特許第5726535号(P5726535)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5726535アブラナ科植物由来のグルコシノレート含有搾汁組成物とその製造方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5726535
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】アブラナ科植物由来のグルコシノレート含有搾汁組成物とその製造方法
(51)【国際特許分類】
   A23L 1/212 20060101AFI20150514BHJP
   A23L 2/38 20060101ALI20150514BHJP
   A23B 7/02 20060101ALI20150514BHJP
   A23B 7/06 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   A23L1/212 A
   A23L2/38 C
   A23B7/02
   A23B7/06
【請求項の数】9
【全頁数】22
(21)【出願番号】特願2010-541369(P2010-541369)
(86)(22)【出願日】2009年12月4日
(86)【国際出願番号】JP2009070387
(87)【国際公開番号】WO2010064703
(87)【国際公開日】20100610
【審査請求日】2012年6月29日
(31)【優先権主張番号】特願2008-311542(P2008-311542)
(32)【優先日】2008年12月5日
(33)【優先権主張国】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】507045904
【氏名又は名称】ヤクルトヘルスフーズ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000590
【氏名又は名称】特許業務法人 小野国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】熊澤 陽一
【審査官】 田中 耕一郎
(56)【参考文献】
【文献】 特開2002−112729(JP,A)
【文献】 米国特許出願公開第2007/0033675(US,A1)
【文献】 特開2001−136929(JP,A)
【文献】 特開2002−191311(JP,A)
【文献】 Br.J.Nutr.,2003,Vol.90,p.687-697
【文献】 Food Chem.,2007,Vol.105,p.976-981
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 1/212−1/218
A23B 7/00 −7/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下のステップ(a)及び(b):
(a)播種後55日以上経過したケールを、常圧下、下記式(1)
[数1]
1≦t<3のとき、−5t+85≦T<100 ……式(1)
[式中、Tは加熱温度(℃)であり、tは加熱時間(分)である]
を満たす加熱条件にて加熱処理するステップ、
(b)加熱処理したケールを搾汁処理して搾汁液を得る
ステップ
を含むことを特徴とするグルコシノレートを乾燥重量で15μg/100mg以上含有する搾汁組成物の製造方法。
【請求項2】
加熱処理を水中で行う請求項1記載の方法。
【請求項3】
加熱処理をpH6〜8の環境下で行う請求項1又は2記載の方法。
【請求項4】
更に、次のステップ(c):
(c)ステップ(b)で得た搾汁液を乾燥処理するステップ
を含む請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
【請求項5】
乾燥処理が噴霧乾燥である請求項記載の方法。
【請求項6】
ケールが播種後75日以上経過したケールである請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
【請求項7】
ケールが春蒔きケールである請求項1〜のいずれか1項記載の方法。
【請求項8】
播種後55日以上経過したケールを、常圧下、下記式(1)
[数3]
1≦t<3のとき、−5t+85≦T<100 ……式(1)
[式中、Tは加熱温度(℃)であり、tは加熱時間(分)である]
を満たす加熱条件にて加熱処理することを特徴とする、搾汁処理の際のケール中のグルコシノレートの分解を抑制する方法。
