【文献】
梶洋隆 等,エンジン制御パラメータの実験ベース進化的多目的最適化,YAMAHA MOTOR TECHNICAL REVIEW,2007年12月,No.43
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
エンジンの制御要素に係る設定値に従って制御駆動される当該エンジンの性能を所定の走行モードによってシミュレーションする過渡走行シミュレーション装置が実行する方法であって、
前記過渡走行シミュレーション装置は、
前記走行モードについてエンジンの回転速度ごとに加速時間の頻度を対応付けた走行頻度表を記憶する走行頻度表データ記憶部と、
前記走行頻度表データ記憶部に記憶された各回転速度について、所定の頻度より高い頻度の加速時間ごとに、複数の変更した設定値を用いてエンジンの駆動試験を行い、前記エンジンの性能を示す複数種類の出力値を計測した過渡駆動データから抽出された最適解であって、前記複数の変更した設定値による複数種類の出力値の組み合わせが、他の設定値による出力値の組み合わせに優越されないような設定値である前記最適解を記憶する最適解データ記憶部と、を備え、
前記方法は、
前記最適解データ記憶部から一組の最適解を取得する最適解取得ステップと、
前記最適解取得ステップによって取得された前記一組の最適解に基づいて、前記回転速度及び前記加速時間ごとに負荷の入力に対して前記エンジンの性能を示す出力値を出力する近似モデルを作成する近似モデル作成ステップと、
前記近似モデル作成ステップによって作成された近似モデルと、前記所定の走行モードとによって、前記エンジンの性能を算出する性能算出ステップと、
前記性能算出ステップによって算出された性能が、所定の規定値を満たすか否かを判定し、所定の規定値を満たさないと判定した場合に、前記最適解取得ステップによる取得と前記近似モデル作成ステップによる作成と前記性能算出ステップによる算出とを繰り返す規定値判定ステップと、
前記規定値判定ステップによって前記規定値を満たすと判定された前記一組の最適解を記憶する最適解格納ステップと、
前記最適解格納ステップによって記憶された前記一組の最適解に対応するマップであって、前記回転速度及び前記負荷に対して前記設定値をマップ化した前記マップを作成するマップ作成ステップと、
を備える方法。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、本発明の実施形態について図に従って説明する。
【0025】
図1は、過渡走行シミュレーション装置10による処理の概要を示す図である。過渡走行シミュレーション装置10は、走行モードを分析した走行頻度表と、最適解(パレート解)データとに基づいて、多層過渡近似モデルを作成し、作成した多層過渡近似モデルから最適のECUマップを作成する。
【0026】
ここで、走行頻度表は、走行モードを構成するデータが、回転速度、負荷及び加速時間によって分析され、例えば、回転速度ごとに加速時間(1秒〜9秒)の頻度が対応付けられることによって作成される(後述する
図7、
図8参照)。すなわち、走行モードにおいて加速したり減速したりする過渡状態は、回転速度ごとの加速時間(1秒〜9秒)の頻度によって走行頻度表として表わされる。走行モードを分析したデータは、例えば、過渡運転試験装置1によって作成される。
【0027】
最適解(パレート解)データは、走行頻度表において所定の頻度より高い頻度の加速時間について計測され、収集された過渡駆動データ(後述する
図9から
図11参照)について遅れ補正等が行われ、回転速度及び加速時間ごとにグループ化され、モデリング及び最適化されることによって作成される(後述する
図12から
図16参照)。最適解データは、例えば、過渡運転試験装置1によって作成される。
【0028】
多層過渡近似モデルは、最適解(パレート解)データのうちから取得された一組の最適解に対し近似モデル(例えば、一次近似モデル)を回転速度及び加速時間ごとに作成することによって作成される(後述する
図18参照)。
【0029】
過渡走行シミュレーション装置10は、多層過渡近似モデルによって、走行モード(例えば、JE05)におけるエンジンの性能(NOx値やオパシ値等)をシミュレーションして算出し、算出した値が所定の規定値以内であるかを判定する。判定がNGである場合、過渡走行シミュレーション装置10は、次の一組の最適解によって多層過渡近似モデルによるシミュレーションを繰り返す。判定がOKである場合、過渡走行シミュレーション装置10は、その多層過渡近似モデルからECUマップを作成する。
【0030】
過渡走行シミュレーション装置10に走行頻度表及び最適解データを提供する過渡運転試験装置1は、
図2に示すように、駆動対象となる自動車用エンジン2(以下、エンジンという。)にECU3(エンジンコントロールユニット)と排気ガス計測機4(以下、計測機という。)とを介して接続される。
【0031】
エンジン2には、ECU3(エンジンコントロールユニット)が接続される。このECU3は、ECU3内の記憶部(図示せず)に記憶されたエンジン2の制御要素の設定値(ECUマップ)に基づいて、エンジン2を制御駆動可能に構成される。また、ECU3は、エンジン2を直接制御する制御要素(燃料噴射タイミング、燃料噴射量等の内燃機関に関する制御要素)に加えて、エンジン2に間接的に影響を与える制御要素(吸排気機関等に関する制御要素)を制御可能に構成される。本実施形態においてECU3は、少なくとも、回転数、トルク、燃料噴射量、後述するEGR開度、又は、後述するVGT開度等のエンジン2の駆動に関する制御が可能に構成される。
【0032】
また、エンジン2の吸排気管5には、EGRユニット6と、VGTユニット7とが接続される。
