(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら,燃料電池セルとセパレータとをガラスやある特定成分のロウ材だけで接合したときの信頼性は,必ずしも十分とは限らない場合がある。例えば,特定成分のAgロウだけでの接合においては,構造上,Agロウ部が酸化剤ガスと燃料ガスの境界に配置されることになる。このため,長時間の使用により酸化剤ガス側から酸化剤ガスの構成原子(酸素)が,燃料ガス側から燃料ガスの構成原子(水素)が,それぞれAgロウ部内に入り込み,拡散して反応し,Agロウ材にボイド(細孔)が発生し,ガスがリークする可能性がある。また,ガラスだけによる接合では,接合強度が弱く,燃料電池の使用時の構成部品の変形によって,接合部分に応力が発生するので,ガラスが剥がれたり,割れたりする可能性がある。
本発明は,燃料電池セルとセパレータの接合の信頼性をさらに向上した,セパレータ付燃料電池セル,その製造方法,および燃料電池スタックを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
1. 本発明に係るセパレータ付燃料電池セルは,固体電解質層を挟んで片面側に空気極が,該片面側とは反対の面側に燃料極が配置される燃料電池セル本体と,Agを含むロウ材で構成される接合部を介して,前記燃料電池セル本体に取り付けられ,開口部を有する枠状の金属製セパレータと,を具備する,セパレータ付燃料電池セルであって,前記ロウ材よりも開口部側の前記金属製セパレータと前記燃料電池セル本体との間に,ガラスを含む封止材を有する封止部を具備する,ことを特徴とする。
【0008】
金属製セパレータが燃料電池セル本体にAgを含むロウ材で構成される接合部により接合されていることから,外部から応力が印加された場合に,ガラスを含む封止材を有する封止部の変形が防止され,封止部が割れる可能性を低減できる。
また,封止部が接合部よりも開口部側に配置されることから,接合部が直接酸化剤ガスに接触することが無いので,接合部への酸化剤ガスの移動が阻止される。この結果,接合部中で酸化剤ガスの拡散が抑制され,水素と酸素の反応によってボイドが発生することを防止できる。
さらに,封止部は板状の金属製セパレータと燃料電池セルの間に配置されることから,封止材に働く熱応力が,せん断応力になる。このため,封止材が割れにくくなり,また封止部と金属セパレータ若しくは燃料電池セルとの界面での剥がれを抑制でき,封止部の信頼を向上できる。
【0009】
(2)前記接合部が,第1接合部と該第1接合部よりも前記開口部側に位置する第2接合部とで構成され,前記第2接合部中の酸素拡散係数が,前記第1接合部中の酸素拡散係数より小さくても良い。
【0010】
封止部と第1接合部との間に,第1接合部より酸素拡散係数の小さな第2の接合部が配置される。この結果,第1接合部への酸素の拡散を制限し,第1接合部におけるボイドの発生を防止でき,接合部全体の信頼性を向上できる。
【0011】
(3)前記金属製セパレータが,0.1質量%以上10質量%以下のAlを含むことが好ましい。
金属製セパレータにクロミア(酸化クロム)被膜を形成する金属材料(例えば,ステンレス鋼)を使った場合,封止材のガラスがクロミアと反応しやすいため,封止部の信頼性が低下する。金属製セパレータがAlを0.1質量%以上含むと,その表面にアルミナ被膜が形成され,封止部の信頼性及び金属セパレータの耐酸化耐久性が向上する。一方,金属製セパレータがAlを10質量%より多く含むと,金属製セパレータの構成材料が硬くなり,加工しにくくなる。
より好ましくは、前記金属製セパレータが,1.5質量%以上10質量%以下のAlを含む。さらにより好ましくは、前記金属製セパレータが,2.0質量%以上10質量%以下のAlを含むことが好ましい。
【0012】
(4)前記金属製セパレータが,0.5mm以下の厚みを有することが好ましい。
金属製セパレータが,0.5mmより厚いと,複数の燃料電池セル本体を積層して,燃料電池スタックを形成するときに,燃料電池セル本体に印加される応力が緩和されず,燃料電池セル本体と金属製セパレータを接合する接合部や封止部が割れる(損傷する)畏れがある。金属製セパレータが0.5mm以下の厚みを有すると,接合部や封止部に印加される応力が緩和され,接合部や封止部が割れる可能性が低減される。
【0013】
(5)前記接合部と前記封止部との間に,間隙を有しても良い。
接合部と封止部とが接触していなくても,封止部が割れる可能性の低減および接合部中での酸化剤ガスの拡散防止は可能である。また,間隙にガスが入っていても少量であり,接合部の信頼性等への影響は小さい。
【0014】
(6)前記接合部を構成するロウ材の溶融温度は,前記封止材の溶融温度よりも高くても良い。
ロウ材の溶融温度が封止材の溶融温度よりも高くても,燃料電池セル本体と金属製セパレータ間の接合および封止が可能である。例えば,ロウ材による接合後に,封止材による封止を行えば良い。また,ロウ材の溶融温度と封止材の溶融温度の差が大きくなければ,接合と封止を同時に行うことが可能となる。