【請求項9】
加熱処理を水中で行う請求項記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アブラナ科植物由来のグルコシノレート含有搾汁組成物とその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
キャベツに代表されるアブラナ科の植物は栄養価が高いことで知られ、各種料理に使用されるほか、粉砕や搾汁などにより飲料に加工され広く食卓に供されている。よく食されているアブラナ科植物の例としては、キャベツ、ブロッコリー、ダイコン、白菜、わさびなどがあり、そのほか青汁原料として使用されているケールなどが挙げられる。またアブラナ科植物は特有の成分としてグルコシノレート類(以下GSLと略す)を含んでおり、健康機能性を有する植物として近年注目を浴びている。
【0003】
一般的に野菜を飲料に加工する場合の方法として、野菜をそのまま粉砕する方法が知られている。この方法は野菜を丸ごと飲料に加工できるという利点があるが、一方で食物繊維などの不溶性成分が存在するため、飲食時にざらつきを感じたり、沈殿を生じやすいなどの欠点が存在する。
【0004】
この欠点を解消する方法として、野菜の不溶性の部分を取り除きながら飲料に加工する搾汁という方法がある。搾汁という方法を用いれば不溶性の繊維分などは搾汁粕として除去されるため、口当たりがよく滑らかで、沈殿を生じにくい飲料を造ることが可能である。
【0005】
しかし、植物を生のまま搾汁すると植物内の各種酵素による反応が進行し、凝集、変色、分離などが起こる他、植物に含まれている各種栄養成分の分解が起こることが知られている。例えば特許文献1には、ブランチングを行わないで搾汁した場合、植物中から放出される酵素が反応することにより引き起こされる変質、褐変、分離、凝集によって味や口当たりが悪くなることが多い旨が記載されている。特に、アブラナ科植物を搾汁した場合は、分離、凝集、変色や内在性酵素によるビタミンC、GSLの分解が生じると共に、辛味、渋味、苦味などの不快味や青臭いなどの不快臭が生じるため、生のまま搾汁することは栄養面、香味面でデメリットがある。
【0006】
植物の持つ栄養価を分解させずに食品中に多く存在させるための方法としては、搾汁前の工程でのブランチングによる加熱処理が挙げられる。例えば特許文献2では、アブラナ科の野菜を細断処理する前に、品温が90℃〜95℃の範囲に到達後、約5分〜20分間蒸し、その後、細断処理及び搾汁を行い、得られた搾汁液を、少なくとも1種以上の無機陰イオンと少なくとも1種以上の有機酸とが混在してイオン結合してなる構造を備えた陰イオン交換体を用いて接触処理することを特徴とするアブラナ科野菜の処理方法が開示されている。特許文献3では、野菜を破砕及び/又は磨砕する細断化工程と、細断化した野菜を搾汁する搾汁工程からなる野菜汁の製造方法において、細断化後又は細断化と同時に65℃〜95℃の温度で達温から5分以内、野菜を加熱処理することを特徴とする野菜汁の製造方法が開示されている。また蒸気による加熱技術としては特許文献4があり、野菜類を加熱及び/または加熱殺菌するにあたり、あらかじめ前記野菜類に、60〜90℃の蒸気を直接接触させることを特徴とする野菜類の加熱処理方法が開示されている。
【0007】
一方、野菜本来の色である緑色を保ったまま加工する技術に関しても開示されている。例えば特許文献5では、洗浄した緑色植物の緑葉をアルカリ性水溶液で処理して、該緑葉に搾汁液のpHが6〜9となる量のアルカリ性水溶液を付着させた後搾汁処理を行うことを特徴とする、新鮮な緑色を呈する安定で嗜好性に優れた緑色植物の緑葉青汁の製造方法が開示さている。また、特許文献6では、緑色野菜をブランチング処理した後サイクロデキストリン溶液に浸漬することを特徴とする保存中の退色を防止した緑色野菜の製造方法が開示されている。特許文献7では、緑色野菜を酢酸ナトリウム、アミノ酸及び酢酸ナトリウム以外の有機酸塩を含有し、pHが6.0〜7.0の水溶液中でブランチングする第一工程、次いで、酢酸ナトリウム及び糖類を含有し、さらに有機酸及び/または酢酸ナトリウム以外の有機酸を含有する、pHが4.5〜6.5の水溶液中に浸漬する第二工程を含む緑色野菜の加工方法が開示されている。
【0008】
【特許文献1】特許第3541170号
【特許文献2】特許第3676178号
【特許文献3】特開平10−76号公報
【特許文献4】特開平11−155513号公報
