(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明を実施するための形態】
【0043】
1.1 形状保持フィルム
本発明の形状保持フィルムは、ポリエチレンを含むフィルムを延伸して得られるフィルムである。
【0044】
本発明の形状保持フィルムに含まれるポリエチレンは、エチレン単独重合体であっても、エチレン−α−オレフィン共重合体であってもよい。エチレンに少量のα−オレフィンを共重合させることで成形加工性を高めることができる。
【0045】
エチレン−α−オレフィン共重合体におけるα−オレフィンは、炭素数3〜6のα−オレフィンでありうる。炭素数3〜6のα−オレフィンの例には、プロピレン、1−ブテン、1−ヘキセンおよび1−ヘプテン等が含まれ、好ましくはプロピレンである。エチレン−α−オレフィン共重合体における、α−オレフィンに由来する構成単位の割合は、好ましくは2重量%未満であり、より好ましくは0.05〜1.5重量%である。
【0046】
本発明の形状保持フィルムに含まれるポリエチレンの密度は、好ましくは950kg/m
3以上であり、より好ましくは955〜970kg/m
3であり、さらに好ましくは960〜970kg/m
3であり、汎用の高密度ポリエチレン(HDPE)であってもよい。密度が950kg/m
3よりも低いと、延伸により形状保持性が得られにくく、密度が高すぎると、溶融製膜によりフィルム状に成形しにくくなる。
【0047】
本発明の形状保持フィルムに含まれるポリエチレンの、分子量分布(重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn))は、好ましくは5〜20であり、より好ましくは6〜16である。分子量分布が狭すぎると、延伸性が低下するため、高い延伸倍率で延伸しにくくなる。一方、分子量分布が広すぎると、低分子量成分が多くなるため、得られるフィルムの機械的強度が低下したり、延伸機を汚染して生産性を低下させたりすることがある。ポリエチレンの分子量分布は、ゲル浸透クロマトグラフィ(GPC)により測定することができる。
【0048】
本発明の形状保持フィルムに含まれるポリエチレンの、JISK−6922−2に準拠して190℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートは、好ましくは0.1〜1.0g/10minであり、より好ましくは0.2〜0.5g/10minである。ポリエチレンのメルトフローレートが上記範囲であると、後述の製造プロセスにおける溶融製膜において適度な流動性を示すため、均一な膜厚のフィルムが得られやすい。
【0049】
比較的高密度で適当な分子量分布を有するポリエチレンは、フィルム状に成形し易く、かつ高延伸することで、優れた形状保持性が得られやすい。
【0050】
本発明の形状保持フィルムに含まれるポリエチレンの極限粘度[η]は3.5dl/g未満であることが好ましい。ポリエチレンの極限粘度の測定は、135℃でデカリンを溶媒として測定することができる。
【0051】
本発明の形状保持フィルムは、本発明の効果を阻害しない程度に、低密度ポリエチレン(LDPE)または炭素原子数が9以下の側鎖を有する直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)をさらに含んでもよい。低密度ポリエチレン(LDPE)や直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)を微量添加することで、形状保持フィルムが延伸方向に平行な方向に裂けること(縦裂け)を抑制することができる。
【0052】
低密度ポリエチレン(LDPE)の密度は910〜930kg/m
3であることが好ましい。また、低密度ポリエチレン(LDPE)の、JISK−6922−2に準拠して190℃、2.16kg荷重で測定されるメルトフローレートは、0.05〜10.0g/minであることが好ましく、0.05〜5.0g/minであることがさらに好ましい。直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の密度は、910〜950kg/m
3であることが好ましい。
【0053】
低密度ポリエチレン(LDPE)および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)の含有量は、前述の高密度ポリエチレン(HDPE)100質量部に対して10質量部未満であることが好ましく、5質量部未満であることがより好ましい。低密度ポリエチレン(LDPE)および直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が上記範囲を超えると、形状保持性が低下するため、好ましくない。
【0054】
本発明の形状保持フィルムは、本発明の効果を損なわない範囲で、他の熱可塑性樹脂、各種添加剤、無機充填剤および着色顔料等をさらに含んでよい。
【0055】
各種添加剤の例には、酸化防止剤、中和剤、滑剤、帯電防止剤、アンチブロッキング剤、耐水剤、撥水剤、抗菌剤、加工助剤(ワックス等)などが含まれる。加工助剤は、例えば低分子量ポリオレフィン、脂環族ポリオレフィンなどのワックス等である。無機充填剤は、例えばガラス繊維、ガラスビーズ、タルク、シリカ、マイカ、炭酸カルシウム、水酸化マグネシウム、アルミナ、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、水酸化マグネシウム、水酸化アルミニウム、酸化チタン、酸化カルシウム、ケイ酸カルシウム、硫化モリブデン、酸化アンチモン、クレー、ケイソウ土、硫酸カルシウム、アスベスト、酸化鉄、硫酸バリウム、炭酸マグネシウム、ドロマイト、モンモリロマイト、ベントナイト、鉄粉、アルミニウム粉、カーボンブラック等である。
【0056】
加工助剤や帯電防止剤の含有量は、例えば5重量%以下、好ましくは1重量%以下とすることができる。無機充填剤や着色顔料の含有量は、例えば10重量%以下、好ましくは5重量%以下とすることができる。
【0057】
本発明の形状保持フィルムの引張弾性率は、好ましくは6〜50GPaであり、より好ましくは13〜50GPaであり、さらに好ましくは16〜50GPaであり、特に好ましくは20〜50GPaである。形状保持フィルムの引張弾性率が6GPa未満であると、十分な形状保持性が得られにくく、引張弾性率が50GPa超であると、フィルムが脆くなることがある。形状保持フィルムの引張弾性率は、フィルムの組成、延伸倍率および加熱条件などによって調整することができる。例えば、延伸倍率を高めれば、形状保持フィルムの引張弾性率を高くすることができる。
【0058】
本発明の形状保持フィルムの引張弾性率は、JIS K7161に準拠した方法で測定できる。具体的には、フィルムをカットして、巾(ポリエチレンの延伸方向と直交する方向)10mm、長さ(ポリエチレンの延伸方向)120mmの短冊状の試験片を準備し;引張試験機を用いて、温度23℃において、チャック間距離100mm、引張速度100mm/分の条件下で、試験片の引張弾性率を測定すればよい。
【0059】
本発明において、「延伸方向」とは、ポリエチレンの分子鎖の伸びきり方向;または引張弾性率が6〜50GPaとなる方向(後述のX方向)である。また、「延伸方向と直交する方向」とは、ポリエチレンの分子鎖の伸びきり方向と直交する方向;または引張弾性率が6GPa未満となる方向(後述のY方向)である。
【0060】
本発明の形状保持フィルムは、高い引張弾性率を有するため、良好な形状保持性を有する。本発明の形状保持フィルムは、高い形状保持性を得る観点では、90°曲げ試験による戻り角度は8°以下であることが好ましく、5°以下であることがより好ましい。
【0061】
本発明の形状保持フィルムの90°曲げ試験による戻り角度は、以下のようにして測定できる。すなわち、フィルムをカットして、巾(ポリエチレンの延伸方向と直交する方向)10mm、長さ(延伸方向)50mmの試料片を準備する。そして、試料片を、鋼材の直角面(二つの面で構成される直角面)に沿って、フィルム面内の巾方向の軸を屈曲軸として90°に折り曲げた状態で約5秒間保持する(
図1(A)参照)。その後、直角面を構成する一方の面に試料を密着させたまま、直角面を構成する他方の面から試料を剥離させて折り曲げ状態を解除したときの、他方の面と試料片のなす角を測定すればよい(
図1(B)参照)。90°戻り角度の測定は、温度23℃、湿度55%の条件下で行うことができる。
【0062】
また、後述の積層体としたときに十分な形状保持性を得る観点などから、形状保持フィルムの180°曲げ試験による戻り角度は65°以下であることが好ましく、30°以下であることがより好ましく、25°以下であることがさらに好ましい。形状保持フィルムの180°曲げ試験による戻り角度の測定は、後述する包装用積層体における180°戻り角度の測定と同様の手順で行うことができる。
【0063】
本発明の形状保持フィルムの延伸方向に直交する方向の表面には、凸凹構造が形成されていることがある。この微細な凸凹構造は、ポリエチレンの高分子鎖の配列が、一定以上の延伸倍率で延伸される過程で変化することにより形成されると考えられる。このような凸凹構造は、他の層との接着性やインクの密着性などを高めうる。
【0064】
他の層との接着性やインクの密着性などを高める観点では、形状保持フィルムの延伸方向に直交する方向(延伸方向と直交する方向)における表面粗さRaは0.17〜0.23μmであることが好ましく、0.18〜0.20μmであることがより好ましい。形状保持フィルムの、延伸方向に直交する方向における表面突起間隔Smは50〜180μmであることが好ましく、100〜160μmであることがより好ましい。表面粗さRaが低すぎると、アンカー効果が得られ難いため、他の層(接着剤層など)やインクとの密着性が不十分となる。表面突起間隔Smが低すぎると、インクや他の層(接着剤層など)が凹凸の隙間に入り込みにくく、インクが濡れにくい。表面突起間隔Smが大きすぎると、アンカー効果が得られにくく、インクや他の層(接着剤層など)との密着性が得られにくくなる。
【0065】
本発明の形状保持フィルムの表面粗さRaおよび表面突起間隔Smは、延伸倍率により調整される。例えば、形状保持フィルムの延伸倍率を高めれば、表面粗さRaは大きくなり、表面突起間隔Smは小さくなる。また、形状保持フィルムの表面の凹凸構造は、延伸倍率だけでなく、延伸方法や延伸時の加熱方法によっても調整されうる。例えば、延伸方法は、圧延による延伸を含まないことが好ましい。ポリエチレンを含む原反フィルムを圧延により延伸すると、表面の凹凸が潰されて表面が平滑になるため、凸凹構造が形成されにくいからである。また、延伸時の加熱方法は、ポリエチレンを含む原反フィルムをできるだけ均一に加熱できる方法(例えば光加熱法)が好ましい。特に高倍率で延伸する場合、ポリエチレンを含む原反フィルムを光加熱法などで均一に加熱した状態で延伸すれば、延伸時にフィルムが部分的に裂けたり、凹凸が過剰に形成されたりするのを抑制できるからである。
【0066】
本発明の形状保持フィルムの表面粗さRaおよび表面突起間隔Smは、表面粗さ形状測定機(株式会社東京精密製 サーフコム570A)を用いて、触針法により測定することができる。具体的には、触針の先端の材質をダイヤモンドとし、触針の先端形状を曲率半径R:5μm、θ:90°の円錐とすることができる。測定条件は、カットオフを0.8mm、トレーシングスピードを0.3mm/秒、測定長さを2.5mmとすることができる。
【0067】
本発明の形状保持フィルムの厚みは、20〜100μmであることが好ましく、30〜40μmであることがより好ましい。
【0068】
本発明の形状保持フィルムの表面には、微細な凸凹構造が形成されうるため、形状保持フィルムの表面を印刷面とすることができる。ポリエチレンからなる形状保持フィルムは、表面層に極性基を持たないため、インキの印刷性や他の樹脂との接着性が不十分である場合がある。このため、インキの印刷性、他の樹脂との接着性を高めるために、形状保持フィルムの表面に、コロナ放電処理が施されることがある。
【0069】
コロナ放電処理は、インクの種類にもよるが、凸凹構造による毛細管現象を生じさせて、インクを凸凹に入り込み易くできる範囲、例えば表面張力が40dyn/cm以上となるように施されればよい。コロナ放電処理の強度は、電流密度、処理時間、および雰囲気ガスの種類等により調整できる。コロナ放電処理を行う雰囲気ガスは、空気、窒素、酸素等であってよい。
【0070】
1.2 形状保持フィルムの製造方法
本発明の形状保持フィルムは、前述のポリエチレンを含む原反フィルムを得る工程と、前記原反フィルムを一定以上の延伸倍率に延伸(好ましくは一軸延伸)する工程と、を経て得ることができる。原反フィルムに含まれるポリエチレンは、前述の形状保持フィルムに含まれるポリエチレンとほぼ同様である。ただし、ポリエチレンは、延伸によって結晶化すると密度が高くなることがある。そのため、原反フィルムに含まれるポリエチレンの密度は940kg/m
