特許第5727155号(P5727155)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5727155材料のフライス加工のための装置および方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727155
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】材料のフライス加工のための装置および方法
(51)【国際特許分類】
   B23C 9/00 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
   B23C9/00 Z
【請求項の数】15
【全頁数】18
(21)【出願番号】特願2010-118029(P2010-118029)
(22)【出願日】2010年5月24日
(65)【公開番号】特開2010-269444(P2010-269444A)
(43)【公開日】2010年12月2日
【審査請求日】2013年3月25日
(31)【優先権主張番号】0950366-5
(32)【優先日】2009年5月25日
(33)【優先権主張国】SE
(73)【特許権者】
【識別番号】507226695
【氏名又は名称】サンドビック インテレクチュアル プロパティー アクティエボラーグ
(74)【代理人】
【識別番号】100099759
【弁理士】
【氏名又は名称】青木 篤
(74)【代理人】
【識別番号】100092624
【弁理士】
【氏名又は名称】鶴田 準一
(74)【代理人】
【識別番号】100102819
【弁理士】
【氏名又は名称】島田 哲郎
(74)【代理人】
【識別番号】100112357
【弁理士】
【氏名又は名称】廣瀬 繁樹
(74)【代理人】
【識別番号】100154380
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 隆一
(74)【代理人】
【識別番号】100157211
【弁理士】
【氏名又は名称】前島 一夫
(72)【発明者】
【氏名】アンデルス リリエレーン
(72)【発明者】
【氏名】ミカエル ルンドブラド
【審査官】 山本 忠博
(56)【参考文献】
【文献】 米国特許第03690414(US,A)
【文献】 特開昭63−123654(JP,A)
【文献】 特開2003−62735(JP,A)
【文献】 特開2010−42464(JP,A)
【文献】 米国特許第3207009(US,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B23C 9/00,
B23Q 11/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
材料のフライス加工のための装置であって、
第1の端部(204、324、424、506、604)と反対側の第2の端部(206、304、411、508、606)とを有するフライスカッター本体(202、302、402、502、602)を備え、フライスカッター本体(202、302、402、502、602)が第1の端部(204、324、424、506、604)で回転可能なスピンドル(208)またはホルダと接続可能であり、第2の端部(206、304、411、508、606)で少なくとも1つの切れ刃(213、215、307、309)または少なくとも1つの切れ刃(213、215、307、309)を有する少なくとも1つのフライスインサート(214、310、418、514、612)を装着するための装着部材(212、306、414、510、608)を備えており、
フライスカッター本体(202、302、402、502、602)が第1および第2の端部(204、324、424、506、604、206、304、411、508、606)を通じて延びる長手方向軸(x−x)を画定し、軸方向凹部(216、314、404、504、616)と、凹部(216、314、404、504、616)内に配置された少なくとも1つの質量要素(218、316、318、320、422、522、618)とを備えており、
質量要素(218、316、318、320、422、522、618)は、フライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対する質量要素(218、316、318、320、422、522、618)の軸方向位置を調整し、それによって装置の固有振動数を調整するため、装置内に含まれる調整部材によってフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対して軸方向に調整可能であり、
質量要素(218、316、318、320、422、522、618)が、フライス作業のために装置の固有振動数を最適化するため、フライス作業の際にフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対するその軸方向移動が防止されるように、質量要素(218、316、318、320、422、522、618)の軸方向ロックのために装置内に含まれるロック部材によって、調整された位置でフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対して軸方向にロック可能であり、
個々の質量要素(218、316、318、320、422、522、618)が、フライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対するその半径方向移動が防止されるように、質量要素を半径方向にロックするため、装置内に含まれるロック部材によってフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対して半径方向にロック可能であることを特徴とする装置。
【請求項2】
凹部が2つ以上の質量要素(218、316、318、320、422、522、618)を受け入れるのに適しており、各質量要素(218、316、318、320、422、522、618)が、調整部材およびロック部材によって軸方向に調整可能であり、かつ、軸方向にロック可能であることを特徴とする、請求項1に記載の装置。
【請求項3】
個々の質量要素(218、316、318、320、422、522、618)が凹部(216、314、404、504、616)内に交換可能に配置されていることを特徴とする、請求項1または2に記載の装置。
【請求項4】
凹部が軸方向穴(216、314、404、504、616)を包含することを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の装置。
【請求項5】