【特許文献5】特開平11−75791号公報
【特許文献6】特開2000−270765号公報
【特許文献7】特開2006−158293号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前記したように、アブラナ科植物は特有の成分としてGSLを含有しているが、GSLは搾汁時に分解することが知られている。しかし、現在までに、搾汁時のGSLの分解を抑制したり、GSLを豊富に含む搾汁組成物を得るとの観点で開発された技術についての報告はない。そこで本発明は、GSLを含むことが知られるアブラナ科植物において、搾汁処理の際のGSLの分解を抑制することで、GSLを豊富に含み、さらにビタミンC、色調、香味などのバランスに優れた搾汁組成物を製造する方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するため鋭意研究を重ねた結果、アブラナ科植物を一定条件下で加熱処理をすることで搾汁処理の際のGSLの分解を防ぐことができると共に、そのような加熱処理後のアブラナ科植物から得られる搾汁液が、色調、香味に優れ、意外なことにビタミンC含量も高いことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本願発明は以下の発明を包含するものである。
(1)以下のステップ(a)および(b):
(a)アブラナ科植物を、常圧下、下記式(1)又は(2)
[数1]
1≦t<3のとき、−5t+85≦T<100 ……式(1)
[式中、Tは加熱温度(℃)であり、tは加熱時間(分)である]
[数2]
3≦t≦10のとき、70≦T<100 ……式(2)
[式中、Tは加熱温度(℃)であり、tは加熱時間(分)である]
を満たす加熱条件にて加熱処理するステップ、
(b)加熱処理したアブラナ科植物を搾汁処理して搾汁液を得るステッ

を含むことを特徴とするグルコシノレートを含有する搾汁組成物の製造
方法。
【0012】
(2)加熱時間は1分以上5分以下である(1)記載の方法。
(3)加熱処理を水中で行う(1)または(2)記載の方法。
(4)加熱処理をpH6〜8の環境下で行う(1)〜(3)のいずれか1
記載の方法。
【0013】
(5)更に、次のステップ:
(c)ステップ(b)で得た搾汁液を乾燥処理するステップ
を含む(1)〜(4)のいずれか1記載の方法。
(6)乾燥処理が噴霧乾燥である(5)記載の方法。
(7)アブラナ科植物が播種後55日以上経過したケールである(1)〜
(6)のいずれか1記載の方法。
【0014】
(8)アブラナ科植物が播種後75日以上経過したケールである(1)〜
(6)のいずれか1記載の方法。
(9)ケールが春蒔きケールである(7)又は(8)の方法。
(10)(1)〜(9)のいずれか1記載の方法により製造される搾汁組
成物。
【0015】
(11)グルコシノレートを15μg/100mg以上含有する(10)
記載の搾汁組成物。
(12)ビタミンCを9mg/g以上含有する(10)の搾汁組成物。
【0016】
(13)アブラナ科植物を、常圧下、下記式(1)又は(2)
[数3]
1≦t<3のとき、−5t+85≦T<100 ……式(1)
[式中、Tは加熱温度(℃)であり、tは加熱時間(分)である]
[数4]
3≦t≦10のとき、70≦T<100 ……式(2)
[式中、Tは加熱温度(℃)であり、tは加熱時間(分)である]
を満たす加熱条件にて加熱処理することを特徴とする、搾汁処理の際の
アブラナ科植物中のグルコシノレートの分解を抑制する方法。
【0017】
(14)加熱時間は1分以上5分以下である(13)の方法。
(15)加熱処理を水中で行う(13)又は(14)の方法。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、アブラナ科植物からGSLを豊富に含む搾汁組成物を製造する方法を提供することができる。
【0019】
本発明により製造される搾汁組成物は、GSLを豊富に含む他、例えばビタミンCを豊富に含み、色調、香味などにも優れているという利点を有する。
【図面の簡単な説明】
【0020】
図1】本発明の方法により製造した青汁中のGSL類のそれぞれを定量した結果を示す図面。なお、図中の略記はそれぞれ以下の通りである。1mGB 1−メトキシグルコブラシキン;4mGB 4−メトキシグルコブラシキン;GB グルコブラシキン;GN グルコナピン;GR グルコラファニン;SG シニグリン;PG プロゴイトリン;GI グルコイベリン。
