(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
前記チタン酸塩からなるセラミックス粉末のX線回折によるペロブスカイト結晶構造のメインピークと他の結晶構造のピークとの強度比に基づいて算出されるペロブスカイト結晶構造が、95%以上である請求項1記載の誘電性複合材料。
該セラミックス粉末が、一次粒子の粒径が1.0μm以下の小粒子5〜50容量%と一次粒子の粒径が1.0μm超過の大粒子50〜95容量%とを含有する請求項1乃至3のいずれか1項に記載の誘電性複合材料。
前記チタン酸塩からなるセラミックス粉末が、炭酸カルシウムと酸化チタンとを、カルシウムとチタンとのモル比が45:55〜55:45の範囲内の比率となるように混合し、混合物を1150〜1500℃の範囲内の焼成温度で焼成し、次いで、焼成物を粉砕して得られた、X線回折によるペロブスカイト結晶構造のメインピークと他の結晶構造のピークとの強度比に基づいて算出されるペロブスカイト結晶構造が95%以上のチタン酸カルシウム粉末である請求項1乃至4のいずれか1項に記載の誘電性複合材料。
該合成樹脂が、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、及びポリフェニレンスルフィド樹脂からなる群より選ばれる少なくとも一種の熱可塑性樹脂である請求項1乃至6のいずれか1項に記載の誘電性複合材料。
【背景技術】
【0002】
各種無線通信機器の小型化と軽量化への要求が高まっているが、それに応えるには、搭載されているアンテナの小型化が必要である。
【0003】
例えば、携帯電話は、持ち運びする情報通信機器であるため、小型化と軽量化に対する市場の要求が特に強い技術分野である。携帯電話は、開発当初より小さなハウジング(筐体)内に全ての機器を収めるのに苦労しているが、最近では、電話用途以外に周波数の異なるGPS(Global Positioning System)や情報通信用アンテナも搭載する必要があることから、更なる小型化が求められている。すなわち、携帯電話は、取り扱う情報の種類が増加の傾向にあり、例えば、電話用(0.8GHzまたは2GHz帯)、GPS用(1.5GHz帯)、情報通信用(Bluetoothなど、2.4GHz帯)など、取り扱う情報の種類に応じて使用する周波数帯がそれぞれ異なっている。そのため、これらの情報の種類に対応する複数のアンテナが必要となっているが、これら複数のアンテナを1つの筐体に収めるには、更なるアンテナの小型化が求められている。
【0004】
自動車用アンテナとしては、例えば、GPS用アンテナや自動料金収受システム用アンテナがあるが、車内に設置する場合、視界を遮ったり、乗員に接触したりする虞があるため、小型化することが望ましい。
【0005】
自動車には、TV、ラジオ、GPS、自動料金収受システム端末、携帯電話、車間距離センサーなど、多数の無線通信機器が搭載されている。これらの無線通信機器で使用する周波数帯は、それぞれ異なっている。そのため、各通信情報機器の使用周波数帯が異なる複数のアンテナを装備するには、各アンテナ素子の小型化が必要である。
【0006】
パーソナルコンピュータ(PC)として、無線LANやWi−Fi、更には次世代通信であるWiMaxなどの情報通信用アンテナが搭載されたものが開発されているが、これらに用いるアンテナも、限られた空間の筐体に収めるには、小型化と軽量化が必要である。
【0007】
これら携帯電話、自動車、パーソナルコンピュータなどの大量生産されるアプリケーション用途のアンテナとしては、製造が容易であり、回路パターンの高精度寸法管理が可能で性能のバラツキを小さくすることができる誘電体アンテナが多く利用されている。誘電体アンテナは、例えば、誘電体からなる基材に銅箔などを積層し、該銅箔に回路パターンを形成した構造を有するものである。
【0008】
誘電体アンテナを小型化するためには、該誘電体アンテナの比誘電率を高くする必要がある。誘電体アンテナの比誘電率を高くすると、伝搬する信号の波長が短くなるため、小型化することができる。しかし、従来の誘電体材料は、比誘電率を高くすると、それにつれて誘電正接も高くなる傾向を示す。誘電体アンテナの誘電正接が小さいほど、エネルギー損失が少なくなり、アンテナ性能が向上する。誘電体アンテナは、比誘電率を高くして小型化すると、誘電正接が高くなって、アンテナ性能が低下する。
