(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
被検者眼眼底に向けて測定光束を投光し、その反射光束を二次元指標像として撮像素子により受光する測定光学系であって、前記被検者眼が多焦点眼内レンズ挿入眼の場合、前記多焦点眼内レンズによって分離された各指標像を前記撮像素子により受光する測定光学系と、
前記反射光束を受光する受光手段を有し、前記撮像素子によって受光された指標像が、前記多焦点眼内レンズの近用パワーに対応する指標像か、前記多焦点眼内レンズの遠用パワーに対応する指標像か否かを該受光手段の受光結果に基づいて判別する判別処理手段を備えることを特徴とする眼科測定装置。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る眼科測定装置の外観図である。本装置は、基台2と、基台2に取り付けられた顔支持ユニット4と、基台2上に移動可能に設けられた移動台6と、移動台6に移動可能に設けられ、後述する光学系を収納する測定部1を備える。移動台6は、ジョイスティック5の操作により、基台2上を左右方向(X方向)及び前後方向(Z方向)に移動される。また、測定部1は回転ノブ5aが回転操作されることにより、モーター等からなる駆動機構3により上下方向(Y方向)に移動される。移動台6には被検眼Eの観察像や測定結果等の各種の情報を表示するモニタ80、各種設定を行うためのスイッチが配置された操作部90が設けられている。
【0010】
図2は、本実施形態に係る眼科測定装置の光学系及び制御系の構成について説明する概略構成図である。被検眼の波面収差を測定するための波面収差測定光学系10は、測定光源からスポット状の測定光束を被検眼眼底に投光する投光光学系10aと、眼底で反射され被検眼から射出された反射光束を複数に分割して、二次元パターン指標像として二次元撮像素子に受光させる受光光学系10bとを含み、二次元受光素子からの出力に基づいて被検眼の波面収差が測定される。
【0011】
投光光学系10aには、測定光源部11から、リレーレンズ12が被検眼に向けて順次配置されている。測定光源部11は、被検眼眼底と共役な位置に配置され、複数の波長の光を切り替えて出射する。例えば、波長の異なる光を出射する複数の測定光源11a、測定光源11bからなる。そして、波長の切り替え、すなわち光源の切り替えは、制御部70によって行われる。また、複数の波長として、近赤外域と可視域の波長(例えば、λ=550nm)を選択した。光源11aには、例えば、SLD(スーパールミネセンスダイオード)が用いられる。また、光源11bには、例えば、LD(レーザーダイオード)を用いた。なお、光源11bは、主に、多焦点IOL挿入眼を測定するために用いられる。例えば、回折型IOLの場合、1次の回折光は、可視光に対して所望のパワーが出るように設計されているため、近赤外光では指標像が検出されず、測定不能となる可能性がある。そこで、可視光が用いられる。
【0012】
受光光学系10bには、被検眼前方から、対物レンズ14、ダイクロイックミラー7、ビームスプリッタ8、ビームスプリッタ13、集光レンズ16、全反射ミラー17、ハーフミラー26、絞り18、コリメータレンズ19、マイクロレンズアレイ20、レンズアレイ20を通過した光束を受光する二次元撮像素子22が順次配置されている。
【0013】
また、ハーフミラー26の反射方向には、受光素子(撮像素子)27が配置されている。ここで、受光素子27は、測定光束による眼底反射光束を点像画像として受光する専用の受光素子であって、受光素子27の受光結果は、フォーカス状態を検出するために用いられる。
【0014】
