特許第5726424号(P5726424)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5726424コラーゲンペプチド粉体組成物及びその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726424
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】コラーゲンペプチド粉体組成物及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C07K 14/78 20060101AFI20150514BHJP
   A61K 8/65 20060101ALI20150514BHJP
   A23L 1/305 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   C07K14/78
   A61K8/65
   A23L1/305
【請求項の数】6
【全頁数】15
(21)【出願番号】特願2010-41391(P2010-41391)
(22)【出願日】2010年2月26日
(65)【公開番号】特開2011-178666(P2011-178666A)
(43)【公開日】2011年9月15日
【審査請求日】2013年2月26日
(73)【特許権者】
【識別番号】390033145
【氏名又は名称】焼津水産化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100086689
【弁理士】
【氏名又は名称】松井 茂
(72)【発明者】
【氏名】上野 友哉
(72)【発明者】
【氏名】渡邉 一浩
【審査官】 吉門 沙央里
(56)【参考文献】
【文献】 特開2003−238597(JP,A)
【文献】 特開2004−141007(JP,A)
【文献】 特開2008−194010(JP,A)
【文献】 国際公開第2008/059927(WO,A1)
【文献】 特開2007−246460(JP,A)
【文献】 特開平04−252194(JP,A)
【文献】 特開平06−178650(JP,A)
【文献】 特開2000−279087(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07K 1/00−19/00
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化して得られ、該粉体が板状の破片からなる非中空構造を有し、真密度1.2〜1.4g/cmであり、8メッシュ(開口2, 380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンすることを特徴とするコラーゲンペプチド粉体組成物。
【請求項2】
嵩比重が0.35〜0.55g/cmである請求項1記載のコラーゲンペプチド粉体組成物。
【請求項3】
請求項1又は2記載のコラーゲンペプチド粉体組成物と、コラーゲンペプチドを含有する溶液を噴霧乾燥により乾燥し、粉体化してなるコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物とを混合してなる、コラーゲンペプチド混合粉体組成物。
【請求項4】
飲食品の配合原料として用いられる、請求項1〜のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項5】
化粧品の配合原料として用いられる、請求項1〜のいずれか1つに記載の組成物。
【請求項6】
コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化して、該粉体が板状の破片からなる非中空構造を有し、真密度1.2〜1.4g/cmであり、8メッシュ(開口2, 380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物を得ることを特徴とするコラーゲンペプチド粉体組成物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、水への溶解適性等の品質に優れ、飲食品や化粧品への配合に有利な、コラーゲンペプチド粉体組成物及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
動物の主要構成タンパク質であるコラーゲンは、生体内において細胞と細胞の隙間を埋めている「細胞外マトリックス」成分として、水に不溶の繊維状や膜状の構造体を形成している。コラーゲンやコラーゲンを熱変性して水溶性にしたゼラチンは、古くから接着剤(いわゆる膠)として利用されているほか、写真乳剤、製紙、染色、食品、化粧品、医薬品等の幅広い分野で利用されている。特に、コラーゲンの加水分解物であるコラーゲンペプチドは、高分子のコラーゲンに比べて水への溶解度が高く低粘度であり、生体内への吸収性が高く、様々な生理効果が期待できることから、機能性素材として飲食品や化粧品分野で盛んに利用されるようになっている。
