(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727061
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】車体側部構造の製造方法及び車体側部構造
(51)【国際特許分類】
B62D 25/04 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
B62D25/04 B
【請求項の数】5
【全頁数】8
(21)【出願番号】特願2014-29206(P2014-29206)
(22)【出願日】2014年2月19日
(65)【公開番号】特開2014-193712(P2014-193712A)
(43)【公開日】2014年10月9日
【審査請求日】2014年2月20日
(31)【優先権主張番号】特願2013-35652(P2013-35652)
(32)【優先日】2013年2月26日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】591077704
【氏名又は名称】東亜工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100107906
【弁理士】
【氏名又は名称】須藤 克彦
(72)【発明者】
【氏名】矢島 正毅
(72)【発明者】
【氏名】金井 孝司
【審査官】
鹿角 剛二
(56)【参考文献】
【文献】
特開平09−188274(JP,A)
【文献】
特開2009−001121(JP,A)
【文献】
特開2007−314817(JP,A)
【文献】
国際公開第2012/036262(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B62D 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の鋼板を切断することにより上側部材を形成する工程と、
第2の鋼板を切断することにより補強部材を形成する工程と、
前記第1及び第2の鋼板より炭素含有量が少ない第3の鋼板を切断することにより下側部材を形成する工程と、
前記上側部材と前記下側部材とを部分的に重ね合わせ、前記補強部材を前記上側部材に重ね合わせ、前記上側部材と前記下側部材との第1の重ね合わせ部と前記補強部材を前記上側部材との第2の重ね合わせ部をそれぞれスポット溶接することにより、前記上側部材、前記補強部材及び前記下側部材からなるブランク材を形成する工程と、
前記ブランク材を熱間プレス成形することにより、前記ブランク材でピラーレインフォースメントを形成する工程と、を備え、
前記熱間プレス成形により前記下側部材の強度を前記上側部材及び前記補強部材の強度より小さくしたことを特徴とする車体側部構造の製造方法。
【請求項2】
熱間プレス成形された前記ブランク材を整形し、または前記ブランク材に部品取り付け用の穴を形成する工程を備えることを特徴とする請求項1に記載の車体側部構造の製造方法。
【請求項3】
前記上側部材に対し前記下側部材が車幅方向外側から重ね合わされて前記第1の重ね合わせ部が形成されることを特徴とする請求項1又は2に記載の車体側部構造の製造方法。
【請求項4】
第1の鋼材からなる上側部材と、
前記第1の鋼材からなり前記上側部材に重ね合わされた補強部材と、
前記上側部材と部分的に重ね合わされ、前記第1の鋼材より炭素含有量が少ない第2の鋼材からなる下側部材と、
前記上側部材と前記下補強部材の第1の重ね合わせ部に形成された第1のスポット溶接部と、
前記上側部材と前記下側部材の第2の重ね合わせ部に形成された第2のスポット溶接部と、を備え、前記上側部材、前記補強部材及び前記下側部材でピラーレインフォースメントが構成され、前記第1及び第2のスポット溶接部を介して接合された前記上側部材、前記補強部材及び前記下側部材が同時に熱間プレス成形されることで、前記下側部材の強度を前記上側部材及び前記補強部材の強度より小さくしたことを特徴とする車体側部構造。
【請求項5】
前記上側部材に対し前記下側部材が車幅方向外側から重ね合わされて前記第1の重ね合わせ部が形成されたことを特徴とする請求項4に記載の車体側部構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車体側部構造の製造方法及び車体側部構造に関する。