なお、ビームスプリッタ13は、光源部11からの測定光束を反射し、眼底からの反射光を透過する特性を有する。また、受光光学系10bは、被検眼の瞳孔とレンズアレイ20とが光学的に略共役な関係となるように構成されている。ここで、マイクロレンズアレイ20は、測定光軸L1と直交する面に二次元的に配置された微小レンズからなり眼底反射光を複数の光束に分割する。なお、上記の構成は、いわゆるシャックハルトマン方式の波面センサを用いたものであるが、瞳孔共役位置に直交格子上のマスクを配置し、マスクを透過した光を二次元受光素子により受光するようないわゆるタルボット式波面センサを用いるようにしてもよい(詳しくは、本出願人による特開2006−149871号公報参照)。
【0015】
また、本実施形態においては、測定光源部11、ビームスプリッタ9、絞り18、コリメータレンズ19、レンズアレイ20、二次元撮像素子22は、一体の光学駆動ユニット30として第1駆動部(移動機構)29によって光軸方向に移動される構成となっている。ここで、光学駆動ユニット30は、被検眼の球面屈折誤差に応じて測定光源部11、二次元撮像素子22が被検眼眼底と光学的に共役な関係となるように移動され、被検眼の球面屈折誤差を補正する視度補正機構として機能する。また、受光素子27は、第2駆動部25によって光軸方向に移動される構成になっている。そして、光学駆動ユニット30の光軸方向への移動と同期して、受光素子27は移動される。
【0016】
また、ダイクロイックミラー7の反射方向には、眼Eを固視させるための固視標投影光学系40が配置されている。そして、投影光学系40は、可視光源41、固視標42、投光レンズ43、全反射ミラー45を有する。光源41及び固視標42は光軸方向に移動することにより被検眼の雲霧を行う。光源41は固視標42を照明し、固視標42からの光束は投光レンズ43、全反射ミラー45を経た後、ダイクロイックミラー7で反射して、対物レンズ14、開口部51aを介して被検眼に向かい、被検眼は固視標42を固視する。
【0017】
前眼部照明系50は、例えば、そのリング開口51内に光軸L1を中心に配置された図無きリング状光源又は点状光源を有し、前眼部を所定のパターンで照射する。また、角膜に多重リング指標を投影して角膜形状(曲率分布、乱視軸角度、等)を測定するためにも用いられる。また、リング開口51は、周辺部には、径が異なる複数のリング状が形成され、中心部には、観察光路として用いられる開口部51a有している。
【0018】
前眼部観察系60は、前眼部照明系50で照明された前眼部像を観察するためのものである。前眼部観察系60は、対物レンズ14、ダイクロイックミラー7、ビームスプリッタ8、テレセントリック絞り63、集光レンズ62、受光素子61を有する。受光素子61は、例えば、CCD等で構成され、前眼部像、プラチドリング、ケラトリング等のパターンが受光される。
【0019】
70は制御部であり、二次元撮像素子22の出力画像信号を得て被検眼の波面収差等を解析するプログラムを有し、眼の光学特性を解析する手段を兼ねる。なお、制御部70には、光源部11、光源41、二次元撮像素子22、受光素子27、受光素子61、記憶手段としてのメモリ75、駆動部25、駆動部29、被検眼前眼部や測定結果が表示される表示モニタ80、ジョイスティック5、測定条件など装置の各種設定を行うための操作部90、等が接続されている。
【0020】
以上のような構成を備える装置において、回折型IOL挿入眼を測定する場合の動作について説明する。この場合、可視光を発する光源11b光源が用いられる。ここで、モニタ80の表示画面には二次元撮像素子61によって撮像される前眼部像が表示されるため、検者は、ジョイスティック5を用いて光学系全体が内蔵された装置筐体を移動させ、被検眼に対して測定光軸L1を位置合わせする。そして、位置合わせ完了後、ジョイスティック5の頂部に設けられた測定開始スイッチ5aが検者によって押されると、測定開始のトリガ信号が発生される。検者により所定のトリガ信号が出力されると、制御部70により、はじめに波面収差(眼屈折力)の予備測定が行われ、予備測定の結果に基づいて光源41及び固視標板42と光学駆動ユニット30が光軸L1方向に移動されることにより、被検眼Eに対して雲霧がかけられ視度補正が行われる。また、このとき、光学駆動ユニット30の移動と同期して、受光素子27も移動する(詳しくは後述する)。そして、その後、被検眼に対して波面収差の測定が行われる。