【0003】
コラーゲンペプチドは、工業的には牛や豚等の家畜や魚を解体、加工する際に副生する骨、腱、皮等から抽出して製造されており、例えば、特許文献1には、魚皮及び/又は魚骨に水を加えて加熱抽出又は加圧加熱抽出し、コラーゲンを含む抽出物を調製する工程と、前記抽出物をタンパク加水分解酵素で酵素分解する工程と、前記抽出物の酵素分解物を食塩阻止率10〜50%の逆浸透膜を用いて濃縮、精製し、固形分中の遊離アミノ酸含量が1.0質量%以下、ヒ素含量が2ppm以下とする工程とを含むことを特徴とする魚類由来のコラーゲンペプチドの製造方法が記載されている。また、コラーゲンペプチドの粉末化方法としては、特許文献2に魚鱗を脱灰した粗コラーゲンを、アルカリ塩を溶解したアルカリ水溶液中、加圧雰囲気下で適度に加水分解したコラーゲンペプチド含有溶液を噴霧乾燥により粉末化するコラーゲンペプチド含有粉末の製造方法が記載されているほか、特許文献3や特許文献4などには、噴霧乾燥に加えてドラム乾燥が適用できることが記載されている。
【0004】
現在市場で流通しているコラーゲンペプチドは、その殆どが噴霧乾燥で粉末化した製品であるが、水に溶解する際、水中への沈降性が悪く、著しくダマを生じ、微小気泡が発生する等、必ずしも水への溶解適性に優れるものではなかった。
【0005】
そこで、水への溶解適性を高めたコラーゲンペプチドとして、例えば、特許文献5にはドラム乾燥によって得られた非多孔質で薄片状のコラーゲンペプチド粉末と結着剤とを造粒したことを特徴とする顆粒状造粒物が記載されている。また、特許文献6には噴霧乾燥によって得られたコラーゲン粉末及びショ糖と結着剤とを造粒して得られる顆粒状造粒物が口腔内における溶解性に優れていることから水無で食するのに好適なものであることが記載されており、このような造粒物は溶解性に優れていることから水に溶解して飲料等にする用途においても利用されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開2003−238597号公報
【特許文献2】特開2004−141007号公報
【特許文献3】特開2008−194010号公報
【特許文献4】国際公開WO2008/059927号公報
【特許文献5】特開2009−171903号公報
【特許文献6】特開2006−34183号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
一般的に、粉体化の手段として噴霧乾燥による場合、その特徴としては、(i)連続操作により大量生産可能、(ii)乾燥速度が速く熱に不安定な物質の乾燥も可能、(iii)球形度が高く自由流動性に富む、(iv)多孔性(ポーラス)になりやすく溶解性に富むことなどが挙げられる。このため、食品業界においても多く利用されており、現在市場で流通しているコラーゲンペプチドの多くが噴霧乾燥により粉末化されている。しかしながら、噴霧乾燥により得られるコラーゲンペプチド粉末は、水への溶解適性に乏しく、飲食品や化粧品への配合において、水に溶解させるのが困難であった。
【0008】
また、粉体化の手段としてドラム乾燥による場合、その特徴としては、(i)幅広い濃度・性状の原液に対して処理が可能、(ii)乾燥速度が速く熱に不安定な物質の乾燥も可能、(iii)伝導受熱式であるため熱効率が良いことなどが挙げられる。このため、比較的分子量が高く噴霧乾燥に適さないコラーゲンペプチドやゼラチンの乾燥方法としてドラム乾燥が用いられることもある。しかしながら、ドラム乾燥は、一般的に処理能力が低いので、乾燥効率を上げるためにドラム上の薄膜をより薄くして原液の加熱効率を高める。このため、ドラム乾燥により得られるコラーゲンペプチド粉末は、水への溶解適性については前述の噴霧乾燥により得られるコラーゲンペプチド粉末よりも優れているが、熱による着色や風味劣化により品質が低下し、飲食品や化粧品への配合において最適ではなかった。
【0009】
また、上記特許文献5や特許文献6記載のコラーゲンペプチド顆粒は、噴霧乾燥やドラム乾燥により得られたコラーゲンペプチド粉末を、単独又は複数の造粒用原材料と混合したものを用いて造粒を行うことにより得られるものであるが、造粒工程の分、手間とコストがコラーゲンペプチド粉末よりも余分にかかるという問題があった。また、コラーゲンペプチド粉末がコラーゲンペプチドを粉体化して得られるのに比べて、コラーゲンペプチド顆粒は造粒のための余分な原材料を配合しなければならないという問題もあった。
【0010】