3以上とすることが好ましい。
【0071】
原反フィルムは、ポリエチレンを含む樹脂組成物を、溶融製膜して得られるものでも、市販のフィルムであってもよい。溶融製膜して得られる原反フィルムは、前述のポリエチレンを含む樹脂組成物を押出機で溶融混練させた後、Tダイから吐出させて冷却ロールで冷却固化させて得ることができる。冷却ロールの温度は、溶融樹脂をある程度固化できる温度であればよいが、例えば80〜100℃程度である。
【0072】
原反フィルムの厚みは、例えば100〜1000μm程度であり、好ましく100〜500であり、さらに好ましくは200〜500μmである。
【0073】
ポリエチレンを含む原反フィルムを、所定の倍率で延伸(好ましくは一軸延伸)する。一軸延伸は、ロール延伸機に繰り出して、予熱ロールで予熱した後、MD方向に一軸延伸することが好ましい。製造効率を高める点では、原反フィルムを予熱した後、直ちにMD方向に一軸延伸することが好ましい。本発明における一軸延伸とは、一軸方向の延伸を意味するが、本発明の効果を損なわない程度に、一軸方向とは異なる方向に延伸されてもよい。用いる延伸設備によっては、一軸方向に延伸しようとしても、一軸方向とは異なる方向にも実質的に延伸されることがあるからである。
【0074】
延伸倍率は、形状保持性を得るためには、通常、10倍以上であり、11倍以上であることが好ましく、15倍以上であることがより好ましく、20倍以上であることがより好ましく、20〜30倍であることがさらに好ましい。延伸倍率が10倍よりも低いと、引張弾性率が十分に高まらず、十分な形状保持性が得られない。フィルム表面に、前述のような凹凸構造を形成するためには、延伸倍率は20〜30倍とすることが好ましい。
【0075】
延伸倍率を上記範囲とするためには、予熱・延伸時の加熱温度を適切に調整すること;特にフィルムの厚み方向に均一に加熱できるようにすることが重要となる。なお、本発明における延伸倍率には、圧延による延伸は含まれない。
【0076】
予熱ロールによる予熱温度は、原反シートを延伸に適した柔らかさにすることができる温度であればよく、例えば120〜140℃とすることができる。
【0077】
延伸は、120〜140℃に加熱しながら、延伸直前の予熱ロールと、延伸ロールとの間に周速差を設けることにより行うことができる。延伸速度は、特に制約はないが、100〜1000%/秒とすることができる。延伸中にフィルムが滑らないようにするために、予熱ロールと延伸ロールには、それぞれピンチロールを押し当てることが好ましい。
【0078】
延伸時のフィルムの加熱は、ロール加熱であっても、光加熱であってもよいが、フィルムの厚み方向に均一に加熱しやすくする点から、光加熱が好ましい。光加熱は、原反フィルムの表面に、光源から光を照射することにより行うことができる。光源は、原反フィルムの厚み方向にできるだけ均一に加熱できるものが好ましく、例えば近赤外領域の波長成分が多いハロゲンランプ、レーザー、および遠赤外線ヒーター等である。また、高い延伸倍率でも安定した延伸を行うために、原反フィルムに照射する光を、曲面反射板等によりMD方向(延伸方向)に1cm以下に集光して、原反フィルムのTD方向(幅方向)に線状に加熱することが好ましい。
【0079】
また本発明においては、原反フィルムを得る工程と、一軸延伸する工程との間で圧延工程を行わないことが好ましい。原反フィルムを圧延した後、一軸延伸して得られるフィルムは、所望の凸凹構造を有しないからである。
【0080】
延伸後の延伸フィルムに、必要に応じてアニール処理を施してもよい。アニール処理は、延伸シートを加熱ロールに接触させて行うことができる。
【0081】
本発明の形状保持フィルムは、優れた形状保持性を有するだけでなく、表面に微細な凸凹構造を有しうる。そのため、他の層(ヒートシール層等)と良好に密着させることができる。また、形状保持フィルムの表面にプリントを施す場合に、従来のように新たに易印刷層を設けなくても、形状保持フィルムの表面に直接プリントを施すことができる。
【0082】
本発明の形状保持フィルムは、前述のように高い形状保持性を有するため、後述のような、各種包装用積層体または包装材として好ましく用いることができる。
【0083】
2.1 包装用積層体
本発明の包装用積層体は、前述の形状保持フィルムを含み、必要に応じて他の層をさらに含んでもよい。
【0084】
本発明の包装用積層体に含まれる他の層は、包装用積層体に各種特性や機能を付与しうる層であればよく、その材質は、樹脂、金属、紙、織布、不織布および発泡体等でありうる。本発明の包装用積層体に含まれる他の層の好ましい例には、ガスバリア層、保護層およびヒートシール層などが含まれる。他の層は、一種類だけであってもよいし、二種類以上を組み合わせてもよい。
【0085】
ガスバリア層は、金属層または樹脂層であってよいが、軽量でガスバリア性が高い等の点から、好ましくはアルミニウム箔層である。アルミニウム箔層の厚みは、ガスバリア性が得られる程度であればよく、5〜20μm程度としうる。
【0086】
なお、包装用積層体の用途によっては、包装用積層体がアルミニウム箔などの金属層を含まないことが望まれる場合がある。その場合には、包装用積層体に含まれるガスバリア層は、アルミニウム箔などの金属層ではなく、樹脂層であることが好ましい。
【0087】
保護層を構成する樹脂は、特に制限されないが、印刷性や強度を高めることができる等の点から、好ましくはポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、およびナイロン等である。ポリエステルは、好ましくはポリエチレンテレフタレート(PET)であり、ポリプロピレンは、好ましくは二軸延伸ポリプロピレン(OPP)であり、ナイロンは、好ましくは二軸延伸ナイロン(ONy)である。
【0088】
なかでも、保護層として、二軸延伸PETフィルムが好ましく用いられる。しかしながら、二軸延伸PETフィルムは、反発弾性(スプリングバック性)が高いため、厚くすると形状保持性が損なわれやすい。一方、二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)は、剛性が高いが反発弾性は低いため、形状保持性を損なうことなく、包装用積層体の剛性や耐破袋性を高めうる。このため、二軸延伸ポリプロピレンフィルムを含み、かつ二軸延伸PETフィルムをできるだけ薄くすることで、形状保持性を保持しつつ、剛性と機械的強度に優れた包装用積層体を得ることができる。
【0089】
保護層は、単層であっても、多層であってもよい。保護層(単層)の厚みは、ポリエステルであれば5〜20μm程度とし、ポリプロピレンであれば10〜30μmとしうる。
【0090】
ヒートシール層を構成する樹脂は、融点が90〜170℃である樹脂であることが好ましい。そのような樹脂の好ましい例には、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、無延伸ポリプロピレン(CPP)、アイオノマー、およびポリスチレン等が含まれる。特に、低温でのヒートシール性、シール強度、光沢性、耐寒性を得る観点からは、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)が好ましく;シール強度、透明性、耐摩耗性、防湿性、適度な腰を得る観点からは、無延伸ポリプロピレン(CPP)が好ましい。これらの樹脂は単独で用いてもよいし、二種類以上を組み合わせて用いてもよい。ヒートシール層の厚みは、10〜70μmであることが好ましく、10〜50μmであることがより好ましい。
【0091】
本発明の包装用積層体は、用途にもよるが、形状保持フィルムと、保護層とを含むことが好ましく、ガスバリア層をさらに含むことが好ましい。形状保持フィルムは、包装用積層体の最表面に配置されても、中間に配置されてもよいが、包装用積層体の最表面に配置されることが好ましい。形状保持フィルムは、高い形状保持性を有するだけでなく、ヒートシール性や、(表面の凸凹構造による)印刷性も示すからである。例えば、形状保持フィルムを包装材の内表面に配置すれば、包装材をヒートシールしたり、包装材の内側の面に印刷を施したりすることができる。形状保持フィルムを包装材の外表面に配置すれば、包装材の外側の面に印刷を容易に施すことができる。
【0092】
図2は、本発明の包装用積層体の積層構造の一例を示す図である。
図2に示されるように、包装用積層体20は、形状保持フィルム22と、アルミニウム箔層24と、保護層26とを有する。これにより、包装用積層体20における形状保持フィルム22は、形状保持層として機能することはもちろん、ヒートシール層ともなり得るし、保護層26は易印刷層となり得る。
【0093】
本発明の包装用積層体の総厚みは、50〜200μmであることが好ましく、70〜150μmであることがより好ましい。包装用積層体の総厚みが50μm未満であると、包装用積層体の機械的強度が十分でなく、200μm超であると復元力が強くなるため、形状保持性が低下しやすい。
【0094】
本発明の包装用積層体は、前記形状保持フィルムを含むため、高い形状保持性を有する。包装用積層体の180°曲げによる戻り角度は、層構成や総厚みなどにもよるが、110°以下であることが好ましく、80°以下であることがより好ましく、65°以下であることがさらに好ましく、50°以下であることが特に好ましい。
【0095】
本発明の包装用積層体の180°曲げによる戻り角度を上記範囲とするためには、例えば1)包装用積層体が、180°曲げによる戻り角度が低い形状保持フィルムを含むようにしたり、2)包装用積層体が、アルミニウム箔などの一定の形状保持性を有する他の層をさらに含むようにしたり、3)形状保持フィルムの厚みの、総厚みに対する比率を大きくしたりすればよい。
【0096】
本発明の包装用積層体の180°曲げ試験による戻り角度の測定は、以下のようにして行うことができる。
すなわち、1)巾(延伸方向と直交する方向)10mm、長さ(延伸方向)50mmの試料片を準備し、2)試料片を、板材の下面、端面および上面に沿ってフィルム面内の巾方向の軸を屈曲軸として180°に折り曲げた状態で約30秒間保持し(
図15(A)参照)、3)折り曲げ状態の保持を解除して30秒後の、試料片の表面が板材の上面となす角度θを測定する(
図15(B)参照)、ことで求めることができる。なす角度θは、試料片の一方の面が板材と接するようにした場合に測定される値と、試料片の他方の面が板材と接するようにした場合に測定される値との平均値として求められる。180°戻り角度の測定は、温度23℃、湿度55%の条件下で行うことができる。
【0097】
本発明の包装用積層体は、高い形状保持性を有する。このため、自立させた状態で収容物を取り出したり、袋の開口部を折り曲げるだけで封止したりする、包装材として好ましく用いられる。
【0098】
2.2 包装用積層体の製造方法
本発明の包装用積層体の製造方法は、1)前述の形状保持フィルムを得る工程と、2)前記形状保持フィルムと他の層とをラミネートして包装用積層体を得る工程と、を含む。
【0099】
形状保持フィルムは、前述の通り、ポリエチレンを含む原反フィルムを所定の延伸倍率で一軸延伸することにより得られる。
【0100】
形状保持フィルムと他の層とをラミネートすることで包装用積層体を得る。形状保持フィルムと他の層とのラミネートは、任意の方法で行うことができるが、層間の接着性を高めるために、接着剤を介して行ってもよい。接着剤を介したラミネートには、形状保持フィルム上にフィルム状の溶融樹脂を積層する押出ラミネート;溶媒で希釈した接着剤を塗布・乾燥して接着するドライラミネートなどが含まれるが、一般的に接着剤層を薄く形成し易い点から、ドライラミネートが好ましい。
【0101】
押出ラミネートに用いられる接着剤の例には、低密度ポリエチレン(LDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、エチレン酢酸ビニル共重合樹脂、エチレンアクリル酸共重合樹脂等の軟質樹脂が含まれる。ドライラミネートに用いられる接着剤の例には、アクリル系、エポキシ系またはウレタン系(例えばポリウレタン樹脂)等の公知のドライラミネート用接着剤が含まれる。接着剤層の厚さは、1〜10μm程度、好ましくは2〜8μm程度としうる。
【0102】
なかでも、押出ラミネートにより包装用積層体を得る場合、包装用積層体の形状保持性を維持するためには、溶融樹脂の温度の調整が重要となる。
【0103】
