(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727455
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム
(51)【国際特許分類】
A61C 7/14 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
A61C7/14
【請求項の数】22
【全頁数】13
(21)【出願番号】特願2012-503473(P2012-503473)
(86)(22)【出願日】2010年3月15日
(65)【公表番号】特表2012-522578(P2012-522578A)
(43)【公表日】2012年9月27日
(86)【国際出願番号】US2010027296
(87)【国際公開番号】WO2010114691
(87)【国際公開日】20101007
【審査請求日】2013年1月24日
(31)【優先権主張番号】61/166,557
(32)【優先日】2009年4月3日
(33)【優先権主張国】US
(73)【特許権者】
【識別番号】399128493
【氏名又は名称】ウルトラデント プロダクツ インコーポレイテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110001243
【氏名又は名称】特許業務法人 谷・阿部特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】ポール イー.ルイス
(72)【発明者】
【氏名】ドワイト ピー.シュナイッター
【審査官】
石田 宏之
(56)【参考文献】
【文献】
米国特許出願公開第2008/0057459(US,A1)
【文献】
国際公開第2007/130815(WO,A1)
【文献】
特表2004−534609(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61C 7/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
同一の歯列弓に設置するためのブラケットシステムに個々の歯列矯正ブラケットを互換的に設置するように構成された、協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムであって、
セラミックで形成された複数の歯列矯正ブラケットを含むセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムであって、各セラミック歯列矯正ブラケットが1つの歯列弓の中の選択された歯に設置するように構成され、各セラミック歯列矯正ブラケットが、
セラミックブラケット接着パッドと、
前記セラミックブラケット接着パッドに固定して取り付けられ、前記セラミックブラケット接着パッドから遠ざかるように唇側に延びるセラミックブラケット本体と、
前記セラミックブラケット本体に形成されたアーチワイヤスロットと、を含み、
前記セラミック歯列矯正ブラケットが前記セラミックブラケット接着パッドの歯への接着面から前記アーチワイヤスロットの舌側底部までの間に画定される頬舌的スロット底部断面厚さを有するようなセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムと、
金属で形成された複数の歯列矯正ブラケットを含む金属製歯列矯正用ブラケットシステムであって、各金属歯列矯正ブラケットが前記歯列弓の中の選択された歯に設置するように構成され、各金属歯列矯正ブラケットが、
金属ブラケット接着パッドと、
前記金属ブラケット接着パッドに固定して取り付けられ、前記金属ブラケット接着パッドから唇側に延びる金属ブラケット本体と、
前記金属ブラケット本体に形成されたアーチワイヤスロットと、を含むような金属製歯列矯正用ブラケットシステムと、
からなり、
前記金属ブラケット接着パッドから前記アーチワイヤスロットの舌側底部までの間に画定される、各金属歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは、対応する金属歯列矯正ブラケットと同じ歯に設置するように構成された、対応するセラミック歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さと略等しく、これによりセラミック歯列矯正ブラケット全体が、対応する金属歯列矯正ブラケット全体と互換可能であることを特徴とする協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項2】
前記セラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、切歯と犬歯に設置するように構成されたセラミック歯列矯正ブラケットを含むことを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項3】
