特許第5726419号(P5726419)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5726419延性が改善された装置レス熱間成形または焼入れ用鋼
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726419
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】延性が改善された装置レス熱間成形または焼入れ用鋼
(51)【国際特許分類】
   C22C 38/00 20060101AFI20150514BHJP
   C22C 38/58 20060101ALI20150514BHJP
   C21D 9/00 20060101ALI20150514BHJP
   C21D 1/18 20060101ALI20150514BHJP
   B21D 22/20 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   C22C38/00 301T
   C22C38/00 301W
   C22C38/58
   C21D9/00 A
   C21D1/18 C
   B21D22/20 E
   B21D22/20 H
【請求項の数】12
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2009-553176(P2009-553176)
(86)(22)【出願日】2008年3月3日
(65)【公表番号】特表2010-521584(P2010-521584A)
(43)【公表日】2010年6月24日
(86)【国際出願番号】FR2008000278
(87)【国際公開番号】WO2008132303
(87)【国際公開日】20081106
【審査請求日】2010年9月29日
(31)【優先権主張番号】PCT/FR2007/000441
(32)【優先日】2007年3月14日
(33)【優先権主張国】FR
(73)【特許権者】
【識別番号】506166491
【氏名又は名称】アルセロールミタル・フランス
(74)【代理人】
【識別番号】110001173
【氏名又は名称】特許業務法人川口國際特許事務所
(74)【代理人】
【識別番号】100114188
【弁理士】
【氏名又は名称】小野 誠
(74)【代理人】
【識別番号】100140523
【弁理士】
【氏名又は名称】渡邉 千尋
(74)【代理人】
【識別番号】100119253
【弁理士】
【氏名又は名称】金山 賢教
(74)【代理人】
【識別番号】100103920
【弁理士】
【氏名又は名称】大崎 勝真
(74)【代理人】
【識別番号】100124855
【弁理士】
【氏名又は名称】坪倉 道明
(72)【発明者】
【氏名】ロラン,ジヤン−ピエール
(72)【発明者】
【氏名】マロ,テイエリー
【審査官】 佐藤 陽一
(56)【参考文献】
【文献】 特開2004−211138(JP,A)
【文献】 特開2004−250774(JP,A)
【文献】 特開2006−152362(JP,A)
【文献】 特開2002−088447(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C22C 38/00−38/60
C21D 9/00− 9/44, 9/50
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼の組成が、含有量を質量で表して、
0.040%≦C≦0.100%、
0.80%≦Mn≦2.00%、
Si≦0.30%、
S≦0.005%、
P≦0.030%、
0.020%≦Al≦0.040%、
0.015%≦Nb≦0.100%、
0.060%≦Ti≦0.080%、
N≦0.009%、
Cu≦0.100%、
Ni≦0.100%、
Cr≦0.100%、
Mo≦0.100%、
Ca≦0.006%
を含み、組成の残部が、鉄および精錬に由来する不可避的不純物からなり、前記鋼の微細構造が、少なくとも75%の等軸フェライト、5%以上20%以下の量のマルテンサイト、10%以下の量のベイナイトからなり、ここで、該等軸フェライトは、フェライト粒の最大長さとそれらの最短長さの平均比率が、1.2を超えない構造を有するフェライトであり、そして熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板の切断によりブランクを得、その後該ブランクは変形され、かつ装置内で保持されて冷却されることにより得られ、
その引張強度が、500MPa以上であり、破断点伸びが、15%より大きい、
鋼部品。
【請求項2】
前記鋼の組成が、含有量を質量で表して、
0.050%≦C≦0.080%、