【背景技術】
【0002】
車体側部構造として、車体側部の上下方向にセンターピラーが配置される。センターピラーは、ピラーアウタパネルとピラーインナパネルの間にピラーレインフォースメントを備えて構成されている。
【0003】
この車体側部構造において、センターピラーの上下方向中央部よりも下側に強度変化点を設け、この強度変化点よりも上部では部材強度を大きくし、下部では部材強度を小さくすることが行われている。
【0004】
この車体側部構造によれば、センターピラーの下部を上部よりも変形し易くすることにより、車両側突時におけるセンターピラーの変形形状を制御し、センターピラーによる乗員への干渉を防止して、乗員を保護できるという利点がある。
【0005】
さらに詳しくは、センターピラーのピラーレインフォースメントは、上側部材と下側部材を部分的に重ね合わせ、この重ね合わせ部がスポット溶接等により互いに接合されることで形成される。上側部材は、熱間プレス成形(ホットスタンプ)により形成された高張力鋼板とされている。熱間プレス成形とは、鋼板を加熱した状態で金型によりプレスするというもので、金型による急冷効果により鋼板が焼き入れ強化されるため、鋼板の強度を飛躍的に大きくできるという特徴を有している。
【0006】
これに対し、下側部材は通常の圧延鋼板等からなり、その強度は熱間プレス材よりも小さく設定されている。すなわち、上部部材と下部部材を比較すると、上側部材の方が下側部材より高強度な材質により構成されている。
【0007】
次に、
図3及び
図4を参照して、従来のピラーレインフォースメント7の製造方法を説明する。ピラーレインフォースメント7は、上側部材3a、下側部材3c、上側部材3aを補強するための補強部材3bから構成される。補強部材3bは乗員の胸部に対応する高さに設けられるものである。
【0008】
図3に示すように、ロール状に巻かれた鋼材1a,1b,1cを、それぞれプレス機2a,2b,2cを用いて所定の平面形状に切断し、上側部材3a、補強部材3b、下側部材3cを形成する。鋼材1a,1bは熱間プレス用の鋼板であり、鋼材1cは冷間プレス用の鋼板である。
【0009】
次に、上側部材3a、補強部材3bを所定の温度に加熱して、プレス機4a,4bにより熱間プレス成形する。これにより、上側部材3a、補強部材3bについては金型による急冷効果により焼き入れされるため、その強度を飛躍的に大きくできる。
【0010】
一方、下側部材3cについては加熱工程を行わずに、プレス機4cにより冷間プレス成形するので、その強度は上側部材3a、補強部材3bよりも小さい。この場合、上側部材3aは、周端部が折曲げられて船底の形状となり、補強部材3b、下側部材3cは、上側部材3aの形状に合わせて周端部が折り曲げられた形状になっている。
【0011】
その後、
図4に示すように、レーザービームを用いて上側部材3a、補強部材3b
及び下側部材3cの不要部分を除去するレーザートリムを行うとともに、必要な部品取り付け用の穴5a,5cを形成する。
【0012】
その後、上側部材3a、補強部材3b及び下側部材3cを集成する。この時、補強部材3bは、上側部材3a上に重ね合される。また、上側部材3aと下側部材3cとを部分的に重ね合わせる。そして、上側部材3aと補強部材3bの重ね合わせ部、上側部材3aと下側部材3cとの重ね合わせ部6をそれぞれスポット溶接することにより各部材を互いに接合し、ピラーレインフォースメント7が完成する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開2010−173403号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
しかしながら、従来のピラーレインフォースメント7の製造方法によれば、上側部材3a、補強部材3b及び下側部材3cを上述のようにプレス成形した後に、各部材を集成してスポット溶接していたので、スポット溶接箇所が制約を受けるという問題があった。これは、スポット溶接箇所は各部材の平坦領域に限られるところ、プレス成形後にスポット溶接すると、各部材の周端が折り曲げられていることから、平坦領域が必然的に狭くなるためである。
【0015】
