(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】5727504
(24)【登録日】2015年4月10日
(45)【発行日】2015年6月3日
(54)【発明の名称】巻上げ駆動装置のモータ制御システム
(51)【国際特許分類】
H02P 23/00 20060101AFI20150514BHJP
【FI】
H02P7/36 302U
【請求項の数】15
【全頁数】12
(21)【出願番号】特願2012-541547(P2012-541547)
(86)(22)【出願日】2010年11月30日
(65)【公表番号】特表2013-512655(P2013-512655A)
(43)【公表日】2013年4月11日
(86)【国際出願番号】FI2010050982
(87)【国際公開番号】WO2011067467
(87)【国際公開日】20110609
【審査請求日】2013年8月8日
(31)【優先権主張番号】09177587.4
(32)【優先日】2009年12月1日
(33)【優先権主張国】EP
(73)【特許権者】
【識別番号】510051679
【氏名又は名称】コネクレーンズ ピーエルシー
【氏名又は名称原語表記】KONECRANES PLC
(74)【代理人】
【識別番号】100079991
【弁理士】
【氏名又は名称】香取 孝雄
(72)【発明者】
【氏名】サロマキ、 ヤンネ
(72)【発明者】
【氏名】ポルマ、 ミッコ
【審査官】
田村 耕作
(56)【参考文献】
【文献】
特開平03−018292(JP,A)
【文献】
特開平11−150998(JP,A)
【文献】
特開平10−191689(JP,A)
【文献】
特開2002−325492(JP,A)
【文献】
特開平05−056689(JP,A)
【文献】
特開平09−238500(JP,A)
【文献】
特開平06−113577(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H02P 23/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
巻上げ部材に操作可能に接続されて積荷を吊り上げる電気モータを有する巻上げ駆動装置のモータ制御システムであって、最終角周波数基準値(ω*s)を生成して、角周波数基準値の限定的設定値(ω*s,lim)すなわちレートリミッタ値および角周波数基準値の修正項(ωs,cor)を含む初期データに基づいて前記電気モータを制御するものであり、角周波数基準値の修正項(ωs,cor)を生成するパワーリミッタ手段を含むモータ制御システムにおいて、前記パワーリミッタ手段は積分制御手段を含み、該パワーリミッタ手段は前記積分制御手段の出力信号(Ip)を用いて角周波数基準値の修正項(ωs,cor)を生成し、角周波数基準値の修正項(ωs,cor)は出力信号(Ip)に比例し、積分制御手段の初期データには、電気モータの電力の実績値に比例する第1変数および電気モータの電力限界値に比例する第1パラメータが含まれ、積分制御手段の出力信号(Ip)の計算には、前記第1変数から前記第1パラメータを減じることが含まれ、積分制御手段の出力信号(Ip)の範囲を設定して該信号が常に0以上となるようにし、最終角周波数基準値(ω*s)は角周波数基準値の限定的設定値(ω*s,lim)から角周波数基準値の修正項(ωs,cor)を引くことで算出されることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項2】
請求項1に記載のモータ制御システムにおいて、該モータ制御システムは、ユーザインタフェース手段によって生成された初期角周波数基準値(ω*s0)を受け取って、初期角周波数基準値(ω*s0)を含む初期データに基づいて角周波数基準値の限定的設定値(ω*s,lim)を生成することを特徴とするモータ制御システム。
【請求項3】
請求項1または2に記載のモータ制御システムにおいて、前記パワーリミッタ手
段は、角周波数基準値の修正項(ω
s,cor)を次の式
【数7】