1.20%≦Mn≦1.70%、
Si≦0.070%、
S≦0.004%、
P≦0.020%、
0.020%≦Al≦0.040%、
0.030%≦Nb≦0.070%、
0.060%≦Ti≦0.080%、
N≦0.009%、
Cu≦0.100%、
Ni≦0.100%、
Cr≦0.100%、
Mo≦0.100%、
Ca≦0.005%
を含み、組成の残部が、鉄および精錬に由来する不可避的不純物からなることを特徴とする、請求項1に記載の鋼部品。
【請求項3】
前記鋼の平均フェライト粒径が、6ミクロン未満であることを特徴とする、請求項1または2に記載の鋼部品。
【請求項4】
前記部品が、全厚にわたって合金化された層で被覆されており、前記合金化層が、前記鋼とプレコーティングとの合金化のための少なくとも1つの熱処理に起因し、前記プレコーティングが、亜鉛系合金またはアルミニウム系合金であることを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の鋼部品。
【請求項5】
溶接物品の一部が、請求項1から4のいずれか一項に記載の部品である、溶接物品。
【請求項6】
被覆された鋼部品を製造するプロセスであって、該鋼部分は、少なくとも75%の等軸フェライト、5%以上20%以下の量のマルテンサイト、10%以下の量のベイナイトからなる微細構造を有し、ここで、該等軸フェライトは、フェライト粒の最大長さとそれらの最短長さの平均比率が、1.2を超えない構造を有するフェライトであり、
請求項1または2に記載の組成を有する熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板が供給されるステップと、
プレコーティングが、前記鋼板に塗布され、前記プレコーティングが、亜鉛系合金またはアルミニウム系合金であるステップと、
前記鋼板が、切断されてブランクを得るステップと、
任意に、前記ブランクが溶接されるステップと、
任意に、前記ブランクが冷間変形されるステップと、
前記ブランクが、前記鋼と前記プレコーティングとの合金化によって、前記ブランクの表面上に合金化層を形成するとともに、前記鋼に完全オーステナイト組織を付与するように炉内で温度Tcに加熱され、合金化が、前記層の全厚にわたって生成されるステップと、
前記ブランクが炉から取り出されるステップと、
任意に、前記ブランクが、熱間変形されて部品を得るステップと、
前記部品が、前記温度Tcと400℃の間で、30から80℃/sを有する平均速度Vcで、前記鋼部品に500MPa以上の引張強度及び15%より大きい破断点伸びを付与するのに適した条件下で、装置内で冷却されるステップと
を含む、プロセス。
【請求項7】
部品を製造するプロセスであって、該鋼部分は、少なくとも75%の等軸フェライト、5%以上20%以下の量のマルテンサイト、10%以下の量のベイナイトからなる微細構造を有し、ここで、該等軸フェライトは、フェライト粒の最大長さとそれらの最短長さの平均比率が、1.2を超えない構造を有するフェライトであり、
請求項1または2に記載の組成を有する熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板が供給されるステップと、
前記鋼板が、切断されてブランクを得るステップと、
任意に、前記ブランクが溶接されるステップと、
任意に、前記ブランクが冷間変形されるステップと、
前記ブランクが、前記鋼に完全オーステナイト組織を付与するように炉内で温度Tcに加熱されるステップと、
前記ブランクが炉から取り出されるステップと、
任意に、前記ブランクが、熱間変形されて部品を得るステップと、
前記部品が、前記温度Tcと400℃の間で、30から80℃/sを有する平均速度Vcで、前記鋼部品に500MPa以上の引張強度及び15%より大きい破断点伸びを付与するのに適した条件下で、装置内で冷却されるステップと
任意に、コーティングが前記部品に塗布されるステップと
を含む、プロセス。
【請求項8】
前記温度Tcが、880から950℃であり、前記温度での保持時間tcが、3から10分であることを特徴とする、請求項6または7に記載の製造プロセス。
【請求項9】
前記温度Tcから400℃での平均冷却速度Vcが、30から80℃/sであることを特徴とする、請求項6から8のいずれか一項に記載の製造プロセス。
【請求項10】
前記温度Tcから400℃での平均冷却速度Vcが、35から60℃/sであることを特徴とする、請求項6から8のいずれか一項に記載の製造プロセス。
【請求項11】
陸上自動車用、または農業機械または造船分野用の構造部品若しくは安全部品を製造するための請求項1からのいずれか一項に記載の部品又は請求項5に記載の溶接物品の使用方法。
【請求項12】