上記の従来技術にかんがみ、本発明の目的は、水への溶解適性等の品質に優れ、飲食品や化粧品への配合に有利な、コラーゲンペプチド粉体組成物及びその製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記目的を達成するために本発明者らが鋭意研究した結果、真空乾燥により得られたコラーゲンペプチド粉体組成物が水への溶解適性等の品質に優れていることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0012】
すなわち、本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化して得られ、非中空構造を有し、真密度1.2〜1.4g/cmであることを特徴とする。
【0013】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物によれば、コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化するので、その結果得られるコラーゲンペプチドの粉体化物が、通常、噴霧乾燥によるコラーゲンペプチドの粉体化物がとる中空構造を、とらない。なお、中空構造とは噴霧乾燥物に見られる、外部の被膜から成る内部に空間をもつ構造を指す。そして、その真密度は1.2〜1.4g/cmである。これにより、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド粉体組成物が得られる。また、真空乾燥は、噴霧乾燥やドラム乾燥よりも低温で、一連の工程がほぼ真空状態で行われるため、着色や風味劣化を低減させることができ、更に、原料由来の臭気そのものも低減させることができる。したがって、これらの品質の面でも優れたコラーゲンペプチド粉体組成物が得られる。
【0014】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、嵩比重が0.35〜0.55g/cmであることが好ましい。これによれば、水への溶解適性により優れている。
【0015】
また、8メッシュ(開口2,380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが好ましい。
【0016】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、これを、コラーゲンペプチドを含有する溶液を噴霧乾燥により乾燥し、粉体化してなるコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物と混合して、コラーゲンペプチド混合粉体組成物とすることもできる。このコラーゲンペプチド混合粉体組成物によれば、噴霧乾燥によるコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物の水への溶解特性が改善されると共に、真空乾燥によるコラーゲンペプチド粉体組成物自体の水への溶解特性も更に向上させることができる。よって、より低コストで水への溶解適性等の品質に優れたコラーゲンペプチドを提供することが可能である。
【0017】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物やそれを用いた上記コラーゲンペプチド混合粉体組成物は、飲食品の配合原料として好適に用いられる。また、化粧品の配合原料として好適に用いられる。
【0018】
一方、本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物の製造方法は、コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化して、非中空構造を有し、真密度1.2〜1.4g/cmである粉体組成物を得ることを特徴とする。
【0019】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物の製造方法によれば、コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化するので、前述したように、その結果得られるコラーゲンペプチドの粉体化物が、通常、噴霧乾燥によるコラーゲンペプチドの粉体化物がとる中空構造を、とらない。そして、その真密度は1.2〜1.4g/cmである。これにより、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド粉体組成物が得られる。また、前述したように、真空乾燥は、噴霧乾燥やドラム乾燥よりも低温で、一連の工程がほぼ真空状態で行われるため、着色や風味劣化を低減させることができ、更に、原料由来の臭気そのものも低減させることができる。したがって、これらの品質の面でも優れたコラーゲンペプチド粉体組成物が得られる。
