(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
請求項1に記載の近傍界電磁波吸収体において、各電磁波吸収フィルムの金属薄膜は線状痕の形成後に50〜1500Ω/□の範囲内の表面抵抗を有することを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
請求項1又は2に記載の近傍界電磁波吸収体において、少なくとも一枚の電磁波吸収フィルムの金属薄膜が導電性金属薄膜層と磁性金属薄膜層とからなることを特徴とする近傍界電磁波吸収体。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】金属薄膜に線状痕を有する電磁波吸収フィルムを示す断面図である。
【
図3(a)】線状痕の他の例を示す部分平面図である。
【
図3(b)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【
図3(c)】線状痕のさらに他の例を示す部分平面図である。
【
図4(a)】電磁波吸収フィルムの製造装置の一例を示す斜視図である。
【
図4(b)】
図4(a) の装置を示す平面図である。
【
図4(d)】フィルムの進行方向に対して傾斜した線状痕が形成される原理を説明するための部分拡大平面図である。
【
図4(e)】
図4(a) の装置において、フィルムに対するパターンロール及び押えロールの傾斜角度を示す部分平面図である。
【
図5】電磁波吸収フィルムの製造装置の他の例を示す部分断面図である。
【
図6】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図7】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図8】電磁波吸収フィルムの製造装置のさらに他の例を示す斜視図である。
【
図9(a)】本発明の近傍界電磁波吸収体の一例を示す断面図である。
【
図9(b)】
図9(a) に示す近傍界電磁波吸収体の分解断面図である。
【
図10(a)】本発明の近傍界電磁波吸収体の別の例を示す断面図である。
【
図10(b)】
図10(a) に示す近傍界電磁波吸収体の分解断面図である。
【
図11(a)】本発明の近傍界電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解斜視図である。
【
図11(b)】本発明の近傍界電磁波吸収体における電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解斜視図である。
【
図12(a)】本発明の近傍界電磁波吸収体において、線状痕を有する2枚の電磁波吸収フィルムの組合せの一例を示す分解平面図である。
【
図12(b)】本発明の近傍界電磁波吸収体において、線状痕を有する2枚の電磁波吸収フィルムの組合せの別の例を示す分解平面図である。
【
図12(c)】本発明の近傍界電磁波吸収体において、線状痕を有する2枚の電磁波吸収フィルムの組合せのさらに別の例を示す分解平面図である。
【
図13(a)】近傍界電磁波吸収体の電磁波吸収能を評価するシステムを示す平面図である。
【
図13(b)】近傍界電磁波吸収体の電磁波吸収能を評価するシステムを示す断面図である。
【
図14】実施例1の近傍界電磁波吸収体のR
tp、S
11及びS
12を示すグラフである。
【
図15】実施例2の近傍界電磁波吸収体のR
tp、S
11及びS
12を示すグラフである。
【
図16】比較例1の近傍界電磁波吸収体のR
tp、S
11及びS
12を示すグラフである。
【
図17】比較例2の近傍界電磁波吸収体のR
tp、S
11及びS
12を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0015】
本発明の実施形態を添付図面を参照して詳細に説明するが、特に断りがなければ一つの実施形態に関する説明は他の実施形態にも適用される。また下記説明は限定的ではなく、本発明の技術的思想の範囲内で種々の変更をしても良い。
【0016】
[1] 電磁波吸収フィルム
本発明の近傍界電磁波吸収体を構成する第一の電磁波吸収フィルム100は、
図1に示すようにプラスチックフィルム10の一方の面に形成した金属薄膜11に複数方向の線状痕12を形成したものである。
【0017】
(1) プラスチックフィルム
