(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727142
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】緩効性肥料の製造方法
(51)【国際特許分類】
C05G 3/00 20060101AFI20150514BHJP
C05G 1/00 20060101ALI20150514BHJP
A01G 1/00 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
C05G3/00 Z
C05G1/00 K
A01G1/00 301Z
【請求項の数】5
【全頁数】7
(21)【出願番号】特願2010-5696(P2010-5696)
(22)【出願日】2010年1月14日
(65)【公開番号】特開2010-189255(P2010-189255A)
(43)【公開日】2010年9月2日
【審査請求日】2013年1月10日
(31)【優先権主張番号】特願2009-12432(P2009-12432)
(32)【優先日】2009年1月23日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】899000035
【氏名又は名称】株式会社 東北テクノアーチ
(73)【特許権者】
【識別番号】390021544
【氏名又は名称】ジェイカムアグリ株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100095359
【弁理士】
【氏名又は名称】須田 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100143834
【弁理士】
【氏名又は名称】楠 修二
(72)【発明者】
【氏名】張 其武
(72)【発明者】
【氏名】齋藤 文良
(72)【発明者】
【氏名】加藤 孝一
【審査官】
井上 恵理
(56)【参考文献】
【文献】
特開昭50−105459(JP,A)
【文献】
特開平03−083881(JP,A)
【文献】
特開平09−227264(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C05B 1/00− 21/00
C05C 1/00− 13/00
C05D 1/00− 11/00
C05F 1/00− 17/02
C05G 1/00− 5/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
メカノケミカル反応でアモルファス化するよう、窒素、リン酸、加里や微量要素と言われるマグネシウム・マンガン・鉄・亜鉛・銅・モリブデンの内、少なくとも一種類以上の肥料成分から成る化成肥料粉末と、酸化物粉末とを硬質ボールの入ったポットとミルとを使用して混合・粉砕し、水に難溶性の反応生成物を製造することを特徴とする緩効性肥料の製造方法。
【請求項2】
前記酸化物は、アルミナ、シリカ、カオリン、または土壌中に含まれるか土壌を構成する酸化物の内、少なくとも一種類以上の酸化物であることを特徴とする請求項1記載の緩効性肥料の製造方法。
【請求項3】
前記反応生成物がクエン酸溶解性であることを特徴とする請求項1または2記載の緩効性肥料の製造方法。
【請求項4】
前記酸化物粉末/前記化成肥料粉末のモル比の値が、1.5以上であることを特徴とする請求項1、2または3記載の緩効性肥料の製造方法。
【請求項5】
請求項1乃至4のいずれか1項記載の緩効性肥料の製造方法で製造された緩効性肥料を用いることを特徴とする植物の栽培方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、農業や園芸で使用される肥料に関するもので、さらに詳細には、水中や土壌中への肥料成分の溶出速度が制御可能な緩効性肥料の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
農業とは、土壌から肥料成分を吸収して生育した植物を収奪して利用する行為であるため、減少した窒素、リン酸、加里や微量要素と言われるマグネシウム・マンガン・ホウ素・鉄・亜鉛・銅・モリブデン等の肥料を土壌に補給しなければ、持続可能な農業は不可能であり、肥料はこの補給の目的で使用されるものである。農業生産に欠かせない化成肥料は、水への溶解が早く、速効性肥料と呼ばれている。しかし、植物の根が肥料成分を吸収する速度は遅いので、根に吸収される量より雨などに流されるほうがより多いのが現状である。流亡した肥料成分が水系に蓄積し、環境を汚染するという問題があり、化成肥料の使用には環境への配慮が必要である。
【0003】
