【実施例】
【0030】
以下、本発明を実施例により詳細に説明する。
[樹脂特性の評価方法]
以下の実施例及び比較例で用いたABS樹脂を特定する特性を、以下の方法にて評価した。
(1)ABS樹脂中のグラフトゴムとAS共重合体の含有割合の測定
ABS樹脂約1.2gを100ml三角フラスコに取り、メチルエチルケトン(MEK)30gを加えた後、温度23℃で24時間攪拌し、その後、遠心分離機(日立製作所製CR26H)でMEK不溶分の分離を実施し、遠心分離操作後30分静置した。この遠心分離器の操作条件を次の通り設定した。
温度 :−9℃
回転数:23,000rpm
時間 :50分
遠心分離させた溶液の上澄み液と沈殿物とを分離し、上澄み液をメタノール150mlが入れてある300mlビーカーに注ぎ入れて、析出させ、析出物を濾紙を用いて吸引濾過した。濾過物は室温で24時間乾燥させ、次に真空乾燥機で4時間残溶剤を飛ばして試料を得た。
得られたMEK不溶分の沈殿物に更にMEKを加えて遠心分離操作で洗浄し、吸引濾過及び真空乾燥したものを「グラフトゴム」とし、前記MEK可溶分のメタノール析出で得られた沈殿物を「AS共重合体」とし、それらの質量比より、それぞれの含有割合を求めた。
尚、前記ABS樹脂に更にAS共重合体を加えたABS樹脂についても、前記の方法に準じてグラフトゴムとAS共重合体の含有割合を求めた。
【0031】
(2)グラフトゴムのグラフト率の測定方法
前項(1)と同様にして得たグラフトゴムについて、AN単量体量(y)をケルダール窒素法によって定量し、St単量体量(z)を熱分解ガスクロマトグラフィーにより定量し、下記の式によってグラフト率を求めた。
グラフト率(%)=100×(y+z)/{x−(y+z)}
ここで、xは、グラフトゴムの全質量である。
【0032】
(3)グラフトゴム中のグラフト鎖の質量平均分子量(Mw)の測定方法
グラフトゴムをオゾン分解し、その後に水素化リチウムアルミニウムで還元する方法を、Polymer, vol 22, 1721 (1981), Rubber Chemistry and Technology, vol.59, 16 (1986), Macromolecules, vol.16, 1925(1983)等に記載されている方法に準拠して用いた。
即ち、グラフトゴム約0.15gを精秤し、これをジクロロメタン50mlに分散させた。この液を100ml三口フラスコに入れ、−80℃まで冷却した状態で、オゾン発生装置(朝日理化硝子工業社製LABO OZON−250)により供給されるオゾンを含有する酸素を100ml/minの流量で三口フラスコ内に吹き込み、オゾン酸化反応させた。三口フラスコから流出する気流をヨウ化カリウム水溶液に通し、この液が黄変するまでオゾン酸化反応を継続した。
続いて、別に用意しておいた300ml三口フラスコに水素化リチウムアルミニウム0.35gとジエチルエーテル50mlを入れて攪拌し、この三口フラスコの中にオゾン酸化反応液を室温下で滴下した。滴下後、60℃のオイルバスで該300ml三口フラスコを加温し、45分間系内を還流させた。
【0033】
その後室温まで該300ml三口フラスコを冷却してから、2.5gの水を反応液に滴下して未反応の水素化リチウムアルミニウムを分解した。更に適量の硫酸マグネシウムを加えた後、該反応液を吸引濾過して、得られた濾液を溶媒留去してポリマー分を得、真空乾燥した。本発明においては、得られたポリマー分をグラフト鎖とし、GPC法によりポリスチレン換算値として質量平均分子量(Mw)を測定した。
【0034】
(4)グラフトゴムの体積平均粒子径の測定方法
グラフトゴムの体積平均粒子径は、グラフトゴムのラテックスを蒸留水で希釈した液を試料として、レーザー回折散乱法で求めた。その測定条件は以下の通りである。
装置:COULTER LS 230(COULTER社製)
濃度:2.0%
希釈溶媒:蒸留水
【0035】
(5)AS共重合体の質量平均分子量(Mw)の測定。
前記(1)の方法で得られたグラフトゴムのMEK可溶分のGPC曲線より、質量平均分子量(Mw)を求めた。
【0036】
[シートの評価方法]
各実施例/比較例の積層シートを、下記の評価方法にて下記の特性の評価を行った。
(1)引張特性