【0015】
2. 本発明に係る燃料電池スタックは,上記のセパレータ付燃料電池セル,を具備する。
上記のセパレータ付燃料電池セルを用いることで,燃料電池スタック全体としての信頼性が向上する。
【0016】
3. 本発明に係るセパレータ付燃料電池セルの製造方法は,上記のセパレータ付燃料電池セルの製造方法であって,前記金属製セパレータと燃料電池セル本体との両方に前記ロウ材を配置するロウ材配置工程と,前記金属製セパレータと燃料電池セル本体の少なくともどちらか一方に前記ガラスを含む封止材を配置する封止材配置工程と,を具備する,ことを特徴とする。
【0017】
金属製セパレータと燃料電池セル本体との両方に前記ロウ材を配置することで,金属製セパレータと燃料電池セル本体それぞれに予め配置された2つのロウ材が融け,融合することで,接触面積を確保し,接合強度を上げることができる。
【0018】
(1)前記金属製セパレータと燃料電池セル本体との両方に配置されたロウ材を溶融し,前記金属製セパレータと燃料電池セル本体とを接合する接合工程をさらに具備しても良い。
ロウ材を溶融し,金属製セパレータと燃料電池セル本体とを高強度で接合することができる。
【0019】
(2)前記接合工程において,前記ロウ材が大気下でロウ付けされることが好ましい。空気極に使用する材料は真空や還元雰囲気で特性を変化させてしまうためである。
【0020】
(3)前記金属製セパレータと燃料電池セル本体の少なくともどちらか一方に配置された前記ガラスを含む封止材を溶融し,前記封止部を形成する封止部形成工程,をさらに具備しても良い。
封止材を溶融し,金属製セパレータと燃料電池セル本体間を封止できる。
【0021】
(4)前記接合工程と前記封止部形成工程とが,同じ温度と同じ雰囲気下で行われても良い。
接合と封止とを同時に実行でき,製造装置の簡略化や製造時間の効率が向上する。
【0022】
(5)前記接合工程の後に,前記封止材配置工程および前記封止部形成工程が行われても良い。
接合と封止とを別々に実行することで,種々のロウ材と封止材の組合わせが可能となる。接合と封止とを同時に実行するためには,ロウ材の接合温度と封止材の溶融温度がある程度近接していることが好ましく,採用できるロウ材と封止材が限定される。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば,燃料電池セルとセパレータの接合の信頼性を向上した,セパレータ付燃料電池セル,その製造方法,および燃料電池スタックを提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下,本発明に係る固体酸化物形燃料電池について図面を用いて説明する。
【0026】
(第1の実施の形態)
図1は,本発明の第1実施形態に係る固体酸化物形燃料電池(燃料電池スタック)10を表す斜視図である。固体酸化物形燃料電池10は,燃料ガス(例えば,水素)と酸化剤ガス(例えば,空気(詳しくは空気中の酸素))との供給を受けて発電する。
【0027】
固体酸化物形燃料電池10は,エンドプレート11,12,燃料電池セル40(1)〜40(4)が積層され,ボルト21,22(22a,22b),23(23a,23b)およびナット35で固定される。
【0028】
図2は,固体酸化物形燃料電池10の模式断面図である。
固体酸化物形燃料電池10は,燃料電池セル40(1)〜40(4)を積層して構成される燃料電池スタックである。ここでは,判り易さのために,4つの燃料電池セル40(1)〜40(4)を積層しているが,一般には,20〜60個程度の燃料電池セル40を積層することが多い。
【0029】
エンドプレート11,12,燃料電池セル40(1)〜40(4)は,ボルト21,22(22a,22b),23(23a,23b)に対応する貫通孔31,32(32a,32b),33(33a,33b)を有する。
エンドプレート11,12は,積層される燃料電池セル40(1)〜40(4)を押圧,保持する保持板であり,かつ燃料電池セル40(1)〜40(4)からの電流の出力端子でもある。
【0030】
図3は,燃料電池セル40の断面図である。
図4は,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53(セパレータ付燃料電池セル)を分解した状態を表す分解斜視図である。
【0031】
図3に示すように,燃料電池セル40は,金属製セパレータ53と燃料電池セル本体44を有し,インターコネクタ41,45,集電体42,枠部43を備える。
【0032】
燃料電池セル本体44は,固体電解質層56を空気極(カソード,空気極層ともいう)55,および,燃料極(アノード,燃料極層ともいう)57で挟んで構成される。固体電解質層56の酸化剤ガス流路47側,燃料ガス流路48側それぞれに,空気極55,燃料極57が配置される。