プラスチックフィルム10を形成する樹脂は、絶縁性とともに十分な強度、耐熱性、可撓性及び加工性を有する限り特に制限されず、例えばポリエステル(ポリエチレンテレフタレート等)、ポリアリーレンサルファイド(ポリフェニレンサルファイド等)、ポリエーテルサルフォン、ポリエーテルエーテルケトン、ポリカーボネート、アクリル樹脂、ポリスチレン、ポリオレフィン(ポリプロピレン等)等が挙げられる。プラスチックフィルム10の厚さは10〜100μm程度で良い。
【0018】
(2) 金属薄膜
金属薄膜11は導電性金属又は磁性金属からなるが、少なくとも一枚の電磁波吸収フィルムの金属薄膜は磁性金属薄膜層を有していなければならない。導電性金属として、銅、アルミニウム、銀等が挙げられる。磁性金属として、ニッケル、クロム等が挙げられる。これらの金属は勿論単体に限らず、合金でも良い。金属薄膜11はスパッタリング法、真空蒸着法等の公知の方法により形成することができる。
【0019】
金属薄膜11の厚さは、線状痕を形成しない場合には5〜200 nmが好ましく、10〜100 nmがより好ましく、10〜50 nmが最も好ましい。線状痕を形成する場合には、線状痕により表面抵抗を調整できるので、金属薄膜11の厚さは限定的ではないが。実用的には約0.01〜1μmで良い。金属薄膜11は導電性金属及び磁性金属の積層体でも良い。導電性金属及び磁性金属の好ましい組合せは銅とニッケルである。導電性金属薄膜の厚さは0.01〜1μmが好ましく、磁性金属薄膜の厚さは5〜200μmが好ましい。線状痕を形成しない場合、金属薄膜11の表面抵抗は50〜1500Ω/□が好ましく、100〜1000Ω/□がより好ましく、200〜1000Ω/□が最も好ましい。表面抵抗は直流二端子法で測定することができる。
【0020】
(2) 線状痕
優れた電磁波吸収能を発揮するとともに電磁波吸収能の異方性を抑制するために、少なくとも一枚の電磁波吸収フィルムの金属薄膜11に、実質的に平行で断続的な線状痕12を複数方向に不規則な幅及び間隔で形成する必要がある。
図2は複数の線状痕12の一例を示す。多数の実質的に平行で断続的な線状痕12a,12bは複数方向(図示の例では二方向)に不規則な幅及び間隔で配向している。なお、説明のために
図1では線状痕12の深さを誇張している。二方向に配向した線状痕12は種々の幅W及び間隔Iを有する。なお間隔Iは、線状痕12の配向方向(長手方向)及びそれに直交する方向(横手方向)の両方における間隔を意味する。線状痕12の幅W及び間隔Iはいずれも線状痕形成前の金属薄膜11の表面Sの高さ(元の高さ)で求める。線状痕12が種々の幅W及び間隔Iを有するので、電磁波吸収フィルム1は広範囲にわたる周波数の電磁波を効率良く吸収することができる。
【0021】
線状痕12の幅Wの90%以上は0.1〜100μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜50μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.1〜20μmの範囲内にあるのが最も好ましい。線状痕12の平均幅Wavは1〜50μmであるのが好ましく、1〜20μmがより好ましく、1〜10μmが最も好ましい。
【0022】
線状痕12の間隔Iは0.1〜200μmの範囲内にあるのが好ましく、0.1〜100μmの範囲内にあるのがより好ましく、0.1〜50μmの範囲内にあるのが最も好ましく、0.1〜20μmの範囲内にあるのが特に好ましい。また線状痕12の平均間隔Iavは1〜100μmが好ましく、1〜50μmがより好ましく、1〜20μmが最も好ましい。
【0023】
線状痕12の長さLは、摺接条件(主としてロールとフィルムとの相対速度、及びフィルムのロールへの巻回角度)により決まるので、摺接条件を変えない限り大部分がほぼ同じである(ほぼ平均長さに等しい)。線状痕12の長さは特に限定的でなく、実用的には1〜100 mm程度で良い。
【0024】
二方向の線状痕12a,12bの鋭角側の交差角(以下特に断りがなければ単に「交差角」と言う)θsは30〜90°が好ましく、45〜90°がより好ましく、60〜90°が最も好ましい。プラスチックフィルム10とパターンロールとの摺接条件(摺接方向、周速比等)を調整することにより、
図3(a)〜
図3(c) に示すように種々の交差角θsの線状痕12が得られる。線状痕の配向は二方向に限定されず、三方向以上でも良い。