を用いて生成するものであることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれかに記載のモータ制御システムにおいて、前記電気モータの電力の実績値に比例する前記第1変数は、電気モータの推定実電力(P^)の絶対値であり、電気モータの電力制限値に比例する前記第1パラメータは電気モータの電力制限値(Plim)であることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項5】
請求項4に記載のモータ制御システムにおいて、回生モード時の前記積分制御手段の初期データにはさらに、前記電気モータの動的電力(P^dyn)に関する情報が含まれることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項6】
請求項5に記載のモータ制御システムにおいて、前記電気モー
タの動的電力(P^
dyn)は次の式によって求められ、
【数8】
ただし、Jは電気モー
タの慣性を、pは電気モー
タの極対数を表すことを特徴とするモータ制御システム。
【請求項7】
請求項5または6に記載のモータ制御システムにおいて、回生モード時の前記積分制御手
段の出力I
pは次の式によって求められ、
【数9】
ただし、k
ipは積分制御手
段の利得を表すことを特徴とするモータ制御システム。
【請求項8】
請求項4ないし7のいずれかに記載のモータ制御システムにおいて、前記電気モータの電力制限値(Plim)は角周波数変数の関数であり、角周波数変数が巻上げ限界周波数ポイント(ωcp)を上回ると、電力制限値(Plim)は角周波数変数に反比例して低くなり、角周波数変数は、電気モータの角周波数に関連して変化することを特徴とするモータ制御システム。
【請求項9】
請求項8に記載のモータ制御システムにおいて、前記角周波数変数は、最終角周波数基準値(ω*s)または前記電気モータの固定子周波数(ωs)の実績値であることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項10】
請求項2ないし9のいずれかに記載のモータ制御システムにおいて、該モータ制御システムはさらにレートリミッタ手段を含み、該レートリミッタ手段は、該手段の入力信号の一次導関数を限定することで角周波数基準値の限定的設定値(ω*s,lim)を生成するものであることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項11】
請求項10に記載のモータ制御システムにおいて、該モータ制御システムはさらに、初期角周波数基準値(ω*s0)に上限(ωs0,max)および下限(ωs0,min)を設けて飽和角周波数基準値(ω*s.sat)を生成する飽和手段を含み、該飽和手段はさらに、飽和初期角周波数基準値(ω*s,sat)を前記レートリミッタ手段の入力信号としてレートリミッタ手段に供給するものであることを特徴とするモータ制御システム。
【請求項12】
請求項11に記載のモータ制御システムにおいて、前記パワーリミッタ手段は、前記積分制御手段の出力信号(Ip)が0より大きい場合、角周波数基準値の限定的設定値(ω*s,lim)の絶対値に等しい値を初期角周波数基準値の上限(ωs0,max)に適用し、積分制御手段の出力信号(Ip)が0の場合、初期角周波数基準値の上限(ωs0,max)に前記電気モータの所定の最大角周波数(ωs,max)を適用することを特徴とするモータ制御システム。
【請求項13】
電気モータと、モータ制御システムと、巻上げ部材とを含み、該電気モータが該巻上げ部材に操作可能に接続されて積荷を吊り上げる巻上げ駆動装置において、前記モータ制御システムは請求項1ないし12のいずれかに記載のモータ制御システムを含むことを特徴とする巻上げ駆動装置。
【請求項14】
巻上げ駆動装置の電気モータを制御する方法において、該方法は、
初期角周波数基準値(ω*s0)を受け取る工程と、
初期角周波数基準値(ω*s0)を含む初期データに基づいて角周波数基準値の限定的設定値(ω*s,lim) すなわちレートリミッタ値を生成する工程と、
