(54)【発明の名称】土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法、土壌ガス中の化学物質の除去期間を計算する方法、及び土壌ガス中の化学物質除去用吸引井の配置を決定する方法
【文献】
日比義彦、他,土壌の通気帯におけるガス成分の分散現象に関する室内実験,土木学会論文集,2007年 2月20日,Vol.63 No.1,P.30−39
【文献】
斉藤雅彦、他,移流分散現象における分散長と透水係数の空間分布特性の関係について,水工学論文集,2005年 2月,第49巻,P.133−138,URL,library.jsce.or.jp/jsce/open/00028/2005/49-0133.pdf
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Curtiss, C. F. and Hirschfelder, J. O.: Transport properties ofmulticomponent gas mixture, Journal of Chemical Physics, Vol.17, pp.550-555,1949.
【非特許文献2】Cunningham, R. E. and Williams, R. J. J.: Diffusion gases and porousmedia, Plenum Press, pp.1-80, 1980.
【非特許文献3】Mason, E. A.: Flow and diffusion of gases in porous media, Journalof Chemical Physics, Vol.46, pp.3199-3216, 1967.
【非特許文献4】Mason, E. A. andMalinauskas, A. P.: Gas transport in porous media: The Dusty gas model,Elsevier, 30-49, 1983.
【非特許文献5】Thorstenson, D. C. and Pollock, D. W.: Gas transport in unsaturatedzones: Multicomponent system and the adequacy of Fick’s Laws, Water ResourcesResearch, Vol.23, No.3, pp.477-507, 1989.
【非特許文献6】Massmann, J. and Farrier, D. F.: Effects of atmospheric pressures ongas transport in the vadose zone, WaterResources Research, Vol.28, No.3, pp.777-791, 1992.
【非特許文献7】Klinkenberg, L. J.: The permeability of porous media to liquids andgases, in Drilling and Production Practice, pp.200-213, 1941.
【非特許文献8】Reinecke, S. A. and Sleep, B. E.: Knudsen diffusion, gaspermeability, and water content in an unconsolidated porous medium, WaterResources Research, Vol.38, No.12, pp.16-1-16-5, 2002.
【非特許文献9】Abu-Ei-Sha’r, W. and Abriola L. M.: Experimental assessment of gastransport mechanism in natural porous media: Parameter evaluation, WaterResources Research, Vol.33, No.4, pp.505-516, 1997.
【非特許文献10】Hibi, Y., K. Fujinawa, S. Nishizaki, K. Okamura, and Tasaki, M.:Investigation for necessity of dispersivity and tortuosity in the Dusty Gasmodel for a binary gas system in soil, Soils and Foundations, Vol.49, No.4,pp.569-581, 2010.
【非特許文献11】Constanza-Robinson, M. S. and Brusseau, M. L.: Gas phase advectionand dispersion in unsaturated porous media, Water Resources Research, Vol.38,No.4, pp.7-1-7-10, 2002.
【非特許文献12】Gidda, T., Cann, D., Stiver, W. H. and Zytner, R. G.: Airflowdispersion in unsaturated soil, Journal of Contaminant Hydrology, Vol.82,pp.118-132, 2006.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
上述のように特定の係数を求めて土壌ガス中の化学物質の移動の予測に用いることの開示はあるが、
(1)障害係数を加味したKnudsen拡散係数、
(2)分子拡散に関する障害係数、及び/又は
(3)機械的分散係数を用いて求めた分散長
を、Fickの法則を用いずに求め、これらの係数を用いて土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法は知られていなかった。ゆえに、従来の技術は多成分ですべての濃度範囲について精度よく予測することができなかったという点で改良の余地があった。
【0010】
土壌の質によって土壌ガス中の化学物質の移動の予測に用いる係数の値は変化するのであるが、土壌の質の変化に対応できる実験系及び数値処理によって得た係数を用いて土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法が望まれていた。同一の実験により、現場土壌についての多くの係数が得られれば予測の精度が上がるからである。
【0011】
更に、精度の良い土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法に基づいた土壌ガス中の化学物質の除去期間を計算する方法及び土壌ガス中の化学物質除去用吸引井の配置を決定する方法が求められていた。
【0012】
そこで、本発明は、土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法、土壌ガス中の化学物質の除去期間を計算する方法、及び土壌ガス中の化学物質除去用吸引井の配置を決定する方法、を提供することを解決すべき課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明は、2成分及びそれ以上の混合ガス系の一次元カラム実験から土壌に関する係数を得て、当該係数を二次元又は三次元の土壌中のガス成分の移動の予測に用いる点に特徴がある。例えば、1次元カラム実験における混合ガス系が3成分である場合は、後述する(51)、(52)、(54)式のν=3とし、最初に入力した初期状態の濃度を基に(54)式により連立方程式を立て、節点k=1〜n、成分i=1〜3のN
Dikを求める。N
Dikを用いて、(51)式に関して連立方程式を立て、節点k=1〜n、成分i=1〜2の濃度C
ikを求める。さらに、(52)式により節点k=1〜nの濃度C
3kを求める。以上のように(54)、(51)、(52)式の計算を繰り返し、各節点の前の繰り返し回数の濃度C
ikと新しく求めた濃度C
ikの差の絶対値が許容値以下になった場合に次の時間ステップに進む。上記の計算を最終時間まで繰り返すという処理をすることによって、特定のガス成分の移動を予測することができる。以上のように、一次元カラム実験に用いる混合ガス系を構成する成分の数は2以上であればよい。本発明は2成分の混合ガス系について説明するが、本発明の技術的範囲は2成分の混合ガス系に限定されない。
【0014】
(第1発明)
上記課題を解決するための本願第1発明の構成は、
土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法であって、
ガス成分1が移流分散する場合に、一次元カラム実験を行って、ガス成分1及びガス成分2についての合成分散係数D
*1及びD
*2を空隙率で除した空隙率除算合成分散係数D’
*1及びD’
*2、並びにモル比x
1及びx
2、カラム中の土壌の空隙率θ
g、をそれぞれ得て、