軸方向穴(216、314、404、504、616)が、個々の質量要素(218、316、318、320、422、522、618)を出し入れするための第1または第2の端部(204、324、424、506、604、206、304、411、508、606)の開口を備えていることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項6】
調整部材が、質量要素(618)と一方の端部(604、606)との間の軸方向穴(616)内に配置され反対側の端部(604、606)に向かって質量要素(618)を駆動するのに適した駆動部材と、反対側の端部(604、606)から質量要素(618)を駆動するため、反対側の端部(604、606)と質量要素(618)との間の軸方向穴(616)の空間(623)を加圧するのに適した加圧部材とを備えることを特徴とする、請求項またはに記載の装置。
【請求項7】
加圧部材が液体(624)によって軸方向穴(616)を加圧するのに適していることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項8】
駆動部材が第2の端部(606)と質量要素(618)との間に配置されており、加圧部材が質量要素(618)と第1の端部(604)との間の軸方向穴(616)の空間(623)を加圧するのに適していることを特徴とする、請求項またはに記載の装置。
【請求項9】
調整部材が、フライスカッター本体(202、302、402、502)内で固定され軸方向にロックされる第1のねじ付き部材(334、406、518)と、質量要素(316、318、320、422、522)と共にフライスカッター本体(202、302、402、502)に対して軸方向に移動可能な第2のねじ付き部材(336、408、520)とを備え、第1および第2のねじ付き部材(334、406、518、336、408、520)は互いに係合し、それらの協働によって質量要素(316、318、320、422、522)はフライスカッター本体(202、302、402、502)に対して軸方向に移動することを特徴とする、請求項1〜の何れか一項に記載の装置。
【請求項10】
調整部材が凹部(314)内で軸方向に延びるバー(328)を備え、バー(328)が、第1のねじ付き部材(334)を備え、フライスカッター本体(302)内に回転可能に固定されており、フライスカッター本体(302)に対して軸方向に回転可能であることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項11】
凹部(404、504)の内壁が第1のねじ付き部材(406、518)を備えていることを特徴とする、請求項に記載の装置。
【請求項12】
材料のフライス加工のための方法であって、
フライスカッター本体(202、302、402、502、602)が第1の端部(204、324、424、506、604)と反対側の第2の端部(206、304、411、508、606)とを備え、第1の端部(204、324、424、506、604)で回転可能なスピンドル(208)またはホルダと接続可能であり、第2の端部(206、304、411、508、606)が少なくとも1つの切れ刃または少なくとも1つの切れ刃を有する少なくとも1つのフライスインサートを装着するための装着部材を備えており、
フライスカッター本体(202、302、402、502、602)が、第1および第2の端部(204、324、424、506、604、206、304、411、508、606)を通じて延びる長手方向軸(x−x)を画定し、軸方向凹部(216、314、404、504、616)を備えており、
前記方法が、
少なくとも1つの質量要素(218、316、318、320、422、522、618)を凹部内に配置するステップと、
装置の固有振動数の調整のため装置内に含まれる調整部材によって、質量要素(218、316、318、320、422、522、618)の軸方向位置をフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対して調整するステップと、
質量要素(218、316、318、320、422、522、618)を、装置内に含まれるロック部材によって調整された位置でフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対して軸方向にロックするステップであって、それによって、フライス作業の際、フライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対する質量要素(218、316、318、320、422、522、618)の軸方向移動が防止され、フライス作業のために装置の固有振動数が最適化されるステップと、を備え
個々の質量要素(218、316、318、320、422、522、618)が、フライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対するその半径方向移動が防止されるように、装置内に含まれるロック部材によってフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対して半径方向にロックされる方法。
【請求項13】
2つ以上の質量要素(218、316、318、320、422、522、618)が凹部内に配置されることと、各質量要素の軸方向位置がフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対して調整されることと、各質量要素(218、316、318、320、422、522、618)が調整された位置でフライスカッター本体(202、302、402、502、602)に対してロックされることとを特徴とする、請求項1に記載の方法。
【請求項14】
個々の質量要素(218、316、318、320、422、522、618)が凹部(216、314、404、504、616)内に交換可能に配置されることを特徴とする、請求項1または1に記載の方法。
【請求項15】
少なくとも1つの質量要素(218、316、318、320、422、522、618)がフライス作業のため装置の固有振動数の最適な調整が得られるような質量を形成するようにされ、個々の質量要素(218、316、318、320、422、522、618)の軸方向位置がフライス作業のため装置の固有振動数の最適な調整が得られるような位置に調整されることを特徴とする、請求項1〜1の何れか一項に記載の方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、チタン、アルミニウム、鋳物または別の材料といった材料のフライス加工のための方法および装置に関し、フライスカッター本体は、第1の端部と反対側の第2の端部とを備え、第1の端部で回転可能なスピンドルまたはホルダに接続可能であり、第2の端部で少なくとも1つの切れ刃または少なくとも1つの切れ刃を有する少なくとも1つのフライスインサートを装着するための装着部材を備えている。フライスカッター本体は、第1および第2の端部を通じて延びる長手方向軸を画定し、軸方向凹部と凹部内に配置された少なくとも1つの質量要素とを備えている。