陸上自動車用、または農業機械または造船分野用の構造部品若しくは安全部品を製造するための請求項から10のいずれか一項に記載のように製造された部品の使用方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、装置内での熱間成形または焼入れ後に、特に、有利で均質な強度、伸びおよび耐食性を有する熱間圧延鋼部品または冷間圧延鋼部品の製造に関する。
【背景技術】
【0002】
用途によっては、高引張強度、高耐衝撃性および良好な耐食性を兼ね備える鋼部品を製造することが目的である。この種の兼ね備えは、車両の著しい軽量化が求められる自動車産業において特に望ましい。これは、特に、高い機械的特性を有する鋼部品を使用することにより得られることができ、その微細構造は、マルテンサイトまたはベイナイト−マルテンサイトである。例えば、フェンダークロスメンバおよびドアまたはセンターピラーリインフォースメントなどの、自動車の耐侵入性部品、構造部品または安全性に寄与する部品が、例えば、上記特性を必要とする。
【0003】
したがって、仏国特許第2780984号明細書は、熱処理後に非常に高強度を有するアルミニウム被覆鋼板を開示し、この処理は、Ac3から1200℃で加熱し、その後、装置内で熱間成形することを含む。鋼の組成の元素は、下記の通りである。C:0.15から0.5%、Mn:0.5から3%、Si:0.1から0.5%、Cr:0.01から1%、Ti:<0.2%、Al、P:<0.1%、S:<0.05%、B:0.0005から0.08%。熱処理の間にプレコーティングと鋼との相互拡散によって形成された合金化化合物は、脱炭および腐食に対する保護をもたらす。
【0004】
1つの実施形態では、0.231%のC、1.145%のMn、0.239%のSi、0.043%のAl、0.020%のP、0.0038%のS、0.179%のCr、0.009%のCu、0.020%のNi、0.032%のTi、0.0042%のN、0.0051%のCaおよび0.0028%のBを含む鋼を使用すると、熱間成形後に、完全マルテンサイト組織と関連する1500MPaより大きい強度を得ることが可能となる。
【0005】
この非常に高い強度レベルの不都合な点は、破断点伸びであり、それは、熱処理後に比較的低く、約5%である。しかし、ある用途は、そのような高強度レベルを必要としないが、他方、15%を越える破断点伸びの性能を必要とする。これらの用途は、部品の良好な腐食保護をも必要とする。
【0006】
これらの構造的用途は、0.5から4mmの厚さを有する補強部品にほぼ関する。求められるものは、部品の熱処理後、500MPaより大きい強度および15%より大きい破断点伸びを有する鋼である。これらの機械的特性の兼ね備えは、衝突の場合に高エネルギー吸収を確実にする。これらの強度および伸びの必要条件は、たとえ装置内の冷却速度が、厚さ0.5mmの部品と厚さ約4mmの部品との間で異なっていても、満足されなければならない。この状況は、例えば、加熱および冷却の両方を含む工業ラインの調節が、異なる厚さの部品が上記厚さ範囲内でライン上を連続で処理される場合に変更されないことを可能にする。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
部品の熱間鍛造または装置間でのその焼入れが、ある領域内で比較的大きな大きさの局部的変形をもたらす可能性があることが知られている。部品と装置との接触は、より完全である可能性があり、または冷却速度が各点で同じでないほど完全でない可能性がある。変形度または冷却速度に関するこれらの局部的ばらつきは、熱処理後、部品が異質構造および不均一特性を有するという結果を有する可能性がある。
【0008】
本発明の目的は、上述の問題を解決することである。特に、本発明の目的は、およそ0.5から4mmの厚さの範囲で、装置内で熱間成形または焼入れ後に、500MPaより大きい強度および15%より大きい破断点伸びの両方を有する熱間圧延鋼部品または冷間圧延鋼部品を提供することである。本発明の他の目的は、優れた構造的均質性および均一な機械的特性を有する部品、すなわち、局部的変形度または局部的冷却速度が製造の間に均一でなくても、強度および伸びが部品の様々な部分において変化しない部品を提供することである。
【0009】
本発明の他の目的は、通常の組み立てプロセス(抵抗溶接、アーク溶接、レーザー溶接)によって容易に溶接されることができる鋼部品を提供することであり、装置内で熱成形または焼入れされる前後に部品が溶接されることが可能である。
【課題を解決するための手段】
【0010】
