特許第5727462号(P5727462)IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

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特許5727462表面導電性積層シート及び電子部品包装容器
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  • 特許5727462-表面導電性積層シート及び電子部品包装容器 図000012
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727462
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】表面導電性積層シート及び電子部品包装容器
(51)【国際特許分類】
   B32B 27/00 20060101AFI20150514BHJP
   B32B 7/02 20060101ALI20150514BHJP
   H01B 5/14 20060101ALI20150514BHJP
   B65D 85/86 20060101ALI20150514BHJP
   B65D 65/02 20060101ALI20150514BHJP
   B65D 75/32 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
   B32B27/00 104
   B32B7/02 104
   H01B5/14 Z
   B65D85/38 S
   B65D65/02 E
   B65D75/32
【請求項の数】8
【全頁数】14
(21)【出願番号】特願2012-506982(P2012-506982)
(86)(22)【出願日】2011年3月18日
(86)【国際出願番号】JP2011056552
(87)【国際公開番号】WO2011118522
(87)【国際公開日】20110929
【審査請求日】2014年1月20日
(31)【優先権主張番号】特願2010-67277(P2010-67277)
(32)【優先日】2010年3月24日
(33)【優先権主張国】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003296
【氏名又は名称】電気化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101199
【弁理士】
【氏名又は名称】小林 義教
(74)【代理人】
【識別番号】100109726
【弁理士】
【氏名又は名称】園田 吉隆
(72)【発明者】
【氏名】藤原 純平
(72)【発明者】
【氏名】川田 正寿
(72)【発明者】
【氏名】宮村 康史
【審査官】 河原 肇
(56)【参考文献】
【文献】 特開平05−255557(JP,A)
【文献】 特開平10−007857(JP,A)
【文献】 国際公開第2006/030871(WO,A1)
【文献】 特開平10−110073(JP,A)
【文献】 特開平04−136060(JP,A)
【文献】 特開2000−017137(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 1/00− 43/00
B65D 65/00− 79/02
81/18− 81/30
81/38
85/30− 85/48
85/86− 85/90
C08K 3/00− 13/08
C08L 1/00−101/14
H01B 5/00− 5/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ABS樹脂を主成分とする基材層と該基材層の少なくとも片側の表面に積層された表面層とを有し、
前記基材層中のABS樹脂が、シアン化ビニル単量体5〜15質量%、ジエン系ゴム4565質量%、及び芳香族ビニル単量体50〜20質量%の組成と、50%〜80%のグラフト率を有するグラフトゴムを含み、
前記グラフトゴムが、18,000〜56,000のグラフト鎖の質量平均分子量(Mw)、及び1.0μm〜2.0μmの体積平均粒子径を有する、表面導電性積層シート。