【0009】
従来、特許第3664094号公報(特許文献1)には、誘電体無機フィラーと有機高分子材料とを含む複合誘電体材料を成形してなる複合誘電体成形物が開示されており、該複合誘電体成形物をレンズアンテナとして用いることが提案されている。しかし、特許文献1の各実施例に具体的に示されている複合誘電体成形物の比誘電率は、比較的低いものである。
【0010】
特許第3895175号公報(特許文献2)には、誘電率(比誘電率)が20以上で、誘電正接が0.005以下の誘電セラミックス粉を配合した誘電性樹脂複合材からなる誘電体を備えた誘電性樹脂統合アンテナが提案されている。しかし、特許文献2の各実施例に示されている該セラミックス粉を含有する誘電性樹脂複合材の比誘電率は、それほど高くなく、その一方、誘電正接の下限値が比較的高いものである。
【0011】
特開2005−94068号公報(特許文献3)には、合成樹脂に誘電性セラミックス粉末を含有させた複合材料が開示されている。該複合材料は、100MHz以上の周波数域において、比誘電率が15以上で、誘電正接が0.01以下を示すものである。しかし、特許文献3の各実施例に具体的に示されている複合材料は、その段落[0023]に示されているように、比誘電率が17〜52程度と高いものの、誘電正接が0.003〜0.005程度であり、十分に低いものではない。すなわち、特許文献3に記載の技術水準では、複合材料の誘電正接を0.003未満にまで小さくすることはできていない。
【0012】
国際公開第2008/081773号パンフレット(特許文献4)には、ポリブチレンテレフタレート、臭素系難燃剤、アンチモン系難燃助剤、及びチタン酸無機化合物を含有する難燃性樹脂組成物が開示されている。該難燃性樹脂組成物は、アンテナ部品として用いられるものである。しかし、特許文献4の各実施例に示されている該難燃性樹脂組成物の誘電特性は、比誘電率が比較的低く、その一方、誘電正接の下限値が0.008であり、比較的高いものである。
【0013】
以上のとおり、従来技術では、高比誘電率を有しつつ、低誘電正接の誘電体材料を用いた誘電体アンテナ、すなわち、高性能で十分小型化した誘電体アンテナが提供できていなかった。そのため、誘電体アンテナの小型化と高性能化を図る上で、比誘電率が高く、かつ、誘電正接が十分に低いアンテナ基板に対する要求が存在する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
本発明の課題は、酸化チタンまたはチタン酸塩からなるセラミックス粉末であって、合成樹脂と複合化した場合に、十分に高い比誘電率と、十分に低い誘電正接を示す誘電性複合材料を与えることができるセラミックス粉末を提供することにある。
【0016】
本発明の他の課題は、合成樹脂とセラミックス粉末を含有する誘電性複合材料であって、比誘電率が十分に高く、かつ、誘電正接が十分に低い誘電性複合材料を提供することにある。
【0017】
本発明のさらなる他の課題は、該誘電性複合材料から形成された誘電体基板上に、導体回路からなるアンテナ部が設けられた構造を有する誘電体アンテナを提供することにある。
【0018】
本発明者らは、前記課題を解決するために鋭意研究した結果、N
2吸着法によるBET比表面積が特定の限定された小さな範囲内であり、かつ、平均粒径が特定の範囲内である酸化チタンまたはチタン酸塩からなるセラミックス粉末に想到した。このセラミックス粉末は、新規なものであって、誘電性複合材料のセラミックス粉末として優れた特性を示すものである。
【0019】
すなわち、合成樹脂と該セラミックス粉末を含有する誘電性複合材料は、17を超える高い比誘電率(ε
r)と、0.0025を下回る低い誘電正接(tanδ)を発揮することが可能である。
【0020】
このように、高い比誘電率と低い誘電正接(tanδ)を示す誘電性複合材料から形成されたアンテナ基板を用いて作製された誘電体アンテナは、小型化が可能であることに加えて、放射効率が高いという優れた特性を示すことができる。本発明の誘電性複合材料は、合成樹脂単独では不可能な高誘電率化が可能である上、セラミックス単独に比べて成形加工性に優れており、射出成形などの溶融加工法により複雑な形状や立体形状の成形体に成形することが容易である。