形状保持フィルムの加熱温度が120℃を超えると、戻り角度が大きくなるだけでなく、熱収縮率も急激に大きくなる。したがって、包装用積層体を押出ラミネートによって得る場合、形状保持フィルムの実質の温度が120℃以下となるように、押し出す接着剤の温度、ラミネート速度、およびラミネート手順等を調整する必要がある。ラミネート手順を調整する方法の例には、接着剤を他の層に押し出して接着剤層を形成した後、接着剤層と形状保持フィルムとをラミネートする方法などが含まれる。また、ラミネート後の形状保持フィルムの収縮を抑制するために、ラミネート後の包装用積層体をすばやく冷却することが好ましい。
【0104】
本発明における形状保持フィルムは、前述のように表面に微細な凸凹構造を有する。このため、多少接着しにくい条件でもアンカー効果により他の層と良好に接着させることができる。
【0105】
2.3 包装材
本発明の包装用積層体は高い形状保持性を有するため、例えば食品類や洗剤類などの包装材、各種詰め替え用の包装材として好適である。さらに、アルミニウム箔等の金属箔を含まない包装材とすれば、電子レンジでの加熱調理用の包装材としても好適である。
【0106】
本発明における包装材とは、前述の包装用積層体を含む蓋状体(蓋材)、袋状体または筒状体である。蓋状体の例には、カップラーメンやプリン等の食品容器を密閉する蓋材などが含まれる。袋状体の例には、ガゼット袋、スタンディングパウチ(自立性包装袋)等が含まれる。
【0107】
図3は、袋状の包装材の一例を示す図である。
図3に示されるように、包装材30の開口面Pは、包装材を構成する形状保持フィルムの延伸方向と交差するように(好ましくは略直交するように)設けられる。包装材30の開口面Pとは、開口部30Aを含む平面である。略直交するとは、交差角度が90度を含むことはもちろん、(90±15)度の範囲も含む。
【0108】
つまり、包装材30を構成する形状保持フィルムは、延伸方向に高い形状保持性を示す。このため、包装材30は、その折り曲げ方向が、形状保持フィルムの延伸方向(折り曲げ軸が形状保持フィルムの延伸方向と略直交する方向)となるように作製されることが好ましい。つまり、包装材30の開口部30Aが、形状保持フィルムの延伸方向と略直交するように形成されることが好ましい。それにより、包装材30を自立させた状態で置いたり、開口部30Aを折り曲げるだけで袋を閉じたりすることができる。
【0109】
本発明における「開口面」には、「実際に開口している部位の開口面」だけでなく、「開口される予定の部位が開口した場合に形成される開口面」も含まれる。「開口される予定の部位を有する袋」の例には、
図3に示されるような袋の開口部Pの端部をヒートシールなどで封じた袋などが含まれる。このような袋の「開口される予定の部位」の近傍には、通常、ヒートシール部を切り取るためのノッチ(切り込み)やガイドライン(切り取り線)が形成されている。そのため、例えばガイドラインは、包装材の延伸方向と略直交するように付されることが好ましい。
【0110】
2.4 包装材の製造方法
袋状または筒状の包装材は、1)包装用積層体を準備する工程と、2)包装用積層体同士を重ね合わせるか、あるいは包装用積層体と他のシートとを重ね合わせる工程と、3)重ね合わせた包装用積層体の一部をシールして包装材を得る工程と、を経て得ることができる。他のシートは、例えば熱可塑性樹脂のシート等であってよい。
【0111】
包装用積層体は、前述の包装用積層体である。包装用積層体同士を重ね合わせる方法には、1枚の包装用積層体を折り曲げて重ね合わせる方法と;2枚の包装用積層体を貼り合わせる方法とが含まれる。包装用積層体同士を重ね合わせる方法、および包装用積層体と他のシートとを重ね合わせる方法のいずれにおいても、包装用積層体の端部同士または包装用積層体と他のシートとの端部同士が必ずしも揃っていなくてもよい。要は、シールする部分で包装用積層体同士または包装用積層体と他のシートとが重なっていればよい。
【0112】
重ね合わせた包装用積層体の一部をシールして包装材とする。シールは、接着剤によるシールでも、ヒートシールでもよいが、好ましくはヒートシールである。ヒートシール温度は、包装用積層体同士または包装用積層体と他のシートとを接着できる温度であればよく、例えば100〜300℃程度である。シール強度は、ヒートシール温度、ヒートシール回数、ヒートシール時間などにより調整できる。
【0113】
ヒートシール方法は、公知の方法であってよく、例えばバーシール、回転ロールシール、インパルスシール、高周波シール、および超音波シール等であってよい。
【0114】
本発明の包装用積層体を含む包装材は、高い形状保持性を有する。このため、自立させた状態で置いたり、袋の開口部を折り曲げるだけで袋を閉じたりすることができる。
【0115】
3.1 形状保持繊維
本発明の形状保持繊維はポリエチレンを含む。ポリエチレンは、前述の形状保持フィルムに含まれるポリエチレンと同様である。即ち、ポリエチレンは、エチレン単独重合体であっても、エチレン−α−オレフィン共重合体であってもよい。ポリエチレンの密度や分子量分布なども、前述の通りである。なかでも、極限粘度[η]が3.5dl/g未満であるポリエチレンが好ましい。
【0116】
本発明の形状保持繊維は、本発明の効果を損なわない範囲で、ポリエチレン以外の熱可塑性樹脂をさらに含んでいてもよいし、各種添加剤をさらに含んでいてもよい。各種添加剤は、前述の形状保持フィルムに含まれる添加剤と同様であってよい。
【0117】
本発明の形状保持繊維の太さは、200デニール以下、好ましくは100デニール以下であることが好ましく、さらに細くしてもよい。マイクロマルチフィラメントとする場合には、数デニールとすることが好ましい。デニールとは、9000メートルの繊維の質量をグラム単位で表したものである。形状保持繊維の太さは、繊維を織物としたときの織物の風合い(例えば、やわらかさ)に強く影響する。また、形状保持繊維の長さは、その用途に応じて適宜調整すればよい。
【0118】
本発明の形状保持繊維の断面は、矩形でありうる。後述のように、本発明の形状保持繊維は、ポリエチレンフィルムをマイクロスリット法によって裁断することで製造されるからである。形状保持繊維の断面が矩形であるときに、断面の短辺は20〜100μmの範囲にあることが好ましく、30〜40μmの範囲にあることがより好ましく;長辺は100〜500μmの範囲にあることが好ましい。また、繊維断面のアスペクト比が大きすぎると、織物としたときに捩れやすくなる。また、形状保持繊維をマイクロマルチフィラメントとする場合には、その断面の長辺も短辺も小さくする。
【0119】
本発明の形状保持繊維は、優れた形状保持性を有する。形状保持性は、90°曲げ試験による戻り角度で示される。本発明の形状保持繊維の、90°曲げ試験による戻り角度は、8°以下であり、好ましくは5°以下である。形状保持繊維の90°曲げ試験による戻り角度は、繊維に裁断される前のシートの90°曲げ試験による戻り角度であるとみなされる。
【0120】
本発明の形状保持繊維の引張弾性率は、16〜50GPaであることが好ましく、より好ましくは20〜50GPaである。形状保持繊維の引張弾性率が16GPa未満であると、十分な形状保持性が得られにくく、引張弾性率が50GPa超であると繊維が脆くなり、織物に成形することができなくなることがある。
【0121】
形状保持繊維の引張弾性率は、繊維に裁断される前のシートの引張弾性率であるとみなされる。シートの引張弾性率は、JIS K7161に準拠した方法で測定できる。測定の詳細は後述する。
【0122】
後述の通り、本発明の形状保持繊維は、例えば、一軸延伸させたポリエチレンフィルムを含むシートを裁断することで得られる。ポリエチレンフィルムの一軸延伸の延伸倍率を調整することで、形状保持繊維の引張弾性率を調整することができる。一軸延伸の延伸倍率が高いほど、ポリエチレンの分子鎖を伸ばし延伸ポリエチレンフィルムの引張弾性率を高めることができる。
【0123】
本発明の形状保持繊維は、繊維長さ方向に高い熱伝導性を有し;例えば、繊維の長さ方向の熱伝導率を5〜30W/mKとすることができ、さらに10〜30W/mKとすることができる。
【0124】
形状保持繊維の熱伝導率は、繊維に裁断される前のシートの熱伝導率とみなされる。シートの熱伝導率は、延伸方向に長さ30mm、巾3mmの短冊状サンプルを用意し、延伸フィルムの片側表面に受光膜(Bi薄膜)を蒸着して試験サンプルとする。光交流法を原理とする熱拡散率測定装置を用いて、温度25℃における試験サンプルの熱拡散率αを測定する。一方、示差走査熱量測定(DSC)法によりシートの比熱Cpと密度ρとを測定する。各測定値を以下の式にあてはめて、熱伝導率λ(単位:W/mK)を求めることができる。
熱伝導率λ=α × ρ × Cp
【0125】
形状保持繊維の繊維長さ方向の熱伝導性は、繊維の製造プロセス(後述)における一軸延伸の延伸倍率によって調整されうる。一軸延伸することによって、形状保持繊維に含まれるポリエチレンが、延伸方向とそれに垂直な方向とで異方性を示す。一軸延伸の延伸倍率が高いほど、異方性が高くなる。異方性を有するポリマー(特に結晶性ポリマー)の延伸方向の熱伝導性は、等方性を有するポリマーの熱伝導性と比較して向上する。
【0126】
本発明の形状保持繊維は、種々の用途に用いられうる。針金のように止め具として用いてもよいし;織物を構成する繊維として用いれば、織物に形状保持性を付与することもできる。
【0127】
本発明の形状保持繊維の用途の具体例としては、各種衣料(シャツ、スーツ、ブレザー、ブラウス、コート、ジャケット、ブルゾン、ジャンパー、ベスト、ワンピース、ズボン、スカート、パンツ、下着(スリップ、ペチコート、キャミソール、ブラジャー)、靴下、和服、帯地、金襴)、冷感衣料、ネクタイ、ハンカチーフ、テーブルクロス、手袋、履物(スニーカー、ブーツ、サンダル、パンプス、ミュール、スリッパ、バレエシューズ、カンフーシューズ)、マフラー、スカーフ、ストール、アイマスク、タオル、袋物、バッグ(トートバッグ、ショルダーバッグ、ハンドバッグ、ポシェット、ショッピングバッグ、エコバック、リュックサック、デイパック、スポーツバッグ、ボストンバッグ、ウエストバッグ、ウエストポーチ、セカンドバック、クラッチバッグ、バニティ、アクセサリーポーチ、マザーバッグ、パーティバッグ、和装バッグ)、ポーチ・ケース(化粧ポーチ、ティッシュケース、めがねケース、ペンケース、ブックカバー、ゲームポーチ、キーケース、パスケース)、財布、帽子(ハット、キャップ、キャスケット、ハンチング帽、テンガロンハット、チューリップハット、サンバイザー、ベレー帽)、ヘルメット、頭巾、ベルト、エプロン、リボン、コサージュ、ブローチ、カーテン、壁布、シートカバー、シーツ、布団、布団カバー、毛布、枕、枕カバー、ソファー、ベッド、かご、各種ラッピング材料、室内装飾品、自動車用品、造花、マスク、包帯、ロープ、各種ネット、魚網、セメント補強材、スクリーン印刷用メッシュ、各種フィルター(自動車用、家電用)、各種メッシュ、敷布(農業用、レジャーシート)、土木工事用織物、建築工事用織物、ろ過布等を挙げることができる。なお、上記具体例の全体を本発明の形状保持繊維で構成してもよいし、形状保持性が要求される部位のみ本発明の形状保持繊維で構成してもよい。
【0128】
また、本発明の形状保持繊維は、軽量、強靭、及び変形容易等の特性を有するものである。よって、本発明の形状保持繊維及びその織物は、例えば、ガラス繊維、炭素繊維、アラミド繊維等が採用されている各種の補強材としての用途に適用することができる。具体的には、航空機、自動車、電車等の補強、及びこれらの装備品等に用いることができる。特に、本発明の形状保持繊維及びその織物は、自動車のボディ、エアバッグ、シートベルト、ドア、バンパー、コックピットモジュール、コンソールボックス、グローブボックス等に用いることができる。
【0129】
3.2 形状保持繊維の製造方法
本発明の形状保持繊維の製造方法は、1)所定の延伸倍率で延伸(好ましくは一軸延伸)させたポリエチレンフィルム(延伸ポリエチレンフィルム)を含むシートを得る工程と、2)前記シートを、マイクロスリット法と称される手法で裁断するステップと、を含みうる。高密度のポリエチレンは、溶融紡糸が困難な場合があるため、フィルムを解繊することで繊維化することが好ましい。
【0130】
延伸ポリエチレンフィルムは、ポリエチレンを含む原反フィルムを一軸延伸して得られる。ポリエチレンとは、前述の通り、エチレン単独重合体であっても、エチレン−α−オレフィン共重合体であってもよい。ポリエチレンの密度や分子量分布なども前述の通りである。ただし、ポリエチレンは、延伸によって結晶化すると密度が高くなることがある。そのため、原反フィルムに含まれるポリエチレンの密度は940kg/m
3以上とすることが好ましい。また、原反フィルムは、ポリエチレンのほか、ポリエチレン以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよいし、さらに各種添加剤を含んでいてもよい。
【0131】
延伸ポリエチレンフィルムの厚みは、20〜100μmの範囲が好ましい。ポリエチレンフィルムの厚みは、得られる形状保持繊維の断面の短辺に対応しうる。