以下に続く移流分散方程式を解くまでのいずれかの段階で上記D’
*1、及びD’
*2自体又はこれらの項の演算結果から得られる値に空隙率を乗ずることを条件に、
x
1+x
2=1、かつ、α=D
2/D
1として、1/D’
*1とx
1の直線関係の相関式及び1/D’
*2とx
2の直線関係の相関式の連立方程式を解くことによりQ
mD
12、Q
pD
1及びQ
pD
2を求め、
当該Q
mD
12、Q
pD
1、及び/又はQ
pD
2を用いてガス成分1の移流分散方程式を解く土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法である。
なお、上記Q
mは分子拡散に関する障害係数であり、D
12はガス成分1及びガス成分2についての分子拡散係数であり、Q
pはKnudsen拡散に関する障害係数であり、D
1及びD
2はガス成分1及びガス成分2のKnudsen拡散係数である。
【0015】
上記移流分散とは、ガスの流れにより化学物質が土壌ガス中を移動する現象である。
【0016】
拡散係数とは、単位時間当たり、単位濃度勾配に化学物質が移動する面積を意味し、単位は面積/時間となる。
【0017】
上記合成分散係数とは、分子拡散係数、Knudsen拡散係数と機械的分散係数の和となる係数である。
【0018】
後述の通り機械的分散係数はD
Mechで表される。ゆえにΔ
Mechは機械的分散に関する項であり、機械的分散係数を逆数とした際の機械的分散に関する量を意味している。一般的に、機械的分散係数が土の特性で決まることによりトレーサーガスとバックグラウンドガスが入れ替わっても同じ値を示す。
【0019】
上記分子拡散係数とは、分子拡散による化学物質の拡がり易さを表す係数である。分子拡散とは、気体中の分子の熱的運動エネルギーによる不規則な分子の振動が原因で分子と分子が衝突して気体中を広がる現象である。
【0020】
上記Knudsen拡散係数とは、Knudsen拡散による化学物質の広がり易さを表す係数である。化学物質と土粒子の衝突による拡散がKnudsen拡散である。
【0021】
上記分子拡散に関する障害係数とは、分子拡散に関する屈曲度τ
mに空隙率を乗じた値である。
【0022】
上記Knudsen拡散に関する障害係数とは、Knudsen拡散に関する屈曲度τ
Pに空隙率を乗じた値である。
【0023】
空隙率とは、一定の土壌全体の体積に対するガスが占める体積の比である。即ち、空隙とは土壌中におけるガスが占める空間を指す。
【0024】
屈曲度とは、土粒子がない状態の分子拡散係数に対する土壌ガス中の分子拡散係数の比である。土壌ガス中を拡散する化学物質は土粒子により進行を遮られ、土粒子に沿って迂回する必要がある。その際に、土粒子のない状態の拡散係数より遅くなる。この効果を表すのが屈曲度となる。
【0025】
上記「以下に続く移流分散方程式を解くまでのいずれかの段階で上記D’
*1及びD’
*2自体又はこれらの項の演算結果から得られる値に空隙率を乗ずることを条件に」とは、空隙率を乗ずる段階は限定されないことを意味する。例えば、実験により得たD’
*1に空隙率を乗ずればD
*1を得ることができ、1/D’
*1ではなく1/D
*1とx
1の直線関係の相関式を用いて、移流分散方程式を解いても良い。D’
*2についても同様である。
【0026】
(第2発明)
上記課題を解決するための本願第2発明の構成は、
前記一次元カラム実験から更にガス成分1についての合成流速を空隙率で除した空隙率除算合成流速V’
*g1を得て、
前記D’
*1に空隙率を乗じたD
*1の逆数1/D
*1とx
1の直線関係の相関式及び前記D’
*2に空隙率を乗じたD
*2の逆数1/D
*2とx
2の直線関係の相関式が下記「数1」で示される式であり、
更にV’
*g1を用いて解く前記移流分散方程式が下記「数2」で示される式である第1発明に記載の土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法である。
なお、Δ
Mechは機械的分散に関する項であり、C
1はガス成分1のモル濃度であり、tは時間であり、i、j及びkはそれぞれx、y及びz方向の単位ベクトルである。
【0027】
【数1】
【0028】
【数2】
【0029】
第1発明の構成にあるように、第2発明の「数1」に示す各相関式は空隙率を乗ずる前の1/D’
*1及び1/D’
*2でもよい。この場合、「数1」中の第1式の右辺1項は(α―1)x
1/τ
mD
12となり、第2式の右辺1項は(1/α―1)x
2/τ
mD
12となり、第1式と第2式の右辺2項は1/τ
mD
12となり、第1式の右辺3項は1/τ
PD
1となり、第2式の右辺3項は1/τ
PD
1となり、
、第1式と第2式の右辺4項はθ
gΔ
Mechとなる。
【0032】
(第
3発明)
上記課題を解決するための本願第
3発明の構成は、
土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法であって、
ガス成分1が移流分散する場合に、一次元カラム実験を行って、ガス成分1及びガス成分2についての空隙率除算合成分散係数D’
*1及びD’
*2、並びにモル比x
1及びx
2、ガス成分1についての流速V
1、カラム中の土壌の空隙率θ
g、をそれぞれ得て、
以下に続く移流分散方程式を解くまでのいずれかの段階で上記D’
*1及びD’
*2自体又はこれらの項の演算結果に空隙率を乗ずることを条件に、
x
1+x
2=1、かつ、α=D
2/D
1として、1/D’
*1とx
1の直線関係の相関式及び1/D’
*2とx
2の直線関係の相関式の連立方程式を解くことによりQ
mD
12、Q
pD
1及びQ
pD
2を求め、
Q
mD
12を空隙率で除したQ
mD
12’、Q
pD
1を空隙率で除したQ
pD
1’、及びD’
*1についての下記「数3」で示される式から機械的分散係数D
Mech得て、
【数3】
D
MechとV
1の直線関係の相関式D
Mech=m
11V
1におけるm
11を分散長として得て、
当該Q
mD
12、Q
pD
1、Q
pD
2、及び/又はm
11を用いてガス成分1の移流分散方程式を解く土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法である。
なお、上記Q
mは分子拡散に関する障害係数であり、D
12はガス成分1及びガス成分2についての分子拡散係数であり、Q
pはKnudsen拡散に関する障害係数であり、D
1及びD
2はガス成分1及びガス成分2のKnudsen拡散係数である。
【0033】
用語については、上記第1
発明又は第2発明についての意味と同様である。
【0034】
分散長m
11は、移流分散方程式を解くにあたって、D
1*に含まれる機械的分散の項の演算に用いる。好ましい演算式はD
Mech=m
11V
1である。
【0035】
(第
4発明)
上記課題を解決するための本願第
4発明の構成は、
前記一次元カラム実験から更にガス成分1についての空隙率除算合成流速V’
*g1を得て、
前記D’
*1に空隙率を乗じたD
*1の逆数1/D
*1とx
1の直線関係の相関式及び前記D’
*2に空隙率を乗じたD
*2の逆数1/D
*2とx
2の直線関係の相関式が下記「数4」で示される式であり、
更にV’
*g1を用いて解く前記移流分散方程式が下記「数5」で示される式である第
3発明に記載の土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法である。
なお、Δ
Mechは機械的分散に関する項であり、C
1はガス成分1のモル濃度であり、tは時間であり、i、j及びkはそれぞれx、y及びz方向の単位ベクトルである。
【0036】
【数4】
【0037】
【数5】
【0038】
用語については、上記第1〜
3発明についての意味と同様である。
【0039】
(第
5発明)
上記課題を解決するための本願第
5発明の構成は、
現場における土壌中の特定のガス成分の初期濃度を測定し、
当該現場における土壌を用いて一次元カラム実験を行う第1発明〜第
4発明のいずれかに記載の土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法により、土壌中の当該特定のガス成分の濃度が所定濃度に達する期間を計算する土壌ガス中の化学物質の除去期間を計算する方法である。
【0040】
上記初期濃度とは、当該特定ガスが発見され、当該特定ガスの濃度が測定された時点での濃度をいう。
【0041】
(第
6発明)
上記課題を解決するための本願第
6発明の構成は、
現場における土壌中の特定のガス成分を最短期間で所定濃度に達するような吸引井の配置を決定する方法であって、
現場における土壌中の特定のガス成分の初期濃度を測定し、
1又は複数の吸引井の組み合わせのそれぞれのケースにおいて、当該現場における土壌を用いて一次元カラム実験を行う第1発明〜第