また、世界全体の人口はまだ増え続けており、食糧増産の意味で、農業生産に貢献できる化成肥料の使用はこれからも継続されると考えられる。しかし、肥料の利用効率の低さは問題であり、環境問題もあり、さらに近年の石油資源の枯渇から農産物を利用したバイオ燃料が注目され、農業生産物や肥料の価格が高騰しているという問題もある。
【0004】
肥料の溶解度を制御した技術としては、化成肥料の粒子の表面を有機高分子膜でコーティングした被覆肥料がある(特許文献1および特許文献2参照)。しかし、これら被覆肥料は、その製造方法が複雑で、高価であるため、農業生産での大量使用にはあまり用いられず、主としてコストパフォーマンスが比較的良い園芸分野や、施肥回数の削減が可能なため労力の負荷軽減に使用されている。さらには、本来自然には存在しないコーティング用有機高分子材料が、広く土壌中に長期的に分散するという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平8−277191号公報
【特許文献2】特開2006−89328号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、前述の問題点を解決するためになされたもので、肥料の利用効率を上げ、かつ、従来の有機高分子被覆に依らず、製造プロセスが簡便な緩効性肥料の製造方法と、当該製造法によって製造された緩効性肥料で、生育に必要な肥料成分が供給でき、生育障害が発生せず、かつ、肥料成分の環境への流亡の無い植物の栽培方法とを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明によれば、
メカノケミカル反応でアモルファス化するよう、窒素、リン酸、加里や微量要素と言われるマグネシウム・マンガン・鉄・亜鉛・銅・モリブデンの内、少なくとも一種類以上の肥料成分から成る化成肥料粉末と
、酸化物粉末とを
硬質ボールの入ったポットとミルとを使用して混合・粉砕し
、水に難溶性の反応生成物を製造することを特徴とする緩効性肥料の製造方法が得られる。
【0009】
また、本発明によれば、前記酸化物は、アルミナ、シリカ、カオリン、または土壌中に含まれるか土壌を構成する酸化物の内、少なくとも一種類以上の酸化物であることを特徴とする緩効性肥料の製造方法が得られる。
【0010】
また、本発明によれば、前記反応生成物がクエン酸溶解性であることを特徴とする緩効性肥料の製造方法が得られる。
【0013】
また、本発明によれば、本発明に係る緩効性肥料の製造方法で製造された緩効性肥料を用いることを特徴とする植物の栽培方法が得られる。
【発明の効果】
【0014】
化成肥料では、水への溶解が早いため肥料効率が低く環境を汚染する問題があるが、本発明により、水に難溶性で、クエン酸溶解性のため、植物の根が分泌する根酸には可溶性となり、肥料効率が上がり、環境への流亡が無く、また、従来の有機高分子被覆に依らず、製造プロセスが簡便な緩効性肥料の製造方法を提供することができるという効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の実施の形態の緩効性肥料の製造方法の、Al
2O
3:KH
2PO
4=3:2の時の、ミル回転速度を変化させて得られた反応生成物のX線回折(XRD)パターンを示すグラフである。
【
図2】本発明の実施の形態の緩効性肥料の製造方法の、Al
2O
3:KH
2PO
4=3:2の時の、ミル回転速度(Milling Speed)を変化させて、2時間混合・粉砕した反応生成物の加里(K)およびリン酸(P)の水に対する溶解度(NutrienntReleased)を示すグラフである。
【
図3】本発明の実施の形態の緩効性肥料の製造方法の、リン酸カリウム(KH
2PO
4)とアルミナ(Al
2O
3)との秤量の割合(Mol ratio)を変化させた時の、ミル回転速度600rpmで2時間混合・粉砕した反応生成物の加里(K)およびリン酸(P)の水に対する溶解度(NutrienntReleased)を示すグラフである。
【
図4】本発明の実施の形態の緩効性肥料の製造方法の、リン酸カリウム(KH
2PO
4)とアルミナ(Al
2O
3)との反応生成物の加里(K)およびリン酸(P)の水に対する溶解度(Nutriennt Released)の変化を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明を実施するに当たり、出発試料として化学肥料の主成分であるカリウムやアンモニウムのリン酸塩粉末と、酸化物粉末としてアルミナやカオリンとを、ミル中で混合・粉砕操作し、固相反応の結果として得られた反応生成物の水に対する溶解度を測定した。具体的には、直径15mmの硬質ボールを7個入れた、内容量50ccの円筒型ステンレス製のポットを使用して、所定量秤量したカリウムやアンモニウムのリン酸塩粉末と酸化物粉末とを円筒型ステンレス製のポットにチャージし、遊星ボールミルにセットして混合・粉砕した。混合・粉砕の雰囲気は大気中である。粉砕時間やミルの回転速度、及びリン酸塩粉末と酸化物粉末との割合を変化させて、得られた反応生成物の水に対する溶解度を測定した。