なお、EGR(排気再循環、Exhaust Gas Recirculation)とは、燃焼後の排気ガスの一部を取り出し、吸気側へ導き再度吸気させることであり、シリンダへの再度の吸気により、シリンダ内の燃焼温度を下げて、排気ガス中のNOx(窒素酸化物)の排出量を抑制することを目的として行われる。吸気への再吸気の調節は、排気管5に接続され、シリンダに接続される排気流弁(EGRバルブ)の開閉の割合(以下、EGR開度という。)を変化させて行う。本実施形態において、ECU3は、エンジン2の吸排気制御をEGRバルブの開閉により制御する。
【0033】
また、VGT(可変容量ターボ、Variable Geometry Turbocharger)とは、排気ガスを利用して、過給機のタービンを回して、圧縮した空気をシリンダ内に送り込むことであり、自然吸気による吸気を超える混合気をシリンダ内に送り込むことができるため高い出力を得る目的として行われる。シリンダへの送風の調節は、吸気側に設けられるVGTバルブの開閉の割合(以下、VGT開度という。)を変化させることにより行われる。本実施形態において、ECU3は、エンジン2の吸排気制御をVGTバルブの角度により制御する。
【0034】
さらに、エンジン本体2及びエンジン2の排気管5には、計測機4が接続される。
計測機4は、主に排気ガス等のエミッション要素や燃料消費等を計測可能に構成される。
また、計測機4は、本実施形態においては、エミッション要素のうち、少なくとも、スモークオパシ(以下、単にオパシという。)、一酸化炭素、二酸化炭素、NOx又はHC(炭化水素)を計測可能に構成される。なお、オパシは、計測機4により、排気ガス中の粒子状物質に対する光の透過率(スモーク透過度)として、計測される。
【0035】
過渡運転試験装置1は、
図3に示すように、記憶部11と、処理部12と、表示部13と、操作入力部14と、を備える。処理部12は、データ取得部121と、変更箇所決定部122と、対応付け部123と、最適解選択部127と、最適解抽出部130とを備える。
【0036】
記憶部11は、実験計画データや取得されたデータ等を記憶する。操作入力部14は、ECU3の設定変更等をユーザにより操作可能に構成される。表示部13は、ECU3の設定結果や処理部12での処理結果、初期設定等を表示する。本実施形態における過渡運転試験装置1は、入出力及び操作可能な演算処理装置であるコンピュータとして構成される。
処理部12は、実験計画法に基づいて算定されたデータ(以下、実験計画データという。)や取得されたデータに基づいて、ECU3の設定を行う。
【0037】
このように構成される過渡運転試験装置1により、実験計画データに基づいて、ECU3が設定される。そして、このECU3の設定に基づいて、エンジン2を制御駆動させた結果を計測機4で計測する。
【0038】
以上のように構成される過渡運転試験装置1は、過渡状態のうちの加速状態において所定の基準を満たしながら、トレードオフの関係となる最適なエンジン2の出力を発揮することができるエンジン2の設定値を選択する機能を有する。
【0039】
なお、過渡状態とは、試験時間内において、エンジン2の設定値を変化させ続けた状態(例えば、所定の時間内にスロットルを開き続けた状態)のことをいい、加速状態及び減速状態を含むものである。本実施形態においては、過渡状態の中でも、加速状態における過渡運転試験装置1によって作成されたデータが用いられる。また、本実施形態において、加速状態とは、所定時間において、スロットル開度を0%から100%まで上げた状態をいう。
これに対して定常状態とは、過渡状態に対応する用語であり、試験時間内において、エンジン2の設定値を変化させない状態のことをいう。
【0040】
また、所定の基準とは、例えば、燃料消費基準や排気ガス基準であり、本実施形態においては、排気ガス基準のうち、排気ガス基準(走行モード(JE05)に従った駆動試験下における排気ガスの基準)を満たすことを前提とする。
また、トレードオフの関係とは、一方を追求すれば他方を犠牲にせざるを得ないという二律背反する関係(例えば、エミッション要素のうち、NOxとオパシとの関係)をいう。
【0041】
データ取得部121は、本実施形態においては、車両諸元データd1、走行モードデータd2、定常駆動データd3、過渡駆動データd4及び走行頻度表データd5を取得する。
【0042】
車両諸元データd1は、例えば、エンジンのアイドル回転速度や定格回転速度等、車両の質量や、全高、全幅、タイヤ径、ギア比等の車両の情報のデータである。
走行モードデータd2は、排ガス規制基準の目安となる走行状態を規定したデータである。
定常駆動データd3は、所定の設定の下、定常状態(スロットル開度一定にした状態)でエンジン2を駆動させて実際に計測をした出力値や、計測した出力値(実測値)から予測した出力値(予測値)の設定データである。
過渡駆動データd4は、所定の設定の下、加速状態においてエンジン2を駆動させて、実際に計測をした出力値や、計測した出力値(実測値)から予測した出力値(予測値)の設定データである。本実施形態において、過渡駆動データd4は、所定の回転数及び所定の加速時間において、EGR開度及びVGT開度を変化させた駆動試験において計測されるデータである。所定の加速時間は、走行頻度表データd5を参照し、回転速度ごとの所定の頻度より頻度の高い加速時間である。
走行頻度表データd5は、走行モードデータd2を解析することにより作成される。
【0043】
次に、最適解データd6について説明する。最適解データd6は、データ取得部121によって取得された過渡駆動データd4から、最適解抽出部130が最適解を抽出することにより、作成される。