JIS−K−7127に準拠し、各シートのMD(シートの押出方向)及びTD(シート押出方向と垂直方向)にサンプリングした各試験片について4号ダンベルでの評価を行った(破断伸び、降伏点強度、破断点強度、引張弾性率)。
(2)デュポン衝撃強度
デュポン衝撃試験機/東洋精機社製を使用し、300gの荷重を落下させ50%破壊高さを求め、そのときの荷重からエネルギー値を計算した。計算はJIS−K−7211に準じて行った。
(3)耐折強度
ASTM D2176に基づき、長さ120mm、幅15mm、厚さ0.3mmの試験片を作製し、東洋精機製作所製MIT耐折疲労試験機を用いて、シートより、MD及びTDを長さ方向としたサンプリングを行い、MIT耐折強度の測定を行った。この時、折り曲げ角度135度、折り曲げ速度175rpm、測定荷重9.8Nにて試験を行った。
(4)引裂強度
JIS−K−7128−3に準拠して、MD及びTDを長さ方向とした試験片について、引き裂き強度を測定した。
(5)表面抵抗値
表面抵抗値測定器/三菱化学社製(ロレスタ−EP)を用いて評価を行った。
(6)成形性
EDG社製圧空成形機で成形したエンボスキャリアテープの賦形性が良好なものを5、賦形性が不良なものを1とし、5段階評価で数値化した。
【0037】
(7)抜きバリ指数
シートの打抜き条件はクリアランス(打ち抜きピンとシート支え台の隙間)が20μm、打抜き速度が230mm/secで実施し、この条件で打ち抜いた面を30倍の倍率で顕微鏡観察し、打ち抜き面にバリの発生がない場合は5、バリが発生している場合を1とし、バリの大きさ、発生度合いを
図1に示した見本に従って5段階評価を行った。4以上であれば、バリによるコンタミ等のトラブルが発生しない。尚、各実施例のシートについては、打抜き速度を230mm/secとしてクリアランスを2及び60μmに変化させた場合、クリアランスを20μmとして打抜き速度を130mm/secに変化させた場合についても同様の評価を行った。
【0038】
(実施例1〜14)
表面層の原料として、下記のスチレン系樹脂80質量部とアセチレンブラック20質量部を高速混合機により均一混合した。得られた混合物をφ45mmのベント式二軸押出機を用い混練し、ストランドカット法によりペレット化した。
スチレン系樹脂:HIPS (H701N:電気化学工業社製)
アセチレンブラック:デンカブラック(電気化学工業社製)
別途基材層の原料樹脂として表1に示したA〜Dの組成及び特性を有するグラフトゴムと表2に示したA及びBの組成を有するAS樹脂を、表3に記載した割合で含有する樹脂組成物を用いた。
【0039】
【表1】
【0040】
【表2】
【0041】
【表3】
【0042】
この基材層用樹脂組成物と上記の表面層用ペレットを使用し、φ65mm押出機(L/D=28)、φ40mm押出機(L/D=26)2台とフィードブロック及びTダイを用いて、両表面層と基材層の厚み比率が1:8:1で全体の厚さを0.3mmを有する3層のシート状に成形して、各実施例のサンプルとし、前記の評価を行った。評価結果を表4、表5及び表6に纏めて示した。
【0043】
【表4】
【0044】
【表5】
【0045】
【表6】
【0046】
(比較例1〜8)
基材層の原料樹脂として表1に示したE〜Gの組成及び特性を有するグラフトゴムと表2に示したC及びDの組成を有するAS樹脂を、表7に記載した割合で含有する樹脂組成物を用いた以外は、実施例1〜14と同様にして3層のシート状に成形し、各比較例のサンプルとした。評価結果を表8及び表9に纏めて示した。
【0047】
【表7】
【0048】
【表8】
【0049】
【表9】
【0050】
前記の各実施例及び比較例のシートについて打ち抜き試験を行い、前記の抜きバリ指数の評価を行い、結果を表10に示した。
【表10】
【0051】
各実施例のシートは、引張特性、デュポン衝撃強度、耐折強度及び引裂強度等について、各種の電子部品包装用のシートとして一定レベル以上の特性を有し、成形性も良好であり、打ち抜き試験での抜きバリ指数も良好であった。
それに対して、各比較例のシートは、全般的に打ち抜き試験で抜きバリが発生する傾向が認められ、クリアランス20μの打ち抜きで抜きバリ指数は殆どのものが3以下であった。比較例5のシートは、この条件での抜きバリ指数は比較的良好であったが、シートのデュポン衝撃強度や耐折強度が極めて低かった。