(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727493
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】共役ジエンホスフィネート化合物、その調製方法および使用
(51)【国際特許分類】
C07F 9/38 20060101AFI20150514BHJP
C09K 21/12 20060101ALI20150514BHJP
C08F 36/04 20060101ALI20150514BHJP
【FI】
C07F9/38 ZCSP
C09K21/12
C08F36/04
【請求項の数】25
【全頁数】16
(21)【出願番号】特願2012-535581(P2012-535581)
(86)(22)【出願日】2009年10月30日
(65)【公表番号】特表2013-509356(P2013-509356A)
(43)【公表日】2013年3月14日
(86)【国際出願番号】CN2009074730
(87)【国際公開番号】WO2011050537
(87)【国際公開日】20110505
【審査請求日】2012年9月4日
(73)【特許権者】
【識別番号】510019093
【氏名又は名称】ソルベイ チャイナ カンパニー、リミテッド
【氏名又は名称原語表記】SOLVAY (CHINA) CO.,LTD.
(74)【代理人】
【識別番号】100102185
【弁理士】
【氏名又は名称】多田 繁範
(74)【代理人】
【識別番号】100129399
【弁理士】
【氏名又は名称】寺田 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】リウ ツァオキン
(72)【発明者】
【氏名】デ カンポ フロリアン
【審査官】
堀 洋樹
(56)【参考文献】
【文献】
特開2005−232067(JP,A)
【文献】
ソ連国特許発明第00242383(SU,A)
【文献】
特開昭58−172397(JP,A)
【文献】
特公昭52−047454(JP,B1)
【文献】
Zhurnal Obshchei Khimii,1966年,36(7),p.1262-1267
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F
C08F
C09K
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
式IIIを有する共役ジエンホスフィネート化合物:
【化1】
(式中、
R
1、R
2、およびR
4、それぞれ、独立に、水素、アルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、またはアルケニル基を表し、
R
3およびR
5は、それぞれメチル基を表し、
R
6およびR
7は、それぞれ水素を表す)。
【請求項2】
前記アルキル、アルケニルは1〜24個の炭素原子を含み、前記アリールは6〜24個の炭素原子を含み、前記アルカリール、アラルキルは7〜24個の炭素原子を含み、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキルは3〜24個の炭素原子を含む、請求項1に記載の共役ジエンホスフィネート化合物。
【請求項3】
前記アルキル、アルケニルは1〜18個の炭素原子を含み、前記アリールは6〜18個の炭素原子を含み、前記アルカリール、アラルキルは7〜18個の炭素原子を含み、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキルは3〜18個の炭素原子を含む、請求項1に記載の共役ジエンホスフィネート化合物。
【請求項4】
R1および/またはR2は水素を表す、請求項1に記載の共役ジエンホスフィネート化合物。
【請求項5】
R1およびR2は、一緒になって、シクロアルキル、またはヘテロシクロアルキル基を形成する、請求項1に記載の共役ジエンホスフィネート化合物。
【請求項6】
前記シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキル基は、3〜8員環から選択される、請求項5に記載の共役ジエンホスフィネート化合物。
【請求項7】
R1、R2およびR4は水素を表す、請求項1から請求項6のいずれか1項に記載の共役ジエンホスフィネート化合物。
【請求項8】
α,β−もしくはβ,γ−不飽和のケトンまたはアルデヒドから共役ジエンホスフィネート化合物を調製するための方法であって、
式Iまたは式IIを有するα,β−もしくはβ,γ−不飽和のケトンまたはアルデヒド
