするために、かかるクロスプライミング変異は、クローン修復と呼ばれるプロセスで補正された。
【0234】
クローン修復手順の第1の工程では、V配列を、目的のクローンの起源であるV−遺伝子に対応する配列を含有するプライマーセットでPCR増幅し、それによって、クロスプライミングによって誘導された変異を補正した。PCRフラグメントをXhoIおよびAscIで消化し、従来のライゲーション手法を使用して、XhoI/AscIで消化した哺乳動物発現ベクターに連結して戻した(図4)。連結されたベクターを、大腸菌で増幅し、標準的な方法によりプラスミドを精製した。V配列を、配列決定して、補正を確かめ、ベクターをNheI/NotIで消化して、軽鎖の挿入用に調製した。
【0235】
クローン修復手順の第2の工程では、完全な軽鎖を、目的のクローンの起源であるV−遺伝子に対応する配列を含有するプライマーセットでPCR増幅し、それによって、クロスプライミングによって誘導される変異を補正した。PCRフラグメントをNheI/NotIで消化し、次いで上記で調製したベクターを含有するVに連結した。連結した産物を、大腸菌で増幅し、標準的な方法によりプラスミドを精製した。続いて軽鎖を配列決定して補正を確かめた。
【0236】
選択されたクローンのκ定常領域が遺伝子の増幅中に導入された変異を含有する場合、それは、変異していない定常領域によって置き換えられる。これは、(定常領域なしで増幅した)修復されたV−遺伝子を(別々のPCRで得られた)正確な配列を有する定常領域に融合した重複PCRにおいて行われる。配列全体を増幅し、上記のベクターを含有するVにクローニングし、次いで修復された軽鎖を配列決定して補正を確かめる。
【0237】
表2 抗EGFRクローニングの出発物質を作製するのに用いた免疫化スケジュール
【表3】
【表4】
【0238】
表3 RT−PCR多重重複−伸長プライマー混合物
【表5】
W=A/T, R=A/G, S=G/C, Y=C/T, K=G/T, M=A/C, H=ACT, B=GCT; 濃度―最終濃度.
【0239】
表4 ネステッドプライマーセット
【表6】
K=G/T, M=A/C,D=AGT; 濃度−最終濃度.
【0240】
表5 κ定常スプライシングプライマーセット
【表7】
【0241】
実施例2 哺乳動物抗EGFR抗体の産生
FreeStyle MAX CHO発現系(Invitrogen)を抗EGFR抗体の一過性発現に使用した。抗体を200〜2000ml体積で発現させた。
【0242】
トランスフェクションの約24時間前に、CHO−S細胞を継代培養して0.5×10個の細胞/mlの細胞濃度に到達させた。プラスミド(1ml細胞培養培地あたり1.25μg)を、OptiPro無血清培地に希釈し、次いで製造業者によって推奨されるようにFreeStyle MAXトランスフェクション試薬の溶液と混合した。トランスフェクション試薬を細胞培養に移し、上清を6日後に回収した。
【0243】
IgG1分子の精製のためのProtein A-Sepharoseカラム(MabSelect Sure, GE Health Care)を用いるアフィニティークロマトグラフィー工程を使用して、培養上清から発現した抗体を精製した。0.1Mグリシン、2.7を使用して、カラムから抗体を溶出させた。280nmにおける吸光測定値によって決定された抗体を含有する画分をプールし、次いで5mM酢酸ナトリウム、150mMのNaCl、pH5に対して透析した。精製した抗体サンプルを、LALアッセイによってエンドトキシン(endototoxin)の存在について試験した。
【0244】
実施例3 エピトープ特異性の決定
対照抗体との競合ELISA
(J.R. Cochran et. al., JIM 2004: 287; 147-158)で公開されるように、EGFRの既知のドメインに結合する対照抗体を使用することにより、抗EGFR抗体のヒトFc領域に特異的であり、マウスまたはラットIgG Fcに対して交差反応性を示さない第2の試薬とのインキュベーションにより抗EGFR抗体の結合性エピトープ間を識別し得る競合ELISAを開発した。このELISAを、Ditzel et al, 1995, The Journal of Immunology, Vol 154, Issue 2 893-906に記載された説明から採用した。
【0245】
エピトープを遮断するELISAを、全長EGFR受容体抗原をPBSで0.5μg/mlに希釈し;50μl/ELISAウェルを4℃で1晩被覆することにより実施した。翌朝、ウェルをPBS−Tで2回洗浄し、次いでPBS−T−1%BSAで室温にて1時間ブロックし、続いてPBS−Tで2回洗浄した。次に、25μlのマウスまたはラット対照mAbを、先の実験から公知の希釈で独立したELISAウェルに添加して200倍の最大抗原結合性を得た。15分間後、25μlの抗EGFR抗体を、対照抗体と共にプレインキュベートしたウェルまたは25μlのPBSを含有するウェルに2μg/mlの濃度で添加した。これにより、混合後、1μg/mlの抗EGFR抗体の最終濃度および対照抗体の100倍の最大抗原結合性を得た。抗体を室温で45分間インキュベートし、その後、ウェルをPBS−Tで4回洗浄した。第2のヤギ−抗ヒトIgG HRP抱合体を1:3000に希釈し、次いで50μlを各ウェルに添加し、続いて室温で30分間のインキュベーションを行った。最終的に、ウェルをPBS−Tで4回洗浄し、次いでプレートに50μl/ウェルのTMBを添加することにより発色させ、続いて5〜15〜30分ごとに620nmで読み取った。阻害の程度を、次の式から計算した:阻害%=(1−(OD競合/OD競合なし(PBS)))×100。
【0246】
ELISA試薬:
1)コーティング緩衝液:1×PBS;Gibcoカタログ番号20012−019
2)抗原:A431細胞から精製された野生型全長EGFR;Sigma E3641
3)ELISAプレート:NUNC Maxisorp;カタログ番号442404
4)ブロッキング/希釈緩衝液:PBS−T中1%BSA(PBS−T−1%BSA)
5)洗浄緩衝液:1×PBS/0.05%Tween 20(PBS−T)
6)ポジティブコントロール:Erbitux(Merck KGaA, 64271 Darmstadt, Germany、カタログ番号018964;セツキシマブ)、Vectibix(Amgen Inc, One Amgen Center Drive, Thousand Oaks CA 91320-1799, USA、カタログ番号3241400;パニツムマブ)
7)対照抗体:
・ICR10(ラット)、Abcam、Ab231
・199.12(マウス)、Lab Vision Ab−11、MS−396−PABX
・EGFR.1(マウス)、Lab Vision Ab−3、MS−311−PABX
・H11(マウス)、Lab Vision Ab−5、MS−316−PABX
・B1D8(マウス)、Lab Vision Ab−16、MS−666−PABX
・111.6(マウス)、Lab Vision Ab−10、MS−378−PABX
・225(マウス)、Lab Vision Ab−2、MS−269−PABX
・528(マウス)、Lab Vision Ab−1、MS−268−PABX
8)ヤギ−抗ヒトIgG HRP抱合;Serotec, Star 106P
9)TMB Plus;KemEnTec、カタログ番号4390L
10)1MのHSO
【0247】
競合ELISAの結果を図6に示す。ELISA競合アッセイを用いて、EGFR細胞外ドメインに対して惹起された使用した対照抗体のドメイン特異性に従って、抗EGFR抗体上清を格付けした。50〜100%の阻害値を、重複エピトープまたは抗原における近傍のエピトープに結合する抗体ペア間の有意な競合の指標とみなした一方、50%未満の阻害値は、抗体ペアによって認識されたエピトープが近傍には存在せず、立体障害の減少を生じたことを示した。抗EGFR抗体は、ドメインI、IIおよびIIIを含むEGFR ECD上の多様なエピトープに結合することを見出した。いくつかの抗体では、この分析は、特定のmAbがドメインIまたはドメインIIのいずれに対して指向されたかを区別することはできなかった。そのような特異性をドメインI/IIと標識した。さらに、いくつかの抗体は、用いた競合ELISAにおいてさらに推定することができなかった独特なエピトープに結合するようであった(例えば、クローン1229および1320、図6)。これらの抗体のいくつかは、本発明者らがなんら対照抗体の反応性を認めていないドメインIVに対して指向されている可能性がある。興味深いことに、ドメインIII抗体は、さらに、このドメインに対する試験されたマウス対照抗体によって得られた異なる競合パターンに基づき4つのサブグループに分けることができた。グループIは、対照抗体Ab1およびAb2との結合に競合することが見出されたmAb992のみからなった。グループIIは、両方ともが同じIgリアレンジメントから誘導され、結果的に、DNAおよびアミノ酸レベルにおいて極めて緊密な配列相同性を示したmAb1024および1042からなった。これらの2つの抗体は、Ab2との結合のみに競合することを見出した。グループIIIは、対照抗体Ab1、Ab5およびAb10との結合について競合したmAb1030、1208および1277からなった。最後に、グループIVは、使用したすべてのドメインIII対照抗体Ab1、Ab2、Ab5およびAb10との結合について競合したmAb1254よりなった。
【0248】
表面プラズモン共鳴技術を使用する対照または同一種の抗体との別々のエピトープの競合分析
SPR分析を、4つのフローセルを含有するBiacore 3000機器において実施した。製造業者の説明書に従って、CM5 Biacoreチップを、10,000 Resonanceユニット(Ru)ポリクローナル抗His抗体と共に、フローセル1〜4に抱合した。5μl/分の流速を使用して、20μg/mlの濃度の6×His EGFR ECDの15μlを注入し、次いで抗Hisポリクローナル抗体を抱合させた4つのすべてのフローセル上で捕捉した。抗原注入の直後、競合を伴わない抗EGFRmAbの最大結合性を、対照の実行中に各フローセルで確立させた。簡単に説明すると、40μg/mlの濃度の5μl抗体を、EGFRを捕捉したすべてのフローセルに注入し、続いて、低pH酸性洗浄(10mMグリシン−HCl、pH2との10秒間の接触時間)による抗体/抗原複合体のストリッピングを行った。各フローセルに対する抗EGFR抗体最大結合性の決定後、同じBiacoreサイクル中に、競合の実行を実施した。フローセルを、最初にEGFR ECD抗原で飽和し、続いて、上記で概説した同じ抗原飽和条件を使用して、異なる対照抗体または抗EGFR抗体の別々のフローセルへの注入を行った。この工程の直後に、EGFR抗原および競合抗体で飽和したフローセルへの抗EGFR抗体の第2の注入を行い、抗原または遮断抗体のどちらかの解離を最小限にした。次いで、抗体/抗原複合体を、低pH酸性洗浄(10mMグリシン−HCl、pH2との10秒間の接触時間)でストリッピングし、対照の実行で開始した全サイクルを、新たな抗EGFR抗体で繰り返した。試験した抗EGFR抗体の阻害の程度を、各サンプルの注入の2秒前および2秒後の記録された報告ポイントを導入することによって、競合の前および後の個々の抗EGFR抗体のRu最大値を比較することによって、決定した。1つのBiacoreサイクルの例を図7に示す。
【0249】
試薬:
1.CM5チップ;Biacore、カタログ番号BR−1000−14
2.NHS;Biacore BR-1000-50
3.EDC;Biacore BR-1000-50
4.10mM酢酸緩衝液pH4,5;Biacore、カタログ番号BR−1003−50
5.Tetra-His抗体(BSAを含有しない);Qiagen、カタログ番号34670
6.エタノールアミン、1.0M pH8.5;Biacore BR-1000-50
7.10×HBS-EPランニング緩衝液:0.01MのHEPES pH7.4、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%v/vのSurfactant P20
8.抗原:施設内で産生された6×Hisを伴う組み換えヒトEGFR細胞外ドメイン
9.10mMグリシンHCl pH2.0
10.対照抗体:
・ICR10(ラット)、Abcam、Ab231
・199.12(マウス)、Lab Vision Ab-11、MS-396-PABX
・EGFR.1(マウス)、Lab Vision Ab-3、MS-311-PABX
・H11(マウス)、Lab Vision Ab-5、MS-316-PABX
・B1D8(マウス)、Lab Vision Ab-16、MS-666-PABX
・111.6(マウス)、Lab Vision Ab-10、MS-378-PABX
・225(マウス)、Lab Vision Ab-2、MS-269-PABX
・528(マウス)、Lab Vision Ab-1、MS-268-PABX
【0250】