【発明の効果】
【0020】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物によれば、コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化するので、その結果得られるコラーゲンペプチドの粉体化物が、通常、噴霧乾燥によるコラーゲンペプチドの粉体化物がとる中空構造を、とらない。これにより、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等、溶解適性に優れたコラーゲンペプチド粉体組成物が得られる。また、真空乾燥は、噴霧乾燥やドラム乾燥よりも低温で、一連の工程がほぼ真空状態で行われるため、着色や風味劣化を低減させることができ、更に、原料由来の臭気そのものも低減させることができる。したがって、これらの品質の面でも優れたコラーゲンペプチド粉体組成物が得られる。
【0021】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、これを、コラーゲンペプチドを含有する溶液を噴霧乾燥により乾燥し、粉体化してなるコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物と混合して、コラーゲンペプチド混合粉体組成物とすることもできる。このコラーゲンペプチド混合粉体組成物によれば、噴霧乾燥によるコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物の水への溶解特性が改善されると共に、真空乾燥によるコラーゲンペプチド粉体組成物自体の水への溶解特性も更に向上させることができる。よって、より低コストで水への溶解適性等の品質に優れたコラーゲンペプチドを提供することが可能である。
【図面の簡単な説明】
【0022】
図1】本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物の一例の電子顕微鏡写真である。
図2】噴霧乾燥法により得られたコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物の一例の電子顕微鏡写真である。
図3】ドラム乾燥法により得られたコラーゲンペプチド・ドラム乾燥粉体組成物の一例の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化してなるものである。
【0024】
コラーゲンペプチドを含有する溶液を真空乾燥により乾燥し、粉体化すると、その粉体化物は、噴霧乾燥によるコラーゲンペプチドの粉体化物がとる中空構造をとらずに、非中空構造となる。本発明においては、そのコラーゲンペプチドの粉体化物からなるコラーゲンペプチド粉体組成物の真密度が1.2〜1.4g/cmである。ここで、真密度とは、粉体の体積のうち物質自身が占める体積だけを密度算定用の体積とする密度のことであり、特に本発明においては、密度算定用の体積として粉体表面と繋がっていない閉気孔は含み、粉体表面と繋がっている開気孔のみを含まない見かけ密度とも呼ばれる密度をいう。真密度はボイルの法則を利用した気相置換法により測定することができる。この真密度が上記範囲よりも低い場合、水に溶解する際、水中への沈降性が悪い、著しくダマを生じる、微小気泡が発生する等の不具合を生じる傾向にあり、上記範囲よりも高い場合、水中への沈降性は良いが、沈降後の溶解性が悪くある傾向にある。
【0025】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、上記のような特徴を有するコラーゲンペプチドの粉体化物からなるので、水への溶解に際し、素早く沈降し、高い溶解性を示し、溶解に伴うダマ及び泡立ちを生じない等、溶解適性に優れている。
【0026】
それに加えて、着色しにくさや風味の点でも優れている。すなわち、従来の噴霧乾燥による乾燥方法は、その原理上、高温の空気と接触するため、風味の劣化を伴い、また、ドラム乾燥は高温のドラム上にコラーゲンペプチド溶液の薄膜を形成するため、着色や風味の劣化を伴うが、真空乾燥は、噴霧乾燥やドラム乾燥よりも低温で、一連の工程がほぼ真空状態で行われるため、着色や風味劣化を低減させるだけでなく、原料由来の臭気そのものも低減したコラーゲンペプチド粉体組成物となる。
【0027】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物において用いられるコラーゲンペプチドは、コラーゲン又はゼラチンを加水分解して得られるペプチドであり、その平均分子量としては、例えばプルランを標準物質としたGPC法での測定による重量平均分子量で、1,000〜10,000であることが好ましく、1,500〜5,000であることがより好ましく、2,000〜4,000であることが特に好ましい。その由来原料は特に限定されず、例えば、哺乳動物や鳥類の骨、皮、もしくは魚類の骨、皮、鱗等が挙げられる。