【0132】
また、一軸延伸の延伸倍率は、延伸ポリエチレンフィルムに所望の引張弾性率を付与するように設定される。一軸延伸の延伸倍率が高いほど、延伸ポリエチレンフィルムの引張弾性率を高めることができる。延伸ポリエチレンフィルムの引張弾性率は、前述の形状保持繊維の引張弾性率と同様であり、好ましくは16〜50GPaであり、より好ましくは20〜50GPaである。形状保持フィルムの引張弾性率が16GPa未満であると、十分な形状保持性が得られにくく、引張弾性率が50GPa超であると、フィルムが脆くなることがある。延伸フィルムの引張弾性率は、前述と同様の、JIS K7161に準拠した方法で測定できる。
【0133】
延伸後の延伸フィルムに、必要に応じてアニール処理を施してもよい。アニール処理は、延伸シートを加熱ロールに接触させて行うことができる。
【0134】
形状保持繊維に裁断されるシートは、延伸ポリエチレンフィルム自体であってもよいし、延伸ポリエチレンフィルムに他の層を積層した積層フィルムであってもよい。他の層とは、製造される形状保持繊維に意匠性を付与するための層でありうる。意匠性を付与するための層とは、例えば、金属光沢や色相を有する層をいう。
【0135】
例えば、延伸ポリエチレンフィルムに金属層を積層してもよく、金属層は従来の手法を用いて形成され、真空蒸着法やスパッタリング法などを用いて形成されうる。
【0136】
延伸ポリエチレンフィルム、またはそれに任意の層を積層したフィルムを、マイクロスリット法によって裁断することで、形状保持繊維は製造される。マイクロスリット法とは、裁断されるシートを、レーザー刃やロータリーシャー(回転刃)などのスリット刃を備えたマイクロスリッターに送り込み、裁断する手法である。
【0137】
シートを繊維に裁断するときの裁断方向は、延伸ポリエチレンフィルムのポリエチレンの分子鎖の伸びきり方向(主たる延伸方向)と平行にするべきである。得られる形状保持繊維の形状保持性と熱伝導性とを得るためである。
【0138】
スリット刃のスリット幅は、100〜500μmであることが好ましい。スリット幅は、形状保持繊維の断面の長辺に対応する。
【0139】
3.3 織物
本発明の織物は、繊維を一定の規則によって交錯させ、フィルム状に仕上げたものであって、前記繊維の一部または全部が本発明の形状保持繊維であるものをいう。織物を構成する繊維の一部または全部を、本発明の形状保持繊維とすることで、織物に形状保持性を付与することができる。
【0140】
本発明の織物の組織構造に特に制限はなく、平織り、綾織り、朱子織りなどの基本的な組織構造であってもよく、横編み、縦編み、丸編み、クロス編みなどの立体的構造であってもよい。
【0141】
本発明の織物は、三次元的構造を有する織物であってもよい。三次元的構造を有する織物とは、二次元的構造に加えて、織物の厚み方向にも繊維を編みこむことで立体的に仕上げた織物である。
【0142】
三次元的構造を有する織物を構成する繊維のうち、少なくとも、フィルムの厚み方向に編みこまれた繊維や縫ったりした繊維の一部または全部を、本発明の形状保持繊維とすることが好ましい。前記の通り、本発明の形状保持繊維は、繊維長さ方向に高い熱伝導性を有する。そのため、本発明の形状保持繊維が、織物のフィルムの厚み方向に配向していれば、フィルム厚み方向への熱伝導性が高まる。
【0143】
三次元的構造を有する織物の例は、例えば、特表2001−513855号公報に記載されている。特表2001−513855号公報には、平面構造を構成する2組の直角の横糸と、厚み方向のたて糸とを有する三次元織物が記載されている。この厚み方向のたて糸を、本発明の形状保持繊維とすれば、厚み方向への熱伝導性が高まる。
【0144】
また、本発明の形状保持繊維を撚糸としてもよい。撚糸とする手段は特に限定されない。撚糸を得るための手段の具体例としては、1)本発明の形状保持繊維1本を単独で撚る、2)本発明の形状保持繊維の複数本をまとめて撚る、3)本発明の形状保持繊維と、他の単独または複数種の繊維とを撚る、4)本発明の形状保持繊維1本を単独で撚った後、芯糸に巻きつける、5)本発明の形状保持繊維の複数本をまとめて芯糸に巻きつける、6)本発明の形状保持繊維と、他の繊維とをまとめて芯糸に巻きつける、7)他の繊維を撚った後、本発明の形状保持繊維(芯糸)に巻きつける、等を挙げることができる。なお、得られた撚糸を織物にすることもできる。撚糸とすることで、繊維の長さ方向がランダム化される。このため、撚糸とした本発明の形状保持繊維を織物とすれば、織物のフィルム厚み方向への熱伝導性が高まる。また、本発明の形状保持繊維を撚糸とすることで、織物への加工が容易となる。
【0145】
また、本発明の形状保持繊維を束ねることで、マイクロマルチフィラメントとしてもよい。マイクロマルチフィラメントとされる繊維は、通常、数デニールにまで細繊化することが好ましい。マイクロマルチフィラメントを織物とすることで、織物の感触と透明性を調整することができる。
【0146】
本発明の織物の密度は特に限定されないが、本発明の形状保持繊維の密度が高まれば、熱伝導性を高めることができる。
【0147】
本発明の織物は、種々の用途に用いられうるが、例えば衣服などに用いられることで放熱性の高い衣服が得られる。
【0148】
4.1 異方性熱伝導フィルム
本発明の異方性熱伝導フィルムは、ポリエチレンを含むフィルムを一定以上の高い延伸倍率で延伸(好ましくは一軸延伸)して得られるフィルムである。
【0149】
本発明の異方性熱伝導フィルムに含まれるポリエチレンは、前述の形状保持フィルムに含まれるポリエチレンと同様である。即ち、ポリエチレンは、エチレン単独重合体であっても、エチレン−α−オレフィン共重合体であってもよい。ポリエチレンの密度や分子量分布なども、前述の通りである。
【0150】
このような、ポリエチレンを含むフィルム(好ましくは実質的にポリエチレンからなるフィルム)を一定以上の高い延伸倍率で延伸(好ましくは一軸延伸)して得られる異方性熱伝導フィルムは、X方向における引張弾性率が高く、X方向と略直交するY方向における引張弾性率が低い。
【0151】
本発明の異方性熱伝導フィルムが一軸延伸フィルムである場合は、X方向とは一軸延伸方向であり、Y方向とは前記一軸延伸方向と略直交する方向である。本発明において「略直交」とは、交差角度が実質的に90°であることを意味し、90°だけでなく、(90±15)°の範囲も含むものとする。本発明の異方性熱伝導フィルムの一軸延伸方向は、例えば異方性熱伝導フィルムを光学顕微鏡などで観察される、ポリエチレンの分子鎖の伸びきり方向として確認することができる。
【0152】
異方性熱伝導フィルムのX方向(高引張弾性率方向)の引張弾性率は、好ましくは6〜50GPaであり、より好ましくは12〜50GPaであり、さらに好ましくは12〜40GPaであり、特に好ましくは20〜40GPaである。異方性熱伝導フィルムの、X方向の引張弾性率が6GPa未満であると、十分な形状保持性や高い熱伝導性が得られ難く、X方向の引張弾性率が50GPa超であると、フィルムが脆くなることがある。
【0153】
異方性熱伝導フィルムのY方向(低引張弾性率方向)の引張弾性率は、好ましくは6GPa未満であり、より好ましくは5GPa以下である。異方性熱伝導フィルムのY方向の引張弾性率が6GPa以上であると、Y方向の熱伝導性が高くなり、熱伝導度の異方性が低下する。異方性熱伝導フィルムのY方向の引張弾性率は、異方性熱伝導フィルムに主成分として含まれる樹脂の種類に依存するものであり、(X方向の)延伸倍率によって大きく変化するものではない。
【0154】
異方性熱伝導フィルムのX方向の引張弾性率は、延伸倍率によって調整される。例えば、延伸倍率を高めれば、異方性熱伝導フィルムのX方向(延伸方向)の引張弾性率を高めることができる。
【0155】
異方性熱伝導フィルムの引張弾性率は、前述と同様に、JIS K7161に準拠した方法で測定できる。異方性熱伝導フィルムのX方向の引張弾性率は、以下のように測定される。1)フィルムをカットして、巾(延伸フィルムの延伸方向と直交する方向:Y方向)10mm、長さ(延伸フィルムの延伸方向:X方向)120mmの短冊状の試料片を準備し;2)JIS K7161に準拠して、引張試験機によりチャック間距離100mm、引張速度100mm/分の条件で試料片の延伸方向(X方向)の引張弾性率を測定する。
【0156】
Y方向の引張弾性率は、巾(延伸フィルムの延伸方向:X方向)10mm、長さ(延伸フィルムの延伸方向と直交する方向:Y方向)120mmの短冊状の試料片を準備し;2)試料片の、延伸方向と直交する方向(Y方向)の引張弾性率を測定する以外は、前述と同様にすることができる。引張弾性率の測定は、いずれも温度23℃、湿度55%の条件下で行うことができる。
【0157】
本発明の異方性熱伝導フィルムは、X方向に高い引張弾性率を有することから、フィルム面内のY方向の軸を屈曲軸として屈曲させた場合に、優れた形状保持性を有する。異方性熱伝導フィルムの、フィルム面内のY方向の軸を屈曲軸として屈曲させた際の、90°曲げによる戻り角度は、12°以下であり、好ましくは8°以下である。本発明の異方性熱伝導フィルムはこのような高い形状保持性を有するため、電子機器等における熱源の周辺に十分なスペースがなく込み入った空間にも、曲げたり折り曲げたりして収納することができる。また異方性熱伝導フィルムを熱源の周辺に配置した後も、配置当初の形状を保持できる。このため、異方性熱伝導フィルムの形状の変化により、熱源の周辺のデバイスが位置ずれしてデバイスの断線等の不具合が生じるのを防ぐことができる。
【0158】
異方性熱伝導フィルムの90°曲げによる戻り角度は、前述と同様にして測定できる。すなわち、フィルムをカットして、巾(延伸フィルムの延伸方向と直交する方向:Y方向)10mm、長さ(延伸フィルムの延伸方向:X方向)50mmの試料片を準備する。そして、前述と同様にして、試料片をフィルム面内のY方向の軸を屈曲軸として90°に折り曲げた後、折り曲げ状態を解除したときの、他方の面と試料片の表面とのなす角を測定すればよい。
【0159】
本発明の異方性熱伝導フィルムは、X方向(延伸方向)に高い引張弾性率を有することから、X方向に高い熱伝導率を有する。本発明の異方性熱伝導フィルムのX方向(延伸方向)の熱伝導率は5.0W/mKを超える。このように、本発明の異方性熱伝導フィルムは、熱伝導性のフィラーなどを添加しなくても高い熱伝導率を達成できる。このため、本発明の異方性熱伝導フィルムは、熱伝導性フィラーなどを添加した従来の熱伝導フィルムに比べて柔軟であり、薄くても十分な熱伝導性を有する。
【0160】
本発明の異方性熱伝導フィルムは、公知の熱伝導性フィラーを含むことで、熱伝導率をさらに向上させてもよいが、フィルムの柔軟性や形状保持性が低下しやすくなる。
【0161】
本発明の異方性熱伝導フィルムの、熱を異方的に伝える性質は、X方向の熱伝導率とY方向の熱伝導率とから導かれる比(X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率)に依存する。このため、異方性熱伝導フィルムの「X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率」の比は、1超60以下であることが好ましい。
【0162】
本発明の異方性熱伝導フィルムのX方向の熱伝導率は、以下のようにして測定される。
1)異方性熱伝導フィルムをカットして、長さ(延伸方向:X方向)30mm、巾(延伸方向と直交する方向:Y方向)3mmの短冊状サンプルを準備する。
2)短冊状サンプルの片面に、受光膜(Bi薄膜、厚み:約1000Å)を蒸着して試験サンプルとする。
3)光交流法を原理とする熱拡散率測定装置(LaserPIT、アルバック理工社製)を用いて、温度25℃における試験サンプルの長さ方向(X方向)の熱拡散率α(m
2/s)を測定する。
4)一方、示差走査熱量測定(DSC)法により、短冊状サンプルの比熱Cp(J/(kg・K)および密度ρ(kg/m
3)を測定する。
5)各測定値を下記式にあてはめて、熱伝導率λ(W/mK)を求める。
熱伝導率λ=α×ρ×Cp
【0163】
異方性熱伝導フィルムのY方向の熱伝導率は、前記1)における異方性熱伝導フィルムの短冊状サンプルとは別に、長さ(延伸方向と直交する方向:Y方向)30mm、巾(延伸方向:X方向)3mmの短冊状サンプルを準備し;それを用いた試験サンプルの長さ方向(Y方向)の熱拡散率を測定する以外は、前述と同様にして測定すればよい。
【0164】
異方性熱伝導フィルムの厚さは、20〜100μmであることが好ましく、30〜40μmであることがより好ましい。異方性熱伝導フィルムの厚さが20μmよりも薄いと、異方性熱伝導フィルムを曲げたり、折ったりして収納する際にフィルムが破損しやすくなる。また、異方性熱伝導フィルムの厚さが100μmよりも厚いと、フィルムが剛直になり、電子機器などの狭いスペースに折り曲げた状態で収納しにくくなる。