競合ELISAにおいて得られたエピトープ分析を確認し、同一種の抗EGFR抗体ペア間の競合によるさらなるエピトープ分析を実施するために、表面プラズモン共鳴によるリアルタイムで測定される抗体結合性に基づく競合アッセイを確立した。対照抗体のパネルに対して試験した抗EGFRクローンの得られたエピトープマップを、以下の図8に示す。50〜100%の阻害値を、重複エピトープまたは抗原における近傍のエピトープに結合する抗体対間の有意な競合の指標とみなした一方、50%未満の阻害値は、抗体対によって認識されたエピトープが、近傍には存在せず、立体障害の減少を生じたことを示した。25%未満の阻害値は有意でない阻害を表すと判断されたため、それらは、重複エピトープの分析には含めなかった。1320を除く試験したすべての抗体は、用いた対照抗体の1つもしくはそれ以上と競合することを見出したが、1320は、本発明者らが未だ対照抗体反応性を認めていない未知のエピトープに対して指向されたことを示す。完全なヒトまたはヒト化抗体VectibixおよびErbituxを分析に含め、次いで重複エピトープに結合することを見出した。競合ELISAおよび競合SPR分析の両方から得られるデータは、一般的に、抗EGFR抗体の確立されたドメイン特異性に関して良好に相関する。しかし、おそらく、ELISA競合アッセイが完全長のEGFR受容体抗原を用いた一方、SPR競合アッセイは組み換え細胞外ドメインEGFRを使用したという事実のため、時々、2つのアッセイにおいて個々の対照抗体間の競合パターンにわずかな相違が観察された。
【0251】
抗EGFR抗体のエピトープマッピングを異なる2つの競合アッセイにおいて確認した後、抗EGFR抗体ペアの同一種の組み合わせの競合分析について調べて、どの抗体ペアが別々のエピトープを認識していたか、および重複エピトープを認識する抗体ペアがエピトープクラスターにさらに分けられ得るかどうかについて解明した。この分析の結果を図9に示す。さらに、この分析において、50〜100%の阻害値を、重複エピトープに結合する抗体ペア間の有意な競合の指標とみなした。それら自体に対して試験し、次いで結果的に完全な重複エピトープを認識する抗体は、図9に示されるように、70%〜100%阻害の間の値を生じたため、この基準は有効と思われた。さらに、この観察は、分析の時間枠内の抗原または抗体対のいずれの解離も、試験した抗体の実験の結果に影響を及ぼさなかったようであることを示した。先のセクションで調べて推定されたEGFR ECDドメイン特異性に従って抗体をグループに分類することによって、ドメインI、またはドメインIもしくはII(I/II)のいずれかに排他的に結合する抗体は、主に、同じ特異性を伴う抗体メンバーとクラスター化し、ドメインIIIを認識する抗体メンバーとはクラスター化しないことを見出した。同様に、ドメインIII抗体は、結合性についてドメインIIIを認識する抗体メンバーとのみ競合し、EGFRドメインIまたはI/IIを認識する抗体とは競合しないことを見出した。同じIgリアレンジメントから誘導される2つのドメインIII抗体1024および1042は、重複エピトープを認識することを見出した一方、1024または1042のいずれかと、992または1030のいずれかとのペア単位の組み合わせは、重要なことに、有意な競合を生じないことを見出した。結果的に、抗体992、1030および1024/1042は、EGFR ECDのドメインIII上の3つの非重複エピトープを認識していたことが結論付けられた。最後に、mAb1320は、結合性について、両方ともがドメインIIIに対して指向されたmAb1024および1449と競合し、試験した他のドメインIII抗体とは競合しないことを見出した(1320と1042との競合については決定されていない)。結果的に、mAb1320は、EGFRの細胞外ドメイン上のドメインIIIの周辺で結合していたことが想定された。エピトープ特異性の概観は、図10で見られ、EGFR ECDドメインI、I/IIまたはIIIに対して指向される抗体のエピトープマップを示す。
【0252】
992、1030および1024/1042のペア単位の組み合わせが、SPRによって決定されるように、有意な抗体競合を生じなかったことを見出した後、新たなBiacore実験を設計して、どれだけ多くの抗体が受容体抗原に同時に結合し得るについて調べた。最初に、3つの抗体992、1024および1030によるドメインIIIの飽和が、ドメインIIIではない他のEGFR特異性に対して指向された抗体の結合に対してどのような影響を及ぼしたかについて調べた。この分析からの結果を図11Aに示す。単一の抗体か、または各Biacoreサイクル中に余った1つの抗体を逐次的に追加するとによって作製される3つまでの抗体の抗体混合物のいずれかとの組み合わせでそれらを試験することによって、単一抗体の阻害を確立した。認識されたエピトープの完全な遮断を評価するために、40μg/mlの個々の濃度で抗体を試験した。図11Aに示されるように、3つのドメインIII抗体992、1024および1030は、結合の阻害を何ら伴うことなく、受容体に結合することを見出した。添加した各抗体について増加している観察されたネガティブ阻害値は、さらに、追加された次の抗体の結合における相乗効果を示唆した。重要なことに、一旦、ドメインIIIを3つの抗体と共にインキュベートすると、ドメインI/II(mAb1261)、ドメインI(1347)または未知の特異性(1361)に対する非重複エピトープに対して指向された他の抗体は、3つのmAb混合物からのエピトープ遮断を伴わずに結合するようである。さらに、これらの試験した抗体は、小さなネガティブの阻害値を有し、それらが、3つのmAb混合物による受容体飽和後により良好に結合していたことを示す。結果的に、この実験は、6つの試験した抗体がEGFRのECDに同時に結合し得たことを示唆した。この観察された現象をさらに試験するために、試験したすべての抗体(1261、1347、992、1024、1030および1361)よりなる抗体混合物を作製し、次いで混合物中の各それぞれのサンプル抗体の阻害について試験した。また、試験するサンプル抗体が含まれていない抗体を試験することによりポジティブコントロールを供した。図11B/Cで示されるように、試験したすべての6つの抗体は、抗体のすべての混合物と共にインキュベートしたEGF受容体への結合について試験した場合、80〜116%が阻害されることを見出した。しかし、この混合物から個々のサンプル抗体を取り出した場合、特定のサンプル抗体の有意な阻害は認められず、これは、混合物中の抗体が、それ自体のEGF受容体への結合についてのみ遮断されたことを示す。この実験は、非重複エピトープを認識する少なくとも6つの抗体が同時にEGFRに結合することができることを明確に示した。最後の実験として、ドメインI(1284)、I/II(1257)または未知の特異性クラスター(1183、1255)に対して指向された他の抗体が、6抗体混合物に含まれた場合、EGFRに結合し得るかどうかについて調べた。図11Dに示すように、試験した抗体のいずれもが、6抗体混合物との事前のインキュベーション時にEGFRに有意に結合することができなかった。これは、抗体のコレクションが、6つの結合抗体によって占領されている部位のいずれに対する抗体も含まないためであり得る。あるいは、実際には、試験されたドメイン上のすべての部位が抗体によって遮断された可能性もある。
【0253】
表6 EGFR細胞外ドメインに対する特異性が立証された市販の抗体
【表8】
【0254】
実施例4 EGFR活性化阻害
競合ELISAによるEGFR受容体に結合するEGFリガンドの抗体仲介遮断の決定
試験した抗EGFR抗体がEGFR受容体に結合し、同時にビオチン化EGFリガンドの結合を遮断したことを検証するために、ELISAウェルを、PBS中0.5μg/mlの濃度にて80μl/ウェルの全長EGFRで4℃において一晩被覆した。翌朝、ウェルをPBS−Tで2回洗浄し、150μlのPBS−T−1%BSAにより室温で1時間ブロックし、続いてPBS−Tで2回洗浄した。次に、80μlの系列希釈した抗EGFR抗体およびコントロール抗体をウェルに添加し、室温で30分間インキュベートした。抗体インキュベーション後、0.5μg/mlの濃度の20μLのビオチン化EGFリガンドを、抗EGFR抗体希釈液を含有するすべてのウェルまたはPBS−T1%BSAのみを含有するウェルに添加し、室温で1時間インキュベートした。続いて、ウェルをPBS−Tで5回洗浄し、次いでブロッキング緩衝液中1:1000に希釈した100μl/ウェルのストレプトアビジン−HRP第2試薬とのインキュベーションおよび室温で30分間のインキュベーションを行った。最後に、ウェルをPBS−Tで5回洗浄し、次いでプレートを100μL/ウェルのTMB基質を添加することにより発色させ、続いて60分間インキュベートした。インキュベーション後、1MのHSO、100μl/ウェルの添加によって、反応を停止し、プレートをOD450nmで読み取った。
【0255】
ELISA試薬:
1)コーティング緩衝液:1×PBS;Gibcoカタログ番号:20012−019
2)抗原:A431細胞から精製された野生型全長EGFR;Sigma E2645
3)ELISAプレート:NUNC Maxisorp;カタログ番号:442404
4)ブロッキング/希釈緩衝液:PBS−T中1%BSA(PBS−T−1%BSA)
5)洗浄緩衝液:1×PBS/0.05%Tween 20(PBS−T)
6)ポジティブコントロール:Erbitux、Vectibix
7)ネガティブコントロール:Synagis(Medimmune Inc、パリビズマブ、カタログ番号NDC60574−4111−1)
8)ビオチン化EGFリガンド;Invitrogen、カタログ番号E3477
9)ストレプトアビジン−HRP、超高感度:Sigma S 2438
10)TMB Plus;KemEnTec、カタログ番号4390L
11)1MのHSO
【0256】
ELISA競合アッセイを用いて、抗EGFR抗体が、ビオチン化EGFリガンドのELISAウェルに被覆した完全長EGFR受容体への結合を阻害する能力を格付けした。図12に示すように、ErbituxおよびVectibixの両方とも、EGFリガンド結合を極めて強力に遮断するようである一方、EGFRに対して指向されていないネガティブコントロール抗体Synagisは、EGFリガンド結合を阻害しなかった。図12Aに示すように、ドメインIIIに対して指向され、非重複エピトープを認識する3つの抗体992、1030および1042を、単独または等モル混合物で、EGFリガンド結合を阻害するそれらの能力について試験した。試験した3つの抗体のうち、mAb1030のみは、ErbituxおよびVectibixと比較した場合、中程度のEGFリガンド阻害活性を示した。mAb992、1030および1042の等モル混合物は、単独で試験した単一の抗体より、EGFリガンド結合の阻害においてより効果的であるようである。1μg/mlの全IgG濃度において、等モル混合物は、mAb1030より約2倍の効率で、および単独で試験したmAb992および1042より4倍の効率で、EGFリガンド結合を阻害することが見出され、これは、非重複エピトープを認識する3つのドメインIII抗体を混合することの相乗効果を示す。図12Bに示すように、抗EGFRクローン1208、1260、1277および1320についてもまた、このアッセイで試験した。これらの4つのクローンは、Erbituxコントロールと比較した場合、クローン992、1030および1042について観察されるより効果的であった用量依存的様式で、EGFリガンド結合を阻害することが可能であった。0.33μg/mlを超える濃度では、抗EGFRクローン1208、1260、1277および1320は、同じ濃度で試験したErbituxと同じような効率でEGFリガンド結合を遮断するようである。
【0257】
HN5細胞におけるEGF誘導性EGFRリン酸化を阻害する能力
抗EGFR抗体を、in cell western分析において、EGFRリン酸化に対する反応性について試験した。in cell western手順は、同じサンプル由来のEGFRおよびリン酸化EGFR(pEGFR)の検出を可能にし、これは、次いで、各抗体処置およびデータセットについて、EGFR対pEGFR発現の比を比較することを可能にする。HN5細胞を、ATCCにより供された説明書に従って、10%FCSおよびpen/strepを補充したDMEMにおいて培養した。43,000個のHN5細胞を、飢餓24時間前に、Nunc(カタログ番号167008)製の96ウェルプレートに播種した。細胞を、抗体の添加16時間前に、DMEMで飢餓状態にした。抗体を200μlのDMEM中10μg/mlの最終濃度で添加し、混合物を少なくとも5回ピペッティングして混合した。抗体処置30分後、EGFを、50μg/mlの濃度で適切なウェルに添加し、7.5分間放置した。in cell westernを、基本的に、in-cell western kit(Odyssey、LI-COR biosciences)の製造者によって提供された説明書のとおりに実施した。
【0258】
EGF刺激後、細胞を3.7%ホルムアルデヒド(Sigma F-8775、ロット番号71K500、約1%メタノールを含有する)で20分間固定した。LI-CORブロッキング緩衝液(927−40000)によるブロッキング前に細胞膜を透明にするため、5回のPBS−Triton X-100(0.1%)での5分間の洗浄を使用した。第1の抗体を、提供された説明書に対応する濃度で添加し、RTにおいて2.5時間、穏やかな振盪しながらインキュベートした(全EGFRマウス、1:500希釈、biosource international、カタログ番号AHR5062およびPhospho-EGFR Tyr1173、ウサギ1:100希釈、biosource、カタログ番号44−794G)。
【0259】
第1の抗体とのインキュベーション後、細胞をPBS−T(0.1%tween-20)で5分間、5回洗浄し、その後、第2の抗体を添加し(ヤギ−抗ウサギ、IRDye 680、1:200希釈、LI-CORカタログ番号926−32221およびヤギ−抗マウス、IRDye 800CW、1:800希釈;LI-CORカタログ番号926−32210)、アルミホイルにおいて被覆したプレートを穏やかに振盪しながらRTで1時間インキュベートした。
【0260】