【0028】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物においては、嵩比重が0.35〜0.55g/cmであることが好ましく、嵩比重が0.40〜0.50g/cmであることがより好ましい。この範囲よりも小さい場合は、水に溶解する際、溶解性は維持するが、水中への沈降性が低下する。また、この範囲よりも大きい場合は、水中への沈降性は良いが、水中での解離が遅くなる為、溶解性が低下する恐れがある。
【0029】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物においては、その粒度が、8メッシュ(開口2,380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが好ましく、16メッシュ(開口990μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることがより好ましく、32メッシュ(開口504μm)をパスし、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが最も好ましい。この範囲の粒度であれば、水への溶解適性により優れている。
【0030】
以下には、本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物を得る方法の一例を説明する。
【0031】
まず、真空乾燥に供するためのコラーゲンペプチドを含有する溶液(以下、コラーゲンペプチド含有溶液という。)を調製する。その方法としては、由来原料や目的等に応じて、当業者に周知の方法を適宜採用すればよい。例えば、魚皮や魚骨を原料とする場合には、特開2003−238597号公報に記載の方法を好ましく採用することができる。すなわち、魚皮及び/又は魚骨に水を加えて加熱抽出又は加圧加熱抽出し、コラーゲンを含む抽出物を調製した後、その抽出物をタンパク加水分解酵素で酵素分解し、これを食塩阻止率10〜50%の逆浸透膜を用いて濃縮、精製し、コラーゲンペプチド含有エキスを得ることができる。このようにして得られたコラーゲンペプチド含有エキスは、魚特有の味や臭い成分(例えば、アミノ酸、オリゴペプチド、核酸、有機酸、ミネラル、揮発性の含硫化合物、脂肪酸、窒素化合物、カルボニル化合物等)やヒ素が除去されている。具体的には、その好ましい条件においては、固形分中の遊離アミノ酸含量が1.0質量%以下、ヒ素含量が2ppm以下となっている。そして、このコラーゲンペプチド含有エキスを、そのまま、又は適宜濃縮、希釈したものを、上記コラーゲンペプチド含有溶液として用いることができる。また、コラーゲンペプチド含有エキスを一度乾燥粉末化したものを水に戻して、上記コラーゲンペプチド含有溶液としてもよい。ただし、その乾燥粉末化にともない着色や風味劣化のおそれがあるので、その工程を経ずに真空乾燥に供することが好ましい。
【0032】
次いで、真空乾燥による乾燥、粉体化を行う。その方法としては、既存の方法を採用すればよく、真空バンド型乾燥機や真空凍結乾燥機、真空ドラム乾燥機等で行うことができる。特に、生産能力に優れている点で、真空バンド型乾燥機であるCVD(連続真空乾燥装置)で行うことが好ましい。
【0033】
真空乾燥の条件については、適宜設定すればよいが、例えば、CVDを用いた場合には次のような態様で行う。
【0034】
まず、乾燥原液となる上記コラーゲンペプチド含有溶液は、ノズルからの吐出、吐出後の乾燥室内への飛散を考慮し、その粘度は1,000〜10,000cpsに調整することが好ましい。通常、CVDを用いた乾燥においては、乾燥原液の粘度を調整するために、増粘剤等の添加剤を使用する。本発明においては、同様に添加剤による粘度調整を行ってもよいが、コラーゲンペプチド含有溶液はその分子量に応じた粘性を有するので、添加剤を使用しなくとも濃縮また希釈を適宜行うことにより粘度の調整が可能である。
【0035】
CVDの乾燥室内部の圧力は30mmHg以下であることが好ましく、10mmHg以下であることがより好ましい。供給する原液の温度は、CVDの乾燥室内部の圧力における沸点以下に設定し、供給後に原液の加熱により温度を上げ、乾燥させることが好ましい。CVDの乾燥室の加熱、冷却は4つの区間で行われ、第1区間での加熱は90〜140℃の条件で、以降の区間では徐々に温度を下げることが好ましい。
【0036】