【化2】
を、式
【化3】
を有するホスフィン酸またはその誘導体と反応させて、式IIIを有する共役ジエンホスフィネート化合物
【化4】
を得ることを含み、式中、
R
1、R
2、およびR
4、それぞれ、独立に、水素、アルキル、シクロアルキル、またはヘテロシクロアルキル基を表し、
R
3およびR
5は、それぞれメチル基を表し、
R
6およびR
7は、それぞれ水素を表す、方法。
【請求項9】
前記アルキル、アルケニルは1〜24個の炭素原子を含み、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキルは3〜24個の炭素原子を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項10】
前記アルキル、アルケニルは1〜18個の炭素原子を含み、前記シクロアルキル、ヘテロシクロアルキルは3〜18個の炭素原子を含む、請求項8に記載の方法。
【請求項11】
R1および/またはR2は水素を表す、請求項8に記載の方法。
【請求項12】
R1およびR2は、一緒になって、シクロアルキル、またはヘテロシクロアルキル基を形成する、請求項8に記載の方法。
【請求項13】
前記シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキル基は、3〜8員環から選択される、請求項12に記載の方法。
【請求項14】
R1、R2、およびR4は水素を表す、請求項8から請求項13のいずれか1項に記載の方法。
【請求項15】
前記化合物Iまたは化合物IIは、前記ホスフィン酸またはその誘導体に対して(0.5〜2):1のモル比で加えられる、請求項8から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項16】
前記化合物Iまたは化合物IIは、前記ホスフィン酸またはその誘導体に対して(1〜1.5):1のモル比で加えられる、請求項15に記載の方法。
【請求項17】
前記反応は、トルエン、シクロヘキサン、ブチルエーテルからなる群のうちの1以上から選択される溶媒の中で実施される、請求項8から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項18】
前記反応は、不活性ガス保護のもとで実施される、請求項8から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項19】
前記不活性ガスは、窒素、アルゴン、および二酸化炭素からなる群のうちの1以上から選択される、請求項18に記載の方法。
【請求項20】
反応温度は0℃〜150℃である、請求項8から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項21】
前記反応温度は85℃〜125℃である、請求項20に記載の方法。
【請求項22】
反応時間は4〜24時間である、請求項8から請求項14のいずれか1項に記載の方法。
【請求項23】
前記反応時間は4〜8時間である、請求項22に記載の方法。
【請求項24】
請求項1から請求項7のいずれか1項に記載の式IIIの化合物のポリマーまたはコポリマー。
【請求項25】
請求項24に記載のポリマー又はコポリマーを含む、難燃剤または金属抽出剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハロゲン不含のホスフィネート含有難燃剤、イニマー(inimer)および金属抽出剤を製造するための新しいホスフィネートジエン化合物、不飽和のケトンまたはアルデヒドからこのホスフィネートジエン化合物を調製するための方法、ならびにその使用に関する。
【背景技術】
【0002】
ホスフィネート種は、典型的には調製するのが困難で、とりわけ置換基が不飽和であるときは、調製するのが困難である。報告されている不飽和種は、典型的にはアルケンであり、いくつかの稀な例としてアレンがある。いずれの場合も、そのような種は調製するのが困難であり、典型的には、多段階調製または触媒反応のいずれかを必要とする。加えて、アルケンホスフィネートなどの生成される化学種は、重合において限られた反応性しか有しない。本出願人が知る限りでは、1,3−ジエンホスフィネートが文献で報告されたことはないが、一方で、そのような構造は、いくつかの非常に興味深い反応性を有する可能性がある。
【0003】
報告された最も近い構造は、ロシアの論文(非特許文献1または非特許文献2)にあるものなどの1,2−ジエン(アレンとしても知られる)である。これらのアレン構造は、アセチレンアルコールおよび次亜リン酸から合成される。