Tecan蛍光リーダーにおける測定前に、プレートをPBS−Tで5回、5分間洗浄した。プレートの開口部を下に向け、勢いよく振って洗浄溶液を飛ばし、続いてペーパータオル上でプレートを叩くことによって、すべての洗浄を終結させた。(ELISAプレートの処置と全く同様に、重要なことは、この処置の間、細胞がプレート上に保持されること、および細胞単層の完全性を破壊する吸引ではなく、むしろこの手順によって洗浄液を取り出すことができることに留意することである)。最後の洗浄で残った任意の残留洗浄溶液を、マルチチャンネルピペットによりウェルの側面から穏やかに吸引することによって取り出す。蛍光シグナルを、680nmチャンネル(励起675nmおよび蛍光705nm、両方とも10nmのバンド幅)および800nmチャンネル(励起762nmおよび蛍光798nm、両方とも10nmのバンド幅)で測定した。
【0261】
in-cell Western分析を使用して、3つの抗体が、HN5細胞のpEGFR状態に有意に(p<0.05)影響を及ぼしていることが明らかとなる;1208、1277および1320抗体(図13)。
【0262】
抗EGFR抗体の抗EGFR混合物(992、1030および1042)およびその中の個々の抗体を、EGF誘導性EGFRリン酸化の阻害のin cell western分析における影響について試験した。図14に見られるように、992および1030ならびに抗EGFR抗体混合物は、EGF誘導性EGFRリン酸化を有意に阻害した(p<0.05)。
【0263】
実施例5 A431NS細胞におけるEGF受容体の内在化
A431NS細胞(ATCC番号CRL−2592)を、TrypLEを使用して、80〜90%コンフルエントのT175培養フラスコからトリプシン処理した。剥離された細胞を、PBSで洗浄し、血清なしのDMEMで再懸濁した。細胞を1〜2mlの部分に分け、試験する抗体と共に氷上で30分間インキュベートした。抗体濃度は10μg/mlであった。細胞をDMEM(250g、4分間、4℃)で3回洗浄し、次いで1.8mlのDMEMで再懸濁した。各部分を、各300μl細胞懸濁液を含有する6本のFACSチューブに分けた。各部分の3本のチューブを、37℃の水浴に正確に40分間配置し、他方の3本をすぐに氷上に置く。インキュベーション後、細胞を(250g、4分間、4℃)で2回洗浄し、ペレットをDMEM中100μlのウサギ抗ヒトIgG FcγF(ab’)2−FITCに再溶解する。4℃のDMEMで3回洗浄し、FACSCalibur上で分析する前に、細胞を4℃で30分間インキュベートする。
【0264】
結果を図15に示す。ErbituxおよびVectibixとのインキュベーションは、約30%の等レベルの受容体の内在化を示し、70%の初期表面染色を残した。992単独でのインキュベーションは、約45%の受容体における下方調節を導く。非重複エピトープを伴うさらなる2つの抗体を含有する抗体混合物とのインキュベーションは、受容体下方調節における増加を導く:992+1024、74%;992+1024+1030、83%。
【0265】
さらなる抗体の添加は、受容体内在化のさらなる増加をもたらさなかった。それ故、少なくとも3つの抗体は、A431細胞における最大レベルの内在化を達成する必要があるようである。
【0266】
実施例6−増殖アッセイ
細胞損傷は、必然的に、代謝細胞機能および増殖のためのエネルギーを維持および提供するための細胞の能力の消失を生じる。代謝活動アッセイはこの前提に基づく。通常、それらは、ミトコンドリア活性を測定する。Cell Proliferation Reagent WST-1(Rocheカタログ番号11644807001)は、生細胞の代謝活動を測定する即使用可能な(ready−to−use)基質である。次いで、代謝活動は、生細胞の数に相関すると想定される。本実施例では、WST-1アッセイを使用して、異なる濃度の異なる抗体による処置後の代謝活性細胞の数を測定した。
【0267】
WST-1アッセイを実施する前に、適切な抗体および抗体混合物を、0.5%のFBSおよび1%P/Sを補充したDMEM中20μg/mlの最終全抗体濃度に希釈し、最も高い抗体濃度のウェルにおいて10μg/mlの最終抗体濃度を得た。次いで、これらの溶液の150μlを、96−ウェルプレートのカラム2のウェルに添加し、各ウェルが100μlの抗体溶液を含有するように、3倍系列希釈をカラム9まで漸減させながら作製した。100μlの培地をカラム11に添加した。実験ウェルにおける培地蒸発を減少させる効果のため、200μlの培地を列1および8ならびにカラム1および12に添加した。
【0268】
次いで、A431−NS細胞を1×PBSで洗浄し、3mlトリプシン溶液によるトリプシン処理によって剥離する。次いで、17mlの完全培地を添加し、細胞を300×g(1200rcf)で5分間スピンする。上清を取り出し、細胞をDMEM+0.5%FBSに再懸濁する。細胞を計数し、それらの濃度を15,000個の細胞/mlに調整する。次いで、100μlの細胞懸濁液(1500個の細胞/ウェル)をカラム2〜11の実験ウェルに添加する。プレートを、加湿インキュベーターにおいて37℃で4日間インキュベートする。次いで、1ウェルあたり(pr. well)20μlのWST-1試薬を添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートする。次いで、プレートをオービタルプレートシェーカーに移し、さらに1時間放置する。吸光度を450および620nm(対照波長)にてELISAリーダー上で測定する。代謝活性細胞(MAC)の量を、以下のように、非処置コントロールのパーセントとして計算する:
【表9】
【0269】
EGF滴定研究では、リガンドをDMEM+0.5%FBS中20nM/mlの濃度に希釈し、最も高いEGF濃度のウェルで10nM/mlの最終濃度を得た。次いで、この溶液の150μlを、96−ウェルプレートのカラム2のウェルに添加し、各ウェルが100μlの抗体溶液を含有するように、3倍系列希釈をカラム9まで漸減させながら作製した。100μlの培地をカラム11に添加した。実験用ウェル培地の蒸発の減少効果のため、200μlの培地を列1および8ならびにカラム1および12に添加した。適切な抗体および抗体混合物を、0.5%のFBSおよび1%P/Sを補充したDMEM中40μg/mlの最終全抗体濃度に希釈し、ウェルにおいて10μg/mlの最終抗体濃度を得た。次いで、50μlのこれらの溶液を、96−ウェルプレートのカラム2〜9のウェルに添加した。
【0270】
次いで、A431−NS細胞を、1×PBSで洗浄し、3mlトリプシン溶液によるトリプシン処理によって、剥離する。次いで、17mlの完全培地を添加し、細胞を300×g(1200rcf)で5分間スピンする。上清を取り出し、細胞をDMEM+0.5%FBSに再懸濁する。細胞を計数し、それらの濃度を40,000個の細胞/mlに調整する。次いで、50μlの細胞懸濁液(2000個の細胞/ウェル)をカラム2〜11の実験ウェルに添加する。プレートを、加湿インキュベーターにおいて37℃で4日間インキュベートする。次いで、1ウェルあたり(pr. well)20μlのWST−1試薬を添加し、プレートを37℃で1時間インキュベートする。次いで、プレートを、オービタルプレートシェーカーに移し、さらに1時間放置する。吸光度を、450および620nm(対照波長)にてELISAリーダー上で測定する。450nmにおける吸光度から620nmの対照波長における吸光度を差し引くことによって、代謝活性細胞の量を示す。
【0271】
代謝活性細胞(MAC)の量を、以下のように、非処置コントロールのパーセントとして計算する:
【表10】
【0272】
結果
ドメインIII内に非重複エピトープを伴う3つの抗EGFR抗体の混合物が抗体単独よりも優れていることを示すために、A431−NS増殖の阻害について調べる実験を実施した。図16Aで認めることができるように、抗体は、単独ではA431−NS増殖の不良なインヒビターであるが、組み合わせた場合、431−NS増殖に対する相乗的な阻害効果が得られる。992と1042または1030のいずれかとの混合物もまた、極めて強力であるが、3つ全ての混合物は全ての抗体濃度範囲にわたってこれらより優れている。
【0273】
様々な濃度のEGFで刺激したA431−NS細胞の増殖に対する個々の抗体および抗体混合物の効果について調べ、その結果を図17に示す。図17で認められうるように、抗体の非存在下における0.1nMを超えるEGF濃度は、細胞に対して毒性である。しかし、EGFRのドメインIII内の非重複エピトープを伴う3つの抗体(992、1030および1042)の混合物は、少なくとも0.3nMまでのEGFを試験した場合、相乗的に作用して、EGFの存在下でA431−NS細胞の増殖を阻害し、混合物はすべてのモノクローナル抗体より優れていることが明白である。
【0274】
次に、本発明者らは、EGFRのドメインIIIにおいて非重複エピトープを伴う2つの抗体とEGFRのドメインIまたはII内のいずれかにエピトープを伴う抗体とを組み合わせることによっても、A431−NS増殖に対する相乗的阻害効果を得ることができることを実証する。図18において認められ得るように、両方ともEGFRのドメインIIIである抗体992および1024と、EGFRのドメインI(1284)またはドメインI/II(1434)のいずれかと反応性である抗体との組み合わせは、EGFRのドメインIII内の非重複エピトープと反応する3つの抗体(992+1024+1030)と同程度に強力である。加えて、抗体のこれらの混合物は、A431−NSの増殖の阻害において、治療用抗EGFR抗体ErbituxおよびVectibixより強力である。
【0275】
他の2つの癌細胞系統DU145(ATCC番号HTB−81)およびMDA−MB−468(ATCC番号HTB−132)を使用して、同様のアッセイを実施した。これらの増殖アッセイからの結果を、図16Bおよび16Cに示す。両方の場合とも、3つの抗体(992、1030および1042)の混合物は、2つの抗体の混合物および単一の抗体より優れていた。DU145細胞では、3つの抗体の混合物は、すべての濃度において、MDA−MB−468では、高濃度において、Vectibixより優れていた。
【0276】
上記の方法と類似の方法を使用して、本発明者らは、異なる濃度の3つの抗EGFR抗体を試験した。
【0277】
結果
異なる濃度の3つの抗体の効果を、A431NS細胞系統において調べた。これらのうち最も強力な20の増殖阻害活性を図37に示す。全ての組み合わせは、A431NS細胞系統の増殖を、非処置コントロールと比較して60%より大きく阻害した。別の興味深い観察は、組み合わせ(992+1024+1254および992+1024+1320および992+1277+1320)以外の組み合わせが非重複エピトープを伴う抗体を含有することである。これは、別々のエピトープに結合する3つの抗体のいくつかの組み合わせを設計することが可能であることを示す。
【0278】
実施例7−アポトーシス
アポトーシスは、細胞死を引き起こす生物学的機構である。この機構は、Erbituxのような抗EGFR抗体を用いることにより以前に報告されている(Baselga J. The EGFR as a target for anticancer therapy - focus on cetuximab. Eur J Cancer. 2001 Sep:37, Suppl 4:S16-22)。従って、個々の抗EGFR抗体992、1042、および1030ならびに(992+1042+1030)がどの程度アポトーシスを誘導することが可能であるかについて調べた。
【0279】
1×10個のA431NS細胞を、0.01μg/ml〜10μg/mlの範囲の濃度のEGFR混合物(等量の992、1030、1042)、992、1030、1042、ErbituxまたはVectibixの存在下、96ウェル培養プレート中、3回反復測定で、0.5%のFBSおよび抗生物質を補充したDMEMにてインキュベートした。細胞および抗体を22時間インキュベートした。次いで、上清を回収し、次いでRoche、カタログ番号11774425001(Basel、Switzerland)製ELISA−キットでヒストン−DNA複合体の存在について測定した。
【0280】
混合物の効果を、A431NS細胞を使用して、モノクローナル抗体単独のそれぞれならびに対照抗体VectibixおよびErbituxと比較した(図19の結果)。抗体を、10倍希釈で試験した。混合物は、1μg/mlおよび10μg/mlの濃度で試験した場合、個々のモノクローナル抗体ならびにVectibixと比較して、有意に(P<0.05)より効率的である。混合物は、1μg/mlのErbituxと比較して、統計的に有意(p<0.05)にアポトーシスを増加した。
【0281】
実施例 7b
実施例7に加えて、992+1024の混合物ならびに992+1024+1030の混合物を、実施例7に記載のような同じ方法に従ってアポトーシス活性について調べた(図35)。アポトーシスの実際のレベルを、最大ポジティブコントロールに関連付けた。2つの混合物の両方を、A431NS細胞を使用して、1μg/mlにおいてErbituxおよび個々のモノクローナル抗体992、1024および1030ならびにコントロール抗体と比較した。992+1024の混合物は、Erbituxおよび個々のモノクローナル抗体より有意に良好であった(すべてP<0.05)。
【0282】
実施例8 インビボでの効果
抗体992、1030および1042よりなる抗EGFR混合物を、A431NSを使用して、ヌードマウス異種移植モデルにおけるインビボでの効果について調べた。これは、抗EGFR抗体を含むモノクローナル抗癌抗体の有効性を調べるために広範に使用されるモデルである。ヌードマウスは、免疫不全であり、T細胞を欠く。これは、マウスにおけるヒト細胞の増殖を可能にする。