【請求項2】
前記ABS樹脂が、シアン化ビニルと芳香族ビニルの共重合体を更に含有する請求項1記載の表面導電性積層シート。
【請求項3】
前記ABS樹脂が、前記グラフトゴムを15〜50質量%、シアン化ビニルと芳香族ビニルの前記共重合体を85〜50質量%含有してなる樹脂である請求項に記載の表面導電性積層シート。
【請求項4】
シアン化ビニルと芳香族ビニルの前記共重合体が、シアン化ビニル20〜40質量%と芳香族ビニル60〜80質量%の組成を有し、80,000〜120,000の質量平均分子量(Mw)を有する請求項2又は3に記載の表面導電性積層シート。
【請求項5】
前記表面層が、10〜1010Ωの表面抵抗値を有する熱可塑性樹脂組成物からなる請求項1からの何れか一項に記載の表面導電性積層シート。
【請求項6】
前記表面層が、スチレン系樹脂とカーボンブラックを含有する樹脂組成物からなる請求項1からの何れか一項に記載の表面導電性積層シート。
【請求項7】
請求項1からの何れか一項に記載の表面導電性積層シートから成形されてなる電子部品包装容器。
【請求項8】
キャリアテープ又は電子部品搬送用トレイである請求項に記載の電子部品包装容器。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、熱可塑性樹脂からなる表面導電性積層シート、及び該積層シートを用いたキャリアテープ、電子部品搬送用トレイ等の電子部品包装容器に関する。
【背景技術】
【0002】
電子機器や自動車などあらゆる工業製品の中間製品の包装容器には、シートを加熱成形して得られる真空成形トレイ、エンボスキャリアテープなどが使用されている。そして静電気を嫌うICや、ICを有する各種の部品の包装容器用シートとして、ポリスチレン系樹脂もしくはABS系樹脂からなる基材層に、カーボンブラック等の導電性フィラーを含有させたポリスチレン系樹脂を積層したシートが使用されている(例えば特許文献1〜3参照)。特に基材層としてABS系樹脂を用いた表面導電性シートは、その機械特性が優れていることからよく使用されている。しかしながら、近年IC等の電子部品の小型化に伴って、原反シートをテープの幅にスリットする際や、エンボス成形においてスプロケットホール等を打ち抜く際にその断面に毛羽やバリが発生することが、大きな解決すべき課題としてクローズアップされてきており、かかる毛羽や抜きバリが生じないことがキャリアテープ等の性能として求められるようになってきた。
【0003】
このような課題を解決する目的で、例えば基材層又は表面導電層にポリオレフィンや、SBS、SEBS等のブロック共重合体を配合することが提案されている(特許文献4、5参照)。
【0004】
しかしながら、スリットやスプロケットホールの打ち抜き等で発生する毛羽や抜きバリは、前記のような改善策をとることによって改善される場合もあるが、スリットの方法や、エンボス成形に用いる成形機によっては、改善が殆ど認められない場合があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開平9−76422号公報
【特許文献2】特開平9−76425号公報
【特許文献3】特開平9−174769号公報
【特許文献4】国際公開第2006/030871号
【特許文献5】特開2003−170547号公報
【発明の概要】
【0006】
本発明は、前記事情に鑑みてなされたもので、ABS樹脂を基材層とする表面導電性の積層シートにおいて、スリットの方法やエンボス成形の際の打ち抜きで、どのような成形機に対しても抜きバリの発生が極めて少ない積層シートを提供することを課題とする。
また本発明は、前記表面導電性積層シートを用いたキャリアテープ、電子部品搬送用トレイ等の電子部品包装容器を提供することも課題とする。
【0007】
本発明者等は、これら課題について鋭意検討した結果、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン共重合体を基材とした多層構成の積層シートで、各層を特定の樹脂組成物で構成すること、特に基材層を構成する樹脂として特定のグラフトゴムを有する樹脂を用いることによって、前記課題の全てを解決したシートが得られることを見出し、本発明に至った。