前記金属製ブラケットシステムは、第一および第二小臼歯に設置するように構成された金属歯列矯正ブラケットを含むことを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項4】
前記セラミック歯列矯正ブラケットは機械加工されることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項5】
前記セラミック歯列矯正ブラケットは、多結晶アルミナ、単結晶アルミナおよびジルコニアからなる群から選択される材料でなることを特徴とする、請求項4に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項6】
前記セラミック歯列矯正ブラケットは透明または半透明の多結晶アルミナでなることを特徴とする、請求項4に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項7】
前記金属歯列矯正ブラケットは機械加工されることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項8】
前記金属歯列矯正ブラケットは、クラス17−4のステンレススチールとクラス17−7のステンレススチールからなる群から選択される材料でなることを特徴とする、請求項4に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項9】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、上顎中切歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約1.041mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項10】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、上顎側切歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約1.219mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項11】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、上顎犬歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約0.533mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項12】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、上顎第一小臼歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約0.737mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項13】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、上顎第二小臼歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約0.737mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項14】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、下顎切歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約0.524mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項15】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、下顎犬歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約0.508mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項16】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、下顎第一小臼歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約0.762mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項17】
前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムとセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムは、上顎第二小臼歯に設置するように構成された、対応する歯列矯正ブラケットを含み、両方の対応する歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは約0.864mm±10パーセントであることを特徴とする、請求項1に記載の協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【請求項18】
金属歯列矯正ブラケットとセラミック歯列矯正ブラケットの両方を含む協調的歯列矯正用ブラケットシステムの製作方法であって、
セラミック製歯列矯正用ブラケットシステムを作製するステップであって、前記セラミック製歯列矯正用ブラケットシステムが、1つの歯列弓の中の選択された歯に設置するように構成された複数のセラミック歯列矯正ブラケットを含み、各セラミック歯列矯正ブラケットが、
セラミックブラケット接着パッドと、
前記セラミックブラケット接着パッドに固定して取り付けられ、前記セラミックブラケット接着パッドから遠ざかるように唇側に延びるセラミックブラケット本体と、
前記セラミックブラケット本体に形成されたアーチワイヤスロットと、を含み、
前記セラミック歯列矯正ブラケットが、前記セラミックブラケット接着パッドの歯への接着面から前記セラミックブラケットの前記アーチワイヤスロットの舌側底部までの間に画定される頬舌的スロット底部断面厚さを有する、ステップと、
金属製歯列矯正用ブラケットシステムを作製するステップであって、前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムが、前記歯列弓の中の選択された歯に設置するように構成された複数の金属歯列矯正ブラケットを含み、各金属歯列矯正ブラケットが、
金属ブラケット接着パッドと、
前記金属ブラケット接着パッドに固定して取り付けられ、前記金属ブラケット接着パッドから唇側に延びる金属ブラケット本体と、
前記金属ブラケット本体に形成されたアーチワイヤスロットと、を含み、
各金属歯列矯正ブラケットが、前記金属ブラケット接着パッドの歯への接着面から前記金属歯列矯正ブラケットの前記アーチワイヤスロットの舌側底部までの間に画定される、頬舌的スロット底部断面厚さを有し、各金属歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは、前記金属歯列矯正ブラケットと同じ歯に設置するように構成された、対応するセラミック歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さと略等しいステップと、
を備えることを特徴とする方法。
【請求項19】
前記セラミック製歯列矯正用ブラケットシステムを作製するステップと前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムを作製するステップとの少なくとも一方が、セラミックのバルク材料または金属のバルク材料を機械加工することを含むことを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
ブラケットが装着される予定の各歯のために、前記セラミック製歯列矯正用ブラケットシステムからセラミック歯列矯正ブラケットを選択し、または前記金属製歯列矯正用ブラケットシステムから対応する金属歯列矯正ブラケットを選択するステップをさらに備えることを特徴とする、請求項18に記載の方法。
【請求項21】
切歯と犬歯への装着のためにセラミック歯列矯正ブラケットを選択し、第一および第二小臼歯への装着のために金属歯列矯正ブラケットを選択することを含むことを特徴とする、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
同一の歯列弓に設置するためのブラケットシステムに個々の歯列矯正ブラケットを互換的に設置するように構成された、協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムであって、
セラミックで形成された複数の歯列矯正ブラケットを含むセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムであって、各セラミック歯列矯正ブラケットが1つの歯列弓の中の選択された歯に設置するように構成され、切歯と犬歯に設置するように構成されたセラミック歯列矯正ブラケットを含み、各セラミック歯列矯正ブラケットが、
セラミックブラケット接着パッドと、
前記セラミックブラケット接着パッドに固定して取り付けられ、前記セラミックブラケット接着パッドから遠ざかるように唇側に延びるセラミックブラケット本体と、
前記セラミックブラケット本体に形成されたアーチワイヤスロットと、を含み、
前記セラミック歯列矯正ブラケットが前記セラミックブラケット接着パッドの歯への接着面から前記アーチワイヤスロットの舌側底部までの間に画定される頬舌的スロット底部断面厚さを有するようなセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムと、