本実施形態では,固体電解質層56,空気極55,および燃料極57の全てが板状に構成されているが,それぞれが円筒状に形成されていてもよい。
【0033】
空気極55としては,ペロブスカイト系酸化物(例えば,LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物),LSM(ランタンストロンチウムマンガン酸化物),各種貴金属及び貴金属とセラミックとのサーメットが使用できる。
【0034】
固体電解質層56としては,YSZ(イットリア安定化ジルコニア),ScSZ(スカンジア安定化ジルコニア),SDC(サマリウムドープセリア),GDC(ガドリニウムドープセリア),ペロブスカイト系酸化物等の材料が使用できる。
【0035】
燃料極57としては,金属が好ましく,Ni及びNiとセラミックとのサーメットやNi基合金が使用できる。
【0036】
インターコネクタ41,45は,燃料電池セル本体44間の導通を確保し,かつ燃料電池セル本体44間でのガスの混合を防止し得る,導電性(例えば,ステンレス鋼等の金属)を有する板状の部材である。
【0037】
なお,燃料電池セル本体44間には,1個のインターコネクタ(41若しくは45)のみが配置される(直列に接続される二つの燃料電池セル本体44の間に一つのインターコネクタを共有しているため)。また,最上層および最下層の燃料電池セル本体44それぞれでは,インターコネクタ41,45に替えて,導電性を有するエンドプレート11,12が配置される。
【0038】
集電体42は,燃料電池セル本体44の空気極55とインターコネクタ41との間の導通を確保するためのものであり,例えば,ニッケル合金等の金属材料からなる。また,集電体42が,弾性を有していてもよい。
【0039】
枠部43は,酸化剤ガス,燃料ガスが流れる開口46を有する。この開口46は,気密に保持され,かつ酸化剤ガスが流れる酸化剤ガス流路47,燃料ガスが流れる燃料ガス流路48に区分される。また,本実施形態の枠部43は,空気極フレーム51,絶縁フレーム52,金属製セパレータ53,燃料極フレーム54で構成される。
【0040】
空気極フレーム51は,空気極55側に配置される金属製の枠体で,中央部には開口46を有する。該開口46によって,酸化剤ガス流路47を区画する。
【0041】
絶縁フレーム52は,インターコネクタ41,45間を電気的に絶縁する枠体で,例えば,Al
2O
3などのセラミックスやマイカ,バーミキュライトなどが使用でき,中央部には開口46を有する。該開口46によって,酸化剤ガス流路47を区画する。具体的には,絶縁フレーム52は,インターコネクタ41,45の間において,一方の面が空気極フレーム51に,他方の面が金属製セパレータ53に接触して配置されている。この結果,絶縁フレーム52により,インターコネクタ41,45間が電気的に絶縁されている。
【0042】
金属製セパレータ53は,開口部58を有する枠状の金属製の薄板(例えば,厚さ:0.1mm)であり,燃料電池セル本体44の固体電解質層56に取り付けられ,かつ酸化剤ガスと燃料ガスとの混合を防止する金属製の枠体である。金属製セパレータ53によって,枠部43の開口46内の空間が,酸化剤ガス流路47と燃料ガス流路48に区切られ,酸化剤ガスと燃料ガスとの混合が防止される。
【0043】
金属製セパレータ53には,金属製セパレータ53の上面と下面の間を貫通する貫通孔によって開口部58が形成され,この開口部58内に,燃料電池セル本体44の空気極55が配置される。金属製セパレータ53が接合された燃料電池セル本体44を「セパレータ付燃料電池セル」という。なお,この詳細は後述する。
【0044】
燃料極フレーム54は,絶縁フレーム52と同様に,燃料極57側に配置される絶縁フレームであり,中央部には開口46を有する。該開口46によって,燃料ガス流路48を区画する。
【0045】
空気極フレーム51,絶縁フレーム52,金属製セパレータ53,燃料極フレーム54は,ボルト21,22(22a,22b),23(23a,23b)が挿入されるか,もしくは酸化剤ガスか燃料ガスが流通する貫通孔31,32(32a,32b),33(33a,33b)をそれぞれの周辺部に有する。
【0046】
(セパレータ付燃料電池セルの詳細)
本実施形態では,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の間に接合部61,封止部62が配置され,セパレータ付燃料電池セル50を構成する。開口部58に沿って,金属製セパレータ53の下面と固体電解質層56の上面が接合部61で接合され,封止部62で封止される。
【0047】
金属製セパレータ53は,主成分として,鉄(Fe)を含む金属材料から構成される。この金属材料が,0.1質量%以上10質量%以下(一例として,3質量%)のAlを含むことが好ましい。