図2】青汁の不快味に及ぼす加熱温度及び加熱時間の影響を示す図面。
図3】青汁中の総GSL量に及ぼす加熱処理時のpHの影響を示す図面。
図4】青汁中のビタミンC量に及ぼす加熱処理時のpHの影響を示す図面。
図5】青汁の色調に及ぼす加熱処理時のpHの影響を示す図面。
図6】青汁の渋味に及ぼす加熱処理時のpHの影響を示す図面。
図7】青汁の不快味に及ぼす加熱処理時のpHの影響を示す図面。
図8】ケール播種後日数とGSL含量の関係を示す。なお、図中の略記は、HCが播種後日数、mGB1が1−メトキシグルコブラシキンを示す以外は、図1と同じである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
以下、本発明について詳細に説明する。
本発明は、アブラナ科植物からGSLを含む搾汁組成物を製造する方法(以下、単に本発明の製造方法ともいう)である。本発明の製造方法は、下記で詳述するように、搾汁処理の際のアブラナ科植物中のグルコシノレートの分解を抑制するための処理を含んでいる。
【0022】
具体的に、本発明の製造方法は、(a)アブラナ科植物を、常圧下、上記式(1)又は(2)を満たす加熱条件にて加熱処理するステップと、(b)加熱処理したアブラナ科植物を搾汁処理して搾汁液を得るステップとを含んでいる。
【0023】
本発明において、出発原料として使用することができるアブラナ科植物としては、GSLを含むことが知られ、かつ一般に食されるものであれば特に制限はなく、例えば、ダイコン、ブロッコリー、カリフラワー、キャベツ、メキャベツ、白菜、かぶ、わさび、タイサイ、ミズナ、スグキナ、小松菜、からし菜、ケールなどが挙げられる。これらのアブラナ科植物は1種のみを用いてもよいし、複数種を組合せて用いてもよい。
【0024】
上記アブラナ科植物は、その植物体全体を原料として使用してもよいし、その一部分、例えば葉、茎、根、花蕾などを使用してもよい。
【0025】
本発明の製造方法において、アブラナ科植物としてケールを使用することが好ましい。ケールは、品種に応じてGSL含量が異なるが、一般的には種子の状態でGSL含量が最も多く、発芽に伴ってGSL含量が減少する。驚くべきことに、本発明者らは今回、播種後55日を経過するとGSL含量が安定し、播種後75日を経過するとGSL含量はさらに増加することを見出した。したがって、GSL含量が豊富になる播種後55日以上、より好ましくは播種後75日以上経過したケールを使用することが特に好ましい。
【0026】
ケールはまた、その播種時期により春蒔きと秋蒔きに区別することができる。播種する時期はその土地の気候に左右されるが、春蒔きケールとは1〜2月にかけて播種され5月〜7月にかけて収穫されるケールをいい、秋蒔きケールとは9〜10月にかけて播種され12〜3月に収穫されるケールをいう。春蒔きケールは収穫量が多いという特徴を有し、秋蒔きケールは糖度がより高いというという特徴を有している。これに加え、本発明者らは今回、春蒔きケールは秋蒔きケールよりGSL含量が高いことを見出した。したがって、本発明において春蒔きケールを使用することが特に好ましい。
【0027】
本発明の製造方法は、アブラナ科植物として上記のケールを使用する場合、ステップ(a)の加熱処理に先立ち、ケールを準備するステップを含んでもよい。具体的に前記ステップは、ケールの種子を(例えば1〜2月の間に)ケールの栽培に適した土壌に播種し、少なくとも45日、好ましくは少なくとも55日間栽培して、ケールを収穫することを含むことができる。
【0028】
本発明の製造方法において、ステップ(a)の加熱処理は、主に、アブラナ科植物中のミロシナーゼを失活させることを目的とする処理である。このミロシナーゼはGSLの加水分解を触媒する酵素であるため、ミロシナーゼを失活させることによってGSL分解を抑制することができる。またGSLはミロシナーゼにより加水分解されて、最終的に、香味的に好ましくないイソチオシアン酸が生成するため、ミロシナーゼの失活は目的産物である搾汁組成物の香味を改善することができるという利点もある。
【0029】
上記ステップ(a)の加熱処理は、常圧下、上記式(1)又は(2)を満たす加熱条件で加熱処理することにより行われる。式(1)又は(2)で表される加熱条件は、本発明者によって、GSLの分解を低減すると共に、色調、香味に優れた搾汁組成物を生じさせるための加熱条件として規定されたものである。
【0030】
上記加熱条件を満たす加熱条件の例示として、95℃ 1分、90℃ 1分、90℃ 2分、85℃ 2分などが挙げられる。
【0031】