図3(a) の線状痕12は直交する線状痕12a,12bからなり、
図3(b) の線状痕12は60°で交差する線状痕12a,12bからなり、
図3(c) の線状痕12は三方向の線状痕12a,12b,12cからなる。比較的厚く形成した金属薄膜11でも、線状痕の形成により表面抵抗を50〜1500Ω/□に調整するのが好ましく、100〜1000Ω/□がより好ましく、200〜1000Ω/□が最も好ましい。
【0025】
(3) 保護層
複数枚の電磁波吸収フィルムを接着した場合に金属薄膜11が外面に露出するときには、その面に保護層(図示せず)を形成するのが好ましい。保護層はプラスチックのハードコート又はフィルムであるのが好ましい。フィルムを用いる場合、熱ラミネート法又はドライラミネート法により接着するのが好ましい。プラスチックハードコートは、例えば光硬化性樹脂の塗布及び紫外線の照射により形成することができる。各保護層13の厚さは10〜100μm程度が好ましい。
【0026】
[2] 線状痕の形成装置
図4(a)〜
図4(e) はプラスチックフィルムに線状痕を二方向に形成する装置の一例を示す。説明の簡単化のために、単にプラスチックフィルム10に線状痕を形成する場合を例にとって線状痕の形成方法を説明するが、勿論その方法はそのまま金属薄膜11への線状痕の形成に適用できる。
【0027】
図示の装置は、(a) プラスチックフィルム10を巻き出すリール21と、(b) プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜して配置された第一のパターンロール2aと、(c) 第一のパターンロール2aの上流側でそれと反対側に配置された第一の押えロール3aと、(d) プラスチックフィルム10の幅方向に関して第一のパターンロール2aと逆方向に傾斜し、かつ第一のパターンロール2aと同じ側に配置された第二のパターンロール2bと、(e) 第二のパターンロール2bの下流側でそれと反対側に配置された第二の押えロール3bと、(f) 線状痕付きプラスチックフィルム10’を巻き取るリール24とを有する。その他に、所定の位置に複数のガイドロール22,23が配置されている。各パターンロール2a,2bは、撓みを防止するためにバックアップロール(例えばゴムロール)5a,5bで支持されている。
【0028】
図4(c) に示すように、各パターンロール2a,2bとの摺接位置より低い位置で各押えロール3a,3bがプラスチックフィルム10に接するので、プラスチックフィルム10は各パターンロール2a,2bに押圧される。この条件を満たしたまま各押えロール3a,3bの高さを調整することにより、各パターンロール2a,2bへの押圧力を調整でき、また中心角θ
1に比例する摺接距離も調整できる。
【0029】
図4(d) は線状痕12aがプラスチックフィルム10の進行方向に対して斜めに形成される原理を示す。プラスチックフィルム10の進行方向に対してパターンロール2aは傾斜しているので、パターンロール2a上の硬質微粒子の移動方向(回転方向)とプラスチックフィルム10の進行方向とは異なる。そこでXで示すように、任意の時点においてパターンロール2a上の点Aにおける硬質微粒子がプラスチックフィルム10と接触して痕Bが形成されたとすると、所定の時間後に硬質微粒子は点A’まで移動し、痕Bは点B’まで移動する。点Aから点A’まで硬質微粒子が移動する間、痕は連続的に形成されるので、点A’から点B’まで延在する線状痕12aが形成されたことになる。
【0030】
第一及び第二のパターンロール2a,2bで形成される線状痕12a,12bの方向及び交差角θsは、各パターンロール2a,2bのプラスチックフィルム10に対する角度、及び/又はプラスチックフィルム10の走行速度に対する各パターンロール2a,2bの周速度を変更することにより調整することができる。例えば、プラスチックフィルム10の走行速度bに対するパターンロール2aの周速度aを増大させると、
図4(d) のYで示すように線状痕12aを線分C’D’のようにプラスチックフィルム10の進行方向に対して45°にすることができる。同様に、プラスチックフィルム10の幅方向に対するパターンロール2aの傾斜角θ
2を変えると、パターンロール2aの周速度aを変えることができる。これはパターンロール2bについても同様である。従って、両パターンロール2a,2bの調整により、線状痕12a,12bの方向を変更することができる。