【0004】
文献では、α,β−不飽和カルボニル化合物の反応性が広く研究されてきており、Mauser(非特許文献3)は、特に、メシチルオキシドの反応性を研究した。典型的には、このような化合物は、カルボニルでまたは二重結合で反応できる。通常、カルボニルでのGrignard試薬などの強い求核性化合物との反応は、対応するヒドロキシル付加体または脱水が起こればアレン(1,2−ジエン)を与える。その二重結合で、アミンまたはアルコールなどの他の求核性化合物との反応が起こるとき、メカニズムは1,4付加であり、対応するケトンの形成を導く。特に、メシチルオキシドと亜リン酸ジアルキルとの反応は、選択的に、ケトンの形成を導く。
【0005】
異なるタイプのイニマーがある。例えば、特許文献1は、ハイパーブランチイソオレフィンを生成するためのカチオン性イニマーを記載した。特許文献2は、ハロゲン化イニマーを使用して、自己縮合型ビニルATRP(原子移動ラジカル重合、Atomic Transfer Radical Polymerization)によってハイパーブランチポリマーを製造する。しかしながら、このラジカルイニマーは、調製するのが容易ではなく、しかもハロゲン化化合物であり、金属共開始剤が必要とされる。ハロゲンは有毒であると考えられ、金属の使用は、ポリマーを汚染することが多い。
【0006】
異なるメカニズム(ラジカル、触媒的、など)によってハイパーブランチポリマー構造を生成することができる、より効率的なイニマー、すなわち、モノマー状の開始剤に対するニーズが高まっている。H−ホスフィネートジエンは、そのような役割を果たすことができる独特の構造を提供するであろう。
【0007】
今日、金属ホスフィネートは、ハロゲン化難燃剤を置き換えるための先端的な技術である。しかしながら、このファミリーの化合物を調製するための主なプロセスは、難しく、全体として費用がかかる。難燃剤として使用することができるホスフィネートまたは高分子ホスフィネートの調製を可能にする、新しい費用効率の高い化学を開発するというニーズが現実に存在する。
【0008】
難燃剤における使用のためのジアルキルホスフィネート塩を調製するための先端的な化学は、非常に過酷な条件下でオレフィンを次亜リン酸と反応させることによる、クラリアント(Clariant)社の化学(特許文献3)に基づく。特に、エチレンと次亜リン酸との反応は、周知の難燃剤を調製するために広く使用される。難燃剤として広く使用される別の化学は、環状H−ホスフィネートであるDOPOであり、その化学はPCl
3に基づく。この化学は、ハロゲン不含の難燃剤を調製しようとするときには、理想的ではない。
【0009】
ホスフィネート化合物は、金属を分離するために、鉱業において広く使用されることは周知である。固体担持抽出剤を有することを可能にするポリマー構造体にホスフィネート化合物を固定しようとする試みがいくつかある。しかしながら、この戦略は、ポリマー構造体にホスフィネート基を耐久性よくグラフトすることは困難であるため、ともかく費用がかかる。H−ホスフィネートジエン構造は、もしそれらが利用可能であるならば、高密度のホスフィン酸基を有するいくつかの新しいポリマー構造を設計することが可能になり、従って、良好な金属分離が可能になるであろう。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】米国特許第6,156,859号明細書
【特許文献2】米国特許出願公開第2006−849415号明細書
【特許文献3】米国特許第6329544号明細書
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献1】Antibiot.Ferm.Med.Naznachen.,Leningrad,USSR.Doklady Akademii Nauk SSSR、1983年、第269巻、第6号、1377−80頁
【非特許文献2】Belakhov,V.V.ら、Zhurnal Obshchei Khimii、1983年、第53巻、第7号
【非特許文献3】Chem.Rev.、1963年、第63巻、第3号、311−324頁
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0012】
一般に、本発明は、ポリオレフィン、ポリスチレン、ポリブタジエン、ポリ(メタ)アクリル系重合体およびこれらのコポリマーなどの新しいハイパーブランチポリマー材料へのアクセスを可能にすることができるイニマーとして使用することができる、式IIIの共役ジエンホスフィネートを提供する。式IIIの共役ジエンホスフィネートは、ラジカル付加によって、ポリアクリルアミド、ポリカルボキシレートおよびそのコポリマーなどのハイパーブランチ高分子電解質を作り出すために使用することもできる。本発明は、式IIIの共役ジエンホスフィネートを調製するための方法も提供する。