以上のようにして、多孔性フレーク状のコラーゲンペプチド組成物が得られるので、これを適宜解砕又は粉砕する。解砕又は粉砕の方法に特に制限はなく、当業者に周知の方法によって行うことができる。その際、前述した溶解適性の向上の観点から、その粒度が、8メッシュ(開口2,380μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが好ましく、16メッシュ(開口990μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることがより好ましく、32メッシュ(開口504μm)をパスし、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であることが最も好ましい。
【0037】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、そのまま単独で用いてもよく、また、当業者に周知の造粒加工を行い、水への溶解適性を更に高めることもできる。
【0038】
更に、本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、噴霧乾燥によって得られたコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物と混合することにより、後述する実施例で示すように、コラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物の水への溶解特性が改善されると共に、本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物自体の水への溶解特性も更に向上させることができる。その混合比は本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物100重量部に対し、コラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物が50重量部以下であることが好ましく、25〜50重量部であることがより好ましい。
【0039】
このように相互的に水への溶解特性が高められる理由としては、おそらく、本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物が、噴霧乾燥により粉体化されたコラーゲンペプチドに適度な水中での沈降性を与えることで、水面におけるダマ形成の抑制に寄与し、一方、噴霧乾燥によるコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物が、本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物を構成するコラーゲンペプチドに対し、水中で粉体間に空隙を与えることでダマ形成の抑制に寄与するためであると考えられる。
【0040】
本発明のコラーゲンペプチド粉体組成物は、溶解適性に優れ、着色や原料由来の臭気のが少ないので、飲食品や化粧品の配合原料として好適に用いられる。特に、その製造時又は喫食時に水に溶解する飲食品や、その製造時又は使用時に水に溶解する化粧品に好ましく配合することができる。飲食品としては、例えば、飲料、焼き菓子、冷菓、錠菓、キャンディー、グミ、ゼリー、キャラメル、ジャム、チョコレート、ガム、和菓子(羊羹、モナカなど)、スープ類、パン、各種レトルト食品、魚肉練製品、ハム、ソーセジ類、調味料(出汁つゆ、醤油、味噌など)、サプリメント(カプセル剤、錠剤、顆粒、シロップなど)等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下に例を挙げて本発明について更に具体的に説明する。なお、これらの例は本発明の範囲を限定するものではない。
【0042】
<実施例1>
特開2003−238597号公報に記載の方法に準じて、魚皮に含まれるコラーゲンを抽出、低分子化処理して、コラーゲンペプチド含有エキスを調製した。そのコラーゲンペプチドの重量平均分子量(プルランを標準物質としたGPC法での測定)は、約3,000であった。これを固形分約60質量%まで濃縮し、その濃縮物をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、コラーゲンペプチド粉体組成物を得た。
【0043】
得られたコラーゲンペプチド粉体組成物には着色はなく、その色調は白色から淡黄色であった。また、その粒度は、32メッシュ(開口504μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であった。また、水分は常圧加熱乾燥法で約8質量%、嵩比重は100ml容のステンレス容器を用いた嵩比重測定法で約0.50g/cmであった。
【0044】
得られたコラーゲンペプチド粉体組成物について、その粉体化物の構造を走査型電子顕微鏡で観察した。図1には、その電子顕微鏡写真を示す。その観察によれば、CVDにより真空乾燥したコラーゲンペプチドの粉体化物は、緻密な非中空構造を有する板状構造を形成していることが明らかとなった。