【0165】
異方性熱伝導フィルムの形状は、理論上は、「X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率」の比に基づいて決定されうる。異方性熱伝導フィルムのX方向(高引張弾性率方向)の長さL1と、Y方向(低引張弾性率方向)の長さW1の比L1/W1は60以下であることが好ましい。L1/W1が60を超えると、熱源から生じた熱が、異方性熱伝導フィルムのX方向の端部まで伝わらず、放熱できないからである。また、W1が小さすぎると、異方性熱伝導フィルムのY方向の熱の伝導を抑制できないからである。
【0166】
ただし、異方性熱伝導フィルムの形状は、実際には、後述のように、熱源温度と環境温度;および熱源と放熱体の配置によっても変わる。たとえば、100℃の熱源を異方性熱伝導フィルムの中央部に配置し;室温(約23℃)下にて異方性熱伝導フィルムのX方向の両端部から(放熱体で)放熱することを想定した場合には、異方性熱伝導フィルムのX方向(高引張弾性率方向)の長さL1と、Y方向(低引張弾性率方向)の長さW1の比L1/W1が2.0以下、好ましくは1.9以下であれば、選択的に異方性熱伝導フィルムのX方向に熱放散させることができ、Y方向には熱を放散させ難くすることができる。
【0167】
このように、本発明の異方性熱伝導フィルムは、X方向とY方向とで熱伝導度が異なるため、L1/W1が上記範囲となるような形状に切り出されることが好ましい。このような形状に切り出された異方性熱伝導フィルムは、X方向(高引張弾性率方向)には熱を伝導させつつ、Y方向(低引張弾性率方向)への熱の伝導を抑制できる。
【0168】
また異方性熱伝導フィルムのX方向(高引張弾性率方向)の長さL1と、Y方向(低引張弾性率方向)の長さW1の比L1/W1は、X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率の比から1.0超であることが好ましく、1.6以上であることが好ましい。電子機器などの熱源の周辺の異方性熱伝導フィルムの配置スペースが限られる場合、異方性熱伝導フィルムのY方向長さW1が(X方向長さX1に対して)大きすぎると、熱源の周辺に異方性熱伝導フィルムを収納し難くなるからである。
【0169】
異方性熱伝導フィルムの形状は、矩形状であっても、矩形状以外の形状であってもよい。異方性熱伝導フィルムのX方向の長さL1は、X方向のうち最大の長さを示し;Y方向の長さW1は、Y方向のうち最大長さを示す。
【0170】
異方性熱伝導フィルムのX方向の長さおよびY方向の長さは、熱源の温度によって適宜変更することができる。熱源の温度が高ければ、熱源から生じた熱の伝導領域が大きくなるため、異方性熱伝導フィルムのX方向の長さおよびY方向の長さは(前記L1/W1の比を保ちつつ)大きくなる。熱源の温度が低ければ、熱源から生じた熱の伝導領域が小さくなるため、異方性熱伝導フィルムのX方向の長さおよびY方向の長さは(前記L1/W1の比を保ちつつ)小さくなる。いずれにせよ、異方性熱伝導フィルムのX方向の長さが、少なくとも放熱体まで熱を伝導させることができる長さであればよい。
【0171】
4.2 異方性熱伝導フィルムの製造方法
本発明の異方性熱伝導フィルムは、前述の形状保持フィルムと同様に、1)前述のポリエチレンからなる原反フィルムを得る工程と、2)前記原反フィルムを、一定以上の延伸倍率に延伸(好ましくは一軸延伸)する工程と、を経て得ることができる。
【0172】
原反フィルムに含まれるポリエチレンは、前述の通り、形状保持フィルムに含まれるポリエチレンと同様である。即ち、ポリエチレンは、エチレン単独重合体であっても、エチレン−α−オレフィン共重合体であってもよい。ただし、ポリエチレンは、延伸によって結晶化すると密度が高くなることがある。そのため、原反フィルムに含まれるポリエチレンの密度は940kg/m
3以上とすることが好ましい。また、原反フィルムは、ポリエチレンのほか、ポリエチレン以外の熱可塑性樹脂を含んでいてもよいし、さらに各種添加剤を含んでいてもよい。
【0173】
延伸倍率は12倍以上であり、好ましくは15倍以上であり、さらに好ましくは20〜30倍である。延伸倍率が12倍よりも低いと、引張弾性率が十分に高まらず、十分な形状保持性や高い熱伝導性が得られない。
【0174】
4.3 異方性熱伝導フィルムの用途
本発明の異方性熱伝導フィルムは、前述のように、高い形状保持性と熱伝導性とを有し、かつ柔軟性を有するため収納性にも優れる。このため、本発明の異方性熱伝導フィルムは、各種電子機器;特に熱源の周辺に十分なスペースがない電子機器における放熱装置に好ましく用いることができる。このような放熱装置では、熱に弱い回路へ熱源からの熱を伝えることを防ぎつつ、放熱体へ効率良く熱を伝えることができる。
【0175】
本発明の異方性熱伝導フィルムが用いられる電子機器の例には、各種家電、照明、PC、携帯電話、スマートフォン、デジカメ、ゲーム機、電子ペーパー、電気自動車、およびハイブリッド車などが含まれる。電子機器における熱源は、特に制限されないが、例えばトランジスタ、CPU、IC、LED、およびパワーデバイスなどが挙げられる。
【0176】
また本発明の異方性熱伝導フィルムは、良好な形状保持性と、高い熱伝導率とを有するだけでなく、さらには実質的に樹脂からなるため冷感、触感に優れる。このため、本発明の異方性熱伝導フィルムは、前記電子機器に限らず、衣料(スーツ、作業着)、マスク、帽子、および寝装などの日用品にも用いることができる。
【0177】
さらに、本発明の異方性熱伝導フィルムは、良好な柔軟性を有し、さらに冷却による収縮率がほぼ同じ樹脂のみで実質的に形成できるため、極低温の用途にも用いることができる。具体的には、液体天然ガスや液体水素の輸送、貯蔵、ハンドリングに使用するバルブなどの接続機器や手袋などの構成材料;リニアモーターカーの低温部分の構成材料;血液成分、骨髄液、精子の体液や細胞等を保存する冷凍保存容器;超伝導磁気共鳴装置等の構成材料;ロケット、宇宙輸送システムに使用する構成材料;超高密度メモリー、医用診断装置、加速器、核融合炉の構成材料が挙げられる。
【0178】
なかでも本発明の異方性熱伝導フィルムは、発熱素子等の熱源を有する電子機器における放熱装置として好ましく用いられる。すなわち、本発明の放熱装置は、熱源で生じた熱を伝導する異方性熱伝導フィルムと、該異方性熱伝導フィルムを伝導した熱を除去する放熱体と、を有する。
【0179】
放熱体は、異方性熱伝導フィルムのX方向(高引張弾性率方向)の一端または両端に配置されることが好ましい。放熱体は、異方性熱伝導フィルムのX方向(高引張弾性率方向)端部だけでなく、前記異方性熱伝導フィルムの平面内にX方向に複数配置されてもよい。これにより、放熱装置の放熱効率を向上させることができる。
【0180】
放熱体は、特に限定されず、公知の放熱体を用いることができる。放熱体の例には、放熱ファンなどの冷却装置、冷却配管、金属などの熱伝導が高い材料で作製された大面積の部材(例えば放熱板、ヒートシンク等)などが挙げられる。電子機器における放熱体は、例えば電子機器の筐体そのものであってもよい。
【0181】
このような放熱装置は、任意の方法で製造することができ、本発明の異方性熱伝導シートと放熱体とを公知の方法で接続することにより得ることができる。異方性熱伝導フィルムと放熱体との接続方法は、例えば異方性熱伝導フィルムを放熱体に加熱融着させる方法;公知の接着剤を用いて固定する方法;異方性熱伝導フィルムを、放熱体に設けられた固定手段で挟み固定する方法等が含まれる。
【0182】
熱源と異方性熱伝導フィルムとは、必ずしも接している必要はないが、熱源からの放熱効率を高めるためには、熱源と異方性熱伝導フィルムとが接していることが好ましい。
【0183】
異方性熱伝導フィルム、熱源および放熱体の好ましい位置関係は、前述の通り、理論上は、「X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率」との比に基づいて決定されうる。このため、異方性熱伝導フィルムのX方向における、熱源の異方性熱伝導フィルムへの投影部の中心もしくは異方性熱伝導フィルムの熱源との接触部の中心から放熱体までの距離L2と;前記投影部の中心もしくは接触部の中心を通る、異方性熱伝導フィルムのY方向の一方の端部から他方の端部までの距離W2との比L2/W2が30以下であることが好ましい(後述の
図4参照)。L2/W2が30超であると、L2が大きすぎて、異方性熱伝導フィルムのX方向の端部に配置された放熱体まで熱を伝導させ難くなったり;W2が小さすぎて、異方性熱伝導フィルムのY方向の熱伝導を抑制できなかったりするからである。
【0184】
ただし、異方性熱伝導フィルム、熱源および放熱体の実際の位置関係は、熱源温度と環境温度によっても変わる。たとえば、100℃の熱源で生じる熱を、室温(約23℃)下で異方性熱伝導フィルムを用いて放熱させる場合、異方性熱伝導フィルムのX方向における、熱源の異方性熱伝導フィルムへの投影部の中心もしくは異方性熱伝導フィルムの熱源との接触部の中心から放熱体までの距離L2と;前記投影部の中心もしくは接触部の中心を通る、異方性熱伝導フィルムのY方向の一方の端部から他方の端部までの距離W2との比L2/W2が1.0以下、好ましくは0.95以下であれば、選択的に異方性熱伝導フィルムのX方向に熱を放散させることができ、Y方向には熱を放散させ難くすることができる。
【0185】
本発明の異方性熱伝導フィルムは、前述の通り、X方向(高引張弾性率方向)とY方向(低引張弾性率方向)とで熱伝導率が異なる。このため、L2/W2が上記範囲となるように、異方性熱伝導フィルムの形状や;熱源、異方性熱伝導フィルムおよび放熱体の位置関係を調整することで、熱源から発生する熱を、異方性熱伝導フィルムのX方向には放熱体まで効率よく伝わり易くし、Y方向には伝わり難くすることができる。
【0186】
図4は、熱源、異方性熱伝導フィルムおよび放熱体の位置関係の例を示す図である。このうち
図4(A)は側面図であり、
図4(B)は上面図である。
図4に示されるように、発熱素子などの熱源42の近くに、異方性熱伝導フィルム44と放熱体46とを有する放熱装置40が配置される。異方性熱伝導フィルム44のX方向における、熱源42の異方性熱伝導フィルム44への投影部の中心42Aから放熱体46までの距離がL2で示され;熱源42の異方性熱伝導フィルム44への投影部の中心42Aを通る、異方性熱伝導フィルム44のY方向の一方の端部から他方の端部までの距離がW2で示される。
【0187】
L2/W2が上記範囲となるように、熱源42、異方性熱伝導フィルム44および放熱体46を配置することで、熱源42で発生した熱が、異方性熱伝導フィルム44のX方向(高引張弾性率方向)に良好に伝わり、放熱体46で除去される。一方、異方性熱伝導フィルム44のY方向(低引張弾性率方向)には熱が伝わり難いため、異方性熱伝導フィルム44の近傍の他の電気回路(不図示)が熱により破損しにくい。
【0188】
異方性熱伝導フィルムのX方向の長さおよびY方向の長さは、熱源の温度によって、適宜変更することができる。熱源の温度が高ければ、熱源から生じた熱の伝導領域が大きくなるため、異方性熱伝導フィルムのX方向の長さおよびY方向の長さは前記比率を保ちながら大きくなる。熱源の温度が低ければ、熱源から生じた熱の伝導領域が小さくなるため、異方性熱伝導フィルムのX方向の長さおよびY方向の長さは小さくなる。
【0189】
前記L2/W2は、X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率の比から0.5超であることが好ましく、0.8以上であることがより好ましい。電子機器などの熱源周辺におけるスペースが十分でない場合、異方性熱伝導フィルムのY方向の長さW2が(X方向の長さL2に対して)大きすぎると、熱源の周辺に異方性熱伝導フィルムを収納し難いからである。
【0190】
異方性熱伝導フィルムのY方向長さW2は、X方向の位置によって異なっていてもよい。たとえば、熱に弱いデバイスに近い箇所の異方性熱伝導フィルムのY方向長さを大きくし、他の箇所の異方性熱伝導フィルムのY方向の長さを小さくしてもよい。
【0191】
図5は、本発明の電子機器における放熱構造の一例を示す図である。
図5に示されるように、放熱構造50は、プリント基板51上に配置された発熱素子等の熱源52と接して配置され、かつプリント基板51面と平行に配置された異方性熱伝導フィルム54と、異方性熱伝導フィルム54の、熱源52と接する面とは反対側の面に接するように配置された放熱体56とを有する。異方性熱伝導フィルム54を、本発明の異方性熱伝導フィルムとすることができる。
図5における、異方性熱伝導フィルム54の長手方向がX方向(高引張弾性率方向)となる。
【0192】
このような放熱構造50では、異方性熱伝導フィルム54はX方向の熱導電性が高いため、矢印に示されるように熱源52で発生する熱がX方向に流れてスムーズに放熱体56まで伝わる。そして、異方性熱伝導フィルム54を伝わった熱は放熱体56で除去される。