【0021】
制御部70は、光源11bを点灯する。光源11bは、可視域の波長の光を出射する。このとき、近赤外域の波長を出射する光源11aは、消灯されている。そして、可視域の波長で波面収差の測定が行われる。波面収差測定は、以下に説明する。光源11bから出射され可視域の波長の光束は、ビームスプリッタ9で反射され、リレーレンズ12を介し、ビームスプリッタ13及びビームスプリッタ8で反射され、ビームスプリッタ7を透過し、対物レンズ14、被検眼の瞳孔を介して被検眼の眼底に投光される。これにより、被検眼の眼底上に点光源像が形成される。
【0022】
そして、被検眼の眼底に投光された点光源像は、反射光束として被検眼を射出し、対物レンズ14で集光され、ビームスプリッタ7で透過された後、ビームスプリッタ8で反射され、ビームスプリッタ13で透過され、集光レンズ16にて一旦集光された後、全反射ミラー17で反射される。
【0023】
そして、全反射ミラー17で反射された光束は、ハーフミラー26により光束の一部が反射され、他の光束は透過される。反射された光束は受光素子27に受光され、受光された点像画像がメモリ75に記憶される。また、透過された光束は、絞り18、コリメータレンズ19を介して、レンズアレイ20によって複数の光束に分割された後、二次元撮像素子22に受光される。そして、二次元撮像素子22に受光されたパターン像は画像データとしてメモリ75に記憶される。なお、被検眼の瞳孔と受光素子27及び絞り18とが光学的に略共役な関係となるように構成されている。そして、受光素子27は、絞り18の移動と同期して移動される。すなわち、絞り18で反射光束が集光する場合、受光素子27にも同様に反射光束が集光される。
【0024】
ここで、レンズアレイ20で複数の光束に分割され二次元受光素子に受光されるパターン像は、被検眼の収差(低次収差、高次収差)の影響によって変化するため、無収差の光が通過したときにできるパターン像に対して、被検眼からの反射光により生じるパターン像を解析すれば、被検眼の波面収差分布や屈折力分布を測定することが可能になる。
【0025】
図3(a)は、回折型IOL挿入眼ではない眼を測定したときのパターン像であり、
図3(b)は、回折型IOL挿入眼を測定したときのパターン像である。
図3(b)の場合、測定光束が眼内レンズによって回折されることによってハルトマン像の各ドット像が分離して撮像される。
図3(b)の場合、実線で描かれたハルトマン像は、回折型IOLの近用パワーによって形成されたハルトマン像(以下、近用ハルトマン像とする)である。また、点線で描かれたハルトマン像は、回折型IOLの遠用パワーによって形成されたハルトマン像(以下、遠用ハルトマン像とする)である。もちろん各ハルトマン像は、眼Eの角膜パワーの影響を受けている。なお、以下の説明において、実線で描かれたハルトマン像は、フォーカスがあった像を示し、点線で描かれたハルトマン像は、フォーカスがあっていない像を示す。したがって、
図3(b)では、近用ハルトマン像にフォーカスがあっている。
【0026】
ここで、制御部70は、多焦点IOL(回折型IOL)挿入眼の場合、IOLの近用パワーに対応するハルトマン像が撮像素子22上でフォーカスされるように波面収差測定光学系10を駆動させ、被検者眼の近用パワーに関する視度補正を行う一方、IOLの遠用パワーに対応するハルトマン像が撮像素子22上でフォーカスされるように波面収差測定光学系10を駆動させ、被検者眼の遠用パワーに関する視度補正を行う。そして、近用パワーに関する視度補正を行ったときに撮像素子22によって取得されたハルトマン像と、遠用パワーに関する視度補正を行ったときに撮像素子22によって得られたハルトマン像に基づいて被検者眼の遠用屈折誤差と近用屈折誤差をそれぞれ測定する。
【0027】