【0008】
よって、本発明の一態様では、ABS樹脂を主成分とする基材層と該基材層の少なくとも片側の表面に積層された表面層とを有する表面導電性積層シートであって、基材層中のABS樹脂が、シアン化ビニル単量体5〜15質量%、ジエン系ゴム45%〜65質量%、及び芳香族ビニル単量体50〜20質量%の組成と、50%〜80%のグラフト率を有するグラフトゴムを含み、該グラフトゴムが、18,000〜56,000のグラフト鎖の質量平均分子量(Mw)、及び/又は0.3μm〜2.0μmの体積平均粒子径を有する積層シートが提供される。
【0009】
ここで、一実施態様では、ABS樹脂中のグラフトゴムは、18,000〜56,000のグラフト鎖の質量平均分子量(Mw)を有し、かつ0.3μm〜2.0μmの体積平均粒子径を有する。
他の一実施態様では、ABS樹脂は、前記グラフトゴムに加えて、シアン化ビニルと芳香族ビニルの共重合体(AS共重合体)を更に含有する。例えば、一実施態様では、ABS樹脂は、グラフトゴムを15〜50質量%、シアン化ビニルと芳香族ビニルの共重合体を85〜50質量%含有してなる樹脂である。
また別の実施態様では、シアン化ビニルと芳香族ビニルの共重合体は、シアン化ビニル20〜40質量%と芳香族ビニル60〜80質量%の組成を有し、80,000〜120,000の質量平均分子量(Mw)を有する。
表面層は、所望される表面抵抗値を示す層であれば如何なる材料からなるものであってもよいが、一実施態様では、10〜1010Ωの表面抵抗値を有する熱可塑性樹脂組成物から構成され、他の実施態様では、スチレン系樹脂とカーボンブラックを含有する樹脂組成物から構成される。
【0010】
本発明の他の態様では、前記の表面導電性積層シートから成形されてなるキャリアテープ、電子部品搬送用トレイのような電子部品包装容器が提供される。
【0011】
本発明によれば、特定のABS樹脂及び/又はABS樹脂組成物、特に特定のグラフトゴムを有するABS樹脂を基材層として用いたので、スリットの方法やエンボス成形の際の打ち抜きで、どのような成形機に対しても抜きバリが極めて少ない表面導電性積層シート並びにそのシートを用いたキャリアテープ等の電子部品包装容器を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1図1は実施例及び比較例のシートの打ち抜きを行った際の、抜きバリ状態の評価見本である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
本発明の一実施形態に係る表面導電性積層シートは、ABS樹脂を主成分とする基材層と、該基材層の少なくとも片側の表面に積層された導電性を有する表面層で構成される。
【0014】
ここで、ABS樹脂とは、ジエン系ゴム−芳香族ビニル単量体−シアン化ビニル単量体の3元共重合体を含有する樹脂又は樹脂組成物、代表的には、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレンの3元共重合体を含有する樹脂又は樹脂組成物を意味し、好ましくは、前記3元共重合体以外に、シアン化ビニルと芳香族ビニルの共重合体、代表的にはアクリロニトリル−スチレンの2元共重合体(AS共重合体)を更に含有する。
即ち、ABS樹脂は、ジエン系ゴム−芳香族ビニル単量体−シアン化ビニル単量体の3元共重合体、代表的にはアクリロニトリル−ブタジエン−スチレンの3元共重合体と、シアン化ビニルと芳香族ビニルの共重合体、代表的にはアクリロニトリル−スチレン2元共重合体であるAS共重合体を混合状態で含む樹脂組成物であり、ポリブタジエンゴム、スチレン−ブタジエンゴム(SBR)又はスチレン−ブタジエンブロック共重合体やその水添物等にスチレンとアクリロニトリルをグラフト重合させたアクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体であるグラフトゴムからなる分散相と、アクリロニトリルとスチレンの2元共重合体(AS共重合体)の連続相からなる。ここで、グラフトゴムは、後述する方法によって、ABS樹脂から分離することができるものを指す。
【0015】