この目的のために、本発明の1つの主題は、鋼の組成が、含有量を重量で表して、0.040%≦C≦0.100%、0.80%≦Mn≦2.00%、Si≦0.30%、S≦0.005%、P≦0.030%、0.010%≦Al≦0.070%、0.015%≦Nb≦0.100%、0.030%≦Ti≦0.080%、N≦0.009%、Cu≦0.100%、Ni≦0.100%、Cr≦0.100%、Mo≦0.100%、Ca≦0.006%を含み、組成の残部は、鉄および精錬に由来する不可避的不純物からなり、鋼の微細構造は、少なくとも75%の等軸フェライト、5%以上20%以下の量のマルテンサイト、10%以下の量のベイナイトからなる、鋼部品である。
【0011】
本発明の他の主題は、上記特徴による鋼部品であって、鋼の組成は、含有量を重量で表して、0.050%≦C≦0.080%、1.20%≦Mn≦1.70%、Si≦0.070%、S≦0.004%、P≦0.020%、0.020%≦Al≦0.040%、0.030%≦Nb≦0.070%、0.060%≦Ti≦0.080%、N≦0.009%、Cu≦0.100%、Ni≦0.100%、Cr≦0.100%、Mo≦0.100%、Ca≦0.005%を含み、組成の残部は、鉄および精錬に由来する不可避的不純物からなることを特徴とする鋼部品である。
【0012】
1つの特定の実施形態によれば、部品の鋼の平均フェライト粒径は、6ミクロン未満である。
【0013】
1つの特定の実施形態によれば、鋼部品は、全厚にわたって合金化された層で被覆されている。この合金化層は、鋼とプレコーティングとの合金化のための少なくとも1つの熱処理に起因し、プレコーティングは、亜鉛系合金またはアルミニウム系合金である。
【0014】
好ましい実施形態によれば、鋼部品の強度は、500MPa以上であり、その破断点伸びは、15%より大きい。
【0015】
本発明の他の主題は、部分の少なくとも1つが、上記特徴のうちのいずれかに記載の部品である、溶接物品である。
【0016】
本発明の他の主題は、被覆された鋼部品を製造する方法であって、上記組成を有する熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板が供給されるステップと、次いで、プレコーティングが、鋼板に塗布され、プレコーティングは、亜鉛系合金またはアルミニウム系合金であるステップとを含む方法である。鋼板は、切断されてブランクを得て、次いで、任意に、このブランクは溶接される。任意に、ブランクは冷間変形され、次いで、ブランクは、鋼とプレコーティングとの合金化によって、ブランクの表面上に合金化層を形成するとともに、鋼に完全オーステナイト組織を付与するように炉内で温度Tcに加熱され、合金化は、層の全厚にわたって生成される。ブランクは炉から取り出され、次いで、任意に、ブランクは、熱間変形されて、鋼部品に所望の機械的特性を付与するのに適した条件下で冷却される部品を得る。
【0017】
本発明の他の主題は、部品を製造する方法であって、上記請求項に記載の組成を有する熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板が供給されるステップと、次いで、鋼板は、切断されてブランクを得るステップとを含む、方法である。任意に、ブランクは溶接され、次いで、任意に、このブランクは冷間変形される。ブランクは、鋼に完全オーステナイト組織を付与するように炉内で温度Tcに加熱され、次いで、ブランクは炉から取り出される。任意に、上記ブランクは、熱間変形されて部品を得、次いで、この部品は、鋼部品に所望の機械的特性を付与するのに適した条件下で冷却され、次いで、任意に、コーティングが部品に塗布される。
【0018】
1つの特定の方法によれば、温度Tcは、880から950℃であり、この温度での保持時間tcは、3から10分である。
【0019】
1つの特定の方法によれば、温度Tcから400℃での平均冷却速度Vcは、30から80℃/sである。
【0020】
好ましくは、温度Tcから400℃での平均冷却速度Vcは、35から60℃/sである。
【0021】
本発明のさらに他の主題は、上述された、または陸上自動車用、または農業機械または造船分野用の構造部品または安全部品を製造するための、上記方法の1つによって製造された部品または物品の使用である。
【0022】
本発明の他の特徴および利点は、実施例によって、および以下の添付図面を参照して以下に付与される記載で明らかとなる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】本発明による熱処理後の鋼の微細構造を示す。
図2】本発明によらない熱処理後の鋼の微細構造を示す。
【発明を実施するための形態】
【0024】