【背景技術】
【0002】
フライス加工においては、フライス加工の性能は主として、機械、機械に装着された回転可能なスピンドルまたはホルダ、およびスピンドルに接続され1つ以上の刃先を有するフライスカッター本体を備える組立体の複合固有振動数によって決定される。切れ刃はフライスカッター本体と一体でもよく、あるいはフライスカッター本体は、1つ以上の切れ刃を有した1つ以上の交換可能なフライスインサートを備えている。細長いフライスカッター本体は、特に大きな突出長さで装着された場合、加工物のフライス加工された表面上の波形として現れうる、いわゆるびびりを原因として、フライス加工された材料表面に不良または不正確な仕上げ面を発生する傾向がある。
【0003】
個々のスピンドル速度、すなわち、スピンドルの単位時間毎の回転数に対して、限界軸方向切削深さが存在し、切削深さがこの限界軸方向切削深さより大きい場合、発生する振動が大きすぎて安定なフライス作業を実行できなくなる。スピンドルの速度を変更すると、限界軸方向切削深さも変化する。したがって、安定性の問題が回避される軸方向切削深さとスピンドル速度の組み合わせを選択することが重要である。しかし、問題は、機械の速度制御の制限によることがあり、かつ/または切削速度を増大すると切削ゾーンの温度が上昇し工具の摩耗を早めることがあるため、スピンドル速度を変更して安定性の問題を回避するのが必ずしも可能ではないことである。
【0004】
従来技術には、ドリル加工、旋削加工およびフライス加工といった切削作業におけるびびり振動および安定性の問題を解決しようとしたいくつかの解決法が存在する。
【0005】
特許文献1は、例えば、フライス加工の際に発生する振動を抑制する制振システムを開示しており、そこでは、フライスインサートが装着される細長い工具本体は、制振質量が配置される軸方向穴を備えている。制振質量は弾性Oリングによって懸垂(suspended)されており、制振システムの調整は、Oリングにかかる圧力を変化させることによって行われる。
【0006】
特許文献2は、リング型の弾性要素の使用によって制振質量が懸垂される軸方向中心穴を有したドリル本体を備えるドリル加工のためのシステムを開示しており、そこでは、制振質量は振動してシステムの振動を抑制することを意図している。
【0007】
特許文献3は、制振質量が弾性Oリングによって懸垂されるキャビティを備えたドリル本体を開示しており、ドリル本体に対する制振質量の移動によってドリル本体の振動が抑制される。
【0008】
特許文献4は、ドリル本体内に配置された軸方向穴に収容され、不要な振動を抑制するため弾性ゴムリングによって懸垂される制振質量を備えるドリル本体のための制振装置を開示する。制振は、ゴムリングにかかる圧力を調整することによって行われる。
【0009】
特許文献5は、切削工具系におけるびびり振動を制御する方法を開示しており、そこでは系の固有振動数が、圧電材料、電気粘性流体、正弦波形の電界および/または平方波形の信号によって変調される。
【0010】
特許文献6は、切削工具またはスピンドルに接触する回転制振質量を適用し、切削工具またはスピンドルに沿って制振質量を連続して移動させ、接触圧力を変えることによって系の固有振動数を変化させてびびり振動を抑える、例えばフライスカッターのびびり振動を抑制する方法を開示する。
【0011】
特許文献7は、切削工具の振動を減少させるシステムを開示しており、そこでは切削工具を装着された本体は、制振質量が弾性リングによって移動可能に懸垂されている軸方向キャビティを備えている。
【0012】
特許文献8は、工具系におけるびびり振動を制振する方法を開示しており、そこではホルダの固有振動数を調整するため較正重量が系の中の工具ホルダに取り付けられている。
【0013】
特許文献9は、ドリル加工の際の振動を制振するシステムを開示しており、そこではドリル本体は、1組の制振質量がリング型の弾性制振要素によって懸垂される中心軸方向穴を有する。
【0014】
特許文献10は、振動を制振する構造を開示しており、そこではドリル本体は、1組の制振質量が、キャビティ内で軸方向に延びるバーによって移動可能に懸垂される軸方向キャビティを有する。
【0015】
特許文献11は、切削工具系におけるびびり振動を減少させる装置を開示しており、そこではホルダに装着された本体は軸方向キャビティを備えており、キャビティ内に配置された制振質量は弾性要素によって移動可能に懸垂されている。
【0016】
しかし、上記の方法および装置は、フライス加工における安定性の問題と振動の問題とを効率的に克服する十分に柔軟で効率的な解決法を提供しない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】米国特許第5,700,116号明細書
【特許文献2】米国特許第3,447,402号明細書
【特許文献3】米国特許第3,774,730号明細書
【特許文献4】米国特許第3,838,936号明細書
【特許文献5】米国特許第5,957,016号明細書
【特許文献6】米国特許第4,047,469号明細書
【特許文献7】米国特許出願公開第2006/0291973号明細書
【特許文献8】国際特許出願公開第WO2006/010093号パンフレット
【特許文献9】米国特許第3,559,512号明細書
【特許文献10】米国特許第3,938,626号明細書
【特許文献11】米国特許第5,170,103号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
したがって、本発明の目的は、振動の問題が回避または大幅に緩和される、チタン、アルミニウム、鋳物または別の材料といった材料の改良されたより効率的なフライス加工を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明の上記の目的は、添付の請求項1に記載の装置を提供し、かつ添付の請求項13に記載の方法を提供することによって達成される。
【0020】
図1および詳細な説明中の付随する説明に見られるように、ある組み立てられたフライス加工システムの限界軸方向切削深さは、いくつかの安定性極大値を示す安定性図によって記載できるが、そこでは、安定性の問題を回避するためには軸方向切削深さとスピンドル速度の組み合わせはグラフの曲線の下にあるべきである。スピンドル速度に対する制限がある場合、本発明者は、安定性極大部を移動させることによって、スピンドル速度を変更する必要なしに限界軸方向切削深さを増大でき、それによって安定性の問題なしにより効率的なフライス加工が達成されることを発見した。また、スピンドル速度が高いほど安定性極大部は高くかつ幅広くなるので、高いスピンドル速度の領域から望ましいスピンドル速度に安定性極大部を移動させることが有利である。