【0021】
本発明は、これらの知見に基づいて完成するに至ったものである。
【課題を解決するための手段】
【0022】
本発明によれば、N
2吸着法によるBET比表面積が0.1〜2.0m
2/gの範囲内で、かつ、平均粒径が0.8〜100μmの範囲内である酸化チタンまたはチタン酸塩からなるセラミックス粉末が提供される。
【0023】
また、本発明によれば、合成樹脂とセラミックス粉末を含有する誘電性複合材料であって、該セラミックス粉末が、N
2吸着法によるBET比表面積が0.1〜2.0m
2/gの範囲内で、かつ、平均粒径が0.8〜100μmの範囲内である酸化チタン及びチタン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のセラミックス粉末であることを特徴とする誘電性複合材料が提供される。
また、本発明によれば、合成樹脂とセラミックス粉末とを含有する誘電性複合材料であって、
(i)該セラミックス粉末が、N
2吸着法によるBET比表面積が0.1〜2.0m
2/gの範囲内で、かつ、空気透過法により測定した平均粒径が0.8〜30μmの範囲内である酸化チタン及びチタン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のセラミックス粉末であり、
(ii)該セラミックス粉末が、下記式
K=BET比表面積(m
2/g)/平均粒径(μm)
で表されるK値が2.0以下のものであ
り、かつ、
(iii)摂動式空間共振装置を用いて、温度25℃及び周波数2.5GHzの条件下で測定した、該誘電性複合材料の比誘電率が、17超過で、かつ、該誘電性複合材料の誘電正接が0.0025未満である誘電性複合材料が提供される。
【0024】
さらに、本発明によれば、誘電性複合材料から形成された誘電体基板上に、導体回路からなるアンテナ部が設けられた構造を有する誘電体アンテナが提供される。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、酸化チタンまたはチタン酸塩からなるセラミックス粉末であって、合成樹脂と複合化した場合に、十分に高い比誘電率と、十分に低い誘電正接を示す誘電性複合材料を与えることができるセラミックス粉末が提供される。
【0026】
本発明によれば、合成樹脂とセラミックス粉末を含有する誘電性複合材料であって、比誘電率が十分に高く、かつ、誘電正接が十分に低い誘電性複合材料が提供される。本発明の誘電性複合材料から形成された誘電体基板上に、導体回路からなるアンテナ部が設けられた構造を有する誘電体アンテナは、小型化が可能であり、しかも高性能である。
【発明を実施するための形態】
【0028】
本発明のセラミックス粉末は、酸化チタンまたはチタン酸塩からなる粉末である。チタン酸塩としては、例えば、チタン酸カルシウム、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸マグネシウム、チタン酸鉛、チタン酸カルシウムマグネシウム、チタン酸ネオジウムなど、高誘電性を示すものが好ましい。これらのセラミックス粉末の中でも、酸化チタン粉末、チタン酸カルシウム粉末、及びチタン酸ストロンチウム粉末が好ましく、合成が容易で、比重が小さく、かつ、高い比誘電率と低い誘電正接を示す誘電性複合材料が得られ易い点で、チタン酸カルシウム粉末が特に好ましい。
【0029】
本発明のセラミックス粉末のN
2吸着法によるBET比表面積は、0.1〜2.0m
2/g、好ましくは0.1〜1.9m
2/g、より好ましくは0.15〜1.8m
2/gの範囲内である。該セラミックス粉末のBET比表面積が小さすぎるものは、合成樹脂に高充填した場合に混練が困難となり、射出成形などの溶融加工も困難となる。該セラミックス粉末のBET比表面積が2.0m
2/gを超えると、誘電性複合材料の誘電正接が増大する傾向を示す。該セラミックス粉末のBET比表面積が大きくなると、誘電性複合材料の誘電正接がばらつく傾向も見られる。
【0030】
セラミックス粉末のBET比表面積が前記範囲内にあることによって、誘電性複合材料の比誘電率(ε
r)を17超過と大きくすることができる上、誘電正接(tanδ)を0.0025未満という従来水準では到達できなかった小さな値にすることができる。
【0031】