金属で形成された複数の歯列矯正ブラケットを含む金属製歯列矯正用ブラケットシステムであって、第一および第二小臼歯に設置するように構成された金属歯列矯正ブラケットを含み、各金属歯列矯正ブラケットが前記歯列弓の中の選択された歯に設置するように構成され、各金属歯列矯正ブラケットが、
金属ブラケット接着パッドと、
前記金属ブラケット接着パッドに固定して取り付けられ、前記金属ブラケット接着パッドから唇側に延びる金属ブラケット本体と、
前記金属ブラケット本体に形成されたアーチワイヤスロットと、を含むような金属製歯列矯正用ブラケットシステムと、
からなり、
前記金属ブラケット接着パッドから前記アーチワイヤスロットの舌側底部までの間に画定される、各金属歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは、対応する金属歯列矯正ブラケットと同じ歯に設置するように構成された、対応するセラミック歯列矯正ブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さと略等しく、これによりセラミック歯列矯正ブラケット全体が、対応する金属歯列矯正ブラケット全体と互換可能であることを特徴とする協調的な金属およびセラミック製歯列矯正用ブラケットシステム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、歯列矯正用ブラケットシステムに関する。
【背景技術】
【0002】
歯列矯正は、不正咬合や悪い歯並びを正しい配列と配向に押し動かすために機械的な力を加える専門的歯科分野である。歯列矯正処置は、歯の審美性向上のほか、反対咬合や過蓋咬合の矯正に必要な歯の医学的移動のために利用できる。たとえば、歯列矯正治療は、患者の噛み合わせをよりよくし、および/または対合歯の間隙マッチングを改善することができる。
【0003】
最も一般的な形態の歯列矯正治療では、歯列矯正用ブラケットとワイヤが用いられ、一般にこれらをまとめて「歯列矯正装置」と呼ぶ。歯列矯正用ブラケットは、患者の歯に直接装着するように、あるいは歯の周囲にセメントで固定されるバンドに装着するように構成された、スロットを有する小さな部品である。ブラケットを患者の歯に、たとえば接着剤またはセメントによって固定した後、湾曲したアーチワイヤをブラケットのスロットに挿入する。アーチワイヤは、歯を正しい配列に移動させるように案内するためのテンプレートまたは軌道の役割を果たす。アーチワイヤの端部は一般に、患者の小臼歯または臼歯に固定されるチューブブラケットまたはターミナルブラケットと呼ばれる小さな装置の中に捕捉される。残りのブラケットは通常、アーチワイヤ用の開放スロットを有し、ブラケットとアーチワイヤに取り付けられた結紮器具によって(たとえば、ブラケット上のタイウイング等によって)歯列矯正力をかける。
【0004】
歯列矯正用ブラケットシステムは通常、金属、セラミックまたはプラスチックのいずれかで製作される。プラスチックブラケットは、汚れやすく、他の材料ほど強度がないため、より好まれにくい。セラミックブラケットは、透明または半透明に形成できることから、患者によって金属ブラケットより好まれることが多いが、かなり高価となる。セラミックブラケットは費用が高いため、価格と審美性とを天秤にかけ、医師や患者によっては、患者が微笑んだときにより目立つ上顎歯列弓にはセラミックブラケット、下顎歯列弓には金属ブラケットを用いることがある。
【0005】
同一の歯列弓にセラミックと金属のブラケットを混在させようとすると、入れ替えたブラケットを装着した歯が意図せずに頬舌的に移動する可能性がある。これは、金属ブラケットとセラミックブラケットのスロット底部厚さが異なるからである。従来のセラミックブラケットでは、強度要求を満たすために、スロット底部厚さがより厚くなっている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】米国特許出願第61/159,859号明細書
【発明の概要】
【0007】
本発明は、選択した金属ブラケットをセラミックブラケットに入れ替えて、金属ブラケットシステムに1つまたはそれ以上のセラミックブラケットを挿入することができ、またはその逆を行うことができる、協調的な金属およびセラミック製歯科矯正用ブラケットシステムに関する。換言すれば、各システムの対応するブラケットが略同じスロット底部厚さを有するため、対応するブラケットが相互に交換可能なセラミック製ブラケットシステムと金属製ブラケットシステムが提供される。
【0008】
金属製ブラケットシステムは、金属製の複数の歯列矯正用ブラケットを含む。各金属ブラケットは、ある歯列弓の中の選択された歯の上に設置されるように構成される。各金属ブラケットは、金属ブラケット接着パッドと、接着パッドから唇側に延びる金属ブラケット本体と、金属ブラケット本体に形成されたアーチワイヤ用スロットを有する。各金属ブラケットは、金属ブラケット接着パッドの外面(歯に当たる面)からアーチワイヤ用スロットの舌側底部までの間に画定される頬舌的スロット底部断面厚さを有する。このスロット底部断面厚さは一般に、当業界では「イン・アウト」寸法と呼ばれる。