【0021】
安定性極大部は組立体のもっとも優勢な固有振動数または2つのもっとも優勢な固有振動数の組み合わせと一致するので、安定性極大部の移動は、系の固有振動数の移動または調整によって達成できる。構造体の固有振動数を制御するのはその剛性および質量である。一方の端部がスピンドル内に固定して装着され、もう一方の端部が自由なフライスカッター本体では、剛性の概念は、とりわけ、フライスカッター本体の突出長さ、フライスカッター本体の材料の弾性率およびフライスカッター本体の直径を包含する。フライス加工領域では、それを越えることのできないフライスカッター本体の直径、突出長さおよび材料ならびに他のパラメータに対する使用限界が存在する。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲に記載のやり方でフライスカッター本体内の質量分布を移動させることによって、固有振動数を移動または調整する。このようにして、組立体の固有振動数を調整して、例えば、安定性の問題およびびびり振動なしに望ましいスピンドル速度でもっとも深い切削深さを達成する、フライス加工の際に使用可能なスピンドル速度と軸方向切削深さの最適な組み合わせを使用できるように当該のフライス作業の固有振動数を最適化する効率的な方法が達成される。すなわち、本発明によって、チタン、アルミニウム、鋳物または別の材料といった材料の改良されたより効率的で安定なフライス加工が提供され、そこでは先行技術と比較してより効率的なやり方で振動の問題およびびびり振動が回避される。本発明の発明者は試験を実行し、非常に良好な結果を得た。
【0022】
本発明は、フライスカッター本体内に懸垂され移動または振動が可能な制振質量によってフライス加工の際に発生する振動を制振することまたは制振を調整することを含まない。本発明は、前記質量要素の軸方向調整および軸方向ロックによって装置の固有振動数を移動または調節し、当該のフライス作業の固有振動数を最適化して振動の問題を回避することを含む。
【0023】
材料の異なる選択による質量/重量、剛性、および質量要素の軸方向長さを変化させて、装置の固有振動数の調整を最適化してもよい。
【0024】
質量要素とは、ここでは、フライスカッター本体の質量に対するその質量が、フライス作業のような動作の際に、フライスカッター本体、またはフライス工具のようなフライスカッター本体を備えた装置の性能に対して質量要素が定性的な、またはかなりの影響を有するようなものである要素を指す。
【0025】
フライスカッター本体および1つ以上の切れ刃は1つの同一の部材から形成してもよく、またフライスカッター本体は、1つ以上の切れ刃を有する1つのフライスインサートまたは複数のフライスインサートといった少なくとも1つのフライスインサートを装着する前記装着部材を備えてもよい。先行技術の前記装着部材のいくつかの適切な変形が存在し、いくつかの変形は詳細な説明中に見られる。
【0026】
本発明に係る装置の有利な実施形態によれば、凹部は2つまたは複数の質量要素を受け入れるのに適しており、各質量要素は、前記調整部材およびロック部材によって軸方向に調整可能であり軸方向にロック可能である。このようにして、装置の固有振動数の調整に関する柔軟性が得られ、当該のフライス作業の固有振動数を最適化するための異なる質量が容易に得られ、それによってフライス加工はさらに改善され、さらに効率的になる。
【0027】
本発明に係る装置のさらに有利な実施形態によれば、それぞれの質量要素は凹部内に交換可能に配置される。質量要素は、重量がより大きいかまたは小さい質量要素、より剛性が高いかまたは低い質量要素、または軸方向長さがより大きいかまたは小さい質量要素によって交換できるため、このことは装置の固有振動数の調整に関する柔軟性にさらに貢献し、フライス加工はさらに効率的になる。
【0028】
本発明に係る装置の別の有利な実施形態によれば、それぞれの質量要素は、フライスカッター本体に対するその半径方向移動が防止されるように質量要素を半径方向にロックする、装置内に含まれるロック部材によってフライスカッター本体に対して半径方向にロック可能である。質量要素を半径方向にロックすることによって、本発明者は、装置の固有振動数の最適化がさらに効率的になることを実現した。例えば、質量要素が凹部の内壁に接触するように質量要素の半径方向長さが凹部の内部断面に対応するという事実によって、質量要素の半径方向ロックが達成される。それぞれの質量要素の半径方向ロックのさらなる例は実施形態の詳細な説明中に見られる。
【0029】
本発明に係る装置の別の有利な実施形態によれば、凹部は軸方向穴を包含する。有利には、軸方向穴はフライスカッター本体の中心に配置される。軸方向穴は、軸方向および半径方向両方の質量要素の効率的なロックと、それぞれの質量要素の軸方向位置の効率的な調整とを提供するので、装置の固有振動数のより効率的な調整と、ひいてはより効率的なフライス加工が得られる。
【0030】
本発明に係る装置のまた有利な実施形態によれば、軸方向穴は、それぞれの質量要素を出し入れするための第1または第2の端部の開口を備えている。これによって、少なくとも1つの質量要素から生成される質量の効率的な調整と、ひいては装置の固有振動数のより効率的な調整およびより効率的なフライス加工が得られる。
【0031】
凹部が軸方向穴を包含する、本発明に係る装置の有利な実施形態によれば、前記調整部材は、質量要素と一方の端部との間の軸方向穴内に配置され反対側の端部に向かって質量要素を駆動するのに適した駆動部材と、反対側の端部から質量要素を駆動するため反対側の端部と質量要素との間の軸方向穴の空間を加圧するのに適した加圧部材とを備える。前記駆動部材は、例えば、ばね部材の形態でもよい。質量要素の軸方向位置は、加圧部材が前記空間内の圧力を変化させるという事実によってしかるべく調整され、前記空間内の圧力は、気体状態または液体状態の媒体といった、適切な加圧された媒体によって確立できる。本実施形態によって、フライスカッター本体が回転する正常なフライス作業中に質量要素の軸方向位置を調整でき、このことは装置の固有振動数の調整および最適化を促進し、フライス加工はより効率的になる。
【0032】
本発明に係る装置のさらに有利な実施形態によれば、前記加圧部材は、液体によって軸方向穴を加圧するのに適している。有利には、この液体は切削ゾーンを冷却するために使用される冷却液の形態であり、同じ管路系が質量要素の調整と切削ゾーンの冷却との両方のために使用されるので、連携された利益が提供される。また、質量要素の軸方向調整のための液体と冷却液とは2つの別個の系によって輸送してもよい。
【0033】