【0283】
6〜8週齢のヌードマウスの2つのグループに、1×10個のA431NS細胞を皮下に注入した。平均腫瘍サイズが100mmに到達した場合、処置を開始した。マウスに、1mgの抗体の腹腔内への5回の注入を2〜3日間隔で行った。腫瘍サイズを、デジタルカリパスを使用して、2つの直径について測定し、次の式を使用して容積を計算した:腫瘍容積(mm)=L×W×0.5、ここで、Lは最も長い直径であり、Wは最も短い直径である(Teicher BA, Tumor Models in Cancer Research. Humana Press, NJ, USA 2002, p596)。実験の終了時までに腫瘍を摘出し、秤量した。
【0284】
Synagisをコントロール抗体として使用した。この実験にはまた、抗EGFR混合物(抗体992、1030、および1024)の場合と同じスケジュールを使用するErbituxおよびVectibixによる処置を含めた。
【0285】
図20に見られるように、992、1030および1042の混合物は、A431NSの腫瘍増殖を有意に阻害した(P<0.05)。平均重量を図21に示す。結果は、測定した腫瘍サイズに相関した。処置グループとコントロールグループとの間に有意差が存在する。
【0286】
実施例8b インビボでの効力
実施例8の上記のインビボ実験に加えて、992+1024および992+1024+1030の混合物を、上記のA431NS異種移植モデルにおいて調べた(図36)。6〜8週齢のそれぞれ9匹のヌードマウスの4つのグループに、1×10個のA431NS細胞を皮下で注入した。平均腫瘍サイズが100mmに到達したら、マウスに第1回の抗体注入を行った。3つのグループに、992+1024、992+1024+1030の混合物、Erbituxまたはコントロール抗体、Synagisのいずれかを投与した。全てにおいて、マウスに、1週間に4回、0.5mgの17回の注入を行った。最初の注入を8日目に行い、最後の注入を34日目に行った。腫瘍サイズを、56日間測定した。抗体処置の終結後、Erbituxを投与したマウスの腫瘍は、サイズが拡大し始めたが、一方、992+1024または992+1024+1030のいずれかの混合物を投与した2つのグループのマウスでは、腫瘍のサイズが減少し続けた。91日目(処置の終結の57日後)の992+1024グループでは、腫瘍サイズの拡大は観察されなかった。56日目では、992+1024の組み合わせの平均腫瘍サイズは、Erbituxを投与したマウスの平均腫瘍サイズより有意に小さかった(P<0.01)。
【0287】
実験でのマウスの生存についてもモニターした。腫瘍が許可される最大サイズに到達した場合に死亡とマウスを評価した。以下の表は、腫瘍細胞の播種56日後に生存したマウスの数を示す。Erbituxと比較して、組み合わせの両方について生存数の改善が認められる。
【0288】
【表11】
【0289】
さらなる実験
実施例8に記載の異種移植実験からの腫瘍溶解物に関する予備データは、992+1042+1030の組み合わせが、A431NSによるVEGF産生の強力な下方調節を誘導し、前者が血管新生の重要なメディエーターであることを示す。血管の形成の増加は、多くの固形腫瘍に認められる現象であって、この現象は、栄養物などの持続した供給に参加し、それによって、生存条件に影響を及ぼす機構である。
【0290】
さらに加えて、他の予備データは、992+1042+1030の抗体の組み合わせのレベルの増加が、ErbituxおよびVectibixと比較した場合、実施例8に記載の異種移植実験由来の腫瘍融解物で観察することができることを示す。
【0291】
実施例8c.インビボでの腫瘍細胞分化の増強
細胞の最終分化は、多段階プロセスでそれらの増殖能の不可逆的な喪失を導く細胞型特異的遺伝子発現プログラムの活性化を含む複雑なプロセスである。悪性疾患では、癌細胞は、しばしば、増殖速度の増加によって特徴付けられる脱分化状態にあり、癌細胞の最終分化を誘導することが可能な薬物は、悪性細胞を排除し、正常細胞の恒常性を回復することが可能であることが示唆されている(Pierce GB, Speers WC: Tumors as caricatures of the process of tissue renewal: prospects for therapy by directing differentiation. Cancer Res 48:1996-2004, 1988)。一定の実験条件下において、抗EGFRモノクローナル抗体は、免疫不全マウスにおける異種移植腫瘍として増殖するヒト扁平癌細胞の最終分化の速度を増加させることができることが以前に報告されている(Milas L, Mason K, Hunter N, Petersen S, Yamakawa M, Ang K, Mendelsohn J, Fan Z: In vivo enhancement of tumor radioresponse by C225 antiepidermal growth factor receptor antibody. Clin Cancer Res 6:701-8, 2000;Modjtahedi H, Eccles S, Sandle J, Box G, Titley J, Dean C: Differentiation or immune destruction: two pathways for therapy of squamous cell carcinomas with antibodies to the epidermal growth factor receptor. Cancer Res 54:1695-701, 1994)。
【0292】
本発明者らは、マウスにおいて異種移植片として増殖する抗EGFRで処置したA431NS細胞の最終分化の程度を組織学的に調べた。組織学的研究には、実施例8に記載の実験由来の4つの実験グループのそれぞれから無作為に選択した3つのマウス異種移植腫瘍を含めた。
【0293】
組織を切開し、急速に凍結し、次いで凍結ミクロトーム(Leitz、モデル1720)上のTissue-Tekで包埋し、5μm切片に切断し、superfrost plus slides上にサンプル調製し、次いでヘマトキシリン/エオシン染色のために処理した。次いで、2つの独立した観察者が盲検様式ですべての組織切片の顕微鏡検査を行い、最終分化(terminal differention)の程度の測定として角化領域(「癌真珠」)を評価した(Modjtahedi et al., 1994)。表7は得られた結果を列挙する。3つの抗EGFR抗体の混合物(992+1024+1030、グループ1)で処置したマウスは、対照抗体ErbituxおよびVectibix(それぞれグループ2および3)で処置したマウスと比較して、顕著により大きなかつより多数の最終分化した癌細胞の病巣を有した。抗体の代わりにPBSを投与したコントロールグループ(グループ4)では、最終分化は検出されなかった。
【0294】
デジタルカメラを搭載した顕微鏡を使用して代表的な顕微鏡画像を得た(図26を参照のこと)。
【0295】
結論として、ドメインIII内に非重複エピトープを伴う3つの抗EGFR抗体(クローン992、1030および1042)の組み合わせは、ErbituxおよびVectibixモノクローナル抗体と比較して、インビボで腫瘍細胞に対して予想外の増強された分化誘導効果を示した。最終分化において観察された効果は、本発明の抗体組成物が、レチノイン酸、4−フェニルブチレートのような薬剤を含むその他の分化を伴う組み合わせの療法で使用することができるといる結論を導く。
【0296】
表7
【表12】
【0297】
実施例8d.本発明の抗体組成物の増殖阻害効果の維持
実施例8および8bに示した腫瘍異種移植実験の反復を実施して、992+1024抗体混合物のインビボでの効力について調べた。簡単に説明すると、BALB/c nu/nuマウスの脇腹に、10個のA431NS細胞を皮下注入した。腫瘍異種移植片を100mmの平均腫瘍サイズまで増殖させ(7日目)、この時点で、マウスを9匹の動物よりなる5つのグループに無作為に分け、抗体処置を開始した。5つのグループに、高(2mg/週)もしくは低(1mg/週)用量の992+1024混合物または対照抗体Erbitux、あるいは高用量(2mg/週)のコントロール抗体Synagisのいずれかを投与した。すべてのマウスに、0.5または1mgの抗体の合計で9回の注入(1週間に2回の注入を7日目に開始して、33日目に終了する)を行った。
【0298】
高用量(2mg/週)の992+1024混合物は、Erbituxと比較すると、初期の腫瘍増殖を制御し、長期の腫瘍退行を誘導するのに極めて効率的である(P=0.0002、図38)。2mg/週の992+1024混合物を投与した動物のうち、研究期間(研究の開始後118日間、図38および39)中に死亡した動物はなく、60日目に9匹の動物のうち1匹のみが生存した高用量のErbituxの2mg/週グループより有意に良好な結果が認められた(P=0.0008、図39)。これは、長期間の生存に対する992+1024処置の持続効果を示す。高用量のものより低い効率であるが、低用量の992+1024混合物(1mg/週)もまた、腫瘍増殖を制御することができ、腫瘍抑制(P=0.0135、図38)および生存率(P=0.0087、図39)の両方を見た場合、高用量の2mg/週のErbituxと比較して有意に良好であった。これらの結果は、低用量であったとしても、Erbituxと比較して、992+1024の組み合わせがより優れた効力を有することを示す。結果はまた、承認されたモノクローナル抗体と比較した、992+1024の組み合わせによって生じる増殖阻害の持続性を示す。
【0299】
実施例9 スフェロイド増殖
スフェロイド研究では、丸底96−ウェルプレートに35μlの120mg/mlのポリ−HEMA溶液を添加し、フローフードで一晩放置して蒸発させた。ポリ−HEMAは細胞接着を防止する。A431−NS細胞を上記のように処理し、計数し、次いでそれらの濃度を100,000細胞/mlに調整する。次いで、50μlの細胞懸濁液(5,000個の細胞/ウェル)を、50μlの5%matrigel溶液と共に、カラム2〜11の実験ウェルに添加する。実験用ウェルの培地蒸発の減少効果のため、200μlの培地を、列1および8ならびにカラム1および12に添加した。プレートを300×gで5分間遠心分離し、次いで加湿インキュベーターにて37℃で一晩放置した。翌日、適切な抗体および抗体混合物を、空の96−ウェルプレートにおいて20μg/mlの最終全抗体濃度に希釈した。これを、0.5%のFBSおよび1%のP/Sを補充したDMEMで行い、最も高い抗体濃度のウェルで10μg/mlの最終抗体濃度を得る。次いで、150μlのこれらの溶液を、96−ウェルプレートのカラム2のウェルに添加し、各ウェルが100μlの抗体溶液を含有するように、3倍系列希釈をカラム9まで漸減させながら作製した。100μlの培地をカラム11に添加した。次いで、これらの溶液の100μlを、スフェロイドを含有するプレートに移し、7日間インキュベートした。次いで、20μlのWST-1試薬を、1ウェルあたり(pr. well)に添加し、次いでプレートを、37℃で1時間インキュベートした。次いで、プレートを、オービタルプレートシェーカーに移し、さらに1時間放置した。吸光度を450および620nm(対照波長)においてELISAリーダー上で測定する。代謝活性細胞(MAC)の量を、以下のように非処置コントロールのパーセントとして計算する:
【表13】
【0300】
ドメインIII内の非重複エピトープを伴う3つの抗体の混合物(992+1030+1042)は、A431−NSスフェロイドの増殖を効果的に阻害し、モノクローナル治療用抗EGFR抗体ErbituxおよびVectibixよりさらに強力である(図22)。
【0301】
実施例10. カニクイザルEGFR ECDへの結合
カニクイザルEGFR細胞外ドメインのクローニング
シグナルペプチドを含まないカニクイザルEGFRの細胞外ドメインを、ネステッドPCR、および全長ヒトEGFRの公開された配列(GENBANK X00588, Ullrich,A. et. al. Nature 309(5967),418-425 (1984))に由来する配列特異的プライマーを使用することによって表皮から単離したカニクイザルcDNAからクローニングした。
【0302】
PCR試薬:
正常な皮膚表皮から単離されたカニクイザルcDNA:
CytoMol Unimed、カタログ番号:ccy34218、ロット番号:A711054。
Phusion反応緩衝液(5×):Finnzymes、カタログ番号:F−518、ロット番号:11。
Phusion酵素:Finnzymes、F−530S(2U/μL)。
dNTP 25mM:Bioline、カタログ番号:BIO−39029、ロット番号:DM−103F。
部分的シグナル配列および膜貫通ドメインを含むカニクイザルEGFR ECDの増幅のためのプライマー:
5’ATGプライマー:5’−TCTTCGGGAAGCAGCTATGC−3’(配列番号135)
3’Tm2プライマー:5’−TTCTCCACTGGGCGTAAGAG−3’(配列番号136)
カニクイザルEGFR ECD Bp1〜1863を増幅し、膜貫通ドメインの前にXbaI、MIuI制限部位および終止コドンを組み入れるネステッドPCRのためのプライマー:
5’EGFR XbaI:5’−ATCTGCATTCTAGACTGGAGGAAAAGAAAGTTTGCCAAGGC−3’(配列番号137)