鋼の化学的組成に関して、炭素は、冷却し、次いでオーステナイト化処理した後に得られた硬化性および引張強度に重要な役割を果たす。0.040重量%の含有量より低いと、任意の冷却条件下で500MPaを超える強度を得ることができない。0.100%の含有量を超えると、例えば、部品が、冷却された装置内に保持される場合、最も迅速な冷却条件下であまりにも大きな割合のマルテンサイトを形成する危険性がある。そのとき、破断点伸びは15%未満であってもよい。0.050から0.080%の炭素含有量が、製造条件に依存して、強度特性および伸び特性が非常に安定していることを可能にするとともに、鋼が通常の組み立てプロセスで非常に良好な溶接性を示すことを可能にする。
【0025】
マンガンは、特に、その重量含有量が、少なくとも0.80%である場合、その脱酸の役割とは別に、硬化性に重要な効果をも有する。しかし、2.00%を超えると、そのオーステナイト形成特性が、非常に顕著な帯状構造の形成をもたらす。偏析の危険なく満足な硬化性を得るために、Mnの範囲は、1.20から1.70%であることが好ましい。さらに、このようにして、非常に良好な靱性が、静的機械的応力条件または動的機械的応力条件下で得られる。
【0026】
シリコンは、溶鋼を脱酸させることに役立ち、鋼の硬化に寄与する。しかし、その含有量は、表面酸化物の過剰形成を回避し、かつ被覆性および溶接性を促進するために制限されなければならない。0.30重量%より多いシリコンを添加すると、装置内で冷却した後にオーステナイトの考えられる安定化、ここでは望ましくないものがもたらされる。0.070%未満のシリコン含有量は、上記結果を得るために好ましい。
【0027】
硫黄および燐は、過剰量の場合、延性を低減する。これは、それらの含有量が、それぞれ、0.005重量%および0.030重量%に制限されるからである。0.004%および0.020%未満の含有量は、それぞれ、より詳しくは、延性および靱性を向上させることを可能にする。
【0028】
アルミニウムは、0.010から0.070重量%の量の場合、溶鋼が脱酸されることを可能にする。0.020から0.040%の好ましい量は、オーステナイトのいかなる安定化も防止する。
【0029】
チタンおよびニオブは、マイクロ合金化元素の種類に属し、これらの元素は、数l0−3から数l0−2%の少量でさえ有効である。
【0030】
鋼のニオブ含有量が、0.015から0.100%である場合、微細な硬化炭窒化物Nb(CN)析出物が、熱間圧延の間にオーステナイト中またはフェライト中に生じる。これらの析出物は、その後の溶接の間にオーステナイト結晶粒の成長を制限することをも可能にする。0.030から0.070%のニオブ含有量は、高温での機械的特性をさらに適度に改善しながら、かなりの硬化をもたらし、それによって、ストリップミルでの熱間圧延の間に力を制限することを可能にする。
【0031】
チタン含有量が、0.030から0.080重量%である場合、析出物が、非常に高温でTiN窒化物の形態で生じ、次いで、低温でオーステナイト中に微細なTiC炭化物の形態で生じ、硬化をもたらす。TiN析出物は、任意の溶接操作の間にオーステナイト結晶粒の成長を有効に制限する。0.060%から0.080%のチタン含有量は、TiCまたはTi炭硫化物のより激しい析出物をもたらす。
【0032】
窒素含有量は、粗い形態で、凝固から直ちに生じるTiNの析出を防止するために、0.009%未満である。
【0033】
熱間圧延または冷間圧延および焼きなまし後、ニオブおよびチタンは、析出された形態である。本発明によるプロセスでは、鋼の完全オーステナイト化が次いで行われ、その後、装置内で焼入れする。本発明者らは、析出物、特に、チタン析出物が、加熱からのオーステナイト結晶粒の成長を遅らせる点で有効であり、延性を低減する非常に硬質の第2の成分の形成を制限することを実証した。このオーステナイト結晶粒径の制御は、冷却速度の変化に対する低い感度を達成することを可能にする。
【0034】
鋼の組成は、また、銅、クロム、ニッケルおよびモリブデンなどの元素を含んでもよく、それらは、固溶体硬化によって、または硬化性に対するそれらの影響によって強度を向上することに役立つ。しかし、それらの個々の含有量は、0.1%に制限されなければならず、あるいはその反対で、ベイナイト組織が、炉内オーステナイト化の後に生じ、これらの組織は、冷却速度の変化に敏感である。
【0035】
鋼は、さらに、硫化物を球状化するとともに、耐疲労性を改善する目的で、0.006%以下、好ましくは0.005%以下のカルシウムの添加を含んでもよい。
【0036】
本発明による製造方法は、以下の通りである:
上記組成のうちの1つの板、または板から切断されたブランクが供給される。完全オーステナイト化が順次起こる範囲で、この鋼板の初期の微細構造が、比較的小さな役割を果たす。しかし、マイクロ合金化元素は、析出された形態でなければならず、例えば、鋼板またはブランクが、溶鋼を鋳造し、次いで1100℃に再加熱することによって製造されてもよい。熱間圧延は、940℃より低い最終圧延温度で実行される。鋼板は、次いで、20から100℃/sの速度で500から700℃に冷却される。その後の空冷後、鋼板は、次いで、450から680℃の温度で巻回される。これらの条件は、マイクロ合金化元素の微細で分散された析出物を得ることを可能にする。