本発明に係る装置の別の有利な実施形態によれば、駆動部材は第2の端部と質量要素との間に配置されており、前記加圧部材は質量要素と第1の端部との間の軸方向穴の空間を加圧するのに適している。質量要素の調整と切削ゾーンの冷却との両方のために同じ管路系が使用されるためこれは有利な実施形態であり、質量要素の効率的な調整に貢献する。
【0034】
本発明に係る装置のまた有利な実施形態によれば、前記調整部材は、フライスカッター本体内で固定され軸方向にロックされる第1のねじ付き部材と、質量要素と共にフライスカッター本体に対して軸方向に移動可能な第2のねじ付き部材とを備える。第1および第2のねじ付き部材は互いに係合し、それらの協働によって質量要素はフライスカッター本体に対して軸方向に移動する。このようにして、質量装置の軸方向位置の簡単で効率的な調整が得られ、したがって装置の固有振動数の効率的な最適化および材料の効率的なフライス加工が達成される。それぞれのねじ付き部材は1つ以上のねじの形態でもよい。
【0035】
前記調整部材がねじ付き部材を備える、本発明に係る装置の有利な実施形態によれば、前記調整部材は凹部内で軸方向に延びるバーを備え、そのバーは第1のねじ付き部材を装置しており、フライスカッター本体内に回転可能に固定されており、フライスカッター本体に対して軸方向に回転可能である。本発明の別の有利な実施形態によれば、軸方向バーは中空で、冷却液を受け入れて第2の端部および/または前記装着部材に輸送し切削ゾーンを冷却するのに適した管路を画定する。このようにして、冷却水の効率的な輸送も達成される。本発明に係る装置のさらに有利な実施形態によれば、質量要素は軸方向バーの回転によって軸方向に移動可能であり、前記ロック部材は、軸方向バーの回転を防止するためフライスカッター本体に対して回転方向に軸方向バーをロックするロック要素を備える。このようにして、質量要素の効率的な軸方向ロックが得られ、フライスカッター本体に対するその軸方向移動が防止される。前記調整部材が軸方向に延びるバーを備える、装置の有利な実施形態によれば、前記調整部材は、それぞれの質量要素を軸方向に厳密に案内し、フライスカッター本体に対する質量要素の回転を防止する案内部材を備え、これはそれぞれの質量要素の効率的な軸方向調整と軸方向ロックにさらに貢献する。
【0036】
前記調整部材がねじ付き部材を備える、本発明に係る装置のさらに有利な実施形態によれば、凹部の内壁は第1のねじ付き部材を備えている。凹部の内壁が第1のねじ付き部材を備えている時、それぞれの質量要素は有利には第2のねじ付き部材を備えており、それによって第1および第2のねじ付き部材はまた前記ロック部材を構成する。代替的には、第2のねじ付き部材と共にロックワッシャを提供してもよく、ロックワッシャは一方の端部と質量要素との間に装着するのに適しており、質量要素と反対側の端部との間に配置される駆動部材はロックワッシャに向かって質量要素を駆動するのに適しており、それによって質量要素は軸方向にロックされる。
【0037】
また、前記ロック部材は他のやり方で形成してもよい。フライスカッター本体および質量要素の壁は、質量要素の軸方向ロックを提供するロックピンを受け入れるのに適した協働する周辺開口を備えてもよい。また、質量要素は完全な液圧ロックによってロックしてもよい。
【0038】
本発明に係る方法の有利な実施形態によれば、2つまたは複数の質量要素が凹部内に配置され、フライスカッター本体に対する各質量要素の軸方向位置が調整され、各質量要素は調整された位置でフライスカッター本体に対してロックされる。このようにして、装置の固有振動数の調整に関する柔軟性が得られ、当該のフライス作業の固有振動数を最適化するための異なる質量を容易に得ることができ、それによってフライス加工が改善されより効率的になる。
【0039】
本発明に係る方法のさらに有利な実施形態によれば、それぞれの質量要素は凹部内に交換可能に配置される。このようにして、質量要素は上記のように他の特性を有する質量要素によって交換できるので、装置の固有振動数の調整はより柔軟になり、それによってフライス加工はより効率的になる。
【0040】
本発明に係る方法の別の有利な実施形態によれば、本方法は、それぞれの質量要素が、フライスカッター本体に対するその半径方向移動が防止されるように、装置内に含まれるロック部材によってフライスカッター本体に対して半径方向にロックされることを特徴とする。質量要素を半径方向にロックすることによって、本発明者は、装置の固有振動数の最適化がより効率的になることを発見した。
【0041】
本発明に係る方法のまた別の有利な実施形態によれば、少なくとも1つの質量要素は、当該のフライス作業のために装置の固有振動数の最適な調整が得られるような質量を形成するようになり、それぞれの質量要素の軸方向位置はそのような位置に調整される。
【0042】
本発明に係る方法および装置のさらなる利点および有利な実施形態は実施形態の詳細な説明の中に見出される。
【0043】
ここで、実施形態を使用し添付の図面を参照して本発明を、例示の目的で、より完全に説明する。
【図面の簡単な説明】
【0044】
図1】工作機械内に含まれるスピンドル、フライスカッター本体およびフライスインサートを備える装置の安定性図を概略的に示す。
図2】本発明に係る装置の実施形態を例示する部分断面概略図を示す。
図3】本発明に係る装置の第1の実施形態のフライスカッター本体を側面から見た部分断面概略斜視図を示す。
図4】本発明に係る装置の第1の実施形態のフライスカッター本体を側面から見た部分断面概略斜視図を示す。
図5図3および図4のフライスカッター本体の第1の端部の部分断面拡大図を示す。
図6】スピンドルから見た図3及び図4のフライスカッター本体の概略斜視図を示す。
図7】本発明に係る装置の第2の実施形態のフライスカッター本体の側面から見た部分断面図を示す。
図8】本発明に係る装置の第3の実施形態のフライスカッター本体の側面から見た部分断面図を示す。
図9】本発明に係る装置の第4の実施形態のフライスカッター本体の側面から見た部分断面図を示す。
図10】本発明に係る方法の態様を例示するフローチャートを示す。
【発明を実施するための形態】
【0045】
図1は、工作機械内に含まれるスピンドル、フライスカッター本体およびフライスインサートを備える装置の安定性図を概略的に示す。この図は、スピンドル速度の関数として最大許容軸方向切削深さを示すものであり、以下のように解釈される。すなわち、曲線より下にある軸方向切削深さとスピンドル速度との組み合わせが選択される場合、安定性の問題は回避され、曲線より上にあるその組み合わせが選択される場合、振動レベルが制御不能な形で増大する。図から見られるように、適切に選択されたスピンドル速度と不適切に選択されたスピンドル速度との間の差は大きいことがあり、あるフライス作業の際に、スピンドル速度のわずかな調整によって軸方向切削深さが2倍になることがある。しかし、問題は、装置のスピンドル速度の制限のため、またはスピンドル速度を増大して切削速度を増大すると切削ゾーンの温度が上昇し、工具の摩耗を早めるために、スピンドル速度を変更して望ましい安定性極大部102、104、106、108に達することが必ずしも可能ではないことである。また、上述のように、回転数が高いほど安定性極大部102、104、106、108は高くかつ幅広くなるので、安定性極大部102、104、106、108を高い回転数の領域から望ましい回転数に移動させることが有利である。安定性極大部は組立体の1次固有振動数または2つの1次固有振動数の組み合わせと一致するので、安定性極大部の移動は、装置の固有振動数の移動または調整によって達成できる。本発明者は、本発明に係るフライスカッター本体の質量分布をずらすことが装置の固有振動数を調整する効率的な方法であることを発見しており、以下の説明で、これを実行するいくつかの実施形態を説明する。