【化1】
【0013】
本発明に係る共役ジエンホスフィネートのポリマーは、水処理、油田での応用、表面処理での応用、鉱業、歯科での応用、プラスチック類などで応用することができるであろう。このモノマーは、合成ゴムまたは天然ゴムへグラフト化することもできるであろう。
【0014】
1,3−ジエン H−ホスフィネート(R
6=H)の場合には、単離された1,3−ジエンホスフィネートまたはその反応混合物のいずれかから調製されるいずれのポリマー構造体も、何らかの難燃剤および潜在的に酸化防止剤としての特性を有するであろう。このような物質は、ハロゲン不含の難燃剤組成物を調製するためにプラスチック工業において、使用することができよう。それのみならず、テキスタイルまたは難燃特性を必要とするいずれかの他の応用例においても使用することができよう。
【0015】
1,3−ジエン H−ホスフィネートから誘導されるポリマー構造体は、固体担持金属抽出プロセスを開発することを可能にする、いくつかの独特の金属抽出特性も有するであろう。主な応用例は、溶媒が少ないかまたは無溶媒の金属抽出プロセスを開発するために鉱業において、核廃棄物を分離するためにいくつかの高効率的な金属抽出剤を必要とする原子力産業において、および重金属を除去するために水処理産業において見つけることができよう。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1つの態様では、本発明は、式IIIを有する共役ジエンホスフィネート化合物:
【化2】
を提供し、式中、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5およびR
6は、独立に、水素、アルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、またはアルケニル基を表し、好ましくは、このアルキル、アルケニルは1〜18個の炭素原子を含み、このアリールは6〜18個の炭素原子を含み、このアルカリール、アラルキルは7〜18個の炭素原子を含み、このシクロアルキル、ヘテロシクロアルキルは3〜18個の炭素原子を含む。
【0017】
より反応性が高いモノマーが目的であるならば、好ましくは、R
1および/またはR
2は水素を表す。
【0018】
好ましくは、R
1、R
2およびR
4は水素を表すか、またはR
3およびR
5はメチルを表し、より好ましくは、R
1、R
2およびR
4は水素を表し、R
3およびR
5はメチルを表す。
【0019】
R
7は、水素、アルキル、アリール、アルカリール、アラルキル、シクロアルキル、アルケニル基、またはNa、Li、Caからなる群から選択される金属を表す。好ましくは、このアルキル、アルケニルは1〜18個の炭素原子を含み、このアリールは6〜18個の炭素原子を含み、このアルカリール、アラルキルは7〜18個の炭素原子を含み、このシクロアルキル、ヘテロシクロアルキルは3〜18個の炭素原子を含む。
【0020】
本発明の好ましい実施形態のうちの1つでは、R
1、R
2、R
3、R
4、R
5、R
6、およびR
7のうちのいずれか2つは、一緒になって、好ましくは3〜8員環から選択されるシクロアルキル、またはヘテロシクロアルキル基を形成する。
【0021】
ここで、または本願明細書の以下の残部で特段の記載がない限り、「本発明の化合物」または「本発明に従って調製される化合物」は、本願明細書に開示される種々の記載および構造式によって包含される化合物を指す。それらの化合物は、その化学構造および/または化合物名のいずれによって特定されてもよい。
【0022】
本発明の化合物は1以上のキラル中心および/または二重結合を含有してもよく、それゆえ、環状構造または二重結合に由来するZ−およびE−またはcis−およびtrans−異性体(すなわち、幾何異性体)、回転異性体、鏡像異性体またはジアステレオマーなどの立体異性体として存在してもよい。従って、キラル中心における立体化学が特定されないとき、本願明細書中で描かれる化学構造は、立体異性体として純粋な形態(例えば幾何異性体として純粋、鏡像異性体として純粋、またはジアステレオマーとして純粋)および鏡像異性体混合物および立体異性体混合物を含めた、それらのキラル中心におけるすべての可能な配置を包含するが、ただし、ただ1つの鏡像異性体が特定されているとき、その構造は、他の鏡像異性体も同様に包含する。例えば、本発明で開示される式IIIの化合物がPに近い二重結合についてZ−体またはtrans−体である場合には、この技術分野の当業者は、その化合物のE−体またはcis−体も開示されていると理解するはずである。鏡像異性体混合物および立体異性体混合物は、この技術分野の当業者にとっては周知である分離技法またはキラル合成技法を使用して、それらの構成成分の鏡像異性体または立体異性体へと分割することができる。