【0045】
<実施例2>
特開2003−238597号公報に記載の方法に準じて、魚皮に含まれるコラーゲンを抽出、低分子化処理して、コラーゲンペプチド含有エキスを調製した。そのコラーゲンペプチドの重量平均分子量(プルランを標準物質としたGPC法での測定)は、約3,000であった。これを固形分約70質量%まで濃縮し、その濃縮物をCVD(連続真空乾燥装置)により乾燥処理してフレーク状組成物を得、これをミルで粉砕して、コラーゲンペプチド粉体組成物を得た。
【0046】
得られたコラーゲンペプチド粉体組成物には着色はなく、その色調は白色から淡黄色であった。また、その粒度は、32メッシュ(開口504μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であった。また、水分は常圧加熱乾燥法で約8質量%、嵩比重は100ml容のステンレス容器を用いた嵩比重測定法で約0.40g/cmであった。
【0047】
得られたコラーゲンペプチド粉体組成物について、その粉体化物の構造を走査型電子顕微鏡で観察したところ、実施例1のコラーゲンペプチド粉体組成物と同様に、緻密な非中空構造を有する板状構造を形成していた。
【0048】
<比較例1>
実施例1と同様に、魚皮から調製したコラーゲンペプチド含有エキスを用いて、噴霧乾燥装置により乾燥処理してコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物を得た。
【0049】
得られたコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物には着色はなく、その色調は白色から淡黄色であった。また、その粒度は、80メッシュ(開口182μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であった。また、水分は常圧加熱乾燥法で約4質量%、嵩比重は100ml容のステンレス容器を用いた嵩比重測定法で約0.40g/cmであった。
【0050】
得られたコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物について、その粉体化物の構造を走査型電子顕微鏡で観察した。図2には、その電子顕微鏡写真を示す。その観察によれば、噴霧乾燥により乾燥したコラーゲンペプチドの粉体化物は、巨大な中空構造を有する粉粒や、表面に皺を有する粉粒が混在した粉粒構造を形成していた。
【0051】
<比較例2>
実施例1と同様に、魚皮から調製したコラーゲンペプチド含有エキスを用いて、ドラム乾燥装置により乾燥処理してコラーゲンペプチド・ドラム乾燥粉体組成物を得た。
【0052】
得られたコラーゲンペプチド・ドラム乾燥粉体組成物は着色し、その色調は黄色であった。また、その粒度は、60メッシュ(開口253μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であった。また、水分は常圧加熱乾燥法で約4質量%、嵩比重は100ml容のステンレス容器を用いた嵩比重測定法で約0.37g/cmであった。
【0053】
得られたコラーゲンペプチド・ドラム乾燥粉体組成物について、その粉体化物の構造を走査型電子顕微鏡で観察した。図3には、その電子顕微鏡写真を示す。その観察によれば、ドラム乾燥により乾燥したコラーゲンペプチドの粉体化物は、非中空構造を有する薄片状の構造を形成していた。
【0054】
<参考例1>
比較例1で得られたコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物を用い、水を結着溶媒として用いて、常法に従い造粒加工して、コラーゲンペプチド顆粒を得た。
【0055】
得られたコラーゲンペプチド顆粒の粒度は、30メッシュ(開口577μm)をパスし、且つ、全体の50質量%以上が150メッシュ(開口104μm)にオンする粉体組成物であった。また、水分は常圧乾燥方法で約5質量%、嵩比重は100ml容のステンレス容器を用いた嵩比重測定法で約0.25g/mlであった。
【0056】
<試験例1>(コラーゲンペプチドの真密度の測定)
実施例1、2及び比較例1,2で得られたコラーゲンペプチド組成物の真密度を気相置換法によって測定した。気相置換法は、具体的には、予め重量を計測した試料を装置内に設置し、一定温度下でヘリウムガスを充填、開放することにより、装置内の圧力から試料の体積を計測し、計測した重量と体積の値から真密度を求めるという方法である。その結果、実施例1、2のコラーゲンペプチド粉体組成物の真密度は1.3g/cmであり、また、比較例2のコラーゲンペプチド・ドラム乾燥粉体組成物の真密度は1.3g/cmであった。一方、比較例1のコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物の真密度は1.0g/cmであった。