例えば、制御部70は、受光素子27の受光結果に基づいてフォーカス状態を検出し、各ハルトマン像がそれぞれ撮像素子22上でフォーカスされるように測定光学系10を駆動させて視度補正を順次行う。そして、制御部70は、分離された一方の指標に関して視度補正を行ったときに撮像素子22によって取得されたハルトマン像と、分離された他方の指標に関して視度補正を行ったときに撮像素子22によって取得されたハルトマンとに基づいて眼Eの遠用屈折誤差と近用屈折誤差をそれぞれ測定する。
【0028】
すなわち、その遠用及び近用領域の波面収差を精度良く測定するために、遠用領域の波面収差を測定するためのフォーカス位置(視度補正位置)と、近用領域の波面収差を測定するためのフォーカス位置にて、それぞれハルトマン像を取得し、各ハルトマン像に基づいて波面収差を測定する。すなわち、各領域に応じたフォーカス合わせを行い撮影し、各領域に対応するハルトマン像を取得する。この場合、フォーカスが厳密にあっている必要は無く、測定精度が確保できる程度にフォーカスが合っていればよい。
【0029】
撮像素子22の受光面において、ハルトマン像の視度補正によってフォーカスが一致する位置は近用と遠用で異なる。例えば、近用ハルトマン像にフォーカスがあっている場合は、遠用ハルトマン像がぼけた状態となる(
図4(a)の右図参照)。このため、近用ハルトマン像を形成するドット像(以下、近用ドット像とする)は、高輝度で検出されS/N比が高く、遠用ハルトマン像を形成するドット像(以下、遠用ドット像とする)は、低輝度で検出されS/N比が低い。この状態で、輝度が高い方のドット像の像位置を検出してハルトマン像を解析すれば、眼Eの近用波面収差を精度良く測定できる。例えば、制御部70は、近用ハルトマン像を抽出するために設定された閾値以上の輝度を持つドット像に基づいて波面収差を測定する。
【0030】
逆に、遠用ハルトマン像にフォーカスがあっている場合は、近用ハルトマン像がぼけた状態となる(
図4(c)の右図参照)。このため、遠用ドット像は、高輝度で検出されS/N比が高く、近用ドット像は、低輝度で検出されS/N比が低い。この状態で、輝度が高い方のドット像の像位置を検出してハルトマン像を解析すれば、眼Eの遠用波面収差を精度良く測定できる。例えば、制御部70は、遠用ハルトマン像を抽出するために設定された閾値以上の輝度を持つドット像に基づいて波面収差を測定する。
【0031】
ここで、各ハルトマン像のフォーカスが一致する位置について説明する。例えば、近用ハルトマン像のフォーカスがあっているとき、近用パワーによる反射光束が絞り18の位置で集光する。ここで、絞り18に反射光束が集光しているため他の位置に絞り18がある場合よりも、絞り18によってけられる光束が少ない。また、絞り18と受光素子27は、共役な位置に配置されているため、集光点が絞り18にある場合には、受光素子27上にも集光点があることになる。すなわち、近用ハルトマン像は、高い輝度で検出される。このとき、遠用パワーによる反射光束の集光位置は、絞り18にないため、その反射光束の多くは、絞り18でけられてしまい、輝度値が低下し、遠用領域のフォーカスは、ぼけた状態となっている。これにより、遠用及び近用の2つのハルトマン像は、絞り18の移動に伴って、輝度値/位置が変化する。そして、この変化により遠用と近用の判別でき、フォーカスがどちらに合っているかわかる。これにより、近用フォーカス位置で測定した近用ハルトマン像から近用の波面収差が測定できる。また、遠用領域の波面収差を検出する際には、上記記載したように、遠用領域にフォーカスが合う位置に絞り18を移動させればよい。
【0032】
図4は、受光素子27上の点像画像(左図)、点像画像の点像強度分布(PSF)、及びハルトマン像の対応関係について説明する図である。
図5はPSFの輝度の最大値Maxと視度補正位置との関係を示す図である。なお、受光素子27の点像画像は、ハルトマン像のフォーカス状態を検出するために用いられる。
【0033】
ここで、