【0009】
対応するセラミック製ブラケットシステムは、セラミック製の複数のブラケットを含む。各セラミックブラケットも同様に、セラミックブラケット接着パッドと、セラミックブラケット本体と、アーチワイヤ用スロットを有する。セラミックブラケットも同様に、頬舌的スロット床部断面厚さを有する。いずれの歯の部位についても、対応する金属およびセラミックブラケットの頬舌的スロット底部断面厚さは略等しい。スロット底部厚さがセラミックシステムと金属システムの間で協調されているため、医師は同一の歯列弓上で、金属とセラミック両方のブラケットを使い、希望に応じてどちらのブラケットを選択することもできる。スロット底部厚さが協調されているため、意図せぬ歯の移動が発生せず、それを防止するために特別にアーチワイヤを曲げる必要がない。たとえば、医師はセラミックブラケットを(見えやすい)切歯と犬歯にセラミックブラケット、小臼歯と、任意で臼歯に金属ブラケットを装着することを選択してもよい。
【0010】
同一の歯列弓にセラミックと金属ブラケットを混在させようとする過去の試みにおいては、既存の金属およびセラミック製のブラケットシステムは相互に適合性がないために、問題があった。既存のセラミックブラケットは、強度を持たせ、ブラケットの予期せぬ割れを防止するために、そのスロット底部厚さ(すなわち、接着パッドの接着面とスロット底部の舌側面の間の距離)がかなり厚く形成される。そのため、同一の歯列弓でのセラミックと金属ブラケットの混在をその場で試みた場合、歯が意図せず舌側または頬側に移動してしまうかもしれない。このような望ましくない歯の移動は、その移動を修正しなければならないため、治療期間を長引かせる原因になると予想される。
【0011】
本発明者らは、驚くべきことに、セラミックブラケットをセラミックのバルク材料から機械加工すると、実際には、セラミックブラケットの「イン・アウト」寸法を金属ブラケットの「イン・アウト」寸法と等程度まで縮小でき、それと同時に、依然として十分な強度と耐久性を持たせることができることを発見した。セラミックブラケットの「イン・アウト」寸法を型打ちではなく機械加工することにより、ブラケットの強度は何らかの理由で保存される。そのため、システムに単純にセラミックブラケットのより大きな厚さを採用し、その大きな「イン・アウト」寸法に合わせて金属ブラケットを改造するのではない。こうした全体的システムは、金属ブラケットが非常に「ハイプロファイル」となり、それを密集する叢生歯に接着することは困難または不可能となる。むしろ、システムにはロープロファイルの金属ブラケットとロープロファイルのセラミックブラケットの両方が用いられ、各システムの対応するブラケットが相互に交換可能である。その結果、本発明は、同じ歯列弓に同時に使用するために金属ブラケットとセラミックブラケットを混在させることが可能な全体的ブラケットシステムを提供する。たとえば、切歯と犬歯にはセラミックブラケットを選択して、見えにくさによって審美性を提供し、その一方で小臼歯と臼歯には金属ブラケットを用いて、全体的な価格を下げる。
【0012】
本発明の上記およびその他の利点と特徴は、以下の説明と付属の特許請求の範囲からより明確となり、また、後述のように本発明を実施することによってわかるであろう。
【0013】
本発明の上記およびその他の利点と特徴をさらに明瞭にするために、本発明を、添付の図面に示される特定の実施形態を参照することによって、より具体的に説明する。これらの図面は本発明の一般的な実施形態を示しており、したがってその範囲を限定するとはみなさないものとする。本発明を、添付の図面を用いて、より具体的かつ詳細に描写、説明する。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1A】下顎切歯に装着された一般的なセラミックブラケットの断面図である。
【
図1B】
図1Aのセラミックブラケットと歯の横断面図である。
【
図2A】
図1Aと同じ下顎切歯に装着された一般的な金属ブラケットの断面図である。
【
図3A】例示的なセラミック製歯列矯正用ブラケットシステムの断面図である。
【
図3B】例示的な金属製歯列矯正用ブラケットシステムの断面図であり、
図3Aと
図3Bの対応するブラケットは略同じスロット底部厚さ寸法を有する。
【
図4A】セラミックブラケットが3本の前歯に接着され、金属製ブラケットが隣接する小臼歯に接着されている、協調的なセラミックおよび金属製ブラケットシステムを使用した下顎歯列弓左側半分の咬合面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
I.緒言
本発明は、選択した金属ブラケットをセラミックブラケットに入れ替えて、金属製ブラケットシステムに1つまたはそれ以上のセラミックブラケットを挿入することができ、またはその逆を行うことができる、協調的な金属およびセラミック製歯科矯正用ブラケットシステムに関する。換言すれば、各システムの対応するブラケットが略同じスロット底部厚さを有するため、対応するブラケットが互換可能なセラミック製ブラケットシステムと金属製ブラケットシステムの両方が提供される。