【0057】
<試験例2>(コラーゲンペプチドの沈降性)
実施例1、2、比較例1、2及び参考例1で得られたコラーゲンペプチド組成物の各5gを水(25℃)95mlが入った200ml容ビーカーにそれぞれ添加し、その全部が沈降するまでの時間を測定した。その結果、実施例1、2のCVDにより真空乾燥したコラーゲンペプチドは5秒でその全部が沈降した。また、比較例2のコラーゲンペプチド組成物は30秒でその約半分が沈降した。一方、比較例1及び参考例1のコラーゲンペプチド組成物は30秒でそのほとんどが沈降しなかった。
【0058】
<試験例3>(コラーゲンペプチドの溶解性 その1)
実施例1、2、比較例1、2及び参考例1で得られたコラーゲンペプチド組成物の各5gを水(25℃)95mlが入った200ml容ビーカーにそれぞれ添加し、同一の条件で攪拌を行いその全部が溶解するまでの時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0059】
【表1】
【0060】
その結果、実施例1、2、比較例2及び参考例1のコラーゲンペプチド組成物は約1.5分、比較例1のコラーゲンペプチド組成物は約3.0分の溶解時間を要した。
【0061】
<試験例4>(コラーゲンペプチドの泡立ち性)
実施例1、2、比較例1、2及び参考例1で得られたコラーゲンペプチド組成物の各10gと水(25℃)10mlをそれぞれ試験管内に入れ、ボルテックスミキサーにて攪拌・溶解し、その後、泡の消失までの時間を測定した。その結果、実施例1、2のコラーゲンペプチド組成物は、30分で泡が消失した。また、比較例2のコラーゲンペプチド組成物は、60分で約半分の泡が消失した。一方、比較例1及び参考例1のコラーゲンペプチド組成物は、60分でも泡が消失しなかった。
【0062】
<試験例5>(コラーゲンペプチドの低臭気性)
実施例1及び比較例1,2のコラーゲンペプチド組成物について、コラーゲンペプチドに含まれる揮発性成分をガスクロマトグラフィーにより分析し、内部標準物質で補正したピーク全体の面積を香気成分量として比較した。その結果、実施例1のコラーゲンペプチド粉体組成物の香気成分量は、比較例1のコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物、及び比較例2のコラーゲンペプチド・ドラム乾燥粉体組成物の香気成分量に対して、それぞれ約50%及び約25%まで低減していた。また、官能評価でも同様に、実施例1のコラーゲンペプチド粉体組成物の臭いは、比較例1,2のコラーゲンペプチド組成物に比べて、明らかに弱く感じられた。
【0063】
<試験例6>(コラーゲンペプチドの溶解性 その2)
実施例1で得られたコラーゲンペプチド粉体組成物、及び比較例1で得られたコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物を、表2に示す配合で、それぞれ水(25℃)95mlが入った200ml容ビーカーに添加し、同一の条件で攪拌を行いその全部が溶解するまでの時間を測定した。その結果を、参考例1で得られたコラーゲンペプチド顆粒の溶解時間と併せて表2に示す。
【0064】
【表2】
【0065】
その結果、実施例1で得られたコラーゲンペプチド粉体組成物、及び比較例1で得られたコラーゲンペプチド噴霧乾燥粉体組成物を、それぞれ単独で溶解するよりも、それぞれを混在させて溶解したほうが、溶解時間が短くなることが明らかとなった。
<試験例7>(コラーゲンペプチド溶液の着色度)
実施例1、比較例1、2及び参考例1で得られたコラーゲンペプチド組成物の各10gと水(25℃)10mlをそれぞれ試験管内に入れ、ボルテックスミキサーにて攪拌・溶解し、着色度の指標として、420nmの吸光度を測定した。その結果を表3に示す。
【0066】
【表3】
【0067】
その結果、実施例1、比較例1、参考例1で得られたコラーゲンペプチド組成物についてはやや黄色味がかった溶液であり、比較的低い吸光度であった。一方、比較例2で得られたコラーゲンペプチドについては黄色に呈した溶液で、吸光度は他のものと比較して高い値であった。
【0068】
<実施例3>
実施例1で得られたコラーゲンペプチド粉体組成物を用いて、表4に示す配合により各原料を調合して、常法に従って、飲料を製造した。
【0069】
【表4】
【0070】
その結果、コラーゲンペプチドの水への溶解工程において、ダマの発生、気泡による白濁等の不具合は発生せずに、製造は円滑に行われた。また、この飲料はコラーゲンペプチド特有の臭いもなく、非常に飲みやすい飲料であった。
図1
図2
図3