図1に、チタン酸カルシウム粉末のBET比表面積と、該チタン酸カルシウム粉末とポリプロピレンを含有する誘電性複合材料の誘電正接(tanδ)との関係を示す。
図1のグラフから明らかなように、チタン酸カルシウムなどのセラミックス粉末のBET比表面積が小さくなるに従って、誘電性複合材料の誘電正接が著しく小さくなる傾向を示す。他方、セラミックス粉末のBET比表面積が大きくなるに従って、誘電性複合材料の誘電正接が増大する傾向を示す。特に、BET比表面積が2.0m
2/gを超えると、誘電正接の値がBET比表面積の値に対して大きくばらつく傾向を示す。
【0032】
後述の表1に示すように、該誘電性複合材料の比誘電率(ε
r)は、17を大きく超えており、かつ、その誘電正接(tanδ)は、0.0025を下回っている。該誘電性複合材料の比誘電率(ε
r)は、18を超えることがより好ましい。該誘電性複合材料の比誘電率(ε
r)の上限値は、通常50、多くの場合30である。該誘電性複合材料の誘電正接(tanδ)は、0.0020以下であることがより好ましい。該誘電性複合材料の誘電正接(tanδ)の下限値は、通常0.0003、多くの場合0.0005である。このように、本発明のセラミックス粉末を用いることにより、高い比誘電率と低い誘電正接との組み合わせからなる特殊な誘電特性を有する誘電性複合材料を得ることができる。誘電性複合材料の比誘電率及び誘電正接は、キーコム社製摂動式空間共振装置を用いて、温度25℃及び周波数2.5GHzの条件下で比誘電率と誘電正接を測定することによって得られた値である。
【0033】
本発明のセラミックス粉末のBET比表面積(m
2/g)と平均粒径(μm)との関係に基づいて、BET比表面積/平均粒径をK値で表わす(K=BET比表面積/平均粒径)。他方、本発明の誘電性複合材料は、比誘電率(ε
r)によって誘電正接(tanδ)が変化するので、式A=〔tanδ/(ε
r−1)〕×10000によって比誘電率一定に規格化して、前記K値との関係を規定することが性能評価の点で望ましい。表1及び
図1に示すデータに基づいて、K−Aの相関関係を調べると、
図2に示すグラフが得られる。
図2に示すグラフから、K値は、好ましくは2.5以下、より好ましくは2.3以下、特に好ましくは2.0以下であることが分かる。K値の下限値は、0.001であり、多くの場合0.01である。
【0034】
本発明のセラミックス粉末の平均粒径は、0.8〜100μm、好ましくは0.9〜50μm、より好ましくは1〜30μm、特に好ましくは1〜15μmの範囲内である。該セラミックス粉末の平均粒径が小さすぎると、取り扱いが困難となることに加えて、BET比表面積を十分に小さくすることが困難となる。また、該セラミックス粉末の平均粒径が小さすぎると、合成樹脂に高充填した場合に、溶融混練や溶融加工が困難となり易い。該セラミックス粉末の平均粒径が大きすぎると、該セラミックス粉末を含有する誘電性複合材料から形成されたアンテナ基板の誘電特性にバラツキが生じ易くなり、表面性も損なわれ易くなる。また、該セラミックス粉末の平均粒径が大きすぎると、射出成形機の摩耗などの問題を引き起こし易くなる。セラミックス粉末の平均粒径は、空気透過法(フィッシャー法)によって測定した値である。
【0035】
本発明のセラミックス粉末の結晶化度は、好ましくは80%以上、より好ましくは90%以上、特に好ましくは95%以上である。セラミックス粉末の結晶化度が高いことによって、高い比誘電率と低い誘電正接を示すなどの利点を得ることができる。該セラミックス粉末の結晶化度は、X線回折によるペロブスカイト結晶構造のメインピークと他の結晶構造のピークとの強度比に基づいて測定した値である。本発明のセラミックス粉末は、焼成を十分に行って、結晶化度を95%以上としたものが特に好ましい。結晶化度の上限値は、99%または100%である。
【0036】
本発明のセラミックス粉末の日本工業規格のJIS K 5101に従って測定した見掛け密度は、好ましくは0.8〜10g/cm
3、より好ましくは0.9〜5g/cm
3の範囲内である。この見掛け密度は、多くの場合、1.0〜2.0g/cm
3の範囲内とすることができる。セラミックス粉末の見掛け密度が小さすぎると、合成樹脂に高充填した場合、溶融混練や溶融加工が困難となり易い。この見掛け密度が大きすぎるものは、合成が困難である。