積分制御を用いて角周波数基準値の修正項(ωs,cor)を生成する工程とを含み、角周波数基準値の修正項(ωs,cor)は出力信号(Ip)に比例し、積分制御の初期データには、前記電気モータの電力の実績値に比例する第1変数および電気モータの電力限界値に比例する第1パラメータが含まれ、
積分制御手段の出力信号(Ip)の計算には、前記第1変数から前記第1パラメータを減じることが含まれ、積分制御手段の出力信号(Ip)の範囲を設定して該信号が常に0以上となるようにし、
該方法はさらに、角周波数基準値の限定的設定値(ω*s,lim)から角周波数基準値の修正項(ωs,cor)を引くことにより最終角周波数基準値(ω*s)を生成して、電気モータを制御する工程を含むことを特徴とする方法。
【請求項15】
請求項14に記載の方法を実行するためのコンピュータ・プログラム。
【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、独立請求項1の前段に係る巻上げ駆動装置のモータ制御システムに関するものである。
【0002】
主な駆動装置の安定的な操作を維持するには、巻上げ駆動装置の電気モータの回転速度を制限して、スリップ周波数がプルアウトスリップ周波数を超えないようにする必要がある。言い換えると、プルアウトトルクに達してはならないということである。プルアウトトルクは速度の2乗に反比例して低減するため、低速度の場合よりも高速度の場合のほうがプルアウトトルクに達しやすい。
【0003】
従来技術による巻上げ駆動装置用モータ制御システムは、積荷計量センサによって得られる積荷計量データを使用して、巻上げ駆動装置の電気モータの回転速度を制限するものである。積荷計量データを出力する積荷計量センサは、比較的高価な部品である。
【0004】
本発明は、巻上げ駆動装置の電気モータの回転速度を、積荷計量データを用いずにプルアウトスリップ周波数以下に制限できる巻上げ駆動装置用のモータ制御システムを提供することを目的とする。本発明の目的は、本願独立請求項1に記載の事項を特徴とする巻上げ駆動装置用モータ制御システムによって達成される。本発明の好適な実施形態を従属請求項に開示する。
【0005】
本発明は、初期データとして電気モータの電力の実績値に関する情報を用いる積分制御手段を含むパワーリミッタを使用して、角周波数基準値の修正項を生成するという発想に基づくものである。
【0006】
本発明に係るモータ制御システムは、積荷の重量に関する計測データをまったく必要としないという利点を有している。また、本モータ制御システムは、スリップ周波数を確実にプルアウトスリップ周波数以下に維持できるという利点を有している。
【図面の簡単な説明】
【0007】
以下、添付の図面を参照しながら、本発明の好適な実施形態を詳細に述べる。
【
図1】本発明の一実施形態に係るモータ制御システムを含む開ループ式巻上げ駆動装置を示す。
【
図2】本発明の別の実施形態に係るモータ制御システムを含む閉ループ式巻上げ駆動装置を示す。
【
図3】
図1に係る巻上げ駆動装置のトルク制限値および電力制限値を示す。
【
図4】
図1に係る巻上げ駆動装置を使用して得られた測定結果を示す。
【0008】
図1は、巻上げ部材4に操作可能に接続されて積荷6を吊り上げる電気モータ2を含む開ループ式巻上げ駆動装置を示す。電気モータ2は、本発明の実施形態に係るモータ制御システムによって制御される。モータ制御システムは、パワーリミッタ手段8、飽和手段12、レートリミッタ手段14、制御手段16、電力推定手段18、およびパルス幅変調手段20を備えている。モータ制御システムは、最終角周波数基準値ω
*sを生成して、角周波数基準値の限定的な設定値ω
*s,limおよび角周波数基準値の修正項ω
s,corを含む初期データに基づいて、電気モータ2を制御するものである。
図1に示す開ループ式の実施形態では、最終角周波数基準値ω
*sは同期角周波数基準値であり、制御手段16はスカラ制御手段である。
【0009】