また、プレス成形後にスポット溶接する場合、スポット溶接箇所及びその周辺部分は溶接後、自然冷却されることから、その強度が小さくなるという問題もあった。
【0016】
さらに、上側部材3a、補強部材3b及び下側部材3cを上述のように熱間プレス成形または冷間プレス成形していたので、工程が複雑であるという問題もあった。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上述の課題に鑑み、本発明の車体側部構造の製造方法は、第1の鋼板を切断することにより上側部材を形成する工程と、第2の鋼板を切断することにより補強部材を形成する工程と、前記第1及び第2の鋼板より炭素含有量が少ない第3の鋼板を切断することにより下側部材を形成する工程と、前記上側部材と前記下側部材とを部分的に重ね合わせ
、前記補強部材を前記上側部材に重ね合わせ、前記上側部材と前記下側部材との第1の重ね合わせ部と前記補強部材を前記上側部材との第2の重ね合わせ部をそれぞれスポット溶接することにより、前記上側部材、前記補強部材及び前記下側部材からなるブランク材を形成する工程と、前記ブランク材を熱間プレス成形する
ことにより、前記ブランク材でピラーレインフォースメントを形成する工程と、を備え、前記熱間プレス成形により前記下側部材の強度を前記上側部材及び前記補強部材の強度より小さくしたことを特徴とする。
【0018】
また、本発明の車体側部構造は、第1の鋼材からなる上側部材と、
前記第1の鋼材からなり前記上側部材に重ね合わされた補強部材と、前記上側部材と部分的に重ね合わされ、前記第1の鋼材より炭素含有量が少ない第2の鋼材からなる下側部材と、前記上側部材と前記下補強部材の第1の重ね合わせ部に形成された第1のスポット溶接部と、 前記上側部材と前記下側部材の第2の重ね合わせ部に形成された第2のスポット溶接部と、を備え、前記上側部材、前記補強部材及び前記下側部材でピラーレインフォースメントが構成され、前記第1及び第2のスポット溶接部を介して接合された前記上側部材、前記補強部材及び前記下側部材が同時に熱間プレス成形されることで、前記下側部材の強度を前記上側部材及び前記補強部材の強度より小さくしたことを特徴とする。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、上側部材と下側部材とを重ね合わせ部を介してスポット溶接することにより両部材を互いに接合してブランク材を形成した後、このブランク材を熱間プレス成形しているので、スポット溶接箇所の自由度が増すという利点がある。
【0020】
また、スポット溶接後に熱間プレス成形を行うので、焼き入れによりスポット溶接箇所及びその周辺部分の強度を高めることができる。
【0021】
さらに、ブランク材を熱間プレス成形しているので、プレス成形を一工程で行うことができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【
図1】本発明の実施形態における車体側部構造の製造工程図である。
【
図2】ピラーレインフォースメントの断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0023】
以下、本発明の実施形態における車体側部構造の製造方法を
図1、
図2に基づいて説明する。
【0024】
本実施形態は、上側部材3aと下側部材3cとを重ね合わせ部6を介してスポット溶接することにより両部材を互いに接合してブランク材を形成した後、このブランク材を熱間プレス成形するようにしたものである。一般に、熱間プレス成形時の焼き入れ効果は、鋼材の含有炭素量に依存することが知られている。
【0025】
すなわち、熱間プレス成形においては、鋼材を変態点以上に加熱し、金型による急冷により鋼材の金属組織をオーステナイトからマルテンサイトに変態せしめることで、焼き入れ強化が行われる。このとき、鋼材の炭素含有量が多い方が、マルテンサイトへの変態が促進されるので、その強度は大きくなる。一方、鋼材の炭素含有量が少ないと、マルテンサイトへの変態が抑制されるのでその強度は小さくなる。一般には炭素含有量が0.5%以下になると、鋼材の強度の低下が見られ、0.3%以下では焼き入れ効果が殆どないことが知られている。
【0026】