3’EGFR MIuI:5’−TACTCGATGACGCGTTTAGGATGGGATCTTAGGCCCGTTCC−3’(配列番号138)
【0303】
PCR条件:
30サイクル:98℃/30秒間の融解、55℃/30秒間のアニーリング、72℃/60秒間の伸長。30サイクル後、PCR産物をさらに5分間伸長させた。
【0304】
PCR反応を、0.2mMのdNTP、0.5μMプライマーを含有する50μLの合計容積の反応緩衝液中の1μlテンプレートおよび2単位のPhusion酵素によって実施した。
【0305】
見かけの長さが約1800〜1900Bpの最終PCRバンドを入手し、発現ベクターにクローニングした。クローニングしたカニクイザルEGFRの細胞外ドメインのDNAおよびタンパク質配列を図23に示し、ヒトEGFR ECDに対して整列させたカニクイザルEGFR ECDのタンパク質配列を図24に示す。ヒトEGFR ECDおよびカニクイザルEGFR ECD DNA配列のアラインメントは97.6%の配列同一性を示した一方、対応するタンパク質配列のアラインメントは98.6%の配列同一性を示した。
【0306】
ELISAにおけるヒトおよびカニクイザルEGFRの細胞外ドメイン間の抗体交差反応性の実証
試験した抗EGFR抗体が、ヒトおよびカニクイザルEGFR ECDの両方に良好に等しく結合したことを確かめ、それによりカニクイザルにおける毒物学研究を保障するため、1μg/mlから開始した抗体の4倍系列希釈を、ELISAによって、組み換えヒトおよびカニクイザルEGFR ECDタンパク質への結合について試験した。このアッセイにおいて同一結合プロファイルを示す抗体を、良好な種のEGFR交差反応性の指標とみなした。ELISAウェルを、PBS中1μg/mlの濃度において50μl/ウェルの全長EGFRにおいて4℃で一晩被覆した。翌朝、ウェルを、PBS−Tで2回洗浄し、次いで100μlのPBS−T−1%BSAにより、室温で1時間ブロックし、続いて、PBS−Tにおいて2回洗浄した。次に、50μlの系列希釈した抗EGFR抗体およびコントロール抗体をウェルに添加し、次いで室温で1時間インキュベートした。抗体インキュベーション後、ウェルをPBS−Tで5回洗浄し、続いてブロッキング緩衝液中1:3000に希釈した50μl/ウェルのストレプトアビジン−HRP二次試薬とのインキュベーションおよび室温で30分間のインキュベーションを行った。最後に、ウェルを、PBS−Tで5回洗浄し、プレートを、50μL/ウェルのTMB基質を添加することによって発色させ、室温でインキュベートした。インキュベーション後、1MのHSO、100μl/ウェルの添加によって反応を停止し、プレートをOD450nmで読み取った。
【0307】
ELISA試薬:
1.ELISAプレート;NUNC Maxisorp;カタログ番号:442404
2.抗原:ヒトrEGFR ECD;カニクイザルrEGFR ECD
3.コーティング緩衝液:1×PBS;Gibcoカタログ番号:20012−019
4.洗浄緩衝液:1×PBS/0.05%Tween 20(PBS−T)
5.ブロッキング/希釈緩衝液:PBS−T中1%BSA
6.ヤギ−抗ヒトIgG HRP抱合:Serotec、Star 106P
7.TMB Plus(KemEnTecカタログ番号4390L)
8.(1MのHSO
【0308】
図25に示すように、記載のELISAアッセイは、交差反応性ヒトおよびカニクイザル抗EGFR ECD抗体(図25A)と、マウス免疫化に使用したヒトEGFRECDのみを認識する種特異的抗体(図25B)との間を識別することができた。
【0309】
実施例11.運動性の阻害
ほとんどの癌による死は、腫瘍細胞の転移および遠位局在におけるその後の増殖から生じる。隣接する正常組織の局所侵入は、恒常性機能を損なわず、腫瘍の外科的または放射線的切除を妨害する。最近の研究では、誘導された運動性がこのような広がりを促進するのに中心的な役割を果たすことが注目されている。EGFRは、細胞運動性および拡大を容易にすることが公知であり、従ってEGFR仲介運動性の阻害はEGFRを標的にする薬物の重要な機構である。
【0310】
頭頚部癌腫細胞系統の運動性に対する2つの抗体992および1024の混合物の効果について調べた。10,000個の細胞からなるスフェロイドを、実施例9に記載のように、一晩調製した。次いで、スフェロイドを、NUNC T25細胞培養フラスコに移し、一晩接着させた。次いで、10μg/mlの抗体混合物992+1024またはネガティブコントロール抗体を添加し、スフェロイドをさらに24時間インキュベートした。次いで、40×の倍率で画像を撮影し、software Image Jを使用して、細胞で覆われた表面積を測定した。
【0311】
結果:図27Aに認められ得るように、EGFR特異的抗体992および1024の添加は、腫瘍細胞で覆われた表面積の顕著な減少をもたらす。運動性を図27Bにおいて定量し、これは、をネガティブコントロール抗体と比較して、運動性が約60%減少することを示す。この運動性の減少は極めて有意p<0.01である。
【0312】
それ故、抗体992および1024の組み合わせは、潜在的にEGFR仲介腫瘍細胞運動性を阻害し、これは、抗EGFR抗体の組み合わせが転移した疾患の治療に使用され得ることを示す。
【0313】
実施例12.Sym004抗体組成物によるインボルクリンの上方調節
インボルクリンは、早期の扁平細胞分化のマーカーであって、角化膜の形成に関与するタンパク質である。従って、インボルクリンレベルは、分化した腫瘍細胞の数を測定するのに使用することができる。インボルクリンのレベルは、市販のインボルクリンELISAキット(Biomedical Technologies)を使用して、Erbitux、Vectibixもしくは抗体992+1030+1042の混合物で処置しなかったまたは処置したいずれかのA431NS異種移植腫瘍由来のタンパク質溶解物中で推定した。Qiagen製TissueLyzerを使用して、1mlのRIPA緩衝液中30〜40mgの腫瘍組織を均質化することにより腫瘍溶解物を調製した。各澄明化された溶解物中のタンパク質濃度を、Pierce製BCAタンパク質アッセイキットを使用して調べ、各サンプル由来の0.4μgのタンパク質においてELISAアッセイを使用してインボルクリンレベルを推定した。
【0314】
結果:図27で認められ得るように、インボルクリンは、ネガティブコントロールおよびErbituxまたはVectibix処置グループと比較して、992+1030+1042処置グループにおいて有意に高いレベルで認められる。それ故、抗体992、1030および1042の組み合わせは、A431NS異種移植腫瘍におけるインボルクリンのレベルを増加させ、従って、おそらく、より高い程度のA431NS分化を誘導する。多量の癌真珠と良好に相関する結果は、この特定の処置グループで見出される(実施例8を参照のこと)。
【0315】
実施例13.Sym004抗体組成物によるEGFRの内在化
いくつかの抗体は、それらの表面標的の内在化を誘導することによって機能する。EGFのようなリガンドによって活性化される場合、EGFRは、内在化を経験することが公知である。
【0316】
2つの抗体992および1024の混合物がEGFR内在化を誘導する能力を、共焦点顕微鏡を使用して調べた。A431NSおよびHN5細胞を、LabTek由来の8ウェルチャンバスライドに播種し、0.5%FBSを含有するDMEMにおいて一晩インキュベートした。次いで、細胞に、10μg/mlの992+1024のAlexa-488標識抗体混合物またはコントロール抗体Erbituxを添加し、次いで、異なる期間インキュベートした。次いで、大ピンホールまたは小ピンホールのいずれかを伴うBiorad共焦点顕微鏡を使用して、60×倍率で画像を撮影した。
【0317】
結果:図29Aに示すように、Alexa-488標識EGFR特異的抗体992および1024の2時間の添加は、A431NSおよびHN5細胞系統の両方の細胞内小胞における抗体の蓄積を引き起こす。対照的に、Erbituxは、主に細胞表面に見出される。図29Bは、より薄い細胞切片の画像を生じる小さい方のピンホールを使用するA431NS細胞の画像を示す。これらの画像から、抗体992+1024は細胞内に局在するが、一方、Erbituxは主に細胞表面で見出されることが明らかである。図30は、992+1024仲介の内在化の時間枠を示し、抗体の添加後の30分間の短い時間で、それらが、細胞内小胞において見出され得ることを示す。4時間後、ほぼすべての抗体992+1024が、低いまたは極めて弱い表面染色で、細胞内に見出される。対照的に、Erbituxは細胞表面に残存する。992+1024によって誘導される内在化が細胞内のEGFRの持続的な分解および除去を引き起こすことを示す証拠もまた、得られている。
【0318】
それ故、抗体992および1024の組み合わせは、迅速かつ強力にEGFR内在化を誘導するが、一方でErbituxは誘導しない。
【0319】
実施例14 表面プラズモン共鳴による抗体アフィニティーの測定
組み換え可溶性EGFR ECDに対するSym004 IgG抗体の一価のアフィニティーの測定
【0320】
可溶性抗原に対するIgG分子全体の一価のアフィニティーの測定を可能にする(Canziani, Klakamp, et al. 2004, Anal. Biochem, 325:301-307)に記載のアッセイを用いて、本発明の全長IgG抗体の速度論的分析を、BIAcore 2000上で実施した。簡単に説明すると、約10,000Ruのポリクローナル抗ヒトIgG Fc抗体を、製造業者の説明書に従ってCM5チップ表面に抱合し、続いて、抗Fcチップ表面上での25μgの本発明の個々の抗EGFR抗体またはSynagisネガティブコントロールの捕捉を行った。アッセイにおいて用いた最も高い抗原濃度の結合が25Ruを超えないように、各クローンについて、捕捉されたIgGの密度を最適化した。次に、ゲル排除クロマトグラフィーによって一価のタンパク質のみを含有することが予め示された250μLの可溶性ヒトEGFR ECDを、25μL/分の流速、HBS−EP緩衝液での2倍希釈系列で注入して、応答曲線を作成した。捕捉された抗体/抗原複合体を、100mMのHPOの10秒間注入でストリッピングすることによって、サイクル間で、チップ表面を再生した。まず、ネガティブコントロール抗体Synagisを含有するフローセルの応答を差し引き、続いて、HBS−EP緩衝液のみの注入によって作成された応答を差し引く(「二重参照法」)ことによって、速度論的分析を実施した。解離速度定数(ka)および解離定数(kd)を、製造業者によって提供されたBIA evaluation software 4.1により作成されたセンサーグラムから総合的に評価した。
【0321】
試薬:
1.CM5チップ:Biacore、カタログ番号BR−1000−14
2.NHS:Biacore BR-1000-50
3.EDC:Biacore BR-1000-50
4.10mM酢酸緩衝液pH4.5:Biacore、カタログ番号BR−1003−50
5.ヤギ抗ヒトIgG Fc:Caltag、カタログ番号H10500
6.エタノールアミン、1.0M pH8.5:Biacore BR-1000-50
7.10×HBS−EPランニング緩衝液:0.01MのHEPES pH7.4、0.15MのNaCl、3mMのEDTA、0.005%v/vのSurfactant P20
8.抗原:6×Hisを伴うヒトEGFR細胞外ドメイン
9.100mMのHPO
【0322】
可溶性ヒトEGFRECDに対する本発明の全長IgGの計算された一価のアフィニティーを、以下の表8に示す。
【0323】
【表14】
表8.可溶性受容体に対する抗EGFRIgG抗体の測定されたアフィニティー。抗体測定を、製造者によって提供された評価ソフトウェアを用いるBIAcore 2000における表面プラズモン共鳴によって実施した。992のアフィニティーを、Scatchard分析によって決定した。NA.適用しなかった。
【0324】
それぞれ4.2nM、0.4nM、および4.6nMのより高いアフィニティーを有した1260、1277、および1284を除いて、試験したほとんどのSym004抗体は、10〜20nMの範囲のアフィニティーで可溶性ヒトEGFR ECDを認識した。最終的に、992が試験した他の抗体よりかなり低いアフィニティーで可溶性EGFR ECDに結合することを見出した。結果的に、この抗体の速度論的分析は、Scatchard分析によって決定すべきであり、これにより、可溶性ヒトEGFR ECDに対して170nMのアフィニティーが示された。
【0325】
固定化された組み換えEGFR ECDに対するSym004 Fab抗体のアフィニティーの測定
【0326】
可溶性および固定化形態で示されるEGFR ECD間の抗原提示における可能な差異を調べるために、ヒトIgG Fcに融合されたヒトEGFR ECDよりなるEGFR-Fc(R&D Systems、344-ER)と呼ばれる固定化されたキメラEGFR受容体抗原に対する新たなアフィニティー測定を実施した。この目的のために、IgG抗体992、1024および1030のFabフラグメントを作製して、一価のアフィニティーの測定を可能にした。
【0327】
Fab生成:
992、1024および1030のFabフラグメントを、Pierce製Fab preparation Kitを使用し、製造業者の説明書に従ってパパイン消化によって生成した。簡単に説明すると、2mgの各IgG抗体を、製造業者の説明書に従い、20mMシステイン−HCl、pH7.0を含有する新たに調製した消化緩衝液を伴うNAP-5カラム(Amersham Biosciences)上で緩衝液交換を行った。次いで、ビーズをスピンし、上清を捨てる前に、パパインビーズの350μlスラリーを、同じ消化緩衝液で2回洗浄した。1mlの緩衝液を交換したIgG抗体をビーズに添加し、次いで1000rpmで振盪しながら37℃で一晩インキュベートすることにより抗体を消化した。翌朝、HiTrap Protein Aカラム(Ge Healthcare)上での全長IgGの枯渇によって、粗Fabから未消化のIgGを分離した。生成されたFabを、PBSに対して一晩十分に透析し、還元および非還元条件下のSDS−PAGEで分析した。非還元条件下の約50kDaのタンパク質のバンドを、成功したFab生成の指標とみなした。
【0328】
試薬:
1.ImmunoPure Fab preparation Kit;Pierce;カタログ番号44885
2.NAP5脱塩カラム;Amersham、カタログ番号17−0853−02
3.PBS pH7.2;Gibco;番号20012−019
4.HiTrap Protein A HP、1mlカラム;GE Healthcare;番号17−0402−01
5.NuPAGE 4-12% Novex Bis-Tris Gel;Invitrogen;番号NP0322BOX
6.分子量マーカー;Seeblue Plus 2、;Invitrogen;番号LC5925
7.抗EGFR抗体−それぞれ2.0mg
【0329】
本発明のFab抗体の速度論的分析を、物質輸送における制限を回避するために極めて低い密度でセンサー表面上に固定化された組み換え抗原を使用し、Biacore 2000上で実施した。簡単に説明すると、合計で285Ruの組み換えEGFR ECD−Fcキメラ(R&D Systems、カタログ番号344−ER)を、製造業者の説明書に従って、CM5チップ表面に抱合した。次いで、固定化されたEGFRを伴うチップ上で試験した場合、25を超えるRu最大値を生じなかった最適化された濃度で開始する2倍系列希釈で、本発明の抗体に由来するFabフラグメントを試験した。まず、HBS−EP緩衝液のみの注入によって作成された応答を差し引くことによって、速度論的分析を実施した。解離速度定数(ka)および解離定数(kd)を、製造業者によって提供されたBIA evaluation software 4.1により作成されたセンサーグラムから総合的に評価した。
【0330】
固定化されたヒトEGFRECDに対する本発明の試験したFabフラグメントの計算されたアフィニティーを、以下の表9に示す。
【0331】
【表15】
表9:固定化された受容体に対する抗EGFR Fab抗体の測定されたアフィニティー抗体測定を、製造業者によって提供された評価ソフトウェアを用いるBIAcore 2000における表面プラズモン共鳴によって実施した。992のアフィニティーをScatchard分析によって決定した。NA.適用しなかった。
【0332】
上記の表9に示すように、992および1024のFabフラグメントは、左記の実施例に示すアフィニティーと一致して、それぞれ、150nMおよび26nMのアフィニティーを有することが見出され、これは、これらの2つの抗体について、可溶なおよび固定化されたEGFRに対する抗体認識における軽微な差異を示した。しかし、抗体1030は、可溶性受容体と比較して、固定化された抗原に対して2.3nMの10倍高いアフィニティーを示し、結果的に、固定化された抗原上に暴露されたエピトープを好適に認識した。
【0333】
実施例15:EGFR抗原提示の調査およびA431−NS細胞に対する機能的アフィニティーの格付け。
A431−NS細胞における抗原提示および精製された全長EGFR受容体間の比較。
【0334】
速度論的分析は、抗体992が、150〜170nMの間のアフィニティーで組み換えEGFR ECDを認識したことを示したため、このような弱いアフィニティーが認められるのは、mAb992が、組み換えEGFR ECDまたはA431細胞から精製された完全長EGFRにおいて示されるコンホメーションとは対照的に、A431−NS細胞上に発現されるEGFRの元々のコンホメーションに好適に結合した事実によるかどうかについて調べた。EGF受容体抗原提示における差異を調べるために、本発明の抗体のサブ集団の同時ELISA結合研究をFabフラグメントで実施し、試験したA431−NS細胞、および同じ細胞から精製した全長EGFRに対するアビディティの効果を回避した。
【0335】
Fab生成:Fabフラグメントの生成を、実施例14に記載のとおりに実施した。
【0336】
間接ELISA:間接ELISAでは、全長EGFR(Sigma E2645)を、炭酸緩衝液(50μl/ウェル)中1μg/mlにおいて4℃で一晩被覆した。翌朝、ウェルをPBS−Tで2回洗浄し、次いで1%BSAを含有するPBS−Tにより、室温で1時間ブロッキングし、続いて、PBS−Tにおいて2回洗浄した。次に、1%BSAを含有するDMEMにおけるFab抗体の50μl系列希釈を、独立したELISAウェルに添加し、次いで室温で1時間インキュベートし、その後、ウェルをPBS−Tで4回洗浄した。次に、1%BSAを含有するDMEMにおいて1:5000に希釈した50μlの第2のヤギ−抗ヒト(Fab特異的)HRP抱合を添加し、氷上で30分間インキュベートした。最終的に、ウェルをPBS−Tで4回洗浄し、次いで50μl/ウェルのTMB基質を添加することによりプレートを発色させ、続いて5〜15〜30分ごとに620nmで読み取った。基質とのインキュベーション後、1MのHSOの添加により反応を停止し、吸光度を450nmで読み取った。
【0337】
試薬、間接ELISA:
1)コーティング緩衝液:50mM炭酸緩衝液、pH9.8
2)抗原:A431細胞から精製した野生型全長EGFR;Sigma E2645
3)ELISAプレート:NUNC Maxisorp;カタログ番号:442404
4)洗浄緩衝液:1×PBS/0.05%Tween 20(PBS−T)
5)ブロッキング/希釈緩衝液:PBS−T中1%BSA(PBS−T−1%BSA)
6)抗体希釈緩衝液:1%BSAを含有するDMEM
7)ヤギ−抗Human(Fab特異的)HRP抱合:Jackson、カタログ番号109−035−097
8)TMB Plus基質:KemEnTec、カタログ番号4390L
9)1MのHSO
【0338】
細胞ELISA:最大半量OD(ED50)を生じるモル濃度として定義される相対的結合アフィニティーを、A431−NS細胞に対する抗体滴定によって決定した。簡単に説明すると、10,000個のA431−NS細胞を、0.5%FCSおよび1%P/Sを添加したDMEMを含有する96ウェルELISAプレートにおいて、37℃、5%COで一晩増殖させた。翌朝、コンフルエント細胞(約20,000個/ウェル)を、PBSで2回洗浄し、室温での1%パラホルムアルデヒド溶液との15分間のインキュベーションにより固定し、続いて、PBSにより4回洗浄を行った。次に、試験するEGFR抗体およびネガティブコントロール抗体Synagisを、1%BSAを含有するDMEMにおいて系列希釈し、50μlの各希釈をウェルに添加し、次いで室温で1時間インキュベートし、その後、ウェルをPBSで4回洗浄した。次いで、1%BSAを含有するDMEMにおいて1:5000に希釈した50μlの二次ヤギ−抗ヒト(Fab特異的)HRP抱合を添加し、次いで氷上で30分間インキュベートした。最終的に、ウェルをPBSで4回洗浄し、50μl/ウェルのTMB Plus基質を添加することによって、プレートを発色させ、次いで5〜15〜30分ごとに620nmで読み取った。基質とのインキュベーション後、1MのHSOの添加により反応を停止させ、吸光度を450nmで読み取った。二次試薬とのみ結合する平均のバックグランドを差し引き、続いて、試験した各抗体に対して最大結合%をプロットすることにより結合曲線を標準化することによって、ED50値として表される機能的アフィニティーを計算した。
【0339】
試薬、細胞ELISA:
1)DMEM培地:Gibco、カタログ番号41966−029
2)FCS:Gibco、カタログ番号10099−141
3)Pen strep (P/S):Gibco、カタログ番号15140−122
4)ELISAプレート:Costar、カタログ番号3595
5)洗浄緩衝液(PBS):Gibcoカタログ番号20012−019
6)抗体希釈緩衝液:1%BSAを含有するDMEM
7)細胞固定化溶液:BD Biosciences、カタログ番号340181
8)ヤギ−抗ヒト(Fab特異的)HRP抱合:Jackson、カタログ番号109−035−097
9)TMB Plus基質:KemEnTec、カタログ番号4390L
10)1MのHSO
【0340】
A431−NS細胞に対して発現されたEGF受容体および同じ細胞から精製された受容体に対する抗原提示における差異を、同じ二次抗体試薬およびインキュベーション時間を用いる同時ELISA結合研究で決定した。結果を図31に示す。実験は、同じ濃度のFab1030の結合と比較した場合、Fab抗体992および1024がELISAウェルに対して被覆された精製された全長EGFRに弱く結合したことを明らかに示した。しかし、3つのすべてのFabが強い結合活性を示したA431−NS細胞に対して、抗体を試験した場合、992および1024のこの弱い結合活性が回復した。異なる2つのELISAの比較は、ELISAウェルにおいて精製された抗原に対して示されるコンホメーションとは対照的に、細胞表面において発現される元々のEGFRコンホメーションへの結合に対するFab992および1024の選好性が明確に示した。結果はまた、組み換え可溶性および固定化EGFR ECDに対する表面プラズモン共鳴によって測定される992の見かけ上弱いアフィニティーが、試験した系における992抗体エピトープの不都合な提示によるものであることを示唆した。
【0341】
A431−NS細胞に対する機能的アフィニティーの格付け。
上記のように実施した細胞ELISAを使用して、ED50値として表される最大半量OD値の計算によって、992、1024、1030、VectibixならびにErbituxのIgGおよびFabフラグメントの機能的アフィニティーを格付けた。この分析の結果を図32に示し、そして計算したED50値を以下の表10に示す。
【0342】
【表16】
表10:IgGのアビディティー効果またはFabの一価のアフィニティーに基づくED50値として表される機能的アフィニティーの格付け。ED50値を、A431−NS細胞に対する系列抗体滴定によって決定した。SD:適合曲線の標準偏差。
【0343】
実験は、アビディティー効果を考慮した場合、IgG992および1024はErbituxおよびVectibixの両方より高いアビディティーでA431−NS細胞に結合するようであった一方、IgG1030が試験したIgG抗体のうち最も低いアフィニティーを有したことを明確に示す。しかし、細胞に対する一価のアフィニティーを、Fabフラグメントを使用して決定した場合、992は、約10nMの最も低いアフィニティーを有した。それにもかかわらず、この一価の機能的アフィニティーはなお、BIAcoreで試験したものより少なくとも15倍低かった。
【0344】
実施例16:抗体により誘導される結合性増強の試験。
本発明の抗体ペアに対して実施したBIAcore競合実験は、これらの抗体を両方の方向で相互に試験した場合、992および1024の結合は、それぞれ約55%および58%増強される(図9A)ことを示した。この現象についてさらに調べるために、非固定細胞を使用する細胞ELISAを設計して、非重複エピトープに結合する抗体のFabフラグメントによる先の受容体飽和時の1つの抗体クローンのIgG結合性の効果について調べた。
【0345】
細胞ELISA:ELISAを、変更を伴った基本的に実施例15に記載のとおりに実施した。細胞を非固定のままとし、抗体添加後も高次構造EGFRの可撓性を可能にした。簡単に説明すると、10,000個のA431−NS細胞を、0.5%FCSおよび1%P/Sを添加したDMEMを含有する96ウェルELISAプレートにおいて、37℃、5%COで一晩増殖させた。翌朝、コンフルエント細胞(約20,000/ウェル)をPBSで2回洗浄し、次いで抗体により誘導される結合性増強について調べるためのウェルを、992、1024もしくは1030のいずれかの40nMの単一のFabフラグメントの25μl、または80nMの各単一のFabの12.5μlと共に、飽和された結合を付与することが先に示された二重の組み合わせでプレインキュベーションした。1%BSAを含有する25μlのDMEMを、Fabフラグメントの添加を伴わないIgG抗体の試験に使用されるウェルに添加した。Fabおよび培地添加後、ELISAウェルを、30分間、室温でインキュベートし、その後、25μlの360nMの濃度から開始する本発明のIgGまたはSynagisネガティブコントロールの3倍系列希釈をウェルに添加し、氷上で1時間インキュベートした。次に、ウェルをPBSで4回洗浄し、1%BSAを含有するDMEMにおいて1:5000に希釈した50μlの二次モノクローナルマウス−抗ヒト(Fc特異的)HRP抱合を添加し、氷上で30分間インキュベートした。最終的に、ウェルをPBSで4回洗浄し、50μl/ウェルのTMB基質を添加することによりプレートを発色させ、5〜15〜30分ごとに620nmで読み取った。基質とのインキュベーション後、1MのHSOの添加によって、反応を停止させ、吸光度を450nmで読み取った。二次試薬とのみ結合する平均のバックグランドを差し引き、続いて、試験した各抗体に対して最大結合%をプロットすることにより結合曲線を標準化することによって、ED50値として表される機能的親和性を計算した。
【0346】
試薬、細胞ELISA:
1)DMEM培地:Gibco、カタログ番号41966−029
2)FCS:Gibco、カタログ番号10099−141