【0193】
図6は、本発明の電子機器における放熱構造の他の例を示す図である。
図6において、
図5と同一の機能または部材に同一の符号を付す。
図6に示されるように、放熱構造50’は、プリント基板51の両面に配置された熱源52A〜52Dと離間し、かつプリント基板51と交差するように配置された放熱体56と、熱源52Aおよび52Bと放熱体56とを連結するように折り曲げられて配置された異方性熱伝導フィルム54Aと;熱源52Cおよび52Dと放熱体56とを連結するように折り曲げられて配置された異方性熱伝導フィルム54Bとを有する。
図6における、異方性熱伝導フィルム54Aと異方性熱伝導フィルム54Bの長手方向がX方向(高引張弾性率方向)となる。
【0194】
このような放熱構造50’では、プリント基板51の一方の面に配置された複数の熱源52Aおよび52Bで生じた熱は、異方性熱伝導フィルム54AをそのX方向(矢印方向)にスムーズに伝わり、放熱体56で除去される。同様に、プリント基板51の一方の面に配置された複数の熱源52Cおよび52Dで生じた熱は、異方性熱伝導フィルム54BをX方向(矢印方向)に伝わって放熱体56で除去される。このように、本発明の異方性熱伝導フィルム54Aおよび54Bは、柔軟性が高く、形状保持性も高いので、
図6に示されるように折り曲げられた形状を保持することができる。
【実施例】
【0195】
1.形状保持フィルムの評価(実施例1〜2/比較例1〜5)
(実施例1)
密度が965kg/m
3、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が11.3であり、190℃でのメルトフローインデックスが0.34/10minの高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製 ハイゼックス(登録商標)HZ5202B)を、押出機にて260℃で溶融混練した後、Tダイから吐出させて、厚さ500μmの原反フィルムを製膜した。
【0196】
この原反フィルムを、加熱ロールにて、120℃に加熱しながら延伸倍率20倍に一軸延伸して、厚さ27μmの一軸延伸フィルムを得た。
【0197】
(実施例2)
実施例1で得た原反フィルムを、近赤外領域の光源下で原反フィルムを120℃となるように加熱しながら一軸延伸し、かつ延伸倍率を24倍とした以外は、実施例1と同様にして厚さ40μmの一軸延伸フィルムを得た。
【0198】
(比較例1)
実施例1で得た原反フィルムを延伸しなかった以外は、実施例1と同様にして厚さ600μmのフィルムを得た。
【0199】
(比較例2)
実施例1で得た原反フィルムの延伸倍率を10倍とした以外は、実施例1と同様にして厚さ60μmの一軸延伸フィルムを得た。
【0200】
(比較例3)
実施例1で得た原反フィルムの延伸倍率を15倍とした以外は、実施例1と同様にして厚さ35μmの一軸延伸フィルムを得た。
【0201】
(比較例4〜5)
高密度ポリエチレンを圧延および延伸して得られる、市販品の高密度ポリエチレンシート(積水化学株式会社製 商品名 フォルテ、厚み400μm)、および高密度ポリエチレンシート(積水化学株式会社製 商品名 フォルテ、厚み600μm)をそれぞれ準備した。
【0202】
実施例1〜2および比較例1〜5のフィルムについて、引張弾性率、90°曲げによる戻り角度、表面形状(表面粗さRaおよび表面突起間隔Sm)、および印刷後のテープ剥離試験を行った。
【0203】
1)引張弾性率
一軸延伸フィルムをカットして、巾(フィルムの延伸方向と直交する方向)10mm、長さ(フィルムの延伸方向)120mmの短冊状の試料片を得た。次いで、JIS K7161に準拠して、引張試験機を用いてチャック間距離100mm、引張速度100mm/分で、試料片の延伸方向の引張弾性率を測定した。5つの試料片について、同様にして引張弾性率を測定し、平均値を算出した。測定は、温度23℃、湿度55%の条件下で実施した。
【0204】
2)90°曲げによる戻り角度
一軸延伸フィルムをカットし、巾(フィルムの延伸方向と直交する方向)10mm、長さ(フィルムの延伸方向)50mmの試料片を準備した。そして、
図1(A)に示されるように、試料片10を、鋼材12の直角面(二つの面12Aと12Bで構成される直角面)に沿って隙間を作らないように約5秒間押し付けて、試料片10が鋼材12の直角面に沿ってフィルム面内の巾方向の軸を屈曲軸として90度に折り曲げた状態を維持した。その後、
図1(B)に示されるように、直角面の一方の面12Aに試料10を密着させたまま、他方の面12Bから試料10を剥離させて折り曲げ状態を解除したときの、他方の面12Bと試料片10の表面とのなす角θを戻り角度とした。測定は温度23℃、湿度55%の条件下で実施した。
【0205】
試料片10の一方の面が鋼材12に接するように折り曲げた場合のなす角θの測定を3回行った。さらに、試料片10の他方の面が鋼材12に接するように折り曲げた場合のなす角θの測定を3回行った。これらの、合計6回の測定値の平均値を「90°曲げによる戻り角度」とした。
【0206】
3)表面形状(表面粗さRaおよび表面突起間隔Sm)
表面粗さRaと表面突起間隔Smを、表面粗さ形状測定機(株式会社東京精密製 サーフコム570A)を用いて、触針法により測定した。触針の先端の材質はダイヤモンドとし、触針の先端形状は曲率半径R:5μm、θ:90°の円錐とした。測定条件は、カットオフを0.8mm、トレーシングスピードを0.3mm/秒、測定長さを2.5mmとした。
【0207】
また、一部のフィルムについて、表面をSEM観察した。SEM観察は、走査型電子顕微鏡JSM−6380(日本電子株式会社製)を用いて、加速電圧5kV、倍率2000倍の条件で行った。
【0208】
4)印刷後のテープ剥離試験(碁盤目テープ試験)
JIS K5600−5−6で規定されている試験法(塗料一般試験方法−第5部:塗膜の機械的性質−第6節:付着性(クロスカット法)に基づいて、インクの密着性を評価した。
【0209】
具体的には、一軸延伸フィルムの表面に、表面張力が40dyn/cmになる条件でコロナ放電処理を施した。フィルムをカットし、100mm角の試料片を得た。油性ペンキ(「一回塗りハウスペイント」 群青 (株)カンペハピオ)を、乾燥厚さ20μmとなるようにバーコータで塗布した後、室温で15時間以上乾燥させた。
【0210】
試料片の油性ペンキを塗布した面に、碁盤目状に切り傷を入れた。そして、試料片の油性ペンキを塗布した面に、セロハンテープ(幅24mm、ニチバン株式会社)を貼り付けた後、引き剥がして油性ペンキの試験片表面への密着性を測定した。
剥がれた目の数が全体の目の数の35%以下:○
剥がれた目の数が全体の目の数の35%超 :×
【0211】
実施例1〜2、および比較例1〜5の評価結果を表1に示す。また、実施例1のフィルム表面のSEM写真を
図8に;比較例1、2および4のフィルム表面のSEM写真を
図9にそれぞれ示す。
【表1】
【0212】
表1に示されるように、延伸倍率が20倍以上の実施例1および2の一軸延伸フィルムは、比較例1の未延伸フィルム、または延伸倍率が20倍よりも低い比較例2および3の一軸延伸フィルムよりも戻り角度が小さく、形状保持性が高いことがわかる。また、実施例1および2の一軸延伸フィルムは、比較例2および3の一軸延伸フィルムよりも、表面粗さRaが比較的大きく、インクの密着性が高いことがわかる。
【0213】
図7は、実施例1〜2および比較例1〜3の結果に基づいた、引張弾性率と表面性状との関係を示すグラフである。このうち、
図7(A)は、引張弾性率と表面粗さRaとの関係を示すグラフであり、
図7(B)は、引張弾性率と表面突起間隔Smとの関係を示すグラフである。引張弾性率は、延伸倍率に比例する。
【0214】
図7(A)に示されるように、引張弾性率が高くなるほど、表面粗さRaが大きくなることがわかる。一方、
図7(B)に示されるように、引張弾性率が高くなるほど、表面突起間隔Smは小さくなることがわかる。つまり、引張弾性率が高くなる(延伸倍率が高くなる)ほど、微細な凸凹構造が高密度に形成されることがわかる。これは、引張弾性率の増加(延伸倍率の増加)に伴い、分子鎖の構造が変化して凹凸が形成されるためであると考えられる。
【0215】
なお、比較例1の未延伸フィルムの表面粗さRaが大きく、表面突起間隔Smが小さいのは、溶融製膜したフィルムを冷却ロールに接触させたときに、冷却ロールの表面形状が転写されたためであり、分子鎖の構造が変化して凹凸が形成されることによるものではないと考えられる。
【0216】
図8に示されるように、延伸倍率が20倍である実施例1のフィルムは、延伸方向に伸びた凸凹構造が観察されたことが確認できる。これに対して、比較例1の未延伸フィルム(
図9(A))、および延伸倍率が10倍である比較例2のフィルム(
図9(B))の表面は、延伸方向に直交する方向に凸凹構造がほとんど形成されていないことがわかる。
【0217】
また、圧延された後、ロールで延伸して得られる比較例4の市販品の高密度ポリエチレンシート(
図9(C))の表面には、実施例1のフィルムほどには凸凹構造が形成されないことがわかる。高密度ポリエチレンシートを圧延している間は凸凹構造が形成されないことから、圧延した後に、若干延伸しただけでは、本願ほどの凸凹構造は形成されないことが示唆される。
【0218】
2.包装用積層体の評価(実施例3〜12/比較例6〜8)
(1)形状保持フィルムの作製
1)形状保持フィルム1
密度が965kg/m
3、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が15.8であり、190℃でのメルトフローインデックスが0.36g/10minの高密度ポリエチレン(日本ポリエチレン社製、ノバッテックHD HB530)を、押出機にて260℃で溶融混練した後、Tダイから吐出させて、原反フィルムを製膜した。
【0219】
この原反フィルムを、ロール一軸延伸機にて、延伸倍率15倍に一軸延伸し、厚さ40μmの高密度ポリエチレンからなる形状保持フィルム1を得た。
【0220】
2)形状保持フィルム2
前記1)と同様にして得た原反フィルムを、延伸倍率14倍で一軸延伸した以外は、前述と同様にして厚さ35μmの形状保持フィルム2を得た。
【0221】
3)形状保持フィルム3
前記1)と同様にして得た原反フィルムを、延伸倍率24倍で一軸延伸した以外は、前述と同様にして厚さ50μmの形状保持フィルム3を得た。
【0222】
4)形状保持フィルム4
密度が955kg/m
3、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が10であり、190℃でのメルトフローインデックスが1g/10minのポリエチレンを用いた以外は前記1)と同様にして、原反フィルムを製膜した。
【0223】
この原反フィルムを、前述と同様に、延伸倍率11.5倍で一軸延伸し、厚さ50μmの形状保持フィルム4を得た。
【0224】
得られた形状保持フィルム1〜4の引張弾性率および180°戻り角度を以下の方法で測定した。それらの結果を表2に示す。
【0225】
引張弾性率の測定
形状保持フィルムの引張弾性率は、前述と同様に、JIS K7161に準拠した方法で測定した。
【0226】
180°戻り角度の測定
形状保持フィルムをカットし、巾(ポリエチレンの分子鎖の伸びきり方向(フィルムの延伸方向)と直交する方向)10mm、長さ(ポリエチレンの分子鎖の伸びきり方向(フィルムの延伸方向))50mmの試料片を得た。そして、
図15(A)に示されるように、試料片60を、厚み0.5mmの板材62の下面、端部および上面にわたって巻き付けた。このようにして、試料片60を180°に折り曲げて、(手で押さえて)折り曲げ状態を約30秒間保持した。その後、
図15(B)に示されるように、(手を離して)折り曲げ状態を解除した。折り曲げ状態を解除して30秒間後の、板材62の上面62Aと試料片60の表面とのなす角θを測定した。測定は、温度23℃、湿度55%の条件下で実施した。
【0227】
試料片60の一方の面が板材62に接するように折り曲げた場合のなす角θの測定を、3回行った。さらに、試料片60の他方の面が板材62に接するように折り曲げた場合のなす角θの測定を、3回行った。これらの合計6回の測定値の平均値を「180°曲げによる戻り角度」とした。
【表2】
【0228】
(2)包装用積層体の作製
(実施例3)
形状保持フィルム1を用いて、包装用積層体1を以下のようにして作製した。包装用積層体1は、
図10(A)で示されるように、形状保持フィルム1/アルミニウム箔/二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を、接着剤層を介して積層したものである。
【0229】