そこで、本実施形態の製造方法では、下側部材3cの炭素含有量を上側部材3aの炭素含有量よりも少なくすることで、下側部材3cに対する焼き入れを抑制し、下側部材3cの強度を上側部材3aの強度よりも小さくしている。
【0027】
以下、車体側部構造の製造方法を詳しく説明する。先ず、ロール状に巻かれた鋼材1a,1b,1cを、それぞれプレス機2a,2b,2cを用いて所定の平面形状に切断し、上側部材3a、補強部材3b、下側部材3cを形成する。鋼材1a,1b、1cはいずれも熱間プレス用の鋼板であるが、鋼材1cの炭素含有量は鋼材1a,1bの炭素含有量よりも小さく設定されている。
【0028】
次に、上側部材3a、補強部材3b及び下側部材3cを集成する。補強部材3bは、上側部材3a上に重ね合される。また、上側部材3aと下側部材3cとを部分的に重ね合わせる。そして、上側部材3aと補強部材3bの重ね合わせ部、上側部材3aと下側部材3cとの重ね合わせ部6をそれぞれスポット溶接することにより各部材を互いに接合し、ブランク材を形成する。この時、上側部材3a、補強部材3b及び下側部材3cはプレス成形前であるから、各部材の全面が平坦になっており、スポット溶接箇所の自由度が増すことになる。
【0029】
その後、スポット溶接されたブランク材を加熱炉により、上側部材3a、補強部材3bの変態点以上の温度に加熱し、加熱されたブランク材を一台のプレス機4により熱間プレス成形する。これにより、上側部材3a、補強部材3bについては炭素含有量が、例えば0.5%以上と多いことから金型による急冷効果により焼き入れされるため、その強度を飛躍的に大きくできる。一方、下側部材3cについては炭素含有量が例えば0.3%以下と少ないことから焼き入れが抑制され、その強度は上側部材3a、補強部材3bよりも小さくすることができる。熱間プレス後のブランク材は、周端部が折曲げられて船底の形状、すなわち
図1のプレス機4に示された断面図の3次元形状となっている。
【0030】
その後、レーザービームを用いてブランク材の不要部分を除去する整形工程(例えば、レーザートリム)を行うとともに、必要に応じて部品取り付け用の穴5a,5cを形成し、ピラーレインフォースメント7が完成する。
【0031】
このように、本実施形態によれば、上側部材3aと下側部材3cとを重ね合わせ部6を介してスポット溶接することにより両部材を互いに接合してブランク材を形成した後、このブランク材を熱間プレス成形しているので、スポット溶接箇所の自由度が増すという利点がある。また、スポット溶接後に熱間プレス成形を行うので、焼き入れによりスポット溶接箇所及びその周辺部分の強度を高めることができる。さらに、ブランク材を熱間プレス成形しているので、プレス成形を一工程で行うことができる。さらにまた、熱間プレス成形後に、レーザートリム等の整形工程と、穴5a,5cの形成を行っているので、従来のように、部材毎に作業する場合と比べて作業が効率的であるという利点もある。
【0032】
図2は、上側部材3aと下側部材3cとの重ね合わせ部6の断面図である。
図2(a)に示すように、上側部材3aに対し下側部材3cが車幅方向内側から重ね合わされて重ね合わせ部6が形成される場合、車両側突時の衝撃により、重ね合わせ部6のスポット溶接箇所が破壊され、両部材が分離してしまうおそれがある。そこで、両部材の接合を維持するために、
図2(b)に示すように、上側部材3aに対し下側部材3cが車幅方向外側から重ね合わされて重ね合わせ部6が形成されることが好ましい。言い換えれば、重ね合わせ部6は、上側部材3aが車両内側に位置するように、下側部材3cを上側部材3aの上に重ね合わせることにより形成されることが好ましい。
【実施例】
【0033】
次に、本発明の実施例を説明する。ロール状に巻かれた鋼材1a,1bとして高炭素濃度材、ロール状に巻かれた鋼材1cとして低炭素濃度材を用いた。また、熱間プレスの加熱工程では、スポット溶接後のブランク材を950°Cに加熱した。これにより、熱間プレス後のピラーレインフォースメント7の上側部材3a、補強部材3bの強度は1500MPa(メガパスカル)であり、下側部材3cの強度は590MPaが得られた。
【符号の説明】
【0034】
1a,1b,1c 鋼材
2a,2b,2c プレス機
3a 上側部材
3b 補強部材
3c 下側部材
4 プレス機
5a,5c 穴
6 重ね合わせ部
7 ピラーレインフォースメント