【0044】
具体的には、データ取得部121は、エンジン2の制御要素(例えば、EGRとVGTに関する制御要素)に係る設定値(例えば、EGR開度とVGT開度)に従って制御駆動されたことにより出力される、互いにトレードオフの関係となる複数種の出力要素(例えば、NOxとオパシ)に係る出力値(例えば、NOx値とオパシ値)の組み合わせを、所定の時間加速させた状態で設定値を複数変更して取得する。
【0045】
例えば、データ取得部121は、エンジン2を、走行頻度表データd5を参照し、回転速度ごとの所定の頻度より頻度の高い加速時間(例えば、
図8において750rpmの場合に、頻度5パーセント以上の加速時間)内で設定値(EGR開度やVGT開度)を変更することより制御駆動した結果の出力値(NOx値とオパシ値)を取得する。
【0046】
対応付け部123は、出力値(NOx値とオパシ値)の組み合わせと設定値(EGR開度とVGT開度)とを対応付ける。対応付け部123は、取得した出力値の計測機4による計測誤差を調整するために、遅れ補正部124と、応答曲面モデル作成部125と、出力値評価部126とを有する。
【0047】
遅れ補正部124は、エミッション要素を測定するために、計測時間と設定制御時間とのずれが生じるために設定値と出力値との対応付けを行う。応答曲面モデル作成部125は、応答曲面モデルを作成する。出力値評価部126は、遅れ補正部124により対応付けられた出力値の評価を、応答曲面モデル作成部125によって作成された応答曲面モデルに従って計算し、計算した出力値の評価を行う。出力値の評価とは、計測された出力値の計測上の誤差等の評価である。
【0048】
最適解選択部127は、対応付け部123により対応付けられた複数の出力値の組み合わせ(NOx値とオパシ値との組み合わせ)に基づいて、他の出力値の組み合わせに優越
されない出力値の組み合わせである最適解(NOx値とオパシ値との組み合わせ)を選択する。最適解が求められることにより、出力値と設定値とが対応付けられているために、NOx値とオパシ値との組み合わせに対応するEGR開度とVGT開度を知ることができる。
【0049】
なお、最適解(パレート解)とは、複数の出力値(NOx値とオパシ値)の組み合わせの中で、所定の出力値の組み合わせにおいて、所定の組み合わせを構成する一方の出力値(NOx値)が他の組み合わせの出力値(NOx値)よりも優れており、他方の出力値(オパシ値)が他の組み合わせの他方の出力値(オパシ値)よりも劣っていない出力値の組み合わせのことをいう。つまり、最適解(パレート解)は、ある目的関数の値を改善するためには、少なくとも他の1の目的関数の値を改悪せざるを得ないような数学における最適化問題の解と定義される。
また、数学における最適化問題においては、本実施形態において出力値に相当する用語が目的関数であり、設定値に相当する用語が設計変数である。この際、最適化とは、上述した最適解を算出(選択)することであり、多目的最適化とは、複数のトレードオフの関係となる目的関数についての最適解の算出(選択)することをいう。
【0050】
最適解選択部127は、データ取得部121により取得された出力値(NOx値とオパシ値)に基づいて、最適解を選択する。最適解選択部127は、取得する出力値の組み合わせにより、1の最適解又は複数の最適解(最適解集合)を選択(算出)する。
【0051】
このように構成される過渡運転試験装置1は、例えば、実際の使用頻度の高い加速時間内でエンジン2の制御要素の設定値を変更して制御駆動した場合のトレードオフの関係にある複数の出力要素の出力値の組み合わせ(NOx値とオパシ値の組み合わせ)を外部装置等からデータ取得部121により取得する。
【0052】
そして、過渡運転試験装置1は、データ取得部121により取得した出力値の組み合わせに基づいて、複数の出力値の組み合わせを選択(算出)することができる。
また、過渡運転試験装置1は、これら複数の出力値の組み合わせのうちで、他の出力値の組み合わせに優越されることがない出力値の組み合わせを複数選択(算出)することができる。
【0053】
このように算出される他の出力値の組み合わせが優越しない出力値の組み合わせは、トレードオフの関係にある出力値の組み合わせの中では、最適な組み合わせであるために、ユーザは、ユーザのニーズに合った出力値の組み合わせを選択することができる。
【0054】
また、最適解選択部127は、データ取得部121により取得された出力値を初期値として、多目的遺伝アルゴリズムを利用して選択(算出)する。
【0055】
最適解選択部127は、初期値抽出部128と、最適解探索部129とを有する。初期値抽出部128は、後述する多目的遺伝アルゴリズムの初期化工程を行うための初期値を出力値から抽出する。最適解探索部129は、初期値抽出部128により抽出された初期値から最適解を探索する。
【0056】
多目的遺伝アルゴリズムとは、多目的最適化問題の解を導き出す手法の一種であり、多目的最適化問題を多点検索という機能を利用して解を導き出すことができる。本実施形態においては、この多目的遺伝アルゴリズムを用いて、トレードオフの関係となる目的関数の組み合わせのうち、他の目的関数の組み合わせに優越するような組み合わせとなる最適解集合を(選択)算出する。
【0057】
また、多目的遺伝アルゴリズムとは、概念的には、解の候補を複数算出し、これらを生物(遺伝子)と考える。この解は、最適化に適した遺伝子は自らのコピーを作ることができ、適さない解は死滅すると捉えて消去(淘汰)される。また、この解は、コピーを作る際に突然変異及び交叉が起きて新たな解が次々と生成される。このようにして、多目的遺伝アルゴリズムは、複数の解から淘汰、交叉、又は突然変異を繰り返すことによって、最適解へ向けて複数の解が収束し、最終的に最適解の集合を導き出すことができる。