4発明のいずれかに記載の土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法により、土壌中の当該特定のガス成分の濃度が所定濃度に達する期間を計算し、
特定のガス成分を最短期間で所定濃度に達するケースを選択して吸引井の配置を決定する土壌ガス中の化学物質除去用吸引井の配置を決定する方法である。
【発明の効果】
【0042】
本発明は、一次元カラム実験から特定の係数を得て、当該係数を二次元又は三次元のガス成分の移動の予測に用いる点に特徴がある。即ち、係数を得る時点では一次元という比較的簡便な系を利用できる点が有利である。
【0043】
(第1発明及び第2発明)
上記第1発明及び第2発明によって、一次元カラム実験の結果より同一の土壌についてのQ
mD
12、Q
pD
1及びQ
pD
2を求めることができる。特に、上記「数1」の連立方程式を解いてQ
mD
12、Q
pD
1及びQ
pD
2を求めることが好ましい。一次元カラム実験からさまざまな土壌の質に対応する係数を得ることが可能であることを本願発明者は見出し、当該実験室レベルで行われる一次元カラム実験から得た係数は、現場土壌における精度の良いガス成分の移動の予測を実現する。特に、第2発明で規定する移流分散方程式を解くことにより、精度の良いガス成分の移動の予測を実現できる。
【0044】
また、上記一次元カラム実験にて得た係数は、機械的分散係数の算出に用いることも可能である。
【0047】
(第
3発明及び第
4発明)
上記第
3発明及び第
4発明によって、まず第1に、同一の土壌についてのQ
mD
12、Q
pD
1、Q
pD
2、V’
*g1及びm
11を一次元カラム実験より導き出すことができる。従来、これらの値を同時に導き出す手法はなかった。更に、これらの係数がすべて同一の一次元カラム実験に基づいているので、現場土壌における精度の良いガス成分の移動の予測を実現することができる。
【0048】
障害係数を加味した分子拡散係数及びKnudsen拡散係数、並びに機械的分散係数を用いて求めた分散長を併用してガス成分の移動の予測を行うことにより、多成分の土壌ガス移動を精度よく把握することができる。
【0049】
(第
5発明及び第
6発明)
第1発明〜第
4発明の土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法は、土壌ガス中の化学物質の除去期間を計算する方法及び土壌ガス中の化学物質除去用吸引井の配置を決定する方法に用いることが可能である。
【0050】
即ち、現場土壌の初期条件を把握した上で、精度良く土壌ガス中の化学物質の移動を予測できるので、ガス吸引法の効果を短期的及び長期的に精度良く予測可能であり、また、浄化効果及び土壌ガス中の汚染物質を除去するための浄化期間を精度良く予測可能である。吸引井の位置、密度、高さ、吸引ガス量などを予測に基づいて決定することで、井戸の設置費と施設のメンテナンス費を考慮した効率的及び経済的なガス吸引法を設計することができる。
【0051】
例えば、ガス田に位置する場所で生じるガス爆発事故は、土壌ガス中のメタンの移動が問題となる。このような場合には事前にガス状に溜っているメタンの箇所、メタンの揮発の程度、地表面から大気にどの程度メタンが放出されるか等を予測することにより排気施設の規模を設計することができ、不要な設備投資を防止した効果的な事前準備が可能となる。
【発明を実施するための形態】
【0053】
以下に、本発明の最良の実施形態を含めて、本発明の実施形態を説明する。
まず、本発明に関する用語の説明をする。
【0054】
本発明において、土壌とは地盤を含む概念である。
【0055】
土壌中は土粒子(土の粒)、水とガスより構成されている。水とガスの空間を間隙と称する。更に、空隙とは土壌中におけるガスが占める空間を指す。深い場所では、一般的に間隙が水で満たされた状態となる。この状態を飽和状態と称する。地表面付近の浅い場所では間隙はガスと水で満たされ、この状態を不飽和状態と称する。なお、土粒子が占める空間を固相、水(液体)の占める範囲を水相(液相)、ガスの占める空間をガス相(気相)と称する。
【0056】
透気試験とは、土壌のガス(ガス相または気相)の占める範囲のガスの通り易さ(通気性)を示す透気係数を求める試験である。ガス中の流速はガスのポテンシャルの勾配と比例関係となり、その比例式の勾配が透気係数となる。単位は速度と同じ長さ/時間である。
【0057】
土壌などの多孔体の流体中の全ポテンシャルは、一般的に圧力ポテンシャルと重力ポテンシャルを加えたものになる。実際には、流体中の圧力が圧力ポテンシャル、流体の密度に重力と基準面からの高さ(鉛直座標)を乗じたものが重力ポテンシャルとなる。ポテンシャル勾配は全ポテンシャルの空間的な勾配となる。
【0058】
フラックスとは、単位時間当たり、単位面積当たり通過する化学物質の量(モルまたは質量)である。
【0059】
気体中の拡散するフラックスについては、拡散の対象となる化学物質の分子量が異なると拡散によるフラックスに影響する。例えば、気体中にAとBという物質が存在していた場合に、AとBの分子量が等しい場合には、AからBへの拡散によるフラックスとBからAへの拡散によるフラックスは等しくなる。しかし、分子量が異なるとこのフラックスは等しくならない、その影響が分子量の違いにより生じる不等分子量フラックスである。
【0060】
土壌中のガスの流れ易さは間隙中にガスが占める体積によって変化する。全体の体積に対するガスが占める体積の比を空隙率と称し、空隙率は間隙の水がない時に最大となり、間隙がすべて水で満たされた時に0となる。相対透過度は、固有透過度に対する実際のガスの透過度の比で表され、空隙率が0の場合に0、水を含まない空隙率が最大の時に1となる。
【0061】
土壌ガス中を拡散する化学物質は土粒子により進行を遮られ、土粒子に沿って迂回する必要がある。その際に、土粒子のない状態の拡散係数より遅くなる。この効果を表すのが屈曲度となり、土粒子がない状態の拡散係数に対する土壌ガス中の拡散係数の比となる。
【0062】
Fickの法則は、2成分の流体中の物質移動を表す法則である。Fickの法則では、任意の化学物質の濃度勾配とフラックスは比例関係となり、その勾配が分子拡散係数または分散係数となる。
【0063】
∇は上記「数2」及び「数5」で示される式であり、i、j及びkはそれぞれx、y及びz方向の単位ベクトルである。Δは差分を表す。
【0064】
移流分散方程式とは、流体中の化学物質およびコロイドの物質移動を表す支配方程式である。Fickの法則、Stefan−Maxwell式またはDusty gasモデルのような流体中の物質移動モデルと質量保存式より求められた支配方程式である。
【0065】
有限要素法は、基本的には近似解が得られる数値解析手法である。解析したい土壌中の範囲(解析領域と称する)に未知変数(ここでは土壌ガス中の濃度やガス圧)を求める点(これを節点と称する)を配置する。近接する節点で囲まれた範囲(これを要素と称する)を決定する。通常、一次元であれば、線の要素となり、要素の両端が節点となる。2次元であれば要素の形は三角形や四角形が用いられて、その頂点が節点となる。解析の作業では、節点の座標と、要素と節点の関係、必要な定数(ここでは分子拡散係数、Knudsen拡散係数など)、境界条件(解析領域の外側との関係)、初期条件(ここでは、最初の濃度や圧力の状態)をコンピューターに入力して計算させる。そうすると節点毎に濃度や圧力などの求めたい値が得られる。
【0066】
有限要素法は基本的に偏微分方程式を近似的に解いている。節点で変数を求めることができるようにすることを離散化と称するが、これを可能としているのは形状関数である。形状関数は要素を構成する節点の未知変数同士を代数方程式で関係付けている。また、節点で未知変数を求めることができるようにしたことで、もとの微分方程式を満たすことができなくなる。そこで、解析領域全体として誤差が最小になるように重み関数を微分方程式に乗じて、解析領域全体で積分する。重み関数の種類は多くあるが、形状関数と同じ関数を用いた場合がガラーキン型有限要素法である。
【0067】
後退差分法:移流分散方程式のように時間項が支配方程式に含まれる場合がある。このような支配方程式を有限要素法で定式化する場合には、時間項に後退差分または中央差分法が用いられる。後退差分法では、時間を任意の間隔で区切る。実際の計算では、初期状態から始まり、順次、時間間隔毎に各節点の未知変数を求める。その際に、時間間隔の中央で代数方程式をたてる手法と求めようとする時間で代数方程式をたてる手法がある。前者を中央差分法、後者を後退差分法と称する。
【0068】