【0017】
溶解度の測定方法は、まず、1gの反応生成物を100ccの蒸留水に24時間から500時間の範囲で攪拌溶解し、溶解液をろ過する。次に、イオンクロマトグラフィーによりろ液に溶出したカリウムイオン、アンモニウムイオン、及びリン酸イオンの濃度を分析し、溶解度を算出した。
【0018】
以下、本発明の実施の形態について図面を参照しながら説明する。
図1は、Al
2O
3:KH
2PO
4=3:2の時の、ミル回転速度を変化させて得られた反応生成物のX線回折(XRD)パターンを示す。ミル回転速度が300rpmでは出発試料のピークが残るが、400rpm以上になるとアモルファス相のパターンが現れる。
【0019】
図2は、ミルの回転速度(Milling Speed)を変化させて、2時間混合・粉砕した反応性生物のカリウム(K)およびリン酸アニオン成分(P)の水に対する溶解度(Nutrient
Released)を示す。
図2から、明らかに、リン酸カリウムは水に完全に溶け(
図2中、0rpmのとき100%)、300rpm以上のミル回転速度で処理すると、その反応生成物の溶解度は下がり、600rpmで10%から20%程度の溶解度になる。
【0020】
図3は、リン酸カリウム(KH
2PO
4)とアルミナ(Al
2O
3)との秤量の割合(Mol ratio)を変化させた時の、600rpmで2時間混合・粉砕の反応生成物の水に対する溶解度(Nutrient Released)を示す。
図3から、リン酸カリウムはアルミナが存在しない粉砕だけでは溶解度は変化しないが、アルミナの量を増加するに伴い溶解度が低下することがわかる。
【0021】
図4は、カオリンとリン酸カリウムとの反応生成物の水への溶解度(Nutrient Released)の変化を示す。カオリンは土壌に含まれている成分であり、アルミナのかわりカオリンを使用できれば、プロセスの実用性は高くなる。実験した結果はアルミナの場合と同様で、カオリンとリン酸塩との固相反応がすすみ、アモルファス化をもたらす性能を確認できた。これにしたがい、
図4に示すように、カオリンの量が増加するに伴い、リン酸塩の水への溶解度が低下することがわかる。
【0022】
表1は、各種肥料成分をメカノケミカル反応で製造した場合の各肥料成分の水への溶解性と2%クエン酸水溶液への溶解性を示した。○は、溶解することを示し、×は、難溶であることを示した。表1より、硝酸性窒素およびホウ酸は、水に難溶性とはならなかったため、く溶性については検証しなかった。
【0024】
表2は、「くみあい硫加燐安1号」(ジェイカムアグリ株式会社製;アンモニア性窒素窒素14.0%、可溶性リン酸12.0%、水溶性リン酸9.5%、水溶性加里9.0%)を、カオリンとメカノケミカル反応で製造した緩効性肥料を用いてネギの育苗試験を行った結果である。試験方法は、園芸用培土(ジェイカムアグリ株式会社製;「くみあいバーミキュライト園芸育苗用資材 与作 園芸用V床土」)に、本発明の前記緩効性肥料を10a当たり窒素として6kg、9kgおよび12kgとなるよう配合し、「ヤンマートレイ20−288穴(商品名、ヤンマー農機(株)製、セル容量20mm角×深さ40mm、288穴)」に充填後、ネギ(品種「長悦葱」、協和種苗(株)製)を播種し、与作園芸用V床土で覆土した。その他は慣行法に従って育苗を行った。この試験区を5、6および7(表2中では丸数字)とした。圃場では、基肥窒素をCDU化成で施用し、その量は、窒素として、試験区5では、6kg/10a、試験区6では3kg/10a、試験区7ではゼロとした。追肥は、すべて、窒素として12kg/10aで燐硝安加里を3回に分けて施肥した。
【0026】
別に、緩効性肥料を配合しなかった培土のみの試験区1(表2中では丸数字)と「くみあい硫加燐安1号」を10a当たり窒素6kg、9kgおよび12kgとなるように配合した試験区2、3および4(表2中では丸数字)を設け、試験区5、6および7と同様の圃場施肥をした。ネギの育苗栽培試験の結果、本発明の緩効性肥料を配合して育苗を行った苗は、水溶性窒素の過剰による根焼けが発生せず、生育、根張りとも良好であり、本圃に容易に移植できた。これは、本発明の緩効性肥料がネギの根圏が発達するまで水にほとんど可溶化せず、必要な分だけが吸収されたことを示している。
【0027】
しかし、「くみあい硫加燐安1号」を過剰に配合した試験区3および4では肥料焼けによる根焼けの生育障害が発生した。