【0031】
各パターンロール2a,2bはプラスチックフィルム10に対して傾斜しているので、各パターンロール2a,2bとの摺接によりプラスチックフィルム10は幅方向の力を受ける。従って、プラスチックフィルム10の蛇行(横方向へのずれ)を防止するために、各パターンロール2a,2bに対する各押えロール3a,3bの高さ及び/又は角度を調整するのが好ましい。例えば、パターンロール2aの軸線と押えロール3aの軸線との交差角θ
3を適宜調節すると、幅方向の力をキャンセルするように押圧力の幅方向分布が得られ、もって蛇行を防止することができる。またパターンロール2aと押えロール3aとの間隔の調整も蛇行の防止に寄与する。プラスチックフィルム10の蛇行及び破断を防止するために、プラスチックフィルム10の幅方向に対して傾斜した第一及び第二のパターンロール2a,2bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じであるのが好ましい。
【0032】
プラスチックフィルム10に対するパターンロール2a,2bの押圧力を増大するために、
図5に示すようにパターンロール2a,2bの間に第三の押えロール3cを設けても良い。第三の押えロール3cにより中心角θ
1に比例するプラスチックフィルム10の摺接距離も増大し、線状痕12a,12bは長くなる。第三の押えロール3cの位置及び傾斜角を調整すると、プラスチックフィルム10の蛇行の防止にも寄与できる。
【0033】
図6は、
図3(c) に示すように三方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bの下流にプラスチックフィルム10の幅方向と平行な第三のパターンロール2cを配置した点で
図4(a)〜
図4(e) に示す装置と異なる。第三のパターンロール2cの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良いが、線状痕を効率よく形成するために逆方向が好ましい。幅方向と平行に配置された第三のパターンロール2cはプラスチックフィルム10の進行方向に延在する線状痕12cを形成する。第三の押えロール3dは第三のパターンロール2cの上流側に設けられているが、下流側でも良い。なお図示の例に限定されず、第三のパターンロール2cを第一のパターンロール2aの上流側、又は第一及び第二のパターンロール2a、2bの間に設けても良い。
【0034】
図7は、四方向に配向した線状痕を形成する装置の一例を示す。この装置は、第二のパターンロール2bと第三のパターンロール2cとの間に第四のパターンロール2dを設け、第四のパターンロール2dの上流側に第四の押えロール3eを設けた点で
図6に示す装置と異なる。第四のパターンロール2dの回転速度を遅くすることにより、
図4(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をプラスチックフィルム10の幅方向と平行にすることができる。
【0035】
図8は、
図3(a)に示すように直交する線状痕を形成する装置の別の例を示す。この装置は、第二のパターンロール32bがプラスチックフィルム10の幅方向と平行に配置されている点で
図4(a)〜
図4(e) に示す装置と異なる。従って、
図4(a)〜
図4(e) に示す装置と異なる部分のみ以下説明する。第二のパターンロール32bの回転方向はプラスチックフィルム10の進行方向と同じでも逆でも良い。また第二の押えロール33bは第二のパターンロール32bの上流側でも下流側でも良い。この装置は、
図4(d) においてZで示すように、線状痕12a'の方向(線分E’F’)をフィルム10の幅方向にし、直交する線状痕を形成するのに適している。
【0036】
線状痕の傾斜角及び交差角だけでなく、それらの深さ、幅、長さ及び間隔を決める運転条件は、プラスチックフィルム10の走行速度、パターンロールの回転速度及び傾斜角及び押圧力等である。フィルムの走行速度は5〜200 m/分が好ましく、パターンロールの周速は10〜2,000 m/分が好ましい。パターンロールの傾斜角θ
2は20°〜60°が好ましく、特に約45°が好ましい。フィルム10の張力(押圧力に比例する)は0.05〜5 kgf/cm幅が好ましい。
【0037】