図1において、開ループ式巻上げ駆動装置は3つに区分されている。すなわち、アプリケーションソフトウェア50、システムソフトウェア60、および巻上げ駆動機器70に分割されている。アプリケーションソフトウェアおよびシステムソフトウェアは、目的に適したデータ処理装置を使用して実行されるものである。また、巻上げ駆動機器は、上述の電気モータ2および巻上げ部材4のほかに、周波数変換器22も備えている。巻上げ駆動機器全体が、公知の部品で構成されていてもよい。
【0010】
飽和手段12は、ユーザインタフェース手段で生成された初期角周波数基準値ω
*s0を受信するよう構成される。飽和手段12は、初期角周波数基準値ω
*s0に上限ω
s0,maxおよび下限ω
s0,minを設けて、飽和角周波数基準値ω
*s,satを生成するためのものである。初期角周波数基準値ω
*s0が下限および上限に規定された範囲内である場合、飽和初期角周波数基準値ω
*s,satは初期角周波数基準値ω
*s0と等しい。初期角周波数基準値ω
*s0が上限値ω
s0,maxよりも大きい場合、飽和初期角周波数基準値ω
*s,satは、上限値ω
s0,maxと等しい。同様に、初期角周波数基準値ω
*s0が下限値ω
s0,minよりも低い場合、飽和初期角周波数基準値ω
*s,satは下限値ω
s0,minに等しい。下限値ω
s0,minは上限値ω
s0,maxの加法的逆元でよく、上限値および下限値の絶対値は等しい。別の実施形態では、飽和手段は初期角周波数基準値に下限または上限のみを設けるものでよい。
【0011】
飽和手段12は、飽和初期角周波数基準値ω
*s,satをレートリミッタ手段14の入力信号としてレートリミッタ手段14に供給するものである。レートリミッタ手段14は、飽和初期角周波数基準値ω
*s,satの一次導関数を限定することで角周波数基準値の限定的設定値ω
*s,limを生成するものである。
【0012】
レートリミッタ手段14は、システムソフトウェアにおいて以下のとおり実行される。
【0013】
【数1】
ただし、ω
*s,inはレートリミッタ手段14の入力であり、T
sはサンプリング間隔、Δ
ωsは角周波数基準値の非制限変化率、Δ
maxは角周波数の最大変化率である。記号ω
*s,lim(n)は現在の値を表し、ω
*s,lim(n-1)は前の値を表している。
【0014】
レートリミッタ手段14を実行した結果、立上りおよび立下りの変化率の絶対値は同じである。別の実施形態では、立上りの変化率の絶対値は、立下りの変化率の絶対値と異なっていてもよい。
【0015】
パワーリミッタ手段8は、出力信号l
pを生成する積分制御手段10を備えている。パワーリミッタ手段8は、次の式を用いて角周波数基準値の修正項ω
s,corを生成するものである。
【0016】
【数2】
ただし、signは実数の符号を導き出す符号関数である。言い換えると、修正項ω
s,corの絶対値は、積分制御手段10の出力信号に等しく、修正項ω
s,corの符号は角周波数基準値の限定的設定値ω
*s,limの符号で決まる。代数ループを回避するには、上記の式から角周波数基準値の修正項ω
s,corを求める際に、角周波数基準値の限定的設定値ω
*s,limの前回の値を使用するとよい。
【0017】
最終角周波数基準値ω
*sは、次の式で定義されるように、角周波数基準値の限定的設定値ω
*s,limから角周波数基準値の修正項ω
s,corを引くことで算出できる。
【0019】
最終角周波数基準値ω
*sを制御手段16に入力することで固定子電圧基準値
u*sを算出でき、パワーリミッタ手段8に入力することで電気モータの動的電力P^
dynを算出できる。
【0020】
制御手段16は、何らかの公知の方法を用いて、最終角周波数基準値ω
*sおよび計測した固定子電流
isに基づいて固定子電圧基準値
u*sを生成するものである。計測した固定子電流
isおよび固定子電圧基準値
u*sはいずれも、三相量を表す空間ベクトルである。制御手段16は、固定子電圧基準値
u*sを電力推定器18に入力して電気モータ2の推定実電力P^を求め、またパルス幅変調手段20に入力して電気モータ2の入力電圧のパルス幅を変調するものである。
【0021】
パワーリミッタ手段8は、角周波数基準値の修正項ω
s,corのほかに、角周波数基準値の限定的設定値ω
