(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記点火進角手段は、排気温度が、前記所定高温域内に定めた所定の判定温度よりも低い場合に点火時期を前記最大トルク点火時期とし、前記所定の判定温度よりも高い場合に点火時期を前記最大トルク点火時期よりも進角させる請求項2に記載の排気浄化装置の劣化抑制制御装置。
前記燃料増量手段による燃料増量を実施する際に、当該燃料増量とともに又は燃料増量の実施後に、前記冷却制御手段による冷却向上処理及び前記点火進角手段による点火進角を実施する請求項1乃至3のいずれか一項に記載の排気浄化装置の劣化抑制制御装置。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、排気還流量の増量によって排気浄化装置の劣化抑制を図る構成とした場合には、高負荷運転時などのように排気が高温になりやすい状況において排気還流量の増量が制限されることがある。この場合、排気浄化装置の保護を図ることができないおそれが生じる。一方、燃料増量については、高負荷運転時にも実施の制限が比較的少なく、排気浄化装置の保護のための処理として有効であると考えられる。
【0005】
ところが、近年、規制強化に伴い、排気浄化装置に要求される耐久性がより厳しくなっている。また、燃費の観点から、燃料増量による排気浄化装置の保護が制限されることも考えられる。その一方で、エンジンの過給ダウンサイジングや走行モード(US06モード)等により高負荷運転の頻度は増えつつあり、高温排気による排気浄化装置の劣化が生じやすくなっている。このようなことから、排気浄化装置の保護のための新たな技術の開発が望まれている。
【0006】
本発明は、上記課題を解決するためになされたものであり、燃費悪化を抑制しつつ排気浄化装置を適切に保護することができる排気浄化装置の劣化抑制制御装置を提供することを主たる目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、上記課題を解決するために、以下の手段を採用した。
【0008】
本発明の排気浄化装置の劣化抑制制御装置は、エンジンと、エンジンの排気通路に設けられた排気浄化装置と、エンジンを冷却する冷却装置とを備えるシステムに適用されるものである。また、
第1の構成は、排気温度が、排気熱による前記排気浄化装置の劣化のおそれが生じる所定高温域にあるか否かを判定する劣化判定手段と、前記劣化判定手段により排気温度が前記所定高温域にあると判定された場合に、前記冷却装置のエンジン冷却性能を向上させる冷却向上処理を実施する冷却制御手段と、前記冷却制御手段による前記冷却向上処理の開始後にエンジンの点火時期を進角させる点火進角手段と、を備えることを特徴とする。
【0009】
要するに、本構成では、排気高温時において、エンジン冷却性能を高めることでエンジンの耐ノッキング性を向上させることができ、これにより、点火進角が可能となる。また、点火進角を行うことによって排気温度を低下させることができる。さらに、本発明者らによれば、エンジン冷却性能を高めることで、排気浄化装置等の劣化抑制のための燃料増量を行うエンジン運転領域を小さくすることができる(
図3参照)。つまり、排気温度時においてエンジン冷却性能を向上させることにより、例えば排気熱による排気浄化装置の劣化抑制のための燃料増量の実施の機会を低減させたり、あるいは当該燃料増量に使用する燃料量を低減させたりすることができる。したがって、本発明によれば、燃費悪化を抑制しつつ排気浄化装置を適切に保護することができる。
【0010】
第2の構成では、前記冷却向上処理の開始後においてエンジンのシリンダ温度が低下したことを判定する低下判定手段を備え、前記点火進角手段は、前記低下判定手段によりシリンダ温度が低下したと判定された後に点火時期を進角させる。
【0011】
エンジンの冷却性能を向上させるべく冷却装置を作動開始してから、エンジンの耐ノッキング性向上の効果が得られる程度までエンジンが冷却されるまでには遅れ時間が生じる。これに鑑み、上記構成とすることにより、点火進角を行う際にノッキングが発生するのを抑制することができる。なお、シリンダ温度の低下判定は、例えば、シリンダヘッドやシリンダブロックの温度を検出することにより行ってもよいし、あるいはエンジン冷却水の温度を検出することにより行ってもよい。また、冷却向上処理を開始してからの経過時間に基づいて行ってもよい。
【0012】
第3の構成では、エンジンの運転領域として、トルク最大となる最大トルク点火時期で制御可能な最大トルク運転領域を定めておき、前記冷却向上処理の開始後におけるエンジン運転状態が前記最大トルク運転領域にあるか否かを判定する手段を備え、前記点火進角手段は、前記冷却向上処理の開始後におけるエンジン運転状態が前記最大トルク運転領域にある場合に、点火時期を前記最大トルク点火時期よりも進角させる。
【0013】
エンジンでは、トルク最大となる最大トルク点火時期(MBT点火時期)で点火時期を制御可能なMBT運転領域と、ノック発生限界まで進角させた点火時期で制御するトレースノック運転領域とがある(
図2参照)。上記構成では、現在のエンジン運転状態がMBT運転領域に属する場合に、上記点火進角手段による点火進角の際には、トルクよりも燃料増量の低減を優先させるべく、点火時期をMBT点火時期よりも過進角させる。このとき、点火時期の過進角による燃費悪化とエンジン冷却及び点火進角による燃費向上とのバランスを考慮して点火時期を定めるとよい。
【0014】