非線形解析:支配方程式に有限要素法を適用すると最終的に節点数に相当する代数方程式が得られ、この代数方程式である連立一次方程式を解くことになる。しかし、未知変数が連立一次方程式の係数に含まれるために一次方程式でなくなる場合が多々ある。この場合を非線形と呼ぶ。連立一次方程式の係数に未知変数を含まない場合を線形と呼び、連立方程式を解くことが可能である。従って、非線形では連立方程式を解くことができない。そこで、非線形を線形化することにより非線形の連立方程式を解く工夫がされている。その手法としては、Picard法またはニュートン・ラプソン法がある。Picard法は、最初に任意の未知変数を仮定し、その値により連立一次方程式の係数を計算し、その係数を用いて連立一次方程式を解く。係数を計算した際に使った未知変数と連立一次方程式を解いて求まった未知変数の差が事前に決めた値以下になれば計算を終了し、そうならない場合には、求まった未知変数により連立一次方程式の係数を計算し、連立一次方程式を解くことにより未知変数を求める。
【0069】
破過曲線:土壌中またはカラム実験のある点における時間と濃度の関係図を示す。
【0070】
本発明における一次元カラム実験は水平で行われることが好ましいが、CO
2及びN
2など分子量の差が小さいガスの系を用いる場合は水平に限定されない。
【0071】
また、本発明において空隙率の求め方は限定されない。一般に利用されている手法にて空隙率を求めればよい。一次元カラム実験においては好ましくは、土壌の重さを土壌の密度で除することより土壌の体積を求め、当該土壌の体積をカラムの容器体積で除することにより空隙率を求めることができる。
【0072】
本発明における化学物質の移動の予測は、二次元又は三次元シミュレーション等とすることができる。
【0073】
なお、本発明の土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法は特に限定されないが、パーソナルコンピュータを用いて行うことが好ましい。プログラムとしては市販され又は配布されているものを適宜使用することも可能である。
【0074】
パーソナルコンピュータを用いて土壌ガス中の化学物質の移動を予測する場合は、一次元カラム実験の条件であるガス採取位置、ガス採取時間、モル濃度、を入力し、後述の(67)式〜(74)式の処理によりD’
*1及び/又はV’
*g1を求め,さらに、マイクロソフトエクセル(マイクロソフト社製)等の図表ソフトを用いてD’
*1とx
1の関係式の勾配m
1と切片Y
1を求め、同様にD’
*2とx
2の関係式の勾配m
2と切片Y
2を求めることが好ましい。もとめたm
1、Y
1、m
2とY
2の値よりQ
mD
12、Q
pD
1、Q
pD
2、及び/又はm
11を必要に応じて演算し、これらの係数を用いて土壌ガス中の化学物質の移動を予測することが好ましい。
【0075】
本発明の土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法は、本発明の効果を妨げない限りにおいて他の方法等と併用することができる。その好適な例として、土壌ガス中の化学物質の除去期間を計算する方法、土壌ガス中の化学物質除去用吸引井の配置を決定する方法がある。
【0076】
土壌中の特定のガス成分の濃度が所定濃度に達する期間を計算する方法としては、後述の(51)式、(52)式、(53)式を例示することができる。
【0077】
当該期間を計算する方法を用いて、各種の吸引井の配置例について土壌中の当該特定のガス成分の濃度が所定濃度に達する期間をそれぞれ計算し、最短期間で所定濃度に達するケースを選択して吸引井の配置を決定することにより、効果的かつ経済的な土壌ガス中の化学物質の除去を達成することができる。
【0078】
〔Dusty Gasモデル〕
Dusty Gasモデルとは、土壌ガス中の化学物質の移動を表す式であり、多成分(複数の化学物質を含む)のガスを取り扱える。Stefan−Maxwell式から誘導され、化学物質の1つが粒子の大きい土粒子であると仮定して誘導される。Stefan−Maxwell式は気体中の化学物質の移動形態を表す式であり、多成分のガスを取り扱えるが、土粒子の存在を考慮していない式である。
【0079】
土壌ガス中の成分iの移動速度(単位cm/s、下記(1)式左辺)は、下記(1)式のように、土壌ガス中の平均移流速度(単位cm/s、下記(1)式右辺第2項)と、それ以外の拡散効果による流速(単位cm/s、下記(1)式右辺第1項)の和と考えられる。なお、平均移流速度は土壌ガス全体としてのポテンシャル勾配により求められ、どの成分の移流についても同じ値となる。
【0080】
拡散流速は分子拡散による流速(単位cm/s、下記(2)式右辺第1項)と不等分子量フラックス効果による流速(単位cm/s、下記(2)式右辺第2項)を含むので、下記(2)式のように分解できる。
【0081】
いま、単位体積当たりn
i(分子数/L)の分子数で分布する成分iが前記成分iの移動速度の流速で移動しているものとすると、その際の成分iのフラックスF
i(分子数/cm
2sec)は下記(3)式のように求められる。
【0082】
ここで,平均移流速度は下記(4)式で表される。ここでνは土壌ガス中の成分数である。(4)式の平均移動速度と成分iの移動速度の差から求められる成分iのフラックスを下記(5)式のようにJ
i(分子数/cm
2sec)とする。
【0083】
n及びモル比を以下の「数6」のようにして、(3)式と(4)式から(5)式は下記(6)式のように変形できる。
【0085】
ここで、J
iはどのような値になるか検討をする。いま、(3)式を(6)式に代入し、すべての成分について(6)式の両辺の和をとると下記の(7)式が得られる。
【0086】
以下の「数7」のようになることにより、(7)式は下記(8)式のようになる
【0088】
成分1と成分2からなる2成分系ですべての成分のJ
iの和が0ということは、成分1から成分2に向かうフラックスJ
iと成分2から成分1に向かうフラックスJ
iの絶対値が等しく逆符号になることを意味する。このことは、J
iが不等分子量フラックスに影響しないFickの法則で表される分子拡散であることを意味する。ここで、J
iの移動速度を前記分子拡散による流速とすれば、J
iは下記(9)式のように表すことができる。
【0089】
さらに、不等分子量フラックスF
Ni(分子数/cm
2sec)は不等分子量フラックス効果による流速を用いて下記(10)式のようになる。
【0090】
また、移流フラックスF
Vi(分子数/cm
2sec)は、土壌ガスのポテンシャル勾配により生じる平均移流速度を用いて下記(11)式ように表される。
【0091】
拡散フラックスF
Di=n
iV
Di(分子数/cm
2sec)、(9)式と(10)式を考慮して、(2)式の両辺にn
iを乗じると下記(12)式を得ることができる。
【0092】
また、(12)式を考慮して、(1)式の両辺にn
iを乗じると下記(13)式を得る。
【0093】
(13)式を(6)式に代入すると下記(14)式を得る。
【0094】
ここで、(14)式の右辺の第4項は以下の「数8」と(11)式により下記(15)式ように変形できる。
【0096】
また、すべての成分について(12)式の両辺の和をとり、(8)式を考慮すると下記(16)式となる。
【0097】
(8)式、(12)式、(15)式と(16)式を(14)式に代入すると下記(17)式が得られる。
【0098】
ここで、J
iは前記のように分子拡散フラックスであり、Fickの法則で表すことができる。成分iとjの2成分のJ
iは下記(18)式のように表される。
【0099】
ここで、D
ijは成分iとjの2成分における分子拡散係数(L
2/T)、τは屈曲度、θ
gはガスが土の中に占める体積比(空隙率)である。(17)式を成分1と成分2の2成分について整理すると下記(19a)式及び(19b)式となり、また、(18)式は下記(20a)式及び(20b)式のようになる。
【0100】
ここで、拡散のみの状態とすると∇n=0となり、n
1+n
2=n、J
1+J
2=0であることよりD
12=D
21となる。
【0101】
(19a)式を下記(21)式のように変形する。x
1+x
2=1であることより(21)式は下記(22)式のようになる。
【0102】
(22)式に(20a)式を代入して整理すると下記(23)式のようになる。
【0103】
ここで、状態方程式n
1=P
1/kTを(23)式に代入すると下記(24a)式のようになる。ここで、kはボルツマン定数(J/K)、Tは温度(k)、P
1は成分1の分圧(Pa)である。同様に成分2についても、P
2を成分2の分圧(Pa)とすると下記(24b)式のように求めることができる。
【0104】
(24a)式及び(24b)式は成分1と成分2の2成分のStefan−Maxwell式となる。
【0105】
3成分における成分1のJ
iを成分1と成分2、成分1と成分3に関するFickの法則に伴う分子拡散フラックスJ
12とJ
13にわけると、J
12とJ
13は下記(25a)式及び(25b)式のように表わすことができる。ここで、n
1,2は成分1と成分2の拡散に関係する単位体積当たりの分子数(分子数/m
3)、n
1,3は成分1と成分3の拡散に関係する単位体積当たりの分子数(分子数/m
3)であり、n
1=n
1,2+n
1,3となる。
【0106】