図4(a)に示すように、近用ハルトマン像のフォーカスがあっている場合、点像画像(左図)は、近用パワーによる輝点(実線)が集光されており、それを囲んで遠用パワー(点線)による輝点が輝度値が低くなりぼやけた状態で広がっている。そして、そのPSF(中図)について、輝点による輝度信号の最高値Maxは、閾値Sを越え、近用フォーカス位置に対応するピークPnが検出される(
図5参照)。
【0034】
ここで、
図4(c)に示すように、遠用ハルトマン像のフォーカスがあっている場合、取得される点像画像(左図)は、遠用パワーによる輝点(点線)が集光されており、それを囲んで近用パワー(実線)による輝点が輝度値が低くなりぼやけた状態で広がっている。すなわち、絞り18の位置が変更されることで、
図4(a)と逆になり、遠用ハルトマン像のフォーカスが合うようになる。そして、そのPSF(中図)について、輝点による輝度信号の最高値maxは、閾値Sを超え、遠用フォーカス位置に対応するピークPfが検出される(
図5参照)。
【0035】
また、
図4(b)は、遠用フォーカス位置と近用フォーカス位置の中間位置に測定光学系10が調整されたときの図であり、取得される点像画像(左図)は、近用パワーによる輝点(実線)と遠用パワー(点線)による輝点の両方の輝度値が低くなり、ぼやけた状態で広がっている。そして、そのPSF(中図)について、最高値maxは、閾値Sを超えない。したがって、視度補正位置が変化したときの受光素子27上の点像画像をモニタリングすることにより、ハルトマン像のフォーカス状態を精度よく検出できる。
【0036】
以下に、
図6のフローチャートを用いて本装置の動作について説明する。初めに、制御部70は、測定光学系10を初期位置(0ディオプターに対応する位置)に配置した状態で、ハルトマン像を取得し、予備測定を行う。ここで、制御部80は、近用ハルトマン像と遠用ハルトマン像の像位置をそれぞれ検出し、近用波面収差と遠用波面収差を測定してもよいし、いずれか一方であってもよい。また、各ドット像について、近用ドット像は、遠用ドット像より瞳孔中心(光軸中心)に近い位置に現れるため、互いに隣接するドット像において、瞳孔中心に近い方を近用ドット像、遠い方を遠用ドット像として判別するようにしてもよい。なお、予備測定の段階では、球面屈折誤差が計測できればよい。
【0037】
そして、制御部70は、予備測定の結果に応じて光学駆動ユニット30の移動方向を決定し、決定された移動方向に応じて測定光学系を連続的又は所定のステップにて移動させる。
【0038】
そして、制御部70は、光学駆動ユニット30による測定光学系の移動中において、受光素子27からの受光信号に基づいてハルトマン像のフォーカス状態を逐次検出する。例えば、制御部70は、受光素子27に受光された点像画像のPSFを検出し、各位置でのPSFの最大値Maxが所定の閾値Sを越えているかどうか判定する。そして、制御部70は、最大値Maxが初めて閾値Sを越え始めた位置から輝度値が閾値Sよりも低くなった位置の中で、PSFの最大値Maxがピークを示した位置をフォーカス位置として検出する(
図5参照)。
【0039】
例えば、予備測定結果がプラス値だった場合、制御部70は、駆動部29を駆動させ、光学駆動ユニット30をA方向(プラス方向)に移動させていき、受光素子27の受光信号に基づいてPSFの最大値Maxがピークを示す位置を探索する。そして、制御部70は、第1のピークに到達したときのハルトマン像を取得し、光学駆動ユニット30の位置と共にメモリ75に移動させる。さらに、制御部80は、第1のピークが検出された位置から所定量A方向に移動させる。
【0040】
この移動量は、一般的な回折型眼内レンズにおける加入度に合わせて設定されても良い。例えば、市販されている回折型眼内レンズにおいて加入度4Dが最大であれば、第1のピーク位置から4D以上の移動量に設定される。
【0041】
そして、第2のピークが検出された場合、第2のピークに到達したときのハルトマン像を取得し、光学駆動ユニット30の位置と共にメモリ75に移動させる。この場合、第1のピークが検出された位置が近用フォーカス位置Nに対応する。また、第2のピークが検出された位置Pfが遠用フォーカス位置Fに対応する(