第4の構成では、前記点火進角手段は、排気温度が、前記所定高温域内に定めた所定の判定温度よりも低い場合に点火時期を前記最大トルク点火時期とし、前記所定の判定温度よりも高い場合に点火時期を前記最大トルク点火時期よりも進角させる。すなわち、この構成では、排気温度が所定高温域にあるとき、排気浄化装置の劣化のおそれが特に高い場合において、点火時期をMBT点火時期に対して過進角する。この場合、燃費改善を優先するか、それとも排気浄化装置の排気熱からの保護を優先するかを排気浄化装置の環境に応じて選択することができる。
【0015】
本発明は、
第5の構成のように、前記所定高温域の少なくとも一部において燃料増量を実施する燃料増量手段を備えるものに適用するとよい。排気熱による排気浄化装置の劣化を抑制すべく、排気高温時において燃料増量を実施することがあるが、燃料増量による場合には燃費が悪化することが懸念される。この点、本発明によれば、所定高温域において上記冷却向上処理及び点火進角を行うため、燃料増量の機会や燃料増量に用いる燃料量を減らすことができる。
【0016】
燃料増量手段を備える構成においては、
第6の構成のように、前記冷却制御手段による前記冷却向上処理及び前記点火進角手段による点火進角の実施開始後の排気温度を検出する温度検出手段を備え、前記燃料増量手段は、前記温度検出手段により検出した排気温度が、前記冷却向上処理の開始温度として予め定めた第1温度よりも高温側の第2温度に達した場合に燃料増量を実施するとよい。
第6の構成によれば、排気浄化装置の劣化抑制のための燃料増量を実施する前に冷却向上処理及び点火進角を実施することにより、燃料増量の実施の機会をできるだけ少なくすることができ、結果として、燃料増量により燃費が悪化するのをできるだけ抑制することができる。
【0017】
また、燃料増量手段を備える構成としては、
第7の構成のように、前記燃料増量手段による燃料増量を実施する際に、当該燃料増量とともに又は燃料増量の実施後に、前記冷却制御手段による冷却向上処理及び前記点火進角手段による点火進角を実施する構成としてもよい。排気熱による排気浄化装置の劣化を抑制するのに際し、冷却向上処理及び点火進角による場合と、燃料増量による場合とでは、後者の方が前者に比べて即効性が高いと考えられる。したがって、上記構成のように、排気高温時においては、まず燃料増量を実施し、燃料増量とともに又は燃料増量の実施後に、冷却向上処理及び点火進角を行うことにより、排気浄化装置の劣化抑制効果をできるだけ早期に得ることができる。
【0018】
第8の構成では、前記冷却装置は、エンジンのシリンダブロックを冷却する第1冷却手段と、シリンダヘッドを冷却する第2冷却手段とを備え、前記冷却制御手段は、前記劣化判定手段により排気温度が前記所定高温域にあると判定された場合に、前記第2冷却手段によるシリンダヘッドの冷却性能を向上させる。
【0019】
エンジンの冷却系としては、エンジンのシリンダヘッドとシリンダブロックとで冷却性能が異なる構成のものがある。このようなエンジン冷却系に本発明を適用するとともに、冷却向上処理として、エンジンのシリンダヘッドを積極的に冷却する構成とすることで、シリンダブロックの冷却による機械損失の増大を抑制しつつ、冷却向上処理による耐ノッキング性の向上をより好適に図ることができる。
【0020】
第9の構成では、前記冷却装置は、エンジンの冷却性能が可変となっており、前記冷却制御手段は、排気温度に応じた冷却性能によりエンジンを冷却する。
【0021】
エンジンの冷却性能を向上した場合、耐ノッキング性を向上できる反面、冷却損失が増加したり、冷却装置においてエンジン冷却性能向上のための動力が必要になったりすることが考えられる。これに鑑み、本構成のように、排気温度に応じて冷却装置によるエンジンの冷却性能を変更することにより、排気熱による排気浄化装置の劣化の抑制と、冷却損失の増加の抑制との両立を図ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
(第1の実施形態)
以下、火花点火式の多気筒ガソリンエンジンを搭載した車両に本発明を具体化した第1の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は、本発明における排気浄化装置の劣化抑制装置を搭載したエンジン制御システムの概要を示す構成図である。
【0024】
図1において、エンジン10は、例えば4気筒エンジンであり、気筒内への吸入空気量を調整する空気量調整手段としてのスロットルバルブ11や、燃料を噴射供給する燃料噴射手段としてのインジェクタ12、気筒ごとに設けられた点火プラグ13に点火火花を発生させる点火手段としてのイグナイタ(図示略)等を備えている。なお、エンジン10は、インジェクタ12が吸気ポート近傍に設けられた吸気ポート噴射式であってもよいし、各気筒のシリンダヘッド14等に設けられた直噴式であってもよい。
【0025】
エンジン10の排気管15には、排気の温度を検出する排気温度センサ16が設けられており、排気温度センサ16の下流側において、排気浄化装置としての触媒17が設けられている。触媒17は例えば三元触媒であり、排気が通過する際に排気中の有害成分等を浄化する。
【0026】
次に、エンジン10の冷却装置としてのエンジン冷却システム30の構成について説明する。
【0027】
エンジン10のシリンダブロック18やシリンダヘッド14の内部にはウォータジャケット31が形成されている。このウォータジャケット31に冷却水が循環供給されることで、エンジン10の冷却が行われる。ウォータジャケット31について本実施形態では、シリンダブロック18を冷却する第1冷却手段としてのブロック側経路31Aと、シリンダヘッド14を冷却する第2冷却手段としてのヘッド側経路31Bとが設けられている。
【0028】