パターンロールは、鋭い角部を有するモース硬度5以上の微粒子を表面に有するロール、例えば特開2002-59487号に記載されているダイヤモンドロールが好ましい。線状痕の幅は微粒子の粒径により決まるので、ダイヤモンド微粒子の90%以上は1〜100μmの範囲内の粒径を有するのが好ましく、10〜50μmの範囲内の粒径がより好ましい。ダイヤモンド微粒子はロール面に30%以上の面積率で付着しているのが好ましい。
【0038】
[3] 近傍界電磁波吸収体
本発明の近傍界電磁波吸収体は、複数枚の電磁波吸収フィルムを接着層を介して積層してなる。
図9に示す例では、2枚の電磁波吸収フィルム100a,100bは金属薄膜11a,11bが対向するように接着されており、
図10に示す例では、金属薄膜11a,11bが同じ側を向くように接着されている。
【0039】
第一の電磁波吸収フィルム100a/接着層20/第二の電磁波吸収フィルム100bの層構成を有し、金属薄膜11a,11bが接着層20を介して対向している
図9に示す近傍界電磁波吸収体では、接着層20は非常に薄くすることにより金属薄膜11a及び11bを電磁気的に結合させることができる。そのため、金属薄膜11aに形成した線状痕12a,12bの交差角θsと、金属薄膜11bに形成した線状痕12a,12bの交差角θsとは異なるのが好ましい。例えば、金属薄膜11aに形成した線状痕12a,12bの交差角θsが90°とすると、金属薄膜11bに形成した線状痕12a,12bの交差角θsは60°、45°又は30°とするのが好ましい。この近傍界電磁波吸収体は、
図9(b) に示すように、一方の金属薄膜11a,11bに接着層20を形成した後で、両電磁波吸収フィルム100a,100bを接着剤により貼り合わせる。金属薄膜11a及び11bの十分な電磁気的結合を得るために、接着層20の厚さは10μm以下が好ましく、5μm以下がより好ましい。
図9に示す近傍界電磁波吸収体ではプラスチックフィルムが外側にくるので、金属薄膜11a,11b用の保護層を設ける必要がないという利点がある。
【0040】
図10(a) 及び
図10(b) に示すように、2枚の電磁波吸収フィルム100a,100bの金属薄膜11a,11bは同方向に向いていても良い。この場合も、金属薄膜11a,11bはプラスチックフィルム10a及び接着層20を介して電磁気的に結合するが、その程度は小さいので、電磁波ノイズ抑制効果は
図9に示す例より僅かに劣る。
【0041】
第一の電磁波吸収フィルム100aの金属薄膜11aと、第二の電磁波吸収フィルム100bの金属薄膜11bの少なくとも一方は磁性金属薄膜層を有さなければならない。例えば、金属薄膜11aがアルミニウムからなる場合、金属薄膜11bはニッケルからなるか、ニッケル薄膜層を有する複合膜(例えば銅/ニッケル複合膜)である。勿論両方の金属薄膜11a,11bとも磁性金属薄膜で良いが、少なくとも一方の金属薄膜11a,11bは導電性金属薄膜層を有するのが好ましい。従って、金属薄膜11a,11bの好ましい組合せは、(a) アルミニウム薄膜層とニッケル薄膜層との組合せ、(b) 銅薄膜層とニッケル薄膜層との組合せ、(c) 銅薄膜層と銅薄膜層/ニッケル薄膜層との組合せ、(d) 銅薄膜層/ニッケル薄膜層と銅薄膜層/ニッケル薄膜層との組合せ等である。両金属薄膜11a,11bに導電性金属薄膜層と磁性金属薄膜層を有する方が電磁波吸収能が大きいので、(d) の組合せが最も好ましい。
【0042】
少なくとも一つの金属薄膜11a,11bには複数方向の線状痕12が形成されているが、全ての金属薄膜11a,11bに複数方向の線状痕12が形成されているのがより好ましい。
図11(a) は両電磁波吸収フィルム100a,100bの金属薄膜11a,11bに線状痕12が形成された例を示し、
図11(b) は一方の電磁波吸収フィルム100a,100bの金属薄膜11a,11bに線状痕12が形成された例を示す。
図12(a)〜
図12(c) に示すように2枚の電磁波吸収フィルム100a,100bの線状痕の配向及び交差角θsを吸収すべき周波数に応じて変えることにより、電磁波吸収能の異方性が低減し、優れた電磁波吸収能が得られる。例示の電磁波吸収フィルム100a,100bの線状痕交差角θsは60°及び90°であるが、本発明は勿論これらに限定されず、30〜90°以内の他の交差角θsも使用可能である。
【0043】
本発明を以下の実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0044】