また本発明者らは、驚くべきことに、GSLの分解を十分に抑制することができる条件として規定した上記条件で加熱処理したアブラナ科植物から得られる搾汁組成物が、ビタミンCを高含量で含んでいることを見出した(下記実施例参照)。これは、上記加熱条件が、ビタミンCの分解に関与する酵素を失活する一方で、加熱によるビタミンCの破壊が生じないような加熱温度、加熱時間であるように適切に選択されていることを示唆している。
【0032】
本発明において、ステップ(a)の加熱処理を行う時間は1〜10分であれば特に制限されないが1〜5分であることが好ましい。加熱時間が1分未満である場合は、ミロシナーゼによるGSL分解を十分に抑制することができず、また加熱時間が5分を超える場合は加熱によるビタミンCの破壊が生じるからである。
【0033】
本発明の製造方法において、加熱処理方法としてはアブラナ科植物を均一に加熱できる方法であればどのような方法でもよいが、水中での加熱処理(茹で処理)が好ましい。例えば蒸し処理の場合、大きな間隙に蒸気が集中する傾向があるため蒸気の当たり具合にばらつきが生じやすく、いわゆる「蒸しムラ」ができるため均一な処理が難しい。一方、水中での加熱処理(茹で処理)はアブラナ科植物全体をお湯に浸すことで均一に加熱することができるため、加熱しすぎを防ぎつつ酵素失活させるのに適している。
【0034】
アブラナ科植物を水中で加熱する場合、水の重量に対するアブラナ科植物の投入量については特に制限はなく、均一に加熱できる条件であればどのような割合でもよい。
【0035】
アブラナ科植物を水中で加熱する場合、pHは特に問わないが、酸性条件下ではクロロフィルの分解が促進されることから、pH6〜8の範囲であることがより好ましい。pHの調整は、食品加工の場で使用されかつ当業者に一般的に使用されるアルカリ製剤の添加により行えばよく、アルカリ製剤として、これに限定されるものではないがクエン酸ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、乳酸ナトリウム、水酸化カルシウム、水酸化ナトリウム、炭酸ナトリウムなどを挙げることができる。
【0036】
このようにして加熱処理(ステップ(a))が行われたアブラナ科植物は、加熱処理の熱によってその緑色は徐々に退色するので、加熱処理した後は速やかに冷却することが好ましい。したがって、本発明の製造方法には、ステップ(a)の加熱処理後に、アブラナ科植物を速やかに冷却する任意のステップを含んでもよい。この冷却ステップにおける冷却方法としては、そのまま自然放冷する方法、風や冷風をあてて冷却する方法、水などの冷媒に浸して冷却する方法などの方法を利用することができ、いずれの方法を用いても構わない。
【0037】
本発明の製造方法はまた、ステップ(b)の前に、細断及び/又は粉砕処理を含んでもよい。かかる処理により、搾汁処理を容易にすることができる。また、搾汁処理前の細断及び/又は粉砕処理は、搾汁処理によって得られる搾汁液のざらつき、分散性、クロロフィル含有量、β−カロテン含有量、カルシウム含有量などを改善することが期待される。
【0038】
なお、クロロフィル、β−カロテン、及びカルシウムの含有量が高い搾汁液を得る場合は、細断及び/又は粉砕処理によるアブラナ科植物の粒度の他、ステップ(a)の加熱条件をも適切なものとするよう考慮すべき点に留意が必要である。
【0039】
次いで加熱処理(ステップ(a))が行われたアブラナ科植物は、搾汁処理(ステップ(b))に供される。この工程での搾汁方法としては、加熱処理されたアブラナ科植物をそのまま丸ごと搾汁する方法、液と搾汁粕に分離する搾汁方法など、常法によって行えばよく、特別な方法を用いる必要はない。搾汁機としては、パルパー、スクリュープレス、フィルタープレス、デカンターなど、飲食品分野で搾汁に通常用いられるものを適宜組合せて使用することができる。
【0040】
上記のようにして搾汁された搾汁液は、本発明の搾汁組成物としてそのまま飲用に供しても問題ないが、保存性の向上のために適宜、冷凍、乾燥などの処理を行ってもよい。乾燥方法としては熱風乾燥、凍結乾燥、噴霧乾燥など当業者が通常用いる任意の方法を用いることができる。特に噴霧乾燥は、熱による変質が熱風乾燥に比べて小さく、また凍結乾燥に比べて乾燥処理時間が短いため、上記のように搾汁された搾汁液の乾燥方法として好ましい。
【0041】
また、乾燥前若しくは乾燥後に殺菌処理を行ってもよい。この殺菌処理としては、例えば加熱殺菌、高圧殺菌、気流式殺菌など、当業者が通常用いる任意の方法を用いることができる。