【0046】
図2は、本発明に係る、例えば、チタン、アルミニウム、鋳物または別の材料といった材料220のフライス加工のための装置の実施形態を例示する概略図である。切り屑を除去する金属機械加工のための工具、より正確にはフライスカッターの形態の本実施形態に係る装置は、第1の端部204と反対側の第2の端部206とを有する、例えば鋼の細長いフライスカッター本体202を含み、このフライスカッター本体202は第1の端部204で回転可能なスピンドル208に装着可能であり、スピンドル208は装置の固定部分210に回転可能に装着されるので、フライスカッター本体202はスピンドル208と共に回転可能になる。第2の端部206では、フライスカッター本体202は、フライスカッター本体202の外周上のこの目的のためのポケットの中に少なくとも1つのフライスインサート214、または歯、を装着するための装着部材212を備えている。ここでは、フライスインサート214は2つの切れ刃213、215を有しており、したがって2つの異なる動作位置に割り出し可能であるが、1つのみまたは2つより多い切れ刃を備えてもよい。実際には、フライスインサートは普通、大きな硬度と耐摩耗性を有する超硬合金または別の同等の材料から製造される。本発明の実施形態によれば、装着部材は、雄ねじを有し、フライスインサート内の中心穴を通過してポケット内の雌ねじを切った穴によって受け入れられ、それと係合することを意図した従来の固定ねじを含む。本発明の別の実施形態によれば、装着部材は、ポケット内にフライスインサートを固定するためのクランプを含む。
【0047】
後述のフライスカッター本体も同様であるが、フライスカッター本体202は第1および第2の端部204、206を通じて延びる長手方向軸x−xを画定し、フライスカッター本体202は、軸方向穴216と質量要素218とを備えている。質量要素218は、例えばタングステン合金であるDensimet(登録商標)、または高密度の別の材料から製造され、軸方向穴216の中に配置されて、フライスカッター本体の質量に対して相当な質量を構成する。質量要素の密度はフライスカッター本体の密度より高いことも低いこともあると言える。質量要素218の質量は、当該の系、すなわち機械のスピンドルに装着されたフライス工具の固有振動数および固有モードを考慮して適切に選択される。代替的には、質量要素の質量は、フライス工具の特性だけを考慮して選択してもよい。図2では、apはフライス加工すべき材料または加工物220の軸方向切削深さを例示する。
【0048】
本発明の実施形態に係る装置のいくつかの実施形態の、付属の軸方向穴および質量要素を含むフライスカッター本体を以下より詳細に説明する。それぞれのフライスカッター本体は、第1の端部で、図2に示すようにスピンドルに装着するのに適している。
【0049】
図3図6は、本発明に係る装置の第1の実施形態の細長いフライスカッター本体302を含む、切り屑を除去する金属機械加工のためのフライス工具を概略的に示す。フライスカッター本体302は、第2の端部304に、フライスカッター本体302の外周上のポケットの中に刃の付いたフライスインサート310を装着するための装着部材306を備えている。ここでは、フライスインサート310は2つの切れ刃307、309を備えており、したがって2つの異なる動作位置に割り出し可能であるが、1つのみまたは2つより多い切れ刃を備えてもよい。フライスインサート310のための装着部材306は従来の設計を有し、この場合、フライスインサート310内に配置されたくぼみと係合するのに適しており、例えば、ねじによって、フライスカッター本体302内のポケットの底面の固定穴開口内に固定される固定要素306を包含する。フライスカッター本体302は、フライスカッター本体302の長手方向軸x−xに沿って延びる中心軸方向穴314を備えている。軸方向穴314は、装置の固有振動数がフライスカッター本体302に対する質量要素316、318、320の軸方向位置に依存するように、フライスカッター本体の質量に対して相当な質量、または相当な重量を共に構成する複数の質量要素316、318、320を受け入れるのに適している。質量要素316、318、320の質量は、当該の系、すなわち機械のスピンドルに装着されたフライス工具の固有振動数および固有モードを考慮して適切に選択される。代替的には、質量要素の質量は、フライス工具の特性だけを考慮して選択してもよい。質量要素の質量が無視できる、または非常に小さいものであることは、質量要素の軸方向位置を変えても装置の固有振動数が大きく影響されないことを意味するので、避けるべきである。軸方向穴314は、それぞれの質量要素316、318、320を出し入れするための第1の端部324の開口322を備えており、開口322は、フライスカッター本体302に固定される締め付けカバー326によって閉鎖可能である。
【0050】
本実施形態は、軸方向穴314の中で軸方向に延びるラック328を含む調整部材を備えている。ラック328はその長手方向軸x−xに沿って回転可能であるが、これはフライスカッター本体302の長手方向軸x−xと一致しており、フライスカッター本体302に対して軸方向に回転可能である。ラック328の第1の端部330は締め付けカバー326に回転可能に取り付け可能であり、その第2の端部332はフライスカッター本体302の第2の端部304に回転可能に固定される。前記調整部材は第1のねじ付き部材334を含むが、これはラック328上に配置され、それによって前記第1のねじ付き部材334がフライスカッター本体302内で固定され、軸方向にロックされる従来のねじの形態のものである。それぞれの質量要素316、318、320は中心貫通穴を備えており、穴の内壁は前記調整部材の第2のねじ付き部材336を備えているので、第1および第2のねじ付き部材334、336は互いに係合しそれらの協働によってそれぞれの質量要素316、318、320をフライスカッター本体302に対して軸方向に移動させるのに適している。また、前記調整部材は、それぞれの質量要素316、318、320を軸方向に厳密に案内し、フライスカッター本体302に対する質量要素316、318、320の回転を防止するのに適した案内部材を備える。