(25a)式を考慮して成分1と成分2の2成分のStefan−Maxwell式は下記(26a)式となり、成分1と成分3の2成分のStefan−Maxwell式が(23)式より(26b)式のようになる。ここで、P
1,2はn
1,2に対する分圧、P
1,3はn
1,3に対する分圧とし、n
1=n
1,2+n
1,3に対して、P
1=P
1,2+P
1,3であることを考慮して、成分1と成分2の分子の衝突に関するStefan−Maxwell式の(26a)と成分1と成分3の分子の衝突に関するStefan−Maxwell式の(26b)の両辺を加えると下記(27a)式となる。同様に成分2と成分3について求めると以下の(27b)式と(27c)式のようになる。
【0107】
(27a)〜(27c)式は3成分の場合のStefan−Maxwell式となる。この結果よりStefan−Maxwellの一般式は下記(28)式ように表すことができる。
【0108】
3成分のStefan−Maxwell式の(27a)〜(27c)式の内、成分3を土粒子とし、成分3が分子に比較して巨大な粒子とする。この土粒子が動かないものとすると拡散効果による流速は0となり、F
D3=0となる。従って、土粒子がガス中に存在しているものとすると、(27a)〜(27c)式は下記(29a)〜(29c)式のように変形できる。
【0109】
ただし、J
1+J
2=0とFickの法則によりD
12=D
21、D
13=D
31とD
23=D
32になる。(29a)式と(29b)式の両辺の和をとると下記(30)式のようになる。
【0110】
(29c)式と(30)式を比較するとP
3=−(P
1+P
2)となる。ここで、ガス中の全圧をPとすると(29c)式は下記(31)式のようになる。(31)式に示すD
13とD
23は土粒子と成分1または成分2の拡散係数となるので、土粒子と成分1または成分2との衝突を意味する。このことは、D
13が成分1のKnudsen拡散係数であり、D
23が成分2のKnudsen拡散係数であることを意味する。当該D
13は前記第1発明〜第7発明におけるD
1となり、当該D
23は前記第1発明〜第7発明におけるD
2となる。ここで、n’=n
1+n
2、x
1’=n
1/n’、x
2’=n
2/n’とし、屈曲度τを考慮するとx
1=n
1/n、x
2=n
2/nとx
3=n
3/nより(29a)式、(29b)式及び(31)式は下記(32a)〜(32c)式のようになる。なお、上記n’は単位体積当りのガス成分全体の分子数であり、x
1’はガス中の成分1のモル比である。
【0111】
ここで、Q
m=nτθ
g/n’、Q
p=nτθ
g/n
3とすると(29a)〜(29c)式は下記(33a)〜(33c)式のようになる。
【0112】
(33a)式と(33b)式は2成分のDusty Gasモデルと呼ばれる式となり、Dusty Gasモデルの一般式は下記(34)式のようになる。ここで、D
iは成分iのKnudsen拡散係数である。Q
mは分子拡散に関する障害係数であり、Q
pはKnudsen拡散に関する障害係数である。Q
mとQ
pは屈曲度とは異なる。
以下に、(1)式〜(34)式を列挙する。
【0117】
〔土壌ガス多成分物質移動解析〕
土壌ガス多成分物質移動解析とは、コンピューターを用いた数値解析により土壌ガス中の化学物質の移動形態を求める解析である。
【0118】
土壌ガス中のガスの流れの式は下記(35)式に示すダルシーの法則に従う。ここで、V
gは土壌ガスの流速(cm/s);k
sは固有透過度(m
2)、K
rgは固有透過度に対する相対透過度(無次元)、μ
gは混合ガスの粘性係数(Pa・s)、P
gは土壌ガス中の全圧(Pa)、ρ
gは混合ガスの密度(g/cm
3)、gは重力加速度(m/s
2)、zは鉛直座標で上向きをプラスとする。
【0119】
ダルシーの法則は、土壌などの多孔体中の流体の運動方程式となる。多孔体の流体中のポテンシャル勾配と多孔体中の流体の流速が比例関係となり、その勾配は固有透過度に比例し、流体の粘性係数に反比例する。固有透過度とは、流体に関係なく土壌などの多孔体中の流体の通り易さを示す係数であり、単位は面積となる。固有透過度に水の密度と重力加速を掛け、水の粘性係数で割ったものが透水係数となる。透水係数の単位は長さ/時間である。また、固有透過度に水の密度(空気の密度の場合もある)と重力加速を掛け、空気の粘性係数で割ったものが透気係数となる。
【0120】
今、土壌ガスの流速が遅く、かつ、土壌ガスの圧縮性と土壌の圧縮性を無視すると、上記のダルシーの流速と質量保存の法則より土壌ガスの流れの支配方程式を下記(36)式のように表すことができる。ここで、tは時間(s)、θ
gは土中にガスが占める体積比の空隙率(無次元)である。
【0121】
混合ガスの密度は、混合ガスを構成する各分子の分子量(g/mol)とモル濃度(mol/L)を用いて下記(37)式より算出することができる。ここで、C
iは成分i各成分のモル濃度(mol/L)、M
iは成分iの各分子の分子量(g/mol)となり、νは土壌ガスの成分数である。
【0122】
また、混合ガスの粘性係数は、下記(38)式により計算することができる。ここで、x
giとμ
giは、それぞれ、ガス成分iのモル比(無次元)と粘性係数(Pa・s)である。
【0123】
(38)式における下記「数13」で示される項は、成分iの分子量と成分jの分子量より下記(39)式を用いて求めることがきる。
【0125】
(34)式の成分iとjの分子数フラックスを拡散モルフラックスN
DiとN
Dj(mol/cm
2s)とすると、Dusty gasモデルは下記(40)式のように表される。ここで、Rは気体定数(J/molK)である。
【0126】
土壌ガス中の成分iの移流分散方程式は下記(41)式のようになる。ここで、V
gC
iとJ
mechiは、それぞれ、成分iの移流と機械的分散のフラックスを示す。
【0127】
(40)式にC
i=P
i/RTを代入すると下記(42)式が得られる。(42)式の両辺の総和をとり、式を整理すると下記(43)式を得ることができる。(43)式を(42)式に代入して、成分iの拡散モルフラックスN
Djを求めると下記(44)式のようになる。ここで、Dc
ijは下記「数14」となる。
【0129】
成分iの全モルフラックスは移流モルフラックスV
gC
i、機械的分散フラックスと拡散モルフラックスN
Djの合計となる。V
gに(35)式のダルシーの法則を適用するとV
gC
iは、下記(45)式のように表される。
【0130】
成分iの全モルフラックスN
Tjは、機械的分散フラックス−D
Mech∇C
i、(44)式と(45)式を加えることにより下記(46)式のように求めることができる。(46)式の右辺の第1項が機械的分散、分子拡散とKnudsen拡散を考慮した分散項となり、第2項は分子拡散、Knudsen拡散、ダルシー流速による分子の移動と他の成分の拡散モルフラックスの影響を受けた移流項となる。
【0131】
ここで、D
*iとV
*giをそれぞれ合成分散係数(cm
2/s)と合成流速(cm/s)と称し、以下の(47a)及び(47b)式により定義する。
【0132】
(47)式を(46)式に代入すると全モル流束N
Tjは下記(48)式のように示すことができる。(48)式を質量保存式に代入すると、下記(49)式の移流分散方程式を得ることができる。
【0133】
(49)式の左辺に特性曲線型有限要素法が適用されると、下記(50)式のように(49)式の左辺を表すことができる。特性曲線型有限要素法は移流分散方程式(移流分散方程式を参照)を解く手法として開発された。移流分散方程式の拡散または分散項を有限要素法により離散化(有限要素法を参照)し、時間を後退差分法または中央差分法(有限要素法を参照)で離散化する。移流項については、移動粒子を用いない特性曲線法を用いる。特性曲線法では、現在計算しようとする点が、前の計算時刻にどの位置となり、また、どのような濃度になっていたかを調べて、現在の時刻の濃度を計算する手法である。以下の式の説明では、これらの処理の内容を考慮して式中の項の定義をする。例えば、nは分子数,molではなく、総節点数を示す。
【0134】
(50)式で、nは総節点数、Φ
kは形状関数、x
k,y
kとz
kは節点kの座標を示し、V
gx、V
gyとV
gzはx、yとz方向の合成流速(cm/s)、Δtは時間間隔(s)を表す。また、C
ik(x
k,y
k,z
k,t+Δt)は、時間t+Δt、節点kにおける成分iのモル濃度(mol/L)を表し、C
ik(x
k-V
*gxΔt,y
k-V
*gyΔt,z
k-V
*gzΔt,t)は、時間t、座標x=x
k-V
*gxΔt、y=y
k-V
*gyΔt、z=z
k-V
*gzΔtにおける成分iのモル濃度(mol/L)を表す。
【0135】
(49)式の右辺に有限要素法を適用し、時間に関する離散化に後退差分法、非線形解析にPicard法を適用すると、(50)式を考慮して(49)式は以下の(51)式のようになる。ここで、Aは解析領域(m