【0023】
1つの他の態様では、本発明は、α,β−もしくはβ,γ−不飽和のケトンまたはアルデヒドから共役ジエンホスフィネート化合物を調製するための方法を提供し、この方法は、
式Iまたは式IIを有するα,β−もしくはβ,γ−不飽和のケトンまたはアルデヒド
【化3】
を、式
【化4】
を有するホスフィン酸またはその誘導体と反応させて、式IIIを有する共役ジエンホスフィネート化合物
【化5】
を得ることを含む。
【0024】
本発明に開示されるプロセスは、少なくとも1つのP−H結合を保有するホスフィネート化合物の反応の選択性を変えて、α,β−またはβ,γ−不飽和のカルボニル化合物から出発したとき、選択的に1,3−ジエン化合物を得ることを可能にする。
【0025】
当該反応の選択性を説明するための1つの可能性のあるメカニズムは、オキサホスフィラン中間体(P−C−Oで構成される環)を伴う協奏的付加−脱水メカニズムであろう。ホスフィネートおよびアリルプロトンの存在によって、実験的に観察される脱水工程が容易に起こり、共役二重結合を与えることを説明できるであろう。
【0026】
この一段階の付加および脱水のメカニズムは、下記のように描くことができよう。オキサホスフィラン(P−C−Oで構成される環)が中間体として考慮され、次いで脱離および転位が起こり、ジエンが形成される。ホスホネートおよびアリルプロトンの両方が、共役したC=C二重結合の形成を容易にする。
【化6】
【0027】
いずれの既存の理論によっても束縛されることは望まずに、本発明の調製方法は、α,β−不飽和カルボニル化合物から出発しようが、またはβ,γ−不飽和カルボニル化合物から出発しようが有効であり、両方の化学種は、同じジエンの形成を導くであろう。
【0028】
本発明の方法によれば、当該化合物Iまたは化合物IIは、上記亜リン酸もしくはその誘導体に対して(0.5〜2):1、好ましくは上記亜リン酸もしくはその誘導体に対して(1〜1.5):1のモル比で加えられる。通常、この反応は、トルエン、シクロヘキサン、ブチルエーテルからなる群のうちの1以上から選択される溶媒などの有機溶媒の中で実施される。反応時間は4〜24時間、好ましくは4〜8時間である。反応温度は0〜150℃、好ましくは85〜125℃である。
【0029】
好ましくは、この反応は、不活性ガス保護のもとで実施される。この不活性ガスは、例えば、窒素、アルゴン、および二酸化炭素からなる群のうちの1以上から選択されてもよい。
【0030】
例えば、メシチルオキシドは、濃縮形態の次亜リン酸と反応し、4−メチルペンタ−2,4−ジエン−2−ホスフィン酸を与える。反応の間に水を除去するための共沸溶媒としてトルエンを使用して、50% 次亜リン酸を使用して同じ反応を実施することができよう。目的モノマーは、簡単な抽出および洗浄によって簡単に単離および精製することができ、97%まで純粋な生成物を得ることができる。
【化7】
【0031】
上記のプロセスは、ホスフィネートおよびホスホネート化合物の混合物を形成することを可能にし、この混合物は直接重合してホスフィネートおよびホスホネート基の両方を含有するポリマーを与えることができ、この両方の官能性は、難燃特性などのいくつかの有用な特性をもたらすことが周知である。
【0032】
本発明に好適な不飽和のケトンおよびアルデヒドは、ケトンおよびアルデヒドのアルドール縮合から得ることができる。
【0033】
例えば、メチルイソブチルケトン(MIBK)の二量化が米国特許第4,170,609号明細書によって教示された。
【化8】
【0034】
同様にして、ピナコロンのアルドール縮合は、高度に分岐した不飽和ケトンを与えるであろう。
【化9】
【0035】
いくつかの市販の不飽和のケトンおよびアルデヒドも本発明で使用してよい。それらは、溶媒として(例えば、メシチルオキシド)、他の汎用化学製品および特殊化学品への前駆体として(例えば、イソホロン)、および高分子材料のためのモノマーとして(例えば、メチルビニルケトン(MVK))使用される重要な工業的化学物質である。
【化10】
【0036】