【0037】
本発明は、鋼板およびブランクが素肌のままであろうとプレコートされていても、鋼板またはブランク上で行なわれてもよい。プレコートの場合、プレコーティングが鋼板に塗布され、プレコーティングは、亜鉛系合金またはアルミニウム系合金である。特に、このプレコーティングは、溶融めっきプロセス、電着、または真空蒸着プロセスによって塗布されてもよい。蒸着は、単一ステップで、または連続ステップの組み合わせによって実行されてもよい。蒸着は、連続的に実行されることが好ましい。このプレコーティングの厚さは、処理条件に耐性があるコーティングを得る目的で、5から35ミクロンであってもよい。
【0038】
プレコーティングの合金は、アルミニウムまたはアルミニウム系合金であってもよい。例えば、プレコーティングは、さらに、8から11重量%のシリコンおよび2から4重量%の鉄を含むアルミニウム系の浴中で溶融めっきコーティングによって塗布されてもよい。
【0039】
プレコーティングの合金は、また、亜鉛または亜鉛系合金であってもよい。この亜鉛合金は、例えば、5重量%以下の量でアルミニウムをも含んでもよい。亜鉛系合金は、また、任意に、シリコン、鉛、アンチモン、ビスマス、ランタンおよびセリウムなどの1つ以上の元素を含んでもよい。
【0040】
プレコートされた鋼板は、次いで、得られる最終部分の形状に従った形状を有するブランクを得るように切断される。
【0041】
本発明の変形例によれば、プレコートされたブランクは、他の鋼部品に任意に溶接されてもよい。実際、ある用途では、部品のすべての点で同じレベルの機械的特性を必要としないことが知られている。したがって、注文溶接されたブランクの使用において成果があり、ブランクは、異なる組成または異なる厚さを場合により有する鋼板からなる組み立て体である。本発明によるプレコートされたブランクは、このように、より複雑な組み立て体に溶接することによって組込まれてもよい。溶接は、連続プロセス、例えば、レーザービーム溶接、電気アーク溶接によって、または、例えば、スポット抵抗溶接などの不連続プロセスによって実行されてもよい。ブランクは、1つ以上の他の鋼ブランクと組み立てられてもよく、その組成および厚さは、成形処理および熱処理後の機械的特性が変化し、後の応力に局部的に適合されている最終段階の部品で得られるように、同一または異なってもよい。鉄および不可避的不純物とは別に、本発明によるブランクと組み立てられた鋼ブランクの重量組成は、例えば、0.040から0.25%のC、0.8から2%のMn、0.4以下のSi、0.1%以下のAlを含む。
【0042】
本発明の他の変形によれば、プレコートされたブランクは、任意に冷間変形されてもよい。この変形例は、形状が、得ることが望まれる部分の最終形状に比較的近いように実行されてもよい。これは、冷間で行われる変形の場合、後に説明されるように、熱間で行われる変形で補完されてもよい。冷間変形が実際に最終形状をもたらす場合、部品を装置内で適合ステップにさらす前に、部品が次いで加熱される。この最終ステップの目的は、冷却時に部品のいかなる変形をも防止することであり、部品と装置との適切な接触の結果、特定の冷却サイクルをもたらすことである。したがって、この適合ステップは、部品上に装置によって適用された最小の力によって特徴づけられる。
【0043】
これらの任意の溶接および冷間変形ステップ後、ブランクは、熱処理炉内で加熱される。この処理の目的は、鋼の完全オーステナイト化を実行することである。ブランクがプレコートされる場合、この処理は、また、処理の間、および部品の後の使用の間に、ブランクの表面を保護することができるコーティングを形成する目的を有する。
【0044】
アルミニウム系または亜鉛系プレコーティングの役割は、以下の通りである。炉内での加熱の間に、鋼基板とプレコーティングとの合金化反応が起こり、合金化層が、ブランクの表面上に生じる。合金化は、プレコーティングの全厚にわたって起こる。プレコーティングの組成に応じて、1つ以上の金属間相が、この合金化層内に形成される。これらの相の融点が、部品が加熱される温度を超えているので、コーティングは、高温で溶融しない。用語「プレコーティング」は、加熱前の合金を意味すると考えられ、用語「コーティング」は、加熱の間に形成された合金化層を意味すると考えられる。したがって、コーティングの厚さが、鋼基板への拡散反応のためにプレコーティングの厚さより大きいので、熱処理は、プレコーティングの性質およびその形状を変える。言及されるように、熱処理は、耐熱性層を生じる。この層は、基板が炉の雰囲気と接触することを防止することにより基板を保護する。したがって、加熱が、プレコーティングのない部品上で行なわれる場合に生じる脱炭および酸化の問題が回避される。形成されたコーティングは、また、接着性の利点、および後に続く熱間成形操作に適切であるという利点を有する。