【0037】
本発明のセラミックス粉末は、その一次粒子の粒径が1.0μm以下の小粒子5〜50容量%、好ましくは10〜40容量%と、一次粒子の粒径が1.0μm超過の大粒子50〜95容量%、好ましくは60〜90容量%とを含有するものであることが望ましい。小粒子の比率が高すぎると、合成樹脂に高充填した場合に、溶融混練や溶融加工が困難となり易い。また、小粒子の比率が高くなりすぎると、合成樹脂に高充填した場合に、セラミックス粉末のBET比表面積が大きくなり、該セラミックス粉末の表面を被覆する合成樹脂量が少なくなって、その結果、セラミックス粉末が凝集したり、セラミックス粉末相互の結着ができなくなって、強度が低下する。大粒子の比率が高すぎると、基板の表面粗さが大きくなり易い。また、大粒子の比率が高すぎると、二軸押出機などの溶融混練機や射出成形機の内面が摩耗し易くなる。
【0038】
小粒子と大粒子とを適当な比率で併用することにより、上記の如き欠点を克服することができる。すなわち、両者を併用すると、溶融混練と溶融加工が容易となり、また、合成樹脂による結着が強固なものとなって、基板の強度が強くなる上、高充填が可能で高誘電率化が容易となる。セラミックス粒子の形状は、電子顕微鏡写真によって観察することができる。一次粒子の平均粒径が1.0μm超過の大粒子は、小粒子が二次粒子として凝集したものではない。
【0039】
本発明のセラミックス粉末は、原料の組成、造粒条件、焼成温度などの焼成条件、粉砕条件などを制御することによって、所望のBET比表面積と平均粒径とを有する粉末として合成することができる。
【0040】
本発明のセラミックス粉末は、原料を高温で十分に焼成したものであることが好ましい。焼成温度は、好ましくは1150〜1500℃、より好ましくは1180〜1300℃の範囲内である。焼成時間は、焼成温度にもよるが、通常0.5〜10時間、好ましくは1〜5時間程度である。十分に焼成することにより、結晶化度が高いセラミックス粉末を得ることができる。また、十分に焼成することにより、合成樹脂とブレンドした場合に、小さな誘電正接を示す誘電性複合材料を与えることができるセラミックス粉末を得ることができる。焼成後、焼成物を所定の平均粒径となるように粉砕し、必要に応じて分級する方法により、セラミックス粉末を得ることができる。
【0041】
例えば、チタン酸カルシウム粉末を合成するには、炭酸カルシウムと酸化チタンとを、Ca:Tiのモル比が45:55〜55:45の範囲内の比率となるように混合し、好ましくは1150〜1500℃、より好ましくは1180〜1300℃の温度で焼成し、焼成物を所定の平均粒径となるように粉砕し、必要に応じて分級する方法によって合成することができる。
【0042】
チタン酸カルシウムなどのセラミックス粉末の結晶構造は、ペロブスカイト結晶構造であることが好ましい。
【0043】
本発明の誘電性複合材料は、合成樹脂とセラミックス粉末を含有する誘電性複合材料である。該セラミックス粉末は、N
2吸着法によるBET比表面積が0.1〜2.0m
2/gの範囲内で、かつ、平均粒径が0.8〜100μmの範囲内である酸化チタン及びチタン酸塩からなる群より選ばれる少なくとも一種のセラミックス粉末である。該セラミック粉末としては、前述の特性を有するものを使用することができる。
【0044】
合成樹脂としては、エポキシ樹脂、熱硬化性ポリイミド樹脂などの熱硬化性樹脂を用いることができるが、射出成形などの溶融成形加工が可能である点で、熱可塑性樹脂を用いることが好ましい。
【0045】
熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレン(低密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、高密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、超低密度ポリエチレン)、ポリプロピレンなどのポリオレフィン樹脂;ポリスチレン、シンジオタクチックポリスチレン、変性ポリスチレンなどのポリスチレン樹脂;ポリフェニレンオキシド樹脂;ポリフェニレンスルフィド樹脂などが好ましい。これらの他、熱可塑性樹脂としては、液晶ポリマー、ABS樹脂、熱可塑性ポリエステル樹脂、ポリアセタール樹脂、ポリアミド樹脂、メチルペンテン樹脂、環状オレフィン樹脂、ポリカーボネート樹脂、熱溶融性フッ素樹脂、熱可塑性ポリイミド樹脂、ポリエーテルイミド樹脂などが挙げられる。これらの合成樹脂は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0046】