まず、2液硬化型ウレタン系接着剤(三井化学社製タケラック、主剤A1143)、硬化剤A50、および酢酸エチルを、重量比で9:1:13となるように混合して接着剤を調製した。
【0230】
次いで、厚さが20μmの二軸延伸ポリプロピレンフィルム(東洋紡績社製パイロンフィルムOT P2261)の一方の面に、前記接着剤を、バーコータにて、乾燥後の厚みが約4μmとなるように塗布し、常温で1日乾燥させた。この接着剤層上に、厚さ12μmのポリエチレンテレフタレートフィルム(東洋紡社製、エスペットフィルム T4200)を積層した。
【0231】
一方で、厚さ7μmのアルミニウム箔(日本製箔社製アルミ箔A1N30H−O)の一方の面に、前記接着剤を、前述と同様に塗布し、乾燥させた。この接着剤層を介して、前記アルミニウム箔を、前記二軸延伸ポリプロピレンフィルムの他方の面上に積層した。
【0232】
そして、前記アルミニウム箔の他方の面に、前記接着剤を、前述と同様に塗布し、乾燥させた。この接着剤層上に、前記形状保持フィルム1を積層して積層物を得た。
【0233】
得られた積層物を、プレス圧力0.1MPa、加熱温度45℃で接着剤層を養生硬化させて、実測厚みが114μmの包装用積層体1を得た。
【0234】
(実施例4)
二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)を用いなかった以外は、実施例3と同様にして、
図10(B)に示される包装用積層体2を得た。包装用積層体2の積層構造は、形状保持フィルム1/アルミニウム箔/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが71μmであった。
【0235】
(実施例5)
アルミニウム箔を用いなかった以外は、実施例3と同様にして、
図10(C)に示される包装用積層体3を得た。包装用積層体3の積層構造は、形状保持フィルム1/二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが82μmであった。
【0236】
(実施例6)
二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)を用いずに、厚み50μmのヒートシール層(直鎖状低密度ポリエチレンフィルム、東洋紡績社製 リックスフィルム L4102 巻き内コロナ処理)を新たに用いた以外は、実施例3と同様にして、
図10(D)に示される包装用積層体4を得た。包装用積層体4の積層構造は、ヒートシール層(LL)/アルミニウム箔/形状保持フィルム1/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが125μmであった。
【0237】
(実施例7)
二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)の代わりに、形状保持フィルム1を用いた以外は、実施例3と同様にして、
図10(E)に示される包装用積層体5を得た。包装用積層体5の積層構造は、形状保持フィルム1/アルミニウム箔/形状保持フィルム1/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが119μmであった。
【0238】
(実施例8)
形状保持フィルム1の代わりに形状保持フィルム2を用い、かつポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を用いなかった以外は実施例6と同様にして、
図11(A)で示される包装用積層体6を得た。また、接着剤層の乾燥厚みは5μmとした。包装用積層体6の積層構造は、ヒートシール層(LL)/アルミニウム箔/形状保持フィルム2であり、実測厚みが110μmであった。
【0239】
(実施例9)
アルミニウム箔を用いず、かつ形状保持フィルム1を形状保持フィルム2に変更した以外は実施例6と同様にして、
図11(B)で示される包装用積層体7を作製した。接着剤層の乾燥厚みは5μmとした。包装用積層体7の積層構造は、ヒートシール層(LL)/形状保持フィルム2/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが110μmであった。
【0240】
(実施例10)
アルミニウム箔を用いず、かつ形状保持フィルム1を形状保持フィルム3に変更した以外は実施例6と同様にして、
図11(C)で示される包装用積層体8を得た。接着剤層の乾燥厚みは5μmとした。包装用積層体8の積層構造は、ヒートシール層(LL)/形状保持フィルム3/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが125μmであった。
【0241】
(実施例11)
前記形状保持フィルム2を前記形状保持フィルム4に変更し、かつポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を用いなかった以外は実施例9と同様にして、
図11(D)で示される包装用積層体9を得た。包装用積層体9の積層構造は、ヒートシール層(LL)/形状保持フィルム4であり、実測厚みが102μmであった。
【0242】
(実施例12)
ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)を用いなかった以外は実施例9と同様にして、
図11(E)で示される包装用積層体10を得た。包装用積層体10の積層構造は、ヒートシール層(LL)/形状保持フィルム2であり、実測厚みが93μmであった。
【0243】
(比較例6)
形状保持フィルム1の代わりに、ヒートシール層を用いた以外は、実施例3と同様にして、
図12(A)で示される包装用積層体11を得た。包装用積層体11の積層構造は、ヒートシール層(LL)/アルミニウム箔/二軸延伸ポリプロピレンフィルム(OPP)/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが110μmであった。
【0244】
(比較例7)
形状保持フィルム1の代わりに、ヒートシール層を用いた以外は、実施例4と同様にして、
図12(B)で示される包装用積層体12を得た。包装用積層体12の積層構造は、ヒートシール層(LL)/アルミニウム箔/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが79μmであった。
【0245】
(比較例8)
形状保持フィルム2を用いなかった以外は実施例9と同様にして、
図12(C)で示される包装用積層体13を得た。包装用積層体13の積層構造は、ヒートシール層(LL)/ポリエチレンテレフタレートフィルム(PET)であり、実測厚みが63μmであった。
【0246】
得られた実施例3〜12および比較例6〜8の包装用積層体の、袋閉じ性と戻り角度を測定した。
【0247】
1.袋閉じ性
図13(A)に示されるように、形状保持フィルムの延伸方向と直交する方向が長手方向となるように、包装用積層体をA5サイズにカットした。次いで、
図13(B)に示されるように、包装用積層体を、
図10〜12における最も下側の層(後述の表2および3の層構成における最も左側の層)が外側になるように、長手方向に二つ折りにした。そして、
図13(C)に示されるように、包装用積層体の延伸方向の一方の端部から、延伸方向に対して平行な方向に10mmずつ180°に二度折り曲げた。折り曲げた状態で1時間保持した後、折り曲げ状態を解除したときに、折り曲げ状態がどの程度維持されているかを評価した。
【0248】
図14は、包装用積層体の折り曲げ部を側面からみた模式図である。
図14に示されるように、第一折り目角とは、一回目の折り目部が、二回目の折り目部に対してなす角度であり;第二折り目角とは、二回目の折り目部が、水平面(折り曲げていない包装用積層体面)に対してなす角度である。
0°≦第一折り目角<30°または0°≦第二折り目角<60°:○
30≦第一折り目角<70°または60°≦第二折り目角<90°:△
70°≦第一折り目角 または 90°≦第二折り目角:×
例えば、第一折り目角が60°であり、第二折り目角が50°である場合には、第一折り目角が「△」、第二の折り目角度が「○」に相当するため、高い評価の方に合わせて「○」と評価した。
【0249】
2.180°戻り角度
包装用積層体をカットし、巾(形状保持フィルムの延伸方向と直交する方向)10mm、長さ(形状保持フィルムの延伸方向)50mmの試料片を得た。そして、前述の形状保持フィルムの180°曲げによる戻り角度と同様に、180°曲げによる戻り角度を測定した(
図15参照)。
【0250】
包装用積層体の180°曲げによる戻り角度は、
図10〜12における最も下側の層(後述の表3および4中の層構成における最も左側の層)が板材62と接するように折り曲げた場合)と;
図10〜12における最も上側の層(後述の表3および4中の層構成における最も右側の層)が板材62と接するように折り曲げた場合と、のそれぞれについて測定した。
図10〜12における最も下側の層(後述の表3および4中の層構成における最も左側の層)が板材62に接するように折り曲げた場合の戻り角度(左折時の戻り角度)と、
図10〜12における最も上側の層(後述の表3および4中の層構成における最も右側の層)が板材62と接するように折り曲げた場合の戻り角度(右折時の戻り角度)との平均値を「180°曲げによる戻り角度」とした。
【0251】
実施例3〜8および比較例6〜7の評価結果を表3に示し;実施例9〜12および比較例8の評価結果を表4に示す。また、袋閉じ性の評価において、実施例4、比較例7および比較例6の包装用積層体の折り曲げ状態を解除した後の様子を
図16に示す。このうち、
図16(A)は、実施例4の包装用積層体であり;
図16(B)は、比較例7の包装用積層体であり;
図16(C)は、比較例6の包装用積層体である。
【表3】
【表4】
【0252】
表3および
図16に示されるように、実施例3〜8の包装用積層体は、比較例6および7の包装用積層体よりも袋閉じ性、および形状保持性(戻り角度)に優れることがわかる。表4に示されるように、実施例9〜12の包装用積層体は、比較例8の包装用積層体よりも、形状保持性(戻り角度)に優れることがわかる。実施例9〜12と比較例8との比較から、アルミニウム箔のような、比較的形状保持性を示す層を含まなくても、本発明の形状保持フィルムを含む包装用積層体は、比較的良好な形状保持性を有することがわかる。
【0253】
(3)ヒートシール強度
実施例4、7および比較例6の包装用積層体の、ヒートシール強度を測定した。具体的には、包装用積層体を、幅15mm、長さ120mmにカットした。得られた包装用積層体を、長手方向に2つに折り曲げた後、周縁部を簡易シーラ(富士インパルス社製 FI−450−5W)を用いてヒートシールした。ヒートシールは、以下の条件で行った。(ヒートシール条件)
接触部温度(ヒートシール温度):270℃
接触部幅:4mm
インパルスシーラの設定値:10(max)
圧縮回数:1〜7
【0254】
シール部のヒートシール強度は、JIS Z 0238に準じて測定した。具体的には、包装用積層体を、引張試験機(島津社製オートグラフAGS−500-D type3)にて、23℃で300mm/minの速度で180°方向に剥離したときの、シール部が破断するときの最大荷重を「ヒートシール強度」とした。
【0255】
実施例4、7および比較例6の包装用積層体の評価結果を表5に示す。また、参考例として、形状保持フィルム単独での評価結果も示す。
【表5】
※参考例については、インパルスシーラの設定値を5とした。
【0256】
表5に示されるように、実施例4および7の包装用積層体のヒートシール強度は、比較例6の包装用積層体よりも低いものの、用途によっては十分なヒートシール強度が得られることがわかる。
【0257】
実施例4の包装用積層体のほうが、実施例7の包装用積層体よりも厚みが薄いため、少ない圧縮回数で良好なシール性が得られることがわかる。また、実施例4および7の包装用積層体のヒートシール強度は、圧縮回数を多くすることで高められるが、圧縮回数を多くしすぎると、形状保持フィルムの熱収縮による変形が生じることがわかる。
【0258】
3.形状保持繊維の作製(実施例13〜14/比較例9〜10)
(実施例13)
極限粘度[η]が2.7dl/gである高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製 ハイゼックス(登録商標)HZ5202B)を、押出機にて260℃で溶融混練した後、Tダイから吐出させて、厚さ500μmの原反フィルムを製膜した。ハイゼックスの密度は965kg/m
3、分子量分布[重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)]は11.3であり、190℃でのメルトフローインデックスが0.34/10minであった。
【0259】