【0045】
加熱は、Ac3より高い温度Tで行なわれ、Ac3の温度は、加熱の間の鋼のオーステナイト変態温度の終端を示す。温度Tは、好ましくは880から950℃である。温度Tで3から10分間の保持が、ブランクの温度を均質化するように実行されてもよい。これらの条件下で、微細なオーステナイト粒が、Ac3よりわずかに高いこの温度範囲内で形成される。硬化性は、そのような構造から抑えられ、それによって、低い延性を有する微細構造成分の形成を防止する。この範囲内の温度変化は、最終の機械的特性の大きなばらつきを引き起こさない。
【0046】
加熱されたブランクは、次いで、炉から取り出され、装置に移動され、ここで、ブランクは、部品の所望の形状を得る目的で熱変形を受ける、または上記されたように簡単な適合操作を受ける。もちろん、ブランクがあらかじめ変形されていない場合、変形が完全に実行されるのは熱変形段階である。両方の場合、装置内の部品の存在は、冷却をもたらし、それは、熱伝導によって本質的に起こる。冷却速度は、炉と装置との間の移動時間、部品の厚さおよび温度、冷却液による装置自体の任意の冷却、および部品が装置内でどれくらいの時間保持されるかなどのパラメーターに依存する。変形例によれば、部品は、「第2の」装置と呼ばれる他の装置に移動されてもよく、それは、冷却サイクルの最後が制御されることを可能にする。
【0047】
本発明者らは、所望の機械的特性の達成が、特定のパラメーター、すなわちVcを制御することに依存することを実証した。このパラメーターは、炉をそのままにしておくときの部品の温度Tcと400℃の温度の平均冷却速度を示す。このTcから400℃の温度範囲は、本発明による鋼組成の所望の微細構造をもたらす同素変態が起こる特定の間隔をカバーする。
【0048】
速度Vcは、30から80℃/sであり、Vcが30℃/s未満である場合、部品の構造は、まさに主にフェライトを含み、500MPaより大きい強度レベルが、必ずしも達成することができなるとは限らない。速度Vcが35から60℃/sである場合、得られた機械的特性のばらつきは特に小さい。
【0049】
速度が80℃/sより大きい場合、過剰量のベイナイトが微細構造内で見られる。この成分の特性は、Vのわずかなばらつきに敏感である。したがって、部品と装置との接触状態の局部的ばらつき、または名目パラメーターに対する処理条件の不慮のばらつきが、所定の部品内、すなわち部品間で機械的特性のばらつきをもたらす。
【0050】
本発明による微細構造は、少なくとも75%の微細な等軸フェライトからなり、この百分率含有量は、例えば、研磨およびエッチングされた部分上で測定されることができる表面の一部分に対応する。用語「等軸」は、フェライト粒の最大長さとそれらの最短長さの平均比率が、1.2を超えない構造を示す。好ましくは、平均フェライト粒径は、高強度および15%よりはるかに大きい破断点伸びの両方を得るように6ミクロン未満である。
【0051】
構造は、また、マルテンサイトを含み、その表面の割合は、5から20%である。この成分は、フェライトマトリックス内に分散されたアイランドの形態であり、これらのアイランドのサイズは、一般的に、フェライト粒のサイズ以下である。この微細分散された形態で、5から20%のマルテンサイトの存在が、あまりに顕著な延性の低減なしで引張強度が向上されることを可能にする。
【0052】
構造は、また、10%に制限される量でベイナイトを含んでもよい。これは、この成分の存在が、機械的特性の大きな均一性を示さなければならない部品の製造には望ましくないことが分かったからである。
【0053】
このように得られた成形部品は、次いで、例えば、より複雑な構造を構成するように、部品を同じまたは異なる厚さまたは組成の他の部品に溶接することによって任意に組み立てられてもよい。
【0054】
初期の鋼板またはブランクがプレコーティングを有さない場合、成形された部品は、腐食保護が部品に必要なら、適切な被覆操作によって熱処理後にもちろん被覆されてもよい。
【0055】
実施例を付与して、次の実施形態が、本発明によって与えられた他の利点を説明する。
【0056】
実施例1
1.2から2mmの厚さを有し、次の重量組成を有する熱間圧延鋼板または冷間圧延鋼板が、検討された。
【表1】
【0057】
鋼AおよびBが、本発明による組成を有する鋼である。鋼CおよびDは、対照鋼である。鋼Aの熱間圧延板は、2mmの厚さを有していた。鋼Bは、厚さ2mmの熱間圧延板の形態で、および厚さ1.5mm、1.2mmの冷間圧延および焼きなまされた鋼板の形態で試験を受けた。