これらの合成樹脂の中でも、ポリオレフィン樹脂、ポリスチレン樹脂、ポリフェニレンオキシド樹脂、ポリフェニレンスルフィド樹脂など、高周波域での誘電正接が低いものが好ましい。これらの合成樹脂の中でも、誘電特性、溶融加工性などの観点から、ポリオレフィン樹脂が好ましく、耐熱性とセラミックス充填性の観点から、ポリプロピレンが特に好ましい。
【0047】
ポリプロピレンとしては、ホモポリマー、ランダムコポリマー、ブロックコポリマーなどを使用することができる。コポリマーは、プロピレンとエチレンまたはαオレフィン(1−ブテン、1−ヘキセン、4−メチル−1−ペンテン、1−オクテンなど)との共重合体である。ASTM D 1238に従って測定したポリプロピレンのメルトフローレイト(MFR)は、通常1〜55g/10分、より好ましくは1.4〜50g/10分の範囲内である。セラミックス粉末を高充填した場合における射出成形などの溶融加工性の観点からは、ポリプロピレンのMFRは、10〜40g/10分の範囲内であることが特に好ましいが、この範囲に限定されない。
【0048】
誘電性複合材料中でのセラミックス粉末の含有率は、好ましくは30〜80容量%である。十分に高い比誘電率を得るためには、より好ましくは42〜75容量%、特に好ましくは45〜70容量%である。例えば18程度の比誘電率を得るために、セラミックス粉末を75重量%(42容量%)含有させることができる。セラミックス粉末の含有率が小さすぎると、所望の高い比誘電率を有する誘電性複合材料を得ることが困難となる。また、セラミックス粉末の含有率が小さすぎると、合成樹脂マトリックス中で該セラミックス粉末が配向し易くなる。セラミックス粉末の含有率が大きすぎると、誘電性複合材料の溶融加工性が低下する。セラミックス粉末の容量%は、セラミックス粉末の比重、合成樹脂の比重、及びセラミックス粉末と合成樹脂との混合比率に基づいて算出することができる。
【0049】
セラミックス粉末は、酸化チタンや各種チタン酸塩をそれぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて使用することができる。本発明の目的を損なわない範囲内において、その他のセラミックス粉末を少量(全セラミックス粉末量を基準として、30容量%以下、多くの場合20容量%または10容量%以下)併用してもよい。セラミックス粉末としては、チタン酸カルシウムが好ましい。
【0050】
本発明の誘電性複合材料の製造方法としては、合成樹脂とセラミックス粉末とを所定の比率で単軸または二軸押出機に供給して、該合成樹脂の溶融温度以上で熱分解温度未満の温度で溶融混練し、該押出機先端に取り付けたダイからストランドとして押し出し、該ストランドを冷却しながらカットする方法によりペレット化する方法が好ましい。誘電性複合材料のペレットを用いて射出成形などの溶融加工を行うことにより、均一な組成を有する成形物を得ることができる。本発明の誘電性複合材料の他の製造方法として、各成分をニーダー、バンバリー等のバッチ式混合機を用いて混合する方法を採用することもできる。
【0051】
本発明のセラミックス粉末は、レアメタルを含むことなく、極めて小さな誘電正接を示す誘電性複合材料を与えることができる。誘電性複合材料を得るには、焼成後に焼成物を粉砕する必要があるが、この粉砕によってセラミックスの特性が変動する。本発明のセラミックス粉末は、焼成によって融合した固まり(焼成物)を粉砕しているにもかかわらず、合成樹脂と混練することにより、高い比誘電率と著しく小さな誘電正接とを示す誘電性複合材料を与えることができる。前記の如き物性及び特性を備えた酸化チタンまたはチタン酸塩からなるセラミックス粉末は、新規なものであって、かつ、これらの物性と特性とを有するものであるため、合成樹脂と混練することにより、優れた特性を発揮する誘電性複合材料を得ることができる。
【0052】