ブロック側経路31Aには冷却水配管等よりなる循環経路33が接続され、ヘッド側経路31Bには冷却水配管等よりなる循環経路34が接続されている。これらのうち、シリンダヘッド14側の循環経路34には、循環経路34を通過する冷却水の流量を調整可能な開閉弁35が設けられている。エンジン10の入口側(上流側)において2つの循環経路33,34は接続されており、その接続点よりも上流側において、冷却水を循環させるためのウォータポンプ36が設けられている。ウォータポンプ36は、例えばエンジン10の回転に伴い駆動される機械式ポンプである。
【0029】
循環経路33,34のそれぞれにおいて、エンジン10の出口側近傍には、ブロック側経路31A内の冷却水の温度(冷却水温)を検出する水温センサ32a、ヘッド側経路31B内の冷却水温を検出する水温センサ32bが設けられている。また、2つの循環経路33,34は、エンジン10の出口側(下流側)で接続されており、その接続部よりも下流側で再び二方に分岐されている。
【0030】
分岐されたうちの一方の循環経路37にはヒータコア38が設けられている。ヒータコア38には、図示しないブロアファンから空調風が送り込まれるようになっており、空調風がヒータコア38又はその付近を通過することで、ヒータコア38からの受熱により空調風が加熱され、温風が車室内に供給される。ヒータコア38又はその付近を通過した冷却水は、循環経路37を介して再びエンジン10に戻される。
【0031】
分岐されたうちの他方の循環経路39は、更に二方に分岐され、その一方の循環経路39Aに大気放熱部としてのラジエータ41が設けられている。ラジエータ41では、図示しないラジエータファンによって熱放熱が促進されるようになっている。分岐された循環経路39,39Aは、ラジエータ41の下流側において再び接続されており、その接続部において、冷却水温度に応じて作動することで冷却水の流路を変更するサーモスタット42が設けられている。冷却水が低温(サーモスタット作動温度未満)であると、ラジエータ41側への冷却水の流入がサーモスタット42により阻止され、冷却水はラジエータ41で放熱されることなく循環経路内を循環する。例えば、エンジン10の暖機完了前(暖機運転時)には、ラジエータ41側への冷却水の流入がサーモスタット42により阻止されることで、ラジエータ41での冷却水の冷却(放熱)が抑制される。また、冷却水が高温(サーモスタット作動温度以上)になると、ラジエータ41側への冷却水の流入がサーモスタット42により許容され、冷却水はラジエータ41で放熱されつつ循環経路内を循環する。これにより、エンジン運転状態下において冷却水が適温(例えば80℃程度)で維持される。また、サーモスタット42は、駆動信号により開閉可能になっており、本実施形態では、サーモスタット開度が大きいほどラジエータ41側への冷却水流量が多くなるようにしてある。
【0032】
なお、本実施形態において、循環経路37,39の二方に分岐される分岐部には、各循環経路への冷却水流量の分配比(流量比)を変更可能な開閉弁43が設けられている。例えば、車室内の暖房要求が生じている場合には、循環経路37への流量比が大きくなる側に開閉弁43の開度を変更することにより暖房要求を満たすようにする。一方、冷却水が高温(例えばサーモスタット作動温度以上)になると、循環経路39への流量比が大きくなる側に開閉弁43の開度を変更することにより、ラジエータ41での冷却水の放熱を促進させる。ただし、開閉弁43は必ずしも必要でなく、開閉弁43を設けない構成であってもよい。
【0033】
本制御システムは、エンジン制御の中枢をなすECU(電子制御装置)50を備えており、そのECU50によりエンジン10の運転に関する各種制御が実施される。すなわち、ECU50は、周知の通りCPU、ROM、RAM等よりなるマイクロコンピュータを主体として構成され、ROMに記憶された各種の制御プログラムを実行することで、エンジン運転状態に応じてエンジン10の各種制御を実施する。本システムでは、エンジン運転状態を検出するための運転状態検出手段として、エンジン回転速度を検出する回転速度センサ51、吸入空気量や吸気管負圧といったエンジン負荷を検出する負荷センサ52等を備えており、これら各センサ51,52や上述した水温センサ32a,32b等の各検出信号がECU50に適宜入力される。
【0034】
ECU50は、上述した各種センサから各々検出信号を入力し、それらの各種検出信号に基づいて、スロットルバルブ11による空気量調整制御や、インジェクタ12による燃料噴射制御、イグナイタによる点火時期制御等を実施する。上記の各種制御は、基本的には、都度のエンジン運転状態においてエンジン10が最高効率(最高燃費)となるように適合データ等に基づいて実施される。例えば、点火時期制御については、現在のエンジン運転状態においてトルクが最大となる点火時期であるMBT点火時期(MBT:Minimum Advance for Best Torque)にできるだけ近くなるように、ノック発生限界を超えない範囲で都度設定する。
【0035】
図2は、点火時期特性を示す図である。エンジン10では、MBT点火時期とノック発生限界(トレースノック点火時期)との関係がエンジン運転状態に応じて異なる。具体的には、
図2に示すように、MBT点火時期がトレースノック点火時期よりも遅角側となるMBT運転領域S1と、MBT点火時期がTK点火時期よりも進角側となるTK運転領域S2とがある。これら2つの運転領域S1,S2は、それらの境界線L1に対して低負荷側がMBT運転領域S1、高負荷側がTK運転領域S2となっている。また、MBT運転領域S1については、エンジン回転速度が高くなるほどその領域が高負荷側に広がっている。ECU50は、エンジン10の出力トルクを最大とする場合、MBT運転領域S1では目標点火時期をMBT点火時期とし、TK運転領域S2では目標点火時期をトレースノック点火時期に設定する。
【0036】