【0042】
上記のようにして製造された搾汁組成物(以下、単に本発明の組成物ともいう)は、GSLを高含量で含み、さらに香味、色調に優れ、ビタミンCをも高含量で含むものである。
【0043】
以上のようにして得られる本発明の搾汁組成物には、GSLを乾燥重量で15μg/100mg以上、好ましくは100μg/100mg以上含有するものが含まれる。なお、本発明の搾汁組成物中のGSL含量は、例えばミロシナーゼ分解法、HPLCなどによって測定することができる。例えば、ミロシナーゼ分解法によってGSLを測定する場合には、試料中のGSLをミロシナーゼで完全に加水分化し、遊離したグルコースを定量することにより測定することができる。グルコース測定には市販の測定キット(例えば、グルコースCII−テストワコー(和光純薬工業(株))など)を使用することができる。
【0044】
また、本発明の搾汁組成物には、ビタミンCを乾燥重量で9mg/g以上、好ましくは10mg/g以上含有するものが含まれる。本発明の搾汁組成物中のビタミンC含量は、食品中のビタミンC含量を測定するために標準化されている測定方法、例えばヒドラジン比色法、インドフェノール滴定法、HPLCによる手法など、当業者に周知の測定方法によって測定することができる。
【0045】
本発明の組成物にはまた、任意の分光側色計で測定した際のa値が−12より小さいものであるものが含まれる。
【実施例】
【0046】
以下、実施例を用いて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれら実施例等に限定されるものではない。
【0047】
なお、本実施例における評価方法は、以下に示す方法により行った。
【0048】
[ 評価方法 ]
1)総GSLの測定
GSLの測定方法としては、ミロシナーゼ分解法やHPLCによる手法などがあるが、本発明においては、LC−MSによる測定を行った。具体的な方法は次の通りである。サンプル100mgを正確に測り取り、エッペンドルフ(2ml)に分取する。ジルコニアビーズ(Φ5mm)をエッペンドルフに1個ずつ入れ、これに0.1%ギ酸溶液(ギ酸0.1gを80%メタノール水溶液100mlに溶解したもの)1mlを加え、ミキサーミル(MM 301、株式会社レッチェ)により懸濁(25times/sec、5分処理)する。
【0049】
懸濁処理物を遠心分離処理(15,000g、10分、4℃)し、上清を800μl分取する。カラム(Sep−Pack Vac NH cartridge 3cc/500mg、日本ウォーターズ株式会社)を0.1%ギ酸溶液1mlで平衡化し、上清100μlを吸着させた後、0.1%ギ酸溶液1ml、次いでメタノール1mlでカラム洗浄を行う。
【0050】
カラムに吸着している画分を5%アンモニア溶液(28%アンモニア水をメタノールで5倍希釈したもの)900μlで溶出させ、1晩減圧乾燥させる。乾燥物に0.1%ギ酸溶液200μlを加え再溶解後、ろ過(ウルトラフリー−MC、孔径0.22μm、日本ミリポア株式会社)して分析用サンプルとする。分析は、LCMS−2010EV(株式会社島津製作所)を用い、以下の条件で分析を行う。なお、GSL類の含量比較は、得られた分析データのGSLの全てのピークの合計エリア面積で行なった。また、各GSLの構成成分量が併せて必要なときは、対応する各GSLピークを求め、これを積み重ねて全ピーク量を示した。
【0051】
<分析条件>
カラム : Develosil RPAQUEOUS AR−5
No.RPAR520150W(Φ2×150mm)
移動相A: 10mMギ酸アンモニウム水(pH3.75)
移動相B: 50%(v/v)アセトニトリル中、10mMギ酸アンモニ
ウム水 (pH3.75)
流 速 : 0.2ml/分、カラムオーブン40℃
グラジエント: min A B
0 100 0
5 100 100
30 0 100
40 0 100
60 0 100
M S : LCMS−2010EV(株式会社島津製作所)
イオン化法 : ESI
分析タイプ : スキャン/SIM
分析モード : スキャン(ネガティブ)
イベント時間 : 1秒
検出器電圧 : 1.5kV
測定開始(m/z) : 300
測定終了(m/z) : 500
測定時間 : 60分
【0052】
(2)各GSLの定量