【0016】
II.例示的歯列矯正用ブラケットシステム
図1Aと
図1Bは、同じ歯(たとえば、下顎切歯12)に設置するように構成された一般的なセラミックブラケットと一般的な金属ブラケット(
図2Aと
図2B)の断面図である。
図1Aと
図1Bからわかるように、セラミックブラケット10は、T
Cで示されるスロット底部断面厚さ(すなわち、「イン・アウト」寸法)を有する。この寸法は、歯の表面とアーチワイヤスロットの底部との間の距離に対応する。同じ歯が
図2Aと
図2Bに示されているが、セラミックブラケット10ではなく、一般的な金属ブラケット10’が歯に装着されている。金属ブラケット10’は、T
Mで示されるスロット底部断面厚さを有する。図のように、厚さT
CはT
Mよりかなり大きい。標準的実務では、「イン・アウト」寸法は、咬合面歯肉方向にアーチワイヤスロットを二等分する線に沿って測定された断面厚さとして定義され、これはおそらく
図1Bと
図2Bにおいて最もよくわかる。セラミックブラケット10は、既存のセラミックブラケット(一般に射出成形で形成される)の全体的強度要求の結果、より大きな「イン・アウト」寸法T
Cを有する。このような強度要求により、セラミックブラケット10は、金属製ブラケット10’と同程度の高さとすることができない点を指摘する。
【0017】
「イン・アウト」スロット底部厚さ寸法にこのような差があることによって、本来はすべてが金属ブラケットのシステムの中で金属ブラケット10’をセラミックブラケット10に入れ替えることが不可能であり、これは、ブラケットの「イン・アウト」寸法の差によって、治療過程で歯の頬舌的不正配列が発生するからである。換言すれば、本来は金属のブラケットシステムに挿入されたセラミックブラケットは、「イン・アウト」寸法がはるかに大きいため、セラミックブラケットを装着した歯の正しい移動が妨害されるからである。医師がこのように金属製ブラケットシステムの中に1つまたはそれ以上のセラミックブラケットを挿入した場合(たとえば、セラミックブラケットのほうが見えにくく、審美的に好ましいという理由による)、アーチワイヤを補償的に曲げることが必要となるか、または、後の治療段階で医師がセラミックブラケットの装着された歯を頬側/舌側に正しい位置へと移動させなければならないため、治療期間が延びる。いずれの場合も好ましくなく、アーチワイヤをさらに曲げる工程は医師個人の技術に依存し、後の移動と補償のための曲げのどちらにも追加の時間が必要となるからである。
【0018】
図3Aと
図3Bは、それぞれ例示的なセラミックおよび金属製歯列矯正用ブラケットシステムを示し、これらは相互に協調されているため、医師は1つまたはそれ以上のブラケットをセラミック製システムから金属製システムに、またはその逆に入れ替えることができる。
図3Aは、例示的なセラミック製ブラケットシステム100に含まれる4つの例示的なセラミックブラケットの断面図である。セラミック製システム100は、下顎切歯用ブラケット102(たとえば、下顎の中切歯および側切歯に設置するように構成される)、下顎犬歯用ブラケット104、下顎第一小臼歯用ブラケット106および下顎第二小臼歯用ブラケット108を含む。
図3Bは、例示的な金属製ブラケットシステム100’を示し、これもまた下顎の中切歯および側切歯に設置するように構成された下顎切歯用ブラケット102’、下顎犬歯用ブラケット104’、下顎第一小臼歯用ブラケット106’、および下顎第二小臼歯用ブラケット108’を含む。図のように、金属製ブラケットシステム100’は、セラミック製ブラケットシステム100と同じ数のブラケットを含んでいてもよい。図の例において、各セラミックブラケットは金属製挿入部品107を有する。このような挿入部品は任意であるが、より硬いセラミック材料によって比較的柔らかいNi−Tiのアーチワイヤに切れ目ができるのを防止するため、望ましい。金属ブラケットとセラミックブラケットはどちらも、接着パッド103と、ウイング109を有する本体105をさらに有する。
【0019】
各システムの対応するブラケットは、全体的な形状は異なるが、対応するブラケット102と102’のスロット底部厚さを画定する「イン・アウト」寸法T
1-2は略同じである。同様に、対応するブラケット104と104’の「イン・アウト」寸法はT
3と略等しく、対応するブラケット106と106’の「イン・アウト」寸法はT
4と略等しく、対応するブラケット108と108’の「イン・アウト」寸法はT
5と略等しい。1つの対応するブラケットと次のブラケットの「イン・アウト」寸法を同じにすることによって、医師が異なるシステム100と100’のブラケットを混在させても、その結果として、入れ替えたブラケットが装着された歯の頬舌的不正配列が生じる危険性がなくなる。
【0020】
図4Aと