また、燃料噴射制御については、例えば吸入空気量に基づいて基本燃料噴射量を算出し、その基本燃料噴射量に対して、始動後増量補正や暖機増量補正、高負荷増量補正(OT増量補正)などの各種補正を実施している。OT増量補正について詳しくは、排気温度が所定の触媒劣化温度(例えば850℃)まで上昇した場合に、排気温度を低下させるべく、エンジン10の回転速度や負荷に応じた燃料増量を実施する。
【0037】
ここで、高温排気による触媒劣化を抑制するための燃料増量やその燃料量は、燃費向上の観点からするとできるだけ少ないのが望ましい。そこで、本実施形態では、エンジン冷却性能を向上させることにより、耐ノッキング性が向上し点火進角が可能になること、及びOT増量補正を実施するOT増量領域が小さくなる(空気過剰率λ=1で運転可能なエンジン運転領域が広くなる)ことに着目し、排気熱による触媒劣化のおそれが生じる所定高温域において、エンジン冷却システム30の作動態様を変更することによりエンジン10の冷却性能を向上させ、その後、エンジン10の点火時期を進角させることとしている。
【0038】
エンジン冷却性能の向上によるOT増量領域の変化について、
図3を用いて詳しく説明する。
図3は、エンジン10の冷却性能とOT増量領域との関係を示す図である。図中、境界線L1、L1’は、MBT運転領域S1とTK運転領域S2との境界線であり、境界線L3、L3’は、OT増量補正を実施しないλ=1運転領域とOT増量領域との境界線である。これらのうち、L1、L3はエンジン冷却性能の向上前を示し、L1’ 、L3’はエンジン冷却性能の向上後を示す。また、OT−MBTは、MBT運転領域S1においてOT増量を実施するエンジン運転領域を示し、OT−TKは、TK運転領域S2においてOT増量を実施するエンジン運転領域を示す。
【0039】
図3に示すように、OT増量補正はエンジン高回転かつ高負荷の運転領域で実施される。ここで、エンジン10の冷却性能を向上させた場合には、
図3に示すように、λ=1運転領域とOT増量領域との境界線がL3からL3’に移動する。つまり、λ=1運転領域が大きくなり、OT増量領域が小さくなる。これにより、OT増量補正の実施頻度が少なくなり、触媒17の熱劣化抑制のために用いる燃料量を少なくすることができる。
【0040】
また更に、エンジン冷却性能を向上させた場合には、
図3に示すように、MBT運転領域S1とTK運転領域S2との境界線L1が高負荷側に移動してL1’となる。つまり、MBT運転領域S1が大きくなり、TK運転領域S2が小さくなる。これにより、点火時期をMBT点火時期で制御する機会を増やすことができ、燃費低減効果が得られる。
【0041】
次に、本実施形態の触媒劣化抑制処理について説明する。
図4は、触媒劣化抑制処理の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、ECU50により所定周期毎に実行される。
【0042】
図4において、ステップS101では、排気温度Texが第1判定値T1よりも高いか否かを判定する。ここで、第1判定値T1は、触媒劣化温度よりも所定温度αだけ低い値に設定してあり、例えば800℃に設定してある。排気温度Texは、排気温度センサ16により検出した実測値であってもよいし、エンジン運転状態(エンジン回転速度やエンジン負荷など)に基づいて算出した推定温度であってもよい。あるいは、排気温度センサ16による実測値及び温度勾配に基づいて算出した所定時間後の予測温度でもよいし、排気温度に代えて、触媒床温の実測値、推定温度及び予測温度のいずれかでもよい。なお、本実施形態では、第1判定値T1が「第1温度」に相当し、第1判定値T1よりも高い温度域が「所定高温域」に相当する。
【0043】
ステップS101がYESの場合、ステップS102へ進み、第2フラグF2がONか否かを判定する。第2フラグF2=ONでない場合、ステップS103へ進み、エンジン10の冷却性能を向上させるべく第1冷却向上処理を実施する。この第1冷却向上処理は、最大冷却性能よりも低い態様でエンジン10を冷却するものであり、具体的には、
・開閉弁35の開度を大きくしてヘッド側経路31Bの冷却水流量をΔQ1だけ増量する
・サーモスタット42の開度をΔL1だけ大きくしてラジエータ41側への冷却水流量を増加する
の少なくともいずれかを実施することとしている。ここで、ΔQ1については、ヘッド側経路31Bの冷却水流量が最大とならない範囲で設定され、ΔL1については、サーモスタット42が最大開度Lmxとならない範囲で設定される。また、ヘッド側経路31Bやラジエータ41側への冷却水流量の増量に際しては、循環経路39の流量を増加する側に開閉弁43の開度を変更するとよい。
【0044】
続くステップS104では、エンジン10のシリンダ温度が低下したか否かを判定する。ここでは、水温センサ32bで検出した冷却水温(エンジン出口温度)が判定値TW1以下であるか否かを判定する。なお、シリンダ温度の低下判定は、冷却水温の低下量が所定値を超えたか否かを判定することにより行ってもよいし、第1冷却向上処理を開始してからの経過時間が所定時間を超えたか否かを判定することにより行ってもよい。また、ヘッド側経路31Bや循環経路において、経路内圧を検出する圧力センサが設けられている場合には、当該圧力センサの検出値に基づいて判定してもよい。このとき、エンジン冷却性能が十分に得られない場合に、ラジエータファンを更に作動させてもよい。
【0045】
ステップS104がYESの場合、ステップS105へ進み、第1点火進角処理を実施する。具体的には、エンジン冷却性能を向上させた後のエンジン運転領域マップ(例えば