上記金属製セパレータはその表面にアルミナの被膜が形成され,耐酸化耐久性が向上し,加工性に優れている。
【0048】
金属製セパレータ53は,例えば,0.1mmの厚みを有する。
上記金属製セパレータ53は,固体酸化物形燃料電池10(燃料電池スタック)を形成するときに,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53を接続する接合部61や封止部62に印加される応力が緩和され,接合部61や封止部62が損傷する(割れる)といった不具合の発生の可能性が低減される。
【0049】
接合部61は,Agを含むロウ材から構成され,開口部58に沿って,全周にわたって配置され,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53とを接合する。接合部61(Agロウ)は,例えば,2〜6mmの幅,10〜80μmの厚さを有する。
【0050】
接合部61の材質として,Agを主成分とする各種のロウ材を採用できる。例えば,ロウ材として,Agと酸化物の混合体,例えば,Ag−Al
2O
3(AgとAl
2O
3(アルミナ)の混合体)を利用できる。Agと酸化物の混合体としては,Ag−CuO,Ag−TiO
2,Ag−Cr
2O
3,Ag−SiO
2も挙げることができる。また,ロウ材として,Agと他の金属の合金(例えば,Ag−Ge−Cr,Ag−Ti,Ag−Alのいずれか)も利用できる。
【0051】
Agを含むロウ材(Agロウ)は,大気雰囲気でもロウ付け温度で酸化し難い。このため,Agロウを用いて,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53とを大気雰囲気で接合でき,工程の効率上,好ましい。
【0052】
封止部62は,開口部58に沿って,全周にわたって,接合部61よりも開口部58側(内周側)に配置され,金属製セパレータ53の開口部58内にある酸化剤ガスと開口部58外にある燃料ガスとの混合を防ぐために燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53間を封止する。封止部62が接合部61よりも開口部58側に配置されることから,接合部61が酸化剤ガスに接触することが無くなり,酸化剤ガス流路47側から接合部61への酸素の移動が阻止される。この結果,水素と酸素の反応によって接合部61にボイドが発生して,ガスリークすることを防止できる。さらに,封止部62は金属製セパレータ53と燃料電池セル本体44の間に配置されることから,封止部62に働く熱応力が,引張応力ではなくせん断応力になる。このため,封止材が割れにくくなり,また封止部62と金属セパレータ53若しくは燃料電池セル本体44との界面での剥がれを抑制でき,封止部62の信頼を向上できる。
封止部62は,例えば,1〜4mmの幅,80〜200μmの厚さを有する。
【0053】
封止部62には,ガラスを含む封止材,具体的には,ガラス,ガラスセラミックス(結晶化ガラス),ガラスとセラミックスの複合物を利用できる。一例として,SCHOTT社製ガラス:G018−311が使用できる。
【0054】
(セパレータ付燃料電池セルの製造)
以下,セパレータ付燃料電池セル(金属製セパレータ53が接合された燃料電池セル本体44)の製造方法につき説明する。ここでは,2通りの製造方法(製造方法A,B)を説明する。
【0055】
いずれの製造方法においても,まずは例えば,SUH21(18Cr−3Al(Al含有フェライト系ステンレス鋼の一種))からなる板材を打ち抜いて,開口部58を有する金属製セパレータ53を製造した。また,燃料極57のグリーンシートの一方の表面に,固体電解質層56のシートを貼り付けて,積層体を形成し,該積層体を一旦焼成した。その後,空気極55の材料を印刷し,焼成して燃料電池セル本体44を作成した。
【0056】
1.製造方法A
次に示すように,製造方法Aでは,接合(接合部61の形成)と封止部62の形成とを同時に行う。
図5は,製造方法Aでのセパレータ付燃料電池セルの製造工程を表すフロー図である。また,
図6A〜
図6Eは,製造方法Aで製造中のセパレータ付燃料電池セルの状態を表す断面図である。
【0057】
(1)ロウ材611,612の配置(ステップS11,
図6A)
燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53それぞれにロウ材611,612を配置する。例えば,ペースト状のAgを含むロウ材を所定形状に燃料電池セル本体44の固体電解質層56の上面と金属製セパレータ53の下面に印刷することで,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53それぞれにロウ材611,612を配置した。なお,ロウ材611,612の配置の手法としては,上記以外に,ディスペンサを用いて行ってもよい。
ロウ材611,612は,例えば,2〜6mmの幅,10〜80μmの厚さを有する。