【0058】
鋼CおよびDは、対照鋼であり、それらは、1.2mmの厚さで、冷間圧延および焼きなまされる。
【0059】
これらの様々な鋼板は、9.3%のシリコンおよび2.8%の鉄を含み、残部がアルミニウムおよび不可避的不純物からなる溶融アルミニウム合金浴中で溶融めっきプレコートされた。プレコーティングの厚さは、面当たり約25ミクロンであった。鋼板は、次いで、ブランクの形態に切断された。
【0060】
ブランクは、次いで、表2に示された保持時間tcの間、温度Tcに加熱された。鋼によっては、B1からB3で分類された条件下で、鋼Bなどの多くの異なる試験状態にさらされた。加熱条件は、すべて、鋼の完全オーステナイト変態をもたらす。この加熱および保持段階の間、プレコーティングは、その全厚にわたって合金化層に変態された。この合金化コーティングは、高融点および高硬度を有し、腐食に非常に強く、基礎をなすベース鋼が加熱段階の間および後に酸化、脱炭されることを防止する。
【0061】
オーステナイト化の後、ブランクは、温度Tcで炉から取り出され、次いで、熱変形された。平均冷却速度Vcは、表2に示された条件にしたがって変更された。部品で測定された機械的特性(降伏強度R、引張強度Rおよび破断点伸びA)も、表2に示されている。
【表2】
【0062】
熱処理後に得られた微細構造は、研磨、エッチングされた部分上で検査された。平均フェライト粒径は、画像解析によって決定された。
【0063】
鋼A上で行なわれた試験は、機械的特性が、本発明のプロセスの範囲内でオーステナイト化温度にほとんど依存しないことを示す。したがって、工業的製造は、このパラメーターの意図しない変化に対してほとんど敏感にならない。微細構造の例が、図1に挙げられる。構造は、試験B1に対して、5ミクロンの平均サイズを有する93%の等軸フェライトおよび7%のマルテンサイトから構成されている。
【0064】
試験A1、A2、B1およびB2は、すべて、75%を超える等軸フェライト、5%から20%の量のマルテンサイトおよび10%未満のベイナイトからなる構造をもたらす。
【0065】
あまりにも高い冷却速度(l00℃/s、試験B3)は、20%をわずかに越えるマルテンサイト含有量をもたらす。マルテンサイトは、5ミクロンのサイズを超える可能性があるアイランドの形態で存在する。伸びは、そのとき、15%未満である。
【0066】
鋼Cは、高すぎる炭素含有量および高すぎるシリコン含有量を有しており、有効な粒子制御用の十分なマイクロ合金化元素を含まない。35℃/sの冷却条件でさえ、構造は、フェライトではなく、試験C1に関して図2で説明されるように主にベイナイトである。伸びは、そのとき、15%未満である。冷却速度が向上する場合(試験C2およびC3)、構造は、微量のベイナイトを含む、主にマルテンサイトになる。伸びは、かなりの低減を受ける。
【0067】
鋼Dは、不十分な含有量のマンガンおよびチタンを有し、過剰量の硫黄を含む。したがって、強度は、試験D1の条件下で、500MPa未満で不十分である。
【0068】
実施例2
表1に詳述された本発明による組成を有する鋼板Bが検討された。実施例1において説明されたように、厚さ2mmの鋼板が、アルミニウム系合金でプレコートされた。鋼板は、900℃で8分間加熱され、次いで、熱間鍛造されて部品を製造した。冷却速度Vcは、60℃/sであった。部品の形状内で、等価な変形εは、異なる領域にしたがってさまざまであり、ある部分は、実際に、局部的に変形されない(ε=0%)が、他は、20%の変形を受けた。顕微鏡写真観察、硬度測定および引張試験片が、これらの異なって変形された領域で得られた。降伏強度は430から475MPaで変化し、引張強度は580から650MPaで変化し、破断点伸びは17から22%で変化した。したがって、オーステナイト粒は、問題の位置に依存して程度の差はあるが熱間変形されるということにもかかわらず、本発明による鋼およびプロセスは、特性が、同一部品内で非常に均質なままであることによって特徴づけられる。特に、問題の変形がどの程度であれ、引張強度は、500MPaを越えたままであり、破断点伸びは、15%を越えたままである。
【0069】
このように、本発明は、高強度特性および延性特性を有する被覆された部品を製造することを可能にし、これらの特性は、すべての部品において均質である。本発明による鋼は、製造パラメーターにおける変化にあまり敏感ではなく、これは、製造ラインでの予定外の遅れの場合、または製造の変更の場合(例えば、異なる厚さの部品が同じ炉内を連続的に通る)に利点である。
【0070】
これらの部品は、自動車構造用、および農業機械または造船分野において、安全部品、特に構造部品または補強部品を製造するために有利に使用される。
図1
図2