3−メチルクロトンアルデヒドは、ビタミンAのための前駆体である。工業的には、3−メチルクロトンアルデヒドは、イソブテンおよびホルムアルデヒドから製造される。
【化11】
【0037】
魅力があるものはクロトンアルデヒドであるかも知れない。クロトンアルデヒドは生物起源の化合物であり、着香剤として使用される。クロトンアルデヒドは、バイオエタノールという再生可能な資源から製造することができる。
【化12】
【0038】
2−エチルアクロレイン、およびその異性体であるチグリンアルデヒドは、香料のための中間体である(米国特許第4605779号明細書)。
【化13】
【0039】
天然の不飽和のケトンおよびアルデヒド、例えば、ピペリトン、カルボン、ウンベルロン、メンテン−2−オン、メンテン−3−オン、ベルベノンおよびミルテナールも、当該調製において使用することができよう。得られたホスフィネートジエンは、殺虫剤、駆除薬、医薬品およびそれらの中間体として、重要な生物活性を有する可能性があろう。
【0040】
【化14】
本発明の1つの他の態様では、本発明に係るホスフィネートジエンは、ポリマーまたはコポリマーを製造するために使用することができる。この態様では、本発明は、当該共役ジエンホスフィネート化合物のポリマーまたはコポリマーにも関する。また、本発明は、当該ホスフィネートジエンのポリマーまたはコポリマーを調製するための方法であって、本発明の方法に従ってホスフィネートジエンを調製する工程および重合または共重合の工程を含む方法、に関する。
【0041】
1つの他の態様では、本発明は、本発明に係るホスフィネートジエン化合物の使用を提供する。
【0042】
本発明に従ってアルデヒドおよびケトンから調製されるホスフィネートジエン、またはポリマーもしくはコポリマーは、難燃剤として、活性医薬品および農芸化学品のための中間体として、典型的にはホスフィン酸基含有のポリスチレン、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ(メタ)アクリレート、ポリ(メタ)アクリルアミド、ポリブタジエン、ポリアクリロニトリルなどおよびそれらのコポリマーなどの機能性ポリマーのための反応性もしくは機能性のモノマーとして、または他の有用な生成物のための基本単位として使用することができる。例えば、本発明を限定するわけではないが、本発明の方法に従って調製されるホスフィネートジエン、またはポリマーもしくはコポリマーは、水処理での応用において、油田での応用において、表面処理での応用において、鉱業での応用において、歯科での応用において、プラスチック類において、などで使用することができる。好ましくは、本発明に係るホスフィネートジエン、またはポリマーもしくはコポリマーは、プラスチック類またはテキスタイルにおける難燃剤として使用することができる。本発明は、これらの使用を含む方法にも関する。
【0043】
本発明のホスフィン酸モノマー自体がイニマーである。P−H結合は、以下に示すとおり、分岐のためのラジカル開始剤部位としての役割を果たす。
【化15】
【0044】
このホスフィン酸モノマーは、ジアルキルホスフィネート系高分子難燃剤または金属抽出剤へと、単独重合することができるし、他のモノマーと共重合することもできる。このホスフィン酸モノマーは、ラジカル、アニオンまたはカチオンの開始のもとで重合すると予想される。それゆえ、本発明は、式IIIの化合物のポリマーまたはコポリマーをも提供する。
【0045】
本発明の利点は以下のとおりである:
1)本発明は、α,β−もしくは/およびβ,γ−不飽和のケトンまたはアルデヒドから一段階で新しいクラスの有機ホスフィネート、1,3−ジエン−ホスフィネートおよびそれらの誘導体を提供する。この反応は、非常に穏和な条件下で実施され、良好な収率および良好な純度をもたらす。
2)本発明に係る新しい化合物は、ハイパーブランチ構造の新しい高分子材料のため、医薬品および農芸化学品およびそれらの中間体のため、難燃剤のため、抽出剤もしくは重金属吸収剤のために利用できるための新しいタイプの化学を開く。
3)本発明の技術的解決策は環境に優しい可能性がある。持続可能で天然の原料を使用することは、今日、非常に重要であり、しかも多くの不飽和のケトンまたはアルデヒドは実際に天然物であり、しかも、エタノールなどの再生可能な資源から誘導体化できる。
【0046】
本発明は、下記の実施例によってさらに説明される。
【実施例】
【0047】
以下の実施例は、本発明を説明するために提供されるが、本発明を限定するために与えられるものではない。
【0048】
実施例1
100mlのフラスコの中に、16.5gの次亜リン酸(H
3PO