上記において、各重合体は、その単量体単位に加えて他の種類の単量体を本願発明の効果を損なわない範囲で含有していてもよく、例えばスチレン系単量体の微量成分として、α−メチルスチレン、ビニルトルエン、ジメチルスチレン、クロロスチレン、ビニルナフタレン等の単量体を含有していてもよいし、シアン化ビニル単量体の微量成分として、メタクリロニトリル、エタクリロニトリル、フマロニトリル等の単量体を含有していてもよい。
【0016】
前述のように、ABS樹脂は、アクリロニトリル−ブタジエン−スチレン3元共重合体からなるグラフトゴムの分散相とAS共重合体の連続相を含んでなるが、これらの相の含有割合は、グラフトゴム15〜50質量%とAS共重合体85〜50質量%の範囲が一般的である。
【0017】
前記グラフトゴムとしては、グラフトゴムを100質量%としたとき、後述する方法にて測定した各成分の含有量が、アクリロニトリル(AN)が5〜15質量%、ブタジエン(Bd)が45〜65質量%、及びスチレン(St)が50〜20質量%の組成のものが好適に用いられる。
各成分の含有割合が前記の範囲内のときに各種の機械特性のバランスも良好で、後述する評価法で良好なシートの打ち抜き性が得られる。Bdの含有割合がこの範囲より小さい場合、得られる積層シートの耐衝撃強度(デュポン衝撃強度)、耐折強度及び破断伸びが低くなり、十分な機械特性が得られない。またBdの含有割合がこの範囲より大きい場合は、降伏強度等の強度特性が低下する。そして何れの場合においても得られたシートを打ち抜いたときのバリの発生が大きくなる。
【0018】
そして本発明では、このグラフトゴムのグラフト率が50〜80%、より好ましくは50〜75%であることが重要である。グラフト率とは、詳細な測定方法は後述するが、基本的にはグラフトゴム中のゴム分とそれにグラフトしているANとStからなるグラフト鎖の質量比率であって、グラフト率が50%未満ではバリが多く発生し、グラフト率が80%を超えるとシート強度が低下する。このグラフトゴムのグラフト率を調整する方法は、厳密には各種のABS樹脂の製造方法によっても異なるが、重合開始剤の添加量や連鎖移動剤の添加量及び添加時期、重合中の温度制御等の一般的な重合条件の調整で調整することができる。また、グラフト率がこの範囲のグラフトゴムを含有するABS樹脂は、市場で入手することもできる。
【0019】
更に、前記グラフトゴムのグラフト鎖の質量平均分子量(Mw)は、18,000〜56,000であることが好ましい。Mwが18,000未満では、得られる積層シートのデュポン衝撃強度、耐折強度が低下する場合があり、56,000を超えると、後述する本発明の積層シートの打ち抜きの際に、バリの発生が増加する場合がある。これは、グラフトゴムのグラフト枝とAS共重合体との相互作用が増加することが、シートの打ち抜きの際のバリの発生の要因の一つとなっていることを示すものである。
【0020】
また、前記グラフトゴムの体積平均粒径は、0.3μm〜2.0μmであることが好ましい。体積平均粒径が0.3μm未満では、得られる積層シートのデュポン衝撃強度、耐折強度が低下する場合があり、体積平均粒径が2.0μmを超えるとバリの発生が増加する恐れがある。
【0021】
一方、連続相を構成する前記のAS共重合体としては、アクリロニトリル(AN)20〜40質量%、スチレン(St)80〜60質量%の共重合体を用いることが、シートの押出成形性の観点から好ましい。
【0022】
またAS共重合体は、Mwが80,000〜120,000であることが好ましい。Mwが80,000未満では得られる積層シートのデュポン衝撃強度、及び耐折強度が低下する場合があり、120,000を超えるとバリの発生が増加する恐れがある。
【0023】
本発明の基材層には、前記の樹脂成分以外に、溶融押出時の流動性を損なわない範囲でアセチレンブラック、ファーネスブラック、チャンネルブラック等のカーボンブラックを添加することができる。特に、アセチレンブラックを添加する場合は、樹脂成分100質量部に対して0.1〜10質量部の範囲の添加で、シートを包装容器に成形した際にシート厚みが薄くなり成形品のコーナー部等が透けてしまうといった問題点を解決することが可能である。
【0024】