図3のマップ)を用い、現在のエンジン運転状態がTK運転領域に属する場合には、目標点火時期をトレースノック点火時期とし、MBT運転領域に属する場合には、目標点火時期をMBT点火時期とする。なお、目標点火時期への点火時期制御については、図示しない別ルーチンにより実行される。また、ステップS105では、第1フラグF1をオンにする。
【0046】
ステップS106では、(1)排気温度Texが第1判定値T1よりも高い状態が判定時間Time1以上継続したこと、及び(2)排気温度Texが第2判定値T2よりも高いことの2つの条件が共に成立しているか否かを判定する。ここで、第2判定値T2は、第1判定値T1よりも高い温度(例えば、触媒劣化温度又はその近傍)に設定してある。なお、この第2判定値T2が「所定の判定温度」に相当する。また、ステップS106では、(1)及び(2)の条件の成否を判定したが、いずれか一方の条件のみを判定する構成としてもよい。ステップS106がYESの場合、ステップS107へ進み、第2フラグF2をオンにして一旦本ルーチンを終了する。
【0047】
さて、第2フラグF2がオンであり、排気温度Texが第1判定値T1よりも高温であると、ステップS101、S102がYESとなり、ステップS108へ進み、第2冷却向上処理を実施する。この第2冷却向上処理は、第1冷却向上処理とは異なり、冷却システム30によるエンジン冷却を最大冷却能力で実施するものである。具体的には、
・開閉弁35を最大開度にしてヘッド側経路31Bの冷却水流量を最大流量Qmxにする
・サーモスタット42の開度を最大開度L2にしてラジエータ41側への冷却水流量を増加する
の少なくともいずれかを実施する。
【0048】
続くステップS109では、第2冷却向上処理によりエンジン10のシリンダ温度が低下したか否かを判定する。ここでは、例えば、水温センサ32bで検出した冷却水温が判定値TW2(TW2<TW1)以下であるか否かを判定するか。なお、判定値TW2について判定値TW1と同じ温度であってもよい。
【0049】
ステップS109がYESの場合、ステップS110へ進み、第2点火進角処理を実施する。この第2点火進角処理では、冷却性能を向上させた後のエンジン運転領域マップを用い、現在のエンジン運転状態がTK運転領域に属するか、それともMBT運転領域に属するかに応じて、上記の第1点火進角処理と同じ態様とするか否かを切り替えている。
【0050】
図5は第2点火進角処理の処理手順を示すサブルーチンである。
図5において、ステップS41では、現在のエンジン運転状態がMBT運転領域に属しているか否かを判定する。ステップS41がNOの場合、つまりTK運転領域に属している場合にはステップS42へ進み、目標点火時期をトレースノック点火時期として本ルーチンを終了する。一方、MBT運転領域に属している場合には、ステップS41がYESとなり、ステップS43へ進み、目標点火時期をMBT点火時期よりも進角側として本ルーチンを終了する。
【0051】
図4の説明に戻り、ステップS111では、排気温度Texが第2判定値T2(「第2温度」に相当)よりも高い状態が判定時間Time2以上継続しているか否かを判定し、ステップS111がYESの場合、ステップS112へ進み、基本燃料噴射量に対して、触媒保護のための燃料増量補正(OT増量補正)を実施する。燃料補正量については、エンジン運転状態に基づいて設定しており、具体的には、エンジン回転速度が高いほど又はエンジン負荷が大きいほど燃料補正量を多くする。なお、ここでの燃料増量補正では、補正前における冷却向上処理及び点火進角により、燃料増量分をできるだけ少なくできる。このステップS112では、第3フラグF3をオンにする。
【0052】
排気温度Texが第1判定値T1以下になると、ステップS101がNOとなりステップS113へ進む。ステップS113では、第3フラグF3がオンされているか否かを判定し、ステップS113がYESの場合、ステップS114へ進み、OT増量補正を停止するとともに、第3フラグF3をオフにする。また、続くステップS115では、第1フラグF1がオンか否かを判定し、F1=ONの場合にはステップS116へ進み、冷却性能低下処理及び点火遅角を実施する。ここで、冷却性能低下処理としては、第1冷却向上処理及び第1点火進角処理により排気温度Texが第1判定値T1以下となった場合に、例えば、ヘッド側経路31Bの冷却水流量をΔQ3だけ減量する処理、サーモスタット42の開度をΔL3だけ小さくする処理などを実施する。このとき、ΔQ3をΔQ1よりも小さくするとよく、ΔL3をΔL1よりも小さくするとよい。また、第2冷却向上処理及び第2点火進角処理の開始後において排気温度Texが第1判定値T1以下となった場合には、例えば、ヘッド側経路31Bの冷却水流量をΔQ4(>ΔQ3)だけ減量する処理、サーモスタット42の開度をΔL4(>ΔL3)だけ小さくする処理などを実施する。ステップS116では、第1フラグF1及び第2フラグF2をオフにし、本ルーチンを終了する。
【0053】
次に、触媒劣化抑制処理の具体的態様を
図6及び
図7のタイムチャートを用いて説明する。
図6は、第1冷却向上処理及び第1点火進角処理により排気温度Texが第1判定値T1以下になった場合を示し、
図7は、第2冷却向上処理及び第2点火進角処理の開始後、更に燃料増量補正を実施した場合を示す。図中、(a)はアクセル開度の推移を示し、(b)は排気温度Texの推移を示し、(c)はヘッド側経路31Bの冷却水流量の推移を示し、(d)はエンジン出口温度(水温センサ32bの検出温度)の推移を示し、(e)は点火時期の推移を示し、(f)は燃料増量補正による燃料増加量の推移を示し、(g)は第1フラグF1の推移を示す。また、
図7中、(h)は第2フラグF2の推移を示し、(i)は第3フラグF3の推移を示す。
【0054】