【0058】
したがって、過渡運転試験装置1においては、多目的遺伝アルゴリズムの多点探索を利用して複数の最適解(最適解集合)を算出するために、例えば、スカラ手法等に比して、1度の探索で最適解集合を効率的に算出することができ、エンジン開発に係る時間を短縮することができる。
【0059】
変更箇所決定部122は、所定の時間内に加速を行わない定常状態で駆動制御した結果の出力値に基づいて、所定の加速時間における設定値の変更箇所を決定する。
【0060】
次に、過渡運転試験装置1による走行頻度表データd5と、最適解データd6との作成処理の流れについて、
図4を用いて説明する。
まず、データの作成処理の概要について説明する。データの作成処理は、データ取得工程ST1と、対応付け工程ST2、最適解選択工程ST3と、最適解抽出工程ST4とからなる。
【0061】
データ取得工程ST1は、外部装置等によりエンジン2の制御要素に係る設定値に従って制御駆動されたことにより出力され、互いにトレードオフの関係となる複数種の出力要素に係る出力値の組み合わせを、所定の時間加速させた状態で設定値を複数変更して取得する。
対応付け工程ST2は、データ取得工程ST1により取得された出力値と設定値とを対応付ける。
最適解選択工程ST3は、前記対応付け工程により対応付けられた複数の出力値の組み合わせに基づいて、他の出力値の組み合わせに優越
されない出力値の組み合わせである最適解を選択する。
最適解抽出工程ST4は、最適解を抽出し、最適解データd6を作成する。
【0062】
次に、走行頻度表データd5の作成について説明する。
本実施形態におけるエンジン2の駆動試験(以下、単に駆動試験という)は、実験計画法により決定され、所定の回転数(750rpm、1000rpm及び1250rpm)で、所定の時間(2秒、3秒、4秒、5秒、6秒、7秒、8秒及び9秒)エンジン2を加速させる。各時間においてエンジン2を加速させた状態で、所定のポイント(秒数)で設定値(EGR開度及びVGT開度)を変更させた状態で出力(エミッションの内、本実施形態においてはNOx及びオパシ)を計測する。また、所定ポイントでの各設定値は、本実施形態においては25パターンの組み合わせが設定される。
なお、本実施形態において、所定のポイントとは、
図9(a)から(c)に示すように、ベースマップに基づいて決定された切り替えポイントP(後の変更箇所決定部122において詳述する。)において、EGR開度及びVGT開度の設定値を変更するポイントである。
【0063】
したがって、駆動試験は、25パターンの設定値を変更させたものを、回転数ごとに行い、さらに、加速時間(秒数)を変更して行う。そして、実測の精度を高めるために同設定において3反復(3回)の駆動試験を行う。
【0064】
具体的には、本実施形態において、エンジン2装置から取得される出力値は、所定の回転数においてエンジン2を駆動させ、所定の時間内でスロットル開度を0%から100%(閉状態から全開状態)まで調整した状態(加速状態)でEGR開度とVGT開度を変更して得たエミッション(NOx値とオパシ値)の積算値を用いる。
【0065】
したがって、最適解の選択(算出)及びECUマップの作成は、所定加速時間及び所定の回転数の条件下で、25パターンの設定値の設定状態でのデータに基づいて行われる。したがって、25パターンで3反復の計75回の駆動試験が行われる。この駆動試験が、所定の回転数(本実施形態においては、3回転数)について行われ、最終的には、これらについて、所定の加速時間(本実施形態においては、8段階の時間)で行われる。
【0066】
なお、上述した加速時間は、
図7(a)に示す走行データ(本実施形態においては、走行モード(JE05)下における排気ガス基準)に基づいて決定される。
加速時間の決定方法は、まず、
図7(a)に示す走行データでの加速時間の頻度を算出することにより行われる。
図7(b)に示すように、各速度の変化から加速箇所を特定する。次に、特定された加速箇所において、
図7(c)に示すように、速度変化をスロットル開度の移行時間に変換することにより、加速時間を割り出す。
全加速箇所において、加速時間を割り出すことにより、加速時間の頻度が分かるために、この加速時間の頻度と、駆動試験の実施回数とを考慮して、駆動試験に供する加速時間を決定する。
【0067】
すなわち、データ取得部121は、走行モードデータd2(例えば、JE05データ)を解析し、回転速度ごとの加速時間の頻度を算出する。具体的には、データ取得部121は、走行モードデータd2に記憶されたデータを解析し、トルクが変化している箇所(例えば、
図4(a)において車速が変化している箇所)を検出する。次に、検出したトルク変化の箇所において、0から100パーセント移行時間を計算する。例えば、
図7(c)において、トルク変化をスロットル開度に対応付けて、スロットル開度が0から100%になる時間を計算する。計算した時間は、加速時間である。次に、データ取得部121は、例えば、1秒刻みで加速時間の頻度を求める。
【0068】
そして、データ取得部121は、回転速度ごとに加速時間の頻度を計算し、走行頻度表データd5(
図8参照)を作成する。
図8は、本発明の一実施形態における走行頻度表データd5の例を示す図である。