本発明の誘電性複合材料は、高比誘電率で低誘電正接を示し、射出成形などの溶融加工が容易であることから、これらの誘電特性が要求される技術分野において広く用いることができる。これらの誘電特性が要求される技術分野の代表例としては、誘電体アンテナのアンテナ基板が挙げられる。
【0053】
誘電体アンテナとしては、例えば、マイクロストリップアンテナ(パッチアンテナ)、スロットアンテナ、スパイラルアンテナ、ダイポールアンテナなどが挙げられる。この他、誘電体アンテナとしては、異なる複数の周波数帯を有するパッチアンテナを一体に統合した統合アンテナ;回路基板上に複数種のアンテナを配置した複合アンテナ;誘電性複合材料を成形してなるレンズ本体を含むレンズアンテナ;などが挙げられる。
【0054】
本発明の誘電性複合材料をアンテナ基板に成形する方法としては、射出成形、圧縮成形、押出成形、圧延成形などが挙げられるが、これらの中でも、成形加工性に優れ、複雑な形状の成形物でも容易に成形することができることから、射出成形が好ましい。アンテナ基板の形状は、平板、直方体、その他の複雑な立体構造を持つ成形体など任意である。本発明の誘電性複合材料からなるアンテナ基板を備えた誘電体アンテナは、小型化が可能であるだけではなく、複雑な形状に賦形することができるため、各種形状の筐体内に収容することが容易である。
【0055】
誘電体アンテナは、平板や直方体などの各種形状を持つアンテナ基板上に、導体回路を形成した構造を有している。誘電体アンテナの具体例について、
図3を参照しながら説明する。
【0056】
誘電性複合材料を用いて平板を成形し、縦40mm×横40mm×厚み2mmのアンテナ基板31を作製する。該基板の裏面全体に、接地のための銅箔テープ〔(株)タカチ電機工業製CUL025TまたはCUL−50T〕32を貼り付ける〔
図3(a)及び(c)〕。該基板の表面(アンテナ面)に、必要サイズより大き目の銅箔テープを中心付近に貼り付け、カッターを用いて寸法どおりの大きさにカットして、銅箔からなるパッチ33を形成する〔
図3(b)〕。該基板の四隅に、直径3mmの取付け穴34を開ける。銅箔テープ32及び33を貫通する直径1.4mmの給電点穴35を開ける。該基板の裏面にSMAコネクタ36を取り付ける〔
図3(a)及び(c)〕。給電点のピン37を半田付け38する。その後、SMAコネクタ36での反射特性(SWR)を確認しながらパッチ33の微調整を行う。
【0057】
アンテナ基板上への導体回路の形成方法としては、銅箔テープを貼付する方法以外に、無電解めっき法により銅及び/またはニッケルなど金属をめっきし、めっき層が所望のパターンとなるようにホトリソグラフィー法によりエッチングする方法などがある。
【実施例】
【0058】
以下、実施例及び比較例を挙げて、本発明についてより具体的に説明する。各種物性及び特性の測定法と評価法は、下記のとおりである。
【0059】
(1)平均粒径
平均粒径は、空気透過法(フィッシャー法)により測定した。
【0060】
(2)BET比表面積
BET比表面積は、N
2吸着によるBET法により測定した。
【0061】
(3)見掛け密度
見掛け密度は、JIS K 5101に記載の方法に従って測定した。
【0062】
(4)結晶化度
結晶化度は、X線回折によるペロブスカイト結晶構造のメインピークと他の結晶構造のピークとの強度比に基づいて算出した。
【0063】
(5)粒子形状
一次粒子径と粒子形状は、走査型電子顕微鏡写真で判定した。
【0064】
(6)比誘電率及び誘電正接
キーコム社製摂動式空間共振装置を用いて、温度25℃及び周波数2.5GHzの条件下での比誘電率(ε
r)及び誘電正接(tanδ)を測定した。具体的には、誘電性複合材料を成形して得られた平板から、縦2mm×横30mm×厚み1.5mmの試料を3個切り出した。
図4に示すように、共振器41とベクトルネットワークアナライザ42とパーソナルコンピュータ43を接続し、測定周波数2.5GHz、測定環境温度25℃で測定した。共振器に試料を挿入したものと、挿入していないものとの共振周波数とQ値との差により、比誘電率と誘電正接の測定値を求めた。3個の試料の測定値の平均値(n=3)を求めた。
【0065】
(7)アンテナ評価法