図7(a)参照)。
【0042】
一方、第2のピークが検出されなかった場合、光学駆動ユニット30の移動方向を切り替え、逆方向(この場合、B方向(マイナス方向))への移動を開始する。この場合、制御部70は、マイナス領域において第2のピークを探索する。そして、第2のピークが検出されると、第2のピークに到達したときのハルトマン像を取得し、光学駆動ユニット30の位置と共にメモリ75に移動させる。この場合、第1のピークが検出された位置が遠用フォーカス位置Fに対応する。また、第2のピークが検出された位置が近用フォーカス位置Nに対応する(
図7(c)参照)。
【0043】
一方、予備測定結果がマイナス値だった場合、制御部70は、駆動部29を駆動させ、光学駆動ユニット30をB方向に移動させ、第1のピークを探索する。そして、制御部70は、第1のピークに到達したときのハルトマン像を取得し、光学駆動ユニット30の位置と共にメモリ75に移動させる。さらに、制御部80は、第1のピークが検出された位置から所定量B方向に移動させる。
【0044】
そして、第2のピークが検出された場合、第2のピークに到達したときのハルトマン像を取得し、光学駆動ユニット30の位置と共にメモリ75に移動させる。この場合、第1のピークが検出された位置が遠用フォーカス位置Fに対応する。また、第2のピークが検出された位置が近用フォーカス位置Nに対応する(
図7(b)参照)。
【0045】
一方、第2のピークが検出されなかった場合、逆方向(この場合、B方向)への移動を開始する。この場合、制御部70は、マイナス領域において第2のピークを探索する。そして、第2のピークが検出されると、第2のピークに到達したときのハルトマン像を取得し、光学駆動ユニット30の位置と共にメモリ75に移動させる。この場合、第1のピークが検出された位置が近用フォーカス位置Nに対応する。また、第2のピークが検出された位置が遠用フォーカス位置Fに対応する(
図7(c)参照)。
【0046】
制御部70は、第1と第2のピークが検出されると、光学駆動ユニット30の駆動を停止し、ピークが検出された二つの位置での光学駆動ユニット30の位置情報とハルトマン像画像をメモリ75より呼び出し、波面収差の測定をそれぞれ行う。ここで、マイナス側で取得された方が回折型IOLの近用パワーによる波面収差であり、プラス側で取得された方が回折型IOLの遠用パワーによる波面収差である。
【0047】
ハルトマン像画像及び光学駆動ユニット30の位置情報より波面収差を求める方法を以下に説明する。
【0048】
初めに、光学駆動ユニット30の位置情報により視度補正量を算出する。予め、メモリ75には、光学駆動ユニット30の各移動量に応じた視度補正量の値が記憶されている。そして、制御部70は、光学駆動ユニット30の初期位置からピークまでの移動量より、それに対応する視度補正量を算出する。
【0049】
次に、制御部70は、ハルトマン像の像位置に基づいて波面収差を計測する。このとき、制御部70は、近接する各ドット像のうち、輝度が高いほうのドット像の像位置を検出して、波面収差を計測すればよい。そして、制御部70は、視度補正量とハルトマン像による収差情報に基づいて被検眼の波面収差(眼屈折力分布)を算出する。そして、制御部70は、近用と遠用での測定結果をモニタ80上に出力する。
【0050】
以上のような構成とすれば、IOLの近用・遠用の各パワーに対応する波面収差を計測する際、それぞれ高輝度のハルトマン像に基づいて測定されるため、精度の高い測定結果が得られる。
【0051】
なお、測定結果を出力する場合、ゼルニケ解析等を用いて波面収差における任意の収差成分を出力するようにしてもよい。例えば、波面収差における二次収差成分を抽出することにより、被検眼の遠用屈折力(SCA)と近用屈折力(SCA)が得られる。
【0052】
なお、以上の説明においては、回折型IOL挿入眼を例にとって説明したが、これに限るものではなく、ゾーン型IOL挿入眼を測定する場合においても、本発明の適用は可能である。
【0053】