*s,limおよび積分制御手段10の出力信号I
pに基づいて、初期角周波数基準値の上限値ω
s0,maxを生成するものである。上限値ω
s0,maxは以下のとおりに選択される。
【0022】
【数4】
ただし、ω
s,maxは電気モータ2の所定最大角周波数である。代数ループを回避するには、角周波数基準値の限定的設定値ω
*s,limの前回の値を上記の式に用いるとよい。
【0023】
積分制御手段10の初期データには、電気モータの推定実電力P^の絶対値、電気モータの電力の制限値P
lim、および電気モータの動的電力P^
dynが含まれる。積分制御手段10の出力I
pは次の式から求められる。
【0024】
【数5】
ただし、k
ipは積分制御手段10の利得である。積分制御手段10の出力I
pは、常に0以上である。つまり、上記積分関数が0より小さい値を返す場合、積分制御手段10は出力I
pを0に設定する。
【0025】
電気モータの推定実電力P^は、電力推定器18の出力として求められる。電気モータの動的電力P^
dynは、以下のとおり求められる。
【0026】
【数6】
ただし、Jは電気モータ2の慣性を表し、pは電気モータ2の極対数である。上記の式は、巻上げ駆動装置が回生モードの場合のみ動的電力P^
dynが0にならないことを示している。動的電力を補償することで、回生モードにおいて加速が終わる際に、電気モータの実電力が制限値を上回る危険性を低減できる。
【0027】
電力推定手段18は、測定した固定子電流
isおよび制御手段16が生成した固定子電圧基準値
usに基づいて、電気モータ2の推定実電力P^を算出するものである。推定実電力の算出方法は、当技術分野において公知の方法である。推定実電力P^の絶対値と電気モータの電力の制限値P
limの差を、パワーリミッタ手段10に入力する。
【0028】
図1に示すモータ制御システムにおいて、パワーリミッタ手段8は、電気モータ2に関する実電力値に基づいて、角周波数基準値の修正項ω
s,corを生成するものである。これは、ここに示す実施形態では、電気モータの実電力が制限されることを意味する。当業者には周知のことであるが、電気モータの電流を制限することも可能であり、あるいは、誘導電動機を使用する場合には、モータのスリップを制限することもできる。本明細書では、「電気モータの電力の実績値に関する情報」とは実電力、電流、およびスリップに関する情報を包含している。電気モータの電流を制限する実施形態では、電力の制限値P
limを電流の制限値に置き換える。同様に、電気モータのスリップを制限する実施形態では、電力の制限値P
limをスリップ制限値に置き換える。電力制限値、電流制限値、およびスリップ制限値はそれぞれ、対応する実施形態における電気モータの電力に関する制限値である。
【0029】
パルス幅変調手段20の初期データは、固定子電圧基準値
u*sと、電気モータ2に供給される周波数変換器22の計測入力直流電圧u
dcとを含む。パルス幅変調器および周波数変換器はどちらも当技術分野において公知のものであり、よって、本明細書ではその説明を省く。
【0030】
図1に示す実施形態では、パワーリミッタ手段8、積分制御手段10、飽和手段12、レートリミッタ手段14、制御手段16、電力推定手段18、およびパルス幅変調手段20は、データ処理装置で実行する場合、所定の方法手順を実行するためのソフトウェア構成要素である。別の実施形態では、パワーリミッタ手段8、積分制御手段10、飽和手段12、レートリミッタ手段14、制御手段16、電力推定手段18、およびパルス幅変調手段20は、ファームウェア部材および/またはハードウェア部材を含んでいてもよい。
【0031】
図2は、巻上げ部材4’に操作可能に接続されて積荷6’を吊り上げる電気モータ2’を含む閉ループ式巻上げ駆動装置を示す。電気モータ2’は、本発明の閉ループ式の実施形態に係るモータ制御システムによって制御される。モータ制御システムは、パワーリミッタ手段8’、飽和手段12’、レートリミッタ手段14’、制御手段16’、 電力推定手段18’、パルス幅変調手段20’、およびスピードセンサ24’を備えている。モータ制御システムは、最終角周波数基準値ω