GSLの定量は、具体的には以下のとおり行った。サンプル(100mg前後)を正確に量り、エッペンドルフチューブ(2mL容)に分取する。ジルコニアビーズ(Φ5mm)をエッペンドルフチューブに1個ずつ入れ、0.1%ギ酸溶液(ギ酸1mLを80%メタノール水溶液1Lに混和したもの)1mLを加え、ミキサーミル(MM301、株式会社レッチェ)により懸濁(25times/sec、5分処理)する。懸濁処理物を遠心分離して(15,000g、5分、RT)試料を得た。
【0053】
固相抽出カラム(ディープウェル仕様;Oasis WAX 96−Well Plate 30μm (30mg)、日本ウォーターズ株式会社)を0.1%ギ酸水溶液1mLで平衡化し、先に調製した試料(上清100μL)を吸着させた後、0.1%ギ酸水溶液1mL、次いでメタノール1mLでカラム洗浄を行う。カラムに吸着している画分を5%アンモニア/含水メタノール溶液(25%アンモニア水をメタノールで5倍希釈したもの)900μLで溶出させ、1−プロパノールを1ウェルあたり3滴添加し、40℃下で乾固させる。乾固物に0.1%ギ酸水溶液500μLを加えて再溶解し、分析用サンプルとする。
【0054】
分析は、LCMS−2010EV(株式会社島津製作所)を用い、以下の条件で分析を行う。インジェクト量は20μLである。
【0055】
<分析条件>
カラム : Develosil RPAQUEOUS−AR−3
(野村化学、Φ2×150mm)
移動相A: 10mMギ酸アンモニウム水(pH3.75)
移動相B: 10mMギ酸アンモニウム in 50%(v/v)含水アセト
ニトリル (pH3.75)
流 速 : 0.2ml/分、カラムオーブン40℃
移動相グラジエント: min A B
0 100 0
10 40 60
15 0 100
15.1 100 0
25 100 0
M S : イオン化法:ESI
分析タイプ : スキャン/SIM
分析モード : スキャン(ネガティブ)
イベント時間 : 1秒
検出器電圧 : 1.5kV
測定開始(m/z): 300
測定終了(m/z): 500
スキャンスピード : 250emu/sec
測定時間 : 25分
【0056】
なお、各GSLの定量は、分析データの各GSLに対応するピークエリア面積を、各標品GSLのピークエリア面積と比較し、行った。
【0057】
(3)ビタミンCの測定
ビタミンCの測定方法としては、ヒドラジン比色法、インドフェノール滴定法、HPLCによる手法などがあるが、本発明においてはヒドラジン比色法を用いた。具体的な方法は次の通りである。サンプル1gを正確に測り取り、5%メタリン酸溶液(メタリン酸5gを100mlの水に溶解させたもの)100mlに懸濁させた後、懸濁液をろ紙(Whatman No.2)でろ過し、このろ液を試験管に1mlずつ分注する(一方が本試験区、他方が空試験区)。また、VC標準液として、ビタミンCを5mg/100ml含有する溶液を調製し、これも試験管に1mlづつ分注する(標準液本試験区および標準液空試験区)。
【0058】
4本の試験管中に、インドフェノール溶液(2,6−ジクロロインドフェノールナトリウム30mgを100mlの温水に溶解し、ろ過したもの)0.5ml、チオ尿素溶液(チオ尿素2gを100mlの5%メタリン酸溶液に溶解させたもの)1mlを加える。
【0059】
次いで、本試験区の試験管にのみさらにヒドラジン溶液(2gの2,4−ジニトロフェニルヒドラジンを9N硫酸溶液(濃硫酸1容と水3容を混和したもの)100mlに溶解したもの)0.5mlを加え、37℃で3時間反応させる。反応終了後氷浴中で冷却し、85%硫酸溶液(濃硫酸9容と水1容を混和したもの)を2.5ml加え、室温で30分間反応後、それぞれの520nmの吸光度を測定する(標準液本試験区のものをE、本試験区のものを、Eとする)。
【0060】
一方、空試験区の試験管は、そのまま37℃で3時間反応させた後、氷浴中で冷却し、85%硫酸溶液を2.5ml加え、更に前述のヒドラジン溶液0.5mlを加え、室温で30分間静置後、それぞれの520nmの吸光度を測定する(標準空試験区のものをESO、空試験区のものをETOとする)。
【0061】
ビタミンC量は、吸光度あたりのアスコルビン酸のmg数fを、5/(Es−Eso)としたとき、下式が成立するので、この式によりビタミンC量を算出する。
【0062】
ビタミンC量(mg/100ml) = G × f × (E−ET0
但し、
G; サンプル希釈倍数
S0; ビタミンC標準液の空試験区の吸光度
; ビタミンC標準液の本試験区の吸光度
T0; サンプル液の空試験区の吸光度
; サンプル液の本試験区の吸光度
【0063】
色調の測定