3)Pen strep (P/S):Gibco、カタログ番号15140−122
4)ELISAプレート:Costar、カタログ番号3595
5)洗浄緩衝液(PBS):Gibcoカタログ番号20012−019
6)抗体希釈緩衝液:1%BSAを含有するDMEM
7)マウス−抗ヒト(Fc特異的)HRP抱合:Ab-direct、カタログ番号MCA647P
8)TMB Plus基質:KemEnTec、カタログ番号4390L
9)1MのHSO
【0347】
抗体により誘導される結合性増強の検査を、同じ第2の抗体試薬およびインキュベーション時間を用いる同時ELISA結合研究によって、決定した。この研究の結果を図33に示し、そして計算したED50値を以下の表11に示す。
【0348】
【表17】
表11:列挙したFabフラグメントによる先の受容体飽和を伴うまたは伴わないIgGのアビディティー効果に基づくED50値として表される機能的アフィニティーの格付け。ED50値を、A431−NS細胞に対する系列抗体IgG滴定によって決定した。SD:適合曲線の標準偏差。
【0349】
図33および上記の表11に示すように、IgG992は、1030と共に、1024または1030または1024のいずれかのFabフラグメントによる先の受容体飽和時の結合の明らかな増強を示した。Fabフラグメントとのインキュベーションは、IgG992を単独で試験した場合、0.6nMと比較して、それぞれ、0.5;0.4および0.5nMのED50値の減少を生じた。同様に、IgG1024および1030もまた、Fab992および1024のみで細胞を最初に飽和した場合、IgGの前にFab992および1030の両方を細胞に添加した場合、結合性の増加を示した。この結果は、同じ標的受容体上の非重複エピトープに対して1を超える抗体を有する有益性を明確に示した。
【0350】
実施例2と比較して、この実験では僅かに低い機能的アフィニティーを調べた。この結果は、おそらく、異なる第2の試薬を本実施例において使用したため、および試験したIgGを非固定細胞と共にインキュベートして内在化を回避したためである。
【0351】
実施例16B.全長カニクイザルEGFRのクローニング。
シグナルペプチドを含む全長カニクイザルEGFRを、ネステッドPCR、および全長ヒトEGFRの公開された配列(GENBANK X00588, Ullrich,A. et. al. Nature 309(5967),418-425 (1984))に由来する配列特異的プライマーを使用することによって表皮から単離したカニクイザルcDNAからクローニングした。
【0352】
PCR試薬:
正常な皮膚表皮から単離されたカニクイザルcDNA:
CytoMol Unimed、カタログ番号:ccy34218、ロット番号:A711054。
FastStart反応緩衝液(10×):Roche、カタログ番号:03553361001
FastStart酵素:Roche、Roche、カタログ番号:03553361001
Phusion酵素:Finnzymes、F−530S(2U/μL)。
dNTP 25mM:Bioline、カタログ番号:BIO−39029
シグナル配列を含む全長カニクイザルEGFRの増幅のためのプライマー:
5’ATGプライマー:5’−TCTTCGGGAAGCAGCTATGC−3’(配列番号135)
3’STOPプライマー:5’−TCATGCTCCAATAAATTCACTG−3’(配列番号139)
【0353】
PCR条件:
95℃/2分間、40サイクル:95℃/30秒間、55℃/30秒間、72℃/3分間、72℃で5分間の最終インキュベーションを伴う30秒間。
【0354】
全長カニクイザルEGFRを増幅し、そしてNotおよびXho制限部位を組み入れるネステッドPCRのためのプライマー:
E579 Cyn Not5’ 5’−GGAGTCGGCGGCCGCACCATGCGACCCTCCGGGACGG−3(配列番号140)
E580 Cyn Xho5’ 5’−GCATGTGACTCGAGTCATGCTCCAATAAATTCACTGC−3(配列番号141)
【0355】
PCR条件:
95℃/2分間、次いで、30サイクル:95℃/30秒間の融解、55℃/30秒間のアニーリング、72℃/3分間の伸長。30サイクル後、PCR産物をさらに10分間伸長させた。
【0356】
PCR反応を、最終濃度で1×FastStart緩衝液、0.2mMのdNTPおよび0.2μMの各プライマーを伴う合計容積で50μLの反応緩衝液中0.5μlテンプレートおよび0.1μlのPhusion酵素、0.4μlのFastStart酵素で実施した。
【0357】
約4000bpの見かけの長さを伴うPCRフラグメントを入手し、TOPO TAクローニングキット(Invitrogen、パート番号4506−41)を使用してクローニングし、配列決定した。クローニングしたカニクイザルEGFRのDNAおよびタンパク質配列を図34に示す。ヒトEGFRおよびカニクイザルEGFRタンパク質配列のアラインメントは、99.2%の配列同一性を示した。
【0358】
FACS分析による全長ヒトおよびカニクイザルEGFR間の抗体交差反応性の決定
【0359】
全長ヒトおよびカニクイザルEGFRを、安定なトランスフェクションによってCHO細胞の表面上に発現させ、そしてFACS分析によって、系列希釈したEGFR抗体のパネルへの結合について、細胞を試験した。すべての抗体希釈系列における一定数の細胞の細胞表面上において発現されたEGFR抗原分子の数より少なくとも5倍多いモル過剰量の抗体を保持することによって、KD依存的条件下で、決定を行った。この設定は、試験したすべての抗体濃度について、完全な受容体飽和における抗体結合性のFACS分析を可能にした。
【0360】
簡単に説明すると、定量的FACS分析を、BD FACSアレイBioanalyzer System上で実施して、ヒトまたはカニクイザル全長EGFRのいずれかでトランスフェクトしたCHO細胞の表面上に発現されたEGFR分子の数を決定した。細胞上のPE標識ErbituxIgGを滴定し、次いで既知のPE密度を伴うRainbow calibration particlesから作成した標準曲線との比較によって、等価なPEの分子数を決定することによって、分析を実施した。定量分析は、EGFRでトランスフェクトしたCHO細胞が、各細胞の表面上に約350,000分子を示すことを表した。次に、10,000個のEGFRトランスフェクトしたCHO細胞と共に、漸増体積においてインキュベートし、各決定において、表面に示されるEGFR抗原を超える少なくとも5倍モル過剰の抗体を可能にすることによって、5nMから開始する本発明の抗体の5倍系列希釈を比較した。抗体を、シェーカー上で細胞と共に14時間インキュベートして、試験したすべての抗体濃度において、完全な抗原飽和を促進する一方、FACS緩衝液に0.02%NaNを添加し、次いで温度を4℃に保持して受容体内在化を防止した。インキュベーション後、細胞を、4℃で5分間の1200RPMでペレット化して、次いで200μlのFACS緩衝液に再懸濁した。次に、細胞を、1:500に希釈した二次ヤギF(ab’)抗ヒトIgG Fcγ PEで染色し、シェーカー上において4℃で30分間インキュベートした。最終的に、細胞をFACS緩衝液で2回洗浄し、次いで均質な前方/側方散乱特性を示すEGFR発現CHO細胞に対するゲーティングを伴うBD FACSアレイBioanalyzer System上で分析した。
【0361】
FACS試薬:
Rainbow calibration particles: BD、カタログ番号:559123
FACS緩衝液:1×PBS+2%FCS+0.02%NaN3
ヤギF(ab’)2抗ヒトIgG Fcγ PE: Jackson ImmunoResearch、カタログ番号109−116−170
【0362】
記載のFACS結合アッセイを、EGFR抗体IgG992および1024の交差反応性の決定に使用し、カニクイザルEGFRと交差反応しなかったコントロール抗体IgG1320と比較した。以下の図40に示すように、記載のFACSアッセイは、ヒトおよびカニクイザル全長EGFRの間に良好な交差反応性を示す抗体(図40A、IgG992および図40B、IgG1024)、および全長ヒトEGFRのみを認識する種特異的抗体(図40C、IgG1320)を識別するのにきわめて良好であった。この分析は、IgG992および1024の両方ともが、安定にトランスフェクトされたCHO細胞の表面上に発現されるヒトおよびカニクイザル全長EGFRの両方に対して極めて優れた交差反応性を示したことを結論付けた。カニクイザルおよびヒトEGFRの間の結合性の差異は、高い程度の配列類似性から考慮して驚くべきことであり、前臨床毒物学研究に使用される動物において正確な標的配列に結合するために試験する抗体の重要性を強調する。
【0363】
実施例17.992、1024および1030に相同なクローン
免疫吸着アッセイ(ELISAおよび細胞に基づくアッセイ)に基づくEGFR−結合性抗体−クローンのスクリーニングは、先の実施例に記載のように、クローン992、1024、1030の同定をもたらした。992、1024、1030に相同なEGFR特異的クローンもまた同定された(表12)。
【0364】
同じクラスターに属するクローンは、同じ結合特異性を有することが予想されるが、異なるアフィニティーで結合し得る。従って、クラスター内のクローンは、クローンの結合アフィニティーにそれほど大きな違いがなければ、本発明の抗体組成物において相互に置き換えることができる。
【表18】
【表19】
【0365】
実施例18:抗体922および1024のヒト化
すべての抗体は、ヒト抗抗体応答を誘発する能力を含有する。応答は、用いられる治療用抗体の「ヒトらしさ」の程度とある程度まで相関する。免疫原性、それによるヒト抗抗体を予測することは不可能であるが、臨床用途のために、高い程度のヒトらしさを伴う抗体を選好する傾向が存在する。本発明に記載の抗体のヒトらしさは、ヒト化プロセスによって、増加させることができる[Reichert JM. Monoclonal antibodies in the clinic. Nature Biotechnol, 2001;19:819-822;Reichert JM, Rosensweig CJ, Faden LB and Dewitz MC. Monoclonal antibody successes in the clinic. Nature Biotechnol, 2005;23:1073-1078]。
【0366】
マウスmAbのヒト化は、原則として、一般にCDRグラフティングと称される手順によって、緊密に関連する配列を伴うIGHVおよびIGKVドメインのヒトフレームワーク領域(FR)上に相補性決定領域(CDR)をグラフト化することによって、達成される(Jones PT, Dear PH, Foote J, Neuberger MS and Winter G. Replacing the complementarity-determining regions in a human antibody with those from a mouse. Nature, 1986;321:522-525)。しかし、超可変領域のみの単純なCDRグラフティングは、いくつかのフレームワークアミノ酸または領域が抗原への接触に必須になるか、または抗原結合性CDRループのコンホメーションを支持するため、アフィニティーの減少を生じ得る[Queen C, Schneider WP, Selick HE, Payne PW, Landolfi NF, Duncan JF, Avdalovic NM, Levitt M, Junghans RP and Waldmann TA. A humanized antibody that binds to the interleukin 2 receptor. Proc Natl Acad Sci U S A, 1989;86:10029-10033;Al-Lazikani B, Lesk AM and Chothia C. Standard conformations for the canonical structures of immunoglobulins. J Mol Biol, 1997;273:927-948]。結果的に、抗体のヒト化は、マウス由来可変領域のCDRループを、密接に相同なヒトフレームワーク上へグラフト化すること、また同時に、抗原結合活性に対する立証された影響を伴う重要なマウスフレームワーク残基を保持することの両方に関与すべきである(Winter, G. and W. J. Harris. "Humanized antibodies." Immunol.Today 14.6 (1993): 243-46)。いくつかの方法が開発され、抗体アフィニティーと機能を保持しつつのヒト化への応用を達成することに成功している(Almagro, J. C. and J. Fransson. "Humanization of antibodies." Front Biosci. 13 (2008): 1619-33においてレビューされた)。ヒト化は、合理的な方法、例えば、CDRグラフティング、リサーフェイシング(resurfacing)、超ヒト化、ヒトのストリング・コンテント(string content)最適化により達成することができ、これらは全て、少数のヒト化抗体候補の構築によるものである。候補のアミノ酸配列は、抗体構造の洞察および予測、ならびに直接的および間接的の両方で抗原相互作用領域の全体的構造を安定化することを介する抗原結合性への個々のアミノ酸の寄与に基づく。各抗体はいくつかの予想されない個々の制限を有するため、通常、候補は精査されなければならず、いくつかのアミノ酸は元々のマウス残基に復帰変異される。方法に共通することは、いくらかの連続する回数の設計、試験および再設計が、アフィニティーおよび機能を保持するのに必要であり得ることである。代替的には、より経験的な方法であって、ここで、大きなコンビナトリアルライブラリーが作製され、所望の特徴を伴う抗体が、酵母もしくはファージディスプレイのような方法、または代替的スクリーニング方法による選択によって、変種のプールから富化されることである。