*’sを生成して、角周波数基準値の限定的な設定値ω
*’s,limおよび角周波数基準値の修正項ω
’s,corを含む初期データに基づいて、電気モータ2’を制御するものである。
図2に示す閉ループ式の実施形態では、最終角周波数基準値ω
*’sは回転速度基準値であり、制御手段16’はベクトル制御手段である。
【0032】
図1の開ループ式巻上げ駆動装置および
図2の閉ループ式巻上げ駆動装置における類似の構成部材は、同一の参照符号で示してある。ただし、
図2の閉ループ式巻上げ駆動装置については参照符号にアポストロフィを付加してある。見てのとおり、
図2の閉ループ式巻上げ駆動装置は、
図1の開ループ式巻上げ駆動装置に酷似している。
図2の閉ループ式巻上げ駆動装置と
図1の開ループ式巻上げ駆動装置とを比べてみると、まったく新しい構成部材はスピードセンサ24’のみであるのは明らかであり、本スピードセンサは電気モータ2'の回転速度n
’rotの実績値を検出する。スピードセンサ24'は、電気モータ2’の回転速度n
’rotの実績値を制御手段16'に入力して、電気モータ2'をベクトル制御するものである。制御手段16’は、速度制御器およびベクトル制御器を備えている。
【0033】
図2の閉ループ式巻上げ駆動装置は、
図1の開ループ式巻上げ駆動装置が最終角周波数基準値ω
*sを生成する際に用いる式と同じ式を使って最終角周波数基準値ω
*’sを生成する。したがって、開ループ式巻上げ駆動装置の最終角周波数基準値ω
*sを生成するためのアルゴリズムに関する先の記載のすべてが、閉ループ式巻上げ駆動装置にも適用される。
【0034】
図3は、
図1の巻上げ駆動装置のトルク制限値T
limおよび電力制限値P
limを、電気モータ2の固定子周波数ω
sの関数として示している。固定子周波数ω
sは単位当たりの値として、つまり定格固定子周波数に対する実際の固定子周波数の比として表示してある。
図3は、電力制限値P
limがトルク制限値T
limに及ぼす影響を例示している。実際には、前述の影響は高い角周波数においてのみ顕著である。低い角周波数では、トルクは通常、最大電流によって制限される。
図3に示すグラフの形式は一例にすぎない。
【0035】
図3における下段の図は、電気モータ2の固定子周波数ω
sが巻上げ限界周波数ポイントω
cpを下回る場合、電力制限値P
limは電気モータ2の定格電力P
nと等しくなることを示している。電気モータ2の固定子周波数ω
sが巻上げ限界周波数ポイントω
cpを超える場合、電力制限値P
limは固定子周波数ω
sにほぼ反比例して下がる。
図3の上段の図は、電気モータ2の固定子周波数ω
sが定格を下回る場合、トルク制限値T
limは電気モータ2の定格トルクT
nと等しくなることを示している。電気モータ2の固定子周波数ω
sが定格を上回るものの巻上げ限界周波数ポイントω
cpを下回る場合、トルク制限値T
limは電力制限値P
limの定値に起因して固定子周波数ω
sにほぼ反比例して下がる。電気モータ2の固定子周波数ω
sが巻上げ限界周波数ポイントω
cpを上回る場合、トルク制限値T
limは電力制限値P
limの低減により固定子周波数ω
sの2乗にほぼ反比例して下がる。これにより、プルプットトルクT
pulloutの安全係数が維持される。
図3の上段の図は、トルク制限値T
limが常に明らかにプルアウトトルクT
pulloutを下回ることを示していて、トルク制限値T
limは固定子周波数ω
sの2乗に概ね反比例して低下する。
【0036】
図3に示すグラフは、単なる例である。
図3のグラフでは、巻上げ限界周波数ポイントω
cpは電気モータ2の定格固定子周波数の2倍である。別の実施形態では、巻上げ限界周波数ポイントは異なる値となるであろう。
【0037】
別の実施形態では、電気モータの固定子周波数が定格値を下回る場合、トルク制限値は電気モータの定格トルクの値と異なる。また、定トルク制限値と逆比例して低下するトルク制限値との境も、
図3におけるそれとは異なる位置となろう。さらには、トルク制限値は、固定子周波数のどの範囲においても一定である必要はない。