【0058】
燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53それぞれに予め配置された2つのロウ材611,612が融け,融合することで,接触面積を確保し,接合部61の接合強度を上げることができる。
【0059】
燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の一方のみにロウ材を配置すると,ロウ材が溶融して,他方の表面を濡らし,その後,固化することで,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の他方とロウ材が結合されることになる。このように,ロウ材が溶融されてから,燃料電池セル本体44や金属製セパレータ53に接触すると,接触面積が小さくなり易く,接合強度の確保が困難となる可能性がある。燃料電池セル本体44や金属製セパレータ53に対する,溶融したロウ材の濡れ性は,必ずしも良好とは限らないので,接合の前に,ロウ材を燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の双方に配置することで,接合部61の接合強度を向上させることができる。
【0060】
(2)封止材621の配置(ステップS12,
図6B,
図6D,
図6E)
燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の少なくともどちらか一方の開口部58側もしくは空気極55側に封止材621を配置した。例えば,ペースト状の封止材を所定形状に印刷することで,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の少なくともどちらか一方に封止材621を配置した。なお,封止材の配置の手法としては,上記以外にディスペンサを用いて行ってもよい。
封止材621は,例えば,1〜4mmの幅,80〜200μmの厚さを有する。
【0061】
図6B,
図6D,
図6Eはそれぞれ,燃料電池セル本体44のみ,金属製セパレータ53のみ,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の双方に,封止材621,622を配置した形態を表す。封止材621,622は全ての形態において,接合部(ロウ材)61よりも開口部58側もしくは空気極55側に配置されている。
【0062】
既述のように,ロウ材は燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53との両方に配置するのが好ましいが,封止材は燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53との一方に配置すればよい。これは,ロウ材と封止材の溶融時の濡れ性の相違に起因する。ガラスを含む封止材の方が,ロウ材よりも,燃料電池セル本体44および金属製セパレータ53に対する溶融時の濡れ性が良好なので,これら双方に封止材を配置しても良い。
【0063】
金属製セパレータ53は,高温大気中で酸化被膜(酸化物(アルミナ))を形成する材料から構成され,固体電解質層56も酸化物から構成される。このため,金属製セパレータ53および固体電解質層56は,ロウ材(金属)よりも,封止材(ガラス(酸化物))に対して,濡れ性が良好である。
【0064】
なお,本実施形態では,(1)ロウ材の配置,(2)封止材の配置の順で行ったが,この逆,あるいは,ロウ材と封止材の配置を同時に実行しても良い。
【0065】
(3)接合(接合部61の形成)・封止部62の形成(ステップS13,
図6C)
ロウ材611,612を溶融し,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53とを接合した(接合部61の形成)と同時に,封止材621を溶融し,封止部62を形成した。ロウ材611,612および封止材621が配置された燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53とを接触させ,大気雰囲気下で,例えば,850〜1100℃で加熱することで,ロウ材611,612および封止材621が溶融し,接合部および封止部の形成を同時に行った。
【0066】
既述のように,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53のそれぞれに予め配置された2つのロウ材611,612が融け,融合することで,接触面積を確保し,接合強度を向上することができる。
【0067】
このとき,ロウ材611,612および封止材621が隣接して配置されていることから,接合(接合部61の形成)と封止部62の形成とが実質的に同じ温度と同じ雰囲気下で行われることになる。
【0068】