図8の例において、走行モードデータd2から解析された走行頻度表データd5は、回転速度(例えば、750rpm〜2500rpm)ごとに加速時間(2秒から9秒)ごとの頻度(割合)を対応付けている。頻度(割合)は、加速時間ごとにカウントした回数の合計に対する各加速時間の割合(%)である。なお、計算した加速時間は、0〜2.5秒以下を2秒加速とし、順次1秒ごととし、8.5秒〜10秒以下を9秒加速としている。このように作成された走行頻度表データd5は、走行モードデータd2(例えば、JE05データ)の回転速度ごとの加速時間の頻度を表わしている。なお、本実施形態では、データ取得部121が、走行頻度表データd5を作成するとしたが、別装置、例えば、走行モード解析装置(図示せず)が作成するとしてもよい。
【0069】
また、駆動試験を行う前に、加速状態で最適な設定を行うために、加速時間内で設定値の変更を行う。このため、加速時間内で変更を行うタイミング(変更箇所)、設定値の変更回数及び変更値の決定をする。変更箇所の決定方法について
図9を用いて説明する。なお、
図9中において、四角はベースマップでの所定の噴射量におけるEGR開度の設定値を示し、三角及び丸は切り替えポイントPに基づいて、任意に決定された所定の噴射量におけるEGR開度の設定値を示す。また、
図9中において、P1及びP2は切り替えポイントであり、BP1は安定した運転ができる限界最小点(最小ベースポイント)であり、BP2は安定した運転ができる限界最大点(最大ベースポイント)である。
【0070】
設定値の変更箇所は、変更箇所決定部122により、データ取得部121で取得された定常状態での設定値のデータ(ベースマップ)に基づいて、決定される。
ベースマップは、例えば、
図9(a)において、四角で示すように、定常状態の運転により測定された値(本実施形態においては、オパシ値及びNOx値)を基にして決定された各噴射量での最適な設定値(EGR開度)からなる。すなわち、ベースマップは、予め行われた定常適合試験の結果、作成されたECUマップである。
【0071】
変更箇所決定部122は、設定値の変更回数を決定する。本実施形態においては、駆動試験の精度と時間を考慮して設定値の変更回数を2回(切り替えポイントP1及び切り替えポイントP2)とされる。なお、本実施形態において、切り替えポイントの数(設定値の変更回数)は、駆動試験の精度と駆動試験の時間を考慮して2回としたが、これに限られない。切り替えポイントの数は、例えば、さらに精度を高めたい場合には回数を多く設定し、駆動試験の試験時間を短くしたければ回数を少なくする等の指標等に基づいて、任意に決定することができる。また、切り替えポイントの設定箇所は、任意の箇所に設けてもよく、本実施形態においては、例えば、ベースマップにおいてEGR開度の変化率が大きいポイント(変曲点)とする(750rpmの場合にあっては、
図9(a)に示すように、噴射量30を切り替えポイントP1とし、噴射量60を切り替えポイントP2とする)。
【0072】
変更箇所決定部122は、各切り替えポイントP1、P2におけるベースマップの値に基づいて、切り替えポイントP1、P2の設定値を決定する。本実施形態においては、ベースマップの値に対して、任意の高い値と低い値を設定値として決定する、つまり、各切り替えポイントP1、P2において3つの設定値のパターン(3基準)により駆動試験が行われる。なお、本実施形態においては、各切り替えポイントP1、P2でのEGR開度の値は、ベースマップの値を中心にして、3つ(3基準)設けたがこれに限られず、例えば、駆動試験の精度や駆動試験の時間等を考慮して決定される。
【0073】
したがって、EGR開度は、駆動試験の開始時、ベースポイントBP1、切り替えポイントP1、切り替えポイントP2及びベースポイントP2での設定値により値が推移する。具体的には、例えば、750rpmの場合には、
図9(a)に示すように、まず、駆動試験の開始からベースポイントP1まで、安定した運転を行うために一定の値で推移する。次に、切り替えポイントP1で所望の設定値になるように調整されるため値が変動する。次に、切り替えポイントP1から切り替えポイントP2で所望の設定値となるように調節されるため値が変動する。次に、切り替えポイントP2からベースポイントBP2で所望の設定値になるように調節されるため値が変動し、ベースポイントP2以降は安定した運転を行うために一定の値で推移する。また、1000rpm及び1250rpmの場合にあっても、同様の設定(切り替えポイントP等)で行われ、EGR開度が推移する(
図9(b)及び
図9(c)参照)。
【0074】
以上のように、EGR開度の設定により駆動試験が行われる。また、本実施形態においては、EGR開度の設定変更と同様(切り替えポイントP1、P2)に、VGT開度についても任意に決定した設定値での変更を行う。なお、本実施形態においてVGT開度の設定についても、EGR開度と同様に、VGR開度のベースマップから変更箇所を設定して、3基準で設定値を変更して行う。
【0075】
したがって、駆動試験においては、所定の時間での所定の回転数(例えば、2秒加速時間での750rpm)について、切り替えポイントP1、P2のEGR開度の設定を3基準において行い(9パターンの組み合わせ)、さらに、VGT開度の設定を同様に行う(全81パターンの組み合わせ)。本実施形態においては、実験計画法により、実際には全81パターンの組み合わせのうち、25パターンの組み合わせが選定される。そして、この25パターンの組み合わせにより駆動試験を行う。なお、本実施形態においては、試験精度を高めるために各パターンについて3反復の駆動試験を行う。このため、駆動試験の回数は、75回となる。
【0076】
次に、最適解データd6の作成処理の詳細について、
図4を用いて説明する。
ステップST10においては、データ取得部121は、計測機4から駆動試験により計測した出力値の取得を行う。駆動試験は、
図10(a)に示すように、所定時間(例えば、2秒)においてスロットル開度を0%から100%まで変化させて行う。