3)、下記「数15」で示される項は成分i、時間t+Δt、繰り返し回数mにおける合成拡散係数の要素毎の平均、上付き文字のmはPicard法の繰り返し回数を意味する。また、Ωは境界表面(m
2)、下記「数16」で示される項は境界における成分のiのモルフラックス(mol/cm
2s)、下記「数17」で示される項の太字のnは境界面の単位法線ベクトルである。
【0139】
成分1〜ν-1のモル濃度は、(51)式より得ることができる。また、成分νのモル濃度は成分1〜ν-1のモル濃度を用いて、下記(52)式により求めることができる。ここで、下記「数18」で示される項は節点kの成分νのモル濃度(mol/L)である。
【0141】
しかし、(51)式を解くためには、(47b)式の拡散モルフラックスN
Dkを下記の(53)式より求める必要がある。ガラーキン型有限要素法を用いて(43)式と(53)式を定式化すると以下の(54a)及び(54b)式のようになる。
【0142】
ここで、下記「数19」で示される項は時間t+Δt、Picard法の繰り返し回数mのモル比の要素平均であり、下記「数20」で示される項は空隙率の要素平均となる。また、下記「数21」で示される項は時間t+Δt、Picard法の繰り返し回数mの要素平均の密度である。
【0146】
(54)式によって、各成分の拡散モルフラックスを計算した後に、(51)式と(52)式により各成分のモル濃度を計算する。ガスの全圧と流速は、前述の(36)式をガラーキン型有限要素法で定式化して求めることができる。
以下に、(35)式〜(54b)式を列挙する。
【0150】
〔分散係数とKnudsen拡散係数の算出方法〕
土中ガス中の2成分のDusty Gasモデルは、(33a)及び(33b)式により表すことができる。Q
mとQ
pは、上述したように物質が拡散する際に土粒子により遮断され拡散する速度が遅くなることを考慮する係数である。分子拡散に関する屈曲度(無次元)は、(32a)式と(32b)式中の分子拡散係数D
12に関する項よりτ
m=nτ/n’、また、(32a)式、(32b)式と(32c)中のKnudsen拡散係数D
13(前記第1発明〜第7発明におけるD
1)またはD
23(前記第1発明〜第7発明におけるD
2)に関する項よりKnudsen拡散に関する屈曲度はτ
p=nτ/n
3となる。従って、Q
mとQ
pは空隙率θ
gとτ
pまたはτ
mを用いて下記(55a)及び(55b)式のように表される。
【0151】
(46)式、(47)式とP
g=CRTによると、成分1の全モルフラックスN
T1は下記(56)式となる。
【0152】
なお、(56)式の中の成分1の合成分散係数D
*1と合成流速V
*g1は下記(57a)式、(57b)式となる。
【0153】
(56)式を成分1の質量保存式に代入すれば下記(58)式を得る。(58)式は、Dusty gasモデルを考慮した成分1に関する移流分散方程式となる。ここで,D’
*1=D
*1/θ
g、V’
*g1=V
*g1/θ
gとする。
【0154】
後述の実施例では、一次元カラム実験結果より(58)式のD’
*1とV’
*g1を求め,さらにそれらの値よりQ
mD
12、Q
pD
1とQ
pD
2を求めた。(57a)式の両辺の逆数をとり、x
1+x
2=1と、Δ
Mechが機械的分散係数D
Mechに関する項であることを考慮し、α=D
2/D
1として整理すると下記(59)式が得られる。Δ
Mechは機械的分散に関する項であり、D
*1及びD
*2を逆数とした際の機械的分散に関する量を意味している。ここで、Q
mは分子拡散に関する障害係数であり、D
12はガス成分1及びガス成分2についての分子拡散係数であり、Q
pはKnudsen拡散に関する障害係数であり、D
1及びD
2はガス成分1及びガス成分2のKnudsen拡散係数である。
【0155】
同様に成分2についても求めると下記(60)式のようになる。
【0156】
実験結果で成分1のx
1と1/D
*1および成分2のx
2と1/D
*2の関係に直線関係が得られればそれぞれの勾配m
1とm
2を下記(61a)及び(61b)式のように定義する。
【0157】
(61a)式を下記(62)式のように変形する。(62)式を(61b)式に代入すると下記(63)式のようになる。
【0158】
Q
mD
12≠0となることより、(63)式を変形した下記(64)式よりQ
mD
12を求めることができる。αはm
1とQ
mD
12により上記の(62)式より求められる。
【0159】
x
1と1/D
*1の相関関係の直線の切片をY
1=1/Q
mD
12+1/Q
pD
1+Δ
Mechとし、x
2と1/D
*2の相関関係の直線の切片Y
2=1/Q
mD
12+1/Q
pD
2+Δ
Mechとする。α=D
2/D
1を考慮して、Y
1からY
2を減じて整理してQ
pD
1を求めると下記(65)式のようになる。
【0160】
さらに、Q
pD
2はQ
pD
1とαにより下記(66)式から求められる。
【0161】
(58)式の移流項と拡散項に特性曲線型有限要素を適用し、時間の離散化に後退差分法を適用すると下記(67)式が導かれる。
【0162】
ここで、V’
*g1x、V’
*g1yとV’
*g1zはx、yとz方向の空隙率を考慮した成分1の合成流速(cm/s)、C
1k(x
k,y
k,z
k,t+Δt)は時間t+Δtにおける節点kの成分1のモル濃度(mol/L
3)、C
1k(x
k-V’
*g1xΔt,y
k-V’
*g1yΔt,z
k-V’
*g1zΔt,t)は時間tにおける座標x=x
k-V’
*g1xΔt、y=y
k-V’
*g1yΔt、z=z
k-V’
*g1zΔtでの成分1のモル濃度である。また、下記「数25」で示される項は成分1の境界における物質流束(mol/cm
2s)である。
【0164】
(67)式のD’
*1とV’
*g1に関する最適化問題を解くためにPowellの共役方向法を用いる。Powellの共役方向法では下記(68)式のJ関数を最小にする共役方向ベクトルを求めて最適化問題を解くことになる。ここで、下記「数26」で示される項は実験より求められた濃度であり、C
1iは(67)式により求められた濃度であり、oは実験結果のデータ数である。
【0166】
(67)式に含まれるD’
*1とV’
*g1が(68)式を最小になるように選ばれる必要がある。そこで、繰り返し回数lのステップ幅β
lと共役方向ベクトルd
lを用いて繰り返し回数l+1のD’
*1とV’
*g1を下記(69a)及び(69b)式のように表す。ここでは、D’
*1を一定としてPowellの共役方向法を用いてV’
*g1のみを最初に決定する。V’
*g1を決定後、同様にPowellの共役方向法を用いてD’
*1を求める。D’
*1とV’
*g1が許容誤差に収束するまで計算を繰り返す。
【0167】
Powellの共役方向法では最初に線形独立となるようにl=1の方向ベクトルd
10、d
11、d
12・・・・d
1m−1とV’
*g1とD’
*1の初期値を設定する。ここで、d
1m−1におけるmは同定しようとするパラメーター数である。ベクトルy
10を下記(70)式のようにする。
【0168】
そして、1次元探査問題の2次補間法を用いてステップ幅β
1iを求め、下記(71)式をi=0〜m−1まで繰り返してy
1mを求める。
【0169】
y
1mを求めた後、共役方向ベクトルをd
1m=y
1m−y
10により求める。さらに、一次元探査問題の2次補間法を用いてβ
1mを決め、l=2のD’
*1またはV’
*g1を求める(下記(72a)及び(72b)式)。
【0170】
D’
*1またはV’
*g1の値が許容値以内に収束すれば計算を終了する。収束しない場合には、d
2i=d
1i+1(i=0〜m−1)として(71)式によりy
2i+1を求め、d
2m=y
2m−y
20によりl=3のD’
*31またはV’
*3g1を求める。これを、以下のD’
*l+11またはV’
*l+1g1の値が収束するまで繰り返す(下記(73a)及び(73b)式)。
【0171】
(71)式のβ
1im、(72)式のβ
1mと(73)式のβ
lmの値を求める際の1次元探査問題の2次補間法では、まず、最初にステップ幅をa、bおよびcとする。ただし、a<b<cである。ステップ幅がa、bおよびcにおけるD’
*1またはV’
*g1の値を(69)式、(71)式、(72)式または(73)式により求め、(68)式のJ関数を計算する。J関数がJ(c)>J(b)を満たした時に下記(74)式により最適なステップ幅(記号は下記「数27」に示す)を求める。ただし、下記「数28」に示す条件となった場合には(74)式の「数27」で示される項が最適なステップ幅となるが、そうでない場合には下記「数29」で示されるようになる。
【0175】
(67)式の逆解析によって得られたD’
*1とD’
*2によりx
1とD’
*1の関係式とx
2とD’
*2の関係式を求め、それぞれの関係式の勾配と(64)式によりQ
mD
12を求める。ただし、この場合のQ
mD