接合時に,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53に,融けたロウ材が密着されるように,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の上下から荷重が印加される。この結果,隣接する封止材621にも,上下から荷重を印加することができ,隙間なく封止することができる。
【0069】
ロウ材は,Agを含み,大気雰囲気でもロウ付け温度で酸化し難いので,大気雰囲気でのロウ付け(接合)が可能となり,接合部61と封止部62の形成時(ステップS13)における燃料電池セル本体44(特に,空気極55)の性能の低下,具体的には燃料電池セル本体44の空気極55(例えば,LSCF(ランタンストロンチウムコバルト鉄酸化物))の結晶構造が変化に起因した電極性能を防止できる。
さらには,燃料電池セル本体44の性能劣化を防止するために接合時の雰囲気をAr等の不活性ガスにする必要がないので,装置や工程の複雑化を招くことなく,装置や工程の効率化を図れる。
【0070】
以上のように,製造方法Aでは,接合(接合部61の形成)と封止部62の形成とが同じ温度と同じ雰囲気下で実行したことで,製造装置の簡略化や製造時間が短縮され,セパレータ付燃料電池セルの効率的な製造が可能となる。
【0071】
2.製造方法B
製造方法Bでは,接合(接合部61の形成)と封止部62の形成とを別々に行う。
図7は,製造方法Bでのセパレータ付燃料電池セルの製造工程を表すフロー図である。また,
図8A〜
図8Dは,製造方法Bで製造中のセパレータ付燃料電池セルの状態を表す断面図である。
【0072】
(1)ロウ材611,612の配置(ステップS21,
図8A)
燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53それぞれにロウ材611,612を配置した。この工程は,製造方法AのステップS11と同様なので,詳細な説明を省略する。
【0073】
(2)接合(接合部61の形成)(ステップS22,
図8B)
ロウ材611,612を溶融し,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53とを接合する(接合部61の形成)。ロウ材611,612が配置された燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53とを接触させ,例えば,850〜1100℃で加熱することで,ロウ材611,612が溶融し,接合を行った。
【0074】
既述のように,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53それぞれに予め配置された2つのロウ材611,612が融け,融合することで,接触面積を確保し,接合強度を上げることができる。
【0075】
(3)封止材621の配置(ステップS23,
図8C)
燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の少なくともどちらか一方に封止材621を配置する。例えば,封止材を含むペーストを印刷することで,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の少なくともどちらか一方に封止材621を配置できる。既述のように,封止材は濡れ性が一般に良好であることから,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53との一方に配置できる。
【0076】
(4)封止部62の形成(ステップS24,
図8D)
封止材621を溶融し,封止部62を形成する。接合部61で接合され,かつ封止材621が配置された燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53を例えば,850〜1100℃で加熱することで,封止材621が溶融し,封止が行われる。
【0077】
以上のように,製造方法Bでは,接合と封止とを別途に実行している。接合と封止とを別々に実行することで,種々のロウ材と封止材の組み合わせが可能となる。
【0078】
接合と封止とを同時に実行するためには,ロウ材の接合温度と封止材の溶融温度がある程度近接していることが好ましく,採用できるロウ材と封止材が限定される。一般的に,ロウ材の融点は,封止材(ガラス)の融点より高い。ロウ材の接合温度と封止材の溶融温度が異なる場合に,接合と封止とを同時に実行すると,封止材成分の変質や蒸散によるやせ細りなどによって,封止できなる恐れがある。
【0079】
(固体酸化物形燃料電池(燃料電池スタック)10の製造方法)
例えば,SUH21からなる板材を所定の形状に打ち抜き,エンドプレート11,12,インターコネクタ41,45,空気極フレーム51,燃料極フレーム54を製造した。一方,マイカよりなる板材を加工して絶縁フレーム52を製造した。
【0080】