本発明の積層シートは、前述のように基材層の少なくとも片面に導電性の表面層を有している。該表面層は、その表面抵抗値が10〜1010Ωであることが好ましい。表面抵抗値がこの範囲よりも高いと静電気による電子部品の破壊を抑制することが困難となり、表面抵抗値がこの範囲よりも低いと外部から静電気等による電気の流入を容易にし、電子部品が破壊してしまう可能性がある。
【0025】
表面層は、上記表面抵抗値を達成する材料であれば如何なる材料によって形成されてもよいが、通常は、例えば導電性塗料による塗工層や、ポリスチレン系樹脂、ABS系樹脂等の熱可塑性樹脂に導電性フィラーを練りこんだものが利用され、中でも、ポリスチレン系樹脂とカーボンブラックを含有する導電層が成形性等の観点から好ましい。ここで、ポリスチレン系樹脂とは、スチレンの単独重合体あるいは共重合体であって、例えば一般用ポリスチレン又は共役ジエン重合体成分を含有する耐衝撃性ポリスチレン及びこれらのブレンド物を指す。また導電層には滑剤、可塑剤、加工助剤などの各種添加剤や無機フィラーを添加することができる。
【0026】
表面層に用いられるカーボンブラックは、ファーネスブラック、チャンネルブラック、アセチレンブラック等であり、好ましくは比表面積が大きく、樹脂への添加量が少量で高度の導電性が得られるという観点から、特にアセチレンブラックが好ましい。その添加量はポリスチレン系樹脂の合計100質量部に対して5〜50質量部が好ましい。5質量部未満では静電気による電子部品の破壊を防止するために十分な表面抵抗値が得られず、50質量部を超えると、流動性が低下すると共に得られるシートの機械的強度も低下してしまう。
【0027】
本発明の積層シートを製造する方法は、特に限定されるものではなく、当業者に周知の一般的な方法で製造することができる。例えば、基材層と表面層を構成する原料をそれぞれ個別の押出機に供給し、マルチマニホールドを有する多層Tダイを用いた押出成形、あるいはフィードブロックを用いたTダイ法押出成形によって、好適に製造される。またこの種の積層シートの製造方法では、シート押出工程で発生する所謂「耳」の部分等を粉砕し、基材層に戻すのが一般的であり、積層シートのデュポン衝撃強度、耐折強度やバリに大きな影響を及ぼさない範囲で戻すことができる。
【0028】
また本発明の他の実施形態では、前記導電性積層シートを用いて成形した電子部品包装容器が提供される。即ち、導電性積層シートに、真空成形、圧空成形、プレス成形等の公知のシート成形方法(熱成形法)を利用して成形を施すことにより、キャリアテープ(エンボスキャリアテープ)及び電子部品搬送用トレイ等の種々の形状の電子部品包装容器を得ることができるが、導電性積層シートとして前記構成の導電性積層シートを用いることにより、積層シートをスリットする際や、電子部品包装容器の成形で、スプロケットホール等を打ち抜く際に、その断面に毛羽やバリの発生が極めて少ない包装容器を得ることができる。特にキャリアテープにエンボス成形を施す際にバリ等の発生が極めて少ない上、耐折強度及び耐衝撃強度の何れも優れたエンボスキャリアテープを得ることができる。
【0029】
ここで、エンボスキャリアテープは、前記の成形方法で形成された収納部に電子部品を収納した後に、カバーテープにより蓋をしてリール状に巻き取ったキャリアテープ体として、電子部品の保管及び搬送に用いる。キャリアテープ体とは、キャリアテープに電子部品を収納したものである。包装する電子部品としては特に限定はなく、例えばIC、LED(発光ダイオード)、抵抗、液晶、コンデンサー、トランジスター、圧電素子レジスター、フィルター、水晶発振子、水晶振動子、ダイオード、コネクター、スイッチ、ボリュウム、リレー、インダクタ等がある。また、これら電子部品を使用した中間製品や最終製品の包装にも用いることができる。
【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
[樹脂特性の評価方法]
以下の実施例及び比較例で用いたABS樹脂を特定する特性を、以下の方法にて評価した。
(1)ABS樹脂中のグラフトゴムとAS共重合体の含有割合の測定