12はθで除したQ
mD’
12となる。Q
mD’
12を土粒子などの障害物の影響を受けない気体中の分子拡散係数D
12で除すれば下記(75)式のように拡散に関する屈曲度を得ることができる。
【0176】
トレーサーガスが二酸化炭素の場合の機械的分散係数D
Mechは、空隙率除算合成分散係数D’
*1、Q
mD
12を空隙率で除した空隙率除算Q
mD’
12とQ
pD
1を空隙率で除した空隙率除算Q
pD’
1により下記(76)式で表される。
【0177】
上記の機械的分散係数D
Mechと土壌ガス中の流速の直線回帰式を求めることにより分散長(cm)を得ることができる。
以下に、(55a)式〜(76)式を列挙する。
【0180】
得た係数や分散長を移流分散方程式を解くために用いることにより、精度の良い土壌ガス中の化学物質の移動を予測する方法を実現できる。
【0181】
〔現場土壌のサンプリング〕
本発明の実験方法を現場土壌の調査・試験で用いる場合には、実施例で用いた乱した試料と乱さない試料を用いることが可能である。
【0182】
乱した試料については、地表面付近であればスコップなどにより現位置で採取し、また、深い箇所の試料については、ボーリングによるオールコア(コアパックサンプラー、シングルコアチューブなど)で採取し、ビニール袋に密封して試験室に移送する。移送した試料は、天日干しまたは炉乾燥により乾燥させて、実施例のように、実際の土壌と同等な間隙になるように締め固める。
【0183】
乱さない試料は、一般的な地質調査と同様に、ボーリングを利用するトリプルチューブサンプリングとシンウォールチューブサンプリングを用いて採取されることが可能であり、実験に利用されることができる。採取した試料は、採取後に冷凍庫に移送されて、凍結される(砂の液状化試験では、一般的に行われている)。凍結した試料を試験室に移送し、凍結した試料の表面をドライアーなどで溶かしてエッジなどで試料表面を削る。直径が4.0cmになるまで削り、カラムに挿入する。カラムと試料の隙間はパラフィンを流し込みシールする。凍結した試料が溶解した後に、トレーサー実験を行う。
【実施例】
【0184】
以下に、本発明の実施例を説明する。本発明の技術的範囲は以下の実施例に限定されない。
【0185】
〔一次元カラム実験結果と土壌ガス多成分物質移動解析の比較〕
(36)式と(51)、(52)、(54)式を用いた土壌ガス多成分物質移動解析の精度の検証を、
図1に示す圧力計2とガス採取口P1〜5を装着したカラム装置を用いた実験結果と解析結果を比較することによって行った。当該カラム装置は当業者に知られた構造のものであり、
図1は簡略化・模式化した断面図である。
図1中区間を示す矢印近傍の数値は長さ(cm)を示す。
【0186】
図1に示すカラム装置と実験について簡単に説明する。右側のガス流入側の三方バルブ4を操作することにより、分岐部5を通して全体に一様にトレーサーガスをカラム1内に導入する。トレーサーガスは図右側から左側流れ、左側のガス排出口8より排出される。P1〜P5はガス採取口であり、後述する所定のガス採取口よりシリンジを用いてガスを採取し、ガスクロマトグラフによりガス組成を解析した。
【0187】
実験では、最初に、平均粒径0.172mm、土粒子の密度が2.69g/cm
3となる豊浦砂を
図1に示す直径5cm、長さ90cmのカラム1内に詰めた。カラム1内に詰めた豊浦砂の空隙率と固有透過度を表1に示す。
【0188】
【表1】
【0189】
−実験手順−
豊浦砂を詰めた後に、
図1に示すようにカラム装置を組み立て、ガス流入口とガス流出口の差圧によりカラム内のガスの流れを生じさせた。この時点では、カラム1内の土壌ガスは空気となる。カラム1内のガス圧を圧力計2で測定することによりガスの流れが安定したことを確認した後、ガス採取口P2とP3においてカラム1内のガスを採取した。採取したガスは、ガスクロマトグラフにより分析を行った。ガス採取口P2とP3におけるトレーサーガスを流す前の窒素と酸素のモル濃度を測定した。
【0190】
その後、各トレーサーガスを流し、所定の時間にガス採取口P2とP3においてカラム1内のガスを採取した。採取したガスはガスクロマトグラフにより分析され、トレーサーガス、酸素、窒素のモル濃度を求めた。なお、トレーサーガスとしてはメタンと二酸化炭素とし、メタンの場合の流入口と流出口の差圧を0.396kPa、二酸化炭素の場合に3.748kPaとした。
【0191】
−解析及び結果−
(36)式と(51)、(52)、(54)式を用いた土壌ガス多成分物質移動解析に用いるガスの特性および試料の特性を上記表1に示す。なお、実際にガスが流れる空隙である有効空隙率としてトレーサーガスがメタンの場合に0.36、二酸化炭素の場合に0.35を用いた。表1に示す分子量、分子拡散係数は「The properties of Gas and Liquids」 Poling、Prausnitz、 O‘Connel著 McGrawHill出版」に記載された一般値であり、Knudsen拡散係数は固有透過度より推定する手法で求められた値である。
【0192】
また、今回の解析ではカラムの大きさと同じ長さ90cm×幅5cmを解析領域とし、この領域を節点数362、長さ0.5cm×幅5cm(カラムの幅)の長方形要素361により分割した。境界条件としては、流入口と流出口の圧力を表2に示す値とし、流入口を除くカラム内の圧力は流出口の圧力と同じとした。流入口の各成分の濃度は、実験結果より得られた各成分の濃度から表2に示すように決定した。流入口を除く、カラム内のガス成分は酸素と窒素とする。解析で得られたガス圧から状態方程式により全成分のモル濃度を求めて、実験結果より得られている酸素と窒素のモル濃度の比1:3.4を用いてカラム内の酸素と窒素の濃度を求めた。
【0193】
【表2】
【0194】
以上の条件で土壌ガス多成分物質移動解析より得られたガス採取口P2とP3の破過曲線を実験結果と併せて
図2に示した。また、
図2(a)によるとトレーサーガスがメタンの場合にガス採取口P3にて、解析結果と実験結果のメタンと窒素の濃度に若干のずれが生じたが、その他のトレーサーガスがメタンの場合の破過曲線は実験結果とよく一致した。また、トレーサーガスが二酸化炭素の場合については、
図2(b)によると解析結果と実験結果がよく一致していることがわかる。
【0195】
即ち、予め得た分子拡散係数及びKnudsen拡散係数を用いて、
(36)式と(51)、(52)、(54)式を用いた土壌ガス多成分物質移動解析(順解析)は精度良くトレーサーガスの移動を予測した。よって、逆解析で得た係数の信頼性の確認に当該一次元カラム実験が適していることが証明された。また、一次元カラム実験から得られる係数は精度の良い土壌ガス多成分物質移動解析(順解析)を実現することが示された。
【0196】
〔逆解析〕
−実験方法−
1/D
*1とx
1の相関式及び1/D
*2とx
2の相関式を得るために
図3に示す一次元カラム(アクリル製,外形70mm、内径50mm、長さ90cm)を用いて二酸化炭素と窒素の2成分のカラム実験を行った。当該カラム装置は当業者に知られた構造のものであり、
図3は簡略化・模式化した断面図である。
【0197】
また、実験に用いた土質試料として、乾燥した豊浦砂(土粒子の密度2.65g/cm
3)と乾燥した豊浦砂とベントナイト(土粒子の密度2.6g/cm
3)を質量比4:1で混合した混合土を用いた。これ以降、ここでは、豊浦砂を標準砂、豊浦砂とベントナイトの混合土を標準砂+ベントナイトと称する。
【0198】
カラム11の5箇所に設置した電気式圧力計12とデータロガー24によりカラム11内のガス圧を自動計測した。さらに、カラム11の13箇所にガス採取口19を設置し、カラム11内のガスをガスシリンジで採取した。採取したガスは、ガスクロマトグラフ((株)ジエイサイエンスラボ GC7000T 熱伝導検出器)により分析し、各ガス成分の濃度をモル濃度で求めた。
【0199】
−実験手順−
図3に示す金網17間に試料を詰めた。ガスは、
図3のカラムの右側のガスタンクから供給され、カラム11左側の流量計23側へ流した。
【0200】
カラム装置の組み立てを終了した後、カラム11の右側にある三方バルブ14をバックグランドガス側に切り替え、圧力調整器20によりバックグランドガスをカラム11内へと流した。バックグランドガスを3〜6時間流した後(カラムの平衡化)、カラム11内のガスをカラム中央、両端のガス採取口19からシリンジにより採取し、バックグランドガス以外の成分のガスがカラム内に存在しないことをガスクロマトグラフにより確認した。
【0201】
バックグランドガスによりカラム11内が満たされた後、三方バルブ14をトレーサーガスタンク25側に切り替えてカラム11内にトレーサーガスを流した。トレーサーガスをカラム11内に流入させた後、所定の時間にすべてのガス採取口よりガスを採取してガスクロマトグラフによりカラム11内の二酸化炭素と窒素の濃度を分析した(以降、この実験をトレーサー実験と称する)。トレーサー実験のガスシリンジによるガスの採取量は0.15mlとした。トレーサー実験は20℃の恒温室で行われた。また、トレーサー実験の際には、各成分のモル濃度、モル比を求めるために全圧が必要となるので気圧計により気圧を測定した。カラム11内の全圧は気圧計により測定された気圧と圧力計12により測定された圧力の合計とした。