上述した製造方法AまたはBのいずれかで作成したセパレータ付燃料電池セル50の燃料電池セル本体44の空気極55側には,金属製セパレータ53上に,絶縁フレーム52と空気極フレーム51とインターコネクタ41の順で,燃料極57側には,燃料極フレーム54とインターコネクタ45の順で,それぞれを配置し,燃料電池セル40を製造した。
【0081】
複数の燃料電池セル40を積層し,最上層と最下層にはエンドプレート11,12が配置し,ボルト21〜23とナット35によって,エンドプレート11,12で複数の燃料電池セル40を挟んで固定し,燃料電池スタック10を作成した。
【0082】
(第1の実施形態の変形例)
第1の実施形態の変形例を説明する。
図9は,第1の実施形態の変形例に係る燃料電池セル40aの断面図である。
図10は,第1の実施形態の変形例に係る燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53(セパレータ付燃料電池セル50)を分解した状態を表す分解斜視図である。
【0083】
燃料電池セル40aでは,接合部61と封止部62の間に間隙を有する。このように,接合部61と封止部62とが接触していなくても,封止部62が割れる可能性の低減および接合部61中での酸化剤ガスの拡散防止は可能である。
【0084】
燃料電池セル40,40aでは,接合部61と封止部62が開口部58の全周に亘って,接触している,または間隙を有する。その中間の態様として,開口部58の周の一部で接合部61と封止部62とが接触し,開口部58の周の一部で接合部61と封止部62とが接触しないことも考えられる。
【0085】
第1の実施形態の変形例に係るセパレータ付燃料電池セルは,第1の実施形態と同様,製造方法A,Bのいずれを用いても製造できる。
その場合は,ロウ材に対して封止材をある程度の隙間を空けて配置し,燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53を接合する。
【0086】
(第2の実施形態)
第2の実施形態を説明する。
図11は,第2の実施形態に係る燃料電池セル40bの断面図である。
図12は,第2の実施形態に係る燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53(セパレータ付燃料電池セル50)を分解した状態を表す分解斜視図である。
【0087】
燃料電池セル40bでは,接合部61が,開口部58から離れて配置された接合部61aと,接合部61aよりも開口部58側に配置された接合部61bと,に区分される。また,接合部61b中の酸素拡散係数が,接合部61a中の酸素拡散係数より小さい材質で構成されている。
【0088】
封止部62と接合部61aとの間に,接合部61aよりも酸素拡散係数が小さい接合部61bが配置される。即ち,封止部62を通過した酸化剤ガスが有ったとしても,接合部61bでの酸素拡散係数が小さいことで,酸化剤ガスが接合部61aに到達することを抑制できる。この結果,接合部61aでの酸素の拡散を抑制し,接合部61aの酸素等によるボイドの発生を防止でき,燃料電池セル40bと金属製セパレータ53の接合の信頼性を向上できる。
【0089】
接合部61aの材質として,次の材料1),2)のような,例えば,Agを主成分とする各種のロウ材を採用できる。
1)Cr
2O
3を(例えば,1〜5重量%)含有するAgロウ材(Ag−Cr
2O
3ロウ材)
2)Pdを(例えば,2〜30質量%,好ましくは3〜10質量%)含有するAgロウ材(Ag−Pdロウ材)
【0090】
接合部61bの材質は,接合部61aの材質(酸素拡散係数)に応じて適宜選択でき,例えば,Ni,Pt,Auが挙げられる。このうち,Ni,Ptは,酸素の拡散バリアーの特性が大きく(酸素拡散係数が大きい),好適である。特に,Ptは,大気中でAgロウ材を接合する条件で酸化が進まないので,酸素の拡散バリアーとして,一層好適である。
【0091】
第2の実施形態の変形例に係るセパレータ付燃料電池セルは,製造方法A,Bに対応する手法を用いて製造できる。
【0092】
具体的には,製造方法AのステップS11において,接合部61a,61bそれぞれに対応する2種類のロウ材を燃料電池セル本体44と金属製セパレータ53の双方に配置させる。その後,封止材621を配置し(ステップS12に対応),加熱することで,2種類のロウ材および封止材が溶融し,接合および封止が行える(ステップS13に対応)。
【0093】
また,製造方法Bに対応する手法として,接合部61a,61b,封止部62を順次に形成しても良い。この場合,接合部61a,61b,封止部62それぞれの構成材料の融点が高い順に,これらの構成材料の配置および接合部61a,61b,封止部62の形成(加熱)を行うことが好ましい。
【0094】
(その他の実施形態)
本発明の実施形態は上記の実施形態に限られず拡張,変更可能であり,拡張,変更した実施形態も本発明の技術的範囲に含まれる。