ABS樹脂約1.2gを100ml三角フラスコに取り、メチルエチルケトン(MEK)30gを加えた後、温度23℃で24時間攪拌し、その後、遠心分離機(日立製作所製CR26H)でMEK不溶分の分離を実施し、遠心分離操作後30分静置した。この遠心分離器の操作条件を次の通り設定した。
温度 :−9℃
回転数:23,000rpm
時間 :50分
遠心分離させた溶液の上澄み液と沈殿物とを分離し、上澄み液をメタノール150mlが入れてある300mlビーカーに注ぎ入れて、析出させ、析出物を濾紙を用いて吸引濾過した。濾過物は室温で24時間乾燥させ、次に真空乾燥機で4時間残溶剤を飛ばして試料を得た。
得られたMEK不溶分の沈殿物に更にMEKを加えて遠心分離操作で洗浄し、吸引濾過及び真空乾燥したものを「グラフトゴム」とし、前記MEK可溶分のメタノール析出で得られた沈殿物を「AS共重合体」とし、それらの質量比より、それぞれの含有割合を求めた。
尚、前記ABS樹脂に更にAS共重合体を加えたABS樹脂についても、前記の方法に準じてグラフトゴムとAS共重合体の含有割合を求めた。
【0031】
(2)グラフトゴムのグラフト率の測定方法
前項(1)と同様にして得たグラフトゴムについて、AN単量体量(y)をケルダール窒素法によって定量し、St単量体量(z)を熱分解ガスクロマトグラフィーにより定量し、下記の式によってグラフト率を求めた。
グラフト率(%)=100×(y+z)/{x−(y+z)}
ここで、xは、グラフトゴムの全質量である。
【0032】
(3)グラフトゴム中のグラフト鎖の質量平均分子量(Mw)の測定方法
グラフトゴムをオゾン分解し、その後に水素化リチウムアルミニウムで還元する方法を、Polymer, vol 22, 1721 (1981), Rubber Chemistry and Technology, vol.59, 16 (1986), Macromolecules, vol.16, 1925(1983)等に記載されている方法に準拠して用いた。
即ち、グラフトゴム約0.15gを精秤し、これをジクロロメタン50mlに分散させた。この液を100ml三口フラスコに入れ、−80℃まで冷却した状態で、オゾン発生装置(朝日理化硝子工業社製LABO OZON−250)により供給されるオゾンを含有する酸素を100ml/minの流量で三口フラスコ内に吹き込み、オゾン酸化反応させた。三口フラスコから流出する気流をヨウ化カリウム水溶液に通し、この液が黄変するまでオゾン酸化反応を継続した。
続いて、別に用意しておいた300ml三口フラスコに水素化リチウムアルミニウム0.35gとジエチルエーテル50mlを入れて攪拌し、この三口フラスコの中にオゾン酸化反応液を室温下で滴下した。滴下後、60℃のオイルバスで該300ml三口フラスコを加温し、45分間系内を還流させた。
【0033】
その後室温まで該300ml三口フラスコを冷却してから、2.5gの水を反応液に滴下して未反応の水素化リチウムアルミニウムを分解した。更に適量の硫酸マグネシウムを加えた後、該反応液を吸引濾過して、得られた濾液を溶媒留去してポリマー分を得、真空乾燥した。本発明においては、得られたポリマー分をグラフト鎖とし、GPC法によりポリスチレン換算値として質量平均分子量(Mw)を測定した。
【0034】
(4)グラフトゴムの体積平均粒子径の測定方法
グラフトゴムの体積平均粒子径は、グラフトゴムのラテックスを蒸留水で希釈した液を試料として、レーザー回折散乱法で求めた。その測定条件は以下の通りである。
装置:COULTER LS 230(COULTER社製)
濃度:2.0%
希釈溶媒:蒸留水
【0035】
(5)AS共重合体の質量平均分子量(Mw)の測定。
前記(1)の方法で得られたグラフトゴムのMEK可溶分のGPC曲線より、質量平均分子量(Mw)を求めた。
【0036】
[シートの評価方法]
各実施例/比較例の積層シートを、下記の評価方法にて下記の特性の評価を行った。
(1)引張特性
JIS−K−7127に準拠し、各シートのMD(シートの押出方向)及びTD(シート押出方向と垂直方向)にサンプリングした各試験片について4号ダンベルでの評価を行った(破断伸び、降伏点強度、破断点強度、引張弾性率)。
(2)デュポン衝撃強度