図10(a)において、スロットル開度を0%から100%まで変化させると、スロットル開度の変化に伴って、スロットルに対応する鎖線で示す燃料噴射量も変化する。また、上述した変更箇所決定部122により決定された設定値の変更箇所(切り替えポイントP1、切り替えポイントP2)を起点に、
図10(a)において実線で示したEGR開度及び
図10(a)において二点鎖線で示したVGT開度を所定の値に変化させる。
【0077】
なお、
図10(a)において、一点鎖線は、トルクを示す。また、BP1は安定した運転ができる限界最小点(最小ベースポイント)であり、BP2は安定した運転ができる限界最大点(最大ベースポイント)である。
【0078】
上述したようにエンジン2を制御駆動することにより、計測機4において、例えば、加速時間2秒についての
図10(b)に示すような出力値(NOx値及びオパシ値)が計測される。なお、
図10(b)において、実線はスロットル開度であり、太線はNOx値であり、二点鎖線はオパシ値である。
【0079】
図10と同様にして、設定値について、例えば、実験計画法により選定された25パターンの出力値を計測する。次に、所定時間を変えて、同様に出力値を計測する。このようにして、
図11に示すように、加速時間ごとに25パターン(例えば、加速時間2秒についてデータ1201から1225、加速時間9秒についてデータ1901から1925)の過渡駆動データd4が作成される。
【0080】
ステップST20において、遅れ補正部124は、ステップST10により取得された出力値の遅れ補正を行う。本実施形態においては、出力値は、エミッションに関する要素(NOx、オパシ)であるため、
図10(b)に示すように、エンジン2の制御時からは遅れて、出力値(NOx値、オパシ値)が取得される。したがって、本工程20において、エンジン2の駆動制御に出力を対応付ける処理を行う。
【0081】
なお、本実施形態で用いるエミッション要素(NOx、オパシ)は、回転速度と加速時間に関わらず、制御に対して一定の時間経過後に制御に対応する値が計測される。遅れ時間は、実験の結果により、回転速度と加速時間に影響を受けないために、一定となる。したがって、遅れ補正部124は、データ取得部121により取得した車両諸元データd1(例えば、車両の大きさ)から予め算出した遅れ時間により、設定値と出力値との対応付けを行う。
【0082】
ステップST30において、応答曲面モデル作成部125は、応答曲面モデルを作成する。例えば、応答曲面モデル作成部125は、回転速度及び加速時間ごとに計測されたNOx値に基づいて、応答曲面モデルを作成する。
【0083】
ステップST40において、出力値評価部126は、出力値の評価を行う。出力値評価部126は、ステップST30で作成した応答曲面モデルに従ってあてはめ値を計算する。次に、出力値評価部126は、ステップST20で対応付けを行った出力値に対して、あてはめ値に対するブレ(
図12(a)を参照)、あてはめ値の残差(
図12(b)を参照)、計測順番からの残差(
図12(c)を参照)、残差に対する正規確率(
図12(d)を参照)を総合的に判定して、出力値の数値の精度を評価する。本工程ST40において、出力値が異常であると判定された場合(NO)には、ステップST10において、再度駆動試験を行い、出力値を取得する。また、本工程ST40において、出力値が正常であると判定された場合(YES)には、ステップST50に進む。
【0084】
ステップST50において、初期値抽出部128は、初期値の抽出を行う。本工程ST50では、多目的遺伝アルゴリズムにおける初期化工程に用いられる初期値の抽出が行われる。初期化工程を視覚的に示すと、
図13(a)に示すように、NOx値とオパシ値を軸とするグラフ上に出力値を点在させた状態である。S1は点在した出力値を示し、S2はS1との関係ではS1に優越した関係となる。
【0085】
ステップST60において、最適解探索部129は、淘汰、交叉及び突然変異を行う。本工程ST60では、多目的遺伝アルゴリズムにおける淘汰工程、交叉工程及び突然変異工程が行われる。淘汰工程、交叉工程及び突然変異工程を視覚的に示す(
図13(b)、(c)を参照)。
図13(b)のS3は淘汰した出力値を示し、
図13(c)のS4は交叉及び突然変異により生成された出力値を示す。
【0086】
ステップST70において、最適解選択部127は、最適解の選択(算出)を行う。最適解選択部127は、ステップST60において、淘汰工程、交叉工程及び突然変異工程が繰り返される中で、他の解に優越
されない解を算出する(
図13(d)を参照)。
図13(d)のS5は、他の解に優越
されない解(最適解)である。このようにして選択された最適解の例を
図15に示す。
【0087】
ステップST80において、最適解抽出部130は、最適解の抽出を行う。最適解抽出部130は、
図14(a)に示すように、ステップST70において算出された最適解集合の中から1の最適解を抽出する。最適解の抽出基準は、オパシ値をベースの値とし、同レベルでNOxを最小にする解を抽出することとする。なお、
図14(a)において、白抜きの三角は計測された出力値を示し、黒塗りの三角はベースマップの出力値を示し、白抜きの四角は選択された最適解を示し、黒塗りの四角は抽出された最適解を示す。
【0088】
このようにして、最適解データd6が抽出される。抽出された最適解データd6の例を、回転速度及び加速時間ごとの表の形式で、
図16に示す。
【0089】
図5は、本発明の一実施形態に係る過渡走行シミュレーション装置10の機能ブロック図である。本発明に係る過渡走行シミュレーション装置10は、データを作成する過渡運転試験装置1を説明するための