2、50%水溶液)、12.25gのメシチルオキシド(1,2−不飽和ケトンおよび1,3−不飽和ケトンの混合物)および20mlのトルエンを加えた。この混合物を、窒素下で、125℃で一晩(約17時間)、加熱して還流させ、水を集めて分離した。
31P NMRにより、86.4%のH
3PO
2が反応して、他の少量の不純物とともに、4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスフィン酸(PiDM)が65.4%の選択性で得られたことが示された。
【0049】
実施例2
500mlのフラスコへ、66gのH
3PO
2(50%水溶液)、49gのメシチルオキシドを加え、100mlのトルエンを加えた。この混合物を、窒素下で24時間、加熱して還流させた。
31P NMRにより、6時間の水の共沸蒸留の後に、82.6%のH
3PO
2が反応して、他の少量の不純物とともに、4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスフィン酸(PiDM)が68.5%の選択性で得られたことが示された。この反応を24時間継続し、H
3PO
2の97.3%転化率および4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスフィン酸(PiDM)への44.4%選択性を得た。この反応混合物を室温まで冷却し、残っていた溶媒をロータリー・エバポレーターで除去した。残渣を200mlのジクロロメタンに溶解させ、この溶液を100mlの水で3回洗浄した。合わせたジクロロメタン相を無水Na
2SO
4で乾燥し、溶媒をエバポレートし、46.5gの黄色の粘性が高い油状物を、63.7%の粗製収率および71% PiDMの純度で得た。
【0050】
実施例3
プロセスは、代わりに16.5gのH
3PO
2(50%)、24.5gのメシチルオキシドおよび20mlのトルエンを使用した以外は、実施例2と同様であった。この反応を6時間実施し、H
3PO
2についての100%転化率およびPiDMへの65.7%選択性に到達した。
【0051】
実施例4
窒素下で保護した1Lの3つ口丸フラスコへ、107.8gのメシチルオキシド、132gのH
3PO
2(50%)および400mlのトルエンを投入した。この系に窒素を流し、加熱して還流させた。水を、トルエンとの共沸混合物として留去した。すべてのH
3PO
2が消費されたことを
31P NMRが示すまで、この反応を20時間継続した。この反応混合物を室温まで冷却し、400mlの水で洗浄し、次いで希NaOH溶液で抽出した。次いで水相を、4N HClを用いてpH 1まで酸性にし、50mlのジクロロメタンで逆抽出した。有機相を集め、無水Na
2SO
4で乾燥し、エバポレートし、68.5gの明黄色油状物を得た。
31P NMRは、46.9%の粗製収率で89.7mol%がPiDMであることを示した。残留するP含有化合物は、難燃剤として使用することができた。
【0052】
実施例5
窒素で保護した1Lの3つ口丸フラスコへ、98gのメシチルオキシド、198gのH
3PO
2(50%水溶液)および100mlのトルエンを投入した。この系に窒素を流し、還流下で加熱した。水をトルエンとの共沸混合物として留去した。この反応液を一晩還流させ、次いで冷却した。ロータリー・エバポレーターで溶媒を除去し、次いで減圧下で蒸留し、167gの黄緑色の粘性が高い油状物を得た。CDCl
3中での
31P NMRは、H
3PO
2の73.3%転化率およびPiDMへの44.9%の選択性を示した。
【0053】
実施例6
500mlのフラスコへ、111gのメシチルオキシド、100gのH
3PO
2(50%水溶液)および150mlのシクロヘキサンを投入した。この混合物を、窒素下で、85℃で一晩、加熱して還流させ、その間、水を共沸混合物として除去した。
31P NMRは、H
3PO
2の75.4%の転化率およびPiDMへの48%の選択性を示した。
【0054】
実施例7
手順は、150mlのシクロヘキサンの代わりに100mlのブチルエーテルを使用したことを除いて、実施例6と同じであった。この混合物を、130℃で一晩、還流下で加熱し、この間、水を除去した。この混合物は、透明な黄色溶液へと変わった。この混合物を室温まで冷却した後、相分離が観察され、上層は薄黄色の、ブチルエーテル溶媒であり、下層は、黄色の粘性が高い生成物混合物であった。
31P NMRは、H
3PO
2の96.1%転化率およびPiDMへの52.9%の選択性を示した。
【0055】
実施例8
24.5gのメシチルオキシド、0.12gの98% H
2SO