【0202】
−解析及び結果−
今回の実験では、表3に示すように標準砂と標準砂+ベントナイトの試料について、バックグランドガスを二酸化炭素、トレーサーガスを窒素とした場合とその逆の場合についてトレーサー実験を行った。なお、標準砂の場合には圧力差は0.2、0.3、0.4と0.5kPa、標準砂+ベントナイトの場合には1.8、2.8と3.8kPaとし、同じ圧力差について3または4回実験を繰り返した。
【0203】
【表3】
【0204】
トレーサー実験より得られた破過曲線の例として、試料が標準砂+ベントナイト、圧力差が2.8kPa、トレーサーガスが二酸化炭素、バックグランドガスが窒素とその逆の組み合わせによる実験結果を
図4に示す。なお、両者ともにガス採取時間はトレーサーガス注入から720秒である。
【0205】
トレーサー実験により得られた破過曲線に最適化するように逆解析プログラム((67)式〜(74)式)を用いて空隙率除算合成分散係数D’
*CO2やD’
*N2と空隙率除算合成流速V’
*gCO2やV’
*gN2を求めた。逆解析プログラムでは一次元領域を扱うためにカラム全長90cmを解析領域とし、1cmピッチで解析領域を分割した。その結果、節点数は91、要素数は90となった。なお、今回採用した分割よりさらに細かく分割しても順解析結果に変化がないことを確認した。さらに、トレーサーガスのモル比による流速変化や不等モル流による合成分散係数の変化を考慮するために、2成分の境界の解析領域をモル比0〜0.3、0.2〜0.7、0.7〜1.0の範囲を目安に3つのグループに分け、それぞれにおいて空隙率除算合成分散係数と空隙率除算合成流速を求めた。グループの範囲のモル比の中央値と逆解析により求めた空隙率除算合成分散係数を
図5(標準砂)と
図6(標準砂+ベントナイト)にプロットした。
【0206】
1/D’
*CO2や1/D’
*N2と各トレーサーガスのモル比の関係を
図5と
図6に示す。なお、D’
*CO2及びD’
*N2については、空隙率を乗ずればD
*CO2及びD
*N2となる。本実施例においては、直接、逆解析結果を用いることができるという理由により、D’
*CO2や1/D’
*N2にて処理を進める。
【0207】
図5には、標準砂の場合のトレーサーガスのモル比と合成分散係数の逆数との関係を示す。
図5によると、トレーサーガスが二酸化炭素の場合のどの圧力差でも、二酸化炭素のモル比が増加するのに伴って空隙率除算合成分散係数の逆数は増加する。一方、トレーサーガスが窒素の場合には窒素のモル比が増加するのに伴って空隙率除算合成分散係数の逆数が減少することが分かる。トレーサーガスのモル濃度が0.2以上では、トレーサーガスのモル比と空隙率除算合成分散係数の逆数の相関が直線関係で表される。その相関係数は、トレーサーガスが二酸化炭素の場合の圧力差0.5kPaを除いて0.664〜0.828となり、トレーサーガスのモル比と空隙率除算合成分散係数の逆数に相関性があると考えられる。トレーサーガスが窒素の場合には、トレーサーガスのモル比と空隙率除算合成分散係数の逆数の相関は0.735〜0.957となり、両者の相関性は高いと考えられる。
【0208】
図5における各トレーサーガスについての相関式は以下の通りである。
図5左上(ΔP=0.2kPa) トレーサーガスCO
2:1/D’
*CO2=7.19X
CO2+5.80(R
2=0.828)、トレーサーガスN
2:1/D’
*N2=−3.52X
N2+5.52(R
2=0.764)
図5右上(ΔP=0.3kPa) トレーサーガスCO
2:1/D’
*CO2=6.68X
CO2+6.62(R
2=0.664)、トレーサーガスN
2:1/D’
*N2=−3.85X
N2+4.97(R
2=0.957)
図5左下(ΔP=0.4kPa) トレーサーガスCO
2:1/D’
*CO2=6.52X
CO2+4.46(R
2=0.701)、トレーサーガスN
2:1/D’
*N2=−3.61X
N2+4.09(R
2=0.735)
図5右下(ΔP=0.5kPa) トレーサーガスCO
2:1/D’
*CO2=5.35X
CO2+5.65(R
2=0.442)、トレーサーガスN
2:1/D’
*N2=−3.84X
N2+5.37(R
2=0.922)
【0209】
図6には、標準砂+ベントナイトの場合のトレーサーガスのモル比と合成分散係数の逆数との関係を示す。
図6によると、標準砂の場合と同様に、トレーサーガスのモル比と空隙率除算合成拡散係数の逆数の関係は、トレーサーガスが二酸化炭素の場合に比例、窒素の場合に反比例になり、両者は直線の回帰式により関係付けることができる。また、
図6によると、標準砂+ベントナイトにおけるトレーサーガスが二酸化炭素の場合の回帰式の勾配は32.5〜36.8s/cm
2となり、ほぼ同じような値となった。一方、標準砂+ベントナイトにおけるトレーサーガスが窒素の場合の回帰式の勾配は5.42〜6.37s/cm
2となった。
【0210】
図6における各トレーサーガスについての相関式は以下の通りである。
図6左上(ΔP=1.8kPa) トレーサーガスCO
2:1/D’
*CO2=36.8X
CO2+15.5(R
2=0.800)、トレーサーガスN
2:1/D’
*N2=−6.37X
N2+7.12(R
2=0.926)
図6右上(ΔP=2.8kPa) トレーサーガスCO
2:1/D’
*CO2=32.3X
CO2+11.0(R
2=0.967)、トレーサーガスN
2:1/D’
*N2=−6.20X
N2+6.21(R
2=0.990)
図6下(ΔP=3.8kPa) トレーサーガスCO
2:1/D’
*CO2=32.5X
CO2+8.79(R
2=0.406)、トレーサーガスN
2:1/D’
*N2=−5.42X
N2+5.22(R
2=0.963)
【0211】
以上の通り、一次元カラム実験において、標準砂の場合のみでなく、標準砂+ベントナイトにおいても直線関係の相関式を得ることができた。よって、一次元カラム実験は、土壌の質の変化に対応した各係数を得ることに適した実験系であることが証明された。
【0212】
表4には、
図5と
図6に示したトレーサーガスのモル比と空隙率除算合成分散係数の逆数の回帰式の勾配と、切片より(62)式、(64)式、(65)式、(66)式、(75)式、(76)式の処理にて求めた空隙率除算分子拡散係数と各成分の空隙率除算Knudsen拡散係数を示す。
【0213】
【表4】
【0214】
表4によると、標準砂の場合の空隙率除算分子拡散係数D’
CO2−N2は、圧力差が0.5kPaの場合が非常に小さく0.074cm
2/sとなるが。他の圧力差の場合には、0.110〜0.145cm
2/sとなる。また、表4には、(75)式により求めた拡散に関する屈曲度τ
mを示す。拡散に関する屈曲度τ
mは、圧力差0.5kPaを除いて0.739〜0.971となる。従って、標準砂の分子拡散係数と拡散に関する屈曲度としては、それぞれ0.11〜0.15cm
2/sと0.74〜0.97が妥当であると考えられる。一方、圧力差3.8kPa以外の標準砂+ベントナイトの場合の拡散係数は0.130cm
2/sとなり、圧力差3.8kPaの場合には0.154cm
2/sとなる。また、標準砂+ベントナイトの場合の拡散に関する屈曲度は、圧力差3.8kPaの場合に1.03となり、土粒子の障害物がない状態の分子拡散係数を超えることになる。その他の圧力差の場合の分子拡散に関する屈曲度は0.872となる。
【0215】
(76)式により得られたD
Mechを表4に示し、カラム両端の圧力差により求めた窒素ガスの場合の間隙中の流速とD
Mechの関係を
図7に示す。
図7によると流速とD
Mechの関係は標準砂と標準砂+ベントナイトともに比例関係となり、回帰式はほぼ原点を通ることが分かる。相関係数は、
図7に示すように0.86〜0.93となり、流速とD
Mechの相関性が高いことが分かる。流速とD
Mechの勾配は、分散長となり、分散長は標準砂の場合で0.791cm、標準砂+ベントナイトの場合で0.426cmとなる。
【0216】
図7における流速と機械的分散係数についての相関式は以下の通りである。
標準砂+ベントナイト:D
Mech=0.7913V(R
2=0.8592)、標準砂:D
Mech=0.4255V(R
2=0.9344)
【0217】
上述の通り、一次元カラム実験結果と順解析結果の対比は良好であるので、本実施例で得た各係数及び分散長を用いて移流分散方程式を解くことにより土壌ガス中の化学物質の移動を予測することができる。標準砂+ベントナイトで行った手順を現場土壌を用いて行うことにより、現場土壌についての各種係数を得ることができ、土壌ガス中の化学物質の移動を予測することができる。