図3における記憶部11、処理部12、表示部13及び操作入力部14を過渡運転試験装置1と共有し、処理部12において、
図5に示すように、最適解取得部101と、近似モデル作成部102と、性能算出部103と、規定値判定部104と、最適解格納部105と、マップ作成部106とを備える。
【0090】
最適解取得部101は、最適解データd6から一組の最適解を取得する(
図16参照)。
【0091】
近似モデル作成部102は、
図16に示す各回転速度及び加速時間の多層マップ達成値(積算値)から、負荷と応答変数(例えば、NOx値)の一次近似モデルを作成する。一次近似モデルの説明図を
図17に示す。一次近似モデルは、数式1を用いて作成される。
【0093】
例えば、pはトルク、N(t)は、t秒におけるNOxの値、p(t)は、t秒におけるトルクの値を表わす。pは、時間tについて
図17(1)に示す関係にある。Nは、時間tについて
図17(2)に示す関係にある。よって数式1を用いて、トルクに対するNOxのモデル、例えば、
図17(3)に示す一次近似モデル、を作成することができる。
図17(3)では、切り替えポイントp1及びp2により、p0からp1と、p1からp2と、p2からp3とに分けて、それぞれ数式1によって一次近似モデル、例えば、NOx線形近似モデルを作成している。このような一次近似モデルを作成することにより、N(t)の膨大なデータを持たなくても、各区間の積分値(例えば、積算値)があれば、モデルを作成することができる。各区間の積算値が推測できれば、推測値からモデルを作成することもできる。
そして、近似モデル作成部102は、回転速度及び加速時間ごとに一次近似モデルを作成し、
図18に示される多層過渡近似モデルを作成する。なお、
図18において、単位Qfindは、p(トルク)に相当する。
【0094】
性能算出部103は、近似モデル作成部102によって作成された多層過渡近似モデルと、走行モードデータd2とによって、エンジンの性能を算出する。
【0095】
具体的には、性能算出部103は、次の手順で性能、例えば、NOx値を算出する。
(1)
図7の走行モードデータd2から毎秒の回転、トルク(≒Qfind)、加速時間を計算する。
(2)計算した毎秒の回転と加速時間とに基づいて、多層過渡近似モデルから適用する一次近似モデルを選択する。毎秒の回転と加速時間と複数の一次近似モデルから補間することもできる。
(3)一次近似モデルに、(2)で計算したトルク値を入力し、毎秒のNOx値を得る。
(4)毎秒のNOx値を加算し、累積する。その結果、例えば、
図19のような、走行モードデータd2に従って走行した場合のシミュレーション値が得られる。
【0096】
規定値判定部104は、性能算出部103によって算出された性能が、所定の規定値を満たすか否かを判定し、所定の規定値を満たさないと判定した場合に、最適解取得部101からの処理が繰り返される。具体的には、規定値判定部104は、性能算出部103によって算出された値が、走行モード(例えば、JE05)の規定値を満たすか否かを判定する。規定値を満たさない場合、最適解取得部101による取得と、近似モデル作成部102による作成と、性能算出部103による算出と、規定値判定部104による判定とが繰り返される。
【0097】
最適解格納部105は、規定値判定部104によって規定値を満たすと判定された一組の最適解を記憶する。
【0098】
マップ作成部106は、最適解格納部105によって記憶された一組の最適解に対応するマップを作成する(
図20参照)。マップ作成部106は、噴射量補間部1061と、回転数補間部1062とを有する。噴射量補間部1061は、最適解格納部105によって格納された最適解から、設定値の状態に基づいて、所定の噴射量の範囲内の出力値(予想される出力値)を補間することにより導き出すように構成される。回転数補間部1062は、噴射量補間部1061により導き出された所定の噴射量の範囲内の出力値から、所定の回転数の出力値を補間により導き出すように構成される。
【0099】
このように構成される過渡走行シミュレーション装置10は、例えば、所定の基準を満たしたなかでエンジン2の最適な出力を発揮させ、さらに、NOxの排出量が少ない等の最適解を抽出することにより、この趣旨に沿ったエンジン2の設定(所定範囲における設定値のマップ)を算出し、ECUマップd7を作成することができる。また、このエンジン2の設定をグラフ化(3次元の多層マップや2次元等高線状の多層マップ)して表示することにより、ユーザが視覚的に判断しやすくなる環境を提供することができる。
【0100】
過渡走行シミュレーション装置10による処理内容について、
図6を用いて説明する。
図6は、本実施形態に係る過渡走行シミュレーション装置10の処理内容を示すフローチャートである。
【0101】
ステップST210において、最適解取得部101は、最適解データd6から一組の最適解を取得する。
【0102】
ステップST220において、近似モデル作成部102は、ステップST210において取得した一組の最適解から、回転速度及び加速時間ごとに一次近似モデルを作成し、多層過渡近似モデルを作成する。
【0103】
ステップST230において、性能算出部103は、ステップST220において作成した多層過渡近似モデルに基づいて、走行モードデータd2による性能を算出する。より具体的には、性能算出部103は、走行モードデータd2から毎秒の回転、トルク(≒Qfind)、加速時間を計算する。次に、性能算出部103は、計算した毎秒の回転と加速時間とに基づいて、多層過渡近似モデルから適用する一次近似モデルを選択する。次に、性能算出部103は、一次近似モデルに、計算したトルク値を入力し、毎秒の性能値(例えば、NOx値)を算出する。次に、性能算出部103は、算出した毎秒の性能値(例えば、NOx値)を加算し、累積する。