実施例1
厚さ16μmのPETフィルム10aに厚さ0.7μmのCu薄膜層及び厚さ50 nmのNi薄膜層を順に形成し、金属薄膜11aを形成した。次いで、粒径分布が50〜80μmのダイヤモンド微粒子を電着したパターンロール32a,32bを有する
図8に示す構造の装置を用い、金属薄膜11aに交差角が90°の二方向の線状痕を形成し、電磁波吸収フィルム100aを得た。同様に厚さ16μmのPETフィルム10bに形成した厚さ0.7μmのCu薄膜層と厚さ50 nmのNi薄膜層とからなる金属薄膜11bに、
図4に示す装置を用いて交差角が60°の二方向の線状痕を形成し、電磁波吸収フィルム100bを得た。各電磁波吸収フィルム100a,100bにおける線状痕の特性は下記の通りであった。
幅Wの範囲:0.5〜5μm
平均幅Wav:2μm
横手方向間隔Iの範囲:2〜30μm
平均横手方向間隔Iav:10μm
平均長さLav:5 mm
交差角θs:90°及び60°
【0045】
これらの線状痕付きの電磁波吸収フィルム100a,100bの金属薄膜11a,11bを市販の接着剤により接合し、
図9(a) に示す近傍界電磁波吸収体1の試験片TP(55.2 mm×4.7 mm)を作製した。接着層20の厚さは約1μmであった。
【0046】
50ΩのマイクロストリップラインMSL(64.4 mm×4.4 mm)と、マイクロストリップラインMSLを支持する絶縁基板200と、絶縁基板200の下面に接合された接地グランド電極201と、マイクロストリップラインMSLの両端に接続された導電性ピン202,202と、ネットワークアナライザNAと、ネットワークアナライザNAを導電性ピン202,202に接続する同軸ケーブル203,203とで構成された
図13に示す近傍界用電磁波評価システムを用いて、マイクロストリップラインMSLに試験片TPを粘着剤により貼付し、0〜6 GHzの入射波に対して、反射波S
11の電力及び透過波S
12の電力を測定し、下記式:
R
tp=−10×log[10
S21/10/(1−10
S11/10)]
により伝送減衰率R
tpを求めた。結果を
図14に示す。
図14から明らかなように、伝送減衰率R
tpは約1.5 GHz〜6 GHzの広い範囲内で20 dB以上と大きかった。
【0047】
またこの電磁波吸収体1から上記試験片TPと直交する方向に切り出した試験片に対して同様の評価を行ったところ、ほぼ同程度の伝送減衰率R
tpが得られた。これから、実施例1の電磁波吸収体1は電磁波吸収能の異方性が小さいことが分かる。
【0048】
実施例2
金属薄膜11a及び11bの間に厚さ16μmのPETフィルムを介在させて両電磁波吸収フィルム100a,100bを接着した以外実施例1と同様にして、近傍界電磁波吸収体1を製造し、反射波S
11の電力及び透過波S
12の電力を測定し、伝送減衰率R
tpを求めた。結果を
図15に示す。
図15から明らかなように、伝送減衰率R
tpは約2 GHz〜5.7 GHzの広い範囲内で20 dB以上と大きかったが、実施例1の伝送減衰率R
tpより僅かに劣っていた。これから、金属薄膜11a及び11bの電磁気的な結合が電磁波吸収能に影響することが分かる。
【0049】
比較例1
線状痕を形成しない以外実施例1と同様にして近傍界電磁波吸収体1を製造し、反射波S
11の電力及び透過波S
12の電力を測定し、伝送減衰率R
tpを求めた。結果を
図16に示す。
図16から明らかなように、0〜6 GHzの周波数範囲にわたって伝送減衰率R
tpは小さかった。これから、導電性金属薄膜層/磁性金属薄膜層からなる金属薄膜を有する2枚の電磁波吸収フィルムを接着してなる近傍界電磁波吸収体であっても、両金属薄膜に線状痕を形成していないと、電磁波吸収能は著しく低いことが分かる。
【0050】
比較例2
実施例1で作製した電磁波吸収フィルム100a(厚さ0.7μmのCu薄膜層及び厚さ50 nmのNi薄膜層からなる金属薄膜11aに交差角が90°の二方向の線状痕を形成した)に対して、実施例1と同様にして反射波S
11の電力及び透過波S
12の電力を測定し、伝送減衰率R
tpを求めた。結果を
図17に示す。
図17から明らかなように、20 dBを超えるR
tpが得られる周波数領域はほとんど約4.5 GHz以上だけであり、実施例1及び2より著しく狭かった。
【0051】
実施例及び比較例の近傍界電磁波吸収体の構成を下記の表1に纏めて示す。
【表1】