図5に示す装置を用いて、アンテナを評価した。信号発生器(アンリツ MG3694A)51と、取付け治具(アクリル板)52に取り付けた反射板(アルミニウム製100mm×100mm)53を接続し、該反射板53の片面にアンテナ(パッチアンテナ)54を取り付ける。これらに対向して、ダブルリッジアンテナ(アドバンテスト社製、型名TR 17206、周波数1〜18GHz、平均電力利得10.7dB)55を配置し、該ダブルリッジアンテナ55をスペクトラムアナライザ(アンリツ社製MS2668C)56に接続する。測定結果は、パーソナルコンピュータ57に表示する。信号発生器51からダブルリッジアンテナ55までは、20〜30℃の電波暗室中に配置する。
【0066】
[実施例1]
炭酸カルシウムと酸化チタンを所望の組成(Ca:Ti=50モル:50モル)となるように計量・混合し、電気炉で1200℃で2時間焼成した。焼成物を粉砕して、平均粒径1.6μm、BET比表面積1.2m
2/g、見掛け密度1.2g/cm
3、結晶化度98%で、一次粒子の粒径が1.0μm以下の小粒子30容量%と一次粒子の粒径が1.0μm超過の大粒子70容量%とを含有するチタン酸カルシウム粉末(粒子)を得た。
【0067】
[比較例1]
焼成温度を1100℃に変更したこと以外は、実施例1と同じ条件で焼成物を作製し、該焼成物を粉砕して、平均粒径0.6μm、BET比表面積3.4m
2/g、見掛け密度0.6g/cm
3、結晶化度94%で、一次粒子の粒径が1.0μm以下の小粒子70容量%と一次粒子の粒径が1.0μm超過の大粒子30容量%とを含有するチタン酸カルシウム粉末(粒子)を得た。
【0068】
[実施例2]
実施例1と同様にして焼成物を作製し、該焼成物の粉砕条件を変更して、表1に示す平均粒径とBET比表面積とを有するチタン酸カルシウム粉末を得た。このチタン酸カルシウム粉末とポリプロピレン(住友化学製AZ564;ASTM D 1238に従って測定したMRF=30g/10分)とを重量比85:15の比率(容量比57:43)で2軸押出機に供給し、230℃で溶融混練し、ダイからストランド状に押出し、急冷しながらカットしてペレットを作製した。このペレットを射出成形機に供給し、220℃で縦40mm×横40mm×厚み2mmの平板(アンテナ評価試料)、及び縦40mm×横40mm×厚み1.5mmの平板(カットして比誘電率と誘電正接測定試料とする)を作製した。結果を表1に示す。
【0069】
[実施例3〜9]
実施例1と同様にして焼成物を作製し、該焼成物の粉砕条件を変更して、表1に示す平均粒径とBET比表面積とを有する7種類のチタン酸カルシウム粉末を得た。これらのチタン酸カルシウムを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、それぞれ測定用の2種類の平板を作製した。結果を表1に示す。
【0070】
[比較例2〜4]
比較例1と同様にして焼成物を作製し、該焼成物の粉砕条件を変更して、表1に示す平均粒径とBET比表面積とを有する3種類のチタン酸カルシウム粉末を得た。これらのチタン酸カルシウムを用いたこと以外は、実施例2と同様にして、それぞれ測定用の2種類の平板を作製した。結果を表1に示す。
【0071】
【表1】
【0072】
<BET比表面積と誘電正接との関係>
表1に示す結果に基づいて、チタン酸カルシウム粉末のBET比表面積と、該チタン酸カルシウムを含有する誘電性複合材料の誘電正接(tanδ)との関係を
図1に示す。
【0073】
<K−Aの関係>
チタン酸カルシウム粉末のBET比表面積と平均粒径との関係を下記式1で表わされるK値で表記し、誘電性複合材料の比誘電率と誘電正接との関係を下記式2により比誘電率一体に規格化する。
【0074】
K=BET比表面積(m
2/g)/平均粒径(μm) ・・・1
A=〔tanδ/(εr−1)〕×10000 ・・・2
【0075】
表1に示す結果に基づいて、K−Aの関係を
図2に示す。K値が2.5以下の場合が実施例2〜9に対応し、それより大きい場合が比較例2〜4に対応する。
【0076】
<アンテナ性能評価>
実施例2〜9及び比較例2〜4で作製した平板を用いて、
図3に示す構造の誘電体アンテナ(パッチアンテナ)を作製し、電波暗室で
図5に示す評価系を用いて、アンテナ性能を評価した。パッチアンテナを取り付けている回転台58を−180度から180度まで回転させ、パッチアンテナ側より送信した電波の受信レベルをダブルリッジアンテナで測定した。この測定結果と理論値より、放射効果を求めた。結果を表2に示す。
【0077】
【表2】