前記案内部材は、少なくとも1つの溝338、340と溝338、340と相補的な案内要素342、344とを備え、溝338、340の中でそれらに対して軸方向に移動可能である。本実施形態では、案内部材は、軸方向穴314の内壁に配置され、各々質量要素316、318、320上に固定された案内要素342、344と係合するのに適した2つの対向する軸方向溝338、340を包含する。上記の調整部材によって、ラック328の回転によってフライスカッター本体302に対して軸方向に調整可能な質量要素316、318、320が得られる。一方の回転方向へのラック328の回転によってそれぞれの質量要素316、318、320はフライスカッター本体302に対して端部304、324の一方に向かって軸方向に移動し、もう一方の回転方向へのラック328の回転によって質量要素316、318、320は反対側の端部304、324に向かってフライスカッター本体302に対して軸方向に移動するので、フライスカッター本体302の質量分布が調整され、その結果、装置の固有振動数が調整される。それぞれの質量要素316、318、320は軸方向穴314内に交換可能に配置されている。ラック328は中空であり、冷却液を受け入れてフライスインサート310および切削ゾーンに輸送するのに適した管路345を画定する。
【0051】
第1の実施形態は、質量要素316、318、320を軸方向にロックするためのロック部材を含み、質量要素316、318、320は、フライス作業の際にフライスカッター本体302に対するその軸方向移動が防止されるように、フライスカッター本体302に対して軸方向にロックされる。軸方向ロックのためのロック部材は、ラック328の第1の端部に固定された端部要素346を含み、端部要素346は、凹部を画定しラック328の軸x−xと一致する中心軸を画定する壁348を有する。端部要素346の凹部は非円形の断面を有する。端部要素346の壁348は、例えば、六角形の内部断面を画定してもよい。軸方向ロックのためのロック部材はさらに、締め付けカバー326内に配置され端部要素346を受け入れる開口と、締め付けカバー内326内の2つの外側くぼみ350とを含み、くぼみ350は有利には端部要素346の各側に互いに対向して位置してもよい。最後に、ロック部材は、くぼみ350と相補的でそれと係合するのに適した2つの周辺ロックピン354、356と、端部要素346の壁348によって画定される凹部と相補的でそれと係合するのに適した中心ロックピン358とを備えたピン付き要素352を含む。それぞれ凹部およびくぼみ350との前記ロックピン354、356、358の係合によって、ラック328はフライスカッター本体302に対して回転方向でロックされ、ラック328の回転が防止される。質量要素316、318、320の軸方向調整と軸方向ロックによって、装置の固有振動数は当該フライス作業のために最適化される。ラック328を回転させるため、端部要素346の凹部と係合するのに適した工具が有利には使用され、工具が回転する。
【0052】
互いに係合する第1および第2のねじ付き部材334、336の形態のロック部材によって、それぞれの質量要素316、318、320は、それぞれの質量要素316、318、320のフライスカッター本体302に対する軸方向移動が防止される、すなわち、軸x−xに対して垂直な移動が防止されるように、フライスカッター本体302に対して半径方向にロック可能である。また、それぞれの質量要素316、318、320の外周は有利には軸方向穴314の内壁に接触してもよい。
【0053】
図7は、本発明に係る装置の第2の実施形態のフライスカッター本体を示すが、そこではフライスカッター本体402は中心軸方向穴404を備えている。本実施形態は、第1のねじ付き部材406を含む調整部材を有するが、これは軸方向穴404の内壁上に配置され、それによってフライスカッター本体402内で固定され軸方向にロックされる従来の雌ねじの形態のものである。前記調整部材は、軸方向に移動可能なワッシャ410の外周に配置された従来のねじの形態の第2のねじ付き部材408と、ねじ付きワッシャ410とフライスカッター本体402の第2の端部411との間に配置される螺旋圧縮ばね412とを含み、第2の端部411にはフライスカッター本体402の外周に刃の付いたフライスインサート418を装着するためのフライスカッター本体の装着部材414が配置される。本実施形態の装着部材414は第1の実施形態の装着部材と同様である。ワッシャ410とばね412との間に、本実施形態の質量要素422が配置される。質量要素422は、軸方向穴404の内部断面に対応する平滑なエンベロープ表面と半径方向長さを有する。ばね412は、ワッシャ410に向かって、フライスカッター本体402が装置のスピンドルに装着可能なフライスカッター本体の第1の端部424の方向に質量要素422を駆動するのに適している。第1および第2のねじ付き部材406、408は互いに係合し前記ばね412の動作との協働によって質量要素422をフライスカッター本体402に対して軸方向に移動させるのに適している。本実施形態のロック部材は、第1および第2のねじ付き部材406、408ならびにばね412を含み、これらは共に質量要素422を調整された位置でフライスカッター本体402に対してロックする。ワッシャ410は、ワッシャ410の回転によって質量要素422の軸方向位置およびひいては装置の固有振動数が調整されるように工具が係合するのに適した、例えば、六角形の内部断面を有する凹部を備えている。
【0054】
第2の実施形態を出発点として、軸方向穴の内壁の雌ねじを、第1の実施形態のラック、中心凹部内の雌ねじを備えたワッシャ、および第1の実施形態の場合と同様に配置された、質量要素を軸方向に厳密に案内する案内部材によって置換することによって追加の実施形態を形成してもよい。
【0055】
図8は、本発明に係る装置の第3の実施形態のフライスカッター本体502を示すが、そこでは、フライスカッター本体502の第1の端部506から、フライスカッター本体502の外周に切れ刃を有するフライスインサート514を装着するためのフライスカッター本体の装着部材510が配置される第2の端部508まで、本質的に軸方向長さ全体に沿って、フライスカッター本体502の軸方向穴504は、第1のねじ付き部材518を構成する雌ねじ518を備えている。第1のねじ付き部材518と共に調整部材およびロック部材を構成する第2のねじ付き部材520は、雄ねじ520の形態で質量要素522の外周に配置されている。質量要素522は、質量要素522の回転によってその軸方向位置およびひいては装置の固有振動数が調整されるように工具が係合するのに適した、例えば六角形の内部断面、または別の非円形断面を有するへこみ524を備えている。
【0056】