図6において、タイミングt11でアクセルペダルが踏み込まれた場合、ノッキングの発生を抑制すべく点火時期が遅角されるとともに、エンジン10の冷却水流量が増大される。また、アクセル開度大によりエンジン10の排気温度Texが上昇する。そして、排気温度Texが第1判定値T1を超えると、そのタイミングt12で、開閉弁35の開度が大きくなる側に変更されヘッド側経路31Bの冷却水流量が更にΔQ1だけ増大される(第1冷却向上処理)。また、冷却水流量の増大に伴いエンジン出口温度が判定値TW1以下になると、そのタイミングt13で点火進角が実施され、第1フラグF1がオンされる。このとき、エンジン運転状態がTK運転領域に属する場合には、トレースノック点火時期まで進角され、MBT運転領域に属する場合には、MBT点火時期まで進角される(第1点火進角処理)。
【0055】
上記の冷却向上処理及び点火進角を実施しない場合には、
図6(b)に一点鎖線で示すように排気温度Texが上昇し続けるが、冷却向上処理及び点火進角が実施されることにより、実線で示すように排気温度Texが低下し始める。そして、タイミングt14で排気温度Texが第1判定値T1以下になると、ヘッド側経路31Bの冷却水流量がΔQ3(<ΔQ1)だけ減量されるとともに、点火遅角が行われる。これにより、排気温度Texが第1判定値T1近傍で維持される。
【0056】
次に、
図7の場合について説明する。
図7において、タイミングt21でアクセルペダルが踏み込まれたのに伴い、排気温度Texが上昇して第1判定値T1を超えると、そのタイミングt22で、開閉弁35の開度が大きくなる側に変更されヘッド側経路31Bの冷却水流量がΔQ1だけ増量される(第1冷却向上処理)。この冷却水流量の増量に伴いエンジン出口温度が判定値TW1以下になると、そのタイミングt23で点火時期が進角される。このとき、エンジン運転状態がTK運転領域に属する場合には、トレースノック点火時期まで進角され、MBT運転領域に属する場合には、MBT点火時期まで進角される(第1点火進角処理)。
【0057】
第1冷却向上処理及び第1点火進角処理によっても排気温度Texが上昇し続け、排気温度Texが第1判定値T1よりも高い状態が判定時間Time1以上継続し、かつ第2判定値T2を超えた状態になると、そのタイミングt24で開閉弁35が全開とされ、ヘッド側経路31Bの冷却水流量が最大流量Qmxとされる(第2冷却向上処理)。また、エンジン出口温度が判定値TW2以下になったタイミングt25で点火時期が更に進角される。このとき、エンジン運転状態がTK運転領域に属する場合には、トレースノック点火時期まで進角され、MBT運転領域に属する場合には、MBT点火時期を超えて過進角される(第2点火進角処理)。
【0058】
そして、第2冷却向上処理及び第2点火進角処理によっても排気温度Texが低下せず、第2判定値T2よりも高い状態が判定時間Time2以上継続すると、タイミングt26以降において、基本燃料噴射量に対して燃料増量補正が実施される。これにより、排気温度Texが低下し、第2判定値T2以下となる。なお、本実施形態では、排気温度Texが第1判定値T1以下になった場合に燃料増量補正が停止される。ただし、燃料増量補正を停止する排気温度は任意である。
【0059】
ここで、上記の冷却向上処理及び点火進角を実施しない場合には、タイミングt23Aで排気温度Texが第2判定値T2を超え、タイミングt23から判定時間Time2が経過した時に燃料増量補正が実施される。これに対し、本実施形態では、上記の冷却向上処理及び点火進角を実施することにより、燃料増量補正の実施期間をできるだけ短くする(実施の機会をできるだけ少なくする)ことができる。
【0060】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0061】
排気温度が第1判定値T1よりも高いか否かを判定し、排気温度が第1判定値T1よりも高い場合には、排気熱による触媒17の劣化のおそれが生じる所定高温域にあるとして、エンジン10の冷却性能を向上させる冷却向上処理を実施するとともに、その冷却向上処理の開始後において、エンジン10の点火時期を進角させる点火進角処理を実施する構成としたため、排気温度を低下させることができる。これにより、OT増量補正の実施の機会を低減させたり、OT増量補正に使用する燃料量を低減させたりすることができる。したがって、燃費悪化を抑制しつつ触媒17を適切に保護することができる。
【0062】
冷却向上処理の開始後においてエンジン10のシリンダ温度が低下したか否かを判定し、シリンダ温度が低下したと判定された後に点火時期を進角させる構成としたため、冷却向上処理を開始してから、エンジン10の耐ノッキング性向上の効果が得られる程度までエンジン10が冷却されるまでの遅れ時間を考慮して点火進角を実施することができ、ひいては、点火進角を行う際にノッキングが発生するのを抑制することができる。
【0063】
第2点火進角処理において、第2冷却向上処理の開始後のエンジン運転状態がMBT運転領域にあると判定された場合に、点火時期をMBT点火時期よりも進角させる構成としたため、触媒17の曝されている環境に状況に応じて、トルクよりも燃料増量の低減を優先させることができる。また、冷却向上処理の開始後のエンジン運転状態がMBT運転領域にあると判定された場合、第1点火進角処理では、目標点火時期をMBT点火時期とし、第2点火進角処理では、目標点火時期をMBT点火時期よりも過進角させる構成としたため、燃費改善を優先するか、それとも触媒17の排気熱からの保護を優先するかを触媒17の環境に応じて切り替えることができる。
【0064】