【0367】
本発明に記載の抗EGFR抗体は、ヒトV領域へのCDRグラフティングによって、ヒト化してもよい。好適なシナリオでは、ヒトV領域は、元々のマウスV領域に対する相同性に基づいて選択される。低免疫原性のような他の所望の特徴を伴うヒトV遺伝子領域もまた、使用され得る。本実施例は、992および1024抗EGFRキメラ抗体のヒト化に使用される方法について説明する。図41Aに示されるヒト化配列は、IMGTにより定義されたCDR領域を、992IGHVからIGHV1−46/IGHJ4へ、および992IGKVからIGKV1−27/IGKJ1−01へグラフト化することによって、作製されている。図41Bに示されるアミノ酸配列は、IMGTにより定義されたCDR領域を、1024IGHVからIGHV1−202/IGHJ602へ、および1024IGKVからIGKV2−2801/IGKJ201へグラフト化することによって、作製されている。特定されたヒト化抗体をコードする人工遺伝子を合成し、そして哺乳動物発現ベクターに挿入する。実施例3に記載のように、抗体を発現させ、精製し、活性について試験する。初期の試験後、ヒト化抗体の結合反応速度を、実施例14に記載のように、表面プラズモン共鳴によって決定してもよい。同様に、細胞の表面上に発現されるhEGFRへの結合を、実施例15に記載のように決定することができる。
【0368】
ヒト化アミノ酸の結合活性が、元々の抗体について観察される活性より著しく低い場合、連続的な復帰変異スキームが、アフィニティーの再生に用いられ、Vernierゾーンに局在するヒト化フレームワーク残基、またはCDR領域である場合に構造を支持することが提唱される残基から開始される(Foote, J. and G. Winter. "Antibody framework residues affecting the conformation of the hypervariable loops." J Mol.Biol. 224.2 (1992): 487-99;Padlan, E. A. "Anatomy of the antibody molecule." Mol.Immunol 31.3 (1994): 169-217.)。これらの残基は、IMGT番号付けでは、992IGHVアミノ酸番号13、45、および80;992IGKVアミノ酸25、1024IGHVアミノ酸13、45、80および82;1024IGKLアミノ酸78である。これらの変異は、一般的な分子生物学的な方法を用いるPCR介在の部位特異的変異誘発を使用することにより構築することができる。構築された変異は、上記のように試験される。これらの候補セットは、保持された抗原結合特性を伴うヒト化抗体を生じることが予想される。しかし、部位特異的変異誘発によってCDR領域へアミノ酸置換を導入することによるさらなる復帰変異またはアフィニティー変異を排除することはできない。
【0369】
実施例19 二重可変ドメイン抗体
二重可変ドメイン(DVD)抗体タンパク質を、6アミノ酸リンカー(ASTKGP)によってタンデムで992および1024のIGHVドメインを、ならびに5アミノ酸リンカー(TVAAP)によって992および1024のIGKVドメインを融合することにより改変する[Wu C, Ying H, Grinnell C, Bryant S, Miller R, Clabbers A, Bose S, McCarthy D, Zhu RR, Santora L, vis-Taber R, Kunes Y, Fung E, Schwartz A, Sakorafas P, Gu J, Tarcsa E, Murtaza A and Ghayur T. Simultaneous targeting of multiple disease mediators by a dual-variable-domain immunoglobulin. Nature Biotechnol, 2007;25:1290-1297]。二重のIGHVおよびIGKVドメイン融合物は、後に、それぞれ、IGHCおよびIGKCドメインが続く。1つの完全長DVD抗体(992L1024)では、992IGHVおよびIGKVはN末端であり、後に、リンカーならびにそれぞれ、1024IGHVおよびIGKVが続く。第2の完全長DVD抗体(1024L992)では、1024IGHVおよびIGKVはN末端であり、後に、リンカー、ならびにそれぞれ992IGHVおよびIGKVが続く。992および1024抗体をコードするプラスミドDNAを、DVDをコードする遺伝子の2工程のPCR仲介構築のためのテンプレートとして使用する。IGHVおよびIGKVの2つの可変ドメインをコードする領域を、リンカーをコードする領域(テンプレートおよびプライマーの組み合わせのため、表13および表14を参照のこと)の位置において重複伸長領域を含有するように、最初にそれらを別々に増幅する。ヒト軽鎖定常ドメインをコードする遺伝子(IGKC)がコーディング配列に含まれるように、C末端近くの可変ドメインをコードするIGKV遺伝子を増幅する。二重可変ドメイン抗体のサブユニットのコーディング配列およびアミノ酸配列を付録3に示す。
【0370】
第1のPCRを、各チューブ(50μl反応)中で以下の混合物で調製し、所定の最終濃度を得る:1×FastStart緩衝液(Roche)、dNTP混合物(各200μM)、プライマー(各10pmol)(表14を参照のこと)、FastStart High Fidelity Enzyme Blend(2.2U;Roche)および100ngプラスミドテンプレート(表14を参照のこと)。PCRを、次のサーモサイクルに供する:95℃で2分間、20×(95℃で30秒間、55℃で30秒間、72℃で1分間)、72℃で10分間。第1のPCR反応からの正確なサイズを伴って得られたPCR産物(表14を参照のこと)を、調製用アガロースゲル電気泳動によって精製し、次いで2つの可変ドメインが、重複伸長PCRによってスプライスされる第2の工程において使用する。第2のPCRは、重複伸長PCRによりDNAフラグメントのスプライシングし、各チューブ(50μl反応)中の以下の混合物によって調製して、所定の最終濃度を得る:1×FastStart緩衝液(Roche)、dNTP混合物(各200μM)、プライマー(各10pmol、表15を参照のこと)、FastStart High Fidelity Enzyme Blend(2.2U;Roche)およびテンプレート(100ngPCRフラグメント、表15を参照のこと)。PCRを、上記で定めたサーモサイクルに供する。第2のPCR工程から得られた産物を、調製用アガロースゲル電気泳動によって精製し、制限酵素、二重IGHVに対しAscIおよびXhoI、ならびに(IGKCが含まれる)二重IGKVに対しNheIおよびNotIで処理する。フラグメントを、一般的な制限酵素消化およびライゲーション手順により、連続して哺乳動物IgG発現ベクター00−VP−002に連結する(図4)。得られた発現プラスミドベクターを大腸菌(E.coli)中で増幅し、次いでプラスミド調製物を一般的な方法によって精製する。DVD抗体を、実施例2におけるように、発現させ、精製し、次いで実施例3−13におけるように、活性について特徴付けを行う。
【0371】
得られた抗体が標的hEGFrに対する結合が減少する、または全く認められない場合、他のリンカーを試験することができる。
【0372】
表13 992および1024からDVD抗体を構築するためのプライマー
【表20】
【0373】
表14 992および1024由来のDVDをコードする遺伝子を構築するための第1の
PCR工程のためのプライマーおよびテンプレートの組み合わせ
【表21】
増幅されたコーディング配列は、IGKC−遺伝子を含む。
【0374】
表15 992および1024由来のDVDをコードする遺伝子を構築するための第2のPCR工程、重複伸長によるスプライシングのためのプライマーおよびテンプレートの組み合わせ
【表22】
【0375】
実施例20:カニクイザルにおけるErbituxとの組み合わせにおける6週間の静脈内投与毒性研究
研究の目的:研究の目的は、1週間に1回、6週間のカニクイザルへの静脈内投与後の試験物品、992+1024の毒性を決定することであった。
【0376】
毒性は、ErbituxおよびVectibixのようなEGFRインヒビターによる臨床実施において用量を制限する因子であるため、臨床関連用量における992+1024の忍容性を評価することが、早期段階において重要であると思われた。これは、992+1024が、他のEGFR標的産物とは異なる機構によって作用すると思われるという事実によって、強調される。これは、潜在的に、新たな有害作用、または他のEGFRインヒビターで認められる効果の悪化をもたらし得る。
【0377】
これらの雌性カニクイザルのグループを、1週間に1度、IV用量の4/2.7および12/8mg/kgの992+1024、ならびに12/8mg/kgのErbituxで6週間処置した。負荷量である第1の用量の4および12mg/kg、ならびに維持用量である2.7および8mg/kgを5回投与した。12/8mg/kgの用量は、臨床実施において投与されるErbituxのヒト臨床用量と同等である。
【0378】
実験設計
【表23】
♯第1の用量レベルは負荷量であり、第2の用量レベルは、8日目以降の投与である。
【0379】
研究中、以下のパラメータを追跡した:死亡率、臨床徴候、体重、食物摂取、血液学、臨床化学、臓器の重量、顕微鏡所見。
【0380】
結果
死亡率:研究経過中、予定されていない死亡は存在しなかった。
【0381】
臨床徴候:有害な臨床的観察に関連する処置はなかった。
【0382】
体重:体重における992+1024またはErbituxのいずれかによる処置の効果は存在しなかった。
【0383】
食物摂取:食物摂取における明確な効果は存在しなかった。
【0384】
血液学:992+1024またはErbituxのいずれかの処置の効果を示唆するような血液学的パラメータの変化は存在しなかった。
【0385】
臨床化学:いずれかの試験物品による処置の効果を示唆する臨床化学的パラメータの変化は存在しなかった。
【0386】
4週目、4.2/2.7mg/kgの992+1024/日を投与した1匹の動物は、処置前の値と比較して、アスパラギン酸アミノトランスフェラーゼおよびアラニンアミノトランスフェラーゼレベルの増加を示した。これらのレベルは、6週目までに正常な範囲に回復した。他の処置動物においては同様の効果が認められなかったため、肝臓酵素におけるこの増加の毒性学的有意性は不明である。
【0387】
臓器の重量:処置およびコントロール動物間の臓器の重量において、毒性学的有意差は認められなかった。
【0388】
顕微鏡所見:992+1024またはErbituxの効果を示唆するような剖検で特筆されるべき一致する観察は存在しなかった。
【0389】
予備的結論:予備データは、992+1024が、試験した用量で良好に忍容性であり、治療に関連する有害作用が観察されなかったことを示す。
【0390】
実施例21.肺細胞癌系統の増殖阻害
肺癌細胞系統は、チロシンキナーゼドメインの変異を伴うEGFRを発現することが公知である(Steiner et al. Clin Cancer Res 13.5 (2007): 1540-51)。実施例6において使用した方法と同様な方法により、2つの抗体992および1024の組み合わせが異なるEGFR変異を有する肺癌細胞系統HCC827およびH1975を阻害する能力について調べた。
【0391】
結果
表16および表17に認められ得るように、992および1024の組み合わせは、両方の細胞系統の増殖を阻害することができる。組み合わせは、モノクローナル抗体992および1024ならびにVectibixより優れている。
【0392】
表16 HCC827細胞系統に対する表示抗体のIC50値および最大増殖阻害
【表24】
【0393】
表17 H1975細胞系統に対する表示抗体のIC50値および最大増殖阻害
【表25】
【0394】
【表26】
【0395】
【表27】
【0396】
【表28】
【0397】
【表29】
【0398】
【表30】
【0399】
【表31】
【0400】
【表32】
【0401】
【表33】
【0402】
【表34】
【0403】
【表35】
【0404】
【表36】
【0405】
【表37】
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10
図11-1】
図11-2】
図11-3】
図11-4】
図11-5】
図12A
図12B
図13
図14
図15
図16-1】
図16-2】
図17
図18
図19
図20
図21
図22
図23A
図23B
図24-1】
図24-2】
図25
図26
図27
図28
図29
図30
図31A
図31B
図32A
図32B
図33A
図33B
図33C
図34A-1】
図34A-2】
図34B
図35
図36
図37
図38
図39
図40-1】
図40-2】
図40-3】
図41A
図41B
図42-1】
図42-2】
【配列表】
[この文献には参照ファイルがあります.J-PlatPatにて入手可能です(IP Forceでは現在のところ参照ファイルは掲載していません)]