図9は、本発明に係る装置の第4の実施形態のフライスカッター本体602を示すが、そこでは、フライスカッター本体602はその第1の端部604で回転可能なスピンドルに装着可能であり、その第2の端部606で、フライスカッター本体602の外周に切れ刃を有するフライスインサート612を装着するための装着部材608を備えている。フライスカッター本体602内に配置された軸方向穴616の中に、質量要素618が配置され、またここには、軸方向穴616の内部断面に対応する平滑なエンベロープ表面と半径方向長さを有するので、質量要素618は、フライスカッター本体602に対するその半径方向移動が防止されるように半径方向にロックされる。本実施形態の調整部材は、質量要素618と第2の端部606との間に配置され、第1の端部604に向かって質量要素618を駆動するのに適した螺旋圧縮ねじ620の形態の駆動部材を含む。調整部材はさらに、第1の端部604からばね620および第2の端部620に向かって質量要素618を駆動するため第1の端部604と質量要素618との間の軸方向穴616の空間623を加圧するのに適した加圧ユニット622の形態の加圧部材を含む。加圧ユニット622は、切削ゾーンを冷却するためにさらに使用される冷却液624によって軸方向穴を加圧するのに適している。加圧ユニット622は、軸方向穴616に接続された少なくとも1つの弁626と、弁を制御し、ひいては軸方向穴616への冷却液の流入を制御して、第1の端部604と質量要素618との間の空間623の加圧を制御する制御装置628とを含む。
【0057】
図7図9の実施形態のフライスインサート418、514、612は、図3図6に係る実施形態に記載のものと同様の切れ刃を備えてもよい。
【0058】
上記の実施形態では、質量要素は軸方向穴の中に交換可能に配置されており、それぞれの装置の固有振動数を効率的に最適化するため、それぞれの質量要素は、重量がより大きいかまたは小さい質量要素、より剛性が高いかまたは低い質量要素、または軸方向長さがより大きいかまたは小さい質量要素によって交換してもよく、それによってフライス加工はより効率的になる。
【0059】
上記の調整部材は、凹部の中のそれぞれの質量要素を第1の位置と第2の位置との間で軸方向に調整し、移動させるのに適しており、第1および第2の位置の間の質量要素の移動距離は、質量要素の移動による装置の固有振動数の効率的な調整のためフライスカッター本体の軸方向長さに対して十分に大きい。前記移動距離の大きさは、各固有の系、例えば、フライス工具、スピンドルおよび機械がどのように構成されているかに依存する。フライスカッター本体の合計軸方向長さに対する移動距離が無視できる、または非常に小さいものであることは、質量要素の軸方向位置を変えても装置の固有振動数が大きく影響されないことを意味するので、避けるべきである。有利な実施形態によれば、例えば、移動距離はフライスカッター本体の合計軸方向長さの少なくとも1/10でもよい。
【0060】
少なくとも1つの質量要素は、質量要素の軸方向調整によって装置の固有振動数を効率的に調整するためフライスカッター本体の合計質量/重量に対して十分に大きい質量/重量を形成するのに適している。適切な質量要素の質量は、各固有の系、例えば、フライス工具、スピンドルおよび機械がどのように構成されているかに依存する。質量要素の質量が、フライスカッター本体の質量に対して無視できる、または非常に小さいものであることは、質量要素の軸方向位置を変えても装置の固有振動数が大きく影響されないことを意味するので、避けるべきである。有利な実施形態によれば、例えば、少なくとも1つの質量要素は、フライスカッター本体の合計重量の少なくとも1/20の質量を形成するものでもよい。
【0061】
図10は、本発明に係る材料をフライス加工する方法の態様を例示するフローチャートを示すが、そこでは加圧部材を含む上記の装置の第4の実施形態が利用されており、本方法は以下のステップを含む。701では、フライスカッター本体が第1の端部で回転可能なスピンドルに装着される。702では、フライスカッター本体の質量に対して相当な質量を構成する1つ以上の質量要素が、フライスカッター本体の軸方向穴の中に配置されるが、質量要素は軸方向穴の中に交換可能に配置される。質量要素の半径方向長さが軸方向穴の内部断面に対応するという事実から、質量要素は軸方向穴に挿入され受け入れられているので、質量要素はフライスカッター本体に対して軸方向にロックされているため、フライスカッター本体に対する質量要素の軸方向移動が防止される。703では、装置の固有振動数を調整するため、質量要素と第1の端部との間の空間内の液体圧力を減少または増大することによって、フライスカッター本体に対する質量要素の位置が調整され、その結果、質量要素は第1の位置から第2の位置まである移動距離だけ移動する。第1および第2の位置の間の質量要素の移動距離は、質量要素の移動(上記の範囲を指す)によって装置の固有振動数を最適に調整するためフライスカッター本体の軸方向長さに対して十分に大きい。704では、装置内に含まれるロック部材によって、質量要素は調整された位置でフライスカッター本体に対して軸方向にロックされており、そこでは軸方向ロックとは、当該フライス作業のため装置の固有振動数を最適化するため、フライスカッター本体に対する質量要素の軸方向移動が防止されることを意味している。その後、705では、最適な組み合わせの軸方向切削深さとスピンドル速度でフライス作業が開始される。少なくとも1つの質量要素は、当該のフライス作業のため装置の固有振動数の最適な調整(上記の範囲を指す)が得られるような質量を形成するようになる。必要な場合、706では、質量要素と第1の端部との間の空間内で、質量要素の軸方向位置を調整する手段である液体圧力を増大または減少することによって、装置の固有振動数を動作中に調整してもよい。
【0062】
本発明は上記で例示した実施形態に制限されると見なすべきではなく、添付の特許請求の範囲内で様々に修正および変更してもよい。
【0063】
したがって、上記の実施形態ではフライス工具は1つのフライスインサートを備えたフライスカッター本体としてだけ記載されているが、例えば、交換可能なフライスインサートである、複数のフライスインサートを有するフライス工具に本発明を応用することも可能である。この場合、複数のフライスインサートは、接線方向に間隔を有してもよいが、フライスカッター本体の異なる軸方向レベルに配置してもよい。さらに、フライスカッター本体と、本体に脱着可能に接続されそのため交換可能であり、その場合必要な刃先が含まれるヘッドといった、2つの部分から構成される種類のフライス工具に本発明を応用することも可能である。
図1
図2
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図7
図8
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図10