【0104】
ステップST240において、規定値判定部104は、ステップST230において累積加算された値が所定の規定値以内か否かを判定する。この判定において、規定値判定部104は、所定の規定値以内であると判定した場合に、ステップST250に進み、所定の規定値以内ではないと判定した場合に、ステップST210に進む。
【0105】
ステップST250において、最適解格納部105は、取得した一組の最適解を記憶する。
【0106】
ステップST260において、噴射量補間部1061は、所定噴射量領域のEGR開度(又はVGT開度)の算出を行う。噴射量補間部1061は、ステップST250において記憶された最適解から、本計測時のベースポイントBP1、BP2を基にして、所定の噴射量での値を直線補間により導き出す。
【0107】
本工程ST260において導き出される値は、例えば、750rpmの場合、
図20(2)に示すようなY軸方向の一列Lを構成する値である。本工程ST260は、計測されたすべての回転数において行われる。
【0108】
ステップST270において、回転数補間部1062は、所定回転数領域のEGR開度(又はVGT開度)の算出を行う。回転数補間部1062は、ステップST260において導き出された所定噴射量での値から、所定回転数の値を線形補間により導き出す。したがって、本工程ST270を経ることにより、
図20(1)に示す領域すべての値(加速状態におけるマップ)を導き出すことができる。なお、本実施形態においては、線形補間により、他の回転数の値を導き出したが、これに限られず、例えば、三角メッシュ補間、Akima補間及び格子補間等の補間手法を用いることができる。
【0109】
つまり、ステップST260及びステップST270では、
図14(b)に示すように、まず、抽出した最適解(
図14(b)において、抽出した最適解はハッチング領域で示す。)から、ベースポイントBP1、BP2に基づいて、各噴射量でのEGR開度(又はVGT開度)を補間して求める。これにより、実測した回転数における各噴射量でのEGR開度(又はVGT開度)が求められる。
そして、求められた回転数でのEGR開度(又はVGT開度)から、駆動試験を行っていない回転数での各噴射量におけるEGR開度(又はVGT開度)を補間して求める。
結果的に、ステップST260及びステップST270において、全回転数の各噴射量におけるEGR開度(又はVGT開度)が求められる。
【0110】
ステップST280において、マップ作成部106は、ECUマップd7を作成する。マップ作成部106は、ステップST270において作成された加速状態におけるマップのテーブル値から、3次元のECUマップd7(
図20(1)を参照)及び2次元の等高線状のECUマップd7(
図20(2)を参照)を作成する。
【0111】
本実施形態によれば、過渡走行シミュレーション装置10は、走行モードを分析した走行頻度表データd5に記憶された回転速度及び加速時間のうち所定の頻度より頻度の高い加速時間に基づいて計測した過渡駆動データd4から最適解を抽出した最適解データd6に基づいて、一組の最適解ごとに多層過渡近似モデル(回転速度及び加速時間ごとの一次近似モデル)を作成し、走行モードデータd2によって性能を算出する。そして、過渡走行シミュレーション装置10は、算出した性能が、所定の規定値(例えば、JE05)を満たすか否かを判定し、所定の規定値(例えば、JE05)を満たすECUマップd7を作成する。
したがって、過渡走行シミュレーション装置10は、過渡状態におけるエンジンの性能を客観的に、精度よく推定することができる。
【0112】
なお、本実施形態においては、EGR開度及びVGT開度を設計変数としたが、これに限られない。設計変数は、例えば、ブースト圧や噴射タイミング等の過渡中に運転性能(主にエミッション、燃費、又は燃焼音)に影響を与えるエンジン2の制御要素であればよい。
【0113】
また、本実施形態においては、EGR開度及びVGT開度を設計変数とし、この設計変数に対応する目的変数をNOx及びオパシとしたが、これに限られない。目的変数は、例えば、燃費やエミッション(CO(一酸化炭素、)、CO2(二酸化炭素)、HC(炭化水素))等においてトレードオフの関係にあるものであればよい。
【0114】
また、本実施形態において、加速状態とは、所定時間において、スロットル開度を0%から100%まで上げた状態としているが、スロットル開度の制御は、スロットルの直接制御(定開度制御(AθR))により行ってもよいが、スロットルの間接制御(例えば、定速度制御(ASR)、定トルク制御(ATR)、定吸気圧制御(ABR)等)により行ってもよい。
【0115】
また、本実施形態において、加速時間は、走行モード(JE05)の走行データに基づいて決定したがこれに限られない。加速時間は、例えば、ユーザにより任意の時間に決定してもよく、走行モード(JE05)以外の走行モード(例えば、10・15モード、JC08等)の走行データに基づいて決定してもよい。
【0116】
また、本実施形態においては、多目的遺伝アルゴリズムの多点探索機能を利用して、出力値から最適解を算出したが、これに限られない。最適化問題の解として最適な目的変数の値を導き出すことが可能なものであればよく、例えば、スカラ手法により導き出してもよい。
【0117】
また、本実施形態においては、ハードウエアとなる過渡走行シミュレーション装置10として構成したが、これに限られず、コンピュータにより実行されるソフトウエアとなる制御プログラムとして構成してもよい。