第2冷却向上処理及び第2点火進角処理の実施開始後の排気温度を検出し、その排気温度が第2判定値T2よりも高く、かつその状態が所定時間Time2以上継続した場合にOT増量補正を実施する構成としたため、触媒17の排気熱による劣化を好適に抑制することができる。また特に、本構成では、触媒17の劣化抑制のための燃料増量を実施する前に冷却向上処理及び点火進角を実施するため、燃料増量の実施の機会をできるだけ少なくすることができ、結果として、燃料増量により燃費が悪化するのをできるだけ抑制することができる。
【0065】
ウォータジャケット31について、シリンダブロック18を冷却するブロック側経路31Aと、シリンダヘッド14を冷却するヘッド側経路31Bとが設けられ、冷却向上処理として、ヘッド側経路31Bの冷却水流量を増量する構成としたため、排気高温時において、シリンダヘッド14を積極的に冷却することができる。これにより、シリンダブロック18の冷却による機械損失の増大を抑制しつつ、冷却向上処理による耐ノッキング性の向上をより好適に図ることができる。
【0066】
排気温度に応じた冷却性能によりエンジン10を冷却する構成としたため、より具体的には、第1冷却向上処理と第2冷却向上処理とで異なる冷却性能によりエンジン10を冷却する構成としたため、排気熱による触媒劣化の抑制と、冷却損失の増加の抑制とをバランスよく行うことができる。
【0067】
(第2の実施形態)
次に、本発明の第2の実施形態について、上記第1の実施形態との相違点を中心に説明する。上記第1の実施形態では、冷却向上処理及び点火進角を行っても排気温度が所定温度まで低下しない場合に燃料増量補正を実施したが、本実施形態では、排気温度が所定温度を超えた場合には、まず燃料増量補正を実施するとともに、燃料増量補正に併せて冷却向上処理及び点火進角を実施する。この点において上記第1の実施形態と相違する。以下、本実施形態の触媒劣化抑制処理について、
図8及び
図9を用いて説明する。
【0068】
図8は、本実施形態の触媒劣化抑制処理の処理手順を示すフローチャートである。この処理は、ECU50により所定周期毎に実行される。
【0069】
図8において、ステップS301では、排気温度Texが第3判定値T3よりも高いか否かを判定する。この第3判定値T3は、触媒劣化温度又はその近傍に設定してあり、例えば850℃に設定してある。ステップS301がYESの場合、ステップS302へ進み、基本燃料噴射量に対してOT増量補正を実施する。このとき、例えば、エンジン回転速度が高いほど又はエンジン負荷が大きいほど燃料補正量を多くする。また、ステップS302では、第4フラグF4をオンにする。
【0070】
続くステップS303では、冷却向上処理を実施する。ここでは、
・ヘッド側経路31Bの冷却水流量をΔQ11ずつ増量すべく開閉弁35の開度を大きくする
・ラジエータ41側への冷却水流量を増加すべくサーモスタット42の開度をΔL11ずつ大きくする
の少なくともいずれかを実施することとしている。ここで、ΔQ11及びΔL1は微少量に設定されている。
【0071】
続くステップS304では、冷却向上処理によりエンジン10のシリンダ温度が低下したか否かを判定する。ここでは、例えば、水温センサ32bで検出した冷却水温(エンジン出口温度)が判定値TW1以下であるか否かを判定する。ステップS304がYESの場合、ステップS305へ進み、目標点火時期を所定角度Δθ進角する。この進角制御では、冷却向上処理を開始した後のエンジン運転領域マップを用い、現在のエンジン運転状態がTK運転領域に属する場合にはトレースノック点火時期を限度に点火時期を進角させ、MBT運転領域に属する場合にはMBT点火時期を限度に点火時期を進角させる。なお、エンジン運転状態がMBT運転領域に属する場合、MBT点火時期よりも更に進角させてもよい。
【0072】
ステップS306では、排気温度Texが第4判定値T4(例えば、T4<T3)未満か否かを判定し、ステップS306がNOの場合、一旦本ルーチンを終了する。そして、排気温度Texが第4判定値T4未満となるまでステップS301〜S306の処理を繰り返し実行し、ステップS306がYESになるとステップS307へ進み、第5フラグF5をオンにし、本処理を一旦終了する。
【0073】
さて、排気温度Texが第3判定値T3以下になると、ステップS301がNOとなり、ステップS308へ進む。ステップS308では、第5フラグF5がオンか否かを判定し、F5=ONの場合にはステップS309へ進み、OT増量補正による燃料増量分を減らす。また、ステップS310では、排気温度Texが第5判定値T5(例えば、T5<T4)未満か否かを判定し、ステップS310がYESの場合、ステップS311へ進み、OT増量補正を停止するとともに、冷却性能低下処理及び点火遅角を行う。また、第4フラグF4、第5フラグF5をオフにし、本ルーチンを終了する。
【0074】
次に、本実施形態の触媒劣化抑制処理の具体的態様を
図9のタイムチャートを用いて説明する。図中、(a)はアクセル開度の推移を示し、(b)は排気温度Texの推移を示し、(c)はヘッド側経路31Bの冷却水流量の推移を示し、(d)はエンジン出口温度の推移を示し、(e)は点火時期の推移を示し、(f)は燃料増量補正による燃料増加量の推移を示し、(g)は第4フラグF4の推移を示し、(h)は第5フラグF5の推移を示す。なお、(b)の一点鎖線は、触媒劣化抑制処理を実施しない場合を示し、実線は触媒劣化抑制処理を実施する場合を示す。
【0075】