色調の測定方法としては、色彩計による測定や分光測色計による測定などがあるが、本発明においては分光式の測定器(Spectrophotometer SE2000、日本電色工業株式会社)を用いた。なお測定は粉体のまま行った。測定値(a値)は小さいほど緑色が強いことを示す。
【0064】
香味の測定
香味の測定方法としては、パネラーによる官能評価及び味認識装置による分析を実施した。具体的にはサンプル4gを分取し、水100mlに溶解したサンプルを用い、評価を行った。官能評価は優秀なパネラー5名で行い、各パネラーが比較品(表1、3、5及び10中、加熱時間0秒;0点)と比べた各サンプルの評価を下記基準で点数をつけ、5人の点数の平均値を官能評価の評価点とした。
【0065】
<評価基準>
比較例と比べて、不快味が非常に強い 3点
比較品と比べて不快味が強い 2点
比較品と比べ不快味がやや強い 1点
比較品と同じ 0点
比較品に比べて不快味がやや弱い −1点
比較品と比べて不快味が弱い −2点
比較品と比べて不快味が非常に弱い −3点
【0066】
また、味認識装置としては、SA402B(株式会社インテリジェントセンサーテクノロジー)を用い、アブラナ科特有の不快味と相関の高い渋味をパラメーターとして選択し、比較を行った。渋味の数値は低いほどアブラナ科特有の不快味が少ないことを示す。
【0067】
実 施 例 1
加熱温度、時間の検討:
ケール(2月播種、5月及び7月収穫)の生の葉を水で洗浄し、pH7〜8の、温度70℃〜95℃の湯浴中で、30秒〜10分加熱処理後、水浴中にて冷却した。冷却したケール葉を手で裂き、その後搾汁機(名称「PERSEE青汁さん」、型番FD−1800、フカダック株式会社)を用いて搾汁液を得た。この搾汁液を噴霧乾燥し、青汁粉末を得た。得られた青汁粉末について、上記の方法によりそのGSL量(各GSLの定量および総GSL量)およびビタミンC量の測定、色調(a値)の測定並びに香味評価を行った。その結果を図1及び2、並びに表1〜11に示す。
【0068】
【表1】
【0069】
【表2】
【0070】
【表3】
【0071】
【表4】
【0072】
【表5】
【0073】
【表6】
【0074】
【表7】
【0075】
【表8】
【0076】
【表9】
【0077】
【表10】
【0078】
【表11】
【0079】
実 施 例 2
茹で湯pHの検討:
ケールの生の葉を水で洗浄し、pH4〜9に設定した、温度90〜95℃の湯浴中で、1分〜2分加熱処理後、水浴中にて冷却した。冷却したケール葉を手で裂き、その後搾汁機(名称「PERSEE青汁さん」、型番FD−1800、フカダック株式会社)を用いて搾汁液を得た。搾汁液を噴霧乾燥し、青汁粉末を得た。得られた青汁粉末について、前記の方法によりそのGSL量およびビタミンC量の測定、色調(a値)の測定並びに香味評価を行った。その結果を表12〜18及び図3〜7に示す。
【0080】
【表12】
【0081】
【表13】
【0082】
【表14】
【0083】
【表15】
【0084】
【表16】
【0085】
【表17】
【0086】
【表18】
【0087】
比 較 例
未加熱処理品の試作:
ケールの生の葉を水で洗浄後、加熱せずにそのまま手で裂き、搾汁機(名称「PERSEE青汁さん」、型番FD−1800、フカダック株式会社)を用いて搾汁液を得た。搾汁液を噴霧乾燥し、青汁粉末を得た。得られた青汁粉末について、そのGSL量およびビタミンC量の測定、色調(a値)の測定並びに香味評価を行った(表1、3、5及び10中、加熱時間0秒)。
【0088】
参 考 例
播種後日数とGSL含量の関係:
播種後25日、35日、45日、55日、66日、75日、87日経過したケール(3月播種)の生の葉を水で洗浄後、その100mgを正確に測り取り、エッペンドルフ(2ml)に分取し、前記の総GSL量の測定方法に従い、各GSLの割合と、全GSL量の測定を行った。その結果を図8に示す。
【産業上の利用可能性】
【0089】
本発明によれば、アブラナ科植物からGSLを豊富に含む搾汁組成物を製造することができる。そして、得られた搾汁組成物は、GSLを豊富に含む他、例えばビタミンCを豊富に含み、色調、香味などにも優れているという利点を有する。
【0090】
従って、本発明により得られた搾汁組成物は、それ自体、飲みやすく栄養分の豊富な、いわゆる青汁飲料として、また、他の栄養食品等の配合成分として有利に使用することができるものである。
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8