なお、以上の説明においては、各フォーカス位置にて取得されたハルトマン像において近接するドット像の内、輝度の高い方のドット像を用いて波面収差を測定した。ただし、回折型眼内レンズの回折効率によっては、輝度の比較では、遠用ハルトマン像と近用ハルトマン像を誤検出してしまう可能性がありうる。例えば、近用フォーカス位置に調整された場合であっても、遠用ハルトマン像のドット像の方が輝度が高い又はほぼ同じ輝度の場合がありうる。
【0054】
ここで、制御部70は、測定光による眼底反射光束を受光する受光ユニット(例えば、受光素子27、撮像素子22)の受光結果に基づいて、撮像素子22によって受光された指標像が、眼内レンズの近用パワーに対応する指標像か眼内レンズの遠用パワーに対応する指標像か否かを判別するのが好ましい。そして、制御部70は、判別された各指標像に基づいて眼内レンズによる遠用屈折誤差と近用屈折誤差を測定する。なお、以下に説明する手法は、後述する眼屈折力測定装置においても適用可能である。
【0055】
第1の手法として、制御部70は、撮像された指標像のうち、測定光学系10の光軸L1に近いほうを近用パワーに対応する指標像とし、光軸L1に遠いほうを遠用パワーに対応する指標像として判別する。
【0056】
例えば、制御部70は、近接するドット像の内、瞳孔中心(光軸L1)に近い方を近用ハルトマン像によるドット像、瞳孔中心から遠い方を遠用ハルトマン像によるドット像として判別するようにしてもよい。瞳孔中心位置(光軸L1)は、例えば、二次元撮像素子22の撮像面の中心(光軸L1との交点)に設定される。よって、制御部70は、近接する2つのドット像が検出されたとき、瞳孔中心位置とドット像の距離を計測し、その計測結果に基づいてドット像の判別を行う。そして、制御部70は、撮像素子22上の各ドット像の判別を行うことにより、遠用ハルトマン像と近用ハルトマン像の特定を行う。
【0057】
第2の手法としては、制御部70は、近赤外光源11aを点灯させたときの指標像の位置情報を検出し、可視光源11bを点灯させて分離された各指標像が撮像素子22に受光されたとき、撮像された指標像のうち、検出された位置情報に対応する指標像を遠用パワーに対応する指標像として判別し、他の指標像を近用パワーに対応する指標像として判別する。
【0058】
例えば、制御部70は、初めに近赤外光源11aを点灯させ、ハルトマン像を取得する。そして、制御部70は、ハルトマン像の各ドット像の位置を検出し、その検出情報をメモリ75に記憶させておく。このとき、ハルトマン像は、遠用ハルトマン像のみが取得される。
【0059】
ここで、回折型眼内レンズの特性上、近赤外光については、遠用パワー(0次光)による回折効率が高く、近用パワー(1次光)による回折効率がかなり低いためである(例えば、遠用:近用の比率は、9:1)。回折型の場合、眼内レンズを通過する光は、光学部に形成された複数の回折格子によって各回折次数の光に分けられ、0次光が遠方で焦点が結ばれ、1次光が近方で焦点が結ばれる。
【0060】
次に、制御部70は、近赤外光源11aを消灯し、可視光源11bを点灯させ、ハルトマン像を取得する。このとき、遠用ハルトマン像と近用ハルトマン像が分離されて取得される。
【0061】
ここで、制御部70は、メモリ75に記憶された位置情報に対応するハルトマン像を遠用ハルトマン像として判別し、他のハルトマン像を近用ハルトマン像として判別する。なお、近赤外光と可視光との色収差の違いによりハルトマン像の受光位置は、近赤外と可視光とで異なる可能性がある。そこで、色収差による受光位置の変化量が予めシミュレーションや実験などにより求められる。そして、制御部70は、近赤外光でハルトマン像の受光位置に対して変化量を加えることにより可視光でのハルトマン像の予想受光位置を求める。そして、制御部70は、予想受光位置に近いハルトマン像を遠用ハルトマン像、他のハルトマン像を近用ハルトマン像として判別する。
【0062】