【0038】
別の実施形態では、電気モータの固定子周波数が巻上げ限界周波数ポイントより下である場合、電力制限値は電気モータの定格電力と異なる値となる。また、電力制限値は、巻上げ限界周波数ポイント以下の周波数範囲においては、一定である必要はない。トルク制限値と電力制限値の関係は当業者の知るところであるゆえ、これについての説明は本明細書では省略する。
【0039】
図3のグラフは巻上げ行動に関するものである。一実施形態において、巻下げ行動に関するグラフは、巻上げ行動に関するグラフの鏡像となる。例えば、
図3の下段の図をミラーイメージングして得られる巻下げ行動のグラフは、巻下げ限界周波数ポイントω
s=−2(p.u.)を有し、それより下では、電力制限値P
limは固定子周波数ω
sにほぼ反比例して低下する。別の実施形態では、巻上げ駆動装置の巻下げ行動のグラフは、巻上げ駆動装置の巻上げ行動のグラフの鏡像にはならない。電力制限値P
limは、巻上げ行動および巻下げ行動のどちらにおいても常に0より大きい。
【0040】
別の実施形態では、巻下げ行動に関するグラフは巻上げ行動に関するグラフの鏡像ではない。巻下げ限界周波数ポイントの絶対値は、巻上げ限界周波数ポイントの絶対値と異なることもあるだろう。0から巻下げ限界周波数ポイントまでの間の周波数範囲では、電力限界値の絶対値は、0から巻上げ限界周波数ポイントまでの間の電力限界値の絶対値と異なる場合もある。
【0041】
図3のグラフは、固定子周波数ω
sを横座標の軸すなわちX軸として表している。しかしながら、標準的な周波数変換器は周波数基準値をかなり正確に追従できるため、固定子周波数ω
sは最終角周波数基準値ω
*sにほぼ等しいということは、当業者の知るところである。
【0042】
図4は、
図1による巻上げ駆動装置を使用して得られた測定結果を示す。上段の図は、固定子周波数f
sおよび電気モータ2の回転速度n
rotの実績値を時間の関数として示している。固定子周波数f
sおよび電気モータ2の回転速度n
rotの実績値の単位は、ヘルツすなわちサイクル/秒である。下段の図は、電気モータ2の推定実電力P^を時間関数として示している。また、下段の図は、巻上げ電力制限値P
hstおよび巻下げ電力制限値P
lwrも示している。
【0043】
図4の下段の図は、巻上げ電力制限値P
hstの絶対値が巻下げ電力制限値P
lwrの絶対値より大きいことを示している。巻下げ電力制限値P
lwrは、電気モータ2の定格電力の80%である。巻下げ電力制限値P
lwrの絶対値は、電気モータの定格電力の40%である。
図4では、巻上げ速度にはプラス記号を、巻下げ速度にはマイナス記号を付してある。
【0044】
巻上げ電力制限値P
hstは、
図4における巻上げ行動時の電力制限P
limの値である。
図4における巻下げ行動時は、電力制限値P
limは巻下げ電力制限値P
lwrの絶対値と等しい。電力制限値P
limは、巻上げ行動中は一定、つまり巻上げ電力制限値P
hstと等しかったが、これは固定子周波数ω
sが一貫して巻上げ限界周波数ポイントω
cpを下回っていたためである。同様に、電力制限値P
limは、巻下げ行動中は巻下げ電力制限値P
lwrの絶対値に等しかったが、これは固定子周波数ω
sが一貫して巻下げ限界周波数ポイントを上回っていたためである。固定子周波数ω
sが巻下げ限界周波数ポイントを上回っているということは、固定子周波数ω
sの絶対値は巻下げ限界周波数ポイントの絶対値より下であるということである。
【0045】
図4に関連する測定は、重さ6000kgの積荷の巻き上げおよび巻き下げについて行われた。巻上げ行動時の初期角周波数基準値ω
*s0は150Hzで、巻下げ行動時では−150Hzだった。
図4の上段の図は、パワーリミッタ手段8の電力制限作用によって電気モータ2の回転速度n
rotの実効値がほぼ毎秒100回転すなわち100ヘルツを超えることはなかった。
【0046】
本発明の概念は様々な方法で実現可能であることは、当業者には明らかなことであろう。本発明およびその実施形態は上述の例に限定されるものではなく、本願特許請求の範囲内において変更してもよい。