デュポン衝撃試験機/東洋精機社製を使用し、300gの荷重を落下させ50%破壊高さを求め、そのときの荷重からエネルギー値を計算した。計算はJIS−K−7211に準じて行った。
(3)耐折強度
ASTM D2176に基づき、長さ120mm、幅15mm、厚さ0.3mmの試験片を作製し、東洋精機製作所製MIT耐折疲労試験機を用いて、シートより、MD及びTDを長さ方向としたサンプリングを行い、MIT耐折強度の測定を行った。この時、折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175rpm、測定荷重9.8Nにて試験を行った。
(4)引裂強度
JIS−K−7128−3に準拠して、MD及びTDを長さ方向とした試験片について、引き裂き強度を測定した。
(5)表面抵抗値
表面抵抗値測定器/三菱化学社製(ロレスタ−EP)を用いて評価を行った。
(6)成形性
EDG社製圧空成形機で成形したエンボスキャリアテープの賦形性が良好なものを5、賦形性が不良なものを1とし、5段階評価で数値化した。
【0037】
(7)抜きバリ指数
シートの打抜き条件はクリアランス(打ち抜きピンとシート支え台の隙間)が20μm、打抜き速度が230mm/secで実施し、この条件で打ち抜いた面を30倍の倍率で顕微鏡観察し、打ち抜き面にバリの発生がない場合は5、バリが発生している場合を1とし、バリの大きさ、発生度合いを図1に示した見本に従って5段階評価を行った。4以上であれば、バリによるコンタミ等のトラブルが発生しない。尚、各実施例のシートについては、打抜き速度を230mm/secとしてクリアランスを2及び60μmに変化させた場合、クリアランスを20μmとして打抜き速度を130mm/secに変化させた場合についても同様の評価を行った。
【0038】
(実施例1〜14)
表面層の原料として、下記のスチレン系樹脂80質量部とアセチレンブラック20質量部を高速混合機により均一混合した。得られた混合物をφ45mmのベント式二軸押出機を用い混練し、ストランドカット法によりペレット化した。
スチレン系樹脂:HIPS (H701N:電気化学工業社製)
アセチレンブラック:デンカブラック(電気化学工業社製)
別途基材層の原料樹脂として表1に示したA〜Dの組成及び特性を有するグラフトゴムと表2に示したA及びBの組成を有するAS樹脂を、表3に記載した割合で含有する樹脂組成物を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
この基材層用樹脂組成物と上記の表面層用ペレットを使用し、φ65mm押出機(L/D=28)、φ40mm押出機(L/D=26)2台とフィードブロック及びTダイを用いて、両表面層と基材層の厚み比率が1:8:1で全体の厚さを0.3mmを有する3層のシート状に成形して、各実施例のサンプルとし、前記の評価を行った。評価結果を表4、表5及び表6に纏めて示した。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
(比較例1〜8)
基材層の原料樹脂として表1に示したE〜Gの組成及び特性を有するグラフトゴムと表2に示したC及びDの組成を有するAS樹脂を、表7に記載した割合で含有する樹脂組成物を用いた以外は、実施例1〜14と同様にして3層のシート状に成形し、各比較例のサンプルとした。評価結果を表8及び表9に纏めて示した。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】
【0049】
【表9】
【0050】
前記の各実施例及び比較例のシートについて打ち抜き試験を行い、前記の抜きバリ指数の評価を行い、結果を表10に示した。
【表10】
【0051】
各実施例のシートは、引張特性、デュポン衝撃強度、耐折強度及び引裂強度等について、各種の電子部品包装用のシートとして一定レベル以上の特性を有し、成形性も良好であり、打ち抜き試験での抜きバリ指数も良好であった。
それに対して、各比較例のシートは、全般的に打ち抜き試験で抜きバリが発生する傾向が認められ、クリアランス20μの打ち抜きで抜きバリ指数は殆どのものが3以下であった。比較例5のシートは、この条件での抜きバリ指数は比較的良好であったが、シートのデュポン衝撃強度や耐折強度が極めて低かった。
図1