図4Bは、セラミックブラケット102が下顎の中切歯と側切歯に装着されている例を示す。犬歯用セラミックブラケット104も犬歯に装着されている。金属ブラケット106’と108’は、それぞれ第一と第二小臼歯に装着されている。システム100と100’の対応する各ブラケットの「イン・アウト」寸法は略同じであるため、補償のための曲げや、いずれかの歯の意図せぬ頬舌的移動を修正するための後の治療は不要である。
【0021】
このようなブラケットをバインダと金属またはセラミック粉末の射出成形によって形成することは可能であるが、ブラケットは好ましくは、金属またはセラミックのバルク材料の機械加工によって形成され、これは、驚くべきことに、機械加工によって十分な強度を有するロープロファイルのセラミックブラケットが製造できることが本発明者らによって発見されたからである。アーチワイヤスロットまたは穴は、ドリルビットまたはエンドミルを使って機械加工でき、これについては2009年3月13日に出願された“Methods of Manufacturing Orthondontic Brackets Including a Rectangular Arch Wire Hole”と題する特許文献1に記載されており、同文献を引用によって本願に援用する。他のブラケット構造(たとえば、タイウイング、任意のフック等)は、エンドミルおよび/またはその他適当な工具を使って機械加工してもよい。このような工具は好ましくは、カーバイドコーティング(たとえば、チタンカーバイドおよび/またはタングステンカーバイド)を有していてもよい。
【0022】
機械加工により製造することによって、寸法誤差が大幅に改善され、完成品の強度が大幅に高まる。たとえば、ブラケットを射出成形ではなく機械加工することによって、金属射出成形への使用には適していない、より高強度、より高密度の金属材料を使用することが可能となる。より高強度、より高密度の金属材料(たとえば、クラス17−4および/または17−7のステンレススチール)を使用することにより、より高強度、より高密度の完成品が得られる。これに加えて、クラス17−4と17−7のステンレススチールは、機械加工後に熱処理し、さらに強度を高めることが可能である。このような熱処理は、金属射出成形の使用に適したクラスのステンレススチールでは不可能である。対照的に、金属射出成形によるブラケットは、ステンレススチールの粉末材料(たとえば、クラス303、304および/または306Lのステンレススチール)から形成され、この材料は、クラス17−4と17−7のステンレススチールと比較して、より粉末化と焼結に適しているが、強度と密度が低い。
【0023】
これに加えて、射出成形によって形成される金属またはセラミックブラケットの実際の最終品の強度と密度は、成形および焼結中に微小空洞部分が発生する可能性があるため、使用した金属またはセラミック材料のバルク強度と密度より低く、また、焼結工程によって金属またはセラミック粉末の結合が弱くなるかもしれないため、完成品の強度が低下する。ブラケットが機械加工されるため、対応する金属製ブラケットシステムの中の対応する金属ブラケットと同程度に薄いスロット底部厚さを有するセラミックブラケットを形成し、それと同時にセラミックブラケットに十分な強度を持たせることが可能である。これにより、有利な点として、各システムのブラケットがロープロファイルで(すなわち、「イン・アウト」寸法が小さい)、小型の、協調的な金属およびセラミック製ブラケットシステムを製造することが可能であり、その特徴は患者と医師の両者にとって非常に好ましい。金属またはセラミックのバルク材料からブラケットを機械加工すれば、縮み、高い精度の欠落および強度低下の問題は低減または排除される。セラミック材料の例としては、これらに限定されないが、多結晶アルミナ(Al
2O
3)、ジルコニア、さらには単結晶アルミナもある。単結晶アルミナは、その脆弱な特性から、より好ましくない。透明または半透明の多結晶アルミナが最も好ましい。
【0024】
一例によれば、協調的システムの金属とセラミックの両ブラケットが、概ね以下の「イン・アウト」寸法となるように機械加工される。
【0026】
表中の数値は例にすぎない点を指摘する。たとえば、各数値は、より一般的には、その数値プラスマイナス約10%、より好ましくはプラスマイナス約5%、最も好ましくはプラスマイナス約1%の範囲であってもよい。表中の数値は、機械加工されたセラミックブラケットに十分な強度を持たせ、それと同時に、ブラケットの頬舌的プロファイルも最小化できる(すなわち、ロープロファイルのブラケットを提供する)ことがわかっているため、好ましい。
【0027】
本発明は、その精神または基本的特徴から逸脱することなく、他の具体的形態で実施してもよい。上記の実施形態は、あらゆる点において例示的であり、限定的とはみなされないものとする。したがって、本発明の範囲は、上記の説明ではなく、付属の特許請求の範囲により示される。特許請求の範囲の意味と等価範囲内に含まれるすべての変更はすべて、その範囲内に含まれる。