4および50mlのトルエンを、窒素下で、100mlの3つ口フラスコへ加えた。この混合物を、水を共沸蒸留しながら125℃で加熱して還流させた。16.5gのH
3PO
2(50%水溶液)を2時間にわたって滴下した。添加後、この反応をさらに6時間継続した。得られた反応混合物は、次亜リン酸の98.4%転化率およびPiDMへの73.9%選択性を示した。この混合物を50mlの水で3回洗浄した後は、PiDMは、78.3%に上昇した。この有機相をNaOHまたはHClの溶液によって調整したpH 5の水で抽出することにより、さらなる精製を行うと、純度が96.1mol%まで上昇した。HClを用いて水相を再度pH 1まで酸性にし、ジクロロメタンで逆抽出し、溶媒のエバポレーション後、97.7mol%(
31P NMRによる)のDiPMを得た。
31P NMR(d6−DMSO,ppm): 25.4(PiDM 97.7%),39.6(不明,2.3%)。
1H NMR(d6−DMSO,δ ppm): 7.51および6.43(2s,1H),6.60(d,1H),5.24(s,1H),5.09(s,2H),1.93(s,3H),1.91(d,3H)。
13C(d6−DMSO,δ ppm),δ 140.4および140.2(d),140.1および140.0(d),130.8および129.8(d),119.9,22.3,12.2および12.1(d)。
【0056】
実施例9
33gのH
3PO
2(50%)を、ロータリー・エバポレーターで約80〜90% w/wまで濃縮した。次いで49gのメシチルオキシド、0.8gフェノチアジンをこのフラスコに加え、N
2を用いてこの混合物を脱気し、加熱して還流させた(110℃)。4時間後、100%のH
3PO
2が消費され、55%のPiDMが生成した。
【0057】
実施例10
16.5g H
3PO
2(50%)を、ロータリー・エバポレーターで約80〜90% w/wまで濃縮した。次いで12.25gのメシチルオキシドおよび0.2gフェノチアジンをこのフラスコに加え、N
2を用いてこの混合物を脱気し、加熱して還流させた。7時間後、H
3PO
2の転化は完全であった。この混合物を室温まで冷却し、50mlのジクロロメタンをこの混合物へと加えた。この溶液を50mlの水で3回洗浄した。有機相を無水Na
2SO
4によって乾燥し、この溶媒を減圧下で除去し、8.1gの透明な黄色がかった粘性が高い油状物を得た。全収率:44.4%。
【0058】
実施例11
実施例4からの4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスフィン酸(DiPM) 10g、および50mlのイソプロパノールプロパノールを100mlの3つ口フラスコへと投入した。この混合物を室温で撹拌し、透明な薄黄色溶液を得た。次いで7.7gのメラミンをこの反応器へと投入すると、この混合物は乳濁し、撹拌するのは困難であった。この混合物を85℃に加熱し、0.1gのAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を一度に加えた。白色の沈殿した固体として、ポリマーが得られた。乾燥した固体は、火炎バーナーを取り去った後は、有炎燃焼を持続しなかった。
【0059】
実施例12
実施例4からの4−メチル−2,4−ペンタジエン−2−ホスフィン酸(DiPM) 10g、および10mlの水を100mlの3つ口フラスコへと投入した。この混合物を室温で撹拌し、透明な薄黄色溶液を得た。次いで2.3gのAl(OH)
3をこの反応器へと投入し、この混合物を、撹拌しながら、50℃で30分間加熱し、懸濁液を得た。開始剤の0.2gのNa
2S
2O
8を加え、次いで100℃で4時間加熱し、もう1回分の0.2gのNa
2S
2O
8をこの混合物へと加え、一晩熟成し、ポリマーを得た。乾燥した固体は、火炎バーナーを取り去った後は、有炎燃焼を持続しなかった。
【0060】
実施例13
ポリマーは、実施例4から得た精製したPiDMの室温での自己重合(autopolymerization)によっても得た。ポリマーを、トルエンからの沈殿によって単離した。このようにして、40gのPiDMを100mlのトルエンに溶解させた。0.1gのAIBN(アゾビスイソブチロニトリル)を、窒素雰囲気下、80℃で3時間にわたって、3回に分けて投入した。同じ温度でさらに1時間撹拌し、次いで沈殿物を濾過し、乾燥し、30gの淡黄色固体ポリマーを得た。このポリマーを10% NaOH溶液の中で2日間硬化させると、その後、水で膨潤したゲルへと変わった。このゲルは、CuSO
4溶液中の銅(II)イオンを吸収して青色になり、水相を無色にすることが実証された。