得られた原反フィルムを、加熱ロールにて120℃に加熱しながら、延伸倍率20倍に一軸延伸して、厚さ27μmの一軸延伸フィルムを得た。
【0260】
一軸延伸フィルムを、ロータリーシャー(回転刃)を備えたマイクロスリッターに、延伸方向に平行方向に送り込み繊維状に裁断した。ロータリーシャーのスリット幅を0.64mmまたは0.36mmに設定した。得られた繊維の矩形断面の短辺は27μmであり、長辺は640μmまたは360μmであった。また、得られた繊維は、それぞれ約140デニールまたは約78デニールであった。
【0261】
(実施例14)
原反フィルムの厚さを900μmとし、近赤外領域の光源下で原反フィルムを120℃となるように加熱しながら一軸延伸し、かつ延伸倍率を24倍とした以外は、実施例13と同様にして厚さ40μmの一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムを、実施例13と同様に、マイクロスリッターで矩形断面の繊維を得た。得られた繊維の矩形断面の短辺は40μmであり、長辺は640μmまたは360μmであった。
【0262】
(比較例9)
実施例13で得た原反フィルムを、加熱ロールにて120℃に加熱しながら、延伸倍率10倍に一軸延伸して、厚さ60μmの一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムを、実施例13と同様に、マイクロスリッターで矩形断面の繊維を得た。得られた繊維の矩形断面の短辺は60μmであり、長辺は640μmまたは360μmであった。
【0263】
(比較例10)
実施例13で得た原反フィルムを、加熱ロールにて120℃に加熱しながら、延伸倍率15倍に一軸延伸して、厚さ35μmの一軸延伸フィルムを得た。得られた一軸延伸フィルムを、実施例13と同様に、マイクロスリッターで矩形断面の繊維を得た。得られた繊維の矩形断面の短辺は35μmであり、長辺は640μmまたは360μmであった。
【0264】
各実施例および比較例で得られた延伸フィルム(裁断前)の引張弾性率と、90°曲げによる戻り角度と、熱伝導率と、を以下の手法で求めた。
【0265】
1)引張弾性率
延伸フィルムの引張弾性率は、前述と同様に、JIS K7161に準拠した方法で測定した。
【0266】
2)90°曲げによる戻り角度
延伸フィルムの90°曲げによる戻り角度は、前述の形状保持フィルムの90°曲げによる戻り角度と同様にして測定した。
【0267】
3)熱伝導率
一軸延伸フィルムをカットして、延伸方向に長さ30mm、巾3mmの短冊状サンプルを用意し、延伸フィルムの片側表面に受光膜(Bi薄膜、厚み:約1000Å)を蒸着して試験サンプルとした。光交流法を原理とする熱拡散率測定装置(LaserPIT,アルバック理工社製)を用いて、温度25℃における試験サンプルの熱拡散率αを測定した。一方、示差走査熱量測定(DSC)法によりシートの比熱Cpと密度ρとを測定した。各測定値を以下の式にあてはめて、熱伝導率λ(単位:W/mK)を求めた。
熱伝導率λ=α × ρ × Cp
【表6】
【0268】
実施例13および14に示されるように、延伸倍率が20倍以上である一軸延伸フィルムは、引張弾性率が高く、戻り角度が小さいのに対して;比較例9および10に示されるように、延伸倍率が20倍未満である一軸延伸フィルムは、引張弾性率が低く、戻り角度も大きい。また、実施例13および14で得られた形状保持繊維は、十分に織物として編みこむことができた。
【0269】
さらに、実施例13および14の形状保持繊維の熱伝導率は、比較例9および10の形状保持繊維の熱伝導率と比較して、大きいことがわかる。
【0270】
4.異方性熱伝導フィルムの評価(実施例15〜16/比較例11〜12)
(実施例15)
密度が965kg/m
3、重量平均分子量(Mw)/数平均分子量(Mn)が11.3であり、190℃でのメルトフローインデックスが0.34/10minの高密度ポリエチレン(プライムポリマー社製 ハイゼックス(登録商標)HZ5202B)を、押出機にて260℃で溶融混練した後、Tダイから吐出させて、厚さ900μmの原反フィルムを製膜した。
【0271】
この原反フィルムを、近赤外領域の光源下で、原反フィルムを120℃に加熱しながら延伸倍率24倍で一軸延伸して、厚さ40μmの一軸延伸フィルムを得た。
【0272】
(実施例16)
原反フィルムの厚みを500μmに調整した以外は実施例15と同様にして原反フィルムを得た。そして、得られた原反フィルムを、加熱ロールにて120℃に加熱しながら延伸倍率15倍で一軸延伸した以外は実施例15と同様にして、厚さ35μmの一軸延伸フィルムを得た。
【0273】
(比較例11)
実施例15で得た原反フィルムを延伸しなかった以外は、実施例15と同様にして厚さ500μmのフィルムを得た。
【0274】
(比較例12)
厚さ1000μmの放熱ゴムシート(信越シリコーン社製、TC−100THS(低硬度シリコーンゴムシート))を用意した。
【0275】
実施例15〜16および比較例11〜12のフィルムについて、1)X方向・Y方向の引張弾性率、2)90°折り曲げ後の戻り角度、3)熱伝導率、および4)面内熱伝導挙動の評価を行った。
【0276】
1)引張弾性率
1−1)X方向(フィルムの延伸方向)の引張弾性率
フィルムをカットして、巾(フィルムの延伸方向と直交する方向:Y方向)10mm、長さ(フィルムの延伸方向:X方向)120mmの短冊状の試料片を得た。次いで、JIS K7161に準拠して、引張試験機を用いてチャック間距離100mm、引張速度100mm/分で、試料片のX方向(フィルムの延伸方向)の引張弾性率を測定した。5つの試料片について、同様にして引張弾性率を測定し、平均値を算出し、X方向(フィルムの延伸方向)の引張弾性率とした。引張弾性率の測定は、温度23℃、湿度55%の条件下で実施した。
【0277】
1−2)Y方向(フィルムの延伸方向と直交する方向)の引張弾性率
巾(フィルムの延伸方向):X方向)10mm、長さ(フィルムの延伸方向と直交する方向:Y方向)120mmの短冊状の試料片を準備し;試料片のY方向に引っ張った以外は、上記1−1)と同様にして引張弾性率を測定した。
【0278】
2)90°曲げによる戻り角度
一軸延伸フィルムをカットし、巾(フィルムの延伸方向と直交する方向:Y方向)10mm、長さ(フィルムの延伸方向:X方向)50mmの試料片を得た。そして、前述と同様にして、試料片10を、フィルム面内の屈曲軸がY方向となるように、鋼材12の直角面(二つの面12Aと12Bで構成される直角面)に沿って長さ方向(X方向)に折り曲げた後、折り曲げ状態を解除したときの、他方の面12Bと試料片10の面とのなす角θを90°曲げによる戻り角度とした。
【0279】
3)熱伝導率
3−1)X方向の熱伝導率
一軸延伸フィルムをカットして、長さ(フィルムの延伸方向:X方向)30mm、巾(フィルムの延伸方向と直交する方向:Y方向)3mmの短冊状サンプルを用意した。得られた短冊状サンプルの片面に、受光膜(Bi薄膜,厚み:約1000Å)を蒸着して試験サンプルとした。光交流法を原理とする熱拡散率測定装置(LaserPIT,アルバック理工社製)を用いて、温度25℃における試験サンプルの長さ方向(X方向)の熱拡散率α(m
2/s)を測定した。一方、示差走査熱量測定(DSC)法により、短冊状サンプルの比熱Cp(J/(kg・K)と密度ρ(kg/m
3)とを測定した。得られた各測定値を下記式にあてはめて、熱伝導率λ(W/mK)を求めた。
熱伝導率λ=α×ρ×Cp
【0280】
3−2)Y方向の熱伝導率
異方性熱伝導フィルムのY方向の熱伝導率の測定は、前記1)で得た短冊状サンプルとは別に、異方性熱伝導フィルムをカットして、長さ(フィルムの延伸方向と直交する方向:Y方向)30mm、巾(フィルムの延伸方向:X方向)3mmの短冊状サンプルを準備し;それを用いた試験サンプルの長さ方向(Y方向)の熱拡散率を測定した以外は、前述と同様にして測定した。
【0281】
3−1)で得たX方向の熱伝導率と3−2)で得たY方向の熱伝導率の比(X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率)を求めた。
【0282】
4)面内熱伝導挙動
図17は、面内熱伝導挙動の測定装置の一例を示す図である。
図17(A)に示されるように、枠内のサイズが30cm角のスチール製の型枠72を用意した。次いで、一軸延伸フィルムの試験フィルム74を型枠72に張った状態で固定した。次いで、直径30mm、高さ7mmの円柱状のアルミ体76(重量約13g)をオーブン中で100℃まで加熱したものを、前記型枠72に固定した試験フィルム表面の中央部に配置した。そして、チノー社製サーモグラフィーTP−L(
図17(B)の符号78)を用いて、試験フィルム74表面の中央部より高さ35cmの位置から、(アルミ体を配置して)30秒後、60秒後、90秒後および120秒後の試験フィルム表面の蓄熱状態を、23℃の恒温室にて観察した。色のコントラストの設定を30℃〜33℃とし、この温度範囲での試験フィルムの温度変化を画像として記録した。そして、上記温度範囲で、30℃を示す色から少しでも色の変化が生じたところを、見かけ上熱伝導して蓄熱した領域(見かけ上の蓄熱領域)とした。
【0283】
さらに、アルミ体を配置して30秒後、60秒後、90秒後および120秒後のそれぞれにおける、見かけ上の蓄熱領域の長軸の長さ(X方向の長さ)lと、短軸の長さ(Y方向の長さ)wとの比l/wを求めた。
【0284】
実施例15〜16および比較例11〜12の評価結果を表7に示す。このうち、表7におけるl/wの値は、(アルミ体を配置して)120秒後の値を示す。また、面内熱伝導挙動のサーモグラフィーによる画像を
図18に示す。実施例15の結果を
図18(A)に;実施例16の結果を
図18(B)に;比較例11の結果を
図18(C)に;比較例12の結果を
図18(D)に、それぞれ示す。同図において、縦方向が一軸延伸フィルムの延伸方向(X方向)を示し;横方向が一軸延伸フィルムの延伸方向と直交する方向(Y方向)を示す。また、見かけ上の蓄熱領域のアスペクト比(l/w)を経過時間ごとにプロットしたグラフを
図19に示す。
【表7】
【0285】
表7に示されるように、実施例15および16のフィルムは、X方向(延伸方向)とY方向(延伸方向と直交する方向)とで、引張弾性率が大きく異なるのに対して、未延伸の比較例11のフィルムおよび比較例12の放熱ゴムシートは、X方向とY方向とでほぼ引張弾性率が同じであることがわかる。
【0286】
そして、実施例15および16のフィルムは、比較例11および12のフィルムよりも、X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率の比が大きく、熱伝導率の異方性が高いことがわかる。また、実施例15および16のフィルムは、比較例11および12のフィルムよりも、Y方向の軸を屈曲軸として屈曲させたときの戻り角度が小さい(形状保持性が高いこと)が示される。
【0287】
図18において、背景の色調の濃い領域は30℃である。中央部の色調の濃い領域は33℃であり、色調のうすい領域は30〜33℃の間の温度である。
図18では、いずれも中心部からその周囲に向かって熱伝導していることが示される。そして、実施例15および16のフィルムは、異方的に熱伝導するのに対して(
図18(A)および(B)参照);比較例11および12のフィルムは、熱伝導しないか(
図18(C))、あるいは等方的に熱伝導すること(
図18(D))がわかる。
【0288】
そして、
図19に示されるように、本例の面内熱伝導挙動の測定条件(熱源100℃、環境温度23℃)では、実施例15および16のフィルムは、(アルミ体を配置してから)90〜120秒にはl/wの値がほぼ一定(サッチレーション)となること;つまり、それ以上熱伝導し難いことが示唆される。
【0289】
このように、3)の測定方法で得られたX方向の熱伝導率とY方向の熱伝導率との比(X方向の熱伝導率/Y方向の熱伝導率)に対して、4)の測定方法で得られる蓄熱領域のアスペクト比(l/w)が低いのは、4)の測定方法における環境温度や熱源温度の条件では、フィルムからの放熱による影響が大きいためと考えられる。このため、本例の面内熱伝導挙動の測定条件に近い条件で異方性熱伝導フィルムを使用する場合は、少なくともアルミ体を配置して120秒後におけるl/wの値から、フィルムのX方向の長さL1とY方向の長さW1を決定すればよいことが示唆される。
【0290】
本出願は、2010年4月30日出願の特願2010−105362、特願2010−105363、2010年5月27日出願の特願2010−121944、2010年6月15日出願の特願2010−136443、特願2010−136326、2011年2月10日出願の特願2011−27465に基づく優先権を主張する。当該出願明細書および図面に記載された内容は、すべて本願明細書に援用される。