図9において、タイミングt31でアクセルペダルが踏み込まれ、エンジン10の排気温度Texが上昇して第3判定値T3を超えると、そのタイミングt32で燃料増量補正が開始され、第4フラグF4がオンされる。また、その後のタイミングt33で、開閉弁35の開度が大きくなる側に変更され、ヘッド側経路31Bの冷却水流量がΔQ11だけ増量される(冷却向上処理)。この冷却水流量の増量に伴い、エンジン出口温度が判定値TW3以下になると、そのタイミングt34で所定角度Δθだけ点火進角される。排気温度Texが第4判定値T4よりも低くなるまで冷却水流量がΔQ11ずつ増量されるとともに、点火時期がΔθずつ進角され、やがて排気温度Texが第4判定値T4以下になると、そのタイミングt35で第5フラグF5がオンされ、燃料増量分が少なくされる。これにより、排気温度Texが第4判定値T4近傍で維持される。
【0076】
以上詳述した本実施形態によれば、以下の優れた効果が得られる。
【0077】
燃料増量については、触媒劣化抑制の即効性が高いことを考慮し、排気温度が第3判定値T3を超えた場合に、OT増量補正を実施するとともに、そのOT増量補正に併せて冷却向上処理及び点火進角を実施する構成としたため、触媒17の劣化抑制の効果をいち早く得ることができる。また、OT増量補正のための燃料量を低減させることができる。
【0078】
(他の実施形態)
本発明は上記実施形態の記載内容に限定されず、例えば次のように実施されてもよい。
【0079】
・上記実施形態では、冷却向上処理の開始後、エンジン10のシリンダ温度が低下したと判定された後に点火進角を実施する構成としたが、冷却向上処理を開始した後であれば、シリンダ温度の低下判定の前において点火進角させる構成としてもよい。
【0080】
・冷却向上処理として、ヘッド側経路31Bの冷却水流量を増量する手段を含む構成としたが、ヘッド側経路31Bとブロック側経路31Aとの両方の冷却水流量を増量する手段を含む構成としてもよい。
【0081】
・ウォータジャケット31について、エンジン10のシリンダヘッド14を冷却するヘッド側経路31Bと、シリンダブロック18を冷却するブロック側経路31Aとの2つの経路を設けたが、
図10に示すように、1つの経路131としてもよい。
【0082】
・冷却向上処理としては、ヘッド側経路31Bの冷却水流量を増量する、ラジエータ41側への冷却水流量を増加する構成を例示したが、これらに限定せず、例えば、ウォータポンプ36について冷却水流量が調整可能な電動式ポンプとし、この電動式ポンプを制御することにより循環経路33,34の冷却水流量を増加させる構成としてもよい。あるいは、ラジエータファンを作動させる構成としてもよい。
【0083】
・上記実施形態では、循環経路34に開閉弁35を設け、開閉弁35の開度制御によりヘッド側経路31Bの冷却水流量を調整する構成としたが、開閉弁35を設けない構成としてもよい。この場合、循環経路33,34の流路断面積を異なるものとするとよく、具体的には、循環経路34の流路断面積を循環経路33よりも大きくすることで(例えば7:3や8:2)、ヘッド側経路31Bの流量をブロック側経路31Aよりも多くなるようにするとよい。
【0084】
・吸気バルブ及び排気バルブの少なくともいずれかのバルブタイミングを変更可能なバルブ可変機構を備えるエンジンにおいて、排気熱による触媒劣化を抑制するための処理として、冷却向上処理と併せて、バルブタイミングを変更することにより内部EGR量を増加させる処理を実施し、その後、点火進角させる構成とする。内部EGR量を増加した場合には、耐ノッキング性の向上により点火時期をより進角させることが可能となり、その結果、排気温度をより低下させることが可能となる。内部EGR量の増加は、例えば、吸気バルブの早開きや、排気バルブの遅閉じにより行うことができる。
【0085】
・
図11に示すように、排気管15とエンジン10の吸気管とを繋ぎ排気の一部をエンジン10の吸気系に還流させるEGR通路61を備えるエンジンにおいて、排気熱による触媒劣化を抑制するための処理として、冷却向上処理と併せて、排気の還流量(外部EGR量)を増加させる処理を実施し、その後、点火進角させる構成としてもよい。この場合、外部EGR量の増大に伴い耐ノッキング性が向上し、これにより点火進角量を更に大きくすることができる。また、例えば
図11に示すように、EGR通路61において、熱交換器としてのEGRクーラ62を備える構成とし、エンジン冷却性能の向上に際しEGRクーラ62の冷却性能を向上させることにより外部EGR量を更に増加させてもよい。
【0086】
・エンジン10のシリンダヘッド14の冷却性能を向上させる構成において、エンジン排気系側よりもエンジン吸気系側をより冷却する構成とする。ノッキングの抑制において有効な吸気側をより冷却することにより、点火進角量をより大きくすることができ、排気温度をより低下させることができる。
【0087】
・
図12に示すように、エンジン10の出口側と入口側とを繋ぐ循環経路の途中において、ヒータコア38とラジエータ41とが配置されている構成に本発明を適用してもよい。この場合、ラジエータ41側への冷却水の流入がサーモスタット42により許容された状態において、エンジン10を通過したエンジン冷却水が、ヒータコア38を経由してラジエータ41に流入される。
【0088】
・排気を直接冷却する排気冷却手段を設け、冷却向上処理及び点火進角とともに、排気冷却手段により排気の冷却を実施する構成とする。このとき、例えば
図13に示すように、エンジン吸気系側よりもエンジン排気系側が冷却されるようにエンジン冷却水を循環させる構成とする。具体的には、
図13(a),(b)に示すように、ヘッド側経路31Bにおいて、エンジン冷却水を排気側から吸気側に循環させる。また、
図13(c)に示すように、ヘッド側経路として吸気側経路63Aと排気側経路63Bとを別に設け、吸気側経路63Aよりも排気側経路63Bの冷却水流量が多くなるようにヘッド側経路を構成してもよい。あるいは、
図13(d)に示すように、エンジン冷却水によって排気管又は排気マニホールドを直接冷却するための冷却通路65を設ける構成としてもよい。