第3の手法としては、測定光学系10を駆動させて被検者眼の視度を補正する視度補正ユニット(例えば、光学駆動ユニット30)を用いる。ここで、制御部70は、視度補正ユニットによって測定光学系10が駆動されたときの反射光束の輝度変化に基づいて指標像の判別を行う。
【0063】
例えば、制御部70は、視度補正量が変化されたときのドット像の輝度の変化に基づいて遠用ドット像と近用ドット像を判別するようにしてもよい。すなわち、各ドット像は、視度補正の変化によってフォーカス状態が変化する。したがって、各位置での輝度の変化をモニタリングすることにより各ドット像が判別される。ここで、マイナス側で輝度のピークが検出された方が近用ドット像、プラス側で輝度のピークが検出された方が遠用ドット像と判別される。すなわち、ドット像のフォーカス状態が検出されればよく、ドット像のボケ具合(例えば、像サイズ)をモニタリングするようにしてもよい。また、ハルトマン像の輝度分布(例えば、輝度値の合計)が利用されてもよい。
【0064】
なお、ハルトマン像のフォーカス状態を検出する手法について、撮像素子22によって撮像された指標像の輝度変化を利用する構成であってもよい。例えば、ハルトマン像の輝度分布(例えば、輝度値の合計)が用いられる。
【0065】
また、制御部70は、各遠用ドット像を中心とする分割画像を抽出し、分割画像を加算することによって得られる点像画像を用いてフォーカス状態を検出するようにしてもよい。この場合、近接するドット像において、前述のように光軸L1に対して遠いか否かによってドット像を判別されてもよいし、近赤外での検出結果を利用しても良い。
【0066】
なお、上記説明においては、測定測定光学系として波面収差測定光学系10を用いたが、眼底に向けて測定光束を投光し、その反射光束を二次元指標像として撮像素子により受光する測定光学系と、多焦点眼内レンズによる眼Eの遠用屈折誤差と近用屈折誤差をそれぞれ測定する演算部を備える構成であれば、本発明の適用が可能である。この場合、屈折誤差には、波面収差、眼屈折力がありうる。
【0067】
例えば、眼屈折力測定光学系にも適用可能である。例えば、レンズアレイ20をリングレンズに変更し、その他の部材は、波面収差測定光学系10と同様の構成とする。この場合、撮像素子22上のリング像は、眼Eの屈折誤差によって変化される。したがって、リング像の形状を解析することにより、各経線方向の屈折誤差を求めることができ、これに所定の処理を施すことにより、S(球面度数)、C(乱視度数)、A(乱視軸角度)の屈折値を求めることができる。
【0068】
回折型IOL挿入眼の場合には、リング像が複数に分離し多重リングとして撮像される。ここで、制御部70は、回折型IOLの遠用パワーによる屈折値及び近用パワーによる屈折値を測定するために、各フォーカス位置にて多重リング像を取得する。なお、近用パワーによるリング像が瞳孔中心に近い方に形成され、遠用パワーによるリング像が瞳孔中心から遠い方に形成される。
【0069】
この場合、制御部70は、光学駆動ユニット30を移動させ、各リングに応じてフォーカス合わせを行い撮影し、リング像を取得する。そして、リング像と光学駆動ユニットの位置情報に基づいて、近用及び遠用のそれぞれの屈折値を測定すればよい。
【0070】
なお、上記構成において、視度補正を行うための構成として測定光学系10の光路中に乱視補正光学系(例えば、クロスシリンダレンズ)を設け、球面屈折誤差に加えて、乱視を補正するようにしてもよい。
【0071】
この場合、各フォーカス位置で取得された多重リング画像において、輝度が高いほうのリング像に基づいて眼屈折力を算出すればよい。この場合、制御部70は、多重リング像における内側のリング像を近用パワーに対応する近用リング像、外側のリング像を遠用パワーに対応する遠用リング像として判別し、各リング像に基づいて近用屈折力と遠用屈折力を求めるようにしてもよい。
【0072】
なお、上記構成において、視度補正を行う場合、測定光学系を光軸方向に移動させるものとしたが、回転板に度数の異なる矯正レンズを設け、眼Eの視度に対応する補正レンズが挿入されるようにしてもよい。